(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20240109BHJP
H02M 7/5387 20070101ALI20240109BHJP
H02J 50/05 20160101ALI20240109BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20240109BHJP
H02J 50/30 20160101ALI20240109BHJP
H02J 50/80 20160101ALI20240109BHJP
【FI】
H02J50/12
H02M7/5387 Z
H02J50/05
H02J50/10
H02J50/30
H02J50/80
(21)【出願番号】P 2019097072
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 武
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093706(JP,A)
【文献】特開2019-047449(JP,A)
【文献】特開2009-130865(JP,A)
【文献】特開2018-074380(JP,A)
【文献】特開2018-183012(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133301(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/080044(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/133028(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123552(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J50/00-50/90
H02M1/00-1/44
H02M7/00-7/98
H04B5/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給される電力を無線送電するために用いられる送電コイルと、
前記電源から出力される直流電圧をクロック信号を用いて交流電圧に変換して、当該交流電圧を前記送電コイルに印加する変換回路と、
前記送電コイルと受電コイルとの間の電磁界結合により無線受電するために用いられる前記受電コイルと、
前記受電コイルを介して受電される電力を用いて負荷部を駆動する駆動回路と、
前記負荷部の駆動を制御するための送信信号を無線送信するために用いられる送信結合器と、
前記送信結合器と受信結合器との間の電磁界結合により前記送信信号を無線受信するために用いられる前記受信結合器と、
前記受信結合器を介して受信される前記送信信号から前記駆動回路を制御するための駆動信号を生成する生成回路と、を有し、
前記送信結合器を介して無線送信される前記送信信号は前記クロック信号を含み、
前記生成回路により生成される駆動信号は、前記駆動回路において同期整流するための前記クロック信号に応じた信号を含み、
前記電源は指令に応じて出力電圧を変更し、
前記変換回路の素子値の調整により、予め決められた電圧範囲において、前記電源の前記出力電圧と前記駆動回路による前記負荷部への印加電圧とが略等しいことを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記制御システムは、送電器と受電器とを有し、
前記送電器は、前記送電コイルと前記送信結合器とを有し、
前記受電器は、前記受電コイルと前記受信結合器とを有することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記送電器と前記受電器との少なくとも何れかを相対的に所定方向に移動させる可動部を有することを特徴とする請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記クロック信号は、前記変換回路により生成されることを特徴とする請求項
1に記載の制御システム。
【請求項5】
前記駆動回路は、前記受電コイルから出力される電圧を入力電圧とする同期整流回路と、前記同期整流回路から出力される電圧の符号を切り換える符号切替回路とを有し、
前記生成回路は、前記送信信号に含まれる前記クロック信号から前記同期整流回路のための駆動信号を生成し、前記送信信号に含まれる符号切替用信号から前記符号切替回路のための駆動信号を生成することを特徴とする請求項
1から4のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項6】
前記送信信号は、前記符号切替用信号と前記クロック信号の排他的論理和で合成された信号であることを特徴とする請求項
5に記載の制御システム。
