(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】医療用回収装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/22 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
A61B17/22 528
(21)【出願番号】P 2019222891
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】池田 宜央
(72)【発明者】
【氏名】日村 義彦
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 卓也
【審査官】近藤 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/071042(WO,A1)
【文献】特表2005-511192(JP,A)
【文献】特開昭60-135039(JP,A)
【文献】特表2011-526188(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シース部と、
前記シース部の内側に通され、該シース部における第1位置と第2位置との間で前後に移動操作される移動操作部材と、
前記移動操作部材の前端に設けられ、回収対象物を捕捉するための捕捉部と、
前記捕捉部を変形させるために牽引される第1牽引索及び第2牽引索とを備え、
前記捕捉部は、
前記移動操作部材の前端を起点とする往路部及び復路部を有して閉ループを成す弾性変形可能なループ部材と、
前記往路部及び前記復路部によって周縁部又は開口縁部が保持されたシート状又は袋状で可撓性の捕捉材とを備え、
前記移動操作部材が前記第1位置に位置するときに該シース部の前端部に収納され、該移動操作部材が前記第2位置に位置するときに該シース部の先端から突出して前方に拡がり、前記ループ部材により前記捕捉材を平面状又は凹んだ形状に形成するように構成され、
前記第1牽引索は、一端が前記往路部における後端部以外の部分に固定され、他端が前記捕捉材の表裏一方の側及び前記シース部の内側を経由して後方に牽引し得るように設けられ、
前記第2牽引索は、一端が前記復路部における後端部以外の部分に固定され、他端が前記捕捉材の前記一方の側及び前記シース部の内側を経由して後方に牽引し得るように設けられ
、
前記捕捉部は、さらに、前記第1牽引索及び前記第2牽引索の各牽引量に応じて、前方に向かって時計回り又は反時計回りにねじれた状態あるいは折り畳んだ状態を呈するものであることを特徴とする医療用回収装置。
【請求項2】
前記シース部は3ルーメンを有し、
前記シース部の横断面において前記3ルーメンは三角形の各頂点にそれぞれ位置し、
前記移動操作部材、前記第1牽引索及び前記第2牽引索は、各ルーメンにそれぞれ通され、
前記第1牽引索及び前記第2牽引索は、前記移動操作部材が前記第2位置に位置するときに前記シース部の前端よりも前方において交差するように設けられることを特徴とする請求項1に記載の医療用回収装置。
【請求項3】
前記移動操作部材の移動操作及び前記第1、第2牽引索の牽引操作を行うための操作部を備え、
前記操作部は、
前記シース部の後端部に固定された本体部と、
前記移動操作部材の後端部が固定されて前記本体部に対して前後方向にスライド可能に設けられ、該移動操作部材を前記第1位置と前記第2位置との間で前後に移動操作するための主スライド部と、
前記本体部に対して、前後方向にスライド可能でかつ前後方向と交差する回転軸線の周りで回転可能に設けられたスライド回転部とを備え、
前記スライド回転部には、前方に向かって前記軸線に交差する方向の一方の側及び他方の側に前記第1、第2牽引索の後端部がそれぞれ固定され
、
前記スライド回転部は、一方向に回転された場合には前記第2牽引索を牽引することなく前記第1牽引索のみを牽引し、逆方向に回転された場合には前記第1牽引索を牽引することなく前記第2牽引索のみを牽引するように構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用回収装置。
【請求項4】
