(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】現像部材、プロセスカートリッジおよび電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/08 20060101AFI20240109BHJP
G03G 21/18 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G03G15/08 235
G03G21/18 114
(21)【出願番号】P 2019194684
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018220277
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】盛合 渉
(72)【発明者】
【氏名】中村 実
(72)【発明者】
【氏名】石井 亨
(72)【発明者】
【氏名】石田 和稔
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-274262(JP,A)
【文献】特開平07-261542(JP,A)
【文献】特開平08-219143(JP,A)
【文献】特開2013-050715(JP,A)
【文献】特開2012-150453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/08
G03G 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基体と、該基体上の表面層としての単層の弾性層と、を有する電子写真用の現像部材であって、
該弾性層は、厚さTμmを有し、体積抵抗率が1.0×10
6
Ω・cm以上1.0×10
12Ω・cm以下であり、
該弾性層は、メインバインダーとしての第1の樹脂
と、下記構造式(1)で示される構成単位を有する第2の樹脂と、を含み、
該第1の樹脂が、ポリエーテルウレタンであり、
該弾性層の、該基体と対向する側の表面を第1表面とし、該第1表面とは反対側の表面を第2表面としたとき、
該第2の樹脂は、該弾性
層の、該第2表面から第1表面に向かって深さtμmの
表面領域
のみに含まれており、
該厚さTが、5.0μm以上であり、該表面領域の厚さtが、1.0μm以上、3.0μm未満であり、かつ、
該
弾性層において、エーテル結合(-C-O-C-)の濃度は、該第2表面側が、該第1表面側よりも高いことを特徴とする電子写真用の現像部材(但し、T>tである):
【化1】
(Rは、炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を表す)。
【請求項2】
前記tが、1.0μm以上、
1.5μm以下である請求項1に記載の現像部材。
【請求項3】
前記Tが、150.0μm以下である請求項
1または2に記載の現像部材。
【請求項4】
前記現像部材のMD-1硬度が30°以上40°以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の現像部材。
【請求項5】
電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、請求項1~
4のいずれか一項に記載の現像部材を有していることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項6】
静電潜像を担持するための像担持体と、該像担持体を一次帯電するための帯電装置と、
一次帯電された該像担持体に静電潜像を形成するための露光装置と、
該静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成するための現像部材と、
該トナー像を転写材に転写するための転写装置と
、を有する電子写真画像形成装置において、
該現像部材が請求項1~
4のいずれか一項に記載の現像部材であることを特徴とする電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を採用した装置に組み込まれる、現像部材に関する。また、本発明は、該現像部材を有するプロセスカートリッジおよび電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、実施例5、及び実施例6において、軸体と、該軸体の外周に形成された導電性のカーボンブラックとシリコーンゴムとを含むベース層と、該ベース層上に形成された表面層と、を含み、該表面層が、主成分であるポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、及び光カチオン重合開始剤を含む樹脂組成物の硬化物からなる、電子写真機器用の導電性ロールを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に開示されている導電性ロールを現像ローラとして用いた場合について検討した。その結果、当該導電性ロールは、温度15℃、相対湿度10%の如き低温低湿環境下において、トナーのチャージアップを抑制できることを見出した。これは、表面層中に存在するグリシジル基由来のエーテル結合の分子運動性が高いことにより、現像ローラ上のトナー粒子が過剰な電荷を帯びたとしても、当該トナー粒子が有する過剰な電荷を表面層に逃がすことができるためであると考えられる。
その一方で、当該導電性ロールは、温度30℃、相対湿度85%の如き高温高湿環境下においては、表面に担持したトナーの電荷が不均一となる場合があった。
【0005】
本発明の一態様は、多様な使用環境下で、安定して高品位な電子写真画像の形成を可能とする現像部材の提供に向けたものである。また、本発明の別の態様は、多様な使用環境の下で、安定して高品位な電子写真画像を形成することのできる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
本発明の更に別の態様は、多様な使用環境の下で、安定して高品位な電子写真画像の形成に資するプロセスカートリッジの提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、導電性の基体と、該基体上の表面層としての単層の弾性層と、を有する電子写真用の現像部材であって、該弾性層は、厚さTμmを有し、体積抵抗率が1.0×10
