(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】電磁波減衰フィルム
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240109BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20240109BHJP
B32B 3/24 20060101ALI20240109BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240109BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240109BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240109BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01Q17/00
B32B3/24 A
B32B7/025
B32B27/30 A
B32B27/18 A
B32B15/04 Z
(21)【出願番号】P 2022188900
(22)【出願日】2022-11-28
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2022142291
(32)【優先日】2022-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小▲高▼ 良介
(72)【発明者】
【氏名】青木 敦子
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/107637(WO,A1)
【文献】特開2010-3964(JP,A)
【文献】特開2010-118552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01Q 17/00
B32B 3/24
B32B 7/025
B32B 27/30
B32B 27/18
B32B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面および背面を有する誘電体基材と、前記誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、
前記メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含み、
前記メッシュ状導電素子は周期的に配置され、
前記メッシュ状薄膜導電素子のピッチと周期は、前記メッシュ状平板インダクタのピッチの整数倍または整数分の一であり、
前記メッシュ状導電素子を形成する導電性細線の前記メッシュ状平板インダクタを形成する導電性細線に対するズレ量が9%以内である、電磁波減衰フィルム。
【請求項2】
前面および背面を有する誘電体基材と、前記誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、
前記メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含み、
前記メッシュ状導電素子は周期的に配置され、
前記メッシュ状薄膜導電素子のピッチと周期は、前記メッシュ状平板インダクタのピッチの整数倍または整数分の一であり、
前記メッシュ状導電素子を形成する導電性細線の前記メッシュ状平板インダクタを形成する導電性細線に対するズレ量が9%以内であ
り、
前記メッシュ状薄膜導電層の前面および背面に黒化層を備えていることを特徴とする、電磁波減衰フィルム。
【請求項3】
前面および背面を有する誘電体基材と、前記誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、
前記メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含み、
前記メッシュ状導電素子は周期的に配置され、
前記メッシュ状導電素子を形成するメッシュと前記メッシュ状平板インダクタを形成するメッシュは、開口幅が減衰中心波長の6%未満で、線幅が10μm以上200μm以下である、電磁波減衰フィルム。
【請求項4】
前記メッシュ状導電素子の厚さをT、表皮深さをd、としたときに下記式(4)を満たす、
請求項1~3のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
-2 ≦ ln(T/d) ≦ 1 …(4)
【請求項5】
前記メッシュ状薄膜導電層と前記メッシュ状平板インダクタは、前記誘電体基材の厚さ方向に離間している、請求項1~
3のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項6】
前記メッシュ状薄膜導電層の前面および背面に黒化層を備えていることを特徴とする、請求項
3に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項7】
前記メッシュ状平板インダクタの前面および背面に黒化層を備えていることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項8】
前記電磁波減衰フィルムの前面側にトップコート層を備えていることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項9】
前記トップコート層が、電磁波が伝搬する空気層とインピーダンス整合がとられていることを特徴とする、請求項8に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項10】
前記トップコート層はシクロヘキシル(メタ)アクリレートをモノマー成分として含有するアクリル系樹脂組成物を主成分とすることを特徴とする、請求項8に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項11】
前記トップコート層はアクリル系樹脂組成物中に紫外線吸収剤、紫外線散乱剤を含有することを特徴とする、請求項8に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項12】
前記メッシュ状薄膜導電層または前記メッシュ状平板インダクタが、銀、銅、アルミニウムのいずれからなる、請求項1~
3のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項13】
前記メッシュ状薄膜導電層は、前記誘電体基材の前面側から入射した電磁波を捕捉可能に構成されている、請求項1~
3のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項14】
前記メッシュ状導電素子が面状素子であり、対向する一対の辺を有する、請求項1~
3のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項15】
前記面状素子の、対向する一対の辺の長さは、0.25mm以上、4mm以下である、請求項14に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項16】
前記誘電体基材の厚さは、減衰中心波長に対して十分薄い、請求項1~
3のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項17】
前記誘電体基材の厚さは、減衰中心波長の1/10未満である、請求項16に記載の電磁波減衰フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射波を捕捉し、反射波を減衰することが可能な電磁波減衰フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの移動体通信、無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などにおいて、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つ電波が使われている。
【0003】
このような電波を吸収する電波吸収シートの製造方法と電磁波吸収シートとして、特許文献1には、透明基材の少なくとも一方の面に、所定周波数の電磁波を遮蔽するための、導電性薄膜の細線からなるメッシュパターンを、パッチアンテナ素子の図形パターンとして2次元的に配置して形成する工程と、透明基材の少なくとも一方の面に、切れ目の無い連続したメッシュパターンを形成する工程で、導電性薄膜の細線からなる電磁波反射材と、周波数選択型の電磁波シールド材とを、透明な誘電体を介して積層し電磁波吸収シートを製造する方法、前記方法により製造された電磁波吸収体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された吸収体は、基材の片方の面に周波数選択型の電磁波シールド材としてメッシュパターンを有する導電素子を設け、電磁波反射材として切れ目の無い連続したメッシュパターンを基材の片方の面に形成したものを重ねることにより電波吸収体を作成した場合には、導電素子内のメッシュパターンと反射材として形成するメッシュパターンの位置精度がずれたり、さらに積層フィルムの伸びやたわみ等により層間の位置精度にずれが生じて吸収周波数にずれが生じたり、所望の吸収性能を得られないという問題点があった。
加えて、重ね合わせた部位の経時劣化に伴う素子間の位置ずれにより周波数特性や角度特性の変化も懸念される。加えて工程面やコスト面からも素子を設けた基材の枚数が増えることは好ましくない。
本発明は、このような従来の問題を解決し、吸収ピーク周波数のずれや経時での周波数特性、角度特性の変化の少なく、透光性、透明性を付与した電磁波減衰フィルムを簡便かつ低コストで得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の電磁波減衰フィルムの一つは、前面および背面を有する誘電体基材と、前記誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、前記メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含み、前記メッシュ状導電素子は周期的に配置され、前記メッシュ状薄膜導電素子のピッチと周期は、前記メッシュ状平板インダクタのピッチの整数倍または整数分の一であり、 前記メッシュ状導電素子を形成する導電性細線の前記メッシュ状平板インダクタを形成する導電性細線に対するズレ量が9%以内である、電磁波減衰フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吸収ピーク周波数のずれや経時での周波数特性、角度特性の変化の少なく、透光性や透明性を付与した電磁波減衰フィルムを簡便かつ低コストで得ることができる。
さらに本発明によれば、ミリ波帯域の周波数の電波を減衰することができ、かつ、薄い電磁波減衰フィルムを提供できる。また、メッシュ状薄膜導電層を1層の基材の前面と背面に同時に形成することにより、前面と背面に配置したメッシュ状薄膜導電層の位置精度を確保することができ、目的とする周波数に吸収性能を持つ電磁波減衰フィルムを容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る電磁波減衰フィルムを示す模式平面図である。
