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特許7414300ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/58 20060101AFI20240109BHJP
   C04B 35/563 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C04B35/58 078
C04B35/563
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021511212
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006751
(87)【国際公開番号】W WO2020202878
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2019070753
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019154503
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣田 健
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将樹
(72)【発明者】
【氏名】宮本 博之
(72)【発明者】
【氏名】トゥン ヅウィ レ
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-308874(JP,A)
【文献】特開昭62-153166(JP,A)
【文献】特開平09-100165(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103992113(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102515772(CN,A)
【文献】特開2015-151323(JP,A)
【文献】WEI-MING GUO et al.,Three-step reactive hot pressing of B4C-ZrB2 ceramics,Journal of the European Ceramic Society,2016年,vol.36,p.951-957
【文献】RUJIE HE et al.,Effects of ZrB2 contents on the mechanical properties and thermal shock resistance of B4C-ZrB2 ceram,Materials and Design,2015年,vol.71,p.56-61
【文献】S.G.Huang et al.,Powder synthesis and densification of ultrafine B4C-ZrB2 composite by pulsed electrical current sint,Journal of the European Ceramic Society,2014年,vol.34,p.1923-1933
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビッカース硬度Hが23GPa以上32.7GPa以下で、破壊靭性値KICが9.0MPa・m1/2以上10.3MPa・m 1/2 以下であり、ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素の理論上の体積比率が10/90~60/40vol%であることを特徴とするホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジット。
【請求項2】
前記ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素の理論上の体積比率が40/60~60/40vol%であり、1200~1600℃の温度範囲における曲げ強度σが500MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジット。
【請求項3】
ビッカース硬度Hが29GPa以上32.7GPa以下で、破壊靭性値KICが9.3MPa・m1/2以上10.3MPa・m 1/2 以下であり、ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素の理論上の体積比率が20/80~50/50vol%であることを特徴とするホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジット。
【請求項4】
ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジットを製造するための方法であって、
非晶質ホウ素粉体と非晶質炭素粉体をB:C=(3.6~6.5):1のモル比となるように混合を行ない、非晶質ホウ素と非晶質炭素とから成る出発原料を調製する工程と、
