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特許7414232皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセット、キット及び皮膚常在菌の検出方法
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  • 特許-皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセット、キット及び皮膚常在菌の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセット、キット及び皮膚常在菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20240109BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20240109BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240109BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6844 Z
C12M1/34 B
C12N15/09 Z
C12N15/11 Z
C12N15/31 ZNA
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019164273
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021040517
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503335179
【氏名又は名称】株式会社ファスマック
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 史帆里
(72)【発明者】
【氏名】赤座 誠文
(72)【発明者】
【氏名】中田 悟
(72)【発明者】
【氏名】高崎 一人
(72)【発明者】
【氏名】布藤 聡
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-068261(JP,A)
【文献】Z. Gao, et al.,Journal of Clinical Microbiology,2010年,Vol.48, No.10,p.3575-3581
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(D)のオリゴヌクレオチドセットの全セットを含む、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌を検出するためのキット。
(A)キューティバクテリウム(Cutibacterium)属のFB33_0681遺伝子の部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む、核酸増幅法によるキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットであって、該部分領域が、配列番号1の塩基配列における1749位~1767位の領域、1791位~1895位の領域、1914位~1993位の領域、及び2004位~2027位の領域から選ばれる2以上の領域である、上記オリゴヌクレオチドセッ
(B)キューティバクテリウム(Cutibacterium)属のFB33_0824遺伝子の部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む、核酸増幅法によるキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットであって、当該部分領域が、配列番号2の塩基配列における912位~931位の領域、940位~1007位の領域、1055位~1141位の領域、及び1162位~1180位の領域から選ばれる2以上の領域である、上記オリゴヌクレオチドセット
(C)スタフィロコッカス(Staphylococcus)属のSAOUHSC_01002遺伝子の部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む、核酸増幅法によるスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットであって、当該部分領域が、配列番号3の塩基配列における374位~398位の領域、424位~530位の領域、531位~623位の領域、及び673位~698位の領域から選ばれる2以上の領域である、上記オリゴヌクレオチドセット
(D)マラセチア(Malassezia)属のMGL_1553遺伝子の部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む、核酸増幅法によるマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットであって、当該部分領域が、配列番号4の塩基配列における364位~383位の領域、414位~503位の領域、511位~599位の領域、及び611位~629位の領域から選ばれる2以上の領域である、上記オリゴヌクレオチドセット
【請求項2】
前記(A)のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットが、以下の(a1)~(a6)のプライマーから構成されるLAMPプライマーのセットである、請求項1に記載のキット
(a1)配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(a2)配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(a3)配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(a4)配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(a5)配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(a6)配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
【請求項3】
前記(A)のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットが、以下の(a7)のオリゴヌクレオチドと(a8)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(a9)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセット、又は、以下の(a10)のオリゴヌクレオチドと(a11)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(a12)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセットである、請求項1に記載のキット
(a7)配列番号29に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(a8)配列番号30に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(a9)配列番号31に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(a10)配列番号32に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(a11)配列番号33に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(a12)配列番号34に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
【請求項4】
前記(B)のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットが、以下の(b1)~(b6)のプライマーから構成されるLAMPプライマーのセットである、請求項に記載のキット
(b1)配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(b2)配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(b3)配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(b4)配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(b5)配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(b6)配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
【請求項5】
前記(B)のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットが、以下の(b7)のオリゴヌクレオチドと(b8)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(b9)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセット、又は、以下の(b10)のオリゴヌクレオチドと(b11)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(b12)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセットである、請求項に記載のキット
(b7)配列番号35に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(b8)配列番号36に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(b9)配列番号37に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(b10)配列番号38に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(b11)配列番号39に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(b12)配列番号40に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
【請求項6】
前記(C)のスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットが、以下の(c1)~(c6)のプライマーから構成されるLAMPプライマーのセットである、請求項に記載のキット
(c1)配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(c2)配列番号18に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(c3)配列番号19に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(c4)配列番号20に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(c5)配列番号21に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(c6)配列番号22に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
【請求項7】
前記(C)のスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットが、以下の(c7)のオリゴヌクレオチドと(c8)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(c9)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセット、又は、以下の(c10)のオリゴヌクレオチドと(c11)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(c12)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセットである、請求項に記載のキット
(c7)配列番号41に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(c8)配列番号42に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(c9)配列番号43に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(c10)配列番号44に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(c11)配列番号45に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(c12)配列番号46に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
【請求項8】
前記(D)のマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットが、以下の(d1)~(d6)のプライマーから構成されるLAMPプライマーのセットである、請求項に記載のキット
(d1)配列番号23に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(d2)配列番号24に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(d3)配列番号25に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(d4)配列番号26に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(d5)配列番号27に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(d6)配列番号28に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
