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  • 特許-電子線照射装置の組付方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】電子線照射装置の組付方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/00 20060101AFI20240109BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G21K5/00 W
G21K5/04 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020066060
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021162507
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山下 将卓
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-077106(JP,A)
【文献】特表平09-509501(JP,A)
【文献】米国特許第05235239(US,A)
【文献】特開2004-258011(JP,A)
【文献】特開2004-354146(JP,A)
【文献】特開2005-172449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/00 - 3/00
5/00 - 7/00
H01J 37/00 - 37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体の開口窓部から電子線を被照射物に照射して所定の加工を行う電子線照射装置において、前記電子線の透過を許容しつつ前記装置本体の内部空間を密閉とするための薄膜状の窓箔を前記開口窓部に対して組み付ける電子線照射装置の組付方法であって、
前記装置本体における前記開口窓部周りに環状をなす取付基部と取付枠少なくとも一方側にシール部材が設置され、前記シール部材を含む態様にて前記取付基部と前記取付枠とで前記窓箔の周縁部を挟持するように組み付けられるものであり、
前記取付基部と前記取付枠との間に介在させて配置し自身が変形する組付治具を用い、前記取付基部に対する前記取付枠の取付前においては前記窓箔と前記シール部材とが接触しないように前記組付治具にて前記取付基部に対して前記取付枠を支持し、次いで前記取付基部に対して前記取付枠を近接させるように自身を変形させて前記窓箔と前記シール部材との接触により前記シール部材にて前記取付基部に対して前記取付枠が支持される間に前記組付治具を前記取付基部と前記取付枠との間から取り外し、その後に前記取付基部と前記取付枠とが前記窓箔を挟持するように組み付けられる、電子線照射装置の組付方法。
【請求項2】
前記組付治具には、内部に流体を導入可能かつその導入した前記流体を外部に排出可能なチューブ治具が用いられる、請求項1に記載の電子線照射装置の組付方法。
【請求項3】
前記開口窓部は略長方形状をなし、前記取付基部は前記開口窓部を囲む略長方形環状をなすものであり、
前記組付治具は一対用いられ、略長方形環状をなす前記取付基部の長辺部にそれぞれ配置される、請求項1又は請求項2に記載の電子線照射装置の組付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置の組付方法、より詳しくは電子線の透過と密閉とを図る窓箔部分の組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線照射装置は、装置本体の開口窓部から電子線(電子ビーム)を被照射物に照射して所定の加工を行っている。このような電子線照射装置は、電子線の照射の際に少なくとも装置本体の内部空間を真空状態とするため、開口窓部には、電子線の透過を許容しつつ内部空間を密閉とするための窓箔が組み付けられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6343154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窓箔は、非常に薄い薄膜状の部材である。そのため、開口窓部に対して窓箔を組み付ける際、窓箔の位置ずれや皺の発生が生じ易く、窓箔が所望の位置や状態で組み付けられないと、窓箔部分での真空リークに繋がる。