(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工方法、および、物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/046 20140101AFI20240109BHJP
B23K 26/142 20140101ALI20240109BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240109BHJP
【FI】
B23K26/046
B23K26/142
B23K26/00 M
(21)【出願番号】P 2019173340
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊哉
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093148(WO,A1)
【文献】特開2001-176770(JP,A)
【文献】特開平11-154636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/046
B23K 26/142
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源からの光を対象物に照射し、前記対象物を加工する加工装置であって、
前記光を前記対象物に導く複数の光学素子を有する光学ユニットと、
前記複数の光学素子間に流体を流入する流入部と、
前記
光学ユニットと前記対象物の間にガスを噴射する
噴射部と、を備え、
前記
噴射部
により噴射されるガスの量に応じて前記流入部による流体の流入量を
調整することによって、前記複数の光学素子間の流体の屈折率を変化させて、前記光学ユニットから前記対象物に前記光を照射することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
レーザ光源からの光を対象物に照射し、前記対象物を加工する加工装置であって、
前記光を前記対象物に導く複数の光学素子を有する光学ユニットと、
前記複数の光学素子間に流体を流入する流入部と、
前記光学ユニットと前記対象物の間にガスを噴射する噴射部と、
前記流入部を制御する制御部と、
前記噴射部内の圧力を測定する測定部
と、を備え、
前記制御部は、前記測定結果に基づい
て前記流体の流入量を制御する
ことによって、前記複数の光学素子間の流体の屈折率を変化させて、前記光学ユニットから前記対象物に前記光を照射することを特徴とす
るレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記噴射部内の圧力が高いほど、前記流体の流入量が多くなるように前記流入部を制御することを特徴とする請求項
2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記流体はガスであって、
前記流入部は、前記噴射部と前記光学素子間へ前記ガスを分岐させる分岐部を備えることを特徴とする請求項
1乃至
3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記光学ユニットは、移動可能な光学素子と、
前記移動可能な光学素子を駆動する駆動機構を備え、
前記移動可能な光学素子を駆動することで前記光の集光点の位置を調整することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記流入部と前記駆動機構を制御することによって、前記光の集光点の位置を調整することを特徴とする請求項
5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記流入部は、前記複数の光学素子間とは別の複数の光学素子間にも前記流体を流入することを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記流入部は、複数種類の流体を選択的に前記複数の光学素子間に流入することを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記流体の温度を調整する温調部を備え、
前記温調部を制御することによって前記流体の屈折率を調整することを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
前記複数の光学素子間の少なくとも一方の面は曲面であることを特徴とする請求項1乃至
9のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
請求項1ないし1
0のうちいずれか1項に記載のレーザ加工装置を用いて物体の加工を行う加工工程と、
前記加工工程で前記加工が行われた前記物体に対して前記加工工程とは異なる処理を行う処理工程と、を含み、処理された物体から物品を得ることを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置、レーザ加工方法、および、物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置はレーザ光を複数の光学素子および反射部材を用いて集光させる。そして、レーザエネルギー密度を増大させることで対象物を融解または蒸発させ、マーキングや切断・穴あけ・溶接・焼き入れなどの加工を行う装置である。レーザ加工装置による加工において、加工対象物の物体表面が凹凸形状や曲面形状である場合には、物体の表面位置とレーザ光の焦点位置とを正確に一致させる必要がある。