前記移動操作部材の移動操作及び前記第1、第2牽引索の牽引操作を行うための操作部を備え、
前記操作部は、
前記シース部の後端部に固定された本体部と、
前記移動操作部材の後端部が固定されて前記本体部に対して前後方向にスライド可能に設けられ、該移動操作部材を前記第1位置と前記第2位置との間で前後に移動操作するための主スライド部と、
前記本体部に対して前後方向にスライド可能に設けられ、前記第1牽引索の後端部が固定された第1牽引スライド部と、
前記本体部に対して前後方向にスライド可能に設けられ、前記第2牽引索の後端部が固定された第2牽引スライド部とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管腔又は腹腔の内視鏡手術により切除した組織片や、誤飲による異物を回収するのに適した医療用回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような医療用回収装置として、管状の長軸部材と、この長軸部材の先端に設けられ、壊死組織や異物等の回収対象物を回収するための捕捉部とを備えた処置具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の処置具の捕捉部は、回収対象物を導入するための開口部及び回収対象物を収容するための内部空間を有する捕捉材を備える。捕捉材としては、可撓性を有する薄膜によって袋状に形成されたものや網状構造を有するものが用いられる。
【0004】
この処置具により回収対象物を回収する際には、内視鏡により長軸部材の先端を回収位置に位置決めし、長軸部材の先端から捕捉部を押し出す。これにより、捕捉部の開口部が捕捉部の閉鎖ワイヤの復元力により開いた状態となる。
【0005】
次に、開口部内に回収対象物が位置するように、内視鏡の画像に基づいて、捕捉部の位置を調整するなどの操作を行い、回収対象物を捕捉部の内部に収容する。その後、例えば、内視鏡装置とともに処置具を体外へ取り出すことにより、回収対象物を回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の処置具によれば、長軸部材の先端から捕捉部を突出させたときに、長軸部材の長手方向にのみ捕捉部が開く。このため、壊死組織や異物を回収するには、ある程度のテクニックを要するので、回収作業に相応の時間を要したり煩雑を感じたりすることになる。
【0008】
また、回収対象物が複数存在する場合には、回収対象物をすべて回収するのに時間がかかるうえ、回収対象物が深部に存在する場合には、各回収対象物に捕捉部を到達させて位置決めするのにさらに時間を要することになる。
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、迅速かつ容易に回収対象物を回収できる医療用回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の医療用回収装置は、
シース部と、
前記シース部の内側に通され、該シース部における第1位置と第2位置との間で前後に移動操作される移動操作部材と、
前記移動操作部材の前端に設けられ、回収対象物を捕捉するための捕捉部と、
前記捕捉部を変形させるために牽引される第1牽引索及び第2牽引索とを備え、
前記捕捉部は、
前記移動操作部材の前端を起点とする往路部及び復路部を有して閉ループを成す弾性変形可能なループ部材と、
前記往路部及び前記復路部によって周縁部又は開口縁部が保持されたシート状又は袋状で可撓性の捕捉材とを備え、
前記移動操作部材が前記第1位置に位置するときに該シース部の前端部に収納され、該移動操作部材が前記第2位置に位置するときに該シース部の先端から突出して前方に拡がり、前記ループ部材により前記捕捉材を平面状又は凹んだ形状に形成するように構成され、
前記第1牽引索は、一端が前記往路部における後端部以外の部分に固定され、他端が前記捕捉材の表裏一方の側及び前記シース部の内側を経由して後方に牽引し得るように設けられ、
前記第2牽引索は、一端が前記復路部における後端部以外の部分に固定され、他端が前記捕捉材の前記一方の側及び前記シース部の内側を経由して後方に牽引し得るように設けられ、
