IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図1
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図2
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図3
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図4
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図5
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図6
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図7
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図8
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図9
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図10
  • 特許-発光素子及び発光素子の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】発光素子及び発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/08 20100101AFI20240109BHJP
   H01L 33/10 20100101ALI20240109BHJP
【FI】
H01L33/08
H01L33/10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019139551
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021022688
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】須賀 貴子
(72)【発明者】
【氏名】内田 武志
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 毅
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-541217(JP,A)
【文献】特開2009-212308(JP,A)
【文献】特開2003-347585(JP,A)
【文献】特表2012-521644(JP,A)
【文献】特開平11-274558(JP,A)
【文献】特開2019-153783(JP,A)
【文献】特表2017-513225(JP,A)
【文献】特表2011-501408(JP,A)
【文献】特表2009-527125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0158352(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
G09F 9/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流が注入されることにより、第1の波長の光である青色の光を発する第1の活性層と、
前記第1の波長の光を吸収することにより、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光である緑色の光を発する第2の活性層と、
前記第1の波長の光の反射率が前記第2の波長の光の反射率よりも高い第1の反射鏡と、
を有し、
前記第1の反射鏡は、前記第1の活性層及び前記第2の活性層よりも、前記第1の活性層又は前記第2の活性層で発せられた光を外部に射出する射出端に近い位置に配されており、
平面視において、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域及び前記第2の領域の各々には、前記第1の活性層及び前記第2の活性層が配されており、
前記第1の領域では、前記第1の波長の光の射出光量は前記第2の波長の光の射出光量よりも多く、
前記第2の領域では、前記第2の波長の光の射出光量は前記第1の波長の光の射出光量よりも多い
ことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
電流が注入されることにより、第1の波長の光である青色の光を発する第1の活性層と、
前記第1の波長の光を吸収することにより、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光である緑色の光を発する第2の活性層と、
前記第1の波長の光の反射率が前記第2の波長の光の反射率よりも高い第1の反射鏡と、
を有し、
前記第1の反射鏡は、前記第1の活性層及び前記第2の活性層よりも、前記第1の活性層又は前記第2の活性層で発せられた光を外部に射出する射出端に近い位置において、部分的に配されており、
平面視において、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域及び前記第2の領域の各々には、前記第1の活性層及び前記第2の活性層が配されており、
前記第1の領域では、前記第1の波長の光の射出光量は前記第2の波長の光の射出光量よりも多く、
前記第2の領域では、前記第2の波長の光の射出光量は前記第1の波長の光の射出光量よりも多い
ことを特徴とする発光素子。
【請求項3】
前記第1の活性層は、前記第2の活性層よりも前記射出端に近い位置に配されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第1の波長の光の反射率が前記第2の波長の光の反射率よりも高い第2の反射鏡を更に有し、
前記第2の反射鏡は、前記第1の活性層及び前記第2の活性層に対して、前記第1の反射鏡とは反対側に配されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記第1の反射鏡及び前記第2の反射鏡は、前記第1の波長の光に対する共振器を構成する
ことを特徴とする請求項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第2の活性層における前記第1の波長の光の吸収率が、3%以上かつ7%以下である
ことを特徴とする請求項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記第2の活性層における前記第1の波長の光の吸収率が、4%以上かつ6%以下である
ことを特徴とする請求項又はに記載の発光素子。
【請求項8】
前記第1の活性層は、第1の導電型の半導体層と、前記第1の導電型とは反対の第2の導電型の半導体層とにより挟まれている
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項9】
前記第2の活性層は、前記第1の導電型又はi型の半導体層と、前記第1の導電型の半導体層とにより挟まれている
