(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 7/46 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
A47C7/46
(21)【出願番号】P 2018220651
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018190577
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】河本 誠太郎
(72)【発明者】
【氏名】春田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】近藤 駿介
【審査官】井出 和水
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-079519(JP,A)
【文献】特開平08-000391(JP,A)
【文献】特開2018-068980(JP,A)
【文献】特開2005-152087(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0116405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/40 - A47C 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座と背もたれ、及び、前記背もたれが取り付くバックフレームとを有していて、前記バックフレームは、左右中間部に位置した
上下長手の背支柱を有しており、前記背支柱に、前記背もたれを後ろから支えるランバーサポート装置が取付けられている構成であって、
前記ランバーサポート装置は、高さ調節用係合部を多段に設けた上下長手のレール部材と、前記レール部材に高さ調節可能に取付けられたランバーパッド
と、前記レール部
材が内部に固定して配置された上下長手で前向き開口のハウジングと、を有しており、
前記背支柱の前面に、前記ハウジングが全高にわたって格納される上下長手の凹所が前向きに開口した状態に形成されている、
椅子。
【請求項2】
前記レール部材には、前記ランバーパッドが固定されたスライダーが
前記レール部材を囲った状態で昇降自在に装着されており、前記スライダーは、前記ハウジング
にも上下スライド可能に装着されている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
座と背もたれ、及び、前記背もたれが取り付くバックフレームとを有していて、前記バックフレームは、左右中間部に位置した
上下長手の背支柱を有しており、前記背支柱に、前記背もたれを後ろから支えるランバーサポート装置が取付けられている構成であって、
前記ランバーサポート装置は、高さ調節用係合部を多段に設けた上下長手のレール部材と、前記レール部材に高さ調節可能に取付けられたランバーパッドとを有して、前記レール部材は、前記背支柱の前面に形成された凹所に格納されたハウジングの内部に
固定して配置されており、
かつ、前記レール部材の下端と前記ハウジングの下端部とに、前記レール部材をずれ不能に保持する第1係合部を設けて、前記ハウジングの下端部と前記背支柱に設けた凹所の下端部とには、前記ハウジングの下端部をずれ不能に保持する第2係合部を設けている一方、
前記レール部材の上端部とハウジングの上端部とは、1本のビスによって前記背支柱に共締めされている、
椅子。
【請求項4】
座及び背もたれと、前記背もたれが取り付くと共に左右中間部に位置した背支柱を有するバックフレームと、前記背支柱に取り付けられていて前記背もたれを後ろから支えるランバーサポート装置と、を備えており、
前記ランバーサポート装置は、前記背支柱に固定される上下長手で前向き開口ケース状のハウジングを備えており、前記ハウジングに固定して配置されたレール部材に、ランバーパッドが高さ調節可能に取付けられている椅子であって、
前記背支柱の前面に、前記ハウジングが全高にわたって格納される上下長手の凹所が前向きに開口した状態に形成されている一方、
前記レール部材には、前記ランバーパッドが固定されたスライダーが昇降自在に装着されており、