ホウ化ジルコニウム粉体を、前記出発原料から合成される炭化ホウ素との理論上の体積比率がZrB/BC=10/90~60/40vol%となるように秤量し、前記出発原料と混合して、混合粉を得る工程と、
前記混合粉を用いて金型成形を行い、所望の形状を有した成形体を得、得られた成形体を焼結してホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジットを合成同時焼結する工程
を含むことを特徴とするホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジットの製造方法。
【請求項5】
前記焼結が、10Pa以下の真空中、1800~2000℃の焼結温度、10~100MPaの加圧力および5~30分の保持時間の条件でのパルス通電加圧焼結であることを特徴とする請求項4に記載のホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジットの製造方法。
【請求項6】
前記ZrBとBCの理論上の体積比率が20/80~50/50vol%の範囲であることを特徴とする請求項4又は5に記載のホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素(ZrB/BC)コンポジット、特にビッカース硬度Hが23GPa以上で、破壊靭性値KICが9.0MPa・m1/2以上の高密度ZrB/BCコンポジット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングセラミックスの分野で最近注目されている超高温耐熱セラミックス(UHTC)であるホウ化ジルコニウム(ZrB)は、高融点T=3200℃の共有結合性素材であり、現在、宇宙航空機用のUHTCとして期待されているが、難焼結材であるために緻密な高密度の焼結体を作製することが困難であった。
例えば、下記の特許文献1には、所定量のZr粉末、所定量のタングステン(W)粉末および所定量のB粉末を湿式混合した後、加圧成形して成形体とし、この成形体を放電プラズマ焼結〔別名:パルス通電加圧焼結法〕することにより、タングステン添加ZrBを製造する方法が開示されている。しかし、このような製造方法を用いて得られる焼結体のビッカース硬度(H)は最大で20.7GPaであり、機械的特性をさらに向上させ、特に高温下において強度性をより高めることが望まれている。
【0003】
大気中で使用できるUHTCについては、主に金属ホウ化物のZrBを基材とするZrB/SiC、ZrB/BC、ZrB/LaBのコンポジットの作製が検討されてきたが、高融点化合物は共有結合性のため難焼結性であり、高密度焼結体を作製することは難しく、難焼結物質の高密度焼結体を作製するのに適したパルス通電加圧焼結法(Pulsed Electric-current Pressure Sintering:PECPS)を用いても、高密度焼結体の作製は困難である。
【0004】
又、炭化ホウ素(BC)は、軽量(理論密度D=2.515Mg・m-3)で、高融点(T=2450℃)の物質として知られており、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素(c-BN)に次ぐ硬度(ビッカース硬度H:29~33GPa)を有するので、ZrBとBCの両者から構成されるコンポジットも、UHTCとしての使用の可能性を有した材料の一つである。
しかしながら、BCも共有結合性の難焼結素材であるために、ZrBに添加したZrB/BCコンポジットの作製には2050~2150℃/30~50MPaという高温高圧が必要で、高コストでの製造となり、また、その作製の報告例は少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-297188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ビッカース硬度Hが23GPa以上で、破壊靭性値KICが9.0MPa・m1/2以上の高密度ZrB/BCコンポジットを提供することを課題とする。又、本発明の課題は、上記の優れた物性を有するZrB/BCコンポジットの製造方法を提供することでもある。
本発明者等は、種々検討を行った結果、非晶質微粒子の炭素Cと、非晶質粉体のホウ素Bを所定のモル比にて均質混合し、この混合物とZrB粉体とを所定の体積比率で混合し、成形を行って圧粉体を作製し、この圧粉体をパルス通電加圧焼結(PECPS)すると、PECPS熱処理時に自己燃焼合成反応(Self-propagating High-temperature Synthesis:SHS)が誘起され、外部加熱温度以上に試料内部の温度が上昇し、これによって、緻密な焼結体であるZrB/BCのコンポジットが作製できることを見出して、本発明を完成した。