ことを特徴とする請求項に記載の発光素子。
【請求項10】
基板を更に有し、
前記第1の活性層と、前記第2の活性層と、前記第1の反射鏡とは、前記基板の上に積層されており、
前記第1の活性層及び前記第2の活性層のうちの前記基板から遠い方と前記基板との間に配されている半導体層にはp型のドーパントがドーピングされていない
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項11】
前記平面視において、前記第2の領域には前記第1の反射鏡が配されており、前記第1の領域には前記第1の反射鏡が配されていない
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項12】
前記第2の波長の光の反射率が前記第1の波長の光の反射率よりも高い第3の反射鏡を更に有し、
前記平面視において、前記第1の領域には前記第3の反射鏡が配されている
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項13】
前記平面視において、前記第1の波長及び前記第2の波長とは異なる第3の波長の光を射出する第3の領域を更に有し、
前記第3の領域では、前記第3の波長の光の射出光量は前記第1の波長の光の射出光量及び前記第2の波長の光の射出光量よりも多い
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項14】
前記第3の領域において、前記第3の波長の光を発する第3の活性層を更に有し、
前記第3の活性層は、前記第1の活性層よりも前記射出端に近い位置に配されている
ことを特徴とする請求項13に記載の発光素子。
【請求項15】
記第3の波長の光は赤色の光であることを特徴とする請求項13又は14に記載の発光素子。
【請求項16】
前記第1の反射鏡は、屈折率の異なる複数の誘電体層を含む分布ブラッグ反射鏡である
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項17】
第1の波長の光である青色の光を吸収することにより、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光である緑色の光を発する第2の活性層を形成するステップと、
電流が注入されることにより、前記第1の波長の光を発する第1の活性層を形成するステップと、
前記第1の波長の光の反射率が前記第2の波長の光の反射率よりも高い第1の反射鏡を形成するステップと、
を有する発光素子の製造方法であって、
前記第1の反射鏡は、前記第1の活性層及び前記第2の活性層よりも、前記第1の活性層又は前記第2の活性層で発せられた光を外部に射出する射出端に近い位置に配されており、
前記発光素子は、平面視において、第1の領域及び第2の領域を有し、
前記第1の領域及び前記第2の領域の各々には、前記第1の活性層及び前記第2の活性層が配されており、
前記第1の領域では、前記第1の波長の光の射出光量は前記第2の波長の光の射出光量よりも多く、
前記第2の領域では、前記第2の波長の光の射出光量は前記第1の波長の光の射出光量よりも多い
ことを特徴とする発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子及び発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、異なる波長の光を発する複数の発光素子を同一のウエハ上に形成する技術が開示されている。この技術では、必要な部分以外にマスクを形成してから各波長用の活性層を形成する処理を複数回繰り返すことで、異なる波長の光を発する複数の発光領域を隣接して形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-70893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような同一基板に対して活性層の成長を複数回行う方式では、基板を結晶成長装置に入れて各波長用の活性層を成長させる処理を複数回繰り返して行う必要がある。この場合に、次のような課題が生じ得る。
【0005】
まず、活性層の成長時には、成長面を原子レベルで清浄にする必要がある。表面の清浄性は歩留り及び活性層品質に大きく影響するため、活性層の成長を複数回行うことは、歩留りの悪化及び歩留りの不安定性の要因となり得る。
【0006】
また、活性層の成長工程は、発光素子の製造コストに対して大きな割合を占めている。活性層の成長を複数回行う場合には、結晶成長装置への基板の設置、成長温度への昇温等を含む処理時間が成長工程ごとに必要となるため、製造コストが大幅に増大する。
【0007】
以上のように、活性層の成長を複数回行う方式においては、活性層の品質を保ちつつ、歩留り及び安定性を向上させ、更に製造コストを低減することが課題となり得る。そこで、本発明は、より簡略な工程で製造可能な発光素子及び発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、電流が注入されることにより、第1の波長の光を発する第1の活性層と、前記第1の波長の光を吸収することにより、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光を発する第2の活性層と、前記第1の波長の光の反射率が前記第2の波長の光の反射率よりも高い第1の反射鏡と、を有し、前記第1の反射鏡は、前記第1の活性層及び前記第2の活性層よりも、前記第1の活性層又は前記第2の活性層で発せられた光を外部に射出する射出端に近い位置に配されていることを特徴とする発光素子が提供される。
【0009】
本発明の他の一観点によれば、第1の波長の光を吸収することにより、前記第1の波長とは異なる第2の波長の光を発する第2の活性層を形成するステップと、電流が注入されることにより、前記第1の波長の光を発する第1の活性層を形成するステップと、前記第1の波長の光の反射率が前記第2の波長の光の反射率よりも高い第1の反射鏡を形成するステップと、を有し、前記第1の反射鏡は、前記第1の活性層及び前記第2の活性層よりも、前記第1の活性層又は前記第2の活性層で発せられた光を外部に射出する射出端に近い位置に配されていることを特徴とする発光素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡略な工程で製造可能な発光素子及び発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
図2】第2実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
図3】第2実施形態のシミュレーションに用いた発光素子のモデルを示す断面図及びシミュレーション結果を表すグラフである。
図4】第2実施形態のシミュレーションに用いた分布ブラッグ反射鏡の反射率特性を表すグラフである。
図5】緑色量子井戸活性層の吸収率を変化させたときの発光割合のシミュレーション結果を表すグラフである。