【請求項9】
前記(D)のマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットが、以下の(d7)のオリゴヌクレオチドと(d8)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(d9)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセット、又は、以下の(d10)のオリゴヌクレオチドと(d11)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(d12)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセットである、請求項に記載のキット
(d7)配列番号47に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(d8)配列番号48に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(d9)配列番号49に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(d10)配列番号50に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(d11)配列番号51に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
(d12)配列番号52に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチ
【請求項10】
FIPプライマー若しくはBIPプライマー、又は、LFプライマー若しくはLBプライマーに属ごとに異なるタグ配列が結合している、請求項2、4、6、8のいずれか1項に記載のキット
【請求項11】
前記タグ配列にハイブリダイズする検出用プローブを固定化させた固相担体をさらに含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記固相担体が、核酸クロマトグラフィー用ストリップである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
検体より抽出したDNAを鋳型とし、請求項1に記載のキットを用いて核酸増幅法によって増幅反応を行う工程と、増幅産物を検出する工程を含む、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出方法。
【請求項14】
検体より抽出したDNAを鋳型とし、請求項1に記載のキットを用いて核酸増幅法によって増幅反応を行う工程と、増幅産物を検出する工程を含む、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の同時検出方法。
【請求項15】
前記核酸増幅法が等温増幅法又はPCR法である、請求項13又は14に記載の検出方法。
【請求項16】
前記検体が、皮膚試料である、請求項13~15のいずれか1項に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニキビや毛包炎などの皮膚疾患の原因となる皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセット、キット及び皮膚常在菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚上には、皮膚常在菌と呼ばれる様々な微生物が生息しているが、その中でもキューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の微生物が代表的である(非特許文献1)。これらの皮膚常在菌は、通常は、皮膚環境に適した菌群がほぼ安定した割合で存在するが、そのバランスが崩れてしまうと、肌の抵抗力が弱まり、通常無害である菌が、炎症や発疹などの皮膚トラブルの要因に繋がる。このような皮膚常在菌が関与する皮膚疾患として尋常性ざ瘡(ニキビ)や毛包炎等が知られている。
【0003】
キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の微生物は、Actinobacteria門 Actinobacteria綱、Actinomycetales目、Propionibacteriaceae科の通性嫌気性のグラム陽性桿菌である。キューティバクテリウム(Cutibacterium)属は近年までプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属に含まれていたが、2016年に再分類が提案された(非特許文献2)。キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の種としては、キューティバクテリウム・アクネス(C.acnes)、キューティバクテリウム・アビダム(C.avidum)、キューティバクテリウム・グラニュローサム(C.granulosum)及びキューティバクテリウム・フメルシ(C.humerusii)が挙げられる。このなかでも キューティバクテリウム・アクネス(C.acnes)は、アクネ菌又はアクネ桿菌などと呼ばれ、ヒトの顔面、前胸部及び背部などといった皮脂産生部位において最優勢の常在菌であるとともに、尋常性ざ瘡(ニキビ)の炎症原因菌としても知られている。
【0004】
スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の微生物は、Firmicutes門、Bacilli綱、Bacillales目、Staphylococcaceae科の通性嫌気性グラム陽性球菌である。菌の形態及び配列がブドウの房状に見えることから、一般的にはブドウ球菌と呼ばれる。現在、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属は、約50種に分類されるが、ヒトの皮膚から検出される種としては、黄色ブドウ球菌(S. aureus)や表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)がよく知られている。このうち、コアグラーゼ陽性である黄色ブドウ球菌(S. aureus)は、病原性が高く、アトピー性皮膚炎との関連が深いことが知られている。一方、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)はコアグラーゼ陰性のブドウ球菌(CNS)であり、黄色ブドウ球菌(S. aureus)に比べて病原性が低いが、稀に起炎菌となることがある。
【0005】
マラセチア(Malassezia)属の微生物は、Basidiomycota門、Exobasidiomycetes綱、Malasseziales目、Malasseziaceae科の真菌である。マラセチア(Malassezia)属は、培養が困難であることなどから、長い間分類学が混沌とした状態にあったが、近年の遺伝子学的解析法の発達により、2000年前後から急速に菌種分類研究が進み、現在は14種から構成される属となっている。このうち、マラセチア・デルマティス(M. dermatis)、マラセチア・フルフル(M. furfur)、マラセチア・グロボーサ(M. globosa)、マラセチア・ジャポニカ(M. japonica)、マラセチア・オブツーサ(M. obtusa)、マラセチア・レストリクタ(M. restricta)、マラセチア・スルーフィエ(M. slooffiae)、マラセチア・シンポディアリス(M. sympodialis)及びマラセチア・ヤマトエンシス(M. yamatoensis)の9種がヒトの皮膚由来である。
【0006】
リボゾームRNA領域をターゲットとし、核酸増幅法を用いてスタフィロコッカス(Staphylococcus)属、マラセチア(Malassezia)属、又はキューティバクテリウム(Cutibacterium)の旧分類であるプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属の菌種を検出する方法についてはこれまで多く検討されている(非特許文献3及び4等)。
【0007】
しかしながら、リボゾームRNA領域をターゲットとした従来の方法では、偽陽性や偽陰性の発生を十分に抑えることができておらず、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の菌種のみを特異的に検出する検査法として十分に満足できるものではなかった。特に、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属については、特異的プライマーがこれまでに報告されていない。また、これら3つの属の菌種を同時に、且つ簡便に検出する方法はこれまでなかった。
【0008】
また、従来の方法では、核酸増幅法としてポリメラーゼ連鎖反応(Polymease Chain Reaction; PCR)法が一般に用いられているが、PCR法にはサーマルサイクラーや電気泳動装置といった高価な機器類が必要であり、現場レベルでの検出には向いていない。さらに、検出までに時間を要すため迅速な検査を行うことは難しく、操作には一定の技術習得も必要である。これに対し、定量的(リアルタイム)PCR法は、PCR増幅産物の増加をリアルタイムでモニタリングして解析するため、最終段階でPCR増幅産物を確認する従来のPCR法に比べて、DNA量の正確な定量が可能であり、電気泳動が不要であるため迅速かつ簡便に解析でき、コンタミネーションの危険性も小さいといった利点がある。
【0009】
一方、ループ媒介等温増幅(Loop-Mediated Isothermal Amplification; LAMP)法とDNAクロマトグラフィーによって、複数の菌を簡便に同時検出する技術が報告されている(特許文献1)。この技術であれば、ヒートブロックや恒温槽のような保温装置さえあれば検出が可能であり、高価な機器や高度な技術習得を必要としないため、現場レベルでの検出に適していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】再表2017/043114号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】J Dermatol, vol.37, PP.786-792, 2010.
【文献】Int J Syst Evol Microbiol, vol.67, PP.4422-4432, 2016.
【文献】J Clin Microbiol, vol.48, PP.3575-3581, 2010.
【文献】Microbiol Immunol, vol.50, PP.549-552, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の課題は、目的や検査環境に応じた核酸増幅法を用いて、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌を正確、迅速、かつ簡便に、しかも同時に検出できる検査系を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の菌株の遺伝子の配列を解析したところ、各属に特異的な遺伝子をそれぞれ見出した。本発明者らはこれらの遺伝子の塩基配列をさらに詳細に検討した結果、各属にそれぞれ他の属と区別しえる特異的な配列を有する領域を特定し、当該領域の塩基配列に基づいて、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌を核酸増幅法によって特異的かつ高精度で検出することのできるオリゴヌクレチドのセットを確立することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)キューティバクテリウム(Cutibacterium)属のFB33_0681遺伝子の部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む、核酸増幅法によるキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットであって、該部分領域が、配列番号1の塩基配列における1749位~1767位の領域、1791位~1895位の領域、1914位~1993位の領域、及び2004位~2027位の領域から選ばれる2以上の領域である、上記オリゴヌクレオチドセット。
(2)前記オリゴヌクレオチドセットが、以下の(a1)~(a6)のプライマーから構成されるLAMPプライマーのセットである、(1)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
(a1)配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号5に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(a2)配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号6に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(a3)配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号7に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(a4)配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号8に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(a5)配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号9に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(a6)配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号10に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