前記スライダーとハウジングとに、前記ランバーパッドに着座者の押圧力が作用していない状態では互いに離反してスライダーの上下動を許容し、前記ランバーパッドに着座者の押圧力が作用すると噛み合ってスライダーを上下動不能に保持するロック手段を設けている、
椅子。
【請求項5】
座
及び背もたれ
と、前記背もたれが取り付く
と共に左右中間部に位置した背支柱を有するバックフレーム
と、前記背支柱に
取り付けられていて前記背もたれを後ろから支えるランバーサポート装置
と、を備えており、
前記ランバーサポート装置は、前記背支柱に固定される上下長手で
前向き開口ケース状のハウジングを備えており、前記ハウジング
に固定して配置されたレール部材に、ランバーパッドが高さ調節可能に取付けられてい
る椅子であって、
前記レール部材には、前記ランバーパッドが固定されたスライダーが昇降自在に装着されており、前記スライダーは、前記ハウジングに上下スライド可能に装着され、
前記スライダーとハウジングとに、前記ランバーパッドに着座者の押圧力が作用していない状態では互いに離反してスライダーの上下動を許容し、前記ランバーパッドに着座者の押圧力が作用すると噛み合ってスライダーを上下動不能に保持するロック手段を設けている、
椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ランバーサポート装置を備えた椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背もたれを備えた椅子において、着座した人の腰部を後ろから支えるランバーサポート装置を設けることは、広く行われている。ランバーサポート装置をどのような構造に構成するかは、背部の構造によって大きく相違している。
【0003】
例えば特許文献1には、左右中間部に配置された背支柱を有するバックフレームに背もたれを取付けている構成において、ランバーパッドを背支柱に高さ調節可能に取り付けることが開示されている。特許文献1は、背支柱がランバーパッドの支持部材になっているため、ランバーパッドをしっかりと支えることができる利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、背支柱を備えたバックフレームに背もたれを取り付ける場合、背支柱の形態はデザインなどの観点から様々の形態が採用されており、また、材質も樹脂製やアルミダイキャスト製など、様々な素材が使用されている。
【0006】
そして、特許文献1は上記のような利点を有するが、特許文献1では背支柱は金属製のパイプ材又は棒材を使用しているため、背支柱が樹脂製やアルミダイキャスト製である場合は、そのまま適用できるとは言い難い。
【0007】
本願発明はこのような現状を背景として成されたものであり、樹脂製やアルミダイキャスト製の背支柱についても容易に適用できて機能と美観とに優れたランバーサポート装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、
「座と背もたれ、及び、前記背もたれが取り付くバックフレームとを有していて、前記バックフレームは、左右中間部に位置した上下長手の背支柱を有しており、前記背支柱に、前記背もたれを後ろから支えるランバーサポート装置が取付けられている」
という基本構成であり、この基本構成において、
「前記ランバーサポート装置は、高さ調節用係合部を多段に設けた上下長手のレール部材と、前記レール部材に高さ調節可能に取付けられたランバーパッドと、前記レール部材が内部に固定して配置された上下長手で前向き開口のハウジングと、を有しており、
前記背支柱の前面に、前記ハウジングが全高にわたって格納される上下長手の凹所が前向きに開口した状態に形成されている」
という構成になっている。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、
「前記レール部材には、前記ランバーパッドが固定されたスライダーが前記レール部材を囲った状態で昇降自在に装着されており、前記スライダーは、前記ハウジングにも上下スライド可能に装着されている」
という構成になっている。
【0010】
請求項3の発明は独立した発明であり、請求項1と同じ基本構成において、
「前記ランバーサポート装置は、高さ調節用係合部を多段に設けた上下長手のレール部材と、前記レール部材に高さ調節可能に取付けられたランバーパッドとを有して、前記レール部材は、前記背支柱の前面に形成された凹所に格納されたハウジングの内部に固定して配置されており、