6
Ω・cm以上1.0×10
12Ω・cm以下であり、該弾性層は、メインバインダーとしての第1の樹脂
と、下記構造式(1)で示される構成単位を有する第2の樹脂と、を含み、
該第1の樹脂が、ポリエーテルウレタンであり、該弾性層の、該基体と対向する側の表面を第1表面、該第1表面とは反対側の表面を第2表面としたとき、
該第2の樹脂は、該弾性層
の、該第2表面から第1表面に向かって深さtμ
mの表面領域
のみに
含まれており、該厚さTが、5.0μm以上であり、該表面領域の厚さtが、1.0μm以上、3.0μm未満であり、かつ、該
弾性層において、エーテル結合(-C-O-C-)の濃度は、該第2表面側が、該第1表面側よりも高い(但し、T>tである)電子写真用の現像部材が提供される。
【化1】
Rは、炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を表す。
【0007】
また、本発明の一態様によれば、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されているプロセスカートリッジであって、上記の現像部材を有しているプロセスカートリッジが提供される。
【0008】
さらに、本発明の一態様によれば、静電潜像を担持するための像担持体と、該像担持体を一次帯電するための帯電装置と、一次帯電された該像担持体に静電潜像を形成するための露光装置と、該静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成するための現像部材と、該トナー像を転写材に転写するための転写装置とを有する画像形成装置において、該現像部材が上記の現像部材である電子写真画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る現像部材の一例を示す概念図である。
【
図2】本発明に係る電子写真画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】本発明に係るプロセスカートリッジの一例を示す概略構成図である。
【
図4】本発明において、弾性層ローラの平均電位、チャージアップを測定する装置を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、特許文献1に係る、エーテル結合を有する表面層を導電性のベース層上に有する導電性ロールを現像ローラとして用いたときに、高温高湿環境下での使用によって、トナーの帯電均一性が損なわれる原因を以下のように推定した。すなわち、高温高湿環境下では、エーテル結合を有する表面層の導電性が高くなり、導電性ロール上のトナー層を構成するトナー粒子のうち、導電性ロールの外表面と直接接しているトナー粒子から電荷が、表面層、さらには、ベース層に過度に漏洩したことにより、トナーが帯びている電荷が不均一になったものと推定した。
【0011】
そこで、本発明者らは、特許文献1に係る導電性ローラのベース層の導電性を低くした導電性ローラを検討した。しかしながら、このような導電性ローラは、表面層とベース層との界面に徐々に電荷が蓄積されていき、その結果、当該導電性ローラ自体が過剰に帯電する場合があった。過剰に電荷を帯びた導電性ローラ自体は、現像バイアスを変化させ、電子写真画像の画質に影響を与える場合がある。
【0012】
そこで、本発明者らは、低温低湿環境下においては、過剰に帯電したトナー粒子からの電荷を受け取ることができると共に、高温高湿環境下においては、トナー粒子から必要以上に電荷が流れることを抑制でき、かつ、現像部材自体が過度に電荷を蓄積(チャージアップ)することのないような電子写真用の現像部材を得ることを目的として検討を進めた。
【0013】
その結果、本発明者らは、下記i)~iii)の要件を備えた現像部材が、上記の目的を良く達成し得ることを見出した。
i)表面層としての単層の弾性層が、厚さTμmを有し、体積抵抗率が1.0×10
5Ω・cm以上1.0×10
12Ω・cm以下であること。
ii)該弾性層が、メインバインダーとしての第1の樹脂を含み、該弾性層の、該基体と対向する側の表面を第1表面、該第1表面とは反対側の表面を第2表面としたとき、該弾性層は、該第2表面から第1表面に向かって深さtμmまでの領域に、下記構造式(1)で示される構成単位を有する第2の樹脂をさらに含むこと(但し、T>tである):
【化2】
(Rは、炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基を表す。)。
iii)該
弾性層において、エーテル結合(-C-O-C-)の濃度は、該第2表面側が、該第1表面側よりも高いこと。
【0014】
このような特定な構成を有する現像部材が、低温低湿環境下でのチャージアップと高温高湿環境下でのトナー電荷漏洩を抑制できる理由について、本発明者らは以下のように考えている。
【0015】
上記要件i)について、まず、表面層としての弾性層を単層とする。このことにより、トナーの過剰な電荷が漏洩したときに当該電荷が蓄積される界面が表面層内に存在しない。
また、一般的に、現像部材のチャージアップを抑制するために、弾性層の体積抵抗率を低下させることによる対策が行われる。ここで、感光体と現像部材がトナーを介して接触する領域においては、非印字部では、電荷を与えられたトナーには感光体から現像部材へと向かう力が働く電圧が印加されている。そのため、チャージアップを抑制し得るように表面層全体としての体積抵抗率を低下させると、感光体と現像部材が接触する電圧印加領域において、上述のように印加された電圧により、トナーの電荷が現像部材に漏洩し、それによってトナーの帯電分布が不均一となることがある。
そのため、表面層としての単層の弾性層の体積抵抗率を、1.0×105Ω・cm以上1.0×1012Ω・cm以下とすることで、トナーから現像部材への過剰な電荷漏洩を防止することができる。
【0016】
