(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】認知症またはうつ状態の予防または改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20240109BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240109BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20240109BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P25/24
A23L33/175
(21)【出願番号】P 2022009685
(22)【出願日】2022-01-25
(62)【分割の表示】P 2018538505の分割
【原出願日】2017-09-08
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2016176295
(32)【優先日】2016-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016178739
(32)【優先日】2016-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】西谷 しのぶ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-126830(JP,A)
【文献】特表2008-534599(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0286909(US,A1)
【文献】国際公開第2008/044691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/198
A61P 25/24
A23L 33/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンと、ロイシンとを含有する、うつ状態の予防または改善用組成物であって、必須アミノ酸の総含有量に対する
各アミノ酸の含有量
のモル組成比が
下記の数値範囲内である、組成物。
ロイシン:35モル%~66モル%
イソロイシン:5モル%~15モル%
バリン:5モル%~15モル%
スレオニン:7モル%~14モル%
リシン:8モル%~16モル%
メチオニン:2モル%~10モル%
ヒスチジン:0.1モル%~3.5モル%
フェニルアラニン:2.5モル%~8モル%
トリプトファン:0.1モル%~2モル%
【請求項2】
うつ状態が、ストレスに起因するうつ状態である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
医薬品である、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
食品である、請求項1
または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症またはうつ状態、特にストレスに起因するうつ状態の予防または改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の高齢者人口の急増に伴って認知症の患者数が急増し、2015年には65歳以上人口の8.4%に達したとの報告がある。
厚生労働省によると、認知症とは、「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退、消失することで、日常生活、社会生活を営めない状態」をいうとされる。
認知症には、アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病等)、レビー小体型認知症、脳血管性認知症等、種々の疾患に起因する認知症があるが、加齢が最大の危険因子となるものの、その原因が明らかでないことが多い。
しかしながら、どのタイプの認知症にも、記憶障害、見当識障害等の中核的症状と、行動異常、精神症状等の周辺症状が共通して見られ、症状の進行は、患者のみならず、その家族にも介護負担の増大等の深刻な影響を及ぼす。
【0003】
現在、認知症の治療薬としては、塩酸ドネペジル等のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬、およびメマンチン等のNMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体拮抗薬が認可されている。しかし、これらの認知症治療薬は、基本的にはアルツハイマー型認知症に対するものであり、また、対症療法薬であって、多少症状の進行を抑制することができるに過ぎない。
【0004】
また、認知症の予防に関しては、食事や運動の重要性が知られている。
食事については、ビタミンC、ビタミンE、β-カロテン等の抗酸化物質や、ω-3系長鎖不飽和脂肪酸の有効性が報告され、高齢者の軽い認知障害に対する、ω-3系長鎖不飽和脂肪酸、メラトニンおよびトリプトファン摂取の効果が検討されている(非特許文献1)。さらに、アルツハイマー型認知症に対するL-アルギニンやリシンの効果を示唆する報告も見られる(非特許文献2、3)。
運動については、運動による脳血流の増加が身体活動を向上させ、アルツハイマー病を予防し得るとの知見がある。
しかしながら、食事にて摂取される上記成分の中には、認知症に対し十分な予防効果を奏するとはいえないものも存在し、また、有効性について、今後の検証を要するものも多い。
さらにまた、認知症を発症する危険性の高まる中高齢者の中には、疾患等のために運動を実施することが困難であったり、身体機能の低下により、アルツハイマー病の予防のために、運動を継続することが困難であることも多い。
【0005】
それゆえ、認知症に対し、有効な予防効果を有し、かつ安全性が高く、継続した摂取が可能な予防薬や、認知症を改善し得る治療薬が得られているとはいいがたい。
【0006】
また、うつ状態または抑うつとは、気分が落ち込んで活動を嫌っている状況であり、そのため、思考、行動、感情、幸福感に影響が出ている状況をいう。
うつ状態の多くは、失業、転職等仕事上の問題、家庭や職場における人間関係等、種々のストレスによって引き起こされる。また、甲状腺機能低下症等の内分泌疾患や、糖尿病、がん、睡眠時無呼吸症候群等の疾患、インターフェロン製剤、副腎皮質ステロイド薬等の薬剤によっても、引き起こされる場合があることが知られている。
一時的なうつ状態であれば、原因となっているストレスの克服により改善され得るため、うつ状態または抑うつは、通常抗うつ薬等による治療の対象とはされない。
しかしながら、ストレスが容易には解決できない深刻なものであり、長期間にわたり継続するような場合には、うつ病等、病的なうつ状態へと進行するおそれがある。
さらにまた、抑うつは、認知症の周辺症状の一つとして出現する症状であり、うつ状態が、認知症発症の高リスクファクターであることも知られている(非特許文献4、5)。
【0007】
従って、うつ状態、特にストレスに起因するうつ状態を予防または改善することができ、かつ安全性の高いうつ状態の予防または改善用組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Angro Food Industry Hi-Tech 22 (4) 23-24 (2011)
【文献】The American Journal of Medicine 108 (5) 439 (2000 Apr 1)
【文献】Neuropsychiatric Disease and Treatment 6 707-710 (2010)
【文献】The British Journal of Psychiatry 202 177-186 (2013)
【文献】Journal of Affective Disorders 202 220-229 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、認知症に対し、有効な予防または改善効果を有し、かつ安全性が高く、継続した摂取が可能な、認知症の予防または改善用組成物を提供することを目的とした。
【0010】
また、本発明は、うつ状態、特にストレスに起因するうつ状態を良好に予防または改善することができ、かつ安全性が高く、継続した摂取または投与が可能な、うつ状態の予防または改善用組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、高含有量のロイシンと、ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上とを含有する組成物が、記憶障害および認知機能を改善する効果を有し、認知症の予防または改善に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
さらに本発明者は、高含有量のロイシンと、ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上とを含有する組成物が、うつ状態、特にストレスに起因するうつ状態を良好に予防または改善する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]必須アミノ酸の総含有量に対し35モル%以上のロイシンと、ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上とを含有する、認知症の予防または改善用組成物。
