(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】プリント装置、プリント方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/325 20060101AFI20240109BHJP
B41J 2/355 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B41J2/325 C
B41J2/355 Z
(21)【出願番号】P 2019126769
(22)【出願日】2019-07-08
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2018133533
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 建
(72)【発明者】
【氏名】小川 広晃
(72)【発明者】
【氏名】土屋 興宜
(72)【発明者】
【氏名】山田 顕季
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-217528(JP,A)
【文献】特開平08-090814(JP,A)
【文献】特開2000-071495(JP,A)
【文献】特開2005-138561(JP,A)
【文献】特開平10-151781(JP,A)
【文献】特開昭60-203465(JP,A)
【文献】特開平09-300677(JP,A)
【文献】特開2008-030486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/315 - 2/345
B41J 2/35 - 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱が付与されることによって異なる色を発色する複数の発色層を含むプリント媒体に、発熱素子から熱を付与することによって画像をプリントするプリント装置であって、
前記プリント媒体を加熱するための発熱素子が第1の方向に複数配列されたプリントヘッドと、
前記プリント媒体を前記第1の方向とは交差する第2の方向に搬送する搬送手段と、
画像データに基づいて、前記複数の発熱素子を駆動するための
加熱パルスを生成する
画像処理手段と、
を備え、
前記
加熱パルスは、前記搬送手段による
搬送に基づく1画素に対応する所定の周期内に、前記複数の発色層のそれぞれを発色させるための複数種類のパルスを含むものであり、
前記
画像処理手段は、前記複数の発熱素子のうち、第1の発熱素子に対応する前記所定の周期と第2の発熱素子に対応する前記所定の周期とが互いにずれるように、各画素に対応する
加熱パルスを前記プリント媒体の搬送に伴って繰り返し生成することを特徴とするプリント装置。
【請求項2】
熱が付与されることによって異なる色を発色する複数の発色層を含むプリント媒体に、発熱素子から熱を付与することによって画像をプリントするプリント装置であって、
前記プリント媒体を加熱するための発熱素子が第1の方向に複数配列されたプリントヘッドと、
前記プリント媒体を前記第1の方向とは交差する第2の方向に搬送する搬送手段と、
画像データに基づいて、前記複数の発熱素子を駆動するための
加熱パルスを生成する
画像処理手段と、
を備え、
前記
加熱パルスは、前記搬送手段による
搬送に基づく1画素に対応する所定の周期内に、前記複数の発色層のそれぞれを発色させるための複数種類のパルスを含むものであり、
前記
画像処理手段は、前記所定の周期において、前記複数種類のパルスが、前記複数の発熱素子のうちの第1の発熱素子と第2の発熱素子とに対し異なる順番で印加されるように、各画素に対応する
加熱パルスを前記プリント媒体の搬送に伴って繰り返し生成することを特徴とするプリント装置。
【請求項3】
前記搬送手段が前記プリント媒体を前記第2の方向に搬送しつつ、前記プリントヘッドが、前記
画像処理手段が生成した
加熱パルスに従って発熱素子を駆動することにより、前記プリント媒体の少なくとも1つの同一発色層において、前記第1の発熱素子による発色部と前記第2の発熱素子による発色部とが、前記第2の方向における
解像度に対応する間隔未満の距離分だけずれることを特徴とする請求項1または2に記載のプリント装置。
【請求項4】
前記
画像処理手段は、前記第1の方向に並ぶ複数の発熱素子を第1グループと第2グループを含む複数のグループに分け、
前記第1グループの発熱素子による前記プリント媒体の加熱位置と、前記第2グループの発熱素子による前記プリント媒体の加熱位置と、を前記第2の方向にずらすように、加熱パルスを生成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項5】
前記第1グループの
発熱素子は、前記第1の方向に奇数番目に並ぶ発熱素子であり、前記第2グループの
発熱素子は、前記第1の方向に偶数番目に並ぶ発熱素子であることを特徴とする請求項4に記載のプリント装置。
【請求項6】
前記プリントヘッドにおいて、前記第1グループ
の発熱素子と、前記第2グループ
の発熱素子とは、前記第2の方向にずれて配置されていることを特徴とする請求項5に記載のプリント装置。
【請求項7】
前記
加熱パルスにおいて、前記複数の発色層のそれぞれを発色させるための前記複数種類のパルスは、互いにパルス幅及びパルス数が異なることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項8】
前記複数の発色層は、第1の色に発色する第1発色層と、前記第1の色と異なる第2の色に発色する第2発色層と、を含み、
前記
画像処理手段は、前記第1発色層における発色部の配置の指向性と、前記第2発色層における発色部の配置の指向性と、を異ならせるように、
加熱パルスを生成することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項9】
熱が付与されることによって異なる色を発色する複数の発色層を含むプリント媒体に、発熱素子から熱を付与することによって画像をプリントするプリント方法であって、
前記プリント媒体を加熱するための発熱素子が第1の方向に複数配列されたプリントヘッドを用い、
加熱パルスに従って画像をプリントするプリント工程と、
前記プリント媒体を前記第1の方向とは交差する第2の方向に搬送する搬送工程と、
画像データに基づいて、前記複数の発熱素子を駆動するための前記
加熱パルスを生成する
画像処理工程と、
を有し、
前記
加熱パルスは、前記搬送工程における
搬送に基づく1画素に対応する所定の周期内に、前記複数の発色層のそれぞれを発色させるための複数種類のパルスを含むものであり、
前記
画像処理工程では、前記複数の発熱素子のうち、第1の発熱素子に対応する前記所定の周期と第2の発熱素子に対応する前記所定の周期とが互いにずれるように、各画素に対応する
加熱パルスを前記プリント媒体の搬送に伴って繰り返し生成することを特徴とするプリント方法。
【請求項10】
熱が付与されることによって異なる色を発色する複数の発色層を含むプリント媒体に、発熱素子から熱を付与することによって画像をプリントするプリント方法であって、
前記プリント媒体を加熱するための発熱素子が第1の方向に複数配列されたプリントヘッドを用い、
加熱パルスに従って画像をプリントするプリント工程と、
前記プリント媒体を前記第1の方向とは交差する第2の方向に搬送する搬送工程と、
画像データに基づいて、前記複数の発熱素子を駆動するための前記
加熱パルスを生成する
画像処理工程と、
を有し、
前記
加熱パルスは、前記搬送工程における
搬送に基づく1画素に対応する所定の周期内に、前記複数の発色層のそれぞれを発色させるための複数種類のパルスを含むものであり、
前記
画像処理工程では、前記所定の周期において、前記複数種類のパルスが、前記複数の発熱素子のうちの第1の発熱素子と第2の発熱素子とに対し異なる順番で印加されるように、各画素に対応する
加熱パルスを前記プリント媒体の搬送に伴って繰り返し生成することを特徴とするプリント方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のプリント方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱のプリント媒体を用いて画像をプリントするプリント装置、プリント方法、およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、異なる色に発色する複数の発色層を含む感熱のプリント媒体を用いて、画像をプリントする装置が記載されている。それらの発色層は、発色に必要な加熱温度と加熱時間とが異なり、これらの差異を利用して複数の発色層を選択的に発色させることにより、カラー画像をプリントすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特に、発色に必要な加熱時間が短く制限されている発色層は、その発色部の面積が小さくなる傾向があるため、その発色部がプリント媒体を覆う被覆率が低くなり、その発色が低下するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、発色部の発色を高めて高画質の画像をプリントすることができるプリント装置、プリント方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプリント装置は、熱が付与されることによって異なる色を発色する複数の発色層を含むプリント媒体に、発熱素子から熱を付与することによって画像をプリントするプリント装置であって、前記プリント媒体を加熱するための発熱素子が第1の方向に複数配列されたプリントヘッドと、前記プリント媒体を前記第1の方向とは交差する第2の方向に搬送する搬送手段と、画像データに基づいて、前記複数の発熱素子を駆動するための加熱パルスを生成する画像処理手段と、を備え、前記加熱パルスは、前記搬送手段による搬送に基づく1画素に対応する所定の周期内に、前記複数の発色層のそれぞれを発色させるための複数種類のパルスを含むものであり、前記画像処理手段は、前記複数の発熱素子のうち、第1の発熱素子に対応する前記所定の周期と第2の発熱素子に対応する前記所定の周期とが互いにずれるように、各画素に対応する加熱パルスを前記プリント媒体の搬送に伴って繰り返し生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発色部の被覆率を高めることにより、その発色を高めて高画質の画像をプリントすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態におけるプリント装置の説明図である。