又、本発明者等は、上記の製造方法を用いて得られた、ZrB/BCの体積比率10/90~60/40の組成であるZrB/BCコンポジットが、ビッカース硬度H23GPa以上、破壊靭性値9.0MPa・m1/2以上の優れた機械的特性を有する高密度セラミックスであることも見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決可能な本発明のZrB/BCコンポジットは、ビッカース硬度Hが23GPa以上で、破壊靭性値KICが9.0MPa・m1/2以上であり、ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素の理論上の体積比率が10/90~60/40vol%であることを特徴とする。
【0008】
又、本発明は、上記の物性を有するZrB/BCコンポジットにおいて、ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素の理論上の体積比率が40/60~60/40vol%であり、1000~1600℃における曲げ強度σが500MPa以上であることを特徴とする。
【0009】
又、本発明のZrB/BCコンポジットは、ビッカース硬度Hが29GPa以上で、破壊靭性値KICが9.3MPa・m1/2以上であり、ホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素の理論上の体積比率が20/80~50/50vol%であることを特徴とする。
【0010】
又、上記の物性を有するZrB/BCコンポジットを製造するための本発明の製造方法は、
非晶質ホウ素粉体と非晶質炭素粉体をB:C=(3.6~6.5):1のモル比(13.4~21.6原子%C)となるように混合を行ない、非晶質ホウ素と非晶質炭素とから成る出発原料を調製する工程と、
ホウ化ジルコニウム粉体を、前記出発原料から合成される炭化ホウ素との理論上の体積比率がZrB/BC=10/90~60/40vol%となるように秤量し、前記出発原料と混合して、混合粉を得る工程と、
前記混合粉を用いて金型成形を行い、所望の形状を有した成形体を得、得られた成形体を焼結してホウ化ジルコニウム/炭化ホウ素コンポジットを合成同時焼結する工程
を含むことを特徴とする。
【0011】
又、本発明は、上記の特徴を有したZrB/BCコンポジットの製造方法において、前記焼結が、10Pa以下の真空中、1800~2000℃の焼結温度、10~100MPaの加圧力および5~30分の保持時間の条件でのパルス通電加圧焼結であることを特徴とするものである。
【0012】
又、本発明は、上記の特徴を有したZrB/BCコンポジットの製造方法において、前記ZrBとBCの理論上の体積比率が20/80~50/50vol%の範囲であることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法を用いることによって、従来報告例がないZrB/BC=10/90~60/40vol%の組成での高硬度・高破壊靱性コンポジットが短時間省エネルギーで作製できる。又、その機械的特性(ビッカース硬度H)もZrB/BC=10/90~60/40vol%の組成に応じて23.5~32.7GPaの高い硬度を示す。又、本発明により、室温から1600℃まで約650MPa以上の高温曲げ強度を有するコンポジットが供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ZrB/BCコンポジットを製造するための本発明の製造方法の一例における手順を示すフローチャートであり、実施例で用いた製造条件も併記されている。
図2】出発原料として用いたZrB粉末のSEM画像であり、上側の写真の倍率が1000倍で、下側の写真の倍率が2000倍で撮影した画像である。
図3】一軸プレス、冷間静水圧プレス(Cold isostatic pressing:CIP)後の圧粉体、及びPECPS後の焼結体の相対密度を示すグラフである。
図4】種々のPECPS温度で焼結されたZrB/BC=50/50vol%組成に相当するサンプルのXRDパターンであり、下から順に焼結温度1600℃、1700℃、1800℃、1900℃である。
図5】種々の温度(1600℃、1700℃、1800℃、1900℃)で焼結されたZrB/BC=50/50vol%コンポジットの破断表面についてのSEM画像である。
図6】焼結サンプルの、かさ密度及び相対密度を示すグラフである。
図7】異なるZrB組成を有した1900℃で焼結したサンプルのXRDパターンである。
図8】異なるZrB組成を有した焼結サンプルの破断表面についてのSEM画像である。
図9】1900℃で焼結された焼結体の、ZrB含有量と、相対密度、ZrB結晶粒径の関係を示すグラフである。
図10】1900℃で焼結された焼結体の、ZrB含有量と、ビッカース硬度H、破壊靭性値KICの関係を示すグラフである。
図11】1900℃で焼結された焼結体(ZrB/BC=30/70、40/60、50/50、60/40vol%組成)の高温曲げ強度測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明のZrB/BCコンポジットの製造方法における各工程について説明する。図1は、本発明の製造方法の一例における手順を示すフローチャートである。