かつ、前記レール部材の下端と前記ハウジングの下端部とに、前記レール部材をずれ不能に保持する第1係合部を設けて、前記ハウジングの下端部と前記背支柱に設けた凹所の下端部とには、前記ハウジングの下端部をずれ不能に保持する第2係合部を設けている一方、
前記レール部材の上端部とハウジングの上端部とは、1本のビスによって前記背支柱に共締めされている」
という構成になっている。
【0011】
また、請求項4の発明は、
「座及び背もたれと、前記背もたれが取り付くと共に左右中間部に位置した背支柱を有するバックフレームと、前記背支柱に取り付けられていて前記背もたれを後ろから支えるランバーサポート装置と、を備えており、
前記ランバーサポート装置は、前記背支柱に固定される上下長手で前向き開口ケース状のハウジングを備えており、前記ハウジングに固定して配置されたレール部材に、ランバーパッドが高さ調節可能に取付けられている」
という基本構成において、
「前記背支柱の前面に、前記ハウジングが全高にわたって格納される上下長手の凹所が前向きに開口した状態に形成されている一方、
前記レール部材には、前記ランバーパッドが固定されたスライダーが昇降自在に装着されており、
前記スライダーとハウジングとに、前記ランバーパッドに着座者の押圧力が作用していない状態では互いに離反してスライダーの上下動を許容し、前記ランバーパッドに着座者の押圧力が作用すると噛み合ってスライダーを上下動不能に保持するロック手段を設けている」
という構成になっている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4と同じ基本構成において、
「前記レール部材には、前記ランバーパッドが固定されたスライダーが昇降自在に装着されており、前記スライダーは、前記ハウジングに上下スライド可能に装着され、
前記スライダーとハウジングとに、前記ランバーパッドに着座者の押圧力が作用していない状態では互いに離反してスライダーの上下動を許容し、前記ランバーパッドに着座者の押圧力が作用すると噛み合ってスライダーを上下動不能に保持するロック手段を設けている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明では、ハウジングを全体的に背支柱の凹所に格納できるため、ランバーサポート装置の露出を抑制して美観を向上できる。また、凹所が存在しない場合に比べて、背支柱と背もたれとの間の間隔を狭めることができるため、椅子全体としても大型化を抑制できると云える。
【0014】
また、ハウジングを使用してランバーサポート装置をユニット化できるため、背支柱へのランバーサポート装置の組み付けを簡単に行うことができる利点もある。更に、レール部材はハウジング内に隠れているため、レール部材やこれに取り付いた可動部材に物が当たることを防止又は抑制して動きの確実性を向上できる利点や、人が手で触れたときに指を挟む問題も無くすことができる利点がある。
【0015】
請求項2の構成を採用すると、スライダーは、レール部材よりも広幅のハウジングによって昇降がガイドされるため、ランバーパッドの昇降のスムース性を向上できる。
【0016】
請求項3の発明を採用すると、レール部材の下端部とハウジングの下端部とは、嵌め込み等によって第1係合部によってずれ不能に保持されて、ハウジングの下端部は、第2係合部により、凹所の係合部に対して嵌め込み等によってずれ不能に実施形態されるため、レール部材とハウジングとは、その上部を1本のビスで共締めするだけで、支柱に対して固定されている。従って、ランバーサポート装置の取付けを簡単に行うことができる。
【0017】
さて、ランバーパッドを係止部材の弾性に抗して高さ調節できるランバーサポート装置では、着座した人の体圧が掛かると、ランバーパッドがずれ移動することがある。さりとて、レバーでロックを解除する方式を採用すると、構造が複雑化してコストが嵩むという不具合がある。これに対して、請求項4の構成を採用すると、着座者の押圧力がランバーパッドに作用するとランバーパッドは上下動不能に保持されるため、簡単な構造でありながら、ランバーパッドが意図せずにずれ動いてしまうことを防止できる。
【0018】