【
図2】
図1のI-I線における断面の一部を示す模式図である。
【
図3】メッシュ状薄膜導電層を誘電体基材に粘着層を介して配置しパターニングした場合の断面図である。
【
図4】薄膜導電層の平面視形状の例を示す模式図である。
【
図5】薄膜導電層の平面視形状の組み合わせの例を示す模式図である。
【
図6】メッシュ状導電素子の寸法と減衰される電磁波の波長との関係を示すグラフである。
【
図7A】前面のメッシュ状導電素子の背面のメッシュ状平板インダクタに対するズレ量が5%のときの斜視画像である。
【
図7B】
図7AのI-I線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。
【
図8A】前面のメッシュ状導電素子の背面のメッシュ状平板インダクタに対するズレ量が50%のときの斜視画像である。
【
図8B】
図8AのI-I線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。
【
図9】導電素子の厚さの変化による電磁波の減衰性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10】本発明の第二実施形態に係る電磁波減衰フィルムを示す模式平面図である。
【
図11】
図10のI-I線における断面の一部を示す模式図である。
【
図12A】本発明の第一実施形態においてメッシュ状導電素子とメッシュ状平板インダクタをズレ量0%で配置した例を示す斜視画像である。
【
図12B】
図12AのI-I線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である
【
図13A】本発明の第二実施形態においてメッシュ状導電素子とメッシュ状平板インダクタをズレ量0%で配置した例を示す斜視画像である。
【
図13B】
図13AのII-II線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である
【
図14A】本発明の第二実施形態においてメッシュ状導電素子とメッシュ状平板インダクタをズレ量0%で配置した別の例を示す斜視図関である。
【
図14B】
図14AのII-II線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である
【
図15】黒化層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す一例の模式図である。
【
図16】黒化層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す別の例の模式図である。
【
図17】黒化層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す別の例の模式図である。
【
図18】トップコート層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す模式図である。
【
図19】実施例1~6に示す電磁波減衰フィルムの断面の一部を示す模式図である。
【
図20】実施例1の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図21】実施例2の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図22】実施例3の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図23】実施例4の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図24】実施例5の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図25】実施例6の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図26】比較例1の電磁波減衰フィルムの断面の一部を示す模式図である。
【
図27】比較例1の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図28】比較例2の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図29】比較例3の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図30】比較例4の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図31】比較例5の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。また同一部分は符号を省略することがある。
【0010】
実施形態の開示においては、方向を示すために、図面上に表記されたx軸、y軸、z軸に示す方向を用いることがある。また特に断りのない限り、「平面」はxy平面を、「平面視」はz軸方向からみること、「平面図」はz軸方向からみた面を意味し、「平面視形状」「平面形状」はz軸方向から見た図面の形状を意味する。
【0011】
また実施形態の開示において、物体の「前面」というときは、物体をz軸正側からみたときの面を意味し、「背面」というときはz軸負側からみた面を意味し、「側面」というときは前面と背面に挟まれた外周の面を意味する。「厚さ方向」というときは、z軸方向を意味する。
【0012】
また実施形態の開示において、「重心」とは平面形状における重心を意味する。ただし、メッシュを形成する細線が突出した端部を有するメッシュ状の平面の場合は、突出した端部を結ぶ仮想線分を最外周とみなして形成される平面形状を意味するものとし、最外周を細線で囲んだメッシュ状の平面の場合は、最外周の細線で囲まれた平面形状を意味するものとする。
【0013】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る電磁波減衰フィルム1を示す模式平面図である。
図2は、
図1のI-I線における断面の一部を示す模式図である。
図2(a)は、例えばI-I線上のαとβの間の断面である。
図2(b)、はメッシュ状薄膜導電層30の模式平面図である(細線の幅は省略してある)。
【0014】
電磁波減衰フィルム1は、誘電体基材(誘電体層)10と、誘電体基材10の前面10aに形成されたメッシュ状薄膜導電層30と、誘電体基材10の背面10bに形成されたメッシュ状平板インダクタ50とを備えている。メッシュ状薄膜導電層30は、導電性薄膜の細線(以下、「導電性細線」「細線」ともいう。)で形成されたメッシュ状のパターンで細線端部が突出したメッシュ状導電体平板の層である。メッシュ状薄膜導電層30は、複数の導電素子を含んでよい(以下、薄膜導電層に関し、具体的形状や配置などを観念するときに導電素子ということもある。)。メッシュ状平板インダクタ50は、導電性薄膜の細線で形成され、外部の磁束によりメッシュ状平板インダクタ50内部の表面近傍に電流を生じる。また、その電流に伴い、磁場をメッシュ状平板インダクタ50外部の表面近傍に発生させる機能を有する。
尚、前面は、電磁波を入射させる側の面とできる。背面は、誘電体基材の前面と反対側の面である。以下の実施形態に関する説明において、単に薄膜導電層(導電素子)や平板インダクタというときもあるが、特に断りのない限りメッシュ状のものを意味する。
また、電磁波減衰フィルムで減衰される電磁波が単一の極小値となる周波数fを有する場合、この周波数fを、減衰中心周波数fとする。また、電磁波減衰フィルムで減衰される電磁波が複数の極小値を有する場合は、最も減衰の大きい極小値から-3dBとなる複数の周波数の平均値の周波数を減衰中心周波数とする。減衰中心波長は、誘電体基材とサポート層中の光速を後述の減衰中心周波数fで除したものとできる。
また、電磁波減衰フィルム1は、空気とのインピーダンス整合を図り、シートの耐候性を高めるためのトップコート層200(後述)を備えていてもよい。
【0015】
(電磁波減衰基体)
図2に示す通り、電磁波減衰基体20は、誘電体基材10の前面10aにメッシュ状薄膜導電層30を配置し、かつ背面10bにメッシュ状平板インダクタ50を配置した構成となっている。
誘電体基材10を構成する材料の代表例は合成樹脂である。合成樹脂の種類は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されない。この合成樹脂は熱可塑樹脂とできる。合成樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン等が挙げられるがこれに限定されるものではない。これらの材料を単体で用いてもよいし、2種類以上混合させても、積層体としてもよい。また、誘電体基材10は、導電性粒子、絶縁性粒子、磁性粒子、または、その混合を含有してもよい。
電磁波減衰基体20を形成するために、誘電体基材10の両面にアンカー層、接着層を介しアンカー層、接着層と共に、メッシュ状にパターニングした薄膜導電層30を形成したメッシュ状積層体を用いてもよい。
また誘電体基材10は7000MPa・mm
4以下の曲げ剛性を有する。
【0016】
本発明の実施形態において、誘電体基材の厚みは、電磁波の波長に対して十分薄くできる。誘電体基材が電磁波の波長に対して十分薄い場合、誘電体基材内に進行波が生じないことが知られている。「十分薄い」とは、波長の1/2未満とできる。波長の1/2未満では、進行波は導波しない。これは、電磁波のカットオフと言われる現象である。さらには、波長の1/10以下とできる。一般に電磁波の伝搬距離の差が波長の1/10以下の場合、実質的な位相差が生じない。つまり、導電素子と平板インダクタとの距離が誘電体基材での波長の1/10以下である場合、導電素子の再放出する電磁波と平板インダクタとの反射波は、その距離により実質的な位相差を生じない。導電体に挟持された十分に薄い誘電体基材内には、電磁波は導波しないと考えられており、通常、電磁波は、そのような薄さになると遮断(カットオフ)され、そのような誘電体基材に電界や磁界は局在しない。尚、本発明の実施形態でのこの波長は、減衰中心波長とできる。さらに、予想外に、誘電体基材が波長の1/100以下の場合でさえ、減衰が得られている。このような厚みは、最高精度の鏡面の凹凸と同レベルの厚みであり、電磁波のスケールに対して実質的に厚みのない構造で減衰が得られていることになる。
【0017】
発明者らは、種々の実験及びシミュレーションの結果、十分に薄い誘電体基材内でも電磁波による電界及び磁界の定在的な局在が起こることを見出した。誘電体基材10の厚さ(t)は、5μm以上、300μm以下とできる。さらには、誘電体基材10の厚さ(t)は、5μm以上、200μm以下とできる。これは、ミリ波帯の波長の1/2より薄く、さらにはミリ波帯の波長の1/10より薄い。そのため、電磁波減衰フィルムは、薄いフィルムでありながら、ミリ波帯域の電磁波を減衰させることが可能である。誘電体基材10の厚さ(t)は、一定または可変である。
【0018】
誘電体基材10の前面10aに形成されるメッシュ状薄膜導電層30は、電磁波減衰フィルム1の平面視において、前面10aの全体または一部を覆っている。メッシュ状薄膜導電層30は、
図2に示すように誘電体基材10の前面に直接導電性材料を蒸着あるいはスパッタリングにより層形成したのち、エッチングなどによりパターニングする方法で形成することができる。
