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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】モータ制御装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20240109BHJP
   H02P 6/182 20160101ALI20240109BHJP
【FI】
H02P29/024
H02P6/182
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019165530
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021044938
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 完宗
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107685(WO,A1)
【文献】特開2000-253687(JP,A)
【文献】特開平09-322588(JP,A)
【文献】特開平08-331894(JP,A)
【文献】特開平06-269191(JP,A)
【文献】特開2002-058282(JP,A)
【文献】実開昭59-176334(JP,U)
【文献】特開2015-156933(JP,A)
【文献】特開2001-178182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータを駆動する駆動手段と、
前記モータの各相の端子に流れる電流値を測定する測定手段と、
前記モータの正常回転の周期に応じた期間だけ前記駆動手段による前記モータの駆動中に前記モータの各相の端子を短絡し、該短絡された期間において前記測定手段により測定された電流値に基づいて、前記モータの回転異常を検知する異常検知手段と、
を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記異常検知手段は、前記測定手段により測定された1相の端子の電流値が前記短絡された期間内の所定の期間において所定の電流値範囲に収まっている場合に、前記モータに回転異常が発生していると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記異常検知手段は、前記測定手段により測定された異なる2相の端子の電流値の両方が前記短絡された期間の終了時において所定の電流値範囲に収まっている場合に、前記モータに回転異常が発生していると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記測定手段により測定された電流値にしたがって前記モータの状態を推定する状態推定手段と、
前記状態推定手段によって推定された前記モータの状態に応じて所定の周期で前記モータのモータ制御を行う制御手段と、
を更に有し、
前記制御手段は、前記状態推定手段により状態異常が推定された場合に、前記異常検知手段に対して前記モータの各相の端子を短絡を指示する
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記状態推定手段は、推定速度と目標速度との差分が第1の閾値を超えた場合又は該差分を所定の期間積算した積算値が第2の閾値を超えた場合に、状態異常であると推定する
ことを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記駆動手段が前記モータを通常駆動している間に前記短絡が実行された場合、前記異常検知手段が回転異常を検知した場合は所定のエラー処理を実行し、前記異常検知手段が回転異常を検知しなかった場合は前記通常駆動に復帰する、よう制御する
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記所定のエラー処理は、前記モータ制御装置の再起動、前記モータ制御装置の緊急停止、前記モータ制御装置からアクセス可能なメモリへのエラー情報の記録、の1つ以上を含む
ことを特徴とする請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記通常駆動に復帰する場合、前記短絡に起因するモータ動作の変化を補償する追加制御を行う
ことを特徴とする請求項7に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記追加制御は、前記短絡を実行した期間に応じた前記状態推定手段の内部パラメータの調整を含む
ことを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記駆動手段が前記モータを通常駆動から停止状態に遷移させる間に前記短絡が実行された場合、前記異常検知手段が回転異常を検知した場合は所定のエラー処理を実行し、前記異常検知手段が回転異常を検知しなかった場合は前記短絡を再度実行することにより前記停止状態に遷移させる、よう制御する
ことを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記所定のエラー処理は、前記モータ制御装置の次回起動の不許可を含む
ことを特徴とする請求項10に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
