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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2結合ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240109BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240109BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240109BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20240109BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240109BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240109BHJP
   G01N 33/563 20060101ALI20240109BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A61K39/395 S
A61P31/14
C07K16/10
C07K16/46
C12N15/62 Z
G01N33/531 A
G01N33/563
G01N33/569 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021162820
(22)【出願日】2021-10-01
(65)【公開番号】P2022060186
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020168078
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020185268
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020201212
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021085698
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021134372
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021150604
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516255448
【氏名又は名称】株式会社Epsilon Molecular Engineering
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正木 秀和
(72)【発明者】
【氏名】熊地 重文
(72)【発明者】
【氏名】米原 涼
(72)【発明者】
【氏名】松村 佑太
(72)【発明者】
【氏名】河野 響
(72)【発明者】
【氏名】東條 卓人
(72)【発明者】
【氏名】森本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】片山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 慧
(72)【発明者】
【氏名】戸高 玲子
(72)【発明者】
【氏名】澤田 成史
(72)【発明者】
【氏名】高野 友美
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111303279(CN,A)
【文献】WU et al.,BioRxiv,2020年03月31日,DOI: 10.1101/2020.03.30.015990
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記1)~9)で示されるアミノ酸配列からなるCDR1、CDR2及びCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2結合ペプチド。
1)CDR1:配列番号10で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号19で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号1で示されるアミノ酸配列
2)CDR1:配列番号11で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号20で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号2で示されるアミノ酸配列
3)CDR1:配列番号12で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号21で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号3で示されるアミノ酸配列
4)CDR1:配列番号13で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号22で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号4で示されるアミノ酸配列
5)CDR1:配列番号14で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号23で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号5で示されるアミノ酸配列
6)CDR1:配列番号15で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号24で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号6で示されるアミノ酸配列
7)CDR1:配列番号16で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号25で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号7で示されるアミノ酸配列
8)CDR1:配列番号17で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号26で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号8で示されるアミノ酸配列
9)CDR1:配列番号18で示されるアミノ酸配列
CDR2:配列番号27で示されるアミノ酸配列
CDR3:配列番号9で示されるアミノ酸配列
【請求項2】
SARS-CoV-2結合ペプチドが、VHH抗体、及び重鎖抗体及びVHH抗体多量体からなる群から選ばれるいずれかである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
VHH抗体多量体が、前記構造ドメインを複数連結した多量体である、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチドをコードする核酸。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のペプチドを被験試料に接触させる工程を含む、試料中のSARS-CoV-2の検出方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のペプチドを含有するSARS-CoV-2検出キット。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のペプチドを含有する医薬。
【請求項8】
SARS-CoV-2感染症の予防又は治療のための請求項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2に結合するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
SARSコロナウイルス-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2,;SARS-CoV-2)は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)やMERSコロナウイルス(MERS-CoV)と同様ベータコロナウイルス属に属し、急性呼吸器疾患の原因となるSARS関連コロナウイルスである。2019年に中国湖北省武漢市付近で発生が初めて確認された急性呼吸器疾患を惹起するウイルスは、その後、新型のコロナウイルスであると同定され、COVID-19と命名されたが、多様に変異しつつ世界的流行(パンデミック)を引き起こしている。
【0003】
SARS-CoV-2は、一般的なコロナウイルスと同様に、4つの構造タンパク質、16の非構造タンパク質(nsp1-16)、及びいくつかの付属タンパク質をコードする大きなポジティブセンスRNAゲノムを有している。構造タンパク質は、スパイクタンパク質、ヌクレオカプシド、膜タンパク質、エンベロープタンパク質から成り、スパイクタンパク質は、受容体結合を担うN末端のS1サブユニットと膜融合を担うC末端のS2サブユニットから構成される。S1サブユニットはさらに、N末端ドメイン(NTD)、受容体結合ドメイン(RBD)、サブドメイン1(SD1)、サブドメイン2(SD2)に分割されている。S2サブユニットは、さらに、融合ペプチド(FP)、ヘプタドリピート1(HR1)及びヘプタドリピート2(HR2)に分割されていることが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
SARS-CoVと同様に、SARS-CoV-2は、そのスパイクタンパク質を介して宿主細胞受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と結合して細胞内に侵入する。受容体との結合は、スパイク蛋白質の構造変化を引き金とし、活性化状態へと変化させる。活性化されたスパイクは、S1/S2部位でプロテアーゼ(SARS-CoV及びSARS-CoV-2ではTMPRSS2)によって切断され、S1サブユニットが放出され、S2サブユニット上のFPが露出する。FPは標的細胞膜に挿入され、HR1とHR2とがリフォールドして融合後のコンフォメーションを形成し、標的細胞とのウイルス膜融合を促進することが知られている(非特許文献2参照)。
【0005】
最近、低温電子顕微鏡や結晶解析によるSARS-CoV-2三量体スパイクのプレフュージョンコンフォメーションやSARS-CoV-2スパイクRBDと完全長ヒトACE2の構造解析が進んでおり、ACE2への結合様式の解明やヒトACE2とのより強い接触を形成するRBD上の重要な変異点の知見、更には、SARS-CoVとSARS-CoV2のRBDを標的とする交差反応性抗体の同定に向けたエピトープの洞察が提供されている。さらに、SARS-CoV-2スパイク蛋白質の糖鎖解析から、SARS-CoV-2スパイク蛋白質は、SARS-CoV同様に多くのグリコシル化部位を有しており、その中でもSARS-CoVには無い、ユニークなグリコシル化部位も報告されており、この様な特異な糖鎖がエピトープのマスキングを介した免疫回避を促進する可能性があることも報告されている(非特許文献3参照)。
【0006】
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質は、宿主細胞にウイルスが侵入する際に不可欠な役割を果たしており、中和抗体の主要な標的となる。コロナウイルスS1サブユニットの機能性と高い免疫原性のため、これまでにコロナウイルスに対して特徴づけられたほとんどの中和抗体は、S1、特にS1-RBDを標的としていることが報告されている。また、以前のSARS及びMERSの感染の流行中にもいくつかの中和抗体が開発され、コロナウイルス感染症の治療での使用の可能性が証明されている。
しかし、SARS-CoV RBDに特異的な多くの既知の中和抗体(S230、m396、80Rなど)は、1μMまでの濃度でもSARS-CoV-2に結合せず、一方で、単一のB細胞の選別によってSARS-CoV-2感染者から単離されたモノクローナル抗体はいずれも、SARS-CoVのRBDと交差反応を示さないことが報告されている。この様に、多くの既存の中和抗体は交差反応性に乏しいが、SARS-CoVとSARS-CoV2の両方に中和活性を示す47D11やS309といったIgG抗体やシングルドメイン抗体としてVHH-72-Fc等が存在することも報告されている(非特許文献3参照)。
【0007】
COVID-19のウイルス学的診断は、主として遺伝子増幅法(PCR)によるSARS-CoV-2の遺伝子検出(PCR検査)によって行われている(以下、「従来技術1」という。)。
一方で、ウイルスの検出にはPCRとは異なる検査方法があることも知られている。その1つは、ウイルスの遺伝物質を検出するのではなく、ウイルス表面のタンパク質の断片を検出する抗原検査である(以下、「従来技術2」という。)。抗原が検出できれば、高価な機械、検査を行う者に要求される技術に習熟するための訓練、検査に要する多大な労力等がなくても、感染しているかどうかが数分で診断できる。
その他の検査方法として、血清中のウイルス特異的抗体を検出するイムノクロマト法、酵素抗体法(ELISA)を利用した血清学的診断法(以下、「従来技術3」という。)等が知られている。
【0008】
免疫応答における抗体は、生体が感染によって抗原と接触した後、比較的感染初期に患者の血中で増加するイムノグロブリンM(以下、「IgM」と略すことがある)と、その後に増加するIgG等があることが知られている。
ここで、一般的なIgは軽鎖と重鎖とで構成されているが、ラクダ科の動物は、軽鎖を含まない重鎖抗体を産生することが知られている。また、重鎖抗体の可変領域を含む単一のドメインは、天然のシングルドメインであり、それ自身でも抗体として機能する。このため、「シングルドメイン抗体」(以下、「VHH抗体」と略すことがある。)と呼ばれている。
【0009】
ウイルスの立体構造エピトープが、例えば、酵素ポケットのような穴状の構造や、ドメイン間の割目の構造部分を含む場合、従来のIgGではその大きさからこうしたエピトープに結合することができなかった。これに対し、上記のVHH抗体は、その分子量がIgG抗体の10分の1と小さいため、上記のような構造のエピトープにも結合することができ、多くの糖鎖で修飾されたウイルス粒子の表面等にも結合できるため、標的分子になり得る分子の幅が広くなる。
【0010】
さらに、VHHは耐酸性や耐熱性にも優れており、IgGとは異なって培養細胞で産生させる必要がなく、大腸菌、酵母等で生産することができる。このため、量産しやすく、精製も容易であるという利点がある。さらに、VHH抗体は1本鎖のペプチドで構成されているため、蛋白質工学の技術又は化学修飾等の技術を用いて機能の改変がしやすく、抗体薬物複合体(ADC)を作製しやすいという特徴を有することが知られている(以下、「従来技術4」という。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Neutralizing nanobodies bind SARS-CoV-2 spike RBD and block interaction with ACE2. Nature Structural & Molecular Biology 2020
【文献】Development of multi-specific humanized llama antibodies blocking SARS-CoV-2/ACE2 interaction with high affinity and avidity. Emerging Microbes & Infections 2020; 9; 1034-1036
【文献】Structural Basis for Potent Neutralization of Betacoronaviruses by Single-Domain Camelid Antibodies. Cell 2020; 181: 1004-1015.