【請求項7】
前記駆動回路は、前記受電コイルから出力される電圧を入力電圧とする同期整流回路と、前記同期整流回路から出力される電圧の符号を切り換える符号切替回路と、を合体した合体回路を有し、
前記生成回路は、前記送信信号に含まれる前記クロック信号と符号切替用信号から前記合体回路のための駆動信号を生成することを特徴とする請求項
1から
6のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項8】
前記駆動回路は複数のスイッチング素子を用いたフルブリッジ型で構成されることを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項9】
前記複数のスイッチング素子は、双方向スイッチ型に配置されることを特徴とする請求項
8に記載の制御システム。
【請求項10】
前記駆動回路は、複数のスイッチング素子を用いたセンタータップ型で構成されることを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項11】
前記送信結合器と前記受信結合器との間の無線通信はベースバンド方式に従って行われることを特徴とする請求項1から
10のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項12】
電源から供給される電力を無線送電するために用いられる送電コイルと、
前記電源から出力される直流電圧をクロック信号を用いて交流電圧に変換して、当該交流電圧を前記送電コイルに印加する変換回路と、
前記送電コイルと受電コイルとの間の電磁界結合により無線受電するために用いられる前記受電コイルと、
前記受電コイルを介して受電される電力を用いて負荷部を駆動する駆動回路と、
前記負荷部の駆動を制御するための送信信号を無線送信するために用いられる送信結合器と、
前記送信結合器と受信結合器との間の光結合により前記送信信号を無線受信するために用いられる前記受信結合器と、
前記受信結合器を介して受信される前記送信信号から前記駆動回路を制御するための駆動信号を生成する生成回路と、を有し
前記送信結合器を介して無線送信される前記送信信号は前記クロック信号を含み、
前記生成回路により生成される駆動信号は、前記駆動回路において同期整流するための前記クロック信号に応じた信号を含み、
前記電源は指令に応じて出力電圧を変更し、
前記変換回路の素子値の調整により、予め決められた電圧範囲において、前記電源の前記出力電圧と前記駆動回路による前記負荷部への印加電圧とが略等しいことを特徴とする制御システム。
【請求項13】
送電コイルと、受電コイルと、送信結合器と、受信結合器と、負荷部とを有する制御システムの制御方法であって、
電源から出力される直流電圧をクロック信号を用いて変換回路で交流電圧に変換して、当該交流電圧を前記送電コイルに印加することにより、前記電源から供給される電力を、前記送電コイルと前記受電コイルとの間の電磁界結合により無線送電することと、
前記負荷部の駆動を制御するための送信信号を、前記送信結合器と前記受信結合器との間の電磁界結合により無線送信することと、
前記受電コイルを介して受電される電力を用いて前記負荷部を駆動する駆動回路を制御するための駆動信号を、前記受信結合器を介して受信される前記送信信号から生成することと、を有し、
前記送信結合器を介して無線送信される前記送信信号は前記クロック信号を含み、
前記生成される駆動信号は、前記駆動回路において同期整流するための前記クロック信号に応じた信号を含み、
前記電源は指令に応じて出力電圧を変更し、
前記変換回路の素子値の調整により、予め決められた電圧範囲において、前記電源の前記出力電圧と前記駆動回路による前記負荷部への印加電圧とが略等しいことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信に基づいて制御を行う制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータに電力を供給して駆動させるシステムがある。半導体露光装置では、ウエハを露光位置に移動させるためのステージ上に、ウエハ上にパターンを形成するためにウエハを微細移動させるモータが搭載されており、そのモータを駆動するための電力を供給する給電ケーブルがステージ上に接続されている。このケーブルはステージの移動に併せて動くため、ケーブルの張力がステージの位置決め精度に影響を与える。そこでモータ駆動を無線化することが考えられている。
【0003】
