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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】駆動伝達ユニット及び記録装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/04 20060101AFI20240109BHJP
   G03G 21/16 20060101ALI20240109BHJP
   B41J 29/00 20060101ALI20240109BHJP
   F16H 53/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
F16D41/04
G03G21/16 195
B41J29/00 A
F16H53/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019070714
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169673
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】麻田 翔太
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086939(JP,A)
【文献】国際公開第2013/132572(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00-41/06
G03G 21/16
B41J 29/00
F16H 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の周りを回転可能な第一の部材と、
前記軸の周りを回転可能な第二の部材と、
前記軸において前記第一の部材の側の非伝達位置及び前記第二の部材の側の伝達位置に軸方向に変位自在に設けられ、前記第一の部材と前記第二の部材との間で回転力を伝達可能な伝達部材と、
を備える駆動伝達ユニットであって、
前記第一の部材は、前記伝達部材を囲む前記第二の部材の周壁部の少なくとも一部を囲み、
前記伝達部材の外周面と前記周壁部の内周面との間には、前記第二の部材に対する前記伝達部材の相対回転に抵抗する粘性材料が設けられ、
カム構造が前記第一の部材と前記伝達部材との間で構成され、前記非伝達位置において前記伝達部材が一方向に回転した場合に、前記伝達部材は前記カム構造によって前記伝達位置へ付勢され、
噛合構造が前記伝達部材と前記第二の部材との間で構成され、前記噛合構造は、前記伝達位置において前記伝達部材が前記一方向に回転した場合に噛み合い状態となる一方、前記伝達位置において前記伝達部材が逆方向に回転した場合に前記伝達部材が前記非伝達位置へ付勢されて前記噛み合い状態を解除する
ことを特徴とする駆動伝達ユニット。
【請求項2】
請求項に記載の駆動伝達ユニットであって、
前記第一の部材は、駆動力が入力される入力部材であり、
前記第二の部材は、駆動力を出力する出力部材である、
ことを特徴とする駆動伝達ユニット。
【請求項3】
請求項に記載の駆動伝達ユニットであって、
前記伝達部材は、前記入力部材及び前記出力部材に囲まれている、
ことを特徴とする駆動伝達ユニット。
【請求項4】
請求項またはに記載の駆動伝達ユニットであって、
前記周壁部は、前記入力部材の側の開放端部を有し、
前記入力部材は、前記開放端部を含む前記周壁部の一部及び前記伝達部材の外周面の一部を囲む第二の周壁部を有し、
前記伝達部材の前記外周面の前記一部と前記第二の周壁部の内周面との間に、隙間が形成されている、
ことを特徴とする駆動伝達ユニット。
【請求項5】
請求項に記載の駆動伝達ユニットであって、
前記伝達部材は、筒体であり、
前記カム構造は、前記筒体の周壁部の内側に形成されたカム面と、前記入力部材に形成され、前記カム面に当接する当接部と、を含む、
ことを特徴とする駆動伝達ユニット。
【請求項6】
記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記記録媒体に画像を記録する記録手段と、
を備えた記録装置であって、
前記搬送手段は、
モータと、
前記モータの駆動力を伝達する、請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の駆動伝達ユニットと、を含む、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項7】
