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特許7414399回折光学素子、光学機器、撮像装置および回折光学素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】回折光学素子、光学機器、撮像装置および回折光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
G02B5/18
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019070127
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020170050
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】鶴木 雄太
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-252168(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159370(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/043442(WO,A1)
【文献】特開2005-316414(JP,A)
【文献】特開2006-030275(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0168759(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に、回折格子を有する第1樹脂層と第2樹脂層とが順に積層され、
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層の各々が、ベース部と、積層方向で該ベース部と接する格子部と、を有し、
前記第1樹脂層は、前記格子部を覆う低透過率部を前記ベース部に有し
前記低透過率部は、波長400nmに対する厚さ50μm当たりの内部透過率が前記第1樹脂層の前記格子部より2%以上6%以下低いことを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
基材と、該基材上に、回折格子を有する第1樹脂層と第2樹脂層とが順に積層され、
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層の各々が、ベース部と、積層方向で該ベース部と接する格子部と、を有し、
前記第2樹脂層は、前記格子部を覆う低透過率部を前記ベース部に有し、
前記低透過率部は、波長400nmに対する厚さ50μm当たりの内部透過率が前記第2樹脂層の前記格子部より2%以上6%以下低いことを特徴とする回折光学素子
【請求項3】
前記低透過率部は前記ベース部を構成する樹脂と同じ樹脂から形成されている請求項1または2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記低透過率部の膜厚が5μm以上50μm以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記低透過率部は短波長領域の光量を低減する請求項1~のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項6】
前記低透過率部は、前記第2樹脂層の前記第1樹脂層と接していない面の表面に形成されている請求項に記載の回折光学素子。
【請求項7】
前記低透過率部において、前記第1樹脂層と接していない面の表面から前記内部透過率が連続的に低下している請求項6に記載の回折光学素子。
【請求項8】
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層を構成する樹脂がいずれも紫外線硬化型樹脂である請求項1~7のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項9】
前記第2樹脂層の上に第2の基材が設けられている請求項1~8のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項10】
前記第1樹脂層の屈折率をnd1、前記第1樹脂層のアッベ数をν1、前記第2樹脂層の屈折率をnd2、前記第2樹脂層のアッベ数をν2としたときに、nd1<nd2およびν1<ν2の関係を満たす請求項1~9のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項11】
筐体と、該筐体内に複数のレンズからなる光学系を備える光学機器であって、前記レンズの少なくとも1つが請求項1~10のいずれか一項に記載の回折光学素子であることを特徴とする光学機器。
【請求項12】
筐体と、該筐体内に複数のレンズからなる光学系と、該光学系を透過した光を受光する撮像素子とを備える撮像装置であって、前記レンズの少なくとも1つが請求項1~10のいずれか一項に記載の回折光学素子であることを特徴とする撮像装置。
【請求項13】
カメラである請求項12に記載の撮像装置。
【請求項14】