[2]ロイシンの含有量が、必須アミノ酸の総含有量に対して35モル%~66モル%である、[1]に記載の組成物。
[3]ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上として、イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンを含有する、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]必須アミノ酸の総含有量に対する各アミノ酸の含有量のモル組成比が下記の数値範囲内である、[3]に記載の組成物。
ロイシン 35モル%~66モル%
イソロイシン 5モル%~15モル%
バリン 5モル%~15モル%
スレオニン 7モル%~14モル%
リシン 8モル%~16モル%
メチオニン 2モル%~10モル%
ヒスチジン 0.1モル%~3.5モル%
フェニルアラニン 2.5モル%~8モル%
トリプトファン 0.1モル%~2モル%
[5]記憶障害を予防または改善する、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]認知機能の低下を抑制しまたは認知機能を改善する、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[7]医薬品である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]食品である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[9]認知症がアルツハイマー型認知症である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]必須アミノ酸の総含有量に対し35モル%以上のロイシンと、ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上とを含有する組成物の有効量を、認知症の症状を予防または改善する必要のある対象に、摂取させることまたは投与することを含む、認知症の予防または改善方法。
[11]ロイシンの含有量が、必須アミノ酸の総含有量に対して35モル%~66モル%である、[10]に記載の方法。
[12]ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上が、イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンである、[10]または[11]に記載の方法。
[13]認知症がアルツハイマー型認知症である、[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
【0014】
[14]必須アミノ酸の総含有量に対し35モル%以上のロイシンと、ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上とを含有する、うつ状態の予防または改善用組成物。
[15]ロイシンの含有量が、必須アミノ酸の総含有量に対して35モル%~66モル%である、[14]に記載の組成物。
[16]ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上として、イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンを含有する、[14]または[15]に記載の組成物。
[17]必須アミノ酸の総含有量に対する各アミノ酸のモル組成比が下記の数値範囲内である、[16]に記載の組成物。
ロイシン:35モル%~66モル%
イソロイシン:5モル%~15モル%
バリン:5モル%~15モル%
スレオニン:7モル%~14モル%
リシン:8モル%~16モル%
メチオニン:2モル%~10モル%
ヒスチジン:0.1モル%~3.5モル%
フェニルアラニン:2.5モル%~8モル%
トリプトファン:0.1モル%~2モル%
[18]うつ状態が、ストレスに起因するうつ状態である、[14]~[17]のいずれかに記載の組成物。
[19]医薬品である、[14]~[18]のいずれかに記載の組成物。
[20]食品である、[14]~[18]のいずれかに記載の組成物。
[21]必須アミノ酸の総含有量に対し35モル%以上のロイシンと、ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上とを含有する組成物の有効量を、うつ状態を予防または改善する必要のある対象に、摂取させることまたは投与することを含む、うつ状態の予防または改善方法。
[22]ロイシンの含有量が、必須アミノ酸の総含有量に対して35モル%~66モル%である、[21]に記載の方法。
[23]ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上が、イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンである、[21]または[22]に記載の方法。
[24]うつ状態がストレスに起因するうつ状態である、[21]~[23]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、認知症の予防または改善用組成物を提供することができる。
本発明の認知症の予防または改善用組成物は、記憶障害を有効に予防または改善し、認知機能の低下の抑制または改善にも有効であり、特にアルツハイマー型認知症の予防または改善に有効である。
さらに、本発明の認知症の予防または改善用組成物は、安全性が高く、継続した摂取または投与に適する。
【0016】
また、本発明により、うつ状態を良好に予防または改善し得る、うつ状態の予防または改善用組成物を提供することができる。
本発明のうつ状態の予防または改善用組成物は、特にストレスに起因するうつ状態の予防または改善に有効である。
さらにまた、本発明のうつ状態の予防または改善用組成物は、安全性が高く、継続した摂取または投与に適する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】試験例1のY maze試験において、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)と、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)について、アームへの総進入回数の週齢による変化を示す図である。
【
図2】試験例1のY maze試験において、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)と、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)について、空間作業記憶(短期記憶)の評価結果を示す図である。図中、「P8」は、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)を示し、「P8-AL40」は、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)を示す。また、図中、「*」は、上記両群の間にP<0.05にて有意差が認められたことを示し、「**」は、上記両群の間にP<0.01にて有意差が認められたことを示す。
【
図3】試験例1の受動回避試験において、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)、およびSAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)について、1回目の試行の際に、暗室への進入に要した時間(transfer latency time)、明室に120秒間留まり続けるのに要した試行の回数(trials to criterion)、および、2回目の試行の際に、明室に120秒間留まった個数の割合を示す図である。図中、「SAMP8」は、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)を示す。また、図中、「*」は、SAMR1との間にP<0.05にて有意差が認められたことを示し、「***」は、SAMR1との間にP<0.005にて有意差が認められたことを示す。
【
図4】試験例1の受動回避試験において、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)、およびSAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)について、3日後に明室に留まり続けた時間(retention time)を示す図である。図中、「SAMP8」は、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)を示す。また、図中、「**」は、SAMR1との間にP<0.01にて有意差が認められたことを示す。
【
図5】試験例1において、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)、およびSAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)について、海馬切片のクリューバーバレラ染色画像を示す図である。
【
図6】試験例1において、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)、およびSAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)について、海馬切片の神経細胞数の測定結果を示す図である。図中、「SAMP8」は、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)を示す。また、図中、「**」は、SAMR1との間にP<0.01にて有意差が認められたことを示す。