モータを制御するモータ制御装置の制御方法であって、
前記モータ制御装置は、前記モータを駆動する駆動手段と、前記モータの各相の端子に流れる電流値を測定する測定手段と、を含み、
前記制御方法は、
前記モータの正常回転の周期に応じた期間だけ前記駆動手段による前記モータの駆動中に前記モータの各相の端子を短絡し、該短絡された期間において前記測定手段により測定された電流値に基づいて、前記モータの回転異常を検知する異常検知工程を含む
ことを特徴とする制御方法。
【請求項13】
コンピュータを、請求項1乃至11の何れか1項に記載のモータ制御装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御、特にモータの回転異常の検知に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洗濯槽兼脱水槽のドラムを回転駆動する洗濯機用のモータや、扇風機・送風機等のファンを回転駆動する扇風機用のモータには、一般的に三相ブラシレスDCモータが使用されている。この三相ブラシレスDCモータには、U相、V相、W相の三相のステータがあり、これら三相のステータに印加する電圧を制御することでモータを回転させることができる。また、このモータの回転負荷等に応じて変化する回転速度を検知し、制御にフィードバックする事で安定した回転速度を実現している。
【0003】
従来は、三相ブラシレスDCモータ内部にあるホールセンサ等のセンサを用いて回転速度を検知もしくは測定していた。しかしながら、近年はこれらのセンサを用いずに三相にかかる電流値から回転速度を推定する方式(センサレスベクトル制御)が広く用いられるようになってきた。
【0004】
しかし、センサを用いずにモータを制御する場合、モータに回転異常があった場合であっても直接その異常を検知できないという課題がある。そこで、例えば特許文献1では、角周波数の推定値と指令値に基づいて回転異常を判定している。また特許文献2では、電流のトルク成分の符号および有効電力の符号に基づいて回転異常を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4112265号公報
【文献】特開2001-286197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、センサレスベクトル制御で行う回転速度推定はモータが正常に回転していることを前提としており、異常時は正しい推定が得られないという課題がある。さらに推定した速度を用いる方法は、モータ起動時などの速度推定の安定していない期間に回転異常と誤検知する課題がある。
【0007】
また、モータ電流を用いた検知方法は、回転異常時にモータに流れる電流に複数のパターンがあり判断の切り分けが困難という課題がある。例えば、モータが外部要因によって停止したとしても、モータ制御によって正弦波電流を流し続けてしまう場合や、直流電流を流し続けてしまう場合がある。前者の場合はモータが異常停止しているにも関わらず正常回転していると判定してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、モータの回転異常をより好適に検出可能とする技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の問題点を解決するため、本発明に係るモータ制御装置は以下の構成を備える。すなわち、モータを制御するモータ制御装置は、
前記モータを駆動する駆動手段と、
前記モータの各相の端子に流れる電流値を測定する測定手段と、
前記モータの正常回転の周期に応じた期間だけ前記駆動手段による前記モータの駆動中に前記モータの各相の端子を短絡し、該短絡された期間において前記測定手段により測定された電流値に基づいて、前記モータの回転異常を検知する異常検知手段と、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、モータの回転異常をより好適に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】モータ制御装置の全体構成を示す図である。
図2】モータ制御装置に含まれるフィードバック制御部の構成を示す図である。
図3】モータ制御装置に含まれるドライバ部の構成を示す図である。
図4】通常駆動モードにおけるフローチャートである。
図5】異常検知モードにおけるフローチャートである。
図6】回転異常の判断方法を説明する図である(第1実施形態)。
図7】回転異常の判断方法を説明する図である(第2実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでするものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係るモータ制御装置の第1実施形態として、三相ブラシレスDCモータを駆動するモータ制御装置100を例に挙げて以下に説明する。
【0014】
<装置構成>
図1は、モータ101を制御するモータ制御装置100の全体構成を示す図である。モータ制御装置100は、統括制御・処理部102、フィードバック制御部103、ドライバ部106、モータ回転異常推定部109、モータ回転異常検知部110を含む。
【0015】
モータ101は、駆動対象のモータであり、例えば三相ブラシレスDCモータである。統括制御・処理部102は、モータ制御装置100各部の制御を司る。
