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  • 特許-感光性樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】感光性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20240109BHJP
   G03F 7/023 20060101ALI20240109BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240109BHJP
   C08G 73/22 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G03F7/004 501
G03F7/023
C08G73/10
C08G73/22
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022580631
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2022004906
(87)【国際公開番号】W WO2022172913
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021020511
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】堀井 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 咲子
(72)【発明者】
【氏名】広澤 竜二
(72)【発明者】
【氏名】高田 渉
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066395(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004
G03F 7/023
C08G 73/10
C08G 73/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ可溶性樹脂、
光酸発生剤、
第一の有機溶剤、および
前記第一の有機溶剤とは異なる第二の有機溶剤、
を含む、感光性樹脂組成物であって、
前記アルカリ可溶性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの前駆体から選択される少なくとも1つを含み、
前記第一の有機溶剤が、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、2,6-ルチジン、ピルビン酸N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、およびメチル-3-メトキシプロピオネートから選択される少なくとも1つを含み、
前記第二の有機溶剤が、カルボニル基を有する複素環化合物(ただし、N-メチル-2-ピロリドンを除く)からなり
前記カルボニル基を有する複素環化合物が、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリドンから選択される少なくとも1つからなり
前記第二の有機溶剤が、当該感光性樹脂組成物全体に対して、0.2質量%以上4.0質量%以下の量である、
感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記アルカリ可溶性樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、前記ポリアミド樹脂が、以下の式(1)で表される繰り返し単位を有する、請求項1に記載の感光性樹脂組成物:
【化1】
式(1)中、
XおよびYは、有機基であり、
は、水酸基、-O-R、アルキル基、アシルオキシ基、またはシクロアルキル基であり、複数有する場合にはそれぞれ同一であっても異なってもよく、
は、水酸基、カルボキシル基、-O-R、または-COO-Rであり、複数有する場合にはそれぞれ同一であっても異なってもよく、
およびRにおけるRは、炭素数1~15の有機基であり、
として水酸基がない場合、Rの少なくとも1つはカルボキシル基であり、
としてカルボキシル基がない場合、Rの少なくとも1つは水酸基であり、
mは0~8の整数であり、
nは0~8の整数である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
従来、半導体素子の表面保護膜や、層間絶縁膜として、優れた耐熱性、電気特性、および機械特性を有するポリアミド樹脂が用いられている。このようなポリアミド樹脂は、半導体素子の保護膜、層間絶縁膜として用いるためにパターン形成工程に供されるため、有機溶媒に溶解し、感光剤を配合して、ワニス状の感光性樹脂組成物として提供される。
【0002】
これに関連して、特許文献1に開示された技術が知られている。特許文献1では、ポリイミド前駆体又はポリベンゾオキサゾール前駆体と特定構造を有する極性溶媒とを含む感光性樹脂組成物において、感光性樹脂組成物中のN-メチル-2-ピロリドンの含有量を0.1質量%以下に調整することにより、時間の変化とともにゲル化せず、感度および機械特性が改善された樹脂組成物を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開公報第2014/115233号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、環境への負荷を減らす観点から、樹脂組成物中のN-メチル-2-ピロリドンの含有量を低減させるべく、適切な溶媒等の選択がなされている。
しかしながら、特許文献1の合成例1等として記載されている樹脂を作製する段階においては、このN-メチル-2-ピロリドンがいわゆる合成溶媒として用いられ、反応後にN-メチル-2-ピロリドンを低減するための有機層の洗浄を行う操作がなされている。このような操作はプロセスの煩雑化を招き、また、スケールアップを行った際ではN-メチル-2-ピロリドンが残存してしまうことが懸念される。
【0005】
このような事情を鑑み、本発明は、環境への負荷が高いN-メチル-2-ピロリドンの含有量が低減された感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
アルカリ可溶性樹脂、
光酸発生剤、
