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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】回転力伝達機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/00 20060101AFI20240109BHJP
   F16H 55/30 20060101ALI20240109BHJP
   F16H 55/36 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
F16H7/00 Z
F16H55/30 C
F16H55/36 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019074194
(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公開番号】P2020172958
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-07-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中川 琢麻
【合議体】
【審判長】中屋 裕一郎
【審判官】内田 博之
【審判官】平城 俊雅
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-190079(JP,A)
【文献】特開2012-77798(JP,A)
【文献】実開昭60-7454(JP,U)
【文献】特開平5-172216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/00 , F16H 55/30 , F16H 55/36 , F16D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、環状伝達部材が巻き掛けられ、前記シャフトとともに回転する回転体と、を備える回転力伝達機構であって、
前記シャフトは、
軸部と、
前記軸部の外周面から前記軸部の径方向に突出する突出部と、を備え、
前記回転体は、
前記シャフトが挿入される挿入孔を形成している挿入孔形成面と、
前記シャフトが収容されるケースに支持された軸受に支持されるジャーナルと、を備え、
前記挿入孔形成面は、
前記軸部の外周面に向かい合う第1形成面と、
前記第1形成面よりも前記回転体の径方向外側に位置しており、前記突出部が挿入される凹部を形成している第2形成面と、を備え、
前記挿入孔形成面と前記シャフトとの間には、前記軸部の径方向に対する前記シャフトの移動を許容する隙間が区画され、
前記隙間は、
前記軸部の径方向に対する隙間である第1隙間と、
前記軸部の回転方向に対する隙間である第2隙間と、を含み、
前記第1隙間の前記軸部の径方向に対する寸法は、前記第2隙間の前記回転方向に対する寸法よりも大きく、
前記突出部は、前記軸部の一端面まで延びており、
前記軸部の軸線方向に対する前記突出部の寸法は、前記軸部の軸線方向に対する前記挿入孔の寸法より長い回転力伝達機構。
【請求項2】
前記回転体は、前記環状伝達部材としてチェーンが巻き掛けられるスプロケットである請求項1に記載の回転力伝達機構。
【請求項3】
前記スプロケットは、前記チェーンとしてタイミングチェーンが巻き掛けられるスプロケットである請求項2に記載の回転力伝達機構。
【請求項4】
前記シャフトは、クランクシャフトである請求項3に記載の回転力伝達機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転力伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
回転力を環状伝達部材に伝達したり、環状伝達部材からの回転力が伝達される回転力伝達機構は、シャフトと、シャフトと一体回転する回転体と、を備える。回転体には環状伝達部材が巻き掛けられる。回転力伝達機構では、回転体と環状伝達部材との接触によって騒音が生じる場合がある。特許文献1の回転力伝達機構は、回転体としてスプロケットを備える。スプロケットには、環状伝達部材としてのチェーンが巻き掛けられている。特許文献1では、スプロケットにゴム製の緩衝部材を設けることで、チェーンの噛み合い音を低減させている。緩衝部材は、スプロケットの歯底から径方向外側に突出している。チェーンと歯底とが直接接触しにくく、噛み合い音が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-128316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