次に、構成要件ii)について、該弾性層は、メインバインダーとしての第1の樹脂を含むと共に、前記構造式(1)で示される構成単位を有する第2の樹脂を、現像部材の外表面(第2表面)から深さtμmまでの領域(以降、単に「表面領域」という場合がある)に含んでいる。エーテル結合(-C-O-C-)を含む構成単位を有する第2の樹脂を表面領域に含有させることによって、低温低湿環境下で過剰に帯電したトナー粒子からの表面領域への電荷の移動が促される。その結果、トナーの帯電分布の均一化を図ることができる。エーテル結合は分子運動性が高いため、分子内でエーテル結合の結合角が変位し、電荷の緩和が促進されると考えられる。
【0017】
最後に、構成要件iii)について、該弾性層においては、エーテル結合(-C-O-C-)の濃度が、該弾性層の外表面(第2表面)側において、反対側の表面(第1表面)側よりも高いことにより、特に、高温高湿環境(例えば、温度30℃、相対湿度85%)下でのトナーから弾性層への必要以上に電荷が漏洩することを防止している。
すなわち、エーテル結合は、親水性が高く、特に高温高湿環境の下では、水分を引き付けやすい。そのため、弾性層の厚み方向に均一にエーテル結合が存在すると、高温高湿環境下では、弾性層全体が低抵抗化し、トナーの電荷が弾性層の第1表面側にまで容易に漏洩されることとなる。その結果、弾性層の外表面側とは反対側に位置する基材や導電性の中間層に電荷を漏洩させることになる。
一方、上記構成要件iii)に係る構成を採用することで、トナーからの電荷が、弾性層の第1表面側にまで到達しにくくすることができると考えられる。
【0018】
以下、本発明にかかる現像部材の一態様として、ローラ形状を有する現像部材(以降、「現像ローラ」ともいう)を例に、本発明に係る現像部材について説明する。なお、本発明に係る現像部材の形状は、ローラ形状に限定されるものではない。
該現像ローラは、例えば、
図1(a)および1(b)に示すように、表面層としての単層の弾性層1を有する。また、現像ローラは、表面層の内側に、導電性の基体を有している。導電性の基体は、
図1(a)に示すように、支持部材となる軸芯体2が表面層1と直接接触して設けられていてもよいし、あるいは、
図1(b)に示すように軸芯体2と表面層1の間に、必要に応じてさらに一層、あるいは複数層の導電性の中間層3を設けたものを用いてもよい。例えば、非磁性一成分接触現像系プロセスでは、軸芯体の上に中間層を積層した導電性の基体上に、表面層を設けた現像部材が好適に用いられる。
【0019】
[導電性の基体]
導電性の基体とは、少なくとも弾性層が形成される面が導電性を有するものである、と定義される。導電性の面が有する好ましい体積抵抗としては、例えば、体積抵抗で1.0×103Ω・cm以下、特には、10-3Ω・cm以下である。かかる基体の材質としては、例えば、アルミニウム、銅合金、ステンレス鋼の如き金属または合金;クロム、又はニッケルで鍍金処理を施した鉄;導電性を有する合成樹脂が挙げられる。
また、樹脂製の基体の外表面をめっきの如き金属または合金の薄膜を1層以上形成することによって導電化したものを用いることもできる。
現像部材が現像ローラである場合、基体としては、円柱状または円筒状の導電性の軸芯体をそのまま、または、該軸芯体上にさらに一層、あるいは複数層の導電性の中間層を設けたものを用いることができる。
【0020】
[弾性層]
弾性層は、現像部材の最外層を構成する表面層である。従って、弾性層の基体と対向する側の表面(第1表面)とは反対側の表面(第2表面)は、現像部材の外表面と一致する。そして、第2表面は、トナー粒子と接する面でもある。
【0021】
表面層である弾性層は、単層からなり、かつ、厚さT(μm)を有する。
弾性層の厚さTは、好ましくは、3.0μm以上であり、より好ましくは、5.0μm以上150.0μm以下である。
弾性層は、体積抵抗率が、1.0×105Ω・cm以上1.0×1012Ω・cm以下であり、好ましくは、1.0×106Ω・cm以上1.0×1010Ω・cm以下である。弾性層の体積抵抗率の測定方法は後述する。
弾性層の体積抵抗率を上記範囲内とすることによって、表面に担持しているトナー粒子からの電荷の過剰な漏洩を防ぎ、トナーの帯電分布を均一化することができる。
【0022】
また、弾性層は、メインバインダーである第1の樹脂を含み、かつ、弾性層の表面領域は、構造式(1)で示される構成単位を有する第2の樹脂をさらに含む。
【化3】
【0023】
表面領域に、分子運動性の高いエーテル結合(-C-O-C-)を有する上記構成単位を有する第2の樹脂を含むことで、現像部材の表面に担持されているトナー粒子が過剰に帯電したとしても、過剰な電荷が表面領域に移動させることができる。その結果、トナーの帯電分布の均一化を図ることができる。
構造式(1)中のRは、炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基である。これは、構造式(1)中におけるエーテル結合の濃度が、炭素数が低いほど高くなり、過剰に帯電したトナー粒子から表面領域への電荷の移動を、より生じさせ易くなるためである。
【0024】
表面領域の深さt(μm)としては、過剰に帯電したトナー粒子の電荷を逃がす一方で、トナー粒子から電荷が過剰に漏洩することを防止する観点から、1.0μm以上、3.0μm未満、特には、1.0μm以上、1.5μm以下であることが好ましい。
【0025】
[第1の樹脂]
第1の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、アミドイミド樹脂、フェノール樹脂、ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。中でも、ウレタン樹脂が、柔軟性と強度に優れているため、好適に用いられる。
【0026】
[第2の樹脂]
第2の樹脂としては、例えば、下記構造式(2)で示されるように、主鎖中に前記構造式(1)中のR構造を持つグリシジルエーテルモノマーの重合体を挙げることができる。
【化4】
【0027】
主鎖に構造式(1)中のR構造を持つグリシジルエーテルモノマーとしては、アルキルグリシジルエーテルが好適に用いられる。例を以下に挙げる。
エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル。
グリシジルエーテルモノマーの重合体を表面領域に含む弾性層の形成方法は後述する。
