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特許7414049ストロークセンサと、これを用いた自動車のブレーキシステム及びステアリングシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ストロークセンサと、これを用いた自動車のブレーキシステム及びステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/12 20060101AFI20240109BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01D5/12 G
G01B7/00 101H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021143883
(22)【出願日】2021-09-03
(65)【公開番号】P2023037247
(43)【公開日】2023-03-15
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】守屋 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】大山 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓史
(72)【発明者】
【氏名】石川原 俊夫
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-016309(JP,A)
【文献】特開2010-267580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/252,5/39-5/62
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁石と、
第1の方向において前記第1の磁石との離間距離が固定された第2の磁石と、
前記第1の方向と直交する第2の方向において、前記第1及び第2の磁石から離間して配置され、前記第1及び第2の磁石によって形成される磁場を検出する第1の磁場検出センサと、
前記第1及び第2の磁石によって形成される前記磁場の、前記第2の方向の磁場強度を検出する第2の磁場検出センサと、を有し、
前記第1及び第2の磁石は、前記第1の磁場検出センサに対して前記第1の方向に相対移動可能であり、
前記第1の磁石は、前記第2の方向において前記第1の磁場検出センサと対向する第1の面を有し、前記第2の磁石は、前記第2の方向において前記第1の磁場検出センサと対向する第2の面を有し、前記第1の面と前記第2の面は極性が互いに異なり、
前記第1の方向において前記第1及び第2の磁石を包含する最小区間の中点を通り、前記第2の方向と平行な基準軸が形成され、
前記第2の方向の磁場強度がゼロとなる前記第1の方向の位置が、前記基準軸と前記第2の磁石との間にあり、
前記第2の磁場検出センサの初期位置は前記基準軸と前記第2の磁石との間にある、ストロークセンサ。
【請求項2】
第1の磁石と、
第1の方向において前記第1の磁石との離間距離が固定された第2の磁石と、
前記第1の方向と直交する第2の方向において、前記第1及び第2の磁石から離間して配置され、前記第1及び第2の磁石によって形成される磁場を検出する第1の磁場検出センサと、
前記第1及び第2の磁石によって形成される前記磁場の、前記第2の方向の磁場強度を検出する第2の磁場検出センサと、を有し、
前記第1及び第2の磁石は、前記第1の磁場検出センサに対して前記第1の方向に相対移動可能であり、
前記第1の磁石は、前記第2の方向において前記第1の磁場検出センサと対向する第1の面を有し、前記第2の磁石は、前記第2の方向において前記第1の磁場検出センサと対向する第2の面を有し、前記第1の面と前記第2の面は極性が互いに異なり、
前記第1の方向において前記第1及び第2の磁石を包含する最小区間の中点を通り、前記第2の方向と平行な基準軸が形成され、
前記第1及び第2の磁石によって形成される磁場が、前記基準軸に関して非対称であり、
前記第2の磁場検出センサの初期位置は前記基準軸と前記第2の磁石との間にある、ストロークセンサ。