【文献】Identification of Human Single-Domain Antibodies against SARS-CoV-2. Cell Host & Microbe 2020; 27: 891-898
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術1は、ウイルスの遺伝物質を検出する方法で、現時点で使えるウイルス検査の中では最も正確といわれており、精度が高いという点では優れた技術である。しかし、検査を実施するには時間と手間とがかかり、PCR検査の実施数を、本当に必要な数まで増加させるのが難しいという問題がある。
また、従来技術2は、高価な機械、検査を行う者に要求される技術に習熟するための訓練、検査に要する多大な労力等がなくても、感染しているかどうかが数分で診断できるという点では優れた技術である。したがって、信頼できる抗原検査法が確立されれば、検査数の拡大を容易に行うことができる。また、自宅や診療現場においてCOVID-19感染の診断ができるようになることから、一刻も早い臨床現場への導入が求められている。しかし、抗体の調製にコストがかかり、検査に必要とされる量を確保することが容易ではないという問題がある。
【0013】
従来技術3は、多くの症例において感染から発症までの潜伏期間が長いと考えられているとともに、発症から1週間程度経過した後に症状が急速に悪化して重症肺炎に至るなど、臨床経過が長い症例も報告されているCOVID-19の感染においては、経時的に状況を把握できるという点では優れた方法である。しかし、こうした血清学的方法においても、検査には抗体を使用するため、抗原検査と同じ問題を抱えている。
【0014】
血清学的診断に用いられる抗体の代表例はIgGであるが、抗原を投与した動物の血清から精製するか、目的のIgGのヌクレオチド配列をコードする遺伝子断片をプラスミド等組み込んで培養細胞に導入し、培養して得るのが一般的な製造法である。このため、精製に時間と手間がかからない、抗体として機能する分子に対する強い社会的要請があった。
【0015】
VHHは、上述したように種々の利点を有しているが、基質との親和性が高いVHHを取得するのが難しい。このため、基質との親和性が高く、産生及び精製がし易く、かつ変異しやすい基質(ウイルスのヌクレオチド配列)に対応できるVHH、とりわけ、SARS-CoV-2に結合するVHHを取得することについての強い社会的要請があった。
また、IgG抗体は、静脈内投与や皮下投与による全身投与を前提とするため、局所投与に比較して十分な治療効果は望めないという問題がある。一方で、全身への暴露による抗体依存性感染増強(ADE)のリスクも懸念される。さらに、VHH-72-Fcについては、VHH単独では十分な中和活性を示さないことが報告されており、Fcフュージョン化によりシングルドメイン抗体の物理的優位性が失われる他、Fcを介した抗体依存性感染増強(ADE)のリスクも懸念される。
以上から、SARS関連のコロナウイルスに対して優れた治療効果を示す薬剤を開発するために、多様なエピトープを認識するシングルドメイン抗体の開発についての強い社会的要請があった。
本発明は、SARS-CoV-2に結合するペプチド及びその利用法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らはSARS-CoV-2に結合するペプチドを得るべく検討した結果、特定のアミノ酸数を有するCDR1~3をコンストラクトに含むVHH抗体ライブラリーから、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングにより、SARS-CoV-2に反応性の高いクローンを得ることに成功した。
【0017】
すなわち、本発明は、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2結合ペプチドに係るものである。
一態様として、前記ペプチドは、VHH抗体、重鎖抗体及びVHH抗体多量体からなる群から選ばれるいずれかである。
また別の一態様として、前記VHH抗体多量体は、前記構造ドメインを複数連結した多量体である。
【0018】
また別の一態様として、前記配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列は、SARS-CoV-2に対して3.6x10-9M以下のKDを有するものである。
また別の一態様として、前記構造ドメインは、さらに配列番号10~18で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号19~27で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2を含むものである。
また、本発明の別の態様は、上述したペプチドをコードする核酸である。
【0019】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかのペプチドを被験試料に接触させる工程を含む、試料中のSARS-CoV-2の検出方法である。
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかのペプチドを含有するSARS-CoV-2検出キットである。
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかのペプチドを含有する医薬である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の抗体では得られない強力な中和能などを有する抗体医薬の創出に寄与し得る、反応性の高いSARS-CoV-2結合ペプチドを提供することができる。当該ペプチドを用いることにより、SARS-CoV-2の検出、すなわちSARS-CoV-2感染症である新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の迅速な検出が可能となる。
また、感染部位である上気道や肺に直接吸入器で局所投与できる、呼吸器感染症治療剤の創薬に寄与できるペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、各ラウンドのセレクション後に出現した抗SARS-CoV-2抗体候補のCDR3クラスター数の推移を示すグラフである。
図2図2は、セレクションにより選抜されたVHHクローンの結合性をELISAで評価した結果を示すグラフである。
図3図3は、バイオレイヤー干渉法によるVHHクローンの結合特性を示すグラフである。
図4図4は、得られたVHHクローン間での競合阻害のセンサーグラムである。
図5図5は、VHHクローンのSARS-CoV-2の感染阻害率を表すグラフである。
図6図6は、SARS-CoV-2変異株に対する結合活性を示すグラフである。
図7図7は、VHH-COVE6のSARS-CoV-2変異株に対する結合活性を示すグラフである。
図8図8は、SARS-CoV-2イギリス/ナイジェリア変異株に対する結合活性を示すグラフである。
図9図9は、SARS-CoV-2カリフォルニア変異株及びインド変異株に対する結合活性を示すグラフである。
図10図10は、RBDとACE2の結合に対する各VHHクローンの競合阻害を示すグラフである。
図11図11は、VHH-COVE3のインド型変異株由来のRBDへの結合活性を示すSDS―PAGEである。
図12図12は、VHH-COVE3のSARS-CoV-2アルファ型及びデルタ型変異株に対する中和活性を示すグラフである。
図13図13は、RBD(L452R,E484Q)とACE2の結合に対するVHH-COVE3の競合阻害を示すグラフである。
図14図14は、RBD(L452R,T478K)とACE2の結合に対するVHH-COVE3の競合阻害を示すグラフである。
図15図15は、動物体内におけるVHH-COVE9のSARS-CoV-2アルファ型変異株に対する中和活性を示すグラフである。
図16図16は、VHH-COVE3のラムダ型変異株由来のRBDへの結合活性を示すSDS―PAGEである。
図17図17は、動物体内におけるVHH-COVE3のSARS-CoV-2アルファ型変異株に対する中和活性を示すグラフである。
図18図18は、動物体内におけるVHH-COVE3のSARS-CoV-2デルタ型変異株に対する中和活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のSARS-CoV-2結合ペプチド(以下、「本発明のペプチド」と称する)は、配列番号1~9のいずれかで示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合するペプチドである。
【0023】
ここで、SARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患の原因となる、SARS関連コロナウイルス(COVID-19)であり、そのウイルスゲノムは29,903塩基の一本鎖プラス鎖RNAウイルスである。本発明のペプチドは、SARS-CoV-2に結合するペプチドであるが、詳細には、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のうちのS1サブユニットに結合するペプチドである。
【0024】
本発明のペプチドとしては、エピトープに潜在的に結合する能力を有するペプチドが挙げられ、代表的には抗体又は抗体フラグメントが該当する。「抗体」とは、液性免疫を担う抗体産生細胞から産生される、IgA、IgD、IgE、IgG、IgMの他、重鎖抗体、一本鎖抗体、ScFv、重鎖抗体のCDR3配列を含むシングルドメイン抗体(以下、「VHH」又は「VHH抗体」ということがある。)、体内に侵入した病原体などの異物に結合し得るアプタマー、及びこれらの一部が修飾・改変されたものを含むものとする。
【0025】
本明細書において、「CDR3クラスター」とは、相補性決定領域の一つであるCDR3のアミノ酸配列を対象として、CD-HIT(Cluster Database at High Identity with Tolerance)その他の配列クラスタリングプログラムを用いて、80% Identity(クラスタリングの閾値)を一集団として定義したものとする。
【0026】
本発明のペプチドは、少なくとも3つの相補性決定領域(Complementarity Determining Region、以下、「CDR」ということがある。)及び複数のフレームワーク領域を含む。CDRは超可変領域とも云われ、配列可変な抗原認識部位又はランダム配列領域を含む領域をいう。そして、各CDRの位置関係は、N末端側からCDR1、CDR2、CDR3の順番となっている。また、上記フレームワーク領域(Framework Region、以下、「FR」ということがある。)は、抗体分子の可変領域における相補性決定領域を除く領域、すなわち、保存性の高い領域をいい、上記フレーム指す上記のCDR1~CDR3の5’側及び3’側の双方に位置していてもよい。
【0027】
本発明のペプチドは、上記CDR1~CDR3のうち、CDR3が、例えば、下記表1に示す配列のうちのいずれか、又はこれらのアミノ酸配列の少なくとも1つが他のアミノ酸に置換されているものである。ここで、置換されるアミノ酸の位置及び置換後のアミノ酸の種類は、これらのアミノ酸配列の抗原との解離定数が100nM以上とならない限り、限定されないが好ましくは1個の置換である。
【0028】
【表1】
【0029】
斯かるCDR3を有するペプチドは、後述する実施例において、cDNAディスプレイ法によるスクリーニングにより得られた、SARS-CoV-2に反応性の高いクローン、すなわち、SARS-CoV-2結合ペプチド(抗SARS-CoV-2抗体(CoVHH))である。
なお、SARS-CoV-2に対する結合能は、当業者に公知の方法により評価することができる。具体的には、後述する実施例に示すように、バイオレイヤー干渉法により、解離定数KDを求めることにより評価できる。また、例えば抗原を固定したELISA法、イムノクロマト法、等温滴定カロリメトリー法、表面プラズモン共鳴測定法等を用いた方法によっても評価することができる。本発明における解離定数KDは、バイオレイヤー干渉法によって求めたものとする。
【0030】
上記VHH-COVE1~9のうち、SARS-CoV-2に対する中和活性の点から、VHH-COVE2、VHH-COVE5、VHH-COVE8、VHH-COVE9が好ましい。
【0031】
本発明のペプチドの構造ドメインにおいて、例えば、CDR1は、配列番号10~18のいずれかで示されるアミノ酸配列であってもよく、CDR2は、配列番号19~27のいずれかで示されるアミノ酸配列であってもよい。これらのアミノ酸配列は、これらのアミノ酸配列を構成するアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであってもよい。
例えば、上記VHH-COVE1~9の構造ドメインにおける3つの相補性決定領域のアミノ酸配列は以下のとおりである。
【0032】
【表2】
【0033】
また、FR1は配列番号28~34に示すアミノ酸配列であってもよく、FR2は配列番号35~42に示すアミノ酸配列であってもよい。FR3は、配列番号43~50に示すアミノ酸配列であってもよく、FR4は配列番号51~53に示すヌクレオチド配列で規定されるアミノ酸配列であってもよい。
【0034】
また、FR1~FR4は、上記の配列番号28~53に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むことが好ましい。ここで、配列番号28~53に示すアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列としては、配列番号28~53に示すアミノ酸配列と85%以上の同一性を有する配列であることがより好ましく、さらに好ましくは90%以上である。99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるフレームワーク領域であることが、さらに好ましい。
【0035】
ここで、アミノ酸配列の同一性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときに両方の配列において同一のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。具体的には、例えばNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLAST(Basic Local Alignment Search Toolを用いて解析を行なうことにより算出できる。
【0036】
本発明のCDR3の配列を含むペプチドとしては、例えば、N末端側からC末端側に向かって、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順に連結されたものを挙げることができる。これらの領域のアミノ酸配列は、上述したとおり、配列表の配列番号1~53で示され、前述したVHH-COVE1~VHH-COVE9の当該領域のアミノ酸配列は、配列番号65(VHH-COVE1)、配列番66(VHH-COVE2)、配列番号67(VHH-COVE3)、配列番号68(VHH-COVE4)、配列番号69(VHH-COVE5)、配列番号70(VHH-COVE6)、配列番号71(VHH-COVE7)、配列番号72(VHH-COVE8)、配列番号73(VHH-COVE9)に示すものとなっている。
【0037】
本発明のペプチドは、上記の構造ドメインを少なくとも1つ有するものであればその形態は限定されず、VHH抗体のような可変領域断片(ナノボディーとも呼ばれる)の他、一本鎖抗体、重鎖抗体、可変領域断片をペプチドリンカーなどで結合させた多量体、例えば二量体であってもよい。
【0038】
本発明のペプチドの作製方法は特に限定されず、当該技術分野における公知技術により容易に作製することができる。例えば、ペプチド固相合成法とネイティブ・ケミカル・リゲーション(Native Chemical Ligation;NCL)法を組み合わせて作製することや遺伝子工学的に作製することができるが、本発明のペプチドをコードする核酸を適当なベクター(例えば、プラスミド)に組み込んで、これを宿主細胞に導入し、組換えペプチドとして産生させる方法が好ましい。
【0039】
