(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】パルス電磁波を用いた大気中の粒子状汚染物質を低減するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
B01D 49/00 20060101AFI20240109BHJP
F24F 8/192 20210101ALI20240109BHJP
【FI】
B01D49/00
F24F8/192
(21)【出願番号】P 2022574695
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 IN2021050156
(87)【国際公開番号】W WO2021245687
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】202041023125
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】522471054
【氏名又は名称】デヴィック アース プライベート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DEVIC EARTH PRIVATE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソラ,スリカンス
(72)【発明者】
【氏名】カニガンティ,ラディカ
(72)【発明者】
【氏名】メノン,マリニ
(72)【発明者】
【氏名】カラヴァティ,フランシスカ
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-325729(JP,A)
【文献】特開平9-290125(JP,A)
【文献】特開平11-216325(JP,A)
【文献】特表2019-531189(JP,A)
【文献】実開昭62-140923(JP,U)
【文献】特開昭51-110768(JP,A)
【文献】特開2012-219674(JP,A)
【文献】特開2003-201824(JP,A)
【文献】特開2011-64173(JP,A)
【文献】特開平3-98614(JP,A)
【文献】特開平3-199834(JP,A)
【文献】特開2004-332959(JP,A)
【文献】特表2007-518900(JP,A)
【文献】特開2014-92335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 49/00、51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中に浮遊する粒子状物質の割合を低減するための方法であって、
所定の周波数の高周波信号を生成するステップと、
電磁波として放射するアンテナに供給するために、生成した信号を電力増幅器によって電力増幅するステップと、
パルス高周波信号を生成するために、電力増幅された信号がアンテナに到達するのを所定の時間、周期的に中断するステップと、
大気中に浮遊する粒子状物質の凝集および沈降を促進するために、大気中にパルス電磁放射を放射するための送信アンテナにパルス高周波信号を送るステップと、
を含み、それにより大気中に浮遊する粒子状物質の割合を低減する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記所定の周波数が高周波数帯内である方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記所定の周波数が800MHz~5GHzである方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記所定の周波数が2.4GHz~2.5GHzである方法。
【請求項5】
大気中に浮遊する粒子状物質の割合を低減する装置(215)であって、
所定の周波数の信号を生成する信号発生器(305)と、
電磁波として放射するアンテナに供給するために、生成した信号を電力増幅する電力増幅器(310)と、
電力増幅された信号がアンテナ(240および245)に到達するのを周期的に中断するためのパルス幅変調器(325)と、を含み、
前記アンテナ(240および245)は、大気中に浮遊する粒子状物質の凝集を促進するためにパルス電磁放射を大気中に放射するものであり、それにより粒子状物質の沈降を促進し、大気中に浮遊する粒子状物質の割合を低減する装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置(215)であって、前記信号発生器(305)は高周波数帯内で信号を発生する装置。
【請求項7】
請求項5に記載の装置(215)であって、前記信号発生器(305)は800MHz~5GHzの周波数の信号を発生する装置。
