(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】SiPMにおける光クロストーク効果の低減
(51)【国際特許分類】
H04N 5/32 20230101AFI20240109BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20240109BHJP
H04N 23/30 20230101ALI20240109BHJP
H04N 25/30 20230101ALI20240109BHJP
H04N 25/62 20230101ALI20240109BHJP
H04N 25/76 20230101ALI20240109BHJP
H04N 25/773 20230101ALI20240109BHJP
H04N 25/78 20230101ALI20240109BHJP
【FI】
H04N5/32
G01T1/20 E
H04N23/30
H04N25/30
H04N25/62
H04N25/76
H04N25/773
H04N25/78
(21)【出願番号】P 2021570169
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2019063569
(87)【国際公開番号】W WO2019228944
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】514267962
【氏名又は名称】ウニベルシタ デ バルセローナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガスコン フォーラ,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス フェルナンデス,セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】マウリシオ フェレ,ジョアン
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145776(JP,A)
【文献】特表2011-513761(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0001053(US,A1)
【文献】特開昭61-083985(JP,A)
【文献】特開平11-304926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0041502(US,A1)
【文献】国際公開第2017/038133(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/30 - 5/33
H04N 23/11
H04N 23/20 -23/30
H04N 25/00
H04N 25/20 -25/61
H04N 25/615-25/79
G01T 1/00 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン系光電増倍管(SiPM)における光クロストーク効果を低減するためのSiPMであって、
-それぞれが並列に結合される複数のマイクロセルを備える複数のマクロセルと、
-それぞれが前記マクロセルの出力信号を受信するためにマクロセルの出力に結合される複数の読み出し回路と、
を備え、
-前記マイクロセルは、隣接するマイクロセルが異なるマクロセルに属するように前記SiPM内に配置され、
-マイクロセルが検出を実行するときに、前記検出を実行した前記マイクロセルに隣接する1つ以上のマイクロセルを有する各マクロセルの前記読み出し回路が、所定の期間中にその出力信号を無効化するように構成される、
SiPM。
【請求項2】
各マクロセルは、前記マクロセルの前記出力信号の無効化を遅延させるための遅延回路に結合される、請求項1に記載のSiPM。
【請求項3】
前記マイクロセルが長方形、六角形、又は、円形の形状を備える、請求項1又は2に記載のSiPM。
【請求項4】
各マクロセルがスイッチング回路に結合される、請求項1から3のいずれか一項に記載のSiPM。
【請求項5】
配列が市松模様配列である、請求項1から4のいずれか一項に記載のSiPM。
【請求項6】
各マイクロセルが単一光子アバランシェダイオードを備える、請求項1から5のいずれか一項に記載のSiPM。
【請求項7】
各SiPMがシンチレーション結晶又は他の即時発光材料を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のSiPM。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の1つ以上のSiPMを備える撮像システム。