前記捕捉部は、さらに、前記第1牽引索及び前記第2牽引索の各牽引量に応じて、前方に向かって時計回り又は反時計回りにねじれた状態あるいは折り畳んだ状態を呈するものであることを特徴とする。
【0011】
この構成において、シース部の先端が、体内の切除した組織片や、誤飲による異物などの回収対象物の近傍に位置づけられると、移動操作部材が第1位置から第2位置に移動される。これにより、捕捉部がシース部の先端から突出して拡がり、捕捉材がループ部材により平面状又は凹んだ形状に形成され、回収対象物の横に配置される。その後、第1、第2牽引索を選択的に又は並行して後方に牽引することにより、捕捉部を回収対象物の位置に応じて変形させて、回収対象物を捕捉部により捕捉することができる。
【0012】
例えば、この捕捉部の変形に際しては、第1、第2牽引索のうちの一方を後方に牽引することにより、ループ部材を、前後方向に対して時計回り又は反時計回りに捩るようにして変形させ、回収対象物に対峙させる。次に、第1、第2牽引索の他方を後方に牽引してループ部材を後方に湾曲させ、さらに第1、第2牽引索を牽引してループ部材を後方に折り畳むように変形させる。これにより、ループ部材の捩った方向の側に位置する回収対象物を迅速かつ容易に捕捉材内に捕捉することができる。捕捉した回収対象物は、例えば、医療用回収装置とともに体外に取り出して回収することができる。
【0013】
本発明において、
前記シース部は3ルーメンを有し、
前記シース部の横断面において前記3ルーメンは三角形の各頂点にそれぞれ位置し、
前記移動操作部材、前記第1牽引索及び前記第2牽引索は、各ルーメンにそれぞれ通され、
前記第1牽引索及び前記第2牽引索は、前記移動操作部材が前記第2位置に位置するときに前記シース部の前端よりも前方において交差するように設けられるのが好ましい。
【0014】
これによれば、シース部の前方において、前後方向に対して第1、第2牽引索が成す鋭角が、第1、第2牽引索が交差していない場合に比べて大きくなるので、ループ部材を前後方向に対して時計回り又は反時計回りにより大きく捩って変形させることができる。これにより、より迅速かつ容易に回収対象物を捕捉部により捕捉することができる。
【0015】
本発明において、
前記移動操作部材の移動操作及び前記第1、第2牽引索の牽引操作を行うための操作部を備え、
前記操作部は、
前記シース部の後端部に固定された本体部と、
前記移動操作部材の後端部が固定されて前記本体部に対して前後方向にスライド可能に設けられ、該移動操作部材を前記第1位置と前記第2位置との間で前後に移動操作するための主スライド部と、
前記本体部に対して、前後方向にスライド可能でかつ前後方向と交差する回転軸線の周りで回転可能に設けられたスライド回転部とを備え、
前記スライド回転部には、前方に向かって前記軸線に交差する方向の一方の側及び他方の側に前記第1、第2牽引索の後端部がそれぞれ固定され、
前記スライド回転部は、一方向に回転された場合には前記第2牽引索を牽引することなく前記第1牽引索のみを牽引し、逆方向に回転された場合には前記第1牽引索を牽引することなく前記第2牽引索のみを牽引するように構成されてもよい。
【0016】
これによれば、スライド回転部を一方又は他方に回転させることによって第1又は第2牽引索を選択的に牽引するとともに、スライド回転部を後方にスライドさせることにより第1、第2牽引索をともに後方に牽引することができる。
【0017】
本発明において、
前記移動操作部材の移動操作及び前記第1、第2牽引索の牽引操作を行うための操作部を備え、
前記操作部は、
前記シース部の後端部に固定された本体部と、
前記移動操作部材の後端部が固定されて前記本体部に対して前後方向にスライド可能に設けられ、該移動操作部材を前記第1位置と前記第2位置との間で前後に移動操作するための主スライド部と、
前記本体部に対して前後方向にスライド可能に設けられ、前記第1牽引索の後端部が固定された第1牽引スライド部と、
前記本体部に対して前後方向にスライド可能に設けられ、前記第2牽引索の後端部が固定された第2牽引スライド部とを備えてもよい。
【0018】
これによれば、第1、第2牽引スライド部により第1又は第2牽引索を選択的に牽引するとともに、第1、第2牽引スライド部を後方にスライドさせることにより第1、第2牽引索をともに後方に牽引することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る医療用回収装置の正面図である。
