(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ設計システム、眼鏡レンズ設計方法、及び眼鏡レンズ設計プログラム
(51)【国際特許分類】
G02C 13/00 20060101AFI20240109BHJP
G02C 7/06 20060101ALI20240109BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240109BHJP
【FI】
G02C13/00
G02C7/06
G06F30/10
(21)【出願番号】P 2019176931
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】坂田 桂馬
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】田口 晋一郎
(72)【発明者】
【氏名】加賀 唯之
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-200612(JP,A)
【文献】特開2016-004178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 13/00
G02C 7/06
G06F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計システムであって、
処方データを取得する処方データ取得部と、
光学面を球面として眼鏡レンズを設計して、設計した眼鏡レンズの厚さが所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する適正レンズ厚さ情報生成部と、
前記処方データ及び前記適正レンズ厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する光学面計算部と、
を備え、
前記適正レンズ厚さ情報生成部は、
前記眼鏡レンズの中心肉厚の初期値を設定する中心肉厚設定ステップと、
前記設定した中心肉厚に基づき球面として光学面を設計する第1の光学面設計ステップと、
前記設計した光学面に基づきコバ厚を算出する第1のコバ厚算出ステップと、
前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすかどうか判定する第1の判定ステップと、を行い、
前記第1の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たさないと判定された場合には、前記眼鏡レンズの中心肉厚を再設定して前記第1の光学面設計ステップと、前記第1のコバ厚算出ステップと、前記第1の判定ステップとを繰り返し、
前記
適正レンズ厚さ情報は、前記第1の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすと判定された場合の中心肉厚を含
み、
前記光学面情報は、前記処方データ及び前記適正レンズ厚さ情報に基づき計算された、累進面を含む光学面の形状に関する情報を含む、
眼鏡レンズ設計システム。
【請求項2】
前記中心肉厚設定ステップでは、
指定された眼鏡レンズの中心肉厚の指定値にベースカーブに応じた係数を作用させて前記眼鏡レンズの中心肉厚の初期値を設定する、
請求項
1に記載の眼鏡レンズ設計システム。
【請求項3】
前記光学面計算部は、
前記適正レンズ厚さ情報に基づき累進面を含む光学面を設計する第2の光学面設計ステップと、
前記設計した累進面に基づきコバ厚を算出する第2のコバ厚算出ステップと、
前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすかどうか判定する第2の判定ステップと、を行い、
前記第2の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たさないと判定された場合には、前記適正レンズ厚さ情報の中心肉厚を再設定して前記第2の光学面設計ステップと、前記第2のコバ厚算出ステップと、前記第2の判定ステップとを繰り返し、
前記光学面情報は、前記第2の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすと判定された場合の光学面に関する情報を含む、
請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ設計システム。
【請求項4】
光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計システムであって、
処方データを取得する処方データ取得部と、
光学面を球面として眼鏡レンズを設計して、設計した眼鏡レンズの厚さが所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する適正レンズ厚さ情報生成部と、
前記処方データ及び前記適正レンズ厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する光学面計算部と、