【請求項9】
陽電子放射断層撮影デバイス、レーザ撮像検出及び測距、並びに、蛍光寿命撮像顕微鏡法のうちの1つを含む、請求項8に記載の撮像システム。
【請求項10】
SiPMにおける光クロストーク効果を低減するための方法であって、前記SiPMが複数のマクロセルを備え、各マクロセルが並列に結合される複数のマイクロセルを備え、隣接するマイクロセルが異なるマクロセルに属し、前記方法は、
-マイクロセルによって検出を実行するステップと、
-前記検出を実行した前記マイクロセルに隣接する前記マイクロセルのうちの1つ以上のマクロセルを特定するステップと、
-所定の無効化期間中に前記特定された1つ以上のマクロセルの出力信号を無効化するステップと、
を含む方法。
【請求項11】
前記検出を実行したマイクロセルを有する前記マクロセル
の読み出し回路によって、前記検出を実行したマイクロセルに隣接する1つ以上のマイクロセルの前記出力信号の前記無効化をトリガするステップを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
-光クロストーク事象が予期される無効化期間を特定するステップと、
-特定された無効化期間中に前記特定された1つ以上のマクロセルの前記出力信号を無効化するステップと、を
更に含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記無効化期間が終了した後に前記特定された1つ以上のマクロセルの前記出力信号を有効にするステップを更に含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
1つ以上のマクロセルの前記出力信号を無効にする前記ステップは、検出を実行した後に所定の遅延時間だけ行なわれる、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記1つ以上のマクロセルの出力を無効化するための前記遅延時間が50~250psである、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン系光電子増倍管(SiPM)の分野に関し、より具体的には、SiPMにおける光クロストーク効果を低減するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は光子検出器に関する。特に、本発明は、半導体光電子増倍管などの高速高感度光子検出器、及び、半導体光電子増倍管のための読み出し方法に関する。特に、排他的ではないが、本発明は、飛行時間型PET(TOF-PET)、レーザ画像検出及び測距(LIDAR)用途、バイオルミネセンス、及び、高エネルギー物理(HEP)検出器を含む陽電子放射断層撮影(PET)などの分野における半導体光電子増倍管に関する。
【0003】
PETシステムは、通常、ガンマ線を検出するように構成されて、診断目的に使用され得る全ての検出されたガンマ線の軌道を追跡することによって3D画像を作成できるようにする複数の光検出器、例えばSiPMを備える。既知のPETシステムは、ガンマ線の衝突時にフォトセンサとも呼ばれる光検出器によって検出される光子を生み出すことができるシンチレータ結晶(又は他の光発生材料)を有する複数の光検出器を備える。フォトセンサの分解能(時間及びエネルギー)は、TOF-PETにとって最も重要である。向上した分解能は、画像の信号対雑音比を高め、患者の暴露時間及び走査当たりのコストを低減できるようにする。
【0004】
SiPMは、シリコン基板上に、マイクロセル又は単一光子アバランシェダイオード(SPAD)としても知られる、非常に小さなガイガーモードアバランシェフォトダイオード(APD)セルの配列から構成される半導体光子感受性デバイスである。SiPMは、シリコン基板の表面上、例えばエピタキシャル層内に位置される複数のマイクロセルを備える。各セルは、例えば高抵抗率ポリシリコンから形成されて全てのセルを覆う酸化シリコン層の上端に位置される内部の個々のクエンチングレジスタ(又は他のタイプの電子回路によるアクティブクエンチング)を備える。動作時、各セルには、破壊電圧を超える逆バイアスが供給される。光子がセルに吸収されると、ガイガー放電が起こり、放電はクエンチングレジスタによって制限される。
【0005】
これらのデバイスの1つの問題を「光クロストーク」として説明することができ、この場合、異なる形態の光クロストークがデバイスに現れ得る。光クロストークの一形態は、隣接するセルのガイガー放電で生み出される光子に由来する。光クロストーク事象の効果は、主に、隣接するマイクロセルに影響を及ぼす。光クロストークは、SiPMの分解能、ひいては、PETシステム全体の分解能に悪影響を及ぼす場合がある。特に、幾つかの研究(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)は、高度TOF-PETシステムの時間分解能が最初の数個の光子、すなわち、10個未満の光子の到達時間によって完全に決定されること、及び、特に即時の発光が可能な材料に関して光クロストークが時間分解能を大幅に劣化させることを示した。