【
図3】
図1のプリントヘッドにおける発熱素子の配置の説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における加熱パルスの説明図である。
【
図5】
図2における画像処理アクセレータの説明図である。
【
図6】
図4の加熱パルスによって発色される発色部の配置の説明図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態における画像処理を説明するためのフローチャートである。
【
図8】本発明の第2の実施形態における発色部の配置の説明図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態における加熱パルスの説明図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態における画像処理アクセレータの説明図である。
【
図11】
図9の加熱パルスによって発色される発色部の配置の説明図である。
【
図12】本発明の第3の実施形態における画像処理を説明するためのフローチャートである。
【
図13】本発明の第4の実施形態における加熱パルスの説明図である。
【
図14】
図13の加熱パルスによって発色される発色部の配置の説明図である。
【
図15】本発明の第5の実施形態における加熱パルスの説明図である。
【
図16】本発明の第5の実施形態における加熱パルスの説明図である。
【
図17】本発明の第5の実施形態における画像処理を説明するためのフローチャートである。
【
図18】本発明の第6の実施形態における加熱パルスの説明図である。
【
図19】本発明の第6の実施形態における画像処理を説明するためのフローチャートである。
【
図20】本発明の第7の実施形態における加熱パルスの説明図である。
【
図21】
図20の加熱パルスによって発色される発色部の配置の説明図である。
【
図22】本発明の第8の実施形態における発熱素子の配置の説明図である。
【
図23】本発明の比較例における加熱パルスの説明図である。
【
図24】本発明の比較例における画像処理アクセレータの説明図である。
【
図25】
図23の加熱パルスによって発色される発色部の配置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1(a)は、感熱のプリント媒体10の一例の断面図である。本例において用意したプリント媒体10は、光を反射する基材12の上に、画像形成層14,16,18、スペーサー層15,17,および保護膜層13が順次積層されている。プリント媒体10にフルカラーの画像をプリントする場合、一般的に、画像形成層14、16、および18はイエロー(Y)、マゼンタ(M)、およびシアン(C)の発色層である。他の画像形成層を組み合わせてもよい。
【0011】
それぞれの画像形成層14、16、および18は、感熱前は無色であり、それぞれの層の特定の活性化温度まで加熱されることによって発色する。プリント媒体10における画像形成層14、16、および18の積層の順序は任意に選択可能である。画像形成層14、16、および18がイエロー、マゼンタ、およびシアンの発色層である場合、それらの積層順序の一例は
図1(a)に示す順序である。他の例は、画像形成層14、16、および18のそれぞれをシアン、マゼンタ、およびイエローの発色層とする順序である。
【0012】
スペーサー層15は、スペーサー層17よりも薄いことが好ましいが、それらの層15,17の材料が実質的に同一の熱拡散率を有する場合には、その限りではない。スペーサー層17の機能は、プリント媒体10内における熱拡散の制御である。スペーサー層17は、スペーサー層15と同じ材料によって構成される場合には、少なくともスペーサー層15の4倍厚いことが望ましい。
【0013】
基材12に配された全ての層は、プリント媒体10の感熱前は実質的に透明である。基材12が白色などを反射するものである場合、プリント媒体10に発現されたカラー画像は、基材12による反射背景に対して、保護膜層13を通して視認される。基材12上に配された層が透明であることにより、画像形成層のそれぞれに発現する色の組み合わせが保護膜層側から視認される。
【0014】
本例において、プリント媒体10の3つの画像形成層14、16および18は、基材12の同一面側に配置されているが、基材12の反対の面側に、少なくとも1つの画像形成層を配してもよい。また、本例における画像形成層14、16および18は、2つの調節可能なパラメータ(加熱温度と加熱時間)に応じて、少なくとも部分的に独立して感熱処理される。これらのパラメータを調節することにより、サーマルヘッド(プリントヘッド)がプリント媒体10を加熱する温度と時間に応じて、所望の画像形成層に対応する色を発現させて画像をプリントすることができる。
【0015】
本例においては、プリントヘッドがプリント媒体10の最上層の保護膜層13に接触しながら、プリント媒体10を加熱することにより、画像形成層14、16、および18が感熱処理される。基材12上の第3番目の層である画像形成層14(プリント媒体10の表面に最も近い画像形成層)が発色する活性化温度Ta3は、基材12上の第2番目の層である画像形成層16の活性化温度(Ta2)よりも高い。また、第2番目の画像形成層16の活性化温度Ta2は、基材12上の第1番目の画像形成層18の活性化温度Ta1よりも高い。画像形成層14、16、および18は、保護膜層13に接触するプリントヘッドから離れるものほど、プリントヘッドからの熱が保護膜層13との間に介在するスペーサー層などに拡散する分だけ、遅れて加熱されることになる。保護膜層13に近い画像形成層の活性化温度が保護膜層13から遠い画像形成層の活性化温度よりも高くても、このような加熱の遅れによって、後者の画像形成層を活性化させずに、前者の画像形成層を活性化させることができる。このように、保護膜層13から遠い位置の画像形成層を活性化させることなく、保護膜層13に近い位置の画像形成層を活性化させるように、プリント媒体10を加熱することができる。
【0016】
したがって、保護膜層13に最も近い画像形成層14を活性化(感熱処理)させるために、プリントヘッドが短時間かつ比較的高い温度に発熱したときに、画像形成層16および18は、いずれも活性化されない程度に加熱されるだけとなる。また、画像形成層16または18のいずれかを活性化させるには、プリントヘッドによって、画像形成層14を活性化させるときよりも低い温度によって長時間、プリント媒体10を加熱すればよい。このように、保護膜層13から近い位置の画像形成層を活性化させることなく、保護膜層13から遠い位置の画像形成層を活性化させることができる。
【0017】
プリント媒体10の加熱には、プリントヘッド(サーマルプリントヘッド)を用いることが望ましい。しかし、画像形成層14,16,18を選択的に活性化させるようにプリント媒体10を加熱させることができる加熱方法であれば、種々の加熱方法を用いることができる。例えば、変調された光源(レーザーのような手段)を用いる方法等であってもよい。
【0018】
図1(b)は、画像形成層14、16、および18の感熱処理に必要なプリントヘッドの加熱温度および加熱時間の説明図である。
図1(b)の縦軸は、プリントヘッドに接触するプリント媒体10の表面の温度を示し、横軸は加熱時間を示す。領域21,22,23は、温度および加熱時間の組み合わせが異なる領域である。比較的高い加熱温度かつ比較的短い加熱時間の領域21は、画像形成層(イエロー(Y)の発色層)14を活性化するための加熱条件に対応する。中間の加熱温度かつ中間の加熱時間の領域22は、画像形成層(マゼンタ(M)の発色層)16を活性化するための加熱条件に対応する。比較的低い加熱温度かつ比較的長い加熱時間の領域23は、画像形成層(シアン(C)の発色層)18を活性化するための加熱条件に対応する。画像形成層18の活性化に必要な時間は、実質的に、画像形成層14の活性化に必要な時間より長い。
【0019】
一般に、画像形成層を活性化させるための活性化温度は、約90℃~約300℃の範囲内である。画像形成層18の活性化温度Ta1は、プリント媒体10の出荷時および保管の期間におけるプリント媒体10の熱安定性を考慮して、できるだけ低いことが好ましく、好適には約100℃またはそれ以上である。画像形成層14の活性化温度Ta3は、この層を通して画像形成層16および18の活性化するために、高いことが好ましく、好適には約200℃またはそれ以上である。画像形成層16の活性化温度Ta2は、活性化温度Ta1とTa3との間の温度であって、好適には約140℃と約180℃との間である。
【0020】
本例において用いるプリントヘッドは、プリント画像の幅の全域に亘って延在し、複数の発熱抵抗素子(以下、「発熱素子」という)の実質的な直線的な配列を含む。プリントヘッドの幅は、プリント画像の幅よりも短くてもよい。この場合には、例えば、プリントヘッドを移動させる構成、または複数のプリントヘッドを用いる構成によって、プリント画像の全幅に対応することができる。発熱素子に加熱パルスを印加しつつ、プリント媒体を発熱素子のライン方向と交差(本例の場合は、直交)する方向に搬送することによって、プリント媒体10が加熱されて画像がプリントされる。プリントヘッドによってプリント媒体10が加熱される時間は、プリント画像の1ライン毎に約0.001ミリ秒~約100ミリ秒の範囲である。加熱時間の上限は、画像のプリントに要する時間との兼ね合いから設定され、その下限は、電子回路の制約を受けて設定される。画像を形成する画素(ドット)の間隔は、一般的に、プリント媒体10の搬送方向と、それに直交する方向と、の両方向において、それぞれ1インチ当り100~600ドット(100~600dpiの解像度に対応)が形成される範囲である。それぞれの方向におけるドットの間隔は、異ならせてもよい。
【0021】