を備え、
前記光学面計算部は、
前記
適正レンズ厚さ情報に基づき累進面を含む光学面を設計する第2の光学面設計ステップと、
前記設計した累進面に基づきコバ厚を算出する第2のコバ厚算出ステップと、
前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすかどうか判定する第2の判定ステップと、を行い、
前記第2の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たさないと判定された場合には、前記
適正レンズ厚さ情報の中心肉厚を再設定して前記第2の光学面設計ステップと、前記第2のコバ厚算出ステップと、前記第2の判定ステップとを繰り返し、
前記光学面情報は、前記第2の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすと判定された場合の光学面に関する情報を含む
、
眼鏡レンズ設計システム。
【請求項5】
光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計方法であって、
処方データを取得する処方データ取得ステップと、
光学面を球面としてレンズを設計して、設計したレンズの厚さが所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する適正レンズ厚さ情報生成ステップと、
前記処方データ及び前記
適正レンズ厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する光学面計算ステップと、
を備
え、
前記適正レンズ厚さ情報生成ステップでは、
前記眼鏡レンズの中心肉厚の初期値を設定する中心肉厚設定ステップと、
前記設定した中心肉厚に基づき球面として光学面を設計する第1の光学面設計ステップと、
前記設計した光学面に基づきコバ厚を算出する第1のコバ厚算出ステップと、
前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすかどうか判定する第1の判定ステップと、を行い、
前記第1の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たさないと判定された場合には、前記眼鏡レンズの中心肉厚を再設定して前記第1の光学面設計ステップと、前記第1のコバ厚算出ステップと、前記第1の判定ステップとを繰り返し、
前記適正レンズ厚さ情報は、前記第1の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすと判定された場合の中心肉厚を含み、
前記光学面情報は、前記処方データ及び前記適正レンズ厚さ情報に基づき計算された、累進面を含む光学面の形状に関する情報を含む、
眼鏡レンズ設計方法。
【請求項6】
光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計方法であって、
処方データを取得する処方データ取得ステップと、
光学面を球面としてレンズを設計して、設計したレンズの厚さが所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する適正レンズ厚さ情報生成ステップと、
前記処方データ及び前記適正レンズ厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する光学面計算ステップと、
を備え、
前記光学面計算ステップでは、
前記適正レンズ厚さ情報に基づき累進面を含む光学面を設計する第2の光学面設計ステップと、
前記設計した累進面に基づきコバ厚を算出する第2のコバ厚算出ステップと、
前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすかどうか判定する第2の判定ステップと、を行い、
前記第2の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たさないと判定された場合には、前記適正レンズ厚さ情報の中心肉厚を再設定して前記第2の光学面設計ステップと、前記第2のコバ厚算出ステップと、前記第2の判定ステップとを繰り返し、
前記光学面情報は、前記第2の判定ステップにおいて、前記算出したコバ厚が所定の条件を満たすと判定された場合の光学面に関する情報を含む、
眼鏡レンズ設計方法。
【請求項7】
コンピュータに、
請求項