すると、装置本体の内部空間の真空度を高く維持できない虞が生じ、場合によっては電子線の発生に影響を及ぼす虞もあった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、電子線の透過と密閉とを図る窓箔部材の組付作業性を向上することのできる電子線照射装置の組付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電子線照射装置の組付方法は、装置本体の開口窓部から電子線を被照射物に対して所定の加工を行う電子線照射装置において、前記電子線の透過を許容しつつ前記装置本体の内部空間を密閉とするための薄膜状の窓箔を前記開口窓部に対して組み付ける電子線照射装置の組付方法であって、前記装置本体における前記開口窓部周りに環状をなす取付基部と取付枠と少なくとも一方側にシール部材が設置され、前記シール部材を含む態様にて前記取付基部と前記取付枠とで前記窓箔の周縁部を挟持するように組み付けられるものであり、前記取付基部と前記取付枠との間に介在させて配置し自身が変形する組付治具を用い、前記取付基部に対する前記取付枠の取付前においては前記窓箔と前記シール部材とが接触しないように前記組付治具にて前記取付基部に対して前記取付枠を支持し、次いで前記取付基部に対して前記取付枠を近接させるように自身を変形させて前記窓箔と前記シール部材との接触により前記シール部材にて前記取付基部に対して前記取付枠が支持される間に前記組付治具を前記取付基部と前記取付枠との間から取り外し、その後に前記取付基部と前記取付枠とが前記窓箔を挟持するように組み付けられる。
【0007】
上記態様によれば、装置本体の取付基部と取付枠との取り付けに際し、取付基部と取付枠との間に自身が変形可能な組付治具が介在される。組付治具にて、取付枠は窓箔とシール部材とが接触しないように取付基部に対して支持される。次いで、組付治具自身の変形がなされて取付枠を取付基部に対して近接させ、さらに窓箔とシール部材とを接触させつつシール部材にて取付枠を取付基部に対して支持させる。この間に組付治具が取付基部と取付枠との間から取り外されて、その後に取付基部と取付枠とで窓箔を挟持する本組み付けが行われる。これにより、取付基部に対して取付枠を取り付ける作業は、薄膜状の窓箔とシール部材とが接触する際に窓箔に位置ずれや皺が生じないように非常に気を遣うため、これを作業者が行うのではなく組付治具により行わせることで、容易かつ安定して行うことが可能となる。特に取付枠が長尺で重量物であり、複数の作業者で作業する場合に有用である。
【0008】
上記した電子線照射装置の組付方法において、前記組付治具には、内部に流体を導入可能かつその導入した前記流体を外部に排出可能なチューブ治具が用いられることが好ましい。
【0009】
上記態様によれば、組付治具として、内部に流体を導入かつ外部に排出可能なチューブ治具が用いられるため、取付基部に対する取付枠の組付治具を簡素な構成にて実現可能である。また、取付基部に対する取付枠の取り付けの際、組付治具自身を変形させる必要があるが、チューブ治具であれば容易に行うことが可能である。
【0010】
上記した電子線照射装置の組付方法において、前記開口窓部は略長方形状をなし、前記取付基部は前記開口窓部を囲む略長方形環状をなすものであり、前記組付治具は一対用いられ、略長方形環状をなす前記取付基部の長辺部にそれぞれ配置されることが好ましい。
【0011】
上記態様によれば、取付基部の長辺部にそれぞれ組付治具を配置して取付枠の取り付けが行われるため、少ない数による組付治具の適切箇所への配置により取付枠を安定して支持及び変位させることが可能である。組付治具の設置数が少なくできれば、その設置作業にかかる負担を極力軽減することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子線照射装置の組付方法によれば、電子線の透過と密閉とを図る窓箔部材の組付作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態における電子線照射装置の概略構成図。
図2】窓箔部分の構成を説明するための端面図。
図3】窓箔部分の構成を説明するための分解斜視図。
図4】窓箔部分の組付態様を説明するための分解斜視図。
図5】窓箔部分の組付態様を説明するための端面図。
図6】窓箔部分の組付態様を説明するための端面図。
図7】窓箔部分の組付態様を説明するための端面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、電子線照射装置の組付方法の一実施形態について説明する。
図1に示す本実施形態の電子線照射装置10は、走査型の電子線照射装置である。電子線照射装置10は、熱電子放出を行う例えばタングステン製のフィラメント11を備えている。フィラメント11は、フィラメント用電源12からの電源供給に基づく自身の加熱により電子を放出する。フィラメント11は、加速管13の上端側に設けられている。
【0015】