記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段で搬送された記録媒体に画像を記録する記録手段と、
を備えた記録装置であって、
前記搬送手段は、
モータの駆動力を伝達する第一の駆動伝達ユニットと、
前記モータの駆動力を伝達する第二の駆動伝達ユニットと、を含み
前記第一の駆動伝達ユニット及び前記第二の駆動伝達ユニットは、それぞれ、
軸の周りを回転可能な第一の部材と、
前記軸の周りを回転可能な第二の部材と、
前記軸において前記第一の部材の側の非伝達位置及び前記第二の部材の側の伝達位置に軸方向に変位自在に設けられ、前記第一の部材と前記第二の部材との間で回転力を伝達可能な伝達部材と、を備え、
前記伝達部材の外周面と前記第二の部材の周壁部の内周面との間には、前記第二の部材に対する前記伝達部材の相対回転に抵抗する粘性材料が設けられ、
カム構造が前記第一の部材と前記伝達部材との間で構成され、前記非伝達位置において前記伝達部材が一方向に回転した場合に、前記伝達部材は前記カム構造によって前記伝達位置へ付勢され、
噛合構造が前記伝達部材と前記第二の部材との間で構成され、前記噛合構造は、前記伝達位置において前記伝達部材が前記一方向に回転した場合に噛み合い状態となる一方、前記伝達位置において前記伝達部材が逆方向に回転した場合に前記伝達部材が前記非伝達位置へ付勢されて前記噛み合い状態を解除し、
前記第一の部材は、駆動力が入力される入力部材であり、
前記第二の部材は、駆動力を出力する出力部材であり、
前記第一の駆動伝達ユニットの入力部材及び前記第二の駆動伝達ユニットの入力部材は、互いに噛み合う歯車であり、
前記第一の駆動伝達ユニットの出力部材及び前記第二の駆動伝達ユニットの出力部材は、アイドラギアを介して噛み合う歯車であり、
前記第二の駆動伝達ユニットの前記出力部材は、
前記アイドラギアと噛み合う第一の歯部と、
前記モータの回転方向によらずに回転されるローラへ駆動力を伝達するために第二の歯部と、を備える、
ことを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動伝達ユニット及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一方向の回転のみ、駆動力を伝達するユニットとしてワンウェイクラッチが知られている。インクジェット記録装置に代表される記録装置では、小型化や構造の簡素化が要求されるため、カム構造を備えたワンウェイクラッチが提案されている。例えば、特許文献1には、入力側の部材、伝達部材、出力側の部材を同軸上に備え、出力側の部材と伝達部材との間にカム構造が形成されている。このカム構造は、伝達部材が所定方向に回転した場合に、伝達部材を入力側の部材へ変位させて両者を係合状態とし、入力側の部材と出力側の部材とが機械的に連結された状態とする。伝達部材には入力側の部材を押圧する弾性部材が設けられ、弾性部材による伝達部材と入力側の部材との摩擦抵抗の向上により、伝達部材を所定方向に回転させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5439928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように弾性部材を設けた構造では、使用による部材間の摩耗の進行や塑性変形による弾性部材の弾性力の低下等により、意図する動作が得られない場合が考えられ、耐久性の点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、より耐久性の高い駆動力伝達構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、例えば、
軸の周りを回転可能な第一の部材と、
前記軸の周りを回転可能な第二の部材と、
前記軸において前記第一の部材の側の非伝達位置及び前記第二の部材の側の伝達位置に軸方向に変位自在に設けられ、前記第一の部材と前記第二の部材との間で回転力を伝達可能な伝達部材と、
を備える駆動伝達ユニットであって、
前記第一の部材は、前記伝達部材を囲む前記第二の部材の周壁部の少なくとも一部を囲み、
前記伝達部材の外周面と前記周壁部の内周面との間には、前記第二の部材に対する前記伝達部材の相対回転に抵抗する粘性材料が設けられ、
カム構造が前記第一の部材と前記伝達部材との間で構成され、前記非伝達位置において前記伝達部材が一方向に回転した場合に、前記伝達部材は前記カム構造によって前記伝達位置へ付勢され、
