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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】インバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20240109BHJP
   H02M 7/5387 20070101ALI20240109BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240109BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/5387 Z
H02M7/48 M
H02M7/48 W
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021541823
(86)(22)【出願日】2019-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2019033377
(87)【国際公開番号】W WO2021038698
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】利行 健
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0125523(US,A1)
【文献】特開2007-185064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/487
H02M 7/48
H02M 7/5387
H02M 1/32
H02M 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータであって、
高電位が印加される高電位配線と、
低電位が印加される低電位配線と、
中性点と、
前記高電位配線と前記中性点の間に接続された上側コンデンサと、
前記中性点と前記低電位配線の間に接続された下側コンデンサと、
U相スイッチング回路、V相スイッチング回路、及び、W相スイッチング回路の3つのスイッチング回路、
を有し、
3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、
出力配線と、
正極が前記高電位配線に接続されている第1スイッチング素子と、
正極が前記第1スイッチング素子の負極に接続されており、負極が前記出力配線に接続されている第2スイッチング素子と、
正極が前記出力配線に接続されている第3スイッチング素子と、
正極が前記第3スイッチング素子の負極に接続されており、負極が前記低電位配線に接続されている第4スイッチング素子と、
アノードが前記中性点に接続されており、カソードが前記第1スイッチング素子の前記負極に接続されている第1ダイオードと、
アノードが前記第3スイッチング素子の前記負極に接続されており、カソードが前記中性点に接続されている第2ダイオード、
を有しており、
3つの前記スイッチング回路の前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、及び、前記第4スイッチング素子のゲートの電位を制御する制御回路をさらに有しており、
前記制御回路が、3つの前記スイッチング回路を、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記高電位が印加される第1状態、前記第2スイッチング素子と前記第3スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記中性点の電位である中性点電位が印加される第2状態、前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記低電位が印加される第3状態の間で変化させるように構成されており、
前記制御回路が、前記U相スイッチング回路の前記出力配線であるU相出力配線、前記V相スイッチング回路の前記出力配線であるV相出力配線、及び、前記W相スイッチング回路の前記出力配線であるW相出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の間で変化させることによって、前記U相出力配線、前記V相出力配線、及び、前記W相出力配線の間に三相交流電流を発生させるように構成されており、
前記制御回路は、3つの前記スイッチング回路が有する前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、前記第1ダイオード、及び、前記第2ダイオードのうちのいずれかの素子が短絡故障した場合に、非常動作を実行可能であり、
前記短絡故障した素子を短絡故障素子といい、
3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含む1つの前記スイッチング回路の前記出力配線を制限出力配線といい、
3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含まない2つの前記スイッチング回路の前記出力配線をそれぞれ正常出力配線といい、
前記制御回路が、前記非常動作として下記の4つの動作、すなわち、
・前記短絡故障素子が前記第2スイッチング素子であるときの前記非常動作では、前記制御回路は、禁止電位を前記低電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第3スイッチング素子であるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記高電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第1ダイオードであるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記高電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第2ダイオードであるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記低電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
の全てを実行するように構成されており、
電圧ベクトルが回転するように前記電圧ベクトルの角度の指令値を生成して前記制御回路に入力する指令回路をさらに有し、
前記電圧ベクトルは、パラメータVu、Vv、Vwにより示されるベクトルであり、
前記パラメータVuは、前記U相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記パラメータVvは、前記V相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記パラメータVwは、前記W相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記非常動作においては、前記制限出力配線が前記禁止電位となる前記電圧ベクトルが禁止ベクトルであり、前記電圧ベクトルの角度範囲のうちの前記禁止ベクトルが含まれる角度範囲が制限角度範囲であり、前記電圧ベクトルの前記角度範囲のうちの前記制限角度範囲外の角度範囲が正常角度範囲であり、
前記制御回路は、前記非常動作において、前記指令値が示す前記角度が前記制限角度範囲内にある場合には、前記指令値が示す前記角度を有するとともに前記禁止ベクトルではない許容ベクトルに従って3つの前記出力配線の電位を制御し、
前記制御回路は、前記非常動作において、前記指令値が示す前記角度が前記正常角度範囲内にある場合には、前記指令値が示す前記角度を有する複数の前記電圧ベクトルから特定電圧ベクトルを選択し、選択した前記特定電圧ベクトルに従って3つの前記出力配線の電位を制御し、
前記制御回路は、前記中性点電位が基準値よりも低い場合に、前記中性点電位を上昇させる前記電圧ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択し、
前記制御回路は、前記中性点電位が前記基準値よりも高い場合に、前記中性点電位を低下させる前記電圧ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する、
インバータ。
【請求項2】
3つの前記出力配線が、負荷に接続されるように構成されており、
前記負荷に前記高電位と前記中性点電位を印加して前記低電位を印加しない前記電圧ベクトルを上側ベクトルといい、
前記負荷に前記中性点電位と前記低電位を印加して前記高電位を印加しない前記電圧ベクトルを下側ベクトルといい、
前記制御回路は、前記指令値が示す前記角度が前記正常角度範囲内にある場合には、以下のA~Dの条件、すなわち、
A.前記中性点電位が前記基準値よりも低く、かつ、前記負荷に流れる電流が前記負荷に印加される電圧に対して順方向である場合に、前記上側ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する、
B.前記中性点電位が前記基準値よりも低く、かつ、前記負荷に流れる前記電流が前記負荷に印加される前記電圧に対して逆方向である場合に、前記下側ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する、
C.前記中性点電位が前記基準値よりも高く、かつ、前記負荷に流れる前記電流が前記負荷に印加される前記電圧に対して順方向である場合に、前記下側ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する、
D.前記中性点電位が前記基準値よりも高く、かつ、前記負荷に流れる前記電流が前記負荷に印加される前記電圧に対して逆方向である場合に、前記上側ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する、
という条件に従って前記特定電圧ベクトルを選択する、請求項1のインバータ。
【請求項3】
前記制御回路は、前記中性点電位が前記基準値よりも高い上側制限値よりも高く、前記指令値が示す前記角度が前記制限角度範囲内にあり、前記許容ベクトルが前記中性点電位を上昇させる前記電圧ベクトルである場合には、前記指令値が示す前記角度にかかわらず、3つの前記出力配線を同電位に制御する、請求項2のインバータ。
【請求項4】
前記制御回路は、前記中性点電位が前記基準値よりも低い下側制限値よりも低く、前記指令値が示す前記角度が前記制限角度範囲内にあり、前記許容ベクトルが前記中性点電位を低下させる前記電圧ベクトルである場合には、前記指令値が示す前記角度にかかわらず、3つの前記出力配線を同電位に制御する、請求項2または3のインバータ。
【請求項5】
インバータであって、
高電位が印加される高電位配線と、
低電位が印加される低電位配線と、
中性点と、
前記高電位配線と前記中性点の間に接続された上側コンデンサと、
前記中性点と前記低電位配線の間に接続された下側コンデンサと、
U相スイッチング回路、V相スイッチング回路、及び、W相スイッチング回路の3つのスイッチング回路、
を有し、
3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、
出力配線と、
正極が前記高電位配線に接続されている第1スイッチング素子と、
正極が前記第1スイッチング素子の負極に接続されており、負極が前記出力配線に接続されている第2スイッチング素子と、
正極が前記出力配線に接続されている第3スイッチング素子と、
正極が前記第3スイッチング素子の負極に接続されており、負極が前記低電位配線に接続されている第4スイッチング素子と、
アノードが前記中性点に接続されており、カソードが前記第1スイッチング素子の前記負極に接続されている第1ダイオードと、
アノードが前記第3スイッチング素子の前記負極に接続されており、カソードが前記中性点に接続されている第2ダイオード、
を有しており、
3つの前記スイッチング回路の前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、及び、前記第4スイッチング素子のゲートの電位を制御する制御回路をさらに有しており、
前記制御回路が、3つの前記スイッチング回路を、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記高電位が印加される第1状態、前記第2スイッチング素子と前記第3スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記中性点の電位である中性点電位が印加される第2状態、前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記低電位が印加される第3状態の間で変化させるように構成されており、
前記制御回路が、前記U相スイッチング回路の前記出力配線であるU相出力配線、前記V相スイッチング回路の前記出力配線であるV相出力配線、及び、前記W相スイッチング回路の前記出力配線であるW相出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の間で変化させることによって、前記U相出力配線、前記V相出力配線、及び、前記W相出力配線の間に三相交流電流を発生させるように構成されており、
前記制御回路は、3つの前記スイッチング回路が有する前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、前記第1ダイオード、及び、前記第2ダイオードのうちのいずれかの素子が短絡故障した場合に、非常動作を実行可能であり、
前記短絡故障した素子を短絡故障素子といい、
3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含む1つの前記スイッチング回路の前記出力配線を制限出力配線といい、
3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含まない2つの前記スイッチング回路の前記出力配線をそれぞれ正常出力配線といい、
前記制御回路が、前記非常動作として下記の4つの動作、すなわち、
・前記短絡故障素子が前記第2スイッチング素子であるときの前記非常動作では、前記制御回路は、禁止電位を前記低電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第3スイッチング素子であるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記高電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第1ダイオードであるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記高電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第2ダイオードであるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記低電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
の全てを実行するように構成されており、
電圧ベクトルが回転するように前記電圧ベクトルの角度の指令値を生成して前記制御回路に入力する指令回路をさらに有し、
前記電圧ベクトルは、パラメータVu、Vv、Vwにより示されるベクトルであり、
前記パラメータVuは、前記U相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記パラメータVvは、前記V相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記パラメータVwは、前記W相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であり、
前記非常動作においては、前記制限出力配線が前記禁止電位となる前記電圧ベクトルが禁止ベクトルであり、前記電圧ベクトルの角度範囲のうちの前記禁止ベクトルが含まれる角度範囲が制限角度範囲であり、前記電圧ベクトルの前記角度範囲のうちの前記制限角度範囲外の角度範囲が正常角度範囲であり、
前記制御回路は、前記非常動作において、前記指令値が示す前記角度が前記制限角度範囲内にある場合には、前記指令値が示す前記角度を有するとともに前記禁止ベクトルではない許容ベクトルに従って3つの前記出力配線の電位を制御し、