緩衝部材はゴム製なので、経年によって硬化する特性がある。従って、緩衝部材を設けることで噛み合い音を低減させる場合、回転力伝達機構の耐久性に課題が生じる。
本発明の目的は、耐久性の低下を抑制しつつ、騒音を低減することができる回転力伝達機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する回転力伝達機構は、シャフトと、環状伝達部材が巻き掛けられ、前記シャフトとともに回転する回転体と、を備える回転力伝達機構であって、前記シャフトは、軸部と、前記軸部の外周面から前記軸部の径方向に突出する突出部と、を備え、前記回転体は、前記シャフトが挿入される挿入孔を形成している挿入孔形成面と、軸受に支持されるジャーナルと、を備え、前記挿入孔形成面は、前記軸部の外周面に向かい合う第1形成面と、前記第1形成面よりも前記回転体の径方向外側に位置しており、前記突出部が挿入される凹部を形成している第2形成面と、を備え、前記挿入孔形成面と前記シャフトとの間には、前記軸部の径方向に対する前記シャフトの移動を許容する隙間が区画されている。
【0006】
シャフトの回転時にシャフトに軸芯振れが生じると、シャフトは軸部の径方向に動く。この際、シャフトから回転体に軸部の径方向への力が伝達されると、シャフトとともに回転体が軸部の径方向に動くことになり、環状伝達部材がばたつく原因となる。挿入孔形成面とシャフトとの間に軸部の径方向に対するシャフトの移動を許容する隙間を区画することで、シャフトに軸芯振れが生じた場合に、軸部の径方向への力が回転体に伝達されにくい。また、回転体には、シャフトの突出部が挿入される凹部が設けられており、シャフトの回転力は突出部から凹部を形成している第2形成面に伝達される。従って、回転力伝達機構では、軸部の径方向への力は回転体に伝達されにくい一方で、シャフトからの回転力は回転体に伝達される。シャフトに軸芯振れが生じた際に、環状伝達部材がばたつきにくいため、騒音が低減される。挿入孔形成面とシャフトとの間に設けられた隙間によって騒音を低減しているため、緩衝部材のように、環状伝達部材と回転体に生じる衝撃を緩和する部材を設ける必要がない。このため、緩衝部材の劣化を原因とする回転力伝達機構の耐久性の低下を抑制できる。
【0007】
上記回転力伝達機構について、前記隙間は、前記軸部の径方向に対する隙間である第1隙間と、前記軸部の回転方向に対する隙間である第2隙間と、を含み、前記第1隙間の前記軸部の径方向に対する寸法は、前記第2隙間の前記回転方向に対する寸法よりも大きくてもよい。
【0008】
第1隙間の軸部の径方向に対する寸法によって、シャフトに軸芯振れが生じたときにシャフトが軸部の径方向に移動できる範囲が定まる。第1隙間の軸部の径方向に対する寸法を第2隙間の軸部の回転方向に対する寸法よりも大きくすることで、シャフトに軸芯振れが生じた場合に、軸部の径方向への力が回転体に伝達されることが更に抑制される。
【0009】
上記回転力伝達機構について、前記回転体は、前記環状伝達部材としてチェーンが巻き掛けられるスプロケットであってもよい。
回転体としてチェーンが巻き掛けられるスプロケットを用いる場合、ベルトが巻き掛けられるプーリを用いる場合に比べて騒音が生じやすい。騒音が生じやすい回転力伝達機構について騒音が低減されるように構成することで、騒音を適切に低減することができる。
【0010】
上記回転力伝達機構について、前記スプロケットは、前記チェーンとしてタイミングチェーンが巻き掛けられるスプロケットであってもよい。
タイミングチェーンは、クランクシャフトの回転によって回転するチェーンである。クランクシャフトは、高速に回転することが可能であり、トルク変動も大きい。このため、タイミングチェーンとスプロケットとの噛み合い時には、騒音が生じやすい。このように、騒音が生じやすい回転力伝達機構について騒音が低減されるように構成することで、騒音を適切に低減することができる。
【0011】
上記回転力伝達機構について、前記シャフトは、クランクシャフトであってもよい。
クランクシャフトの回転力は、スプロケットを介してタイミングチェーンに伝達され、タイミングチェーンから他のスプロケットに伝達される。クランクシャフトの軸芯振れがスプロケットに伝達されることを抑制することで、騒音を適切に抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐久性の低下を抑制しつつ、騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】エンジンの模式図。
図2】駆動側回転力伝達機構の断面図。
図3】駆動側回転力伝達機構の断面図。
図4】クランクシャフトと挿入孔形成面との間の隙間を拡大して示す駆動側回転力伝達機構の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、回転力伝達機構の一実施形態について説明する。