【請求項3】
前記第1の磁石の前記第1の方向の寸法W1は、前記第2の磁石の前記第1の方向の寸法W2より大きい、請求項1または2に記載のストロークセンサ。
【請求項4】
W1/W2が、1.4以上2.7以下である、請求項3に記載のストロークセンサ。
【請求項5】
W1/W2が、1.6以上2.3以下である、請求項3に記載のストロークセンサ。
【請求項6】
前記第1の方向における前記最小区間の長さをLとしたときに、
(W1+W2)/Lが、0.27以上0.46以下である、請求項4または5に記載のストロークセンサ。
【請求項7】
前記第1の方向における前記最小区間の長さをLとしたときに、
(W1+W2)/Lが、0.32以上0.42以下である、請求項4または5に記載のストロークセンサ。
【請求項8】
前記第2の磁石の前記第2の面は、前記第1の磁石の前記第1の面よりも、前記第2の方向において前記第1の磁場検出センサに向けて突き出している、請求項1または2に記載のストロークセンサ。
【請求項9】
前記第1の磁石の前記第1の方向の寸法は、前記第2の磁石の前記第1の方向の寸法より大きく、前記第2の磁石の前記第2の面は、前記第1の磁石の前記第1の面よりも、前記第2の方向において前記第1の磁場検出センサに向けて突き出している、請求項1または2に記載のストロークセンサ。
【請求項10】
前記第1の磁石と前記第2の磁石を支持する、軟磁性体からなる支持体を有する、請求項1から9のいずれか1項に記載のストロークセンサ。
【請求項11】
請求項1から1のいずれか1項に記載のストロークセンサを有する自動車のブレーキシステム。
【請求項12】
請求項1から1のいずれか1項に記載のストロークセンサを有する自動車のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロークセンサと、これを用いた自動車のブレーキシステム及びステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁場検出センサと、磁場検出センサに対して直線的に相対移動する磁石と、を有するストロークセンサが知られている。測定対象物に磁石が接続され、磁石は対象物と連動して移動する。磁場検出センサが磁石によって形成される磁場強度の変化を検出することで、磁石の移動距離が検出され、これによって対象物の移動距離を測定することができる。特許文献1には、互いに離間した複数の磁石と、これらの磁石と対向する磁場検出センサと、を有するストロークセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第50131467号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたストロークセンサの複数の磁石は、同じ形状と寸法を有している。従って、隣接する磁石の間に形成される磁場は正弦波状となり、磁石の磁極面と直交する方向の磁場強度は、隣接する磁石の中間位置でゼロとなる。しかし、例えば磁石の移動範囲が制約されている場合や、磁場検出センサの設置位置が制約されている場合、このような磁場分布で磁場検出センサの必要磁場強度を得ることが困難となる可能性がある。
【0005】
本発明は、磁石の位置を動かすことなく磁場分布を調整することが可能なストロークセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のストロークセンサは、第1の磁石と、第1の方向において第1の磁石との離間距離が固定された第2の磁石と、第1の方向と直交する第2の方向において、第1及び第2の磁石から離間して配置され、第1及び第2の磁石によって形成される磁場を検出する第1の磁場検出センサと、第1及び第2の磁石によって形成される磁場の、第2の方向の磁場強度を検出する第2の磁場検出センサと、を有している。第1及び第2の磁石は、第1の磁場検出センサに対して第1の方向に相対移動可能である。第1の磁石は、第2の方向において第1の磁場検出センサと対向する第1の面を有し、第2の磁石は、第2の方向において第1の磁場検出センサと対向する第2の面を有し、第1の面と第2の面は極性が互いに異なっている。