(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】屈折率分布式の標準器
(51)【国際特許分類】
G01N 21/01 20060101AFI20240109BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240109BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01N21/01 A
C12M1/00 A
G01N21/41 Z
(21)【出願番号】P 2021569066
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 IB2020054772
(87)【国際公開番号】W WO2020234791
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-01-13
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】591103025
【氏名又は名称】ポリテフニカ・ワルシャブスカ
【氏名又は名称原語表記】POLITECHNIKA WARSZAWSKA
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】ジェムチョノク,ミハウ
(72)【発明者】
【氏名】クシュ,アルカディウシュ
(72)【発明者】
【氏名】クヤヴィンスカ,マウゴジャータ
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-526689(JP,A)
【文献】特開2018-183421(JP,A)
【文献】特開2017-026596(JP,A)
【文献】特表2011-503532(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0062587(US,A1)
【文献】特開2016-195641(JP,A)
【文献】M.Ziemczonok,Characterization of 3D phantom for holographic tomography produced by two-photon polymerization,Proc. of SPIE,2018年,Vol.10834,pp.108341R-1~108341R-7
【文献】Alexandros Selimis et al.,Direct laser writing: Principles and materials for scaffold 3D printing,Microelectronic Engineering,2015年,Vol.132,pp.83-89,DOI: doi.org/10.1016/j.mee.2014.10.001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積中に基準媒質部と、前記基準媒質部の屈折率と異なる屈折率を有すると共に大きさ及び長さが変化する領域と、を備え、前記基準媒質部内に前記領域が浮遊しており、3次元物体の形をした屈折率分布式の標準器であって、
前記領域の屈折率と前記基準媒質部の屈折率との差は、0.04以下であり、前記領域の少なくとも1つは、大きさ及び長さが可変の少なくとも2つの
角柱、少なくとも2つの円柱、又は
、同軸上に配置された少なくとも2つ
のリングの集合であって、評価対象の測定装置の分解能に類似した少なくとも1方向の寸法を有し、前記領域の少なくとも1つは、楕円体状又は球体状の形状であ
り、
前記標準器は、2光子重合に適した材料からなり且つ2光子重合によって構造化されており、前記標準器の任意の点における屈折率の値は、前記材料の重合度に依存している、
標準器。
【請求項2】
少なくとも1つの球体状又は楕円体状の領域は、前記楕円体状又は前記球体状の領域と、前記基準媒質部とに対して異なる屈折率を有する他の領域内に配置されている、請求項1に記載の標準器。
【請求項3】
前記少なくとも2つのリングの集合で構成された前記領域は、1μmから50μmの範囲の直径のリングを含
み、各リングの厚さは、評価される前記測定装置の分解能に近い、請求項1に記載の標準器。
【請求項4】
互いに平行に配置された少なくとも2つの直方体の集合を含む、請求項1に記載の標準器。
【請求項5】
ジーメンススターのように互いに関連して配置された
角柱の集合を含む、請求項1に記載の標準器。
【請求項6】
