(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】発振器、照明装置、撮像装置および装置
(51)【国際特許分類】
H03B 7/08 20060101AFI20240109BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20240109BHJP
H01L 29/88 20060101ALI20240109BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20240109BHJP
H01L 27/04 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H03B7/08
H01L29/88 F
H01L27/04 V
(21)【出願番号】P 2019153639
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香取 篤史
(72)【発明者】
【氏名】海部 紀之
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-308632(JP,A)
【文献】特開平08-204450(JP,A)
【文献】特開2006-145513(JP,A)
【文献】特開2011-061274(JP,A)
【文献】実公昭41-011970(JP,Y1)
【文献】特表2014-517620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 7/08
H01L 21/329
H01L 21/822
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負性抵抗素子を含む発振回路と、
前記発振回路に電圧を印加する電圧バイアス回路と、
前記発振回路の前記負性抵抗素子に直列に接続され、前記電圧バイアス回路と前記発振回路とを電気的に接続する経路に設けられた、前記経路の導通状態と非導通状態とを切り替えるスイッチと、
前記スイッチと電気的に並列に接続された定電圧素子と、
を有し、
前記スイッチによって前記経路が導通状態にされるときに前記発振回路に流れる電流に対する、前記スイッチによって前記経路が非導通状態にされて前記定電圧素子を介して前記発振回路に流れる電流の変動が、
前記発振回路が発振しているときのオペレーション電流の±20%の範囲内である
ことを特徴とする発振器。
【請求項2】
前記発振回路に電流が流れ込む方向において、前記定電圧素子のアノード端子とカソード端子とがこの順に並んでいる、
ことを特徴とする請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記スイッチによって前記経路が導通状態にされると前記発振回路が発振を行い、前記スイッチによって前記経路が非導通状態にされると前記発振回路が発振を停止する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の発振器。
【請求項4】
前記スイッチによって前記経路が導通状態にされるときに前記発振回路に流れる電流と、前記スイッチによって前記経路が非導通状態にされるときに前記発振回路に流れる電流とがほぼ同じである、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項5】
前記スイッチによって前記経路が導通状態にされるときに前記発振回路に印加される電圧の電圧値は、前記負性抵抗素子の電圧-電流特性における負性抵抗領域の範囲内にあり、
前記スイッチによって前記経路が非導通状態にされるときに前記発振回路に印加される電圧の電圧値は、前記負性抵抗領域の範囲外にある、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項6】
前記負性抵抗素子は、負性抵抗領域の上限の電圧値の電圧が印加されたときに流れる電流の電流値が、前記負性抵抗領域の下限の電圧値の電圧が印加されたときに流れる電流の電流値よりも小さい、電圧-電流特性を有する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項7】
前記発振回路が発振を行うときに前記発振回路に第1の電流が流れる際の前記負性抵抗素子に印加される電圧を第1の電圧とし、前記発振回路が発振を停止しているときに前記発振回路に第2の電流が流れる際の前記負性抵抗素子に印加される電圧を第2の電圧とし、前記発振回路が発振を停止しているときに前記定電圧素子に第3の電流が流れる際の前記定電圧素子に印加される電圧を第3の電圧とすると、
前記第1の電圧の電圧値は、前記負性抵抗素子の電圧-電流特性における負性抵抗領域の範囲内にあり、
前記第2の電圧の電圧値は、前記負性抵抗領域の範囲外にあり、
前記第1の電流と前記第2の電流と前記第3の電流の電流値は、互いにほぼ同じであり、
前記第1の電圧の電圧値と前記第2の電圧の電圧値との差は、前記第3の電圧の電圧値にほぼ等しい、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項8】
前記発振回路に並列に接続された容量をさらに有する、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項9】
前記容量に直列に接続された抵抗をさらに有し、
前記容量および前記抵抗が前記発振回路に並列に接続されている、
ことを特徴とする請求項8に記載の発振器。
【請求項10】
前記スイッチは、P型MOSFETまたはN型MOSFETである、ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項11】
1組の前記スイッチと前記定電圧素子に複数の前記発振回路が接続されている、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項12】
前記発振回路が実装されたパッケージ上または前記発振回路のチップ上に前記定電圧素子が設けられている、ことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項13】
前記発振回路が発振する電磁波の周波数は、30GHz以上30THz以下である、ことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項14】
