(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】腐食マッピングのための電磁超音波トランスデューサ(EMAT)
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20240109BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/04
(21)【出願番号】P 2019547695
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 US2018020638
(87)【国際公開番号】W WO2018160951
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-02
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517017218
【氏名又は名称】クエスト インテグレーテッド, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ボンダラント, フィリップ, ディー.
(72)【発明者】
【氏名】マクタティス, アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ドハーティ, リチャード, ライル
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】渡戸 正義
【審判官】松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第2531835(GB,A)
【文献】特開昭56-31639(JP,A)
【文献】米国特許第6234026(US,B1)
【文献】特表2017-534066(JP,A)
【文献】独国特許発明第4011686(DE,C)
【文献】特開昭61-28861(JP,A)
【文献】米国特許第4395913(US,A)
【文献】特開平9-304356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0151344(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N29/00-29/52
J-Dream III
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における腐食又は侵食を検出又は測定するための装置であって
電磁超音波トランスデューサ(EMAT)を備え、
前記電磁超音波トランスデューサ(EMAT)は、
強磁性コア、
前記強磁性コアの周囲に配置され、前記強磁性コアを通る磁場を生成するよう構成される複数の永久磁石、及び
前記強磁性コア及び前記対象の間に構成されるコイル
を備え、
前記コイルは、前記対象と前記強磁性コアとの間に積み重ねられる、送信機(TX)コイル及び受信機(RX)コイルを備え、
前記コイルは、前記対象上の第一の領域に渡って配置され、
前記強磁性コアが、前記複数の永久磁石の外側表面からコイルに向かって突出し、
かつ、前記第一の領域の平面における前記強磁性コア(110)のサイズは、前記第一の領域よりも小さく、
前記強磁性コアは、前記複数の永久磁石に対し、移動可能であり、
前記強磁性コアは、前記複数の永久磁石によって所定の位置に保持される、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、前記複数の永久磁石は、第一の磁石、第二の磁石、第三の磁石、及び第四の磁石を備え、各磁石は、同じ磁極で前記強磁性コアの側面に面する、装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置であって、前記複数の永久磁石は、前記対象と反対側である、前記強磁性コアの上面に面する第五の磁石をさらに備え、前記第五の磁石は、前記第一、第二、第三、及び第四の磁石と同じ磁極で前記強磁性コアに面する、装置。
【請求項4】
請求項2に記載の装置であって、前記第一の永久磁石は、前記強磁性コアに面する第一の幅を有し、第二の永久磁石は、前記強磁性コアに面する第二の幅を有し、前記第一の幅と前記第二の幅とが異なる、装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置であって、前記複数の永久磁石は、前記強磁性コアの周りに楔形磁石を含む、装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、前記複数の永久磁石は第一の複数の永久磁石であり、前記強磁性コアは第一の強磁性コアであり、前記装置は第二の複数の永久磁石及び第二の強磁性コアをさらに含み、前記第一の複数の永久磁石の少なくとも一つは、一の磁極で前記第一の強磁性コアに面し、他の磁極で前記第二の強磁性コアに面する、装置。
【請求項7】
請求項1に記載の装置であって、前記強磁性コアの断面領域が、約1/4インチ×1/4インチ~約1/2インチ×1/2インチの範囲である、装置。
【請求項8】
請求項1に記載の装置であって、前記強磁性コアの断面の直径が、約1/4インチ~約1/2インチの範囲である、装置。
【請求項9】
請求項
1に記載の装置であって、前記TXコイルは前記RXコイルよりも前記対象に近い、装置。
【請求項10】
請求項
9に記載の装置であって、前記TXコイルは、第一のTX導電性トレース(TX1)及び第二のTX導電性トレース(TX2)を備え、前記RXコイルは、第一のRX導電性トレース(RX1)及び第二のRX導電性トレース(RX2)を備え、前記TX1及び前記RX1は、前記強磁性コアの下にあり、前記RX2の巻線は、前記RX1の巻線の鏡像としてレイアウトされる、装置。
【請求項11】
請求項1に記載の装置であって、前記コイルは、鋸歯状端部を有する導電性トレースを含む、装置。
【請求項12】
請求項1に記載の装置であって、前記コイルは、吸音クラッディングに封入される導電性トレースを含む、装置。
【請求項13】
請求項1に記載の装置であって、前記コイルに電気的に接続された複数のスイッチをさらに備える、装置。
【請求項14】
請求項1
3に記載の装置であって、前記複数のスイッチの個々のスイッチは、個々に制御可能な電界効果トランジスタ(FET)である、装置。
【請求項15】
対象における腐食又は侵食を検出又は測定するための方法であって、
強磁性コアの周囲に配置される複数の永久磁石によって、前記強磁性コアを通る磁場を生成する工程、
前記強磁性コアと前記対象との間に構成されるコイル中に、電流を生成する工程、