【
図7】試験例1において、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)、および、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)について、前頭前皮質(PFC)のホモジネート中におけるアセチルコリン含有量の定量結果を示す図である。図中、「***」は、SAMR1との間にP<0.005にて有意差が認められたことを示す。
【
図8】試験例2におけるストレス負荷メニューを示す図である。
【
図9】試験例2において、各群のマウスの体重の変化を示す図である。
【
図10】試験例2において、各群のマウスについて、飼育31日目の体重と飼育開始日の体重の差を示す図である。
【
図11】試験例2において、強制水泳試験の際の各群の無動時間の測定結果を示す図である。図中、「a」、「b」および「c」の異なるアルファベットは、各群の間でそれぞれ有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の認知症の予防または改善用組成物(以下、本明細書において、「本発明の認知症用組成物」とも称する)は、必須アミノ酸の総含有量に対し35モル%以上のロイシンと、ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上、すなわち、イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンからなる群より選択される1種以上とを含有する。
【0019】
ここで、本明細書において「認知症」とは、記憶障害、認知機能の低下(見当識障害)、判断力の低下および実行機能障害のいずれかの症状を中核症状として呈する状態をいい、さらに、抑うつ状態、依存、不安、攻撃的行動、幻覚、妄想、睡眠障害、徘徊等の種々の周辺症状を呈するものも含む。
また、アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症(ピック病等)、レビー小体病、脳血管障害等、種々の疾患や病変に起因する認知症を含む。
【0020】
「認知症の予防」とは、上記した症状もしくは状態を呈する認知症の発症を抑制することをいい、「認知症の改善」とは、認知症の上記した症状もしくは状態を軽減することをいう。
【0021】
また、本発明のうつ状態の予防または改善用組成物(以下、本明細書において、「本発明のうつ状態用組成物」とも称する)は、必須アミノ酸の総含有量に対し35モル%以上のロイシンと、ロイシン以外の必須アミノ酸の1種以上、すなわち、イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンからなる群より選択される1種以上とを含有する。
【0022】
ここで、本明細書において「うつ状態」とは、気分が落ち込んで活動を嫌っている状態であり、そのために、思考、行動、感情、幸福感に影響が出ている状態をいう。
具体的には、「無気力」、「憂鬱である」、「心身ともに疲れを感じる」、「悲しみから抜け出せない」、「思考がまとまらない、集中できない、または判断できない」、「イライラする、または落ち着いていられない」、「自分がみじめに感じる、または劣等感にとらわれる」、「頭が重い、または体がだるい」、「目覚めが悪い、または朝起きられない」、「寝つきが悪い、または眠れない」、「本や新聞が読めない、または読んでも理解できない」、「人と会いたくない、家に引きこもる、動くのがおっくう」、「さびしい、不安を感じる、疎外感を感じる、または違和感を感じる」、「食欲がない、または食べ物をおいしく感じない」、「つらい、絶望感を感じる、または死にたいと思う」等の一つ以上を主訴として有する状態をいう。
【0023】
うつ状態を引き起こす原因としては、近親者やペットとの死別や離別、人間関係の悩み、転職、転勤、昇進、人事異動、定年退職、リストラ、勤務先の倒産、学業や仕事の失敗、挫折、失恋、離婚、子供の独立、病気、過労、事故、更年期障害、妊娠、出産、引っ越し、家屋の新築、急激な生活環境の変化、被災、生育歴や生活史からくる内面的ストレス、加齢に伴う身体機能や精神機能の低下等の精神的もしくは肉体的ストレス;脳の障害、慢性病、内分泌疾患等の身体疾患;インターフェロン製剤、副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾン等)、降圧剤(バルサルタン、ベシル酸アムロジピン等)等の薬剤の副作用等が挙げられる。
【0024】
「うつ状態の予防」とは、上記したようなうつ状態の出現を抑制することをいい、「うつ状態の改善」とは、観察されるうつ状態の症状または程度を軽減することをいう。
【0025】
本発明において、「ロイシン」および「ロイシン以外の必須アミノ酸」としては、L体、D体およびDL体のいずれを用いてもよいが、L体およびDL体が好ましく用いられ、L体がより好ましく用いられる。
【0026】
また、本発明において、「ロイシン」および「ロイシン以外の必須アミノ酸」としては、遊離体のみならず、塩の形態でも用いることができる。本明細書における「ロイシン」および「ロイシン以外の必須アミノ酸」という語は、それぞれ塩をも包含する概念である。塩の形態としては、薬理学上許容される塩であれば特に制限されず、酸付加塩や塩基との塩等を挙げることができる。
具体的には、無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸との塩およびアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0027】
無機塩基との塩としては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基との塩としては、たとえばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンとの塩、モルホリン、ピペリジン等の複素環式アミンとの塩等が挙げられる。
無機酸との塩としては、たとえば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩等が挙げられる。
有機酸との塩としては、たとえば、ギ酸、酢酸、プロパン酸等のモノカルボン酸との塩;シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸等の飽和ジカルボン酸との塩;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸との塩;クエン酸等のトリカルボン酸との塩;α-ケトグルタル酸等のケト酸との塩等が挙げられる。
アミノ酸との塩としては、グリシン、アラニン等の脂肪族アミノ酸との塩;チロシン等の芳香族アミノ酸との塩;アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との塩;ピログルタミン酸等のラクタムを形成したアミノ酸との塩等が挙げられる。
【0028】
上記した塩は、それぞれ水和物(含水塩)であってもよく、かかる水和物としては、たとえば1水和物~6水和物等が挙げられる。
【0029】
本発明においては、上記した遊離体および塩の形態の「ロイシン」および「ロイシン以外の必須アミノ酸」は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の目的には、「ロイシン」および「ロイシン以外の必須アミノ酸」のそれぞれについて、遊離体および塩酸塩等が好ましい。
【0030】
本発明において、遊離体および塩の形態の上記各アミノ酸は、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、あるいは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法等によって得られるもののいずれを使用してもよいが、各社より提供されている市販の製品を利用してもよい。
【0031】
本発明の認知症用組成物において、ロイシンは、必須アミノ酸の総含有量に対し35モル%以上の高含有量で含有される。
なお、本明細書において、ロイシンをはじめ、本発明の認知症用組成物における各アミノ酸の含有量は、当該アミノ酸が塩の形態で含有される場合、遊離体に換算した含有量で表す。
【0032】
認知症の予防または改善効果の観点からは、ロイシンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、35モル%~66モル%であることが好ましく、35モル%~57モル%であることがより好ましく、35モル%~50モル%であることがさらに好ましい。
【0033】