前記負性抵抗素子は、電流注入型の共鳴トンネルダイオードである、ことを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の発振器を有する、ことを特徴とする照明装置。
【請求項16】
請求項15に記載の照明装置と、
前記発振器が発振した電磁波が照射された被対象を撮像する撮像素子と、
を有する、ことを特徴とする撮像装置。
【請求項17】
負性抵抗素子を含む発振回路と、
前記発振回路に電圧を印加する電圧バイアス回路と、
前記発振回路の前記負性抵抗素子に直列に接続され、前記電圧バイアス回路と前記発振回路とを電気的に接続する経路に設けられた、前記経路の導通状態と非導通状態とを切り替えるスイッチと、
前記スイッチと電気的に並列に接続された定電圧素子と、
を有する発振器と、
前記発振器が発振した電磁波が照射された被対象から反射された電磁波を取得する素子と、
を有し、
前記スイッチによって前記経路が導通状態にされるときに前記発振回路に流れる電流に対する、前記スイッチによって前記経路が非導通状態にされて前記定電圧素子を介して前記発振回路に流れる電流の変動が、
前記発振回路が発振しているときのオペレーション電流の±20%の範囲内である
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器、照明装置、撮像装置および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
30GHz以上30THz以下の周波数帯の電磁波であるテラヘルツ波を発生させる小型の発振器として、共鳴トンネルダイオード(RTD)などの負性抵抗素子を含む発振回路(共振器)を用いることがある。この発振回路において、負性抵抗素子が負性抵抗の特性を示す電圧を負性抵抗素子に印加してテラヘルツ発振を行うために、電圧バイアス回路を接続する構成が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発振器を照明として用いる場合、電圧バイアス回路から、テラヘルツ波の発振周波数より低い周波数の交流電圧を印加する構成が採用されることがある。この構成によれば、照明を照射している時の画像情報と、照明を照射していない時の画像情報の差から、被写体の高画質な画像情報を得ることができる。
【0005】
しかし、負性抵抗素子を有する発振回路に印加する電圧を変化させると、発振回路に流れる電流が変化することがあり、これにより負性抵抗素子に印加されるバイアス電圧が変動する可能性がある。発振回路に流れる電流が変化すると、負性抵抗素子に印加されるバイアス電圧が所望の電圧からずれ、テラヘルツ発振を行うことができない。
【0006】
本件開示の技術は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、負性抵抗素子と発振回路を備える発振器において、発振を安定して行う技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件開示の技術に係る発振器は、
負性抵抗素子を含む発振回路と、
前記発振回路に電圧を印加する電圧バイアス回路と、
前記発振回路の前記負性抵抗素子に直列に接続され、前記電圧バイアス回路と前記発振回路とを電気的に接続する経路に設けられた、前記経路の導通状態と非導通状態とを切り替えるスイッチと、
前記スイッチと電気的に並列に接続された定電圧素子と
を有し、
前記スイッチによって前記経路が導通状態にされるときに前記発振回路に流れる電流に対する、前記スイッチによって前記経路が非導通状態にされて前記定電圧素子を介して前記発振回路に流れる電流の変動が、前記発振回路が発振しているときのオペレーション電流の±20%の範囲内である
ことを特徴とする。
また、本件開示の技術に係る照明装置は、上記の発振器を有することを特徴とする。
また、本件開示の技術に係る撮像装置は、
上記の照明装置と、
前記発振器が発振した電磁波が照射された被対象を撮像する撮像素子と
を有する、ことを特徴とする。
また、本件開示の技術に係る装置は、
負性抵抗素子を含む発振回路と、
前記発振回路に電圧を印加する電圧バイアス回路と、
前記発振回路の前記負性抵抗素子に直列に接続され、前記電圧バイアス回路と前記発振回路とを電気的に接続する経路に設けられた、前記経路の導通状態と非導通状態とを切り替えるスイッチと、
前記スイッチと電気的に並列に接続された定電圧素子と、
を有する発振器と、
前記発振器が発振した電磁波が照射された被対象から反射された電磁波を取得する素子
と、
を有し、
前記スイッチによって前記経路が導通状態にされるときに前記発振回路に流れる電流に対する、前記スイッチによって前記経路が非導通状態にされて前記定電圧素子を介して前記発振回路に流れる電流の変動が、前記発振回路が発振しているときのオペレーション電流の±20%の範囲内である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本件開示の技術によれば、負性抵抗素子と共振回路を備える発振器において、発振を安定して行う技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】第1実施形態に係る素子の特性を説明する模式図
【
図3】第1実施形態に係る発振器の動作を説明するための模式図
【
図4】第1実施形態に係る発振器における電圧変化を説明する模式図
【
図7】第3実施形態に係る発振器を説明する別の模式図
【
図10】第6実施形態に係る発振器を説明する模式図
【
図11】第7実施形態に係る発振器を説明する模式図
【
図13】第1実施形態に係る発振器を説明するための電圧-電流特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しつつ、本件開示の技術の好適な実施の形態について説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状およびそれらの相対配置等は、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。よって、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。特に図示あるいは記述をしない構成や工程には、当該技術分野の周知技術または公知技術を適用することが可能である。また、重複する説明は省略する場合がある。