加速管13は、フィラメント11が配置される上端側が閉塞された筒状をなしている。加速管13は、自身の管軸方向に並設される複数の加速電極14を有している。加速電極14は、加速電極用電源15からの電源供給に基づき、フィラメント11から放出された電子を収束させつつ下方に向けて加速させるような電界を生じさせる。つまり、加速管13では、加速電極14にて生じる電界にて、管軸方向の下方に向く電子流、すなわち電子線eが生じるようになっている。加速管13は、下端部に走査管16が接続されている。加速管13と走査管16とは互いに内部空間17が連通し、その内部空間17において電子線eが加速管13から走査管16側に進む。
【0016】
走査管16は、上端側が幅狭で、下方に向かうほど拡開する形状をなしている。走査管16は、その幅狭の上端部に走査コイル18が設けられている。走査コイル18は、自身への通電に基づき、加速管13にて生成された電子線eの向きを偏向、すなわち電子線eの走査を行う。
【0017】
図1及び図2に示すように、走査管16の下端部には例えば略長方形状の開口窓部19が設けられており、開口窓部19には略長方形状の窓箔20が組み付けられている。窓箔20は、数マイクロメートル程度の非常に薄い薄膜状をなし(図2等では厚みを誇張して図示)、電子線eの透過かつ開口窓部19の密閉が可能な材料にて構成されているものである。つまり、加速管13と走査管16とに跨がる内部空間17は、密閉空間にて構成されている。内部空間17は、例えば走査管16に接続された真空ポンプ21の駆動にて、少なくとも電子線eを生じさせる期間は真空状態とされる。
【0018】
上記したフィラメント用電源12、加速電極用電源15、走査コイル18及び真空ポンプ21は、制御装置22にて制御される。制御装置22は、各電源12,15を通じて電子線eの出力調整を行ったり、走査コイル18を通じて電子線eの走査制御を行ったり、真空ポンプ21を通じて加速管13及び走査管16の内部空間17の真空調整を行ったりする。
【0019】
そして、開口窓部19に装着の窓箔20を介して出射される電子線eは、例えば搬送装置23により搬送方向xに搬送される被照射物24に対して照射され、被照射物24に所定処理を行う。なおこの場合、電子線照射装置10は、略長方形状の開口窓部19の長手方向が搬送装置23の搬送直交方向yに向く配置であり、搬送方向x及び搬送直交方向yを含めた電子線eの所定走査が行われて、開口窓部19に対応した略長方形状の照射エリアAの照射が行われる。電子線eの被照射物24への照射効果としては、例えば素材の性質改善や機能付加、殺菌・滅菌等が期待できる。
【0020】
次に、窓箔20の部分の組付態様について説明する。
[窓箔20の部分の詳細構成]
図2及び図3に示すように、電子線照射装置10の装置本体側である走査管16の下端部には、開口窓部19の周囲に略長方形環状の取付基部31が設けられている。取付基部31の取付面31aには、この取付基部31と同様の略長方形環状をなす取付枠32が取り付けられる。取付枠32は、取付基部31に対し、図示略の締結部材等を用いて取り付けられる。
【0021】
取付基部31の取付面31aには、取付枠32との対向部位において、開口窓部19の周囲を取り囲む態様をなす略長方形環状の収容溝31bが設けられている。収容溝31bには、例えば略長方形環状で断面円形状のシール部材33が収容されている。シール部材33は、取付枠32の取付前の状態においては、取付基部31の取付面31aから突出している(図5参照)。そして、窓箔20は、自身の周縁部20aが取付基部31と取付枠32とで挟持、詳しくは取付基部31もシール部材33を含む取付面31aとこれと対向する取付枠32の対向面32aとで周縁部20aの全周に亘って挟持されて組み付けられている。シール部材33は、取付枠32の取付基部31への取り付けにより圧縮変形し、開口窓部19を閉塞する窓箔20のその開口窓部19の周りをシールする。
【0022】
[窓箔20の部分の組付方法及び組付治具の詳細構成]
図3及び図4に示すように、取付基部31の取付面31aが上方を向きかつ水平となるように、例えば取付基部31を含む装置10の一部構成体の配置が行われる。取付基部31側においては、取付面31aの収容溝31bにシール部材33が収容される。一方、取付枠32側においては、取付基部31と対向する取付枠32の対向面32aに窓箔20の仮止めがなされる。窓箔20は、その周縁部20aが取付枠32に対して例えば粘着テープにて貼り付けられる。この場合、窓箔20は、取付枠32に対して所望位置にかつ皺等の不具合の生じていない所望状態で仮止めすることが好ましい。
【0023】
次いで、取付基部31に対する取付枠32の組付治具として、本実施形態では、同一構成の2つのチューブ治具34,35が用いられる。チューブ治具34,35は、シリコン等の可撓性を有するチューブ部材よりなり、外観が円柱状をなしている。チューブ治具34,35は、自身の内部にエアの導入及び排出が可能となっている。なお、エア(空気)以外の気体や、場合によっては水等の液体を含む他の流体をチューブ治具34,35内に導入してもよい。チューブ治具34,35は、内部にエアが充填されている状態では外観円柱状を維持し、内部のエアを外部に排出すると上下方向に小さく収縮変形が可能である。
【0024】