基材上に、回折格子を有する第1樹脂層と第2樹脂層を順に積層し、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層の各々が、ベース部と、積層方向で該ベース部と接する格子部と、を有する積層体を得る工程と、
得られた前記積層体の前記第1樹脂層および第2樹脂層の少なくとも一方の側から短波長紫外光の照射を行い、該照射された側の樹脂層のベース部に前記格子部を覆う低透過率部を形成する工程と、を有し、
前記低透過率部は、波長400nmに対する厚さ50μm当たりの内部透過率が前記低透過率部を有する樹脂層の前記格子部より2%以上6%以下低いことを特徴とする回折光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラやビデオ等の光学機器に用いられる回折光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズなどに用いられる光学素子として、光学特性が異なる2種類の樹脂を用いた回折光学素子(DOE)が知られている。この回折光学素子は、回折光学系と屈折光学系では色収差が全く逆に発生する性質を利用してレンズとしての色収差を抑制し、かつレンズ全体の大幅な小型化、軽量化を実現可能としている。また、近年のカメラやビデオ等の光学機器の高画質化に伴い、レンズの色収差の抑制は、より高いレベルが要求される様になっている。この高いレベルの要求に対し、回折光学素子は、可視光域(光線の波長で400nm~700nmの範囲)全域での高い回折効率を達成する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、可視光域全域で高い回折効率を有する回折光学素子の構成として、基材上に回折格子形状を有する高屈折低分散の樹脂からなる第1の樹脂層と、低屈折高分散の樹脂からなる第2の樹脂層とが積層された構成が開示されている。なお、回折格子形状は、同心円状の複数の輪帯からなるレリーフ型である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-203821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された回折光学素子に用いられる高屈折低分散の樹脂、低屈折高分散の樹脂は、nmオーダーのサイズの無機微粒子が分散された樹脂であり、このような樹脂は分散された微粒子によって光散乱が大きくなる傾向にある。一般的に、光の波長以下の微粒子が存在すると可視光域の短波長側の光がより大きく影響を受けて散乱する。このように短波長域の散乱の大きい材料を回折光学素子に用いると、画に曇りがかった像が発生し、画質が大幅に低下する。
【0006】
本発明の目的は短波長域の散乱の影響を抑え、画質に優れた回折光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の回折光学素子は、基材と、該基材上に、回折格子を有する第1樹脂層と第2樹脂層とが順に積層され、前記回折格子がベース部と積層方向で該ベース部と接する格子部とからなる回折光学素子であって、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層の少なくとも一方の前記ベース部が、前記格子部を覆う低透過率部を有し、
前記低透過率部は、波長400nmに対する厚さ50μm当たりの内部透過率が前記格子部より2%以上6%以下低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、DOEの格子部を包含しない表面近傍のみの透過率を光軸方向に連続的に低下させることができる。この低透過率部により、素子に入射する短波長域の光量を低減することができ、短波長域の散乱の影響を抑えることができる。これにより、回折効率等の光学性能を損なうことがない回折光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の回折光学素子の一実施態様を示す概略図である。
図2】本発明の回折光学素子中の低透過率部を示す概略図である。
図3】本発明の回折光学素子中のベース部および格子部を示す概略図である。
図4】本発明の製造方法の一実施形態を示す概略図である。
図5】本発明の撮像装置の一実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(回折光学素子)
上述したように、本発明に係る回折光学素子は、基材と、該基材上に、回折格子を有する第1樹脂層と第2樹脂層とが順に積層され、前記回折格子がベース部と前記積層方向で該ベース部と接する格子部からなる回折光学素子であって、前記第1樹脂層および第2樹脂層の少なくとも一方の前記ベース部が、波長400nmに対する厚さ50μm当たりの内部透過率(以下、単に「透過率」ともいう)が前記格子部より2%以上6%以下低い低透過率部を有する。
【0011】
<素子構成>
図1は本発明の回折光学素子の一実施態様を示す概略図である。図1に示すように、該素子は、基材3と、基材3の上に同心円状の複数の輪帯からなる第1樹脂層2と、第1樹脂層2の上に第2樹脂層1とが順に積層されてなる。基材3としては、例えばガラスやプラスチックからなる透明な材料を用いることができる。