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるイソロイシンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、5モル%~15モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるバリンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、5モル%~15モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるスレオニンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、7モル%~14モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるリシンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、8モル%~16モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるメチオニンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、2モル%~10モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるヒスチジンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、0.1モル%~3.5モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるフェニルアラニンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、2.5モル%~8モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるトリプトファンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、0.1モル%~2モル%であることが好ましい。
【0034】
なお、認知症の予防または改善効果の観点からは、本発明の認知症用組成物には、ロイシン以外の必須アミノ酸として、イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンが、それぞれ上記した含有量にて含有されることがより好ましい。
【0035】
本発明のうつ状態用組成物において、ロイシンは、必須アミノ酸の総含有量に対し35モル%以上の高含有量で含有される。
なお、本明細書において、ロイシンをはじめ、本発明のうつ状態用組成物における各アミノ酸の含有量は、当該アミノ酸が塩の形態で含有される場合、遊離体に換算した含有量で表す。
【0036】
うつ状態の予防または改善効果の観点からは、ロイシンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、35モル%~66モル%であることが好ましく、35モル%~57モル%であることがより好ましく、35モル%~50モル%であることがさらに好ましい。
【0037】
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるイソロイシンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、5モル%~15モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるバリンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、5モル%~15モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるスレオニンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、7モル%~14モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるリシンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、8モル%~16モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるメチオニンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、2モル%~10モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるヒスチジンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、0.1モル%~3.5モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるフェニルアラニンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、2.5モル%~8モル%であることが好ましい。
ロイシン以外の必須アミノ酸として含有されるトリプトファンの含有量は、必須アミノ酸の総含有量に対し、0.1モル%~2モル%であることが好ましい。
【0038】
なお、うつ状態の予防または改善効果の観点からは、本発明のうつ状態用組成物には、ロイシン以外の必須アミノ酸として、イソロイシン、バリン、スレオニン、リシン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニンおよびトリプトファンが、それぞれ上記した含有量にて含有されることがより好ましい。
【0039】
本発明の認知症用組成物またはうつ状態用組成物は、上記必須アミノ酸の他に、さらに糖質、脂質、タンパク質、非必須アミノ酸、ビタミン、ミネラル等の他の栄養成分を含有していてもよい。
【0040】
本発明の認知症用組成物またはうつ状態用組成物は、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸に、必要に応じて、他の栄養成分や、薬学的に許容される添加剤を加えて、製剤の分野で周知の製剤化手段、たとえば第十七改正日本薬局方製剤総則[3]製剤各条に記載された方法等により、溶液、懸濁液、乳濁液等の液状;ゲル、クリーム等の半固形状;粉末、顆粒、錠剤、カプセル等の固形状等、種々の形態とすることができる。
【0041】
上記薬学的に許容される添加剤は、本発明の認知症用組成物またはうつ状態用組成物の形態に応じて適宜選択することができ、たとえば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、被覆剤、基剤、溶剤、溶解補助剤、可溶化剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、安定化剤、粘稠剤、無痛化剤、等張化剤、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、保存剤、矯味剤、甘味剤、香料、着色剤等が挙げられる。
【0042】
具体的には、賦形剤としては、たとえば、炭酸マグネシウム、糖類(グルコース、ラクトース、コーンスターチ等)、糖アルコール(ソルビトール、マンニトール等)等が挙げられる。
結合剤としては、たとえば、ゼラチン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等が挙げられる。
崩壊剤としては、たとえば、クロスポビドン、ポビドン、結晶セルロース等が挙げられる。
滑沢剤としては、たとえば、タルク、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
被覆剤としては、たとえば、メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル・メタクリル酸ブチル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体等が挙げられる。
【0043】
基剤としては、たとえば、動植物性油脂(オリブ油、カカオ脂、牛脂、ゴマ油、硬化油、ヒマシ油等)、ロウ(カルナウバロウ、ミツロウ等)、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
溶剤としては、たとえば、精製水、注射用水、一価アルコール(エタノール等)、多価アルコール(グリセリン等)等が挙げられる。
溶解補助剤としては、たとえば、プロピレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。
【0044】
可溶化剤、乳化剤、分散剤および懸濁化剤としては、たとえば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート20、ポリソルベート80等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
安定化剤としては、たとえば、アジピン酸、β-シクロデキストリン、エチレンジアミン、エデト酸ナトリウム等が挙げられる。
粘稠剤としては、たとえば、水溶性高分子(ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等)、多糖類(アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、トラガント等)等が挙げられる。
無痛化剤としては、たとえば、アミノ安息香酸エチル、クロロブタノール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
等張化剤としては、たとえば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、ソルビトール、生理食塩水等が挙げられる。
pH調整剤としては、たとえば、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、乳酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0046】