【請求項8】
大気中に浮遊する粒子状物質の割合の低減を管理するためのシステム(200)であって、
前記システムは、請求項1に記載の装置(215)に通信可能に結合されたリモートサーバ(205)を含み、
前記リモートサーバ(205)は、
請求項1に記載の装置(215)の正常状態を監視すること、および、
装置の地理的位置、装置の地理的位置における現在の大気状態、地理的位置における汚染特性の推定値、および装置(215)のユーザによって提供される1つ以上の入力を含むがこれらに限定されない一群のファクターから選択された1つ以上のファクターに応じて操作するために、請求項1に記載の装置(215)に操作命令を伝達すること、
のうち1つ以上を行うよう構成されたデータおよび命令を含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大気中の粒子状汚染物質を低減させる分野に関する。特に、大気中の粒子状汚染物質を低減させるために電磁放射を使用する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染は世界人口の92%に影響を与えており、年間700万人の早期死亡の原因になっていると推定されている。また、開発途上国の国内総生産の8.5%が大気汚染によって損なわれていると推定されている。大気の質の悪さは、開発途上国において大きな懸念事項となっている。粒子状物質は、人間の健康に有害な主要汚染物質の1つとして長い間認識されてきた(Harrison and Yin, 2000; Leiva G et al., 2013; Martinelli, Olivieri and Girelli, 2013)。
【0003】
世界の都市住民が経験する曝露レベルにおいて、粒子状物質が公衆衛生に悪影響を及ぼすという説得力のある証拠がある(World Health Organization, 2005)。ナショナル クリーン エア プログラム発案による最近の調査では、インドで国家環境大気質基準を満たさない102の未達成都市が特定された。大気の質を改善するための従来の汚染管理戦略には、化石燃料に代わるグリーンエネルギー効率の高い燃料の普及が含まれている。また、グリーン輸送システムの利用も含まれている。産業施設では電気集塵機、スクラバー、フィルタの使用が法律で義務付けられており、産業界のコンプライアンス強化に向けた取り組みが行われている。
【0004】
このような対策にもかかわらず、大気汚染は増加の一途をたどっている。市場にはいくつかの大気汚染防止装置があるが、そのほとんどは初期資本コストが高く、運用・維持コストが高く、適用範囲が狭いことに関連している。
【0005】
従来より利用可能な空気清浄技術には、アクティブ型とパッシブ型の2種類がある。アクティブ型空気清浄機はマイナス電荷のイオンを大気中に放出して汚染物質を表面に付着させ、パッシブ型空気清浄機はエアフィルタを使用して汚染物質を除去する。
【0006】
最も一般的なタイプの空気清浄技術を以下に示す。
・HEPA技術
・活性炭技術
・電気集塵機
・マイナスイオン
・オゾン
【0007】
それぞれの技術の主な特徴と、主なメリット・デメリットを
図1の表に示す。
【0008】
HEPA(High Efficiency Particulate Air)技術では、あらかじめ定められた基準を満たしたフィルタを使用する。大きな粒子は繊維の隙間を通過することができず、捕捉される。小さな粒子は、遮断、嵌入、拡散の3つのメカニズムのいずれかによって捕捉される。HEPA空気清浄機は、空中浮遊粒子を捕捉するのに最も効果的である。
【0009】
活性炭技術は、きわめて多孔質で、吸収・吸着しやすいように非常に大きな表面積を付与するように処理された形態の炭素を使用する。活性炭フィルタを備えた空気清浄機は、カーペット、木製パネル、家具の張り地などに含まれるホルムアルデヒドを吸収するため、特に多種化学物質過敏症(MCS)のある人々に有効である。活性炭エアフィルタは、大気の汚染を減らすのに有用である。しかし、アレルゲンや空中浮遊粒子を除去する効率は低くなる。また、閉鎖された空間や限られた範囲で有効である。
【0010】
電気集塵機は、静電空気清浄機とも呼ばれ、高強度の電界を利用して煙突や煙道内の空気やガスから固体粒子や液滴などの特定の不純物を除去する装置である。電気集塵機は、もともとは工業用プロセス材料の有価物回収のために設置されていたが、大気汚染の制御に使用されている。一度捕集されたダスト粒子は、定期的に集塵板から除去される。電気集塵機は、粒子状汚染物質の除去に有効であり、工業用煙突において、乾性汚染物質だけでなく湿性汚染物質も低運用コストで捕集するために使用できる。しかし、電気集塵機は初期投資コストが高い。また、電気集塵機は設置に広いスペースが必要であり、一度設置すると柔軟な運用ができない。