第一の有機溶剤、および
前記第一の有機溶剤とは異なる第二の有機溶剤、
を含む、感光性樹脂組成物であって、
前記アルカリ可溶性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの前駆体から選択される少なくとも1つを含み、
前記第一の有機溶剤が、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、2,6-ルチジン、ピルビン酸N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、およびメチル-3-メトキシプロピオネートから選択される少なくとも1つを含み、
前記第二の有機溶剤が、カルボニル基を有する複素環化合物(ただし、N-メチル-2-ピロリドンを除く)からなり
前記カルボニル基を有する複素環化合物が、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリドンから選択される少なくとも1つからなり
前記第二の有機溶剤が、当該感光性樹脂組成物全体に対して、0.2質量%以上4.0質量%以下の量である、感光性樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環境負荷の大きいN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の含有量が低減された感光性樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の感光性樹脂組成物から製造される樹脂膜を永久膜として備える電子装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本明細書中、「~」はとくに断りがなければ、「以上から以下」を表す。
【0010】
[感光性樹脂組成物]
本実施形態に係る感光性樹脂組成物は、アルカリ可溶性樹脂、光酸発生剤、第一の有機溶剤、および前記第一の有機溶剤とは異なる第二の有機溶剤を含む。本実施形態の感光性樹脂組成物において、前記アルカリ可溶性樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの前駆体から選択される少なくとも1つを含む。また、本実施形態の感光性樹脂組成物において、前記第二の有機溶剤は、カルボニル基を有する複素環化合物(ただし、N-メチル-2-ピロリドンを除く)を含み、前記第二の有機溶剤が、当該感光性樹脂組成物全体に対して、0.001質量%以上4.0質量%以下の量である。
【0011】
本実施形態の感光性樹脂組成物において、第一の有機溶剤は、感光性樹脂組成物の各成分を溶解または分散させて、当該感光性樹脂組成物を所望の粘度を有するワニス状物として提供するために用いられる主溶剤である。本実施形態の感光性樹脂組成物において、第二の有機溶剤は、当該感光性樹脂組成物に配合されるアルカリ可溶性樹脂の製造および/またはその精製処理において用いられた合成溶媒であり、用いられるアルカリ可溶性樹脂に不可避的に残存する溶媒である。本実施形態の感光性樹脂組成物において、第二の有機溶剤は、感光性樹脂組成物全体に対して、0.001質量%以上4.0質量%以下の量である。本実施形態の感光性樹脂組成物は、第二の有機溶剤として、N-メチル-2-ピロリドンを含まない。これは、合成溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを使用していないアルカリ可溶性樹脂を使用することにより達成され得る。さらに、本実施形態において、アルカリ可溶性樹脂は、不可避的な合成溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン以外のカルボニル基を有する複素環化合物を含む。すなわち、本実施形態で用いられるアルカリ可溶性樹脂は、その合成溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン以外のカルボニル基を有する複素環化合物を使用して製造される。これにより、本実施形態の感光性樹脂組成物は、N-メチル-2-ピロリドンを含有せず、よって環境に対する負荷が低減される。以下、本実施形態の感光性樹脂組成物に用いられる各成分について説明する。
【0012】
(アルカリ可溶性樹脂)
本実施形態の感光性樹脂組成物に用いられるアルカリ可溶性樹脂は、ポリアミド樹脂、もしくはポリイミド樹脂、またはそれらの前駆体である。より具体的には、アルカリ可溶性樹脂は、一般式(1)で表される構造を有する樹脂である。
【0013】
【化1】
【0014】
一般式(1)において、XおよびYは、有機基である。Rは、水酸基、-O-R、アルキル基、アシルオキシ基、またはシクロアルキル基であり、複数有する場合にはそれぞれ同一であっても異なっても良い。Rは、水酸基、カルボキシル基、-O-R、または-COO-Rであり、複数有する場合にはそれぞれ同一であっても異なっても良い。RおよびRにおけるRは、炭素数1~15の有機基である。Rとして水酸基がない場合、Rの少なくとも1つはカルボキシル基である。Rとしてカルボキシル基がない場合は、Rの少なくとも1つは水酸基である。mは0~8の整数であり、nは0~8の整数である。Rとしての炭素数1~15の有機基としては、ホルミル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、ターシャリーブトキシカルボニル基、フェニル基、ベンジル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。
【0015】
上記一般式(1)のXとしての有機基は、特に限定されるものではないが、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環及びビスフェノール構造等の構造からなる芳香族基;ピロール環及びフラン環等の構造からなる複素環式有機基;シロキサン基等が挙げられる。より具体的には下記式(12)で表されるものが好ましい。これらは、必要により1種類または2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
【化2】
【0017】