図6】第3実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
図7】第4実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
図8】第5実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
図9】第6実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
図10】第7実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
図11】第7実施形態に係る転写基板の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、複数の図面にわたって同一の要素又は対応する要素には共通の符号が付されており、その説明は省略又は簡略化されることがある。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。図1に示されるように、本実施形態の発光素子は、基板100の上に、第1の半導体層101、第2の活性層102、第2の半導体層103、第1の活性層104、第3の半導体層105及び第1の反射鏡106がこの順に配された積層構造を有する。これらの各層はエピタキシャル成長により形成され得る。また、本実施形態の発光素子は、第2の半導体層103の上に配された第1の電極107と、第3の半導体層105の上に配された第2の電極108とを有する。
【0014】
第1の活性層104は、電流が注入されたときに、第1の波長がメインピークとなる波長分布を有する光を発する。なお、本明細書において、「第1の波長がメインピークとなる波長分布を有する光」は、単に「第1の波長の光」と記載されることもある。第2の活性層102は、第1の波長の光を吸収したときに、光励起によって第1の波長とは異なる第2の波長の光を発する。第1の波長の光は、例えば、450nm程度の波長の青色の光であり得る。第2の波長の光は、例えば、525nm程度の波長の緑色の光であり得る。
【0015】
第1の活性層104及び第2の活性層102は、単層の材料により構成されていてもよく、量子井戸層とバリア層とが交互に複数組積層された多重量子井戸構造により構成されていてもよい。基板の種類に応じて、活性層、量子井戸層及びバリア層の材料、組成、厚さ、ペア数等を適宜設定して所望のバンドギャップとなるように設計することにより、所望の波長の光を発する発光素子を実現することができる。一例として、基板100の材料がサファイアであり、活性層の材料がInGaNである場合には、Inの割合を変えることにより、中心発光波長を変化させることができる。Inの割合を増加させるほど、中心発光波長が長くなる。
【0016】
一例として、第1の半導体層101は、n型又はi型であり、第2の半導体層103はn型であり、第3の半導体層105はp型である。言い換えると、第1の活性層104は、第1の導電型(n型)の半導体層と、第1の導電型とは反対の第2の導電型(p型)の半導体層とにより挟まれている。第2の活性層102は、第1の導電型又はi型の半導体層と、第1の導電型の半導体層とにより挟まれている。なお、基板100の導電型は、n型、p型及びi型のいずれであってもよい。
【0017】
なお、本明細書においてi型の半導体層とは、ノンドープ(アンドープ)の半導体層を指す。ノンドープとは、半導体層の成長中に、導電型を制御するためのドーパントを意図的にドープしていないものと、p型とn型のドーパントをほぼ同数ドーピングしたものとの両方を含み得る。i型の半導体層におけるキャリア濃度は、1×1016cm-3以下であることが望ましい。
【0018】
各半導体層がIII族窒化物半導体であるGaN、AlGaN系材料で構成されている場合には、Si、Ge等がn型用のドーパントとして用いられ、Mg、Zn等がp型用のドーパントとして用いられる。各半導体層がIII-V族半導体であるAlGaAs系材料で構成されている場合には、II族元素(Mg、Zn等)がp型用の、VI族元素(Se等)がn型用の、IV族元素(C、Si等)がp型又はn型用のドーパントとして用いられる。
【0019】
本実施形態の発光素子においては、光を外部に射出する射出端は、基板100とは反対側であり、すなわち、図1の上側である。第1の反射鏡106は、発光素子の射出端側に配される。言い換えると、第1の反射鏡106の上面が発光素子の射出端である。第1の反射鏡106は、第1の波長の光の反射率が第2の波長の光の反射率よりも高くなるように設計されている。
【0020】
第1の反射鏡106は、例えば、分布ブラッグ反射鏡である。以下では、分布ブラッグ反射鏡を、DBR(Distributed Bragg Reflector)と呼ぶ。DBRは、屈折率の異なる2つの薄膜をいずれも1/4波長の光学膜厚となるように交互に周期的に形成した構造の反射鏡である。第1の反射鏡106は、エピタキシャル成長により形成された複数の半導体層であってもよく、複数の誘電体層であってもよい。この2種の構成の中では、複数の誘電体層を用いた構成の方が、2つの薄膜の屈折率差を大きくできるため、少ないペア数で高い反射率を実現することができるため好適である。
【0021】
第1の電極107及び第2の電極108には、第1の活性層104に電流を注入できるように異なる電位が与えられる。第1の活性層104に電流が注入されると、第1の活性層104は、第1の波長の光を発する。第1の活性層104から発せられた第1の波長の光のうち、下方に射出された成分は、第2の活性層102に直接入射される。第1の活性層104から発せられた第1の波長の光のうち、上方に射出された成分の一部は、第1の反射鏡106により反射され、第2の活性層102に入射される。ここで、第1の反射鏡106の反射率は、第1の波長の光に対しては高く設計されているので、第1の反射鏡106を透過する第1の波長の光は少ない。そのため、第1の波長の光の多くは第2の活性層102に入射される。
【0022】
第2の活性層102は、第1の波長の光を吸収して、光励起により第2の波長の光を発する。第2の波長の光の一部は、第1の反射鏡106により反射されて基板100側へ戻る。しかしながら、第2の波長の光に対する第1の反射鏡106の反射率は、第1の波長の光に対する反射率よりも低く設計されているため、第2の波長の光の多くは、第1の反射鏡106を透過して、基板100に対して垂直方向(図1の上側)に射出される。これにより、本実施形態の発光素子は、第2の波長の光を選択的に外部に射出することができる。
【0023】
本実施形態の発光素子は、第1の活性層104、第2の活性層102及び第1の反射鏡106を用いることにより、第1の波長の光を第2の波長の光に変換して、選択的に外部に射出することができる。第1の反射鏡106を配することにより、第1の活性層104と第2の活性層102とが厚さ方向に積層された状態で上述の効果が得られるため、第1の活性層104と第2の活性層102との形成の間にパターニングを行うことを要しない。したがって、本実施形態によれば、簡略な工程で複数の活性層の形成を行うことができる発光素子が提供される。