【
図2】
図1の医療用回収装置の第1牽引索を牽引したときの様子を示す正面図である。
【
図3】
図1の医療用回収装置の第2牽引索を牽引したときの様子を示す正面図である。
【
図4】
図1の医療用回収装置の第1、第2牽引索を大きく牽引したときの様子を示す正面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る医療用回収装置の操作部の正面図である。
【
図6】
図1のVI-VI線断面図であり、
図1の医療用回収装置のシース部の断面を示す図である。
【
図7】医療用回収装置で使用できるバッグ状の捕捉材を例示する斜視図である。
【
図8】
図1のVI-VI線断面の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る医療用回収装置を示す。この医療用回収装置1は、管腔又は腹腔の内視鏡手術により切除した組織片や、誤飲による異物を回収するのに適している。
【0021】
図1に示すように、医療用回収装置1は、シース部2と、シース部2の内側に通された移動操作部材3と、移動操作部材3の前端に設けられ、回収対象物を捕捉するための捕捉部4と、捕捉部4を変形させるために牽引される第1牽引索5及び第2牽引索6とを備える。
【0022】
シース部2は、可撓性樹脂で形成された医療用のルーメン(カテーテル)で構成することができる。具体的には、シース部2は、1ルーメン(シングルルーメン)を有する外筒のみで構成したり、
図6に例示するように、3ルーメン(トリプルルーメン)を有する内筒7と1ルーメンを有する外筒8とで構成したりすることができる。本実施形態では、3ルーメンの内筒7と1ルーメンの外筒8とで構成されたものが用いられる。
【0023】
移動操作部材3は、シース部2における第1位置P1と第2位置P2との間で前後に移動し得るように操作シース部2の内側に通される。移動操作部材3は、例えば、金属製のワイヤにより構成することができる。
【0024】
捕捉部4は、移動操作部材3の前端を起点とする往路部9及び復路部10を有して閉ループを成す弾性変形可能なループ部材11と、往路部9及び復路部10によって周縁部又は開口縁部が保持されたシート状又は袋状で可撓性の捕捉材12とを備える。ループ部材11は、金属製のワイヤで構成することができる。
【0025】
また、ループ部材11は、その弾性変形可能な性質により、移動操作部材3が第1位置P1に位置するときにシース部2の前端部に収納され、移動操作部材3が第2位置P2に位置するときにシース部2の先端から突出して前方に拡がり、平面状の閉領域を画定するように構成される。閉領域としては、
図1に示すような形状のものに限らず、楕円状や多角形状のものであってもよい。
【0026】
捕捉材12は、シート状のものである場合には樹脂製のネットで構成するのが好ましい。
図1では、捕捉材12をこのネットで構成した例が示されている。捕捉材12としては、袋状のものである場合には、
図7に示すような内視鏡用回収バッグを用いることもできる。捕捉材12は、ループ部材11の往路部9と復路部10により周縁部(ネットで構成される場合)又は開口縁部(袋状のものである場合)が保持されるようにして、往路部9と復路部10との間に設けられる。
【0027】
また、捕捉部4は、移動操作部材3が第1位置P1に位置するときにシース部2の前端部に収納されるように構成される。すなわち、捕捉材12は、樹脂製ネットで構成される場合には、自然に折り畳まれた状態で収納される。捕捉材12は、袋状のものである場合には、ループ部材11に、これを軸として渦巻き状に巻き付けた状態で収納される。
【0028】
また、捕捉部4は、移動操作部材3が第2位置P2に位置するときにシース部2の先端から突出して前方に拡がり、ループ部材11により捕捉材12を平面状(ネットで構成される場合)又は凹んだ形状(袋状のものである場合)に形成するように構成される。
図1では、このときの状態が示されている。
【0029】