前記制御回路は、前記非常動作において、前記指令値が示す前記角度が前記正常角度範囲内にある場合には、前記指令値が示す前記角度を有する複数の前記電圧ベクトルから特定電圧ベクトルを選択し、選択した前記特定電圧ベクトルに従って3つの前記出力配線の電位を制御し、
3つの前記出力配線が、負荷に接続されるように構成されており、
前記特定電圧ベクトルが、前記負荷に前記高電位と前記中性点電位を印加して前記低電位を印加しない前記電圧ベクトルの群により構成された第1グループと、前記負荷に前記中性点電位と前記低電位を印加して前記高電位を印加しない前記電圧ベクトルの群により構成された第2グループのいずれかから選択され、
前記制御回路が、前記中性点電位の制御目標値を記憶しており、
前記制御回路は、前回の制御フェーズ以後に前記中性点電位と前記制御目標値のずれが拡大した場合に、前記第1グループと前記第2グループのうちの前回の制御フェーズで選択した前記電圧ベクトルが属するグループとは異なるグループから前記特定電圧ベクトルを選択する、
ンバータ。
【請求項6】
インバータであって、
高電位が印加される高電位配線と、
低電位が印加される低電位配線と、
中性点と、
前記高電位配線と前記中性点の間に接続された上側コンデンサと、
前記中性点と前記低電位配線の間に接続された下側コンデンサと、
U相スイッチング回路、V相スイッチング回路、及び、W相スイッチング回路の3つのスイッチング回路、
を有し、
3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、
出力配線と、
正極が前記高電位配線に接続されている第1スイッチング素子と、
正極が前記第1スイッチング素子の負極に接続されており、負極が前記出力配線に接続されている第2スイッチング素子と、
正極が前記出力配線に接続されている第3スイッチング素子と、
正極が前記第3スイッチング素子の負極に接続されており、負極が前記低電位配線に接続されている第4スイッチング素子と、
アノードが前記中性点に接続されており、カソードが前記第1スイッチング素子の前記負極に接続されている第1ダイオードと、
アノードが前記第3スイッチング素子の前記負極に接続されており、カソードが前記中性点に接続されている第2ダイオード、
を有しており、
3つの前記スイッチング回路の前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、及び、前記第4スイッチング素子のゲートの電位を制御する制御回路をさらに有しており、
前記制御回路が、3つの前記スイッチング回路を、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記高電位が印加される第1状態、前記第2スイッチング素子と前記第3スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記中性点の電位である中性点電位が印加される第2状態、前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記低電位が印加される第3状態の間で変化させるように構成されており、
前記制御回路が、前記U相スイッチング回路の前記出力配線であるU相出力配線、前記V相スイッチング回路の前記出力配線であるV相出力配線、及び、前記W相スイッチング回路の前記出力配線であるW相出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の間で変化させることによって、前記U相出力配線、前記V相出力配線、及び、前記W相出力配線の間に三相交流電流を発生させるように構成されており、
前記制御回路は、3つの前記スイッチング回路が有する前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、前記第1ダイオード、及び、前記第2ダイオードのうちのいずれかの素子が短絡故障した場合に、非常動作を実行可能であり、
前記短絡故障した素子を短絡故障素子といい、
3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含む1つの前記スイッチング回路の前記出力配線を制限出力配線といい、
3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含まない2つの前記スイッチング回路の前記出力配線をそれぞれ正常出力配線といい、
前記制御回路が、前記非常動作として下記の4つの動作、すなわち、
・前記短絡故障素子が前記第2スイッチング素子であるときの前記非常動作では、前記制御回路は、禁止電位を前記低電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第3スイッチング素子であるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記高電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第1ダイオードであるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記高電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
・前記短絡故障素子が前記第2ダイオードであるときの前記非常動作では、前記制御回路は、前記禁止電位を前記低電位とし、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの前記禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる、
の全てを実行するように構成されており、
前記制御回路が、3つの前記スイッチング回路の前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、及び、前記第4スイッチング素子に流れる電流を検出するように構成されており、
前記制御回路が、3つの前記スイッチング回路から選択した選択スイッチング回路に対して、短絡素子判定動作を実行可能であり、
前記短絡素子判定動作では、前記制御回路が、前記選択スイッチング回路を、前記第1状態、前記第2状態、前記第3状態の間で経時的に変化させ、
前記制御回路が、前記選択スイッチング回路に対して、
前記第1状態で前記第1スイッチング素子に短絡電流が流れるとともに前記第2スイッチング素子に短絡電流が流れない場合に、前記第1ダイオードが前記短絡故障素子であると判定し、
前記第1状態で前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子に短絡電流が流れる場合に、前記第3スイッチング素子が前記短絡故障素子であると判定し、
前記第2状態で前記第2スイッチング素子と前記第3スイッチング素子に短絡電流が流れるとともに前記中性点電位が上昇する場合に、前記第1スイッチング素子が前記短絡故障素子であると判定し、
前記第2状態で前記第2スイッチング素子と前記第3スイッチング素子に短絡電流が流れるとともに前記中性点電位が低下する場合に、前記第4スイッチング素子が前記短絡故障素子であると判定し、
前記第3状態で前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子に短絡電流が流れる場合に、前記第2スイッチング素子が前記短絡故障素子であると判定し、
前記第3状態で前記第4スイッチング素子に短絡電流が流れるとともに前記第3スイッチング素子に短絡電流が流れない場合に、前記第2ダイオードが前記短絡故障素子であると判定する、
ンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、インバータに関する。
【背景技術】
【0002】
日本公開特許公報第2016-220325号には、3レベルで出力電位を変化させることができるインバータが開示されている。このインバータは、高電位配線と中性点の間に接続された上側コンデンサと、中性点と低電位配線の間に接続された下側コンデンサを有している。このため、中性点の電位は、高電位配線と低電位配線の間の電位となる。このインバータは、3つの出力配線(U相、V相、W相)毎にスイッチング回路を有している。各スイッチング回路は、高電位配線と低電位配線の間に直列に接続された4つのスイッチング素子(高電位配線側から第1~第4スイッチング素子)を有している。第2スイッチング素子の負極と第3スイッチング素子の正極に、出力配線が接続されている。また、各スイッチング回路は、第1ダイオードと第2ダイオードを有している。第1ダイオードのアノードが中性点に接続されており、第1ダイオードのカソードが第1スイッチング素子の負極に接続されている。第2ダイオードのアノードが第3スイッチング素子の負極に接続されており、第2ダイオードのカソードが中性点に接続されている。各スイッチング回路において、第1スイッチング素子と第2スイッチング素子がオンすると出力配線に高電位が印加され、第2スイッチング素子と第3スイッチング素子がオンすると出力配線に中性点電位が印加され、第3スイッチング素子と第4スイッチング素子がオンすると出力配線に低電位が印加される。各出力配線の電位が3レベルの間で変化することで、各出力配線の間に三相交流電流が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
各スイッチング回路を構成するスイッチング素子またはダイオードが短絡故障する場合がある。この場合、短絡故障素子を有するスイッチング回路では、出力配線に特定の電位を出力できなくなる。例えば、第1スイッチング素子が短絡故障した場合には、第2スイッチング素子と第3スイッチング素子をオンすると、高電位配線と中性点の間で線間短絡が生じる。このため、この場合には、スイッチング回路は、出力配線に中性点電位を出力できない。同様に、第2スイッチング素子が短絡故障すると出力配線に低電位を出力できない。第3スイッチング素子が短絡故障すると出力配線に高電位を出力できない。第4スイッチング素子が短絡故障すると出力配線に中性点電位を出力できない。第1ダイオードが短絡故障すると出力配線に高電位を出力できない。第2ダイオードが短絡故障すると出力配線に低電位を出力できない。
【0004】
短絡故障素子が発生した場合でも、インバータによって三相交流電流を発生させたい場合がある。このような場合、出力できない電位を禁止して、残りの2つの電位で各出力配線の電位を変化させることが考えられる。
【0005】
上述したように、第1スイッチング素子または第4スイッチング素子が短絡故障すると、出力配線に中性点電位を出力できない。この場合には、3つの出力配線の電位を高電位と低電位の間で変化させて、三相交流電流を発生させることができる。この場合、インバータは継続的に三相交流電流を発生させることができる。
【0006】
上述したように、第2スイッチング素子または第2ダイオードが短絡故障すると、出力配線に低電位を出力できない。この場合には、3つの出力配線の電位を高電位と中性点電位の間で変化させて、三相交流電流を発生させることができる。しかしながら、この場合には、インバータは、継続的に三相交流電流を発生させることができない。すなわち、この動作では、上側コンデンサに蓄えられた電荷が継続的に使用されるため、一定時間経過後に上側コンデンサの電荷が極端に少なくなって中性点電位が極端に高くなる。このように中性点電位が極端に高くなると、適切に三相交流電流を発生させることができない。
【0007】
上述したように、第3スイッチング素子または第1ダイオードが短絡故障すると、出力配線に高電位を出力できない。この場合には、3つの出力配線の電位を中性点電位と低電位の間で変化させて、三相交流電流を発生させることができる。しかしながら、この場合には、インバータは、継続的に三相交流電流を発生させることができない。すなわち、この動作では、下側コンデンサに蓄えられた電荷が継続的に使用されるため、一定時間経過後に下側コンデンサの電荷が極端に少なくなって中性点電位が極端に低くなる。このように中性点電位が極端に低くなると、適切に三相交流電流を発生させることができない。
【0008】
以上に説明したように、上述した技術では、第2スイッチング素子、第3スイッチング素子、第1ダイオード、または、第2ダイオードが短絡故障した場合に、継続的に三相交流電流を発生させることができない。本明細書では、このような場合に、継続的に三相交流電流を発生させることができるインバータを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書が開示するインバータ(以下、第1のインバータという場合がある)は、高電位が印加される高電位配線と、低電位が印加される低電位配線と、中性点と、前記高電位配線と前記中性点の間に接続された上側コンデンサと、前記中性点と前記低電位配線の間に接続された下側コンデンサと、U相スイッチング回路、V相スイッチング回路、及び、W相スイッチング回路の3つのスイッチング回路を有する。3つの前記スイッチング回路のそれぞれが、出力配線と、正極が前記高電位配線に接続されている第1スイッチング素子と、正極が前記第1スイッチング素子の負極に接続されているとともに負極が前記出力配線に接続されている第2スイッチング素子と、正極が前記出力配線に接続されている第3スイッチング素子と、正極が前記第3スイッチング素子の負極に接続されているとともに負極が前記低電位配線に接続されている第4スイッチング素子と、アノードが前記中性点に接続されているとともにカソードが前記第1スイッチング素子の前記負極に接続されている第1ダイオードと、アノードが前記第3スイッチング素子の前記負極に接続されているとともにカソードが前記中性点に接続されている第2ダイオード、を有している。前記インバータは、3つの前記スイッチング回路の前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、及び、前記第4スイッチング素子のゲートの電位を制御する制御回路をさらに有している。前記制御回路が、3つの前記スイッチング回路を、前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記高電位が印加される第1状態、前記第2スイッチング素子と前記第3スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記中性点の電位である中性点電位が印加される第2状態、前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子がオンして対応する前記出力配線に前記低電位が印加される第3状態の間で変化させるように構成されている。前記制御回路が、前記U相スイッチング回路の前記出力配線であるU相出力配線、前記V相スイッチング回路の前記出力配線であるV相出力配線、及び、前記W相スイッチング回路の前記出力配線であるW相出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の間で変化させることによって、前記U相出力配線、前記V相出力配線、及び、前記W相出力配線の間に三相交流電流を発生させるように構成されている。前記制御回路は、3つの前記スイッチング回路が有する前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、前記第1ダイオード、及び、前記第2ダイオードのうちのいずれかの素子が短絡故障した場合に、非常動作を実行可能である。前記短絡故障した素子を短絡故障素子という。3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含む1つの前記スイッチング回路の前記出力配線を制限出力配線という。3つの前記スイッチング回路のうちの前記短絡故障素子を含まない2つの前記スイッチング回路の前記出力配線をそれぞれ正常出力配線という。前記非常動作では、前記制御回路は、前記制限出力配線の電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のうちの禁止電位を除く2つの電位の間で変化させるとともに、前記正常出力配線のそれぞれの電位を前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位の3つの電位の間で変化させる。前記短絡故障素子が前記第2スイッチング素子または前記第2ダイオードである場合には前記禁止電位が前記低電位である。前記短絡故障素子が前記第3スイッチング素子または前記第1ダイオードである場合には前記禁止電位が前記高電位である。