前記対象中に送信超音波を生成する工程、及び
反射超音波を検出する工程
を含み、
前記コイルは、前記対象と前記強磁性コアとの間に積み重ねられる、送信機(TX)コイル及び受信機(RX)コイルを備え、
前記コイルは、前記対象上の第一の領域に渡って配置され、
前記対象における腐食によって、前記反射超音波の変動が引き起こさ
れ、
前記強磁性コアが、前記複数の永久磁石の外側表面からコイルに向かって突出し、
かつ、前記第一の領域の平面における前記強磁性コアのサイズは、前記第一の領域よりも小さく、
前記強磁性コアは、前記複数の永久磁石に対し、移動可能であり、
前記強磁性コアは、前記複数の永久磁石によって所定の位置に保持される、方法。
【請求項16】
請求項1
5に記載の方法であって、前記コイルにおける前記電流は、一連の電圧パルスによって生成され、前記一連の電圧パルスにおいて、立ち上がり電圧パルス、又は立ち下がり電圧パルスは、前記一連のパルスにおける中央のパルスより短い、方法。
【請求項17】
請求項1
6に記載の方法において、前記コイルにおける前記電流は、前記立ち下がり電圧パルスの終端で実質的にゼロである、方法。
【請求項18】
請求項1
6に記載の方法であって、前記立ち上がり電圧パルス又は前記立ち下がり電圧パルスは、前記反射超音波を検出するためにデッドタイムを短縮させるよう調整することができる、方法。
【請求項19】
請求項1
5に記載の方法であって、前記コイルにおける前記電流は、独立して開閉可能な電界効果トランジスタ(FET)のセットによって制御される、方法。
【請求項20】
請求項
19に記載の方法であって、前記FETを開閉することによって、前記コイルにおける前記電流の方向を変更する工程をさらに備える、方法。
【請求項21】
請求項2
0に記載の方法であって、反射超音波を検出する間、少なくとも2つのFETが閉位置にある、方法。
【請求項22】
請求項1
5に記載の方法であって、
前記コイルにおけるデッドタイムを相殺する工程をさらに備え、
前記TXコイルは、第一のTX導電性トレース(TX1)及び第二のTX導電性トレース(TX2)を備え、
前記RXコイルは、第一のRX導電性トレース(RX1)及び第二のRX導電性トレース(RX2)を備え、
前記TX1及び前記RX1は前記強磁性コアの下にあり、
前記RX2の巻線は、前記RX1の巻線の鏡像としてレイアウトされる、方法。
【請求項23】
請求項1
5に記載の方法であって、前記送信超音波が、前記対象の表面に対し、非垂直方向に進む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2017年3月2日に出願された米国仮出願62/466264号の利益を主張するものであり、この内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
背景
一般的に、金属構造物は、腐食及び侵食を受けやすい。例えば、パイプラインでは、典型的にはパイプの外側表面上に腐食が発現するが、侵食はその内側表面上で発生する可能性がある。パイプラインのオペレーターは、B31Gスタンダードを用いてパイプラインの「運転適合性」を評価する。評価の間に、パイプ上の腐食パッチを特定する必要があり、パッチ間の間隔を推定し、間隔の狭いパッチが一つの連続するパッチとみなされるべきか否かを決定する。次いで、パッチの軸方向の範囲及び最大深さを、各パッチに対する評価基準として用いることができる。腐食パッチの最大深さにより、パイプの最小有効壁厚みが決定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図1は、従来技術に係るクラックの検出の概略図である。いくつかの従来の技術では、圧電トランスデューサ又は電磁超音波トランスデューサ(EMAT)によって、固体材料6(例えば、金属プレート)中に超音波が生成される。圧電トランスデューサは、固体材料6(例えば、鉄プレート)に振動を伝達する振動結晶2及び伝達媒質4(例えば、ゲル又は流体)を含む。別の従来の技術において、EMAT15は、固体材料6中に振動を生成する。EMAT15は、コイル12と磁気的に結合された永久磁石10を含む。コイル12に交流電流(AC)が流れるとき、コイル12におけるAC電流は固体材料6中に渦電流を生成する。永久磁石10の磁場は、これらの渦電流と(例えば、ローレンツ力又は磁気ひずみを介して)相互作用し、固体材料の結晶格子を通り伝播する超音波を生成する。超音波がクラック又は層間剥離5(又は結晶格子における他の不連続点)に到達すると、反射超音波が生成される。これらの反射波は、EMATでもある受信機によって、検出することができる。受信EMAT(図示せず)で、反射超音波と受信EMATの磁場との相互作用によって、試料材料中に渦電流が誘導され、次に受信EMATコイル回路に電流が誘導される。これらの誘導電流を測定し、さらに分析して試料のクラック、層間剥離、又は壁の厚みの特性を把握することができる。いくつかの適用事例において、EMAT15は、超音波エミッターと超音波受信機の両方として機能する。
【0004】
腐食は、腐食パッチからの超音波エネルギーを散乱させるため、EMAT及び圧電トランスデューサの壁の厚み測定に関して、特に問題になる可能性がある。さらに、EMATは、比較的薄い壁を有するパイプ上、例えば、腐食のためにさらに薄くなっている、0.25~0.5インチの壁を有するパイプ上で動作することが困難である。なぜならば、検出可能な振幅を有する唯一のエコーである可能性を有する最初の戻りエコーが、信号の「メインバング」に埋もれてしまう可能性があるためである。したがって、腐食の存在下で伝達媒質を用いずに、パイプの壁の厚みを正確に測定することができる費用対効果が高い試験方法が、依然として求められている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本発明の態様は、以下の図面を参照することによって、よりよく理解されるであろう。図面中の構成要素は、必ずしも縮尺通りではない。代わりに、本開示の原理を明確に示すことに重点が置かれている。
【
図1】
図1は、従来技術に係る欠陥の検出の概略図である。
【
図2A】
図2Aは、従来技術に係る、腐食されていない壁を有するパイプについてのEMAT振幅スキャン(ASCAN)応答である。
【
図2B】
図2Bは、従来技術に係る、腐食された壁を有するパイプについてのEMATASCAN応答である。
【
図2C】
図2Cは、本開示の技術の実施形態に係る、腐食トポロジーに対するセンサーサイズの部分概略図である。
【
図2D】