また、略長方形環状をなす取付基部31の取付面31aにおいて、一対の長辺部31xの外側の縁部、すなわち収容溝31bに設置されるシール部材33よりも外側にはチューブ治具34,35がそれぞれ配置される。この場合、チューブ治具34,35は、図示略の固定具等を用いて移動不能に仮固定することが好ましい。チューブ治具34,35は、取付面31aの各長辺部31xの略全体に亘って直線状をなしてそれぞれ設置される。換言すると、チューブ治具34,35は、自身の長手方向長さが長辺部31xの長さと同等に設定されている。一方、取付基部31の取付面31aの一対の短辺部31yには、チューブ治具34,35のような組付治具は配置されない。チューブ治具34,35は、取付面31aの短手方向の間隔が窓箔20の同方向長さよりも大、すなわち組み付けの際に窓箔20に接触しない配置としている。
【0025】
また、図4及び図5に示すように、チューブ治具34,35は、取付基部31に取付枠32を組み付ける際、エアを一定量導入して所定膨張状態としたそのチューブ治具34,35上に取付枠32を載置して使用するものである。この場合、取付基部31の取付面31a上からのチューブ治具34,35の高さH1は、収容溝31bに収容されたシール部材33の取付面31aからの突出高さH2よりも大きくなるように設定されている。換言すると、このような高さH1,H2の設定となるようにチューブ治具34,35の直径及びエアの導入量が設定されている。
【0026】
そして、図5に示すように、取付基部31の取付面31aの各長辺部31xの縁部に設置された所定膨張状態のチューブ治具34,35上には、取付基部31側と位置決めされた取付枠32が載置される。取付面31aが水平となるように配置された取付基部31に対し、取付枠32の対向面32aも水平となるように取付枠32がチューブ治具34,35に支持される。またこの状態では、取付枠32の対向面32aに仮止めされた窓箔20は、取付基部31側のシール部材33と接触しない状態である。
【0027】
次いで、チューブ治具34,35は、導入したエアを外部に排出することが行われる。その際、対をなすチューブ治具34,35を同様に収縮させ、取付基部31の取付面31aに対して対向面32aの水平を維持しながら取付枠32を近接させるためにチューブ治具34,35のエアの排出を同様に行うことが好ましい。そのため、図3に示すように、チューブ治具34,35は、互いに連結管36にて接続されこの連結管36に設けた共通の排出口37からエアの排出が行われる。
【0028】
図6に示すように、チューブ治具34,35内のエアが排出されると、シール部材33に窓箔20が当接し、シール部材33上に取付枠32が配置される。
ここで、電子線照射装置10は比較的大型の装置であり、取付枠32についても長手方向長さが数メートル程度のもので複数の作業者で持ち上げるような長尺の重量物である。従来の取付枠32の組み付けでは、チューブ治具34,35のような組付治具を用いず、複数の作業者が共同して取付枠32をシール部材33上に配置することを行っていた。そのため、シール部材33上に取付枠32を配置後(接触後)から所望位置まで動かしてしまったり、またシール部材33の全周に亘って取付枠32を均一的に接触させることができず、これらの要因等で取付枠32に仮止めしていた窓箔20が所望位置からずれたり皺が発生したりすることがあった。このことは窓箔20部分の真空リークに繋がるために極力無いようにすることが望ましく、作業者にとって非常に気を遣う煩雑な作業となっていた。
【0029】
これに対し、本実施形態のようなチューブ治具34,35を用いた取付枠32のシール部材33上への配置は、取付枠32の所望位置への配置が可能で配置後(接触後)に動かす必要もなく、またシール部材33の全周に亘って取付枠32を均一的に接触させることも可能である。そのため、窓箔20部分の真空リークの要因となり得る窓箔20の位置ずれや皺の発生が十分低減される。また、取付枠32をシール部材33上に載置する作業は、チューブ治具34,35内のエアを抜くだけであるため、作業者一人でも容易に行うことも可能となる。
【0030】
図7に示すように、上下方向に小さく圧縮変形したチューブ治具34,35の高さH3が、取付枠32が載置されたことで若干圧縮したシール部材33の取付面31aからの突出高さH4よりも小さくなると、チューブ治具34,35の取り外しが行われる。そしてその後、取付枠32は、図示略の締結部材等を用いて取付基部31に対する取り付けが行われ、シール部材33を含む取付基部31の取付面31aと取付枠32の対向面32aとで窓箔20が挟持される本組み付けが行われる。本組み付けがなされた後は、シール部材33が一層圧縮変形し(図2参照)、窓箔20の周縁部20aのシール性が高まる。なお、上記した窓箔20の組み付けは、装置10の新規組立時やメンテナンス時に行われる。
【0031】
本実施形態の効果について説明する。