式(12)中、*は、一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。Zは、アルキレン基、置換アルキレン基、-O-C-O-、-O-、-S-、-SO-、-C(=O)-、-NHC(=O)-または単結合である。Rは、アルキル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子から選ばれた1つを示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Rは、水素原子、アルキル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子から選ばれた1つを示す。uは0~4の整数である。R~R10はそれぞれ1価または2価の有機基である。
なお、上記式(12)において、上記一般式(1)におけるXの置換基Rは省略している。
【0018】
上記式(12)で表わされる基の中で特に好ましいものとしては、下記式(13)で表されるもの(一般式(1)中のRを有するものもあり)が挙げられる。
【0019】
【化3】
【0020】
式(13)中、*は一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。式中Zは、アルキレン基、置換アルキレン基、-O-、-S-、-SO-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、-CH-、-C(CH)H-、-C(CH-、-C(CF-、又は単結合である。R11は、アルキル基、アルコキシ基、アシルオキシ基及びシクロアルキル基から選ばれる1つであり、R11が複数ある場合、それぞれ同じでも異なってもよい。vは0以上3以下の整数である。
【0021】
上記式(13)で表わされる基の中で特に好ましいものとしては、下記式(14)で表されるもの(一般式(1)中のRを有するものもあり)が挙げられる。
【0022】
【化4】
【0023】
式(14)中、*は一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。R12はアルキレン基、置換アルキレン基、-O-、-S-、-SO-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、―C(CF―、単結合から選ばれる有機基である。
【0024】
上記式(12)及び式(13)におけるZ及び上記式(14)におけるR12としてのアルキレン基、置換アルキレン基の具体的な例としては、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-CH(CHCH)-、-C(CH)(CHCH)-、-C(CHCH)(CHCH)-、-CH(CHCHCH)-、-C(CH)(CHCHCH)-、-CH(CH(CH)-、-C(CH)(CH(CH)-、-CH(CHCHCHCH)-、-C(CH)(CHCHCHCH)-、-CH(CHCH(CH)-、-C(CH)(CHCH(CH)-、-CH(CHCHCHCHCH)-、-C(CH)(CHCHCHCHCH)-、-CH(CHCHCHCHCHCH)-及び-C(CH)(CHCHCHCHCHCH)-等が挙げられる。これらの中でも、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-が、アルカリ水溶液だけでなく、溶剤に対しても十分な溶解性を持つ、よりバランスに優れる樹脂膜を得ることができるため好ましい。
【0025】
また、上記一般式(1)におけるYは有機基であり、このような有機基としては上記Xと同様のものが挙げられる。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環及びビスフェノール構造等の構造からなる芳香族基;ピロール環、ピリジン環及びフラン環等の構造からなる複素環式有機基;シロキサン基等が挙げられ、より具体的には下記式(15)で示されるものを好ましく挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
【化5】
【0027】
式(15)中、*は、一般式(1)におけるC=O基に結合することを示す。Jは、-CH-、-C(CH-、-O-、-S-、-SO-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、-C(CF-または単結合である。R13は、アルキル基、アルキルエステル基、アルキルエーテル基、ベンジルエーテル基及びハロゲン原子から選ばれた1つを示し、それぞれ同じでも異なってもよい。R14は、水素原子、アルキル基、アルキルエステル基及びハロゲン原子から選ばれた1つを示す。wは0以上2以下の整数である。R15~R18はそれぞれ1価または2価の有機基である。
なお、上記式(15)において、上記一般式(1)におけるYの置換基Rは省略している。
【0028】
これら式(15)で表わされる基の中で特に好ましいものとしては、下記式(16)で表されるもの(一般式(1)中のRを有するものもあり)が挙げられる。
下記式(16)中のテトラカルボン酸二無水物由来の構造については、一般式(1)におけるC=O基に結合する位置が両方メタ位であるもの、両方パラ位であるものを挙げているが、メタ位とパラ位をそれぞれ含む構造でもよい。
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
【化8】
【0032】
式(16)中、*は一般式(1)におけるC=O基に結合することを示す。R19は、アルキル基、アルキルエステル基、アルキルエーテル基、ベンジルエーテル基及びハロゲン原子の内から選ばれた1つを表し、それぞれ同じでも異なっていてもよい。R20は、水素原子又は炭素数1以上15以下の有機基から選ばれた1つを示し、一部が置換されていてもよい。xは0以上2以下の整数である。
【0033】
アルカリ可溶性樹脂は、一般式(2)で表されるジカルボン酸化合物と、一般式(3)で表されるジアミン化合物との反応により得られる。より詳細には、アルカリ可溶性樹脂は、以下の工程1および工程2により製造される
(工程1)下記一般式(2)で表されるカルボン酸化合物を活性化し、カルボン酸活性化物を得る工程。
(工程2)(工程1)で得られたカルボン酸活性化物に対して、下記一般式(3)で表されるアミン化合物を作用させ、式(1)で表される樹脂を得る工程。ここで、(工程1)、(工程2)の少なくとも一方は、N-メチル-2-ピロリドン以外の、カルボニル基を有する複素環化合物を含む溶媒中で行われる。
【0034】
【化9】
【0035】