図2Dは、本開示の技術の実施形態に係る、腐食トポロジーに対するセンサーサイズの部分概略図である。
【
図3】
図3は、本開示の技術の実施形態に係る、強磁性コアを有するEMATの概略図である。
【
図4】
図4は、本開示の技術の実施形態に係るEMATのレイアウトの概略図である。
【
図5A】
図5Aは、本開示の技術の実施形態に係るEMATの断面図である。
【
図5B】
図5Bは、本開示の技術の実施形態に係るEMATの断面図である。
【
図6A】
図6Aは、本開示の技術の実施形態に係るEMATコイルの概略図である。
【
図6B】
図6Bは、本開示の技術の実施形態に係るコイル信号のグラフである。
【
図7】
図7は、本開示の技術の実施形態に係るEMATの回路トポロジーの概略図である。
【
図8】
図8は、本開示の技術の実施形態に係るEMATシステムのための補助電子機器の概略図である。
【
図9】
図9は、本開示の技術の実施形態に係るEMATシステムについてのパルス図を示す。
【
図10】
図10は、本開示の技術の実施形態に係るEMATシステムについてのパルス図を示す。
【
図11】
図11は、本開示の技術の実施形態に係る、鉄及びアルミニウムプレートについてのEMATシステムのシミュレーション結果を示す。
【
図12】12は、本開示の技術の実施形態に係る、鉄及びアルミニウムプレートについてのEMATシステムのシミュレーション結果を示す。
【
図13】
図13は、本開示の技術の実施形態に係る信号強度対リフトオフのグラフを示す。
【
図14】
図14は、本開示の技術の実施形態に係るEMATシステムについての、出力電力対時間のシミュレーション結果を示す。
【
図15】
図15は、本開示の技術の実施形態に係るEMATシステムについての、電流対時間のシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
詳細な説明
本発明の技術は、パイプライン又はその他の構造物の、残存する壁の厚みを定量化することができるEMAT(電磁超音波トランスデューサ)センサーに関する。本発明の技術は、例えば、従来の圧電(PZT)システムに必要とされる、液体伝達媒質を欠いたガスパイプライン、又は空のパイプにおいても、用いることができる。一般的に、従来の液体とカップリングされたPZTシステム及びEMAT壁損傷システムは共に、パイプが著しく腐食されている場合、測定値を得ることが困難である。特に、腐食パッチの傾斜側面は、衝突する超音波信号を散乱させ、それによって、戻り信号にぶれを生じさせるか、又は完全に反射信号の測定を妨げる。
【0007】
動作中、EMATセンサーは、腐食パッチ間の間隔、腐食領域の長さ、及び腐食パッチの深さを正確に決定する可能性を最大化する必要がある。いくつかの実施形態において、腐食に代えて、又は腐食に加えて、対象における他の欠陥、例えば、対象におけるクラック又は結晶構造の欠陥を検出することができる。
【0008】
状況によっては、腐食パッチ内の壁の残存厚みを定める深い腐食ピットは、比較的小さい断面を有する可能性がある。特にB31Gスタンダードを目的としない場合においても、パイプ又はその他の構造物の残存耐用年数を特定するために、壁の最小残存厚みを見いだすことは重要である。既存のEMAT技術は、比較的小さいが深い腐食ピットを適切に検出しない。なぜならば、従来のEMATの検知領域は、比較的大きいサイズであるためである。この問題に対処する本技術のいくつかの実施形態を以下に説明する。本技術は、パイプの外側からのハンドルヘルド若しくは自動センサー用途、又はパイプの内側からのインライン検査用途に適用することができる。
【0009】
一般的に、超音波の方向が、腐食ピットの底部に対し垂直である場合、より多くのエネルギーが腐食パッチから反射されるため、EMATの検知フットプリントがより小さいほど、腐食ピットの底部から測定値を取得することができる可能性が高くなる。例えば、比較的大きいフットプリントのセンサーを有するEMATセンサーは、比較的大きいが浅い腐食パッチを検出することができるが、一方で比較的小さいが深い腐食パッチは検出できないことがある。典型的なEMATセンサーフットプリントが、0.5-1インチのオーダーの長さ寸法を有するのとは対照的に、本技術のいくつかの実施形態では、センサーフットプリントの長さ寸法は、約1/4インチから3/8インチ、又は約1/8インチから1/4インチである。本技術のいくつかの実施形態は、直径約1/4インチから3/8インチ、又は直径約1/4インチから1/2インチの、円形又は略円形のEMATセンサーフットプリントを有する。
【0010】
本発明の技術のいくつかの実施形態において、磁場強度が増加すると、小さい領域内での磁場強度がより強くなる結果となり、したがって、EMATセンサーの機能が改善される。一般的に、EMATの感度(例えば、EMATの腐食検出能力)は、磁束密度の二乗に比例して変化する。したがって、磁束が同じままであり、一方で磁場の面積が、例えば2倍小さい場合、EMATセンサーの感度は4倍に増加する。言い換えると、いくつかの実施形態において、本発明の技術は、必ずしもより強い信号に依存するものではないが、同じ強度を有し、より小さな検知フットプリントを覆う信号に依存する。少なくともいくつかの実施形態において、磁場密度の増大によって、軸方向及び周方向の範囲が狭い腐食パッチの底部からの戻りエコー(又は複数のエコー)を受け取る可能性が増大する。
【0011】
本技術のいくつかの実施形態は、試料(例えば、パイプ)の外側又は内側表面上における試料の欠陥(例えば、腐食ピットの深さ)の特性を把握することができる。腐食を有する薄い壁を備えるパイプ及びその他の構造物(例えば、平らな壁)のためのEMATセンサーの設計について考慮すべき事項の一部は以下のとおりである。
1.センサーリングダウン/デッドタイム
2.OD(外径)表面超音波散乱
3.ID(内径)のカップリング
4.腐食トポロジーに対するセンサーサイズ
【0012】
センサーリングダウン/デッドタイム
図2Aは、従来技術に係る腐食を有しない壁を備えるパイプについてのEMAT振幅スキャン(ASCAN)応答である。
図2Aのグラフは、横軸に時間を、縦軸に信号振幅を示す。高強度の信号振幅(「メインバング」とも呼ばれる)によって特徴づけられる開始期間は、コイル120がパイプ(試料)に電磁信号を送信する期間に対応する。上述のように、電磁信号はパイプ材料の結晶マトリックスにおいて、超音波信号に変換され、超音波信号は結晶マトリックスにおける欠陥(例えば、腐食、クラック、層間剥離又は材料の端部)で反射し、そして反射波領域がコイル120によって検知される。コイル120は、時間t