【0012】
基材3の上に設けられた回折格子形状を有する第1樹脂層2は、第2樹脂層1に対して相対的に低い屈折率と低いアッベ数を有する低屈折高分散層である。また、第2樹脂層1は、第1樹脂層2に対して相対的に高い屈折率と高いアッベ数を有する高屈折低分散層である。ここで第1樹脂層2と第2樹脂層1は、隙間無く接触して積層されている。なお、低屈折高分散層と、高屈折低分散層の積層順は上記と逆であってもよい。また、基材は第1樹脂層側のみならず第2樹脂層側にも設けられ、2つの基材が2つの積層した樹脂層を挟み込むように積層されていてもよい。基材3の両面は、平面であっても、球面形状であっても、非球面形状であってもよい。
【0013】
上述したように、第1樹脂層2は回折格子形状を有し、該回折格子形状は素子中心を中心にしたN個(Nは2以上の整数)の円からなる同心円状のレリーフパターンからなる。レリーフパターンにおける格子ピッチは、回折光学素子の中心近傍では大きく、周縁に向かうほど小さい。
【0014】
本実施態様に係る回折光学素子は、上記の構成を有する積層体の第1樹脂層2と第2樹脂層1の少なくとも一方の内部に下記のように低透過率部を有している。
【0015】
図2は、素子中に低透過率部を有する回折光学素子の一例を示す概略図である。第2樹脂層1中の4(濃灰色で表した部分)が低透過率部を示す。図2に示すように低透過率部4には格子部(格子が形成されている部分)は包含されておらず、格子とは独立して存在する。これは格子部の透過率を低下させると、格子部により発生する透過波面の位相ズレが大きくなってしまうためである。図2では低透過率部4は第2樹脂層1中に存在するが、第1樹脂層2中の格子が形成されていない部分(ベース部)に存在していてもよい。なお、図3は本発明における格子部およびベース部という用語の意味をさらに具体的に説明する概念図である。図3中の下側の破線は第1樹脂層2のベース部(破線の下の部分)と格子部(破線の上の部分)とを区分する仮想線である。さらに、図中の上側の破線は第2樹脂層1のベース部(破線の上の部分)と格子部(破線の下の部分)とを区分する仮想線である。
【0016】
また、前記低透過率部4を含む素子表面の厚さ50μm当たりの内部透過率が、波長400nmにおいて、該低透過率部4を含む樹脂層の他の部分の内部透過率より2%以上6%以下の範囲で低下している。低透過率部の存在により素子表面の50μmの厚さ当たりの透過率を2%以上低下させることで、素子の短波長域の光散乱を低減することができる。一方、400nmの波長において上記部分の透過率を、6%を超えて低下させると、可視域全域にわたって透過率が低下し、素子全体の透過率が低下してしまう。
【0017】
また、前記低透過率部は前記低透過率部を含む樹脂層と同一組成であることが好ましい。これは低透過率部と第1樹脂層もしくは第2樹脂層の界面で不要な散乱光が発生することを防ぐためである。
【0018】
<硬化性樹脂>
第1樹脂層2を構成する樹脂の種類は特に限定されないが、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂等をその例として挙げることができる。本発明において、第1樹脂層2は、第2樹脂層1に対して相対的に低い屈折率と低いアッベ数を有する低屈折高分散層であることが好ましい。また、第2樹脂層1は、第1樹脂層2に対して相対的に高い屈折率と高いアッベ数を有する高屈折低分散層であることが好ましい。すなわち、第1樹脂層の屈折率をnd1、第1樹脂層のアッベ数をν1、第2樹脂層の屈折率をnd2、第2樹脂層のアッベ数をν2としたときに、nd1<nd2およびν1<ν2の関係を満たすことが好ましい。
【0019】
また、可視域全域で99%以上の高い回折効率を得るためには、低屈折高分散材料に、部分分散比θgFが通常の材料より小さいリニア分散特性を有する材料を使用することが好ましい。このリニア分散特性を得るためには、ベース樹脂材料に無機微粒子を分散させて混ぜる方法が知られており、酸化チタン、酸化インジウム錫、酸化ジルコニウムなどを好適に用いることができる。また、ベース樹脂は紫外線硬化型樹脂が好ましく、特にアクリレート系樹脂が好ましい。
【0020】
第2樹脂層1は、個数平均の平均粒子径が10nm以下の無機粒子と樹脂とを含有することが好ましい。本発明における無機粒子は、Al、Zr、Y、Ga、La、それらの酸化物および複合物から選ばれる少なくとも一種からなるが、好ましくは酸化ジルコニウム粒子である。
【0021】
無機粒子の個数平均の平均粒子径は、光透過率、光学散乱等に悪影響を及ぼさない大きさの粒子径であることが望ましく、1nm以上であることが好ましい。
【0022】
第2樹脂層1における、無機粒子の分散媒としての樹脂は、室温で液体である硬化性樹脂であり、光重合開始剤または熱重合開始剤といった重合開始剤を利用したラジカル生成機構により硬化する。
【0023】