少なくとも1つの前記領域は、前記屈折率について勾配ベースの変化を有し、最大の屈折率の変化幅は、0.02である、請求項1に記載の標準器。
【請求項7】
前記屈折率について勾配が変化する領域は、直方体又は円柱の形状を有する、請求項6に記載の標準器。
【請求項8】
3方向のそれぞれにおいて5μmから300μmの範囲の外形寸法を有する、請求項1に記載の標準器。
【請求項9】
前記標準器の異なる屈折率を有する各内部領域は、3方向のそれぞれにおいて50nmから250μmの範囲の寸法を有する、請求項1に記載の標準器。
【請求項10】
個々の領域の屈折率の差は、0.001から0.04の範囲である、請求項1に記載の標準器。
【請求項11】
前記標準器の材料の屈折率の値は、1.45から1.60の範囲である、請求項1に記載の標準器。
【請求項12】
切断された楕円体に類似した形状を有する、請求項1に記載の標準器。
【請求項13】
標準器は、生物学的な細胞又は細胞のコロニーを象徴している、請求項1に記載の標準器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元の屈折率分布式の標準器に関する。標準器の容積は、屈折率の値が異なる複数の領域を含む。標準器は、屈折率に対して敏感な測定装置から得られた結果の計量的な評価作業における使用が意図されている。
【背景技術】
【0002】
3次元の定量位相イメージング技術は、測定領域内の屈折率の値の局所的な差異に基づいて、透明な技術的及び生物学的微小物体を視覚化するために且つ測定するために使用される。3次元の定量位相イメージング技術のグループには、ホログラフィックトモグラフィ(光回折トモグラフィ又は光位相トモグラフィとしても知られている)が含まれる。3次元の定量位相イメージング技術のグループは、試料の照明方向を変化させるように構成(投影角度の範囲を限定)され、屈折率と細胞又は組織に存在する生化学成分の密度との相関により、特に生物医学的な用途において急速に人気が上昇している。異なる照明方向で記録された一連のホログラフィック投影に基づき、仮に測定された未知の透明な物体の3次元の屈折率分布の再構成が行われる。再構成された3次元の屈折率分布から、選択された細胞内の構造を描画及び計測することができ、内部作用又は様々な外部刺激により誘発される形態及び質量密度分布の統計量の経時変化を監視することができる。この方法は、単一細胞(例えば、血液細胞及びヒト癌細胞)、細胞コロニー、又は同等の組織などの生体構造の研究に利用されている。この技術の他の利点としては、ペトリ皿上の生きた生体微細構造を直接測定すること、色素又はマーカを追加する必要がないこと、及び得られたトモグラフィック復元の高い空間解像度の実現性を有する。この測定技術の価値は、ナノライブ社及びトモキューブ社が最近発売した生物医学的な用途のホログラフィックトモグラフィ顕微鏡に反映されている。
【0003】
投影角度の範囲を限定したホログラフィックトモグラフィの設定は、上記のような用途にとって最も実用的な解決策であるが、多くの問題を含む。ホログラフィックトモグラフィの重要な利点の1つである定量的な情報は、測定作業の各段階において生じる誤差が負担となる。前記誤差は、例えば、物体に関する情報(物体の空間周波数の3次元フーリエ空間での表現)を表すデータにおけるいわゆる「ミッシングコーン」によるアーチファクト、異方性解像度、及び3次元のフーリエ空間への個々の投影から復元された空間周波数のマッピング誤差に関連する。生体の3次元構造は測定前に分からないため、再構成の精度を実験的に検証することは困難である。
【0004】
屈折率の再構成の最終的な結果に対するこれらの要因の影響を最小化又は補正することを目的とした技術的及び数値的な解決策は数多くあるが、それらの効果を定量化することは難しい。この測定技術を開発している装置メーカ及び研究グループの両者は、数値シミュレーション又は実験結果に基づいて再構成の誤差の計量的な評価に関係する問題に取り組んでいる。しかしながら、これまでに提案された解決策は、主に2つの理由で不十分である。理論的な研究又は数値解析において、データは、測定装置又は測定作業自体の不完全性に起因する誤差の責任を負わされていないため、測定装置の包括的な特性評価に使用することができない。第2の例である文献に基づく計量的な分析装置は、未知の物体(すなわち、測定誤差評価のための基準がない)又は単純すぎる物体の測定に基づいて導かれた結論を含む。文献に示された解決策は、個々の投影の背景における積分位相値の標準偏差又は断層再構成の背景における屈折率の統計に基づく屈折率誤差の推定、及び単純な較正物体として機能することができる試験体としての微小な球の使用に基づく。しかしながら、文献に示された解決策は、生体試料の複雑な内部構造を実験的に模擬するために必要となる十分な複雑性を提供しない。他のトモグラフィ技術(コンピュータ断層撮影、磁気共鳴イメージングなど)では、較正及び計量的な分析に標準器及びファントムを使用する。しかしながら、従来、3次元の定量位相イメージングにおいて、上述した欠点の全てがない対応策は、開示されていない。このような標準器を得ることが困難である主な理由は、利用可能な製造技術の限界と、得られた標準器のパラメータを検証する必要性とにある。