【0024】
本実施形態の発光素子は、例えば、ディスプレイの画素に用いられる。本実施形態の発光素子を数十~数百μm程度の大きさで作製し、これを複数の行及び複数の列をなすように配列することでディスプレイの表示面を形成することができる。このように無機化合物半導体のLED(Light Emitting Diode)を用いたディスプレイはμLEDディスプレイと呼ばれることもある。μLEDディスプレイは、液晶ディスプレイ、有機LEDディスプレイと比較して、寿命、輝度等の面で優位性がある。本実施形態の発光素子をμLEDディスプレイに用いた場合の効果について説明する。
【0025】
μLEDディスプレイの製造方法の一例としては、青色、緑色、赤色等の色ごとに作製された発光素子をディスプレイの基板上に実装する方式が挙げられる。この方式では多数の発光素子を実装する必要があるため実装コストが大きい点が課題となり得る。そこで、実装コスト低減のため、複数の色の発光素子を同一のウエハに形成することにより、複数の発光素子を一括して実装できるようにすることが望ましい。
【0026】
複数の発光素子を同一のウエハに形成するためには、同一のウエハに発光波長の異なる複数の活性層を形成する必要がある。特許文献1に記載されているような複数の活性層の形成の間にマスクの形成を行う手法では、製造工程が複雑化して製造コストが増大する。その理由は以下のとおりである。化合物半導体を用いた発光素子の製造工程においては、エピタキシャル成長によって活性層等の半導体層の形成が行われる。複数の活性層の形成の間にマスクの形成を行う工程フローでは、各層のエピタキシャル成長を一括して行うことができず、エピタキシャル成長の処理を複数回に分けて行う必要が生じる。エピタキシャル成長の処理は、結晶成長装置への基板の設置、成長温度への昇温等の時間のかかる工程を含む。エピタキシャル成長の処理を複数回に分けて行うと、この工程数が処理回数に比例して増大するため、製造コストが増大する。
【0027】
これに対し、本実施形態の発光素子は、第1の活性層104と第2の活性層102とが厚さ方向に積層された状態で波長変換を行うことができる構造を有している。そのため、第1の活性層104と第2の活性層102との形成の間にパターニングを行うことを要しない。したがって、仮に2色の発光素子を同一のウエハに形成した場合であっても2つの活性層を連続的にエピタキシャル成長により形成することができる。したがって、本実施形態の発光素子を用いたμLEDディスプレイの製造においては、簡略な工程で複数の活性層の形成を行うことができるため、コストを低減することができる。
【0028】
また、2つの活性層を連続的にエピタキシャル成長により形成することで、結晶成長装置からの取出し等に起因する表面汚染が低減される。したがって、本実施形態の発光素子の製造においては、成長面の清浄性が維持されるため、歩留まりの向上、製造工程の安定化及び活性層の品質向上の効果も得られる。
【0029】
以上、本実施形態の発光素子がμLEDディスプレイ用の画素として好適に用いられ得る理由及びその効果について述べたが、これは後述の他の実施形態においても同様である。しかしながら、本実施形態及び他の実施形態の発光素子の用途はこれに限定されるものではなく、照明装置等、ディスプレイ以外の用途に適用されてもよい。
【0030】
なお、本実施形態では、射出端が図1における上側(基板100と反対側)である構成を例示しているが、射出端は、基板100の側であってもよい。射出端が基板100の側である場合には、基板100における光の吸収率が低くなるように構造又は材料を設計することが望ましい。具体的な設計の例としては、射出させる光の波長に対して吸収率の低い材料を基板100に用いる、あるいは、基板100の厚さを十分に薄くする等が挙げられる。
【0031】
本実施形態では、第1の活性層104が第2の活性層102よりも射出端に近い側に配されているが、第1の活性層104と第2の活性層102とを積層する順序は、逆であってもよい。なお、第1の活性層104と第2の活性層102との順序を入れ替える場合には、第1の電極107と第2の電極108の位置を第1の活性層104に電流が注入されるように適宜変更する必要がある。
【0032】
しかしながら、図1に示されているように、第1の活性層104は、第2の活性層102よりも射出端に近い位置に配されていることが望ましい。言い換えると、第2の活性層102は、第1の活性層104と基板100との間に配されていることが望ましい。この構成では、第1の活性層104と第2の活性層102とが逆に配置されている場合と比較して、電流注入用の第1の電極107が配されるコンタクトホールを浅くすることができ、エッチング量を少なくすることができる利点がある。
【0033】
第1の活性層104又は第2の活性層102と、基板100との間にある半導体層に対しては、p型のドーパントがドーピングされていないことが望ましい。半導体層にp型のドーパントをドーピングすると、その半導体層の結晶品質が低下することがある。その半導体層の上に活性層を成長させると、半導体層の結晶品質が低いことに起因して活性層の品質も低下することがある。特に活性層がGaN系材料である場合には、活性層の品質が発光特性に及ぼす影響が大きいため、活性層の下にp型ドーパントをドーピングしないことにより、発光特性が向上し得る。
【0034】
より具体的には、第1の半導体層101と第2の活性層102は、p型のドーパントがドーピングされていないn型又はi型であり、第2の半導体層103は、p型のドーパントがドーピングされていないn型とする。これにより、第1の活性層104及び第2の活性層102のいずれに対しても、p型のドーパントに起因する活性層の品質の低下を軽減することができ、発光特性が向上する。
【0035】
[第2実施形態]
本実施形態の発光素子が第1実施形態の発光素子と相違する点は、第2の反射鏡201が更に設けられている点である。図2は、本実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。第1の半導体層101は、第2の反射鏡201を含んでいる。第2の反射鏡201は、第1の活性層104及び第2の活性層102に対して、第1の反射鏡106とは反対側に配されている。第2の反射鏡201は、第1の反射鏡106と同様に、第1の波長の光に対する反射率が第2の波長の光に対する反射率よりも高くなるように設計されている。
【0036】
第2の反射鏡201は、例えばDBRである。この場合、第2の反射鏡201は、屈折率の異なる2種類の半導体層が交互に積層された構成のDBRであり得る。DBRを構成する異なる2種類の半導体層の例としては、AlGaN、InGaN等が挙げられる。
【0037】
第1の活性層104から発せられた第1の波長の光は、図2における上方向と下方向の両方に射出される。第1の活性層104から下方向に射出された第1の波長の光の一部は、第2の活性層102により吸収される。このとき、第2の活性層102は、光励起により、第2の波長の光を発する。下方向に射出された第1の波長の光の他の一部は、第2の活性層102で吸収されずに透過する。第2の活性層102を透過した第1の波長の光は、第2の反射鏡201により反射されて第2の活性層102に再び入射され、第2の波長の光を励起する。一方、第1の活性層104から上方向に出射された第1の波長の光は、第1実施形態で述べたものと同様に、第1の反射鏡106より反射され、第2の活性層102に入射され、第2の波長の光を励起する。