【0011】
マイナスイオン空気清浄機は、化学物質を噴射して空気を清浄にする。イオンとは、プラスまたはマイナスの電荷を有する粒子である。マイナスイオンは、単に電子を獲得した原子である。マイナスイオンは、新たに形成される粒子が重すぎて空気中に浮遊していられなくなるまで、花粉やほこりなどの空中浮遊粒子を引き寄せる。これにより、粒子が落下して沈降し、空気が清浄化される。
【0012】
オゾン空気清浄機は、オゾン(O3)を発生させ、強い臭気や空気中の化学物質と反応させる装置である。これらの装置は、室内の空気汚染を制御する上で安全で効果的であると考えられているが、人によっては呼吸困難を引き起こし、また発がん性の可能性もあるため、各国政府はこれらの装置を承認していない。さらに、オゾン自体も汚染物質であると考えられている。
【0013】
これらの装置および方法はすべて、限定されたエリア、または閉鎖された空間で有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本開示の詳細な説明でさらに説明する概念の抜粋を簡単な方法で紹介するために、本概要を提供する。本概要は、発明の対象の重要な又は本質的な発明概念を特定することを意図するものではなく、本開示の範囲を決定することを意図したものでもない。
【0015】
このように、広範囲にわたって粒子状汚染物質を低減することができる利用可能な方法またはシステムは存在しない。したがって、粒子状物質およびガス状汚染物質を大気から浄化する方法、および浮遊粒子または粒子状汚染物質を周辺空気から除去する空気清浄機に対する必要性が長く感じられてきた。
【0016】
本開示は、粒子状物質、およびいくつかのガス状汚染物質を大気から除去する最新技術の方法の欠点の少なくとも1つを克服することができる、空気清浄方法を開示する。
【0017】
本開示は、大気に含まれる粒子状物質、およびいくつかのガス状汚染物質を除去する最新技術のシステムの欠点の少なくとも1つを克服することができる、空気清浄システムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
開示された方法は、大気中の粒子状物質の凝集を促進し、粒子状物質が凝集体として沈降し、それにより大気中の粒子状物質の割合を低減させるための高周波数帯のパルス電磁放射を放射することを含む。10μm未満の浮遊粒子状物質が電波と相互作用することにより凝集して重くなり、その結果、沈降が促進される。そのため、浮遊粒子状物質は、他の方法よりも速く沈降する。沈降がない場合、空気中から固体表面への粒子の除去または移動は、乾性沈着という自然現象によって起こる。さらに、この方法は、システムを取り囲む半径1~3kmの広範囲での実施に効果的である。
【0019】
また、大気中の粒子状物質が沈殿物として沈降するように凝集を促進し、それによって大気中の粒子状物質の割合を低減させるための、予め定められた公称周波数で高周波帯のパルス電磁放射を放射するための装置も開示する。
【0020】
本開示はさらに、空気の浄化を効果的に管理することができる、本開示の装置を含むシステムを開示する。
【0021】
開示されたシステムは、好ましくは800MHz~5GHzの周波数帯の電波を、予め定められたパルス方式で放射する。基本的に、本開示のシステムは、予め定められた周波数で発振するように調整された、または他の方法で構成された高周波発振器を備えた装置を含む。信号は適切に電力増幅され、適切なスイッチを用いて、増幅された出力が放射アンテナに送られる。一実施形態において、本開示のシステムは2つのアンテナを有し、1つは偏光無指向性アンテナであり、もう1つは指向性アンテナである。無指向性アンテナは、全周をカバーするために使用され、システムの全周囲で粒子状物質の凝集を誘発する。指向性アンテナは、汚染源がわかっている場合に使用され、粒子状物質の放出をその発生源で制御して、汚染が広範囲に広がるのを防ぐ。電力増幅された信号は、エコートレイン長(echo train length)(5~200)、デューティー比(10~80%)、およびパルス電力振幅(pulse power amplitude)(最大電力の20~100%)を変化させてパルス化される。
【0022】
さらに、本開示の利点および特徴を明確にするために、本開示のより具体的な説明を、添付図面に示す特定の実施形態を参照することにより行う。これらの図は、本開示の典型的な実施形態のみを示すものであり、したがって、その範囲を限定するものではないことを理解されたい。開示された方法、装置、およびシステムについて、添付図面を用いてさらに具体的かつ詳細に記載および説明する。
【0023】