第2樹脂層1に含有される硬化性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。硬化性樹脂は、1種類のみを使用することもでき、2種類以上を併用することもできる。特に、(メタ)アクリル系樹脂は以下に述べるコハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)との光重合の反応速度を適宜制御できる点から好ましい。硬化性樹脂としての(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリレート基を含む化合物の単量体、二量体、三量体、オリゴマー、ポリマー、またはそれらの混合物を使用することができる。
【0024】
(メタ)アクリル系樹脂の単量体としては、(メタ)アクリレート基を含む化合物であればいかなる化合物も用いることができるが、(メタ)アクリレート基を2個以上含む化合物が好ましい。(メタ)アクリレート基を2個以上含む化合物の具体的な例としては、プロポキシ化ビスフェノールAジビニルエーテルのアクリレートやメタクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリス((メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等を挙げることができる。(メタ)アクリル基を2個以上含む化合物は1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を併用することもできる。また、(メタ)アクリル基を2個以上含む化合物として、分子内にさらに炭素-炭素二重結合や炭素-炭素三重結合を有する重合官能基を有する化合物を用いることもできる。
【0025】
重合開始剤は、硬化性樹脂の硬化条件(照射波長、照射量、温度)に応じて適宜選択することができる。例えば、光重合開始剤として、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤などが挙げられる。具体的には、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、4-フェニルベンゾフェノンなどを挙げることができる。また、熱重合開始剤として、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシネオヘキサノエート、1,1-ジメチルブチルパーオキシネオヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオデカノエート等の過酸化物などを挙げることができる。
【0026】
第2樹脂層1の重合開始剤の含有量は、光照射量または加熱温度に応じて適宜選択することができ、さらに、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調整することもできる。また、重合開始剤の含有量は、無機粒子の含有量により変わりうるが、硬化性樹脂、分散剤の合計質量100質量部に対して0.01質量部以上10.00質量部以下、好ましくは0.50質量部以上5.00質量部以下の範囲で選択することが好ましい。重合開始剤の含有量をこの範囲とすることで、本発明の回折光学素子の低屈折高分散層に用いる重合体を良好に成形でき、また着色による外観不良や透明性の悪化を避けることができる。重合開始剤は有機成分との反応性、光照射の波長、加熱温度によって1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を併用することもできる。
【0027】
(回折光学素子の製造方法)
本発明に係る回折光学素子の製造方法は、基材上に、回折格子を有する第1樹脂層と第2樹脂層を順に積層する工程と、得られた積層体の前記第1樹脂層および第2樹脂層の少なくとも一方の側から短波長紫外光の照射を行い、該照射された側の樹脂層のベース部に、波長400nmに対する厚さ50μm当たりの内部透過率が格子部より2%以上6%以下低い低透過率部を形成する工程とを有する。
【0028】
以下、本製造方法の一実施形態について図4を参照して具体的に説明する。ただし、本製造方法は以下に述べる方法に限られない。
【0029】
<回折格子の形成>
まず、任意の形状の型5と基材3の間に、第1樹脂層2となる未硬化の樹脂6を充填する(図4(a)、4(b))。未硬化の樹脂6の充填の際には、必要に応じて型5および/または基材3に対し加圧または加熱を行ってもよい。充填の際に型と基材の間にスペーサーを配置することにより、第1樹脂層2の厚みを調整することができる。未硬化の樹脂6を硬化する方法は特に限定されないが、例えば紫外線照射や加熱によって硬化することができる。硬化後に、離型することで第1樹脂層2を基材3上に形成する(図4(c))。
【0030】
その後、型7と、回折格子形状を表面に有する第1樹脂層2との間に、上述した第2樹脂層となる未硬化の樹脂8を充填(図4(d))した後に、硬化し(図4(e))、離型する(図4(f))ことで第2樹脂層1を第1樹脂層2上に形成して本発明の回折光学素子を得る。未硬化の樹脂を硬化する方法は特に限定されないが、例えば紫外線照射や加熱によって硬化することができる。
【0031】
<低透過率部の作製>