第1牽引索5は、一端がループ部材11の往路部9の前端側の中間部に固定され、他端が捕捉材12の表裏一方の側及びシース部の内側を経由して牽引し得るように構成される。第2牽引索6は、一端が復路部10の前端側の中間部に固定され、他端が捕捉材の前記一方の側及びシース部2の内側を経由して牽引し得るように構成される。第1、第2牽引索5、6は、樹脂製又は金属性のいずれのものであってもよい。
【0030】
なお、第1牽引索5、6の往路部9、復路部10に対する固定位置は、往路部9、復路部10それぞれにおける後端部以外の部分であれば、往路部9、復路部10それぞれの後端部近傍や先端部近傍であってもよい。
【0031】
また、医療用回収装置1は、移動操作部材3の移動操作及び第1、第2牽引索5、6の牽引操作を行うための操作部13を備える。
【0032】
操作部13は、シース部2の後端部に固定された本体部14と、移動操作部材3の後端部が固定されて本体部14に対して前後方向にスライド可能に設けられた主スライド部15と、本体部14に対して、前後方向に延びた長穴17aに沿ってスライド可能でかつ前後方向に交差又は直交する回転軸線17bの周りで回転可能に設けられたスライド回転部17とを備える。主スライド部15は、移動操作部材3を第1位置P1と第2位置P2との間で前後に移動操作するために用いられる。
【0033】
なお、本実施形態では、スライド回転部17の回転軸線17bは、前後方向に対して直交し、かつループ部材11が形成する閉領域に直交する。
【0034】
スライド回転部17には、前方に向かって回転軸線17bに交差する方向の一方の側及び他方の側に第1、第2牽引索5、6の後端部がそれぞれ固定部17c及び17dを介して固定される。固定部17cは、スライド回転部17上で、例えば45°程度周方向に沿って
図1の位置から
図2の位置に移動し得るように案内されている。固定部17dも同様に、スライド回転部17上で、
図1の位置から
図3の位置に移動し得るように案内されている。
【0035】
スライド回転部17は、
図1の状態において、スライド回転部17を反時計回りに回転させたときには固定部17cのみを押して
図2の位置に移動し、時計回りに回転させたときには固定部17dのみを押して
図3の位置に移動する押圧部が設けられる。このような押圧部は、例えば、固定部17c、17d又はこれらを支持する部材の前方側にのみ接する部材により構成することができる。
【0036】
したがって、スライド回転部17を一方又は他方に回転させることによって第1、第2牽引索5、6を選択的に牽引することができる。
【0037】
上記のような押圧部は、長穴17aに沿って後方にスライドされた場合には、固定部17c、17dの双方を後方に移動させる。
【0038】
また、スライド回転部17には、その回転軸線17bに平行な複数のピンが設けられる。第1、第2牽引索5、6は、それぞれ対応する複数のピンにジグザグに掛けられて固定部17c、17dにそれぞれ固定される。これにより、第1、第2牽引索5、6が牽引されていないときに想定外の動きを生じることが防止される。
【0039】
なお、シース部2を、3ルーメンを有する内筒7を用いて構成する場合には、
図6に示すように、第1、第2牽引索5、6は、それぞれ異なるルーメンに通される。そして、これらのルーメンの間に位置するルーメンに移動操作部材3が通される。この場合、
図1のように、第1、第2牽引索5、6は、移動操作部材3が第2位置P2に位置するときにシース部2の前端よりも前方において交差するように設けるのが好ましい。
【0040】
また、この場合、第1、第2牽引索5、6は、操作部13においてスライド回転部17に固定される部分よりも前方において再度交差させるのが好ましい。これによれば、術者がスライド回転部17を回転させて第1又は第2牽引索5又は6を牽引する際に、回転方向と牽引しようとする第1又は第2牽引索5又は6とを感覚的に一致させて、操作ミスを防止できるからである。
【0041】
医療用回収装置1により、管腔又は腹腔の内視鏡手術で切除した組織片や、誤飲による異物等の回収対象物を回収する際には、内視鏡によりそのチャネルに装着された医療用回収装置1の先端部を、回収対象物の近傍に近接させる。そして、術者は、操作部13の本体部14を一方の手で保持しながら、他方の手で主スライド部15を前方にスライドさせて、移動操作部材3を第1位置P1から第2位置P2に移動させる。