本開示について、添付図面を用いて、さらに具体的かつ詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、周囲または/および室内の汚染を防止または低減するための先行技術の方法を比較する表である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態による、大気中の粒子状汚染物質を低減するためのシステムのブロック図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態による、大気中の粒子状汚染物質を低減するためのパルス電磁波を生成し放射するための装置215の詳細なブロック図である。
【0025】
さらに、本開示が属する技術分野の当業者は、図中の要素が簡略化されており、必ずしも縮尺通りに描かれていない可能性があることを理解するであろう。さらに、接合リングの構造および軸受アセンブリの1つ以上の構成要素に関して、慣習的な記号によって図に表されている場合がある。図面は、本開示の利益を受ける当業者に容易に明らかである詳細によって図面が不明瞭とならないように、本開示の実施形態の理解に関連する特定の詳細のみを示す場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の原理の理解を促進するために、図示した実施形態を参照し、特定の用語を用いて本開示の原理を説明する。しかしながら、それによって本開示の範囲を限定する意図はないことを理解されたい。本開示に関連する当業者が通常想起しうる、本開示に対する変更およびさらなる改変、ならびに本開示に記載されている原理のさらなる適用は、本開示の一部であるとみなされる。
【0027】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、本開示の例示および説明であり、本開示を限定することを意図していないことを当業者は理解するであろう。
【0028】
本開示では、第1および第2などの相関的な用語(relational terms)は、必ずしも実体間の実際の関係または順序を意味することなく、ある実体を他の実体から区別するために使用される場合がある。
【0029】
用語「備える(comprise)」、「備える(comprising)」、またはそれらの他の変形は、ステップのリストを含むプロセスまたは方法がそれらのステップのみを含むものではなく、明示的にリストされていない、又はそのようなプロセスまたは方法に固有の他のステップを含み得るように、非排他的な包括をカバーすることを意図するものである。同様に、「備える(comprises・・・a)」で始まる1つ以上の要素または構造または構成要素についてのさらなる制約はなく、他の要素、他の構造、他の構成要素、追加の装置、追加の要素、追加の構造、または追加の構成要素の存在を排除するものではない。本開示における「一実施形態において(in an embodiment)」、「他の実施形態において(in another embodiment)」および同様の用語は、すべて同じ実施形態を指す場合があるが、必ずしもそうであるとは限らない。
【0030】
特に定義しない限り、本開示で用いるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本開示で提供される構成要素、方法、および実施例は、例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。
【0031】
本開示の態様は、任意の数の異なるコンピューティングシステム、環境、および/または構成で実施され得るが、実施形態を以下で例示的に説明する。
【0032】
図2は、本開示の一実施形態による、大気中の粒子状汚染物質を低減するためのシステムのブロック図である。図に示すように、システム200は、サーバ205、通信ネットワーク210、およびパルス電磁波発生装置215(以下、装置215という)を含み、装置215は、制御モジュール220、電源モジュール225、RF送信機230、RFスイッチ235、および2つのアンテナ240、245を含む。
【0033】
サーバ205は、例えば、1つ以上のプロセッサ、関連処理モジュール、インターフェースおよび記憶装置を備えた、コンピュータサーバ、コンピュータネットワーク又は仮想サーバを含む。図に示すように、サーバ205は、通信ネットワーク210を介して装置215に通信可能に接続されている。本開示の一実施形態では、サーバ205は、1つ以上のファクターに応じて装置215を操作する操作命令を装置215に伝達する。1つ以上のファクターとは、装置215の地理的位置、装置215の地理的位置における現在の大気状態、すなわち周囲温度および相対湿度またはその双方、地理的位置における汚染特性の推定値、並びに装置215のユーザによって提供される1つ以上の入力を含み得るが、これらに限定されるものではない。すなわち、サーバ205は、大気汚染を低減するための装置215の遠隔操作を可能にする。さらに、サーバ205は、装置215の正常状態を監視することができる。サーバ205は、装置215と同タイプの複数の装置と通信可能に接続されてもよく、同一または異なる地理的位置の様々な装置を用いて大気汚染を制御し、複数の装置の正常状態を監視することができる。