モータ駆動を無線化する技術として、特許文献1には、車両が備える車輪を無線で駆動するモータシステムの構成が記載されている。当該モータシステムでは、モータ駆動するための電力を無線で伝送するだけでなく、電波を用いた無線通信を用いて受電側(可動側)にあるモータ駆動回路へ制御信号を送ることで、モータ駆動回路の制御を実現している。さらに、電波を用いた無線通信を行う上で生じる遅延の影響を処理するために、受電側に駆動電流及び駆動電圧などの検出回路を設け、検出値に基づきフィードバック制御を行うことで整流回路の制御を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、モータ等の負荷部を駆動させるための制御信号の無線通信を高速化することが求められている。例えば半導体露光装置において、露光速度の高速化及び高精度化のためには、モータ駆動のための制御信号を短い周期で送信することが求められる。特許文献1に記載の技術においては、無線LAN等の規格に従って電波を用いた放射型の無線通信を行うため、プロトコル処理等により数百us~数msの遅延が生じることが考えられる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、負荷部を駆動させるための制御信号の無線通信を高速化するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による制御システムは以下の構成を有する。すなわち、
電源から供給される電力を無線送電するために用いられる送電コイルと、
前記電源から出力される直流電圧をクロック信号を用いて交流電圧に変換して、当該交流電圧を前記送電コイルに印加する変換回路と、
前記送電コイルと受電コイルとの間の電磁界結合により無線受電するために用いられる前記受電コイルと、
前記受電コイルを介して受電される電力を用いて負荷部を駆動する駆動回路と、
前記負荷部の駆動を制御するための送信信号を無線送信するために用いられる送信結合器と、
前記送信結合器と受信結合器との間の電磁界結合により前記送信信号を無線受信するために用いられる前記受信結合器と、
前記受信結合器を介して受信される前記送信信号から前記駆動回路を制御するための駆動信号を生成する生成回路と、を有し、
前記送信結合器を介して無線送信される前記送信信号は前記クロック信号を含み、
前記生成回路により生成される駆動信号は、前記駆動回路において同期整流するための前記クロック信号に応じた信号を含み、
前記電源は指令に応じて出力電圧を変更し、前記変換回路の素子値の調整により、予め決められた電圧範囲において、前記電源の前記出力電圧と前記駆動回路による前記負荷部への印加電圧とが略等しい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負荷部を駆動させるための制御信号の無線通信が高速化される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】第1実施形態におけるモータ駆動回路とゲート駆動回路の回路構成図である。
【
図3】駆動システムの可動ステージへの適用例の概略図である。
【
図4】第1実施形態における駆動システムの入出力特性の測定結果である。
【
図5】第2実施形態におけるモータ駆動回路とゲート駆動回路の回路構成図である。
【
図6】第2実施形態における駆動回路の動作波形の実測結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
[第1実施形態]
図1に、第1実施形態における制御システムとしての駆動システム300の回路のブロック構成を示す。駆動システム300は、送電側回路100と受電側回路200で構成される。送電側回路100と受電側回路200の間は物理的には接続されておらず、送電コイル101から受電コイル201へ電力が、送信結合器102から受信結合器202へ制御信号が非接触に送られる。
【0012】
電源104は負荷部としてのモータ400を駆動する電力源である。コントローラ103は、光学センサなどから得られる現在のモータ400の位置情報を元に次の位置に関する指令を出す。具体的には、コントローラ103は、モータ400の推力を決める電源104の出力電圧振幅値と、モータ400の動く向きを決めるモータ印加電圧符号の指令を出す。電源104は、出力電圧振幅値の指令をコントローラ103から受け取り、当該指令に基づいた振幅値の電圧を出力する。モータ印加電圧符号の指令(符号切替信号)はコントローラ103から送信回路105、送信結合器102、受信結合器202、受信回路203を通ってゲート駆動回路205へ送られる。符号切替信号により、後述するようにモータ駆動回路206の整流動作が180°反転され、モータ400に印加される電圧の符号が正から負、もしくは負から正に逆転する。
【0013】
<正の電圧をモータに印加する場合の駆動システム300の動作>