噛合構造が前記伝達部材と前記第二の部材との間で構成され、前記噛合構造は、前記伝達位置において前記伝達部材が前記一方向に回転した場合に噛み合い状態となる一方、前記伝達位置において前記伝達部材が逆方向に回転した場合に前記伝達部材が前記非伝達位置へ付勢されて前記噛み合い状態を解除する、ことを特徴とする駆動伝達ユニットが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より耐久性の高い駆動力伝達構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る記録装置の外観図。
図2図1の記録装置の内部構造を示す模式図。
図3】(A)は駆動伝達装置の斜視図、(B)は駆動伝達装置の分解斜視図。
図4】(A)及び(B)は、駆動伝達装置における各構成の回転方向(駆動伝達方向)を説明する説明図。
図5】(A)は駆動伝達ユニットの組み立て状態での斜視図、(B)は駆動伝達ユニットの分解斜視図。
図6】(A)は入力部材21の斜視図、(B)は出力部材23の斜視図、(C)及び(D)は伝達部材22の斜視図。
図7】分解状態における入力部材、伝達部材、出力部材の断面図。
図8】組み立て状態の駆動伝達ユニット11の断面図及び部分拡大図。
図9】(A)及び(B)は駆動伝達ユニットの動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<記録装置>
図1は、本発明の一実施形態に係る記録装置1の外観図である。各図において、X、Y、Zは互いに直交する方向を示す。Xは、記録装置1の幅方向であり、Yは奥行き方向であり、Zは高さ方向である。本実施形態では、シリアル型のインクジェット記録装置に本発明を適用した場合について説明するが、本発明は他の形式の記録装置にも適用可能である。
【0011】
なお、「記録」には、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も含まれ、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、本実施形態では「記録媒体」としてシート状のカット紙を想定するが、布、プラスチック・フィルム等であってもよい。
【0012】
記録装置1は、その後部に折り畳み可能なトレイ2aを備え、また、その前部にトレイ2bを備える。トレイ2a、2bには、画像の記録対象である記録媒体Sをそれぞれ積載可能である。ユーザは記録媒体の積載場所として、トレイ2aとトレイ2bとを任意に選択できる。
【0013】
記録装置1の前部の両側には、インク貯留部3a、3bが設けられている。インク貯留部3a、3bには画像の記録に用いる複数種類の液体インクが貯留されている。記録装置1の前面には操作パネル4が設けられている。操作パネル4は、ユーザの指示を受け付ける入力部やユーザに情報を表示する表示部を備える。
【0014】
図2は記録装置1の内部構造を示す模式図である。記録装置1は給送部5、搬送部6、排出部9、キャリッジ7及び記録ヘッド8を含む。給送部5は、トレイ2a上又はトレイ2b上の記録媒体Sを搬送部6へ給送する機構である。図示の例では、トレイ2a上の記録媒体Sは経路RT1を通って共通経路RT3を介して搬送部6へ搬送され、トレイ2b上の記録媒体Sは経路RT2を通って共通経路RT3を介して搬送部6へ搬送される。
【0015】
経路RT1を通って記録媒体Sを給送する構成として、給送部5はローラ50、ローラ51を含む。ローラ50はトレイ2aから記録媒体Sを搬送し、続いてローラ51が記録媒体Sをローラ54へ搬送する。経路RT2を通って記録媒体Sを給送する構成として、給送部5はローラ52、ローラ53を含む。ローラ52はトレイ2bから記録媒体Sを搬送し、続いてローラ53が記録媒体Sをローラ54へ搬送する。
【0016】
給送部5は、その駆動源として共通のモータ55を含む。モータ55の駆動力により、ローラ50~ローラ54が回転する。モータ55を一方向に回転した場合、不図示の駆動機構によりローラ50及びローラ51とローラ53とローラ54が回転され、ローラ52は回転しない。モータ55を逆方向に回転した場合、不図示の駆動機構によりローラ52及びローラ53とローラ54が回転され、ローラ50及びローラ51は回転しない。モータ55とローラ53との間の駆動伝達経路には、駆動伝達装置56が設けられている。駆動伝達装置56は、モータ55の回転方向によらずにローラ53を同じ方向に回転させ、経路RT1又は経路RT2から給送された記録媒体Sを、共通経路RT3を通して下流側へ給送する。駆動伝達装置56の詳細は後述する。
【0017】
搬送部6は、給送部5から給送される記録媒体Sを搬送して記録ヘッド8の下方の記録位置を通過させる機構であり、ローラ及びその駆動機構を含む。排出部9は、搬送部6から搬送される記録媒体Sを搬送して機外へ排出する機構であり、ローラ及びその駆動機構を含む。