抗酸化剤としては、たとえば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、dl-α-トコフェロール、エリソルビン酸等が挙げられる。
防腐剤および保存剤としては、たとえば、パラベン(メチルパラベン等)、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸等が挙げられる。
【0047】
矯味剤としては、たとえば、アスコルビン酸、エリスリトール、L-グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。
甘味剤としては、たとえば、アスパルテーム、カンゾウエキス、サッカリン等が挙げられる。
香料としては、たとえば、l-メントール、d-カンフル、バニリン等が挙げられる。
着色剤としては、たとえば、タール色素(食用赤色2号、食用青色1号、食用黄色4号等)、無機顔料(三二酸化鉄、黄酸化鉄、黒酸化鉄等)、天然色素(ウコン抽出液、β-カロテン、銅クロロフィリンナトリウム等)等が挙げられる。
【0048】
本発明においては、上記添加剤は、1種または2種以上を用いることができる。
【0049】
本発明の認知症用組成物の1日あたりの摂取量または投与量は、適用される対象(以下本明細書において、「適用対象」ともいう)の性別、年齢、適用対象に観察される認知症の症状およびその程度、ならびに本発明の認知症用組成物の形態、投与方法等により適宜決定されるが、適用対象がヒト成人である場合、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の総量(遊離体に換算した量の総量)にして、通常0.5g~22g、好ましくは1g~20g、より好ましくは3g~16gである。
上記の量は、1回で摂取させまたは投与してもよく、1日数回(2~4回)に分けて摂取させまたは投与してもよい。
【0050】
また、本発明の認知症用組成物の摂取または投与期間も、適用対象の状態または症状等に応じて適宜設定される。認知症が、加齢や種々の疾患、脳内の病変等に伴って発症し、慢性的に進行する疾患であることを考慮すると、認知症を予防または改善するためには、長期間にわたり継続して摂取させまたは投与することが好ましい。
【0051】
本発明のうつ状態用組成物の1日あたりの摂取量または投与量は、適用対象の性別、年齢、適用対象に観察されるうつ状態の症状およびその程度、ならびに本発明のうつ状態用組成物の形態、投与方法等により適宜決定されるが、適用対象がヒト成人である場合、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の総量(遊離体に換算した量の総量)にして、通常0.5g~22g、好ましくは1g~20g、より好ましくは3g~16gである。
上記の量は、1回で摂取させまたは投与してもよく、1日数回(2~3回)に分けて摂取させまたは投与してもよい。
【0052】
また、本発明のうつ状態用組成物の摂取または投与期間も、適用対象のうつ状態の症状または程度等に応じて適宜設定される。うつ状態が、多くの場合、日常的に負荷されるストレスに起因して引き起こされることを考慮すると、うつ状態を予防または改善するためには、本発明の組成物は、長期間にわたり継続して摂取させまたは投与することが好ましい。
【0053】
本発明の認知症用組成物またはうつ状態用組成物は、単位包装形態とすることができる。本明細書において「単位包装形態」とは、特定量(たとえば、1回あたりの摂取量または投与量等)を1単位とし、該1単位又は2単位以上が一つの容器に充填され、または包装体に包装される等して収容された形態をいい、たとえば、1回あたりの摂取量または投与量を1単位とする単位包装形態は、「1回あたりの摂取量または投与量単位の包装形態」と称する。単位包装形態に用いられる容器または包装体は、本発明の認知症用組成物またはうつ状態用組成物の形態等に応じて適宜選択し得るが、たとえば、紙製の容器または袋体、プラスチック製の容器または袋体、パウチ、アルミ缶、スチール缶、ガラス瓶、ペットボトル、PTP(press through pack)包装シート等が挙げられる。
【0054】
本発明の認知症用組成物またはうつ状態用組成物の適用対象としては、哺乳動物(たとえば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ、ヒツジ等)や、鳥類(たとえば、アヒル、ニワトリ、ガチョウ、七面鳥等)等が挙げられる。
本発明の認知症用組成物またはうつ状態用組成物をヒト以外の適用対象動物(以下、単に「対象動物」ともいう)に適用する場合、本発明の認知症用組成物またはうつ状態用組成物の摂取量または投与量は、対象動物の種類、性別、体重等に応じて適宜設定すればよい。
【0055】
本発明の認知症用組成物は、認知症の中核症状として見られる症状のうち、記憶障害をより有効に予防または改善し、認知機能の低下の抑制または改善にもより有効である。また、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリン含有量の低下の認められるアルツハイマー型認知症の予防または改善に、特に有効である。
さらに、本発明の認知症用組成物は、食品中に含有され、食経験も豊富なアミノ酸を有効成分とするため、安全性が高く、継続した摂取に適するため、認知症の予防または改善に有用である。
【0056】
従って、本発明の認知症用組成物は、認知症の症状を呈する患者や、認知症を発症するおそれのある患者、認知症の予防の求められる高齢者や中・壮年者等に対し、好適に摂取させまたは投与され得る。
本発明の認知症用組成物は、アルツハイマー型認知症の症状を呈する患者や、前記認知症を発症するおそれのある患者、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高い高齢者や中・壮年者等に対し、特に好適に摂取させまたは投与され得る。
【0057】
本発明のうつ状態用組成物は、種々の原因により引き起こされるうつ状態の予防または改善に有効であるが、特に、精神的または肉体的ストレスに起因するうつ状態に対し、良好な予防または改善効果を奏する。
また、本発明のうつ状態用組成物は、食品中に含有され、食経験も豊富なアミノ酸を有効成分とするため、安全性が高く、継続した摂取または投与に適するため、日常的に継続して負荷されるストレス等に起因して引き起こされるうつ状態の予防または改善に、有用である。
【0058】
従って、本発明のうつ状態用組成物は、うつ状態を呈する者の他、加齢に伴う身体機能または精神機能の低下に悩まされる高齢者、職場や家庭等において、種々のストレスに悩まされることの多い中・壮年者等、うつ状態が発現する可能性の高い者に対し、好適に摂取させまたは投与され得る。
【0059】
本発明の認知症用組成物は、そのまま、またはさらに上記した薬学的に許容される添加剤を加えて、医薬品(以下、本明細書において「本発明の認知症用医薬品」とも称する)として提供することができる。
本発明の認知症用医薬品は、錠剤、被覆錠剤、チュアブル錠、丸剤、(マイクロ)カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、エリキシル剤、リモナーゼ剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、経口ゼリー剤等の経口製剤、溶液状、懸濁液状、乳液状等の注射剤、用時溶解または懸濁して用いる固形状の注射剤、輸液剤、持続性注射剤等の注射用製剤、経管液剤等の剤形とすることができる。
【0060】
本発明の認知症用医薬品には、本発明の特徴を損なわない範囲で、抗認知症薬を含有させることができる。
かかる抗認知症薬としては、塩酸ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン等のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬;メマンチン等のNMDA受容体拮抗薬等が挙げられ、通常の用法、用量に従って用いることができる。
【0061】
本発明の認知症用医薬品は、認知症の患者や認知症の発症のおそれのある患者、認知症の発症リスクが高い高齢者や中・壮年者等に好適に投与され得る。
本発明の認知症用医薬品は、上記適用対象に対し、1日あたりに、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の総量が、上記した1日あたりの投与量となるように、投与される。
【0062】
本発明のうつ状態用組成物は、そのまま、またはさらに上記した薬学的に許容される添加剤を加えて、医薬品(以下、本明細書において「本発明のうつ状態用医薬品」とも称する)として提供することができる。
本発明のうつ状態用医薬品は、錠剤、被覆錠剤、チュアブル錠、丸剤、(マイクロ)カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、エリキシル剤、リモナーゼ剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、経口ゼリー剤等の経口製剤、溶液状、懸濁液状、乳液状等の注射剤、用時溶解または懸濁して用いる固形状の注射剤、輸液剤、持続性注射剤等の注射用製剤、経管液剤等の剤形とすることができる。
【0063】
本発明のうつ状態用医薬品には、本発明の特徴を損なわない範囲で、抗うつ薬を含有させることができる。
かかる抗うつ薬としては、塩酸イミプラミン、塩酸クロミプラミン、マレイン酸トリミプラミン等の三環系抗うつ薬;塩酸マプロチリン、塩酸ミアンセリン、マレイン酸セチプチリン等の四環系抗うつ薬;マレイン酸フルボキサミン、塩酸パロキセチン水和物等の選択的セロトニン再取り込み阻害薬;塩酸ミルナシプラン等の選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬等が挙げられる。これらは、通常の用法、用量に従って用いることができる。