5又は6に記載眼鏡レンズ設計方法を、実行させる眼鏡レンズ設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズ設計システム、眼鏡レンズ設計方法、及び眼鏡レンズ設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、眼鏡レンズの製造工場にはラボ管理システム(Lab Management System、以下「LMS」という)が設置されており、このLMSにより眼鏡店から眼鏡レンズの製造を受注し、受注した情報に基づき工場内の加工装置及び製造プロセスが制御、管理されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、眼鏡レンズの設計ベンダーが、眼鏡レンズの製造業者にレンズ設計システム(Lens Design Systems、以下「LDS」という)を提供し、眼鏡レンズの製造業者は処方データに基づきLDSに計算を実行させて、眼鏡レンズを設計・製造することが行われている。LDSの計算処理は、例えば、眼鏡店に設置された端末から入力された処方データに基づき、製造工場のサーバ上又は端末などのウェブサービス上で行われ、LDSの計算処理結果はLMSに出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計する場合には、初期設定されたレンズの中心肉厚に基づき累進面を含む光学面を設計し、設計した光学面の形状に基づきコバ厚を算出する。そして、算出したコバ厚が所定の閾値未満である場合には、レンズの中心肉厚を再設定し、再設定したレンズの中心肉厚に基づき光学面を設計し、コバ厚を算出する工程をコバ厚が閾値以上となるまで繰り返す。このため、累進面を含む光学面の設計を何度も繰り返すことになり、最終的な眼鏡レンズの形状が決定されるまで時間がかかる。特に、眼鏡店などにおいて、顧客と対面販売を行う場合には、顧客が注文しようとする眼鏡レンズの中心肉厚、コバ厚に関する問い合わせに回答にあたり、眼鏡レンズの形状が決まるまで顧客を待たせることになり、顧客の不満の原因となってしまう。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みなされたものであり、早期に光学面の形状を設計することができる眼鏡レンズ設計システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による眼鏡レンズ設計システムは、光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計システムであって、処方データを取得する処方データ取得部と、光学面を球面として眼鏡レンズを設計して、設計した眼鏡レンズの厚さが所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する適正レンズ厚さ情報生成部と、処方データ及び適性厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する光学面計算部と、を備える。
【0008】
本開示による眼鏡レンズ設計方法は、光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計方法であって、処方データを取得する処方データ取得ステップと、光学面を球面としてレンズを設計して、設計したレンズの厚さが所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する適正レンズ厚さ情報生成ステップと、処方データ及び適性厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する光学面計算ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、早期に光学面の形状を設計することができる眼鏡レンズ設計システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズ発注・加工システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLDSのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLDSの各機能部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLMSおよび加工機の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムの処理動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】適正レンズ厚さ情報生成部が、適正レンズ厚さ情報を生成し、光学面計算する流れを詳細に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズ設計システムについて説明する。
<1.眼鏡レンズ発注・加工システム>
以下、眼鏡レンズ発注・加工システム1について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズ発注・加工システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、眼鏡レンズ発注・加工システム1は、眼鏡レンズ設計システム(以下、「LDS」ともいう)100と、ラボ管理システム(以下、「LMS」ともいう)200と、端末装置300と、加工機400とを備える。