図1(c)は、本例におけるプリントヘッド30とプリント媒体10との位置関係の説明図である。矢印xは、プリントヘッド30における発熱素子の配列方向(ライン方向)、矢印yは、プリント媒体10の搬送方向、矢印zは、鉛直方向に沿う上向きの方向である。プリントヘッド30の基盤31上にはグレーズ32が備えられており、そのグレーズ32には凸面グレーズ33を備えてもよい。発熱素子34は、凸面グレーズ33が存在する場合には、その表面に配置され、それが存在しない場合には、平坦なグレーズ32の表面に配置される。保護膜層36は、発熱素子34、グレーズ32、および凸面グレーズ33上に形成することが好ましい。一般に、同一の材料によって構成されるグレーズ32および凸面グレーズ33の組み合わせは、以下「プリントヘッドのグレーズ」ともいう。基盤31はヒートシンク35に接しており、ファン等を使用して冷却される。プリント媒体10は、加熱素子の配列方向の長さよりも実質的に長いプリントヘッドのグレーズと接触する。典型的な発熱素子は、プリント媒体10の搬送方向(y方向;第1の方向)の長さが約120ミクロン程度であり、一般的なプリントヘッドのグレーズとプリント媒体10との熱的な接触領域は、200ミクロンまたはそれ以上である。
【0022】
図1(d)は、本例におけるプリント装置40の概略構成の説明図である。プリント装置40には、プリントヘッド30、プリント媒体10の格納部41、搬送ローラ42、プラテン43、および排出口44が備えられている。格納部41は、複数枚のプリント媒体10の格納が可能であり、不図示のカバーを開閉することによって、プリント媒体10を補充することができる。プリント動作時に、プリント媒体10は、搬送ローラ42によってプリントヘッド30と対向する位置に搬送され、プリントヘッド30とプラテン43との間において画像がプリントされた後、排出口44から排出される。
【0023】
図2(a)は、プリント装置40と、ホスト装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)50と、を含むプリントシステムのブロック図である。
【0024】
ホストPC50のCPU501は、HDD503およびRAM502に格納されているプログラムにしたがって種々の処理を実行する。RAM502は、揮発性のストレージであり、プログラムおよびデータを一時的に保持する。HDD503は、不揮発性のストレージであり、同様にプログラムおよびデータを保持する。データ転送I/F(インターフェース)504は、プリント装置40との間におけるデータの送受信を制御する。このデータ送受信の接続方式としては、USB、IEEE1394、LAN等の有線接続、または、Bluetooth(登録商標)、WiFi等の無線接続を用いることができる。キーボード・マウスI/F505は、キーボードおよびマウス等のHID(Human Interface Device)を制御するI/Fであり、ユーザは、このI/Fを介して種々の情報を入力することができる。ディスプレイI/F506は、ディスプレイ(不図示)における表示を制御する。
【0025】
プリント装置40のCPU401は、ROM403およびRAM402に格納されているプログラムにしたがって、後述する処理等を実行する。RAM402は、揮発性のストレージであり、プログラムおよびデータを一時的に保持する。また、ROM403は不揮発性のストレージであり、後述する処理に用いられるテーブルデータおよびプログラムを保持する。データ転送I/F404は、PC50との間におけるデータの送受信を制御する。ヘッドコントローラ405は、プリントデータに基づいてプリントヘッド30を制御する。具体的に、ヘッドコントローラ405は、RAM402の所定のアドレスから制御パラメータとプリントデータを読み込む。それらの制御パラメータとプリントデータは、CPU401によってRAM402の所定のアドレスに書き込まれ、その書き込みにより、ヘッドコントローラ405が起動されてプリントヘッド30を制御する。画像処理アクセラレータ406はハードウェアによって構成され、CPU401よりも高速に画像処理を実行する。具体的に、画像処理アクセラレータ406は、RAM402の所定のアドレスから画像処理に必要なパラメータとデータを読み込む。それらのパラメータとデータは、CPU401によってRAM402の所定のアドレスに書き込まれ、その書き込みにより、画像処理アクセラレータ406が起動されて所定の画像処理を実行する。なお、画像処理アクセラレータ406は必ずしも備えなくてもよく、プリント装置の仕様などによっては、CPU401のみによってテーブルパラメータの作成処理および画像処理などを実行してもよい。
【0026】
図2(b)には、プリント動作時におけるプリント装置40およびホストPC50の処理を説明するためのフローチャートである。同図中のステップS1~S5はホストPC50における処理であり、ステップS11~S16はプリント装置40における処理である。
【0027】
まず、ユーザがプリントを実施しようとする際に、プリント装置40は、それ自体がプリント可能な状態にあることを確認してから、プリントサービスを開始する(S11)。この状態において、ホストPC50がプリントサービスを検出(ディスカバリ)し(S1)、それに応答して、プリント装置40は、それ自体がプリントサービスを提供可能な機器であること示す情報(プリント可能情報)を通知する(S12,S13)。
【0028】
その後、ホストPC50がプリント可能情報を取得する(S2)。基本的には、ホストPC50がプリント装置40に対してプリント可能情報の送信をリクエストし、それに対してプリント装置40がプリント可能情報を通知する。その後、ホストPC50は、プリント可能情報に基づいて、プリントジョブ作成用のユーザインタフェースを構築する(S3)。具体的に、ホストPC50は、プリント可能情報に基づいて、プリントサイズおよびプリント可能のプリント媒体のサイズなどを表示すると共に、ユーザに対してプリントのための適切な選択肢を提供する。
【0029】
その後、ホストPC50がプリントジョブを発行し(S4)、プリント装置40は、そのプリントジョブを受信して(S14)、そのプリントジョブを実行する(S15)。プリント装置40は、プリントジョブが完了すると、プリントジョブの終了をホストPC50に通知する(S16)。ホストPC50は、その通知を受信してユーザに伝える(S5)。プリントジョブが終了したら、ホストPC50およびプリント装置40は一連のプリントサービス処理を終了する。
【0030】
本例において、種々の情報伝達は、いずれもホストPC50側からプリント装置40側に対して情報の送信をリクエストし、そのリクエストにプリント装置40が応答することによって行われる。しかし、ホストPC50とプリント装置40との間の通信方式は、このようないわゆるPull型に限定されない。例えば、プリント装置40がネットワークに存在するホストPC50(および他のホストPC)に対して、自発的に情報を発信するいわゆるPush型の通信方式であってもよい。
【0031】
図3は、プリントヘッド30における発熱素子34の説明図である。
図3において、発熱素子801~806(34)に対して、それらに電力を供給する+側電極811~816と-側電極821~826が接続されている。例えば、プリント媒体の幅方向(x方向;第2の方向)のプリント解像度が600dpiの場合、2インチの幅のプリント媒体に対応するためには、1200画素に対応する数の発熱素子が必要となる。以下においては、説明の便宜上、発熱素子の数を6とする。
【0032】
図4は、プリントヘッド30に印加する加熱パルスの説明図である。イエロー(Y)を発色させる場合には、
図1(b)中の領域21の加熱条件を満たすために、加熱パルスによる加熱時間(パルス幅に対応)をΔt1とする。また、マゼンタ(M)を発色させる場合には、
図1(b)中の領域22の加熱条件を満たすように、加熱パルスによって、加熱時間がΔt2の加熱をインターバル時間Δt0mを挟んで計2回実施する。また、シアン(C)を発色させる場合には、
図1(b)中の領域23の加熱条件を満たすように、加熱時間がΔt3の加熱をインターバル時間Δt0cを挟んで計4回実施する。
【0033】
図4中上段の3列(Yo、Mo、Co)は、奇数番目の発熱素子(発熱素子801、803、805等)に印加する加熱パルスであり、Yoがイエロー、Moがマゼンタ、Coがシアンを発色させるためのものである。同図中下段の3列(Ye、Me、Ce)は、偶数番目の発熱素子(発熱素子802、804、806等)に印加する加熱パルスであり、Yeがイエロー、Meがマゼンタ、Ceがシアンを発色させるためのものである。レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)、およびブラック(K)は、後述する
図25の比較例と同様に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の組み合わせによって発現させる。
【0034】
図4において、奇数番目の発熱素子(Yo、Mo、Co)による最初の1画素分のプリントは、時点p0~p7の間における計7パルス分の加熱パルスに基づいて実行され、次の1画素分のプリントは、時点p7~p14の間において実行される。このように発熱素子(Yo、Mo、Co)は、時点p0~p7および時点p7~p14のように、1画素に対応する7パルス分の幅を1周期Aoとして発熱駆動される。この1周期Aoの間にプリント媒体が移動する距離が、解像度に相当する。また、偶数番目の発熱素子(Ye、Me、Ce)による最初の1画素分のプリントは、時点p3~p10の間における計7パルス分の加熱パルスに基づいて実行され、次の1画素分のプリントは、時点p10~p17の間において実行される。このように発熱素子(Ye、Me、Ce)は、時点p3~p10および時点p10~p17のように、7パルス分の幅を1周期Aeとして発熱駆動される。発熱素子(Yo、Mo、Co)と発熱素子(Ye、Me、Ce)は、それぞれ7パルス分の幅の周期Ao,Aeで繰り返し駆動される。周期Aeは、周期Aoよりも3パルス分遅れている。つまり、奇数番目と偶数番目の発熱素子の加熱パルスの印加タイミングが略半画素分(3/7パルス分)ずれている。
【0035】
図5は、
図4における加熱パルスの制御を実現するための制御系のブロック図である。
図2(a)の画像処理アクセラレータ406における加熱パルス生成部701-1~701-6は、それぞれ発熱素子801~806に対応する。画像処理アクセラレータ406は、RAM402から読み出したC、M、Y成分に基づいて、発熱素子に印加するための加熱パルスを生成する。
【0036】
具体的に、加熱パルス生成部701-1は、奇数番目の発熱素子801によってプリントする画素のC,M,Y成分をRAM402から読み出し、それらの成分に対応する加熱パルスCo,Mo,Yoを生成する。