ここで、本発明のペプチドの発現用プラスミドとしては、各種の宿主細胞に適したプラスミドを用いることができる。例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13その他の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194その他の枯草菌由来のベクター;pSH19、pSH15その他の酵母由来ベクター;λファージその他のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスその他のウイルスベクターの他、これらを適宜改変したベクターを用いることができる。
【0040】
これらの発現プラスミドは、各々のプラスミドに適した、複製開始点、選択マーカー及びプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位及びポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。さらに、発現プラスミドには、発現したポリペプチドの精製を容易にするため、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグ及びGSTタグなどを融合させて発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
【0041】
本発明のペプチド産生菌は、所望の方法、例えば、エレクトロポレーションによって、上記の発現プラスミドを所望の菌に導入することにより作製できる。組換えペプチドの産生に使用される宿主細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌、コリネ菌、各種のカビ、動物細胞、植物細胞その他の細胞、バキュロウイルス/昆虫細胞または酵母細胞等を挙げることができる。これらのうちでも、コリネ菌と枯草菌が好適に使用でき、生産性が高い枯草菌がより好ましい。
【0042】
発現させた本発明のペプチドを培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体または培養細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/または凍結融解などによって菌体または細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的のペプチドを取得することができる。
【0043】
公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法または等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0044】
本発明のペプチドは、後述する実施例に示すように、cDNAディスプレイ法を用いてVHH抗体候補配列を選抜することにより見い出されたものである。以下にこの方法を用いた場合の抗体の取得について、記載する。
【0045】
標的分子として、SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike S1-Hisリコンビナントタンパク(以下、「SARS-CoV-2 Spike S1タンパク」と略す、Sino Biological)をスクリーニング用の標的分子として用いた。RePHAGEN社より提供されているアルパカ由来ナイーブVHHライブラリー遺伝子を鋳型として、CDR1-2領域またはCDR3領域の2つの遺伝子断片をVHH特異的プライマーにてPCRで増幅し、オーバーラップPCR用プライマーを用いて伸長PCRを行って伸長させ、全長VHHコード化DNAライブラリーを作製する。
【0046】
ここで使用するVHH特異的プライマーとしては、例えば、配列表の配列番号54及び55を挙げることができる。また、オーバーラップPCR用プライマーしては、例えば、配列表の配列番号56及び57を挙げることができる。上記のライブラリーを構成するDNA断片は、T7プロモーター、オメガ(Ω)エンハンサー、コザックコンセンサス配列、VHH遺伝子、Hisタグ、およびリンカーハイブリダイゼーション領域(Yタグ)を含むことが好ましい。
【0047】
以上のようにして得られたライブラリ(PCR産物)を精製し、引き続き転写を行う。上記ライブラリーの精製には、市販のキット、例えば、Agencourt AMPure XP(Beckman Coulter)等を用いることができる。また、転写には、市販のキット、例えば、T7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(Promega)等を使用することができる。その後、例えば、NanoPad DS-11FX(DeNovix)等を使用して、RNAを定量する。
【0048】
得られたmRNAをcnvK又はその類縁体等の光架橋塩基を含むピューロマイシンリンカーと、所望の波長の光を所望の時間、例えば、330~370nmの光を1~10分間照射して連結させ、mRNA-リンカー連結体を得る。得られたmRNA-リンカー連結体を用いて無細胞翻訳を行い、mRNA-リンカー連結体からのmRNA-VHH連結体を合成する。この無細胞翻訳には、例えば、Rabbit Reticulocyte Lysate System、Nuclease Treated(Promega)等の市販品を使用することができる。
【0049】
次いで得られたmRNA-VHH連結体を磁性ビーズに固定化する。こうしたビーズとしては、例えば、Dynabeads My One Streptavidin C1(Thermo Fisher Scientific)などを使用することができる。上記磁性ビーズに固定されなかった上記mRNA-VHH連結体を除き、逆転写反応を行うことによって、cDNA-VHH連結体を合成する。
次いで、磁性体ビーズ上に固定化されたcDNA-VHH連結体を、例えば、RNase T1を含むHis-tag wash bufferを添加して溶出させ、His-tag精製を行い、精製後したcDNA-VHH連結体を得ることができる。
【0050】
所望の標的分子、例えば、SARS-CoV-2 Spike S1タンパクを、例えば、上述した磁性体ビーズに固定化するために、常法に従って上記標的分子をビオチン化する。このようにビオチン化された標的タンパクは、上記のビーズに固定されたストレプトアビジンと結合するため、標的分子をビーズ上に固定することができる。固定化前後の溶液のタンパク濃度を測定し、SDS-PAGE上のバンド強度比を比較することによって、上記の固定化反応の収率を確認することができる。
【0051】
次いで、上記のようにして得られたcDNA-VHH連結体(cDNAディスプレイ分子)と、標的分子、例えば、SARS-CoV-2 Spike S1タンパク、を固定化したビーズとを用いて、試験管内淘汰セレクションを行う。このセレクションは複数回繰り返すことが得られるVHHの配列が収束することから好ましく、3~6ラウンド繰り返すことがセレクションの効率を上げるために好ましい。
【0052】
このセレクションでは、cDNAディスプレイ法を使用するが、各ラウンドで使用するmRNA-リンカー連結体の量を調節するとともに、必要に応じて非特異的吸着物を除去するためプレセレクションを行うことが好ましい。また、各ラウンドでの溶出に使用する溶出液及び溶出回数は、適宜選択することができる。例えば、ラウンド1とそれ以降のラウンドの溶出回数を変えてもよく、また、各ラウンドで複数の溶出バッファーを用いてもよい。得られた溶出液は、例えば、Agencourt AMPure XP(Beckman Coulter)を用いて精製し、精製産物を得ることができる。
【0053】
次いで、セレクションで得られた精製産物をPCRに供し、増幅させてPCR増幅産物を得ることができる。得られたPCR増幅産物を、例えば、上記の磁性ビーズに上記と同様にして固定化し、FITCで標識されたFACSソーティング用ビーズを得ることができる。上記標的タンパク固定化ビーズの領域の同定を行う。最適な分取条件にてソーティングを行って、所望の粒子数、例えば、それぞれ50万粒子を回収し、上記と同様に精製する。得られた粒子を、例えば、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いて増幅し、上記と同様に精製する。
【0054】
その後、次世代シーケンサー(NGS)を利用したシーケンス解析を行い、試験管内淘汰サイクルによるDNAライブラリーの収束度を詳細に確かめる。シーケンスサンプルの調製は、例えば、illumina社が提供している2-step PCR Amplicon Library Preparationに準じて行うことができる。各セレクション後のPCR産物を鋳型として、所望のプライマーを、例えば、配列番号60及び61に示すプライマーを用いて、アンプリコンPCRを行うことができる。
【0055】
以上のようにしてAmplicon PCRにより得られたPCR産物を上記と同様にして精製し、その後、Index PCRを行い、得られたPCR産物を上記と同様に精製した後、ゲル電気泳動によってPCR産物のサイズを確認する。この後、例えば、Nanodropを用いてPCR産物の定量を行い、例えば、下記の式(1)に従ってモル濃度を算出し、得られた値に基づいて、NFWで希釈して所望の濃度、例えば、4nMに調製する。
(数1)
DNA濃度[ng/μL]/(660[g/mol]×550[bp])×10=DNA濃度[nM] (1)
【0056】
推奨プロトコルに従ってライブラリー濃度を調整し、変性・希釈済みのサンプルライブラリー及びコントロールの濃度を所望の最終濃度に調製する。その後、例えば、MiSeq(Illumina)とMiSeq Reagent Nano Kit v2500 cycle(Illumina)を用いてシーケンスを行うことができる。
引き続き、得られたDemultiplexingされた配列データを解析に供し、VHH抗体がコードされている塩基配列領域を抜き出し、アミノ酸配列に翻訳する。これらの翻訳データから、各アミノ酸配列と完全に一致したアミノ酸配列数を計測し、その後、相補性決定領域の一つ、例えば、CDR3の配列を対象とし、例えば、上記配列クラスタリングプログラムCD-HIT等を用いて、所望の類似度を80%以上を同一クラスターとしてクローン数を計測し、各ラウンドのクラスター数を求めることができる。
【0057】
FACSソーティングのデータ比較等から非特異的結合と考えられるクローンを除去した後、標的分子に結合するVHH抗体候補配列を選抜する。選抜されたVHH抗体候補配列を所望のプライマー、例えば、配列番号63及び64で表されるプライマーを用いてPCRで増幅させ、得られたPCR増幅産物を精製して、VHH抗体作成用の遺伝子を調製する。得られた遺伝子から無細胞翻訳系でポリクローナルVHH抗体を作製する。得られたポリクローナルVHH抗体の抗体価は、例えば、常法に従ってELISAにより評価することができる。
【0058】
ELISA評価で結合が認められたCDR3配列を含むVHHクローンをタンパク発現させるには、上述した試験管内スクリーニングのR5のDNAライブラリーから各VHHの遺伝子を調製し、発現用プラスミドに導入する。目的断片のDNAは制限酵素を用いて切り出し、発現プラスミドにライゲーションさせて組換えプラスミドを調製し、所望の菌、例えば、大腸菌を形質転換する。形質転換した大腸菌から上記組換えプラスミドを抽出して発現プラスミドを得ることができる。得られた発現プラスミドを所望の菌に導入し、得られた抗体産生菌を抗生物質を含む培地で前培養し、その後本培養して培養上清を回収する。VHHの産生はゲル電気泳動等で確認することができる。回収した培養上清をHis-タグ精製し、VHH抗体試料とすることができる。
【0059】
本発明のペプチドは、SARS-CoV-2に結合することから、これを、SARS-CoV-2を含有するか、または含有する可能性のある被験試料と接触させることによって、当該試料中にSARS-CoV-2が存在すること、あるいは存在しないことを確認できる。
具体的には、本発明のペプチドを用いたSARS-CoV-2の検出は、本発明のペプチドと被検試料とを接触させ、本発明のペプチドと前記被験試料中のSARS-CoV-2との結合体を形成させる工程と、前記結合体中のSARS-CoV-2を検出する工程、を備えてなる。
また、本発明のペプチドは、血清中のウイルス特異的抗体の検出において、固定化した被験試料(血清)中に含まれる抗SARS-CoV-2抗体(例えば血清抗体)に対して、SARS-CoV-2抗原の一部を添加して結合させ、当該結合体状態にあるSARS-CoV-2抗原の存在を確認するペプチドとして使用することもできる。
【0060】
被験試料としては、気管スワブ、鼻腔拭い液,咽頭拭い液、鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液、唾液、痰、血液、血清、尿、糞便、組織、細胞、組織又は細胞の破砕物等の生体試料の他、ウイルスが付着している可能性のある固体表面、例えばドアノブ、便器等から採取された試料が挙げられる。本発明のペプチドは固相に固定されていてもよく、固相に固定されていなくてもよい。
上記の結合体中のSARS-CoV-2を検出する工程は、例えば、上記の結合体に、結合体中の本発明のペプチドとは異なるエピトープを認識する、抗SARS-CoV-2抗体を反応させることにより行うことができる。或いは、ホモジニアスアッセイにより、液相中で上記の結合体中のSARS-CoV-2を検出してもよい。
【0061】
また、本発明のペプチドは、SARS-CoV-2検出用キットの構成成分となり得る。当該キットは、SARS-CoV-2感染症(COVID-19)の診断薬として、またSARS-CoV-2感染症治療薬の開発用のツールとして使用可能である。
当該検出キットは、本発明のSARS-CoV-2結合ペプチドの他、検出に必要な試薬及び器具、例えば抗体、固相担体、緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー等を含むことができる。
当該検出キットにおいて、本発明のペプチドは固相に固定されていてもよい。固相としては、例えば、ビーズ、膜、反応容器の側面や底面、スライドガラス等の板状基板、イムノプレート等のウェルを有する基板(以下、「ウェル基板」という)が挙げられ、本発明のペプチドが直接的又は間接的に固定される。
【0062】
本発明のペプチドがSARS-CoV-2のS1サブユニットに結合し、ウイルスの細胞への結合を阻害する場合には、本発明のペプチドは、哺乳動物に投与し、SARS-CoV-2感染症の予防又は治療するための医薬として利用することができる。上記哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ブタ等を挙げることができるが、ヒトであることが好ましい。
【0063】
本発明のペプチドを医薬として用いる場合には、その投与形態は、経口、非経口のいずれでもよく、適宜、周知の薬学的に許容可能な賦形剤、希釈剤等と組み合わせて用いることができる。非経口投与としては、静脈内、皮下、皮内、筋肉内等への投与、噴霧その他による粘膜への投与等を挙げることができる。
こうした投与は、医薬中に含まれる本発明のペプチドの含有量を適宜調整し、また、有効量を1週間に1~数回程度の間隔で投与することとしてもよい。
【実施例
【0064】
(実施例1)抗SARS-CoV-2シングルドメイン抗体のスクリーニング
<材料と方法>
1.スクリーニングの標的分子
標的分子として、SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike S1-Hisリコンビナントタンパク(以下、「SARS-CoV-2 Spike S1タンパク」と略す、Sino Biological)を用いた。
【0065】
2.cDNAディスプレイの合成
(1)完全長アルパカ由来抗体の可変領域断片(single Variable domain of the Heavy chain of a Heavy-chain antibody:VHH)コード化DNAライブラリーの作製
RePHAGEN社より提供されているアルパカ由来ナイーブVHHライブラリー遺伝子を鋳型として、CDR1-2領域またはCDR3領域の2つの遺伝子断片をVHH特異的プライマー(配列番号54、55)にてPCRで増幅した後、T7プロモーター、オメガ(ω)エンハンサー、コザックコンセンサス配列、VHH遺伝子、Hisタグ、およびリンカーハイブリダイゼーション領域(Yタグ)からなるDNA断片へと調整するため、オーバーラップPCR用プライマー(配列番号56、57)を用いて伸長PCRを行って伸長させ、全長VHHコード化DNAライブラリーを作製した。