【0006】
実行された検出を登録するために、SiPMは、実行された検出をカウントするためのカウンタと、実行された検出を保存するためのレジスタ、例えばメモリデバイスとを備えてもよい。しかしながら、実行される検出の幾つかは、光クロストーク事象によって生成される光子に起因する場合があり、したがって、全検出の単純なカウントは、誤った検出を考慮に入れる場合がある。
【0007】
光クロストーク事象に起因する誤検出を回避するために、クロストーク事象が低減される幾つかの解決策が知られている。アバランシェ領域内のホットキャリアによって生成される光クロストークを最小限に抑えるための解決策は、マイクロセル間に狭いトレンチを生成して、1つのマイクロセルのアバランシェ領域内で生成された光子が隣接するマイクロセルに到達するのを阻止することである。トレンチに光吸収材料が充填されてもよい。それにもかかわらず、トレンチ及び他のクロストーク源の生成における技術的制限(デバイスの裏面又は側面での反射など)は、光クロストークの効果を低減するために必要な更なる方法をもたらす。
【0008】
「SiPM信号伝搬遅延分散を最小化してタイミングを改善するためのシステム及び方法(Systems and methods for minimizing SiPM signal propagation delay dispersion and improve timing)」と題される特許文献1は、光クロストーク効果を低減するために使用されないSiPMを開示する。
【0009】
したがって、製造の複雑さを増大させることなく、光クロストーク効果が低減されたSiPMを提供する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2016/0191829号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】R.Dolenec等の「SiPM timing at low light intensities(低い光強度におけるSiPMタイミング)」、NSS/MIC/RTSD、ストラスブール、2016年、1~5ページ
【文献】P.Lecoqの「Pushing the Limits in Time-of-Flight PET Imaging(飛行時間型PETイメージングにおける限界の押し上げ)」、放射線及びプラズマメディカルサイエンスに関する(on Radiation and Plasma Medical Sciences)IEEE 議事録、第1巻、no.6、pp.473-485、2017年11月、doi:10.1109/TRPMS.2017.2756674
【発明の概要】
【0012】
第1の態様では、SiPMにおける光クロストーク効果を低減するためのSiPMが提供される。SiPMは複数のマクロセルを備え、各マクロセルは、並列に結合される複数のマイクロセルと、各マクロセルの出力に結合される読み出し回路とを備える。マイクロセルは、隣接するマイクロセルが異なるマクロセルに属するようにSiPM内に配置される。マイクロセルが検出を実行するとき、検出を実行したマイクロセルに隣接する1つ以上のマイクロセルを有する各マクロセルの読み出し回路は、所定の期間中にその出力信号を無効化するように構成される。
【0013】
読み出し回路を備えるとともに隣接するマイクロセルが異なるマクロセルに配置されるSiPMを有することによって、そのようなマクロセルの出力信号を無効化する(又は「拒否」する)ことは、クロストーク事象が起こり得る所定の期間中に実行される。したがって、読み出し回路が各マクロセル出力の独立した機能を促進させるため、クロストーク効果に起因して誤検出が起こり得るマクロセルが考慮されなくてもよい。結果として、光クロストーク事象の影響が回避される又は少なくとも実質的に低減される。
【0014】
更に、SiPMがPET-TOFデバイスなどのPET撮像デバイスで使用される場合、ガンマ線の原点を取得するために必要となり得る、すなわち、患者の身体の3 D画像を作成するために必要となり得る軌道線が少なくなるため、患者の暴露時間を短縮することができる。
【0015】
一例において、各マクロセルは、マクロセルの出力信号の無効化を遅延させるための遅延回路に結合されてもよく、これは、チェレンコフラジエータなどの即時発光材料では、任意のクロストーク事象が発生する前にプロンプト光子が一般に放出される(数百ピコ秒(ps))からである。
