(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ヒトアルブミン含有製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/38 20060101AFI20240109BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240109BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240109BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240109BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240109BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240109BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240109BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
A61K38/38
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/22
A61P1/16
A61P7/00
A61P9/00
A61P13/12
(21)【出願番号】P 2022510834
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 CN2020086057
(87)【国際公開番号】W WO2021051807
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】201910874343.3
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522062494
【氏名又は名称】通化安睿特生物製薬股▲フェン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】項 ▲イ▼
(72)【発明者】
【氏名】岳 志蕾
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-509381(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107674860(CN,A)
【文献】国際公開第2018/115953(WO,A1)
【文献】Biochimica et Biophysica Acta,2008年,1780(1),pp.7-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/38
A61P 9/00
A61P 13/12
A61P 1/16
A61P 7/00
A61K 47/12
A61K 47/10
A61K 47/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトアルブミン含有製剤を製造する方法であって、
前記ヒトアルブミンは、ヒト血清アルブミンまたは組換えヒトアルブミンのいずれかであり、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が向上するように、
前記ヒトアルブミンがヒト血清アルブミンである場合に、1g当たりのヒト血清アルブミンに10~500μgのポロキサマーを添加し、
前記ヒトアルブミンが組換えヒトアルブミンである場合に、1g当たりの組換えヒトアルブミンに10~500μgのポロキサマーを添加するとともに、製剤の製造完了後に組換えヒトアルブミンに対する長鎖脂肪酸のモル比が0.2~3.0となるように長鎖脂肪酸を添加し、
前記長鎖脂肪酸は、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が向上するように、ヒトアルブミンの凝集及びフィブリル化を減少させることをさらに含むことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記製剤の製造完了後、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が30nm以上の粒子が現れないように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記製剤の製造完了後、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が100nm以上の粒子が現れないように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記製剤の製造完了後、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が約200nmの粒子が現れないように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
安定性が当地の薬局方の要件を満たすように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
安定性が、57℃で50h、30℃で14日間、20℃で28日間の培養中に、濁り及び可視異物が現れないという条件を満たすように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒトアルブミンは、ヒト血清アルブミンであり、前記方法は、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が向上するように、ポロキサマーを添加することを含むことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒトアルブミンは、組換えヒトアルブミンであり、前記方法は、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が向上するように、長鎖脂肪酸及びポロキサマーを添加することを含むことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記長鎖脂肪酸は、塩の形態で添加されることを特徴とする、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記長鎖脂肪酸は、ナトリウム塩の形態で添加されることを特徴とする、
請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記製剤の製造完了後、組換えヒトアルブミンに対する長鎖脂肪酸のモル比が0.3~2.0であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ポロキサマーは、ポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ポロキサマーは、ポロキサマー188であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記長鎖脂肪酸は、大豆油脂肪酸又は完全水素化大豆油脂肪酸であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項16】
当地の薬局方に要求される成分及び含有量を添加することをさらに含み、前記当地の薬局方に要求される成分は、オクタン酸ナトリウム及び/又はN-アセチルトリプトファンであることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ヒトアルブミン含有製剤であって、
前記ヒトアルブミンは、ヒト血清アルブミンまたは組換えヒトアルブミンのいずれかであり、
前記ヒトアルブミンがヒト血清アルブミンである場合に、前記ヒトアルブミン含有製剤には、1g当たりのヒト血清アルブミンに対して10~500μgのポロキサマーが含まれ、
前記ヒトアルブミンが組換えヒトアルブミンである場合に、前記ヒトアルブミン含有製剤には、1g当たりの組換えヒトアルブミンに対して10~500μgのポロキサマーが含まれるとともに、前記ヒトアルブミン含有製剤には、組換えヒトアルブミンに対する長鎖脂肪酸のモル比が0.2~3.0となるように長鎖脂肪酸がさらに含まれ、
前記長鎖脂肪酸は、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、
ヒトアルブミン含有製剤。
【請求項18】
前記製剤中の組換えヒトアルブミンに対する長鎖脂肪酸のモル比は、0.3~2.0であることを特徴とする、
請求項17に記載の製剤。