【0028】
[フィラー]
表面層の体積抵抗率と補強効果を制御する目的で、表面層は更に導電性フィラーを含有することができる。導電性フィラーとしては例えば以下のものが挙げられる。
カーボンブラック、グラファイト等の炭素系物質;アルミニウム、銀、金、錫-鉛合金、銅-ニッケル合金等の金属或いは合金;酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化銀等の金属酸化物;各種フィラーに銅、ニッケル、銀等の導電性金属めっきを施した物質。
導電性フィラーとしては、導電性の制御が容易であり、また安価であるという理由から、カーボンブラックが特に好適に用いられる。
【0029】
[イオン導電剤]
本発明に係る表面層の体積抵抗率を制御する目的で、表面層は更にイオン導電剤を含有することができる。
イオン導電剤の材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
KCF3SO3、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、NaClO4、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、NaSCN、KSCN、NaClの如き周期律表第1族金属の塩;NH4Cl、(NH4)2SO4、NH4NO3の如きアンモニウム塩、Ca(ClO4)2、Ba(ClO4)2の如き周期律表第2族金属の塩;これらの塩と1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールの如き多価アルコールやそれらの誘導体との錯体;これらの塩とエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルの如きモノオールとの錯体;第4級アンモニウム塩の如き陽イオン性界面活性剤;脂肪族スルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩の如き陰イオン性界面活性剤;ベタインの如き両性界面活性剤。
中でも、表面層の電気抵抗値の均一性および安定性が良好であることから、KCF3SO3、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2が特に好適に用いられる。
【0030】
[粗さ制御用微粒子]
第2表面に、粗さを付与する必要がある場合は、表面層中に、第2表面の粗さを制御のための微粒子を含有させることができる。
粗さ制御用微粒子の含有量は、表面層の樹脂成分100質量部に対し、1~50質量部であることが好ましい。粗さ制御用微粒子としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等の微粒子を用いることができる。
【0031】
粗さ制御用微粒子の体積平均粒子径は1.0μm以上30μm以下が好ましく、3.0μm以上20μm以下がより好ましい。
該微粒子によって形成される第2表面の表面粗さ(十点平均粗さ)Rzjisとしては、0.1μm以上20μm以下が好ましい。尚、RzjisはJISB0601(1994)に基づき測定される値である。
【0032】
[その他の成分]
これまでに記述したもの以外に、上記機能を阻害しない範囲で、導電性物質や、架橋剤、可塑剤、充填剤、増量剤、加硫剤、加硫助剤、架橋助剤、酸化防止剤、老化防止剤、加工助剤、レベリング剤を含有させることができる。
【0033】
さらに、弾性層は、エーテル結合の濃度が、第2表面側が、第1表面側よりも高い。測定方法は後述する。このような構成とすることで、前記したように、特に、高温高湿環境(例えば、温度30℃、相対湿度85%)下でのトナーから弾性層への過剰な電荷の漏洩を防止している。
【0034】
[表面層の形成方法]
前記した要件i)~iii)を備えた弾性層は、例えば、下記工程p1)~p3)を含む方法によって形成することができる。
工程p1)導電性の基体上に、メインバインダー樹脂としての第1の樹脂を含む樹脂層を形成する工程、
工程p2)該樹脂層の外表面から、第2の樹脂の原料を含む含浸処理液を含浸させる工程、
工程p3)該樹脂層中に含浸させた第2の樹脂の原料を硬化させる工程。
【0035】
工程p1において、第1の樹脂を含む樹脂層の形成は、特に限定されないが、第1の樹脂または第1の樹脂の原料(例えば、モノマー、オリゴマー、及びプレポリマーからなる群から選ばれる少なくとも一の原料)を含む液状塗料を用いた塗工成形法が好ましい。
例えば、第1の樹脂の原料を含め、樹脂層形成用の各材料を溶剤中にて分散、混合して塗料を調製し、導電性の基体上に塗工し、乾燥固化あるいは加熱硬化することにより形成することが可能である。
【0036】
溶剤としては、メインバインダー樹脂に対する相溶性の観点から、選択されることが好ましい。例えば、第1の樹脂がウレタン樹脂である場合、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、及びエステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)からなる群から選択される、その他の材料との相溶性の良い少なくとも一の溶剤を用いることができる。
混合には、サンドミル、ペイントシェーカー、ダイノミル、パールミルの如きビーズを利用した公知の分散装置が利用できる。また、塗工方法としては、浸漬塗工、リング塗工、スプレー塗工又はロールコートが利用できる。
【0037】
工程p2においては、上記の如く形成された樹脂層の外表面から、グリシジルエーテルモノマーを含む含浸処理液を該樹脂層中に含浸させる。グリシジルエーテルモノマーを各種溶媒で適宜希釈した含浸処理液として含浸させることで、より表面組成の均一な表面層を形成することができる。
【0038】
グリシジルエーテルモノマーとしては、第1の樹脂への含浸しやすさの観点から低分子のグリシジルエーテルであることが好ましい。また、同様の観点で低粘度のモノマーほど含浸させやすいため、主鎖に剛直な構造を持たず、低粘度である脂肪族のグリシジルエーテルモノマーが好ましい。前出の構造式(2)で示されるグリシジルエーテルモノマーの具体例は、これらの条件を満たすものである。
【0039】