図3は、メッシュ状薄膜導電層を誘電体基材に粘着層を介して配置しパターニングした場合の断面図である。メッシュ状薄膜導電層30は、
図3に示すように粘着層11を介し、誘電体基材10に導電材料箔を貼合する方法により薄膜導電層を形成した後、エッチングなどにより導電材料をパターニングして配置することにより形成することができる。
図3に示すように、粘着層11を介して導電パターンを誘電体基材10上に形成する場合にも、粘着層11は導電パターンと同様の寸法にパターニングされるため、誘電体基材10に導電パターンが形成された電磁波減衰フィルムを曲げるなどして応力がかかった場合にも、導電パターン毎に応力は分断さるため誘電体前面と背面に形成される導電パターンにずれが生じることはない。
【0019】
メッシュ状平板インダクタ50は、誘電体基材10の背面の全体または一部を覆っている。電磁波減衰フィルム1の性能を大きく損なわない限りにおいて、例えば、電磁波減衰フィルム1の周縁の一部等に、メッシュ状薄膜導電層30やメッシュ状平板インダクタ50に覆われていない部位が存在してもよい。
【0020】
メッシュ状薄膜導電層30およびメッシュ状平板インダクタ50の材料は、導電性を有する限り特に限定されない。耐食性およびコストの観点からは、アルミニウム、銅、銀、金、白金、スズ、ニッケル、コバルト、クロム、モリブデン、鉄及びこれらの合金が好ましい。メッシュ状薄膜導電層30およびメッシュ状平板インダクタ50は、誘電体基材10に真空蒸着を行うことにより形成できるし、粘着層11を介し導電性材料箔を誘電体基材10に貼合することにより形成することもできる。導電性材料箔を誘電体に貼り合わせる粘着層11の膜厚は10nm以上2000nm以下とできる。10nm未満であると、導電性材料箔の誘電体への密着性が低下する可能性があり、2000nmを超えると生産性が落ちる可能性がある。また粘着層11は7000MPa・mm4以下の曲げ剛性を有する。さらにメッシュ状薄膜導電層30と粘着層11の膜厚の比率は1:2であることが好ましい。
メッシュ状平板インダクタ50は、導電性の化合物としてもよい。
メッシュ状薄膜導電層30の厚さ(tm)は、10nm以上、1000nm以下とできる。10nm未満であると、電磁波を減衰させる機能が低下する可能性がある。1000nmを超えると、生産性が落ちる可能性がある。
メッシュ状平板インダクタ50の厚さ(tmb)は、メッシュ状薄膜導電層30と同様に10nm以上、1000nm以下とできる。10nm未満であると、電磁波を減衰させる機能が低下する可能性がある。1000nmを超えると、生産性が落ちる可能性がある。
また、メッシュ状平板インダクタ50の厚さ(tmb)は、メッシュ状薄膜導電層30の厚さ(tm)より厚くできる。
メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50を形成する導電性細線の線幅(w)は、10μm以上200μm以下とできる。さらに15μm以上150μm以下とできる。導電性細線の線幅は10μm未満であると吸収性能を確保するのが難しくなり、200μm以上であると透明性を確保するのは難しくなる。
メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50の材質は、同じ金属種とすることができる。この同じ金属種は、同じ純金属か同じ金属の合金(例えば、双方ともアルミニウム合金)とするか、メッシュ状薄膜導電層30を純金属としメッシュ状平板インダクタ50をメッシュ状薄膜導電層30の金属の合金としてもよい。また、メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50の材質は、異なる金属種としてもよい。
薄膜導電層30、平板インダクタ50をメッシュ状とすることで、透光性、透明性が得られると共に、透湿性も得られると考えられる。透光性、透明性が得られることで、窓ガラス等透明性が要求される場所や、景観に配慮しながら電磁波吸収性を付与できるなどのメリットが考えられる。さらに、透湿性を持つことにより、例えば壁紙等と貼合する際に使用する粘着剤に環境に配慮した水系の粘着剤を使用する場合でも水分の透過性が高く扱いが容易になるなどのメリットが考えられる。
【0021】
メッシュ状導電素子30の形状やその組み合わせに関し述べる。
図4は、メッシュ状導電素子の平面視形状の例を示す模式図である。多角形の正方形、六角形、十字、その他の多角形、円形、楕円が含まれる。この正方形、六角形、十字、その他の多角形の角は丸い形状とすることもできるがこれらに限るものではない。また、導電性細線のメッシュの交差角度もこれらに限るものではない。
また
図5は、メッシュ状導電素子の平面視形状の組み合わせの例を示す模式図である。大きさの異なるもの同士の組み合わせでもよく、さらに、単一形状でも複数形状の組み合わせでもよい。
【0022】
電磁波減衰フィルム1は、上述した構成によって、特定の波長において、特有のメカニズムを発現すると考えらえる。
【0023】
本発明の電磁波減衰フィルムに入射する電磁波は下記のようにふるまう。具体的には、入射波により発生する電磁場及び電流は、下記のようになると考えられる。
【0024】
まず、メッシュ状導電素子を透過した入射波の磁束の変動は、ファラデーの法則により、メッシュ状平板インダクタ50にメッシュ状平板インダクタ50の入射面に水平な交流電流を誘導する。この交流電流はメッシュ状平板インダクタ50に隣接する誘電体基材に変動する磁場を、アンペールの法則により、発生させる。また、変動する磁場は、透磁率を係数として変動する磁束となる。
【0025】
変動する磁束により発生する電場は、通常、ヘンリーの法則により磁束を抑制するような向きの電流を誘導する。しかし、本願の構成の場合、予期に反して、逆に電流を増強する向きに働く。これにより、メッシュ状導電素子には、入射波で誘導された以上の電流が流れる。つまり、メッシュ状導電素子の面積は、メッシュ状平板インダクタ50の面積より狭いが、メッシュ状平板インダクタ50と同程度の電流を生じさせることができる。
【0026】
この導電素子に生じる電流の向きは、メッシュ状平板インダクタ50と逆向きとなる。メッシュ状導電素子とメッシュ状平板インダクタ50に流れる双方に反対向きの電流と、その間に流れる変位電流とにより閉回路を形成できる。メッシュ状導電素子とメッシュ状平板インダクタ50の間のみでの閉回路となり、電磁波減衰フィルムの外部の空間に電磁波減衰フィルムに水平な電束が発生しない場合には、反射波が発生しえない。また、メッシュ状平板インダクタ50による反射波と、導電素子の電流により再放出する電磁波は、位相がπずれているため、相互に打ち消し合う。
【0027】
上記の原理により、電磁波減衰フィルムによる反射波は減衰する。エネルギーの観点からは、下記のように、複数のメカニズムが相乗的に作用していると考えられる。
【0028】
第一のメカニズムは、入射波による進行しない周期的に振動する電磁場の発生である。まず、メッシュ状平板インダクタ50により、メッシュ状平板インダクタ50の接線方向に磁束が入射波に誘導される。誘導された磁束により、メッシュ状薄膜導電層30(すなわち、メッシュ状導電素子)の対向する一対の辺(最外の導電性細線)から伸張する方向に、メッシュ状平板インダクタ50に対して垂直な方向に電場が発生する。次に、電磁波がメッシュ状平板インダクタに入射すると、変動する磁束によりメッシュ状平板インダクタの表面近傍に近接するように電流が誘導される。メッシュ状平板インダクタ内に誘導された電流により、メッシュ状平板インダクタの表面近傍に近接する誘電体基材10に磁場が発生する。この電場とメッシュ状導電素子とメッシュ状平板インダクタ50の電流は、メッシュ状導電素子とメッシュ状平板インダクタ50との間にメッシュ状平板インダクタ50により誘導される磁束と同じ向きの磁場を発生させる。ここで、メッシュ状導電素子の形状の材質は金属である。誘電体基材内に発生した電界は、入射波の周期と同じ周期で変動している。磁界の周期的な変動は、メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50との間の電界を周期的に変動させる。その結果、メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50との間に進行しない周期的に変動する電磁場が発生する。後に電流密度のシミュレーションにより示すように、周期的に変動する電磁場中の磁場により導電素子に交流電流が誘導される。また、周期的に変動する電場は導電素子に周期的に変動する電位を発生させる。電磁場は進行せずその場に留まり、誘導された交流電流は電力損失し、結果として電磁場のエネルギーが熱に変換され、電磁波を吸収する。また、導電素子に誘導された交流電流は、導電素子の誘電体基材10と接している面とは反対側の面から電磁波を再放出すると考えられる。
つまり、電磁波減衰フィルムで捕捉された電磁波のエネルギーは、一部は、熱のエネルギーに変換され、残りは再放出すると考えらえる。また、マクスウェル方程式等で表される古典的な電磁気の理論によれば、誘導される交流電流の周波数は入射波と同じ周波数となるため、再放出される電磁波の周波数は、入射波の周波数と同じとなる。その結果、入射波と同じ周波数の電磁波が再放出される。また、振動する電磁場を量子として考えた場合、量子がエネルギーを失い、よりエネルギーの低い長波長の電磁波が再放出されることも考えられる。また、再放出は、入射した電磁波による誘導放出と自然放出があると考えられる。誘導放出は、入射波の反射方向、すなわち鏡面反射方向に入射波が反射する反射波とコヒーレントな電磁波が放出されると考えられる。自然放出は時間とともに減衰すると考えられる。また、自然放出の空間分布は、電磁波減衰フィルムが回折構造、干渉構造、屈折構造を有していない場合は、ランバート反射に近いと考えられる。
減衰中心波長は、メッシュ状導電素子30の面方向における寸法W1(
図6参照。以下、「幅W1」と称することがある。)と相関する。
図6は、メッシュ状導電素子の寸法と減衰される電磁波の波長との関係を示すグラフである。
図6(a)は幅W1(横軸)と減衰中心周波数(縦軸)の関係を表したグラフであり、
図6(b)はシミュレーションに用いた各種寸法を示している。
図2(b)に示されたように、W1はメッシュ状導電素子(正方形)の端部から端部までの長さを表し、重心からメッシュ端部までの最短距離の長さaの2倍である。
すなわち、第一のメカニズムにより好適に減衰される電磁波の波長は、寸法W1を変更することにより変更でき、電磁波減衰フィルム1においては、電磁波の減衰を自由度高くかつ簡便に設定できる。したがって、容易に15GHz以上、150GHz以下の帯域における直線偏波の電磁波を捕捉可能な構成とすることができる。
【0029】
進行しない電磁場の周期的な変動は、メッシュ状導電素子の平面視形状における向かい合う辺(最外の導電性細線)の間で発生すると考えられる。したがって、第一のメカニズムが発生するためには、一定の長さの辺が向かい合うことが好ましい。このことと、発明者らによる検討結果を踏まえ、薄膜導電層における幅W1が0.25mm以上の区画を導電素子とすることができる。ある導電素子において、複数のW1を取りうる場合は、そのうち最大の値をその導電素子におけるW1と定義できる。W1を0.25mm~4mm程度の範囲内とすることにより、15GHz以上、150GHz以下の帯域の電磁波を減衰することが可能となる。減衰する電磁波の周波数と導電素子の幅の関係性は、