第1の方向において第1及び第2の磁石を包含する最小区間の中点を通り、第2の方向と平行な基準軸が形成されている。一つの態様では、第2の方向の磁場強度がゼロとなる第1の方向の位置が、基準軸と第2の磁石との間にあり、第2の磁場検出センサの初期位置は基準軸と第2の磁石との間にある。他の態様では、第1及び第2の磁石によって形成される磁場が、基準軸に関して非対称であり、第2の磁場検出センサの初期位置は基準軸と第2の磁石との間にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、磁石の位置を動かすことなく磁場分布を調整することが可能なストロークセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ストロークセンサを用いた自動車のブレーキシステムの概念図である。
図2】第1の実施形態に係るストロークセンサの概略構成図である。
図3】比較例1のストロークセンサの概略構成図である。
図4】磁石の相対変位と第2の方向の磁場強度との関係を示す模式図である。
図5】比較例2における、磁石の相対変位と第2の方向の磁場強度との関係を示す図である。
図6】実施例1における、磁石の相対変位と第2の方向の磁場強度との関係を示す図である。
図7】実施例2,3における、磁石の相対変位と第2の方向の磁場強度との関係を示す図である。
図8】実施例4における、磁石の相対変位と第2の方向の磁場強度との関係を示す図である。
図9】W1/W2及び(W1+W2)/Lと、最小磁石移動量と、の関係を示す図である。
図10】第2の実施形態に係るストロークセンサの概略構成図である。
図11】実施例5~8と比較例1,3,4における、磁石の相対変位と第2の方向の磁場強度との関係を示す図である。
図12】ストロークセンサを用いた自動車のステアリングシステムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下の説明において、第1の方向は第1の磁石と第2の磁石が配列する方向を意味し、X方向と称する場合がある。第2の方向は第1の方向と直交する方向、ないし第1の磁石の第1の面及び第2の磁石の第2の面と直交する方向を意味し、Z方向と称する場合がある。第1の方向及び第2の方向と直交する方向を、第3の方向またはY方向と称する場合がある。また、以下の説明から明らかな通り、第2の磁場検出センサ3Bは本発明における必須の要素ではなく、省略することが可能である。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は本実施形態のストロークセンサ1が適用されるブレーキシステムの概念図を示している。ブレーキシステム11は、ブレーキペダル12と、接続部材13を介してブレーキペダル12に接続されたブースター14と、ブースター14に接続されたマスターシリンダ15と、マスターシリンダ15に接続されたキャリパー18と、制御回路16と、モータ17と、ストロークセンサ1と、を有している。ストロークセンサ1はブレーキペダル12の踏み込み量を計測し、制御回路16に伝達する。制御回路16はブレーキペダル12の踏み込み量に応じてモータ17の駆動力を制御し、モータ17はブースター14をアシストする。ブレーキペダル12から入力された制動力は、モータ17でアシストされたブースター14で増幅され、マスターシリンダ15を介してキャリパー18に伝達される。キャリパー18はブレーキディスク19を制動する。
【0011】
図2(a)は、第1の実施形態に係るストロークセンサ1の概略構成を示している。ストロークセンサ1は、第1の磁石2Aと、第2の磁石2Bと、第1の磁場検出センサ3Aと、第2の磁場検出センサ3Bと、を有している。後述するように、第1の磁石2Aと第2の磁石2Bによって形成される磁場は、第1の磁場検出センサ3Aと第2の磁場検出センサ3Bで検出される。第1の磁石2Aと第2の磁石2Bは、軟磁性体からなる支持体4で支持されている。支持体4はブースター14に一端が固定された片持ち梁であり、その先端4Aに第1の磁石2Aが、先端4Aと基部4Bとの間に第2の磁石2Bが固定されている。これにより、第1の磁石2Aと第2の磁石2Bの第1の方向Xにおける離間距離が固定されている。第1及び第2の磁石2A,2Bはブレーキペダル12の操作と連動して第1の方向Xに移動可能であり、第1の磁場検出センサ3Aと第2の磁場検出センサ3Bはブレーキブースター14の筐体(図示せず)に固定されている。この結果、第1及び第2の磁石2A,2Bは、第1の磁場検出センサ3A及び第2の磁場検出センサ3Bに対して、第1の方向Xに相対移動可能である。