【0066】
【表3】
【0067】
PCR産物の精製はAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter)を用いた。1μLのPCR産物あたり1.8μLのビーズを加え、ピペッティングによる混合後、5分間静置した。磁性プレート上で透明になるまで静置した後、上清を除去した。1.4mLの70%エタノールを添加し、30秒静置した後、上清を除去した。このエタノール洗浄は3回行った上清の除去後、磁気プレート上で3分間静置し、ビーズを風乾させた。チューブを磁気プレートから下ろし、100μLのNuclease free waterを添加後、ピペッティングによりビーズを懸濁し5分静置した。チューブを磁気プレート上で2分間静置した後、上清を回収した。
【0068】
(2)in vitro転写
T7 RiboMAX Express Large Scale RNA Production System(Promega)を用いた。25μLのRiboMAX(商標)Express T7 2x Buffer,20pmol PCR産物、5μLのEnzyme Mixを混合し、37℃で30分間インキュベートした。続いて、5μLのRQ1 RNase-Free DNAseを添加し、37℃で15分間インキュベートした。転写産物の精製はRNAClean XP(Beckman Coulter)を用いて行った。チューブに入れた転写産物μLあたり1.8μLのビーズを加え、ピペッティングして混合し、その後5分間静置した。磁性プレート上で静置した後、上清を除去した。200μLの70%エタノールを添加し、30秒静置した後、上清を除去した。このエタノール洗浄は3回行った。上清の除去後、磁気プレート上で10分間静置してビーズを風乾させた。チューブを磁気プレートから下ろし、20μLのNuclease free waterを添加後、ピペッティングによりビーズを懸濁し5分静置した。チューブを磁気プレート上で1分間静置した後、上清を回収した。精製後、NanoPad DS-11FX(DeNovix)によりRNAを定量した。
【0069】
(3)mRNAとピューロマイシンリンカーの連結
4μLの0.25M Tris-HCl(pH7.5)、4μLの1M NaCl、20pmolのmRNA、20pmolのcnvK ribo G linkerを混合し、Nuclease free waterで20μLになるように反応液を調製した。アニーリングは、ProFlex PCR System(Life technologies)を用いて、90℃で2分間、70℃で1分間、25℃で30秒、4℃でインキュベートという条件下で行った。Ramp rateは0.1℃/秒に設定した。続いて、Handheld UV Lamp(6W、UVGL-58、測定波長を254/365nm、100V;Analytik jena US、An Endress+Hauser Company)を用いて365nmの波長の光を5分間照射した。mRNA-リンカー連結体は使用するまで遮光し、氷冷した。
【0070】
(4)無細胞翻訳
mRNA-リンカー連結体からのmRNA-VHH連結体の合成にはRabbit Reticulocyte Lysate System、Nuclease Treated(Promega)を用いた。10.5μLのNuclease free water、15μLの20x Translation mix,525μLのRabbit Reticulocyte Lysate、15μLのRNasin(商標) Ribonuclease Inhibitor(40U/μL)(Promega)、9μLのmRNA-リンカー連結体を混合した。この反応液を37℃で15分間インキュベートした後、36μLのIVV formation Buffer(3M KCl、1M MgCl)混合液を加え、さらに37℃で20分間反応させることで、mRNA-VHH連結体を合成した。
【0071】
(5)ストレプトアビジン磁性体ビーズへの固定化
60μLのDynabeads My One Streptavidin C1(Thermo Fisher Scientific)に60μLの2x Binding buffer(20mM Tris-HCl、2M NaCl、0.2%Tween20、2mM EDTA,pH8)を添加し、1分間ピペッティングすることで懸濁させた。磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。この洗浄は2回行った。75μLのmRNA-VHH連結体、75μLの2x Binding buffer、洗浄済みのストレプトアビジン磁性体ビーズと混合し、室温で30分間インキュベートした。磁性プレート上で1分間静置した後、上清を除去した。200μLのBinding buffer(10mM Tris-HCl、1M NaCl、0.1%Tween20、1mM EDTA,pH8)を添加し、1分間ピペッティングした後、上清を除去した。この洗浄は2回行った。
【0072】
(6)逆転写反応
55.5μLのNuclease free water、1.5μLの5x ReverTra Ace Buffer(Toyobo Life Science)、3μLの25mM dNTP Mix、1.5μLのReverTra Ace(100U/μL)(Toyobo Life Science)を混合した。上記の反応液にストレプトアビジン磁性体ビーズ上に固定化されたmRNA-VHH連結体を添加し、42℃、30分間インキュベートすることで逆転写反応を行うことで、cDNA-VHH連結体を合成した。
【0073】
(7)磁性体ビーズからの切り出し
ストレプトアビジン磁性体ビーズ上に固定化されたcDNA-VHH連結体に対して、His-tag wash buffer(20mM Sodium phosphate、500mM NaCl、5mM Imidazole、0.05%Tween20、pH7.4)を添加し、1分間ピペッティングすることで懸濁させた。磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。続いて、30μLの10U RNase T1(Thermo Fisher Scientific)含有His-tag wash bufferを添加し、1分間ピペッティングすることで懸濁させた後、37℃で15分間静置することでcDNA-VHH連結体を溶出させた。
【0074】
(8)Hisタグ精製
30μLのHis Mag Sepharose Ni Beads(GE Health Care)を磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた後、His-tag wash bufferで再懸濁した。この洗浄操作は2回行った。cDNA-ペプチド連結体の溶出液とHis Mag Sepharose Ni Beads懸濁液を混合し、室温で30分間インキュベートした後、磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。200μLのHis-tag wash bufferを添加し、1分間ピペッティングすることで懸濁させた。磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。この洗浄操作を2回行った。10μLのHis-tag elution buffer(20mM Sodium phosphate、500mM NaCl、250mM Imidazole、0.05% Tween20、pH7.4)を添加し、室温で15分間インキュベートすることで、cDNA-VHH連結体を溶出した。
【0075】
3.セレクション
(1)標的分子の磁性ビーズへの固定化
標的分子であるSARS-CoV-2 Spike S1タンパクを固定化するため、Dynabeads My One Streptavidin C1を使用し、以下の手順にて固定化した。まず、25μgのSARS-CoV-2 Spike S1タンパクに100μLの1x PBS bufferを加えた後、本溶液に1mMのEZ-LinkTM Sulfo-NHS-SS-Biotin溶液を6.5μL加え、室温にて30分間インキュベートした。反応溶液をZebaTM Spin Desalting Column (Thermo Fisher)にて精製し、Biotin化SARS-CoV-2 Spike S1タンパク116μLを回収した。
【0076】
20μLのDynabeads My One Streptavidin C1をエッペンドルフチューブにとり、磁気プレート上に1分間静置した後、上清を除去し、1x Binding buffer(10mM Tris-HCl,1M NaCl,0.1% Tween20,1mM EDTA,pH8)を100μL加え、再懸濁した。ピペッティングを1分間行った後に、磁気プレート上に1分間静置して上清を除去した。25μLのビオチン化SARS-CoV-2 Spike S1タンパク溶液を加え、室温にて30分間撹拌し、磁気プレート上に1分間静置した後、100μLの1x Binding buffer、100μLのPBSTで順次洗浄し、100μLのPBSTを加え、SARS-CoV-2 Spike S1タンパク固定化ビーズ溶液を得た。固定化反応の収率は、NanoPad DS-11FX(DeNovix)を用いて固定化前後の溶液のタンパク質濃度を測定し、SDS-PAGE上のバンド強度比を比較することにより推定した。
【0077】
(2)試験管内淘汰セレクション
上記2-(8)にて合成されるcDNA-VHH連結体(cDNAディスプレイ分子)と上記3-(1)にて調製したSARS-CoV-2 Spike S1タンパク固定化ビーズを用いて、試験管内淘汰セレクションを下記表4に示す条件、以下の手順にてRound 1~5(R1~R5)まで繰り返し行った。cDNAディスプレイ合成では、(R1)では192pmol、R2では、12pmol、R3、R4、R5では6pmolのmRNA/Linker ligation productを用いた。(R2)~(R5)においては、非特異的吸着物を除去するためプレセレクションを実施した。すなわち、調製したcDNAディスプレイ分子をPBSTで100μLの希釈溶液とし、予め1x Binding bufferで洗浄したストレプトアビジン結合磁性体ビーズに結合させ、室温にて1~2時間撹拌した後、磁気スタンドに2分間静置し、上清を回収した。この操作を1~2回行った後、得られた上清をSARS-CoV-2 Spike S1タンパクの固定化量に対して、PBSTで(R1)は1μM、(R2)~(R4)は100nMになるように希釈した後、SARS-CoV-2 Spike S1固定化ビーズに結合させ、室温にて1~2時間撹拌した。磁気スタンドに2分間静置した後、上清を除去し、100μLのPBSTで磁気ビーズを洗浄した。
【0078】
洗浄操作を1~3回繰り返した後、40μLの10mM TCEPバッファー(pH 7~8)、10mM NaOH溶液、1%SDS含有PBST溶液、もしくは、20μLの1μM SARS-CoV-2 Spike S1タンパク溶液を溶出バッファーとして加え、室温で5~30分間インキュベートし、溶出液を回収した。各ラウンドの溶出回数は、(R1)で4回、(R2)~(R5)で3回行った。尚、(R1)及び(R2)は、最初の2回はTCEPバッファーで溶出し、3回目にNaOH溶液、(R1)の4回目は、1%SDS含有PBSTで溶出した。(R3)~(R5)については、最初の2回は、SARS-CoV-2 Spike S1タンパク溶液で溶出し、3回目はTCEPバッファーで溶出した。得られた溶出液をAgencourt AMPure XP(Beckman Coulter)を用いて当該製品の使用説明書に従って精製した。
【0079】
【表4】
【0080】
(3)セレクションサンプルのPCR増幅
上記の淘汰セレクションで得られた溶出サンプルをPCRに供した。PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ(株)製)を用いて、下記表5に示す組成のPCR反応液を調製して、これを加え、PCRを行った。反応条件は、98℃で2分間の後、98℃で10秒、62℃で5秒、72℃で35秒を25サイクル行い、72℃で1分反応させた後に10℃まで冷却した。T7omega_Newプライマーは、配列番号58、NewYtag for polyA cnvKプライマーは配列番号59の配列を有するものを使用した(表6参照)。得られたPCR産物をAgencourt AMPure XPを用いて当該製品の使用説明書に従って精製した。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
(4)FITCビーズの作製
20μLのストレプトアビジン(SA)磁性ビーズ(Dynabeads My One Streptavidin C1:Invitrogen)をエッペンドルフチューブにとり、磁気プレート上に1分間静置した後、上清を除去し、1x Binding Bufferを100μL加え、再懸濁した。ピペッティングを1分間行った後に、磁気プレート上に1分間静置して上清を除去した。10μg/mLのBiotin(5-Fluorescein)(Sigma-Aldrich)を20μL加え、室温で1時間撹拌した後、磁気プレート上に1分間静置して上清を除去した。PBSTを100μL加え、ピペッティングを1分間行った後に、磁気プレート上に1分間静置して上清を除去した。この操作を2回繰り返した後、1.8μLのPBSTを加え、FITCビーズ溶液を得た。
【0084】
(5)FACSによるソーティング
上記の手法で調整した8μLのFITCビーズと4μLのSARS-CoV-2 Spike S1タンパク固定化ビーズを混合し、磁気プレート上に1分間静置した後、上清を除去し、100μLのPBSTを加え、再懸濁した。ピペッティングを1分間行った後に、磁気プレート上に1分間静置して上清を除去し、FACSソーティング用ビーズを調整した。得られたビーズに(R5)のPCR増幅産物から調整した50μLのcDNA display溶液(6pmol)を混合し、室温で30分間撹拌した後、磁気スタンドに2分間静置し、上清を除去し、100μLのPBSTを加えて、ピペッティングを1分間行った。その後、磁気プレート上に1分間静置して上清を除去した。この操作を3回繰り返した後、1mLのPBSTを加えてソーティング用溶液とした。
【0085】
得られたソーティング用溶液をFACS(Cell Sorter SH800:SONY)にセットし、サンプル流路、分取時のドロップレット形成条件のセットアップを行い、ソーティングを実施した。粒子径から磁性体ビーズの領域を同定し、488nmのレーザー照射による蛍光強度からFITCビーズとSARS-CoV-2 Spike S1タンパク固定化ビーズの領域の同定を行い、最適な分取条件にてソーティングを行って、それぞれ50万粒子をエッペンドルフにて回収した。その後、13,000xgで10分間、遠心分離を行った。遠心後、磁気プレート上に10分間静置し、その後、上清を除去し、40μLの溶出バッファーを加えて10分間振とうした。引き続き、磁気プレート上に2分間静置した後、溶出液を回収した。得られた溶出液をAgencourt AMPure XPを用いて当該製品の使用説明書に従って精製した。
【0086】
(6)FACS分離サンプルのPCR増幅
上記と同様の手法により、PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いてPCRを行い、PCR産物を得た。Agencourt AMPure XPを用いて、当該製品の使用説明書に従って、得られたPCR産物を精製した。
【0087】
(7)アンプリコンシーケンスの実施
試験管内淘汰サイクルによるDNAライブラリーの収束度を詳細に確かめるために、次世代シーケンサー(NGS)を利用したシーケンス解析を行った。シーケンスサンプルの調製は、illumina社が提供している2-step PCR Amplicon Library Preparationの方法を参考に実施した。最初に、各セレクション後のPCR産物を鋳型として、下記表7に示す組成のPCR反応液を調製し、下記の配列番号60及び61に示すプライマー(表8参照)を用いて、Amplicon PCRを行った。PCR条件は、98℃で1分間の後、98℃で10秒間、62℃で5秒間、72℃で35秒を15サイクル、そして72℃で1分間の条件で行った。