(3)前記オリゴヌクレオチドセットが、以下の(a7)のオリゴヌクレオチドと(a8)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(a9)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセット、又は、以下の(a10)のオリゴヌクレオチドと(a11)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(a12)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセットである、(1)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
(a7)配列番号29に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号29に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(a8)配列番号30に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号30に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(a9)配列番号31に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号31に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(a10)配列番号32に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号32に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(a11)配列番号33に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号33に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(a12)配列番号34に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号34に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
【0015】
(4)キューティバクテリウム(Cutibacterium)属のFB33_0824遺伝子の部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む、核酸増幅法によるキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットであって、当該部分領域が、配列番号2の塩基配列における912位~931位の領域、940位~1007位の領域、1055位~1141位の領域、及び1162位~1180位の領域から選ばれる2以上の領域である、上記オリゴヌクレオチドセット。
(5)前記オリゴヌクレオチドセットが、以下の(b1)~(b6)のプライマーから構成されるLAMPプライマーのセットである、(4)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
(b1)配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号11に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(b2)配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号12に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(b3)配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号13に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(b4)配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号14に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(b5)配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号15に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(b6)配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号160に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
(6)前記オリゴヌクレオチドセットが、以下の(b7)のオリゴヌクレオチドと(b8)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(b9)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセット、又は、以下の(b10)のオリゴヌクレオチドと(b11)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(b12)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセットである、(4)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
(b7)配列番号35に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号35に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(b8)配列番号36に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号36に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(b9)配列番号37に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号37に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(b10)配列番号38に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号38に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(b11)配列番号39に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号39に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(b12)配列番号40に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号40に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
【0016】
(7)スタフィロコッカス(Staphylococcus)属のSAOUHSC_01002遺伝子の部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む、核酸増幅法によるスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットであって、当該部分領域が、配列番号3の塩基配列における374位~398位の領域、424位~530位の領域、531位~623位の領域、及び673位~698位の領域から選ばれる2以上の領域である、上記オリゴヌクレオチドセット。
(8)前記オリゴヌクレオチドセットが、以下の(c1)~(c6)のプライマーから構成されるLAMPプライマーのセットである、(7)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
(c1)配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号17に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(c2)配列番号18に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号18に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(c3)配列番号19に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号19に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(c4)配列番号20に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号20に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(c5)配列番号21に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号21に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(c6)配列番号22に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号22に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
(9)前記オリゴヌクレオチドセットが、以下の(c7)のオリゴヌクレオチドと(c8)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(c9)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセット、又は、以下の(c10)のオリゴヌクレオチドと(c11)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(c12)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセットである、(7)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
(c7)配列番号41に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号41に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(c8)配列番号42に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号42に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(c9)配列番号43に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号43に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(c10)配列番号44に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号44に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(c11)配列番号45に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号45に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(c12)配列番号46に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号46に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
【0017】
(10)マラセチア(Malassezia)属のMGL_1553遺伝子の部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む、核酸増幅法によるマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットであって、当該部分領域が、配列番号4の塩基配列における364位~383位の領域、414位~503位の領域、511位~599位の領域、及び611位~629位の領域から選ばれる2以上の領域である、上記オリゴヌクレオチドセット。
(11)前記オリゴヌクレオチドセットが、以下の(d1)~(d6)のプライマーから構成されるLAMPプライマーのセットである、(10)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
(d1)配列番号23に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号23に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(d2)配列番号24に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号24に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(d3)配列番号25に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号25に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(d4)配列番号26に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号26に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(d5)配列番号27に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号27に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(d6)配列番号28に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号28に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