【請求項19】
前記ポロキサマーは、ポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、
請求項17に記載の製剤。
【請求項20】
前記ポロキサマーは、ポロキサマー188であることを特徴とする、
請求項17に記載の製剤。
【請求項21】
前記長鎖脂肪酸は、大豆油脂肪酸又は完全水素化大豆油脂肪酸であることを特徴とする、
請求項17に記載の製剤。
【請求項22】
当地の薬局方に要求される成分及び含有量をさらに含み、前記当地の薬局方に要求される成分は、オクタン酸ナトリウム及び/又はN-アセチルトリプトファンであることを特徴とする、
請求項17に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬の分野に関し、特にヒトアルブミン含有製剤及びその製造方法に関する。本願において、用語「ヒトアルブミン」には、ヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin)と、組換えヒトアルブミン(Recombinant Human Albumin)とが含まれる。組換えヒトアルブミンは、組換えヒト血清アルブミン(Recombinant Human Serum Albumin)、又は組換えヒトアルブミン変異体(Recombinant Human Albumin Mutant)とも呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
ヒトアルブミンの主な薬理作用は、組織と血管との水分の動的バランスを調整し、正常で一定の血漿量を維持するとともに、特定のイオン及び化合物に対して高い親和性を有し、これらの物質と可逆的に結合して、転送機能を発揮することである。ヒトアルブミンは、さらに生体に大量のアミノ酸備蓄を提供する。ヒトアルブミンの上記作用により、臨床の各分野に応用し、様々な治療効果を発揮することができる。ヒトアルブミンは、臨床的に、主に血漿のコロイド浸透圧の調整、血液量の拡張、創傷性若しくは出血性ショック、重症火傷及び低タンパク血症の治療に応用されており、脳卒中、肝硬変、肝性腹水及び腎疾患などの一般的な疾患にも広く応用されている。また、アルブミンは、臨床治療だけでなく、ワクチン製造に用いられる培地、薬品補助材料、診断試薬、新型腫瘍長期治療剤、化粧品、実験用生物試薬など様々な分野で非常に広く応用されている。
【0003】
ヒトアルブミンは、ハート型構造を有する一本鎖非グリコシル化タンパク質であり、585個のアミノ酸、17対のジスルフィド結合、1つの遊離チオール基を有し、分子量が66438ダルトンである。ヒトアルブミンの人体における半減期は19~21日間である。ヒトアルブミンのハート型構造は、3つのメインドメインと、17個のジスルフィド結合で包まれた6つのサブドメインとにより構成され、それらはファンデルワールス力により緩やかに結合される。結晶構造から分かるように、ジスルフィド架橋は、螺旋状の球状構造に剛性を与えるが、タンパク質が周囲の媒体の変化に応じて構造変化するのに十分な柔軟性を提供する。
【0004】
ヒトアルブミンは、一般的に、ヒト血清から分離精製して抽出されることで製造され、ヒト血清アルブミンと総称される。ヒト血清アルブミンの発見及び使用は、数十年にわたり、完全な製造及び製剤プロセス(Cohn法-限外濾過-/又は精製-低温不活性化-製剤(オクタン酸ナトリウム及び/又はN-アセチルトリプトファン))に発展しており、その製剤処方は既に世界の各国の薬局方の汎用標準となっている。ヒト血清由来のアルブミンは、安定性が高く、その製剤完成品が57℃±0.5℃の水浴に置いて50時間保温されるても、色のわずかな変化以外に、目で見える他の変化がないことが薬局方に要求される。血清由来のアルブミン製剤の全ての完成品が20~25℃で少なくとも4週間又は30~32℃で少なくとも14日間置かれ、濁り又は煙霧状の沈殿が発生したボトルに対して関連検査を行う。ヒト血清アルブミンに対してこのような厳しい熱安定性検査を行っても、臨床において依然として微小凝集体(aggregation)及びフィブリル化(fibrillation)集合体タンパク質に関連する静脈炎が発生する。臨床研究によると、孔径が15μmの一般的な輸液装置を用いてヒト血清アルブミンを静脈内投与した場合、患者の静脈炎の発生率が20%であり、孔径が5μmの精密な輸液装置を用いてヒト血清アルブミンを投与した場合、患者の静脈炎の発生率が僅か2.5%である。これにより、ヒト血清アルブミンの製造プロセスにおいて、0.1μm~0.22μmの除菌工程及び粒子除去工程を経ても、製剤の搬送及び貯蔵中に依然として新たな微小凝集体及び微小フィブリル化タンパク質が現れるため、アルブミン投与による静脈炎が発生する患者の比率が大きいことが証明される(薛小萍ら、臨床護理雑誌、2010年10月第9巻第5期第69~70ページ)。したがって、一部のヒト血清アルブミンのメーカの明細書には精密な輸液装置を用いることが明確に要求される。このようにしても、上記一部の安定しないアルブミンは、粒径が30nm~100nmにあり、一般的な除菌濾過膜(0.1μm~0.22μm)により効果的に除去することができない。当該粒径の集合体は、ポリマーと可視異物との間に介在し、免疫原性などの副作用が発生する主な原因である。
【0005】
ヒトアルブミンの他の供給源は、遺伝子組換えの方法で培養したヒトアルブミンを特異的に発現する宿主、例えば、真菌類の真核単細胞のピキア酵母又は出芽酵母などで発現された組換えヒトアルブミン、又は水稲遺伝子組換えで発現された組換えヒトアルブミンである。組換えヒトアルブミンを高度に精製した完成品は、薬局方に規定される製剤要件と同じ製剤要件を用いるが、その安定性がヒト血清由来のヒトアルブミンの安定性よりもはるかに低い。このため、出願番号がCN201610017874.7の中国特許出願には、薬局方の標準処方を基礎としてツイーン80又はツイーン20を添加する方法で組換えヒトアルブミン重合体の生成を防止することが開示されている。
【0006】
S.Baldursdottirらは、組換えヒトアルブミン溶液中の賦形剤であるポリソルベート80(ツイーン80)の安定化作用を開示し、補助材料であるオクチル酸塩及びポリソルベート酸塩(ツイーン)のrecombumin alpha(登録商標)処方における使用を観察した結果、この2種類の補助材料はいずれもタンパク質の安定性を向上させ、オクチル酸塩は高い温度でタンパク質を効果的に保護することができ、ポリソルベート酸塩(ツイーン)は低い温度で自己結合を防止することができることを開示した。また、オクチル酸塩とポリソルベート80の非線形相乗効果が観察された。(S.Baldursdottir、M.Tauhaybeche、J.Pajander、J.T.Bukrinski、L.Jorgensen、Screening of formulation parameters for stabilizing recombinant human serum albumin (rHSA) in liquid formulations、Journal of Drug Delivery Science and Technology(2016)、doi:10.1016/j.jddst.2016.05.001.)
【0007】
ポリソルベートの悪影響は、非イオン界面活性剤に残されたアルキルオキシドがタンパク質の酸化を触媒する可能性が増加することである。例えば、組換えヒト毛様体神経栄養因子(CNTF)は、ポリソルベート80中のアルキルパーオキサイドにより二量化される。ポリソルベート80における過酸化物レベルと組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG-CSF)の酸化程度とは関連性があり、かつ過酸化物により誘導された酸化は、ボトルの頂部空間における大気酸素により誘導された酸化より深刻であると思われる(Knepp VM、Whatley JL、Muchnik A、Calderwood TS.1996.Identification of antioxidants for prevention of peroxide-mediated oxidation of recombinant human ciliary neurotrophic factor and recombinant human nerve growth factor.PDA J Pharm Sci Technol 50(3):163-171及びHerman AC、Boone TC、Lu HS.1996.Characterization、formulation、and stability of Neupogen(Filgrastim)、a recombinant human granulocyte-colony stimulating factor.Pharm.Biotechnol.9:303-328.)。