【0010】
このインバータでは、非常動作時に、短絡故障素子を含むスイッチング回路の出力配線(制限出力配線)を禁止電位を除く2つの電位の間で変化させる一方で、正常出力配線を3つの電位の間で変化させる。すなわち、制限出力配線を2レベルで制御する一方で、正常出力配線は3レベルで制御する。このように、正常出力配線を3レベルで制御する場合には、上側コンデンサと下側コンデンサのいずれかが一方的に放電されることがないので、中性点電位の過度な上昇または過度な低下を防止することができる。したがって、このインバータによれば、第2スイッチング素子、第3スイッチング素子、第1ダイオード、または、第2ダイオードが短絡故障した場合でも、継続的に三相交流電流を発生させることができる。
【0011】
上述したインバータは、電圧ベクトルが回転するように前記電圧ベクトルの角度の指令値を生成して前記制御回路に入力する指令回路をさらに有していてもよい。前記電圧ベクトルは、パラメータVu、Vv、Vwにより示されるベクトルであってもよい。前記パラメータVuは、前記U相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であってもよい。前記パラメータVvは、前記V相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であってもよい。前記パラメータVwは、前記W相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であってもよい。前記非常動作においては、前記制限出力配線が前記禁止電位となる前記電圧ベクトルが禁止ベクトルであり、前記電圧ベクトルの角度範囲のうちの前記禁止ベクトルが含まれる角度範囲が制限角度範囲であり、前記電圧ベクトルの前記角度範囲のうちの前記制限角度範囲外の角度範囲が正常角度範囲であってもよい。前記制御回路は、前記非常動作において、前記指令値が示す前記角度が前記制限角度範囲内にある場合には、前記指令値が示す前記角度を有するとともに前記禁止ベクトルではない許容ベクトルに従って3つの前記出力配線の電位を制御してもよい。前記制御回路は、前記非常動作において、前記指令値が示す前記角度が前記正常角度範囲内にある場合には、前記指令値が示す前記角度を有する複数の前記電圧ベクトルから特定電圧ベクトルを選択し、選択した前記特定電圧ベクトルに従って3つの前記出力配線の電位を制御してもよい。前記制御回路は、前記中性点電位が基準値よりも低い場合に、前記中性点電位を上昇させる前記電圧ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択してもよい。前記制御回路は、前記中性点電位が前記基準値よりも高い場合に、前記中性点電位を低下させる前記電圧ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択してもよい。
【0012】
3レベルのインバータにおいては、出力電圧が電圧ベクトルで表される場合がある。この場合、同じ角度を有する電圧ベクトルが複数存在する。例えば、U相に対して60度の角度を有する電圧ベクトル(Vu,Vv,Vw)としては、(2,2,0)、(2,2,1)、(1,1,0)の3つが存在する。ここで、パラメータVu、Vv、Vwとして、数値「2」は高電位を意味し、数値「1」は中性点電位を意味し、数値「0」は低電位を意味するものとする。
【0013】
指令値が示す角度が制限角度範囲内にある場合には、制御回路は、その角度を有する複数の電圧ベクトルのうちの許容ベクトル(禁止ベクトル以外の電圧ベクトル)に従って出力配線の電位を制御する。例えば、高電位が禁止電位である場合には、上述した(2,2,0)、(2,2,1)、(1,1,0)のうちの(2,2,0)、(2,2,1)は禁止ベクトルである。この場合、(1,1,0)が許容ベクトル(使用可能な電圧ベクトル)であるので、制御回路は(1,1,0)に従って各出力配線の電位を制御する。このように、指令値が示す角度が制限角度範囲である場合には、制御回路は、許容ベクトルに従って制御することで、禁止電位の使用を禁止する。
【0014】
また、指令値が示す角度範囲が正常角度範囲内にある場合には、制御回路は、その角度を有する複数の電圧ベクトルから特定電圧ベクトルを選択し、選択した特定電圧ベクトルに従って出力配線の電位を制御する。ここで、制御回路は、中性点電位が基準値よりも低い場合に中性点電位を上昇させる電圧ベクトルを特定電圧ベクトルとして選択し、中性点電位が基準値よりも高い場合に中性点電位を低下させる電圧ベクトルを特定電圧ベクトルとして選択する。例えば、上述した(2,2,0)、(2,2,1)、(1,1,0)の角度(すなわち、60度)が正常角度範囲内にある場合には、制御回路は、これらの電圧ベクトルから特定電圧ベクトルを選択する。これらの電圧ベクトルのうち、(2,2,1)、(1,1,0)は、中性点電位を変化させる電圧ベクトルである。制御回路は、インバータの動作状態に応じて(2,2,1)、(1,1,0)のいずれか選択して、中性点電位を基準値に近づけるように動作する。このように、指令値が示す角度範囲が正常角度範囲内にある場合には、使用可能な電圧ベクトルが複数存在するので、その中から適切な電圧ベクトルを選択することで、中性点電位を適正値に制御することができる。したがって、三相交流電流を継続的に発生させることができる。
【0015】
上述したインバータにおいては、3つの前記出力配線が、負荷に接続されるように構成されていてもよい。前記負荷に前記高電位と前記中性点電位を印加して前記低電位を印加しない前記電圧ベクトルを上側ベクトルといってもよい。前記負荷に前記中性点電位と前記低電位を印加して前記高電位を印加しない前記電圧ベクトルを下側ベクトルといってもよい。前記制御回路は、前記指令値が示す前記角度が前記正常角度範囲内にある場合には、以下のA~Dの条件に従って前記特定電圧ベクトルを選択することができる。A.前記中性点電位が前記基準値よりも低く、かつ、前記負荷に流れる電流が前記負荷に印加される電圧に対して順方向である場合に、前記上側ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する。B.前記中性点電位が前記基準値よりも低く、かつ、前記負荷に流れる前記電流が前記負荷に印加される前記電圧に対して逆方向である場合に、前記下側ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する。C.前記中性点電位が前記基準値よりも高く、かつ、前記負荷に流れる前記電流が前記負荷に印加される前記電圧に対して順方向である場合に、前記下側ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する。D.前記中性点電位が前記基準値よりも高く、かつ、前記負荷に流れる前記電流が前記負荷に印加される前記電圧に対して逆方向である場合に、前記上側ベクトルを前記特定電圧ベクトルとして選択する。
【0016】
この構成によれば、中性点電位の変動をより抑制することができる。
【0017】
上述したインバータにおいては、前記制御回路は、前記中性点電位が前記基準値よりも高い上側制限値よりも高く、前記指令値が示す前記角度が前記制限角度範囲内にあり、前記許容ベクトルが前記中性点電位を上昇させる前記電圧ベクトルである場合には、前記指令値が示す前記角度にかかわらず、3つの前記出力配線を同電位に制御してもよい。また、前記制御回路は、前記中性点電位が前記基準値よりも低い下側制限値よりも低く、前記指令値が示す前記角度が前記制限角度範囲内にあり、前記許容ベクトルが前記中性点電位を低下させる前記電圧ベクトルである場合には、前記指令値が示す前記角度にかかわらず、3つの前記出力配線を同電位に制御してもよい。
【0018】
このように、中性点電位と基準値の差が大きい場合には、上記のような条件で出力配線を同電位とすることで、中性点電位を基準値に近い値により素早く戻すことができる。
【0019】
また、上述した第1のインバータにおいては、電圧ベクトルが回転するように前記電圧ベクトルの角度の指令値を生成して前記制御回路に入力する指令回路をさらに有してもよい。前記電圧ベクトルは、パラメータVu、Vv、Vwにより示されるベクトルであってもよい。前記パラメータVuは、前記U相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であってもよい。前記パラメータVvは、前記V相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であってもよい。前記パラメータVwは、前記W相出力配線の電位が、前記高電位、前記中性点電位、及び、前記低電位のいずれであるかを示す値であってもよい。前記非常動作においては、前記制限出力配線が前記禁止電位となる前記電圧ベクトルが禁止ベクトルであり、前記電圧ベクトルの角度範囲のうちの前記禁止ベクトルが含まれる角度範囲が制限角度範囲であり、前記電圧ベクトルの前記角度範囲のうちの前記制限角度範囲外の角度範囲が正常角度範囲であってもよい。前記制御回路は、前記非常動作において、前記指令値が示す前記角度が前記制限角度範囲内にある場合には、前記指令値が示す前記角度を有するとともに前記禁止ベクトルではない許容ベクトルに従って3つの前記出力配線の電位を制御してもよい。前記制御回路は、前記非常動作において、前記指令値が示す前記角度が前記正常角度範囲内にある場合には、前記指令値が示す前記角度を有する複数の前記電圧ベクトルから特定電圧ベクトルを選択し、選択した前記特定電圧ベクトルに従って3つの前記出力配線の電位を制御してもよい。3つの前記出力配線が、負荷に接続されるように構成されていてもよい。前記特定電圧ベクトルが、前記負荷に前記高電位と前記中性点電位を印加して前記低電位を印加しない前記電圧ベクトルの群により構成された第1グループと、前記負荷に前記中性点電位と前記低電位を印加して前記高電位を印加しない前記電圧ベクトルの群により構成された第2グループのいずれかから選択されてもよい。前記制御回路が、前記中性点電位の制御目標値を記憶していてもよい。前記制御回路は、前回の制御フェーズ以後に前記中性点電位と前記制御目標値のずれが拡大した場合に、前記第1グループと前記第2グループのうちの前回の制御フェーズで選択した前記電圧ベクトルが属するグループとは異なるグループから前記特定電圧ベクトルを選択してもよい。
【0020】
この構成でも、中性点電位を適正値に制御し、三相交流電流を継続的に発生させることができる。
【0021】
上述したいずれかのインバータにおいては、前記制御回路が、3つの前記スイッチング回路の前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子、及び、前記第4スイッチング素子に流れる電流を検出するように構成されていてもよい。前記制御回路が、3つの前記スイッチング回路から選択した選択スイッチング回路に対して、短絡素子判定動作を実行可能であってもよい。前記短絡素子判定動作では、前記制御回路が、前記選択スイッチング回路を、前記第1状態、前記第2状態、前記第3状態の間で経時的に変化させてもよい。前記制御回路が、前記選択スイッチング回路に対して、前記第1状態で前記第1スイッチング素子に短絡電流が流れるとともに前記第2スイッチング素子に短絡電流が流れない場合に前記第1ダイオードが前記短絡故障素子であると判定し、前記第1状態で前記第1スイッチング素子と前記第2スイッチング素子に短絡電流が流れる場合に前記第3スイッチング素子が前記短絡故障素子であると判定し、前記第2状態で前記第2スイッチング素子と前記第3スイッチング素子に短絡電流が流れるとともに前記中性点電位が上昇する場合に前記第1スイッチング素子が前記短絡故障素子であると判定し、前記第2状態で前記第2スイッチング素子と前記第3スイッチング素子に短絡電流が流れるとともに前記中性点電位が低下する場合に前記第4スイッチング素子が前記短絡故障素子であると判定し、前記第3状態で前記第3スイッチング素子と前記第4スイッチング素子に短絡電流が流れる場合に前記第2スイッチング素子が前記短絡故障素子であると判定し、前記第3状態で前記第4スイッチング素子に短絡電流が流れるとともに前記第3スイッチング素子に短絡電流が流れない場合に前記第2ダイオードが前記短絡故障素子であると判定してもよい。
【0022】
なお、選択スイッチング回路は、1つであっても2つであっても3つであってもよい。すなわち、2つまたは3つの選択スイッチング回路に対して同時に短絡素子判定動作を実行してもよい。
【0023】
この構成によれば、短絡故障素子を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】インバータの回路図。
図2】第1~第3状態を示す表。
図3】電圧ベクトルを示す空間ベクトル図。
図4】パラメータとして小数を含む電圧ベクトルEaを示す空間ベクトル図。
図5】出力された電圧ベクトルの角度と三相交流電流を示すグラフ。
図6】(0,0,2)が出力されたときの電流経路を示す回路図。
図7】(1,1,2)が出力され、電流が順方向のときの電流経路を示す回路図。
図8】(1,1,2)が出力され、電流が逆方向のときの電流経路を示す回路図。
図9】(0,0,1)が出力され、電流が順方向のときの電流経路を示す回路図。
図10】(0,0,1)が出力され、電流が逆方向のときの電流経路を示す回路図。
図11】短絡素子判定動作のフローチャート。
図12】第1ダイオードの短絡故障時と第3スイッチング素子の短絡故障時における短絡電流の経路を示す回路図。
図13】第1スイッチング素子の短絡故障時と第4スイッチング素子の短絡故障時における短絡電流の経路を示す回路図。
図14】第2ダイオードの短絡故障時と第2スイッチング素子の短絡故障時における短絡電流の経路を示す回路図。
図15】禁止電位を示す表。
図16】禁止電位が0Vの場合の非常動作を示すフローチャート。
図17】禁止電位が0Vの場合の制限角度範囲の一例を示す空間ベクトル図。
図18】第1~第4規則を示す表。
図19】第1~第4規則で出力される電圧ベクトルの一例を示す図。
図20】禁止電位が電位VHの場合の非常動作を示すフローチャート。
図21】禁止電位が電位VHの場合の制限角度範囲の一例を示す空間ベクトル図。
図22】第5~第8規則を示す表。
図23】実施例2のインバータが実行する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0025】
(インバータの構成)
図1は、実施例1のインバータ10の回路図を示している。インバータ10は、車両に搭載されている。また、車両には、バッテリ18と走行用モータ90が搭載されている。走行用モータ90は、三相モータである。インバータ10は、バッテリ18と走行用モータ90に接続されている。インバータ10は、バッテリ18が印加する直流電力を三相交流電力に変換し、三相交流電力を走行用モータ90に供給する。これによって、走行用モータ90が駆動し、車両が走行する。
【0026】
インバータ10は、高電位配線12、中性点14、低電位配線16、上側コンデンサ20、及び、下側コンデンサ22を有している。高電位配線12は、バッテリ18の正極に接続されている。低電位配線16は、バッテリ18の負極に接続されている。以下では、低電位配線16の電位を基準電位(0V)とする。バッテリ18によって、高電位配線12と低電位配線16の間に直流電圧が印加されている。したがって、高電位配線12は、低電位配線16の電位(0V)よりも高い電位VHを有している。上側コンデンサ20は、高電位配線12と中性点14の間に接続されている。下側コンデンサ22は、中性点14と低電位配線16の間に接続されている。このため、中性点14の電位VM(以下、中性点電位VMという)は、低電位配線16の電位(0V)よりも高く、高電位配線12の電位VHよりも低い。中性点電位VMは、上側コンデンサ20に蓄えられる電荷量と下側コンデンサ22に蓄えられる電荷量に応じて変動する。上側コンデンサ20が放電されるか、下側コンデンサ22が充電されると、中性点電位VMは上昇する。上側コンデンサ20が充電されるか、下側コンデンサ22が放電されると、中性点電位VMは低下する。
【0027】