図6に示すように、それぞれを対数としたグラフ上で、直線として表せる。つまり、減衰する電磁波の周波数は、導電素子の幅のべき乗関数となる。その関数のべきは、近似的に-1であり、ほぼ反比例となる。
薄膜導電層に含まれる複数の導電素子は、寸法W1の異なるものが複数種類配置されてもよい。この場合、それぞれの電磁波の減衰ピークが重ね合わされ、減衰できる電磁波を広帯域化できる。
【0030】
第二のメカニズムは、メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50とによる電磁場の閉じ込めである。電磁波減衰フィルム1においては、誘電体基材10がメッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50とに挟まれている。このため、電磁波により電磁波減衰フィルム1の誘電体基材10に生じた電場は、導電素子の電荷、電流によって導電素子を含むメッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50との間の誘電体基材10内に閉じ込められる。すなわち、導電素子は、電磁場を抑制し、誘電体基材10に電磁場を閉じ込める。つまり、導電素子は、チョークとして機能できる。
言い換えれば、導電素子は、チョークとして機能するチョークプレートとできる。
また、磁束は、この閉じ込められた電場の周期的な変動によっても、誘導されると考えられる。これにより振動する電磁場が集積し、電磁場のエネルギー密度が高まる。一般的に、エネルギー密度が高いほど減衰しやすいため、このメカニズムにより電磁波は効率よく減衰される。また、第二のメカニズムでは、誘電体基材10の誘電正接が高いほど、誘電体基材内に蓄積された電磁場のエネルギー損失が大きくなる。また、誘電体基材に集積した磁場は、導電素子に大きな電流を伴い、誘電体基材に集積した電場は大きな電位差を生じる。大きな電流と大きな電位差によりその積である電力損失を大きくすることができる。電力損失として、電磁波のエネルギーを消費し、その結果、電磁波が減衰する。
【0031】
第三のメカニズムは、対向するメッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50とその間の誘電体基材10によるコンデンサを含む電気回路での電力損失によるものである。電磁波減衰フィルム1においては、誘電体基材10がメッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50とに挟まれている。このため、誘電体基材10はコンデンサとして機能する。したがって、電磁波減衰フィルム1の誘電体基材10に入射した電磁波は、コンデンサを含む電気回路により減衰される。コンデンサの静電容量が大きいほど多くの電荷を蓄積することで蓄えられるエネルギーが増加するため、静電容量が大きいほど高エネルギーに対応しうる。
静電容量は誘電体基材10の厚さに反比例するため、この観点からは、誘電体基材10の厚さは薄いほうがより好ましい。また、メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50との距離は誘電体基材10の厚さで定まるため、メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50との間の電気抵抗は、誘電体基材10の厚さに比例する。誘電体基材10の抵抗が小さいと誘電体基材10でのリーク電流は増大し、メッシュ状薄膜導電層30とメッシュ状平板インダクタ50とのコンデンサを含む電気回路に流れる電流は増加する。このため、リーク電流による電力損失を増大しやすく、電力損失により電磁波のエネルギーを吸収しやすい。また、本発明の実施形態の電磁波減衰フィルム1では、導電素子が配置された箇所の誘電体基材10の厚さを変更しても減衰する電磁場の波長はシフトしないため、コンデンサを含む電気回路の特性に合わせて、誘電体基材10の厚さを設計可能である。
【0032】
以上説明したように、電磁波減衰フィルム1に入射した電磁波は、第一のメカニズムにより平板インダクタの表面近傍に近接する誘電体基材10に電磁場を発生させ、第二のメカニズムにより電磁波により生じた電磁場が閉じ込められることで、捕捉される。このように、電磁波減衰フィルム1は、電磁波を捕捉可能である。捕捉された電磁波は、第二のメカニズムによる電界損失と電力損失、第三のメカニズムの電気回路による電力損失により減衰される。
【0033】
(ズレ量)
第一実施形態の電磁波減衰フィルム1において、
図2に示すように、誘電体基材10の前面10aに形成されるメッシュ状薄膜導電層30は、導電素子を含む。メッシュ状導電素子を形成する薄膜導電性細線と誘電体基材背面10bに形成されるメッシュ状平板インダクタを形成する薄膜導電性細線の位置関係は、電磁波吸収性能や減衰中心周波数の制御に大きく影響する。メッシュ状平板インダクタに対する、導電素子のズレ量をシミュレーションにより確認した結果、ズレ量が9%以内であれば、所望の吸収性能を得られることがわかった。ズレ量は、同形状、同寸法のメッシュ状薄膜導電層とメッシュ状平板インダクタの各細線を重ね合わせたときを基準位置とし、いずれか一方を細線の長さ方向の垂直または水平方向にずらしたときの移動距離を移動方向のメッシュのピッチで割った値(%)である。実施形態ではメッシュ形状は正方形なのでズレ量の値は移動方向に依存しない。
またメッシュ状薄膜導電素子が周期的に配置されている場合、メッシュ状薄膜導電素子のピッチと周期がメッシュ状平板インダクタのピッチの整数倍または整数分の一のときにずらした際のメッシュの細線の重なり具合が一様となる。
図7は、前面のメッシュ状導電素子と背面のメッシュ状平板インダクタの位置ズレの一例に関する電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。
図7Aは、前面のメッシュ状導電素子の背面のメッシュ状平板インダクタに対するズレ量が5%のときの斜視画像である。
図7Bは、
図7AのI-I線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。ズレ量が5%の場合、導電素子と背面のメッシュ状平板インダクタを形成する導電性細線が誘電体基材を挟んで重なる幅が大きいため、上述した第二のメカニズムによる電磁波の閉じ込めが容易に起こると考えられる。
図8は、前面のメッシュ状導電素子と背面のメッシュ状平板インダクタの位置ズレの別の例に関する電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。
図8Aは、前面のメッシュ状導電素子の背面のメッシュ状平板インダクタに対するズレ量が50%のときの斜視画像である。
図8Bは、
図8AのI-I線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。
図8Bに示す通り、ズレ量が50%になると、導電素子と背面のメッシュ状平板インダクタを形成する導電性細線が誘電体基材を挟んで重なる幅が小さくなり、電磁波の閉じ込めが十分でなくなるため、目標の周波数において電磁波を減衰させることが難しくなる。
【0034】
電磁波減衰フィルム1においては、第三のメカニズムの果たす役割も重要である。誘電体基材10の前面10aに電磁波が入射し誘電体基材10に電界が生じ、導電素子の下方に電磁場が閉じ込められる。すなわち、エネルギー密度の高い電磁場が導電素子の下方に生じる。閉じ込められた電磁場は、第二のメカニズムによる電力損失と、第三のメカニズムの誘電損失とにより減衰されると考えられる。
【0035】
従来技術においては、共振する導電体を表皮深さより厚くすることで共振層に十分な交流電流を発生させ、その交流電流の電力損失により電磁波を減衰すると考えられていた。しかし、発明者らは、導電素子の厚さが表皮深さ以下となると、むしろ電磁波の減衰が増加することを見出した。
【0036】
図9は、導電素子の厚さの変化による電磁波の減衰性のシミュレーション結果を示すグラフである。
図9(a)はシミュレーション結果であり、
図9(b)はシミュレーションに用いた各種寸法を示している。導電素子の材質は銅としている。また、入射波は正弦波の直線偏波とし、電磁波減衰フィルムに対して垂直に入射した。尚、シミュレーションでは、平板インダクタを完全導体とした。電磁波減衰フィルムとしての電磁波の減衰性は、平板インダクタのみの場合を基準としたモノスタティックRCSを指標としている。尚、電磁波の減衰性を示す縦軸はデシベル表記としている。モノスタティックRCS(Rader Cross-Section)は、モノスタティックレーダーでの対象の探知のしやすさを表す指標であり、下記式(1)により算出できる。尚、モノスタティックレーダーは、送信と受信を同一地点で行なうものである。
【0037】
【0038】
シミュレーションの結果、
図9に示すように、厚さが110nm以上で大きな電磁波の減衰が認められた。110nm未満では、逆に電磁波の減衰の減少が見られる。
なお、導電素子に黒化層備えられる場合、導電素子と黒化層を合わせた厚さが1000nm以下であれば、安定した成膜が可能である。
【0039】
図9に示される現象は、表皮深さと興味深い関係性が見られる。周波数41GHzにおける銅の表皮深さは約362nmである。すなわち、導電素子の厚さが材質の表皮深さ以下になると電磁波の減衰が増加している。また、表皮深さの1/e
2未満では、電磁波の減衰は減少している。これは、導電層が表皮深さより厚い場合には、十分な抵抗が得られず電力損失に必要な電圧降下が得られず、また電流が導電素子の中央付近にのみ集中し電位差が生じている領域での電流が減少することが考えられる。他方、導電層の厚さが表皮深さ以下であっても、表皮深さの1/e
2未満では、電力損失のための十分な電流が得られないことが考えられる。尚、言うまでもなく、電力損失は電流と電圧の積として与えられる。すなわち、導電素子の厚さTを表皮深さdで正規化した値の自然対数を用いて表した下記のLN関数の式(2)が満たされる範囲であれば、十分な電磁波の減衰が得られると言える。
-2 ≦ ln(T/d) ≦ 0 …(2)
また、導電素子にアドミタンスが低い金属を用いた場合は、下記式(3)の範囲でも電磁波の減衰が得られる。また、導電素子の面積が誘電体基材の前面に占める割合が大きい場合、下記式(3)の範囲でも、電磁波の減衰が得られる。この面積比が大きい場合とする、導電素子の面積が誘電体基材の前面に占める割合は50%以上、90%以下とできる。
0 < ln(T/d) ≦ 1 …(3)
式(2)および式(3)を踏まえると、下記式(4)の範囲において、電磁波の減衰を得ることができる。
-2 ≦ ln(T/d) ≦ 1 …(4)
なお、本発明の実施形態では、この表皮深さは、減衰中心周波数fを用いて算出できる。つまり、減衰中心周波数fを用いると、表皮深さdは、周知のとおり下記式(5)のように計算される。
【0040】
【0041】
また、シミュレーション結果では、導電素子の厚さが表皮深さより薄い場合に、減衰が増加した。これは、導電素子の誘電体基材の磁束の影響で生じる電流が誘電体基材の反対側の面側にも達し、その電流によって誘電性インダクタによる反射波を相殺する誘電性インダクタによる反射波と位相がπずれた電磁波が放出されるためと考えられる。また、導電素子の厚さが表皮深さより薄くなるにつれて、導電素子の電流が規制された結果、磁界が導電素子の中心付近のみならず、導電素子全域にわたって発生し、発生した磁界により誘導される電流も導電素子の全域にわたって発生し、誘電性インダクタによる反射波を相殺する電磁波の放出が増加するため、反射波がより減衰すると考えられる。