【0008】
ヒトアルブミンにメチオニン及び遊離チオール基があり、体内で遊離基による過酸化を防ぎ、細胞及び器官の損傷を防止する。したがって、ポリソルベートの品質及び貯蔵条件をよく制御し、かつそれらのタンパク質での使用量の関連性を最低レベルに保持する必要があり(AGGREGATION OF THERAPEUTIC PROTEINS、P341、Edited by Wei Wang、Christopher J.Roberts、WILEY 2010)、そうでなければ、ヒトアルブミンは、部分的に酸化されて、元の酸化還元の生理活性を失うとともに、酸化されたヒトアルブミンはさらにアルブミンのアンフォールディングを促進し、ヒトアルブミンの凝集及びフィブリル化を加速する。
【0009】
ヒトアルブミンは、体内循環において、リガンド結合特性に依存して薬物、脂肪酸、ビタミン、シトクロム及び金属イオンなどを搬送するという非常に重要な生理作用を有する。
【0010】
脂肪酸は、ヒトアルブミンのリガンドとして、ヒトアルブミンの構造及び熱安定性に対して決定的な作用を有する。ヒト血清アルブミンにオクタン酸ナトリウムをリガンド安定剤として添加することにより、エンタルピー値及びTm(溶融温度)値を効果的に向上させ、熱安定性を向上させることができる。
【0011】
Brianらは、示差走査熱量測定(DSC)を用いてパルプの形態で混合された血液、遺伝子組換え酵母及び遺伝子組換え水稲から製造されたヒトアルブミン市販品のタンパク質のアンフォールディング特性を決定することを開示する。オレイン酸を添加した後、ヒトアルブミン製品のアンフォールディング変換の初期溶融温度(Tm1)は62℃から75℃などまで上昇する。当該研究により、脂肪酸リガンドのヒトアルブミンの熱安定性に対する重要性が証明されるが、タンパク質疎水領域の露出による凝集及びフィブリル化が研究されておらず、DSCが低温、常温、振動搬送の条件下での凝集及びフィブリル化を特徴付けることができない。(Brian E.Lang and Kenneth D.Cole、Biotechnol.Prog.、2014、Unfolding Properties of Recombinant Human Serum Albumin Products Are Due To Bioprocessing Steps、DOI 10.1002/btpr.1996)。
【0012】
脂肪酸以外に、ヒト血清由来のアルブミンについて、さらにビリルビン、ホルモン、脂溶性薬物、血色などのリガンドがアルブミンと緊密に結合して、アルブミンの構造安定性を向上させる。ヒト血清由来のアルブミンが脱脂された後、その安定性が急激に低下し、高度に精製された組換えヒトアルブミンと完全に一致する。
【0013】
ツイーンなどの界面活性剤について、安定剤として、その毒性作用を回避するために、その添加量をできるだけ減少させるべきであり、ツイーンなどの界面活性剤のヒトアルブミンリガンドの生理作用に対する干渉を減少させるか、又はより安全でより低用量の界面活性剤を探すことがより重要である。
【0014】
ポロキサマー(poloxamer)は、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体の一般的な名称である。ドイツBASF社製の製品は商品名がプルロニック(Pluronic)であり、非イオン界面活性剤に属する。ポロキサマーは、現在、静脈内エマルジョンに用いられる唯一に合成された乳化剤であり、ポロキサマー188は、最適な乳化性能及び安全性を有し、O/W型乳化剤であり、一般的な濃度が0.3%である(王猛ら、薬学と臨床研究 2007年第15巻第1期第10~13ページ)。
【0015】
非イオン界面活性剤として、ポロキサマー188は、ミセルを形成することにより難溶性薬物の溶解度を増加させることができ、その臨界ミセル濃度(CMC)が約0.6%である。ポロキサマー188は、血栓の形成を抑制し、血液のレオロジー活性、細胞膜の密封、食細胞の活性化(刺激された食作用及びスーパーオキシドアニオンの生成)及び好中球の脱顆粒に影響を与え、成人の骨格筋壊死を予防することができる。ポロキサマー188は、さらに脳損傷を治療することができる。研究により、ポロキサマー188がラットの試験的脳損傷による炎症及び組織損傷を軽減することができることが証明され、他の試験モデルにおいて、それが組織損傷に抵抗することができることを示す証拠もある。その保護メカニズムは、界面活性剤の酸化ストレス性及び炎症反応に対する影響に関する可能性がある。また、ポロキサマー188は、細胞の生存率を向上させることができる。研究により、単回用量のポロキサマー188を静脈注射することにより、完全なサイクルを確立して損傷した組織を効果的に回復することができることが証明される。ポロキサマー188は、様々な原因による細胞膜の欠陥を安定化することができる。ラットの研究によると、単回用量のポロキサマー188は、出血後の初期のニューロン損傷に抵抗することができるが、長期出血によるニューロン損傷に効果がなく、しかし、ポロキサマー188を毎日投与すると、長期で効果的なニューロン保護効果をもたらす可能性がある。
【0016】
出願番号がCN200480003079.8の中国特許出願には、ポロキサマーが界面活性剤として造血因子、副甲状腺ホルモン又は抗体を安定化することが開示されており、当該特許におけるタンパク質には、脂肪酸のリガンド作用がないため、タンパク質を安定化してツイーンの酸化損傷を回避するために、ポロキサマーを多く添加する。造血因子、副甲状腺ホルモン又は抗体は、小容量の注射剤(ug~mg/ボトル)であるため、ポロキサマーを高濃度で添加しても、ポロキサマーの総量が多くない。しかしながら、ヒトアルブミンは、大容量の注射剤であり、注射剤の量が5~12.5g/ボトルであり、ツイーン又はポロキサマーを低濃度で添加しても、ツイーン又はポロキサマーの総量が多い。
【0017】
したがって、当業者は、ヒトアルブミンが凝集物及びフィブリル化微小粒子を形成することを抑制し、ヒトアルブミンの臨床使用の安全性及び耐性を向上させるとともに、開示された処方におけるツイーンの毒性及びツイーン酸化物によるタンパク質の酸化変性を回避する、ヒトアルブミン含有製剤又はその製造方法を研究することに力を注ぐ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の解決しようとする技術的課題は、ヒトアルブミン製剤の安定性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
解決しようとする技術的課題を解決するために、本発明によれば、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が向上するように、前記製剤中の長鎖脂肪酸の含有量を制御することと、ポロキサマーを添加することとを含む、ヒトアルブミン含有製剤を製造する方法が提供される。
【0020】
好ましくは、前記方法は、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が向上するように、ヒトアルブミンの凝集及びフィブリル化を減少させることをさらに含む。
【0021】
好ましくは、前記方法は、前記製剤の製造完了後、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が30nm以上の粒子が現れないように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させる。
【0022】
好ましくは、前記方法は、前記製剤の製造完了後、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が100nm以上の粒子が現れないように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させる。
【0023】
好ましくは、前記方法は、前記製剤の製造完了後、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が約200nmの粒子が現れないように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させる。
【0024】
好ましくは、前記方法は、安定性が当地の薬局方の要件を満たすように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させる。
【0025】