【0011】
(第1実施形態)
本実施形態に係る発振器は、並列に配置されたスイッチと定電圧素子を有し、電圧バイアス回路に対して、テラヘルツ発振回路と直列に、当該スイッチと定電圧素子が配置されている。
【0012】
[発振器の回路構成]
図1は、本実施形態の発振器1の概略構成を示す。
図1において、発振器1は、発振回路100、電圧バイアス回路200、スイッチ201、定電圧素子202、制御信号生成部210を有する。また、発振回路100は、負性抵抗素子101、容量102、インダクタ103を有する。本実施形態の発振器1は、電圧バイアス回路200から発振回路100に電圧を印加する経路に並列に接続されたスイッチ201と定電圧素子202とを有する。
【0013】
発振回路100は、負性抵抗素子101と、並列に接続された容量102およびインダクタ103との組によって構成される共振器(テラヘルツ発振回路)である。発振回路100は、電圧バイアス回路200により、負性抵抗素子101に所定の電圧が印加されることにより、30GHz以上30THz以下の範囲において、所定の周波数の電磁波(テラヘルツ波;所定の電磁波)の発振を行う。ここで、所定の電磁波は、その周波数が主に発振回路100の設計パラメータで決まる、発振回路100の発振(共振)によって発生する電磁波である。なお、以下の説明では、テラヘルツ波を発生させる発振回路100の発振を「テラヘルツ発振」と呼ぶ。
【0014】
負性抵抗素子101には、電圧制御型の負性抵抗を用いることができる。具体的には、電流注入型の共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunnelling Diode:RTD)を用いることにより、所定の周波数(テラヘルツ周波数)での発振回路を構成することができる。この共鳴トンネルダイオード(RTD)は、GaAs、InGaAs/InAlAsからなる量子井戸により構成される。
【0015】
図2Aは、負性抵抗素子101の両端子(アノード、カソード)間に印加される電圧と、負性抵抗素子101に流れる電流との電圧-電流特性を示す。
図2Aのグラフにおいて、横軸は負性抵抗素子101に印加される電圧Vrであり、縦軸は負性抵抗素子101に流れる電流Irである。この電圧-電流特性では、電圧の増加に応じて電流が増加する領域PRと、電圧の増加に応じて電流が減少する領域NRとの2つの領域に分けることができる。この電圧増加に対して、電流が減少する領域NRが、負性抵抗の特性を示す領域であり、以下の説明において、領域NRを「負性抵抗領域」と呼び、領域PRを「抵抗領域」と呼ぶ。
【0016】
負性抵抗領域NR内の電圧(オペレーション電圧Vop)を、負性抵抗素子101の両端子間に印加することで、負性抵抗素子101と容量102およびインダクタ103とによる発振によってテラヘルツ周波数ftの電磁波(テラヘルツ波)が発生する。オペレーション電圧が変化すると、発振する条件(周波数、出力の大きさなど)が変化するため、オペレーション電圧は一定の電圧とすることが重要である。なお、オペレーション電圧Vopは、発振の安定性を高めるために、負性抵抗領域NRの電圧範囲の中心付近の値に設定されることが望ましい。ただし、オペレーション電圧Vopは、これに限らず、負性抵抗領域NR内で安定した発振が可能であれば、それ以外の電圧が設定されてよい。また、
図2Aに示すように、負性抵抗素子101において、負性抵抗領域NRの上限の電圧V1が印加されたときに流れる電流I1は、負性抵抗領域NRの下限の電圧V2が印加されたときに流れる電流I2よりも小さい。
【0017】
また、オペレーション電圧Vopを印加しているときに、負性抵抗素子101に流れる電流をIopとする。なお、オペレーション電圧の具体的な電圧値は、負性抵抗素子101が有するパラメータによって変化するが、一般的には、概ね0.5~1.5Vの範囲であることが多い。一方、負性抵抗素子101に流れる電流の具体的な電流値は、RTDが有するパラメータによって変化するが、一般的には、概ね20~150mAの範囲である。ただし、電圧Vopおよび電流Iopは、上記の電圧範囲以外および電流範囲以外でも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0018】
また、負性抵抗素子101の両端子間に印加する電圧を、抵抗領域PR内の電圧に設定することで、テラヘルツ発振を停止させることができる。
図3Aに、電圧の設定例を示す。負性抵抗素子101の両端子間に印加する電圧を、負性抵抗領域NR内の電圧と抵抗領域PR内の電圧(
図3Aでは、0V(=Voff))との間で交互に変化させることで、テラヘルツ発振とその発振の停止を繰り返すことができる。このように、本実施形態では、スイッチ201によって経路が導通状態にされるときに発振回路に印加される電圧は負性抵抗領域NR内にある。また、スイッチ201によって経路が非導通状態にされるときに発振回路に印加される電圧は負性抵抗領域NR外の抵抗領域PR内にある。
【0019】
なお、テラヘルツ発振における発振と停止とを繰り返す場合に用いられる周波数は、テラヘルツ発振を継続して行う場合に用いられる周波数よりは十分低い周波数で、典型的には数Hz~数十MHzの範囲内の周波数である。これにより、テラヘルツ発振を停止しているときに、他の要素によって照射されるテラヘルツ波のオフセットノイズ成分を把握することができる。したがって、テラヘルツ波が照明として対象物に照射され、対象物から反射するテラヘルツ波を撮影するカメラにおいて、照明由来以外のノイズ成分を除去することができるため、S/N比の高いテラヘルツカメラを実現することができる。ただし、一般には、負性抵抗素子101の両端子間に印加する電圧を変化させると、流れる電流も変化する。このため、流れる電流を小さな電流から大きな電流へと変化させる際に、併せて電圧を変化させるときに、電圧Vopに達するまでに時間がかかったり、電圧が安定するまでに時間がかかったりする可能性がある。
【0020】
図2Aに示すように、負性抵抗素子101の電圧-電流特性において、オペレーション電圧Vopを印加したときに流れる電流Iopと、略同じ電流が流れる電圧Vidが、オペレーション電圧とは別に存在する。本実施形態は、上記の課題を解決するために、この電圧Vidを利用する。具体的には、発振回路100が有する負性抵抗素子101に電圧Vopと電圧Vidを交互に印加するように、発振器1が構成されている。このように、発振時と非発振時に発振回路100に流れる電流が一定の電流Iopとする上で、スイッチ201と並列に接続された定電圧素子202が重要な役割を果たす。