図1に示すように、エンジン10は、シリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、クランクケース13と、オイルパン14と、チェーンカバー80と、を備える。シリンダブロック11の上部には、シリンダヘッド12が固定されている。シリンダブロック11の下部には、クランクケース13が固定されている。クランクケース13の下部には、オイルパン14が固定されている。チェーンカバー80は、シリンダブロック11の外面のうち一端面15側に設けられている。一端面15は、例えば、エンジン10が車両に搭載された状態で、車両の前方を向く面である。
【0015】
エンジン10は、金属製のタイミングチェーン21と、駆動側回転力伝達機構30と、2つの被駆動側回転力伝達機構60,70と、ダンパ22と、スリッパ23と、テンショナ24と、を備える。駆動側回転力伝達機構30は、タイミングチェーン21を介して被駆動側回転力伝達機構60,70に回転力を伝達する機構である。被駆動側回転力伝達機構60,70は、タイミングチェーン21を介して駆動側回転力伝達機構30の回転力が伝達される機構である。
【0016】
駆動側回転力伝達機構30は、シリンダ内で上下動するピストンの下部にコンロッドを介して連結され、ピストンの上下動を回転運動に変換するクランクシャフト31と、クランクシャフト31とともに回転する回転体としてのクランクスプロケット41と、を備える。クランクシャフト31は、シリンダブロック11及びクランクケース13に収容されている。
【0017】
被駆動側回転力伝達機構60は、吸気カムシャフト61と、吸気カムシャフト61と一体回転する吸気スプロケット62と、を備える。被駆動側回転力伝達機構70は、排気カムシャフト71と、排気カムシャフト71と一体回転する排気スプロケット72と、を備える。吸気カムシャフト61は、回転することによって吸気弁を開閉させる。排気カムシャフト71は、回転することによって排気弁を開閉させる。詳細に説明すると、シリンダヘッド12は、シリンダブロック11内のシリンダ上部を閉塞して燃焼室を区画しており、シリンダヘッド12は、燃焼室と吸気管とを連通させる吸気口と、燃焼室と排気管とを連通させる排気口と、を備える。吸気口には、吸気弁が設けられており、吸気弁は吸気カムシャフト61の回転によって開閉する。排気口には、排気弁が設けられており、排気弁は排気カムシャフト71の回転によって開閉する。
【0018】
タイミングチェーン21、クランクスプロケット41、吸気スプロケット62、排気スプロケット72、ダンパ22、スリッパ23及びテンショナ24は、チェーンカバー80内に設けられている。また、クランクシャフト31の一部、吸気カムシャフト61の一部及び排気カムシャフト71の一部もチェーンカバー80内に設けられている。
【0019】
タイミングチェーン21は環状である。タイミングチェーン21は、クランクスプロケット41、吸気スプロケット62及び排気スプロケット72に巻き掛けられている。クランクスプロケット41の回転により吸気スプロケット62及び排気スプロケット72は従動回転する。吸気スプロケット62の回転により吸気カムシャフト61は回転し、排気スプロケット72の回転により排気カムシャフト71は回転する。タイミングチェーン21は、クランクスプロケット41の回転力を吸気スプロケット62及び排気スプロケット72に伝達する環状伝達部材である。
【0020】
ダンパ22は、タイミングチェーン21の張り側、即ち、タイミングチェーン21の回転方向における排気スプロケット72とクランクスプロケット41との間に設けられている。ダンパ22は、タイミングチェーン21の移動を外側から案内する部材である。
【0021】
スリッパ23及びテンショナ24は、タイミングチェーン21の弛み側、即ち、タイミングチェーン21の回転方向における吸気スプロケット62とクランクスプロケット41との間に設けられている。スリッパ23は、タイミングチェーン21の移動を外側から案内する部材である。テンショナ24は、スリッパ23をタイミングチェーン21に向けて押圧する。テンショナ24としては、例えば、油圧アクチュエータを用いることができる。
【0022】
次に、回転力伝達機構としての駆動側回転力伝達機構30について詳細に説明を行う。
図2及び図3に示すように、シャフトとしてのクランクシャフト31は、軸部32と、軸部32の外周面33から軸部32の径方向に突出する突出部34と、を備える。突出部34は、8つ設けられている。突出部34は、軸部32の周方向、即ち、軸部32の回転方向に一定間隔毎に配置されている。各突出部34は、同一形状である。なお、同一形状とは、公差の範囲内での若干の誤差を許容するものである。
【0023】