また、請求項5の発明では、上記のとおりランバーサポート装置をユニット化できるため、背支柱の寸法精度などとは関係なく、ランバーサポート装置を高い精度に製造できる。従って、ランバーパッドの昇降を軽快に行えるなど、高い品質を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の椅子を示す図で、(A)は前方斜視図、(B)は後方斜視図、(C)は背部のみの後方斜視図である。
【
図2】(A)は骨組みを示す斜視図、(B)は後方斜視図、(C)は分離斜視図である。
【
図3】ランバーサポート装置を示す図で、(A)は前方から見た分離斜視図、(B)は後方から見た分離斜視図、(C)は(B)のC-C視方向から見た背面図である。
【
図4】(A)は部分的な分離斜視図、(B)は一部の部材をランバーパッドに装着した状態での分離斜視図である。
【
図5】(A)はハウジングの部分的な拡大正面図、(B)はランバーパッドを省略した状態での正面図、(C)はランバーパッドを省略した状態での分離正面図である。
【
図6】(A)はランバーサポート装置の下方斜視図、(B)は部分的な分離斜視図、(C)は縦断側面図である。
【
図7】第2実施形態の椅子を示す図で、(A)は前方斜視図、(B)は側面図、(C)は平面図である。
【
図9】第2実施形態のランバーサポート装置を示す図で、(A)は前方から見た分離斜視図、(B)は後方から見た分離斜視図、(C)は(B)のC-C視方向から見た背面図である。
【
図10】(A)は分離斜視図、(B)は一部部材を分離した斜視図、(C)は縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、これの方向は、普通に着座した人から見た状態として特定している。正面視方向は、着座者と対向した方向である。
【0021】
(1).椅子の概要
本実施形態の椅子は、オフィス等で多用されている回転椅子に適用している。
図1,2に示すように、椅子は、主要部材として、座1と背もたれ2、背もたれ2が取り付けられたバックフレーム3、及びキャスタ付き脚装置4を備えている。背もたれ2の後ろにはランバーサポート装置5を配置している。また、椅子には、オプション品として肘掛け装置6とヘッドレスト(或いはショルダーレスト)7とを備えている。
【0022】
例えば
図1のとおり、中央部に配置した脚支柱(ガスシリンダ)8にベース体9を固定し、ベース体9に、バックフレーム3がジョイント部材10を介して後傾動自在に連結されている。従って、本実施形態の椅子は、背もたれ2が弾性手段に抗して後傾動するロッキングタイプである。
【0023】
バックフレーム3は、左右中間部に位置した上下長手の背支柱11と、その上端に水平旋回可能に取付けた左右長手のアッパサポート12と、背支柱11の下端に一体に設けた左右のロアサポート13とを有しており、アッパサポート12の左右両端とロアサポート13の先端とは自由端になっており、背もたれ2のコーナー部が、アッパサポート12の先端部とロアサポート13の先端部とに連結されている。従って、背もたれ2は、バックフレーム3に対して4点支持の状態で取付けられている。
【0024】
着座した人の押圧力が背もたれ2の右側部又は左側部に偏って作用すると、アッパサポート12が水平旋回して、背もたれ2を捩じれ変形させることができる。従って、使用者の身体の動きに追従して、背もたれ2が捩じれ変形する。背支柱11及びアッパサポート12は、合成樹脂製であり、背支柱11も、着座した人の押圧力によって捩じれ変形させることが可能である。なお、背支柱11とロアサポート13とは、後ろからカバーで覆われている。
【0025】
図1(C)のとおり、アッパサポート12は手前に向けて凹むように(後ろに向けて膨らむように)、平面視で弓なりに反った形態になっており、その左右両端部に、背もたれ2の左右両端部が連結されている。従って、アッパサポート12と背もたれ2との間には大きな空間が空いている。この空間の存在により、背もたれ2の上端部が着座者の押圧力(体圧)によって後ろ向きに伸び変形することが許容されている。
【0026】
他方、例えば
図4に明示するように、ロアサポート13は、背面視において上面と下面とが先端に向けて高くなるように湾曲しており、かつ、左右ロアサポート13の下面と背支柱11の下面とで形成される下面(すなわち,バックフレーム3の下面)も、下向きに膨れた湾曲面になっている。従って、バックフレーム3は、全体として錨に似た形態になっている。
【0027】