また、導電素子と誘電性インダクタの間の誘電体基材の電場は、導電素子と誘電性インダクタを引き付ける。電場が周期的に変動している場合は、導電素子に引き付ける力も周期的に変動する。そのため、導電素子と誘電性インダクタの間の誘電体基材の電場は、導電素子を振動させる。この振動のエネルギーは熱に変換されて損失する。このため、電磁場が導電素子に作用する力学も電磁波の減衰に寄与すると考えられる。
また、電磁場の進行しない周期的な変動を、量子として捉えた場合には、運動量がゼロの状態として電磁場に束縛され量子が捕捉されている状態にあると考えることができる。加えて導電素子の厚さが数百nmのレベルとなるため、導電素子内のエネルギー準位に影響を及ぼす可能性も考えられる。
このように、本発明の実施形態での現象に対する解釈は、古典的電磁としての解釈に加えて、古典力学や量子力学としての解釈も可能である。
そのため、式(4)を解釈するにあり、当該範囲は合理的に定められているが、すべての物理現象を加味し厳格に算出された範囲ではない。したがって、対象となる製品が上記式の範囲に該当するかを判断する場合には、発現している物理現象を考慮し解釈することが適切だと言える。
なお、従来技術において、表皮深さ程度から表皮深さより薄い導体を使用する例は、通常みられない。そのため、本発明の実施形態は、ミリ波帯での電磁波との相互作用のメカニズムそのものが従来とは異なると考えられる。
【0042】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態について、
図10、
図11を参照して説明する。第二実施形態は、導電素子の形状において第一実施形態と異なる。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。第二実施形態においても、上述の第一、第二、第三のそれぞれのメカニズムは発現していると考えられる。
【0043】
図10は、本発明の第二実施形態に係る電磁波減衰フィルムを示す模式平面図である。
図11は、
図10のII-II線における断面の一部を示す模式図である。
図11(a)は、例えばII-II線上のαとβの間の断面である。
図11(b)は、メッシュ状薄膜導電層30の模式平面図である(細線の幅は省略してある)。各種寸法に関する記号は
図2と同様である。
電磁波減衰フィルム61は、誘電体基材62と、メッシュ状導電素子30Aと、メッシュ状平板インダクタ50Aとを備えている。メッシュ状薄膜導電層30Aの厚さは1000nm以下とできる。メッシュ状薄膜導電層30Aは、導電性薄膜の細線で形成されたメッシュ状のパターンで細線が最外周を囲んだメッシュ状導電体平板の層である。細線の最外周を囲む細線は、内側のメッシュ線幅と同じ線幅でもよいし、異なってもよい。また、最外周を囲む細線は誘電体基材62の前面62aに配置した薄膜導電層30Aの四方を囲む必要はない。最外周を囲む細線を設ける場合には、後述するように、最外周を囲む細線と誘電体基材を挟んで背面に配置するメッシュ状平板インダクタを同じ位置に配置することが好ましい。また最外周を囲む細線を設けることで減衰中心周波数の制御を容易にすることが可能である。
【0044】
第二実施形態の誘電体基材62は、第一実施形態の誘電体基材10と同様の材料および構成とすることができる。
図11に示す通り、電磁波減衰基体60は、誘電体基材62の前面メッシュ状薄膜導電層30Aを配置した構成となっている。電磁波減衰基体60を形成するために、誘電体基材62の両面にアンカー層、接着層を介し薄膜導電層を形成した積層体を用いてもよい。
【0045】
誘電体基材62の前面62aに形成されるメッシュ状薄膜導電層30Aは、電磁波減衰フィルム61の平面視において、前面62aの全体または一部を覆っている。メッシュ状平板インダクタ50Aは、背面62bの全体または一部を覆っている。メッシュ状平板インダクタ50Aは、電磁波減衰フィルム61の性能を大きく損なわない限りにおいて、例えば、電磁波減衰フィルム61の周縁の一部等に、メッシュ状薄膜導電層30Aやメッシュ状平板インダクタ50Aに覆われていない部位が存在してもよい。
メッシュ状平板インダクタ50Aは、第一実施形態と同じ材質、同じ製法で形成できる。
【0046】
第二実施形態の電磁波減衰フィルム61における減衰性の設定は、誘電体基材62の前面に配置するメッシュ状導電素子30Aを形成する導電性細線の最外周を囲む細線と、誘電体基材62の背面に配置するメッシュ状平板インダクタ50Aを形成する導電性細線の配置位置で制御することが可能である。
メッシュ状導電素子の最外周における導電性細線の有無および最外周に対応するメッシュ状平板インダクタ側の導電性細線の配置の態様が電界強度に及ぼす影響について
図12~
図14の電界強度シミュレーションの結果を用いて述べる。
図12Aは、メッシュ状薄膜導電層30の導電性細線端部が突出しており、メッシュ状平板インダクタ50とズレ量0%で配置した例を示す斜視画像である。
図12Bは、
図12AのI-I線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。
図13Aは、メッシュ状薄膜導電層30Aに導電性細線の最外周を囲む細線を設け、メッシュ状平板インダクタ50Aとズレ量0%で配置した例を示す斜視画像である。
図13Bは、
図13AのI-I線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。
図14Aは、メッシュ状薄膜導電層30Aに導電性細線の最外周を囲む細線を設け、メッシュ状平板インダクタ50Aをズレ量0%で配置した別の例を示す斜視画像である。
図14Bは、
図14AのI-I線における断面での電界強度のシミュレーション結果を示す画像である。
図12に示す通り、導電素子を形成する導電性細線の端部が突出した形状においては、導電素子の導電性細線と背面に配置する平板インダクタの導電性細線が重なる部分で共振し電磁波を減衰させるのに対し、
図13に示すように、導電素子の最外周を囲む細線を設ける場合、最外周を囲む細線と導電素子を形成する導電性細線の間で共振結合を起こし、
図12に示すような導電性細線の端部が突出した形状と比較すると、電磁波の吸収性能が向上する。さらに、
図14に示すように導電素子の最外周を囲む細線と誘電体基材を介して背面に配置する平板インダクタの導電性配線が重なるように導電性細線を形成・配置することで、より良好な吸収性能を得ることが可能となる。
【0047】
<黒化層>
本発明の実施形態において、薄膜導電層の周りに黒化処理を施して、黒化層を設けてもよい。
図15は、黒化層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す一例の模式図である。
図15に示す通り薄膜導電層30の前面に黒化層31、側面に黒化層32、平板インダクタ50の背面に黒化層33、側面に黒化層34を設けてもよい。
また、
図16は、黒化層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す別の例の模式図である。
図16に示す通り、誘電体基材10に薄膜導電層30を形成する前に黒化層を形成し、その後薄膜導電層を形成しエッチングなどにより黒化層と薄膜導電層を同一の寸法にパターニングし、薄膜導電層30と誘電体基材10の間に黒化層35を設け、薄膜導電層30の前面に黒化層31、側面に黒化層32を設けることができる。同様に平板インダクタ50と誘電体基材10の間に黒化層36、背面に黒化層33、側面に黒化層34を設けてもよい。
また、
図17は、黒化層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す別の例の模式図である。
図17に示す通り、誘電体基材10に薄膜導電層30を形成する前に、粘着層11を介して黒化層を形成し、その後薄膜導電層を形成しエッチングなどにより粘着層、黒化層と薄膜導電層を同一の寸法にパターニングし、薄膜導電層30と誘電体基材10の間に粘着層11、黒化層35を設け、薄膜導電層30の前面に黒化層31、側面に黒化層32、平板インダクタ50と誘電体基材10の間に粘着層11、黒化層36を設け、平板インダクタ50の背面に黒化層33、側面に黒化層34を設けてもよい。
前記黒化処理は硫化黒化処理、置換黒化処理のいずれか一方を施し、黒化層を形成してよい。このような黒化層を導電素子の表面に形成することで、導電素子の抵抗値の上昇を抑制したり、金属光沢を抑えて視認性を改善するなどの効果が得られる。また、誘電体基材10の表面に黒化層を設けたり粘着層11を介して黒化層を設けたのち薄膜層を積層させた多層導電体層をエッチングすることで導電素子を形成することができる。このような黒化層を誘電体基材と導電素子の間に形成することで誘電体基材への導電素子の密着性を向上させることが可能となる。黒化層の厚みは200nm以下であることが好ましい。200nm以上であると生産性が低下する可能性がある。また、黒化層の表面粗さはRa0.5μm以上である。
【0048】
メッシュ状薄膜導電層30は、誘電体基材10の反対側の面(前面)にトップコート層200を有してもよい。
図18は、トップコート層200を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す模式図である。平板インダクタ50も、誘電体基材10の反対側の面(背面)にトップコート層200を有してもよい。トップコート層200の厚さ(h)は、0.1μm以上、50μm以下とできる。さらには、1μm以上、5μm以下とできる。トップコート層200は単層または多層である。トップコート層200の材質は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂の単体、混合体、複合体とできる。また、絶縁性粒子、磁性粒子、導電性粒子、または、その混合を含有してもよい。粒子は、無機粒子とできる。トップコート層200を設けることで、電波が伝搬する空気とインピーダンスが整合し、薄膜導電層に対し、電波が効果的に減衰することが可能となる。また、メッシュ状薄膜導電層30、メッシュ状平板インダクタ50に、耐食性、耐薬品性、耐熱性、耐摩擦性、耐衝撃性等を付与することが出来る。例えば、架橋したアクリル樹脂、架橋したエポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーン樹脂等を用いることにより、耐溶剤性を向上させた上で、耐熱性を向上させることが可能となる。また、ウレタン樹脂等を用いることで耐衝撃性を、シリコーン樹脂を用いることで耐摩擦性を向上させることが可能となる。
【0049】