【0042】
これにより、捕捉部4が
図1に示す状態となる。すなわち、捕捉部4のループ部材11がシース部2の先端から突出して拡がり、平面状の閉領域を画定するとともに、捕捉材12がループ部材11とともに拡がって該閉領域に張られた状態となる。次に、操作部13を操作して、捕捉部4を、捕捉部4に対する回収対象物の位置に応じて変形させる。
【0043】
この変形は、術者が、本体部14及び主スライド部15を一方の手で保持し、他方の手でスライド回転部17を操作することにより行われる。このとき、該一方の手で主スライド部15を本体部14に固定させた状態でスライド回転部17を操作すると、より効果的にスライド回転部17を操作することができる。
【0044】
例えば、一方の手で操作部13の本体部14及び主スライド部15を保持しながら、スライド回転部17を、
図1に向かって時計回り若しくは反時計回りに回転させ、又は後方にスライドさせる。
【0045】
スライド回転部17を反時計回りに回転させた場合には、第1牽引索5がスライド回転部17により牽引される。また、このとき、第2牽引索6は上述のようにスライド回転部17による影響を受けない構造となっているので、ループ部材11の反力により先端側へ留まろうとする。この結果、
図2に示すように、捕捉部4は、前方に向かって時計回りに捩れた状態となる。この場合、回収対象物が、
図2に向かって捕捉部4の上方側に位置する場合に、回収対象物を捕捉部4により効果的に捕捉することができる。
【0046】
一方、スライド回転部17を時計回りに回転させた場合には、第2牽引索6がスライド回転部17により牽引される。また、このとき、第1牽引索5は同様にスライド回転部17による影響を受けない構造となっているので、ループ部材11の反力により先端側へ留まろうとする。この結果、
図3に示すように、捕捉部4は、前方に向かって反時計回りに捩れた状態となる。この場合、回収対象物が、
図3に向かって捕捉部4の下方側に位置する場合に、回収対象物対象物を捕捉部4により効果的に捕捉することができる。
【0047】
他方、スライド回転部17を後方にスライドさせた場合には、第1、第2牽引索5、6が同時に後方に牽引される。この結果、
図4に示すように、捕捉部4は、
図4の手前側を経て後方に湾曲し、ほぼ折り畳んだ状態となる。この場合、回収対象物が、
図4において捕捉部4の手前側位置する場合に、回収対象物を捕捉部4により確実に捕捉することができる。
【0048】
あるいは、スライド回転部17の一方向又は他方向への回転により第1、第2牽引索5、6のうちの一方の牽引を先行させた後、最終的に双方が同じ牽引量となるようにスライド回転部17の回転量を初期状態に戻しながらスライド回転部17を後方の可能な位置までスライドさせる操作を行うことができる。
【0049】
これによれば、
図2又は
図3において捕捉部4の上方側又は下方側に位置する回収対象物を手前側に誘導しながら、
図4のように、捕捉部4をほぼ折り畳んだ状態とし、回収対象物を捕捉部4により確実に手前側で捕捉することができる。
【0050】
このようにして捕捉された回収対象物は、内視鏡とともに医療用回収装置1を体外へ取り出すことにより回収することができる。
【0051】
本実施形態によれば、ループ部材11を牽引する第1牽引索5及び第2牽引索6を設けたので、操作部13のスライド回転部17の回転操作及びスライド操作により、捕捉部4を時計回り又は反時計回りの捩れと後方への湾曲とを伴う態様で変形させることができる。これにより、
図2や
図3における捕捉部4の上方、下方又は手前に位置する回収対象物を容易に回収することができる。
【0052】
また、第1牽引索5及び第2牽引索6は、移動操作部材3が第2位置P2に位置するときにシース部2の前端よりも前方において交差するので、第1、第2牽引索5、6を前後方向に対してより角度を有する状態で捕捉材12の往路部9又は復路部10を牽引することができる。これにより、捕捉部4の捩れ変形をより効果的に行うことができる。
【0053】
図5は、本発明の第2実施形態に係る医療用回収装置1bの操作部13bを示す。この操作部13bも、上記第1実施形態の操作部13と同様に、移動操作部材3の移動操作及び第1、第2牽引索5、6の牽引操作を行うためのものである。操作部13b以外の構成は、第1実施形態の場合と同様である。