【0012】
第1の磁石2Aと第2の磁石2Bはネオジムなどの磁性材料で形成されている。第1の磁石2Aと第2の磁石2Bは概ね直方体であり、X方向、Y方向、Z方向の寸法比は限定されない。第1の磁石2Aは、第2の方向Zにおいて第1及び第2の磁場検出センサ3A,3Bと対向する磁極面である第1の面5Aを有している。第2の磁石2Bは、第2の方向Zにおいて第1及び第2の磁場検出センサ3A,3Bと対向する磁極面である第2の面5Bを有している。第1の面5Aと第2の面5Bは極性が互いに異なる。本実施形態では第1の磁石2Aの第1の面5AがN極であり、第2の磁石2Bの第2の面5BがS極であるが、第1の磁石2Aの第1の面5AがS極であり、第2の磁石2Bの第2の面5BがN極であってもよい。
【0013】
以下の説明において、第3の方向Yからみて、第1の方向Xにおいて第1及び第2の磁石2A,2Bを包含する最小区間Sの中点MPを通り、第2の方向Zと平行な軸を基準軸RAという。第1及び第2の磁石2A,2Bを包含する最小区間Sとは、第1の方向Xにおいて第1の磁石2Aの第2の磁石2Bから最も離れた部分6Aと、第1の方向Xにおいて第2の磁石2Bの第1の磁石2Aから最も離れた部分6Bとを両端とする区間である。
【0014】
第1及び第2の磁場検出センサ3A,3Bは、第2の方向Zにおいて第1及び第2の磁石2A,2Bから離間して配置され、第1及び第2の磁石2A,2Bによって形成される磁場を検出する。第1及び第2の磁場検出センサ3A,3Bは、共通の支持体7に支持されている。第1及び第2の磁石2A,2Bは第1及び第2の磁場検出センサ3A,3Bで共用されている。第1の磁場検出センサ3Aは、ブレーキペダル12の踏み込み量に応じた第1及び第2の磁石2A,2Bの第1の方向Xの相対変位(以下、単に磁石の相対変位という場合がある)を検出する。第1の磁場検出センサ3Aはブレーキペダル12を踏んでいない状態(踏み込み量ゼロ)から最大限まで踏み込んだ状態までの範囲で、磁石の相対変位を検出する。第1の磁場検出センサ3Aは通常、第1及び第2の磁石2A,2Bの数十mmに渡る相対移動を検出する。
【0015】
第1の磁場検出センサ3Aは第1の方向Xの磁場強度Bxを検出する素子と、第2の方向Zの磁場強度Bzを検出する素子とを有している。素子の種類は限定されず、ホール素子のほか、AMR素子、TMR素子などの磁気抵抗効果素子を用いることができる。ストロークセンサ1の演算部(図示せず)は、これらの素子が検出した磁場強度から合成磁場(BxとBzのベクトル和)の角度を算出する。第1及び第2の磁石2A,2Bの周囲の磁場分布は予め求められているので、合成磁場の角度から磁石の相対変位、すなわちブレーキペダル12の踏み込み量を検出することができる。
【0016】
第2の磁場検出センサ3Bは、第1及び第2の磁石2A,2Bによって形成される磁場のうち、第2の方向Zの磁場強度Bzを検出する。第2の磁場検出センサ3Bの、第1及び第2の磁石2A,2Bに対する第1の方向Xにおける初期相対位置は、基準軸RAと第2の磁石2Bとの間にある。第2の磁場検出センサ3Bが検出する第2の方向Zの磁場強度Bzは、磁石の相対変位、すなわちブレーキペダル12の踏み込み量に応じて変化する。第2の磁場検出センサ3Bは、例えば、車両の始動時にブレーキペダル12が踏まれていることの検出、ブレーキランプを点灯させるタイミングの制御などに用いられる。このため、第2の磁場検出センサ3Bは高々数mm程度の磁石の相対変位を検出すれば十分であり、この範囲が第2の磁場検出センサ3Bの作動範囲となる。第2の磁場検出センサ3Bは、検出した第2の方向Zの磁場強度Bzが所定の大きさに達すると、それを表す信号を車両の制御部(図示せず)に送信する。第2の磁場検出センサ3Bは、第2の方向Zの磁場強度Bzを検出する素子のみを搭載しており、素子としてはホール素子のほか、AMR素子、TMR素子などの磁気抵抗効果素子を用いることができる。