【0034】
通信ネットワーク210は、無線ネットワークまたは有線ネットワークまたはそれらの組み合わせであってもよい。無線ネットワークは、長距離無線、無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN)、無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)、3G、4Gなどのモバイルデータ通信、またはその他の類似の技術を含んでもよい。通信ネットワーク210は、イントラネット、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、インターネットなどの異なるタイプのネットワークのうちの1つとして実装されてもよい。通信ネットワーク210は、専用ネットワークまたは共有ネットワークのいずれであってもよい。共有ネットワークは、例えば、HTTP(Hypertext Transfer Protocol)、TCP/IP(Transmission Control Protocol / Internet Protocol)、WAP(Wireless Application Protocol)などの、さまざまなプロトコルを用いる異なるタイプのネットワークの関連付けのことを示す。さらに、通信ネットワーク210は、ルータ、ブリッジ、サーバ、モデム、コンピューティングデバイス、ストレージデバイスなどを含むさまざまなネットワークデバイスを含んでもよい。一実施形態では、通信ネットワーク210は、サーバ205と、パルス電磁波を発生する装置215との間の通信を可能にするインターネットである。
【0035】
本開示の一実施形態において、装置215は、2.4~2.5GHz(ISMバンド)の周波数帯でパルス電磁波を生成し、生成されたパルス電磁波は、単方向アンテナまたは無方向性アンテナ、あるいはその双方を用いて放射される。電磁波は、局所的な条件、すなわち地理的領域の気温や相対湿度、またはその双方に応じて、エコートレイン長、デューティー比、およびパルス振幅を変化させてパルス化される。放射されたパルス電磁波は、空間的に不均一な電界の影響を受けて誘電効果を生じる。その結果、微小な汚染物質粒子は誘電泳動力によって正味の並進運動(net translational motion)を行う。汚染物質粒子の運動が促進され、空気中の汚染物質粒子は凝集して沈降し、それによって空気中の汚染物質の濃度が低下する。空気中の粒子状汚染物質を低減するためのパルス電磁波の発生および放射の態様について、以下にさらに詳細に説明する。
【0036】
図3は、本開示の一実施形態による、大気中の粒子状汚染物質を低減するためのパルス電磁波を生成し放射するための装置215の詳細なブロック図である。
図2を参照して説明するように、装置215は、制御モジュール220、電源モジュール225、RF送信機230、RFスイッチ235、および2つのアンテナ240および245を含む。さらに、本開示の一実施形態において、RF送信機230は、信号発生器305と、RF増幅器310と、基準発振器315とを含む。パルス電磁波を生成する際の前記モジュールの機能については、以下でさらに詳細に説明する。
【0037】
制御モジュール220は、装置215の様々な操作を制御するためのマイクロコントローラを含む。一実施形態において、制御モジュール220は、32MHzの内部クロック(プログラム可能)で操作する8ビットのマイクロコントローラである。制御モジュール220は、イーサネットコントローラ320、信号発生器305(RFシンセサイザ)、RF増幅器310、およびRFスイッチ235を制御する。制御モジュール220(マイクロコントローラ)とイーサネットコントローラ320との間の通信は、SPIプロトコルによって行われる。イーサネットコントローラ320の一端は制御モジュール220に接続され、他端はRJ45コネクタに接続される。制御モジュール220は、通信モデムおよびイーサネットコントローラ320を介して、リモートコントロールデータを受信する。一実施形態において、制御モジュール220および信号発生器305は、SPIプロトコルによって通信する。本開示の一実施形態においては、制御モジュール220は、信号発生器305を適切な出力周波数、デューティー比、および出力電力とするようプログラムするために用いられる。信号発生器305の出力電力は、3dBごとの段階で変更できる。イーサネットコントローラ320は、2G/3G/LTEおよびイーサネット対応モデムと通信することができ、それによりインターネットアクセスを確立することができる。制御モジュール220は、RFパルスパラメータの制御および変動、並びに遠隔監視を保証する。