【0018】
キャリッジ7は、不図示の駆動機構によってX方向に往復移動可能に設けられており、記録ヘッド8はキャリッジ7に支持されている。記録ヘッド8にはインク貯留部3a、3bに貯留されたインクが供給される。記録ヘッド8は記録媒体S上にインクを吐出し、画像を記録する。搬送部6による記録媒体Sの間欠的な搬送と、キャリッジ7のX方向の移動及び記録ヘッド8からのインクの吐出と、を交互に繰り返すことにより、記録媒体Sに画像が記録される。
【0019】
<駆動伝達装置>
図3(A)は駆動伝達装置56の斜視図、図3(B)は駆動伝達装置56の分解斜視図である。駆動伝達装置56は、二列の駆動伝達ユニット11、12、アイドラギア10及びこれらを回転自在に支持する各軸(不図示)を有するギアボックス(ハウジング)10を含む。図4(A)及び図4(B)も参照する。図4(A)及び図4(B)は、駆動伝達装置56における各構成の回転方向(駆動伝達方向)を説明する説明図である。
【0020】
駆動伝達ユニット11、12は、いずれも、一方向の回転の回転力のみを伝達可能なワンウェイクラッチユニットである。駆動伝達ユニット11は、ギアボックス10が備える共通の軸上に入力部材21、伝達部材22、出力部材23を回転自在に備えている。入力部材21、伝達部材22、出力部材23はいずれも例えば樹脂成形品である。軸線11aは共通の軸(後述する軸20)の中心線である。入力部材21は、モータ55の駆動力が入力される、駆動伝達装置56の入力ギアを構成する歯部21aを備えた歯車である。伝達部材22は、入力部材21の一方向の回転のみを出力部材23に伝達する。
【0021】
駆動伝達ユニット12は、ギアボックス10が備える共通の軸上に入力部材31、伝達部材32、出力部材33を回転自在に備えている。入力部材31、伝達部材32、出力部材33はいずれも例えば樹脂成形品である。軸線12aは共通の軸の中心線であり、軸線11aと平行である。出力部材33は、ローラ54への駆動力の出力を行う、駆動伝達装置56の出力ギアを構成する歯部33bを備えた歯車である。伝達部材32は、入力部材31の一方向の回転のみを出力部材33に伝達する。
【0022】
入力部材31は伝達ギアを構成する歯部31aを有する歯車である。入力部材21の歯部21aと常時噛み合う歯部31aを有する。したがって、入力部材21と入力部材31とは常に互いに逆方向に回転する。アイドラギア10は軸線11a及び11bと平行な軸回りに回転する。出力部材23は伝達ギアを構成する歯部23aを有する歯車である。また、出力部材33は伝達ギアを構成する歯部33aを備えている。歯部23aと歯部33aは、アイドラギア10に常時噛み合う。したがって、出力部材23と出力部材33は常時同方向に回転する。
【0023】
図4(A)は、入力部材21にモータ55から一方向の回転(便宜的にモータ55の正転とする)が入力された場合の各構成の回転方向を矢印で示しており、この場合の入力部材21の回転方向を正転方向と呼ぶ場合がある。図4(B)は、入力部材21にモータ55から逆方向の回転(便宜的にモータ55の逆転とする)が入力された場合の各構成の回転方向を矢印で示しており、この場合の入力部材21の回転方向を逆転方向と呼ぶ場合がある。
【0024】
図4(A)の場合、伝達部材22が入力部材21と出力部材23とを機械的に連結する一方、伝達部材32は入力部材31と出力部材33とを機械的に連結しない。したがって、モータ55の回転駆動力は、入力部材21→伝達部材22→出力部材23→アイドラギア13→出力部材33の経路で伝達される。図4(B)の場合、伝達部材22は入力部材21と出力部材23とを機械的に連結せず、伝達部材32は入力部材31と出力部材33とを機械的に連結する。したがって、モータ55の回転駆動力は、入力部材21→入力部材31→伝達部材32→出力部材33の経路で伝達される。
【0025】
<駆動伝達ユニット>
駆動伝達ユニット11の構造を図5(A)~図9(B)を参照して説明する。なお、駆動伝達ユニット12の構造も駆動伝達ユニット11と同様である。図5(A)は駆動伝達ユニット11の組み立て状態での斜視図であり、図5(B)は駆動伝達ユニット11の分解斜視図である。図6(A)~図6(D)は、それぞれ、入力部材21の斜視図、出力部材23の斜視図、伝達部材22の斜視図、伝達部材22の斜視図である。図7は、分解状態における入力部材21、伝達部材22、出力部材23の断面図である。
【0026】