【0005】
この問題を解決する試みは、M. Ziemczonok、A. Kus、M. Nawrot、M. Kujawihskaによってなされた。この出版物(Characterization of 3D phantom for holographic tomography produced by two-photon polymerization、(SPIEDigitalLibrary.org/conference-proceedings-of-spie))には、2光子重合法を用いて作られた屈折率が変化する構造と、2次元のホログラフィックトモグラフィを用いたこれらの構造の測定とについて記載されている。
【0006】
2光子重合(TPP)は、複雑で透明な構造体をサブミクロンオーダーの解像度で作成できる3Dプリント技術である。これらの構造体は、光に当たると液体から固体に変化する化学物質を含む光反応性の液体前駆体から作られる。硬化したポリマーの屈折率は、モノマーの架橋度に依存し、これは照射された照射線量に依存する。TPPによって、点ごとの走査によって3次元空間に任意の望ましい屈折率分布が設けられる構造体を作成することができる。構造体には、レーザー光の焦点付近に集光したレーザー光を用いて感光材料を硬化させること、及び望ましい容積の全体が硬化されるまで感光材料が入った容器に対してレーザー光の焦点を移動させることにより、特定の屈折率の値の3次元分布が与えられる。2光子吸収過程の確率が入射放射線の強度に依存するため、材料は、3次元的に限定された小さな領域においてレーザー光の焦点付近のみで硬化される。標準器の任意の点(ボクセル)における屈折率の値は、材料の重合度に依存し、特に重合レーザーパワーの局所的な変更、露光時間の増加、走査速度、又はボクセル配置密度の変更である作業パラメータの制御によって変更することができる。更に、標準器の選択された領域は、未硬化のままでもよい。これにより、屈折率の値を調整可能な範囲が広がり、ボクセルサイズから生じるよりも小さい構造を得ることができる。
【0007】
M. Ziemczonokらの論文に記載された構造体は、ピラミッド状の形を有し、屈折率分布が階段状に変化している。このような構造は、細胞などの測定対象とは関係がないため、生物医学的な用途の測定装置の評価にはあまり適していない。
【発明の概要】
【0008】
そこで、本発明の目的は、生物医学的な用途の測定装置の評価を目的とした屈折率分布式の標準器を開発することにある。
【0009】
本発明に係る屈折率分布式の標準器は、3次元物体であって、その容積内に、基準媒質部と、基準媒質部の屈折率とは異なる屈折率を有すると共に大きさ及び長さが変化する領域と、を備える。基準媒質部の屈折率に対する前記領域の屈折率の差は、0.04以下である。前記領域の少なくとも1つは、大きさ及び長さが可変の少なくとも2つのプリズム、円柱、又は同軸リングの集合であって、測定装置の分解能に類似した少なくとも1方向の寸法を有し、これらの領域の少なくとも1つは、楕円体又は球体に類似した形状を有する。
【0010】
好ましくは、少なくとも1つの球体状又は楕円体状の領域は、球体状又は楕円体状の領域、及び基準媒質部に対して異なる屈折率を有する他の領域内に配置される。
【0011】
好ましくは、領域は、1μmから50μmの範囲の直径のリングを含む同軸リングの形であって、各リングの厚さは、評価される測定装置の分解能に近い。
【0012】
好ましくは、標準器は、互いに平行に配置された少なくとも2つの直方体の集合を含む。
【0013】
好ましくは、標準器は、ジーメンススターのように互いに関連して配置されたプリズムの集合を含む。
【0014】
直方体、円柱、又は同軸リングのセットは、測定装置の解像度を評価するためのものである。
【0015】
好ましくは、少なくとも1つの領域は、屈折率について勾配ベースの変化を有し、最大の屈折率の変化幅は、0.02である。好ましくは、屈折率について勾配が変化する領域は、直方体又は円柱の形状を有する。