【0012】
LDS100と、LMS200と、端末装置300は、ネットワーク3を介して通信可能に接続されている。LMS200および加工機400は、LAN(Local Area Network)を介して互いに接続されている。ネットワーク3としては、例えば、TCP/IPなどの汎用のプロトコルに基づくインターネット、イントラネット、LAN、電話回線等の通信回線網が挙げられる。
【0013】
LDS100は、眼鏡レンズメーカの工場内に設置されていてもよく、外部に設置されていてもよい。LMS200と加工機400は、例えば、眼鏡レンズメーカの工場に設置される。
【0014】
端末装置300は、例えば、眼鏡店に設置される。端末装置300は例えばCPU、RAM、HDDを有するコンピュータからなり、CPUがHDDに記録されたプログラムを、RAM上をワークエリアとして各処理を実行する。端末装置300は、眼鏡店等で眼鏡の購入者に対する診断により作成された処方データの入力を入力インターフェースから受け付ける。
【0015】
<2.LDSのハードウェア構成例>
以下、LDS100のハードウェア構成について説明する。
図2は、
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLDSのハードウェア構成を示すブロック図である。
図2に示すように、LDS100は、例えば、LDS100全体の動作を制御するコンピュータ60と、操作表示部71と、操作入力部72を備える。
【0016】
コンピュータ60は、CPU61、RAM62、ROM63、HDD64、操作部出力I/F65、操作部入力I/F66、およびネットワークI/F67を備える。
【0017】
CPU(Central Processing Unit)61は、各種プログラムを実行する。CPU61は、ROM(Read Only Memory)63に格納されているブートプログラムに基づきシステムを起動する。さらに、CPU61は、HDD(ハードディスクドライブ)64に格納されている制御プログラムを読みだしてRAM(Randam Access Memory)62をワークエリアとして所定の処理を実行する。
【0018】
HDD64には、各種制御プログラム、及び、加工処理・レンズ厚データが格納されている。またHDD64には、ネットワークI/F67を介して装置外から取得したデータや、制御プログラムによる計算結果が格納される。
【0019】
操作部出力I/F65は、操作表示部71へのデータ出力通信制御を行う。操作部入力I/F66は、操作入力部72からのデータ入力通信制御を行う。ネットワークI/F67は、ネットワーク3に接続され、ネットワーク3を介した情報の入出力制御を行う。このように、各コンポーネント61~67はシステムバス68上に配置される。
【0020】
操作表示部71は、LCD(Liquid Crystal Display)やLED(Light Emitting Diode)等の表示装置を備えた、ユーザへの表示インターフェースである。操作入力部72は、タッチパネルやハードキーなどの入力装置を備えた、ユーザからの指示入力インターフェースである。
【0021】
LDS100は、操作表示部71、操作入力部72と接続されるサーバコンピュータやパーソナルコンピュータ等のコンピュータ60により実現することができる。
【0022】
CPU61が、HDD64に格納された制御プログラムをRAM62に読み出して実行することにより、LDS100の各ユニットの各機能を実現することができる。なお、各図において、本開示の本質に関わらない部分の構成については省略してあり、図示されていない。
【0023】
<3.LDSの各機能部の構成例>
以下、LDS100の各機能部の構成例について説明する。
図3は、
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLDSの各機能部の構成を示すブロック図である。
図3に示す各機能部は、LDS100のROM63又はHDD64に格納されているプログラムをCPU61が実行し、HDD64、操作部出力I/F65、操作部入力I/F66、及びネットワーク入力I/Fと協働することにより、LDS100上で実現される。なお、
図3では、本実施形態の説明に特に関連する機能部の構成を示している。
【0024】
図3に示すように、LDS100は、処方データ取得部110と、実凸面/加工特性取得部115と、設計データ生成部120と、加工用データ生成部130と、検査用基準データ生成部140と、データ出力部150とを備える。
(処方データ取得部)
【0025】
処方データ取得部110は、端末装置300に入力された眼鏡レンズの処方データを取得する。
【0026】
処方データは、球面屈折力(S度数)、円柱屈折力(C度数)、乱視軸方向(AX)、及び、加入度数(ADD)などの処方度数情報と、アイテム名などの商品情報と、瞳孔間距離(PD)及びアイポイントなどのレイアウト情報と、装用状態の情報と、最小中心肉厚/コバ厚の情報と、を含む。