突出部34は、矩形であり、板状の部材である。突出部34は、軸部32の両端のうち一端面15側の端部に設けられている。この端部は、クランクスプロケット41に挿入される部位であり、突出部34は、軸部32におけるクランクスプロケット41に挿入される位置に設けられているといえる。突出部34は、軸部32の外周面33に交わる面である2つの伝達面35と、2つの伝達面35に交わる先端面36と、を備える。伝達面35同士は、軸部32の回転方向に対して対となる面である。伝達面35は、突出部34における軸部32の回転方向の両端面といえる。先端面36は、突出部34における軸部32からの突出方向、即ち、軸部32の径方向の端面である。
【0024】
スプロケットとしてのクランクスプロケット41は、円柱状のジャーナル42と、チェーンとしてのタイミングチェーン21が巻き掛けられる歯部43と、を備える。ジャーナル42が軸受19によって支持されることで、クランクスプロケット41は回転可能な状態で支持されている。詳細にいえば、シリンダブロック11は一端面15から突出する第1支持部17を備える。クランクケース13は一端面16から突出する第2支持部18を備える。クランクケース13の一端面16は、シリンダブロック11の一端面15と同一方向の端面である。軸受19は、第1支持部17及び第2支持部18によって支持されている。第1支持部17及び第2支持部18によって支持された軸受19によってクランクスプロケット41は支持されている。本実施形態では、軸受19として、滑り軸受が用いられる。
【0025】
クランクスプロケット41は、クランクシャフト31が挿入される挿入孔44を形成している挿入孔形成面47を備える。挿入孔44は、クランクスプロケット41を軸線方向に貫通している。クランクスプロケット41の中心軸と、挿入孔44の中心軸C1とは一致している。挿入孔44は、軸部32が挿入される部分である軸挿入部45と、突出部34が挿入される部分である凹部46と、を備える。軸挿入部45と、凹部46とは連通している。
【0026】
図3及び図4に示すように、挿入孔形成面47は、第1形成面48と、第2形成面50と、を備える。第1形成面48は、クランクスプロケット41の回転方向に分断されて複数設けられている。各第1形成面48の曲率は同一であり、第1形成面48同士の間を第1形成面48の曲率と同一の曲率の曲面で繋いだ仮想的な面Cは円形状になる。この円形状の面Cに囲まれる領域が軸挿入部45である。挿入孔44の中心軸C1から第1形成面48までの寸法、即ち、軸挿入部45の半径L1は、軸部32の半径L2よりも長い。
【0027】
第2形成面50は、第1形成面48同士の間に位置している。第2形成面50は、軸挿入部45からクランクスプロケット41の径方向外側に凹む凹部46を形成している。第2形成面50は、第1形成面48に交わる2つの面である被伝達面51と、2つの被伝達面51に交わる面である底面52と、を備える。2つの被伝達面51は、クランクスプロケット41の回転方向に対となる面である。底面52は、凹部46においてクランクスプロケット41の径方向の底となる面である。
【0028】
被伝達面51のクランクスプロケット41の径方向に対する寸法L3と、伝達面35の軸部32の径方向に対する寸法L4とは同一である。言い換えれば、第1形成面48からクランクスプロケット41の径方向への凹部46の凹み量は、軸部32の外周面33から軸部32の径方向への突出部34の突出量と同一である。被伝達面51同士の間隔L5は、伝達面35同士の間隔L6に比べて長い。
【0029】
軸挿入部45の半径L1と軸部32の半径L2との寸法差を第1寸法差、被伝達面51同士の間隔L5と伝達面35同士の間隔L6との差を第2寸法差とすると、第1寸法差は、第2寸法差よりも大きい。
【0030】
クランクシャフト31は、軸部32の軸線方向とクランクスプロケット41の軸線方向とが一致する状態で挿入孔44に挿入されている。従って、軸部32の軸線方向とスプロケットの軸線方向、軸部32の径方向とクランクスプロケット41の径方向、軸部32の回転方向とクランクスプロケット41の回転方向は、それぞれ、同一方向といえる。第1形成面48は、軸部32の外周面33に向かい合う。クランクシャフト31はシリンダブロック11及びクランクケース13内で軸受に支持され、クランクスプロケット41は軸受19に支持されているが、クランクシャフト31とクランクスプロケット41とは互いに固定されていない。即ち、クランクシャフト31は、クランクスプロケット41の挿入孔44内での移動が許容された状態である。
【0031】
クランクシャフト31の軸部32及び突出部34が挿入孔44に挿入された状態で、クランクシャフト31の外面と、挿入孔形成面47との間には隙間CA1,CA2,CA3が区画される。
【0032】