Dの持続期間(「デッドタイム」又は「リングダウン」時間)の間は、基本的に送信信号(「メインバング」)で飽和しているので、この時間の間、コイル120を、検知のために利用することができない。時間t
Eにおいて、最初の反射信号(「エコー」)が、コイル120によって、受信され、検知される。その後、方向16において前後に伝播する超音波は、時間間隔Δtで、コイル120によって検知される。図示された実施形態において、t
Dは、約10μsの長さであり、t
Eは、約22μsの長さであり、Δtは約18μsの長さである。他の実施形態においては、他の時間間隔を適用することができる。例えば、t
E及び時間間隔Δtは、パイプの厚みとともに増加する。一般的に、腐食を測定するとき、センサーは多重反射に依存するべきである。
【0013】
さらに、比較的薄いパイプの壁、例えば、約0.25~0.5インチの腐食を含まないパイプの壁では、デッドタイムの長さが、測定値に影響する場合がある。例えば、0.4インチ及び0.1インチの厚みの壁からの最初の反射は、それぞれ、約6.2μs及び1.5μsであり、これは図示された事例では、約10μsの長さのデッドタイムtDによってマスクされ得る。
【0014】
OD表面超音波散乱
図2Bは、従来技術に係る腐食された壁を備えるパイプについてのEMAT ASCAN応答である。一般的に、EMAT ASCANは、腐食されていない表面上で、又は腐食トポロジーの変化がセンサー寸法よりもはるかに大きい表面上で、多重反射を生成する。しかしながら、腐食パッチ61が、センサー寸法より小さなトポロジーを含む場合、腐食パッチ61からの反射は、より散乱される。結果として、以下に説明するように、EMATセンサーの腐食領域で測定を行う能力は低下する。
【0015】
いくつかの実施形態において、EMAT15は、腐食パッチ61に対して超音波16Tを送信し、反射超音波16Rを受信する。しかしながら、凹凸のあるパッチ61の表面は、反射超音波16Rの散乱を引き起こす。その結果として、観測可能な超音波エコーの数は減少する。
図2Bのグラフに図示されるように、いくつかの実施形態においては、一つの観測可能なエコーのみが生成される。図示された実施形態において、EMATセンサーのデッドタイムのため、約0.6インチよりも薄いパイプの壁では、最初のエコーを検出することができない場合がある。なぜならば、リングダウン時間(t
D)は最初のエコーをマスクし、オペレーターは、測定を行うために追加のエコーが必要となるためである。腐食により著しく壁が損傷する結果となる状況では、EMATは、単に「読み取りなし」と報告する場合がある。結果として、いくつかの実施形態において、センサーはどんなエコーも受信せず、測定を行うことができない。
【0016】
IDのカップリング
上述のように、EMATセンサーは、パイプ内の渦電流と、同じ場所に位置する静磁場との相互作用を介して、パイプの壁に超音波信号を生成する。この伝達方法は、フィールドにおけるEMATの使用に関し利点を供する。なぜならば、超音波カップリング(例えば、カップリング流体又はゲルを経ること)が必要とされないからである。
【0017】
EMATの送信/受信では、超音波信号は、静磁場強度の2乗に比例し、且つ送信コイル電流に対し線形的である。静磁場及び誘導RF電流は、センサーと表面との間の距離(「リフトオフ」距離とも呼ばれる)が増加するにつれて、より小さくなる。いくつかの実施形態において、EMATセンサーのリフトオフ範囲は、約2mmとすることができる。いくつかの実施形態において、パイプの内側表面(ID)の腐食又は侵食は、リフトオフを事実上増加させ、ASCAN信号の損失(例えば、システムが「読み取りなし」と報告する)をもたらす結果となる。したがって、いくつかの実施形態において、EMATツールの機械的設計は、リフトオフ及び/又はリフトオフ変動を最小化するように、確実にパイプの表面に対してセンサーを保持する。いくつかの実施形態において、レーザー表面マッピングのような、増強的測定方法により、ID表面をマッピングして、ID腐食の範囲を決定することができる。IDカップリング問題を軽減するために、センサーは、より高い静磁場強度及びより高いRF電流レベルで動作することができる。
【0018】
腐食トポロジーに対するセンサーサイズ
図2C及び2Dは、本開示の技術の実施形態に係る腐食トポロジーに対するセンサーサイズの部分概略図である。いくつかの実施形態において、EMATセンサー15のサイズを小さくして、腐食61によって引き起こされる信号散乱を緩和することができる。例えば、
図2Dは、腐食61の傾斜表面における著しい変動に架かる、比較的大きいEMAT15を示す。多くの実際的な状況において、有用な反射超音波16Rは、腐食ピークのみで、又は主に腐食ピークで、反射される。他方、腐食61の傾斜領域は、EMAT15の方向に戻る有用な測定方向から、離れる方向に超音波を反射する。
【0019】
そのような反射超音波の散乱は、特定の問題、ぶれを引き起こす信号の経路の長さの相違、モード変換、せん断波偏光回転、及び反射エネルギーの損失を引き起こし、これらは全て、反射信号レベルを低下させるか、及び/又は戻りエコーのぶれを引き起こす。しかしながら、同じエネルギーをより小さな領域に集中させることができる場合、腐食ピーク幅(腐食のもっとも深い部分)の割合は、EMAT検知領域のより大きな割合となり、したがって適切な測定ができる可能性が増加する。いくつかの実施形態において、EMAT検知領域(すなわち、コイル120を通る高い磁束を有する領域)は、約1/4インチ~3/8インチ、又は約1/8インチ~1/4インチの長さ寸法のセンサーフットプリントを有することができる。本技術のいくつかの実施形態は、直径約1/4インチ~3/8インチ又は約1/4インチ~1/2インチの円形又は略円形であるEMATセンサーフットプリントを有することができる。いくつかの実施形態において、センサーフットプリントは、1/4インチより小さい長さ寸法又は直径を有することができる。いくつかの実施形態において、上に列挙した領域サイズは、対象腐食ピークの領域に対応する。
【0020】
図3は、本開示の技術の実施形態に係る強磁性コアを有するEMATの概略図である。具体的には、
図3は、10mmの正方形の底面を有し、40mmの高さである強磁性コア110の周りにあり、放射状に面している4つの磁石100に関するモデリング結果を含む。磁石100は、厚み10mm、幅20mm、高さ40mmのN35Ndである。シミュレーションは、いくつかのシミュレーションでは、厚み4mm及び8mmの鉄プレート上で、他のシミュレーションでは、アルミニウム上で、この構成により実行された。静的シミュレーションで、アルミニウムは空気と同じ透磁率を有する。ベクトル場は、磁石110によって引き起こされる磁場を表わす。