【0021】
次に、本実施形態における発振器1の動作の詳細について説明する。本実施形態の発振器では、
図1Aに示すように、電圧バイアス回路200から、スイッチ201を介して、負性抵抗素子101を有する発振回路100に電圧が印加される。また、制御信号発生部210から、制御信号211がスイッチ201に出力され、周期的にスイッチ201の両端の導通と非導通(遮断)とが行われる。本実施形態では、スイッチ201と並列に、定電圧素子202が接続されている。
【0022】
図2Bは、定電圧素子202の電圧-電流特性を示す。
図2Bのグラフにおいて、横軸は定電圧素子202のアノード-カソード方向に印加される電圧Vdであり、縦軸は定電圧素子202のアノード-カソード方向に流れる電流Idである。定電圧素子202は、理想的には、電流が流れる(電流Idが0Aを越える)際に、所定の電圧Vdeltaを発生させる素子である。発生する電圧は、流れる電流Idの変動によっては変動しないことが望ましいが、電流Idが変化すると、若干変化する。この電圧の変化量(数mV~百mV程度)は、バイアス電圧Vbやオペレーション電圧Vop(0.5V~1.5V)に対して十分小さいため、定電圧素子202は、本実施形態の発振器1において実用上問題なく使用することができる。
【0023】
定電圧素子202は、ダイオードを用いて実現することができる。定電圧素子202に用いられるダイオードは、発振回路100に電流が流れ込む方向において、アノード端子、カソード端子がこの順に並ぶように配置されている。定電圧素子202において、電圧Vdが小さい領域では、電流Idはほとんど流れず、電圧バイアス回路200から流れる電流Iopに対して、その電流値は0とみなすことができる(Id≒0)。電圧Vdが大きくなるにつれて、電流Idは指数関数的に増加する。そして、電流Idが大きく増加し始める電圧Vdを、閾値電圧と呼ぶ。閾値電圧は、一般的には、0.7V~0.9Vである。本実施形態では、定電圧素子202の電圧Vdと電流Idが、定電圧素子202と並列に接続されるスイッチ201の導通状態と非導通状態とに応じて変化することで、電圧バイアス回路200から流れる電流が略一定になる。以下の説明において、定電圧素子202をダイオード202として説明するが、ダイオードに限らず、同様の特性が得られる部材が定電圧素子202に用いられてよい。
【0024】
図4Aに、スイッチ201が導通状態にある発振器1を示す。この状態では、発振器1において電流が流れる経路は、スイッチ201と発振回路100であり、発振回路100に印加される電圧は、電圧バイアス回路200から出力される電圧Vbによって決まる。
【0025】
スイッチ201が導通している(ONの状態)ときは、スイッチ201の両端子間の電圧Vswは、ほぼ0とみなすことができる(Vsw≒0)。そのため、スイッチ201と並列に配置されたダイオード202の両端子間に印加される電圧Vdも、同じくほぼ0である(Vd≒0)。この電圧Vdの典型的な値は、数mV~数百mVである。そのため、発振回路100に印加される電圧の電圧Vrは、電圧バイアス回路200から出力される電圧の電圧Vbとほぼ同じである(=Vb-Vsw=Vb-Vd≒Vb-0)。電圧Vrは、発振回路100がテラヘルツ発振を行うために必要な電圧Vopが発振回路100に
印加されるように設定されている(Vr≒Vb≒Vop)。厳密には、スイッチ201が導通した状態でも、スイッチ201には微小な電圧V0が発生する。したがって、電圧バイアス回路から出力される電圧Vbは、この微小な電圧V0を考慮して、最適な電圧Vopが発振回路100に印加されるように決定することがより好ましい(Vb=Vop+V0=Vr+V0)。ここで、電圧V0の典型的な値は、数mV~数百mVである。
【0026】
発振回路100には、テラヘルツ発振に必要な印加電圧Vopに対応する電流Iopが流れる。
図2Aに示すように、電流Iopは、発振回路100の負性抵抗素子101の特性と、端子間電圧の電圧Vr(=Vop)より決まる。
【0027】
ダイオード202においては、発振回路100に印加される電圧Vdが0V付近である場合は、流れる電流Idをほぼ0とみなすことができる(Id≒0)。そのため、スイッチ201が導通状態である場合は、ダイオード202には電流Idが流れないといえる。厳密には、ダイオード202には、微小な電流I0が流れるが、この電流は発振回路100に印加される電圧Vrと、発振回路100に流れ込む電流Iopには影響しない。ここで、電流Idの典型的な値は、数nA~数十mAである。したがって、電圧バイアス回路200から流れる電流は、発振回路100に流れる電流Iopとみなせる。
【0028】
図4Bは、スイッチ201が非導通状態にあるときの発振器1を模式的に示す。この状態では、電流が流れる経路は、ダイオード202から発振回路100に至る経路である。また、発振回路100に印加される電圧は、発振回路100の負性抵抗素子101の特性とダイオード202の特性との関係で決まる。
【0029】
スイッチ201が非導通状態にされている場合は、スイッチ201には電流がほとんど流れないとみなすことができる(Isw≒0)。そして、電圧バイアス回路200からの電流は、スイッチ201と並列に接続されているダイオード202に流れる。ダイオード202は、
図2Bで示す電圧-電流特性を有する。このため、ダイオオード202に電流Iopが流れる結果、ダイオード202の端子間に対応する電圧Vdelta(=Vd)が発生する。なお、スイッチ201にも同様に電圧Vdelta(=Vsw)が印加されるが、スイッチ201の非導通状態は維持されたままである。
【0030】
一方、発振回路100に印加される電圧Vrは、電源バイアス回路200の出力電圧Vbから、ダイオード202での電圧降下分Vdeltaを差し引いた電圧Vr(=Vb-Vdelta)となる。
図2Aに示すように、発振回路100への印加電圧Vrは、負性抵抗領域の範囲外の電圧Vidとなるように設定されている(Vid=Vb-Vdelta)。そのため、発振回路100におけるテラヘルツ発振が停止される。また、この電圧Vidは、発振回路に流れる電流がIopとなる電圧である。本実施形態では、スイッチ201が非導通状態であるときに発振回路100に印加される電圧Vrが、電圧Vidとほぼ同じ値になる(Vr≒Vid)ように、ダイオード202のパラメータが設定されている。