隙間CA1,CA2,CA3は、軸部32の径方向に対する隙間CA1,CA2である第1隙間CA1,CA2と、軸部32の回転方向に対する隙間CA3である第2隙間CA3と、を含む。第1隙間CA1,CA2は、軸部32の外周面33と第1形成面48との間の隙間CA1及び突出部34の先端面36と第2形成面50の底面52との間の隙間CA2を含む。第2隙間CA3は、伝達面35と被伝達面51との間の隙間CA3である。軸部32の中心軸とスプロケットの中心軸とが一致した状態で、第1隙間CA1,CA2の軸部32の径方向に対する寸法d1,d2は、第2隙間CA3の軸部32の回転方向に対する寸法d3よりも大きい。
【0033】
第1隙間CA1の寸法d1は、第1寸法差が大きいほど大きくなる。第1隙間CA2の寸法d2は、第1寸法差が大きいほど大きくなり、被伝達面51のクランクスプロケット41の径方向に対する寸法L3が、伝達面35の軸部32の径方向に対する寸法L4よりも長いほど大きくなる。本実施形態では、被伝達面51のクランクスプロケット41の径方向に対する寸法L3と、伝達面35の軸部32の径方向に対する寸法L4とは同一であるため、第1隙間CA1の寸法d1と第1隙間CA2の寸法d2とは同一の寸法である。第1隙間CA1の寸法d1と、第1隙間CA2の寸法d2とは異なっていてもよいが、この場合であっても、両方の第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2が、第2隙間CA3の寸法d3よりも大きいことが好ましい。第2隙間CA3の寸法d3は、第2寸法差が大きいほど大きくなる。
【0034】
本実施形態の作用について説明する。
クランクシャフト31の回転時にクランクシャフト31に軸芯振れが生じると、クランクシャフト31は軸部32の径方向に動く。この際、クランクシャフト31からクランクスプロケット41に軸部32の径方向への力が伝達されると、クランクシャフト31とともにクランクスプロケット41が軸部32の径方向に動くことになり、タイミングチェーン21がばたつく原因となる。例えば、軸部32がクランクスプロケット41に圧入されている場合など、クランクシャフト31からクランクスプロケット41に軸部32の径方向への力が伝達されやすいと、タイミングチェーン21がばたつきやすい。そして、タイミングチェーン21がばたつくと、騒音の発生の原因となることに加えて、タイミングチェーン21の張力が過剰に大きくなる場合がありタイミングチェーン21が疲労限度に達しやすくなる。
【0035】
本実施形態では、挿入孔形成面47とクランクシャフト31との間には隙間CA1,CA2,CA3が区画されている。第1隙間CA1,CA2及び第2隙間CA3を設けることで、クランクシャフト31は隙間CA1,CA2,CA3が存在する範囲で挿入孔44の内部を移動可能である。隙間CA1,CA2,CA3は、クランクシャフト31の軸部32の径方向に対する移動を許容している。第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2は、クランクシャフト31が軸部32の径方向に対して移動可能な範囲といえる。なお、第1隙間CA1の寸法d1と第1隙間CA2の寸法d2とが異なる場合、寸法d1,d2が小さいほうの第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2によってクランクシャフト31が軸部32の径方向に対して移動可能な範囲が定まる。
【0036】
クランクシャフト31に軸芯振れが生じると、複数の突出部34のうちの一部は、底面52に向けて移動し、第1隙間CA1,CA2は狭くなっていく。突出部34の先端面36が底面52に当たるまでは、突出部34の先端面36から底面52に軸部32の径方向への力が伝達しない。このため、隙間CA1,CA2,CA3を設けることで、軸部32の径方向への力がクランクスプロケット41に伝達されにくい。第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2は、例えば、クランクシャフト31の軸芯振れによる軸部32の径方向に対するクランクシャフト31の移動量を導出した上で、この移動量よりも長く設定される。これにより、突出部34の先端面36が底面52に当たることを抑制できる。また、突出部34の先端面36が底面52に当たる場合であっても、第1隙間CA1,CA2を設けることで、クランクシャフト31からクランクスプロケット41に伝達される軸部32の径方向への力は低減される。
【0037】
クランクスプロケット41には、クランクシャフト31の突出部34が挿入される凹部46が設けられており、クランクシャフト31の回転力は突出部34の伝達面35から凹部46を形成している第2形成面50の被伝達面51に伝達される。これにより、クランクシャフト31とクランクスプロケット41とは一体回転する。従って、駆動側回転力伝達機構30では、軸部32の径方向への力はクランクスプロケット41に伝達されにくい一方で、クランクシャフト31からの回転力はクランクスプロケット41に伝達されることになる。