インバータ10は、U相スイッチング回路30u、V相スイッチング回路30v、及び、W相スイッチング回路30wの3つのスイッチング回路30を有している。スイッチング回路30のそれぞれは、高電位配線12と低電位配線16と中性点14の間に接続されている。スイッチング回路30のぞれぞれは、第1スイッチング素子41、第2スイッチング素子42、第3スイッチング素子43、第4スイッチング素子44、第1ダイオード51、第2ダイオード52、及び、出力配線60を有している。3つのスイッチング回路30の構成は互いに等しいので、以下では1つのスイッチング回路30の構成について説明する。
【0028】
スイッチング素子41~44は、IGBT(insulated gate bipolar transistor)により構成されている。但し、スイッチング素子41~44は、他の素子(例えば、FET(field effect transistor))により構成されていてもよい。スイッチング素子41~44のそれぞれに対して、還流ダイオードが並列に接続されている。還流ダイオードのアノードが対応するスイッチング素子のエミッタに接続されており、還流ダイオードのカソードが対応するスイッチング素子のコレクタに接続されている。スイッチング素子41~44は、高電位配線12と低電位配線16の間に直列に接続されている。すなわち、第1スイッチング素子41のコレクタは、高電位配線12に接続されている。第2スイッチング素子42のコレクタは、第1スイッチング素子41のエミッタに接続されている。第3スイッチング素子43のコレクタは、第2スイッチング素子42のエミッタに接続されている。第4スイッチング素子44のコレクタは、第3スイッチング素子43のエミッタに接続されている。第4スイッチング素子44のエミッタは、低電位配線16に接続されている。第1ダイオード51のアノードは、中性点14に接続されている。第1ダイオード51のカソードは、第1スイッチング素子41のエミッタ、及び、第2スイッチング素子42のコレクタに接続されている。第2ダイオード52のアノードは、第3スイッチング素子43のエミッタ、及び、第4スイッチング素子44のコレクタに接続されている。第2ダイオード52のカソードは、中性点14に接続されている。出力配線60の一端は、第2スイッチング素子42のエミッタ、及び、第3スイッチング素子43のコレクタに接続されている。出力配線60の他端は、走行用モータ90に接続されている。
【0029】
なお、以下では、U相スイッチング回路30uの出力配線60をU相出力配線60uといい、V相スイッチング回路30vの出力配線60をV相出力配線60vといい、W相スイッチング回路30wの出力配線60をW相出力配線60wという。U相出力配線60u、V相出力配線60v、W相出力配線60wのそれぞれは、走行用モータ90に接続されている。
【0030】
インバータ10は、制御回路70と指令回路72を有している。指令回路72は、走行用モータ90の動作状態に応じて指令値を生成し、生成した指令値を制御回路70に入力する。制御回路70は、図示していないが、U相スイッチング回路30u、V相スイッチング回路30v、及び、W相スイッチング回路30wのそれぞれが有するスイッチング素子41~44のゲートに接続されている。すなわち、制御回路70は、図1に示す12個のスイッチング素子のゲートに接続されている。制御回路70は、指令回路72から入力される指令値に基づいて、各スイッチング素子をオン-オフさせる。これによって、3つの出力配線60の間に三相交流電流が生成される。三相交流電流が走行用モータ90に供給されることで、走行用モータ90が駆動し、車両が走行する。
【0031】
なお、図示していないが、制御回路70と指令回路72は、中性点14に接続されている。制御回路70と指令回路72は、中性点電位VMを検出することができる。
【0032】
また、図示していないが、インバータ10は、各出力配線60に流れる電流を検出する電流センサを有している。各電流センサの検出値は、制御回路70に入力される。
【0033】
(出力配線の電位)
次に、各出力配線60に印加される電位について説明する。制御回路70は、各スイッチング回路30を、図2に示す第1状態、第2状態、第3状態のいずれかに制御する。
【0034】
第1状態では、第1スイッチング素子41がオン、第2スイッチング素子42がオン、第3スイッチング素子43がオフ、第4スイッチング素子44がオフに制御される。第1状態では、出力配線60が、第1スイッチング素子41と第2スイッチング素子42を介して高電位配線12に接続される。したがって、第1状態では、出力配線60の電位は、高電位配線12と同じ電位VHとなる。
【0035】
第2状態では、第1スイッチング素子41がオフ、第2スイッチング素子42がオン、第3スイッチング素子43がオン、第4スイッチング素子44がオフに制御される。第2状態では、出力配線60が、第2スイッチング素子42と第1ダイオード51を介して、または、第3スイッチング素子43と第2ダイオード52を介して中性点14に接続される。したがって、第2状態では、出力配線60の電位は、中性点電位VMとなる。
【0036】
第3状態では、第1スイッチング素子41がオフ、第2スイッチング素子42がオフ、第3スイッチング素子43がオン、第4スイッチング素子44がオンに制御される。第3状態では、出力配線60が、第3スイッチング素子43と第4スイッチング素子44を介して低電位配線16に接続される。したがって、第3状態では、出力配線60の電位は、低電位配線16と同じ0Vとなる。
【0037】
各スイッチング回路30の状態が第1状態、第2状態、第3状態の間で変化することで、各出力配線60の電位が電位VH、中性点電位VM、0Vの間で変化する。制御回路70は、各出力配線60の電位を制御することによって、出力配線60に三相交流電流を発生させる。
【0038】
(電圧ベクトル)
図3は、出力配線60のそれぞれに印加される電位を示す電圧ベクトルを示す空間ベクトル図である。図3では、電圧ベクトルEが例示されている。電圧ベクトルは、3つのパラメータ(Vu、Vv、Vw)によって表される。パラメータVuは、U相出力配線60uの電位示す値である。パラメータVvは、V相出力配線60vの電位を示す値である。パラメータVwは、W相出力配線60wの電位を示す値である。パラメータVu、Vv、Vwは、0から2の間の数値である。数値「0」は対応する出力配線60に0Vが印加されることを示し、数値「1」は対応する出力配線60に中性点電位VMが印加されることを示し、数値「2」は対応する出力配線60に電位VHが印加されることを示す。例えば、図3に例示された電圧ベクトルEは、(2,2,0)であるので、U相出力配線60uに電位VHが印加され、V相出力配線60vに電位VHが印加され、W相出力配線60wに0Vが印加されることを意味する。
【0039】
指令回路72は、3つの出力配線60に印加すべき電位の指令値を生成する。指令回路72は、電圧ベクトル(すなわち、3つのパラメータ(Vu,Vv,Vw))によって指令値を生成する。指令回路72が生成した指令値は、制御回路70に入力される。以下では、指令回路72から制御回路70に入力される指令値(電圧ベクトル)を、指令値ベクトルという。
【0040】
制御回路70は、通常動作時は、指令値ベクトルの通りにインバータ10を制御する。例えば、指令値ベクトルのパラメータVuが「0」の場合には、制御回路70は、U相スイッチング回路30uを第3状態に制御してU相出力配線60uに0Vを印加する。指令値ベクトルのパラメータVuが「1」の場合には、制御回路70は、U相スイッチング回路30uを第2状態に制御してU相出力配線60uに中性点電位VMを印加する。指令値ベクトルのパラメータVuが「2」の場合には、制御回路70は、U相スイッチング回路30uを第1状態に制御してU相出力配線60uに電位VHを印加する。指令値ベクトルのパラメータVvが「0」の場合には、制御回路70は、V相スイッチング回路30vを第3状態に制御してV相出力配線60vに0Vを印加する。指令値ベクトルのパラメータVvが「1」の場合には、制御回路70は、V相スイッチング回路30vを第2状態に制御してV相出力配線60vに中性点電位VMを印加する。指令値ベクトルのパラメータVvが「2」の場合には、制御回路70は、V相スイッチング回路30vを第1状態に制御してV相出力配線60vに電位VHを印加する。指令値ベクトルのパラメータVwが「0」の場合には、制御回路70は、W相スイッチング回路30wを第3状態に制御してW相出力配線60wに0Vを印加する。指令値ベクトルのパラメータVwが「1」の場合には、制御回路70は、W相スイッチング回路30wを第2状態に制御してW相出力配線60wに中性点電位VMを印加する。指令値ベクトルのパラメータVwが「2」の場合には、制御回路70は、W相スイッチング回路30wを第1状態に制御してW相出力配線60wに電位VHを印加する。このように、通常動作時は、制御回路70は、指令値ベクトルの通りに3つの出力配線60の電位を制御する。以下では、制御回路70が電圧ベクトルに従って3つの出力配線60の電位を制御することを、「電圧ベクトルを出力する」という場合がある。
【0041】
指令回路72は、矢印102に示すように指令値ベクトルが回転するように指令値ベクトルを順次生成して制御回路70に入力する。通常動作時は、制御回路70は、入力された指令値ベクトルの通りに電圧ベクトルを出力する。したがって、出力される電圧ベクトルが、矢印102のように回転する。これによって、3つの出力配線60の間に三相交流電流が生成され、走行用モータ90の内部に生じる磁界が回転する。その結果、走行用モータ90のロータが回転する。
【0042】
なお、以下では、図3に示すように、電圧ベクトルの角度を、Vu軸に対する角度θにより示す。例えば、(2,2,0)の角度θは、60°である。指令値ベクトルは、(Vu、Vv、Vw)によって表されるので、指令値ベクトルは角度θの情報を含んでいる。
【0043】
なお、特定の角度θでは複数の電圧ベクトルが存在する。例えば、図3に示すように、角度θが60°の場合、(2,2,0)、(2,2,1)、(1,1,0)の3つの電圧ベクトルが存在する。(2,2,0)を出力すると、(2,2,1)、(1,1,0)を出力する場合よりも、走行用モータ90を高いトルクで動作させることができる。指令回路72は、走行用モータ90で必要なトルクが高い場合に、(2,2,0)を指令値ベクトルとする。また、指令回路72は、走行用モータ90で必要なトルクが低い場合に、(2,2,1)または(1,1,0)を指令値ベクトルとする。また、(2,2,1)を出力する場合には、上側コンデンサ20が充電または放電される。また、(1,1,0)を出力する場合には、下側コンデンサ22が充電または放電される。このため、(2,2,1)または(1,1,0)を出力すると、中性点電位VMが変動する。なお、中性点電位VMの変動については、後に詳述する。指令回路72は、中性点電位VMを検出し、中性点電位VMが目標値(例えば、電位VHの1/2の値)となるように(2,2,1)または(1,1,0)のいずれか選択して指令値ベクトルとする。このように、複数の電圧ベクトルが存在する角度θにおいては、指令回路72は、それらの複数の電圧ベクトルから1つの電圧ベクトルを選択して指令値ベクトルとする。
【0044】
また、指令回路72は、パラメータVu、Vv、Vwとして小数を含む指令値ベクトルを生成するように構成されていてもよい。例えば、図4の電圧ベクトルEaが指令値ベクトルとして生成されてもよい。この場合、制御回路70は、電圧ベクトルEaに近い電圧ベクトルEb、Ec及びEdを時間的にずらして出力する。これによって、電圧ベクトルEb、Ec及びEdが合成されて、電圧ベクトルEaが出力される。なお、電圧ベクトルEbは、(2,2,1)または(1,1,0)であり、電圧ベクトルEcは、(2,1,1)または(1,0,0)であり、電圧ベクトルEdは(2,2,2)、(1,1,1)または(0,0,0)である。なお、電圧ベクトルEdは、いわゆるゼロベクトルであり、3つの出力配線60を同電位とすることを意味する。このように、パラメータとして小数を含む指令値ベクトルが生成される場合には、制御回路70は、複数の電圧ベクトルを合成して出力する。
【0045】
以上に説明したように、通常動作においては、指令回路72が指令値ベクトルを回転させ、その指令値ベクトルに従って制御回路70が各スイッチング回路30u、30v、30wを制御するので、3つの出力配線60に三相交流電流が生成される。図5は、3つの出力配線60u、60v、60wに流れる電流Iu、Iv、Iwと、出力される電圧ベクトルの角度θの関係を示している。図5に示すように、電圧ベクトルの角度θの位相は、電流Iuの位相に対して約90°ずれる。但し、回路の寄生抵抗の影響によって、角度θと電流Iuの位相差が図5からさらに変化する場合がある。また、三相交流電流の周波数を変更する場合には、角度θと電流Iuの位相差が変化する場合がある。
【0046】
(中性点電位VMの変動)
次に、中性点電位VMの変動について説明する。図3に示す電圧ベクトルのうち、数値「1」を含まない電圧ベクトルでは、3つの出力配線60のいずれにも中性点電位VMが印加されない。この場合、中性点電位VMの変動は生じない。例えば、(0,0,2)が出力される場合には、図6のように、出力配線60u、60vが低電位配線16に接続され、出力配線60wが高電位配線12に接続される。なお、走行用モータ90の動作状態によって、走行用モータ90に印加される電圧と同じ方向(以下、順方向という)に電流が流れる場合と、走行用モータ90に印加される電圧と逆の方向(以下、逆方向という)に電流が流れる場合とがある。順方向に電流が流れる場合には、図6の矢印200に示すように、高電位配線12から出力配線60wを介して走行用モータ90に電流が流れる。走行用モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して低電位配線16へ流れる。また、逆方向に電流が流れる場合には、矢印200の逆向きに電流が流れる。これらのいずれの場合でも、中性点14に対する電荷の流入、及び、中性点14からの電荷の流出は生じない。したがって、この場合には、中性点電位VMの変動は生じない。電圧ベクトルとして(2,0,0)、(2,2,0)、(0,2,0)、(0,2,2)、(2,0,2)が出力される場合も、同様にして、中性点電位VMの変動は生じない。
【0047】
図3に示す電圧ベクトルのうち、数値「1」を含む電圧ベクトルを出力する場合には、3つの出力配線60の少なくとも1つに中性点14が接続されるので、中性点電位VMの変動が生じる。
【0048】
例えば、(1,1,2)が出力される場合には、図7のように、出力配線60u、60vが中性点14に接続され、出力配線60wが高電位配線12に接続される。順方向に電流が流れる場合には、図7の矢印202に示すように、高電位配線12から出力配線60wを介して走行用モータ90に電流が流れる。走行用モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して中性点14へ流れる。この場合、上側コンデンサ20が放電されるので、中性点電位VMが上昇する。また、逆方向に電流が流れる場合には、図8の矢印204に示すように、中性点14から出力配線60u、60vを介して走行用モータ90に電流が流れる。走行用モータ90に流入した電流は、出力配線60wを介して高電位配線12へ流れる。この場合、上側コンデンサ20が充電されるので、中性点電位VMが低下する。このように、(1,1,2)が出力される場合には、電流が順方向の場合に中性点電位VMが上昇し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが低下する。電圧ベクトルとして(2,1,1)、(2,2,1)、(1,2,1)、(1,2,2)、(2,1,2)が出力される場合も、同様にして、電流が順方向の場合に中性点電位VMが上昇し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが低下する。
【0049】