【0016】
一例において、マイクロセルは、長方形、六角形、又は、円形の形状を備えてもよい。他のセル形状も想定し得る。
【0017】
一例では、各マクロセルがスイッチング回路に結合されてもよい。スイッチング回路は、クロストーク事象が予期され得る期間中にマクロセルの出力信号を無効化してもよく、その後に出力信号を有効にしてもよい。
【0018】
一例において、配列は、市松模様配列、すなわち、任意の2つの隣接するマイクロセルが異なるマクロセルに属し得る交互のマイクロセルであってもよい。
一例において、各マイクロセルは、SPADを備えてもよく、クエンチング要素及び/又は再充電要素を備えてもよい。
一例において、各SiPM又はSiPMマトリックスは、シンチレーション結晶、或いは、チェレンコフ光放射体、ナノ結晶、又は、LYSO結晶などの他の即時発光材料を備えてもよい。
【0019】
本発明の他の態様は、PETデバイス及び撮像システムに関する。デバイス及びシステムはいずれも、開示された例のいずれかに係る1つ以上のSiPMを備える。
【0020】
第1の態様では、SiPMにおける光クロストーク効果を低減するための方法が提供される。SiPMは複数のマクロセルを備え、各マクロセルは、電気的に並列に結合される複数のマイクロセルを備え、隣接するマイクロセル、すなわち、デバイス上に物理的に並んで配置されるマイクロセルは、異なるマクロセルに属する。方法は、マイクロセルによって検出を実行するステップと、検出を実行したマイクロセルに隣接するマイクロセルの1つ以上のマクロセルを特定するステップと、所定の無効化期間中、に、例えば光クロストークが予期される期間中に、特定された1つ以上のマクロセルの出力信号を無効化するステップとを含む。
【0021】
SiPM読み出しでは、異なる読み出し経路が存在し得る。幾つかの読み出し経路は、タイミング情報、エネルギー又は電荷情報、光子計数などの信号の異なるパラメータを抽出するために最適化されてもよい。提案された方法は、異なる読み出し経路に独立して適用されてもされなくてもよい。提案された方法によれば、クロストーク事象が大幅に低減されるが、幾つかの実際の光検出が失われる場合がある。しかしながら、マクロセル内のマイクロセルの数を制限することにより、偽陽性検出の数を大幅に減らすことができる一方で、偽陰性結果(すなわち、実際の光検出が失われる)の数を実質的に制限することができるため、SiPM効率を高く維持することができる。
【0022】
一例において、方法は、光クロストーク事象が予期される無効化期間を特定するステップと、特定された無効化期間中に特定された1つ以上のマクロセルの出力信号を無効化するステップとを含んでもよい。これは、異なるタイプのSiPMが異なる予期される光クロストーク事象時間を有し得るからである。
一例において、方法は、無効化期間が終了した後に特定された1つ以上のマクロセルの出力信号を有効にするステップを更に含む。
一例において、1つ以上のマクロセルの出力信号を無効化するステップは、検出を実行した後に所定の遅延時間だけ行なわれてもよい。したがって、影響を受けたマクロセルの出力は、光クロストーク事象が予期され得る最小時間にわたって無効化されてもよい。
本開示の非限定的な例が以下の図で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】一例に係る複数のマイクロセルの断側面図を概略的に示す。
【
図3A】一例に係るSiPMの回路を概略的に示す。
【
図3B】一例に係るSiPMの回路を概略的に示す。
【
図4】一例に係る複数のマイクロセルを概略的に示す。
【
図5】SiPMにおける光クロストーク効果を低減する方法のフローチャートを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、複数のマイクロセルA1-A8及びB1-B8、例えば16個のマイクロセルを備えてもよいSiPM 10を示し、マイクロセルは、横列及び縦列を備えてもよいMxN配列、例えば4×4配列を成して配置されてもよい。マイクロセルは、任意の適切な形状、例えば正方形、円形、六角形などであってもよく、例えば光子検出を実行するように構成されてもよい。
【0025】
各マイクロセルは、フォトダイオード、例えばSPAD、及び、フォトダイオードによって検出される光子を生成してもよいシンチレーション結晶、例えばチェレンコフラジエータ又は他の即時発光材料、LYSO結晶、又は、任意の他の適切な結晶を備えてもよい。一例(
図2参照)では、シンチレーション結晶をマイクロセル配列の下方に配置してもよく、すなわち、各SiPMは、構造の下方に配置される単一のシンチレーション結晶を備えてもよい。他の例では、例えば、複数のSiPMを備えるシステムでは、該システムが、SiPMの下方に配置される単一のモノリシックシンチレーション結晶を備えてもよい。