好ましくは、前記方法は、安定性が、57℃で50h、30℃で14日間、20℃で28日間の培養中に、濁り及び可視異物が現れないという条件を満たすように、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性を向上させる。
【0026】
好ましくは、前記ヒトアルブミンは、ヒト血清アルブミンであり、前記方法は、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が向上するように、ポロキサマーを添加することを含む。
【0027】
好ましくは、前記ヒトアルブミンは、組換えヒトアルブミンであり、前記方法は、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が向上するように、長鎖脂肪酸及びポロキサマーを添加することを含む。
【0028】
好ましくは、前記長鎖脂肪酸は、塩の形態で添加される。
【0029】
好ましくは、前記長鎖脂肪酸は、ナトリウム塩の形態で添加される。
【0030】
好ましくは、前記方法は、前記製剤の製造完了後、前記長鎖脂肪酸とヒトアルブミンとのモル比が0.2~3.0である。
【0031】
好ましくは、前記方法は、前記製剤の製造完了後、前記長鎖脂肪酸とヒトアルブミンとのモル比が0.3~2.0である。
【0032】
好ましくは、前記方法は、前記製剤の製造完了後、前記ポロキサマーの含有量が10~500μg/1gのヒトアルブミンである。
【0033】
好ましくは、前記ポロキサマーは、ポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407から選択される1種又は複数種である。
【0034】
好ましくは、前記ポロキサマーは、ポロキサマー188である。
【0035】
好ましくは、前記長鎖脂肪酸は、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)から選択される1種又は複数種である。
【0036】
好ましくは、前記長鎖脂肪酸は、大豆油脂肪酸又は完全水素化大豆油脂肪酸である。
【0037】
好ましくは、前記方法は、当地の薬局方に要求される成分及び含有量を添加することをさらに含む。
【0038】
好ましくは、当地の薬局方に要求される成分は、オクタン酸ナトリウム及び/又はN-アセチルトリプトファンを含有する。
【0039】
本発明によれば、本発明に係る方法で製造されたヒトアルブミン含有製剤がさらに提供される。
【0040】
本発明によれば、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が30nm以上の粒子を含有しない、ヒトアルブミン含有製剤がさらに提供される。
【0041】
本発明によれば、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が100nm以上の粒子を含有しない、ヒトアルブミン含有製剤がさらに提供される。
【0042】
本発明によれば、ヒトアルブミンの凝集及び/又はフィブリル化により形成された、粒径が約200nm以上の粒子を含有しない、ヒトアルブミン含有製剤がさらに提供される。
【0043】
本発明によれば、前記方法が、前記製剤中のヒトアルブミンの安定性が、57℃で50h、30℃で14日間、20℃で28日間の培養中に、濁り及び可視異物が現れないという条件を満たす、ヒトアルブミン含有製剤がさらに提供される。
【0044】
本発明によれば、ポロキサマー及び長鎖脂肪酸を含有する、ヒトアルブミン含有製剤がさらに提供される。
【0045】
好ましくは、前記製剤中の長鎖脂肪酸とヒトアルブミンとのモル比は、0.2~3.0である。
【0046】
好ましくは、前記製剤中の長鎖脂肪酸とヒトアルブミンとのモル比は、0.3~2.0である。
【0047】
好ましくは、前記方法は、前記製剤中のポロキサマーの含有量が10~500μg/1gのヒトアルブミンである。
【0048】
好ましくは、前記ポロキサマーは、ポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407から選択される1種又は複数種である。
【0049】
好ましくは、前記ポロキサマーは、ポロキサマー188である。
【0050】
好ましくは、前記長鎖脂肪酸は、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)から選択される1種又は複数種である。
【0051】
好ましくは、前記長鎖脂肪酸は、大豆油脂肪酸又は完全水素化大豆油脂肪酸である。
【0052】
好ましくは、前記製剤は、当地の薬局方に要求される成分及び含有量をさらに含む。
【0053】
好ましくは、当地の薬局方に要求される成分は、オクタン酸ナトリウム及び/又はN-アセチルトリプトファンを含有する。
【0054】
本発明は、脂肪酸リガンドがヒトアルブミンの熱変性安定性を向上させ、ポロキサマーが疎水性パッチとして疎水性相互作用及び界面疎水性相互作用を遮断して凝集及びフィブリル化を減少させることにより、低温、常温、高温下での、又は振動搬送過程における凝集及びフィブリル化による安定性を向上させる。このような凝集物/集合体とフィブリル化粒子は、粒径が30nm~300nmにあり、主に100~200nmにあり、HPLC-SECにより検出できず、0.1μm~0.2μmの膜システムで効果的に濾過できない。また、安定しないアルブミン溶液系(当該凝集物/凝集体とフィブリル化粒子がきれいに除去されても)が貯蔵及び搬送過程において絶えず生じ、目で見える粒径(μm及びサブmm)になるまで粒径が増加する。
【0055】
様々な条件下でヒトアルブミンの凝集及びフィブリル化を抑制することを実現するために、本願の発明者らは極めて詳細な研究を行い、ヒト血液由来のアルブミンを解析し、結果として、ヒト血液由来のアルブミンにおいてモル当たり0.3~0.8molの長鎖脂肪酸を含有することを発見した。人体に循環するヒトアルブミンは、脂肪酸の動員及び貯蔵の生理機能を果たすために、モル当たり0.5~2.5molの長鎖脂肪酸を含有する。ヒト血液由来のアルブミンのパルプ混合製造の精製プロセスにおいて一部の長鎖脂肪酸を失う。中国薬局方2015版第三部に従って、低温不活性化及び製剤において1g当たりのアルブミンに0.140~0.180mmolのオクチル酸ナトリウムを添加し、又はアセチルトリプトファンと混合して使用し、1g当たりのアルブミンに0.064~0.096mmolのオクチル酸ナトリウムを添加し、1g当たりのアルブミンに0.064~0.096mmolのアセチルトリプトファンを添加する。また、大容量の注射剤として、製剤は、人体の生理的条件を満たすべきであり、pHが6.4~7.4であり、モル浸透圧濃度が210~400mOsmol/kgである。
【0056】
組換えヒトアルブミンの発現方式に関係なく、複数のステップの分離、クロマトグラフィー、限外濾過及び透析などの精製プロセスを行う必要があり、宿主タンパク質、多糖類、エンドトキシン及び様々な汚染を徹底的に除去するとともに、脂肪酸リガンドをきれいに除去し、脱脂されたヒトアルブミンとなる。したがって、脂肪酸及び他の人体内の様々なリガンドを失った組換えヒトアルブミンの安定性は、ヒト血液由来のアルブミンの安定性よりはるかに低い。したがって、一定量の界面活性剤は適切に添加されるが、その濃度がCMCの濃度より低く、その作用がリガンドを失ったアルブミンの疎水性パッチとして、アルブミン/空気/容器/振動気泡などの様々な疎水性界面相互作用による、アンフォールディング後の凝集作用を阻止することである。
【0057】
したがって、本発明は、ヒトアルブミンが各国の薬局方に規定される条件下で安定性の要件を満たすように、中国薬局方、米国薬局方、ヨーロッパ薬局方などの薬局方の製剤通則及びヒト血清アルブミンを基礎として、一定量のポロキサマーを添加し、長鎖脂肪酸の比率を調整する。
【発明の効果】
【0058】
本発明の利点として、長鎖脂肪酸リガンドを、人体に循環するための合理的な割合になるまで直接添加し、少量のポロキサマーを添加することにより、又は従来のヒトアルブミンの一般的な処方を基礎として、さらに少量のポロキサマーを添加することにより、ヒトアルブミンの熱安定性が向上し、貯蔵、搬送過程において凝集/集合(Aggregation)及びフィブリル化(Fibriillation)が発生しないことである。このような凝集物/集合体とフィブリル化粒子は、粒径が50nm~300nmにあり、主に100~200nmにあり、HPLC-SECにより検出できず、0.1μm~0.2μmの膜システムで効果的に濾過できない。また、安定しないアルブミン溶液系(当該凝集物がきれいに除去されても)が貯蔵及び搬送過程において絶えず生じ、目で見える粒径(μm及びサブmm)になるまで粒径が増加する。
【0059】