(12)前記オリゴヌクレオチドセットが、以下の(d7)のオリゴヌクレオチドと(d8)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(d9)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセット、又は、以下の(d10)のオリゴヌクレオチドと(d11)のオリゴヌクレオチドからなるプライマー対、及び以下の(d12)のオリゴヌクレオチドからなるプローブから構成されるPCRプライマー及びプローブのセットである、(10)に記載のオリゴヌクレオチドセット。
(d7)配列番号47に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号47に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(d8)配列番号48に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号48に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(d9)配列番号49に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号49に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(d10)配列番号50に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号50に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(d11)配列番号51に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号51に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
(d12)配列番号52に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号52に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチド
【0018】
(13)FIPプライマー若しくはBIPプライマー、又は、LFプライマー若しくはLBプライマーに属ごとに異なるタグ配列が結合している、(2)、(5)、(8)、(11)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドセット。
(14)(1)~(13)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドセットを1セット以上含む、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属から選ばれる少なくとも1つの属の皮膚常在菌を検出するためのキット。
(15)前記タグ配列にハイブリダイズする検出用プローブを固定化させた固相担体をさらに含む、(14)に記載のキット。
(16)前記固相担体が、核酸クロマトグラフィー用ストリップである、(15)に記載のキット。
【0019】
(17)検体より抽出したDNAを鋳型とし、(1)~(6)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドセットの少なくとも1セットを用いて核酸増幅法によって増幅反応を行う工程と、増幅産物を検出する工程を含む、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出方法。
(18)検体より抽出したDNAを鋳型とし、(7)~(9)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドセットの少なくとも1セットを用いて核酸増幅法によって増幅反応を行う工程と、増幅産物を検出する工程を含む、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出方法。
(19)検体より抽出したDNAを鋳型とし、(10)~(12)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドセットの少なくとも1セットを用いて核酸増幅法によって増幅反応を行う工程と、増幅産物を検出する工程を含む、マラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出方法。
(20)検体より抽出したDNAを鋳型とし、(1)~(6)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドセットの少なくとも1セット、(7)~(9)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドセットの少なくとも1セット、及び(10)~(12)のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドセットの少なくとも1セットを用いて核酸増幅法によって増幅反応を行う工程と、増幅産物を検出する工程を含む、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の同時検出方法。
(21)前記核酸増幅法が等温増幅法又はPCR法である、(17)~(20)のいずれかに記載の検出方法。
(22)前記検体が、皮膚試料である、(17)~(21)のいずれかに記載の検出方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌を検出するためのオリゴヌクレオチドセットが提供される。当該オリゴヌクレオチドセットを用いることにより、皮膚採取試料から、上記皮膚常在菌を個々にまた同時に、偽陽性や偽陰性の発生がなく正確かつ簡便に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌検出用オリゴヌクレオチドセットを用いて、LAMP法にて検体中のDNAを増幅し、核酸クロマトグラフィーを用いて検出した結果を示す[レーン1:検体1(Cutibacterium属菌のDNA)、レーン2:検体2(Staphylococcus属菌のDNA)、レーン3:検体3(Malassezia属のDNA)、レーン4:検体4(Cutibacterium属菌、Staphylococcus属菌、Malassezia属菌のDNAの混合物)] 。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセット
本発明のオリゴヌクレオチドセットは、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌が保有する特異的な遺伝子の部分領域を標的として核酸増幅法によって上記の3つの属に属する皮膚常在菌を個々に、また、同時に検出するためのオリゴヌクレオチドセットである。なお、本発明において、「検出」とは、分類学的に「同定」も含む概念をいう。
【0023】
本発明において検出対象となるキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌としては、キューティバクテリウム・アクネス(C.acnes)、キューティバクテリウム・アビダム(C.avidum)、キューティバクテリウム・グラニュローサム(C.granulosum)、キューティバクテリウム・フメルシ(C.humerusii)等が挙げられる。なかでも、キューティバクテリウム・アクネス(C.acnes)は、尋常性ざ瘡(ニキビ)の炎症原因菌としても罹患者も多いため重要である。
【0024】
本発明において検出対象となるスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌としては、毛包炎と関わりのある黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)等が挙げられる。
【0025】
本発明において検出対象となるマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌としては、マラセチア・デルマティス(M. dermatis)、マラセチア・フルフル(M. furfur)、マラセチア・グロボーサ(M. globosa)、マラセチア・ジャポニカ(M. japonica)、マラセチア・オブツーサ(M. obtusa)、マラセチア・レストリクタ(M. restricta)、マラセチア・スルーフィエ(M. slooffiae)、マラセチア・シンポディアリス(M. sympodialis)、マラセチア・ヤマトエンシス(M. yamatoensis)等が挙げられる。これらのなかでも、M. restricta、M. globosa、M. sympodialis、M. furfur、M. dermatisがマラセチア毛包炎や脂漏性皮膚炎に関わりのあることがわかっており重要である。
【0026】
キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌に特異的な遺伝子はurocanate hydrataseをコードするFB33_0681遺伝子、又はcarbohydrate ABC transporterをコードするFB33_0824遺伝子であって、FB33_0681遺伝子は配列番号1に示す塩基配列からなり、FB33_0824遺伝子は配列番号2に示す塩基配列からなる。スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌に特異的な遺伝子はsubstrate-binding proteinをコードするSAOUHSC_01002遺伝子であって、配列番号3に示す塩基配列からなる。マラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌に特異的な遺伝子はquinol oxidase AA3, subunit II, putative hypothetical protein substrate-binding proteinをコードするMGL_1553遺伝子であって、配列番号4に示す塩基配列からなる。FB33_0681、FB33_0824、SAOUHSC_01002、MGL_1553の各遺伝子は、配列番号1~4にそれぞれ示す塩基配列に対して、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有し、かつ、FB33_0681、FB33_0824、SAOUHSC_01002、MGL_1553と同等の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。ここで、配列同一性は、例えばFASTA検索やBLAST検索により決定することができる。
【0027】
キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出の標的となるFB33_0681遺伝子の部分領域は、配列番号1の塩基配列における1749位~1767位の領域、1791位~1895位の領域、1914位~1993位の領域、及び2004位~2027位の領域である。よって、本発明のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットは、これらの部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む。
【0028】
キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出の標的となるFB33_0824遺伝子の部分領域は、配列番号2の塩基配列における912位~931位の領域、940位~1007位の領域、1055位~1141位の領域、及び1162位~1180位の領域である。よって、本発明のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットは、これらの部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む。
【0029】
スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出の標的となるSAOUHSC_01002遺伝子の部分領域は、配列番号3の塩基配列における374位~398位の領域、424位~530位の領域、531位~623位の領域、及び673位~698位の領域である。よって、本発明のスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットは、上記部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む。
【0030】
マラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の皮膚常在菌の検出の標的となるMGL_1553遺伝子の部分領域は、配列番号4の塩基配列における364位~383位の領域、414位~503位の領域、511位~599位の領域、及び611位~629位である。よって、本発明のスタフィロコッカス(Staphylococcus)属の検出用オリゴヌクレオチドセットは、これらの部分領域の塩基配列又はその相補配列にハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを含む。
【0031】
本明細書において「ハイブリダイズする」とは、標的とする上記特異的な遺伝子の部分領域にハイブリダイズし、標的とする上記特異的な遺伝子の部分領域以外には、実質的にはハイブリダイズしないことを意味する。ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下で実施することができる。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばGreen and Sambrook, Molecular Cloning, 4th Ed (2012), Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェントな条件を設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ハイブリダイゼーション工程では、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が40~68℃、好ましくは40~65℃である。より具体的には、ハイブリダイゼーションは、1~7×SSC、0.02~3% SDS、温度40℃~60℃で行うことができる。また、ハイブリダイゼーションの後に洗浄工程を行っても良く、洗浄工程は、例えば0.1~2×SSC、0.1~0.3% SDS、温度50~65℃で行うことができる。
【0032】