また、例えば、(0,0,1)が出力される場合には、図9のように、出力配線60u、60vが低電位配線16に接続され、出力配線60wが中性点14に接続される。順方向に電流が流れる場合には、図9の矢印206に示すように、中性点14から出力配線60wを介して走行用モータ90に電流が流れる。走行用モータ90に流入した電流は、出力配線60u、60vを介して低電位配線16へ流れる。この場合、下側コンデンサ22が放電されるので、中性点電位VMが低下する。また、逆方向に電流が流れる場合には、図10の矢印208に示すように、低電位配線16から出力配線60u、60vを介して走行用モータ90に電流が流れる。走行用モータ90に流入した電流は、出力配線60wを介して中性点14へ流れる。この場合、下側コンデンサ22が充電されるので、中性点電位VMが上昇する。このように、(0,0,1)が出力される場合には、電流が順方向の場合に中性点電位VMが低下し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが上昇する。電圧ベクトルとして(1,0,0)、(1,1,0)、(0,1,0)、(0,1,1)、(1,0,1)が出力される場合も、同様にして、電流が順方向の場合に中性点電位VMが低下し、電流が逆方向の場合に中性点電位VMが上昇する。
【0050】
また、図3に示す電圧ベクトルのうち、(2,1,0)、(1,2,0)、(0,2,1)、(0,1,2)、(1,0,2)、(2,0,1)が出力される場合でも、中性点14に対する電荷の流入または流出が生じるので、中性点電位VMの変動が生じる。
【0051】
上述したように、指令回路72は、走行用モータ90で必要なトルクが低い場合には、中性点電位VMに応じて指令値ベクトルを変更する。例えば、中性点電位VMが制御目標値よりも低い場合には、中性点電位VMを上昇させる指令値ベクトルを生成する。また、例えば、中性点電位VMが制御目標値よりも高い場合には、中性点電位VMを低下させる指令値ベクトルを生成する。上述したように、通常動作では、制御回路70が、指令値ベクトルに従って3つの出力配線60の電位を制御する。したがって、中性点電位VMを目標値に近い値に制御しながら、走行用モータ90に三相交流電流を供給することができる。
【0052】
(短絡素子判定動作)
次に、短絡素子判定動作について説明する。制御回路70は、車両が走行していないときに、定期的に短絡素子判定動作を実行する。短絡素子判定動作では、スイッチング回路30u、30v、30wのそれぞれについて、スイッチング素子41~44及びダイオード51~52が短絡故障しているか否かを判定する。なお、スイッチング素子の短絡故障は、ゲートの電位にかかわらずスイッチング素子がオンしている故障モードを意味する。また、ダイオードの短絡故障は、ダイオードにいずれの方向にも電流が流れる故障モードを意味する。制御回路70は、3つのスイッチング回路30u、30v、30wのいずれかを選択し、選択したスイッチング回路30に対して短絡素子判定動作を実行する。なお、制御回路70は、3つのスイッチング回路30のすべてを選択し、選択したすべてのスイッチング回路30に対して同時に短絡素子判定動作を実行してもよい。スイッチング回路30u、30v、30wに対する短絡素子判定動作は同じであるので、以下では、1つのスイッチング回路30に対する短絡素子判定動作について説明する。
【0053】
なお、スイッチング素子41~44のそれぞれは、電流検出端子を備えている。制御回路70は、スイッチング素子41~44の電流検出端子に接続されている。制御回路70は、電流検出端子の電位から、スイッチング素子41~44の主電流(コレクタ-エミッタ間電流)を検出することができる。
【0054】
図11は、短絡素子判定動作のフローチャートである。短絡素子判定動作を開始すると、制御回路70は、まず、ステップS2で、スイッチング回路30を第1状態に制御する。すなわち、制御回路70は、第1スイッチング素子41と第2スイッチング素子42をオン状態とし、第3スイッチング素子43と第4スイッチング素子44をオフ状態とする。ステップS2では、制御回路70は、スイッチング素子41、42の主電流を検出する。
【0055】
ステップS2(すなわち、第1状態)では、第1ダイオード51が短絡故障していると、図12の矢印300に示すように高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。この場合、第1スイッチング素子41では短絡電流(過電流)が検出される一方で、第2スイッチング素子42では短絡電流は検出されない。したがって、ステップS2において第1スイッチング素子41で短絡電流が検出されるとともに第2スイッチング素子42で短絡電流が検出されない場合には、制御回路70は、第1ダイオード51が短絡故障素子であると判定する。
【0056】
また、ステップS2(すなわち、第1状態)では、第3スイッチング素子43が短絡故障していると、図12の矢印302に示すように高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。このため、第1スイッチング素子41と第2スイッチング素子42の両方で短絡電流が検出される。したがって、ステップS2において第1スイッチング素子41と第2スイッチング素子42の両方で短絡電流が検出された場合には、制御回路70は、第3スイッチング素子43が短絡故障素子であると判定する。
【0057】
また、ステップS2(すなわち、第1状態)では、第1スイッチング素子41、第2スイッチング素子42、第4スイッチング素子44、または、第2ダイオード52が短絡故障していても、線間短絡は生じない。したがって、これらの場合には、第1スイッチング素子41と第2スイッチング素子42のいずれでも、短絡電流は検出されない。
【0058】
次に、制御回路70は、ステップS4で、スイッチング回路30を第2状態に制御する。すなわち、制御回路70は、第2スイッチング素子42と第3スイッチング素子43をオン状態とし、第1スイッチング素子41と第4スイッチング素子44をオフ状態とする。ステップS4では、制御回路70は、スイッチング素子42、43の主電流を検出するとともに、中性点電位VMを検出する。
【0059】
ステップS4(すなわち、第2状態)では、第1スイッチング素子41が短絡故障していると、図13の矢印304に示すように高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。この場合、第2スイッチング素子42と第3スイッチング素子43で短絡電流が検出される。また、この場合には、下側コンデンサ22が充電されて中性点電位VMが上昇する。したがって、ステップS4において、第2スイッチング素子42と第3スイッチング素子43で短絡電流が検出されるとともに中性点電位VMが上昇する場合には、制御回路70は、第1スイッチング素子41が短絡故障素子であると判定する。
【0060】
また、ステップS4(すなわち、第2状態)では、第4スイッチング素子44が短絡故障していると、図13の矢印306に示すように中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。この場合、第2スイッチング素子42と第3スイッチング素子43で短絡電流が検出される。また、この場合には、下側コンデンサ22が放電されて中性点電位VMが低下する。したがって、ステップS6において、第2スイッチング素子42と第3スイッチング素子43で短絡電流が検出されるとともに中性点電位VMが低下する場合には、制御回路70は、第4スイッチング素子44が短絡故障素子であると判定する。
【0061】
また、ステップS4(すなわち、第2状態)では、第2スイッチング素子42、第3スイッチング素子43、第1ダイオード51、または、第2ダイオード52が短絡故障していても、線間短絡は生じない。したがって、これらの場合には、第2スイッチング素子42と第3スイッチング素子43のいずれでも、短絡電流は検出されない。
【0062】
次に、制御回路70は、ステップS6で、スイッチング回路30を第3状態に制御する。すなわち、制御回路70は、第3スイッチング素子43と第4スイッチング素子44をオン状態とし、第1スイッチング素子41と第2スイッチング素子42をオフ状態とする。ステップS6では、制御回路70は、スイッチング素子43、44の主電流を検出する.
【0063】
ステップS6(すなわち、第3状態)では、第2ダイオード52が短絡故障していると、図14の矢印308に示すように中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。この場合、第4スイッチング素子44では短絡電流が検出される一方で、第3スイッチング素子43では短絡電流は検出されない。したがって、ステップS6において第4スイッチング素子44で短絡電流が検出されるとともに第3スイッチング素子43で短絡電流が検出されない場合には、制御回路70は、第2ダイオード52が短絡故障素子であると判定する。
【0064】
また、ステップS6(すなわち、第3状態)では、第2スイッチング素子42が短絡故障していると、図14の矢印310に示すように中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。このため、第3スイッチング素子43と第4スイッチング素子44の両方で短絡電流が検出される。したがって、ステップS6において第3スイッチング素子43と第4スイッチング素子44の両方で短絡電流が検出された場合には、制御回路70は、第2スイッチング素子42が短絡故障素子であると判定する。
【0065】
また、ステップS6(すなわち、第3状態)では、第1スイッチング素子41、第3スイッチング素子43、第4スイッチング素子44、または、第1ダイオード51が短絡故障していても、線間短絡は生じない。したがって、これらの場合には、第3スイッチング素子43と第4スイッチング素子44のいずれでも、短絡電流は検出されない。
【0066】
以上に説明したように、制御回路70は、ステップS2~S6での検出結果に基づいて、スイッチング素子41~44、ダイオード51~52の何れが短絡故障素子であるかを判定する。また、ステップS2~S6のいずれでも短絡電流が検出されない場合には、制御回路70は、短絡故障素子が存在しないと判定する。
【0067】
(禁止電位)
制御回路70は、短絡故障素子が存在する状態で走行用モータ90を駆動する必要があるときには、非常動作を実行する。なお、以下では、短絡故障素子を有するスイッチング回路30を、制限スイッチング回路30xという。また、制限スイッチング回路30xの出力配線60を、制限出力配線60xという。また、制限スイッチング回路30x以外のスイッチング回路30を、正常スイッチング回路30yという。また、正常スイッチング回路30yの出力配線60を、正常出力配線60yという。非常動作は、制限スイッチング回路30xが1つであり、短絡故障素子が1つの場合に実行される。非常動作では、制限出力配線60xに禁止電位が印加されないように、制限スイッチング回路30xが制御される。最初に、禁止電位について説明する。
【0068】
禁止電位は、制限スイッチング回路30x内で線間短絡が生じるため、制限出力配線60xに印加できない電圧を意味する。図15は、短絡故障素子と禁止電位の関係を示している。制限スイッチング回路30x内の短絡故障素子の種類によって、禁止電位が異なる。
【0069】
図13の矢印304で示されるように、第1スイッチング素子41が短絡故障している場合には、第2状態において高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。したがって、第1スイッチング素子41が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第2状態とすることができず、制限出力配線60xに中性点電位VMを印加することができない。したがって、図15に示すように、第1スイッチング素子41が短絡故障している場合には、禁止電位は中性点電位VMとなる。
【0070】
図14の矢印310で示されるように、第2スイッチング素子42が短絡故障している場合には、第3状態において中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。したがって、第2スイッチング素子42が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第3状態とすることができず、制限出力配線60xに0Vを印加することができない。したがって、図15に示すように、第2スイッチング素子42が短絡故障している場合には、禁止電位は0Vとなる。
【0071】
図12の矢印302で示されるように、第3スイッチング素子43が短絡故障している場合には、第1状態において高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。したがって、第3スイッチング素子43が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第1状態とすることができず、制限出力配線60xに電位VHを印加することができない。したがって、図15に示すように、第3スイッチング素子43が短絡故障している場合には、禁止電位は電位VHとなる。
【0072】
図13の矢印306で示されるように、第4スイッチング素子44が短絡故障している場合には、第2状態において中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。したがって、第4スイッチング素子44が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第2状態とすることができず、制限出力配線60xに中性点電位VMを印加することができない。したがって、図15に示すように、第4スイッチング素子44が短絡故障している場合には、禁止電位は中性点電位VMとなる。
【0073】
図12の矢印300で示されるように、第1ダイオード51が短絡故障している場合には、第1状態において高電位配線12と中性点14の間で線間短絡が生じる。したがって、第1ダイオード51が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第1状態とすることができず、制限出力配線60xに電位VHを印加することができない。したがって、図15に示すように、第1ダイオード51が短絡故障している場合には、禁止電位は電位VHとなる。
【0074】
図14の矢印308で示されるように、第2ダイオード52が短絡故障している場合には、第3状態において中性点14と低電位配線16の間で線間短絡が生じる。したがって、第2ダイオード52が短絡故障している場合には、制限スイッチング回路30xを第3状態とすることができず、制限出力配線60xに0Vを印加することができない。したがって、図15に示すように、第2ダイオード52が短絡故障している場合には、禁止電位は0Vとなる。
【0075】
以上に説明したように、短絡故障素子に応じて、制限出力配線60xに印加することができない禁止電位が変化する。
【0076】
(非常動作)
非常動作では、制御回路70は、指令回路72から入力される指令値ベクトルと角度θが同じである複数の電圧ベクトルの中から特定の条件を満たす1つの電圧ベクトルを選択し、選択した電圧ベクトルを出力する。以下では、制御回路70が選択した電圧ベクトルを、特定電圧ベクトルという場合がある。指令値ベクトルと特定電圧ベクトルは、同じである場合もあるし、異なる場合もある。制御回路70が特定電圧ベクトルを選択する規則は、禁止電位に応じて変化する。
【0077】
(A.禁止電位が中性点電位VMの場合の非常動作)
禁止電位が中性点電位VMである場合(すなわち、短絡故障素子が第1スイッチング素子41または第4スイッチング素子44である場合)には、制御回路70は、指令値ベクトルと角度θが同じである複数の電圧ベクトルの中から数値「1」を含まない電圧ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。例えば、指令値ベクトルが(2,2,1)である場合には、(2,2,1)と同じ角度θを有する電圧ベクトルは、(2,2,0)、(2,2,1)、(1,1,0)の3つである。この場合、制御回路70は、これらの3つの電圧ベクトルの中から、数値「1」を含まない(2,2,0)を特定電圧ベクトルとして選択し、選択した特定電圧ベクトル(すなわち、2,2,0)に従って3つの出力配線60の電位を制御する。指令値ベクトルが(1,1,0)の場合も、同様に、制御回路70は、(2,2,0)を特定電圧ベクトルとして選択する。指令値ベクトルが(2,2,0)の場合には、制御回路70は、同じ(2,2,0)を特定電圧ベクトルとして選択する。このように、禁止電位が中性点電位VMの場合の非常動作では、数値「1」を含まない電圧ベクトルが出力される。言い換えると、この動作では、制御回路70は、図3に示す電圧ベクトルのうちの(2,0,0)、(2,2,0)、(0,2,0)、(0,2,2)、(0,0,2)、(2,0,2)を出力する。このため、すべての出力配線60の電位が、電位VHと0Vの2レベルで制御される。