【0021】
図示されたEMAT150は、RFコイル120の上に高飽和強磁性コア110を含む。試験中のパイプ(図示せず)は、さらにRFコイル120の下となる。個々の磁石100は、同じ極、例えば、そのN(North)極で強磁性コア110に面するように向けられる。いくつかの実施形態において、個々の磁石100は、そのS(South)極で強磁性コア110に面することもできる。いくつかの実施形態において、磁石100は、正方形又は円形の希土類磁石である。いくつかの実施形態において、磁石100は、磁石100が必要とされる高さに達するように、強磁性コア110の垂直長さに沿って、互いに上に積み重ねられる。
【0022】
従来の、単一磁石EMATによれば、最大磁場は、Br又は残留磁化(例えば、NdN52材料の場合、約1.5テスラ)である。この値は、磁石100の周囲の磁束経路における空隙のため、実際には得られない。空気中においては、単一磁石(従来技術の構成)では、磁石の表面磁場は、約0.65Tであり、これは、磁石100が鉄又は他の強磁性材料の上に配置された場合、約1Tに増加する。本技術のいくつかの実施形態において、磁石100の対向する極間の比較的短い磁路は、磁場強度(磁束密度とも呼ばれる)を約2.3Tまで増加させる場合がある。矢印112は、強磁性材料110の中央における磁場の方向を示す。従来の単一磁石配置に依拠する従来のEMATでは、磁場強度は、典型的には、約1Tである。EMATの感度は、磁場強度の2乗で変化するため、一定の検知領域では、磁場強度における2.3倍の増加は、信号レベルの検出(EMATの感度とも呼ばれる)における約5.3倍の増加を引き起こす。したがって、本発明の技術によって、同じ、又はより高いEMAT感度を達成しながら検知領域を縮小させることができる。例えば、本発明の技術で、我々が1/4インチの正方形の検知領域で得ることができる信号レベルは、従来のEMATセンサーが、1インチの正方形の検知領域で得ることができる信号レベルに匹敵し得る。結果として、センサー面積を考慮した場合、本発明の技術は、16倍の見かけ上の改善をもたらし得る。さらに、コイル120の領域は、検知領域よりも著しく大きい可能性があるため、EMATのリフトオフ機能もまた、改善される。上記の
図2C及び2Dを参照して説明したように、検知領域の縮小は、比較的小さな腐食パッチを検出する場合に追加的な利点を有する場合がある。
【0023】
異なる実施形態において、前記コイル120は、異なる形状、例えば、渦巻きコイル及びリニアコイルのような形状を有ししていてもよい。渦巻きコイルとリニアコイルは共に、強磁性コア110と試料の表面の間に収まる平らなコイルである。リニアコイルは、「D」又は二つの背中合わせの「D」の形状で実現することができ、時に「バタフライコイル」と呼ばれることもある。
【0024】
音波的には、渦巻きコイルは放射状に分極したせん断波を生成し、リニアコイルは、一方向に分極したせん断波を生成する。理論的には、放射状に分極したコイルは、ほとんどのエネルギーが材料にまっすぐ入らず、円錐状のエネルギーを生成する。その方向は、巻線の間隔に依存する。リニアコイルは、垂直方向に向いた波を生成する。本発明者らは、リニアコイルは、渦巻きコイルと比較して、より長い一連の多重エコーを生成する点で、より優れている可能性があることを見出した。他方、渦巻きコイルは、より早く減衰する、より強い最初のエコーを生成する場合がある。
【0025】
いくつかの実施形態において、マルチモーダルバルク/ガイド波を用いることができる。いくつかの実施形態において、バルク波トランスデューサは、試料を通り斜めの入射角で伝播する超音波を生成するよう構成される(すなわち、超音波は試料の表面に対して、非垂直方向に進む)。
【0026】
図3Aは、
図3に示されるEMATの断面図である。いくつかの実施形態において、強磁性コア110は、磁石100の下面より下に、距離Z
Pだけ突出する。いくつかの実施形態において、強磁性コア110は、磁石100それぞれに対し、垂直方向(方向Z)に移動可能であってもよく、したがって、Z
Pは変数となる。その結果、強磁性コア110からコイル120まで、さらに試料6までの距離もまた、変化する。試料及びEMAT間の引力を低下させることが望まれる場合、例えば、EMAT150を、パイプ上のある位置から別の位置に移動する場合、強磁性コア110を磁石100内にスライドすることによって(又は、さもなければ垂直に引っ込めることによって)、強磁性コア110と試料との間の距離を増加させることができる。
【0027】
リフトオフ(ZLIFTOFF)は、コイル120と試料6の表面との間の距離である。上述のように、より小さなリフトオフは、典型的には、試料6における磁場及び渦電流を増加させ、EMAT150の感度を改善する結果をもたらす。さらに、磁石110によって生成された磁場は、拡張された強磁性コア110を通り、コイル120を通り、試料内に進み、それによって、空気中を通る磁場の進行によって引き起こされる損失を低減する。
【0028】
いくつかの実施形態において、強磁性コア110の端部は、丸みを帯びていても良い(半径R1及びR2によって示される)。例えば、強磁性コアの下端における半径R2は、コイルを削る可能性がある角を除去することによって、コイル120の摩耗及び千切れを低減させることができる。強磁性コア110の上端上の半径R1は、強磁性コアで生成された音波が、より早く消散することを促進し、パイプにおいて、これらの不要な音波が音波信号に干渉することを、より低減する。
【0029】
図3Bは、
図3に示されるEMATコイルの詳細図である。いくつかの実施形態において、コイル120の導電性トレース121は、クラッディング122に封入される。いくつかの実施形態において、クラッディング122は、消音材料又は吸音材料(例えば、充填剤入エポキシ)とすることができ、これによりコイル120において生成されるEMAT信号が低減され、したがって測定の品質(例えば、ノイズに対する信号比又はS/N比)が改善される。
【0030】
いくつかの実施形態において、導電性トレース121の端部は、鋸歯状とすることができる。電磁場が、導電性トレース121を通って伝播するとき、鋸歯状部1215は、導電性トレースの内部で自然発生する反射の焦点をぼかし、及び/又は散乱させる。結果として、EMATのS/N比は、さらに改善する場合がある。いくつかの実施形態において、トレース121はmmスケールの直径を有することができ、一方で鋸歯状部1215は、トレースの直径よりも一桁以上小さい。
【0031】