図1(C)及び
図6(C)に示すように、背もたれ2は、合成樹脂製の背板(背インナーシェル)2aの表裏にクッション材14を張って、表裏の全体を袋状の表皮材で覆った構造になっている。
【0028】
(2).ランバーサポート装置
次に、主として
図3~6を参照してランバーサポート装置5を説明する。
図3に示すように、ランバーサポート装置5は、背もたれ2を後ろから支えるランバーパッド22と、ランバーパッド22の後面に左右のビス23で固定されたホルダー部材24と、ランバーパッド22とホルダー部材24との間に配置されたレール部材25及びクリップ部材26と、前向きに開口したケース状で内部にホルダー部材24及びレール部材25が収納されたハウジング27とを備えている。これらは、合成樹脂の成型品である。
【0029】
ホルダー部材24とクリップ部材26とは、一体に固定されていてレール部材25を前後から抱持しており、かつ、レール部材25に対して昇降自在に装着されている。従って、ホルダー部材24とクリップ部材26とによって、請求項に記載したスライダーが構成されている。
【0030】
図3に示すように、背支柱11の前面には、上下長手のハウジング27が
その全高にわたってすっぽり嵌まる上下長手の凹所28が形成されている。ハウジング27の下面には下向き突起29が形成されている一方、背支柱11の凹所28の下面に、下向き突起29が嵌合する係合穴30を形成している。また、ハウジング27の上端部後面に、手前に向けて凹んだ係合凹部31を形成している一方、背支柱11の凹所28には、係合凹部31が重なる係合段部32を形成している。なお、凹所28の底面は、山と谷が上下に交互に連なった凹凸形状になっているが、平坦面であってもよい。
【0031】
レール部材25は上下に長い帯板状の形状であり、
図3(A)(B)のとおり、レール部材25の下端に、左右の羽根板33を有する平面視略T形の係止突起34を後ろ向きに突設している一方、
図3(A)に示すように、ハウジング27の底部に、係止突起34が嵌合する略T形の係合溝35を形成している。従って、レール部材25の下端は、ハウジング27の下端部に対して、前後左右のいずれの方向にもずれ不能に保持されている。
【0032】
図3のとおり、レール部材25の上端部には、後傾姿勢のヘッド部36が形成されている一方、ハウジング27の上端部には、ヘッド部36が左右ずれ不能に嵌合する溝部37が形成されており、ヘッド部36とハウジング27とが、1本のビス38によって、背支柱11における係合凹部31の係合段部32に共締めされている。従って、レール部材25とハウジング27とは、1本のビス38によって、背支柱11にガタ付きのない状態に固定されている。
【0033】
本実施形態では、レール部材25に設けた係止突起34とハウジング27に設けた係合溝35とは、請求項に記載した第1係合部の例であり、ハウジング27に設けた下向き突起29と凹所28に設けた係合穴30とは、請求項に記載した第2係合部の例である。いずれにおいても、上下方向からの嵌脱するため、ビス38で上部を共締めすると、レール部材25もハウジング27も上下左右のいずれの方向にもずれ不能に保持される。第1係合部及び第2係合部は、他の様々な嵌合態様を採用できる。
【0034】
レール部材25の背面には、高さ調節手段の一環として、多数の係合突起39が上下方向に並べて形成されている。他方、クリップ部材26は、レール部材25を前後から抱持する形態であり、レール部材25の後ろに位置した部位は、係合突起39に係脱する左右の係止爪40になっている。
【0035】
正確に述べると、クリップ部材26はレール部材25の手前に位置する基板と、その左右両側から後ろ向きに突出した左右の側板と、左右の側板に一体に設けた左右の係止爪40とを有しており、基板と係止爪40とでレール部材25を挟んでいる。更に詳細に述べると、
図3(A)及び
図5(B)(C)に示すように、レール部材25の左右側縁に薄肉化したリブ25aが上下に長く形成されている一方、クリップ部材26の側板には、リブ
25aがスライド自在に嵌まる蟻溝
を形成している。
【0036】
係止爪40は、下端(先端)を自由端と成しており、下端の爪部が隣り合った係合突起39の間に入り込むことにより、ランバーパッド22の高さが保持される。ランバーパッド22に対して上下方向の外力を加えると、係止爪40は弾性変形して係合突起39を乗り越える。これにより、ランバーパッド22の高さを段階的に調節できる。