【0031】
このため、スイッチ201が非導通状態であるときにダイオード202に流れる電流はIopであり、ダイオード202に直列に接続された発振回路100に流れる電流もIopとなる。このため、スイッチ201が非導通状態であるときに、電圧バイアス回路200から出力される電流もIopである。このように、スイッチ201が非導通状態であるときと導通状態であるときの電圧バイアス回路200から出力される電流を同じIopにすることができる。なお、上記の説明において、電圧Vbが、発振回路100が発振を行うときに負性抵抗素子に印加される第1の電圧の一例である。また、電圧Vidが、発振回路100が発振を停止しているときに負性抵抗素子に印加される第2の電圧の一例である。また、発振回路100が発振を行うときに発振回路100に流れる電流Iopが、第
1の電流の一例であり、発振回路100が発振を停止しているときに発振回路100に流れる電流Iopが、第2の電流の一例である。また、発振回路100が発振を停止しているときにダイオード202に流れる電流Iopが、第3の電流の一例であり、このときダイオード202に印加される電圧Vdeltaが、第3の電圧の一例である。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、スイッチ201によって電圧バイアス回路と発振回路とを接続する経路が導通状態と非導通状態にされたときとで、電圧バイアス回路200から流れる電流を、ほぼ同じにすることができる。このため、スイッチ201が導通と非導通とを繰り返した場合でも、電圧バイアス回路200から電圧Vbを安定して出力することができる。これにより、本実施形態では、発振回路100に印加する電圧を安定させることができるので、テラヘルツ発振と発振の停止を安定して行うことができる。したがって、本実施形態の発振器1は、安定して動作するテラヘルツ照明として用いることができる。また、電圧バイアス回路からの電流を大きく変化させず、テラヘルツ発振に必要なオペレーション(動作)電圧の変動を抑えることができる。そして、発振回路において、安定したオペレーションポイントでのテラヘルツ発振を行うことができる。
【0033】
なお、上記の説明では、電圧バイアス回路200から流れる電流が、オペレーション電流Iopとほぼ同じとなる。本実施形態では、スイッチ201の導通状態と非導通状態との間での電圧バイアス回路200からスイッチ201に流れる電流の変動は、オペレーション電流Iopの±20%の範囲内に抑えることが望ましい。これにより、電圧バイアス回路からの出力電圧Vbの変動を小さくすることができる。電圧バイアス回路200から流れる電流の変動範囲は、上記の範囲を目安として用いることが望ましいが、実際の電圧や電流、発振回路に用いられる各種パラメータによって変わり、実使用上問題なければ、上記の範囲より広い範囲が採用されてよい。
【0034】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の発振器について説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。本実施形態の発振器は、テラヘルツ発振をより安定して行うことを目的とする。
図5Aに本実施形態に係る発振器2の概略構成を示す。また、
図5Bに、本実施形態に係る別の発振器20の概略構成を示す。発振器2は、容量シャント素子302を有する。また、発振器20は、抵抗容量シャント素子310を有する。抵抗容量シャント素子310は、容量311、抵抗312を有する。
【0035】
発振器2、20においては、負性抵抗素子101、容量102、インダクタ103を有する発振回路100によって、周波数ftのテラヘルツ波の発振が行われる。発振回路100には、スイッチ201およびダイオード202が接続されている。このため、スイッチ201およびダイオード202が有する寄生素子(抵抗、容量、インダクタンス)によって、発振回路100の負性抵抗素子101と、スイッチ201またはダイオード202との間に、別の発振回路が設けられる場合がある。この場合、上記のテラヘルツ波の周波数ft以外の周波数で、発振が発生する。ここでは、このような発振を寄生発振と称する。寄生発振が生じると、発振器2、20において所望のテラヘルツ発振が行えなくなる可能性がある。また、寄生発振は、発振回路100とスイッチ201やダイオード202の寄生素子との間だけでなく、発振回路100と電圧バイアス回路200や配線部などが有する寄生素子との間でも生じる場合がある。
【0036】
本実施形態では、寄生発振を抑制するために、発振回路100と並列にシャント素子が接続されている。
図5Aの発振器2では、容量型のシャント素子である容量シャント素子302が設けられている。容量シャント素子302のインピーダンスは、寄生発振を抑制する対象となる周波数領域において、発振回路100が有する負性抵抗素子101のイン
ピーダンスと同等かそれ以下である。これにより、発振回路100が外部の寄生素子と結合して所定のテラヘルツ周波数ft以外で寄生発振することが抑制される。
【0037】
また、
図5Bに示す発振器20には、容量シャント素子302の代わりに、抵抗容量型のシャント素子である抵抗容量シャント素子310が設けられている。抵抗容量シャント素子310は、抵抗素子311と容量素子312とが直列に接続されているシャント素子である。抵抗容量シャント素子310は、容量シャント素子に比べて、構成要素の数は増えるが、より広い周波数範囲において寄生発振を抑制することができる。具体的には、抵抗素子311と容量素子312とが直列に接続されていることで、DC周波数領域では定常電流が流れない。また、抵抗素子311と容量素子312の時定数で決まる周波数よりも十分高い周波数領域では、容量素子312が短絡された状態となり、抵抗素子311において損失を発生させることができる。したがって、抵抗容量シャント素子310によって、発振回路100が外部の寄生素子と結合することを回避することができる。また、容量素子312があることにより、外部から発振回路100と抵抗容量シャント素子310を合わせて見た場合、
図2Aに示す電圧-電流特性と同じ特性を得ることができる。
【0038】
以上のように、本実施形態では、シャント素子として、容量シャント素子302または抵抗容量シャント素子310が用いられる。また、本実施形態では、シャント素子として抵抗シャント素子301を用いても、