図4のように、C成分に対応する加熱パルスはパルス幅がΔt1、パルス数が1であり、M成分に対応する加熱パルスはパルス幅がΔt2、パルス数が2であり、Y成分に対応する加熱パルスはパルス幅がΔt3、パルス数が4である。それらの加熱パルスは、Yo,Mo,Coの順で発熱素子801に印加される。これにより発熱素子801は、それに対応する画素に対してC,M,Yの少なくとも1つを発色させて、所望の色を発現させる。同様に、加熱パルス生成部701-3,701-5は、奇数番目の発熱素子803,805に、それら対応する加熱パルスCo,Mo,Yoを生成して印加する。発熱素子801,803,805に対する加熱パルスの印加タイミングは、後述するようにトリガーパルスTr0に基づいて設定される。同様に、加熱パルス生成部701-2,701-4,701-6は、偶数番目の発熱素子802,804,806のそれぞれに対して、それらの発熱素子に対応する加熱パルスCe,Me,Yeを生成する。それらの加熱パルスは、Ye,Me,Ceの順に印加される。発熱素子802,804,806に対する加熱パルスの印加タイミングは、後述するようにトリガーパルスTr1に基づいて設定される。
【0037】
以下においては、説明の便宜上、加熱時間Δt1、Δt2、Δt3を下式の関係として、それぞれの色を発色させるための加熱パルスの総時間を同一とする。
Δt1 = Δt2 × 2 = Δt3 × 4
【0038】
また、加熱パルスによる加熱時間Δt1、Δt2、Δt3と、
図1(b)中の加熱時間t1、t2、t3と、は次のような関係にある。
t2 > Δt1 > t1
t3 >2(Δt2) + Δt0m> t2
4(Δt3) + 3(Δt0c) > t3
【0039】
イエロー(Y)、マゼンタ(M)、およびシアン(C)を発色させるための加熱時間の相対的な関係は、下記の関係となる。
Y < M < C
【0040】
インターバル時間Δt0mおよびΔt0c中は、プリントヘッド30のグレーズ、基盤31、およびヒートシンク35(
図1(c)参照)への熱伝導のために、プリント媒体10の温度は低下する。また、インターバル時間Δt0mおよびΔt0c中は、プリント媒体10中の熱がプラテン43(
図1(d)参照)等にも伝搬されるため、それによってもプリント媒体10の温度は低下する。これらの結果、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、およびシアン(C)を発色させるための加熱パルスによる投入エネルギを同一とした場合に、それらの色を発色させるためのピーク温度(Y,M,Cのピーク温度)は、下式の関係となる。
Y > M > C
【0041】
また、
図1(b)の加熱条件を満たすときのY,M,Cのピーク温度は、下式の関係となる。
Yのピーク温度 > Ta3
Ta3 > Mのピーク温度 > Ta2
Ta2 > Cのピーク温度 > Ta1
【0042】
このようにY,M,Cのピーク温度を制御することにより、Y,M,Cのそれぞれの色を独立して発色させることができる。
【0043】
図6は、
図3のプリントヘッド30の発熱素子801~806に、
図4の加熱パルスを印加することによって発色させたプリント媒体10の発色部の説明図である。プリント媒体10の搬送方向(y方向)の画素列91,92にシアン(C)、画素列93,94にマゼンタ(M)、および画素列95,96にイエロー(Y)を所定の解像度で発色させるために、発熱素子801~806と画素列91~96とが対応付けられている。画素列91,93,95が奇数列(Odd)であり、画素列92,94,96は偶数列(Even)である。
【0044】
前述したように、偶数の画素列112に対応する発熱素子(Ce)の駆動周期Aeは、奇数の画素列111に対応する発熱素子(Co)の駆動周期Aoよりも3パルス分(3/7パルス分)遅れている。そのため、画素列112におけるシアン(C)の発色部は、画素列111におけるシアン(C)の発色部よりも略半画素分だけ、搬送方向(y方向)の上流側にずれる。すなわち、画素列112におけるシアン(C)の発色部は、画素列111におけるシアン(C)の発色部よりも、それぞれの解像度に対応する間隔未満の距離分だけ搬送方向(y方向)の上流側にずれる。同様に、画素列114におけるマゼンタ(M)の発色部は、画素列113におけるマゼンタ(M)の発色部よりも略半画素分だけ、搬送方向の上流側にずれる。また、画素列116におけるシアン(Y)の発色部は、画素列115におけるシアン(C)の発色部よりも略半画素分だけ、搬送方向の上流側にずれる。このように同一発色層において、x方向(第2の方向)に並ぶ発色部の位置をy方向(第1の方向)にずらすように、発熱素子によるプリント媒体の加熱位置を制御する。
【0045】
マゼンタ(M)およびイエロー(Y)の発色部がプリント媒体10を覆う被覆率は、シアン(C)の発色部の被覆率よりも低くなる。その理由は、前述したように、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、およびシアン(C)を発色させるための加熱時間の相対的な関係が下記の関係にあるからである。
Y < M < C
【0046】
図6において、画素列113,114におけるマゼンタ(M)の発色部の被覆率は、後述する
図25の比較例の画素列93,94におけるマゼンタ(M)の発色部の被覆率よりも高い。同様に、画素列115,116におけるイエロー(Y)の発色部の被覆率は、後述する比較例の画素列95,96におけるイエロー(Y)の発色部の被覆率よりも高い。その理由は、本例のように、奇数の画素列に対応する発熱素子の駆動周期Aoと、偶数の画素列に対応する発熱素子の駆動周期Aeと、を略半画素分(3/7パルス分)ずらしたからである。より具体的には、後述する
図25の比較例の場合よりも、互いに隣接する画素の中心間距離が約1.15倍(2÷√3)長くなって、発色部が重複しにくくなるからである。
【0047】
図6において、四角枠の部分Pは1つの画素を示し、1つの画素は、プリント媒体の幅方向(x方向)の長さが1つの発熱素子に対応し、プリント媒体の搬送方向(y方向)の長さが7パルス分の駆動周期Ao,Aeに対応する。本実施形態においては、奇数番目と偶数番目の発熱素子の駆動周期Ao,Aeがずれて、それらに対応する画素Pがずれるため、隣接する画素P間の中心距離は、後述する
図25の比較例の場合よりも長くなって、発色部が重複しにくくなる。
【0048】
このように本実施形態においては、プリント媒体10上における発色部を重なりにくくして、それらの被覆率を高めることにより、発色を高めて高画質の画像をプリントすることができる。
【0049】
(比較例)
図23は、プリントヘッド30に印加する加熱パルスの比較例の説明図である。
図23における加熱時間Δt1、Δt2、Δt3およびインターバル時間Δt0m、Δt0cは、前述した
図5の例と同じである。この比較例における複数の発熱素子は、本発明の実施形態とは異なり、複数のグループ(奇数番目と偶数番目のグループ)に分けられることなく駆動される。そのため、発熱素子を駆動するための加熱パルスが本発明の実施形態とは異なる。
【0050】
図23のように、レッド(R)を発現させるためには、イエロー(Y)、マゼンタ(M)の順に発色させるように加熱パルスを制御する。グリーン(G)を発現させるためには、イエロー(Y)、シアン(C)の順に発色させるように加熱パルスを制御する。また、ブルー青色(B)を発現させるためには、マゼンタ(M)、シアン(C)の順に発色させるように加熱パルスを制御する。また、ブラック(K)を発現させるためには、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の順に発色させるように加熱パルスを制御する。
【0051】
図24は、
図23の比較例における加熱パルスの制御を実現するための制御系のブロック図である。発熱素子801~806と、画像処理アクセラレータ406の加熱パルス生成部700-1~700-6と、が対応する。画像処理アクセラレータ406は、RAM402から読み出したC、M、Y成分に基づいて、発熱素子に印加するための加熱パルスを生成する。
【0052】
具体的に、加熱パルス生成部700-1は、まずは、発熱素子801によってプリントする画素のC、M、Y成分をRAM402から読み出し、それらのC、M、Y成分に基づいて、それらの成分に対応する加熱パルスC1,M1,Y1を生成する。それらの加熱パルスは、Y1,M1,C1の順で発熱素子801に印加される。これにより発熱素子801は、それに対応する画素に対してC,M,Yの少なくとも1つを発色させて、所望の色を発現させる。加熱パルスの印加タイミング(P0~P7)は、トリガーパルスTrに基づいて設定される。同様に、加熱パルス生成部700-2~700-6は、それらに対応する発熱素子802~806に印加する加熱パルスを生成する。
【0053】
前述したように、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)の発色部がプリント媒体10の表面を被覆する被覆率は、シアン(C)の発色部の被覆率よりも低くなる。しかも、この比較例においては、複数の発熱素子が複数のグループに分けられることなく駆動されるため、
図25のようにマゼンタ(M)の発色部同士が部分的に重なり合い、またシアン(C)の発色部同士も部分的に重なり合う。そのため、マゼンタ(M)およびシアン(C)の被覆率はさらに低くなり、それらの発色が低くなって、画質の低下を招くおそれがある。
【0054】
(画像処理)
図7は、本実施形態におけるプリント動作を実現するための画像処理のフローチャートである。
図7における処理は、
図2(b)におけるS15のプリントジョブの実行処理に対応し、プリント装置40のCPU401または画像処理アクセレータ406(
図2(a)参照)によって実行される。
図7中における記号「S」は、ステップであることを意味する。
【0055】
まず、CPU401またはアクセレータ406は、
図2(b)のS14において受信したプリントジョブ中の画像データを入力し(S21)、その画像データが圧縮または符号化されていた場合には、それを復号化する(S22)。一般的に、この時点における画像データはRGBデータである。RGBデータの種別としては、sRGBおよびadobeRGB等の標準的な色情報であることが好ましい。本例において、画像データは各色8bitの情報をもち、その値域は0~255とする。画像データとしては、16bit等の他のbit数の情報をもつデータを用いてもよい。
【0056】
次に、CPU401またはアクセレータ406は、画像データに対して色補正処理を行う(S23)。この処理は、