【0027】
(実凸面/加工特性取得部)
実凸面/加工特性取得部115は、実凸面/加工特性データベース116を有する。実凸面/加工特性データベース116には、各セミフィニッシュトレンズの実凸面データと、加工特性に関する加工特性データとが記録されている。
【0028】
実凸面とは、セミフィニッシュトレンズの実面形状であり、さらに具体的には、セミフィニッシュトレンズ凸面の実測形状、又はセミフィニッシュトレンズの測定結果から統計的に導き出した凸面のモデル形状のことである。この実凸面データは、検査用データ生成処理において用いられる。
【0029】
加工特性とは、セミフィニッシュトレンズの切削、研磨に先立って行われる、レンズ凸面に固定冶具をアロイ(低融点合金)で接着するブロッキング処理において、アロイの冷却時に生じる応力によってセミフィニッシュトレンズ凸面の形状が変化すること、又は研磨方法に依存する取り代の量や取り代が不均一なことなどが挙げられる。加工特性は、後述する加工用データ生成処理において用いられる。
【0030】
実凸面/加工特性取得部115は、処方データに基づいて使用するセミフィニッシュトレンズを選択する。
【0031】
(設計データ生成部)
設計データ生成部120は、処方データに基づいて設計データを生成する。
設計データ生成部120は、初期値計算部121と、適正レンズ厚さ情報生成部122と、光学面計算部123と、形状最適化部124と、を備える。
【0032】
(初期値計算部)
初期値計算部121は、光学的、形状的に最適化を行うために必要な初期値を処方データに基づいて計算する。初期値としては、例えば、光学性能の基本分布などが含まれる。また、初期値計算部121は、レイアウト情報や装用状態の情報から、レンズ自体の傾きや煽りの角度の光学計算に必要なパラメータを導き出す。
【0033】
(適正レンズ厚さ情報生成部)
適正レンズ厚さ情報生成部122は、眼鏡レンズを球面として光学面を設計してコバ厚が所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する。なお、本実施形態では、所定の条件としては、コバ厚がフレーム形状などから決定される最低コバ厚以上となることを条件としている。
【0034】
(光学面計算部)
光学面計算部123は、処方データに基づき決定された光学性能の基本分布、及び、凸面形状やレンズの装用状態等を考慮し、コバ厚が所定の条件を持たすような累進面を含む光学面へ収束計算し、光学面形状データを生成する。なお、本実施形態では、所定の条件としては、コバ厚がフレーム形状などから決定される最低コバ厚以上となることを条件としている。
【0035】
(形状最適化部)
形状最適化部124は、光学的な最適化により導き出されたレンズ形状に対して、レンズ中心の肉厚、フレームの各位置でのコバ厚が最小値を確保するように最適化を図る。また、上下方向のコバ厚に極端な差が生じないようにシニングプリズムの最適化を実行する。
【0036】
(加工用データ生成部)
加工用データ生成部130は、設計データに基づいて加工用データを生成する。
加工用データは、ブロッカー410、CG(Curve Generator)420、研磨機430などの加工機にセミフィニッシュトレンズの凹面を切削、研磨させて完成品レンズを形成させるためのデータである。
【0037】
(検査用基準データ生成部)
検査用基準データ生成部140は、加工用データに基づいて加工されたレンズ(完成品レンズ)の収差などを、LMS200の加工機400に設けられた検査装置450に検査させる際の基準となるデータ(検査用基準データ)を生成する。
【0038】
(データ出力部)
データ出力部150は、設計データ生成部120、加工用データ生成部130、及び検査用基準データ生成部140が生成したデータをLMS200に出力する。
【0039】
<4.LMS及び加工機の構成>
次に、LMS200および加工機400の構成について説明する。
図4は、
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムのLMSおよび加工機の構成を示すブロック図である。
LMS200は、LDSと同様に、例えば、LMS全体の動作を制御するコンピュータと、操作表示部と、操作入力部を備える。そして、コンピュータは、CPU、RAM、ROM、HDD、操作部出力I/F、操作部入力I/F、およびネットワークI/Fを備える。LMS200による各処理は、CPUが、HDDに格納されている制御プログラムを読みだして実行することにより実現される。
【0040】
図4に示すように、加工機400は、ブロッカー410と、CG(Curve Generator)420と、研磨機430と、レーザー機440と、検査装置450とを備えている。これらブロッカー410、CG420、研磨機430、レーザー機440、及び検査装置450はLMS200により動作が制御される。ブロッカー410、CG420、研磨機430、レーザー機440において研磨工程が行われ、検査装置450において検査工程が行われる。