【0038】
このように、本実施形態では、第2の反射鏡201が、第1の活性層104及び第2の活性層102に対して、第1の反射鏡106とは反対側に配されている。この構成によれば、第1の活性層104から下方に射出され第2の活性層102を透過した第1の波長の光を再び第2の活性層102に戻すことができるため、第1の波長の光から第2の波長の光への変換効率を向上させることができる。したがって、第2の波長の光の発光効率が向上する。また、第1の波長の光の漏出を少なくすることができる。
【0039】
ここで、第1の反射鏡106と第2の反射鏡201は、第1の波長に対する共振器を構成するように、各層の膜厚等が設定されていることが望ましい。具体的には、第1の反射鏡106と第2の反射鏡201との間を伝搬する光の往復の長さが、第1の波長の半分の整数倍となるように、各層の膜厚が設定されていればよい。これにより、第1の波長の光から第2の波長の光への変換効率を更に向上させることができる。
【0040】
第1の反射鏡106と第2の反射鏡201とが共振器を構成している場合の、シミュレーションの結果を示しつつ、本実施形態の効果をより詳細に説明する。まず、図3(a)及び図3(b)を参照して、発光素子のシミュレーションモデルの層構造について説明する。
【0041】
図3(a)に示す発光素子300aは、本実施形態に対応する構成のシミュレーションに用いたモデルを示す断面図である。発光素子300aは、GaNの基板100上に、GaN/AlInN半導体DBR301(10ペア)、GaNで構成される1λ共振器310、その上にSiO/SiN誘電体DBR306(6ペア)がこの順に配された積層構造を有する。1λ共振器310は、青色量子井戸活性層304(発光波長450nm)及び緑色量子井戸活性層302(発光波長525nm)が含まれている。1λ共振器310は、これらの2つの活性層の層厚も含めて光学膜厚が1λ(1波長)となるように構成されている。各DBR及び1λ共振器310の設計波長は、青色量子井戸活性層304の発光波長と同じ450nmである。緑色量子井戸活性層302における波長450nmの光の吸収率は、波長450nmの光が片方の面からもう片方の面に透過した際に5.8%吸収されるように設計されている。この設計は量子井戸の数の調整によりなされ得る。
【0042】
これに対し、図3(b)に示す発光素子300bは、本実施形態に対する比較例のシミュレーションに用いたモデルを示す断面図である。発光素子300bは、発光素子300aの構成からSiO/SiN誘電体DBR306を除外したものであり、共振器を構成しないモデルとなっている。
【0043】
図3(c)は、半導体層の積層面に対して垂直方向に光が入射したときの緑色量子井戸活性層302における吸収率のシミュレーション結果を示すグラフである。図3(c)の縦軸は緑色量子井戸活性層302における吸収率であり、横軸は入射された光の波長である。図3(c)は、発光素子300aのモデル(すなわち、SiO/SiN誘電体DBR306がある場合)によるシミュレーション結果を示している。また、発光素子300bのモデルによる比較例のシミュレーションでは、波長450nmの光に対する吸収率は、0.044であった。
【0044】
図4は、シミュレーションに用いたSiO/SiN誘電体DBR306の反射率特性と、GaN/AlInN半導体DBR301の反射率特性とを示すグラフである。図4の縦軸は反射率であり、横軸は入射光の波長である。図4の実線はSiO/SiN誘電体DBR306の反射率特性を示しており、破線はGaN/AlInN半導体DBR301の反射率特性を示している。SiO/SiN誘電体DBR306において、波長450nmにおける反射率は0.96であり、高い値を示している。これに対し、波長525nmにおける反射率は0.4以下であり、低い値を示している。GaN/AlInN半導体DBR301についても、SiO/SiN誘電体DBR306ほど顕著ではないが同様の傾向が見られる。なお、図4の反射率特性は、光学シミュレーションにより得られたものである。
【0045】
以上より理解されるように、緑色量子井戸活性層302における、波長450nmの光の吸収率は、SiO/SiN誘電体DBR306を設けることにより、およそ10倍になる。したがって、2つの反射鏡により共振器構造を構成することにより、第1の波長(450nm)の光の吸収効率を向上させることができ、第2の波長(525nm)の光の発光効率を向上させることができることがわかる。また、SiO/SiN誘電体DBR306は、第1の波長において高い反射率を有し、第2の波長において低い反射率を有するので、第1の波長の光の漏出を少なくすることができる。
【0046】
このように、活性層を加工することなく、DBRを設けるのみで、第1の波長の光の吸収効率を向上させることができ、簡略な工程で、第2の波長の光の発光効率を向上させることができる。
【0047】
また、上層にSiO/SiN誘電体DBR306を形成するか否かにより、第2の波長の光の発光強度を変化させることができる。すなわち、ウエハ面内の所望の場所にSiO/SiN誘電体DBR306を形成することにより、その下の半導体層に対して加工等をすることなく、第2の波長の光を選択的に射出する箇所を設けることができる。したがって、簡略な工程で第2の波長の光を選択的に射出する箇所を形成することができる。
【0048】
なお、上述のシミュレーションにおいては光が積層面に対して垂直方向に伝搬することを前提としたものである。しかしながら、斜め方向に伝搬する光に対しても、共振波長の違いは生じるものの、同様の効果を得ることができる。
【0049】
図5(a)及び図5(b)は、緑色量子井戸活性層302の光吸収率を変化させた場合の発光割合のシミュレーション結果を示すグラフである。本シミュレーションに用いた発光素子の構成、特性は、図3(a)から図3(c)及び図4に示したものと同一である。
【0050】
図5(a)及び図5(b)の横軸は、緑色量子井戸活性層302において、波長450nmの光が片方の面からもう片方の面に透過した際の吸収率を示している。縦軸は、青色量子井戸活性層304又は緑色量子井戸活性層302の各活性層から上方への発光割合を示す。図5(a)及び図5(b)において、実線は緑色量子井戸活性層302からの発光割合を示しており、破線は青色量子井戸活性層304からの発光割合を示している。
【0051】
発光割合の算出にあたり、シミュレーションでは、青色量子井戸活性層304からの発光量が1であるものとしている。また、青色の光が緑色量子井戸活性層で吸収された場合には、その光は緑色の光に100%変換されるものとしている。
【0052】
図5(a)は、緑色と青色の光量比が1対1の状態で発光素子が使用される場合を想定した場合を示しているグラフである。図5(b)は、緑色と青色の光量比が1対3の状態で発光素子が使用される場合を想定した場合を示しているグラフである。すなわち、図5(b)は、緑色の光量の発光割合の値を3倍にして示したものである。