図4は、本開示の技術の実施形態に係る、EMATのレイアウトの概略図である。図示された実施形態において、磁石100は、多重強磁性コア110の下に、多重検知領域を生成するように配置される。例えば、磁石100のN極Nは、強磁性コア110-1及び110-4を通る磁束を生成することができ、一方で磁石100のS極Sは、磁気コア110-2及び110-3を通る磁束を生成することができる。結果として、EMAT150は、試料の多重領域を検知することができる多重強磁性コア/コイルのペアを含む。
【0032】
磁石のレイアウトに応じて、少なくともいくつかの磁石100は、強磁性コア110を通る磁束の生成に関与する両方の極N、Sを有することができる。いくつかの実施形態において、磁石100は、異なる長さ、例えば、L1及びL2を有することができる。いくつかの実施形態において、磁石の幅W1、W2は、異なるものとすることができる。例えば、いくつかの磁石は、それらが面する強磁性コア110-1の側面よりも大きい幅W2を有するものとすることができる。理論に縛られるものではないが、より大きな幅W2を有する磁石は、磁場の強度を増加させ得ると考えられる。
【0033】
図5Aは、本開示の技術の実施形態に係るEMATの断面図である。いくつかの実施形態において、EMAT150は、追加の磁石、例えば磁石100Tを含む。動作中、磁石100TのN極は、強磁性コア110の上部に面する。少なくともいくつかの実施形態において、磁石100Tから追加の磁束は、強磁性コア110における磁束密度を増加させる。結果として、磁束密度、したがって、EMAT150の感度(例えば、腐食検出のためのEMAT150の能力)もまた、増加する。
【0034】
図5Bは、本開示の技術の実施形態に係るEMATの断面図である。いくつかの実施形態において、EMAT150は、楔形の磁石100を含む。その結果として、強磁性コア110に面するように配置される磁石100の数を増加させることができ、したがって強磁性コアを通る全磁束密度が増加し、同様に、EMAT150の感度(例えば、小さな-サイズの腐食を検出するEMAT150の能力)が増加する。図示された実施形態において、8つの磁石100は、八角形の強磁性コアに面するが、他の数の磁石及び対応する形状の強磁性コアもまた可能である。いくつかの実施形態において、円柱状強磁性コア110は、例えば、そのN極を内径に有し、そのS極を外径に有する、中空の円柱状の形状の磁石100によって囲われるものとすることができる。
【0035】
図6A及び6Bは、S/N比を改善し、受信信号のメインバングのリングダウンを低減させるためのコイル110の配置を示す。
図6Aは、本開示の技術の実施形態に係る、EMATコイルの導電性トレースの概略図である。
図6Bは、本開示の技術の実施形態に係る、コイル信号のグラフである。
【0036】
図6Aは、コイル120の送信機トレース120-TX及び受信機トレース120-RXを示す。動作中、強磁性コア110-1は、送信機トレース120-TXのTX1の部分、及び受信機トレース120-RXのRX1の部分の上に垂直に配置することができ、一方で強磁性コア110-2は、TX2の部分及びRX2の部分の上に配置される。強磁性コア110-1は、強い磁場にさらされ、一方で強磁性コア110-2は、弱い磁場にさらされるか、又は全く磁場にさらされない。簡単にするため、トレース120-TX及び120-RXを互いに隣に示す。しかしながら、いくつかの実施形態において、トレース120-TX及び120-RXは、互いに重なり合う(例えば、120-TX及び120-RXトレースは互いの上となる)。
【0037】
いくつかの実施形態において、送信コイルTX1、TX2は、2つの受信コイルRX1、RX2と同様に、直列に接続することができる。受信コイルRX1、RX2は、互いに逆相で接続されるため、同じ電流を受ける送信コイルTX1、TX2は、2つの受信コイルRX1、RX2それぞれにおいて、等しいが反対の電圧を誘導する。例えば、受信コイルRX1の巻線は、受信コイルRX2の巻線と反対の方法でレイアウトされる。以下により詳細に説明するように、結果として、受信コイルRX1、RX2の直列組み合わせにかかる電圧は、そのリングダウン(デッドタイム)を抑制する。
【0038】
図6Bは、
図6Aに図示された配置で得られた、受信機(RX)信号の複数のグラフを示す。上のグラフは、RX1の部分によって受信される反射超音波信号を示し、中央のグラフは、RX2の部分によって受信される反射超音波信号を示し、下のグラフは、RX1の部分及びRX2の部分によって受信される信号の合計を示す。理論に縛られるものではないが、デッドタイムt
Dの続続期間の間、受信機のRX1の部分及びRX2の部分はともに、比較的強い送信信号を検知すると考えられる。しかしながら、RX1の部分及びRX2の部分は、反対の鏡像巻線であるため、受信信号の位相は、ずれる。したがって、下のグラフに示されるように、t
D内の受信信号は、大部分が互いに相殺される。いくつかの実施形態において、特にt
Dが比較的長く、試料からの戻り(エコー)超音波に食い込みはじめる場合、そのようなt
D内の信号の相殺により、リングダウンが低減されることによって、測定値の正確さが改善される。
【0039】
tD中の強い信号が消失すると、強磁性コア110-1の下のRX1の部分は、tEで超音波エコーを記録する。比較的弱い磁場の下にある強磁性コア110-2のRX2の部分は、超音波エコーを弱く記録するか、又は記録しない。結果として、RX1の部分及びRX2の部分の信号の合計は、RX1の部分によって受信される超音波エコーに対応する。
【0040】
図7は、本開示の技術の実施形態に係る、EMATに関する回路トポロジーの概略図である。Ctuneは、典型的には、Lコイルと共鳴するように設定される。送信時間の間、Rsは、送信側のブロッキングダイオードの動的抵抗及びその他の損傷を合わせた送信機(TX)の実効ソースインピーダンスを表わす。一度電圧がブロッキングダイオードの電圧レベルを下回り、受信機スイッチがオンになると、Rsは、受信機側の入力インピーダンスを表わす。回路は、リングダウンの低減を補助するために取り付けられた任意の並行抵抗機をもまた、含むことができる。
【0041】
分析が実行され、特定のリングダウン時間を達成するのに必要とされる構成要素の値をモデル化した。モデルは、Lコイルが固定され、Ctuneが動作周波数で共振するように設定されると仮定している。
図7に示される回路では、これは、3.06MHzとすることができる。特定のEMATコイルのLコイル及びRコイルは、鉄試料上のベクトルインピーダンスアナライザーを用いて動作周波数で測定された。
【0042】