マイクロセルは、読み出し信号を出力することができる対応する個々の出力を備えてもよい。
【0026】
SiPM10のマイクロセルは、複数のマクロセル、例えば、2つ、3つ、又は、任意の他の適切な数のマクロセルに配置されてもよい。各マクロセルは対応するマクロセル出力を備えてもよく、このマクロセル出力には、マクロセルの全ての個々のマイクロセル出力が並列に結合されてもよい。
【0027】
図1の例において、SiPM10は2つの異なるマクロセルを備えてもよく、この場合、複数、例えば16個のマイクロセルが並列に配置されてもよい。より具体的には、マイクロセルA1~A8が第1のマクロセル1に属してもよく、マイクロセルB1~B8が第2のマクロセル2に属してもよい。各マクロセルは対応する出力OUT1、OUT2(
図2参照)を備えてもよく、この出力には、マクロセルにおける全てのマイクロセルの出力が電気的に結合されてもよく、すなわち、同じマクロセルに属するマイクロセルは、共通のマクロセル出力に結合されるそれらの対応する出力を有してもよい。
【0028】
マクロセルの各マイクロセルの出力を共通のマクロセル出力に結合させることは、回路接続の複雑さの増大を伴わず、各マクロセルの独立した機能を促進させることができ、すなわち、マクロセルの寄与が無効化され又は拒否され得る(すなわち、検出が依然として実行されてもよいが読み取られない)。
【0029】
マイクロセルは、任意のマクロセルの隣接するマイクロセル、すなわち、マイクロセルの側面の少なくとも一部と接触しているマイクロセルが異なるマクロセルに属するように、例えば市松模様パターンで配置されてもよい。言い換えると、2つのマイクロセルは、隣接していると見なされるために、少なくとも所定の閾値を超える共通境界を共有する必要があり得る。そのような閾値は、2つの境界共有マイクロセル間のクロストーク事象の予期される確率によって規定され得る。共通境界が大きいほど確率が高くなり、一方、共通境界が短いほど確率が低くなる。点又は頂点で一致する境界、例えば
図1のA1及びA3などの斜めに配置されたマイクロセルの場合、クロストーク事象を有する確率は低いと考えられる。したがって、A1及びA3は同じマクロセルに属し得る。したがって、第1のマクロセル1に属し得るマイクロセルA3の隣接するマイクロセルは、4つのマイクロセル、すなわち、第2のマクロセル2に配置され得るマイクロセルB1、B3、B4及びB5である。
【0030】
一例では、第1のマクロセル1に配置されるマイクロセルA3によって検出が実行されてもよい。想定し得る光クロストーク事象は、主に、マクロセル2に属する隣接するマイクロセルB1、B3、B4及びB5に影響を及ぼし得る。クロストーク事象、すなわち、誤検出の影響を低減するために、特定のマイクロセル、例えばA3で検出が実行される場合、隣接するマイクロセルが配置されるマクロセル、例えばマクロセル2の出力が無効化されてもよい。したがって、SiPMの配線接続の複雑さは増大されない。
図2の例では、隣接するマイクロセルB1,B3,B4,B5が配置されるマクロセル2の出力が無効化されてもよい。
【0031】
マイクロセルが検出を実行するマクロセル以外のマクロセルの出力は、検出直後に無効にされてもよく、又は、クロストーク事象が即座に発生しない場合があるため、マクロセルの出力は例えば50~250psの所定の遅延時間後に無効化されてもよい。所定の遅延時間は、クロストーク効果が始まると予期される時間に対応し得る。そのような時間は、SiPMタイプにしたがって異なり得る。
【0032】
隣接するマイクロセルが配置されるマクロセルの出力は、所定の無効化期間中、例えば、数百ps~数ナノ秒(ns)の間に無効化されてもよく、この場合、光クロストーク事象のかなりの部分が予期されてもよく、及び/又は、重要なタイミング測定が実行されてしまっている。無効化期間の終了時、隣接するマイクロセルB1、B3、B4及びB5が属するマクロセルの出力が再び有効にされてもよい。
【0033】
SiPM10は、出力信号を受信するようにマクロセルの出力に結合され得る読み出し回路(
図3A及び
図3B参照)を更に備えてもよい。SiPMは、SiPM内のマクロセルと同数の読み出し回路を備えてもよく、例えば、
図1の例において、SiPM10は、それぞれがマクロセルに結合される2つの読み出し回路(図示せず)を備えてもよい。
【0034】
検出を実行したマイクロセルを有するマクロセルの読み出し回路は、検出を実行したマイクロセルに隣接する1つ以上のマイクロセルを有するマクロセルの第1の所定の期間中の出力信号の無効化をトリガするように構成される。また、読み出し回路は、第2の所定の期間だけ出力信号の前記無効化のトリガを遅延させるように構成されてもよく、第2の所定の期間の後にクロストーク事象が始まると予期される。