以下、本発明の目的、特徴及び効果を十分に理解するために、図面を参照しながら本発明の構想、具体的な構造及び技術的効果をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】実施例1におけるサンプル1(オクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンを含有するヒト血清アルブミン)の動的光散乱計(Dynamic Light Scattering、DLSと略記する)スペクトルである。
【
図2】実施例1におけるサンプル2(オクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンを含有し、ポロキサマーが添加されたヒト血清アルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図3】実施例2におけるサンプル3(オクチル酸ナトリウムのみを含有する市販のヒト血清アルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図4】実施例2におけるサンプル4(オクチル酸ナトリウムのみを含有し、ポロキサマーが添加された市販のヒト血清アルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図5】実施例3におけるサンプル5(オクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンを含有し、ポロキサマー及び長鎖脂肪酸が添加されない組換えヒトアルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図6】実施例4におけるサンプル6(オクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンを含有し、長鎖脂肪酸(オレイン酸)のみが添加された組換えヒトアルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図7】実施例5におけるサンプル7(オクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンを含有し、ポロキサマーのみが添加された組換えヒトアルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図8】実施例6におけるサンプル8(オクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンを含有し、ポロキサマー及び長鎖脂肪酸(オレイン酸)が添加された組換えヒトアルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図9】実施例7におけるサンプル9(オクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンを含有し、ポロキサマー及び長鎖脂肪酸(大豆油脂肪酸ナトリウム)が添加された組換えヒトアルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図10】実施例8におけるサンプル10(オクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンを含有し、ポロキサマー及び長鎖脂肪酸(ステアリン酸ナトリウム/オレイン酸ナトリウムの混合物)が添加された組換えヒトアルブミン)のDLSスペクトルである。
【
図11】実施例9におけるサンプル11(オクタン酸ナトリウムを含有し、ポロキサマー及び長鎖脂肪酸(ステアリン酸ナトリウム/オレイン酸ナトリウムの混合物)が添加された組換えヒトアルブミン)のDLSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、特定な具体的な実施例により本発明の実施形態を説明するが、当業者であれば、本発明の他の利点と効果を本明細書に開示された内容から容易に理解することができる。本発明は、さらに他の異なる具体的な実施形態により実施されるか又は応用されてもよく、本明細書における各詳細に対して、異なる観点及び応用に基づいて、本発明の精神から逸脱することなく様々な修飾又は変更を行ってもよい。なお、以下の実施例及び実施例における特徴は、矛盾しない限り、互いに組み合わせてもよい。
【0062】
以下、本願に用いられる用語を定義し解釈する。
【0063】
用語「ヒトアルブミン」は、ヒト血清アルブミン及び/又は組換えヒトアルブミンを指し、組換えヒトアルブミンは、組換えヒト血清アルブミン、又は組換えヒトアルブミン変異体とも呼ばれる。組換えヒトアルブミンは、少なくとも微生物の遺伝子組換えヒトアルブミン、真核細胞組換えヒトアルブミン、遺伝子組換え植物の組換えヒトアルブミン及び遺伝子組換え動物の組換えヒトアルブミンなどを含む。
【0064】
用語「製剤」は、少なくとも溶液製剤、凍結乾燥製剤又は低温噴霧乾燥製剤を含み、好ましくは溶液製剤であると理解されるべきであり、溶液製剤は、一般的に、容積が決定されたガラス又はプラスチック容器に無菌で詰められる。
【0065】
用語「ヒトアルブミン含有製剤」は、臨床注射、培地、薬用補助材料、医療機器、ワクチン補助材料、美容、分析診断試薬などの複数の面に適用される、ヒトアルブミンの濃度が異なる製剤として理解されるべきであり、例えば、ヒトアルブミンの濃度は、1%~30%であり、好ましくは10%~25%である。
【0066】
ポロキサマーは、非イオン界面活性剤であり、エチレンオキシドと1,2-プロピレンオキシドのブロック共重合体であり、その一般式がH(C2H4O)a(C3H6O)b(C2H4O)aOHである。ポロキサマー188は、中国薬局方2015年版、米国薬局方、欧州薬局方及び既に許可された薬物において、静脈注射用の脂肪エマルジョンの乳化剤、抗体注射剤の安定剤として添加され、その生物学的安全性が高い。
【0067】
用語「長鎖脂肪酸」は、炭素鎖での炭素原子数が12より大きい脂肪酸を指し、人体に許容可能な様々な供給源(合成又は抽出)からの脂肪酸、又は様々な形式で存在する脂肪酸(例えば、塩、特にナトリウム塩)として理解されるべきであり、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)及びアラキドン酸(C20:4)のうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。
【0068】
用語「制御」は、対象がヒトアルブミン含有製剤中の長鎖脂肪酸の含有量であり、以下のように、ヒトアルブミン含有製剤中の長鎖脂肪酸の量を所定の範囲内に維持することを指す。従来の方法で製造されたヒトアルブミン含有製剤、例えば、ヒト血液由来のヒトアルブミン含有製剤自体が長鎖脂肪酸を含有し、長鎖脂肪酸の含有量が所定の範囲より低い場合、「制御」は、最終的に製造されたヒトアルブミン含有製剤中の長鎖脂肪酸が所定の範囲内にあるように、ヒトアルブミン含有製剤を製造する過程において長鎖脂肪酸を添加することを指し、長鎖脂肪酸の含有量が所定の範囲内にある場合、「制御」は、ヒトアルブミン含有製剤を製造する過程においていかなる操作を必要としないことを指し、従来の方法で製造されたヒトアルブミン含有製剤が長鎖脂肪酸を含有しないか又は非常に少量含有する場合、「制御」は、最終的に製造されたヒトアルブミン含有製剤中の長鎖脂肪酸の含有量が所定の範囲内にあるように、ヒトアルブミン含有製剤を製造する過程において長鎖脂肪酸を添加することを指す。
【0069】
用語「長鎖脂肪酸」は、固定連語として理解されるべきであり、「又は」がこの連語のコンテキストといかなる論理関係がなく、「長鎖脂肪酸」の含有量を計算する場合に長鎖脂肪酸の量の総和を指し、長鎖脂肪酸の含有量が所定の範囲内にあるように、長鎖脂肪酸を添加してもよく、長鎖脂肪酸の混合物を添加してもよい。
【0070】
用語「長鎖脂肪酸の含有量」は、最終的に製造されたヒトアルブミン含有製剤中の長鎖脂肪酸の含有量として理解されるべきであり、原料自体が長鎖脂肪酸を含有するため、製造過程において残された長鎖脂肪酸の量及び追加された(「制御」過程において添加された場合)長鎖脂肪酸の量を含む。
【0071】
用語「添加」は、その対象がポロキサマーである場合、最終的に製造されたヒトアルブミン含有製剤中のポロキサマーが所定の範囲内にあるように、ヒトアルブミン含有製剤を製造する過程においてポロキサマーを添加すると理解されるべきである。
【0072】