分析を簡単にするため、実際の減衰正弦波とは対照的に、減衰エンベロープを仮定したリングダウンを推定する場合がある。ドライブがオフになるとき、Ctuneが最大電圧になるという開始条件を仮定する場合もある。図示された回路の品質係数は、並列及び直列回路Qそれぞれに、Qp=Rs/2πfLcoil及びQs=2πfLcoil/Rcoilと定めることができる。Qeは、Qp及びQsの並列の組み合わせである(すなわち、Qs*Qp/(Qs+Qp))。
【0043】
減衰エンベロープは、以下の式1で供される。
【0044】
【0045】
例えば、共振周波数が、3MHzで、所望のV(1.5μs)が50μVで、パルサー電圧Viが500ボルトである場合、Qeの大きさを約0.9とする必要がある。Qsは、EMATコイルによって定められ、このシナリオにおいては、約2.7である。したがって、1.5μsのリングダウンのために必要とされるQpは、1.35である。よって、Rsの最大値は76オームである。
【0046】
このサンプルシミュレーションは、
図7に図示された回路トポロジーで、より早いリングダウン時間の決定に役立つ。例えば、並列同調コンデンサーを使用すると、送信機の出力インピーダンスがより低くなるため、コイルにおける電流利得は得られない。しかしながら、同調コンデンサーは、一部の送信機にとって有用である可能性のある誘導性リアクタンスを消失させる。並行コンデンサーは、一部のフリー受信機にQsに応じた電圧利得をももたらす。なお、Rsが大きい場合、回路にかかり生成され受信機が受ける電圧は、コイルにおいて生成される受信信号よりQs倍大きい。
【0047】
図8は、本開示の技術の実施形態に係る、EMATシステムのための補助電子機器の概略図である。図示された概略図はHブリッジドライブとも呼ばれる。二点鎖線は、電界効果トランジスタ(FET)2及び3がONの場合の電流経路を表わす。実線は、FET2及びFET4がONの場合、又はFET1及びFET3がONの場合の、電流経路を表わす。破線は、FET1及びFET4が閉じているときの電流経路を表わす。いくつかの実施形態において、例えば、バイポーラトランジスタなどの、他の種類の高速スイッチを用いることができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、FET1-4ドライブの開閉により、コイル120を通り所望の方向に電流Iが駆動される。例えば、Hブリッジドライブの下部のFET(FET2及び4)は、送信(TX)サイクルの終わりにEMATセンサーからエネルギーを引き出すのを助けるために、受信ウインドウの間オンのままとすることができる。いくつかの実施形態において、EMATの受信機は、ダイオードブロッキングアレイ及びFETベースのブロッキング/プロテクションの両方を利用することによって保護することができる。いくつかの実施形態において、デッドタイムtD又はEMATコイル120における電流をモニターしてもよい。このモニタリングに基づいて、Hブリッジドライブを動的に調整することにより、バーストの終わり(例えば、デッドタイムtDの終了時)に、EMATセンサーにおける残留電流又はエネルギーを最小化することができる。
【0049】
いくつかの実施形態において、EMATは、TXに対し、1000Vの駆動信号を用いることができ、駆動をオフにしてマイクロ秒以内に、RXによって、10-100μVの信号が検出され、測定される必要がある。
【0050】
図9及び10は、本開示の技術の実施形態に係るEMATシステムのためのパルス図を示す。
図9は、2つのグラフを含む。上のグラフは、コイル120での、従来の電圧パルス列220-1を示す。従来の電圧パルス列は、パルス列内に同形のパルス幅Wを有する方形波である。下のグラフは、本技術のいくつかの実施形態における、コイル120に印加される電圧パルス列220-2を示す。例えば、電圧パルス列220-2は、後続の電圧パルスよりも短い(より短い持続期間を有する)開始パルスW
Bで始まる場合がある。いくつかの実施形態において、電圧パルス列220-2は、同様に、先行する電圧パルスよりも短い終了パルスW
Eで終わる。いくつかの実施形態において、開始パルスW
B及び/又は終了パルスW
Eは、列の中央のパルス幅の約半分の幅を有する。いくつかの実施形態において、開始パルスW
B及び終了パルスW
Eは、同じ幅を有する。開始パルスW
B及び終了パルスW
Eの幅は、ハードウェア又はソフトウェアを介して調整可能とすることができる。いくつかの実施形態において、開始パルスW
B及び終了パルスW
Eの幅は、測定の間、動的に調整可能とすることができる。以下、
図10に関し、異なる幅を有する開始及び/又は終了パルスのいくつかの利点を説明する。
【0051】
図10は、本開示の技術の実施形態に係る、電圧及び電流パルス列を示す。電圧パルス列Vは、
図9に図示された列220-2にほぼ対応する。理論に縛られるものではないが、一般的に、電流パルス列Iは、伝達関数として、コイル120のインダクタンス及び抵抗に依存し、入力変数として電圧パルスVに依存する。いくつかの実施形態において、終了パルスW
Eの幅を含む電圧パルスの幅は、コイル120における電流が、パルス列の終了時にゼロ又はゼロに近づくよう選択することができる。いくつかの実施形態において、EMATコイルにおける電流がTX電圧パルスシークエンス(列)の終了時にゼロに近い場合、リングダウン又はデッドタイムt
Dが短縮される。
【0052】
図11及び12は、本開示の技術の実施形態に係る、鉄及びアルミニウムプレートに関するEMATシステムについてのシミュレーション結果を、それぞれ示す。両方のグラフで、横軸はコア中心からの距離をmmで表わし、縦軸は磁場強度をテスラで表わす。シミュレーション結果では、横軸上のゼロで、強磁性コアの中心から始まることを示す。シミュレートされたフィールドの対称性のため、フィールドの半分のみが、表示を要する。
【0053】
図11に示されるシミュレーション結果は、4mm及び8mmの鉄プレートに対応する。
図12に示されるシミュレーション結果は、アルミニウムプレートに対応する。各図において、磁場Bzは、試料の表面に対し垂直であり、磁場Byは、試料の表面に対し平行である。
【0054】