【0078】
なお、図4の電圧ベクトルEaのように、指令回路72がパラメータとして小数を含む指令値ベクトルを生成するように構成されている場合には、制御回路70は、その指令値ベクトルの周辺の使用可能な複数の電圧ベクトル(例えば、図4の場合には、(2,0,0)、(2,2,0)、及び、(2,2,2))を時間的にずらして出力して、これらの電圧ベクトルを合成することによって指令値ベクトルと同じ角度θを有する電圧ベクトルを出力してもよい。
【0079】
このように、禁止電位が中性点電位VMである場合の非常動作では、3つの出力配線60が電位VHと0Vの2レベルで制御される。この動作では、3つの出力配線60のいずれにも中性点電位VMが印加されないので、中性点電位VMの影響を受けることなく、継続的に走行用モータ90に三相交流電流を供給することができる。したがって、車両を継続的に走行させることができる。
【0080】
(B.禁止電位が0Vの場合の非常動作)
禁止電位が0Vである場合(すなわち、短絡故障素子が、第2スイッチング素子42または第2ダイオード52の場合)には、制御回路70は、中性点電位VMに応じて特定電圧ベクトルを選択する規則を変更する。制御回路70は、中性点電位VMを制御するための参照値として、上側制限値Vt1、基準値Vt2、下側制限値Vt3を有している。基準値Vt2は、中性点電位VMの制御目標値である。例えば、基準値Vt2を、電位VHの1/2とすることができる。上側制限値Vt1は基準値Vt2よりも高く、下側制限値Vt3は基準値Vt2よりも低い。制御回路70は、図16に示すフローチャートに従って、特定電圧ベクトルを選択する規則を、第1規則~第4規則の間で変更する。制御回路70は、指令回路72から指令値ベクトルを受信する毎に、図16に示すフローチャートを実行する。
【0081】
図16のステップS10では、制御回路70は、中性点電位VMを検出し、検出した中性点電位VMについて判定する。制御回路70は、中性点電位VMが上側制限値Vt1以上の場合に第1規則を採用し、中性点電位VMが上側制限値Vt1より低く、かつ、基準値Vt2以上の場合に第2規則を採用し、中性点電位VMが基準値Vt2より低く、かつ、下側制限値Vt3以上の場合に第3規則を採用し、中性点電位VMが下側制限値Vt3より低い場合に第4規則を採用する。なお、第2規則と第3規則は、中性点電位VMが基準値Vt2(制御目標値)に近い場合に採用される規則であり、第1規則と第4規則は、中性点電位VMが基準値Vt2から大きく外れている場合に採用される規則である。
【0082】
第1規則~第4規則のいずれでも、制御回路70は、受信した指令値ベクトルの角度θが、制限角度範囲内にあるか正常角度範囲内にあるかを判定する。したがって、以下に、制限角度範囲と正常角度範囲について説明する。上述したように、非常動作では、制限出力配線60xに禁止電位を印加できないため、一部の電圧ベクトルを出力することができない。以下では、このように出力できない電圧ベクトル(すなわち、制限出力配線60xが禁止電位となる電圧ベクトル)を、禁止ベクトルという。制限角度範囲は、禁止ベクトルを含む角度範囲を意味する。例えば、図17は、空間ベクトル図において、制限角度範囲を参照符号400により示している。なお、図17では、例として、W相出力配線60wが制限出力配線60xであり、禁止電位が0Vである場合における制限角度範囲を示している。図17において、Vwが「0」の電圧ベクトル(すなわち、(0,0,0)、(1,0,0)、(1,1,0)、(0,1,0)、(2,0,0)、(2,1,0)、(2,2,0)、(1,2,0)及び(0,2,0))が、禁止ベクトルである。これらの禁止ベクトルが存在する角度θの範囲が、制限角度範囲である。図17においては、0°≦θ≦120°の角度範囲が制限角度範囲である。なお、制限角度範囲内であっても、Vwが「0」ではない電圧ベクトルは、出力可能である。以下では、制限角度範囲内の出力可能な電圧ベクトルを、許容ベクトルという。例えば、図17では、(1,1,1)、(2,2,2)、(2,1,1)、(2,2,1)及び(1,2,1)が許容ベクトルである。また、制限角度範囲外の角度範囲が、正常角度範囲である。図17では、参照番号402により正常角度範囲が示されている。正常角度範囲内のすべての電圧ベクトルは、出力可能である。
【0083】
さらに、第1規則~第4規則のいずれでも、制御回路70は、制限出力配線60xに流れる電流に基づいて、走行用モータに流れる電流が順方向か逆方向かを判定する。なお、上述したとおり、順方向は、走行用モータ90に印加される電圧と同じ方向に電流が流れることを意味し、逆方向は、走行用モータ90に印加される電圧と反対の方向に電流が流れることを意味する。
【0084】
また、以下では、数値「2」と数値「1」のみにより構成されている電圧ベクトルを上側ベクトルといい、数値「1」と数値「0」のみにより構成されている電圧ベクトルを下側ベクトルという。図17に示されるように、上側ベクトルは、(2,1,1)、(2,2,1)、(1,2,1)、(1,2,2)、(1,1,2)、(2,1,2)であり、下側ベクトルは、(1,0,0)、(1,1,0)、(0,1,0)、(0,1,1)、(0,0,1)、(1,0,1)である。上側ベクトルが出力されると、走行用モータ90に対して高電位配線12と中性点14が接続されるので、上側コンデンサ20が充電または放電される。例えば、上側ベクトルである(1,1,2)が出力されると、図7のように上側コンデンサ20が放電される場合と、図8のように上側コンデンサ20が充電される場合がある。また、例えば、下側ベクトルである(0,0,1)が出力されると、図9のように下側コンデンサ22が放電される場合と、図10のように下側コンデンサ22が充電される場合がある。正常角度範囲内には、上側ベクトルと下側ベクトルがペアとして存在している。例えば、図17に示すように、θ=180°には(1,2,2)と(0,1,1)がペアとして存在し、θ=240°には(1,1,2)と(0,0,1)がペアとして存在し、θ=300°には(2,1,2)と(1,0,1)がペアとして存在する。
【0085】
(B-1.第2規則)
第2規則では、制御回路70は、受信した指令値ベクトルの角度θと、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて、図18の表2に従って特定電圧ベクトルを選択する。
【0086】
図18の表2に示すように、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にある場合には、制限出力配線60xに流れる電流の向きにかかわらず、許容ベクトルを特定電圧ベクトルとして選択する。ここでは、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する許容ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。例えば、図17において、指令値ベクトルが(2,2,0)である場合には、特定電圧ベクトルとして(2,2,1)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(1,1,0)である場合には、特定電圧ベクトルとして(2,2,1)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(2,2,1)である場合には、同じ(2,2,1)を特定電圧ベクトルとして選択する。そして、制御回路70は、特定電圧ベクトルの通りに、3つの出力配線60の電位を制御する。このように、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にある場合には、指令値ベクトルと同じ角度θを有する許容ベクトルが出力される。これによって、禁止ベクトルの出力を防止しながら、指令値ベクトルと同じ角度θを有する電圧ベクトルを出力することが可能となる。
【0087】
なお、禁止電位が0Vの場合には、許容ベクトルは必ず上側ベクトルである。走行用モータ90に流れる電流が順方向のときに許容ベクトル(上側ベクトル)が出力されると、上側コンデンサ20が放電されて、中性点電位VMが上昇する。走行用モータ90に流れる電流が逆方向のときに許容ベクトル(上側ベクトル)が出力されると、上側コンデンサ20が充電されて、中性点電位VMが低下する。
【0088】
図18の表2に示すように、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θが正常角度範囲内にある場合には、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて特定電圧ベクトルを選択する。制御回路70は、走行用モータ90に流れる電流の向きが順方向の場合には、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する下側ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。例えば、図17において、指令値ベクトルが(0,0,2)である場合には、特定電圧ベクトルとして(0,0,1)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(1,1,2)である場合には、特定電圧ベクトルとして(0,0,1)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(0,0,1)である場合には、同じ(0,0,1)を特定電圧ベクトルとして選択する。また、制御回路70は、走行用モータ90に流れる電流の向きが逆方向の場合には、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する上側ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。例えば、図17において、指令値ベクトルが(0,0,2)である場合には、特定電圧ベクトルとして(1,1,2)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(0,0,1)である場合には、特定電圧ベクトルとして(1,1,2)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(1,1,2)である場合には、同じ(1,1,2)を特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、特定電圧ベクトルの通りに、3つの出力配線60の電位を制御する。
【0089】
このように、正常角度範囲においては、電流が順方向の場合に下側ベクトルが出力され、電流が逆方向の場合に上側ベクトルが出力される。電流が順方向の場合に下側ベクトルが出力されると、下側コンデンサ22が放電されて中性点電位VMが低下する(例えば、図9参照)。また、電流が逆方向の場合に上側ベクトルが出力されると、上側コンデンサ20が充電されて中性点電位VMが低下する(例えば、図8参照)。このように、第2規則では、正常角度範囲において、中性点電位VMが低下する電圧ベクトルが選択される。
【0090】
以上に説明したように、第2規則では、制御回路70は、制限角度範囲では、許容ベクトルを出力する。上述したように、許容ベクトルを出力する場合には、中性点電位VMが上昇する場合と低下する場合がある。また、第2規則では、制御回路70は、正常角度範囲では、中性点電位VMを低下させる電圧ベクトルを出力する。このため、第2規則を採用している期間全体としては、中性点電位VMが低下する傾向となる。上述したように、第2規則は、中性点電位VMが基準値Vt2(制御目標値)よりも高いときに採用される。第2規則を採用することで、基準値Vt2よりも高い中性点電位VMを、基準値Vt2に近い値に引き戻すことができる。
【0091】
(B-2.第3規則)
第3規則では、制御回路70は、受信した指令値ベクトルの角度θと、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて、図18の表3に従って特定電圧ベクトルを選択する。
【0092】
図18の表3に示すように、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にある場合には、制限出力配線60xに流れる電流の向きにかかわらず、許容ベクトルを特定電圧ベクトルとして選択する。ここでは、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する許容ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。すなわち、制限角度範囲における第3規則は、制限角度範囲における第2規則と等しい。このように、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にある場合には、指令値ベクトルと同じ角度θを有する許容ベクトルが出力される。これによって、禁止ベクトルの出力を防止しながら、指令値ベクトルと同じ角度θを有する電圧ベクトルを出力することが可能となる。
【0093】
なお、走行用モータ90に流れる電流が順方向のときに許容ベクトル(上側ベクトル)が出力されると、上側コンデンサ20が放電されて、中性点電位VMが上昇する。走行用モータ90に流れる電流が逆方向のときに許容ベクトル(上側ベクトル)が出力されると、上側コンデンサ20が充電されて、中性点電位VMが低下する。
【0094】
図18の表3に示すように、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θが正常角度範囲内にある場合には、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて特定電圧ベクトルを選択する。制御回路70は、走行用モータ90に流れる電流の向きが順方向の場合には、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する上側ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。例えば、図17において、指令値ベクトルが(0,0,2)である場合には、特定電圧ベクトルとして(1,1,2)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(0,0,1)である場合には、特定電圧ベクトルとして(1,1,2)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(1,1,2)である場合には、同じ(1,1,2)を特定電圧ベクトルとして選択する。また、制御回路70は、走行用モータ90に流れる電流の向きが逆方向の場合には、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する下側ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。例えば、図17において、指令値ベクトルが(0,0,2)である場合には、特定電圧ベクトルとして(0,0,1)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(1,1,2)である場合には、特定電圧ベクトルとして(0,0,1)を選択する。また、図17において、指令値ベクトルが(0,0,1)である場合には、同じ(0,0,1)を特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、特定電圧ベクトルの通りに、3つの出力配線60の電位を制御する。
【0095】
このように、正常角度範囲においては、電流が順方向の場合に上側ベクトルが出力され、電流が逆方向の場合に下側ベクトルが出力される。電流が順方向の場合に上側ベクトルが出力されると、上側コンデンサ20が放電されて中性点電位VMが上昇する(例えば、図7参照)。また、電流が逆方向の場合に下側ベクトルが出力されると、下側コンデンサ22が充電されて中性点電位VMが上昇する(例えば、図10参照)。このように、第3規則では、正常角度範囲において、中性点電位VMが上昇する電圧ベクトルが選択される。
【0096】