【0016】
フィードバック制御部103は、モータの状態を推定しながら、駆動に必要な信号を所定のモータ制御周期毎に演算・出力する。フィードバック制御部103は、モータの速度や電流の状態に応じた閉ループ制御の演算を行なうモータ制御部104と、モータ速度等を推定する状態推定部105と、を含む。状態推定部105は、公知の任意の手法で速度推定を行い、例えば後述するモータ電流情報からモータに生じている誘起電圧を推定し速度推定を行なう。
【0017】
ドライバ部106は、モータ101を駆動する電気部品に相当する。ドライバ部106は、フィードバック制御部103からの指令信号を基に電圧のスイッチングを行なうモータドライバ107と、モータ101に流れる電流を測定するモータ電流測定部108と、を含む。モータドライバ107は、例えばFETを用いて電圧のスイッチングを行なう。モータ電流測定部108は、モータ101に流れる電流を例えばシャント抵抗で検出し、A/D変換を経てモータ制御装置100内各部にて電流情報として使用可能にする。
【0018】
モータ回転異常推定部109は、状態推定部105やモータ電流測定部108の情報を基に、モータ101の異常が疑われるか否かを一次判定する機能を有し、詳細は図4を参照して後述する。モータ回転異常検知部110は、異常検知モード時に、モータ回転異常を判定する機能を有し、詳細は図5を参照して後述する。
【0019】
図2は、モータ制御装置100に含まれるフィードバック制御部103の構成を示す図である。内部は代表的なベクトル制御と呼ばれる手法を適用しており、所定のモータ制御周期毎に演算を行なう。
【0020】
3相2相変換部200は、モータ電流測定部108の3相分の電流情報を、3相平衡正弦波であるという前提の基に、互いに直行する成分の2相電流成分に変換する。回転座標変換部201は、正弦波状に動作している2相電流を、固定座標系から回転座標系に変換し、磁束成分を示すd軸電流とトルク成分を示すq軸電流とに変換する。
【0021】
状態推定部105は、前述の通りモータ電流情報から速度推定を行なう。d軸PI制御部202は、測定されたd軸電流と状態推定部105より決定される目標d軸電流との差分に応じたフィードバック演算を行なう。q軸PI制御部203は、測定されたq軸電流と状態推定部105より決定される目標q軸電流との差分に応じたフィードバック演算を行なう。
【0022】
固定座標変換部204は、d軸PI制御部202およびq軸PI制御部203より算出された電圧指令値を、回転座標系から固定座標系に変換する。動作としては回転座標変換部201の逆の動作を行う。2相3相変換部205は、固定座標変換部204からの2相電圧を、3相平衡正弦波であるという前提の基に3相電圧に変換する。動作としては3相2相変換部200の逆の動作を行う。
【0023】
なお、図2に示すフィードバック制御部103の構成は一例であり、例えば目標d軸電流を0(ゼロ)に固定化してもよいし、磁束補償などのその他の仕組みを入れてもよい。
【0024】
図3は、モータ制御装置100に含まれるドライバ部106の構成を示す図である。ドライバ部106は、モータドライバ107とモータ電流測定部108とを有する。
【0025】
上述のように、モータドライバ107は、電源をスイッチングすることでモータ101に電力を供給する。具体的には、モータ101の3相(U相V相W相)それぞれに、FET300を介して電源とGNDを接続し、FET300をフィードバック制御部103からの信号に基づいて制御することでモータ101を駆動する。なお、図3においては、FET300は、3相それぞれにおいて電源側及びGND側に配置されるため計6個のFETが存在する。
【0026】
また、上述のように、モータ電流測定部108は、モータ電流301を検出し、モータ制御装置100内の各部にて電流情報として使用可能にする。具体的には、モータ電流301を電圧として検出するための抵抗302を配置し、FET300のうちGND側がONになっているタイミングにて抵抗302におけるモータ電流301の測定を行う。A/D変換部303は、抵抗302に生じる電圧をデジタル値に変換する。また代表的には電圧を増幅するアンプ機能も含む。
【0027】
<装置の動作>
図4は、通常駆動モードにおけるモータ動作のフローチャートである。本フローの各実行指示や分岐判断は統括制御・処理部102が行う。
【0028】
S400では、統括制御・処理部102は、モータ電流測定部108を制御しモータ電流の測定結果を取得する。S401では、統括制御・処理部102は、フィードバック制御部103を制御しモータ制御に必要な演算を行う。
【0029】
S402では、統括制御・処理部102は、モータ回転異常推定部109により状態異常が推定されたか否かに応じて動作を分岐する。状態異常が推定された(S402でYes)場合は、S405へ進み異常検知モードへと移行する。状態異常が推定されなかった(S402でNo)場合はS403に進み通常駆動を継続する。
【0030】
S402の分岐はモータ回転異常判断の一次判定にあたり、異常推定の判定にはフィードバック制御部103での演算内部値を用いればよい。例えば、状態推定部105で推定したモータ回転速度(推定速度)と、目標としている速度(目標速度)との差分が閾値を超えるか否かに基づいて判定する。あるいは、差分を所定の期間積算し、積算値が閾値を超えるかどうかで判定する。別の例では、モータ電流測定部108から得られる電流値またはそれを変換した値が、閾値を超えるかどうか、もしくは所定の期間積算して閾値を超えるかどうかで判断する。