図2Aに示す電圧-電流特性と同等の特性を得ることはできない。
図13は、発振回路100と各種シャント素子とを1素子とみなした場合の電圧-電流特性を例示するグラフである。
図13では、本実施形態における発振回路100と容量シャント素子302または抵抗容量シャント素子310を1素子とみなした場合の電圧-電流特性を実線で示す。また、
図12に示す発振回路100と抵抗シャント素子301を1素子と見た時の電圧-電流特性を点線で示す。
【0039】
本実施形態では、負性抵抗領域NRにおいて電圧Vopを印加したときに流れる電流Iopと同じ電流が流れる電圧が抵抗領域PRに存在するような電圧-電流特性が必要となる。しかしながら、
図13のグラフの電圧Vid1と電流Iid1との関係に例示されるように、抵抗シャント素子301を用いる場合、負性抵抗領域NR内の電圧Vop1を印加したときに流れる電流Iop1と同じ電流が流れる電圧は抵抗領域PRには存在しない。したがって、抵抗シャント素子301を用いる場合は、負性抵抗領域NRにおいて電圧Vopを印加したときに流れる電流Iopと同じ電流が流れる電圧が抵抗領域PRに存在するような電圧-電流特性を得ることができないといえる。また、抵抗シャント素子301を用いる場合の電圧-電流特性では、負性抵抗領域NRと抵抗領域PRとが切り替わる境界付近の特性を用いても、安定してテラヘルツ発振をすることが難しい。一方、容量シャント素子302を用いる場合は、負性抵抗領域NRにおいて電圧Vop2を印加したときに流れる電流Iop2と同じ電流Iid2が流れる電圧Vid2が抵抗領域PRに存在する電圧-電流特性が得られる。抵抗容量シャント素子310を用いる場合も同様の電圧-電流特性が得られる。
【0040】
したがって、本実施形態の発振器2、20の発振回路100は、容量シャント素子302または抵抗容量シャント素子310によって、寄生発振を抑制して、安定したバイアスポイントでの発振動作を行うことができる。
【0041】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の発振器について説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態または第2実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図6Aに本実施形態に係る発振器3の概略構成を示す。また、
図6Bに、本実施形態に係る別の発振器30の概略構成を示す。
図6Aの発振器3は、P型MOSFET(以下、PMOSと称する)131を有する。また、
図6Bの発振器30は、N型MOSF
ET(以下、NMOSと称する)132を有する。
【0042】
図7Aは、PMOS131の電圧-電流特性の一例を示す。
図7Aにおいて、各曲線は、ゲートに印加される電圧Vgsの違いを表している。
図7Cは、発振回路100が有する負性抵抗素子101の電圧-電流特性の一例を示す。
図7Dは、ダイオード202の電圧-電流特性の一例を示す。
【0043】
PMOS131は、ゲートに印加される電圧Vgs、より正確には、ソース電圧との電位差によって、導通状態と非導通状態とを変えることができる。PMOS131に電圧Vgs(=-Von<-Vth(Vth:MOSの閾値電圧))を印加すると、PMOS131は導通状態となる。PMOS131に電圧Vgs(=0>-Vth)を印加すると、
PMOS131は非導通状態となる。PMOS131が導通状態にある場合でも、PMOS131は厳密には抵抗を有しており、これをオン抵抗Ronと呼ぶ。オン抵抗Ronを有するPMOS131に電流Iopが流れることにより、PMOS131で電圧降下(電圧降下量Vsw=Ron×Iop)が発生する。そのため、オン抵抗Ronが大きいと、発振回路100に印加される電圧Vrの、電圧バイアス回路の出力電圧Vbからのずれが大きくなる。そのため、オン抵抗Ronはできるだけ小さい状態で用いることが望ましい。ここで、発振回路100が有する負性抵抗素子101について、電圧-電流特性のグラフにおけるオペレーション電圧Vopでの接線の傾き(Va/Ia;
図7C参照)を、抵抗Rnrとする。オン抵抗Ronの望ましい値として、具体的には、発振回路100が有する負性抵抗素子101の抵抗Rnrの10分の1以下、より好ましくは100分の1以下とすることが好ましい(Ron<Rnr)。オン抵抗Ronを小さくするには、使用上問題ない範囲で電圧Vonを大きくすることが望ましい。また、スイッチング時間などの仕様を踏まえて、オン抵抗Ronが小さいPMOS131を選択することが望ましい。
【0044】
さらに、PMOS131での電圧降下量Vswが大きくなると、ダイオード202の端子間電圧Vdも大きくなるため、ダイオード202を流れる電流Idが大きくなる。そのため、電圧降下量Vswが大きくなりすぎると、ダイオード202が導通し始め、ダイオード202での電圧降下が支配的になる。この結果、スイッチ201を非導通状態にしても、発振回路100の両端の電圧Vrが十分下がらず、テラヘルツ発振を完全に停止できなくなる。これを避けるために、電圧降下量Vswは、ダイオード202が有する閾値電圧Vthより十分小さい範囲に収める必要がある。具体的には、電圧降下量Vswは0.5V以下であることが望ましい。
【0045】
別のパラメータで言い換えると、次のようになる。電圧-電流特性のグラフにおいてダイオード202に電圧Vswが印加されたときの接線の傾き(Vsw/Ib;
図7D参照)を、抵抗Rdoffとする。なお、電流Ibはダイオード202に流れる電流である。ダイオード202の端子間電圧Ron×Iopに対する抵抗Rdoffが、PMOS131のオン抵抗Ronよりも十分小さい必要がある。望ましくは、ダイオード202の端子間電圧Ron×Iopに対する抵抗は、PMOS131のオン抵抗Ronの10分の1以下、より好ましくは100分の1以下とすることが好ましい(Rdoff<Ron)。
【0046】
以上より、本実施形態に係る発振器3では、スイッチ201をPMOS131で構成することで、簡素な構成で発振回路100に印加する電圧を安定させることができる。
【0047】
本実施形態に係る発振器3における別の発振器30の構成について、
図6Bと
図7Bを用いて説明する。
図6Bに示す発振器30では、スイッチ201にNMOS132が用いられる。
図7Bは、NMOS132の電圧-電流特性の一例を示す。
【0048】