入力部材21は周壁部210によって全体的に円筒状に形成され、周壁部210の一部が上述した歯部21aを形成し、残りの部分が歯部21aよりも小径の円筒部21bを形成している。本実施形態の入力部材21は二重管構造を有しており、周壁部210の内部に内筒部211を有している。内筒部211は軸20が挿通する軸穴を構成する。内筒部211の端部には、軸方向に延びる係合部212が形成されている。係合部212は、内筒部211の一部を軸方向に延長した円弧形状断面を有しており、その軸方向の端部が当接部212aを、周方向の一端部が当接部212bを、周方向の他端部が当接部212cを、形成している。内筒部211の外周面と周壁部210の内周面との間に環状の隙間G1が形成されている。
【0027】
出力部材23は、周壁部230によって全体的に円筒状に形成され、周壁部230の一部が上述した歯部23aを形成し、残りの部分が歯部23aよりも小径の円筒部223bを形成している。円筒部23bは、入力部材21の円筒部21bにより囲まれており、円筒部223bと円筒部21bとは径方向に重なり合っている。
【0028】
周壁部230は、一端部230aと他端部230bとを有し、一端部230aには軸20が挿通する軸穴が形成され、他端部230bは円筒部23bにより形成される開放端部である。一端部230aの内側には、複数の歯が環状に形成された噛合部231が形成されている。周壁部230は、また、円筒形状の内周面230cを有している。
【0029】
伝達部材22は、周壁部22aによって全体として円筒状に形成された筒体であり、軸20が挿通する孔を有する。入力部材21及び出力部材23は軸20の軸方向に変位不能に構成され、伝達部材22は変位自在に構成される。伝達部材22は、出力部材23の周壁部230内に遊嵌され、周壁部230の内周面230cと伝達部材22との間に粘性材料16が設けられる。粘性材料16は、伝達部材22と出力部材23との相対回転に抵抗する粘性を有する材料であって、例えば、流動性が比較的低い液状材料であり、より具体的には例えば機械構造の摺動部を潤滑するグリス等の液状油脂材料である。駆動伝達ユニット11の組み立ての際、粘性材料16は例えば図7に示すように内周面230cに薄膜状に塗布され、その後、伝達部材22が内周面230内に挿入される。
【0030】
周壁部22aの出力部材23側の端部には噛合部220が形成されている。伝達部材22と出力部材23とは、両者を断続する係合構造15を構成し、この係合構造15は、噛合部220と噛合部231とにより構成される噛合構造である。噛合部220は噛合部231と共にラチェットを構成する。噛合部220及び噛合部231の各歯は、軸線11aと平行な噛合面と、噛合面に対して傾斜した傾斜面とが規則的に形成されている。そして、噛合部220及び噛合部231の各噛合面が当接する方向において、伝達部材22と出力部材23との間で駆動伝達がなされ、逆方向において各傾斜面が当接することで、伝達部材22が入力部材23の側へ付勢され、噛み合い状態が解除される。
【0031】
周壁部22aの内側には、カム面221、当接部222及び当接部223が形成されている。当接部222と当接部223とは周方向に離間しており、その間にカム面221が形成されている。当接部222と当接部223とは、軸方向及び径方向と平行な面であり、カム面221は軸方向に傾斜し、かつ、径方向と平行な面である。カム面221の入力部材21の側の端部は当接部222と連続している。
【0032】
伝達部材22と入力部材21とは、両者を断続する係合構造14を構成する。この係合構造14は、カム面221と、カム面221に当接する係合部212の当接部212aにより構成されるカム構造と、当接部222と係合部212の当接部212aとにより構成される噛合構造と、を含む。
【0033】
図8は、組み立て状態の駆動伝達ユニット11の断面図及び部分拡大図である。本実施形態の場合、伝達部材22が入力部材21の周壁部210及び出力部材23の周壁部230によって囲まれる。粘性材料16が漏出しづらくなり、周壁部230の内周面230cと伝達部材22との間に粘性材料16を長期間に渡って保持できる。特に、周壁部230の開放端部230bを含む円筒部23bと、伝達部材22の周壁部22の一部が、入力部材211の周壁部230で囲まれるため、粘性材料16が外部に漏出することを防止できる。また、図8の部分拡大図は周壁部230の内周面230cと伝達部材22との間から粘性材料16が漏出している状態を例示している。こうした状態になっても、周壁部22aの外周面と周壁部210の内周面との間には隙間G1が形成されているため、粘性材料16が直ぐに入力部材21と伝達部材22との相対回転に抵抗することにはならない。これは、カム面221と当接部212aとの当接により、伝達部材22を出力部材23の側に付勢する際に、入力部材21に伝達部材22が連れ回って伝達部材22の付勢が弱くなることを防止できる。