本発明の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットには、LAMP法に用いるプライマー(以下、「LAMPプライマー」と記載する場合がある)、PCR法に用いるプライマー対とプローブ(以下、「PCRプライマー・プローブ」と記載する場合がある)のセットが含まれる。
【0033】
LAMP法では、2本鎖の鋳型核酸の一方の鎖の3’末端側から順にF3c、F2c、F1cと称する領域と、同一鎖の5’末端側から順にB3、B2、B1と称する領域をそれぞれ規定し、これらの領域の塩基配列に基づいて、F3、FIP、BIP、B3と称する4種類のプライマーを設計する。
【0034】
F3プライマー(フォワードプライマーともいう)は、F3c領域と相補的な塩基配列であるF3領域の塩基配列を持つように設計する。FIPプライマー(フォワードインナープライマーともいう)は、F2c領域と相補的な塩基配列であるF2領域の塩基配列を3’末端側に持ち、5’末端側にF1c領域の塩基配列と同じ塩基配列を持つように設計する。BIPプライマー(バックワードインナープライマーともいう)は、B2領域の塩基配列を3’末端側に持ち、5’末端側にB1領域と相補的な塩基配列であるB1c領域の塩基配列を持つように設計する。B3プライマー(バックワードプライマーともいう)は、B3領域の塩基配列を持つように設計する。
【0035】
LAMP法では、上記のF3、FIP、BIP、B3の4種類のプライマーに加えて、LF、LBと称するプライマー(ループプライマー)を用いることができる。LFプライマーは、F1領域とF2領域の間の塩基配列に相補的な塩基配列を持つように設計する。LBプライマーは、B1領域とB2領域の間の塩基配列に相補的な塩基配列を持つように設計する。これらのプライマーを追加で用いることにより、LAMP法による核酸増幅における核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる。
【0036】
本発明のLAMPプライマーを設計するF3、FIP、BIP、B3の領域として、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の場合は、配列番号1の塩基配列における1750位~1767位の領域、1791位~1895位の領域、1914位~1993位の領域、2004位~2027位の領域がそれぞれ対応するか、あるいは、配列番号2の塩基配列における912位~931位の領域、940位~1007位の領域、1055位~1141位の領域、1162位~1180位の領域がそれぞれ対応する。また、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の場合は、配列番号3の塩基配列における374位~398位の領域、424位~530位の領域、531位~623位の領域、673位~698位の領域がそれぞれ対応し、マラセチア(Malassezia)属の場合は、配列番号4の塩基配列における364位~383位の領域、414位~503位の領域、511位~599位の領域、611位~629位の領域がそれぞれ対応する。
【0037】
F3、B3、FIP、BIP、LF、LBの各プライマーは、Clustal Xなどのアラインメントソフトを用いて、検出対象となるキューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属にそれぞれ特異的な遺伝子の部分領域の塩基配列情報のアライメントファイルを作成した後、そのアライメントファイル中の情報をもとにLAMP Designer (OptiGene社製;http://www.optigene.co.uk/lamp-designer/)、Primer Explorer V4(栄研化学ホームページ)等を利用して設計することができる。
【0038】
本発明のLAMPプライマーは、属毎に配列の多様性が少ない(保存性の高い)領域に設計することが望ましいが、少数の遺伝子多型を含む領域に設計してもよい。遺伝子多型を反映させた塩基置換の個数は、1つのプライマー当たり20%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。遺伝子多型部位における置換を含むプライマーを使用する場合、遺伝子多型毎のプライマーを使用してもよく、遺伝子多型毎のプライマーを混合した混合プライマーを使用してもよく、遺伝子多型部位を遺伝子多型に応じた混合塩基になる様に合成したミックスプライマーを使用してもよい。
【0039】
上記の各プライマーにおいて、「フォワード」とは、標的領域のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示であり、「バックワード」とは、標的領域のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示である。プライマーとなるオリゴヌクレオチドの塩基長は、限定はされないが、通常は、15塩基~50塩基、好ましくは20塩基~40塩基である。FIPプライマーは、F2とF1cの間、BIPプライマーは、B2とB1cの間に、塩基数1~30程度の任意の塩基配列が含まれていてもよい。
【0040】
また本発明においては、LAMP法において特定した上記F3、B3、FIP、BIP、LF、LBの領域の塩基配列に基づき、PCRプライマー・プローブもまた設計できる。フォワードプライマーは、F3c領域と相補的な塩基配列であるF3領域の塩基配列を持つように設計し、リバースプライマーは、F1c領域の塩基配列と同じ塩基配列を持つように設計し、プローブは、F1領域とF2領域の間の塩基配列に相補的な塩基配列を持つように設計する。あるいは、フォワードプライマーは、B3領域の塩基配列を持つように設計し、リバースプライマーは、B1領域と相補的な塩基配列であるB1c領域の塩基配列を持つように設計し、プローブは、B1領域とB2領域の間の塩基配列に相補的な塩基配列を持つように設計することもできる。
【0041】
PCRプライマーの設計は、オリゴヌクレオチドの長さ、GC含量、Tm値、オリゴヌクレオチド間の相補性、オリゴヌクレオチド内の二次構造などを考慮して行う。プライマーの設計は、Webサイト上の設計ソフトウェア、例えばPrimer3(https://primer3.org/)等を用いることもできる。
【0042】
また、PCRプローブの設計は、Webサイト上の設計ソフトウェア、例えばGENETYX(https://www.genetyx.co.jp/)、ABI Prism 7900HT Real-time PCR System (ライフテクノロジーズジャパン株式会社)等の市販のリアルタイムPCR装置に付属しているソフトウェア、TaqMan Universal PCR Master Mix (ライフテクノロジーズジャパン)等の市販のリアルタイムPCR試薬に添付のプロトコルに基づいて行えばよい。プローブの設計基準としては、一般的には、GC含量が20~80%の範囲内であること、配列内に4塩基以上のG又はCの連続を避けること、対応するプライマー対のTm値よりも8~10℃程度高く設定すること等が挙げられる。
【0043】
具体的に採用したLAMPプライマー及びPCRプライマーの設計基準は以下のとおりである。
(i)鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングを可能とするために、プライマー長は、F3、B3、LF、及びLBプライマーの場合は15塩基~30塩基、FIP、BIPプライマーの場合は30塩基~60塩基の範囲であること。
(ii)ダイマーや立体構造を形成しないように、プライマー間の相補的配列を避けること。
(iii)伸長方向の先端に変異(属特異的な変異)を多く含むこと。
(iv)3'末端及び5'末端のそれぞれの6塩基の自由エネルギーの合計が4 kcal/mol以下であること
(v)プライマー内のヘアピン構造の形成を防止するため自己相補配列を避けること。
(vi)鋳型DNAとの安定な結合を確保するため、GC含量を約40~60%にし、プライマー内においてGC-richあるいはAT-richが偏在しないようにすること。
(vii)プライマーの3’末端の塩基配列と鋳型DNA配列との相同性が高いこと。
(viii) Tm値はF3c、F2c、B2、及びB3については60℃前後、LF、F1c、B1、LBcについては65℃前後であること。
【0044】
上記基準に基づき、本発明の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットとして以下のものを確立した。
【0045】
[キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用LAMPプライマーセットA]
(a1)配列番号5に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号5に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(a2)配列番号6に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号6に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(a3)配列番号7に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号7に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(a4)配列番号8に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号8に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(a5)配列番号9に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号9に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(a6)配列番号10に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号10に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
【0046】
[キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用LAMPプライマーセットB]
(b1)配列番号11に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号11に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(b2)配列番号12に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号12に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(b3)配列番号13に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号13に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(b4)配列番号14に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号14に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(b5)配列番号15に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号15に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(b6)配列番号16に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号160に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
【0047】
[キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用PCRプライマー・プローブセットA1]
(a7)配列番号29に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号29に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマー
(a8)配列番号30に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号30に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むリバースプライマー
(a9)配列番号31に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号31に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ
【0048】
[キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用PCRプライマー・プローブセットA2]
(a10)配列番号32に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号32に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマー
(a11)配列番号33に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号33に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むリバースプライマー
(a12)配列番号34に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号34に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ
【0049】
[キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用PCRプライマー・プローブセットB1]
(b7)配列番号35に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号35に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマー
(b8)配列番号36に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号36に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むリバースプライマー