【0064】
本発明のうつ状態用医薬品は、うつ状態を呈する者、および、種々のストレスにさらされ、うつ状態を発現する可能性の高い者に対し、好適に投与され得る。
本発明のうつ状態用医薬品は、上記適用対象に対し、1日あたりに、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の総量が、上記した1日あたりの投与量となるように、投与される。
【0065】
さらに、本発明の認知症用組成物は、各種食品に添加して摂取させることができる。本発明の組成物が添加される食品は特に制限されず、一般的に食事やデザートに供される形態の食品であれば如何なるものでもよい。
たとえば、本発明の認知症用組成物を清涼飲料水等の飲料に添加し、所望により適当な風味を加えて、ドリンク剤とすることができる。
より具体的には、本発明の認知症用組成物は、たとえば、果汁飲料、スポーツ飲料等の清涼飲料水;牛乳、ヨーグルト等の乳製品;ゼリー、チョコレート、キャンディ等の菓子等に添加することができる。
【0066】
本発明の認知症用組成物は、1日あたりに摂取される量の上記各種食品に対し、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の総量が、上記した1日あたりの摂取量となるように添加されることが好ましい。
【0067】
また、本発明の認知症用組成物は、そのまま、または必要に応じて一般的な食品添加物を加えて、通常の食品製造技術により、食品(以下、本明細書において「本発明の認知症用食品」とも称する)として提供することができる。
本発明の認知症用食品は、液状、懸濁液状、乳状、ゲル状、クリーム状、粉末状、顆粒状、シート状、カプセル状、タブレット状等、種々の形態とすることができる。
さらに、本発明の認知症用食品は、本発明の認知症用組成物を各種食品原材料に加え、必要に応じて一般的な食品添加物を加えて、清涼飲料水(果汁飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、茶系飲料等)、乳製品(乳酸菌飲料、発酵乳、バター、チーズ、ヨーグルト、加工乳、脱脂乳等)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、ハンバーグ等)、魚肉練り製品(蒲鉾、竹輪、さつま揚げ等)、卵製品(だし巻き、卵豆腐等)、菓子(クッキー、ゼリー、チューイングガム、キャンディ、スナック菓子、冷菓等)、パン、麺類、漬物、干物、佃煮、スープ、調味料等、種々の形態の食品とすることができ、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルトパウチ食品であってもよい。
【0068】
上記食品添加物としては、製造用剤(かんすい、結着剤等)、増粘安定剤(キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、ゲル化剤(ゼラチン、寒天、カラギーナン等)、ガムベース(酢酸ビニル樹脂、ジェルトン、チクル等)、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、レシチン等)、保存料(安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ε-ポリリシン等)、酸化防止剤(アスコルビン酸、エリソルビン酸、カテキン等)、光沢剤(セラック、パラフィンワックス、ミツロウ等)、防かび剤(チアベンタゾール、フルジオキソニル等)、膨張剤(炭酸水素ナトリウム、グルコノδ-ラクトン、ミョウバン等)、甘味料(アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出物等)、苦味料(カフェイン、ナリンジン、ニガヨモギ抽出物等)、酸味料(クエン酸、酒石酸、乳酸等)、調味料(L-グルタミン酸ナトリウム、5’-イノシン酸二ナトリウム等)、着色料(アナトー色素、ウコン色素、クチナシ色素等)、香料(アセト酢酸エチル、アニスアルデヒド等の合成香料、オレンジ、ラベンダー等の天然香料)等が挙げられる。
本発明において、上記食品添加物は、1種または2種以上を用いることができる。
【0069】
本発明の認知症用食品は、認知症の症状の改善が求められる患者や、認知症発症のおそれのある患者、認知症の発症リスクが高い高齢者や中・壮年者等に好適に摂取させ得る。
また、本発明の認知症用食品は、認知症患者や認知症の発症リスクの高い高齢者や中・壮年者等以外にも、認知症の予防を目的として、幅広い対象者に摂取させることができる。
【0070】
従って、本発明の認知症用食品は、認知症の予防または改善用の特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の保健機能食品、病者用食品、高齢者用食品等の特別用途食品、健康補助食品、ダイエタリーサプリメント等としても提供され得る。
【0071】
本発明の認知症用食品は、上記適用対象に、1日あたりに、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の総量が、上記した1日あたりの摂取量となるように摂取させることが好ましい。
【0072】
本発明のうつ状態用組成物もまた、各種食品に添加して摂取させることができる。本発明のうつ状態用組成物が添加される食品は特に制限されず、一般的に食事やデザートに供される形態の食品であれば如何なるものでもよい。
たとえば、本発明のうつ状態用組成物を清涼飲料水等の飲料に添加し、所望により適当な風味を加えて、ドリンク剤とすることができる。
より具体的には、本発明のうつ状態用組成物は、たとえば、果汁飲料、スポーツ飲料等の清涼飲料水;牛乳、ヨーグルト等の乳製品;ゼリー、チョコレート、キャンディ等の菓子等に添加することができる。
【0073】
本発明のうつ状態用組成物は、1日あたりに摂取される量の上記各種食品に対し、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の総量が、上記した1日あたりの摂取量となるように添加されることが好ましい。
【0074】
また、本発明のうつ状態用組成物は、そのまま、または必要に応じて上記した一般的な食品添加物を加えて、通常の食品製造技術により、食品(以下、本明細書において「本発明のうつ状態用食品」とも称する)として提供することができる。
本発明のうつ状態用食品は、液状、懸濁液状、乳状、ゲル状、クリーム状、粉末状、顆粒状、シート状、カプセル状、タブレット状等、種々の形態とすることができる。
さらに、本発明のうつ状態用食品は、本発明のうつ状態用組成物を各種食品原材料に加え、必要に応じて上記した一般的な食品添加物を加えて、清涼飲料水(果汁飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、茶系飲料等)、乳製品(乳酸菌飲料、発酵乳、バター、チーズ、ヨーグルト、加工乳、脱脂乳等)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、ハンバーグ等)、魚肉練り製品(蒲鉾、竹輪、さつま揚げ等)、卵製品(だし巻き、卵豆腐等)、菓子(クッキー、ゼリー、チューイングガム、キャンディ、スナック菓子、冷菓等)、パン、麺類、漬物、干物、佃煮、スープ、調味料等、種々の形態の食品とすることができ、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルトパウチ食品であってもよい。
【0075】
本発明のうつ状態用食品は、うつ状態の改善が求められる者に好適に摂取させ得る。また、種々のストレスにさらされ、うつ状態を発現するおそれのある者に対し、うつ状態の予防を目的として、幅広く摂取させることができる。
【0076】
従って、本発明のうつ状態用食品は、うつ状態の予防または改善用の特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の保健機能食品、病者用食品、高齢者用食品等の特別用途食品、健康補助食品、ダイエタリーサプリメント等としても提供され得る。
【0077】
本発明のうつ状態用食品は、上記適用対象に、1日あたりに、ロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の総量が、上記した1日あたりの摂取量となるように摂取させることが好ましい。
【0078】
さらに本発明は、認知症を予防または改善する必要のある対象動物の認知症の予防または改善方法(以下、本明細書において「本発明の認知症の予防・改善方法」ともいう)をも提供する。
【0079】
本発明の認知症の予防・改善方法は、認知症を予防または改善する必要のある対象動物に、当該対象動物の認知症の症状を予防または改善するのに有効な量のロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸を摂取させること、または投与することを含む。
【0080】
本発明の認知症の予防・改善方法は、認知症の中核症状として見られる症状のうち、記憶障害および認知機能低下の予防または改善により有効であり、アルツハイマー型認知症の予防または改善に特に有効である。
【0081】
ヒトの場合、本発明の認知症の予防・改善方法は、記憶障害や認知機能低下の改善が求められる認知症患者、または認知症を発症するおそれのある患者、あるいは、認知症発症リスクの高い高齢者や中・壮年者等に好適に適用される。