まず、正の電圧をモータ400に印加する場合の駆動システム300の動作例を詳細に説明する。コントローラ103から出力電圧振幅値の指令を受け取った電源104は、当該指令に基づいた振幅値の電圧(電源出力電圧)をSW回路106へ出力する。SW回路106は所定の周波数のクロック信号の生成器を持っており、生成したクロック信号でSW回路106のスイッチング素子を駆動し、入力された電源出力電圧(直流電圧)をスイッチングし、交流波形(交流電圧)に変換する変換回路として機能する。スイッチング周波数は、コントローラ103の指令周波数、すなわちモータ制御周波数よりも高速であるとする。なお、クロック信号はコントローラ103により生成され、SW回路106へ供給されてもよい。
【0014】
そして、SW回路106から出力された電力は送電コイル101に送られ、受電コイル201へ電磁界結合により伝達され、受電回路204に入力される。このとき、SW回路106と受電回路204は、インダクタンス、コンデンサを含んだ共振電源回路で形成されている。共振電源回路の各素子値は、送電コイル101と受電コイル201の各インダクタンス値とレジスタンス値、送電コイル101と受電コイル201の結合係数、スイッチング周波数、最大電源出力電圧値、最大モータ印加電圧値(モータ400へ印加される電圧値)、モータ400のレジスタンス値から決まる。電源出力電圧値、モータ印加電圧値はコントローラ103からの指令により都度変化するため、用途によって予め決めておく電圧範囲において、電源出力電圧値とモータ印加電圧値が略等しくなるように共振電源回路の各素子値は調整され得る。さらに、電源出力電圧値とモータ印加電圧値の関係を予め測定してテーブル化し、所望のモータ印加電圧値を得るための電源出力電圧値を指令するようにすればモータ400を高精度に駆動できる。
本実施形態における電磁界結合には、電界結合と磁界結合の両方が含まれる。すなわち、無線電力伝送は電界結合によって行われてもよいし、磁界結合によって行われてもよいし、電界結合と磁界結合の両方によって行われてもよい。磁界結合には電磁誘導及び磁界共鳴が含まれる。また、無線電力伝送はマイクロ波を利用した方式で行われてもよい。なお本実施形態では、磁界結合による無線電力伝送が行われる場合を中心に説明する。
【0015】
SW回路106で生成されたクロック信号は、モータ駆動回路206で同期整流するためにも用いられる。SW回路106から出力されたクロック信号と、コントローラ103から出力された符号切替信号は送信回路105に入力され、位相と振幅が調整された送信信号が生成された後、送信結合器102に入力される。なお、送信回路105は、クロック信号と符号切替信号のいずれかから送信信号を生成してもよい。位相は同期整流のタイミング調整のために、振幅は受信回路203で再生するために調整する。そして電磁界結合を介して受信結合器202に伝達し、受信回路203に入力される。電磁界結合を介してクロック信号を垂れ流しで送信するため、パケット送信するような無線通信で発生する遅延はなく、高速に信号を伝達することができる。受信回路203では受信結合器202で受信した信号からクロック信号を再生する。再生されたクロック信号はゲート駆動回路205に入力され、モータ駆動回路206の同期整流回路207(
図2)を駆動する。同期整流回路を設けることで、ダイオードでは整流できない数mVの小さな電圧でも整流でき、小さな電圧をモータに印加することができるため、モータ制御が高精度となる。モータ駆動回路206は、受電回路204から出力された交流波形を整流した後、出力電圧の符号を決めてモータ400に印加する。
送信結合器102と受信結合器202との間の無線通信は、電界結合によって行われてもよいし、磁界結合によって行われてもよいし、電界結合と磁界結合の両方によって行われてもよい。本実施形態における電磁界結合による無線通信は、遠方界の電波を伝送媒体として利用する放射型の通信方式とは異なり、近傍電磁界を伝送媒体として利用する非放射型の通信方式である。
【0016】
図2に、本実施形態におけるモータ駆動回路206とゲート駆動回路205の詳細な回路構成例を示す。モータ駆動回路206は、同期整流回路207と符号切替回路208を有する。ゲート駆動回路205は、駆動信号生成回路215-1~215-8を有する。同期整流回路207は、受信回路203から出力されたクロック信号を元に駆動信号生成回路215-1~215-4で生成されたゲート駆動信号により動作する。具体的には、駆動信号生成回路215-1~215-4は、ゲート駆動信号として、同期整流回路207の各スイッチング素子のソース-ゲート間電圧(信号)を生成する。ソース-ゲート間電圧は受信回路203とモータ駆動回路206の間を絶縁するか、ブートストラップ回路を用いることにより生成され得る。このソース-ゲート間電圧により、同期整流回路207の各スイッチング素子がON/OFFされる。例えば、
図2に示すクロック信号入力の2つの端子の上側が正電位のときは同期整流回路207の左上と右下をON、左下と右上をOFFとし、上側が負電位のときは逆にすれば、同期整流回路207の出力は常に上側が正電位となる。このON/OFFの切り替えのタイミングは、予め受電回路204の出力電圧波形がゼロクロスするタイミングを測定しておき、送信回路105でクロック信号の位相が当該ゼロクロスするタイミングと合うように位相調整すればよい。調整後は移相量を固定しておけばよい。また、電源104の出力電圧振幅よってゼロクロスするタイミングが変動する場合は、予め出力電圧振幅と移相量の関係を測定しておき、送電側回路100の中で出力電圧振幅に対して移相量を自動補正するとより整流効率が高まる。