【0017】
図3(a)は、比較例1のストロークセンサ101の概略構成を示している。図3(b)は、比較例1のストロークセンサ101における磁力線の一部を破線で概念的に示している。第1の磁石2Aと第2の磁石2Bの形状及び寸法は同一である。従って、第1の磁石2Aの第1の方向Xの寸法W1は、第2の磁石2Bの第1の方向Xの寸法W2と等しい。比較例1では、W1=W2=5.5mmである。第1の磁石2Aの高さH1(第2の方向Zの寸法)と第2の磁石2Bの高さH2(第2の方向Zの寸法)は5mm、第1の磁石2Aと第2の磁石2Bの奥行き(第3の方向Yの寸法)は7mmである。図3(b)に示すように、第1の磁石2Aと第2の磁石2Bは基準軸RAに関して対称形であるため、第1の磁石2Aと第2の磁石2Bによって形成される磁場分布(磁束の形状)も基準軸RAに関して対称形となる。この結果、第2の方向Zの磁場強度Bzがゼロとなる第1の方向Xの位置は基準軸RAと重なる。
【0018】
第1の磁場検出センサ3Aには、測定の信頼性を確保するため、ある閾値以上の強度をもった磁場が印加される必要がある。逆にいえば、第1の磁場検出センサ3Aは、この所与の磁場分布に対し、全作動範囲で、作動に必要な磁場強度を確保することが求められる。必要な磁場強度の確保が不可能な場合の対策としては、素子の感度の増加、第1の磁場検出センサ3Aの配置位置の修正、磁場分布の修正などがあり得る。素子の感度の増加は一般にコストへの影響が大きく、現実的でない場合がある。第1の磁場検出センサ3Aの配置位置の修正も、レイアウト上の制約から困難な場合がある。磁場分布を修正するためには、第1の磁石2Aと第2の磁石2Bの少なくとも一方の位置を修正することが考えられる。しかし、第1の磁石2Aと第2の磁石2Bは筐体8で囲まれており、筐体8との干渉を避けつつ第1の磁石2Aまたは第2の磁石2Bの位置を修正することは難しい場合がある。
【0019】
本実施形態では、第1の磁石2Aの第1の方向Xの寸法W1が、第2の磁石2Bの第1の方向Xの寸法W2より大きい。図2(b)は、本実施形態のストロークセンサ1における磁力線の一部を破線で概念的に示している。比較例1と比べて、磁束が全体的に第2の磁石2Bの方へ変移しており、第2の方向Zの磁場強度Bzがゼロとなる第1の方向Xの位置が、基準軸RAと第2の磁石2Bとの間にある。換言すれば、第1及び第2の磁石2A,2Bによって形成される磁場が、基準軸RAに関して非対称となる。従って、第1の磁石2A及び第2の磁石2Bの位置を変えることなく(最小区間Sの長さLを変えることなく)磁場分布を修正することができる。
【0020】
一方、第2の磁場検出センサ3Bについては、上述の用途に使用されることから、ブレーキペダル12を踏んだことをできるだけ小さな踏み込み量で検出することが求められる。前述の通り、第2の磁場検出センサ3Bは、検出した第2の方向Zの磁場強度Bzが所定の閾値を超えたときに信号を出すようにされている。従って、所定の閾値に達したときの磁石の相対変位をできるだけ小さくすることが求められる。
【0021】
図4は、磁石の相対変位と、第2の方向Zの磁場強度Bzとの関係を模式的に示している。初期位置ではブレーキペダル12は踏まれていない。ブレーキペダル12を深く踏み込むに従い(磁石の相対変位が増えるに従い)、第2の方向Zの磁場強度Bzが増加する。第2の磁場検出センサ3Bが迅速に作動するためには、第2の方向Zの磁場強度Bzが所定の閾値に達したときの第1及び第2の磁石2A,2Bの移動量(以下、最小磁石移動量Tminという)ができるだけ小さいことが重要である。そのためには、第2の磁場検出センサ3Bの作動範囲において、磁石の相対変位に対する第2の方向Zの磁場強度Bzの変化が大きいことが重要である。つまり、第2の磁場検出センサ3Bを基準軸RAに近づけることが有効である。なぜならば、図3(c)に示すように、比較例1において、第2の方向Zの磁場強度Bzは基準軸RAでゼロとなるので、その変化率ΔBzは基準軸RAに近づくほど大きくなるからである。なお、表1に、以下に述べる各実施例及び比較例の最小磁石移動量Tminをまとめて示す。
【0022】