【0053】
図5(a)より、本実施形態の発光素子が、緑色と青色の輝度比が1対1の状態で使用される場合には、緑色量子井戸活性層302の吸収率が35%程度に調整されていることが好ましい。
【0054】
緑色の発光割合が不足している場合の調整の例としては、各画素への注入電流量を調整することで発光割合を調整するという手法が挙げられる。例えば、本実施形態の場合であれば、緑色画素への注入電流量を、青色画素への注入電流量よりも多くすることで緑色の発光割合を増加させることが可能である。また、DBRの反射率を変えることで、各画素の発光割合を調整することもできる。例えば、緑色に対応する波長の反射率を下げるようにSiO/SiN誘電体DBR306を構成することで、緑色の発光割合を増加させることが可能である。
【0055】
ところで、本実施形態の発光素子がディスプレイ、照明等のユーザの視感度を考慮した調整を行うことがある装置に用いられる場合、緑色と青色との間の視感度の相違を考慮して両者の輝度を異ならせる場合がある。緑色と青色の光量比が1対3の状態で使用される場合には、図5(b)より、緑色量子井戸活性層302の吸収率が3%以上7%以下(許容偏差が約±30%の場合)とすることで上述の光量比が実現される。また、4%以上6%以下(許容偏差が約±10%の場合)とすることでより好適に上述の光量比が実現される。
【0056】
上述の例はあくまでも本実施形態の発光素子の使用方法の一例である。反射鏡の反射率、励起光から励起される光の変換効率、各色の輝度比、混色率の低減度合等に応じて、緑色量子井戸活性層302の吸収率の設計は適宜変更され得るため、上述の例とは異なる設計が行われる場合もある。例えば、反射鏡の反射率の波長依存性が今回のシミュレーションに用いた図4に示したものとは異なる場合には、適切な吸収率は変化する。誘電体DBRの設計を変えて緑色の波長である525nmにおける反射率を下げることにより、緑色の発光割合を増加させた場合には、適切な吸収率の範囲は上述の値よりも低い範囲に変更される。
【0057】
本実施形態では、2つの異なる波長の光(例えば青色と緑色)を生成するにあたり、光フィルタのような一部の光を除去する手法ではなく、発光量そのものを変えている。例えば、本実施形態では、緑色の波長の光において、共振器構造を導入することにより、吸収効率を約10倍向上させることができる。そのため、より効率的な発光が可能な発光素子が提供される。
【0058】
[第3実施形態]
本実施形態の発光素子は、第1実施形態又は第2実施形態の発光素子を含んでおり、同一のウエハに形成された2つの発光領域から、互いに異なる2つの波長の光を射出することができるように構成されている。図6(a)は、本実施形態に係る発光素子の第1の構成例を模式的に示す断面図である。
【0059】
図6(a)に示されるように、本実施形態の発光素子は、基板100に対して垂直な方向からの平面視において、第1の領域501と第2の領域502を有する。第1の領域501は、主として第1の波長の光を外部に射出する。第2の領域502は、主として第2の波長の光を外部に射出する。第1の領域501と第2の領域502は同一のウエハに形成されている。第2の領域502の第3の半導体層105の上には、第1の反射鏡106が配されている。第1の領域501の第3の半導体層105の上には、第1の反射鏡106が配されていない。
【0060】
第2の領域502の構造は、第1実施形態の図1の構造と同様である。すなわち、第2の領域502には、第1の波長の光の反射率が高い第1の反射鏡106が設けられている。第1の電極107と第2の電極108とにより第1の活性層104に電流が注入されると、第1の活性層104は、第1の波長の光を発する。第1の波長の光により、第2の活性層102が励起され、第2の活性層102は第2の波長の光を発する。また、第1の反射鏡106は、第1の波長の光に対しては高い反射率を有する。そのため、第2の領域502からは主として第2の波長の光が射出される。
【0061】
第1の領域501の近傍には、第1の領域501内の第1の活性層104に電流を注入するための電極として、第3の電極503が第3の半導体層105の上に配されている。第1の電極107と第3の電極503とにより第1の活性層104に電流が注入されると、第1の領域501の第1の活性層104は、第1の波長の光を発する。第1の電極107は、第1の領域501の第1の活性層104と第2の領域502の第1の活性層104とに電流を供給する共通の電極である。これに対し、第2の電極108と第3の電極503は互いに独立に配されている。そのため、本実施形態の発光素子は、第1の領域501の第1の活性層104と第2の領域502の第1の活性層104とに独立に電流が供給され得る構造である。したがって、第1の領域501と第2の領域502は、異なる波長の光を独立に射出することができる。
【0062】
本実施形態に係る発光素子の別の構成例を説明する。図6(b)は、本実施形態に係る発光素子の第2の構成例を模式的に示す断面図である。本構成例では、第2実施形態と同様に、第1の半導体層101が第2の反射鏡201を含んでいる。第2の反射鏡201は、少なくとも第1の波長の光に対して高い反射率を有するように設計されている。
【0063】
このような構成とすることにより、第2実施形態と同様の理由により、第2の領域502において第2の波長の光の発光効率が向上する。また、第1の領域501においても、第1の活性層104から下方向に射出された第1の波長の光は、第2の反射鏡201により反射され、上方向に戻される。これにより、第1の領域501においても第1の波長の光の発光効率が向上する。以上のように、本構成例においては、第1の構成例と同様の効果が得られることに加え、更に発光効率が向上され得る。
【0064】
なお、第2の反射鏡201は、第2の波長の光に対しても高い反射率を有するように設計されていてもよい。この場合、第2の領域502において、第2の活性層102から下方向に射出された第2の波長の光も、第2の反射鏡201により反射され、上方向に戻される。これにより、第2の領域502における第2の波長の光の発光効率が更に向上する。
【0065】
本実施形態に係る発光素子の更に別の構成例を説明する。図6(c)は、本実施形態に係る発光素子の第3の構成例を模式的に示す断面図である。本構成例は、第1の領域501から射出される光に含まれる第2の波長の成分を低減させるための構成の1つである。
【0066】
本構成例において、第1の領域501の第3の半導体層105の上には、第3の反射鏡504が配されている。第3の反射鏡504の第2の波長の光に対する反射率は、第1の波長の光に対する反射率よりも高い。これ以外の構成は第1の構成例と同様である。第1の電極107及び第3の電極503から第1の領域501の第1の活性層104に電流が注入されると、第1の活性層104は第1の波長の光を発する。第1の波長の光が第2の活性層102に吸収されると、第2の活性層102は、第2の波長の光を発する。第2の波長の光は第3の反射鏡504により反射されるため、第1の領域501から射出される光に含まれる第2の波長の成分は低減される。したがって、第1の領域501から射出される光に含まれる第1の波長の割合が増加し、第2の波長の割合は低減するため、第1の波長の光と第2の波長の光の混色が低減される。