【0031】
S403では、統括制御・処理部102は、フィードバック制御部103による演算結果に基づいてモータドライバ107を駆動する。
【0032】
S404では、統括制御・処理部102は、駆動終了するか否かを判定する。駆動終了する(Yes)であれば処理を終了し、駆動終了しない(No)場合はS400に戻り処理を継続する。S400~S404のループは、所定のモータ制御周期にて繰り返される。
【0033】
図5は、異常検知モードにおけるモータ動作のフローチャートである。本フローの各実行指示や分岐判断は統括制御・処理部102が行なう。
【0034】
S500は図4のS405から繋がるノードである。またS501は図4のS406へと繋がるノードである。
【0035】
S502では、統括制御・処理部102は、モータ制御部104を介してモータドライバ107に対しショートブレーキの設定を行なう。ここで、ショートブレーキとは、モータ101の各端子を短絡する動作である。具体的には、モータドライバ107にあるFET300のうち、電源側のFETをOFF(通電停止)に設定しGND側のFETをON(GNDに短絡)に設定することで実現する。
【0036】
ショートブレーキを行った際に、モータ101が回転していたら、モータ101の慣性およびインダクタンス成分によって電流が流れることになる。そのため、モータ抵抗(不図示)や電流検出用の抵抗302等によってモータ101のエネルギーが熱として消費される。そのため、この電流の有無を検出することでモータの回転異常の確定判断を行う。。
【0037】
S503では、統括制御・処理部102は、状態推定部105を介してモータ電流測定部108の結果を取得する。取得した電流値は、モータの回転異常の確定判断に用いる。
【0038】
S504では、統括制御・処理部102は、ショートブレーキを所定時間実行しモータ電流を測定したか否かを判定する。ショートブレーキを所定時間実行した場合(Yes)はS505へと進む。ショートブレーキを所定時間実行していない場合(No)はS503に戻り、所定のモータ制御周期にてループ(S503及びS504)を繰り返す。
【0039】
S505では、統括制御・処理部102は、モータ回転異常検知部110に対して、モータ回転異常を確定判断するよう制御する。モータ回転異常検知部110は、S503で測定されたショートブレーキ時のモータ電流301の情報に基づいてモータ回転異常の確定判断を行う。モータ回転異常が検知された(Yes)場合はS506へと進み、モータ制御装置100全体をエラー処理へと移行する。モータ回転異常が検知されなかった(No)場合はS501に進み通常駆動モードへと戻り、モータ回転制御を継続する。
【0040】
S506では、統括制御・処理部102は、エラー処理を実行する。エラー処理の内容は任意であり、例えば、モータ制御装置100全体の再起動、モータ制御装置100の緊急停止、モータ制御装置100からアクセス可能な外部又は内部のメモリ(不図示)へのエラー情報の記録、などがある。
【0041】
<回転異常判定の詳細>
図6は、第1実施形態における回転異常の判断方法を説明する図である。すなわち、モータ回転異常検知部110が図5のS505で実施する判断を説明する図である。図6(a)は、モータ101が正常に駆動していた場合の電流値の時間変化の例を示している。一方、図6(b)は、モータ101が異常停止していた場合の電流値の時間変化の例を示している。なお、図6(b)では、ショートブレーキ設定期間601に先行する期間において電流波形600が正弦波を維持している状態を示しているが、回転異常が生じている時の電流波形は正弦波とは限らない。
【0042】
電流波形600は、例えばモータ101に流れる3相(U相V相W相)電流のうちの1相(例えばU相)電流の波形である。ショートブレーキ設定期間601は、図5のループ(S503~S504)に相当する期間である。(ショートブレーキ設定期間601の期間内に設定された)回転異常判断期間602及び回転異常判断範囲603は、それぞれ、回転異常か否かの判定するための時間方向及び振幅方向の電流値範囲を規定する。
【0043】
例えば、U相電流600が回転異常判断期間602内で回転異常判断範囲603内に収まっている場合は回転異常と判断し、そうでなければ正常と判断する。これは、モータ101が停止していた場合は、モータ慣性に起因する電流は生じないためU相電流600の振幅は収束するためである。一方、モータ101が回転していた場合、ショートブレーキ設定期間601においてもモータ101の慣性およびインダクタンス成分によって電流が流れることになる。そのため、ショートブレーキ設定期間601においても正弦波状のU相電流600がある程度維持されることになる。
【0044】
なお、ショートブレーキ設定期間601において回転異常判断期間602を短く設定しすぎると、モータが回転している場合であってもU相電流の変化が回転異常判断範囲603内に収まることがある。そのため、回転異常判断期間602をある程度長くする(例えば正常回転時の正弦波周期の1/2に相当する時間以上)ことが望ましい。また、回転異常判断範囲603は、例えば正常回転時の正弦波振幅の1/3に相当する振幅以下に設定するとよい。
【0045】