【0041】
(ブロッカー)
ブロッカー410は、セミフィニッシュトレンズを研磨するに先立ち当該レンズを固定冶具に固定する。
【0042】
(CG)
CG420は、セミフィニッシュトレンズの凹面を所定の形状に切削する。
【0043】
(研磨機)
研磨機430は、切削された面を研磨してCG420によりレンズの光学面に形成された加工痕の段差等を無くし、さらにレンズが鏡面状態になるまで研磨する。
【0044】
(レーザー機)
レーザー機440は、レンズの光学面に刻印を形成する。
【0045】
(検査装置)
検査装置450は、LDS100が生成した収差検査用データに基づいて完成品レンズの収差を検査する。
【0046】
<5.眼鏡レンズ発注・加工の処理フロー>
以下、眼鏡レンズ発注・加工システム1の処理動作フローについて説明する。
図5は、
図1に示す眼鏡レンズ発注・加工システムの処理動作の一例を示すフローチャートである。
【0047】
(処方データの入力受付)
まず、端末装置300が入力インターフェースにより処方データの入力を受け付け、発注を受け付ける(S110)。処方データは、球面屈折力(S度数)、乱視屈折力(C度数)、乱視軸方向(AX)、及び、加入度数(ADD)などの処方度数情報と、アイテム名などの商品情報と、瞳孔間距離(PD)及びアイポイントなどのレイアウト情報と、装用状態の情報と、最小中心肉厚/コバ厚の情報と、を含む。
【0048】
(処方データ取得)
LDS100の処方データ取得部110が、眼鏡レンズの処方データを取得する(S120:処方データ取得ステップ)。その後、処方データに基づいて使用するセミフィニッシュトレンズを選択する。
【0049】
(実凸面/加工特性取得)
実凸面/加工特性取得部115が、実凸面/加工特性データベース116を参照して処方データに基づきセミフィニッシュトレンズを選択し、選択したセミフィニッシュトレンズの実凸面と加工特性データを取得する(S130)。
【0050】
(設計データ生成)
設計データ生成部120は、処方データに基づいて設計データを生成する(S140)。
設計データは、処方データに基づいて生成されたレンズ面形状のデータであり、初期値計算(S150)と、適正レンズ厚さ情報生成(S160)と、光学面計算(S170)と、形状最適化計算(S180)と、を実行することにより生成される。
【0051】
(初期値計算)
次に、初期値計算部121が、光学的、形状的に最適化を行うために必要な初期値を処方データに基づいて計算する(S142)。すなわち、初期値計算部121が、レイアウト情報や装用状態の情報から、レンズ自体の傾きや煽りの角度の光学計算に必要なパラメータを導き出す。必要な情報が処方データ取得時に無い場合は、あらかじめ定義しているデフォルト値を代替とする。レイアウト情報とは、眼鏡レンズの光学中心を装用者の瞳孔の位置に合わせるための情報であり、フレームの幾何学中心(フレームセンタ)を基準にしてフィッティングポイントの位置を示したものである。なお、この初期値にはベースカーブが含まれている。さらに、初期値計算部121が、アイテム情報と処方度数から光学性能の基本分布を決定する。
【0052】
(適正レンズ厚さ情報生成)
次に、適正レンズ厚さ情報生成部122が、球面として光学面を設計して所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する。
図6は、適正レンズ厚さ情報生成部が、適正レンズ厚さ情報を生成し、光学面計算する流れを詳細に示すフローチャートである。
図6に示すように、適正レンズ厚さ情報を生成するステップS160では、まず、適正レンズ厚さ情報生成部122が、眼鏡レンズの中心肉厚及びコバ厚の初期値を設定する(S161)。眼鏡レンズの初期値としては、例えば、処方データに含まれる最小中心肉厚及び最小コバ厚の値(指定値)を用いればよい。また、最小中心肉厚及び最小コバ厚が設定されていない場合には、規定値を用いればよい。なお、ベースカーブの値が大きい場合には、初期値として用いる中心肉厚の値として規定値や最小中心肉厚に下記の係数を積算した値を用いるとよい。この係数は、ベースカーブが大きくなるほど、係数が大きくなっている。なお、本実施形態では、係数を積算しているが、これに限らず、ベースカーブが大きくなるにつれて中心肉厚の初期値が大きくなるように係数を規定値や最小中心肉厚に作用させればよい。
【0053】
【0054】
次に、適正レンズ厚さ情報生成部122が、処方データ(S度数、C度数、Ax、プリズム値、プリズム方向、屈折率、ベースカーブ、加工径など)及び設定された眼鏡レンズの中心肉厚及び最小コバ厚に基づき、レンズの光学面が球面であると仮定して、仮の光学面を設計する(S162:第1の光学面設計ステップ)。この際、レンズの光学面が球面であると仮定して計算するため、累進面を含む光学面を計算するのに比べて短時間で行うことができる。
次に、このようにして設計した仮の光学面に基づきコバ厚を算出する(S163:第1のコバ厚判定ステップ)。
【0055】