【0054】
操作部13bは、シース部2の後端部に固定された本体部14bと、移動操作部材3の後端部が固定されて本体部14bに対して前後方向にスライド可能に設けられ、移動操作部材3を第1位置P1と第2位置P2との間で前後に移動操作するための主スライド部15bとを備える。
【0055】
本体部14bには、第1牽引索5の後端部が固定された第1牽引スライド部18が前後方向にスライド可能に設けられる。また、本体部14bには、第2牽引索6の後端部が固定された第2牽引スライド部19が前後方向にスライド可能に設けられる。なお、
図5では、第1牽引スライド部18が前方にスライドされ、第2牽引スライド部19が後方にスライドされたときの様子が示されている。
【0056】
医療用回収装置1bにより回収対象物を回収する際には、第1実施形態の場合と同様にして、捕捉部4が
図1に示す状態とされる。次に、操作部13の第1、第2牽引スライド部18、19を操作して、捕捉部4により回収対象物を捕捉する。
【0057】
例えば、第1牽引スライド部18を後方にスライドさせることにより、第1実施形態でスライド回転部17を反時計回りに回転させた場合と同様に第1牽引索5を牽引することができる。これにより、
図2における捕捉部4の上方側に位置する回収対象物を捕捉部4により容易に捕捉することができる。
【0058】
また、第2牽引スライド部19を後方にスライドさせることにより、第1実施形態でスライド回転部17を時計回りに回転させた場合と同様に第2牽引索6を牽引することができる。これにより、
図3における捕捉部4の下方側に位置する回収対象物を捕捉部4により容易に捕捉することができる。
【0059】
また、第1、第2牽引スライド部18、19を同時に後方にスライドさせることにより、第1実施形態でスライド回転部17を後方にスライドさせた場合と同様に、第1、第2牽引索5、6を同時に後方に牽引することができる。これにより、
図4のように、捕捉部4の手前側に位置する回収対象物を捕捉部4により確実に捕捉することができる。
【0060】
さらに、第1、第2牽引スライド部18、19の双方を後方にスライドさせる操作を、一方を先行させて行うことができる。これにより、上記
図2、
図3における捕捉部4の上方側又は下方側に位置する回収対象物を手前側に誘導しながら、
図4のように、捕捉部4をほぼ折り畳んだ状態とし、回収対象物を捕捉部4により確実に捕捉することができる。
【0061】
このようにして捕捉された回収対象物は、内視鏡とともに医療用回収装置1を体外へ取り出すことにより回収することができる。
【0062】
本実施形態によっても、第1実施形態の場合と同様に、操作部13bの操作により、捕捉部4を時計回り又は反時計回りの捩れと後方への湾曲とを伴う態様で変形させることができる。これにより、捕捉部4の上方側、下方側又は手前側に位置する回収対象物を容易に回収することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本体部14、主スライド部15、第1、第2牽引スライド部18、19には、操作の便宜に供するためのリング状のつまみ20を設けてもよい。
【0064】
また、シース部2を、
図6のように3ルーメン(トリプルルーメン)を有する内筒7と1ルーメンを有する外筒8とで構成する場合、
図8に示すように、内筒7の断面において第1牽引索5、第2牽引索6及び移動操作部材3が三角形を形成するように、移動操作部材3の中心を内筒7の中心からずらして配置してもよい。これによれば、第1牽引索5及び第2牽引索6による牽引力で移動操作部材3に軸周りのモーメントが発生するため、補足部4の捩れをより効果的に発生させることができる。
【符号の説明】
【0065】
1、1b…医療用回収装置、2…シース部、3…移動操作部材、4…捕捉部、5…第1牽引索、6…第2牽引索、7…内筒、8…外筒、9…往路部、10…復路部、11…ループ部材、12…捕捉材、13、13b…操作部、14、14b…本体部、15、15b…主スライド部、17…スライド回転部、17a…長穴、17b…回転軸線、18…第1牽引スライド部、19…第2牽引スライド部、20…つまみ。