「制御」及び「添加」ステップは、最終的に製造されたヒトアルブミン含有製剤中の長鎖脂肪酸の含有量及びポロキサマーの含有量がいずれも所定の範囲内にあるように、ヒトアルブミン含有製剤を製造する過程において実施されると理解されるべきであり、例えば、最終的に製造されたヒトアルブミン含有製剤中のポロキサマー及び長鎖脂肪酸の含有量が本発明に規定されるポロキサマー及び長鎖脂肪酸の含有量の範囲内にあることを実現するように、製剤に製造された半製品の原液に実施されてもよく、限外濾過及び透析工程により実施されてもよく、低温不活性化の前にタンパク質安定剤とする長鎖脂肪酸の添加であってもよく、精製クロマトグラフィープロセスの最後の1つのステップ又は最後のいくつかのステップにおいて実施されてもよい。
【0073】
用語「向上」は、本発明のヒトアルブミン含有製剤の安定性が従来のヒトアルブミンの安定性より高いと理解されるべきであり、例えば、本発明は、ヒトアルブミン含有製剤の貯蔵、搬送、常温培養の過程において、ヒトアルブミン凝集/集合又はフィブリル化などにより形成された、粒径が30nm~300nmの粒子が現れないことを実現する。
【0074】
用語「粒子」は、ヒトアルブミン含有製剤の貯蔵、搬送、常温培養などの過程において現れた、ヒトアルブミンの凝集/集合又はフィブリル化により形成された、一定の粒径範囲を有する物質として理解されるべきであり、本発明において、好ましくは、粒径範囲が30nm~300nmである。
【0075】
本発明のヒトアルブミン含有製剤は、冷却乾燥、凍結乾燥及び低温噴霧乾燥の凍結融解により形成された重合体、凝集物及びフィブリル化を抑制し、再溶解を加速するために用いられる。
【0076】
本発明のヒトアルブミン含有製剤は、Cohn法及びクロマトグラフィー精製により製造されたヒト血清由来のアルブミン、異なるステップで精製された組換えで発現されたヒトアルブミンを含むが、これらに限定されない。
【0077】
本発明のヒトアルブミン含有製剤のpH値の範囲は6~8であり、好ましくは、各国の薬局方によって規定されたpH値6.4~7.4である。
【0078】
本発明のヒトアルブミン含有製剤は、希釈剤、緩衝剤、可溶化剤、賦形剤、pH調整剤、硫黄含有還元剤、酸化防止剤などをさらに含んでもよい。硫黄含有還元剤は、N-アセチルDL-トリプトファン(N-アセチルトリプトファン)、N-アセチル-L-トリプトファン、N-アセチルメチオニン、N-アセチル-L-メチオニンなどを含む。一般的に用いられる緩衝剤及び希釈剤は、塩化ナトリウム溶液、リン酸ナトリウム緩衝溶液、酢酸ナトリウム溶液、クエン酸ナトリウム溶液を含み、各国の薬局方によって規定された範囲で使用されることが好ましい。
【0079】
本発明のヒトアルブミン含有製剤に、オクタン酸ナトリウム、ヘプタン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウムのような中間鎖脂肪酸、好ましくは、薬局方によって規定されたオクタン酸ナトリウムをさらに添加してもよい。
【0080】
本発明のヒトアルブミン含有製剤は、臨床注射、培地、薬用補助材料、医療機器、ワクチン補助材料、美容、分析診断試薬などの複数の面に応用されるヒトアルブミン含有製剤を含むが、これらに限定されない。
【0081】
以下、特定な具体的な実施例により本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0082】
市販のヒト血清アルブミン(サンプル1、上海莱士血液製品股▲フェン▼有限公司、ロット番号:201708A010)を用い、その処方はヒト血清アルブミンと、補助材料としてのオクタン酸ナトリウム及びアセチルトリプトファンと、を含む。その処方は、薬局方の要件を満たすように、1g当たりのアルブミンに0.079mmolのオクチル酸ナトリウムを添加し、1g当たりのアルブミンに0.076mmolのアセチルトリプトファンを添加し、pHが6.8であった。血清由来のヒトアルブミンを精製した後に残された長鎖脂肪酸の含有量をガスクロマトグラフィー方法で測定した。ヒトアルブミンをガスクロマトグラフィーで分析する具体的な方法は以下のとおりである。
【0083】
ガスクロマトグラフ:型番:7890A、メーカ:アジレント・テクノロジー株式会社、
クロマトグラフィーカラム:酸変性ポリエチレングリコールキャピラリーカラム TG-WAXMS A サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、規格:30m×0.32mm×0.25μm、
材料及び試薬:C17アルカン酸:レベル:USA標準物質、ロット番号:N-17A-JY16X、規格:>100mg、含有量:≧99.0%、パルミチン酸:レベル:国家標準物質、ロット番号:190032-201603、仕様:200mg/本、ステアリン酸:レベル:国家標準物質、ロット番号:190032-201603、仕様:200mg/本、オレイン酸:レベル:国家標準物質、ロット番号:111621-2015-06、仕様:100mg/本、含有量:≧99.0%、リノール酸:レベル:USA標準物質、ロット番号:U-59A-J6-Y、仕様:>100mg/本、含有量:≧99.0%、リノレン酸:レベル:USA標準物質、ロット番号:U-62A-S20-B、仕様:>100mg/本、含有量:≧99.0%、クロロホルム:レベル:AR、ロット番号:20170410、仕様:500ml/ボトル、含有量:≧99.0%、メーカ:国薬。
【0084】
実験方法:『中華人民共和国薬局方』2015年版に従って、内部標準物質C17アルカン酸を添加して、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸及びC17アルカン酸の絶対ピーク面積を計算し、各脂肪酸対照品溶液のピーク面積と内部標準ピーク面積の比で各脂肪酸対照品溶液の量に対して直線回帰を行い、直線回帰方程式を求め、供試品溶液の各脂肪酸の絶対ピーク面積を計算することにより、供試品の各脂肪酸の含有量を計算した。
【0085】
クロマトグラフィー条件:温度:260℃、カラム流量:2.0ml/min、パージ流量:20ml/min、分流流量:2ml/min、昇温プログラム:初期、80℃で5分間保持し、10℃/minで230℃まで上昇して25分間保持し、合計45分間であり、検出器:型番:FID、温度:280℃、水素ガス:40ml/min、空気:450ml/min、メイクアップガス:45ml/min。
【0086】
C17アルカン酸を精密に称量して内部標準溶液を調製し、脂肪酸標準品を精密に称量し、混合して対照品溶液を得た。標準曲線を測定して、ヒトアルブミン中の脂肪酸の含有量を計算した。
【0087】
ヒト血清アルブミン注射液(上海莱士201703A010)の脂肪酸の含有量の検出結果:
C16:0(パルミチン酸)の含有量(mol/1molのタンパク質):0.241
C18:0(ステアリン酸)の含有量(mol/1molのタンパク質):0.147
C18:1(オレイン酸)(mol/1molのタンパク質):0.077
C18:2(リノール酸)(mol/1molのタンパク質):0.085
C18:3リノレン酸(mol/1molのタンパク質):検出されず
C20:4(アラキドン酸)(mol/1molのタンパク質):検出されず
以上の合計:長鎖脂肪酸の比率(mol/1molのヒトアルブミン):0.55:1
動的光散乱計を用いて測定し、
動的光散乱計の型番:Litesizer 500、メーカ:Anton Paar(Shanghai) Trading Co.,Ltd、
キュベット:石英サンプルセル、
サンプル:サンプル溶液原液を測定した。
【0088】
実験方法:測定角度:自動、昇温範囲:25℃~60℃、ステップ幅:5℃
市販のヒト血清アルブミンの不安定性による30nm~300nmの粒子を分子篩クロマトグラフィーにより除去する必要があり、そのクロマトグラフィー条件:G-25充填剤(GEゼネラル・エレクトリック)、クロマトグラフィー装置:EV 50Dクロマトグラフィーシステム(蘇州利穂科技)、緩衝液系:0.1mol/Lのリン酸溶液、pH中性、精製水、サンプルをクロマトグラフィーした後に30K限外濾過膜で濃縮し、元の製剤の処方に従って製剤を製造して測定した。
【0089】
図1は市販のヒト血清アルブミン(サンプル1)の動的光散乱計のスペクトルである。
【0090】
上記方法に従ってサンプル1中の30nm~300nmの粒子を除去し、かつ1g当たりのヒトアルブミンに75μgのポロキサマー188(BASF、ロット番号WPAK527B)を添加して、サンプル2を得て、サンプル2の動的光散乱計のスペクトルは
図2に示される。
【0091】
図1及び
図2の動的光散乱計の結果から分かるように、25℃及び60℃の2つの温度点で、ポロキサマーが添加されない市販のヒト血清アルブミン(サンプル1)は、30nm-300nmの微小粒子が現れる一方、粒子が除去された後、少量のポロキサマーが添加されたヒト血清アルブミン(サンプル2)は、25℃及び60℃のいずれかの温度点においても微小粒子が現れなかった。
【0092】