最初の工程では、非晶質ホウ素粉体と非晶質炭素粉体をモル比が(3.6~6.5):1(13.4~21.6原子%C)、好ましくは(3.9~5.2):1(16.4~20.4原子%C)、より好ましくは4.4:1となるように秤量し、混合(好ましくは湿式混合)を行なって、非晶質ホウ素と非晶質炭素とが均質に混合された出発原料を調製するが、この際、非晶質ホウ素及び非晶質炭素としては市販品をそのまま使用することができ、ホウ素粉体としては平均粒径1.5μm程度のものを使用することが好ましく、炭素粉体としては平均粒径30nm程度のものを使用することが好ましい。
上記の非晶質ホウ素と非晶質炭素との湿式混合においては、アルミナ製の乳鉢と乳棒を用いてアルコール(例えばエタノール)中で一定時間混合を行なうのが好ましいが、溶媒はこれに限定されるものではない。
【0016】
次の工程では、前記の非晶質ホウ素と非晶質炭素の混合物から合成される炭化ホウ素(BC、理論密度2.515Mg・m-3)の理論上の体積に基づいて、ZrB/BC=10/90~60/40vol%となる量のホウ化ジルコニウム(ZrB)粉体(平均粒径:3μm程度)を準備し、このZrBを前記出発原料に添加して混合し、混合粉を得る。この際、水やアルコール等の溶媒中で、例えば超音波ホモジナイザーを用いて分散処理し、ZrBを均一に分散させ、その後、乾燥を行うことが好ましい。
【0017】
最終の工程においては、前記工程で得られた混合粉を用いて成形を行い、所望の形状の成形体を得、得られた成形体を焼結してZrB/BCコンポジットを合成同時焼結する。
この工程における成形体の形成手段としては一軸金型成形(一軸プレス)が一般的であるが、これに限定されるものではなく、上記成形体は、冷間静水圧プレス(CIP)処理等により、その密度をより高めた後、パルス通電加圧焼結を行うことが好ましい。又、本発明では、パルス通電加圧焼結する前の成形体を真空中で加熱して、成形体を構成する微粒子表面の水分や吸着ガスを除去することが好ましい。
本明細書中で「合成同時焼結」とは、出発原料の均質な混合物(特定量のZrBを含むBとCの混合物)から緻密な焼結体(ZrB/BCコンポジット)を作製することを指し示すものとする。
【0018】
本発明の製造方法にてパルス通電加圧焼結を行う際、市販のパルス通電加圧焼結装置を用いて実施することができる。
パルス通電加圧焼結の場合、一軸加圧下(10~100MPa)において、低電圧(数V)でパルス状直流大電流(数10~数100A~1500A:この電流値は試料の大きさによって変化する)をカーボンプランジャー・モールドに流し、成形体中に火花放電現象を誘起し、瞬時に粒子間に高エネルギーを発生させて試料を焼結することができ、急激なジュール加熱により溶解と高速拡散、及び自己燃焼合成(SHS)が生じる。そして、高圧下、高速昇温(50~100℃/分)、短時間焼結(5~30分)により、粒成長を抑えた緻密な焼結体(高密度、微細結晶粒径)を得ることができる。
【0019】
本発明では、非晶質のホウ素Bと炭素Cの微粒子粉体を、ホウ化ジルコニウムZrB粉体と混合して得た混合粉体をパルス通電加圧焼結することにより、加熱昇温時にBとCからBCが生成する際の生成エネルギーを活用し、1900℃/50MPa/10分という比較的マイルドな熱処理条件で、自己燃焼合成によりBCを生成させることができる。尚、本発明では、成形時にZrB粒子間の隙間に(4・B+C)の微粒子が配置され、PECPS時にBCの合成同時焼結と共にZrB粒子を繋ぎ止めるバインダーとしての役割も担い、これにより、緻密な焼結体が得られる。
【0020】
本発明の製造方法におけるパルス通電加圧焼結は、10Pa以下の真空中で、1800~2000℃の焼結温度、10~100MPaの加圧力、5~30分の保持時間の条件にて行なわれることが好ましく、より好ましいパルス通電加圧焼結の条件は、10Pa以下の真空下、焼結温度1850~1950℃、保持時間7~15分、加圧力30~70MPaであり、1900℃/50MPa/10分の条件が特に好ましい。この際、加圧力が10MPa未満では焼結密度が低くなり、逆に100MPaを超えるとパルス通電加圧焼結に使用する金型の強度に上限があり使用出来なくなる。又、焼結温度が1800℃未満になると低密度となり、逆に2000℃を超えると粒成長しやすくなるので好ましくない。尚、保持時間については5~30分で充分緻密化する。
【0021】
本発明における、ZrBの、非晶質Bと非晶質Cの混合物から合成されるBCに対する体積比率はZrB/BC=10/90~60/40vol%の範囲であり、特に20/80~50/50vol%の範囲の場合には、ビッカース硬度29GPa以上、破壊靭性値9.3MPa・m1/2以上のZrB/BCコンポジットが得られる。
これに対し、市販の難焼結性のBC粉体とZrB粉体の混合物を用いて上記と同様の低温短時間焼結を行っても、ビッカース硬度が20GPa以上のセラミックスを製造することはできない。