【0067】
以上のように、本実施形態の第1乃至第3の構成例によれば、互いに異なる波長の光を射出する第1の領域501と第2の領域502とを同一ウエハ上に形成することができる。この構造では、射出される光の波長を変えるための構造は、第3の半導体層105の上に配された第1の反射鏡106である。そのため、ウエハ面内の所望の場所に第1の反射鏡106を形成することにより、その下の半導体層に対して加工等をすることなく、互いに異なる波長の光を射出する第1の領域501と第2の領域502とを形成することができる。したがって、簡略な工程で2つの波長の光を個別に射出することができる発光素子を形成することができる。
【0068】
[第4実施形態]
本実施形態の発光素子は、第3実施形態の発光領域の個数を2つから3つに変形したものである。すなわち、本実施形態の発光素子は、同一のウエハに形成された3つの発光領域から、互いに異なる3つの波長の光を射出することができるように構成されている。図7は、本実施形態に係る発光素子の構成例を模式的に示す断面図である。
【0069】
本実施形態の発光素子は、第3実施形態の第2の構成例(図6(b))の素子構造に加え、主として第3の波長の光を外部に射出する第3の領域601を有する。また、本実施形態では、第1の領域501の第3の半導体層105の上に、第3実施形態の第3の構成例(図6(c))と同様に第3の反射鏡504が配されている。
【0070】
第3の領域601において、第3の半導体層105から下方の断面構造は第1の領域501及び第2の領域502と同様である。第3の領域601において、第3の半導体層105の上には、第4の半導体層604、第3の活性層602及び第5の半導体層605がこの順に配される。
【0071】
第3の領域601の近傍には、第3の領域601内の第1の活性層104に電流を注入するための電極として、第4の電極603が第3の半導体層105の上に配されている。第1の電極107と第4の電極603とにより第1の活性層104に電流が注入されると、第3の領域601の第1の活性層104は、第1の波長の光を発する。第1の波長の光により、第3の活性層602が励起され、第3の活性層602は第3の波長の光を発する。第3の波長の光は、例えば、630nm程度の波長の赤色の光であり得る。
【0072】
本実施形態によれば、互いに異なる波長の光を射出する第1の領域501と第2の領域502と第3の領域601とを同一ウエハ上に形成することができる。この構造では、射出される光の波長を変えるための構造は、第3の半導体層105の上に配された各層、すなわち、第1の反射鏡106、第3の反射鏡504、第4の半導体層604、第3の活性層602及び第5の半導体層605である。そのため、ウエハ面内の所望の場所にこれらの各層を形成することにより、その下の半導体層に対して加工等をすることなく、互いに異なる波長の光を射出する第1の領域501と第2の領域502と第3の領域601とを形成することができる。
【0073】
また、本実施形態では、第3の領域601における第1の活性層104からの発光による光励起にて第3の波長の光が発せられる。これを実現するためには、第4の半導体層604、第3の活性層602及び第5の半導体層605は、第3の半導体層105に電気的に接続される必要はなく、所定の位置にあればよい。そのため、簡略な工程で3つの波長の光を個別に射出することができる発光素子を形成することができる。
【0074】
なお、第4の半導体層604、第3の活性層602及び第5の半導体層605は、例えば、エピタキシャル成長により第3の半導体層105の上に形成され得る。しかしながら、他の方法により形成されるものであってもよい。
【0075】
上述の他の手法の例を説明する。あらかじめ第5の半導体層605、第3の活性層602及び第4の半導体層604が基板側からこの順に形成された別の転写基板を準備しておく。この転写基板を第3の半導体層105よりも下方の半導体層が形成された基板100に接合して、その後、この転写基板のみをウェットエッチング等により除去する。この手法によっても、第3の半導体層105の上に第4の半導体層604、第3の活性層602及び第5の半導体層605を形成することができる。上述のようにp型のドーパントをドーピングするとその半導体層の結晶品質が低下することがある。したがって、p型のドーパントをドーピングした半導体層の上にエピタキシャル成長で形成された層も結晶品質が低下することがある。本手法では、p型の第3の半導体層105の上にエピタキシャル成長による半導体層の形成を行う必要がないため、第3の活性層602の品質が向上し、発光特性が向上し得る。
【0076】
第1の反射鏡106と第3の反射鏡504の形成等の第1の領域501と第2の領域502を確定する工程は、第4の半導体層604、第3の活性層602及び第5の半導体層605を接合し、第3の領域601の位置を確定した後に行われることが望ましい。この順とすることにより、プロセスを経た凹凸のある基板ではなく、エピタキシャル成長直後の平坦な基板に対して基板接合を行うことができる。これにより、接合面の状態が良好になり、プロセス難易度が低下するため、歩留りが向上する。更に、既に形成された第3の領域601の位置を基準にして、フォトリソグラフィーによる高い位置精度によって第1の領域501と第2の領域502の位置を確定することができる。そのため、第1の領域501と第2の領域502を確定する工程を先に行う場合と比較して、接合時の位置合わせにおける要求精度を低くすることができる。また上述のように、色ごとに作製された発光素子をディスプレイの基板上に実装する方式に比べて、1回の接合でウエハ全面に複数色の素子を配置することができる。したがって、歩留まりの向上及び実装コストの低減の効果が得られる。
【0077】
[第5実施形態]
第3実施形態において述べた2つの発光領域を有する発光素子について、より具体的な設計例及び製造工程例を第5実施形態として説明する。図8は、本実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態の発光素子の構造は第3実施形態の第3の構成例(図6(c))と同様であるため、構造に関する詳細な説明は省略又は簡略化する場合がある。
【0078】
本実施形態の発光素子は、サファイア基板700上にi型のGaN層701、i型の緑色量子井戸活性層702、n型のGaN層703、i型の青色量子井戸活性層704、p型のGaN層705を順次エピタキシャル成長することにより形成される。サファイア基板700とGaN層701との間には不図示のバッファ層が形成される。
【0079】
緑色量子井戸活性層702は、InGaN井戸層とGaNバリア層とを含む。緑色量子井戸活性層702において、InGaN井戸層のIn組成は約20%であり、この場合、中心発光波長は、525nmである。