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】
【0090】
得られたPCR産物をAgencourt AMPure XPを用いて当該製品の使用説明書に従って精製した後、Index PCRを行った。Amplicon PCRで得られたPCR産物を鋳型として、下記表9に示す組成のPCR反応液を調整して、Index PCRを行った。PCR条件は、98℃で1分間の後、98℃で10秒間、55℃で5秒間、72℃で17秒を10サイクル、そして72℃で1分間の条件で行った。
【0091】
【表9】
【0092】
得られたPCR産物をAgencourt AMPure XPを用いて当該製品の使用説明書に従って精製した後、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりPCR産物のサイズを確認した。その後、Nanodropを用いてPCR産物の定量を行い、以下の式(1)に従ってモル濃度を算出した。得られた定量値に基づき、NFWで希釈することで4nMに調製した。
DNA濃度[ng/μL]/(660[g/mol]×550[bp])×10=DNA濃度[nM]・・・(1)
【0093】
4nMライブラリーを使用する際の推奨プロトコルに従って調製した。変性・希釈済みのサンプルライブラリーの最終濃度は7pMになるように調製した。また,サンプルライブラリー中のPhiX Controlは5%になるように調製した。MiSeq(Illumina)とMiSeq Reagent Nano Kit v2500 cycle(Illumina)を用いてシーケンスを行った。
【0094】
(8)VHH抗体のアミノ酸配列の抽出とCDR3クラスター解析
MiSeq Controllerを用いてDemultiplexingされた配列データを解析に供した。シーケンスデータからVHH抗体がコードされている塩基配列領域を抜き出し、アミノ酸配列に翻訳した。得られた翻訳データから、各アミノ酸配列と完全に一致したアミノ酸配列数を計測後、CDR3クラスター数を計測し、各ラウンドのクラスター数を求めた。結果、ラウンドを重ねる毎にクローン数が減少し、良好な淘汰セレクションが実行できていることが確認できた(図1)。
【0095】
(9)抗SARS-CoV-2VHH抗体候補配列の選抜
FACSソーティングのデータ比較等から非特異的結合と考えられるクローンを除去した後、R5に出現したCDR3クラスターを対象として、ラウンド間での頻度上昇率(Enrichment)を算出し、R4からR5にかけて出現頻度が10倍以上上昇したCDR3クラスターを抽出した結果、下記表10に示す9個のCDR3クラスターが該当した。
【0096】
【表10】
【0097】
(実施例2)無細胞翻訳系によるポリクローナルVHH抗体の作製
(1)遺伝子の調製
試験管内スクリーニングのR5で得られたPCR産物を鋳型として、Newleftプライマー(配列番号62)と上記で選択されたCDR3配列を含む特異的プライマー9種類を用いて、PCRを行った。その後、上記NewleftプライマーとCDR3以降のFR4配列とHisタグ配列を含むプライマーでC末端を延長し、最後にPUREflexシステム合成用に設計したPURE_System_FWプライマー(配列番号63)、PURE_System_Rvプライマー(配列番号64)を用いてPCRを行った(下記表11参照)。得られたPCR産物をAgencourt AMPure XPを用いて精製し、ポリクローナルVHH抗体作製用の遺伝子を9種類調製した。
【0098】
【表11】
【0099】
(2)無細胞翻訳合成
上記(1)で調製した遺伝子を鋳型DNAとし、PUREflex1.0(Genefrontier)のプロトコルに従って、下記表12の組成にて反応溶液を調製し、37℃で3~4時間インキュベートし、ポリクローナルVHH抗体を合成した。
【0100】
【表12】
【0101】
(3)Hisタグ精製
30μLのHis Mag Sepharose Ni Beads(GE Health Care)を磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。その後、200μLのBinding bufferで再懸濁した。この洗浄操作を2回行った。上記(1)で調製した無細胞翻訳液20μLをHis Mag Sepharose Ni Beadsを入れたチューブに加え、室温で30分間インキュベートした。その後、磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。このチューブに200μLのBinding bufferを添加し、1分間ピペッティングして懸濁させた。このチューブを磁気プレート上で1分間静置し、上清を捨てた。この洗浄操作を2回行った。20μLのHis-tag elution buffer(20mM Sodium phosphate、500mM NaCl、250mM Imidazole、0.05% Tween 20、pH7.4)をこのチューブに添加し、室温で15分間インキュベートした。磁気プレート上で1分間静置し、上清を回収した。この溶出操作を2回行った。1%のBSAを含有するPBS溶液をチューブに加えて200μLとなるように希釈し、ポリクローナルVHH抗体試料溶液を得た。
【0102】
(実施例3)ELISAでの評価
SARS-CoV-2 S1 subunit-Fc溶液(The Native Antigen Company)を1%BSA含有PBS溶液で2μg/mLに希釈した。この溶液を、イムノモジュール(Immuno Clear Standard Modules_C8_MaxiSorp(cat#445101, Thermo Scientific))の各ウェルに100μL添加し、シーリング後、4℃で一晩静置して上記のS1タンパクを固相化した。このモジュールを200μLのPBSTで3回洗浄し、その後、各ウェルに3%BSA含有PBS溶液を300μL添加し、室温で1時間インキュベートした。次いで、このモジュールを200μLのPBST(0.05% Tween20)で3回洗浄し、その後、S1タンパク質を固相化した上記モジュールの各ウェルに対して上記実施例2(3)で調整したポリクローナルVHH抗体試料溶液を100μL添加し、室温で振盪した。その後、このモジュールを200μLのPBSTで3回洗浄した。
【0103】
1%BSA含有PBS溶液を用いてAnti-FLAG-tag mAb conjugated with HRP(cat# A8592, Sigma)を1/10,000に希釈した。次いで、上記各ウェルに対して、この希釈液を100μLずつ添加し、ウェルプレートを遮光し、室温で1時間振盪した。このモジュールを200μLのPBSTで3回洗浄した。OPDタブレット(cat# 155-02161, FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation)を、10mLの0.1M NaHPOで溶解し、5μLの30%Hを加えてOPDタブレット溶液を調製した。洗浄後、各ウェルに対してOPDタブレット溶液を100μLずつ添加し、遮光下で5分間インキュベートした。100μLの1M 硫酸を添加し、直ちにMicroplate Reader Infinite 200Pro M PLEX(TECAN)を用いて各ウェルの吸光度を490nmで測定した(図2)。このELISA試験の結果、選択した9種類全てのポリクローナルVHH抗体が、良好な結合活性を有することが確認された。
【0104】
(実施例4)組換えコリネ菌によるモノクローナルVHH抗体の生産
(1)VHH発現用プラスミドの構築
リンカーとHisタグ配列をC末端に付与したVHH-COVE5、VHH-COVE6、VHH-COVE7、VHH-COVE8、VHH-COVE9を組換えコリネ菌にて生産した。具体的には、VHH-COVE5(配列番号69)と同じCDR1,2,3を有するVHH抗体(配列番号90)(以降「コリネ菌由来VHH-COVE5」と表記)、VHH-COVE6(配列番号70)と同じCDR1,2,3を有するVHH抗体(配列番号91(以降「コリネ菌由来VHH-COVE6」と表記)、VHH-COVE7(配列番号71)と同じCDR1,2,3を有するVHH抗体(配列番号92)(以降「コリネ菌由来VHH-COVE7」と表記)、VHH-COVE8(配列番号72)と同じCDR1,2,3を有するVHH抗体(配列番号93)(以降「コリネ菌由来VHH-COVE8」と表記)、VHH-COVE9(配列番号73)と同じCDR1,2,3を有するVHH抗体(配列番号94)(以降「コリネ菌由来VHH-COVE9」と表記)を作製した。ELISA評価で結合が認められたCDR3配列を含むVHHクローンをタンパク発現させるため、試験管内スクリーニングのR5のDNAライブラリーから各VHHの遺伝子を調製し、Hisタグを含むような様式の発現用プラスミドに導入した。合成したVHHクローンの遺伝子と空の発現用プラスミドを、2種類の制限酵素SfiI及びNotI(いずれもThermo Fisher)で処理し、アガロースゲル電気泳動により目的断片のDNAをそれぞれ単離精製した。その後、制限酵素処理したVHHクローン遺伝子と発現用プラスミドをLigation Mix(Toyobo)を用いてライゲーションし、そのライゲーション産物を用いてクローニング用コンピテントセルJM109に形質転換した。形質転換した大腸菌からプラスミド抽出を行い、VHHクローンの発現用プラスミドを取得した。
【0105】
(2)組換えコリネバクテリウム グルタミカム株の作成
コリネバクテリウム グルタミカム株へのプラスミド導入は以下に示す電気穿孔法により実施した。CM2G液体培地にグリセロールストックしたコリネバクテリウム グルタミカム株を植菌し、30℃、160rpmで数時間振とう培養した。この培養液をマイクロチューブに回収し、遠心機(TAITEC)で15,000rpm(20,380xg)、1分間遠心し、上清を除去したペレットを滅菌水にて懸濁した。再度、上記と同様の操作により、滅菌水による菌体の洗浄を行ったのちに、100μLの滅菌水で得られたペレットを懸濁し、懸濁液とした。この懸濁液を各種VHH発現用プラスミドと混合し、エレクトロポレーションを実施した。この液に1mLのCM2G培地を加え、30℃、180rpmで1時間浸透した後、25μg/mLカナマイシンを含むCM2G寒天培地プレートに適量塗布し、30℃で1~2日間インキュベートした。
【0106】
(3)VHH産生
上記(2)で作成した組換えコリネバクテリウム グルタミカム株を25μg/mLカナマイシンを含むCM2G培地に植菌し、30℃で一晩振とうし、前培養液とした。前培養液の全量をPM1S培地に5%接種し、25℃で72時間振とう培養した。培養終了後に、遠心機(Thermo Fisher Scientific)で4,100rpm、4℃、30分間遠心し、培養上清を回収した。各培養上清中におけるVHHの産生を確認するため、SDS-PAGEを行った。各ウェルに4μL分のサンプルをアプライした後、150Vで1時間の条件で電気泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus ProteinTM Standards(BIO-RAD)を用いた。電気泳動後、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色し、培養上清中にVHHが合成されていることを確認した。
【0107】
回収した培養上清に対してPVDF膜(Merck Millipore)を用いてろ過した後、Ni Sepharose 6 Fast Flow(Cytiva)を用いて当該製品の使用説明書に従って精製した。400μLのHis-tag elution buffer(50mM Tris-HCl、300mM NaCl、500mM Imidazole、pH7.5)を添加し、遠心機(TOMY)で500×g、30秒間遠心した。溶出液を回収し、VHH抗体サンプルとした。
【0108】
(実施例5)プロテアーゼ欠損組換え枯草菌によるVHHの生産
(1)遺伝子配列の人工合成
Hisタグ配列をC末端に付与したVHH-COVE1、VHH-COVE2、VHH-COVE3、VHH-COVE4をプロテアーゼ欠損組換え枯草菌にて生産した。具体的には、N末端にAla残基を、C末端にリンカーを含むHisタグ配列(配列番号74)を付与したVHH-COVE1(配列番号95(以降「枯草菌由来VHH-COVE1」と表記)、VHH-COVE2(配列番号96)(以降「枯草菌由来VHH-COVE2」と表記)、VHH-COVE3(配列番号97)(以降「枯草菌由来VHH-COVE3」と表記)、VHH-COVE4(配列番号98)(以降「枯草菌由来VHH-COVE4」と表記)の人工合成遺伝子を合成した。配列番号95~98をコードする塩基配列の3’末端に終止コドンが付与し、さらにGCAGCTCTTGCAGCA(配列番号75)が5’末端に、TCTATTAAACTAGTT(配列番号76)が3’末端に付加された配列番号77(VHH-COVE1発現用コンストラクト)、配列番号78(VHH-COVE2発現用コンストラクト)、配列番号79(VHH-COVE3発現用コンストラクト)、配列番号80(VHH-COVE4発現用コンストラクト)をユーロフィン社で人工合成し、実験に供した。
【0109】
(2)Hisタグ付きVHH発現用プラスミドの構築
pHY300PLKをベースとして作製された組換えプラスミドpHY-S237(特開2014-158430参照)をテンプレートとし、プライマーとして5’-GATCCCCGGGAATTCCTGTTATAAAAAAAGG-3’(配列番号81)と5’-ATGATGTTAAGAAAGAAAACAAAGCAG-3’(配列番号82)、及びPrimeSTAR Max DNA Polymerase(TaKaRa)を用いて、PCRを行い、上記発現用プラスミド構築用のプラスミド配列を増幅した。
【0110】
168株のゲノムをテンプレートとし、5’-GAATTCCCGGGGATCTAAGAAAAGTGATTCTGGGAGAG-3’(配列番号83)と5’-CTTTCTTAACATCATAGTAGTTCACCACCTTTTCCC-3’(配列番号84)のプライマーセットを用いてPCRを行い、spoVG遺伝子由来のプロモーターDNAを増幅した。
得られたプロモーターDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込み、spoVGプロモーターと連結されたVHH発現用プラスミドを構築した。
プライマーとして5’-TGCTGCAAGAGCTGCCGGAAATAAA-3’(配列番号85)及び5’-TCTATTAAACTAGTTATAGGG-3’(配列番号86)、及びPrimeSTAR Max DNA Polymerase(TaKaRa)を用いて、PCRを行い、上記プラスミド配列を増幅した。得られたPCR産物に、(1)で作製した人工合成遺伝子を含むDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてそれぞれ組み込み、各人工合成VHH遺伝子を含むHisタグ付きのVHH発現用プラスミドを構築した。構築したプラスミドを、下記(3)に示す手順に従ってBacillus subtilis 168株から、特開2006-174707号に記載されている方法に従って、8種の細胞外プロテアーゼ遺伝子(epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr、aprE)を欠損させ、さらに特許第4336082に記載されている方法に従い、胞子形成に関与するsigF遺伝子を欠損させることにより得られた株(Dpr8ΔsigF)に導入した。
【0111】
(3)組換え枯草菌の作製
枯草菌株への上記プラスミド導入は、以下に示すプロトプラスト法によって行った。1mLのLB液体培地を入れたチューブ中に、グリセロールを含む溶液中でストックしておいた枯草菌を植菌し、30℃、210rpmにて一晩振とう培養した。翌日、このチューブ中の培養液10μLを新鮮な1mLのLB液体培地に植菌し、37℃、210rpmで約2時間振とう培養した。培養終了後、この培養液を15mLチューブに回収し、1,2000rpmで5分間遠心し、上清を除去した。4mg/mLのリゾチーム(SIGMA)を含む500μLのSMMPを加えて、得られたペレットを懸濁させ、このチューブを37℃で1時間インキュベートした。