又、上記の製法を用いて得られる本発明のZrB/BCコンポジットは、優れた高温曲げ強度を有しており、特にZrB/BC=40/60~60/40vol%のコンポジットの場合、1000~1600℃の温度範囲において500MPa以上の高温曲げ強度を示す。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【実施例
【0022】
[高密度ZrB/BCコンポジットの作製例]
市販の非晶質ホウ素(平均粒径P:1.5μm)と非晶質炭素(平均粒径P:30nm)を、モル比がB:C=4:1となるように秤量し、アルミナ製の乳鉢と乳棒を用いてエタノール中30分間湿式混合を行ない、出発原料を調製した。
一方、市販のZrB粉体(平均粒径P:3μm)を、前記の非晶質ホウ素と非晶質炭素の混合物から合成される炭化ホウ素BCとの理論上の体積比率(ZrB/BC)が0/100,10/90,20/80,30/70,40/60,50/50,60/40,70/30となるように秤量し、これを前記出発原料に添加して、エタノール中で超音波ホモジナイザー(周波数20kHz、出力300W)を用いて30分間分散処理を行い、乾燥を行うことにより混合粉末を得た。
【0023】
そして、このようにして得られた混合粉末を整粒した後、一軸金型成形し(20mmφ, 75MPa、アクリル/PVA3%添加)、ついで冷間静水圧(245MPa、3分)プレス処理を行った。その後、得られた成形体を熱処理(950℃/2h/真空)し、さらに、市販のパルス通電加圧焼結装置(SPSシンテックス(株)/SPS-510Aを使用)を用いて、10Pa以下の真空下、焼結温度1900℃、保持時間10分、加圧力50MPa、昇温速度100℃/分の条件でパルス通電加圧焼結を行い、焼結体(ZrB/BCコンポジット)を得た。
尚、製造された焼結体の評価については、XRDパターンにて相特性評価を行い、SEM画像にて形態観察を行い、ビッカース硬度(JIS R 1610:2003 ファインセラミックスの硬さ試験方法、荷重:2kgfにて測定)、破壊靱性値(JIS R 1607:2015 ファインセラミックスの室温破壊じん(靱)性試験方法のIF法を採用)にて機械的特性を評価した。又、高温下での曲げ強度σについては、曲げ試験機(島津製作所製、Autograph-AG-X Plus)を使用し、アルゴンガス中にて室温から1800℃までの温度範囲で3点曲げ強度試験により評価した。
【0024】
図2は、出発原料として用いたZrB粉末(日本新金属株式会社製)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(FE-SEM、日本電子製、JSM 7000にて測定)であり、上側の写真が倍率1000倍で、下側の写真が倍率2000倍で撮影した画像である。
図2の写真から、実施例で用いたZrB粉末の粒子径は約2~4μm(平均:約3μm)であり、バラツキが小さいことが確認された。
【0025】
以下の表1には、ZrB組成を変化させた際の、一軸プレスサンプル、CIP処理サンプル、焼結サンプルについての、かさ密度(Dobs)、相対密度(D)、ビッカース硬度(H)、破壊靭性値(KIC)が要約されている。尚、相対密度(D)は、理論密度を100%とし、かさ密度を、試験体の大気中での重量と、水中での重量から求める、いわゆるアルキメデス法にて測定し、このかさ密度を理論密度で割って求めた値を%表示した値である。
【0026】
【表1】
【0027】
図3は、一軸プレス、冷間静水圧プレス(CIP)後の圧粉体、及びPECPS後の焼結体の相対密度を示すグラフであり、圧粉体の理論密度は、D(ZrB)=6.119Mg・m-3、D(B)=2.37Mg・m-3、D(C)=1.8Mg・m-3から算出した。
この図3の結果から、一軸プレスにより得られた圧粉体の相対密度は、ZrBの含有量が10~100vol%の範囲において48.8~58.9%であったが、CIP処理の場合には52.9~64.7%まで高くなることが確認された。
ZrB(100vol%)の場合よりも、ZrB/(4B+C)コンポジットの場合の方が相対密度が大きくなるのは、粒子径が大きいZrBの粒子間の隙間に、粒子径の小さなB、Cが入って相対密度が高くなったものと考えられる。
そして、PECPS後の焼結体の相対密度については、ZrBの含有量が0~70vol%の範囲において96.7%以上の高い値を示した。
【0028】
図4は、種々のPECPS温度(1600℃~1900℃)で焼結されたZrB/BC=50/50vol%組成に相当するサンプルのXRDパターンであり、これらのXRDパターンのいずれにも、BCの生成を示すピーク(▲)が認められ、このことから、1600℃以上のPECPS温度の場合には、ZrB+(4B+C)混合粉体からZrB/BCコンポジットが生成することが確認された。
【0029】
図5は、種々の温度(1600℃~1900℃)で焼結されたZrB/BC=50/50vol%コンポジットの破断表面についてのSEM画像であり、それぞれのコンポジットの相対密度も併記されている。