【0038】
本実施形態の効果について説明する。
(1)挿入孔形成面47とクランクシャフト31との間には、隙間CA1,CA2,CA3が区画されている。隙間CA1,CA2,CA3により、軸部32の径方向に対するクランクシャフト31の移動は許容されるため、クランクシャフト31に軸芯振れが生じた際に、タイミングチェーン21がばたつきにくい。従って、タイミングチェーン21のばたつきを原因とする騒音が低減される。挿入孔形成面47とクランクシャフト31との間に設けられた隙間CA1,CA2,CA3によって騒音を低減しているため、緩衝部材のように、タイミングチェーン21とクランクスプロケット41に生じる衝撃を緩和する部材を設ける必要がない。このため、緩衝部材の劣化を原因とする駆動側回転力伝達機構30の耐久性の低下を抑制できる。
【0039】
(2)タイミングチェーン21のばたつきが抑制されることで、タイミングチェーン21が撓んだり、タイミングチェーン21の張力が過剰になることを抑制できる。従って、スリッパ23、ダンパ22、テンショナ24、クランクスプロケット41、吸気スプロケット62、排気スプロケット72及びタイミングチェーン21を含むチェーンシステムの信頼性が向上される。また、タイミングチェーン21の張力が過剰になることを抑制できるため、チェーンシステムを構成する各部材に応力が生じにくく、チェーンシステムの長寿命化が図られる。
【0040】
(3)第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2は、第2隙間CA3の寸法d3よりも大きい。第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2によって、クランクシャフト31に軸芯振れが生じたときにクランクシャフト31が軸部32の径方向に対して移動できる範囲が定まる。一方で、第2隙間CA3の寸法d3は、クランクシャフト31の移動が阻害されない大きさでればよく、小さいことが好ましい。第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2を第2隙間CA3の寸法d3よりも大きくすることで、クランクシャフト31に軸芯振れが生じた場合に突出部34の先端面36と底面52とが接触しにくく、軸部32の径方向への力がクランクスプロケット41に伝達されることが更に抑制される。
【0041】
(4)駆動側回転力伝達機構30は、回転体としてスプロケットを用いている。スプロケットには、チェーンが巻き掛けられる。環状伝達部材としてチェーンを用いる場合、ベルトを用いる場合に比べて、ばたつきが生じたときに騒音が生じやすい。騒音が生じやすい駆動側回転力伝達機構30について騒音が低減されるように構成することで、騒音を適切に低減することができる。
【0042】
(5)エンジン10のタイミングチェーン21が巻き掛けられるクランクスプロケット41にクランクシャフト31から軸部32の径方向への力が伝達されることを抑制している。タイミングチェーン21は、クランクシャフト31の回転によって回転するチェーンである。クランクシャフト31は、高速に回転することが可能であり、トルク変動も大きい。このため、タイミングチェーン21とクランクスプロケット41との噛み合い時には、騒音が生じやすい。このように、騒音が生じやすい駆動側回転力伝達機構30について騒音が低減されるように構成することで、騒音を適切に低減することができる。
【0043】
(6)タイミングチェーン21が巻き掛けられるクランクスプロケット41、吸気スプロケット62及び排気スプロケット72のうち、クランクスプロケット41に軸部32の径方向への力が伝達されることを抑制している。クランクシャフト31の回転力は、クランクスプロケット41を介してタイミングチェーン21に伝達され、タイミングチェーン21から吸気スプロケット62及び排気スプロケット72に伝達される。即ち、クランクスプロケット41は、吸気スプロケット62及び排気スプロケット72を駆動させる駆動部材である。クランクスプロケット41でタイミングチェーン21にばたつきを生じさせると、このばたつきは吸気スプロケット62及び排気スプロケット72にも伝わり、騒音の原因となりやすい。クランクスプロケット41によるタイミングチェーン21のばたつきを抑制することで、騒音を適切に抑制することができる。
【0044】
(7)駆動側回転力伝達機構30及び被駆動側回転力伝達機構60,70のうち駆動側回転力伝達機構30のみについて、シャフトに突出部34を設け、スプロケットに凹部46を設けて、隙間CA1,CA2,CA3により軸部の径方向に対するシャフトの移動が許容されるようにしている。スプロケットに緩衝部材を設けることで騒音を低減する場合、全ての被駆動側回転力伝達機構60,70のスプロケットに緩衝部材を設ける必要がある。すると、緩衝部材を設けるスプロケットの数が多く、製造コストが増加する原因となる。本実施形態のように、駆動側回転力伝達機構30のみを実施形態のように構成することで、製造コストの増加を抑制できる。