本願の発明者らは、試験により、当該具体的な実施例の変形例として、ポロキサマー188をポロキサマー124、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407のうちの1種に置き換えてもよいか、又はポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407のうちの複数種を同時に用いてもよいことをさらに発見した。試験により、これらのポロキサマーも同様の効果を達成することができ、すなわち粒子が除去された後、少量のポロキサマーが添加されたヒト血清アルブミンは25℃及び60℃のいずれかの温度点においても30nm~300nmの微小粒子が現れないことが証明された。
【0093】
本願の発明者らは、試験により、少量のポロキサマーを添加するだけで理想的な効果を得ることができ、一般的に、1g当たりのヒトアルブミンに10μg以上のポロキサマーを添加すれば、30nm~300nmの微小粒子が検出されないか又は30nm~300nmの微小粒子がわずかしか現れない一方、1g当たりのヒトアルブミンにポロキサマーが500μgを超えるように添加すると、30nm~300nmの微小粒子が明らかに増加することをさらに発見した。
【実施例2】
【0094】
市販のヒト血清アルブミン(サンプル3、広東衛倫生物製薬有限公司、ロット番号:20170104)を用い、その処方成分は、ヒト血清アルブミンと、補助材料としてのオクタン酸ナトリウム及び塩化ナトリウムと、を含む。その処方は、薬局方の要件を満たし、1g当たりのアルブミンに0.159mmolのオクタン酸ナトリウムを添加し、N-アセチルトリプトファンを添加しなかった。pHが6.7であり、総ナトリウム量が160mmol/Lを超えなかった。サンプル3に残された長鎖脂肪酸の含有量を実施例1の方法で測定し、長鎖脂肪酸の比率(mol/1molのヒトアルブミン)は、0.34:1であった。
【0095】
図3はサンプル3の動的光散乱計のスペクトルである。
【0096】
実施例1における方法に従ってサンプル3中の30nm~300nmの粒子を除去し、1g当たりの処理後のヒト血清アルブミンに100μgのポロキサマー188(BASF、ロット番号WPAK527B)を添加してサンプル4を得て、その動的光散乱計のスペクトルは
図4に示される。
【0097】
図3及び
図4の動的光散乱計の結果から分かるように、25℃及び60℃の2つの温度点で、ポロキサマーが添加されない市販のヒト血清アルブミンは、30nm-300nmの微小粒子が現れた。粒子が除去された後、少量のポロキサマーが添加されたヒト血清アルブミンは、25℃及び60℃の2つの温度点でいずれも微小粒子が現れなかった。
【0098】
実施例1及び2から分かるように、薬局方に記載の二つの標準ヒト血清アルブミン処方では、ポロキサマーの無添加時に約200nmの粒子が現れる一方、ポロキサマーが少量でも添加されることで微小粒子が効果的に抑制及び防止される。
【0099】
本願の発明者らは、試験により、当該具体的な実施例の変形例として、ポロキサマー188をポロキサマー124、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407のうちの1種に置き換えてもよいか、又はポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407のうちの複数種を同時に用いてもよいことをさらに発見した。試験により、これらのポロキサマーも同様の効果を達成することができ、すなわち粒子が除去された後、少量のポロキサマーが添加されたヒト血清アルブミンは25℃及び60℃のいずれかの温度点においても30nm~300nmの微小粒子が現れないことが証明された。
【0100】
本願の発明者らは、試験により、少量のポロキサマーを添加するだけで理想的な効果を達成することができ、一般的に、1g当たりのヒトアルブミンに10μg以上のポロキサマーになるように添加すれば、実質的に30nm~300nmの微小粒子が検出されないか又は30nm~300nmの微小粒子がわずかしか現れない一方、1g当たりのヒトアルブミンにポロキサマーが500μgを超えるように添加すると、30nm~300nmの微小粒子が明らかに増加することをさらに発見した。
【実施例3】
【0101】
出願番号が201010124935.2の中国特許出願の方法に従って改良し精製した後に得られた高純度の組換えヒトアルブミン原液を測定して精製し、得られた組換えヒトアルブミンにおける長鎖脂肪酸の残留量について、長鎖脂肪酸の比率(mol/1molのヒトアルブミン)は0.059:1に等しく、ヒト血清由来のアルブミン中の長鎖脂肪酸の含有量より約10倍低い。長鎖脂肪酸及びポロキサマーを添加せず、中国薬局方2015年版の方法及び要件のみに従ってサンプル5を製造し、1g当たりのアルブミンに0.071mmolのオクチル酸ナトリウム(成都華邑薬用補料製造有限公司、ロット番号20170901)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.085mmolのアセチルトリプトファン(Adamas Reagent Co.,Ltd、ロット番号:P230264)を添加し、pHが6.8であり、総ナトリウム量が160mmol/Lを超えないように制御した。
【0102】
図5はポロキサマー及び長鎖脂肪酸が添加されない組換えヒトアルブミン(サンプル5)の動的光散乱計のスペクトルである。
【実施例4】
【0103】
サンプル6の製造について、上記実施例3の方法で得られた高純度の組換えヒトアルブミン原液に、長鎖脂肪酸/組換えヒトアルブミンのモル比が1.0:1.0(原液に残された長鎖脂肪酸が含まれる)になるまでオレイン酸ナトリウム(BBI Life Sciences、ロット番号:E802BA0026)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.081mmolのオクチル酸ナトリウム(成都華邑薬用補料製造有限公司、ロット番号:20170901)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.067mmolのアセチルトリプトファン(Adamas Reagent Co.,Ltd、ロット番号:P230264)を添加し、pHが6.7であり、総ナトリウム量が160mmol/Lを超えないように制御した。
【0104】
図6は長鎖脂肪酸のみが添加された組換えヒトアルブミン含有製剤(サンプル6)の動的光散乱計のスペクトルである。
【実施例5】
【0105】
サンプル7の製造について、上記実施例3の方法で得られた高純度の組換えヒトアルブミン原液において、1g当たりのヒトアルブミンに100μgのポロキサマー188(BASF、ロット番号WPAK527B)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.079mmolのオクチル酸ナトリウム(成都華邑薬用補料製造有限公司、ロット番号20170901)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.066mmolのアセチルトリプトファン(Adamas Reagent Co.,Ltd、ロット番号:P230264)を添加し、pHが6.6であり、総ナトリウム量が160mmol/Lを超えないように制御した。
【0106】
図7はポロキサマーのみが添加された組換えヒトアルブミン(サンプル7)の動的光散乱計のスペクトルである。
【実施例6】
【0107】
サンプル8の製造について、上記実施例3の方法で得られた高純度の組換えヒトアルブミン原液において、1g当たりのヒトアルブミンに100μgのポロキサマー188(BASF、ロット番号WPAK527B)を添加し、長鎖脂肪酸/組換えヒトアルブミンのモル比が1.0:1.0(原液に残された長鎖脂肪酸が含まれる)になるまでオレイン酸ナトリウム(BBI Life Sciences、ロット番号:E802BA0026)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.083mmolのオクチル酸ナトリウム(成都華邑薬用補料製造有限公司、ロット番号20170901)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.084mmolのアセチルトリプトファン(Adamas Reagent Co.,Ltd、ロット番号:P230264)を添加し、pHが6.8であり、総ナトリウム量が160mmol/Lを超えないように制御した。
【0108】
図8はポロキサマー及び長鎖脂肪酸が添加された組換えヒトアルブミン(サンプル8)の動的光散乱計のスペクトルである。
【実施例7】
【0109】