【0016】
好ましくは、標準器は、評価装置の利用可能な視野の最適な使用によって選択された3方向のそれぞれにおいて5μmから300μmの範囲の外形寸法を有する。好ましくは、標準器の異なる屈折率を有する各内部領域は、3方向のそれぞれにおいて50nmから250μmの範囲の寸法を有する。
【0017】
個々の領域の屈折率の差は、0.001から0.04の範囲であり、対象としている装置の感度及び測定範囲に応じて選択される。
【0018】
好ましくは、標準器は、切断された楕円体に類似した形状を有する。
【0019】
標準器の材料の屈折率の絶対値は、1.45から1.60の範囲である。
【0020】
好ましい実施形態では、標準器は、生体試料、特に細胞に見られる屈折率変化の構造及び範囲を表す。標準器は、細胞で一般的なように、細胞核を示す低い屈折率の領域に浮遊する球体状の核を示す領域を有する。これらの範囲は、調査中の物体の内部構造の境界を識別する精度を確認するために使用される。これにより、選択した内部構造の容積、範囲、又は屈折率の平均値などの重要なパラメータを次々に決定することができる。
【0021】
更に、そのような標準器は、屈折率の勾配変化の情報を持つ円筒状の領域を備える。この領域は、細胞の光の屈折率に関する自然でわずかな変化を示し、物体内部の屈折率の変化の性質に関する誤った仮定に基づく可能性があるトモグラフィ再構成アルゴリズムの評価に有用である。例えば、物体の屈折率が区分的に一定であると仮定して再構成アルゴリズムを適用した場合、この領域の適切な再構成の有効性は不十分になるだろう。
【0022】
更に、解像度の評価を目的とする領域は、例えば、直方体の形をしており、いわゆるUSAF解像度テストチャートに類似する解決策である。このテストでは、解像度を評価するために少なくとも2つの領域が必要とされる。測定の結果、2つの領域が存在すると言える場合、対象としている方向における装置の解像度は、少なくともこれらの領域の中心間の距離に等しいことを意味する。領域の数を徐々に増やし、その幅と距離を広げていくことで、より多くの事例を当てはめることができ、その結果、装置の解像度の下限と上限とをより簡単に、又はより正確に決定することができる。各方向は別々に確認する必要があるため、標準器には、解像度を評価するための領域が3セットある。好ましくは、それらのセットは、C軸、U軸、Z軸に沿った方向にある。光軸方向(Z)に沿った装置の解像度は、通常、(印刷時及び対象とされている測定装置において)不十分なので、この方向における試験は、通常、(素子間の距離を大きくした)わずかに異なるものである。
【0023】
最も好ましくは、標準器は、1.50から1.52の屈折率を有する領域において、1.48から1.52の屈折率を有する直方体の領域が3セット浮遊している。各セットにおいて、直方体は互いに平行であり、それらのセットは、それぞれC軸、U軸、Z軸に沿った3つの垂直方向に配置されている。更に、最も好ましい実施形態において、標準器は、屈折率の勾配変化が1.50から1.52の間の範囲内にある1つの円柱状の領域を有する。
【0024】
本発明に係る標準器は、屈折率の複雑な3次元分布を提供し、得られた測定結果を標準器の詳細な仕様と比較することにより、3次元の定量位相イメージング装置の計量的な評価に使用される。
【0025】
形、外形寸法、内部構造(大きさ、形、分布、環境に対する屈折率の対比)、屈折率の値の範囲、又は屈折率の変動の性質などの標準器の特徴のパラメータは、対象とされている測定装置のパラメータ(その解像度、視野、屈折率に対する感度)と、測定装置の予想される用途(どのようなパラメータ及び性能特性が典型的な測定対象となるか)と、製造技術の能力及び限界とに由来する。そのような特徴の選択の自由度と、標準器の拡大縮小又は特定のニーズへの適合の可能性とは、明らかに本発明の利点である。
【0026】
本発明に係る標準器は、測定装置の解像度を評価することを可能にする構造を備える。本発明に係る標準器は、屈折率分布の再構築に基づいて、選択された定性的又は定量的な基準を用いて分解能を評価することができる。屈折率の異なる領域は、標準器の容積に含まれる屈折率の低い大きな楕円体の中に屈折率の高い楕円体が浮遊しているような3次元の内部構造を形成する。これらのような構造を利用して、内部構造の境界を明確にする測定装置の能力と、得られた屈折率の値の誤差とを評価する。
【0027】