【0112】
インキュベート終了後、このチューブを3,500rpmで10分間遠心し、上清を除去した。400μLのSMMPをこのチューブに加え、得られたペレットを懸濁させて懸濁液とした。別のチューブに得られた懸濁液33μLを加え、そこに上記のようにして作製したに各プラスミドを加えて混合し、さらに100μLの40%PEGを添加し、ボルテックスして混合液とした。この混合液に350μLのSMMPを加えて転倒混和し、30℃、210rpmで1時間振とうして振盪培養物を得た。その後、あらかじめ準備しておいたDM3寒天培地を含むプレートの寒天培地上に、振盪培養物を全量塗布し、30℃にて2~3日間インキュベートし、組換え枯草菌を得た。
【0113】
(4)VHHの産生
(3)で作製した組換え枯草菌を、50ppmのテトラサイクリンを含むLB培地1mLに植菌し、32℃で一晩往復振とうし、前培養液を得た。得られた前培養液をひだ付き三角フラスコに入れた20mLの2×L-mal培地に1%接種し、30℃で72時間振とう培養した。培養終了時に1mLの培養物をマイクロチューブに取り、4℃、15,000rpmにて5分間遠心し、上清を回収した。回収した上清中に含まれる各VHHについては、Ni-NTAアガロースビーズ(富士フィルム和光純薬)を用い、キットに添付されたプロトコルに従って精製した。精製時の溶出液としては、50mMのイミダゾールを含むPBSを用いた。
【0114】
培養上清中に含まれる抗体の生産量を確認するために、以下の条件でウエスタンブロッティングを行った。SDS-PAGEは、スーパーセップエース又は15-20%(トリシンゲル)(いずれも富士フィルム和光純薬)を用いた。各ウェルに0.5μLの培養上清を含むサンプルをアプライし、その後120Vで3時間泳動した。分子量マーカーには、xL ladder(Broad)(アプロサイエンス)を用いた。Trans-Blot Turbo Mini PVDF Transfer Packs(BIO-RAD)、及びTrans-Blot Turbo System(BIO-RAD)を用いて、タンパク質をSDS-PAGEゲルからPVDF膜へ転写した。抗体として、6x-His Tagモノクローナル抗体(3D5)、HRP(Invitorogen)またはANTI-FLAG M2-ペルオキシダーゼ(HRP)コンンジュゲート(シグマアルドリッチ)を用い、iBind Western System(Invitrogen)を用いて抗体反応を行った。1-Step Ultra TMB-Blotting Solution(Thermo Scientific)を用いて目的タンパク質を検出した。
【0115】
(実施例6)バイオレイヤー干渉法による結合活性測定
バイオレイヤー干渉法(以下、「BLI」と略すことがある)を用いて、枯草菌由来VHH-COVE1~VHH-COVE4、コリネ菌由来VHH-COVE5~VHH-COVE9のSARS-CoV-2(2019-nCoV) Spike S1タンパク質に対する結合活性測定を行った。BLIは、Octet 384(Fortebio)を用いて、キネティックスバッファー(0.05% Tween20含有PBS、pH7.4)で10~20μg/mLに調製した各VHHクローンをAnti-Penta-HIS(HIS1K、Fortebio)センサーチップに固相化し、495nMから2倍連続希釈で調製したSARS-CoV-2(2019-nCoV) Spike S1-Fcリコンビナントタンパク(SinoBiological)と結合させ、解離速度を測定した。測定準備として、センサーチップを水和するため、センサーチップの先端を200μLのキネティックスバッファーに10分間浸漬させた。その後、50μLの各測定液を384ウェルブラックプレート(Fortebio)に添加し、以下に示す1)~6)のステップで測定を実行した。
【0116】
1)Baseline step:キネティックスバッファー中でのベースライン測定(60秒),
2)Loading step:VHH抗体のセンサーへの固定化(240秒),
3)Baseline step:キネティックスバッファー中でのベースライン測定(30秒),
4)Association step:Spike S1タンパク溶液中と会合(180秒),
5)Dissociation step:キネティックスバッファー中で測定(240秒),
6)Regeneration step:Glycin-HCl(pH2.2)中で5秒間測定、キネティックスバッファー中で5秒間の測定を3回繰り返す。
【0117】
上記測定が終了後、実測値からReference(キネティックスバッファーのみ)を差し引き、Octetソフトウェアを用いて、1:1の結合モデルを用いてGlobal Fittingを行い,結合活性を算出した(図3)。各VHHクローンのSpike S1タンパクに対する平衡解離定数(KD)を表13に示す。
【0118】
【表13】
【0119】
(実施例7)バイオレイヤー干渉法による競合阻害活性測定
Octet 384を用いて、各VHHクローン間でのSARS-CoV-2 Spike S1タンパクに対する競合阻害を解析した。競合阻害活性は、枯草菌由来VHH-COVE1~VHH-COVE4、コリネ菌由来VHH-COVE5~VHH-COVE9のいずれかを第1抗体として固相化したセンサーチップに対して、一定の濃度に調製したSpike S1タンパクと、枯草菌由来VHH-COVE1~VHH-COVE4、コリネ菌由来VHH-COVE5~VHH-COVE9のいずれかである第2抗体との混合液に一定時間浸漬させて得られる結合シグナルとSpike S1タンパクのみで結合させた際の結合シグナルを比較することで算出した。
【0120】
まず、キネティックスバッファー(0.05% Tween20含有PBS、pH 7.4)で100μg/mLに調製した第一の競合VHH抗体をHIS1Kセンサーチップに固相化した。次に、100μg/mLの第二の競合VHHクローンと20μg/mL、10μg/mL、5及び0μg/mLのSARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike S1-Fc リコンビナントタンパク(SinoBiological)をそれぞれ混合し、5分間反応させて結合溶液を調製した。ラン毎の測定順は以下の通りとした。
【0121】
1)Baseline step:キネティックスバッファー中でのベースライン測定(60秒),
2)Loading step:VHH抗体のセンサーへの固定化(60秒),
3)Baseline step:キネティックスバッファー中でのベースライン測定(30秒),
4)Association step:Spike S1タンパク溶液と競合VHH抗体混合溶液中での会合(120秒),
5)Dissociation step:キネティックスバッファー中で測定(30秒),
6)Regeneration step:Glycin-HCl(pH2.2)中で5秒間測定、キネティックスバッファー中で5秒間の測定を3回繰り返す。
【0122】
競合阻害率は、第1抗体とSpike S1タンパクで得られる結合シグナルを100%として、第2抗体存在下でのシグナル強度が最大結合能の25%未満に減少させる場合には競合し、結合が75%を超える場合には非競合と定義した。25%~75%のレベルは、中間競合とした。各クローンの結合競合シグナルの結果から、結合活性の高いVHHクローンが得られ、今回活性が認められたVHHクローンについては、少なくとも5つの競合グループに分割できるものと考えられた(下記表14参照)。
【0123】
【表14】
【0124】
(実施例8)SARS-CoV-2に対する中和活性の測定
枯草菌由来VHH-COVE2のSARS-CoV-2に対する中和活性を測定した。抗体は2%Fetal Bovine Serum(FBS)/Dulbecco Modified Eagle Medium(DMEM)と混合することで、15μg/mLの濃度になるように調製した。さらに、100μLのVHHクローン混合液と100μLの2%FBS/DMEMを混合することで3倍希釈液を調製し、抗体の3倍希釈系列溶液を調製した。
【0125】
96ウェルプレートにVHHクローンの3倍希釈系列溶液を100μL添加し、さらに2.5×10RNAコピー/mLのSARS-CoV-2溶液(国立感染症研究所から入手)をそれぞれ100μLずつ添加した。その後、37℃で2時間インキュベートした後、4℃で一晩インキュベートし、抗体とウイルスを接触させた。Vero-E6/TMPRSS2細胞(JCRB細胞バンクより購入)を播種したウェルに、抗体とウイルスを接触させた溶液200μLを加え、37℃、5%CO環境下で培養した。培養開始3日後に培養上清を回収し、定量PCRにより、上清中のウイルスゲノムのコピー数を定量した。
【0126】
定量PCR法により得られた結果をもとに、VHHクローンの各濃度におけるSARS-CoV-2の感染阻害率を算出した(図5)。その結果、VHH-COVE2はSARS-CoV-2に対して、中和活性を示したため、SARS-CoV-2の粒子に対しても結合可能であることがわかった。また、感染阻害率から求められたIC50は0.05μg/mLであり、VHH-COVE2はSARS-CoV-2に対して、高い中和活性を有していることがわかった。
【0127】
(実施例9)プロテアーゼ欠損組換え枯草菌によるVHHの生産
Hisタグ配列をC末端に付与したVHH-COVE5、VHH-COVE8、VHH-COVE9をプロテアーゼ欠損組換え枯草菌にて生産した。具体的には、N末端にAla残基、C末端にリンカーを含むHisタグ配列(配列番号74)を付与したVHH-COVE5(配列番号99)(以降「枯草菌由来VHH-COVE5」と表記)、VHH-COVE8(配列番号100)(以降「枯草菌由来VHH-COVE8」と表記)、VHH-COVE9(配列番号101)(以降「枯草菌由来VHH-COVE9」と表記)の人工合成遺伝子を合成した。配列番号99~101をコードする塩基配列の3’末端に終止コドンが付与し、さらにGCAGCTCTTGCAGCA(配列番号75)が5’末端に、TCTATTAAACTAGTT(配列番号76)が3’末端に付加された配列番号87(VHH-COVE5発現用コンストラクト)、配列番号88(VHH-COVE8発現用コンストラクト)、配列番号89(VHH-COVE9発現用コンストラクト)をユーロフィン社で人工合成し、実験に供した。以降のプロテアーゼ欠損組換え枯草菌によるVHHの生産の操作は実施例5に従い行った。
【0128】
(実施例10)SARS-CoV-2に対する中和活性の測定
上述した実施例8に記載の方法に従い、使用するVHHクローンをVHH-COVE2からそれぞれ枯草菌由来VHH-COVE5、枯草菌由来VHH-COVE8、枯草菌由来VHH-COVE9に変更し、SARS-CoV-2に対する中和活性を評価した。その結果、感染阻害率から求められたIC50は3.048μg/mL(VHH-COVE5)、1.733μg/mL未満(VHH-COVE8)、0.58μg/mL未満(VHH-COVE9)となった。
【0129】
(実施例11)プロテアーゼ欠損組換え枯草菌によるVHHの生産
Hisタグ配列をC末端に付与したVHH-COVE6、VHH-COVE7をプロテアーゼ欠損組換え枯草菌にて生産した。具体的には、N末端にAla残基、C末端にリンカーを含むHisタグ配列(配列番号74)を付与したVHH-COVE6(配列番号102)(以降「枯草菌由来VHH-COVE6」と表記)、VHH-COVE7(配列番号103)(以降「枯草菌由来VHH-COVE7」と表記)の人工合成遺伝子を合成した。配列番号Q、配列番号Rをコードする塩基配列の3’末端に終止コドンが付与し、さらにGCAGCTCTTGCAGCA(配列番号75)が5’末端に、TCTATTAAACTAGTT(配列番号76)が3’末端に付加された配列番号104(VHH-COVE6発現用コンストラクト)、配列番号105(VHH-COVE7発現用コンストラクト)をユーロフィン社で人工合成し、実験に供した。以降のプロテアーゼ欠損組換え枯草菌によるVHHの生産の操作は実施例5に従い行った。
【0130】
(実施例12)SARS-CoV-2変異株に対する結合活性の測定
枯草菌由来のVHH-COVE1~VHH-COVE5、VHH-COVE7~VHH-COVE9の8種のVHH抗体に関して、SARS-CoV-2変異株のSpikeタンパク質への結合活性をELISA法により測定した。なお標的タンパク質として、Trimeric SARS-CoV-2 Spike Antigen, Full-length(「武漢型」と表記)、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen B.1.1.7 Mutation(「イギリス型」と表記)、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen B.1.351 Mutation(「南アフリカ型」と表記)、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen P.1 Mutation(「ブラジル型」と表記)(Bio-serv社)をPBST(Phosphate Buffered Saline with 0.05% Tween 20)で希釈したもの(0、5、50、500ng/mL)を用いた。イギリス型とは武漢型に対してH69-V70欠失,Y144欠失,N501Y,A570D,D614G,P681H,T716I,S982A,D1118Hの変異が生じたものである。南アフリカ型とは武漢型に対してY144欠失,K417N,E484K,N501Y,A570D,D614G,P681H,T716I,S982A,D1118Hの変異が生じたものである。ブラジル型とは武漢型に対して、L18F,T20N,P26S,D138Y,R190S,K417T,E484K,N501Y,H655Y,T1027I,V1176Fの変異が生じたものである。
【0131】
PierceTM Nickle Coated Plates、Clear、96-well(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに、20μg/mLに調製した各VHH抗体を100μLずつ添加し、室温で1時間インキュベートし固相化を行った。その後、ピペットを用いて丁寧にVHH抗体を除去したのち、200μLのPBSTを添加し、ピペットで丁寧に除去する操作(「洗浄」と表記)を3回繰り返した。次に、各ウェルに200μLの5%スキムミルク/PBSTを添加し、室温で1時間インキュベートしブロッキングを行った。その後、ピペットを用いて丁寧にスキムミルク/PBSTを除去したのち、洗浄の操作を3回繰り返した。続いて、各ウェルに適切な濃度に調製した100μLの標的タンパク質を添加し、室温で1時間インキュベートした。その後、ピペットを用いて丁寧に標的タンパク質溶液を除去したのち、洗浄の操作を3回繰り返した。
一次抗体として、Ms mAb to Rhodopsin[1D4](Abcam)をPBSTで1/5,000希釈したものを調製し、各ウェルに100μL添加した。室温で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に一次抗体を除去したのち、洗浄の操作を3回繰り返した。二次抗体としてGoat pAb to Ms(HRP)(Abcam)をPBSTで1/5,000希釈したものを調製し、各ウェルに100μL添加した。室温かつ遮光条件で1時間インキュベートした後、ピペットを用いて丁寧に二次抗体を除去したのち、洗浄の操作を3回繰り返した。発光基質として、OPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate buffer(Thermo Fisher Scientific)に溶解したものを調製し、各ウェルに100μL添加した。その後、室温かつ遮光条件で20分間インキュベートし、吸光度(450nm)をGloMax(登録商標) Explorer System(Promega社)を用いて測定した。
【0132】
ELISA試験の結果を図6に示す。試験に供した全てのVHH抗体に関して、4種のSpikeタンパク質への結合活性が確認された。なおE1とE4以外のVHH抗体に関しては、いずれのSpikeタンパク質に対しても特に良好な結合活性(吸光度が0.97以上)が確認された。