以上に説明したように、第3規則では、制御回路70は、制限角度範囲では、許容ベクトルを出力する。上述したように、許容ベクトルを出力する場合には、中性点電位VMが上昇する場合と低下する場合がある。また、第3規則では、制御回路70は、正常角度範囲では、中性点電位VMを上昇させる電圧ベクトルを出力する。このため、第3規則を採用している期間全体としては、中性点電位VMが上昇する傾向となる。上述したように、第3規則は、中性点電位VMが基準値Vt2(制御目標値)よりも低いときに採用される。第3規則を採用することで、基準値Vt2よりも低い中性点電位VMを、基準値Vt2に近い値に引き戻すことができる。
【0097】
(B-3.第1規則)
第1規則では、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θと、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて、図18の表1に従って特定電圧ベクトルを選択する。
【0098】
図18の表1と表2を比較することで明らかなように、走行用モータ90に流れる電流が順方向であり、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にあるときに、第1規則(表1)は第2規則(表2)と異なる。その他の場合には、第1規則(表1)は第2規則(表2)と等しい。
【0099】
第1規則では、走行用モータ90に流れる電流が順方向であり、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にあるときに、制御回路70は、特定電圧ベクトルとしてゼロベクトルを選択する。なお、ゼロベクトルとは、3つの出力配線60の電位が同電位となる電圧ベクトルである。セロベクトルには、(0,0,0)、(1,1,1)、(2,2,2)が含まれる。ここでは、制御回路70は、禁止電位(0V)を含まないゼロベクトル(すなわち、(1,1,1)または(2,2,2))を特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、特定電圧ベクトル(すなわち、ゼロベクトル)を出力する。
【0100】
第3規則に関して上述したように、禁止電位が0Vの場合には、電流が順方向のときに許容ベクトルを出力すると中性点電位VMが上昇する。第1規則は、中性点電位VMが極端に高いとき(すなわち、中性点電位VMが上側制限値Vt1よりも高いとき)に採用される。このように、中性点電位VMが極端に高いときには、中性点電位VMをなるべく速く低下させることが好ましい。したがって、制御回路70は、許容ベクトルを出力すると中性点電位VMが上昇するタイミング(すなわち、電流が順方向のタイミング)では許容ベクトルの出力を中止して、ゼロベクトルを出力する。このため、第1規則では、第2規則よりも中性点電位VMを速く低下させることができ、中性点電位VMを基準値Vt2に近い値により速く引き戻すことができる。このように、中性点電位VMが極端に上昇した場合に採用される第1規則では、走行用モータ90への電力供給よりも中性点電位VMを低下させることを優先させて、中性点電位VMを適正値に制御する。
【0101】
(B-4.第4規則)
第4規則では、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θと、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて、図18の表4に従って特定電圧ベクトルを選択する。
【0102】
図18の表4と表3を比較することで明らかなように、走行用モータ90に流れる電流が逆方向であり、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にあるときに、第4規則(表4)は第3規則(表3)と異なる。その他の場合には、第4規則(表4)は第3規則(表3)と等しい。
【0103】
第4規則では、走行用モータ90に流れる電流が逆方向であり、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にあるときに、制御回路70は、特定電圧ベクトルとしてゼロベクトルを選択する。ここでは、制御回路70は、禁止電位(0V)を含まないゼロベクトル(すなわち、(1,1,1)または(2,2,2))を特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、特定電圧ベクトル(すなわち、ゼロベクトル)を出力する。
【0104】
第3規則に関して上述したように、禁止電位が0Vの場合には、電流が逆方向のときに許容ベクトルを出力すると中性点電位VMが低下する。第2規則は、中性点電位VMが極端に低いとき(すなわち、中性点電位VMが下側制限値Vt3よりも低いとき)に採用される。このように、中性点電位VMが極端に低いときには、中性点電位VMをなるべく速く上昇させることが好ましい。したがって、制御回路70は、許容ベクトルを出力すると中性点電位VMが低下するタイミング(すなわち、電流が逆方向のタイミング)では許容ベクトルの出力を中止して、ゼロベクトルを出力する。このため、第4規則では、第3規則よりも中性点電位VMを速く上昇させることができ、中性点電位VMを基準値Vt2に近い値により速く引き戻すことができる。このように、中性点電位VMが極端に低下した場合に採用される第4規則では、走行用モータ90への電力供給よりも中性点電位VMを上昇させることを優先させて、中性点電位VMを適正値に制御する。
【0105】
以上に説明したように、禁止電位が0Vの場合には、中性点電位VMに応じて第1~第4規則が採用されることで、中性点電位VMが基準値Vt2近傍の値に制御されながら、電圧ベクトルが回転するように出力される。したがって、三相交流電流を継続的に生成して、走行用モータ90を継続的に駆動させることができる。
【0106】
なお、禁止電位が0Vの場合の非常動作では、第1~第4規則に従って特定電圧ベクトルが選択されることで、制限出力配線60xの電位が電位VHと中性点電位VMの2レベルで制御され、2つの正常出力配線60yの電位が電位VH、中性点電位VM、及び、0Vの3レベルで制御される。
【0107】
なお、図4の電圧ベクトルEaのように、指令値ベクトルがパラメータとして小数を含む場合には、制御回路70は、第1~第4規則に従って指令値ベクトルの周辺で複数の特定電圧ベクトルを選択し、選択した複数の特定電圧ベクトルを時間的にずらして出力することでこれらの特定電圧ベクトルを合成して指令値ベクトルと同じ角度θを有する電圧ベクトルを出力してもよい。
【0108】
(B-5.制御の例)
図19は、禁止電位が0Vの場合の非常動作の一例を示している。図19の例では、制限出力配線60xがW相出力配線60wである。図19のグラフは、指令値ベクトルの角度θの正弦(sinθ)を示している。0°≦θ≦120°が制限角度範囲である。また、図19の最下部の表に、第1規則、第2規則、第3規則、第4規則のそれぞれで出力される電圧ベクトル(特定電圧ベクトル)が示されている。
【0109】
第1規則では、θ=0°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流(走行用モータ90に流れる電流)が順方向であるので、ゼロベクトルである(1,1,1)(または、(2,2,2))が出力される。θ=60°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、許容ベクトルである(2,2,1)が出力される。θ=120°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、許容ベクトルである(1,2,1)が出力される。θ=180°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、上側ベクトルである(1,2,2)が出力される。θ=240°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、下側ベクトルである(0,0,1)が出力される。θ=300°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、下側ベクトルである(1,0,1)が出力される。
【0110】
第2規則では、θ=0°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、許容ベクトルである(2,1,1)が出力される。θ=60°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、許容ベクトルである(2,2,1)が出力される。θ=120°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、許容ベクトルである(1,2,1)が出力される。θ=180°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、上側ベクトルである(1,2,2)が出力される。θ=240°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、下側ベクトルである(0,0,1)が出力される。θ=300°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、下側ベクトルである(1,0,1)が出力される。
【0111】
第3規則では、θ=0°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、許容ベクトルである(2,1,1)が出力される。θ=60°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、許容ベクトルである(2,2,1)が出力される。θ=120°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、許容ベクトルである(1,2,1)が出力される。θ=180°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、下側ベクトルである(0,1,1)が出力される。θ=240°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、上側ベクトルである(1,1,2)が出力される。θ=300°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、上側ベクトルである(2,1,2)が出力される。
【0112】
第4規則では、θ=0°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、許容ベクトルである(2,1,1)が出力される。θ=60°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、ゼロベクトルである(1,1,1)が出力される。θ=120°のタイミングでは、角度θが制限角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、ゼロベクトルである(1,1,1)が出力される。θ=180°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が逆方向であるので、下側ベクトルである(0,1,1)が出力される。θ=240°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、上側ベクトルである(1,1,2)が出力される。θ=300°のタイミングでは、角度θが正常角度範囲内であり、モータ電流が順方向であるので、上側ベクトルである(2,1,2)が出力される。
【0113】
以上に説明したように、規則に応じて特定電圧ベクトルが選択されて出力されることで、中性点電位VMが基準値Vt2に近い値に制御される。
【0114】
(C.禁止電位が電位VHの場合の非常動作)
禁止電位が電位VHである場合(すなわち、短絡故障素子が、第3スイッチング素子43または第1ダイオード51の場合)には、制御回路70は、中性点電位VMに応じて特定電圧ベクトルを選択する規則を変更する。制御回路70は、図20に示すフローチャートに従って、特定電圧ベクトルを選択する規則を、第5規則~第8規則の間で変更する。制御回路70は、指令回路72から指令値ベクトルを受信する毎に、図20に示すフローチャートを実行する。
【0115】
図20のステップS20では、制御回路70は、中性点電位VMを検出し、検出した中性点電位VMについて判定する。制御回路70は、中性点電位VMが上側制限値Vt1以上の場合に第5規則を採用し、中性点電位VMが上側制限値Vt1より低く、かつ、基準値Vt2以上の場合に第6規則を採用し、中性点電位VMが基準値Vt2より低く、かつ、下側制限値Vt3以上の場合に第7規則を採用し、中性点電位VMが下側制限値Vt3より低い場合に第8規則を採用する。なお、第6規則と第7規則は、中性点電位VMが基準値Vt2(制御目標値)に近い場合に採用される規則であり、第5規則と第8規則は、中性点電位VMが基準値Vt2から大きく外れている場合に採用される規則である。
【0116】
第5規則~第8規則のいずれでも、制御回路70は、受信した指令値ベクトルの角度θが、制限角度範囲内にあるか正常角度範囲内にあるかを判定する。図21は、禁止電位が電位VHである場合の制限角度範囲406と正常角度範囲408を示している。なお、図21では、例として、W相出力配線60wが制限出力配線60xである場合を示している。図21において、Vwが「2」の電圧ベクトル(すなわち、(2,2,2)、(1,2,2)、(1,1,2)、(2,1,2)、(0,2,2)、(0,1,2)、(0,0,2)、(1,0,2)及び(2,0,2))が、禁止ベクトルである。これらの禁止ベクトルが存在する角度θの範囲が、制限角度範囲406である。図21においては、180°≦θ≦300°の角度範囲が制限角度範囲406である。図21では、許容ベクトルは、(1,1,1)、(0,0,0)、(0,1,1)、(0,0,1)及び(1,0,1)である。
【0117】
さらに、第5規則~第8規則のいずれでも、制御回路70は、制限出力配線60xに流れる電流に基づいて、走行用モータ90に流れる電流が順方向か逆方向かを判定する。
【0118】
(C-1.第6規則)
第6規則では、制御回路70は、受信した指令値ベクトルの角度θと、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて、図22の表6に従って特定電圧ベクトルを選択する。
【0119】
図22の表6に示すように、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にある場合には、制限出力配線60xに流れる電流の向きにかかわらず、許容ベクトルを特定電圧ベクトルとして選択する。ここでは、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する許容ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。そして、制御回路70は、特定電圧ベクトルの通りに、3つの出力配線60の電位を制御する。このように、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にある場合には、指令値ベクトルと同じ角度θを有する許容ベクトルが出力される。これによって、禁止ベクトルの出力を防止しながら、指令値ベクトルと同じ角度θを有する電圧ベクトルを出力することが可能となる。
【0120】
なお、禁止電位が電位VHの場合には、許容ベクトルは必ず下側ベクトルである。走行用モータ90に流れる電流が順方向のときに許容ベクトル(下側ベクトル)が出力されると、下側コンデンサ22が放電されて、中性点電位VMが低下する。走行用モータ90に流れる電流が逆方向のときに許容ベクトル(下側ベクトル)が出力されると、下側コンデンサ22が充電されて、中性点電位VMが上昇する。
【0121】