さらに、意匠性を付与するために、トップコート層200に顔料等を含有しても良い。使用する顔料としては、有機顔料、無機顔料が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料を採用できる。無機顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、カドミウムイエロー、チタンイエロー、バリウムイエロー、オーレオリン、モリブデートオレンジ、カドミウムレッド、弁柄、鉛丹、辰砂、マルスバイオレット、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、紺青、エメラルドグリーン、クロムバーミリオン、酸化クロム、ビリジアン、鉄黒、カーボンブラック等を用いることができる。また、無機顔料の白色顔料としては、例えば、酸化チタン(チタン白、チタニウムホワイト)、酸化亜鉛(亜鉛華)、塩基性炭酸鉛(鉛白)、塩基性硫酸鉛、硫化亜鉛、リトポン、チタノックス等を用いることができる。特に無機顔料は、耐光性(耐褪色性)や耐薬品性にも優れているので、トップコート層に意匠性を付与したい場合は耐久性や堅牢性の面から見ても非常に好適である。
【0050】
トップコート層200が多層の場合は、耐久性付与層と意匠性付与層と分けても良い。必要に応じて、意匠性付与層を保護するための保護層を、意匠性付与層の上に設けても良い。また、メッシュ状薄膜導電層30に接する面に接着層や粘着層を設け、別途準備した耐久性付与層と意匠性付与層を貼り合せることにより、トップコート層200としてもよい。
本発明の電磁波減衰フィルムにトップコート層200を貼り合せる際は、メッシュ状薄膜導電体層30との間に気泡等が入らないように貼り合せることにより、所望する電磁波減衰特性を維持することが出来る。
【0051】
本発明の電磁波減衰フィルムを壁紙等の建装材へ適用する場合に、意匠性を付与するために、トップコート層200もしくは意匠性付与層に絵柄を設けても良い。絵柄の種類は、特に限定されるものではなく、壁紙等の建装材の用途に応じた任意の絵柄を用いることができる。例えば、従来の建装材の分野において広く採用されている木目柄、コルク柄、石目柄、大理石柄、抽象柄等を採用することができる。また、例えば、単なる着色や色彩調整を目的とする場合には、単色無地を採用することもできる。また、必要に応じて、凹凸模様を設けてもよい。凹凸模様の模様の種類は、特に限定されるものではなく、壁紙等の建装材の用途に応じた任意の絵柄を用いることができる。例えば、従来の壁紙等の建装材の分野において広く採用されている木目柄、石目柄、和紙柄、大理石柄、布目柄、幾何学模様状等の各種模様状を採用することができる。また、単なる艶消状や砂目状、ヘアライン状、スウェード調等を使用することもできる。凹凸模様の形成方法は、特に限定されるものではなく、凹凸模様の形成方法を用いることができる。例えば、金属製のエンボス版を使用した機械エンボス法を採用できる。
このように、意匠性を付与することによって、本発明の電磁波減衰フィルムを建装材として用いた場合に、色合いや風合いの雰囲気を空間との調和させることが可能となる。
【0052】
発明者らの検討では、導電素子を構成する金属のアドミタンス(電気抵抗の逆数)により、第一のメカニズムによる減衰が変化することが分かった。アドミタンス(siemens/m)が1000万以上で、良好な電磁波の減衰が得られた。常伝導体で最もアドミタンスが高い物質として銀が知られており、そのアドミタンスは61~66×106であることから、アドミタンスの上限値はおよそ7000万となる。アドミタンスが500万以上、7000万以下の金属を用いることができる。導電素子を構成する金属は、強磁性体、常磁性体、反磁性体、反強磁性体とできる。強磁性体の金属の実例は、ニッケル、コバルト、鉄またはその合金である。常磁性体の金属の実例は、アルミニウム、スズ(βスズ)またはその合金である。反磁性の金属の実例は、金、銀、銅、スズ(αスズ)、亜鉛またはその合金である。反磁性の合金の実例は、銅と亜鉛の合金である真鍮である。反強磁性の金属の実例は、クロムである。これらの金属の導電素子により良好な電磁波の減衰が示された。
【0053】
<製造方法>
電磁波減衰フィルム1の製造方法の一例について説明する。
【0054】
本発明の電磁波減衰フィルムを得る手段は種々考えられるが、以下に述べる製造方法が簡便且つ、薄膜導電層の配置精度が高い。
【0055】
まず、電磁波減衰基体20の製造方法を説明する。そのため誘電体基材10の前面10aと背面10bに、導電素子による所定の繰り返しパターンからなるメッシュ状薄膜導電層30、メッシュ状平板インダクタ50を、表裏同時に形成する。導電素子の形成は、所要のパターンが得られるならどのようなものでもよいが、例えばフォトリソグラフィー法を用いることができる。なお、誘電体基材10の前面10aおよび背面10bには、必要に応じて予め硫化黒化処理、置換黒化処理のいずれか一方を施して黒化層を形成しておいてもよい。
【0056】
誘電体基材10の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0057】
フォトリソグラフィー法を用いる場合、まず、誘電体基材10の前面10aと背面10bの両方に、最終的に得たいパターンの領域全てを包含するように金属膜を形成する。金属膜は、蒸着やスパッタリングなどの物理堆積によって形成してもよいし、金属箔などを貼り付けてもよい。あるいはめっきによって形成することもできる。めっきは、電解めっきまたは無電解めっきとできる。めっきは、銅めっき、無電解ニッケルめっき、電解ニッケルめっき、亜鉛めっき、電解クロムめっき、またはこれらの積層とできる。金属膜の形成は、前面10aと背面10bに同時に行なってもよいし、別々に行なってもよい。別々に行なう場合、形成する順はどちらが先でもよい。
【0058】
続いて、誘電体基材10の前面10aと背面10bに形成された金属膜に、レジスト層を形成する。レジスト層は、通常のレジスト溶液を塗工して乾燥させてもよいが、ドライフィルムレジストを用いる方法が、乾燥不足による液ダレの心配がなく好適である。レジスト層の形成は、前面10a側と背面10b側に同時に行なってもよいし、別々に行なってもよい。別々に行なう場合は形成順を問わないのも金属膜の形成と同様である。
【0059】
次に、フォトマスクなど光をパターン状に遮蔽する物質を介し、誘電体基材10の前面10a側と背面10b側に同時に露光する。本発明の実施形態において、フォトリソグラフィー法を採用する場合「同時に形成」とは、露光工程を同時に実施することを指す。前面10a側と背面10b側の計2枚のフォトマスクは、標準的にはパターンの形状および/または位置が異なる。露光時、2枚のフォトマスクの位置を適切に制御できれば、最終的に得られるメッシュ状薄膜導電層30、メッシュ状平板インダクタの位置関係は設計の通りとなり、形成後あるいは電磁波減衰フィルムの使用時にもズレの心配が最小化される。
【0060】
その後、現像液を用いて現像し、レジスト層の不要部分を除去する。現像も、誘電体基材10の前面10a側と背面10b側に同時に行なってもよいし、別々に行なってもよいが、同時に行なうと現像液の反対面側へのまわり込みによる不具合が発生する心配がないので好ましい。
【0061】
さらに、レジスト層が取り除かれて露出している部分の金属層を除去する。金属層の除去は、一般的にはウェットエッチングによって行なわれるが、露出部のみを選択的に除去できるのであればドライエッチングその他いかなる方法を用いてもよい。金属層の除去も、誘電体基材10の前面10a側と背面10b側に同時に行なってもよいし、別々に行なってもよいが、ウェットエッチングを採用するのであれば同時に行なうのが簡便である。
【0062】
最後に、不要部分が除かれ、パターンが形成された金属層、すなわち薄膜導電層30、平板インダクタ50の上に残るレジスト層を除去する。レジスト層の除去も、誘電体基材10の前面10a側と背面10b側に同時に行なってもよいし、別々に行なってもよいが、同時に行なうのが簡便である。なお、メッシュ状薄膜導電層30、メッシュ状平板インダクタにレジスト層が残っていた方が都合の良い設計上の理由があれば、この工程は省略できる。
【0063】
なお、すでに記したように、誘電体基材10へのメッシュ状薄膜導電層30、メッシュ状平板インダクタの形成はフォトリソグラフィー法によらなくてもよい。印刷法、インクジェット法、その他あらゆる形成法が適用されうる。本願発明において「同時に形成」とは、印刷法を採用する場合は転写が同時に行なわれること、インクジェット法を採用する場合は堆積が同時に行なわれることを指す。
【0064】
また、本発明の実施形態において「金属膜」は金属によらなくてもよい。例えば、PEDOT/PSSなどの導電性有機物や、InGaZnOなどの導電性酸化物であってもよい。
【0065】
これらの工程が終了したあと、必要に応じてメッシュ状薄膜導電層30、メッシュ状平板インダクタに硫化黒化処理、置換黒化処理のいずれか一方を施して黒化層を形成してもよい。
【0066】
またメッシュ状平板インダクタ50の材料としては、メッシュ状薄膜導電層30と同様のものを使用しうる。メッシュ状平板インダクタ50はメッシュ状薄膜導電層30と全く同一の材料としてもよいし、異なる材料を採用してもよい。
【0067】
そしてメッシュ状薄膜導電層30が形成された誘電体基材10の背面10b側に、メッシュ状平板インダクタ50が形成され、電磁波減衰基体20として一体化された本発明の電磁波減衰フィルム1を得ることができる。
【0068】
トップコート層200を設ける場合においては、誘電体フィルムを粘着層を介して貼合して設けてもよいが、トップコート層200の形成方法はこれに限らず、塗工方法などでもよい。塗布方法は、フィルム製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。塗布方法の例には、グラビアコート、リバースコート、グラビアリバースコート、ダイコート、フローコート等が上げられる。
【0069】
[実施例]
本発明の各実施形態について、実施例を用いてさらに説明する。
図19は、実施例1~6に示す電磁波減衰フィルムの断面の一部を示す模式図である。lはメッシュ状導電素子の重心間の距離、a(
図2(b)、
図11(b)参照)はメッシュ状導電素子の重心からメッシュ端部までの最短距離、tは誘電体基材膜厚、tmはメッシュ状導電素子膜厚、tmbはメッシュ状平板インダクタ膜厚、waはメッシュ状薄膜導電素子およびメッシュ状平板インダクタの開口幅、wはメッシュ状薄膜導電素子およびメッシュ状平板インダクタの線幅、wpはメッシュ状薄膜導電素子およびメッシュ状平板インダクタのピッチ(wp=wa+w)、hはトップコート層膜厚を示す。
実施例1~6の電磁波減衰フィルムの構造を表1に示した。実施例1~5は第一実施形態の実施例に、実施例6は第二実施形態の実施例に該当する。
【表1】
【0070】
<製造方法>
実施例1~4、6にかかる電磁波減衰フィルムを作製する共通の製造方法に関し説明する。厚みが50μmのPETシート両面に銅層をスパッタリングにて膜厚500nm形成した。次いで、銅層を洗浄した後に、ドライレジストフィルムをPETシート両面の銅層上にラミメートした。その後メッシュ状パターンを有するフォトマスクを介して両面同時に露光し、その後、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合アルカリ水溶液によってアクリル系ネガレジスト層を両面同時に現像し不要なレジストを除去することによって下地の薄膜導電層の一部を露出させた。
【0071】
次いで、レジスト層によって一部が覆われた両面の銅層を両面同時に塩化第二鉄溶液に浸漬し、銅層のなかで露出された部分をエッチングによって除去した。その後、残存したレジスト層をアルカリ溶液によって両面同時に除去することでメッシュ状銅パターンを得た。次に銅パターン表面と側面に黒化処理を施した。
以上が実施例1~4、6の製造手順である。
【0072】