比較例1において第2の磁場検出センサ3Bを基準軸RAに近づけるためには、図3(a)において、第2の磁場検出センサ3Bを基準軸RAの方に移動する方法(第1の方法)、第2の磁石2Bを右側に移動する方法(第2の方法)、第1の磁石2Aを右側に移動する方法(第3の方法)が可能である。しかし、第1の方法と第2の方法はレイアウト上困難な場合がある。図5(a)は、比較例1において第3の方法を採用し、第1の磁石2Aだけを右側に1mm移動したときの、磁石の相対変位と第2の方向Zの磁場強度Bzとの関係を示している(比較例2)。図5(b)は、第2の磁場検出センサ3Bの作動範囲の近傍を示す、図5(a)の拡大図であり、初期位置(=0)からの磁石の相対変位と、磁場強度Bzの増分ΔBzとの関係を示している。比較例2では磁場分布が修正され、第2の磁場検出センサ3Bを基準軸RAに近づけることが可能となっている。図5(b)では2つのグラフはほとんど重なっているが、比較例2は比較例1と比べ、最小磁石移動量Tminがわずかに小さくなっている。一方、図5(c)は第1の磁場検出センサ3Aの作動範囲において、第1の磁場検出センサ3Aが検出する磁場強度(第1の方向Xと第2の方向Zの磁場強度Bzのベクトル和)を示している。作動範囲の右端付近に必要な磁場強度の目安を確保できない領域が生じている。このように、第1の磁石2Aだけを右側に移動した場合、最小磁石移動量Tminは小さくできても、第1の磁場検出センサ3Aの作動が保証されない可能性がある。
【0023】
図6(a)は、第1の実施形態においてW1=8mm、W2=3.5mmとしたときの、磁石の相対変位と第2の方向Zの磁場強度Bzとの関係を示している(実施例1)。図6(b)は、図6(a)における第2の磁場検出センサ3Bの作動範囲の近傍を示す拡大図であり、初期位置からの磁石の相対変位と磁場強度Bzの増分ΔBzとの関係を示している。W1>W2としたことで磁場分布が修正され、第2の磁場検出センサ3Bを基準軸RAに近づけることが可能となっている。図6(c)は第1の磁場検出センサ3Aの作動範囲において、第1の磁場検出センサ3Aが検出する磁場強度(第1の方向Xと第2の方向Zの磁場強度Bzのベクトル和)を示している。移動範囲の全区間で必要な磁場強度が確保されている。実施例1は比較例1と比べて第2の方向Zの磁場強度Bzの変化が大きく、最小磁石移動量Tminが小さい。以上より、W1>W2とすることで、第1の磁場検出センサ3Aの必要な磁場強度を確保しつつ、最小磁石移動量Tminを低減することができる。
【0024】
図7(a)は、比較例1に対してW1だけを増やした場合(実施例2)と、W2だけを減らした場合(実施例3)について、磁石の相対変位と第2の方向Zの磁場強度Bzとの関係を示している。7(b)は、図7(a)における第2の磁場検出センサ3Bの作動範囲の近傍を示す拡大図であり、初期位置からの磁石の相対変位と、磁場強度Bzの増分ΔBzとの関係を示している。実施例2ではW1=7.5mm、実施例3ではW2=3.5mmとしている。表1に示すように、いずれの実施例も比較例1より最小磁石移動量Tminが減少しているが、W2を減らした実施例3がW1を増やした実施例2より、最小磁石移動量Tminの減少幅が大きい。このことは、Lを最小区間Sの第1の方向Xにおける長さとしたときに、(W1+W2)/Lの好適範囲に上限があることを意味している。図8(a)は、実施例2からW2をさらに減らし、W2=2mmとした場合の、磁石の相対変位と第2の方向Zの磁場強度Bzとの関係を示している(実施例4)。図8(b)は、図8(a)における第2の磁場検出センサ3Bの作動範囲の近傍を示す拡大図であり、初期位置からの磁石の相対変位と、磁場強度Bzの増分ΔBzとの関係を示している。実施例4は比較例1より効果があるが、W2が小さすぎると磁場自体が弱まるので、W2が2mmを下回ることは好ましくない。
【0025】
図9(a)には、以上の各ケースにおけるW1/W2と最小磁石移動量Tminとの関係を、図9(b)には、以上の各ケースにおける(W1+W2)/Lと最小磁石移動量Tminとの関係を示している。W1/W2は1.4以上2.7以下が好ましく、1.6以上2.3以下がより好ましい。(W1+W2)/Lは0.27以上0.46以下が好ましく、0.32以上0.42以下がより好ましい。