【0082】
本発明の認知症の予防・改善方法におけるロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の有効量は、対象動物の種類、年齢、性別、認知症の症状の程度または状態等に応じて決定されるが、本発明の認知症用組成物において、ヒトおよびヒト以外の対象動物について、上記した摂取量または投与量と同様の量を、上記した回数および期間にて摂取させまたは投与することができる。
【0083】
さらに本発明は、うつ状態を予防または改善する必要のある対象動物のうつ状態の予防または改善方法(以下、本明細書において「本発明のうつ状態の予防・改善方法」ともいう)をも提供する。
【0084】
本発明のうつ状態の予防・改善方法は、うつ状態を予防または改善する必要のある対象動物に、当該対象動物のうつ状態を予防または改善するのに有効な量のロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸を摂取させること、または投与することを含む。
【0085】
本発明のうつ状態の予防・改善方法は、うつ状態の予防または改善に有効であり、特に、ストレスに起因するうつ状態の予防または改善に有効である。
【0086】
ヒトの場合、本発明のうつ状態の予防・改善方法は、うつ状態を呈し、その改善が求められる者、または種々のストレスにさらされ、うつ状態を発現するおそれのある者に好適に適用される。
【0087】
本発明のうつ状態の予防・改善方法におけるロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の有効量は、対象動物の種類、年齢、性別、うつ状態の症状およびその程度等に応じて決定されるが、本発明のうつ状態用組成物において、ヒトおよびヒト以外の対象動物について、上記した摂取量または投与量と同様の量を、上記した回数および期間にて摂取させまたは投与することができる。
【0088】
なお、本発明における対象動物としては、哺乳動物(たとえば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ、ヒツジ等)や、鳥類(たとえば、アヒル、ニワトリ、ガチョウ、七面鳥等)等が挙げられる。
【0089】
さらに、本発明におけるロイシンおよびロイシン以外の必須アミノ酸の摂取または投与方法としては、経口投与、経腸経管投与、輸液による投与等が挙げられるが、医療機関にて医師の指導監督下に行う必要がなく、簡便に摂取させることができることから、経口投与が好ましい。
【実施例】
【0090】
以下に本発明について、実施例によりさらに詳細に説明する。
【0091】
[実施例1]認知症の予防または改善用組成物
表1に示す組成となるように、各成分の所定量を秤量の後、混合して、実施例1の認知症の予防または改善用組成物(以下、「実施例1の組成物」という)を調製した。
【0092】
【0093】
[試験例1]実施例1の組成物の認知機能に対する作用の検討
老化促進モデルマウスかつ学習記憶障害モデルマウスであるSAMP8、およびその対照マウスであるSAMR1(いずれも10週齢、雄性)(日本チャールス・リバー株式会社より購入)を用いて、実施例1の組成物の認知機能に対する作用について検討した。
SAMP8およびSAMR1の各マウスは、表2に示す通り3群に分け(n=16/群)、入荷当日から剖検日まで、16重量%カゼインを含有する飼料を自由に摂食させて飼育し、1g/kg体重の実施例1の組成物(AL40)または脱イオン水(vehicle)を1日2回(朝夕)、連続して(土日を除く)強制的に経口投与した。
【0094】
【0095】
(1)空間作業記憶(短期記憶)に対する作用の検討
表2に示す各群のマウスについて、10、13、15、17、19、21および23週齢において、Y maze試験を下記の通り実施した(Y maze試験実施日の朝は、実施例1の組成物または脱イオン水の経口投与を休止した)。
Y字型の迷路装置を用い、そのアームの一つにマウスを置き、8分間自由に移動させて、各アームへのマウスの進入回数を記録した。その際、マウスの尻尾の付け根がアームに入った時に、「進入した」とした。
Y maze試験は、マウスの自発行動量と空間作業記憶(短期記憶)について評価することができるとされる。
マウスの自発行動量は、アームへのマウスの総進入回数により評価することができる。SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)と、SAMP8に実施例1の組成物を投与した群(SAMP8-AL40)について、アームへのマウスの総進入回数の週齢による変化を、16匹のマウスについての平均値±平均値の標準誤差にて、
図1に比較して示した。マウスの総進入回数の測定結果については、二要因の分散分析およびボンフェローニの多重比較検定を行った。
また、空間作業記憶(短期記憶)の指標として、3回連続して異なるアームへ進入した回数を、アームへの総進入回数から1を引いた値で除した後、100を乗じた値(交替反応値)を求め、各週齢のSAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)と、SAMP8に実施例1の組成物を投与した群(SAMP8-AL40)について、16匹のマウスについての平均値±平均値の標準誤差にて、
図2に比較して示した。交替反応値については、スチューデントのt検定を行った。
【0096】
図1に示されるように、自発行動量の指標とされるアーム進入回数については、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)と、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)との間にも、また週齢によっても、有意差は見られなかった。
【0097】
一方、
図2に示されるように、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)では、17週齢、19週齢、21週齢および23週齢の各週齢において、脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)に比べて、交替反応値が有意に上昇し(17、19、21週齢ではP<0.05、23週齢ではP<0.01)、実施例1の組成物の経口投与により、空間作業記憶(短期記憶)が改善されることが示唆された。
【0098】
(2)短期記憶および長期記憶に対する作用の評価
表2に示す各群のマウスについて、23週齢において受動回避試験(passive avoidance test)を、下記の通り実施した(受動回避試験実施日の朝は、実施例1の組成物または脱イオン水の経口投与を休止した)。
(i)暗室に電気刺激装置のある明暗室から成る装置を用い、まずマウスを明室に入れ、暗室に入るまでの時間(latency)を最大120秒として測定した。マウスが暗室に入った際には、進入と同時に扉を閉め、電気刺激(2mA,1秒間)を与えた。なお、マウスの尻尾の付け根が暗室へ入った時点を暗室への進入と定義した。
(ii)(i)の試行を、マウスが明室に120秒間留まるまで、最大5回繰り返した。
(iii)3日後に、マウスを明室に入れ、明室に留まった時間(retention time)を最大300秒として測定した。
【0099】
受動回避試験では、初日に行う試験から、試行ごとの暗室への進入に要した時間(transfer latency time)と、明室に120秒間留まり続けるのに要した試行の回数(trials to criterion)を短期記憶として評価することができる。さらに、3日後に明室に留まり続けた時間(retention time)から、長期記憶を評価することができる。
各群のマウスについて、1回目の試行の際に、暗室への進入に要した時間(transfer latency time)、および、明室に120秒間留まり続けるのに要した試行の回数(trials to criterion)を、それぞれ16匹のマウスについての平均値±平均値の標準誤差にて、
図3に示した。
さらに、2回目の試行の際に、明室に120秒間留まった個数の割合、すなわち、1回の電気刺激により、暗室は怖いと記憶した個数の割合(achievement by 1st ES)を、
図3に併せて示した。図中の数値は、各群において、2回目の試行の際に、明室に120秒間留まったマウスの数を示す。
また、3日後に明室に留まり続けた時間(retention time)を、16匹のマウスについての平均値±平均値の標準誤差にて、
図4に示した。図中の数値は、各群において、300秒間明室に留まり続けたマウスの数を示す。
なお、1回目の試行の際に、暗室への進入に要した時間(transfer latency time)、明室に120秒間留まり続けるのに要した試行の回数(trials to criterion)、および、3日後に明室に留まり続けた時間(retention time)については、ダネットの多重比較検定を実施した。
【0100】
図3に示されるように、1回目の試行の際に、暗室への進入に要した時間(transfer latency time)は、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)に比べて、他の二群では有意に(P<0.05)短いことが認められた。