次に、このようにして算出したコバ厚と、中心肉厚+コバ厚の値が所定の条件を満たしているかどうかを判定する(S164:第1の判定ステップ)。本実施形態では、(1)仮の光学面に基づき算出したコバ厚が、所定の閾値(本実施形態では処方データに含まれる最小コバ厚)よりも大きく、かつ、(2)中心肉厚と算出したコバ厚の合計値が、最小中心肉厚と最小コバ厚の合計よりも大きいことを所定の条件としている。
【0056】
次に、第1の判定ステップにおいて厚さが所定の条件を満たしていない場合(S164でNO)には、中心肉厚を再設定する。中心肉厚を再設定する方法としては、例えば、前回の設定値に対して所定の値を加算すればよい。そして、第1の光学面設計ステップ(S162)、第1のコバ厚算出ステップ(S163)及び第1の判定ステップ(S164)を、繰り返す。
【0057】
そして、第1の判定ステップにおいて厚さが所定の条件を満たしている場合(S164でYES)には、この所定の条件を満たした中心肉厚及びコバ厚を適正レンズ厚さ情報とする。
【0058】
次に、光学面計算部123が、処方データ(初期値)及び適性厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する(S170:光学面計算ステップ)。光学面計算ステップS170では、まず、光学面計算部123が、適正レンズ厚さ情報の中心肉厚と、光学性能の基本分布とに基づき累進面を含む光学面を計算する(S171:第2の光学面設計ステップ)。
次に、光学面計算部123が、このようにして設計した光学面に基づきコバ厚を算出する(S172:第2のコバ厚判定ステップ)。
【0059】
次に、このようにして算出したコバ厚と、中心肉厚+コバ厚の値が所定の条件を満たしているかどうかを判定する(S173:第2の判定ステップ)。本実施形態では、(1)仮の光学面に基づき算出したコバ厚が、所定の閾値(本実施形態では処方データに含まれる最小コバ厚)よりも大きく、かつ、(2)中心肉厚と算出したコバ厚の合計値が、最小中心肉厚と最小コバ厚の合計よりも大きいことを所定の条件としている。
【0060】
第2の判定ステップにおいて厚さが所定の条件を満たしていない場合(S173でNO)には、適正レンズ厚さ情報の中心肉厚を再設定する。中心肉厚を再設定する方法としては、例えば、前回の設定値に対して所定の値を加算すればよい。そして、第2の光学面設計ステップ(S171)、第2のコバ厚算出ステップ(S172)及び第2の判定ステップ(S173)を、繰り返す。
【0061】
(形状最適化計算)
第2の判定ステップにおいて厚さが所定の条件を満たしていない場合(S173でNO)には、設計データ生成部120の形状最適化部124が、光学面に対して最適化を図る(S180)。また、上下方向のコバ厚に極端な差が生じないようにシニングプリズムの最適化を実行する。
【0062】
(加工用データ生成)
加工用データ生成部130が加工用データを生成する(S190)。加工用データは、加工処理情報及び加工用補正設計データを含む。
加工用補正設計データは、加工機400にセミフィニッシュトレンズの凹面を切削、研磨させ完成品レンズを形成させるためのデータであり、具体的には、設計データにレンズの加工特性を反映させる補正を加えたデータである。
【0063】
セミフィニッシュトレンズを加工する際に、レンズの加工特性によりセミフィニッシュトレンズ凸面の形状が変化する場合には、レンズの度数にズレが生じるので、加工特性データに基づいて当該ズレを相殺する補正を設計データに加え、これを加工用データとする。
眼鏡レンズの製造業者は、加工用データに基づいてセミフィニッシュトレンズの凹面を切削、研磨して完成品レンズを形成する。
【0064】
(検査用基準データ生成)
検査用基準データ生成部140が、加工用データに基づいて加工されたレンズ(完成品レンズ)の収差などの光学性能を、加工機400に設けられた検査装置450に検査させる際の基準となるデータ(検査用基準データ)を生成する(S200)。
検査用基準データは、完成品レンズの光学面形状の収差などの検査を行う際の基準となるデータであり、設計データおよび加工用データとは別に生成されるデータである。具体的には、設計データにセミフィニッシュトレンズの実面形状を反映させたデータである。
【0065】
実面形状とは、セミフィニッシュトレンズ凸面の実測形状、又はセミフィニッシュトレンズの測定結果から統計的に導き出した凸面のモデル形状である。
セミフィニッシュトレンズが製造される際には必ずキャスト製造時に重合収縮による製造誤差が生じるので、完成品レンズが設計データのとおりに製造されることはない。また、上述のように、加工用データは、設計データに加工特性を反映させた補正を加えたものなので、完成品レンズが設計データのとおりに製造されることはない。よって、設計データや加工用データを完成品レンズの検査の基準データとしてしまうと正確な比較を行うことができない。そこで、正確な比較を実現するために、設計データにセミフィニッシュトレンズの実面形状を反映させたデータを生成し、これを検査用データとする。