(b9)配列番号37に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号37に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ
【0050】
[キューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用PCRプライマー・プローブセットB2]
(b10)配列番号38に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号38に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマー
(b11)配列番号39に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号39に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むリバースプライマー
(b12)配列番号40に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号40に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ
【0051】
[スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用LAMPプライマーセット]
(c1)配列番号17に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号17に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(c2)配列番号18に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号18に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(c3)配列番号19に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号19に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(c4)配列番号20に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号20に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(c5)配列番号21に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号21に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(c6)配列番号22に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号22に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
【0052】
[スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用PCRプライマー・プローブセット1]
(c7)配列番号41に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号41に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマー
(c8)配列番号42に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号42に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むリバースプライマー
(c9)配列番号43に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号43に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ
【0053】
[スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用PCRプライマー・プローブセット2]
(c10)配列番号44に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号44に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマー
(c11)配列番号45に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号45に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むリバースプライマー
(c12)配列番号46に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号46に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ
【0054】
[マラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出用LAMPプライマーセット]
(d1)配列番号23に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号23に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むF3プライマー
(d2)配列番号24に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号24に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むB3プライマー
(d3)配列番号25に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号25に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むFIPプライマー
(d4)配列番号26に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号26に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むBIPプライマー
(d5)配列番号27に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号27に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLFプライマー
(d6)配列番号28に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号28に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むLBプライマー
【0055】
[マラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出用PCRプライマー・プローブセット1]
(d7)配列番号47に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号47に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマー
(d8)配列番号48に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号48に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むリバースプライマー
(d9)配列番号49に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号49に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ
【0056】
[マラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出用PCRプライマー・プローブセット2]
(d10)配列番号50に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号50に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むフォワードプライマー
(d11)配列番号51に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号51に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むリバースプライマー
(d12)配列番号52に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又は、配列番号52に示す塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプローブ
【0057】
また、上記のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセット、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセット、マラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌の検出用オリゴヌクレオチドセットにおいて、「1から数個の塩基が欠失、置換、挿入、若しくは付加された塩基配列」における「1から数個」の範囲は、上記各属に特異的な遺伝子の部分領域にハイブリダイズし、かつ、配列番号5~52にそれぞれ示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとプライマー又はプローブとして実質的に同一の機能を有する限り、限定されるものではないが、例えば、1から5個、好ましくは1から4個、より好ましくは1から3個をいう。
【0058】
あるいは、変異オリゴヌクレオチドの他の例としては、配列番号5~52にそれぞれ示す塩基配列における連続する少なくとも15塩基を含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをであってもよく、連続する少なくとも15塩基以外の塩基の種類、連続する少なくとも15塩基の変異オリゴヌクレオチドの存在部位(3’末端側、5’末端側)については特に制限はない。
【0059】
上記のオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置(例えば、Applied Biosystems社製Model 394など)を利用して合成することが可能である。
【0060】
本発明のLAMPプライマーセットは、増幅産物の検出を核酸クロマトグラフィー法によって行うことを可能となるために、上記FIPプライマー又はBIPプライマーのいずれか一方、あるいは、LFプライマー又はLBプライマーのいずれか一方に、後述の固相担体に固定化させた検出用プローブとハイブリダイズ可能なタグ配列を結合させる。また、タグ配列を結合させないほうのプライマーに、タグ配列と検出用プローブとのハイブリダイゼーションを可視化するための標識物質に対して特異的結合対を介して結合できる物質(標識物質結合物質)を結合させる。特異的結合対としては、互いを認識して捕捉する組合せであればよく、例えば、ビオチン-アビジン、ジゴキシゲニン-抗ジゴキシゲニン、FITC-抗FITC抗体等が挙げられる。本発明の一実施形態において、標識物質は核酸クロマトグラフィー法を実施する展開液に含まれる。
【0061】
タグ配列は、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、マラセチア(Malassezia)属に関連づけられ、属毎に異なる配列であって、検出用プローブの塩基配列に相補的な塩基配列を用いる。タグ配列の塩基長は、検出用プローブの塩基配列の塩基長に一致していること好ましく、20塩基~50塩基が好ましく、20塩基~30塩基がより好ましい。
【0062】
標識物質としては、蛍光物質(フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRIC)、シアニン色素(Cy3、Cy5等)、アセチルアミノフルオレン(AFF)等)、化学発光物質(ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)、酵素(アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ等)などが挙げられるが、検出を迅速かつ簡易に行う観点から、目視で検出可能な発光又は発色を提示する発光物質又は発色物質であることが好ましい。またこのような標識物質でラベルされているラテックス粒子、金属粒子、無機粒子などの粒子であってもよい。
【0063】
また、本発明のPCRプライマー・プローブのセットにおいて、プローブは、検出対象となる皮膚常在菌のの標的増幅産物に由来する蛍光シグナルを検出するための標識物質で標識されていてもよい。標識プローブとしては、TaqManプローブ、モレキュラービーコン(Molecular Beacon)プローブ、サイクリングプローブが挙げられるが、TaqManプローブが好ましい。TaqManプローブは、5'末端を蛍光物質(レポーター蛍光色素)で修飾し、3'末端を消光物質(クエンチャー蛍光色素)で修飾したプローブである。モレキュラービーコン(Molecular Beacon)プローブは、5'末端を蛍光物質(レポーター蛍光色素)で修飾し、3'末端を消光物質(クエンチャー蛍光色素)で修飾したステムループ構造をとりうるプローブである。サイクリングプローブは、オリゴヌクレオチドの5'末端を蛍光物質(レポーター蛍光色素)で修飾し、3'末端を消光物質(クエンチャー蛍光色素)で修飾したRNAとDNAからなるプローブである。上記TaqManプローブのレポーター蛍光色素の例としては6-FAM(6-カルボキシフルオレセイン)、TET(6-カルボキシ-4, 7, 2',7'-テトラクロロフルオレセイン)、HEX(6-カルボキシ-2',4',7',4,7-ヘキサクロロフルオレセイン)等のフルオレセイン系蛍光色素が挙げられ、クエンチャー蛍光色素の例としては、TAMRA(6-カルボキシテトラメチルローダミン)、ROX(6-カルボキシ-X-ローダミン)等のローダミン系蛍光色素、BHQ-1([(4-(2-ニトロ-4-メチル-フェニル)-アゾ)-イル-((2-メトキシ-5-メチル-フェニル)-アゾ)]-アニリン)、BHQ-2([(4-(1-ニトロ-フェニル)-アゾ)-イル-((2,5-ジメトキシ-フェニル)-アゾ)]-アニリン)、Dabcyl(4-[[4-(ジメチルアミノ)-フェニル]-アゾ]-安息香酸)、Eclipse(4-[[2-クロロ-4-ニトロ-フェニル]-アゾ]-アニリン)等が挙げられる。これらの蛍光色素は公知であり、市販のリアルタイムPCR用キットに含まれているのでそれを用いることができる。