【0035】
一例において、マクロセルは、偽陰性結果を制限するために可能な限り少数のマイクロセルを備えてもよく、したがって、各SiPMにおいて多数のマクロセルが必要とされ得る。マクロセル当たりのマイクロセルが少ないと、効率が向上され、すなわち、実際の光検出が失われる可能性が低くなる。
【0036】
図2は、線S-Sに沿う
図1のSiPMのマイクロセルの幾つかの断面を示す。SiPMは、マイクロセルの下方に配置されるシンチレーション結晶60を備えてもよい。マイクロセルは、2つのマクロセル、すなわち、第1のマクロセル1及び第2のマクロセル2に配置されてもよい。各マイクロセルは、対応する共通のマクロセル出力OUT1、OUT 2に結合され得る個々の出力を備えてもよい。すなわち、マイクロセルA1及びA2が第1のマクロセル1に配置されてもよく、また、それらのそれぞれの出力が共通のマクロセル出力OUT1に結合されてもよく、同様に、マイクロセルB1及びB2の出力がマクロセル出力OUT2に結合されてもよい。全ての個々のマイクロセル出力を同じマクロセル出力に結合することにより、接続要素及びそれらの接続の電子的実装が複雑さを増大させない場合がある。
【0037】
図3 Aは、
図1のSiPMの電子回路700の一例の簡略化された概略図を示す。回路700は、マクロセルの数、例えば2つのマクロセルに対応し得るサブ回路710,720を備えてもよい。サブ回路710は、並列に結合される8個のマイクロセルA1~A8を備えてもよい第1のマクロセル1に対応し得る。サブ回路720は、同様に並列に結合され得るマクロセル2のマイクロセルB1~B8に対応し得る。
【0038】
回路700は、各マクロセル出力に電気的に結合される読み出し回路750,760を更に備えてもよく、すなわち、マクロセルと同数の読み出し回路が存在してもよい。読み出し回路は読み出し出力R1、R2を備えることができ、読み出し出力を通じて例えば各マクロセルの出力信号が読み出されてもよく或いは他のマクロセルの信号が無効化されてもよい。したがって、読み出し回路750,760が相互接続されてもよい。
【0039】
各読み出し回路は、例えば任意の検出が実行されたにもかかわらず読み出し出力をゼロに設定することによって読み出し出力を無効化するように構成され得るスイッチング回路を備えてもよい。読み出し出力は、クロストーク事象が予期され得る所定の無効化期間中に無効化されてもよい。スイッチング回路は、別のマクロセルによって或いは別個の又は外部のスイッチングコントローラによってトリガされてもよい。
【0040】
読み出し回路は、他のマクロセルによって検出が実行された後に読み出し出力の無効化を遅延させるように構成され得る遅延回路を更に備えてもよい。
図3Bは、
図1のSiPMの電子回路700の一例の簡略化された概略図を示す。回路700は、マクロセルの数に対応し得るサブ回路710,720を備えてもよい。
図3Bの例において、回路は、2つのマクロセルに対応し得る2つのサブ回路を備えてもよい。サブ回路710は、並列に結合される8個のマイクロセルA1~A8を備えてもよい第1のマクロセル1に対応し得る。サブ回路720は、同様に並列に結合され得るマクロセル2のマイクロセルB1~B8に対応し得る。
【0041】
各マイクロセルは、2つの端子80a及び80bを有し得るフォトダイオード80と、2つの端子81a及び81bを有し得るレジスタ81(増幅部参照)とを備える。
レジスタ81の端子81aは、電圧源又は電流源に結合される出力端子に結合されてもよい。レジスタ81の端子81bは、フォトダイオード80の端子80aに結合されてもよい。
フォトダイオード80の端子80 bは、グループ出力OUT1に結合されてもよい。
一例では、レジスタ81が能動回路であってもよい。他の例において、レジスタ81は、フォトダイオード80の端子80a又は端子80bに結合されてもよい。
【0042】
一例において、フォトダイオード80の出力は、レジスタ81の端子81a又はフォトダイオードの端子80bのいずれかであってもよい。一例では、レジスタ81がフォトダイオード80の端子80bに結合される場合、出力が端子80aであってもよい。
回路700は、各マクロセル出力OUT1、OUT2に結合される読み出し回路750,760を更に備えてもよく、すなわち、マクロセルと同じ数の読み出し回路があってもよい。読み出し回路は読み出し出力R1、R2を備えることができ、読み出し出力を通じて各マクロセルの出力信号が読み出されてもよい。
【0043】