【0034】
また、入力部材21の円筒部21bの内周面と出力部材23の円筒部23bの外周面との間にも隙間G2が形成されている。このため、粘性材料16が漏出しても、直ぐに入力部材21と伝達部材22との相対回転に抵抗することにはならない。これは、カム面221と当接部212aとの当接により、伝達部材22を出力部材23の側に付勢する際に、入力部材21に伝達部材22及び出力部材23が連れ回って伝達部材22の付勢が弱くなることを防止できる。
【0035】
図9(A)及び図9(B)を参照して、入力部材21と出力部材23との断続態様について説明する。図9(A)は伝達部材22が入力部材21の側の非伝達位置に位置している状態を示す。噛合部220と噛合部231とが離間した状態にあり、伝達部材22と出力部材23との間での駆動伝達は行われない。入力部材21を逆転方向に回転すると、係合部212の当接部212cと、伝達部材22の当接部223との当接により伝達部材22が入力部材21に連れ回る。しかし、伝達部材22と出力部材23との間での駆動伝達がないため、出力部材23の負荷が粘性材料16の回転抵抗を下回らない限り、出力部材23は回転しない。
【0036】
図9(A)の状態から、入力部材21が正転方向に回転すると、当接部212aがカム面221と係合し、伝達部材22を出力部材23側へ付勢する。やがて図9(B)に示すように伝達部材22が出力部材23の側の伝達位置に変位する。変位量は例えば1mm程度である。噛合部220と噛合部231とが噛み合い状態となり、また、当接部222と当接部212aとが当接する。これにより、伝達部材22と入力部材21との間で駆動伝達がなされ、かつ、伝達部材22と出力部材23との間でも駆動伝達がなされる。すなわち、入力部材21と出力部材23とが機械的に連結される。
【0037】
当接部212aがカム面221と係合し、伝達部材22を出力部材23側へ付勢する際、入力部材21に伝達部材22が連れ回ると、当接部212aとカム面221との周方向の位置関係が変わらないので、伝達部材22が付勢されない。しかし、本実施形態の場合、出力部材23と伝達部材22との相対回転に粘性材料16が抵抗する一方、入力部材21と伝達部材22との間には粘性材料が介在していない。出力部材23が入力部材21よりも低速で同方向に回転しているか停止している場合、伝達部材22が入力部材21と連れ回ることに粘性材料16が抵抗するので、当接部212aとカム面221との位置関係が変わり、伝達部材22が付勢されることになる。
【0038】
こうして本実施形態では、粘性材料16により入力部材21に伝達部材22が連れ回ることに抵抗するので、伝達部材22の変位付勢のために部材間の摩耗や部材の塑性変形を生じることがほとんどない。よって、より高い耐久性を得られる。粘性材料16は、内周面230cに塗布すればよいだけであり、構造の複雑化を伴わず、小型化・軽量化にも適している。よって駆動伝達ユニット11は記録装置1に適したユニットである。
【0039】
カム面221や当接部212b及び212cは、周壁部22aの内部に存在するので、周壁部22aの外周面に存在する粘性材料16がこれらに付着しづらい。よって、入力部材21の係合部212にカム面221や当接部212b及び212cが貼りついて伝達部材22が伝達位置に変位することを妨げることも防止できる。
【0040】
図9(B)の状態から入力部材21が逆転方向に回転すると、当接部212aとカム面221との係合による伝達部材22の付勢は作用しない。当接部212cと当接部223との当接により、伝達部材22も逆転方向に回転し、噛合部220と噛合部231の各傾斜面の当接によって伝達部材22は図9(A)に示す非伝達位置に変位することになる。本実施形態の場合、当接部212cと当接部223とをいずれも、軸線11cと平行な面としたが、入力部材21が逆転方向に回転した場合に、伝達部材22が非伝達位置に引き込まれるように、いずれか一方を傾斜した面としてもよい。
【0041】
<他の実施形態>
上記実施形態の駆動伝達ユニット11の入力部材21を出力部材とし、出力部材23を入力部材としてもよい。また、駆動伝達ユニット11は記録装置1の他の駆動伝達部位にも適用可能であり、更に、記録装置1以外の装置における駆動伝達機構にも適用可能である。
【0042】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0043】
11 駆動伝達ユニット、14 係合構造、15 係合構造、21 入力部材、22 伝達部材、23 出力部材、56 駆動伝達装置
図1
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図9