前記内部構造は、その変化の方策ベース(step-based)又は勾配ベース(gradient-based)の性質を含む厳密に定義された屈折率分布を有してもよい。使用されるトモグラフィック復元アルゴリズム又は正則化技術は、対象物が満たさない又は部分的にのみ満たす仮定に従う場合があるためである。従って、標準器は、そのような物体依存のアーチファクトに起因する誤差を実験的に分析することができる。
【0028】
本発明に係る標準器は、高精度のカバーガラスなどの基板上に作られ、選択された屈折率を有する浸漬物(空気、水滴、又は油など、任意に別のカバーガラスで覆われる)で囲まれ、試験装置に配置される。その後、試験装置に適した手順に従って測定及び再構築を行う。その結果(個々の構造、特徴)は、設計時の分布又は参照技術によって測定した分布と比較される。
【0029】
本発明に係る標準器は、2光子重合の技術で作られ、製造パラメータの制御により屈折率の局所的な変化を誘発する。この製造技術は、標準器をカバーガラスに載置して参照データを得る測定(電子顕微鏡、分光法、限定角度ホログラフィックトモグラフィ)又は光ファイバーの先端に置いて参照データを得る測定(別の視点からの観察、測定試料の回転によるトモグラフィ)に適合させることができる。
【0030】
2光子重合用のポリマーは、例えば、Alexandras Selimis、Vladimir Mironov、Maria Farsari、"Direct laser writing: Principles and materials for scaffold 3D printing"、Microelectronic Engineering、132、(2015)、p.83-89のように、専門家によく知られている。一般に、2光子重合によって構造化されるのに適した材料は、少なくとも2つの成分を有する。(i)最終的なポリマーを形成するモノマー又は混合モノマー/オリゴマーと、(ii)レーザー光を吸収する光重合開始剤とである。最終的なポリマーは、アクリル、エポキシ、シリコーンフォトポリマー、ポリエチレングリコールなどの天然ヒドロゲル及び合成ヒドロゲル、又はヒアルロン酸で架橋された天然タンパク質のグループから選択することが可能で、ポリカプロラクトン又はポリラクチドから選択することも可能である。標準器を製造するための光重合開始剤としては、分岐アクリルモノマーと、a-アミノケトンとが好ましく用いられるが、2光子重合を目的としたポリマーであればどのようなものでも使用され得る。
【0031】
一般に、標準器の材料は、以下の基準に適合する任意のポリマーであり得る。標準器の材料は、
紫外線照射下で重合/硬化され、
TPPの作業で使用される放射線の透過率が十分であり、通常、光子エネルギーが単一光子(UV)重合の場合の半分であり、言い換えると、ビームが顕微鏡レンズとその焦点の間の物質の容積によって極端に吸収されず、ビームの最大強度がその焦点にあり、
試験する測定装置で使用される放射線に対して100%に近い透過率を有する(対象物の位相特性について、対象としている測定技術に有利である)。
【0032】
好ましくは、その均質性、収縮率、及び印刷の準備中(例えば、溶媒の蒸発)又は印刷後(過剰材料の除去、加熱)に必要で可能な手順に関する利用可能な推奨事項を有する物理特性及び化学特性の観点における更なる最適化のために、製造装置のメーカによって推奨されている材料が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明に係る標準器は、例示的な実施形態の図面において示される。
【
図1】第1実施形態による標準器を、断面を含めて示す図である。
【
図2】第2実施形態による標準器を、断面を含めて示す図である。
【
図3】第3実施形態による標準器を、断面を含めて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明に係る標準器は、Photonics Professional GT(型番)(Nanoscribe GmbH社製)を使用して2光子重合法により作られた。Photonics Professional GTは、倍率が100、開口数が1.4である顕微鏡レンズと、3軸のピエゾステージ(piezoelectric stage)によるフォトレジストに対するビーム焦点の位置決めと、フェムト秒ファイバーレーザー(パルス時間が100fs、パルス繰り返し率が80MHz、中心波長が780nm)をパラメータとして、構造の後続層の印刷がレンズに向かって行われることが特徴である。
【0035】
(実施例1)
図1に示す標準器は、大きさ(縦、横、高さ)が縦30μm、横25μm、高さ11μmの切断された楕円体の形状を有する。基材1は、屈折率が1.52である。標準器の容積内には、