一般式(2)中におけるYおよびR、nは、一般式(1)に示されたものと同義である。
【0036】
【化10】
【0037】
一般式(3)中におけるXおよびR、mは一般式(1)に示されたものと同義である。
【0038】
上述の工程1または工程2がN-メチル-2-ピロリドン以外の溶媒中で行われることにより、アルカリ可溶性樹脂に含まれるN-メチル-2-ピロリドンの残存溶媒量が少なくなる。結果として、このアルカリ可溶性樹脂を含む感光性樹脂組成物の環境負荷が低減される。また、特に工程2がN-メチル-2-ピロリドン以外の溶媒中で行われることにより、更に環境負荷の低減を図ることができるとともに、式(1)で表される樹脂の高分子量化を促進することができる。
【0039】
工程1、工程2の少なくとも一方は、N-メチル-2-ピロリドン以外の、カルボニル基を有する複素環化合物を含む溶媒中で行われる。工程1および工程2において、同じ溶媒を用いてもよく、異なる溶媒を用いてもよいが、生産性・反応効率を向上させる観点から、同じ溶媒であることが好ましい。
【0040】
工程2がN-メチル-2-ピロリドン以外のカルボニル基を有する複素環化合物を含む溶媒中で行われる場合、ジカルボン酸化合物とジアミン化合物との反応率が向上する理由は必ずしも明らかではないが、カルボニル基を有する複素環化合物を有する溶媒と、従来の非環状化合物からなる溶媒とではモノマー分子の反応性が異なることが推測される。詳細は、未だ明らかではないが、通常、感光性樹脂の合成過程においては、反応を終了させるための酸無水物のエンドキャップ化合物を末端のアミド基に反応させている。これに対し、カルボニル基を有する複素環化合物を含む溶媒を用いることにより、酸無水物のエンドキャップ化合物が末端のアミド基に反応することを適度に制御し、末端の反応率が向上すると考えられる。
【0041】
また、カルボニル基を有する5員環の複素環を有する溶媒を使用した場合、感光性樹脂のモノマー分子同士の反応性も同様に適度に制御され、分子量を増加しやすくできると考えられる。なかでも、カルボニル基を有する複素環化合物として、5員環の複素環を選択したとき、かかる作用効果が顕著に得られる。
【0042】
カルボニル基を有する複素環化合物は、アミド結合を有する前駆体や、その他樹脂成分に対しての溶解性が高く、また、適度な極性を有しているため、上述の工程1または工程2において、その反応を円滑に進行させることができる。また、工程1および工程2において、同じ溶媒を用いてもよく、異なる溶媒を用いてもよいが、生産性・反応効率を向上させる観点から、同じ溶媒であることが好ましい。
【0043】
カルボニル基を有する複素環化合物としては、4員環、5員環、6員環、7員環等が挙げられるが、なかでも5員環であることが好ましい。これら、カルボニル基を有する複素環化合物は、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭化水素基により一部が置換されていてもよい。
また、カルボニル基を有する複素環化合物としては、当該複素環以外にさらに窒素原子を含む化合物(以下、「窒素原子を有するカルボニル基含有複素環化合物(i)」とする。)が挙げられる。本実施形態の感光性樹脂組成物は、上記の窒素原子を有するカルボニル基含有複素環化合物(i)を用いることで、より良好な反応性が得られ、適度な溶解性により、開口部残渣を低減できる。
【0044】
また、上記のカルボニル基を有する5員環の複素環における複素環としては、フラン、ピロール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、およびピラゾールの中から選ばれる1種または2種以上であることが好ましく、反応効率を向上させる観点から、ピロール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、およびピラゾールの中から選ばれる1種または2種以上であることがより好ましい。また、異なる種類の複素環を組み合わせてもよい。
【0045】
具体的には、カルボニル基を有する上記フランとしては、例えばγ-ブチロラクトン(GBL)、が挙げられ、カルボニル基を有する上記ピロールとしては、例えばN-エチル-2-ピロリドン(NEP)が挙げられ、カルボニル基を有する上記イミダゾールとしては、例えば1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)が挙げられ、カルボニル基を有する上記オキサゾールとしては、例えば3-メチル-2-オキサゾリドン(MOZ)が挙げられる。
中でも、N-エチル-2-ピロリドン、3-メチル-2-オキサゾリドン等は、上記の窒素原子を有するカルボニル基含有複素環化合物(i)の一例として、挙げられる。
なお、感光性樹脂の分子量が増加する観点及び感光性樹脂のエンドキャップとの反応性が促進される観点から、γ-ブチロラクトンまたは3-メチル-2-オキサゾリドンの少なくとも一方を選択することが好ましい。
【0046】
また、本実施形態の溶媒は、異なる種類の溶媒を併用してもよい。例えば、異なる種類のカルボニル基を有する複素環化合物を併用してもよく、異なる種類の上記の窒素原子を有するカルボニル基含有複素環化合物(i)を併用してもよく、カルボニル基を有する複素環化合物以外の溶媒を用いてもよい。
【0047】
すなわち、工程1または工程2のいずれかに用いられる溶媒として、上述のカルボニル基を有する複素環化合物以外にも、通常溶媒として用いられる化合物を併用することもできる。
併用される溶媒としては、公知の溶媒を用いることができるが、反応性が促進され、良好な溶解性を得る観点から、カルボニル基を有さないが、当該複素環以外に窒素原子を含む複素環化合物(ii)、および、窒素原子およびカルボニル基を有する化合物(iii)を用いることが好適である。
また、良好な溶解性を保持する観点から、例えば、上記の窒素原子を有するカルボニル基含有複素環化合物(i)と、上記のカルボニル基を有さないが、当該複素環以外に窒素原子を含む複素環化合物(ii)とを併用すること、または、上記の窒素原子を有するカルボニル基含有複素環化合物(i)と、窒素原子およびカルボニル基を有する化合物(iii)とを併用してもよい。
【0048】
溶媒を混合する場合の混合割合としては、本実施形態のカルボニル基を有する複素環化合物100重量部に対して、当該カルボニル基を有する複素環化合物以外の化合物が、1~40重量部が好ましく、1~30重量部がより好ましい。
【0049】