溶媒としては、樹脂層との親和性と、グリシジルエーテルモノマーの溶解性の双方を満たす溶媒であれば自由に選択できる。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、といったアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンといったケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルの如きエステル等が挙げられる。また、含浸処理液には、適宜重合開始剤を混合させることができる。重合開始剤の詳細については後述する。含浸処理液の含浸方法は特に限定されないが、浸漬塗工、リング塗工、スプレー塗工又はロールコートが利用できる。
【0040】
次いで、工程p3において、樹脂層中に含浸させたグリシジルエーテルモノマーを重合させることで、第1の樹脂に加えて、さらに第2の樹脂を表面領域に含む弾性層を形成することができる。
重合方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。具体的には、熱硬化や紫外線照射などの方法が挙げられる。特にグリシジルエーテルモノマーを紫外線照射により硬化させる方法は、グリシジルエーテルモノマーに過剰な熱が加わり、系外に揮発することなく効率的に系内で重合・硬化させることができるためより好ましい。
【0041】
表面領域の深さt(μm)は、工程p2における含浸処理液の含浸深さを調整することで調整可能である。含浸深さは、例えば、浸漬塗工法を採用する場合、例えば、含浸処理液の粘度、及び浸漬時間の少なくとも一方を調整することによって樹脂層の外表面からの含浸深さを調整することが可能である。
【0042】
グリシジルエーテルモノマーの重合方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば紫外線・電子線・熱などを使用する、加熱による熱重合や紫外線照射などの光重合が挙げられる。
【0043】
各重合方法に対しては、公知のラジカル重合開始剤やイオン重合開始剤などの重合開始剤を用いることができる。なお、これらの重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
また、重合開始剤の配合量は、特定の樹脂を形成するための化合物(例えば、グリシジル基を有する化合物)全量を100質量部としたときに、効率的に反応を進行させる観点から、0.5質量部以上10質量部以下で使用することが好ましい。
【0045】
なお、加熱のための装置や紫外線照射のための装置は、公知のものを適宜用いることができる。紫外線を照射する光源としては、例えば、LEDランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、及び、低圧水銀ランプ等を用いることができる。重合の際に必要な積算光量については、使用する化合物や重合開始剤の種類や添加量に応じて、適宜、調整することができる。
【0046】
なお、弾性層の第2表面は、トナー粒子を担持する面となるが、長期の使用によって第2表面上にトナー粒子が固着すると、あたかも弾性層上に絶縁性の薄膜が形成されたような構成となってしまい、過剰に帯電したトナー粒子から表面領域への速やかな電荷移動が阻害され得る。そのため、第2表面へのトナー粒子の固着を防止する観点から、現像部材の外表面において、温度23℃において測定されるMD-1硬度は、30°以上40°以下とすることが好ましい。これにより、現像部材によるトナー粒子へのストレスが緩和され、トナー粒子の付着が抑制され得る。
【0047】
[中間層]
導電性の基体、及び弾性層の間に導電性の中間層を設けてもよい。中間層は、現像部材に対して、適切なニップ幅とニップ圧をもって現像部材が像担持体に押圧されるような硬度や弾性を容易に付与し得る。
中間層は、上記ゴム材料に電子導電性物質やイオン導電性物質のような導電性付与剤を配合して導電性の中間層とすることができ、中間層の体積抵抗率は、好ましくは1.0×103Ωcm以上、1.0×1011Ωcm以下、より好ましくは、1.0×104Ωcm以上、1.0×1010Ωcm以下に調整される。
【0048】
なお、中間層を設けることで、弾性層と中間層との界面が形成されることになるが、弾性層の第1表面側のエーテル結合濃度を第2表面側よりも低くしたことにより、当該界面には、電荷が蓄積されにくくなっている。
また、中間層の体積抵抗率を上記した範囲とした場合、弾性層の第1表面側に到達した電荷は、中間層に流すことができる。このことにより、弾性層と中間層との界面への電荷の蓄積をより良く抑えることができる。
【0049】
中間層は、ゴム材料の成形体により形成されていることが好ましい。ゴム材料としては以下のものが挙げられる。エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム(EPDM)、アクリルニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、NBRの水素化物、ウレタンゴム。これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特に、長期に亘って他の部材(トナー規制部材等)が当接した場合にも圧縮永久歪みを導電性の中間層に生じさせにくいシリコーンゴムが好ましい。シリコーンゴムとしては、具体的には、付加硬化型のシリコーンゴムの硬化物が挙げられる。
【0050】
電子導電性物質としては、例えば以下の物質が挙げられる。導電性カーボン、ゴム用カーボン、カラー(インク)用カーボンの如き導電性カーボンブラック、金属およびその金属酸化物が挙げられる。例えば、ケッチェンブラックEC、アセチレンブラックの如き高導電性カーボン;SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MTの如きゴム用カーボン;カーボンブラック粉末に酸化処理を施したカラー(インク)用カーボン;銅、銀、ゲルマニウムの如き金属およびその金属酸化物。この中でも、少量で導電性を制御しやすいことから導電性カーボンブラック〔導電性カーボン、ゴム用カーボン、カラー(インク)用カーボン〕が好ましい。