【0037】
ホルダー部材24は、ランバーパッド22の後面に形成した囲い枠41の内部に配置されている。囲い枠41の左右内側面には内向きリブ42の群を形成している一方、クリップ部材27の左右外面には、内向きリブ42と嵌合して上下動ずれ不能に保持する外向きリブ43を形成している。従って、クリップ部材27は、ホルダー部材24により、上下左右及び前後のいずれの方向にずれないように押さえ保持されている。
【0038】
例えば
図3(B)に示すように、ホルダー部材24の前面部でかつ左右側部にはフランジ44を設けている一方、
図3(A)や
図5(B)(C)に示すように、ハウジング27の左右側部には、ホルダー部材24のフランジ44が上下スライド自在に嵌まり込む段部45を形成している。
【0039】
また、
図3(B)や
図4(B)に示すように、ホルダー部材24の後面の左右中間位置に上下長手のガイドリブ46を一体に設け、ガイドリブ46の上下両端に、左右の係合リブ47を形成している一方、
図3(A)及び
図5(A)に示すように、ハウジング27の底面に、ガイドリブ46及び係合リブ47と協働してランバーパッド22の高さを保持するロック部48を形成している。
【0040】
図5(A)に明瞭に示すように、ロック部48は、ガイドリブ46が上下スライド自在に嵌まるセンター溝49と、係合リブ47が嵌まり得るロック溝50の群とを形成している。ロック溝50は、上下に並んだロック突起51によって形成されており、ロック突起51は、センター溝49を形成する左右の縦長リブ52に一体に形成している。ロック突起51は、レール部材25の後面に形成された係合突起39と同じ高さ・ピッチ
に形成されている。
【0041】
そして、ランバーパッド22に後ろ向きの外力が作用していない状態では、係合リブ47はロック溝50から手前に外れていて、ランバーパッド22を昇降させることができる。他方、着座した人の押圧力がランバーパッド22に作用すると、レール部材25が後ろに押し曲げられることにより、ホルダー部材24の係合リブ47がロック溝50に嵌まり込む。これにより、ランバーパッド22は上下動不能にロックされる。
【0042】
さて、着座した人が背もたれ2にもたれ掛かった状態で、着座した人の背と背もたれ2との間に上下方向の滑りが発生することがあり、このため、ランバーパッド22が意図せずに上昇又は下降してしまうことが有り得る。しかし、本実施形態では、着座した人が背もたれ2にもたれ掛かると、ホルダー部材24の係合リブ47がハウジング27のロック溝50に嵌入することにより、ランバーパッド22は上下動不能に保持される。
【0043】
従って、係合リブ47とロック部48とにより、請求項に記載したロック手段が構成されているが、着座した人の押圧力が作用すると、レール部材25を弾性変形させて係合リブ47とロック部48に係合するため、厳密には、レール部材25はばね手段の役割を果たして、ロック手段の一環を成していると云える。フリー状態を確保するために、ホルダー部材24を手前に押すばねを設けることも可能である。
【0044】
(3).まとめ
本実施形態のランバーサポート装置5は、ハウジング27をベース材として、これに全体が組み付けられている。すなわち、ハウジング27を介して全体が1つのユニットになっている。このため、組み付けが容易であると共に、高い寸法精度を確保することができる。
【0045】
また、レール部材25はハウジング27に内蔵されて、ハウジング27はその大部分が背支柱11の凹所78に内蔵されているため、ランバーサポート装置5の基部の多くの部分が背支柱11の肉厚部位内に隠れている。このため、美観を向上できる。また、背支柱11と背もたれ2との間隔を狭めて、椅子の大型化を抑制することも可能である。
【0046】
更に、ランバーパッド22の上下スライド手段として、レール部材25によるクリップ部材26の上下スライドのみを採用しただけであると、レール部材25は横幅が小さいため、こじれが生じてランバーパッド22をスムースに昇降させにくい場合が有り得るが、本実施形態では、レール部材25よりも遥かに広幅のハウジング27に対してホルダー部材24が上下スライド自在に保持されているため、こじれを防止又は著しく抑制して、ランバーパッド22をスムースに昇降させることができる。
【0047】