モータの回転が正常と判断された場合は、ショートブレーキ設定期間601終了後に通常駆動を再開することになる。その際には、ショートブレーキ設定期間601によるモータ動作の変化を補償すべく、フィードバック制御部103の内部で管理している情報(内部パラメータ)を変更ないし更新する追加制御を行ってもよい。例えば、モータ101の推定位置情報(角度、積分値など)を、回転異常判断期間602に応じて補正してもよい。また、ショートブレーキ設定期間601で低下した速度や電流を速やかに通常状態に復帰するため、フィードバック制御のゲイン設定を変更してもよい。
【0046】
以上説明したとおり第1実施形態によれば、モータ制御装置100はモータ101駆動中にショートブレーキ動作を挿入する。そして、ショートブレーキ動作期間(ショートブレーキ設定期間601)における3相(U相V相W相)電流の1つの経時変化に着目してモータ101の回転異常状態を判定する。この構成により、センサレスベクトル制御にて駆動するモータにおいても、モータの回転異常を高精度に検出することができる。
【0047】
なお、上述の説明では、モータ回転異常推定部109によるモータ回転異常判断の一次判定を行った後に、モータ回転異常検知部110によるショートブレーキによる確定判断を行う構成としたが、一次判定を行わない構成としてもよい。例えば、ユーザにより指示された場合にショートブレーキによる確定判断を行う構成でもよいし、定期的にショートブレーキによる確定判断を行う構成でもよい。
【0048】
(第2実施形態)
第2実施形態では、モータの回転異常の確定判断における別の形態について説明する。具体的には、ショートブレーキ動作期間(ショートブレーキ設定期間601)における3相(U相V相W相)電流の2つの経時変化に着目してモータ101の回転異常状態を判定する。なお、装置構成及び動作は第1実施形態(第1~図5)と同様であるため説明は省略する。
【0049】
<回転異常判定の詳細>
図7は、第2実施形態における回転異常の判断方法を説明する図である。すなわち、モータ回転異常検知部110が図5のS505で実施する判断を説明する図である。図7(a)は、モータ101が正常に駆動していた場合の電流値の時間変化の例を示している。一方、図7(b)は、モータ101が異常停止していた場合の電流値の時間変化の例を示している。
【0050】
電流波形700および701は、例えばモータ101に流れる3相(U相V相W相)電流のうちの2相(例えばU相およびV相)の電流の波形である。ショートブレーキ設定期間601は、図5のループ(S503~S504)に相当する期間である。回転異常判断範囲603は、回転異常か否かの判定するための振幅方向の範囲を規定する。
【0051】
すなわち、第2実施形態においては、第1実施形態における回転異常判断期間602は使用されない。第2実施形態では、ショートブレーキ設定期間601の終了タイミングにおけるU相の電流波形700およびV相の電流波形701が回転異常判断範囲603に収まっているかに基づいて回転異常を確定判断する。具体的には、U相およびV相の両方が回転異常判断範囲603に収まっている場合に回転異常と確定判断し、そうでなければ正常と確定判断する。すなわち、3相(U相V相W相)電流が3相平衡正弦波電流であるという前提から、2相の電流に対して判定を行うことにより回転異常による電流収束が発生しているか否かの判定をすることが出来る。
【0052】
そのため、第2実施形態においては、第1実施形態における回転異常判断期間602は不要であり、ショートブレーキ設定期間601も第1実施形態に比較して短く設定することが出来る。ただし、モータが正常回転している際に、U相電流とV相電流に関して一方が範囲内に収まるタイミングでう一方が範囲外になるよう回転異常判断範囲603を調整して設定する。
【0053】
以上説明したとおり第2実施形態によれば、モータ制御装置100はモータ101駆動中にショートブレーキ動作を挿入する。そして、ショートブレーキ動作期間(ショートブレーキ設定期間601)終了時における2相の電流値に着目してモータ101の回転異常状態を判定する。この構成により、センサレスベクトル制御にて駆動するモータにおいても、モータの回転異常を高精度に検出することができる。
【0054】
(変形例)
ショートブレーキ動作の挿入は、上述のように通常駆動中に実施する他に、通常駆動から停止状態に遷移するための停止シーケンスである減速中に実施することも考えられる。この場合、モータ101が正常回転していたか回転異常だったかの結果に応じて、次回起動の許可を判断(つまり、回転異常の場合は次回起動を不許可)したり、ユーザに故障判定を通知したりしてもよい。また、判定結果が正常回転であってもその後の回転継続が必要ないので、ショートブレーキを再度実行しモータを停止させるよう構成してもよい。
【0055】
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0056】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0057】
100 モータ制御装置; 101 モータ; 102 統括制御・処理部; 103 フィードバック制御部; 104 モータ制御部; 105 状態推定部; 106 ドライバ部; 107 モータドライバ; 108 モータ電流測定部; 109 モータ回転異常推定部; 110 モータ回転異常検知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7