【0017】
符号切替回路208は、同期整流回路207の出力電圧を正のまま出力するか、負に切り替えて出力するかを選択する回路である。符号切替回路208の各スイッチング素子は、コントローラ103から出力される符号切替信号を元に駆動信号生成回路215-5~215-8で生成されたゲート駆動信号により動作する。同期整流回路207と同様に、駆動信号生成回路215-5~215-8は、ゲート駆動信号として、符号切替回路208の各スイッチング素子のソース-ゲート間電圧(信号)を生成する。ソース-ゲート間電圧は同期整流回路207と同様に、受信回路203とモータ駆動回路206の間を絶縁するか、ブートストラップ回路を用いて生成され得る。正の電圧をモータに印加する場合、符号切替回路208の右上と左下のスイッチング素子がON、左上と右下がOFFとなる符号切替信号をコントローラ103が送信すればよい。
【0018】
<負の電圧をモータに印加する場合の駆動システム300の動作>
次に、負の電圧をモータ400に印加する場合の駆動システム300の動作例について説明する。コントローラ103から送信回路105へ送る符号切替信号の符号を反転させる以外は、正の電圧を印加する場合の動作と同じである。符号切替信号の符号を反転させると、符号切替回路208のスイッチング素子のON/OFFするスイッチング素子が入れ替わる。よって、符号切替回路208の左上と右下がON、左下と右上がOFFとなり、モータ印加電圧の符号が反転する。
【0019】
このように、モータ駆動回路206を制御する信号は、周波数、Dutyが一定のクロック信号や出力電圧の符号を切り替えるタイミングを与えるだけの単純なON/OFF信号である。従来における一般的なモータ制御信号はPWM(パルス幅変調)信号であり、モータ駆動回路に入力される電圧振幅は一定で、モータ駆動回路に与える制御信号のパルス幅を変えることでモータ印加電圧の振幅や符号を変化させている。一方、本実施形態では、モータ印加電圧の振幅の変化は送電側回路100の電源104で行われるため、スペースに制約がある受電側回路200には必要なく、小型化が実現される。
【0020】
図3は、半導体露光装置などの可動ステージへの駆動システム300の適用例の概略図である。受電側回路200は可動ステージ401の上に配置され、送電側回路100に対して物理的に移動する。送電側回路100は、可動ステージ401の上ではなく、その可動ステージ401を動かす可動ステージ動力源402が配置される固定側に配置されており、自身は動かない。
【0021】
送電側回路100と受電側回路200との間には無線で給電、通信するための送電器110と受電器210がある。送電器110には送電コイル101と送信結合器102、受電器210には受電コイル201と受信結合器202が搭載されており、互いに非接触である。受電器210も可動ステージ401の上に配置されており、可動ステージ401と共に移動する。例えば、送電器110は受電器210に対して長尺であり、受電器210は当該長尺の方向に1軸移動可能に構成される。このように、送電器110を可動ステージ401の移動範囲をカバーするように長尺にすることで、可動ステージ401が任意の位置に移動してもモータを非接触に給電することができる。なお、送電器110と受電器210の配置は
図3に示すものに限定されず、受電器210が送電器110に対して長尺に構成されてもよい。
【0022】
送電コイル101の形状は例えば横長の楕円形のコイルであり、受電コイル201は送電コイル101に比べて短尺なコイルである。受電コイル201が長尺で送電コイル101が短尺でもよい。送信結合器102は例えばプリント基板に配置された長尺な差動信号配線であり、一端からクロック信号を入力し、他端は終端する。受信結合器202は例えばプリント基板に配置された短尺な差動信号配線であり、受信回路203の差動入力にそれぞれ接続される。送信結合器102と受信結合器202の各差動信号配線が対向して電磁界結合することにより信号が伝達される。受信結合器202が長尺で送信結合器102が短尺でもよい。
【0023】
図4は、電源104の出力電圧に対するモータ400への印加電圧を測定した入出力特性の測定結果(実線)である。
図4において、横軸は電源104の出力電圧、すなわち入力電圧であり、縦軸はモータ400への印加電圧、すなわち出力電圧である。符号切替信号を反転させて正電圧と負電圧の双方を測定している。グラフには併せて入出力が一致した場合の理想曲線(破線)も描いている。スイッチング周波数は4MHzであり、3mHのインダクタを疑似負荷としてモータの代わりに接続している。