【0064】
2.皮膚常在菌の検出用キット
1.のプライマーセットはキット化することもできる。本発明のキットには、上記のオリゴヌクレオチドセットを少なくとも1セット含むものであればよいが、全セットを含むことが好ましく、検出対象となる皮膚常在菌の種類、数、目的によって、それらのオリゴヌクレオチドセットの中から適当なセットを適宜選択し、組み合わせて用いればよい。例えばオリゴヌクレオチドセットを全セット使用することにより、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、及びマラセチア(Malassezia)属の皮膚常在菌を1回の操作で同時に検出するのに使用することができる。
【0065】
また、本発明のキットには、核酸増幅法を行うにあたり必要な試薬類、例えば、DNA抽出用試薬、鎖置換型DNAポリメラーゼ(例えば、Bst DNAポリメラーゼ、Bca(Exo-)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ等)、PCR用緩衝液、核酸合成の基質となる4種類のdNTP(dATP、dCTP、dGTP及びdTTP)、標識物質、滅菌水、補助因子としての塩類(マグネシウム塩又はマンガン塩等)、酵素や鋳型を安定化する保護剤、標品(標準菌株など)、説明書などを含んでいてもよい。
【0066】
本発明のキットにはまた、核酸増幅法により増幅した増幅産物の検出に必要な試薬類を含む。例えば、増幅産物の検出を核酸クロマトグラフィーによって行う場合は、検出用プローブを固定化した固相担体や展開液を含むことが好ましい。
【0067】
検出用プローブは、一本鎖の核酸配列であり、配列の長さは、特に限定しないが、前記のタグ配列に対応して、20塩基~50塩基が好ましく、20塩基~30塩基がより好ましい。この範囲であれば、前記タグ配列の特異性を確保しつつハイブリダイゼーション効率を確保できる。
【0068】
本明細書において、検出用プローブを固定化した上記の固相担体をストリップと称する。ストリップは従来公知のものを用いることができる。ストリップの基材の材質は特に限定されず、プラスチックであってもよいし、ガラスであってもよい。また、セルロース、ニトロセルロース、ナイロン等の多孔質体であってもよい。この種の多孔質体は、特に、アフィニティークロマトグラフィーにより、ストリップに固定化した検出用プローブと増幅産物とをハイブリダイズさせるのに好適である。代表的なストリップとしては、STH(Single-stranded Tag Hybridization)法で用いられる目視判定用試験片試験片(PAS:Printed Array-Strip)が挙げられ、本発明においてこれらの市販品を用いることできる。このストリップは、幅2mm×長さ10cm程度の検査試験紙であり、表面のニトロセルロース膜上に核酸をプローブとしてプリントしたものである。このプローブと相補的にハイブリダイズするタグ配列を有するプライマーをセットで用いることで増幅した核酸の検出が可能となる。ストリップ上には、各皮膚常在菌に対応した複数の検出用プローブが適切な位置に配置されており、各プローブ及び当該プローブに結合したタグ配列の識別が容易なように、位置マーカーを配置することが好ましい。また、展開液は十分に適用されたことを目視で確認できるフローコントロールラインを配置することもできる。
【0069】
3.皮膚常在菌の検出方法
本発明の皮膚常在菌の検出方法は、検体より抽出したDNAを鋳型とし、上記のオリゴヌクレオチドセットを用いて核酸増幅法によって増幅反応を行う工程と、増幅産物を検出する工程を含む。
【0070】
上記オリゴヌクレオチドセットは、検出すべき皮膚常在菌の種類や数、検出の目的によって、全てを用いる必要はなく、上記オリゴヌクレオチドセットの1セットまたは複数のセットを適宜組み合わせて用いてもよい。
【0071】
検体としては、検出対象のキューティバクテリウム(Cutibacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、マラセチア(Malassezia)属の菌種を含む可能性のある生体試料や環境試料であれば特に限定はされないが、皮膚試料が好ましい。皮膚試料としては、典型的にはヒトから採取されたものであるが、ヒト以外の動物の皮膚試料であってもよい。ヒトから採取した皮膚試料としては、ヒトの表皮角質層を含む皮膚試料が好ましい。皮膚試料の採取方法は、非侵襲的な方法であれば特に限定はされないが、典型的には、粘着性のテープや接着剤等を皮膚へ付着させた後に剥がす方法(テープストリッピング法)が用いられる。粘着性のテープや接着剤に用いられる材料(接着成分)は特に限定されない。
【0072】
上記検体からのDNAの抽出は、例えば、核酸抽出法として当業者に公知のいかなる方法を用いてもよく、例えば、フェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法等が挙げられる。また、これらの方法は適宜改変して行ってもよく、試薬メーカーより販売されている各種DNA抽出キットを用いてもよい。試料の種類によっては、メンブランフィルターによる濾過やホモジナイズを行う。また、試薬メーカーより販売されているDNeasy Plant mini Kit(株式会社キアゲン製)等の各種DNA抽出キットを用いても良い。これらの方法により抽出したDNAは、PCRの鋳型として用いるのに適した状態で保持することが好ましく、例えば適切な緩衝液に溶解させて低温下で保管することが好ましい。また、DNAの抽出後、クロロホルム/イソアミルアルコール処理、イソプロパノール沈澱、フェノール/クロロホルムによる除蛋白、エタノール沈澱などの精製処理を行ってもよい。
【0073】
核酸増幅法としては、PCR法や等温増幅法など種々の公知の手法を用いることができる。なお、本発明において、PCR法とは、温度変化を繰り返して目的領域を増幅させる核酸増幅法をいい、PCR法という語にはリアルタイムPCR法も包含される。
【0074】
等温増幅法は特に限定されず、ループ媒介等温増幅(Loop-Mediated Isothermal Amplification; LAMP)法、鎖置換増幅(Strand Displacement Amplification; SDA)法、キメラプライマー等温核酸増幅(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids; ICAN)法、ヘリカーゼ依存増幅(Helicase-Dependent Amplification; HDA)法、ニッキング酵素増幅反応(Nicking Enzyme Amplification Reaction; NEAR)法等の各種の等温増幅法を用いることができるが、LAMP法が好ましい。
【0075】
LAMP法は、標的核酸配列の3'末端から5'末端方向に設定された任意の配列F3c、F2c、F1c、B1、B2及びB3に基づき設計されたインナープライマー2種類とアウタープライマー2種類の計4種類のプライマー、又はこれらに2種類のループプライマー加えた計6種類のプライマー、鎖置換型DNA合成酵素、核酸モノマー等の試薬と標的核酸配列を含む鋳型核酸鎖を混合し、等温(約65℃)で保温することによって核酸増幅反応を行う方法である。LAMP法では、鋳型となるヌクレオチドに自身の3'末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした核酸増幅法である。
【0076】
LAMP法による増幅反応は、例えば、以下のように行うことができる。試薬(例えば本発明のLAMPプライマーセット、Bst DNAポリメラーゼ、反応バッファー、dNTPs、蒸留水)を混合し、反応チューブに分注した後に、検体より抽出したDNAを含む溶液を加える。次いで、酵素活性に適した温度、例えば、60~70℃、好ましくは65℃にてインキュベートする。インキュベート時間は、LAMP法によるDNA増幅が完了するのに十分な時間、例えば、30~120分、好ましくは60~90分の範囲に設定できる。プライマー濃度は、F3及びB3は0.4~0.025μM、FIP及びBIPは3.2~0.2μM、LF及びLBは1.6~0.1μMとすることができる。
【0077】
PCR法は、前述のPCRプライマーを用いる以外は特に制限はなく、常法に従って行えばよい。具体的には、鋳型DNAの変性、プライマーへの鋳型へのアニーリング、および耐熱性酵素(TaqポリメラーゼやThermus thermophilus由来のTth DNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ)を用いたプライマーの伸長反応を含むサイクルを繰り返すことにより、検出対象となる皮膚常在菌に特異的な遺伝子の部分領域を増幅させる。PCR溶液の組成(鋳型DNA量、緩衝液の種類、プライマー濃度、DNAポリメラーゼの種類や濃度、dNTP濃度、塩化マグネシウム濃度等)、PCR反応条件(温度サイクル、サイクルの回数等)は、当業者であれば適切に選択および設定することができる。
【0078】
例えば、鋳型となるDNA0.1~100ng、10×PCR反応用緩衝液、プライマー各0.25~1μM、DNAポリメラーゼ(Taq ポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼなど)0.25~2.5U、dNTP各250μMを混合した後、全液量が10~100μlとなるように希釈したものについて、94~96℃ 5分×1サイクル、(94~96℃ 30秒、52~58℃ 30秒、70~74℃ 1分)×30サイクル、70~74℃ 5分×1サイクルで反応を行う。これは一例にすぎず、PCR溶液の組成、反応温度や時間は、プライマーとなるオリゴヌクレオチド配列の長さや塩基組成などに応じて適宜設定することができる。これらPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。
【0079】
リアルタイムPCR法には、プライマー対とともに二本鎖DNAに結合することによって蛍光を発する化合物であるSYBR Green IなどのインターカレーターをPCR反応系に加えるインターカレーター法、または、5'末端をレポーターと呼ばれる蛍光物質で、3'末端をクエンチャーと呼ばれる消光物質で標識したプローブ(TaqManTMプローブ)をPCR反応系に加えるTaqMan法があり、いずれも本発明において用いることができるが、TaqMan法が好ましい。TaqMan法では、TaqManTMプローブがPCRによる増幅反応においてポリメラーゼの伸長反応に使用される条件下で鋳型DNAに特異的にハイブリダイズし、DNA鎖の伸長、すなわち鋳型DNAの増幅に伴って分解され、蛍光物質を遊離することによりPCR溶液中の蛍光量が増加する。この蛍光量の増加が鋳型DNAの増幅の指標となり、PCRにおける増幅の様子をリアルタイムで簡便に検出することができる。リアルタイムPCR法は、上記のオリゴヌクレオチドセットを用いる以外は、当業者に知られている通常の方法に基づいて、市販のリアルタイムPCRキットやリアルタイムPCR装置を用い、それらに添付の操作説明書に従って行えばよい。リアルタイムPCR装置としては、例えば、ABI Prism 7900HT Real-time PCR System等が用いられる。
【0080】
前記核酸増幅法により得られた増幅産物の検出は、公知の検出法であれば何れも適用することができる。
【0081】
PCR法であれば、増幅産物の検出は、アガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動などの慣用の電気泳動、DNAハイブリダイゼーション法、インターカレーション法、クエンチャー媒介蛍光検出法等を用いて行うことができる。例えば、アガロースゲル電気泳動では、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出し、その大きさに基づいて皮膚常在菌の有無や種類を判定する。また、予め標識物質により標識したプライマーを用いて当該PCRを行い、増幅産物を検出することもできる。標識物質としては、当該技術分野においてよく知られる蛍光物質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等を用いることができる。また、DNAハイブリダイゼーションでは、マイクロアレイなどの固定化担体に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応等により増幅産物を確認する。検出用の固定化担体は、検出すべき皮膚常在菌に特異的な遺伝子の部分領域にハイブリダイズしうる配列を有するオリゴヌクレオチドが固定化されている支持体である。支持体としては、例えば、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、ガラス、シリコンチップなどを用いることができる。
【0082】
等温増幅法(LAMP法)であれば、増幅産物の検出は、反応液の濁度を測定する方法、蛍光目視による方法、アガロースゲル電気泳動による方法等を用いて行うことができる。LAMP法ではDNAの合成により基質が大量に消費され、副産物であるピロリン酸が共存するマグネシウムと反応してピロリン酸マグネシウムの白濁・白沈が生じる。よって、この白濁・白沈を、増幅反応終了後又は増幅反応中の反応液の濁度上昇を経時的に光学的に観察できる測定機器、例えば分光光度計を用いて650nmの吸光度変化を測定することによって確認することが可能である。また、蛍光目視による方法は、エチジウムブロマイドなどの2本鎖核酸に結合する蛍光インターカレーターの存在下で増幅反応を行った後、紫外線ランプの存在下で増幅産物を蛍光発色により確認することが可能である。
【0083】