また、明室に120秒間留まり続けるのに要した試行の回数(trials to criterion)は、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)では1回であり、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)、およびSAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)では、いずれも1回を超え、2回未満であった。しかし、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)では、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)に比べて、有意に(P<0.005)前記試行回数が増加したのに対し、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)では、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)と有意差が見られない程度にまで、前記試行回数が減少することが認められた。
1回の電気刺激により、暗室は怖いと記憶した個数の割合(achievement by 1st ES)についても、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)では、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)に比べて、明らかに増加した。
【0101】
さらに、
図4に示されるように、3日後に明室に留まり続けた時間(retention time)についても、SAMP8に脱イオン水を投与した群(SAMP8-vehicle)では、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)に比べて有意に(P<0.01)減少したが、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)では、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)と同程度に増加したことが認められた。
【0102】
上記受動回避試験の結果から、本発明の実施例1の組成物により、短期記憶および長期記憶がともに改善される可能性が示唆された。
【0103】
(3)海馬神経細胞に対する作用の評価
表2に示す各群のマウスについて、23週齢において上記各試験の終了後に解剖し、海馬の切片を作成して、クリューバーバレラ染色を行った。
顕微鏡(「DFC350FX」、ライカ(Leica)社製、倍率:20倍)下、CA1領域のデジタル撮影を行い、その画像について、解析ソフト(「image-J」、NIH(アメリカ国立衛生研究所)作製によるオープンリソース)を用いて、一定ピクセルあたりの神経細胞数を測定した。次いで、ピクセル数を平方ミリメートルに換算して、単位面積あたりの神経細胞数を算出した。算出した神経細胞数については、16匹のマウスについての平均値±平均値の標準誤差にて示し、ダネットの多重比較検定を行った。
顕微鏡下におけるクリューバーバレラ染色画像を
図5に、神経細胞数の測定結果を
図6に示した。
【0104】
図5および
図6に示されるように、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)では、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)に比べて、海馬CA1領域の神経細胞の有意な(P<0.01)減少が認められた。これに対し、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)では、神経細胞の減少は認められず、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)と同程度の神経細胞の存在が確認された。
従って、本発明の実施例1の組成物により、海馬における神経細胞の脱落が抑制され、記憶障害および認知機能の低下が抑制される可能性が示唆された。
【0105】
(4)前頭前皮質におけるアセチルコリン含有量に対する作用の評価
表2に示す各群のマウスについて、23週齢において上記各試験の終了後に解剖し、前頭前皮質(prefrontal cortex;PFC)のホモジネートを調製して、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)キットを用いてアセチルコリン含有量を定量し、前頭前皮質(PFC)のホモジネート中のタンパク質1mgあたりのアセチルコリン含有量(16匹のマウスについての平均値±平均値の標準誤差)にて、
図7に示した。定量結果については、ホルム-シダック(Holm-Sidak)の多重比較検定を実施した。
【0106】
図7に示されるように、SAMP8に実施例1の組成物を経口投与した群(SAMP8-AL40)では、SAMR1に脱イオン水を経口投与した群(SAMR1)に比べて、PFC内のアセチルコリン含有量が有意に(P<0.005)増加したことが認められた。また、SAMP8に脱イオン水を経口投与した群(SAMP8-vehicle)に比べても、増加傾向を示した(P=0.0615)。
アセチルコリンは、アルツハイマー型認知症患者の脳内において、減少することが知られている神経伝達物質である。
それゆえ、上記の評価結果により、本発明の実施例1の組成物により、アルツハイマー型認知症が改善される可能性が示唆された。
【0107】
[実施例2]うつ状態の予防または改善用組成物
表3に示す組成となるように、各成分の所定量を秤量の後、混合して、実施例2のうつ状態の予防または改善用組成物(以下、「実施例2の組成物」という)を調製した。
【0108】
【0109】
[試験例2]実施例2の組成物のうつ状態に対する作用の検討
BL6Jマウス(10週齢、雄性)(日本チャールス・リバー株式会社より購入)を用いて、実施例2の組成物のうつ状態に対する作用について検討した。
BL6Jマウスは、表4に示す通り3群に分け(n=12/群)、KN209飼育室にて7時~19時まで暗室、19時~7時まで明室として、1ケージに1匹ずつ入れて飼育した。各群のマウスには、入荷当日から剖検日まで、16重量%カゼインを含有する飼料を自由に摂食させ、1g/kg体重の実施例2の組成物(AL40)または脱イオン水(vehicle)を1日2回(朝夕)、連続して(土日を除く)強制的に経口投与した。ストレス負荷マウスに脱イオン水を経口投与した群(CUS-vehicle)、およびストレス負荷マウスに実施例2の組成物を経口投与した群(CUS-AL40)には、飼育期間中、
図8に示すストレス負荷メニューに従って、種々のストレス(CUS:chronic unpredictable stress)を与えた。
【0110】
【0111】
飼育6日、13日、20日、27日および31日目に各マウスの体重を測定し、各群について、平均値±平均値の標準誤差にて
図9に示した。また、各群のマウスの体重の増加量(飼育31日目の体重と飼育開始日の体重の差)を、
図10に示した。
【0112】
図9および
図10に示されるように、ストレス負荷マウスに脱イオン水を経口投与した群(CUS-vehicle)、およびストレス負荷マウスに実施例2の組成物を経口投与した群(CUS-AL40)では、ストレスを負荷しないマウスに脱イオン水を経口投与した群(Free-vehicle)に比べて、体重の増加が抑制される傾向が見られた。
【0113】
飼育30日目に、各群のマウスについて強制水泳試験(1Lシリンダーにて、室温、6分間)を実施した。
強制水泳試験では、水槽に入れられたマウスが、最初はもがき、泳ぎ回るが、その後水面から鼻先だけを出して水に浮いたまま動かなくなる状態を示す。マウスが動かない状態である時間(無動時間)は、うつ状態の指標とされる。
各群のマウスについて、無動時間を測定した結果を、
図11に示した。測定結果については、ホルム-シダックの多重比較検定を実施した。
【0114】
図11に示されるように、ストレス負荷マウスに脱イオン水を経口投与した群(CUS-vehicle)、およびストレス負荷マウスに実施例2の組成物を経口投与した群(CUS-AL40)では、ストレスを負荷しないマウスに脱イオン水を経口投与した群(Free-vehicle)に比べて、無動時間は有意に(P<0.0001)増加した。しかし、ストレス負荷マウスに脱イオン水を経口投与した群(CUS-vehicle)に比べて、ストレス負荷マウスに実施例2の組成物を経口投与した群(CUS-AL40)では、無動時間が有意に(P<0.05)短いことが認められた。
上記の結果より、実施例2の組成物により、ストレスに起因するうつ状態が改善され得ることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上詳述したように、本発明により、認知症の予防または改善用組成物を提供することができる。
本発明の認知症の予防または改善用組成物は、記憶障害を有効に予防または改善し、認知機能の低下の抑制または改善にも有効であり、特にアルツハイマー型認知症の予防または改善に有効である。
さらに、本発明の認知症の予防または改善用組成物は、安全性が高く、継続した摂取または投与に適する。
【0116】
また、本発明により、うつ状態を良好に予防または改善し得る、うつ状態の予防または改善用組成物を提供することができる。
本発明のうつ状態の予防または改善用組成物は、特にストレスに起因するうつ状態の予防または改善に有効である。
さらに、本発明のうつ状態の予防または改善用組成物は、安全性が高く、継続した摂取または投与に適する。
【0117】
本願は、日本国で出願された特願2016-176295および特願2016-178739を基礎としており、それらの内容は本明細書にすべて包含されるものである。