このような化合物として具体的には、2,6-ルチジン,ピルビン酸N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、およびピルビン酸エチル及びメチル-3-メトキシプロピオネート等が挙げられる。
【0050】
また、工程1または工程2において、上述のカルボニル基を有する複素環化合物を溶媒として用いることが好ましいが、発明の目的を損なわない範囲であれば、N-メチル-2-ピロリドンをこの溶媒に含めることができる。
このN-メチル-2-ピロリドンの含有量は溶媒全体に対して80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが殊更に好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。さらに、N-メチル-2-ピロリドンは溶媒に対して実質的に含まれていないことがとりわけ好ましい。
なお、この「実質的に含まれていない」とは、N-メチル-2-ピロリドンを意図的に添加する態様を排除する趣旨で用いており、製造プロセス上、このN-メチル-2-ピロリドンの混入を避けることが不可避である態様は許容するものである。
【0051】
(光酸発生剤)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、光酸発生剤を含む。光酸発生剤は、活性光線(たとえば、紫外線、電子線、X線)の照射により光を発生する化合物であり、好ましくは、200~500nmの波長、特に好ましくは350~450nmの波長の放射線の照射により酸を発生する化合物である。このような光酸発生剤としては、感光性ジアゾキノン化合物、感光性ジアゾナフトキノン化合物、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩もしくはスルホニウム・ボレート塩などのオニウム塩、2-ニトロベンジルエステル化合物、N-イミノスルホネート化合物、イミドスルホネート化合物、2,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン化合物、ジヒドロピリジン化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
光酸発生剤は、感光性樹脂組成物の固形分全体に対して、0.5質量%以上10質量%以下、好ましくは1質量%以上5質量%以下の量で使用される。
【0052】
(第一の有機溶剤)
本実施形態の感光性樹脂組成物に主溶剤として用いられる第一の有機溶剤としては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)、2,6-ルチジン、ピルビン酸N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、およびメチル-3-メトキシプロピオネートが挙げられる。第一の有機溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
感光性樹脂組成物中の第一の有機溶剤の含有量は、感光性樹脂組成物の用途に適切な所望の粘度に応じて調整することができる。第一の有機溶剤の含有量は、感光性樹脂組成物全体に対して、例えば、10~80質量%であり、好ましくは、20~70質量%である。
【0054】
(第二の有機溶剤)
本実施形態の感光性樹脂組成物に含まれる第二の有機溶剤は、アルカリ可溶性樹脂に含まれる溶剤、具体的には、アルカリ可溶性樹脂の製造および/またはその精製処理において用いられた合成溶媒であり、アルカリ可溶性樹脂に不可避的に残存する溶剤である。アルカリ可溶性樹脂の合成溶媒は、抽出や蒸留などの公知の方法により除去することができるが、完全に除去することは困難であり、また合成溶媒を低減すると、アルカリ可溶性樹脂の取扱い性が悪化する場合がある。アルカリ可溶性樹脂に残存する合成溶媒がほとんど無いもしくはまったく無い場合、アルカリ可溶性樹脂の溶解性が悪くなり、樹脂組成物の保存安定性が悪化する場合があった。アルカリ可溶性樹脂に合成溶媒を残存させることにより、上述の不利点を相殺することができ、経時的な高粘度化が抑制され、よって優れた保存安定性および取扱い性を有する感光性樹脂組成物を得ることができる。しかしながら、アルカリ可溶性樹脂に残存する合成溶媒が多すぎると感光性樹脂組成物の塗膜のアルカリ現像液に対する溶解性が高まり、露光部のみでなく未露光部の塗膜もアルカリ現像液により多く溶解し、結果として露光部に相当する開口部の底部に残渣が発生することになる。本実施形態の感光性樹脂組成物において、第二の有機溶剤は、感光性樹脂組成物全体に対して、0.001質量%以上4.0質量%以下の量である。これにより、樹脂組成物の取扱い性が損なわれることなく、ワニス状の感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0055】
第一の有機溶剤と第二の有機溶剤とは、特定の組み合わせで使用することができる。例えば、用いるアルカリ可溶性樹脂に含まれる第二の有機溶媒に応じて、第一の有機溶剤を適宜選択して、感光性樹脂組成物を調製することができる。これにより、アルカリ可溶性樹脂の溶解性を調整することができ、よって得られる感光性樹脂組成物の保存安定性および取り扱い性を改善することができる。第一の有機溶剤と第二の有機溶剤との好ましい組み合わせとしては、例えば、第一の有機溶剤が、γ-ブチロラクトン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジメチルスルホキシドから選択される少なくとも1種であり、第二の有機溶剤が、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、および3-メチル-2-オキサゾリドンから選択される少なくとも1種である態様が挙げられる。
【0056】
[感光性樹脂組成物の製造]
本実施形態の感光性樹脂組成物は、上述したアルカリ可溶性樹脂、光酸発生剤、および必要に応じてその他の成分を、第一の有機溶剤と混合することにより得られる。本実施形態の感光性樹脂組成物は、取扱い性の観点から、第一の有機溶媒に溶解または分散されたワニスまたは溶液の形態で提供される。
【0057】
[感光性樹脂組成物の用途]
本実施形態の感光性樹脂組成物を硬化することにより、樹脂膜を製造することができる。得られる樹脂膜は、たとえば保護膜、層間膜、またはダム材等の永久膜として使用することができる。これにより、当該樹脂膜を永久膜として備える電子装置について、耐久性等の向上を図ることができる。