実施例5にかかる電磁波減衰フィルムを作製する製造方法に関し説明する。実施例1~4、6と同様の製造手順で誘電体基材の前面及び背面に薄膜導電層を形成した後、電体基材の前面側に、トップコート層を形成した。トップコート層は以下に示す手順で形成した。
メチルメタクリレートモノマー80質量部とシクロヘキシルメタクリレート20質量部の混合物からなるアクリル系樹脂組成物を主成分とし、ここに、そのアクリル系樹脂組成物の固形分を100質量部として、上記化学式Aに示す構造を有するヒドロキシフェニルトリアジン系の紫外線吸収剤((株)ADEKA製「アデカスタブLA-46」)を6質量部、上記化学式Aに示す構造とは別の組成のヒドロキシフェニルトリアジン系の紫外線吸収剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン479」)を6質量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン329」)を3質量部、ヒンダートアミン系ラジカル補足剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン292」)を5質量部添加し、さらに固形分調整用に酢酸エチル溶剤を添加した固形分量33質量部の主剤溶液と、固形分調整用に酢酸エチル溶剤を添加した固形分量75質量部ヘキサメチレンジイソシアネート型硬化剤溶液とを、主剤溶液と硬化剤溶液の比率が10:1(この時の主剤溶液中の水酸基数と硬化剤溶液中のイソシアネート基数の比率は1:2)となるように混合し、さらに溶剤成分として酢酸エチルを添加して固形分量を20質量部に調整した塗工液を、溶剤揮発後の厚さで6μmとなるように塗工し、トップコート層を得た。以上が第一実施形態に係る実施例5の製造手順である。
【0073】
<共通評価項目>
上述した製造方法で製造した実施例1~6にかかる電磁波減衰フィルムについて、屈曲試験、電磁波減衰特性、耐候性、透過率を評価した。
(屈曲試験)
実施例1~6の電磁波減衰フィルムの屈曲試験を実施した。各実施例で作製した電磁波減衰フィルムを使い2本1セットの曲げR治具(マンドレル)の間にサンプルを挟み込み屈曲試験を実施し試験後の試験片の導電素子の位置を顕微鏡観察し、薄膜導電層の位置ずれの有無を確認した。評価結果を表1に示した。
【0074】
(電磁波減衰特性)
屈曲試験を行った後の構成を用いて、電磁波吸収特性のシミュレーションを行った。評価結果を表1に示した。
図20~25に周波数毎のモノスタティックRCS減衰量のグラフを示す。
図20は、実施例1の電磁波減衰特性を示すグラフである。75GHzで―10dBの良好な吸収特性を示した。
図21は、実施例2の電磁波減衰特性を示すグラフである。75GHzで-10dBの良好な吸収特性を示した。
図22は、実施例3の電磁波減衰特性を示すグラフである。79GHzで―15dBの良好な吸収特性を示した。
図23、実施例4の電磁波減衰特性を示すグラフである。59GHzで―17dBの良好な吸収特性を示した。
図24は、実施例5の電磁波減衰特性を示すグラフである。70GHzで―10dBの良好な吸収特性を示した。
図25は、実施例6の電磁波減衰特性を示すグラフである。73GHzで―14dBの良好な吸収特性を示した。
【0075】
(耐候性)
さらに、作製した電磁波減衰フィルムをステンレス板に粘着層を介し圧着し、サンシャインウエザーメータにて屋外暴露10年間相当の暴露を行ったのち、電磁波減衰フィルムの表面を綿布にて払拭してトップコート層、または電磁波減衰基体、サポート層、平板インダクタを含む電磁波減衰層の残存状態を確認した。評価結果を表1に示した。払拭後いずれの層にも影響がなければ〇、実用上支障ない範囲の剥がれが発生すれば△とした。
【0076】
(透過率)
透過率に関しては、白色光を電磁波減衰フィルムに入射させたときの入射強度と透過強度の比率として導出し、最低10%の透過率を示せば合格とした。
【0077】
(総合評価)
実施例1~6の電磁波減衰フィルムを作製し評価した結果、誘電体基材前面及び背面に同時形成された薄膜導電層を有する電磁波減衰フィルムでは、屈曲試験後にも薄膜導電層の位置ずれは発生せず、試験前の構造を保つことができた。
また吸収する周波数は設計通りであり、吸収量は-10dBを確保することができた。表1から、メッシュ状導電素子(前面メッシュ)とメッシュ状平板インダクタ(背面メッシュ)のズレ量が9%以内で良好な吸収性能が得られることがわかる。減衰中心波長に対する開口幅の割合が6%未満であれば良好な吸収性能が得られることもわかる。
耐候性試験の結果、トップコート層、電磁波減衰層ともに劣化がなく、特にトップコート層の形成により、耐候性が向上し、実用上特に良好な特性が得られたことを確認した。さらに透過率も合格基準を上回る値が得られた。
【0078】
(試験例1)
実施例4にかかる電磁波減衰フィルムに、耐久性付与層の上に木目柄の絵柄が設けられた意匠性付与層を積層した積層シートを別途準備し、メッシュ状薄膜導電体層30との間に気泡が入らないようにしながら接着剤で貼り合せて、本発明に関わるトップコート層200とし、試験例1の電磁波減衰フィルムとした。
その結果、実施例3と同程度の電磁波減衰特性が得られた。さらに、室内の木目柄の化粧シートの隣に試験例1の電磁波減衰フィルムを貼付したところ、試験例1の電磁波減衰フィルムは木目柄の化粧シートと違和感がなく、室内全体が木目調で調和のとれたものとなった。
【0079】
(試験例2)
実施例6にかかる電磁波減衰フィルムに、耐久性付与層の上に木目柄の絵柄が設けられた意匠性付与層を積層した積層シートを別途準備し、メッシュ状薄膜導電体層30との間に気泡が入らないようにしながら接着剤で貼り合せて、本発明に関わるトップコート層200とし、試験例2の電磁波減衰フィルムとした。
その結果、実施例6と同程度の電磁波減衰特性が得られた。さらに、室内の木目柄の化粧シートの隣に試験例2の電磁波減衰フィルムを貼付したところ、試験例2の電磁波減衰フィルムは木目柄の化粧シートと違和感がなく、室内全体が木目調で調和のとれたものとなった。
【0080】
(試験例3)
実施例4にかかる電磁波減衰フィルムに、耐久性付与層の上に大理石柄の絵柄が設けられた意匠性付与層を積層した積層シートを別途準備し、メッシュ状薄膜導電体層30との間に気泡が入らないようにしながら接着剤で貼り合せて、本発明に関わるトップコート層200とし、試験例3の電磁波減衰フィルムとした。
その結果、実施例4と同程度の電磁波減衰特性が得られた。さらに、室内の大理石柄の床材の隣に試験例3の電磁波減衰フィルムを設けたところ、試験例3の電磁波減衰フィルムは大理石柄の床材と違和感がなく、室内の大理石調の床材の高級感を損なうことが無かった。
【0081】
(試験例4)
実施例6にかかる電磁波減衰フィルムに、耐久性付与層の上に大理石柄の絵柄が設けられた意匠性付与層を積層した積層シートを別途準備し、メッシュ状薄膜導電体層30との間に気泡が入らないようにしながら接着剤で貼り合せて、本発明に関わるトップコート層200とし、試験例4の電磁波減衰フィルムとした。
その結果、実施例6と同じ電磁波減衰特性が得られた。さらに、室内の大理石柄の床材の隣に試験例4の電磁波減衰フィルムを設けたところ、試験例4の電磁波減衰フィルムは大理石柄の床材と違和感がなく、室内の大理石調の床材の高級感を損なうことが無かった。
【0082】
[比較例]
表2に比較例にかかる電磁波減衰フィルムの構造、評価結果を示す。また
図27~31に周波数毎のモノスタティックRCS減衰量のグラフを示す。
【表2】
【0083】
(比較例1)
比較例1にかかる電磁波減衰フィルムは、貼合積層体の構成を有する点で誘電体基材の前面と背面の両面に薄膜導電層と平板インダクタが形成された構成(電磁波減衰基体)を有する実施例の構成と異なる。
図26は、比較例1の電磁波減衰フィルムの断面の一部を示す模式図である。
図19と同様の構成に関しては説明を省略する。誘電体基材10の前面のみにメッシュ状薄膜導電層30が形成された貼合上層40と、別の誘電体基材10の背面にメッシュ状平板インダクタが形成された貼合下層41を粘着層12を介して積層した構成を有する。比較例1の電磁波減衰フィルムの構造を表2に示した。
【0084】
<製造方法>
実施例1に準じて、誘電体基材10の前面側だけにメッシュ状薄膜導電層30を配する貼合上層40と、誘電体基材10の背面側だけにメッシュ状平板インダクタ50を配する貼合下層41の2枚作成した。貼合上層40の背面側にアクリル系粘着層12を介し貼合下層41を貼合し、電磁波減衰フィルムを作成した。
【0085】
<評価方法・結果>
実施例1に準じて、電磁波減衰フィルムの屈曲試験、電磁波減衰特性、耐候性、透過率を評価した。評価結果を表2に示した。
比較例1の多層貼合による電磁波減衰フィルムの屈曲試験を実施後、試験片の導電素子の位置を観察した結果、貼合上層40のフィルムと貼合下層41のフィルムにずれが生じ、メッシュ状導電素子30とメッシュ状平板インダクタ50の配置位置が試験前と約5mmずれる結果であった。
図27は、比較例1の電磁波減衰特性を示すグラフである。目標の吸収周波数が設計値では75GHz付近の吸収であるのに対し、貼合積層することで作製した電磁波吸収シートでは吸収ピーク周波数は58GHzとなり、設計値から大きくずれる結果となった。
耐候性に関しては、綿布で払拭したところ薄膜金属層が剥がれさほど良好とはいえない結果となった。
【0086】
(比較例2)
比較例2にかかる電磁波減衰フィルムは、平板インダクタがメッシュ状ではない点で実施例と異なる。
【0087】
<製造方法>実施例1に準じて、厚みが50μmのPETシート両面に銅層をスパッタリングにて膜厚500nm形成した。次いで、銅層を洗浄した後に、ドライレジストフィルムをPETシート両面の銅層上にラミメートした。その後メッシュ状パターンを有するフォトマスクを片面に、その背面にはパターンを有しない遮光のフォトマスクを介して両面同時に露光し、その後、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合アルカリ水溶液によってアクリル系ネガレジスト層を両面同時に現像し不要なレジストを除去することによって下地の薄膜導電層の一部を露出させた。次いで、レジスト層によって一部が覆われた両面の銅層を両面同時に塩化第二鉄溶液に浸漬し、銅層のなかで露出された部分をエッチングによって除去した。その後、残存したレジスト層をアルカリ溶液によって両面同時に除去することで、メッシュ状のフォトマスクを介して露光した誘電体10の前面には、メッシュ状銅パターンを得、その背面にはメッシュ状でない平板インダクタを配した。その後、残存したレジスト層をアルカリ溶液によって両面同時に除去することでメッシュ状銅パターンを得た。次に銅パターン表面と側面に黒化処理を施した。
【0088】
<評価方法・結果>
実施例1に準じて、電磁波減衰フィルムの屈曲試験、電磁波減衰特性、耐候性、透過率を評価した。評価結果を表2に示した。
屈曲試験に関しては、屈曲試験後にも薄膜導電層の位置ずれは発生しなかった。
図28は、比較例2の電磁波減衰特性を示すグラフである。84GHzでー25dBの吸収量を得た。透過率については0%であり透光性、透明性は得られなかった。
【0089】
(比較例3、4、5)
比較例3、4、5は、電磁波吸収フィルムの構成要素の寸法が一部異なるほかは実施例1などにかかる電磁波吸収フィルムの構成と同様であるので、異なる点を中心に説明する。