【0066】
(設計データの出力)
データ出力部150が設計データをLMS200に出力する(S210)。
【0067】
(加工用データの出力)
データ出力部150が加工用データをLMS200に出力する(S220)。
【0068】
(検査用基準データ出力)
データ出力部150が検査用基準データをLMS200に出力する(S230)。
【0069】
(セミフィニッシュトレンズの切削、研磨)
LDS100は、計算結果出力ファイルと加工用面データファイルに保存されているセミフィニッシュトレンズの加工データをLMS200に出力し、LMS200は、当該加工データを加工機400のCG420と研磨機430に送信する。CG420と研磨機430は、当該加工データに基づいてセミフィニッシュトレンズを切削、研磨する(S240)。また、レーザー機440により、レンズの光学面に刻印を形成する。また、染色、ハードコート、機能性膜の生成、フレーム形状に合わせた加工などの加工処理を行う。
【0070】
(検査)
検査装置450は、完成品レンズの光学性能を測定し、LMS200が受信した検査用基準データと比較して完成品レンズの製造精度を検査する(S250)。そして完成品レンズが所定の製造精度を有している場合には、処理を終了する。
【0071】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、適正レンズ厚さ情報生成部122が光学面を球面として眼鏡レンズを設計して適正レンズ厚さ情報を生成し、光学面計算部123が処方データ及びこの適正レンズ厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算する。このため、複雑な計算を必要とする累進面を含む光学面の計算の回数を減らすことができ、早期に光学面の形状を設計することができる。
【0072】
また、本実施形態では、適正レンズ厚さ情報生成部122は、中心肉厚の設定(S161、S165)、球面として光学面設計(S162)、コバ厚の計算(S163)、及び、コバ厚が所定の条件を満たすか判定(S164)を繰り返して、適正レンズ厚さ情報を生成している。これにより、光学面を球面とした場合の適正レンズ厚さ情報を確実に生成することができる。
【0073】
また、本実施形態では、中心肉厚設定ステップ(S161)では、眼鏡レンズの中心肉厚にベースカーブに応じた係数を積算して眼鏡レンズの中心肉厚を設定している。これにより、球面として光学面設計を行う回数を減らすことができる。
【0074】
また、本実施形態では、光学面計算部123は、累進面を含む光学面の設計(S171)、コバ厚の計算(S172)、及び中心厚の再設定(S174)を繰り返して、光学面を計算している(S170)。上述の通り、本実施形態では、球面として光学面を設計して求めた適正レンズ厚さ情報に基づき光学面を計算しているため、この繰り返しの回数を減らすことができる。
【0075】
本実施形態の眼鏡レンズ設計システム及び方法を総括する。
本実施形態の眼鏡レンズ設計システム(LDS)100は、
図3に示すように、光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計システムであって、処方データを取得する処方データ取得部110と、光学面を球面として眼鏡レンズを設計して、設計した眼鏡レンズの厚さが所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する適正レンズ厚さ情報生成部122と、処方データ及び適性厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する光学面計算部123と、を備える。
【0076】
本実施形態の眼鏡レンズ設計方法は、
図5に示すように、光学面が累進面を含む眼鏡レンズを設計するための眼鏡レンズ設計方法であって、処方データを取得する処方データ取得ステップ(S120)と、光学面を球面としてレンズを設計して、設計したレンズの厚さが所定の条件を満たすような適正レンズ厚さ情報を生成する適正レンズ厚さ情報生成ステップ(S160)と、処方データ及び適性厚さ情報に基づき、累進面を含む光学面を計算し、光学面情報を生成する光学面計算ステップ(S170)と、を備える。
【符号の説明】
【0077】
1 加工システム
3 ネットワーク
60 コンピュータ
61 CPU
62 RAM
63 ROM
64 HDD
65 操作部出力I/F
66 操作部入力I/F
67 ネットワークI/F
68 システムバス
71 操作表示部
72 操作入力部
110 処方データ取得部
115 加工特性取得部
116 加工特性データベース
120 設計データ生成部
121 初期値計算部
122 情報生成部
123 光学面計算部
124 形状最適化部
130 加工用データ生成部
140 検査用基準データ生成部
150 データ出力部
300 端末装置
400 加工機
410 ブロッカー
430 研磨機
440 レーザー機
450 検査装置