【0003】
焦点距離の調整手段としては、加工対象物をレーザ集光点に合わせる方法とレーザ加工装置内の光学レンズを光軸方向に位置調整することで焦点を合わせる方法などが挙げられる。また、特許文献1では、ミラー内部の流体の圧力を制御することによって反射面の曲率を凹面または凸面とし、焦点距離を変更している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案されている手段だと、レンズの曲率を変化させるためには、現実的にはレンズ形状の制約条件が限られてしまい、焦点距離の柔軟な調整が困難であった。
【0006】
そこで本発明は、例えば、より柔軟に精度よく焦点位置を調整できるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、レーザ光源からの光を対象物に照射し、前記対象物を加工する加工装置であって、前記光を前記対象物に導く複数の光学素子を有する光学ユニットと、前記複数の光学素子間に流体を流入する流入部と、前記光学ユニットと前記対象物の間にガスを噴射する噴射部と、を備え、前記噴射部により噴射されるガスの量に応じて前記流入部による流体の流入量を調整することによって、前記複数の光学素子間の流体の屈折率を変化させて、前記光学ユニットから前記対象物に前記光を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、より柔軟に精度よく焦点位置を調整できるレーザ加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る加工装置の構成を示す概略図である。
【
図2】実施例1に係る加工装置の構成を示す概略図である。
【
図3】実施例1に係る複数の光学素子間に流体を流入する処理を説明する図である。
【
図4】実施例1に係る集光点位置の調整処理の一例を示すフロー図である
【
図5】実施例2に係る加工装置の構成を示す概略図である。
【
図6】第2実施形態に係るノズル部周辺の模式図である。
【
図7】第2実施形態に係る集光点位置の調整処理の一例を示すフロー図である。
【
図8】第3実施形態に係るノズル部周辺の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、実施形態を説明するための全図を通して、原則として(断りのない限り)、同一の部材等には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。
図1は、第1実施形態に係る加工装置100の構成を示す概略図である。加工装置100は、光源からの光(レーザ光)を用いて対象物(物体)を加工するレーザ加工装置である。本実施形態では、加工装置100はレーザ光源を含むレーザ発振器101(光源部)から射出されたレーザ光を対象物103上に集光させて集光点107を形成し、かかる集光点107を移動させながら対象物の加工エリア(目標位置)に対して加工を行う。
【0012】
加工装置100は、レーザ発振器101から射出されたレーザ光102を対象物103に照射する。加工装置100は、複数の光学素子104(光学ユニット)、ノズル部105(噴射部)、流路106、および制御部108を含む。レーザ発振器101から射出されたレーザ光102は、レーザ加工装置100内の複数の光学素子104を通過し、ノズル部105を介して出射され、対象物103に照射される。
【0013】
複数の光学素子間の空間には、流体を流入させるための流路106が形成されている。流体を複数の光学素子間に流入させることで、複数の光学素子間の流体の屈折率を変化させることができる。つまり、制御部211が流入部による流体の流入量を制御することによって、レーザ集光点位置を調整することができる。ここで、流体は、液体およびガスを含むが、液体よりもガスの方が制御が容易となるため、ガスであることが好ましい。
【0014】
制御部108は、加工装置100の各部およびレーザ発振器101を制御し、例えば、外部装置としてのPC(パーソナルコンピューター)109と接続されてもよい。ユーザは、PC109を操作することにより、加工装置100を操作することがきる。
【0015】
(実施例1)
図2は、実施例1に係る加工装置200の構成を示す概略図である。
図2を用いて、本実例の加工装置200の詳細について説明する。加工装置200は、コリメートレンズ部203、ガルバノミラー204、205、集光レンズ部206、ノズル部208、および、制御部211を含む。
【0016】
加工装置200内に入ったレーザ光202はコリメートレンズ部203に配置されたコリメートレンズ群を通ってコリメート光となる。なお、コリメートレンズ群の他に、例えば、レーザは発振器からのレーザ光を所定の光量、および、光束径にするための光学系を含んでいてもよい。コリメート光は出射方向を偏向するためガルバノミラー204,205を介して集光レンズ部206に配置された集光レンズ群、カバーガラス207を通り、ノズル部208出口部を介して出射される。