図2(a)中のホストPC50側において行うことができるが、プリント装置40に対応する色補正を行う場合には、プリント装置40内において行うことが好ましい。一般的に、この時点における画像データはRGBデータであり、そのRGBの画像データは、プリント装置40に特化したRGB、いわゆるデバイスRGBという形式となっている。
【0057】
次に、CPU401またはアクセレータ406は、輝度濃度変換処理を行う(S24)。一般的な感熱式のプリント装置(サーマルプリンタ)においては、下記のように、RGBの画像データをシアン(C)、マゼンタ(M)、およびイエロー(Y)の画像データに変換する。
C = 255 - R
M = 255 - G
Y = 255 - B
【0058】
本例のパルス制御においては、例えば、マゼンタ(M)の単色を発色させるためのマゼンタパラメータと、レッド(R)の2次色を発現させるためのマゼンタパラメータと、が異なる。よって、それらのパラメータを個別に設定するために、下記のように、3次元ルックアップテーブルを用いて輝度濃度変換処理を行うことが望ましい。
C = 3D_LUT[R][G][B][0]
M = 3D_LUT[R][G][B][1]
Y = 3D_LUT[R][G][B][2]
【0059】
本例における3次元ルックアップテーブル(3D_LUT)は、50331648個(=256×256×256×3)のデータテーブルから構成される。それらのテーブルにおけるデータは、
図4中の時点p0~p7に印加する加熱パルスのパルス幅のデータに対応する。しかし、データ量を削減するために、グリッド数を256から17に減らして、14739個(17×17×17×3)のデータテーブルを用い、補間演算によって結果を算出してもよい。グリッド数は、16グリッド、9グリッド、および8グリッド等、適宜を設定することができる。また、補間演算における補間方法は、既知の四面体補間等、任意の方法を用いることができる。同様に、レッド(R)を発現させるためのイエローパラメータ、グリーン(G)を発現させるためのシアンパラメータおよびイエローパラメータ、ブルー(B)を発現させるためのマゼンタパラメータおよびシアンパラメータは、それぞれ独立に設定可能である。また、ブラック(K)を発現させるためのイエローパラメータ、マゼンタパラメータ、およびシアンパラメータのそれぞれも独立に設定可能である。
【0060】
このように輝度濃度変換処理(S24)の後、CPU401またはアクセレータ406は、出力補正処理を行う(S25)。まずは、下記のように、1次元ルックアップテーブル(1D_LUT)を用いて、シアン(C)、マゼンタ(M)、およびイエロー(Y)の発色濃度を実現するためのパルス幅c、m、およびyを算出する。
c = 1D_LUT[C]
m = 1D_LUT[M]
y = 1D_LUT[Y]
【0061】
パルス幅cの最大値は
図4中のΔt3であり、パルス幅mの最大値は
図4中のΔt2であり、パルス幅yの最大値は
図4中のΔt1である。本例のプリント装置40は、パルス幅の変調によって、プリント媒体10における発色の強度を変調する。つまり、パルス幅c、m、およびyをそれらの最大パルス幅よりも小さくすることにより、所望の諧調を実現することができる。この処理には、既知の方法を用いることができる。
【0062】
さらに本例においては、プリント媒体10の温度を不図示の温度センサを用いて取得し、その取得した温度に基づいて、プリントヘッド30に印加する加熱パルスを変調する。具体的には、取得した温度が高くなるにしたがって、画像形成層を活性化温度に到達させるために必要の加熱パルスのパルス幅を短くするように制御する。この処理には、既知の方法を用いることができる。また、プリント媒体10の温度は、温度センサ等を用いて直接取得するだけでなく、ホスト装置50側のCPU501(
図2(a)参照)によって、プリント媒体10の温度を推定し、その推定温度に基づいて加熱パルスのパルス幅を制御してもよい。プリント媒体10の温度の推定の方法としては、既知の手法を用いることができる。
【0063】
プリント媒体10の温度が所定の許容温度以上となる場合には、プリント動作を待機状態または中断させ、プリント媒体10の温度が所定の許容温度内に下がった後に、プリント動作を開始または再開させることが好ましい。また、プリント媒体10の1ページのプリント動作の途中においてプリント動作を待機状態とした場合に、プリント動作の待機前と再開後の画像濃度を合わせることが容易ではないため、S21において、プリント動作を待機状態とするか否かを判定する。ページ単位において、プリント動作の待機と再開を行うことが好ましい。
【0064】
次に、CPU401またはアクセレータ406は、奇数の画素列に対応する発熱素子(奇数番目の発熱素子)に加熱パルスを印加する(S26)。具体的には、
図4における時点p0~P7において、奇数番目の発熱素子に対してパルス幅yoの加熱パルス、パルス幅moの加熱パルス、およびパルス幅coの加熱パルスを印加する。
図4の場合には、時点p0にて発熱素子805にパルス幅yoの加熱パルスを印加し、時点p1,p2にて発熱素子803にパルス幅moの加熱パルスを印加し、時点p3,p4,p5,p6にて発熱素子801にパルス幅coの加熱パルスを印加する。パルス幅yo,mo,coは、S25において生成されたパルス幅y,m,cのうち、奇数の画素列に対応する発熱素子に印加する加熱パルスのパルス幅である。
【0065】
CPU401またはアクセレータ406は、このようなS26の処理と平行して、偶数の画素列に対応する発熱素子(偶数番目の発熱素子)に加熱パルスを印加する(S27)。
図4の場合には、時点p3にて発熱素子806にパルス幅yeの加熱パルスを印加し、時点p4,p5にて発熱素子804にパルス幅meの加熱パルスを印加し、時点p6,p7,P8,P9にて発熱素子802にパルス幅ceの加熱パルスを印加する。パルス幅ye,me,ceは、S25において生成されたパルス幅y,m,cのうち、偶数の画素列に対応する発熱素子に印加する加熱パルスのパルス幅である。
【0066】
本例の場合、
図4のように、最初の1画素に対応する駆動周期Aoにおいて、奇数番目の発熱素子(Co)の1番目の加熱パルスの印加時(時点p3)には、最初の1画素に対応する駆動周期Aeにおける偶数番目の発熱素子(Ye)に加熱パルスが印加される。また、最初の1画素に対応する駆動周期Aeにおいて、偶数番目の発熱素子(Ce)の2番目の加熱パルスの印加時(時点p7)には、次の1画素に対応する駆動周期Ao(p7~p13)における奇数番目の発熱素子(Yo)に加熱パルスが印加される。そのため、少なくとも搬送方向(y)方向において隣接する2画素分の加熱パルスを予め確定させてから、プリントヘッド30に加熱パルスを印加するように制御する必要がある。
【0067】
その後、CPU401またはアクセレータ406は、プリント媒体10の1ページ分のプリントが完了したか否かを判定し(S28)、その1ページ分のプリントが完了するまでS22~S27の処理を繰り返す。その1ページ分のプリントが終了したときは、
図7の一連の処理を終了する。
【0068】
以上説明したように、本実施形態においては、奇数番目と偶数番目の発熱素子の加熱パルスの印加タイミングを略半画素分(3/7パルス分)ずらすことにより、発色部の被覆率を高くして高画質の画像をプリントすることができる。また、N画素に対応するN個の発熱素子(奇数番目と偶数番目の発熱素子を含む)を駆動対象とした場合、複数の発熱素子を同時駆動するときの最大電力は、
図4の時点p7の{(Δt1+Δt3)×N/2}に対応する電力となる。一方、
図23の比較例において、複数の発熱素子を同時駆動するときの最大電力は、時点p0の(Δt1×N)に対応する電力となる。Δt1>Δt3であるため、本実施形態においては、複数の発熱素子を同時駆動するときの最大電力を低く抑えて、AC電源またはバッテリの最大電気容量を小さくすることができる。
【0069】
また、発色部の被覆率を高める上においては、本実施形態のように、発色位置のずらし量を略半画素(3/7パルス分)とすることがより効果的であるが、そのずらし量は略半画素未満であってもよい。また、発色位置のずらし量は、3/7パルス分のような1パルス単位に限定されず、例えば、0.5パルス単位で設定してもよい。
【0070】
(第2の実施形態)
図8は、本発明の第2の実施形態における発色部の説明図である。本例においては、画素列131~133にマゼンタ(M)を発色させ、画素列134~136にイエロー(Y)を発色させるように、加熱パルスに基づいて発熱素子801~806を発熱駆動する。
【0071】
画素列131、132は、前述した実施形態の
図6中の画素列113と同じタイミングで発色させ、画素列133は、
図6中の画素列114と同じタイミングで発色させる。また、画素列134は、
図6中の画素列115と同じタイミングで発色させ、画素列135、136は、
図6中の画素列116と同じタイミングで発色させる。加熱パルスは、このようなタイミングにおける発色を実現するように設定する。本例においては、前述した実施形態の
図7と同様の画像処理を行うことができ、その場合、画素列131、132、134に対応する発熱素子はS26において制御し、画素列133、135、136に対応する発熱素子はS27において制御すればよい。
【0072】
本例において、マゼンタ(M)の発色位置(画素位置)に関しては、2つの画素列131,132における発色位置が通常の位置にあり、それに対して、画素列133における発色位置が略半画素分ずれている。また、イエロー(Y)の発色位置(画素位置)に関しては、1つの画素列134における発色位置が通常の位置にあり、それに対して、2つの画素列135,136における発色位置が略半画素分ずれている。このように、マゼンタ(M)とイエロー(Y)の発色位置を意図的にずらす。これにより、マゼンタ(M)とイエロー(Y)の両方の発色によって2次色(例えば、レッド(R))を発現させる場合には、それらの発色部の被覆率を高めてプリント媒体10上における非発色領域を小さくし、高品位な画像をプリントすることができる。
【0073】
また、同じ色に発色される画素列の数と、それらの画素列における発色位置と、の組み合わせは、
図8の例に限定されない。例えば、同じ色に発色される画素列の数を4とし、そのうちの2つの画素列における発色位置を通常の位置とし、他の2つの画素列の発色位置をずらしてもよい。また、同じ色に発色される画素列の数を8とし、そのうちの4つの画素列における発色位置を通常の位置とし、他の4つの画素列の発色位置をずらしてもよい。また、このような組み合わせを色毎に異ならせることにより、色間の同期を低減してモアレの発生を抑えることができる。
【0074】
(第3の実施形態)