【0038】
電源モジュール225は、AC入力が90~264VAC、50/60Hz、DC出力が12V、2A、24Wのアダプタが介在している。デバイス内のすべてのICの供給電圧は3.3Vまたは5Vのいずれかである。一実施形態において、DC/DCコンバータまたはレギュレータを用いて、アダプタからの電圧を2段階降圧する。各レギュレータの最大電流は1Aである。レギュレータはいずれもAC/DCアダプタから12Vを受け取る。DC/DCコンバータは、DC電圧を3.3Vおよび5Vに変換する。十分な電力消散のために、適切なヒートシンクの選択と、モジュール下の銅領域が確保されている。さらに、DC/DCコンバータのEMIフィルタ回路を備え、入力電圧をフィルタリングすることにより、伝導および放射試験の双方でEMIノイズを効果的に低減する。電源モジュール225は、装置215のすべてのモジュールにDC動作電圧を供給する。
【0039】
上述したように、装置215は、800MHz~5GHzの周波数帯でパルス電磁波を生成し、生成されたパルス電磁波は、単方向性アンテナおよび無指向性アンテナのいずれかを用いて放射される。具体的には、信号発生器305は、基準発振器315から入力された基準から所望の周波数を有する信号を生成する。生成された信号は、RF増幅器310を用いて増幅される。増幅した信号を周期的に中断してパルス信号(パルス電磁波)を生成する。パルス電磁波は、RFスイッチ235を使用し、選択したアンテナ240および245のうちの1つを介して空気中に放射される。パルス電磁波は、空気中に浮遊する粒子状物質の凝集を促進し、それによって粒子状物質の沈降を促進し、空気中に浮遊する粒子状物質の割合を低減する。パルス電磁波は、1つ以上の方法で生成され得ることに留意されたい。上述のように、一実施形態において、信号発生器305を用いて信号を生成し、RF増幅器310を用いて信号を増幅し、増幅した信号をアンテナに供給する前に中断してパルス信号(パルス電磁波)を生成する。他の実施形態では、信号発生器305を用いて信号を生成し、生成された信号を、パルス信号を生成するためのRF増幅器310に供給する前に中断し、パルス信号を増幅してアンテナに供給する。信号を中断するためのパルス幅変調器325を
図3に示す。さらに他の実施形態では、信号発生器305を用いてパルス信号を生成し、そのパルス信号を電力増幅してアンテナに供給する。信号発生器305およびRF増幅器310は、必要な電力およびデューティサイクルを達成するためにデジタル的に制御されることに留意されたい。このように、パルス電磁波を生成するために、いずれかの方法を実施することができる。その方法の一つを説明するために、パルス幅変調器325を
図3に示す。
【0040】
図3を再び参照すると、本開示の一実施形態では、信号発生器305は、基準発振器315からの単一の基準周波数から、800MHz~5GHzの周波数帯の信号を生成する。すなわち、信号発生器305は、RF発振器315からRF基準入力を受信し、出力を生成する。RF出力電力の最小値は-4dBmであり、最大値は+5dBmである。出力周波数はRFシンセサイザ305でプログラム可能であり、その出力はRF増幅器310に供給される。
【0041】
上述したように、基準発振器315は、800MHz~5GHzの信号を生成するために、基準周波数を信号発生器305に入力する。一実施形態では、25MHzの基準信号を生成するために、25MHzの温度補償型水晶発振器が使用される。本実施形態では、基準発振器315は、圧電または他の適切な基準で、25MHzの好ましい周波数を有するように選択される。
【0042】
本開示の一実施形態において、RF増幅器310は、信号発生器305からの信号を受信し、信号発生器305からの出力電力を制御する可変利得RF増幅器である。RF増幅器310の出力は、RFスイッチ235に連絡される。
【0043】
本開示の一実施形態では、RFスイッチ235は、パルス電磁放射を空気中に放射するための、無指向性アンテナ240又は指向性アンテナ245のいずれか1つを選択するために使用される。好ましい実施形態において、RFスイッチ235は、RF増幅器310からの入力を受取るためのデジタル制御の単極双投スイッチである。制御モジュール220からの論理制御電圧を通じて、無指向性アンテナ240または指向性アンテナ245を介して電磁放射を放射するために、出力RF1またはRF2が選択される。RFスイッチ235は、2つのRF経路間に所望の絶縁を提供する。
【0044】