【0080】
青色量子井戸活性層704も、InGaN井戸層とGaNバリア層とを含む。青色量子井戸活性層704において、InGaN井戸層のIn組成は約15%であり、この場合、中心発光波長は、450nmである。
【0081】
本実施形態の発光素子は、サファイア基板700に対して垂直な方向からの平面視において、青色の光を発する領域711と、緑色の光を発する領域712とを有する。発光素子は、GaN層705の形成後に、領域711と領域712との間を分離するための分離溝が形成される。分離溝の深さは、分離溝の底面の位置がGaN層703の上面と下面の間となるように設定される。分離溝の形成後、各領域に共通に電位を与えるn電極707が分離溝の底に形成される。また、領域712、711それぞれ個別に電位を与えるp電極708、713がGaN層705の上に形成される。更に、主として青色の波長の光を反射する反射鏡706と、主として緑色の波長の光を反射する反射鏡714とが、領域712、711にそれぞれ形成される。
【0082】
反射鏡706は、SiNとSiOの積層膜を6ペア含む。各層の膜厚は、その光学膜厚が青色の光の波長(450nm)の1/4となるように、各層の屈折率を考慮して決定される。反射鏡714は、SiNとSiOの積層膜を6ペア含む。各膜厚は、その光学膜厚が緑色の光の波長(525nm)の1/4となるように、各膜の屈折率を考慮して決定される。
【0083】
本実施形態によれば、青色の波長の光を射出する領域711と緑色の波長の光を射出する領域712とが同一ウエハ上に形成された発光素子を簡略な工程により製造することができる。
【0084】
[第6実施形態]
第5実施形態の発光素子に第3実施形態の第2の構成例における第2の反射鏡201に相当するDBRを追加したものを第6実施形態として説明する。図9は、本実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態の発光素子においては、i型のGaN層801が、i型のDBR層802を含んでいる。これ以外の構造については第5実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0085】
DBR層802は、10ペアのAlGaN層とGaN層とが交互に複数組積層された積層構造をなしている。各層の膜厚は、その光学膜厚が青色の光の波長(450nm)の1/4となるように、各層の屈折率を考慮して決定される。また、DBR層802と反射鏡706とが、青色波長に対する共振器を形成するように、各層の膜厚等が設定されている。
【0086】
この構成とすることで、領域712においては、青色(波長450nm)の光が共振器内を共振する。これにより、緑色量子井戸活性層702における青色の光の吸収率が増加し、緑色量子井戸活性層702からの緑色の光の発光効率が向上する。一方、領域711においては、青色量子井戸活性層704で発生した光のうち、サファイア基板700側に射出された光がDBR層802で反射して上方に向かうため、青色の光の発光効率が向上する。
【0087】
したがって、本実施形態では第5実施形態と同様の効果が得られることに加え、第5実施形態よりも更に青色及び緑色の光の発光効率が向上する。
【0088】
[第7実施形態]
第6実施形態の発光素子を、第4実施形態と同様に3色の光を発することができるように変形したものを第7実施形態として説明する。図10は、本実施形態に係る発光素子の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態の発光素子は、サファイア基板700に対して垂直な方向からの平面視において、赤色の光を発する領域901を更に有する。これ以外の構造については第6実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0089】
領域901において、GaN層705の上には、AlInPクラッド層904、AlGaInP活性層902及びAlInPクラッド層905がこの順に形成されている。AlGaInP活性層902は、その中心発光波長が630nmとなるように、各元素の割合が調整されている。
【0090】
領域901のGaN層705の上には、領域901に電位を与えるp電極903が形成される。n電極707とp電極903とにより青色量子井戸活性層704に電流が注入されると、青色量子井戸活性層704は青色の光を発する。青色の光によりAlGaInP活性層902が励起され、AlGaInP活性層902は赤色の光を発する。これにより領域901から赤色の光が射出される。
【0091】
図11(a)及び図11(b)を更に参照して、本実施形態の発光素子の製造方法の概略を説明する。図11は、本実施形態に係る転写基板の構造を模式的に示す断面図である。
【0092】
図11(a)に示されるように、サファイア基板700とは別のGaAs基板910の上に、AlInPクラッド層905、AlGaInP活性層902及びAlInPクラッド層904をこの順にエピタキシャル成長させて形成する。次に、図11(b)に示されるように、発光領域に対応する部分のみを残すようにAlInPクラッド層904、AlGaInP活性層902及びAlInPクラッド層905をエッチングすることによりパターニングが行われる。その後、図11(b)の上面に、不図示のポリイミド層がスピンコートにより形成される。これらの処理により貼り合わせによる転写用の転写基板が完成する。
【0093】
その後、図10に示されるGaN層705までの層が形成されたサファイア基板700のGaN層705と、転写基板のAlInPクラッド層904とが互いに対向するように位置合わせされた状態で加熱される。これにより、GaN層705とAlInPクラッド層904とがポリイミド層を介して接合される。その後、GaAs基板910がウェットエッチングにより除去される。これにより、AlInPクラッド層904、AlGaInP活性層902及びAlInPクラッド層905がGaN層705の上に転写される。その後、第5実施形態と同様に分離溝906の形成、反射鏡706、714の形成等が行われ、図10に示される発光素子が完成する。
【0094】
本実施形態によれば、青色の波長の光を射出する領域711と、緑色の波長の光を射出する領域712と、赤色の波長の光を射出する領域901とが同一ウエハ上に形成された発光素子を簡略な工程により製造することができる。
【0095】
[変形実施形態]
本発明は、上述の実施形態に限らず種々の変形が可能である。例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を他の実施形態に追加した例や、他の実施形態の一部の構成と置換した例も、本発明の実施形態である。
【0096】
上述の実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0097】
101 第1の半導体層
102 第2の活性層
103 第2の半導体層
104 第1の活性層
105 第3の半導体層
106 第1の反射鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11