第1の実施形態においては、奇数番目の発熱素子と偶数番目の発熱素子とのグループ間において、それらの駆動タイミングを略半画素(3/7パルス分)ずらすために、前述したように複数画素(前述した例においては2画素)を関連付ける制御が必要となる。本実施形態においては、このような複数画素を関連付ける制御を不要とする。
【0075】
図9は、本実施形態における加熱パルスの説明図である。
図9において、上段の3列(Yo、Mo、Co)は、奇数番目の発熱素子(発熱素子801、803、805)に印加する加熱パルスである。また、下段の3列(Ye、Me、Ce)は、偶数番目の発熱素子(発熱素子802、804、806)に印加する加熱パルスである。奇数番目の発熱素子に対応する加熱パルスは、イエロー(Yo)、マゼンタ(Mo)、およびシアン(Co)の順に印加される。一方、偶数番目の発熱素子に対応する加熱パルスは、シアン(Ce)、イエロー(Ye)、およびマゼンタ(Me)の順に印加される。このように本実施形態においては、第1の実施形態のように奇数番目と偶数番目の発熱素子の駆動周期Ao,Aeをずらすのではなく、1つの駆動周期A内において、奇数番目の複数の発熱素子の駆動順序と、偶数番目の複数の発熱素子の駆動順序と、を異ならせる。
【0076】
この結果、発熱素子(Ye)は、発熱素子(Yo)に対して略半画素(4/7パルス分)遅れて駆動され、発熱素子(Me)は、発熱素子(Mo)に対して略半画素(4/7パルス分)遅れて駆動される。また、発熱素子(Co)は、発熱素子(Ce)に対して略半画素(4/7パルス分)遅れて駆動される。このように、1つの駆動周期A内において、奇数番目と偶数番目の発熱素子の駆動順序がずれているため、前述した第1の実施形態のように複数画素を関連付ける制御が不要となる。
【0077】
図10は、
図9の加熱パルスの制御を実現するための制御系のブロック図である。
【0078】
画像処理アクセレータ406における加熱パルス生成部702-1~702-6は、それぞれ発熱素子801~806に対応し、RAM402から読み出したC、M、Y成分に基づいて加熱パルス生成する。具体的に、加熱パルス生成部702-1は、奇数番目の発熱素子801によってプリントする画素のC,M,Y成分をRAM402から読み出し、それらの成分に対応する加熱パルスCo,Mo,Yoを生成する。それらの加熱パルスは、Yo,Mo,Coの順で発熱素子801に印加される。同様に、加熱パルス生成部702-3,702-5は、奇数番目の発熱素子803,805に、それら対応する加熱パルスCo,Mo,Yoを生成して印加する。また、加熱パルス生成部702-2,702-4,702-6は、偶数番目の発熱素子802,804,806のそれぞれに対して、それらの発熱素子に対応する加熱パルスCe,Me,Yeを生成し、それらの加熱パルスをCe,Me,Yeの順に印加する。発熱素子801~806に対する加熱パルスの印加タイミングは、トリガーパルスTrに基づいて設定される。
【0079】
図11は、
図5のプリントヘッド30の発熱素子801~806に、
図9の加熱パルスを印加することによってプリント媒体10に発色させた発色部の説明図である。前述した第1の実施形態における
図6の場合と同様に、プリント媒体10上における発色部を重なりにくくして、それらの被覆率を高めることにより、発色を高めて高画質の画像をプリントすることができる。
【0080】
図12は、本実施形態の加熱パルスに応じたプリント動作を実現するための画像処理のフローチャートである。
図12における処理は、
図2(b)におけるS15のプリントジョブの実行処理に対応し、プリント装置40のCPU401または画像処理アクセレータ406(
図2(a)参照)によって実行される。
図12におけるS31~S35は、
図7におけるS21~S25と同じであるため、それらの説明は省略する。
【0081】
S36においては、CPU401またはアクセレータ406は、奇数番目と偶数番目の発熱素に加熱パルスを印加する(S26)。
図11の場合には、時点p0において、発熱素子805および802のそれぞれにパルス幅yoおよびceの加熱パルスを印加し、時点p1,p2において、発熱素子803および802のそれぞれにパルス幅moおよびceの加熱パルスを印加する。また、時点p3において、発熱素子801および802のそれぞれにパルス幅coおよびceの加熱パルスを印加し、時点p4において、発熱素子801および806のそれぞれにパルス幅coおよびyeの加熱パルスを印加する。また、時点p5,p6において、発熱素子801および804のそれぞれにパルス幅coおよびmeの加熱パルスを印加する。S35において生成されたパルス幅y,m,cのうち、奇数番目の発熱素子に印加する加熱パルスのパルス幅がyo,mo,coであり、偶数列の発熱素子に印加する加熱パルスのパルス幅がye,me,ceである。
【0082】
その後、CPU401またはアクセレータ406は、プリント媒体10の1ページ分のプリントが完了したか否かを判定し(S37)、その1ページ分のプリントが完了するまでS32~S36の処理を繰り返す。その1ページ分のプリントが終了したときは、
図12の一連の処理を終了する。
【0083】
以上説明したように、本実施形態においては、発熱素子の1つの駆動周期内において、奇数番目と偶数番目の発熱素子の駆動タイミングを入れ替える。これにより、発色部の被覆率を高くして高画質の画像をプリントすることができると共に、複数画素を関連付ける制御が不要となる。また、前述した第1の実施形態と同様に、複数の発熱素子を同時駆動するときの最大電力を低く抑えることができる。
【0084】
(第4の実施形態)
本実施形態においては、複数の発熱素子を奇数番目と偶数番目の2つのグループよりも多い数のグループに分けて、プリント媒体上における発色部の配置の指向性を制御することにより、発色部の位置ズレなどに対するロバスト性を向上させる。
【0085】
図13は、本実施形態における加熱パルスの説明図である。本例においては、複数の発熱素子を第0~第3の4つのグループG0~G3に分けて駆動制御する。第0グループG0の発熱抵抗素子に対する加熱パルスをY0、M0、C0とし、第1グループG1の発熱抵抗素子に対する加熱パルスをY1、M1、C1とする。同様に、第2グループG2の発熱抵抗素子に対する加熱パルスをY2、M2、C2とし、第3グループG3の発熱抵抗素子に対する加熱パルスをY3、M3、C3とする。
【0086】
複数の発熱素子は、その並び方向に沿って、グループG0、グループG1、グループG2、グループG3、グループG0、・・・のように4つのグループに分けられる。具体的に、
図3のプリントヘッド30においては、発熱素子801がグループG0、発熱素子802がグループG1、発熱素子803がグループG2、発熱素子804がグループG3、発熱素子805がグループG0、発熱素子806がグループ1に分けられる。
【0087】
図14は、プリントヘッド30の発熱素子801~806に、
図13の加熱パルスを印加することによってプリント媒体10に発色させた発色部の説明図である。
図14においては、マゼンタ(M)とイエロー(Y)の発色部のみを示す。
【0088】
画素列181~186のそれぞれにおけるマゼンタ(M)の発色タイミングは、
図13の加熱パルスに基づいて次のように設定される。すなわち、画素列181における発色タイミングはp1,p2、画素列182における発光タイミングはp0,p1、画素列183における発光タイミングはp5,p6となる。また、画素列184における発光タイミングはp4,p5、画素列185における発光タイミングはp1,p2、画素列186における発光タイミングはp0,p1となる。この結果、マゼンタ(M)の発色部の配置は、
図14のように、同図中右上がりの指向性をもつ。
【0089】
画素列181~186のそれぞれにおけるイエロー(Y)の発色タイミングは、次のように設定される。すなわち、画素列181における発色タイミングはp0、画素列182における発光タイミングはp2、画素列183における発光タイミングはp4となる。また、画素列184における発光タイミングはp6、画素列185における発光タイミングはp0、画素列186における発光タイミングはp2となる。この結果、イエロー(Y)の発色部の配置は、
図14のように、同図中右下がりの指向性をもつ。
【0090】
このように、マゼンタの発色部の配置の指向性と、イエローの発色部の配置の指向性と、が異なるため、それらの発色部の位置がプリント媒体10上において若干ずれた場合でも、プリント画像の色味は大きく変化しない。よって、プリント媒体10の搬送速度の変動、およびプリントヘッドの温度のムラ等によって、発色タイミングがずれた場合であっても、安定した色味の画像をプリントすることができる。
【0091】
マゼンタとイエローの発色部の配置の指向性が異なることによって色味が安定する理由を説明するために、それらの指向性が同じである場合を想定する。例えば、マゼンタの方の指向性が市松模様であって、イエローの方の指向性が逆市松模様であって、マゼンタとイエローの発色位置がずれてないときに、全画素においてマゼンタとイエローの発色部が配置される状況を想定する。この状況において、それらの発色部の配置が縦方向または横方向のいずれかに1パルス分ずれた場合には、全画素が2次色のレッドと無発色のホワイトとなり、色味が大きく変化する。一方、本実施形態のように、マゼンタとイエローの発色部の配置の指向性が異ならせることにより、それらの発色部の位置が若干ずれた場合には、全画素がマゼンタ、イエロー、レッド、ホワイトの所定の比率によって構成される。その所定の比率は、マゼンタとイエローの発色部の配置が縦方向または横方向のいずれかに1パルス分ずれた場合にも大きく変化しない。したがって、ゼンタとイエローの発色部の配置の指向性を異ならせることによって、プリント画像の色味が安定させることができる。
【0092】
(第5の実施形態)
本実施形態においては、加熱パルスの少なくとも一部を重畳させることによって、プリント速度の向上、および発色に必要な投入熱量の低減を図りつつ、発色部の被覆率を高くして高画質の画像のプリントを実現する。
【0093】
図15は、本実施形態における加熱パルスの説明図である。本例においては、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の加熱パルスを重畳させる。