図4(b)からは、0V~30Vまでの任意の電圧を無線で給電できていることが分かる。理想曲線より出力電圧が低くなっている部分があるが、
図4の結果を元に、理想曲線より出力電圧が低い分だけ電源出力電圧を上げるようにコントローラ103から電源104への出力電圧振幅の指令値を補正することで理想曲線に近づけることができる。
【0024】
以上、第1実施形態を説明した。本実施形態によれば、電磁界結合を用いて非接触で可動側へモータ駆動信号を送信することにより、モータ制御の高速化が実現される。さらに、高速なクロック信号も低遅延で同期整流回路に送ることができるため、可動側に検知回路やフィードバック制御回路が不要になり、可動側回路の小型軽量化が実現される。
【0025】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態における駆動システム300を説明する。以下、第1実施形態と異なる点について説明する。
図5に、本実施形態におけるモータ駆動回路206とゲート駆動回路205の詳細な回路構成例を示す。第1実施形態では同期整流回路207と符号切替回路208が別々となって構成されているが、本実施形態では同期整流回路207と符号切替回路208が合体された合体回路(同期整流/符号切替回路209)となっている。それによりゲート駆動回路205の規模が半分となり、回路のさらなる小型化が実現される。
【0026】
同期整流/符号切替回路209の各スイッチング素子は、駆動信号生成回路215-9~215-12で生成されたゲート駆動信号により動作する。駆動信号生成回路215-9~215-12は、ゲート駆動信号として、同期整流/符号切替回路209の各スイッチング素子のソース-ゲート間電圧(信号)を生成する。ソース-ゲート間電圧は第1実施形態と同様に、受信回路203とモータ駆動回路206の間を絶縁するか、ブートストラップ回路を用いて生成される。
【0027】
スイッチング素子は、駆動信号生成回路1つ(駆動信号生成回路215-9~215-12のいずれか)につき2つである双方向スイッチ型に配置されている。その理由は、入力からは交流電圧が入ってくるため、スイッチング素子が1つだけでは符号が反転した際にボディダイオードでONしてしまい、ゲート駆動回路によるON/OFF制御ができなくなってしまうからである。
【0028】
また、同期整流と符号切替を1つの回路で同時に行うため、ゲート駆動回路205に入力される制御信号はクロック信号と符号切替信号を合体した信号となっている。第1実施形態ではクロック信号と符号切替信号が別々であるため、送信結合器102と受信結合器202がクロック信号と符号切替信号で2ペア必要である。一方、本実施形態では1ペアの送信結合器102と受信結合器202でよく、送電器110と受電器210を小型化できる。
【0029】
続いて、同期整流/符号切替回路209の動作を説明する。正の電圧をモータ400に印加する(正電圧を出力する)間は、入力の2つの端子の上側が正電位のときは同期整流/符号切替回路209の左上と右下をON、左下と右上をOFFとし、入力の2つの端子の上側が負電位に変わったら逆にすればよい。これは第1実施形態と同様で、SW回路106のスイッチングクロックに同期したゲート駆動信号を与えることで実現される。ここでもしスイッチング素子が双方向スイッチ型になっていなかったら、入力の2つの端子の上側が負電位に変わった時点でボディダイオードがONしてしまい、同期整流ができなくなる。
【0030】
そして負の電圧をモータに印加する(出力を負電圧に切り替える)ときには、この同期したゲート駆動信号を反転すればよい。すなわち、入力の2つの端子の上側が正電位のときは同期整流/符号切替回路209の左下と右上をON、左上と右下をOFFとし、入力の2つの端子の上側が負電位に変わったら逆にすればよい。ゲート駆動回路205に入力される制御信号は、以上の条件が満たされれば同期整流と符号切替を1つの回路で実現できる。
【0031】
このような制御信号は、送信回路105で生成すればよい。SW回路106から入力されるクロック信号とコントローラ103から入力される符号切替信号を、例えば排他的論理和で合成すれば前述の条件が満たされる。符号切替信号が“0”のときはクロック信号がそのまま送信され、符号切替信号が“1”のときはクロック信号が反転して送信される。その他の部分は第1実施形態と同じである。
【0032】
このように同期整流と符号切替を1つの回路で実現できるのは、前述したようにモータ駆動回路206を制御する信号が周波数、Dutyが一定のクロック信号や出力電圧の符号を切り替えるタイミングを与えるだけの単純なON/OFF信号であるからである。先行技術に記載されている一般的なモータ制御信号はPWM信号では同期整流用のクロック信号とは全く異なる波形である。そのため同期整流回路を制御できず、ゲート駆動回路の規模を減らすことはできないため、本発明で実現される小型化を実現することはできない。