サンプル9の製造について、上記実施例3の方法で得られた高純度の組換えヒトアルブミン原液において、1g当たりのヒトアルブミンに100μgのポロキサマー188(6BASF、ロット番号WPAK527B)を添加し、長鎖脂肪酸/組換えヒトアルブミンのモル比が0.5:1.0(原液に残された長鎖脂肪酸が含まれる)になるまで大豆油脂肪酸ナトリウム(青島瑞諾化工有限公司、ロット番号:20190121)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.082mmolのオクチル酸ナトリウム(成都華邑薬用補料製造有限公司、ロット番号20170901)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.080mmolのアセチルトリプトファン(Adamas Reagent Co.,Ltd、ロット番号:P230264)を添加し、pHが6.9であり、総ナトリウム量が160mmol/Lを超えないように制御した。
【0110】
図9はポロキサマー及び長鎖脂肪酸(大豆油脂肪酸ナトリウム)が添加された組換えヒトアルブミン(サンプル9)の動的光散乱計のスペクトルである。
【実施例8】
【0111】
サンプル10の製造について、上記実施例3の方法で得られた高純度の組換えヒトアルブミン原液において、1g当たりのヒトアルブミンに50μgのポロキサマー188(BASF、ロット番号WPAK527B)を添加し、ステアリン酸ナトリウム(Damas-beta、ロット番号:P1042477)とオレイン酸ナトリウム(BBI Life Sciences、ロット番号:E802BA0026)を、1:2のモル比で均一に混合した後、混合長鎖脂肪酸/組換えヒトアルブミンのモル比が0.6:1.0(原液に残された長鎖脂肪酸が含まれる)になるように添加し、1g当たりのアルブミンに0.086mmolのオクチル酸ナトリウム(成都華邑薬用補料製造有限公司、ロット番号20170901)を添加し、1g当たりのアルブミンに0.076mmolのアセチルトリプトファン(Adamas Reagent Co.,Ltd、ロット番号:P230264)を添加し、pHが7.0であり、総ナトリウム量が160mmol/Lを超えないように制御した。
【0112】
図10はポロキサマー及び長鎖脂肪酸(ステアリン酸ナトリウム/オレイン酸ナトリウムの混合物)が添加された組換えヒトアルブミン(サンプル10)の動的光散乱計のスペクトルである。
【実施例9】
【0113】
サンプル11の製造について、上記実施例3の方法で得られた高純度の組換えヒトアルブミン原液において、1g当たりのヒトアルブミンに50μgのポロキサマー188(BASF、ロット番号WPAK527B)を添加し、ステアリン酸ナトリウム(Damas-beta、ロット番号:P1042477)とオレイン酸ナトリウム(BBI Life Sciences、ロット番号:E802BA0026)を、1:2のモル比で均一に混合した後、混合長鎖脂肪酸/組換えヒトアルブミンのモル比が0.6:1.0(原液に残された長鎖脂肪酸が含まれる)になるように添加し、1g当たりのアルブミンに0.153mmolのオクチル酸ナトリウム(成都華邑薬用補料製造有限公司、ロット番号20170901)を添加し、pHが7.0であり、総ナトリウム量が160mmol/Lを超えないように制御した。
【0114】
図11はポロキサマー及び長鎖脂肪酸(ステアリン酸ナトリウム/オレイン酸ナトリウムの混合物)が添加された組換えヒトアルブミン(サンプル11)の動的光散乱計のスペクトルである。
【実施例10】
【0115】
実施例1~9で製造されたサンプル(サンプル1~11)の培養及び熱安定性の試験を行った。その方法は『中国薬局方』2015年版三部第244ページ~第245ページに示される。その実験結果は表1に示される。
【0116】
【0117】
以上の実施例により、オレイン酸、大豆油脂肪酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム/オレイン酸ナトリウムの混合物とポロキサマーの併用による組換えヒトアルブミン製剤の安定性の促進作用が証明された。本願の発明者らは、試験により、当該具体的な実施例の変形例として、長鎖脂肪酸が、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、アラキドン酸(C20:4)のうちの1種又は複数種をさらに用いることができることをさらに発見した。試験により、これらの長鎖脂肪酸も同様の効果を達成することができ、すなわちポロキサマーと併用することにより組換えヒトアルブミン製剤の安定性を促進することができることが証明された。上記安定性の試験において結果は陰性であった。
【0118】
本願の発明者らは、試験により、当該具体的な実施例の変形例として、ポロキサマー188をポロキサマー124、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407のうちの1種に置き換えてもよいか、又はポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338及びポロキサマー407のうちの複数種を同時に用いてもよいことをさらに発見した。試験により、これらのポロキサマーも同様の効果を達成することができ、適量の長鎖脂肪酸が添加された後、ポロキサマーを少量に添加することによりヒト血清アルブミンの安定性要件が満たされることが証明された。
【0119】
本願の発明者らは、試験により、少量のポロキサマーを添加するだけで理想的な効果を達成することができ、一般的に、1g当たりのヒトアルブミンに10μg以上のポロキサマーを添加すれば、安定性観察結果が基本的に陰性である一方、1g当たりのヒトアルブミンにポロキサマーが500μgを超えるように添加すると、安定性観察結果に陽性が現れ始めることをさらに発見した。
【0120】
本願の発明者らは、試験により、長鎖脂肪酸とヒトアルブミンとのモル比が0.2~3.0であり、特に0.3~2.0である場合、ヒトアルブミン製剤の安定性が最適な状態にあり、長鎖脂肪酸とヒトアルブミンとのモル比が0.3より低いか又は2.0より高い場合、安定性観察結果に少量の陽性が現れ、長鎖脂肪酸とヒトアルブミンとのモル比が0.2より低いか又は3.0より高い場合、安定性観察結果に大量の陽性が現れることをさらに発見した。
【実施例11】
【0121】
実施例3~9の方法で製造されたサンプル5~11に対して、示差走査熱量測定(DSC)を行ってスペクトルを分析した。DSC型番:Nano DSC 602000、メーカ:TA、サンプル希釈液:0.01mol/Lのリン酸、pH中性。実験条件:サンプル原液を希釈液で1~5mg/mlに希釈し、昇温範囲:45℃~90℃、ステップ幅:1℃/min。その実験結果は表2に示される。
【0122】
【0123】
本発明の上記結果は、ポロキサマーと長鎖脂肪酸が相乗的な安定性効果を有することを示す。ヒト血清アルブミン製品自体に残された長鎖脂肪酸及び他のリガンドと人体に循環する長鎖脂肪酸及び他のリガンドのため、長鎖脂肪酸をさらに添加する必要がなく、少量のポロキサマーを添加するだけで30nm~300nmの粒子を効果的に抑制し、熱安定性を向上させることができる。
【0124】
高度に精製された組換えヒトアルブミンは基本的に完全に脱脂され、30nm~300nmの粒子を抑制するために、ポロキサマーを添加する必要がある。実験結果を比較すると、ポロキサマー、従来の薬局方におけるオクチル酸ナトリウム(中間鎖脂肪酸)及びアセチルトリプトファンのみが添加される場合、中間鎖脂肪酸がTonset、Tm1及びTm2を効果的に向上させることができるが、アルブミンの各隣接するドメインのリガンドに対する長鎖脂肪酸の相互支持作用が乏しいため、依然として熱安定性の要件を満たすことができない。
【0125】
したがって、長鎖脂肪酸の含有量を制御してTonset、Tm1及びTm2を効果的に向上させることができ、タンパク質のドメインの関連安定性を向上させるとともに少量のポロキサマーを添加して、疎水性相互作用を抑制する必要がある。本発明におけるヒトアルブミン含有製剤は、57℃/50h培養、30℃/14日間培養及び20℃/28日間培養の安定性要件を満たすことができ、その安定性指数が優れ、2℃~8℃、室温での長期貯蔵及び搬送の安定性要件を満たす。
【0126】
上記実施例は、単に本発明の原理及びその効果を例示的に説明するものであり、本発明を限定するものではない。当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、上記実施例を修正するか又は変更することができる。したがって、当業者が本発明に開示された精神及び技術的思想から逸脱することなく行った全ての等価修正又は変更は、依然として本発明の特許請求の範囲に含まれるべきである。