各読み出し回路は、例えば任意の検出が実行されたにもかかわらず読み出し出力をゼロに設定することによって読み出し出力を無効化するように構成され得るスイッチング回路を備えてもよい。読み出し出力は、クロストーク事象が予期され得る所定の無効化期間中に無効化されてもよい。
【0044】
読み出し回路は、検出が実行された後の読み出し出力の無効化を、例えば約50~200 ps遅延させるように構成され得る遅延回路を更に備えてもよい。一例では、遅延回路が単安定タイマを備えてもよい。
一例において、読み出し回路750は、増幅器751、弁別器752、NOTゲート753、ANDゲート754、及び、単安定タイマ755を備えてもよい。
【0045】
増幅器751の入力は、マクロセル出力OUT1に結合されてもよい。増幅器751の出力は、弁別器752の第1の入力に結合されてもよい。
弁別器752の第2の入力が閾値信号に結合されてもよい。弁別器752の出力は、単安定タイマ755の入力及びANDゲート754の第1の入力に結合されてもよい。
単安定タイマ755の出力は、サブ回路760のNOTゲートの入力に結合されてもよい。
ANDゲート754の第2の入力は、NOTゲート753の出力に結合されてもよい。ANDゲート754の出力は、読み出し出力R 1に結合されてもよい。
NOTゲート753の入力は、サブ回路760の単安定タイマの出力端子に結合されてもよい。
【0046】
本明細書中に記載される読み出し回路750は、想定し得る一実装にすぎない。同様の効果を与え得る他の実装も可能であることが理解される。
図4は、複数のマクロセル、例えば4に配置される複数の六角形のマイクロセル401、例えば32個のマイクロセルを備えてもよいSiPM400の一例を示す。この例において、検出が行なわれ得るマイクロセルC1は、第1のマクロセル1に属し得る。マイクロセルC1の隣接するマイクロセルは、異なるマクロセルに属してもよく、特に第2のマクロセル2のE1及びE2に属してもよく、第3のマクロセル3のF1及びF2に属してもよく、第4のマクロセルのG1及びG2に属してもよい。したがって、検出を実行すると、マクロセル2-4の出力は、それらが検出を実行したマイクロセルC1との境界の一部、特定の場合には六角形の6つの辺のうちの1つを共有するマイクロセルを有するため、無効化され得る。
【0047】
図5は、複数のマイクロセルを備えてもよいSiPMにおけるクロストーク効果を低減するための方法のフローチャートを示す。そのようなマイクロセルは、異なるマクロセルに属してもよく、例えば、隣接するマイクロセルが同じマクロセルに属さない市松模様パターンで配置されてもよい。ブロック501では、マクロセル内に配置されるマイクロセルが検出を実行してもよい。その後、ブロック502において、検出を実行したマイクロセルに隣接するマイクロセルが属するマクロセルが特定されてもよい。想定し得る光クロストーク事象の効果を低減するために、ブロック503において、特定されたマクロセルの出力は、光クロストーク効果が予期される期間中に無効化され得る。そのような無効化は、検出直後に行なわれてもよく、又は、SiPMの特性に基づいて選択され得る所定の遅延時間、例えば約50~250ps遅延されてもよい。その後、幾つかのマクロセルの出力が無効化される間、無効化されないマクロセルの読み出し出力が依然として読み出されて登録されてもよい。したがって、そのような特定のマクロセルによって実行される検出の総数は、他のマクロセルの出力が無効化されるときに記録されてもよい。無効化期間の後、無効化された出力が再び有効にされてもよい。
【0048】
図6は、開示される例のいずれかに係る複数のSiPM610を備えてもよい撮像システム600、例えばPETスキャナ又はPET撮像装置、LIDAR又は蛍光寿命撮像顕微鏡法(FLIM)システムを示す。SiPM610は、例えば市松模様パターンのマクロセルに配置された複数のマイクロセル620を備えてもよい。
図6の交互の黒色及び白色のボックスは、マイクロセル620を表わす。白色で示されるマイクロセルは1つのマクロセルに属し得るが、黒色で示されるマイクロセルは他のマクロセルに属し得る。
【0049】
本明細書中では幾つかの例のみを開示してきたが、他の代案、修正、使用、及び/又は、その均等物が想定し得る。更に、記載された例の全ての想定し得る組み合わせも網羅される。したがって、本開示の範囲は、特定の例によって限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲を公正に読むことによってのみ決定されるべきである。図面に関連する参照符号が特許請求の範囲の括弧内に入れられる場合、それらは単に特許請求の範囲の明瞭性を高めようとしているにすぎず、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。