【0133】
(実施例13)SARS-CoV-2変異株に対する結合活性の測定
上述した実施例11の方法に倣い、枯草菌由来VHH-COVE6に関して、SARS-CoV-2変異株のSpikeタンパク質への結合活性をELISA法により測定した。実施例11と同様に、標的タンパク質としてTrimeric SARS-CoV-2 Spike Antigen, Full-length(「武漢型」と表記)、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen B.1.1.7 Mutation(「イギリス型」と表記)、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen B.1.351 Mutation(「南アフリカ型」と表記)、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen P.1 Mutation(「ブラジル型」と表記)(Bio-serv社)のいずれかをPBST(Phosphate Buffered Saline with 0.05% Tween 20)で希釈したもの(0、5、50、500ng/mL)を用いた。なお、各変異株における変異箇所は実施例12において記載したものと同じである。図7にELISA試験の結果を示すが、いずれの変異株のspikeタンパク質に対しても、VHH-COVE6の明瞭な結合活性が確認された。
【0134】
(実施例14)SARS-CoV-2変異株に対する結合活性の測定
上述した実施例11の方法に倣い、枯草菌由来のVHH-COVE1~VHH-COVE9の9種のVHH抗体に関して、SARS-CoV-2イギリス/ナイジェリア変異株のSpikeタンパク質への結合活性をELISA法により測定した。なお標的タンパク質として、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen B.1.525 Mutation(以降「イギリス/ナイジェリア型」と表記)(Bio-serv社)をPBST(Phosphate Buffered Saline with 0.05% Tween 20)で希釈したもの(0、5、50、500ng/mL)を用いた。イギリス/ナイジェリア変異株とは武漢型に対して、H69-V70欠失,Y144欠失,Q52R,E484K,Q667H,F888Lの変異が生じたものである。
【0135】
ELISA試験の結果を図8に示す。試験に供した全てのVHH抗体に関して、イギリス/ナイジェリア型のspikeタンパク質への結合活性が確認された。VHH-COVE3、VHH-COVE8、VHH-COVE9に関しては、非常に良好な結合活性(吸光度が1以上)が確認された。VHH-COVE5、VHH-COVE6、VHH-COVE7に関しても、良好な結合活性(吸光度が0.5以上)が確認された。
【0136】
(実施例15)SARS-CoV-2変異株に対する結合活性の測定
上述した実施例11の方法に倣い、枯草菌由来のVHH-COVE1~VHH-COVE9の9種のVHH抗体に関して、SARS-CoV-2カリフォルニア変異株およびインド変異株のSpikeタンパク質への結合活性をELISA法により測定した。なお標的タンパク質として、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen B.1.429 Mutation(以降「カリフォルニア型」と表記)、SARS-CoV-2 full-length Spike Recombinant Antigen B.1.617 Mutation(以降「インド型」と表記)(Bio-serv社)のそれぞれを、PBST(Phosphate Buffered Saline with 0.05% Tween 20)で希釈したもの(0、5、50、500ng/mL)を用いた。カリフォルニア変異株とは武漢型に対してS13l,W152C,L452R,D1183Yの変異が生じたものである。インド変異株とは武漢型に対してG142D,E154K,L452R,E484Q,D614G,P681R,Q1071Hの変異が生じたものである。
【0137】
ELISA試験の結果を図9に示す。VHH-COVE3を除く全てのVHH抗体に関して、カリフォルニア型およびインド型のspikeタンパク質への結合活性がいずれも確認されなかった。一方VHH-COVE3に関しては、カリフォルニア型およびインド型のspikeタンパク質に対する高い結合活性が確認された。実施例11、実施例13も踏まえると、VHH-COVE3がSpikeタンパク質の変異による影響を受けにくいようなエピトープを認識しており、SARS-CoV-2の変異株に対して幅広く結合活性を示すことが明らかになった。
【0138】
(実施例16)SARS-CoV-2 Spike RBDに対する結合活性測定
枯草菌由来のVHH-COVE1~VHH-COVE9の9種のVHH抗体に関して、SARS-CoV-2 Spike RBDリコンビナントタンパク質への結合活性を実施例7と同様の方法にて測定した。キネティックスバッファー(0.05% Tween20含有PBS、pH 7.4)で10~20μg/mLに調製した各VHHクローンをAnti-Penta-HIS(HIS1K、Fortebio)センサーチップに固相化し、199.2 nMから2倍連続希釈で調製したSARS-CoV-2 Spike RBDリコンビナントタンパク(40592-VNAH、SinoBiological、武漢型)と結合させ、解離速度を測定した。測定準備として、センサーチップを水和するため、センサーチップの先端を200μLのキネティックスバッファーに10分間浸漬させた。その後、50μLの各測定液を384ウェルブラックプレート(Fortebio)に添加し、以下に示す1)~6)のステップで測定を実行した。
【0139】
1)Baseline step:キネティックスバッファー中でのベースライン測定(30秒)
2)Loading step:VHH抗体のセンサーへの固定化(120秒)
3)Baseline step:キネティックスバッファー中でのベースライン測定(60秒)
4)Association step:RBDタンパク溶液中と会合(180秒)
5)Dissociation step:キネティックスバッファー中で測定(240秒)
6)Regeneration step:Glycin-HCl(pH 2.2)中で5秒間測定、キネティックスバッファー中で5秒間の測定を3回繰り返す。
【0140】
上記測定が終了後、実測値からReference(キネティックスバッファーのみ)を差し引き、Octetソフトウェアを用いて、1:1の結合モデルを用いてGlobal Fittingを行い,結合活性を算出した。各VHH抗体のRBDタンパクに対する平衡解離定数(K)を表15に示す。
【0141】
【表15】
【0142】
RBDに対する平衡解離定数(K)より、VHH-COVE1とVHH-COVE4を除くその他のVHH抗体はS1タンパクと同様に強力な結合活性を示した。一方、VHH-COVE1とVHH-COVE4については、明確な結合を示さなかった。VHH-COVE1とVHH-COVE4は、S1タンパクに結合し、RBDに結合するVHH-COVE2等と競合することが確認されていることから、RBDの近傍部位(NTD)をエピトープとして認識しているものと推察された。
【0143】
(実施例17)SARS-CoV-2 Spike RBDとACE2の結合に対する競合阻害活性測定
実施例7と同様の方法にて、実施例15にてRBDへの結合が確認された枯草菌由来VHH-COVE2、枯草菌由来VHH-COVE3、枯草菌由来VHH-COVE5~VHH-COVE9の7種のVHH抗体に関して、Octet 384を用いて、SARS-CoV-2 Spike RBDとヒトACE2の結合に対する競合阻害評価を実施した。キネティックスバッファー(0.05% Tween20含有PBS、pH7.4)で10~20μg/mLに調製した各VHHクローンをAnti-Penta-HIS(HIS1K、Fortebio)センサーチップに120秒間インキュベートすることで固相化し、1stアナライトとして199.2nMのSARS-CoV-2 Spike RBDリコンビナントタンパク(20μg/mL,40592-VNAH、SinoBiological、武漢型)溶液に浸し、180秒間後の結合を確認した後、緩衝溶液に240秒間浸した。30秒間のベースラインステップを挟んで、センサーチップを20ng/mLに調整したACE2-Fcのウェルに浸し、180秒間後の結合の有無を確認した。
【0144】
センサーチップに固定した各VHH抗体と1stアナライトであるRBD間の結合レスポンスを確認した後、2ndアナライトであるACE2-Fcを結合させたところ、VHH-COVE3、VHH-COVE5、VHH-COVE6、VHH-COVE7、VHH-COVE8は、ACE2との結合を明確に阻害し、競合性を示した。この結果は、VHH-COVE3、VHH-COVE5、VHH-COVE6、VHH-COVE7、VHH-COVE8は、SARS-CoV-2への中和活性を示すことを示唆する。
一方、VHH-COVE9は、ACE2と競合性を示さず、VHH-COVE2は、ACE2と部分的に競合性を示した。ACE2に対する各センサーグラムの変化を図10に示す。本結果から、VHH-COVE9は、RBD上におけるACE2結合サイト以外をエピトープとしていることが示され、その中和活性はACE2と直接競合して中和活性を示す一般的な抗体とは異なる作用であると考えられた。
【0145】
(実施例18)SARS-CoV2 Spike RBD変異株に対する結合活性測定
実施例7と同様の方法にて、枯草菌由来VHH-COVE2、枯草菌由来VHH-COVE3、枯草菌由来VHH-COVE5~VHH-COVE9の6種のVHH抗体の、SARS-CoV-2 Spike RBD変異株への結合活性を測定した。予め、各SARS-CoV-2 Spike RBD変異株(SPD-C52Hn,Acro Biosystems, N501Y)、SARS-CoV2 Spike RBD変異株(SRD-C52H3,Acro Biosystems, E484K)、SARS-CoV2 Spike RBD変異株(SRD-C52H2,Acro Biosystems, N440K)、SARS-CoV2 Spike RBD変異株(SPD-C52Hp,Acro Biosystems, K417N, E484K, N501Y)をEZ-Link NHS-PEG12-biotin化試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いてビオチン化し、キネティックスバッファー(0.05% Tween20含有PBS、pH7.4)で10~20μg/mLに調製した。RBD変異株をSAセンサーチップ(Fortebio)に固相化し、666.7nMから2倍連続希釈で調整した各VHHと結合させ、解離速度を測定した。測定準備として、センサーチップを水和するため、センサーチップの先端を200μLのキネティックスバッファーに10分間浸漬させた。その後、50μLの各測定液を384ウェルブラックプレート(Fortebio)に添加し、以下に示す1)~5)のステップで測定を実行した。
【0146】
1)Baseline step:キネティックスバッファー中でのベースライン測定(60秒)
2)Loading step:VHH抗体のセンサーへの固定化(300秒)
3)Baseline step:キネティックスバッファー中でのベースライン測定(60秒)
4)Association step:Spike RBDタンパク溶液中と会合(120秒)
5)Dissociation step:キネティックスバッファー中で測定(240秒)
【0147】
上記測定が終了後、実測値からReference(キネティックスバッファーのみ)を差し引き、Octetソフトウェアを用いて、1:1の結合モデルを用いてGlobal Fittingを行い,結合活性を算出した。各VHHクローンのSARS-CoV2 Spike RBD変異株に対する平衡解離定数(K)を表16、表17、表18、及び表19に示す。
【0148】
【表16】
【0149】
【表17】
【0150】
【表18】
【0151】
【表19】
【0152】
結合解析の結果、本試験に供した全てのVHH抗体が各RBD変異株に対して結合した。しかし、ACE2とエピトープの競合性が認められているVHH-COVE2、VHH-COVE3、VHH-COVE5、VHH-COVE7、VHH-COVE8については、変異の位置によっては結合活性への影響が生じることが確認された。一方、ACE2と異なるエピトープに結合するVHH-COVE9は、これら変異に伴う結合活性の低下は認められなかった。このことから、VHH-COVE9は上記変異株に対しても、中和活性を発揮する可能性が示唆された。
【0153】
(実施例19)SARS-CoV―2インド型変異株のRBDに対する結合活性測定
実施例15においてインド型変異株由来のspikeタンパク質への結合活性が確認されたVHH-COVE3に関して、インド型変異株由来のRBDへの結合活性を評価した。まず、30分以上常温に戻したDynabeadsTM MyOne Carboxylic Acid(ThermoFisher)をよく撹拌し、250μLを1.5mLチューブに分取した。その後、磁石ラックを用いて上清を除去した。250μLの15mM MES buffer(pH6.0)を加えたのち、10秒間ボルテックスした。その後、磁石ラックを用いて上清を除去した。50μLの15mM MES buffer(pH6.0)でビーズを懸濁し、10mg/mLに調製した1-エチル-3-(-3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を50μL加えて混合したのち、常温で30分撹拌した。その後、磁石ラックを用いて上清を除去した。次に、50ngのVHH―COVE3を含む15mM MES buffer(pH6.0)を120μL調製し、その溶液でビーズを懸濁した。常温下で一晩の間撹拌した後、磁石ラックを用いて上清を除去した。500μLのPBSTでビーズを懸濁し、10分間攪拌した。その後、磁石ラックを用いて上清を除去した。なお、この操作は2回繰り返した。3%のウシ血清アルブミンを含むPBST500μLで懸濁したのち、30分撹拌した。その後PBSTによる洗浄を3回行った。以上の操作により、VHH-COVE3固定化ビーズを調製した。またコントロールとして、VHH非固定化ビーズの調製も併せて行った。次に、SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike RBD(L452R,E484Q)Protein(His Tag)(以降、「インド型RBD」と表現)(Sino Biological社)を、PBSTを用いて12.5μg/mLに調製した。1.5mLチューブ内で、200μLのインド型RBDでVHH-COVE3固定化ビーズを懸濁したのち、ゆっくり撹拌させた。撹拌開始10分後に30μLの反応液を分取して、溶液が透明になるまで磁石ラック上に静置したのち、その上清を分取してSDS―PAGEに供した。SDS-PAGEは、Bolt(登録商標) Bis-Tris Plusゲル(ThermoFisher)の各ウェルに20μLの上清を含むサンプルをアプライし、その後200Vで35分間泳動した。分子量マーカーには。NovexTM Sharp Pre-stained Protein Standard(ThermoFisher)を用いた。染色には、GelCodeTM Blue Safe Protein Stain(ThermoFisher)を用いた。
【0154】
SDS―PAGEに供した結果を図11に示す。初発のサンプルとして250ng相当のインド型RBDをSDS―PAGEに供しており、このバンドとの比較により当該VHHの結合活性を評価した。コントロールとして、VHH非固定化ビーズとインド型RBDを反応させた場合には、初発のサンプルと同様に位置にバンドが確認された(レーン1と2の比較)。つまり、VHH非固定化ビーズとインド型RBDとの結合活性が無いことが確認された。一方、VHH-COVE3固定化ビーズとインド型RBDを反応させると、インド型RBD由来のバンドが消失した(レーン1と3の比較)。この結果は、VHH-COVE3固定化ビーズがインド型RBDを吸着したことを意味する。以上を総合すると、VHH-COVE3がインド型RBDとの明瞭な結合活性を有することが明らかになった。