【0058】
次に、本実施形態の感光性樹脂組成物を適用した電子装置100の一例について説明する。
図1に示す電子装置100は、たとえば半導体チップである。この場合、たとえば電子装置100を、バンプ52を介して配線基板上に搭載することにより半導体パッケージが得られる。電子装置100は、トランジスタ等の半導体素子が設けられた半導体基板と、半導体基板上に設けられた多層配線層と、を備えている(図示せず)。多層配線層のうち最上層には、層間絶縁膜30と、層間絶縁膜30上に設けられた最上層配線34が設けられている。最上層配線34は、たとえばAlにより構成される。また、層間絶縁膜30上および最上層配線34上には、パッシベーション膜32が設けられている。パッシベーション膜32の一部には、最上層配線34が露出する開口が設けられている。
【0059】
パッシベーション膜32上には、再配線層40が設けられている。再配線層40は、パッシベーション膜32上に設けられた絶縁層42と、絶縁層42上に設けられた再配線46と、絶縁層42上および再配線46上に設けられた絶縁層44と、を有する。絶縁層42には、最上層配線34に接続する開口が形成されている。再配線46は、絶縁層42上および絶縁層42に設けられた開口内に形成され、最上層配線34に接続されている。絶縁層44には、再配線46に接続する開口が設けられている。
【0060】
本実施形態においては、パッシベーション膜32、絶縁層42および絶縁層44のうちの一つ以上を、たとえば上述の感光性樹脂組成物を硬化することにより形成される樹脂膜により構成することができる。この場合、たとえば感光性樹脂材料により形成される塗布膜に対し紫外線を露光し、現像を行うことによりパターニングした後、これを加熱硬化することにより、パッシベーション膜32、絶縁層42または絶縁層44が形成される。
【0061】
絶縁層44に設けられた開口内には、たとえばUBM(Under Bump Metallurgy)層50を介してバンプ52が形成される。電子装置100は、たとえばバンプ52を介して配線基板等に接続される。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、実施形態の例を付記する。
1. アルカリ可溶性樹脂、
光酸発生剤、
第一の有機溶剤、および
前記第一の有機溶剤とは異なる第二の有機溶剤、
を含む、感光性樹脂組成物であって、
前記アルカリ可溶性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびそれらの前駆体から選択される少なくとも1つを含み、
前記第二の有機溶剤が、カルボニル基を有する複素環化合物(ただし、N-メチル-2-ピロリドンを除く)を含み、
前記第二の有機溶剤が、当該感光性樹脂組成物全体に対して、0.001質量%以上4.0質量%以下の量である、
感光性樹脂組成物。
2. 前記カルボニル基を有する複素環化合物が、ピロール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、およびピラゾール、ならびにこれらの誘導体から選択される少なくとも1つを含む、1.に記載の感光性樹脂組成物。
3. 前記カルボニル基を有する複素環化合物が、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリドンから選択される少なくとも1つを含む、1.または2.に記載の感光性樹脂組成物。
4. 前記第一の有機溶剤が、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、2,6-ルチジン、ピルビン酸N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル-1,3-ブチレングリコールアセテート、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、およびメチル-3-メトキシプロピオネートから選択される少なくとも1つを含む、1.~3.のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
5. 前記アルカリ可溶性樹脂が、ポリアミド樹脂を含み、前記ポリアミド樹脂が、以下の式(1)で表される繰り返し単位を有する、1.~4のいずれかに記載の感光性樹脂組成物:
【化1】
式(1)中、
XおよびYは、有機基であり、
は、水酸基、-O-R 、アルキル基、アシルオキシ基、またはシクロアルキル基であり、複数有する場合にはそれぞれ同一であっても異なってもよく、
は、水酸基、カルボキシル基、-O-R 、または-COO-R であり、複数有する場合にはそれぞれ同一であっても異なってもよく、
およびR におけるR は、炭素数1~15の有機基であり、
として水酸基がない場合、R の少なくとも1つはカルボキシル基であり、
としてカルボキシル基がない場合、R の少なくとも1つは水酸基であり、
mは0~8の整数であり、
nは0~8の整数である。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
[アルカリ可溶性樹脂の合成]
以下に示す方法で、アルカリ可溶性樹脂を合成した。各合成例で使用した溶媒を以下に示す。
・溶媒1:N-エチル-2-ピロリドン(NEP)
・溶媒2:1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)
・溶媒3:3-メチル-2-オキサゾリドン(MOZ)
・溶媒4:N-メチル-2-ピロリドン(NMP)
・溶媒5:γ-ブチロラクトン(GBL)
【0065】
(合成例1)
以下に示す手順で、溶媒1(NEP)を用いて、アミド結合を有する前駆体を得た。具体的には、以下の通りである。また、得られたアミド結合を有する前駆体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を測定し、結果を表1に示した。