続いて、図4をさらに参照して回折光学素子中の低透過率部の作製方法について述べる。ただし、低透過率部の作製方法は以下に述べる方法に限られない。上記の回折光学素子の製造方法で得られた回折光学素子の第2樹脂層1の上方から、第2樹脂層1に対し透過性が低い短波長(350nm以下の波長)の紫外光9(図4(g))、たとえば波長310nmの紫外光を照射する。第2樹脂層1に対し透過性の低い紫外光9を高強度、長時間照射することで、第2樹脂層1の表面近傍の樹脂のみが黄色味を帯び短波長域の透過率を低減することができる。これにより、図2に示すように、第2樹脂層1中に低透過率部4を得る。この低透過率部4は第2樹脂層1の表面近傍のみに存在し、格子を包含してはいない。この低透過率部の膜厚は5μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0032】
また、上記の第2樹脂層1中への低透過率部の形成に代え、または加えて、第1樹脂層2の側から短波長紫外光の照射を行い第1樹脂層2中に低透過率部を設けてもよい。短波長紫外光の波長や照射時間は特に限定されないが、より短い波長の紫外光を用いることで処理時間を短縮することができる。
【0033】
(光学機器)
図5は、本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である、一眼レフデジタルカメラの構成を示している。図5に示すカメラ600において、カメラ本体602と光学機器であるレンズ鏡筒601とが結合されているが、レンズ鏡筒601はカメラ本体602に対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
【0034】
被写体からの光は、レンズ鏡筒601の筐体620内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ603、605などからなる光学系を介して撮影される。本発明の回折光学素子は例えば、レンズ603、605に用いることができる。
【0035】
ここで、レンズ605は内筒604によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒601の外筒に対して可動支持されている。
【0036】
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体621内の主ミラー607により反射され、プリズム611を透過後、ファインダレンズ612を通して撮影者に撮影画像が映し出される。筐体内の主ミラー607は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー608によりAF(オートフォーカス)ユニット613の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー607は主ミラーホルダ640に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー607とサブミラー608を光路外に移動させ、シャッタ609を開き、撮像素子610にレンズ鏡筒601から入射した撮影光像を受光、結像させる。また、絞り606は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
【0037】
(評価方法)
<透過率>
得られた回折光学素子の表面の厚さ50μmの部分の透過率を次のように測定した。まず、バンドソーにより、第2樹脂層の、表面を含む厚さ50μmの部分を含む広さ数cm角、厚さ数mmのサンプルを切り出した。その後、自動研磨装置を用い、表面を残して厚さが50μmになるまで研磨した。得られたサンプルをホルダから取り出し、波長400nmに対する透過率測定を行った。透過率の測定には分光光度計(U4000(商品名);(株)日立製作所製)を用いた。
【0038】
<素子散乱値測定手法>
素子散乱値は、図5に示した撮像装置を用いて評価を行った。具体的には回折光学素子をレンズ605の位置に配置した。回折光学素子に入射した光を撮像素子610で可視化し、任意の4か所において青色成分(波長430~480nm)の輝度値を算出したものを散乱値とした。
【実施例
【0039】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明をする。ただし、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
第1樹脂層2の形成に用いる材料として、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート20重量%、ペンタエリスリトールトリアクリレート25重量%、ジシクロペンテニルオキシエチルメタアクリレート40重量%、ウレタン変性ポリエステルアクリレート13重量%、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2重量%を混合した紫外線硬化型アクリル系樹脂に対し、平均粒子径20nmのITO微粒子を分散させたもの(以下、ITO分散樹脂ともいう)を用意した。