図示されたシミュレーションは、試料の表面から1mmのリフトオフに対応し、結果は、テストプレートに0.1mmでシミュレートされた(鉄プレートに関する)。鉄上の静電界における著しい増加に加えて、コアの端部付近のBz対Byの比は約6:1である。より低速で進むBzによって生成される所望のせん断波と対照的に、構成要素Byは縦波を生成するため、原則として、より比が大きくなるにつれて、よりモード純度が高くなる。一般的に、モード純度が高いほど、より正確で解釈しやすい結果が生成される。Bz:Byに対して、2:1の比が、一般的にEMTについて望まれる比であり、強磁性コア110の中心からの距離が約4.5mmまでの図示されたシミュレーションでは、これを上回っている。さらに、シミュレートされたBzは、強磁性コア110の中心からの距離が約4mmの間、ほとんど一定であり、強磁性コアにわたって比較的均一な磁場強度Bzを、示す。
【0055】
図12は、空気と同じ透磁率を有するアルミニウムについてシミュレートされた結果に対応する。シミュレートされたBzの約0.8Tは、
図11において約2.3Tと示される、鉄上でシミュレートされたBzより、かなり小さい。言い換えると、単に空気で試料から磁石を隔てるのに代えて、10×10×40mmの強磁性鉄コアを用いることにより、Bzは約3倍に増加する。上述のように、磁場が3倍増加することにより、同じ伝達インピーダンス(又は機器の感度)を維持しながら、3
2、すなわち9倍のセンサー領域の低減が許容される結果となる。
【0056】
図13は、本開示の技術の実施形態に係る、信号強度対リフトオフのグラフである。このシミュレーションでは、同じコイル120を有する2つのEMATセンサーが、1インチの厚みの鉄プレートの対向する面に配置される。一方のEMATセンサーは、送信(TX)のために用いられ、他方は、受信(RX)機能のために用いられる。送信機のリフトオフを調整するために0.5mmピッチのシムが用いられる。実験は、受信機の下にシムを用いて、送信機をゼロリフトオフのままとして繰り返された。いくつかの実施形態において、受信コイルは送信コイルと比較してリフトオフに対する感度が低い。1mmのコイルリフトオフの受信機では、受信機は、1mmのコイルリフトオフを有する送信機よりもほぼ40%強度が強い。したがって、同じEMATに対して別々の送信及び受信コイルを用いる場合、位置感度がより低い受信コイルを試料表面からより遠くにし、送信コイルを表面のより近くに配置することができる。少なくともいくつかの実施形態において、そのような受信機コイル及び送信機コイルの配置は、相互インダクタンスを低減させる可能性があり、これは、一般的に受信機に結合される送信エネルギーを低下させる。
【0057】
図14は、本開示の技術の実施形態に係るEMATシステムについての出力電圧対時間のシミュレーション結果を示す。シミュレートされたEMATシステムは、Hブリッジドライブ、変圧器結合、ブロッキングダイオードアレイ、EMATコイル、共振コンデンサー及び高電圧信号から受信機を分離するためのMOSFETベースのスイッチを含んだ。システムは、LTSpiceでモデル化された。受信信号がいつ受信機スイッチを通るかをシミュレートするため、0.1Vp-pの電源がEMATセンサーコイルと直列に配置された。設計における様々な値が調整され、受信機のLTSpiceの出力は、
図8に示されるように、切り替わる。3つのトレースは、センサーリフトオフが変化する場合に発生し得る、インダクタンスにおける変動をシミュレートする。実線トレースは、EMATコイルのひとつから測定される公称インダクタンス3μHである。二点鎖線トレースは、2μHのインダクタンスに関し、破線トレースは、4μHのインダクタンスに関する。シミュレーション結果は、3つのインダクタンス(2μH、3μH、及び4μH)間で、リングダウン時間に著しいばらつきがあることを示す。シミュレーションは、3MHz、すなわち0.67μs周期の、2サイクルの送信パルスを用いる。受信信号は、最適なインダクタンスのために約1.7μsで通過を開始する。
【0058】
図15は、本開示の技術の実施形態に係るEMATシステムについての、電流対時間のシミュレーション結果を示す。3つの異なるインダクタンスに関する、EMATコイルを通る送信電流を
図15に示す。最小リングダウン(デッドタイムt
D)では、EMATコイルにおける電流は、送信パルスシークエンスの終わりに、最小に近い(
図15の丸で囲った領域)。受信信号の正及び負のピークは、EMATコイルに残る負又は正の電流に対応する。いくつかの実施形態において、送信パルス幅は、送信パルスシークエンスの終わりにEMATコイルにおける電流を最小化するように、最適化することができる(
図9及び10に示されるように)。システム実行の観点から、これは、インダクタンスが、バイプの壁からのセンサーのリフトオフとともに変化するという事実により複雑になる可能性がある。システムは、機械的にリフトオフ変動を最小化するべきであるが、システムにはいくらかの変動があり得る。したがって、リングダウンの最適化のため、動作中に動的に、送信パルス調整を行うことができる。3μHに対するシミュレーション結果は、受信信号の終わりに、比較的低い電流を示しており、これは望ましい事例である。したがって、このシミュレーションに基づいて、EMAT設計者は、3μHのインダクタンスを有するコイル120を選択することができる。
【0059】
上述の技術の多くの実施形態は、プログラム可能なコンピュータ又はコントローラによって実行されるルーチンを含む、コンピュータ又はコントローラで、実行可能な命令の形を取ることができる。関連技術の当業者は、この技術が上記に示され説明されたもの以外のコンピュータ/コントローラシステム上で実施できることを理解するであろう。この技術は、上記のコンピュータで実行可能な命令の1つ又は複数を実行するように特別にプログラム、構成、又は構築された、特別の目的を有するコンピュータ、コントローラ、又はデータプロセッサーで実現される。したがって、本明細書で一般的に使用される「コンピュータ」及び「コントローラ」という用語は、任意のデータプロセッサーを指し、インターネット機器及びハンドヘルドデバイスを含むことができる(パームトップコンピュータ、ウェアラブルコンピュータ、携帯電話(cellular)又は携帯電話(mobile phones)、マルチプロセッサーシステム、プロセッサベース又はプログラム可能な家電、ネットワークコンピュータ、ミニコンピュータなどを含む)。
【0060】
上記から、本技術の特定の実施形態が例示の目的で本明細書に記載されたが、本開示から逸脱することなく様々な修正がなされ得ることが理解されるであろう。さらに、特定の実施形態に関連する様々な利点及び特徴をそれらの実施形態の文脈で上述したが、他の実施形態もそのような利点及び/又は特徴を示し、また、必ずしもすべての実施形態が、そのような利点及び/又は特徴を示し、技術の範囲内にあるよう示す必要はない。したがって、本開示は、本明細書に明示的に示されていない又は説明されていない他の実施形態を包含することができる。