このSEM写真において、色の明るい箇所と、色の暗い箇所についての、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray Spectrometer)を用いた分析(EDS分析)結果から、明るい箇所がZrBで、暗い箇所がBCであることが確認され、PECPS温度が1900℃の場合、非常に緻密なコンポジットが得られることが確認された。
【0030】
図6は、焼結サンプル(50vol%ZrB/50vol%BC)についての、焼結温度と、かさ密度、相対密度との関係を示すグラフであり、ZrBの、かさ密度と相対密度も示されている。
図6の実験結果から、1900℃の温度でPECPSを行った場合、ZrB/BCコンポジットでは、相対密度99.8%以上の緻密なセラミックスが作製されるが、ZrBからなる組成では70.3%の緻密化に留まることが確認された。
【0031】
図7は、異なるZrB組成を有した焼結サンプル(PECPS温度:1900℃)のXRDパターンであり、これらのXRDパターンのいずれにも、BCの生成を示すピーク(黒い菱形の位置のピーク)が認められ、このことから、1900℃の温度でPECPSを行った場合、ZrB/BC=40/60~70/30vol%の組成において、ZrB+(4B+C)混合粉体からZrB/BCコンポジットが生成することが確認された。
【0032】
図8は、異なるZrB組成を有した焼結サンプル(PECPS温度:1900℃)の破断表面についてのSEM画像であり、各焼結体の相対密度も併記されている。
これらのSEM画像から、1900℃の温度でPECPSを行った場合、ZrBの含有量が増加(40→70vol%)すると、相対密度が若干低下し(100%→99.35%)、ZrBの結晶粒子径(色の薄い部分)が大きくなることが確認された。
【0033】
図9は、1900℃で焼結された焼結体の、ZrB含有量と、相対密度、ZrB結晶粒径の関係を示すグラフである。
図9のグラフは、PECPS温度が1900℃の場合、ZrBの含有量が40~70vol%組成のZrB/BCコンポジットにおいて、相対密度99%以上の緻密な焼結体が得られ、ZrBの含有量が増加(40→70vol%)すると、ZrB結晶粒径が大きくなることを示している。
【0034】
図10は、1900℃で焼結された焼結体の機械的特性(ビッカース硬度Hと破壊靭性値KIC)を示すグラフである。
この図10のグラフから、ZrBの含有量が10/90~60/40vol%組成のZrB/BCコンポジットは、ビッカース硬度Hが23GPa以上で、破壊靭性値KICが9.0MPa・m1/2以上の緻密な焼結体であることがわかる。
又、図10のグラフは、ZrB/BC=20/80~50/50vol%組成のコンポジットが、ビッカース硬度H29GPa以上、破壊靭性値KIC9.3MPa・m1/2以上の緻密な焼結体であり、更に、ZrB/BC=30/70~40/60vol%組成のコンポジットが、ビッカース硬度H31GPa以上、破壊靭性値KIC9.8MPa・m1/2以上の緻密な焼結体であることを示している。
これに対し、ZrBの破壊靭性値が3.5~4.2MPa・m1/2であり、BCの破壊靭性値が5.0MPa・m1/2以下であることから、本発明の製造方法を用いて得られるZrB/BCコンポジットは、ZrB、BC単一相セラミックスよりも大きな破壊靭性値を有しており、機械的特性が優れていることが確認された。
【0035】
図11は、1900℃で焼結された焼結体(ZrB/BC=30/70、40/60、50/50、60/40vol%組成)の高温曲げ強度測定の結果を示すグラフである。
この図11の結果から、ZrB/BC=40/60~60/40vol%のコンポジットの場合には、1000~1600℃の温度範囲において500MPa以上の高温曲げ強度を示すことが確認された。尚、30/70vol%、40/60vol%、50/50vol%組成のコンポジットの場合、室温での曲げ強度σは約850MPaであり、モノリシックZrBセラミックスについてこれまでに報告されている値(450MPa)よりも約2倍高いことがわかった。
上記の測定結果から、本発明のZrB/BCコンポジットは、特にZrB/BC=40/60~60/40vol%の場合、1600℃までの高温下において大きな曲げ強度を有するものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法では、高融点で、難焼結性物質であるZrB粉体に、(3.6~6.5):1のモル比率の非晶質BとCの混合物を添加してパルス通電加圧焼結すると、ZrB/BCコンポジットが合成同時焼結により製造でき、ZrB/BC=10/90~60/40vol%の組成にて得られたコンポジットは高い相対密度を有し、高硬度・高破壊靱性を有している。
本発明のZrB/BCコンポジットは、耐熱性の点でも優れた素材であるので、高硬度・高破壊靱性、耐熱性が求められる各種の用途、例えば高温タービンの内壁材や、核融合炉の炉材や、大気圏外超音速航空機の外壁材等に用いられる超高温耐熱セラミックス(UHTC)として有用である。
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