【0017】
ガルバノミラー204はガルバノモータ209に支持され、ガルバノミラー205はガルバノモータ210に支持されている。ガルバノモータ209および210は、制御部211からの駆動信号に応じて回転することで、ガルバノミラー204および205による出射角度をそれぞれ任意に偏向し、レーザ光202を、対象物上において走査させることができる。すなわち、ガルバノミラー204および205は、偏向光学系として機能し、ガルバノミラー204および205は、光の入射位置(x、y)を調整する機構であるといえる。ガルバノミラー204および205は、レーザ光の焦点方向に垂直な方向においてレーザ光が対象物に入射する入射位置を調整する。
【0018】
集光レンズ群(集光光学系)は、対象物上に集光するため、光の焦点位置(z)を変更する光学系である。
【0019】
加工装置200は、例えば、集光点の位置(集光位置、焦点位置)を変更するための焦点調整機構212を備えていても良い。焦点調整機構212は、例えば、
図2に示すように、コリメートレンズ部203とガルバノミラー204および205との間に配置される。焦点調整機構212は、対象物に対して所定のz位置、即ち、目標位置(z)にレーザ光が集光するように、レーザ光の光路を調整する。焦点調整機構212は、例えば、駆動レンズ等の移動可能な光学素子を含み、駆動レンズをアクチュエータ等の駆動機構217で駆動することで対象物に対するレーザ光の集光位置を調整する。焦点調整機構212において、駆動レンズを駆動することで目標位置(z)を集光位置にすることができる。但し、焦点調整機構212は、
図2に示す構成に限定されるものではなく、目標位置(z)を集光位置にする機能を有していればよい。加工装置200が焦点調整機構212を備える場合、ガルバノモータ209および210と合わせて任意の3D加工が可能となる。
【0020】
制御部211は、CPUやメモリなどを含むコンピュータで構成され、メモリに記憶されたプログラムに従って加工装置200の各部を統括的に制御して加工装置200を動作させる。例えば、制御部211は、対象物に対して所定の加工(例えば、穴あけ)を行うために、加工装置200の各部に加工指令を与える。加工指令は、例えば、入射角度の調整、集光位置の調整及び入射位置の調整に関する駆動指令であって、各部の駆動量、駆動速度、駆動順序、駆動待機時間、などを含む。
【0021】
ノズル部208は、カバーガラス207の後側(後段)に配置され、集光レンズ群と対象物との間にガスを噴射する。ノズル部208は、継手213aを介して、流路214a(供給管、チューブ)の一端と接続される。ノズル部用の流路214aの他端は、供給源215aと接続され、供給源215aから供給されるガスをノズル部208へ供給する。ガスの供給量や供給タイミング等は制御部211によって制御される。ノズル部208へ供給されたガスは、ノズル内部を通過して、ノズル部208の噴射口から加工対象物へ吹き付けられる(噴射される)。なお、ここで、ノズル部208へのガスの供給量は、ノズル部208により対象物に吹き付けられるガスの量であるともいえる。このようなガスは、アシストガスともよばれ、対象物を加工する際の加工促進、対象物を加工した際に発生する加工ゴミの除去、加工装置200を構成する各調整機構の光学部材などへの加工ゴミの付着防止を目的とするものである。使用するガスは使用用途によって様々だが、溶接などでは、窒素やアルゴン、ヘリウムなどが使われ、スパッタやヒュームから加工レンズを守る際は、エアー(空気)などで圧力を高めて噴射したりする。
【0022】
カバーガラス207は、ノズル部208と集光レンズ群の間に配置され、ノズル内部空間と集光レンズ群が配置される空間とを仕切っている。アシストガスの供給量を多くすればするほどノズル内部圧力があがるため、ノズル内部空間におけるアシストガスの屈折率が変化し、結果、焦点位置が変動する。焦点位置の変動量(ずれ量)は、ノズル内部圧力が上昇するほど大きくなる。焦点位置が理想の位置とずれていると、レーザエネルギー密度が弱くなり所望のレーザ加工ができなくなる。
【0023】
レーザ加工のアシストガスとして一般的に使われる窒素(N2)やアルゴン(Ar)を使用することも空気と比べて屈折率が違うため、焦点位置変動の要因となる。ノズル内部空間が広いほど、屈折率の影響を受けやすいので、ノズル内部空間は狭くする方が好ましい。
【0024】
集光レンズ群に含まれる複数の光学素子間の空間には、流入部が構成される。流入部は、継手213b、流入部用の流路214b(流入管、チューブ)、および、流入源215bを含む。集光レンズ群に含まれる複数の光学素子間の空間は、継手213bを介して、流路214bの一端と接続される。流路214bの他端は、流入源215bと接続され、流入源215bから供給される流体を光学素子間の空間へ流入する。光学素子間に流体を流入させることで、光学素子間の流体の屈折率を変化させ、結果として、集光点位置を調整することができる。この時、流体を入れる空間は敏感度が高い光学素子と接する空間であることが好ましい。このような構成とすることで、光学素子間に流体を流入させることによる焦点位置の調整範囲を確保できる。流体の流入量や流入タイミング等は制御部211によって制御される。即ち、制御部211は、光学ユニットから出射される光の集光点の位置を調整するように、流入部による流体の流入量を制御する。