ジフェニルエーテル-4,4'-ジカルボン酸258.2g(1モル)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール270.3g(2モル)とを溶媒1(1500g)に溶解した後、溶媒1(412g)に溶解したジシクロヘキシルカルボジイミド412.7g(2モル)を内温0~5℃に保ちながら2時間かけて滴下した。滴下終了後、内温を室温に戻し更に12時間撹拌して反応させた。反応終了後、析出したジシクロヘキシルカルボジウレアを濾過によって取り除き、得られた濾液に純水4000gを滴下し、結晶を析出させた。この結晶を濾過によって採取し、イソプロピルアルコール8000mlを用いて洗浄した後、真空乾燥し、ジカルボン酸誘導体467gを得た。
得られたジカルボン酸誘導体40.87g(0.083モル)と、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン36.63g(0.1モル)とを温度計、攪拌機、原料投入口、乾燥窒素ガス導入管を備えた4つ口のセパラブルフラスコに入れ、溶媒1(180.8g)を加えて溶解させた。その後窒素を流しながら、オイルバスを用いて75℃まで昇温し、75℃にて12時間反応させた。次に、溶媒1(13.0g)に溶解させた3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物5.58g(0.034モル)を加え、さらに3時間攪拌した後、室温まで冷却し反応を終了した。
次に、反応混合物をろ過した後、反応混合物を水/イソプロピルアルコール=3/1の溶液に投入、沈殿物を濾集し水で充分洗浄した後、真空下で乾燥し、一般式(A-1)の繰り返し単位をもつアミド結合を有する前駆体(300~400℃で加熱すると脱水閉環し、ポリベンゾオキサゾールとなる樹脂、アルカリ可溶性樹脂1)を得た。
【0066】
得られたアルカリ可溶性樹脂1は、以下に示す繰り返し単位(A-1)を有するものであった。
【0067】
【化11】
【0068】
(合成例2)
溶媒1を溶媒2(DMI)に変更した以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂2を合成した。
【0069】
(合成例3)
溶媒1を溶媒3(MOZ)に変更した以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂3を合成した。
【0070】
(合成例4)
溶媒1を溶媒4(NMP)に変更した以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂4を合成した。
【0071】
(合成例5)
合成例1における沈殿物を濾集し水で洗浄する時間を2倍に変更した以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂5を合成した。
【0072】
(合成例6)
合成例1における沈殿物を濾集し水で洗浄する時間を半分に変更した以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂6を合成した。
【0073】
(合成例7)
溶媒1を、溶媒1(NEP)と溶媒2(DMI)の1:1(質量比)混合溶液に変更した以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂7を合成した。
【0074】
(合成例8)
溶媒1を、溶媒1(NEP)と溶媒3(MOZ)の1:1(質量比)混合溶液に変更した以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂8を合成した。
【0075】
(合成例9)
3,3'-ジアミノ-4,4'-ジヒドロキシジフェニルスルホン44.9g(0.16モル)と2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフロロプロパン58.6g(0.16モル)と溶媒1(75.0g)とを温度計、攪拌機、原料投入口、乾燥窒素ガス導入管を備えた4つ口のセパラブルフラスコに入れ、溶媒5(230.5g)を加えて溶解させた。この混合溶液に4,4'-オキシジフタル酸無水物93.1g(0.30モル)をγ-ブチロラクトン120gと共に添加した後、室温で60分間撹拌した。その後、オイルバスを用いて125℃にて8時間撹拌して反応させた。この反応混合物の温度を60℃に冷却した後、5-エチニル-イソベンゾフラン-1,3-ジオン5.2g(0.030モル)をγ-ブチロラクトン40gと共に添加し、80℃にて3時間撹拌して反応を終了させて、ポリイミド前駆体であるアルカリ可溶性樹脂9を合成した。
【0076】
(合成例10)
溶媒1を使用しなかったこと以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂10を合成した。
【0077】
(合成例11)
溶媒1(NEP)の使用量を6倍量に変更した以外は、合成例1と同様の方法により、アルカリ可溶性樹脂11を合成した。
【0078】
[感光性樹脂組成物の作製]
(実施例1~13、比較例1~3)
表1に記載の配合にしたがって、樹脂組成物を作製した。詳細には、上記の合成例で得られたアルカリ可溶性樹脂を、表1に記載の第一の有機溶剤に溶解し、光酸発生剤を加え、さらにその他の成分を加えて、感光性樹脂組成物を得た。得られた感光性樹脂組成物中に含まれる、アルカリ可溶性樹脂に含まれる溶媒(第二の有機溶剤)の量を、感光性樹脂組成物全体に対する割合(質量%)として表1に記載する。また表1に記載の各成分は以下のとおりである。
【0079】
(アルカリ可溶性樹脂)
・アルカリ可溶性樹脂1:合成例1で合成したアルカリ可溶性樹脂1
・アルカリ可溶性樹脂2:合成例2で合成したアルカリ可溶性樹脂2
・アルカリ可溶性樹脂3:合成例3で合成したアルカリ可溶性樹脂3
・アルカリ可溶性樹脂4:合成例4で合成したアルカリ可溶性樹脂4
・アルカリ可溶性樹脂5:合成例5で合成したアルカリ可溶性樹脂5
・アルカリ可溶性樹脂6:合成例6で合成したアルカリ可溶性樹脂6
・アルカリ可溶性樹脂7:合成例7で合成したアルカリ可溶性樹脂7
・アルカリ可溶性樹脂8:合成例8で合成したアルカリ可溶性樹脂8
・アルカリ可溶性樹脂9:合成例9で合成したアルカリ可溶性樹脂9
・アルカリ可溶性樹脂10:合成例10で合成したアルカリ可溶性樹脂10
・アルカリ可溶性樹脂11:合成例11で合成したアルカリ可溶性樹脂11
【0080】
(第一の有機溶剤)
・GBL:γ-ブチロラクトン
・GVL:γ-バレロラクトン
・PGME:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
・DMSO:ジメチルスルホキシド
【0081】
(光酸発生剤)