(1)装置本体側である走査管16の下端部の取付基部31と取付枠32との取り付けに際し、取付基部31と取付枠32との間に自身が変形可能な組付治具としてチューブ治具34,35が介在される。チューブ治具34,35にて、取付枠32は窓箔20とシール部材33とが接触しないように取付基部31に対して支持される。次いで、チューブ治具34,35内のエアが抜かれて自身の収縮変形がなされて取付枠32を取付基部31に対して近接させ、さらに窓箔20とシール部材33とを接触させつつシール部材33にて取付枠32を取付基部31に対して支持させる。この間にチューブ治具34,35が取付基部31と取付枠32との間から取り外されて、その後に取付基部31と取付枠32とで窓箔20を挟持する本組み付けが行われる。これにより、取付基部31に対して取付枠32を取り付ける作業は、薄膜状の窓箔20とシール部材33とが接触する際に窓箔20に位置ずれや皺が生じないように非常に気を遣うため、これを作業者が行うのではなくチューブ治具34,35により行わせることで、容易かつ安定して行うことができる。特に、長尺で重量物、複数の作業者で取付枠32の取り付け作業を強いられていた本実施形態のような電子線照射装置10への適用は有用である。
【0032】
(2)組付治具として、内部にエアを導入かつ外部に排出可能なチューブ治具34,35が用いられるため、取付基部31に対する取付枠32の組付治具を本実施形態では簡素な構成にて実現している。また、取付基部31に対する取付枠32の取り付けの際、組付治具自身を変形させる必要があるが、チューブ治具34,35を用いる本実施形態では容易に行うことができる。
【0033】
(3)取付基部31の長辺部31xにそれぞれチューブ治具34,35を配置して取付枠32の取り付けが行われるため、少ない数によるチューブ治具34,35の適切箇所への配置により取付枠32を安定して支持及び変位させることができる。チューブ治具34,35の設置数が少なくできれば、その設置作業にかかる負担を極力軽減することができる。
【0034】
(4)一対のチューブ治具34,35は連動して同様に変形するようにしたため、取付枠32を安定して支持及び変位させることができる。
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0035】
・チューブ治具34,35の膨張・収縮変形をエアの導入・排出にて行ったが、エア以外の気体、場合によっては水等の液体を含む他の流体を用いてもよい。
・チューブ治具34,35の形状や数、配置を適宜変更してもよい。チューブ治具34,35を外観円柱状以外、多角柱形状、半球状、球状、円環状、多角環状等で構成してもよい。また、チューブ治具34,35を2つ用いて取付基部31の長辺部31xに配置したが、短辺部31y側に配置してもよい。また、長辺部31x及び短辺部31yの両方に配置してもよい。この場合、各辺にそれぞれチューブ治具を設置してもよく、また環状のチューブ治具を設置してもよい。また、長辺部31xと短辺部31yとの間の角部に設置してもよい。
【0036】
・取付基部31にシール部材33とチューブ治具34,35とを設置、取付枠32に窓箔20を仮止めしたが、これらの配置態様を適宜変更してもよい。例えば、シール部材33を取付枠32側に、取付基部31側に窓箔20を仮止めしてもよい。また、取付枠32側にチューブ治具34,35を設置してもよい。
【0037】
・チューブ治具34,35以外の組付治具を用いてもよい。例えば、チューブ治具のような中空部材以外、チューブ治具34,35と同様に変形可能な材質の部材を用いてもよい。この場合、中実部材であってもよい。シール部材33よりも軟質の部材を用いてもよい。また、電気信号に基づいて変形可能な部材を用いてもよい。
【0038】
・電子線照射装置10の構成として電子線eの進行方向を下方向の設定としていたが、上方向や水平方向、斜め方向であってもよい。
・単一のフィラメント11から放出された電子から電子線eを形成し走査コイル18にて走査して照射エリアAの照射を行う走査型の電子線照射装置10に適用したが、照射エリアに対応して複数のフィラメントを用い走査コイルを省略した態様のエリア型の電子線照射装置に適用してもよい。
【0039】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)組付治具は複数用いられ、複数の組付治具は連動して同様に変形するものである、電子線照射装置の組付方法。
【0040】
(ロ)取付枠に窓箔が仮止めされ、取付基部にシール部材と組付治具とが設置される配置態様である、電子線照射装置の組付方法。
【符号の説明】
【0041】
10…電子線照射装置
17…内部空間
19…開口窓部
20…窓箔
24…被照射物
31…取付基部
31x…長辺部
32…取付枠
33…シール部材
34,35…チューブ治具(組付治具)
e…電子線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7