アンテナ240および245は、パルス電磁波を空気中に放射するための広帯域の無指向性アンテナおよび指向性アンテナである。無指向性アンテナ240は全周囲をカバーする場合に使用され、アンテナ240の全周囲に粒子状物質の凝集を誘導する。指向性アンテナ245は、汚染源が分かっており、その汚染源で粒子状物質の放出を抑制する場合に用いられ、粒子状物質がより広い範囲に拡散することを防止する。用途に基づいて、制御モジュール220を通じ、RFスイッチ235を介して、アンテナ240および245のうちの1つが選択される。
【0045】
<作動メカニズム>
装置215の制御モジュール220は、RF信号発生器305、RFスイッチ235、および可変利得RF増幅器310内のデジタルステップ減衰器を制御する。基準発振器315は、RF信号発生器305に必要な基準周波数を提供する。基準信号と制御モジュール220による制御に基づいて、RF信号発生器305は、800MHz~5GHzの周波数(ローカル条件に従ってプログラム可能)において4つの異なるレベル(-4dBm~5dBm)の出力を生成する。このRF信号は、可変利得RF増幅器310によって、制御モジュール220を用いて(デジタルステップ減衰器の減衰を制御することによって)デジタル制御可能なレベルまで増幅される。可変利得RF増幅器310の出力電力は、外部に接続されたアンテナを駆動する。アンテナは、制御モジュール220によって制御される単極双投スイッチ235を介して接続される。装置215は、インターネットアクセスを使用し、サーバ205および通信ネットワーク210を介してリモートでアクセスし、アンテナおよびパルス変調パラメータの選択を行うことも可能である。
【0046】
作動中、アンテナ240および245のうちの1つがパルス電磁波を空気中に放射する。放射されたパルス電磁波は、空間的に不均一な電場の影響下で誘電効果を生じる。その結果、微小な汚染物質粒子は誘電泳動力によって正味の並進運動を行う。汚染物質粒子の運動が促進され、汚染物質粒子が凝集する結果、空気中の汚染物質粒子が沈降し、それによって空気汚染を低減させることができる。
【0047】
Wi-Fi(登録商標)周波数帯でのパルス電磁波を使用することで、周囲および室内の空間における粒子状汚染物質のレベルを低下させ、空気汚染を低減する。パルス電波技術は、粒子状汚染物質(PM2.5およびPM10)を最小で33%、ほとんどの場合で50~60%低減させる。また、窒素酸化物、二酸化硫黄、一酸化炭素などの特定のガス状汚染物質(一般的にはエアロゾルまたは二次粒子状汚染物質)は、初期濃度に応じて20~30%削減される。HEPAフィルタを利用する従来の空気清浄機とは異なり、パルス電波技術は無指向性アンテナまたは指向性アンテナを使用して、特定のパルスシーケンスで微弱な電波を発生させる。電波は(携帯電話の電波、Bluetooth(登録商標)、またはWi-Fiと比較して)長距離を移動できるため、この技術はかなりの距離にわたって機能することが可能である。パルス電波は、小さな粒子状の汚染物質(20ミクロン未満)やエアロゾルの速度を加速させ、乾性沈着と呼ばれる自然のプロセスによってクリアランスを拡大する。
【0048】
本開示で開示した、パルス電磁波を用いて空気中の粒子状汚染物質を低減するシステムおよび装置は、ファンまたはフィルタを必要としないため、従来の空気清浄機または空気汚染制御システムと比較して、低い経常コストで持続可能である。さらに、パルス電磁波は平均半径1000~2000mをカバーするため、従来の空気清浄機の10倍以上の領域をカバーすることができる。さらに、この装置の消費電力は最小で30Wであり、騒音も発生しない。
【0049】
本開示を説明するために特定の用語が使用されているが、それによって生じるいかなる制限も意図されていない。当業者にとって明らかなように、本明細書で教示する発明概念を実施するために、本方法に様々な実用上の変更を加えることができる。
【0050】
図面および上述の記載は、実施形態の例を示すものである。当業者は、記載された要素のうち1つ以上を、単一の機能要素に組み合わせることができることを理解するであろう。あるいは、特定の要素を、複数の機能要素に分割することもできる。ある実施形態の要素を、別の実施形態に追加することもできる。例えば、本開示に記載のプロセスの順序は変更されてもよく、本開示に記載の方法に限定されない。さらに、フロー図のアクションは、示された順序で実施される必要はなく、また、必ずしもすべてのアクションが実施される必要はない。また、他のアクションに依存しないアクションについては、他のアクションと並行して実施されてもよい。実施形態の範囲は、これらの具体例によって決して限定されるものではない。本開示で明示されているか否かにかかわらず、構造、寸法、材料の使用の違いなど、多くの変形例が可能である。実施形態の範囲は、少なくともの特許請求の範囲によって与えられるものと同様に広い。