図22の表6に示すように、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θが正常角度範囲内にある場合には、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて特定電圧ベクトルを選択する。制御回路70は、走行用モータ90に流れる電流の向きが順方向の場合には、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する下側ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、走行用モータ90に流れる電流の向きが逆方向の場合には、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する上側ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、特定電圧ベクトルの通りに、3つの出力配線60の電位を制御する。
【0122】
このように、正常角度範囲においては、電流が順方向の場合に下側ベクトルが出力され、電流が逆方向の場合に上側ベクトルが出力される。電流が順方向の場合に下側ベクトルが出力されると、下側コンデンサ22が放電されて中性点電位VMが低下する(例えば、図9参照)。また、電流が逆方向の場合に上側ベクトルが出力されると、上側コンデンサ20が充電されて中性点電位VMが低下する(例えば、図8参照)。このように、第6規則では、正常角度範囲において、中性点電位VMが低下する電圧ベクトルが選択される。
【0123】
以上に説明したように、第6規則では、制御回路70は、制限角度範囲では、許容ベクトルを出力する。上述したように、許容ベクトルを出力する場合には、中性点電位VMが上昇する場合と低下する場合がある。また、第6規則では、制御回路70は、正常角度範囲では、中性点電位VMを低下させる電圧ベクトルを出力する。このため、第6規則を採用している期間全体としては、中性点電位VMが低下する傾向となる。上述したように、第6規則は、中性点電位VMが基準値Vt2(制御目標値)よりも高いときに採用される。第6規則を採用することで、基準値Vt2よりも高い中性点電位VMを、基準値Vt2に近い値に引き戻すことができる。
【0124】
(C-2.第7規則)
第7規則では、制御回路70は、受信した指令値ベクトルの角度θと、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて、図22の表7に従って特定電圧ベクトルを選択する。
【0125】
図22の表7に示すように、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にある場合には、制限出力配線60xに流れる電流の向きにかかわらず、許容ベクトルを特定電圧ベクトルとして選択する。ここでは、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する許容ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。すなわち、制限角度範囲における第7規則は、制限角度範囲における第6規則と等しい。このように、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にある場合には、指令値ベクトルと同じ角度θを有する許容ベクトルが出力される。これによって、禁止ベクトルの出力を防止しながら、指令値ベクトルと同じ角度を有する電圧ベクトルを出力することが可能となる。
【0126】
なお、走行用モータ90に流れる電流が順方向のときに許容ベクトル(下側ベクトル)が出力されると、下側コンデンサ22が放電されて、中性点電位VMが低下する。走行用モータ90に流れる電流が逆方向のときに許容ベクトル(下側ベクトル)が出力されると、下側コンデンサ22が充電されて、中性点電位VMが上昇する。
【0127】
図22の表7に示すように、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θが正常角度範囲内にある場合には、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて特定電圧ベクトルを選択する。制御回路70は、走行用モータ90に流れる電流の向きが順方向の場合には、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する上側ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。また、制御回路70は、走行用モータ90に流れる電流の向きが逆方向の場合には、指令値ベクトルの角度θと同じ角度θを有する下側ベクトルを、特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、特定電圧ベクトルの通りに、3つの出力配線60の電位を制御する。
【0128】
このように、正常角度範囲においては、電流が順方向の場合に上側ベクトルが出力され、電流が逆方向の場合に下側ベクトルが出力される。電流が順方向の場合に上側ベクトルが出力されると、上側コンデンサ20が放電されて中性点電位VMが上昇する(例えば、図7参照)。また、電流が逆方向の場合に下側ベクトルが出力されると、下側コンデンサ22が充電されて中性点電位VMが上昇する(例えば、図10参照)。このように、第7規則では、正常角度範囲において、中性点電位VMが上昇する電圧ベクトルが選択される。
【0129】
以上に説明したように、第7規則では、制御回路70は、制限角度範囲では、許容ベクトルを出力する。上述したように、許容ベクトルを出力する場合には、中性点電位VMが上昇する場合と低下する場合がある。また、第7規則では、制御回路70は、正常角度範囲では、中性点電位VMを上昇させる電圧ベクトルを出力する。このため、第7規則を採用している期間全体としては、中性点電位VMが上昇する傾向となる。上述したように、第7規則は、中性点電位VMが基準値Vt2(制御目標値)よりも低いときに採用される。第7規則を採用することで、基準値Vt2よりも低い中性点電位VMを、基準値Vt2に近い値に引き戻すことができる。
【0130】
(C-3.第5規則)
第5規則では、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θと、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて、図22の表5に従って特定電圧ベクトルを選択する。
【0131】
図22の表5と表6を比較することで明らかなように、走行用モータ90に流れる電流が逆方向であり、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にあるときには、第5規則(表5)は第6規則(表6)と異なる。その他の場合には、第5規則(表5)は第6規則(表6)と等しい。
【0132】
第5規則では、走行用モータ90に流れる電流が逆方向であり、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にあるときに、制御回路70は、特定電圧ベクトルとしてゼロベクトルを選択する。ここでは、制御回路70は、禁止電位(電位VH)を含まないゼロベクトル(すなわち、(0,0,0)または(1,1,1))を特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、特定電圧ベクトル(すなわち、ゼロベクトル)を出力する。
【0133】
第6規則に関して上述したように、制限角度範囲においては、電流が逆方向のときに許容ベクトルを出力すると中性点電位VMが上昇する。第5規則は、中性点電位VMが極端に高いとき(すなわち、中性点電位VMが上側制限値Vt1よりも高いとき)に採用される。このように、中性点電位VMが極端に高いときには、中性点電位VMをなるべく速く低下させることが好ましい。したがって、制御回路70は、許容ベクトルを出力すると中性点電位VMが上昇するタイミング(すなわち、電流が逆方向のタイミング)では許容ベクトルの出力を中止して、ゼロベクトルを出力する。このため、第5規則では、第6規則よりも中性点電位VMを速く低下させることができ、中性点電位VMを基準値Vt2に近い値により速く引き戻すことができる。このように、中性点電位VMが極端に上昇した場合に採用される第5規則では、走行用モータ90への電力供給よりも中性点電位VMを低下させることを優先させて、中性点電位VMを適正値に制御する。
【0134】
(C-4.第8規則)
第8規則では、制御回路70は、指令値ベクトルの角度θと、制限出力配線60xに流れる電流の向きに応じて、図22の表8に従って特定電圧ベクトルを選択する。
【0135】
図22の表8と表7を比較することで明らかなように、走行用モータ90に流れる電流が順方向であり、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にあるときに、第8規則(表8)は、第7規則(表7)と異なる。その他の場合には、第8規則(表8)は、第7規則(表7)と等しい。
【0136】
第8規則では、走行用モータ90に流れる電流が順方向であり、指令値ベクトルの角度θが制限角度範囲内にあるときに、制御回路70は、特定電圧ベクトルとしてゼロベクトルを選択する。ここでは、制御回路70は、禁止電位(電位VH)を含まないゼロベクトル(すなわち、(0,0,0)または(1,1,1))を特定電圧ベクトルとして選択する。制御回路70は、特定電圧ベクトル(すなわち、ゼロベクトル)を出力する。
【0137】
第7規則に関して上述したように、禁止電位が電位VHの場合には、電流が順方向のときに許容ベクトルを出力すると中性点電位VMが低下する。第8規則は、中性点電位VMが極端に低いとき(すなわち、中性点電位VMが下側制限値Vt3よりも低いとき)に採用される。このように、中性点電位VMが極端に低いときには、中性点電位VMをなるべく速く上昇させることが好ましい。したがって、制御回路70は、許容ベクトルを出力すると中性点電位VMが低下するタイミング(すなわち、電流が順方向のタイミング)では許容ベクトルの出力を中止して、ゼロベクトルを出力する。このため、第8規則では、第7規則よりも中性点電位VMを速く上昇させることができ、中性点電位VMを基準値Vt2に近い値により速く引き戻すことができる。このように、中性点電位VMが極端に低下した場合に採用される第8規則では、走行用モータ90への電力供給よりも中性点電位VMを上昇させることを優先させて、中性点電位VMを適正値に制御する。
【0138】
以上に説明したように、禁止電位が電位VHの場合には、中性点電位VMに応じて第5~第8規則が採用されることで、中性点電位VMが基準値Vt2近傍の値に制御されながら、電圧ベクトルが回転するように出力される。したがって、三相交流電流を継続的に生成して、走行用モータ90を継続的に駆動させることができる。
【0139】
なお、禁止電位が電位VHの場合の非常動作では、第5~第8規則に従って特定電圧ベクトルが選択されることで、制限出力配線60xの電位が中性点電位VMと0Vの2レベルで制御され、2つの正常出力配線60yの電位が電位VH、中性点電位VM、及び、0Vの3レベルで制御される。
【0140】
なお、図4の電圧ベクトルEaのように、指令値ベクトルがパラメータとして小数を含む場合には、制御回路70は、第5~第8規則に従って指令値ベクトルの周辺で複数の特定電圧ベクトルを選択し、選択した複数の特定電圧ベクトルを時間的にずらして出力することでこれらの特定電圧ベクトルを合成して指令値ベクトルと同じ角度θを有する電圧ベクトルを出力してもよい。
【0141】
なお、上述した実施例1では、走行用モータ90に流れる電流が順方向と逆方向の場合について説明した。しかしながら、動作中に、一部の出力配線60に順方向に電流が流れ、残りの出力配線60に逆方向に電流が流れる場合がある。このような場合でも、制御回路70は、各出力配線60に流れる電流の向きと大きさに応じて、中性点電位VMを上昇させる電圧ベクトルと中性点電位VMを低下させる電圧ベクトルのいずれかを適宜選択して出力し、中性点電位VMを基準値Vt2に近い値に制御することができる。
【実施例2】
【0142】
実施例2のインバータでは、禁止電位が電位VHまたは0Vであるときの非常動作が、実施例1とは異なる。より詳細には、実施例2のインバータは、指令ベクトルの角度θが正常範囲内にあるときの制御回路70の動作が実施例1と異なる。指令ベクトルの角度θが制限範囲内にあるときの制御回路70の動作は、実施例2と実施例1とで等しい。
【0143】
実施例2では、指令ベクトルの角度θが正常範囲内にあるときの制御回路70の動作は、第1~第8規則で共通である。実施例2では、制御回路70は、上側ベクトルのグループと下側ベクトルのグループのうちのいずれかを選択し、選択したグループの中で指令値ベクトルと角度θが等しい電圧ベクトルを選択して出力する。図23は、実施例2において、指令ベクトルの角度θが正常範囲内にあるときの制御回路70の動作を示している。制御回路70は、図23に示す処理を繰り返し実行する。制御回路70は、ステップS40で、中性点電位VMを検出し、中性点電位VMと基準値Vt2(制御目標値)の差ΔVMを算出する。なお、差ΔVMは、絶対値として算出される。制御回路70は、算出した差ΔVMを記憶する。差ΔVM算出した以降に、ステップS42~S50が実行される。ステップS42~S50が実行された結果、中性点電位VMが変動する。次の制御フェーズのステップS40で、再度、差ΔVMが算出される。以下では、今回の制御フェーズで算出された差ΔVMを差ΔVM1といい、前回の制御フェーズで算出された差ΔVMを差ΔVM2という。ステップS42では、制御回路70は、今回の制御フェーズで算出した差ΔVM1が、許容値α以内であるか否かを判定する。ステップS42でYESの場合には、制御回路70は、ステップS48で、前回の制御フェーズで出力した電圧ベクトルと同じグループ(すなわち、上側ベクトルのグループと下側ベクトルのグループのいずれか一方)の中で指令値ベクトルと同じ角度θを有する電圧ベクトルを特定電圧ベクトルとして選択し、出力する。また、ステップS42でNOの場合には、ステップS44で、制御回路70は、今回の制御フェーズで算出した差ΔVM1が、前回の制御フェーズで算出した差ΔVM2以下であるか否かを判定する。すなわち、制御回路70は、中性点電位VMが前回の制御フェーズよりも基準値Vt2(制御目標値)に近づいたか否かを判定する。ステップS44でYESの場合には、ステップS48が実行される。ステップS44でNOの場合には、ステップS46で、制御回路70は、前回の制御フェーズで出力した電圧ベクトルとは異なるグループ(すなわち、上側ベクトルのグループと下側ベクトルのグループのいずれか一方)の中で指令値ベクトルと同じ角度θを有する電圧ベクトルを特定電圧ベクトルとして選択し、出力する。
【0144】
実施例2では、中性点電位VMが基準値Vt2から許容値α以上に外れた場合には、差ΔVMが縮小するように電圧ベクトルが選択される。これによって、中性点電位VMが基準値Vt2から大きくずれることが抑制される。また、実施例2によれば、出力配線60の電流の検出値によらず、適切に電圧ベクトルを出力することができる。制御速度に対して電流の検出速度が十分でない場合でも、実施例2の構成によれば、中性点電位VMを適正値に制御することができる。
【0145】
なお、上述した実施例1、2以外の構成で、非常動作時に、中性点電位VMを制御しながら、三相交流電流を生成してもよい。制限出力配線の電位を禁止電位を除く2レベルで制御し、正常出力配線の電位を電位VH、中性点電位VM、及び、0Vの3レベルで制御することで、実施例1、2以外の規則で電圧ベクトルを出力しても、中性点電位VMを適切に制御することが可能である。例えば、正常角度範囲の一部において、数値「0」と数値「2」のみによって構成される電圧ベクトルや、数値「0」、数値「1」、数値「2」のすべてを含む電圧ベクトルを出力してもよい。
【0146】
また、上述した実施例1、2では、指令回路72が指令ベクトルを制御回路70に入力したが、指令回路72が電圧ベクトルの角度θの指令値のみを制御回路70に入力してもよい。
【0147】
以上、実施例について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16
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図19
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図22
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