【0045】
(8)軸受19として滑り軸受を用いている。従って、クランクスプロケット41の軸部32の径方向への振れを大きく低減することができる。
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0046】
○被駆動側回転力伝達機構60,70を、シャフトに突出部34を設け、スプロケットに凹部46を設けて、隙間CA1,CA2,CA3により軸部の径方向に対するシャフトの移動が許容される回転力伝達機構としてもよい。即ち、被駆動側回転力伝達機構60,70を駆動側回転力伝達機構30と同様な構成としてもよい。シャフトとしての吸気カムシャフト61のうち吸気スプロケット62が取り付けられる部分を実施形態の軸部32及び突出部34と同様の構成にし、スプロケットとしての吸気スプロケット62を実施形態のクランクスプロケット41と同様な構成にする。シャフトとしての排気カムシャフト71のうち排気スプロケット72が取り付けられる部分を実施形態の軸部32及び突出部34と同様の構成にし、スプロケットとしての排気スプロケット72を実施形態のクランクスプロケット41と同様な構成にする。なお、上記した「同様な構成」とは、シャフトが軸部32と突出部34とを備え、スプロケットが第1形成面48と第2形成面50とを備え、シャフトと挿入孔形成面47との間に軸部32の径方向に対するシャフトの移動を許容する隙間CA1,CA2,CA3が区画される構成を意味する。即ち、軸部32の寸法、突出部34の数、スプロケットの寸法、歯部の歯数等は異なっていてもよい。なお、駆動側回転力伝達機構30及び被駆動側回転力伝達機構60,70のうち少なくともいずれかが実施形態のシャフト及びスプロケットと同様な構成を備えていればよい。
【0047】
○回転力伝達機構としては、チェーンが巻き掛けられるスプロケットと、このスプロケットと一体回転するシャフトと、を備えるものであればよく、タイミングチェーン21が巻き掛けられるスプロケットを備えるものでなくてもよい。
【0048】
○回転力伝達機構としては、回転体としてプーリを備えるものであってもよい。回転体としてプーリを用いる場合、隙間CA1,CA2,CA3が形成されるようにプーリに挿入孔形成面47を設ける。この場合、環状伝達部材としては、プーリに巻き掛けられる環状のベルトが用いられる。ベルトは、例えば、ゴム製である。プーリは、ベルトに回転力を伝達する。あるいは、プーリにはベルトからの回転力が伝達される。この種の回転力伝達機構としては、例えば、ベルトとしてのタイミングベルトが巻き掛けられるプーリを備えるものが挙げられる。即ち、実施形態のタイミングチェーン21に代えてタイミングベルトを用い、クランクスプロケット41、吸気スプロケット62及び排気スプロケット72に代えてプーリを用いればよい。
【0049】
○第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2は、第2隙間CA3の寸法d3よりも小さくてもよい。また、第1隙間CA1,CA2の寸法d1,d2は、第2隙間CA3の寸法d3と同一でもよい。
【0050】
○クランクスプロケット41のジャーナル42を増やしてもよい。例えば、歯部43を挟んだ両側にジャーナル42を設けてもよい。即ち、実施形態のクランクスプロケット41に、クランクスプロケット41の軸線方向において歯部43よりもチェーンカバー80側に突出するジャーナルを追加してもよい。この場合、例えば、チェーンカバー80から軸受を支持する支持部を延ばし、この支持部に支持される軸受によって追加されたジャーナルを支持する。歯部43を挟んだ両側を軸受によって支持することで、クランクスプロケット41を安定して支持することができる。
【0051】
○突出部34の数は、適宜変更してもよい。突出部34は、単数であっても、複数であってもよい。また、突出部34の数に合わせて凹部46の数を適宜変更してもよい。
○軸受19は、転がり軸受であってもよい。この場合、軸受19にオイルを供給しなくてもよい。
【符号の説明】
【0052】
隙間…CA1,CA2,CA3、10…エンジン、21…環状伝達部材及びチェーンとしてのタイミングチェーン、30…回転力伝達機構としての駆動側回転力伝達機構、31…シャフトとしてのクランクシャフト、32…軸部、33…外周面、34…突出部、41…回転体及びスプロケットとしてのクランクスプロケット、42…ジャーナル、44…挿入孔、46…凹部、47…挿入孔形成面、48…第1形成面、50…第2形成
図1
図2
図3
図4