本発明の一実施態様として、増幅産物の検出は、核酸クロマトグラフィーにより行うことが好ましい。核酸クロマトグラフィーとは、クロマトグラフィーを用いて標的核酸を検出するための方法であって、本方法は、標的核酸を含むクロマトグラフィー溶液(展開液)を、該標的核酸の特定の領域にハイブリダイズする検出用プローブを固定化した固相担体の内部又は表面上を展開させて、標的核酸と検出用プローブとのハイブリダイズ産物を形成させる工程と、ハイブリダイズ産物を検出する工程を含む。ハイブリダイズ産物の検出は、展開に先立って(例えば、核酸増幅時に)又は展開の際に、標的核酸に対して付与した標識物質のシグナルを利用して行う。核酸クロマトグラフィーの形態は特に限定されず、ほぼ水平状態での展開を意図したいわゆるラテラルフロー型であってもよいし、ほぼ鉛直方向での展開を意図したいわゆるディップスティック型であってもよい。
【0084】
展開液は、クロマトグラフィー本体の固相担体をキャピラリー現象により拡散移動する液体であり、固相担体上で増副産物を移動させるための媒体である。展開液は、増幅反応液に含まれる増幅産物が固相担体中で展開が容易になるものであればよく、例えば、水、水と相溶する有機溶媒、又は水と1種又は2種以上の有機溶媒の混合液が挙げられる。有機溶媒としては、低級アルコール、DMSO、DMF、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、アセトン等が挙げられる。展開液には、pHを調整するための緩衝成分、例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液を含む。また、展開液として、増幅反応液をそのまま用いることもでき、増幅反応液に対して界面活性剤や適当な塩等の追加の成分や溶媒を加えたりすることで、組成や濃度の調整をして展開液として用いてもよい。
【0085】
展開液を固相担体に適用する時間は、特に限定はされないが、例えば5分以上、好ましくは10分以上である。ハイブリダイズ産物の検出は、検出用プローブが固定化された領域の着色及び位置を確認する。標識物質によるシグナルを検出するには、標識物質の種類に応じて適宜選択される。
【実施例
【0086】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)皮膚常在菌検出用LAMPプライマーセットの構築
(1)標的遺伝子の検索
公共のデータベースNCBI(National Center for Biotechnology Information)より、皮膚常在菌として、キューティバクテリウム(Cutibacterium)属(データベースの表記からプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)と記載する場合がある)とその類縁の菌株38菌株(表1-1)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属の44菌株(表1-2)、マラセチア(Malassezia)属の3菌株及びその他の皮膚常在菌の5菌株(表1-3)についてそれらの全ゲノム配列を入手した。
【0088】
【表1-1】
【0089】
【表1-2】
【0090】
【表1-3】
【0091】
上記計90菌株の入手した全ゲノム配列をPanOCT解析ツール(Nucleic Acids Res. 2012 Dec;40(22):e172)を用いて比較解析し、Cutibacterium(Propionibacterium)属、Staphylococcus属、Malassezia属毎に特異的な遺伝子を検索したところ、Propionibacterium(Cutibacterium)属に特異的な遺伝子としてFB33_0681遺伝子及びFB33_0824遺伝子、Staphylococcus属に特異的な遺伝子としてSAOUHSC_01002遺伝子、及びMalassezia属に特異的な遺伝子としてMGL_1553遺伝子を選抜した(表2)。
【0092】
【表2】
【0093】
(2)Cutibacterium属、Staphylococcus属、及びMalassezia属検出用のLAMPプライマーセットの構築
(1)で選抜したPropionibacterium(Cutibacterium)属に特異的なFB33_0681遺伝子の塩基配列(配列番号1)及びFB33_0824遺伝子(配列番号2)、Staphylococcus属に特異的なSAOUHSC_01002遺伝子の塩基配列(配列番号3)、及びMalassezia属に特異的なMGL_1553遺伝子の塩基配列(配列番号4)をさらに詳細に検討し、各属に特異的な塩基配列を特定した。次に、特定した塩基配列をLAMP法で増幅しうるプライマーを設計した。LAMPプライマーの設計には、公知のLAMP法プライマー設計支援ソフトLAMP Designer (OptiGene社製); http://www.optigene.co.uk/lamp-designer/を用いた。
【0094】
Cutibacterium属、Staphylococcus属、及びMalassezia属について設計したLAMPプライマーを下記表3~6に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
(実施例2)Cutibacterium属、Staphylococcus属、及びMalassezia属検出用LAMPプライマーセットの性能評価
実施例1で構築したLAMPプライマーセットの皮膚常在菌の検出性能をLAMP法と核酸クロマトグラフィーにより評価した
【0100】
(1)試験菌株
分譲機関から入手した菌株としては、表7に示すCutibacterium属の8菌株、Staphylococcus属の8菌株、Malassezia属の8菌株、その他の属の16菌株を用いた。培養方法は、各分譲機関が推奨する方法に準じた。
ヒトから分離した菌株としては、表8に示すCutibacterium acnes 46菌株、表9に示すStaphylococcus属の48菌株、表10に示すMalassezia属の45菌株を用いた。各菌株は、文献(J Dermatol, vol.40, PP.786-792, 2002.)に記載の方法によって培養した。その後、Cutibacterium acnesは文献(J Clin Microbiol, vol.40, PP.198-204, 2002.)、Staphylococcus属菌は文献(Microbiol Immunol, vol.50, PP.549-552, 2006.)に記載の方法によって同定した。さらにStaphylococcus属菌については、コアグラーゼ試験を行い、コアグラーゼ陽性の黄色ブドウ球菌(S. aureus)とコアグラーゼ陰性のブドウ球菌(CNS:Coagulase-negative staphylococci)の判別を行った。Malassezia属については、文献(Med Mycol, vol.47, PP.618-624, 2009.)記載の方法に準じ、菌種の同定も行った。
【0101】
(2)DNAの抽出
各試験菌株のDNAは、DNA抽出試薬「GenCheck(株式会社ファスマック)」を用いて抽出した。
【0102】
(3)LAMP法による遺伝子の増幅及び核酸クロマトグラフィーによる検出
増幅産物の検出をSTHクロマトPAS法により行うため、実施例1で構築したCutibacterium属、Staphylococcus属、及びMalassezia属検出用の各LAMPプライマーセットについて、常法によりタグ配列をLFプライマーの5’末端に、ビオチンをLBプライマーの5’末端にそれぞれ結合させた。タグ配列は、属毎に異なるものを用いた。
【0103】
次に、Primer Mixtureの調製を行った。F3プライマー及びB3プライマーを0.012μL、FIPプライマー及びBIPプライマーを0.096μL、LFプライマー及びLBプライマーを0.048μLに蒸留水を添加し、計3μLとした。
【0104】
次に、LAMP反応液の調製を行った。LAMP反応用Tube Stripに、調製済みのPrimer Mixture3μL、Isothermal Master Mix(OptiGene)6μL、(2)で抽出したDNA 3μLを添加して混合した。LAMP等温反応にはヒートブロックを使用し、65℃で30分間反応させた。反応後のLAMP産物を滅菌水で1/10希釈した後、その1μLをクロマト展開液20μL(クロマト展開用色素1μL及びクロマト展開用バッファー19μL)に添加し混合した。混合液にクロマト紙を浸して、室温で20分間クロマト展開した。
【0105】
(4)結果
結果を表7~10に示す(+:増幅産物(バンド)検出、-:増幅産物(バンド)未検出)。
【0106】
【表7】
【0107】
【表8】
【0108】
【表9】
【0109】
【表10】
【0110】
表7~10に示されるように、FB33_0681遺伝子及びFB33_0824遺伝子の塩基配列より設計したLAMPプライマーセットはCutibacterium属の菌株、SAOUHSC_01002遺伝子の塩基配列より設計したLAMPプライマーセットはStaphylococcus属の菌株、MGL_1553遺伝子の塩基配列より設計したLAMPプライマーセットはMalassezia属の菌株を特異的かつ高精度で検出できることが確認された。
【0111】
(実施例3)Cutibacterium属、Staphylococcus属、及びMalassezia属の皮膚常在菌の同時検出系の構築及び評価
Cutibacterium acnes JCM 6245、Staphylococcus epidermis NBRC 12993、及びMalassezia globosa NBRC 101597よりそれぞれDNAを抽出した。Cutibacterium属の菌株のDNAのみを含む検体1、Staphylococcus属の菌株のDNAのみを含む検体2、Malassezia属の菌株のDNAのみを含む検体3、Cutibacterium属の菌株のDNA、Staphylococcus属の菌株のDNA、Malassezia属の菌株のDNAの全てを含む検体4を調製した。
【0112】
検体4に対するLAMP反応液として、各属のプライマーセットのPrimer Mixtureを1:1:1で混合したLAMP反応液を調製した。実施例2と同様にしてLAMP反応を行い、核酸クロマトグラフィーで増幅産物を検出した。
【0113】
各検体の核酸クロマトグラフィーのバンドパターンを図1に示す(レーン1:検体1、レーン2:検体2、レーン3:検体3、レーン4:検体4)。Cutibacterium属、Staphylococcus属、Malassezia属のDNAについてそれぞれ特異的なバンドが検出された(図1、レーン1~3)。また、マルチプレックスにてLAMP反応を行った場合、3属のDNAに対応するバンドが同時に検出された(図1、レーン4)。
【0114】
(実施例4)皮膚常在菌検出用定量PCRプライマー・プローブセットの構築及び評価
(1)Cutibacterium属、Staphylococcus属、及びMalassezia属検出用の定量PCR(qPCR)プライマー・プローブセットの構築
実施例1で特定したPropionibacterium(Cutibacterium)属のFB33_0681遺伝子、FB33_0824遺伝子の塩基配列の部分領域の塩基配列、Staphylococcus属のSAOUHSC_01002遺伝子の部分領域の塩基配列、Malassezia属にMGL_1553遺伝子の部分領域の塩基配列をPCR法で増幅しうるプライマーを設計した。PCRプライマーの設計にはPrimer3(https://primer3.org/)を用いた。
【0115】
Cutibacterium属、Staphylococcus属、及びMalassezia属について設計した定量PCRプライマー・プローブセットを下記表11~14に示す。なお、名称において「F1」、「F2」、「R1」、「R2」と表記しているものはプライマーを、「P1」、「P2」と表記しているものはプローブを示す。Cutibacterium属(FB33_0681、FB33_082)検出用のプローブは、5'末端をFAM、3’末端をBHQ1で修飾し、Staphylococcus属(SAOUHSC_01002)検出用のプローブは、5'末端をHEX、3’末端をBHQ1で修飾し、Malassezia属(MGL_1553) 検出用のプローブは、5'末端をTexus Red、3'末端をBHQ2で修飾した。
【0116】
【表11】
【0117】
【表12】
【0118】
【表13】
【0119】
【表14】
【0120】
(2)Cutibacterium属、Staphylococcus属、及びMalassezia属検出用qPCRプライマー・プローブセットの性能評価
実施例1と同様にして各試験菌株のDNAをDNA抽出試薬「GenCheck(株式会社ファスマック)」を用いて抽出した。(1)で構築したqPCRプライマー・プローブセットの皮膚常在菌の検出性能を定量PCR法で確認した。
【0121】
定量(リアルタイム)PCRは、StepOne Plus (ThermoFisher社)/LightCycler LC 96 System (Roche社)を用いて行った。PCR反応液の組成は、鋳型DNA試料2μl、フォワードプライマー(10μM)1μl、リバースプライマー(10μM)1μl、プローブ(2.5μM)1μl、Takara premix EX Taq 10μl、蒸留水5μlで、総容量20μlとした。PCR反応は、42℃5分、95℃10分の前処理の後、95℃30秒の熱変性、60℃60秒のアニーリング処理と伸長反応を1サイクルとする2-step PCRを、45サイクル行った。
【0122】
(3)結果
結果を表15~17に示す(+:増幅産物(蛍光シグナル)検出、-:増幅産物(蛍光シグナル)未検出)。
【0123】
【表15】
【0124】
【表16】
【0125】
【表17】
【0126】
表15~17に示されるように、FB33_0681遺伝子及びFB33_0824遺伝子の塩基配列より設計したqPCRプライマー・プローブセットはCutibacterium属の菌株、SAOUHSC_01002遺伝子の塩基配列より設計したqPCRプライマー・プローブセットはStaphylococcus属の菌株、MGL_1553遺伝子の塩基配列より設計したqPCRプライマー・プローブセットはMalassezia属の菌株を特異的かつ高精度で検出できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、皮膚常在菌の検査用試薬の製造分野において利用できる。本発明のオリゴヌクレオチドセット及び方法を用いることによってニキビや毛包炎等の原因菌となりうる皮膚常在菌の種類が正確かつ迅速に同定できる。よって、本結果に基づいて、皮膚常在菌の種類に応じて検体提供者のニキビや毛包炎等の皮膚疾患を予防又は改善するための化粧品や医薬品を提供すること、当該疾患の治療効果を判定すること、当該疾患の予防や改善のためのケア方法に関するカウンセリングやアドバイスを行うことが可能となる。
図1
【配列表】
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