図15において、Δt0、Δt1、Δt2、Δt3は前述した実施形態と同様である。また、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、およびシアン(C)の単色の発色に関しても前述した実施形態と同様である。本実施形態においては、加熱パルスを重畳することによって、下記のように、2次色であるレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)および3次色であるブラック(K)の発色が向上する。
【0094】
まず、レッド(R)を発現させる場合について説明する。この場合には、イエロー(Y)とマゼンタ(M)の加熱パルスを重畳させる。
図15においては、時点p0の加熱パルスがイエロー(Y)成分の発色に寄与し、一方、
図23の比較例においては、時点p0の加熱パルスがイエロー(Y)成分の発色に寄与し、それらのイエロー(Y)成分の発色は同等である。また、
図15において、時点p0,p1の加熱パルスがマゼンタ(M)成分の発色に寄与し、一方、
図23においては、時点p1,p2の加熱パルスがレッド(R)のマゼンタ(M)成分の発色に寄与する。これら両者のマゼンタ(M)成分に寄与する加熱パルスを比較した場合、前者が後者よりもパルス幅(Δt1-Δt2)だけ大きくなり、その分、
図15におけるマゼンタ(M)成分は、
図23におけるマゼンタ(M)成分よりも発色がよい。この結果、本実施形態におけるレッド(R)は、比較例のレッド(R)よりも発色が大きい。
【0095】
次に、グリーン(G)を発現させる場合について説明する。この場合には、イエロー(Y)とシアン(C)の加熱パルスを重畳させる。
図15においては、時点p0の加熱パルスがイエロー(Y)成分の発色に寄与し、一方、
図23の比較例おいては、時点p0の加熱パルスがイエロー(Y)成分の発色に寄与し、それらのイエロー(Y)成分の発色は同等である。また、
図15においては、時点p0~p3の加熱パルスがシアン(C)成分の発色に寄与し、一方、
図23においては、時点p3~p6の加熱パルスがシアン(C)成分の発色に寄与する。これら両者のシアン(C)成分に寄与する加熱パルスを比較した場合、前者が後者よりもパルス幅(Δt1-Δt3)だけ大きくなり、その分、
図15におけるシアン(C)成分は、
図23におけるシアン(C)成分よりも発色がよい。この結果、本実施形態におけるグリーン(G)は、比較例のグリーン(G)よりも発色が大きい。
【0096】
次に、ブルー(B)を発現させる場合について説明する。この場合には、マゼンタ(M)とシアン(C)の加熱パルスを重畳させる。
図15においては、時点p0,p1の加熱パルスがマゼンタ(M)成分の発色に寄与し、一方、
図23の比較例においては、時点p1,p2の加熱パルスがマゼンタ(M)成分の発色に寄与し、それらのマゼンタ(M)成分の発色は同等である。また、
図15においては、時点p0~p3の加熱パルスがシアン(C)成分の発色に寄与し、一方、
図23において、時点p3~p6の加熱パルスがシアン(C)成分の発色に寄与する。これら両者のシアン(C)成分に寄与する加熱パルスを比較した場合、前者が後者よりもパルス幅{(Δt2-Δt3)×2}だけ大きくなり、その分、
図15におけるシアン(C)成分は、
図23におけるシアン(C)成分よりも発色がよい。この結果、本実施形態におけるブルー(B)は、比較例のブルー(B)よりも発色が大きい。
【0097】
次に、ブラック(K)を発現させる場合について説明する。この場合には、イエロー(Y)とマゼンタ(M)とシアン(C)の加熱パルスを重畳させる。
図15においては、時点p0の加熱パルスがイエロー(Y)成分の発色に寄与し、一方、
図23の比較例においては、時点p0の加熱パルスがイエロー(Y)成分の発色に寄与し、それらのイエロー(Y)成分の発色は同等である。また、
図15においては、時点p0,p1の加熱パルスがマゼンタ(M)成分の発色に寄与し、一方、
図23においては、時点p1,p2の加熱パルスがマゼンタ(M)成分の発色に寄与する。これら両者のマゼンタ(M)成分に寄与する加熱パルスを比較した場合、前者が後者よりもパルス幅(Δt1-Δt2)だけ大きくなり、その分、
図15におけるマゼンタ(M)成分は、
図23におけるマゼンタ(M)成分よりも発色がよい。また、
図15においては、時点p0~p3の加熱パルスがシアン(C)成分の発色に寄与し、一方、
図23においては、時点p3~p6の加熱パルスがシアン(C)成分の発色に寄与する。これら両者のシアン(C)成分に寄与する加熱パルスを比較した場合、前者が後者よりもパルス幅{(Δt1+Δt2)-(2×Δt3)}だけ大きくなり、その分、
図15におけるシアン(C)成分は、
図23におけるシアン(C)成分よりも発色がよい。この結果、本実施形態におけるブラック(K)は、比較例のブラック(K)よりも発色が大きい。
【0098】
図23の比較例と
図17の本発明の実施形態とにおいて、このような発現色のR,G,B,Kと加熱時間Δt1、Δt2、Δt3の加熱パルスの数との関係は、下表のとおりである。括弧内の数字は、加熱パルスの数の増減数を表す。
【0099】
【0100】
本実施形態においては、このように加熱パルスの数を削減することにより、プリント速度の高速化および投入電力のピーク値の低減を図ることができる。
【0101】
図16は、このように加熱パルスを重畳させて加熱パルスの印加数を削減した上、奇数番目の発熱素子(Yo、Mo、Co)と偶数番目の発熱素子(Ye、Me、Ce)に対する加熱パルスの印加タイミングをずらした場合の説明図である。本例において、奇数番目および偶数番目の発熱素子は、4パルス分の周期AoおよびAeで繰り返し駆動され、それらに対する加熱パルスの印加タイミングは、半画素分(2/4パルス分)ずれている。
【0102】
図17は、本実施形態の加熱パルスに応じたプリント動作を実現するための画像処理のフローチャートである。
図17における処理は、
図2(b)におけるS15のプリントジョブの実行処理に対応し、プリント装置40のCPU401または画像処理アクセレータ406(
図2(a)参照)によって実行される。
図17におけるS41~S45は、
図7におけるS21~S25と同じであるため、それらの説明は省略する。
【0103】
CPU401または画像処理アクセレータ406は、S46において、奇数番目の発熱素子用の加熱パルスを重畳させる。結果的に、時点p0における加熱パルスのパルス幅は、パルス幅yo,mo,およびcoの少なくとも1つとなり、最大は、それらのパルス幅yo,mo,coの合計となる。また、時点p1における加熱パルスのパルス幅は、パルス幅moおよびcoの少なくとも1つとなり、最大は、それらのパルス幅のmo,coの合計となる。また、時点p2、p3における加熱パルスのパルス幅はパルス幅coとなる。このS46の処理と平行して、CPU401または画像処理アクセレータ406は、S47において、偶数番目の発熱素子用の加熱パルスを重畳させる。結果的に、時点p2における加熱パルスのパルス幅は、パルス幅ye,me,およびceの少なくとも1つとなり、最大は、それらのパルス幅のye,me,ceの合計となる。また、時点p3における加熱パルスのパルス幅はパルス幅meおよびceの少なくとも1つとなり、最大は、それらのパルス幅のme,ceの合計となる。また、時点p4、p5における加熱パルスのパルス幅はパルス幅ceとなる。
【0104】
S45において生成されたパルス幅y,m,cのうち、奇数番目の発熱素子に印加する加熱パルスのパルス幅がyo,mo,coであり、偶数列の発熱素子に印加する加熱パルスのパルス幅がye,me,ceである。本例において、加熱パルスを重畳したときのパルス幅は、デジタル的な演算処理によって算出する。しかし、重畳対象の複数の加熱パルスを入力して、重畳後のパルス幅に対応する加熱パルスを出力するように構成された電気回路を用いることもできる。
【0105】
その後、CPU401または画像処理アクセレータ406は、上記のように重畳された加熱パルスを奇数番目およびの偶数番目の発熱素子に印加する(S48,S49)。本例の場合、
図16のように、最初の1画素に対応する駆動周期Aoにおいて、発熱素子(Co)の3番目の加熱パルスの印加時(時点p2)には、最初の1画素に対応する駆動周期Aeにおける発熱素子(Ye)に加熱パルスが印加される。また、最初の1画素に対応する駆動周期Aeにおいて、発熱素子(Ce)の3番目の加熱パルスの印加時(p4)には、次の1画素に対応する駆動周期Ao(p4~p8)における発熱素子(Yo)に加熱パルスが印加される。そのため、少なくとも搬送方向(y)方向において隣接する2画素分の加熱パルスを予め確定させてから、プリントヘッド30に加熱パルスを印加するように制御する必要がある。
【0106】
その後、CPU401またはアクセレータ406は、プリント媒体10の1ページ分のプリントが完了したか否かを判定し(S50)、その1ページ分のプリントが完了するまでS42~S49の処理を繰り返す。その1ページ分のプリントが終了したときは、
図17の一連の処理を終了する。
【0107】
以上説明したように、本実施形態においては、奇数番目と偶数番目の発熱素子の加熱パルスの印加タイミングを半画素分(2/4パルス分)ずらして発色部の被覆率を高くすると共に、加熱パルスを重ねて発色を高める。これにより、より高画質の画像をプリントすることができる。さらに、加熱パルスの印加数を削減することにより、プリント速度の高速化および投入電力のピーク値の低減を図ることができる。
【0108】
(第6の実施形態)
前述した第5の実施形態においては、第1の実施形態のように複数のグループに分けた発熱素子(奇数番目と偶数番目の発熱素子)に対する駆動パルスの印加タイミングをずらした上、加熱パルスを重畳させた。本発明の第6の実施形態においては、第3の実施形態のように発熱素子の1つの駆動周期内において奇数番目と偶数番目の発熱素子の駆動タイミングを入れ替えた上、加熱パルスを重畳させる。
【0109】
図18は、本実施形態における加熱パルスの説明図である。前述した第3の実施形態における
図9と同様に、
図18における上段の3列(Yo、Mo、Co)は、奇数番目の発熱素子(発熱素子801、803、805)に印加する加熱パルスである。また、下段の3列(Ye、Me、Ce)は、偶数番目の発熱素子(発熱素子802、804、806)に印加する加熱パルスである。奇数番目の発熱素子に対応するイエロー(Yo)、マゼンタ(Mo)、シアン(Co)の加熱パルスは、それらの印加開始時点が同じp0である。一方、偶数番目の発熱素子に対応するシアン(Ce)の加熱パルスの印加開始時点はp0であり、イエロー(Ye)およびマゼンタ(Me)の印加開始時点はp2である。このように発熱素子の1つの駆動周期A内において、奇数番目と偶数番目の発熱素子の駆動タイミングを入れ替える。