NMOS132は、PMOS131と同様に、ゲートに印加される電圧Vgs、より正
確には、ソース電圧との電位差によって、導通状態と非導通状態とを変えることができる。NMOS132に電圧Vgs(=Von>Vth)を印加すると、NMOS132は導通状態となる。NMOS132は、PMOS131を用いた場合に比べて、導通と非導通のスイッチング特性の切り替え時間が短いため、より高速に電圧を変化させることができる。したがって、このような構成を有する発振器30によれば、発振回路100に印加する電圧をさらに安定させることができる。
【0049】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の発振器について説明する。なお、以下の説明において、第1~第3実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図8Aに、第4実施形態に係る発振器4の概略構成を示す。
図8Aに示すように、発振器4は、第1の発振回路141、第2の発振回路142、第3の発振回路143を有する。
【0050】
本実施形態では、1組のスイッチ201とダイオード202が、第1の発振回路141と第2の発振回路142と第3の発振回路143とが並列に接続されている発振回路に直列に接続されている。また、本実施形態では、3つの発振回路141、142、143に流れる電流の合計が第1実施形態の発振回路101に流れる電流の3倍(3×Iop)となる。これにより、スイッチ201またはダイオード202に流れる電流も、第1実施形態においてスイッチ201またはダイオード202に流れる電流の3倍(3×Iop)となる。そのため、
図8Bに示すように、本実施形態のダイオード202は、電圧Vdとして電圧Vdeltaが印加されたときに、流れる電流Idが3×Iopとなる電圧-電流特性を有する。
図8Bには、第1~第3実施形態で用いるダイオードの電圧-電流特性を点線にて例示する。
図8Bから分かるように、発振回路の負性抵抗素子101のパラメータが同じであれば、N(Nは2以上の整数)個の発振回路を接続すると、同じ電圧Vd(=Vdelta)で流れる電流IdがN倍(N×Iop)となるダイオードを選択するとよい。
【0051】
本実施形態に係る発振器4は、複数の発振回路を接続しても、流れる電流をほとんど変化させることがないため、安定して複数の発振回路100の発振を行ってテラヘルツ出力を大きくすることができる。
【0052】
なお、本実施形態では、1つのスイッチに3つの発振回路を接続する構成を例示したが、発振器4の構成はこれに限られない。すなわち、発振器4において、上記のパラメータの要件を満たす構成であれば、上記の実施形態の構成を組み合わせて2以上の任意の数の発振回路が用いられてよい。
【0053】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態の発振器について説明する。なお、以下の説明において、第1~第4実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図9Aに、第5実施形態に係る発振器5の概略構成を示す。
図9Aに示すように、発振器5は、スイッチ401、ダイオード402、プリント回路基板(PCB)500、パッケージ(PKG)501、チップ600、電圧バイアス回路700を有する。また、
図9B、
図9Cに示すように、チップ600には、発振回路601、アンテナ602、チップ上の配線603、ワイヤーボンディング用の電極610、第1のワイヤー611、第2のワイヤー612が設けられている。なお、
図9Cは、
図9BのA1-A2線による断面を示す図である。
【0054】
チップ600は、RTDを含む発振回路601(100)を有し、パッケージ501内に実装されている。
図9Bに示すように、チップ600の配線は、パッケージ501が有する配線と、ワイヤーボンディングで電気的に接続されている。また、
図9Aに示すよう
に、プリント回路基板500上には、パッケージ501と電圧バイアス回路700(200)、パッケージ形態にされた表面実装型(SMD)のスイッチ401とダイオード402が実装されている。電圧バイアス回路700は、並列に接続されているスイッチ401およびダイオード402を介して、チップ600内の発振回路601に接続されている。なお、電圧バイアス回路700と発振回路601とは、プリント回路基板500とパッケージ501が有する配線により接続されているが、図示を省略している。電圧バイアス回路700からは、並列に接続されているスイッチ401およびダイオード402に接続された配線に対して、直流電圧Vbが印加される。なお、チップ600のサイズは、典型的には、およそ1mm角~数mm角であるが、さらに大きなサイズ(10mm角)が採用されてもよい。
【0055】
図9Cに示すように、チップ600上には、絶縁膜613が配置されている。発振回路601は、チップ600上において絶縁膜613の深さ方向に配置されており、発振回路601の一方の端子はチップ600(チップ600の基板電位)に接続されている。また、発振回路601の他方の端子は、発振器600上に配置されたアンテナ602に接続されており、アンテナ602は、チップ600上の配線603により、ワイヤーボンディング用の電極610に接続されている。チップ600は、絶縁膜620を貫通する配線613によって、別のワイヤーボンディング用の電極610に接続されている。ここで、アンテナ602のサイズは、テラヘルツ波の発振周波数を基に決定されてよく、例えば100μm角~数百μm角である。ただし、発振周波数によっては、より大きなサイズ(数mm角)のアンテナが用いられてよい。また、発振器5のアンテナ602の形状は、正方形形状に限らず、テラヘルツ発振を行うことができれば、任意の形状が採用されてよい。
【0056】
本実施形態では、スイッチ401(201)やダイオード402(202)が、表面実装型の部品として構成されているため、必要な特性の素子を任意に選択して用いることができる。また、発振回路601の負性抵抗素子101の特性を規定するパラメータのばらつきに応じて、最適な特性を有するスイッチ401(201)やダイオード402(202)を用いることができる。そのため、最適な素子401、402を容易に決めることができるため、発振回路601に印加する電圧をより安定させることができる。
【0057】