【0051】
イオン導電性物質としては、例えば以下の物質が挙げられる。過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、塩化リチウムの如き無機イオン導電性物質;変性脂肪族ジメチルアンモニウムエトサルフェート、ステアリルアンモニウムアセテートの如き有機イオン導電性物質。
【0052】
これら導電性付与剤は、中間層を前記のような適切な体積抵抗率に調整するのに必要な量が用いられるが、中間層を構成するゴム材料100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下の範囲で用いられる。
【0053】
また、中間層には、必要に応じて更に可塑剤、充填剤、増量剤、加硫剤、加硫助剤、架橋助剤、硬化抑制剤、酸化防止剤、老化防止剤、加工助剤、の如き各種添加剤を含有させることができる。充填剤としては、シリカ、石英粉末、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。これら任意成分は、中間層の機能を阻害しない範囲の量で配合される。
【0054】
中間層は、現像部材に要求される弾性を有し、アスカーC硬度(JIS K 7312)で20度以上100度以下が好ましく、厚みは0.3mm以上6.0mm以下が好ましい。
【0055】
中間層用の各材料の混合は、一軸連続混練機、二軸連続混練機、二本ロール、ニーダーミキサー、トリミックス等の動的混合装置や、スタティックミキサー等の静的混合装置を用いて行うことができる。
【0056】
導電性の基体上に中間層を形成する方法としては、特に限定されず、型成形法、押出成形法、射出成形法、塗工成形法を挙げることができる。型成形法では、例えば、先ず、円筒状の金型の両端に、金型内に軸芯体を保持するための駒を固定し、駒に注入口を形成する。次いで、金型内に軸芯体を配置し、中間層用の材料を注入口より注入した後、該材料が硬化する温度で金型を加熱し、脱型する方法を挙げることができる。押出成形法では、例えば、クロスヘッド型押出機を用いて軸芯体と中間層の材料を共に押し出して、該材料を硬化して、軸芯体の周囲に中間層を形成する方法を挙げることができる。
【0057】
中間層の表面は、表面層との密着性向上の為、表面研磨や、コロナ処理、フレーム処理、エキシマ処理の表面改質方法によって改質することもできる。
【0058】
[プロセスカートリッジおよび電子写真画像形成装置]
本発明の一態様に係る電子写真画像形成装置は、静電潜像を担持するための像担持体と、該像担持体を一次帯電するための帯電装置と、一次帯電された該像担持体に静電潜像を形成するための露光装置と、該静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成するための現像装置と、該トナー像を転写材に転写するための転写装置とを有する装置である。
図2は、本発明の一実施形態になる電子写真画像形成装置の概略を示す断面図である。
【0059】
図3は、例えば、
図2の電子写真画像形成装置に着脱可能に構成された、本発明の一態様に係るプロセスカートリッジの拡大断面図である。このプロセスカートリッジは、感光ドラムなどの像担持体21と、帯電部材22を具備する帯電装置と、現像部材24を具備する現像装置と、クリーニング部材30を具備するクリーニング装置とを内蔵している。そして、プロセスカートリッジは、
図2の電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されている。
【0060】
像担持体21は、不図示のバイアス電源に接続された帯電部材22によって一様に帯電(一次帯電)される。このときの像担持体21の帯電電位は-800V以上-400V以下である。次に、像担持体21は、静電潜像を書き込むための露光光23を、不図示の露光装置により照射し、その表面に静電潜像が形成される。露光光23には、LED光、レーザー光のいずれも使用することができる。露光された部分の像担持体21の表面電位は-200V以上-100V以下である。
【0061】
次に、現像部材24によって負極性に帯電したトナーが静電潜像に付与(現像)され、像担持体21上にトナー像が形成され、静電潜像が可視像に変換される。このとき、現像部材24には不図示のバイアス電源によって-500V以上-300V以下の電圧が印加される。なお、現像部材24は、像担持体21と0.5mm以上3mm以下のニップ幅をもって接触している。本実施形態のプロセスカートリッジにおいては、トナー規制部材である現像ブレード26と現像部材24との当接部に対して現像部材24の回転の上流側に、トナー供給ローラ25が回転可能な状態で現像部材24に当接される。
【0062】
像担持体21上で現像されたトナー像は、中間転写ベルト27に1次転写される。中間転写ベルト27の裏面には1次転写部材28が当接しており、1次転写部材28に+100V以上+1500V以下の電圧を印加することで、負極性のトナー像を像担持体21から中間転写ベルト27に1次転写する。1次転写部材28はローラ形状であってもブレード形状であってもよい。
【0063】
電子写真画像形成装置がフルカラー画像形成装置である場合、上記の帯電、露光、現像、1次転写の各工程を、イエロー色、シアン色、マゼンタ色、ブラック色の各色に対して行う。そのために、
図2に示す電子写真画像形成装置では、前記各色のトナーを内蔵したプロセスカートリッジが各1個、合計4個が、電子写真画像形成装置本体に対し着脱可能な状態で装着されている。そして、上記の帯電、露光、現像、1次転写の各工程は、所定の時間差をもって順次実行され、中間転写ベルト27上に、フルカラー画像を表現するための4色のトナー像を重ね合わせた状態が作り出される。
【0064】
中間転写ベルト27上のトナー像は、中間転写ベルト27の回転に伴って、2次転写部材29と対向する位置に搬送される。中間転写ベルト27と2次転写部材29との間には所定のタイミングで記録用紙の搬送ルート32に沿って記録用紙が搬送されてきており、2次転写部材29に2次転写バイアスを印加することにより、中間転写ベルト27上のトナー像を記録用紙に転写する。このとき、2次転写部材29に印加されるバイアス電圧は、+1000V以上+4000V以下である。2次転写部材29によってトナー像が転写された記録用紙は、記録用紙の搬送ルート32によって定着装置31に搬送され、記録用紙上のトナー像を溶融させて記録用紙上に定着させた後、記録用紙を電子写真画像形成装置の外に排出することで、プリント動作が終了する。