【0033】
図6(a)は、コントローラ103が出力した符号切替信号と、ゲート駆動回路205に入力される制御信号と、モータ400への印加電圧の関係を示した実測波形であり、
図6(b)はその拡大波形である。横軸は時間で、
図6(a)が5us/div、
図6(b)が200ns/divである。
図6(a)、(b)ともに、上から順に符号切替信号波形、制御信号波形、印加電圧波形を示している。縦軸は電圧で、符号切替信号が2V/div、制御信号が4V/div、印加電圧が2V/divである。印加電圧波形は立ち上がる前が負電圧であり、立ち上った後は正電圧となっている。スイッチング周波数は4MHzであり、3mHのインダクタを疑似負荷としてモータの代わりに接続している。
【0034】
図6より、符号切替信号が“1”から“0”に切り替わると、ゲート駆動回路205に入力された制御信号、すなわちクロック信号と符号切替信号の合成信号波形の位相が反転し、印加電圧波形が負電圧から正電圧に切り替わっていることがわかる。負電圧から正電圧に切り替わるまでの時間は10us程度かかっているが、これは出力コンデンサや疑似負荷のインダクタによる時定数が関係しており、出力コンデンサを小さくすることでさらなる高速化が可能である。
【0035】
また、符号切替信号が“1”から“0”に切り替わるタイミングからゲート駆動回路205に入力された制御信号波形の位相が反転するまでの遅延時間は100ns以下であることが
図6より確認できる。すなわち、100ns以下の周期でモータ動作を制御することができる。これは制御信号が送信結合器102と受信結合器202を電磁界結合を介して数nsの遅延のみで伝達しているからであり、従来技術のように、電波を用いた無線通信を用いた場合では、このような短い周期でモータ動作を制御することができない。また、モータ制御より高速なスイッチングのクロック信号も低遅延に送信できないため、クロック信号と符号切替信号の合成信号を送信することができない。すなわち、電波を用いた無線通信を用いた場合では、本実施形態のように、同期整流回路207と符号切替回路208を合体してゲート駆動回路205を小型化することもできない。本実施形態のような電磁界結合を介した制御信号の送信により、モータ制御の高速化、可動側に配置される回路の小型軽量化が実現される。
【0036】
なお、
図5における同期整流/符号切替回路209はフルブリッジ型で説明したが、センタータップ型でもよい。その場合、受電コイル201をセンタータップ型にする必要があり、配線が複雑化するが、同期整流/符号切替回路209のスイッチング素子の数を4つに減らすことができる。
【0037】
[変形例]
上記に説明した実施形態では、送信結合器102と受信結合器202は電磁界結合で結合している場合について説明をしたが、光結合でもよい。レーザや指向性の鋭い発光ダイオードを固定側に配置し、ステージの移動方向に沿って発光させておき、その光路上に受光面が位置するようにフォトダイオードなどの受光素子を可動側に配置すればよい。光結合も電波を用いた無線通信よりも低遅延に送信できるが、電磁界結合と比べて発光素子や受光素子の周波数特性に依存した遅延が存在する。
【0038】
また、受信回路203とゲート駆動回路205を動作させるための電源は、モータ印加電圧から昇降圧回路等を用いて生成してもよいし、別途送電コイルと受電コイルを設けてもよい。
【0039】
また、送電コイル101や受電コイル201は、プリント基板の配線で形成してもよい。さらには、プリント基板に磁性シートを貼付して電磁界結合時の損失を低減してもよい。また、送電コイル101や受電コイル201は、フェライト等の磁性体とリッツ線等の巻線を用いた巻線トランスでもよい。
【0040】
また、同期整流回路207は、モータ400に印加する最低電圧の絶対値が、ダイオードで整流できる数百mV以上の場合は、ダイオードを用いた整流回路でもよい。その場合、同期整流回路207のゲート駆動が不要となり、受電側回路200を小型化できる。
【0041】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、様々な変更及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0042】
100 送電側回路、101 送電コイル、102 送信結合器、103 コントローラ、104 電源、105 送信回路、106 SW回路、110 送電器、200 受電側回路、201 受電コイル、202 受信結合器、203 受信回路、204 受電回路、205 ゲート駆動回路、206 モータ駆動回路、207 同期整流回路、208 符号切替回路、209 同期整流/符号切替回路、210 受電器、300 駆動システム、400 モータ、401 可動ステージ、402 可動ステージ動力源