また、表面実装型の部品を用いることで、実装面積を抑えて集積度を高めることができるという効果も得られる。なお、本実施形態では、パッケージ上にチップを配置する構成について説明したが、発振器5に採用できる構成はこれに限られない。プリント回路基板500上にチップ600を直接配置する構成も採用することができる。この場合、パッケージ501を省くことができるため、より少ない構成要素で発振器5を構成することができる。
【0058】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態の発振器について説明する。なお、以下の説明において、第1~第5実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図10Aに、第6実施形態に係る発振器6の概略構成を示す。
図10Aに示すように、発振器6は、スイッチ401、ダイオード402、プリント回路基板500、パッケージ501、ピン502、ピンソケット503、チップ600、電圧バイアス回路700を有する。
【0059】
また、
図10Bに示すように、本実施形態では、パッケージ501上にダイオード402が設けられ、パッケージ501がプリント回路基板500から挿抜可能となっている。また、パッケージ501がピン502を有し、プリント回路基板500はピン502に対応したピンソケット503を有する。これにより、チップ600を有するパッケージ501は、プリント回路基板500から挿抜することができる。また、発振器6を異なる特性を有する別の発振器と交換したり、発振器6が故障して新しい発振器と交換したりする場
合でも、発振器の交換をパッケージ501ごとに行うことができる。
【0060】
また、ダイオード402は、チップ600と同じパッケージ501上に実装されている。これにより、発振回路100の特性がチップごとにばらつく場合は、ダイオード402の特性を変更することで電流の変動がより小さい構成を実現できる。本実施形態では、発振回路100を備えるチップ600が実装されたパッケージ501上にダイオード402が設けられているため、パッケージ501を交換する際にダイオード402もまとめて交換することができる。これにより、特性の異なる発振回路100を有するパッケージ501に交換される場合でも、ダイオード402も発振回路100の特性に合ったダイオードに交換されるため、発振回路100に印加する電圧を安定させることができる。
【0061】
一方、スイッチ401は、パッケージ501とは別にプリント回路基板500上に実装されている。発振回路100の特性がチップごとにばらつく場合でも、スイッチ401はダイオード402ほど特性に大きな影響を与えないため、特性を改善する上でスイッチ401を交換するメリットは低いといえる。このような理由から、スイッチ401はパッケージ501上には実装されていない。これにより、パッケージ501に実装する部品の面積を最小限にすることができ、パッケージの小型化や構成点数の削減を実現することができる。また、発振器6によれば、パッケージを小型にでき、かつ交換が容易であることで、発振回路100に印加する電圧を安定させることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、パッケージ501上にダイオード402のみを配置する構成を例示したが、発振器6の構成はこれに限られない。例えば、パッケージ501上にスイッチ401とダイオード402を配置する構成も発振器6に採用することができる。この場合、プリント回路基板500の実装面積をより小さくすることができる。また、スイッチ401とダイオード402として表面実装型の部品を用いる構成を例示したが、スイッチ401やダイオード402が形成されたチップを用いてもよい。この場合、スイッチ401やダイオード402の実装面積をさらに小さくすることができる。また、発振回路100が形成されたチップ600上に、スイッチ401やダイオード402を集積させる構成が採用されてもよい。この場合、スイッチ401やダイオード402の実装面積をさらに小さくすることができる。
【0063】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態の発振器を有する撮像装置について説明する。なお、なお、以下の説明において、第1~第6実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図11に、第7実施形態の撮像装置70を模式的に示す。
図11に示すように、撮像装置70は、照明装置701、撮像素子702、タイミング生成部703を有する。照明装置701は、第1実施形態に係る発振器1を有する。照明装置701は、被対象700に対してテラヘルツ波711(所定の電磁波)を照射する。撮像素子702は、被対象700において反射したテラヘルツ波712を取得(撮像)する。撮像素子702は、被対象700の形状や物性値に対応して変化する被対象700の画像情報を取得することができる。
【0064】
タイミング生成部703は、タイミング信号710を、照明装置701と撮像素子702に入力する。照明装置701は、入力されるタイミング信号710に基づいて、発振器1内のスイッチ201の導通状態と非導通状態の切り替えのタイミングを調整する。照明装置701が、調整されたタイミングでテラヘルツ発振の発振と停止を周期的に繰り返すことで、被対象700にテラヘルツ波が照射される期間と、照射されない期間が生じる。一方、撮像素子702は、入力されたタイミング信号710に基づいて、照明装置701がテラヘルツ波を照射した期間と、照射していない期間における被対象700の撮像をそれぞれ行う。そして、撮像素子702は、これら2つの期間において撮像した情報の差を
判定する。この差によって、撮像素子702は、被対象700に意図せず照射される電磁波の成分(ノイズ成分)を除去することができる。この結果、被対象700の画像情報のSN比(Singal to Noise Ratio)を向上させることができる。
【0065】
したがって、本実施形態に係る撮像装置は、テラヘルツ波の発振と停止の周期的な繰り返しを安定して行うことができるため、SN比の高い画像情報を取得できるテラヘルツ撮像装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1・・・発振器、100・・・発振回路、101・・・負性抵抗素子、200・・・電圧バイアス回路、201・・・スイッチ、202・・・ダイオード