【0025】
図3は、実施例1に係る複数の光学素子間に流体を流入する処理を説明する図である。
図3(A)は、ノズル部208および集光レンズ部206の拡大図である。
図3(B)は、集光レンズ群の概略図である。本実施例において、集光レンズ群は、一例として、3枚の光学素子206a、206b、および、206cを含む。本実施例では、複数の光学素子間として、光学素子206bと光学素子206cとの間の空間Sに流体を流入する。
図3(C)は、空間Sの空気圧変化とこれに伴う焦点位置の変化の数値例を示す図である。以下の表1は、
図3(C)を表にしたものである。なお、ここでは、一例として、空間Sに流入する流体を空気としている。
【表1】
表1中の圧力を示す数値は、空間Sの圧力を示している。「屈折率」は、圧力に対応する空間Sにおける流体の屈折率を示している。「近軸焦点位置」は、屈折率が変化したことによる焦点位置の変化量を示している。変化量の数値が上がるほど、焦点位置は-Zマイナス方向へ変化する。
図3(C)および、表1からわかるように、空間Sの圧力が上昇するほど、焦点位置は大きく変化する。換言すると、空間Sへの流体の流入量を多くするほど焦点位置を大きく変化させることができる。
【0026】
上述したように、ノズル内部空間の圧力が上昇するほど、集光点の目標位置からのずれ量は大きくなる。したがって、制御部211は、ノズル内部空間の圧力が高いほど、換言すると、ノズル部208へのガスの供給量が多いほど、複数の光学素子間への流体の流入量が多くなるように流入部を制御する。
【0027】
次に、
図4を参照して、本実施例の集光点位置の調整処理について説明する。
図4は、実施例1に係る集光点位置の調整処理の一例を示すフロー図である。このフロー図で示す各動作(ステップ)は、制御部211によって実行されうる。まず、制御部211は、ノズル部208からアシストガスを噴射させる(S401)。そして、制御部211は、アシストガスによる集光点のずれ量を取得する(S402)。具体的には、例えば、ノズル部208へのアシストガスの供給量に基づいて、制御部211による演算によってずれ量を算出しても良いし、アシストガスの供給量に対応するずれ量のテーブル等を記憶し、記憶されたテーブルに基づいて、ずれ量を取得しても良い。
【0028】
その後、制御部211は、S402において取得したずれ量に基づいて、光学素子間に流入する流体の流入量を決定する(S403)。そして、S403において決定された供給量の流体を光学素子間に流入する(S404)。これにより、アシストガスに起因する集光点のずれを補正することができる。
【0029】
なお、屈折率を変化させるために流体を流入する空間は1箇所である必要はなく、複数の空間に流体を流入させるように構成することが好ましい。具体的には、空間Sとは別の複数の光学素子間流体を流入する。このように構成することにより、より柔軟に焦点位置を調整することが可能となる。また、焦点位置の調整範囲を拡大することができる。
【0030】
さらに、流体は1種類である必要はなく、複数の光学素子間に複数の流体を流入し、焦点距離を調整しても良い。具体的には、例えば、ある複数の光学素子間の空間にはエアー、別の複数の光学素子間の空間には窒素等、複数種類の流体を選択的に複数の光学素子間に流入することとしても良い。
【0031】
また、流体を流入させる光学素子間はOリングやシール材などで密閉空間にすると、屈折率の変化効率がさらに高まるため好ましい。この場合、流路側もバルブ等で防ぐ必要があるが、密閉度を高めることで、長期に渡って焦点位置を制御する場合には有効である。
【0032】
また、流入圧のみならず、流体の温度を調整することでさらに空間Sにおける流体の屈折率を変化させても良い。この場合、流入部は、流体の温度を調整する温調部、例えばヒーターやペルチェ素子を備え、制御部211は、温調部を制御することによって流体の屈折率を調整する。このとき、流体を流入する空間単独の温度が調整できることが好ましいため、例えば、流入の対象となる空間を囲っている保持部前後には断熱材を挟む、または、低熱膨張材(例えば、インバー材)を使用すると良い。また、保持部自体は低熱膨張材にすることが望ましい。
【0033】
また、本実施例においては、アシストガスに起因する集光点のずれを補正する例を説明したが、これに限られるものではない。例えば、閾値以上の焦光点位置の調整については焦点調整機構212を用いて行い、閾値未満の焦点位置の調整については光学素子間に流体を流入することにより行う等、調整量に応じて使い分けても良い。このように構成することで、より細かな焦点位置の調整が可能となり、例えば、微細な3D加工を行う場合等に有利である。
【0034】
(実施例2)
図5は、実施例2に係る加工装置250の構成を示す概略図である。本実施例の加工装置250は、焦点調整機構212を備えない。加工装置250は、焦点調整機構212を備えずに、複数の光学素子間への流体の流入のみで、目標位置(z)にレーザ光が集光するように、焦点位置を調整する。本実施例において、制御部211は、集光点の目標位置(z)に応じて、流体の流入量を決定する。なお、このとき、アシストガスに起因する集光点のずれ量を考慮して流入量を決定することが好ましい。そして、決定した流入量に応じて、光学素子間に流体を流入する。