【0065】
なお、像担持体21から中間転写ベルト27に転写されることなく像担持体21上に残存したトナーは像担持体21の表面をクリーニングするためのクリーニング部材30により掻き取られ、像担持体21の表面はクリーニングされる。
【0066】
本発明の一態様によれば、多様な使用環境の下で、安定して高品位な電子写真画像の形成を可能とする現像部材を得ることができる。
【0067】
また、本発明の他の態様によれば、多様な使用環境の下で、安定して高品位な電子写真画像を安定して形成することができるプロセスカートリッジを得ることができる。更に、本発明によれば、多様な使用環境の下で、安定して高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【実施例】
【0068】
以下に、ローラ形状の現像部材を例として、具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。現像部材としての本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載において、実施例2、8、9、10、13、及び19は、参考例である。
【0069】
(実施例1)
[導電性の基体の作製]
外径6mm、長さ270mmのSUS304製の芯金にプライマー(商品名:DY35-051、東レ・ダウコーニング株式会社製)を塗布し、温度150℃で20分間加熱した。この芯金を内径12mmの円筒状金型内に同心となるように設置した。円筒状金型の内壁には、離型剤(商品名:フロロサーフ、FG-5093F130-0.5、株式会社フロロテクノロジー製)0.3gをスプレー塗布して型組みした。
【0070】
中間層の材料として、下記表1に示す材料をトリミックス(商品名:TX-15 井上製作所製)で混合した付加型シリコーンゴム組成物を、温度115℃に加熱した金型内に注入した。材料注入後、温度120℃にて10分間加熱成型し、室温まで冷却後、金型から脱型し、導電性基体の外周に厚み2.98mmの中間層が形成された弾性ローラを得た。
【0071】
【0072】
[表面層の形成]
表面層の形成に当たっては、まず、樹脂層を形成する。樹脂層の材料として、下記表2における樹脂層用塗料1の、粗さ制御用微粒子以外の材料を混合撹拌した。その後、固形分濃度30質量%になるようにメチルエチルケトン(キシダ化学株式会社製)に溶解し、混合した後、サンドミルにて均一に分散した。
この混合液にメチルエチルケトンを加え固形分濃度25質量%に調整したものに表2に記載の粗さ制御用微粒子を加え、ボールミルで攪拌分散して、樹脂層用塗料1を得た。
先に作製した弾性ローラを、樹脂層用塗料1中に浸漬して塗工し、その後、温度130℃にて60分間加熱して、厚さが10.1μmの樹脂層を形成した。
【0073】
【0074】
続いて、グリシジルエーテルモノマーの含浸、硬化処理を下記の方法で行った。
含浸処理用の含浸処理液の材料として、下記表3に示す材料を混合溶解した。上記で作製した樹脂層の形成された弾性ローラを、この含浸処理液中に2秒間浸漬し、グリシジルエーテルモノマーを含浸させた。
その後、この弾性ローラを、温度23℃で30分間風乾し、更に、温度90℃で1時間乾燥して、溶剤を揮発させた。乾燥後の弾性ローラを、回転させながら、積算光量が15000mJ/cm2となるように紫外線を照射することにより、グリシジルエーテルモノマーを硬化させて、現像部材(現像ローラ)1を得た。なお、紫外線照射装置として、高圧水銀ランプ(商品名:ハンディータイプUV硬化装置 MDH2501N-02、マリオネットワーク社製)を用いた。
【0075】
【0076】
[第2樹脂の構成単位確認方法]
<1H-NMR分析法>
1H-NMR(使用装置:JMN-EX400、JEOL社)を用いて、tの領域における構造式(1)の有無を確認した。
弾性層の最表面から深さtμmの領域からサンプリングを行い下記条件にて測定を行った。
・測定装置:FT NMR装置 JNM-EX400(日本電子株式会社製);
・測定周波数:400MHz;
・パルス条件:5.0μs;
・周波数範囲:10500Hz;
・積算回数:64回。
構造式(1)中の下記に*で示される水素原子のピークシフトにより、構造式(1)の結合を確認した。
【化5】
【0077】
[エーテル結合濃度の確認方法]
<ESCA測定方法>
ESCA分析装置:商品名:Quantum2000、アルバック・ファイ(株)製
・検出元素:C、N、O、Si;
・X線源:モノクロ AI Kα;
・Xray Settinng:100μmφ(25W(15KV));
・光電子取り出し角:45度;
・中和条件:中和銃とイオン銃の併用;
・分析領域:φ100μm;
・Pass Energy:23.5eV;
・ステップサイズ:0.1eV。
【0078】
弾性層の第1表面および第2表面におけるエーテル結合濃度は、ESCA測定の定量分析で検出されたC、N、Oおよび樹脂層起因のSi元素のatm%、および状態分析で検出されたC 1sピークおよびN 1sピークの面積比率から決定される。
また、C 1sピークにおいては、285.0eVにおける検出ピークをC-C結合、286.6eVにおける検出ピークをC-O結合と、289.3eVにおける検出ピークをCOO結合と帰属した。ここで、定量分析で検出されたO元素のatm%とC 1sピークの状態分析によるC-C結合、C-O結合の存在比率を掛け合わせた値を、本発明におけるエーテル結合濃度とした。
なお、本発明におけるエーテル結合濃度の測定は、第1表面および第2表面の異なる場所を3点測定し、その平均値を用いた。
【0079】
なお、各表面のサンプルは、FIB-SEM(商品名:NVision40、SIIナノテクノロジー(株)製)によるマイクロサンプリング法を用いて採取した。