比較例3は、メッシュ状導電素子を形成する薄膜導電性細線と誘電体基材背面10bに形成されるメッシュ状平板インダクタを形成する薄膜導電性細線の位置関係を変えた一例である。メッシュ状平板インダクタに対する、導電素子のズレ量が50%となった例である。その他は実施例1と同様である。
比較例4は、メッシュ状導電素子とメッシュ状平板インダクタのメッシュの開口幅の減衰中心波長に対する割合が10%となった例である。その他は実施例1と同様である。
比較例5は、導電素子を形成する導電性細線の最外周を囲む細線を設けた場合に、誘電体を介して背面に配置するメッシュ状平板インダクタを形成する導電性細線と、導電素子の最外周を囲む細線が同じ位置になく、メッシュ状平板インダクタに対する、導電素子のズレ量は0%の場合の例である(
図13参照)。その他は実施例6と同様である。
比較例3、4、5の電磁波減衰フィルムの構造を表2に示した。
【0090】
<製造方法>
実施例1(比較例3、4)または実施例6(比較例5)に準じて誘電体基材の前面にメッシュ状薄膜導電素子を形成し、同時に誘電体基材の背面にもメッシュ状平板インダクタを形成した。
【0091】
<評価方法・結果>
実施例1に準じて、電磁波減衰フィルムの屈曲試験、電磁波減衰特性、耐候性、透過率を評価した。評価結果を表2に示した。
屈曲試験に関しては、比較例3、4、5とも、屈曲試験後にも薄膜導電層の位置ずれは発生しなかった。
図29は、比較例3の電磁波減衰特性を示すグラフである。導電素子を形成する導電性細線と平板インダクタを形成する導電性細線の位置のズレ量が大きいため、入射した電磁波を補足することができず目標の-10dBに届かない結果であった。
図30は、比較例4の電磁波減衰特性を示すグラフである。比較例4のように、メッシュの開口幅が波長の10%まで大きくなると、吸収量が目標の-10dBに届かない結果であった。
図31は、比較例5の電磁波減衰特性を示すグラフである。比較例5のように導電素子の導電性細線の最外周を囲む細線を形成し、誘電体を介して背面に配置するメッシュ状平板インダクタと導電素子の最外周の導電性が重ならない場合に吸収量が目標のー10dBに届かない結果であった。このことから、導電素子の細線の最外周を取り囲む細線を配置する場合には、平板インダクタのメッシュ位置と重なるように配置することが望ましい(
図14参照)。
【0092】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が2以上適宜組み合わされてもよい。
【0093】
第一実施形態においては、周波数帯域や導電素子の金属種、黒化層や製造方法など第二実施形態で用いられた態様を適宜用いることができる。逆も同様である。
【0094】
本発明において、平板インダクタの態様は、背面の全面に形成するものに限られない。
例えば、前面と同様に複数の導電素子を配置してもよい。
【0095】
本発明において、導電素子の形状は正方形に限られず、円形(楕円を含む)、正方形以外の多角形、角部が丸められた各種多角形、不定形など、さまざまに設定できる。
前面の投影面積に占める導電素子の総面積は、20%以上であることが好ましい。
このようにすると、効率良く電磁波を減衰することができる。
【0096】
本発明に係る電磁波減衰フィルムにおいて、背面に平板インダクタを備えない構成がありうる。例えば、背面を接合する対象が金属であれば、平板インダクタを備えなくても接合対象の金属面により第二および第三のメカニズムが問題なく発揮される。このような場合は、背面に対象物に接合可能な粘着層等の貼合層を備えればよい。
【0097】
本発明に係る電磁波減衰フィルムにおいて、構造周期や導電素子の寸法等のパラメータは、すべての部位で完全に一致していることを必須としない。例えば、製造過程における公差の範囲(概ね上下5%程度)内で上記パラメータが変化している場合も、本発明においては、「同形同大」に含まれる。また「所定範囲の値」は、規則性のある値の範囲とできる。この規則性は、ガウシアン分布、二項分布、一定区画内で等頻度となるランダム分布または疑似ランダム分布、製造過程における公差の範囲とできる。
【0098】
本発明に関わる電磁波減衰フィルムにおいて、支持基材に剥離層を設けたのちに、第一実施形態および第2実施形態の電磁波減衰フィルムを設け、さらに接着剤・粘着剤等を設けて、転写箔としてもよい。
転写箔とすることで、さらなる薄膜化をすることが可能となり、さらに追従性を向上させることが可能となり、複雑な形状にも転写することが可能であり、本発明の電磁波減衰フィルムの適用範囲を広くすることが可能となる。
【0099】
上記実施例では、電磁波の減衰について検討しているが、特定の電磁波を減衰する導体は、電波を受信するアンテナとなることが知られている。したがって、上述した実施形態は、受信アンテナとしても使用できる。また、上述した実施形態では、2次元の系に運動量がゼロの量子が捉えられることから、導電素子の量子状態でデータの演算や記録を行う素子として用いることも可能と考えられる。
【0100】
上述のように、本発明の実施形態は、電磁波との相互作用のメカニズムが従来技術と異なるため、同等のメカニズムを発現する製品は、本発明の実施形態を実質的に用いたものであると捉えるべきである。
【0101】
本発明の内容となり得る態様を以下に述べる、ただしこれに限られるものではない。
(態様1)
前面および背面を有する誘電体基材と、前記誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、
前記メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含む、
電磁波減衰フィルム。
(態様2)
前面および背面を有する誘電体基材と、前記誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、
前記メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含み、
前記メッシュ状導電素子は周期的に配置され、
前記メッシュ状導電素子を形成する導電性細線の前記メッシュ状平板インダクタを形成する導電性細線に対するズレ量が9%以内である、態様電磁波減衰フィルム。
(態様3)
前面および背面を有する誘電体基材と、前記誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、
前記メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含み、
前記メッシュ状導電素子は周期的に配置され、
前記メッシュ状導電素子の厚さをT、表皮深さをd、としたときに下記式(4)を満たす、
電磁波減衰フィルム。
-2 ≦ ln(T/d) ≦ 1 …(4)
(態様4)
前面および背面を有する誘電体基材と、前記誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、
前記メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含み、
前記メッシュ状導電素子は周期的に配置され、
前記メッシュ状導電素子を形成するメッシュと前記メッシュ状平板インダクタを形成するメッシュは、開口幅が減衰中心波長の6%未満で、線幅が10μm以上200μm以下である、電磁波減衰フィルム。
(態様5)
前記メッシュ状薄膜導電層と前記メッシュ状平板インダクタは、前記誘電体基材の厚さ方向に離間している、態様1~4のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
(態様6)
前記メッシュ状薄膜導電層の前面および背面に黒化層を備えていることを特徴とする、態様1~5のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム
(態様7)
前記メッシュ状平板インダクタの前面および背面に黒化層を備えていることを特徴とする、態様1~6のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
(態様8)
前記電磁波減衰フィルムの前面側にトップコート層を備えていることを特徴とする、態様1~7のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
(態様9)
前記トップコート層が、電磁波が伝搬する空気層とインピーダンス整合がとられていることを特徴とする、態様8に記載の電磁波減衰フィルム。
(態様10)
前記トップコート層はシクロヘキシル(メタ)アクリレートをモノマー成分として含有するアクリル系樹脂組成物を主成分とすることを特徴とする、態様8または9に記載の電磁波減衰フィルム。
(態様11)
前記トップコート層はアクリル系樹脂組成物中に紫外線吸収剤、紫外線散乱剤を含有することを特徴とする、態様8~10のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
(態様12)
前記メッシュ状薄膜導電層または前記メッシュ状平板インダクタが、銀、銅、アルミニウムのいずれからなる、態様1~11のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
(態様13)
前記メッシュ状薄膜導電層は、前記誘電体基材の前面側から入射した電磁波を捕捉可能に構成されている、態様1~12のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
(態様14)
前記メッシュ状導電素子が面状素子であり、対向する一対の辺を有する、態様1~13のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
(態様15)
前記面状素子の、対向する一対の辺の長さは、0.25mm以上、4mm以下である、態様14に記載の電磁波減衰フィルム。
(態様16)
前記誘電体基材の厚さは、減衰中心波長に対して十分薄い、態様1~15のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
(態様17)
前記誘電体基材の厚さは、減衰中心波長の1/10未満である、態様16に記載の電磁波減衰フィルム。
【符号の説明】
【0102】
1、61 電磁波減衰フィルム
10、62 誘電体基材
10a、62a 前面
10b、62b 背面
20、60 電磁波減衰基体
30、30A、メッシュ状薄膜導電層、メッシュ状導電素子
31、32、33、34、35、36 黒化層
11、12 粘着層
40 貼合上層
41 貼合下層
50、50A メッシュ状平板インダクタ
200 トップコート層
【要約】
【課題】本発明は、吸収ピーク周波数のずれや経時での周波数特性、角度特性の変化の少なく、透光性、透明性を付与した電磁波減衰フィルムを簡便かつ低コストで得ることを目的とする。
【解決手段】本発明の電磁波減衰フィルムは、前面および背面を有する誘電体基材と、誘電体基材前面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状薄膜導電層と背面に配置され薄膜導電体の細線で形成されたメッシュ状平板インダクタと、を備え、メッシュ状薄膜導電層は、複数のメッシュ状導電素子を含む。また、メッシュ状導電素子は周期的に配置され、メッシュ状導電素子を形成する導電性細線のメッシュ状平板インダクタを形成する導電性細線に対するズレ量が9%以内であってもよい。
【選択図】
図2