【0035】
本実施例のようにレーザ加工装置が焦点調整機構212を備えない場合、敏感度が高い光学素子間に流体を流入することが好ましい。具体的には、例えば、複数の光学素子間の少なくとも一方の面は曲面である空間に流体を流入する。より好ましくは、集光レンズのうち、曲率がより高い曲面と接する空間に流体を流入する。また、複数の空間に流体を流入可能に構成すると、さらに好ましい。
【0036】
本実施例によれば、焦点調整機構212を備える必要がないため、装置構成を簡易化することができる。また、焦点調整機構212を備えて焦点調整機構212のみによって焦点位置を調整する場合と比較して、細かな調整を行うことが可能となり、例えば、微細な3D加工に適している。
【0037】
〔第2実施形態〕
図6は、第2実施形態に係るノズル部208周辺の模式図である。上述の実施形態と同様の部分については説明を省略する。本図に示さない構成は、上述の実施形態とほぼ同じである。本実施形態では、第1実施形態に加えてノズル部208の内部圧力を測定するための測定部として、流路214aに圧力センサ303が配置されている。また、複数の光学素子間の圧力を測定するための測定部として流路214bに圧力センサ305が配置されている。
【0038】
図7を参照して、第2実施形態の集光点位置の調整処理について説明する。
図7は、第2実施形態に係る集光点位置の調整処理の一例を示すフロー図である。このフロー図で示す各動作(ステップ)は、制御部211によって実行されうる。なお、本フローにおけるS401、S403およびS404の動作は
図4とほぼ同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0039】
アシストガスを噴射(S401)後、圧力センサ303により、ノズル部208の内部圧力を測定する(S702)。そして、制御部211は、圧力センサ303の測定結果に基づいて、アシストガスにより集光点のずれ量を取得する。具体的には、例えば、制御部211による演算によってずれ量を算出しても良いし、圧力に対応するずれ量のテーブル等を記憶し、記憶されたテーブルに基づいて、ずれ量を取得しても良い。次に、制御部211は、S703で取得したずれ量に基づいて流体の供給量を決定し(S403)、流入部99によって光学素子間に流体を流入する(S404)。そして、流体を流入した光学素子間の圧力を圧力センサ305で測定する(S706)。制御部211は、光学素子間の圧力が目標値となっているか否かを判定する(S707)。光学素子間の圧力が目標値となっていない場合(No)、S404およびS706を光学素子間の圧力が目標値となるまで繰り返す。S707において、光学素子間の圧力が目標値となっている場合(Yes)、処理を終了する。
【0040】
本実施形態によれば、圧力センサからの測定結果を元にフィードバックを行い、光学素子間に入れる流体流量を調整することが可能となるため、より精度良く焦点位置を調整することが可能となる。
【0041】
なお、圧力センサ303および圧力センサ305は、例えば、
図6の圧力センサ304で示すように、流路内とは別口に配置されても良い。また、圧力センサ303および圧力センサ305のいずれか一方のみを備えていても良い。
【0042】
〔第3実施形態〕
図8は、第3実施形態に係るノズル部208周辺の模式図である。上述の実施形態と同様の部分については説明を省略する。本図に示さない構成は、上述の実施形態とほぼ同じである。本実施形態では、本実施形態では、第1実施形態に加えて流体が通過する流路に分配器413(分岐部)を配置し、ガスをノズル内部空間と光学素子間に分岐させる構成をとっている。
【0043】
例えば、アシストガスの噴射量が一定である場合などは、予めノズル内部空間のアシストガスの屈折率に対する光学素子間への流体の流入量が分かっていれば、分配器413を用いて一つの流路から集光点を調整することが可能となる。この場合、フィードバックを行わなくても良い。そのため、調整量によって分配器は2分岐に限らず、それ以上の分配数であっても良い。なお、分配器を用いる場合、複数の空間には同じ流体を流入することとなる。
【0044】
本実施形態によれば、供給源と流入源をそれぞれ構成する必要がなく、一つとすることができるため、装置を簡易化することができる。
【0045】
〔物品製造方法に係る実施形態〕
以上に説明した実施形態に係る加工装置は、物品製造方法に使用しうる。当該物品製造方法は、当該加工装置を用いて物体(対象物)の加工を行う工程と、当該工程で加工を行われた物体を処理する工程と、を含みうる。当該処理は、例えば、当該加工とは異なる加工、搬送、検査、選別、組立(組付)、および包装のうちの少なくともいずれか一つを含みうる。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストのうちの少なくとも1つにおいて有利である。
【0046】
〔その他の実施形態〕
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である
【符号の説明】
【0047】
100,200 加工装置
101 レーザ発振器
103 対象物
105,208 ノズル部
108,211 制御部
212 焦点調整機構