実施形態では、レール部材25の下端部はハウジング27に嵌合して、ハウジング27の下端部は背支柱11に嵌合しているため、ランバーサポート装置を1本だけのビス38によって背支柱11に固定できる。このため、ランバーサポート装置5の取付けを、能率よく行うことができる。また、ランバーサポート装置5には後ろ向きに外力が作用するが、この外力は背支柱11で支持されるため、1本のビス38による締結であっても、ランバーサポート装置5の取付け強度に全く不安はない。
【0048】
既述のとおり、着座した人が背もたれ2にもたれ掛かった状態でランバーパッド22を上下動不能に保持するロック手段を設けると、ランバーパッド22の移動(特にずり下がり)を防止して、快適性を向上できる。
【0049】
(4).第2実施形態
図7~10では、メッシュタイプに適用した第2実施形態を示している。すなわち、背もたれ2は、前後に開口した背フレーム53にメッシュ材54を張った構造になっており、第1実施形態と同様に、ランバーサポート装置5と肘掛け装置6とヘッドレスト7とを備えている。
【0050】
第2実施形態のランバーサポート装置5は,
図9,10で表示している。これらの図から理解できるように、第2実施形態のランバーサポート装置5の構造は、基本的には第1実施形態と同じであるが、ランバーパッド22の支持構造が第1実施形態と相違している。
【0051】
すなわち、第1実施形態では、ホルダー部材24をランバーパッド22の背面に直接固定していたが、この第2実施形態では、ランバーパッド22の背面に、平面視弓形のスペーサフレーム55を装着して、スペーサフレーム55にホルダー部材24を固定している。従って、レール部材25とクリップ部材26とは、ホルダー部材24とスペーサフレーム55との間に配置されている。また、スペーサフレーム55には、クリップ部材26をずれ不能に保持する囲い枠41が形成されている。
【0052】
図10(A)から理解できるように、スペーサフレーム55の左右先端部は細くなった連結部56になっている一方、ランバーパッド22の左右両端部には、連結部56が入り込むボス部57
を形成している。そして、連結部56の先端に外向きの係合片58を形成している一方、ランバーパッド22におけるボス部57の奥部に、係合片58が嵌入する係合溝59を、内向きに開口するように形成している。
【0053】
係合溝59への係合片58の嵌め込みは、スペーサフレーム55を窄めるように変形させることよって、容易に実現できる。そして、着座者した人による押圧力は、スペーサフレーム55の左右間隔を広げるように作用するため、外力によってランバーパッド22がスペーサフレーム55から外れることはない。
【0054】
スペーサフレーム55の左右連結部56は、ランバーパッド22の下面部と重なる補強フレーム60によって連結されている。ボス部57は上端部に位置しているため、ランバーパッド22には、着座者の押圧力によって下端を後ろに押すようなモーメントが掛かることがあるが、補強フレーム60を設けると、ランバーパッド22を変形させることなく、使用者の身体をしっかりと支えることができる。
【0055】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願の各発明は、他にも様々に具体化できる。例えば、ランバーパッドやハウジングなどの構成部材は、デザイン性などの要請に応じて適宜変更できる。ランバーパッドを高さ調節するにおいて、レバー装置によってフリー状態とロック状態とに切替えられロック装置を設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本願発明は、ランバーサポート装置を備えた椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0057】
2 背もたれ
3 バックフレーム
5 ランバーサポート装置
11 背支柱
22 ランバーパッド
24 スライダーを構成するホルダー部材
25 レール部材
26 スライダーを構成するクリップ部材
27 ハウジング
28 凹所
29 第2係合部を構成する下向き突起
30 第2係合部を構成する係合穴
34 第1係合部を構成する係止突起
35 第1係合部を構成する係合溝
39 係合突起
40 係止爪
47 ロック手段を構成する係合リブ
48 ロック手段を構成するロック部