・光酸発生剤1:以下の方法で合成した式(B-2)で表される化合物
(式(B―2)で表される化合物の合成)
温度計、攪拌機、原料投入口、乾燥窒素ガス導入管を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、式(B-1)で表されるフェノール11.04g(0.026モル)と、1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-4-スルホニルクロライド18.81g(0.070モル)と、アセトン170gと、を入れて撹拌し、溶解させた。次いで、反応溶液の温度が35℃以上にならないようにウォーターバスでフラスコを冷やしながら、トリエチルアミン7.78g(0.077モル)とアセトン5.5gの混合溶液をゆっくり滴下した。そのまま室温で3時間反応させた後、酢酸1.05g(0.017モル)を添加し、さらに30分反応させた。次いで、反応混合物をろ過した後、ろ液を水/酢酸(990ml/10ml)の混合溶液に投入した。次いで、沈殿物を濾集して水で充分洗浄した後、真空下で乾燥した。これにより、式(B-2)の構造で表される化合物を得た。
【0082】
【化12】
【0083】
(密着助剤)
・密着助剤1:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製)
(溶解促進剤)
・溶解促進剤1:2,2'-ジヒドロキシジフェニルメタン
【0084】
[感光性樹脂組成物の性能評価]
(実施例1~12、比較例1~3)
上述で得られた感光性樹脂組成物の各々について、下記の項目の性能を評価した。評価結果を表1に示す。
(粘度安定性)
上述で得られた感光性樹脂組成物を25℃での粘度をηとし、23℃の条件下にて7日間保管した後における25℃での粘度をηとして、η/ηの値を下記の基準により評価した。η/ηの値が小さいほど、粘度の経時変化が小さく、粘度安定性が良好であることを表す。
η/η≦5% : ◎
5%<η/η≦10% : 〇
10%<η/η≦20% : △
20%<η/η : ×
なお、感光性樹脂組成物の粘度は、東機産業株式会社製TVE-22Hデジタル粘度計を用いて測定した。
【0085】
(パターニング評価)
上述で得られた感光性樹脂組成物を、それぞれ、8インチシリコンウェハ上にスピンコーターを用いて塗布した後、ホットプレートにて120℃で4分間プリベークし、膜厚約8.0μmの塗膜を得た。この塗膜に1μmから100μmサイズの段階的なホールパターン及びラインパターンを有するテストマスクを通して、i線ステッパーを用いて、露光量を変化させて照射した。
次に、現像液として2.38%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、プリベーク後の膜厚と現像後の膜厚の差が1.0μmになるように現像時間を調節して2回パドル現像を行うことによって露光部を溶解除去した後、純水で10秒間リンスし、感光性樹脂膜を得た。得られた感光性樹脂膜において、100μmの正方形のビアホールのパターンが開口される最低露光量+100mJ/cmのエネルギーで露光された100μmの正方形のビアホールのパターン底部を顕微鏡にて上面より観察し、パターン底部における残渣の程度を下記の基準で評価した。残渣の幅が小さいほど、パターニング性が良好であることを表す。
残渣がないもしくは幅0.5μm未満 : ◎
残渣が幅0.5μm以上1μm未満 : 〇
残渣が幅1μm以上5μm未満 : △
残渣が幅5μm以上 : ×
【0086】
(膜厚均一性)
上述で得られた感光性樹脂組成物を、それぞれ、8インチシリコンウェハ上にスピンコーターを用いて塗布した後、ホットプレートにて120℃で4分間プリベークし、膜厚約8.0μmの塗膜を得た。8インチシリコンウェハ円周上にある切りかけ部(ノッチ)を手前にし、横方向の直径をx軸、縦方向の直径をy軸とし、8インチシリコンウェハの中心をx=0、y=0とした場合、x軸とy軸をそれぞれ-14cmから+14cmまで1cm間隔で塗膜の膜厚を非接触式膜厚計にて測定し、その最大膜厚と最小膜厚の差である膜厚ばらつきと現像後膜厚の平均値を得た。その膜厚ばらつきを下記の基準で評価した。膜厚ばらつきの値が小さいほど、膜厚が均一であることを表す。
0.1μm未満 : ◎
0.3μm未満 : 〇
0.6μm未満 : △
0.6μm以上 : ×
【0087】
(硬化収縮性)
上述で得られた感光性樹脂組成物を、それぞれ、8インチシリコンウェハ上にスピンコーターを用いて塗布した後、ホットプレートにて120℃で4分間プリベークし、膜厚約8.0μmの塗膜を得た。次に、現像液として2.38%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、プリベーク後の膜厚と現像後の膜厚の差が1.0μmになるように現像時間を調節して2回パドル現像を行った後、純水で10秒間リンスした。そのウェハを加熱オーブンに投入し、窒素を流しながら5℃/分で室温から150℃まで昇温後、そのまま150℃で30分の加熱処理を行い、更に、5℃/分で300℃まで昇温後、そのまま300℃で30分の加熱処理を行い、室温まで冷却した。加熱済みウェハについて膜厚均一性で記載した膜厚測定を行い、加熱後膜厚の平均値を求め、現像後の平均膜厚を加熱後の平均膜厚で除した値として硬化残膜率を得た。その硬化残膜率を下記の基準で評価した。硬化残膜率が高いほど、硬化後の収縮が小さくなるため、硬化後膜厚が同じ場合、硬化残膜率が高いほど塗布時の膜厚を薄くすることができる。薄くなるほどパターニング時の露光量は少なくすることができるため、露光時のスループットを向上することができる。
80%以上 : ◎
75%以上、80%未満 : 〇
75%未満 : ×
【0088】
【表1】
【0089】
実施例の感光性樹脂組成物はいずれも、環境負荷が高い溶媒を含まず、よって環境に対する負荷が低減されたものであった。また実施例の感光性樹脂組成物は、いずれも、保存安定性に優れるとともに、良好なパターン形成性を有していた。
【0090】
この出願は、2021年2月12日に出願された日本出願特願2021-020511号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0091】
100 電子装置
30 層間絶縁膜
32 パッシベーション膜
34 最上層配線
40 再配線層
42 絶縁層
44 絶縁層
46 再配線
50 UBM層
52 バンプ
図1