屈折率が1.50で、大きさが縦9μm、横6μm、高さ6μmである領域2と、
領域2内に分布し、屈折率が1.52で、大きさが縦、横、及び高さとも2μmから4μmである3つの楕円体の含有物3と、
屈折率が1.48で、大きさが縦4μm、横1.5μm、高さ0.3μmから0.7μmである直方体の形状の集合で、0.6μmから1.4μmの間隔で配置されている領域4と、
屈折率が1.48で、大きさが縦4μm、横1.5μm、高さ0.3μmから0.7μmである直方体の形状の集合で、0.6μmから1.4μmの間隔で配置されている領域5と、
屈折率が1.48で、大きさが縦3μm、横3μm、高さ0.8μmから1.4μmである直方体の形状の集合で、1.5μmから2μmの間隔で配置されている領域6と、
勾配ベースが屈折率を1.50から1.52まで変化させ、大きさが縦4.5μm、横4.5μm、高さ3μmである領域7と、がある。
領域4、領域5、及び領域6は、方向X(5)、方向Y(4)、及び方向Z(6)の解像度テスト用である。
【0036】
図1に示す標準器は,IP-L 780(型番)(Nanoscribe GmbH社製)として市販されている材料から得られたものである。
【0037】
図1に示す標準器は、次のようにして得られたものである。
1.3D印刷装置のホルダーに配置した厚さ170μmの高精度カバーガラスの中央にIP-L 780ポリマーを滴下し、2光子重合法を使用した。
2.3D印刷装置の光学系の焦点をガラスとポリマーとの界面に合わせた後、3D印刷装置の座標系における連続した点と、ローカル及びグローバルな作業パラメータとで構成される構造の数値定義に従って、線ごとの及び層ごとの製造手順が開始された。
3.標準器の性能特性は、主に、重合レーザーの出力、走査速度、後続のボクセル、ライン、及び層間の間隔などの作業パラメータに影響される。示された各屈折率の値は、以下のパラメータにより得られている。平均レーザー出力については、屈折率が1.48である領域で0mW、屈折率が1.50である領域で13mW、屈折率1.52の領域で20mW、走査速度については、70μm/s、ボクセル間の距離については、XY平面(ガラスとポリマーとの界面の平面)で200nm、Z方向(装置の光学系の軸に沿って)で300nmであった。屈折率が1.50及び1.52の類似した標準領域は、例えば、一定のレーザー出力18mWと150μm/sから50μm/sの範囲の可変走査速度とでそれぞれ得ることができる。
4.印刷作業の最後に、構造体を含むカバーガラスをイソプロピルアルコール浴に15分間浸漬して,余分な未硬化ポリマーを洗浄した。
【0038】
(実施例2)
図2に示す標準器は、大きさが縦60μm、横50μm、高さ15μmの切断された楕円体の形状をしている。基材1は、屈折率が1.50である。標準器の容積内には、
屈折率が1.52で、大きさが1μmから10μmである7つの楕円体の領域2と、
直径が5μmから8μmで、厚さが0.3μmから1μmで、屈折率が1.52で、4つの同軸リングの形状である領域3と、
屈折率が1.48で、大きさが縦6μm、横6μm、高さ1.5μmから3μmである直方体の形状の集合で、3μmから5μmの間隔で配置されている領域4と、
大きさが縦12μm、横10μm、高さ4μmの直方体の形状で、勾配ベースが屈折率の値を1.50から1.52の範囲で変化させる領域5と、がある。
領域3及び領域4は、方向X(3)、方向Y(3)、及び方向Z(4)の解像度テスト用である。
【0039】
(実施例3)
図3に示す標準器は、大きさが縦30μm、横25μm、高さ11μmの切断された楕円体の形状を有する。基材1は、屈折率が1.52である。標準器の容積内には、
屈折率が1.48で、大きさが縦3μm、横3μm、高さ0.8μmから1.5μmの直方体の形状の集合で、2μmから2.5μmの間隔で配置されている領域2と、
大きさが縦18μm、横18μm、高さ8μmで、屈折率が1.51である楕円体の形状で、内部に領域4及び領域5が設けられている領域3と、
屈折率が1.50で、大きさが0.5μmから4μmの範囲にある2つの楕円体の形状である領域4と、
大きさが縦2μm、横5μm、高さ4μmの角柱を
ジーメンススターのように相対的に配置した形状で、屈折率が1.50である領域5と、がある。
領域2及び領域5は、方向X(5)、方向Y(5)、及び方向Z(2)の解像度テスト用である。
【0040】
(実施例4)
図4に示す標準器は、実施例1で示した3つの標準器を細胞のコロニーのように並べて且つ重なるようにして組み立てて構成されたものである。