【0026】
【表1】
【0027】
(第2の実施形態)
図10(a)は、第2の実施形態に係るストロークセンサ1Aの概略構成を示している。図10(b)は、本実施形態のストロークセンサ1Aにおける磁力線の一部を破線で概念的に示している。第2の磁石2Bの第2の面5Bは、第1の磁石2Aの第1の面5Aよりも、第2の方向Zにおいて第1及び第2の磁場検出センサ3A,3Bに向けて突き出している。第1の実施形態と異なり、磁束は全体的に第2の磁石2Bの方へは変移してはいない。しかし、第1の磁石2Aの第1の面5Aと第2の磁石2Bの第2の面5Bの第2の方向Zの位置関係によって、第1及び第2の磁石3A,3Bによって形成される磁場が、基準軸RAに関して非対称となり、第2の方向Zの磁場強度Bzがゼロとなる第1の方向Xの位置が、基準軸RAと第2の磁石2Bとの間に移動している。換言すれば、第2の磁石2Bを図10(a)において右側に移動することなく、移動したのと同様の効果が得られている。従って、本実施形態も第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0028】
図11(a)は、様々な第1の磁石2Aの高さH1と第2の磁石2Bの高さH2の組み合わせに対する、磁石の相対変位と第2の方向Zの磁場強度Bzとの関係を示している(実施例5、比較例1,3)。図11(b)は、図11(a)における第2の磁場検出センサ3Bの作動範囲の近傍を示す拡大図であり、初期位置からの磁石の相対変位と、磁場強度Bzの増分ΔBzとの関係を示している。表2には実施例5と比較例1,3のH1,H2と最小磁石移動量Tminとを示している。第1の磁石2Aと第2の磁石2Bの設置面は水平面上にあるので、H1,H2は第1の磁石2Aの第1の面5Aと第2の磁石2Bの第2の面5Bの第2の方向Zにおける位置関係を示している。これより第1の磁石2Aの高さは最小磁石移動量Tminにほとんど影響を与えず、第2の磁石2Bの高さが重要であることがわかる。従って、H1<H2とすることで、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0029】
【表2】
【0030】
本実施形態は第1の実施形態と組み合わせることもできる。この場合、第1の磁石2Aの第1の方向Xの寸法W1は、第2の磁石2Bの第1の方向Xの寸法W2より大きく、且つ、第2の磁石2Bの第2の面5Bは、第1の磁石2Aの第1の面5Aよりも、第2の方向Zにおいて第1の磁場検出センサ3Aに向けて突き出している。
【0031】
以上、本発明をいくつかの実施形態について説明したが、本発明のこれらの実施形態に限定されない。例えば、本発明のストロークセンサ1,1Aは自動車のステアリングシステムに適用することができる。図12には、ストロークセンサ1を用いた自動車のステアリングシステム21を示している。ステアリングシステム21において、ステアリングシャフト23の一端がステアリングホイール22に連結され、ステアリングシャフト23の他端にピニオンギア24が設けられている。ピニオンギア24はロッド25のラック26と係合し、ステアリングシャフト23の回転運動をロッド25の車両左右方向の直線運動に変換する。ロッド25は前輪のホイール(図示せず)に連結されている。ロッド25が直線運動することで、ホイールの向きが変えられる。ストロークセンサ1の第1の磁石2Aと第2の磁石2Bはロッド25に取り付けられた取付部材26に固定され、第1の磁場検出センサ3Aは車体27に固定されている。ストロークセンサ1はロッド25の車両左右方向の位置を検出する。なお、自動車のステアリングシステム21に適用するストロークセンサ1,1Aでは、第2の磁場検出センサ3Bが省略されている。
【符号の説明】
【0032】
1 1,1A,101 ストロークセンサ
2A 第1の磁石
2B 第2の磁石
3A 第1の磁場検出センサ
3B 第2の磁場検出センサ
4 支持体
11 ブレーキシステム
12 ブレーキペダル
21 ステアリングシステム
Bz 第2の方向Zの磁場強度
RA 基準軸
X 第1の方向
Z 第2の方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12