【0155】
(実施例20)組換えコリネ菌によるVHH-COVE9変異体の生産
(1)VHH-COVE9変異体発現用プラスミドの構築
試験管内淘汰セレクションのR5のDNAライブラリー内の配列を考慮して、VHH-COVE9(配列番号73)のCDR3領域内にR108Kの変異が生じたVHH-COVE9-R108K(配列番号106)、同じくCDR3領域内にN109Dの変異が生じたVHH-COVE9-N109D(配列番号107)とY110Sの変異が生じたVHH-COVE9-Y110S(配列番号108)を選抜した。これらVHHを組換えコリネ菌で作製するにあたって、N末端にAla残基を、C末端にリンカーを含むHisタグ配列(配列番号74)を付与した形でVHH-COVE9-R108K(配列番号109)、VHH-COVE9-N109D(配列番号110)、VHH-COVE9-Y110S(配列番号111)を発現させた。各VHHの遺伝子をユーロフィン社で合成し、発現用プラスミドに導入した。合成したVHHクローンの遺伝子と空の発現用プラスミドを、2種類の制限酵素SfiI及びApaI(いずれもThermo Fisher)で処理し、アガロースゲル電気泳動により目的断片のDNAをそれぞれ単離精製した。その後、制限酵素処理したVHHクローン遺伝子と発現用プラスミドをLigation Mix(Toyobo)を用いてライゲーションし、そのライゲーション産物を用いてクローニング用コンピテントセルJM109株に形質転換した。形質転換した大腸菌からプラスミド抽出を行い、VHHクローンの発現用プラスミドを取得した。
【0156】
(2)組換えコリネバクテリウム グルタミカム株の作製
コリネバクテリウム グルタミカム株へのプラスミド導入は、実施例4の条件と同様に実施した。
【0157】
(3)VHH産生
上記(2)で作製した組換えコリネバクテリウム グルタミカム株を25μg/mLカナマイシンを含むCM2G培地に植菌し、30℃で一晩振とうし、前培養液とした。前培養液を96ディープウェルプレートに入れた700μLのPM1S培地に5%接種し、25℃で72時間振とう培養した。培養終了後に、遠心機(Thermo Fisher Scientific)で4,000rpm、4℃、30分間遠心し、培養上清をチューブに回収した。
【0158】
回収した培養上清に対してPVDF膜(Merck Millipore)を用いてろ過した後、Ni-NTAアガロースビーズ(富士フィルム和光純薬)を用いて当該製品の使用説明書に従って精製した。VHHの溶出には、700μLのHis-tag elution buffer(50mM Tris-HCl、300mM NaCl、500mM Imidazole、pH7.5)を添加し、遠心機(TOMY)で500×g、30秒間遠心した。溶出液を回収し、VHH抗体サンプルとした。
【0159】
精製したVHHの純度を確認するため、SDS-PAGEを行った。各ウェルに4μL分のサンプルをアプライした後、150Vで1時間の条件で電気泳動した。分子量マーカーにはPrecision Plus ProteinTM Standards(BIO-RAD)を用いた。電気泳動後、ゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)染色し、培養上清中にVHHが合成されていることを確認した。
【0160】
(実施例21)バイオレイヤー干渉法による結合活性測定
実施例6と同様の方法にて、SARS-CoV-2(2019-nCoV) Spike S1-Fcリコンビナントタンパク(SinoBiological)に対するVHH-COVE9-R108K(配列番号106)、VHH-COVE9-N109D(配列番号107)、VHH-COVE9-Y110S(配列番号108)の結合活性を測定した。各VHHクローンのSpike S1タンパクに対する平衡解離定数(K)を表20に示す。
【0161】
【表20】
【0162】
(実施例22)VHH-COVE3のSARS-CoV-2変異株に対する中和活性の測定
枯草菌由来VHH-COVE3のSARS-CoV-2アルファ型およびデルタ型変異株に対する中和活性を測定した。抗体は2%Fetal Bovine Serum(FBS)/Dulbecco Modified Eagle Medium(DMEM)と混合することで、150μg/mLの濃度になるように調製した。さらに、100μLのVHHクローン混合液と100μLの2%FBS/DMEMを混合することで3倍希釈液を調製し、抗体の3倍希釈系列溶液を調製した。
【0163】
96ウェルプレートにVHHクローンの3倍希釈系列溶液を100μL添加し、さらに2.5×10RNAコピー/mLのSARS-CoV-2アルファ型・デルタ型変異株の溶液(国立感染症研究所から入手)をそれぞれ100μLずつ添加した。その後、37℃で2時間インキュベートした後、4℃で一晩インキュベートし、抗体とウイルスを接触させた。Vero-E6/TMPRSS2細胞(JCRB細胞バンクより購入)を播種したウェルに、抗体とウイルスを接触させた溶液100μLを加え、37℃、5%CO環境下で培養した。培養開始1日後に培養上清を回収し、定量PCRにより、上清中のウイルスゲノムのコピー数を定量した。定量PCRにはSARS-CoV-2 Detection Kit(Toyobo)を用いた。培養上清3μLを前処理液3μLと混合し、そのうちの3μLをRT―PCR反応液(反応液15μL、酵素液2.5μL、プライマー・プローブ液2.5μL)に加えて、LightCycler(登録商標)96にて定量PCRを行った。反応条件は、逆転写反応42℃・5分、プレ変性95℃・10秒、サイクル反応[変性95℃・1秒、会合50℃・3秒、伸長55℃・10秒]45サイクルで検出を行った。
【0164】
定量PCR法により得られた細胞中のウイルス数の結果を図12に示す。その結果、VHH-COVE3はSARS-CoV-2アルファ型、デルタ型のいずれに対しても中和活性を示すこと、またそれらウイルスへの結合活性を示すことが明らかになった。
【0165】
(実施例23)SARS-CoV-2カッパ型変異株由来の(L452R、E484Q、B.1.617.1株)とACE2の結合に対する競合阻害活性測定
枯草菌由来VHH-COVE3に関して、Octet 384を用いてSARS-CoV-2カッパ型変異株由来のRBD(L452R、E484Q)とヒトACE2の結合に対する競合阻害評価を実施した。キネティックスバッファー(0.05% Tween20含有PBS、pH 7.4)で20μg/mLに調製したVHH-COVE3をAnti-Penta-HIS(HIS1K、Fortebio)センサーチップに120秒間インキュベートすることで固相化し、アナライトとして10μg/mLのSARS-CoV-2 Spike RBDリコンビナントタンパク(SPD-C525e、AcroBiosystems)溶液(50μL)、20μg/mLSARS-CoV-2 Spike RBDリコンビナントタンパク(25μL)と40μg/mLのACE2(SPD-C525e、AcroBiosystems)溶液(25μL)の混合溶液、20μg/mLのACE2(50μL、リファレンスウェル)にそれぞれ浸し、120秒間後の結合を確認した後、緩衝溶液に120秒間浸した。
【0166】
ACE2を固定したセンサーチップをリファレンスとしてデータ処理した結果を図13に示す。結果、センサーチップに固定したVHH-COVE3とRBD間の結合レスポンスに対して、RBDとACE2の混合液ではレスポンスが明確に消失した。VHH-COVE3は、ACE2とカッパ型変異株由来のRBDとの結合を明確に阻害したため、VHH-COVE3はカッパ型変異株に対しても中和活性を有することがわかった。
【0167】
(実施例24)SARS-CoV-2デルタ型変異株由来のRBD(L452R、T478K、B.1.617.2株)とACE2の結合に対する競合阻害活性測定
枯草菌由来VHH-COVE3に関して、Octet 384を用いてSARS-CoV-2デルタ型変異株由来のRBD(L452R、T478K変異株)とヒトACE2の結合に対する競合阻害評価を実施した。キネティックスバッファー(0.05% Tween20含有PBS、pH 7.4)で20μg/mLに調製したVHH-COVE3をAnti-Penta-HIS(HIS1K、Fortebio)センサーチップに120秒間インキュベートすることで固相化し、アナライトとして10μg/mLのSARS-CoV-2 Spike RBDリコンビナントタンパク(SPD-C525e、AcroBiosystems)溶液(50μL)、20μg/mLSARS-CoV-2 Spike RBDリコンビナントタンパク(25μL)と40μg/mLのACE2(SPD-C525e、AcroBiosystems)溶液(25μL)の混合溶液、20μg/mLのACE2(50μL)にそれぞれ浸し、120秒間後の結合を確認した後、緩衝溶液に120秒間浸した。
【0168】
ACE2を固定したセンサーチップをリファレンスとしてデータ処理した結果を図14に示す。結果、センサーチップに固定したVHH-COVE3とRBD間の結合レスポンスに対して、RBDとACE2の混合液ではレスポンスが明確に消失した。VHH-COVE3は、ACE2とデルタ型変異株由来のRBDとの結合を明確に阻害したため、VHH-COVE3はデルタ型変異株に対しても中和活性を有することがわかった。
【0169】
(実施例25)ハムスター体内におけるVHH-COVE9のSARS-CoV-2アルファ型変異株に対する中和活性の測定
6週齢、オスのシリアンハムスター(以下、ハムスター)12匹に3種混合麻酔薬(塩酸メデトミジン0.15mg/kg、ミダゾラム2.0mg/kg、酒石酸ブトルファノール2.5mg/kgの混合剤)を腹腔内投与して鎮静後、SARS-CoV-2 アルファ型変異株(103.5TCID50/head)を経鼻投与した。経鼻投与後、アチパメゾールをハムスターに腹腔内投与して鎮静状態から回復させた。SARS-CoV-2投与の1日後、再び3種混合麻酔薬を全てのハムスターに腹腔内投与して鎮静後、VHH-COVE9を濃度別(20mg/kg,4mg/kg,0.8mg/kg)に3匹ずつ経鼻投与した。コントロールとして、VHH-COVE9の希釈に使用したアルブミン加PBSのみを3匹のハムスターに経鼻投与した。ウイルス投与直後からその4日後まで毎日ハムスターの体重を測定した。
【0170】
ハムスター体内でのVHH-COVE9の中和活性評価の結果を図15に示す。VHH-COVE9未投与のコントロールでは、SARS-CoV-2感染に伴う明瞭な体重減少が確認された。0.8mg/kgのVHH-COVE9を投与すると、体重減少の緩和が確認された。また、4mg/kg,20mg/kgのVHH-COVE9を投与した際には、SARS-CoV-2感染に伴う体重減少が明瞭に抑制された。つまり、VHH-COVE9がSARS-CoV-2アルファ型変異株への中和活性(治療効果)を有することが明らかになった。
【0171】
(実施例26)SARS-CoV―2ラムダ型変異株のRBDに対する結合活性測定
VHH-COVE3に関して、ラムダ型変異株由来のRBDへの結合活性を評価した。実施例19に倣ってVHH-COVE3固定化ビーズを調製した。またコントロール用として、VHH非固定ビーズおよびVHH-COVE9固定化ビーズの調製も併せて行った。次に、SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike RBD(L452Q,F490S)Protein(His Tag)(以降、「ラムダ型RBD」と表現)(Sino Biological社)を、PBSTを用いて12.5μg/mLに調製した。1.5mLチューブ内において、200μLのラムダ型RBDでVHH-COVE3固定化ビーズ、VHH-COVE9固定化ビーズ、VHH非固定ビーズをそれぞれ懸濁したのち、ゆっくり撹拌させた。撹拌開始10分後に100μLの反応液を分取して、溶液が透明になるまで磁石ラック上に静置したのち、その上清を除去した。次に、回収したビーズを40μLの蒸留水で懸濁したのち、SDS-PAGEのサンプルバッファーと混合したものを100℃で5分間静置し、ビーズに吸着したラムダ型RBDをサンプルバッファーに溶出することで、溶出画分として調製した。SDS-PAGEは、Bolt(登録商標)Bis-Tris Plusゲル(ThermoFisher)の各ウェルに40μLの溶出画分を含むサンプルをアプライし、その後200Vで35分間泳動した。分子量マーカーには。NovexTM Sharp Pre-stained Protein Standard(ThermoFisher)を用いた。染色には、GelCodeTM Blue Safe Protein Stain(ThermoFisher)を用いた。
【0172】
SDS―PAGEに供した結果を図16に示す。初発のサンプルとして250ng相当のラムダ型RBDをSDS―PAGEに供した(レーン1)。コントロールであるVHH非固定ビーズ、VHH-COVE9固定化ビーズの溶出画分には、ラムダ型RBD由来のバンドは確認されなかった(レーン2,4)。一方、VHH-COVE3固定化ビーズの溶出画分にはラムダ型RBD由来のバンドが確認された(レーン3)。以上の結果はVHH-COVE3固定化ビーズがラムダ型RBDを吸着したことを示す。つまり、VHH-COVE3がラムダ型RBDとの結合活性を有することが明らかになった。
【0173】
(実施例27)ハムスター体内におけるVHH-COVE3のSARS-CoV-2アルファ型変異株に対する中和活性の測定
6週齢、オスのシリアンハムスター(以下、ハムスター)6匹に3種混合麻酔薬(塩酸メデトミジン0.15mg/kg、ミダゾラム2.0mg/kg、酒石酸ブトルファノール2.5mg/kgの混合剤)を腹腔内投与して鎮静後、SARS-CoV-2 アルファ型変異株(103.5TCID50/head)を経鼻投与した。経鼻投与後、アチパメゾールをハムスターに腹腔内投与して鎮静状態から回復させた。SARS-CoV-2投与の1日後、再び3種混合麻酔薬を全てのハムスターに腹腔内投与して鎮静後、8mg/kgのVHH-COVE3を3匹に経鼻投与した。コントロールとして、VHH-COVE3の希釈に使用したアルブミン加PBSのみを3匹のハムスターに経鼻投与した。ウイルス投与直後からその4日後まで毎日ハムスターの体重を測定した。
【0174】
ハムスター体内でのVHH-COVE3の中和活性評価の結果を図17に示す。VHH-COVE3未投与のコントロールでは、SARS-CoV-2感染に伴う明瞭な体重減少が確認された。8mg/kgのVHH-COVE3を投与すると、体重減少が抑制された。つまり、VHH-COVE3がSARS-CoV-2アルファ型変異株への中和活性(治療効果)を有することが明らかになった。
【0175】
(実施例28)ハムスター体内におけるVHH-COVE3のSARS-CoV-2デルタ型変異株に対する中和活性の測定
6週齢、オスのシリアンハムスター(以下、ハムスター)6匹に3種混合麻酔薬(塩酸メデトミジン0.15mg/kg、ミダゾラム2.0mg/kg、酒石酸ブトルファノール2.5mg/kgの混合剤)を腹腔内投与して鎮静後、SARS-CoV-2 デルタ型変異株(103.5TCID50/head)を経鼻投与した。経鼻投与後、アチパメゾールをハムスターに腹腔内投与して鎮静状態から回復させた。SARS-CoV-2投与の1日後、再び3種混合麻酔薬を全てのハムスターに腹腔内投与して鎮静後、8mg/kgのVHH-COVE3を3匹に経鼻投与した。コントロールとして、VHH-COVE3の希釈に使用したアルブミン加PBSのみを3匹のハムスターに経鼻投与した。ウイルス投与直後からその4日後まで毎日ハムスターの体重を測定した。
【0176】
ハムスター体内でのVHH-COVE3の中和活性評価の結果を図18に示す。VHH-COVE3未投与のコントロールでは、SARS-CoV-2感染に伴う明瞭な体重減少が確認された。8mg/kgのVHH-COVE3を投与すると、体重減少が抑制された。つまり、VHH-COVE3がSARS-CoV-2デルタ型変異株への中和活性(治療効果)を有することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明は、医薬及び診断薬の分野において有用である。
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