さらに、第2樹脂層1の形成に用いる材料を以下のようにして得た。ジルコニア-メタノール分散液(SZR-M(商品名);堺化学工業(株)製、個数平均粒子径3nm、分散液中ジルコニア粒子濃度30質量%)100質量部に対し、分散剤として、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノアクリレート(東亜合成(株)製)を4.8質量部加え、撹拌し溶解させた。この分散剤を溶解させた溶液に対し分散処理を行い、硬化性樹脂として、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートを4.2質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレートを2.68質量部、およびジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートを8.2質量部、並びに光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを0.5質量部、溶解させた。その後、オイルバスで加熱しながらエバポレータにより40℃で減圧濃縮を行い、メタノールを除去し、ジルコニア分散樹脂(以下、ZrO分散樹脂ともいう)を得た。
【0041】
次いで、図4に示す手順で回折光学素子を作製した。
まず、厚さ2mmのガラス基板3上にITO分散樹脂6を載置し、その上に回折格子形状の金型5を配置した(図4(a))。14.2mW/cm、211秒の条件と20mW/cm、600秒の条件(照度計: UIT250(商品名);ウシオ電機(株)製、および 受光器:UVD-S365(商品名);ウシオ電機(株)製を使用した)で不図示の高圧水銀ランプ(EXECURE250(商品名);HOYA CANDEO OPTRONICS(株)製)を照射し、硬化(図4(b))した後、型5から離型した(図4(c))。その後、温度80℃で、72時間、大気中でアニールして、回折格子形状を有する第1樹脂層2を得た。
次に、第1樹脂層2上にZrO分散樹脂8を滴下した(図4(d))。その上に平板ガラス7をのせて樹脂8を押し広げた。このサンプルに、14.2mW/cm、211秒の条件と20mW/cm、600秒の条件(照度計:UIT250(商品名);ウシオ電機(株)製、および 受光器:UVD-S365(商品名);ウシオ電機(株)製)を使用した)で不図示の高圧水銀ランプ(EXECURE250(商品名);HOYA CANDEO OPTRONICS(株)製)を照射し、サンプルを硬化した(図4(e))。その後、平板ガラス7を剥がし(図4(f))、温度80℃で72時間アニールした。最後に、第2樹脂層1には310nmの波長の短波長紫外光9を35J照射した。これにより、第2樹脂層1の表面のみに低透過率部を有する回折光学素子を得た(図4(g))。
【0042】
(実施例2)
実施例1の短波長紫外光の照射量を30Jに変更した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア分散樹脂、それを用いた回折光学素子を得た。
【0043】
(実施例3)
実施例1の短波長紫外光の照射量を55Jに変更した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア分散樹脂、それを用いた回折光学素子を得た。
【0044】
(比較例1)
実施例1の短波長紫外光の照射量を70Jに変更した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア分散樹脂、それを用いた回折光学素子を得た。
【0045】
(比較例2)
実施例1の短波長紫外光の照射量を10Jに変更した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア分散樹脂、それを用いた回折光学素子を得た。
【0046】
(比較例3)
実施例1の短波長紫外光の波長を365nmとし、照射量を60Jに変更した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア分散樹脂、それを用いた回折光学素子を得た。
【0047】
以下、表1に、上記混合樹脂硬化物の物性値評価結果、該混合樹脂硬化物を用いて作製した積層型回折光学素子の評価結果を示す。
【0048】
【表1】
表1中の判定の指標A、Bは下記の意味を有している。
A:素子散乱値が43未満であって、別課題が発生しなかった。
B:素子散乱値が43以上であるか、もしくは別課題が発生した。
【0049】
上記表1に示すように、実施例1~3によれば、短波長の紫外光を照射して第2樹脂層1の表面のみの短波長域の透過率を低下させることで、別課題を発生させることなく、回折光学素子の素子散乱値を改善することができた。比較例1に示すように照射量を多くし過ぎると、透過率が可視域全体で低下してしまい回折光学素子としての光学性能が低下してしまう。比較例2に示すように照射量が少なすぎると、低透過率部の透過率低減効果が十分ではなく散乱率を抑制することができない。比較例3に示すように長波長の紫外光を照射してしまうと、低透過率部が格子部に到達して第2樹脂層1の内部まで透過率が低下してしまい、回折光学素子としての光学性能が低下してしまう。
【符号の説明】
【0050】
1 第2樹脂層
2 第1樹脂層
3 基材
4 低透過率部
5 型
6 未硬化の樹脂
7 型
8 未硬化の樹脂
9 紫外光
600 カメラ
601 レンズ鏡筒
602 カメラ本体
図1
図2
図3
図4
図5