【0110】
この結果、発熱素子(Ye)は、発熱素子(Yo)に対して半画素(2/4パルス分)遅れて駆動され、発熱素子(Me)は、発熱素子(Mo)に対して半画素(2/4パルス分)遅れて駆動される。このように、1つの駆動周期A内において、奇数番目と偶数番目の発熱素子の駆動順序がずれているだけであるため、前述した第1の実施形態のように複数画素を関連付ける制御が不要となる。
【0111】
但し、発熱素子(Ce)と発熱素子(Co)とが同じタイミングで駆動される点において、前述した第3の実施形態における
図9の例とは異なる。しかし、比較例の
図25から明らかなように、シアン(C)に関しては被覆率を充分に確保することができるため影響はない。シアン(C)の発色をより高めたい場合には、前述した実施形態のように、シアン(C)に関しても偶数番目と偶数番目の発熱素子の駆動タイミングをずらせばよい。
【0112】
図19は、本実施形態の加熱パルスに応じたプリント動作を実現するための画像処理のフローチャートである。
図19における処理は、
図2(b)におけるS15のプリントジョブの実行処理に対応し、プリント装置40のCPU401または画像処理アクセレータ406(
図2(a)参照)によって実行される。
図19におけるS61~S65は、
図7におけるS21~S25と同じであるため、それらの説明は省略する。
【0113】
CPU401または画像処理アクセレータ406は、S66において、奇数番目の発熱素子用の加熱パルスを互いに重畳させると共に、偶数番目の発熱素子用の加熱パルスを互いに重畳させる。結果的に、奇数番目の発熱素子用の加熱パルスのパルス幅は、時点p0においてはyo,mo,およびcoの少なくとも1つとなり、最大は、それらのパルス幅yo,mo,coの合計となる。また、時点p1における加熱パルスのパルス幅は、パルス幅moおよびcoの少なくとも1つとなり、最大は、それらのパルス幅のmo,coの合計となる。また、時点p2、p3における加熱パルスのパルス幅はパルス幅coとなる。一方、偶数番目の発熱素子用の加熱パルスのパルス幅は、時点p0,p1においてはceとなる。時点p2における加熱パルスのパルス幅は、パルス幅ye,me,およびceの少なくとも1つとなり、最大は、それらのパルス幅のye,me,ceの合計となる。また、時点p3における加熱パルスのパルス幅はパルス幅meおよびceの少なくとも1つとなり、最大は、それらのパルス幅のme,ceの合計となる。S65において生成されたパルス幅y,m,cのうち、奇数番目の発熱素子に印加する加熱パルスのパルス幅がyo,mo,coであり、偶数列の発熱素子に印加する加熱パルスのパルス幅がye,me,ceである。本例において、加熱パルスを重畳したときのパルス幅は、デジタル的な演算処理によって算出する。しかし、重畳対象の複数の加熱パルスを入力して、重畳後のパルス幅に対応する加熱パルスを出力するように構成された電気回路を用いることもできる。
【0114】
その後、CPU401または画像処理アクセレータ406は、上記のように重畳された加熱パルスを奇数番目およびの偶数番目の発熱素子に印加する(S67)。次に、CPU401またはアクセレータ406は、プリント媒体10の1ページ分のプリントが完了したか否かを判定し(S68)、その1ページ分のプリントが完了するまでS62~S67の処理を繰り返す。その1ページ分のプリントが終了したときは、
図10の一連の処理を終了する。
【0115】
以上説明したように、発熱素子の1つの駆動周期内において奇数番目と偶数番目の発熱素子の駆動タイミングを入れ替えると共に、加熱パルスを重ねることにより、複数画素を関連付ける制御が不要とした上、より高画質の画像をプリントすることができる。さらに、加熱パルスの印加数を削減することにより、プリント速度の高速化および投入電力のピーク値の低減を図ることができる。
【0116】
(第7の実施形態)
本実施形態は、前述した第6の実施形態において、さらに、複数の発熱素子を奇数番目と偶数番目の2つのグループよりも多い数のグループに分けて、プリント媒体上における発色部の配置の指向性を制御する。
【0117】
図20は、本実施形態における加熱パルスの説明図である。本例においては、複数の発熱素子を第0~第3の4つのグループG0~G3に分けて駆動制御する。グループG0の発熱抵抗素子に対する加熱パルスをY0、M0、C0とし、グループG1の発熱抵抗素子に対する加熱パルスをY1、M1、C1とする。同様に、グループG2の発熱抵抗素子に対する加熱パルスをY2、M2、C2とし、グループG3の発熱抵抗素子に対する加熱パルスをY3、M3、C3とする。
【0118】
複数の発熱素子は、その並び方向に沿って、グループG0、グループG1、グループG2、グループG3、グループG0、・・・のように4つのグループに分けられる。具体的には、
図3のプリントヘッド30において、発熱素子801がグループG0、発熱素子802がグループG1、発熱素子803がグループG2、発熱素子804がグループG3、発熱素子805がグループG0、発熱素子806がグループG1に分けられる。
【0119】
図21は、プリントヘッド30の発熱素子801~806に、
図20の加熱パルスを印加することによってプリント媒体10に発色させた発色部の説明図である。
図21においては、マゼンタ(M)とイエロー(Y)の発色部のみを示す。
【0120】
画素列251~266のそれぞれにおけるマゼンタ(M)の発色タイミングは、
図20の加熱パルスに基づいて次のように設定される。すなわち、画素列251における発色タイミングはp0,p1、画素列252における発光タイミングはp2,p3、画素列253における発色タイミングはp1,p2となる。また、画素列254における発光タイミングはp1,p2、画素列255における発光タイミングはp0,p1、画素列256における発光タイミングはp2,p3となる。この結果、マゼンタ(M)の発色部の配置は、
図21のように、同図中右上がりの指向性をもつ。
【0121】
画素列251~256のそれぞれにおけるイエロー(Y)の発色タイミングは、次のように設定される。すなわち、画素列251における発色タイミングはp0、画素列252における発光タイミングはp1、画素列253における発光タイミングはp2となる。また、画素列254における発光タイミングはp3、画素列255における発光タイミングはp0、画素列256における発光タイミングはp1となる。この結果、イエロー(Y)の発色部の配置は、
図21のように、同図中右下がりの指向性をもつ。
【0122】
このように、マゼンタの発色部の配置の指向性と、イエローの発色部の配置の指向性と、が異なるため、それらの発色部の位置がプリント媒体10上において若干ずれた場合でも、プリント画像の色味は大きく変化しない。よって、プリント媒体10の搬送速度の変動、およびプリントヘッドの温度のムラ等によって、発色タイミングがずれた場合であっても、安定した色味の画像をプリントすることができる。
【0123】
また、
図20から明らかなように、加熱パルスの重畳によって、イエローおよびマゼンタの加熱パルスの印加タイミング(発光タイミング)の設定に関して自由度が増す。例えば、マゼンタの加熱パルスに関しては、
図20の場合とは異なる発光タイミングとして、画素列251~256における発色タイミングを全てp0,p1としてもよい。このように、イエローの発色部の配置の指向性を別途独立して設定するもできる。
【0124】
また、例えば、マゼンタの発色部の配置に3画素周期の指向性を持たせ、イエローの発色部の配置に4画素周期の指向性を持たせることも可能である。また、マゼンタの発色部の配置に3画素周期の右上がりの指向性を持たせ、イエローの発色部の配置に6画素周期の右上がりの指向性を持たせることも可能である。このように、加熱パルスの重畳を伴うことにより、加熱パルスの印加タイミングを様々に制御することができる。加熱パルスが重畳しない場合には、加熱パルスの印加タイミングを排他的な関係に設定する必要があるため、本例のような印加タイミングの自由な設定はできない。
【0125】
以上、説明したように、加熱パルスを重畳させ、かつ複数の発熱素子を奇数番目と偶数番目の2つのグループよりも多い数のグループに分けて、プリント媒体上における発色部の配置の指向性を制御する。これにより、発色部の位置ズレなどに対するロバスト性を向上させることができる。
【0126】
(第8の実施形態)
前述した第1~第7の実施形態においては、
図3のように発熱素子が直線上に配備されたプリントヘッドを用いた。本発明の第8の実施形態においては、
図22のように、発熱素子901~906がプリント媒体10の搬送方向(y方向)にずらされたプリントヘッド30を用いる。発熱素子901~906に対しては、それらに電力を供給する+側電極911~916と-側電極921~926が接続される。
【0127】
偶数の画素列に対応する発熱素子(偶数番目の発熱素子)902、904、906は、奇数の画素列に対応する発熱素子(奇数番目の発熱素子)901、903、905に対して、搬送方向(y方向)の上流側に略半画素分ずれた位置に配備されている。よって、これらの発熱素子901~906に対して、
図23の比較例の加熱パルスを印加することにより、前述した第1の実施形態の場合と同等の発色部を形成することができる。つまり、
図22中における偶数番目と奇数番目の発熱素子の位置のずれを、前述した第1の実施形態の加熱パルスを印加した際の発色部の位置のずれと同等に設定することによって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0128】
このように本実施形態においては、複数の発熱素子の配置位置を変更することにより、前述した実施形態同様に、発色部の被覆率を高くして高画質の画像をプリントすることができる。また、前述した実施形態同様に、加熱パルスを重畳させることによって、プリント速度の向上、および発色に必要な投入熱量の低減を図ることもできる。さらに、前述した実施形態同様に、複数の発熱素子を多数のグループに分けて、プリント媒体上における発色部の配置の指向性を制御することにより、発色部の位置ズレなどに対するロバスト性を向上させることができる。
【0129】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施例の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0130】
10 プリント媒体
30 プリントヘッド
14,16,18 画像形成層(発色層)
801~806 発熱素子
y 搬送方向(第1の方向)