具体的には、まず、カミソリを用いて、現像ローラの表面から基体に向けた切り込みを入れ、表面層及び中間層の断面が露出した状態のゴム片を切り出した。当該ゴム片をローラ断面部が上面になるようにSEMの試料台に設置し、当該ゴム片のローラ表面に該当する位置にサンプリングプローブを固定した。さらに、ローラ表面に該当する面から0.1μm内側に該当する位置にFIBによる切断処理を行うことにより、第2表面のサンプルを採取した。
第1表面については、表面層の裏面と中間層との界面から、表面側へ1.0μmの位置にFIBによる切断処理を行った。得られた切断面に、サンプリングプローブを固定し、当該切断面から0.1μm内側に該当する位置にFIBによる切断処理を行うことにより、第1表面のサンプルを採取した。
いずれの切断処理においても、FIBの加速電圧は、30kV、ビーム電流は、27mAとした。
【0080】
[評価方法]
上記で作製した現像部材1について、以下の項目について評価を行った。
<評価1;弾性層の体積抵抗率測定>
体積抵抗率は、以下の方法で求めた値を採用した。
現像部材から弾性層を切り出し、ミクロトームで平面サイズ50μm四方、厚みdが50μmのサンプルを作製した。次に、このサンプルを温度23℃、相対湿度50%の環境下に24時間以上放置した後、金属平板上に設置し、上方から、押しつけ面の面積Sが100μm2の金属端子で薄片サンプルを押し当てた。
この状態で、金属端子と金属平板間に、エレクトロメータ(6517B型;ケースレー(KEITHLEY)社製)を用いて、1Vの電圧を印加することにより抵抗Rを求めた。この抵抗Rから、体積抵抗率ρv(Ω・cm)を、下記数式(1)を用いて算出した。
数式(1) ρv=抵抗R×S/d
同様の操作を3サンプルについて行い、体積抵抗率pvの3点相加平均値を求めた。得られた体積抵抗率pvの相加平均を弾性層の体積抵抗率とした。
【0081】
<評価2-1;弾性層の厚さT(μm)の測定方法>
弾性層の厚さTμmは、例えば、キーエンス株式会社製のデジタルマイクロスコープ(商品名:VHX-600;キーエンス社製)を用いて表面層の厚み方向の断面を観察し、弾性層と基体の界面から弾性層の表面の平坦部までの距離を測定することによって求めることができる。本評価においては、この測定を任意の5つの断面について行い、それら5点の測定値の相加平均値を弾性層の厚さTμmとした。
【0082】
<評価2-2;表面領域の深さt(μm)の測定方法>
表面領域の深さt(μm)は以下のようにして測定した。
現像部材の外表面から順次、厚み1μmの弾性層のサンプリングを行い、上記1H-NMR分析法により構造式(1)の構成単位の存在が確認できる深さを測定した。
次に構造式(1)の構成単位が含まれている最も基体側に近い深さと構造式(1)の構成単位が含まれていない最も最表面に近い深さの間を、深さ0.1μm刻みでサンプリングを行い、同じように1H-NMR分析法で構造式(1)の構成単位が含まれている深さを測定した。
このサンプリングをn=3で行った相加平均値を表面から深さ方向に構造式(1)の構成単位が含まれる領域深さtμmとした。
【0083】
<評価3;MD-1硬度の測定>
現像部材を、温度23℃、相対湿度53%の環境下に24時間放置した。次にマイクロゴム硬度計(商品名:MD-1capa、高分子計器社製)にて、直径0.16mm押針を用い、現像部材の中央部、両端部から内側20mmの位置で、周方向90°刻みに12点を測定し、これらの測定値の平均値をMD-1硬度とした。
現像部材1を、下記カラーレーザープリンタ用のプロセスカートリッジに装着し、カラーレーザープリンタ(商品名:HP Color LaserJet Enterprise M652dn、HP社製)を用いて評価を行った。
【0084】
<評価4;低温低湿環境下における弾性層の電荷保持能の評価>
弾性層の電荷保持能を、コロナ放電器を用いて弾性層の第2表面に電荷を放射し、その後の残留電荷を計測することで評価した。
【0085】
一般的に抵抗測定として用いられる方法としては、例えば日本工業規格(JIS) K
6911で規定されているような体積抵抗率や表面抵抗率が挙げられる。しかし、この方法を参考にすると、ミリ単位という広範囲での測定となっており、電子写真プロセスにおいて印刷される画像のガサツキに対し、現像部材が与える影響のようなミクロな観点でのチャージアップを厳密に議論することはできない。つまり、弾性層において、体積抵抗率や表面抵抗率が低くても、表面の絶縁領域が多い場合には電荷を逃がすことができず、チャージアップする。
【0086】
本検討でのコロナ放電器を用いた方法では、残留電荷によって生じる空間電界を電位計にて測定するが、空間電界は弾性層表面の残留電荷量によって変動する。そのため、抵抗によらず、上述したようなミクロな観点によって違いの生じる残留電荷量の差を評価することが可能である。
【0087】
チャージアップしやすい弾性ローラでは、残留電荷が多く存在するため、電位の値として、高く測定される。そのため、弾性ローラについて平均電位を求め、チャージアップの指標として用いた。詳細については、以下に述べる。
作製した弾性ローラについて以下の方法で平均電位の測定を行った。
評価装置としては、誘電緩和測定装置(商品名:DRA-2000L;QEA社製)を使用した。誘電緩和測定装置の概略について
図4に基づいて説明する。装置にはコロナ放電器41と表面電位計のプローブ42が一体化されたヘッド43が備え付けられている。
【0088】
また、ヘッド43内でのコロナ放電器による放電が行われる位置から表面電位計のプローブ中心までの距離が25mmあるため、ヘッドの移動速度に応じて放電終了から測定までの間に遅延時間が生じる。このヘッド43は設置した現像部材44の長手方向に対して平行に移動することが可能である。また、コロナ放電器41から発生した電荷は現像部材44の表面に向けて放射される。
【0089】
コロナ放電を行いながら、ヘッド43を移動させることで、電位は、以下のように測定される。
1)コロナ放電器41から現像部材44の表面に電荷を放射する。
2)電位計のプローブ42が測定位置に来るまでの遅延時間の間に現像部材44表面の電荷が導電性の軸芯体2を通じてアースへ逃げる。
3)現像部材44の表面の残留電荷の量を電位として電位計で測定する。
上記測定から、現像部材上の残留電荷の量、すなわちチャージアップについて評価することが可能である。
【0090】
この評価装置および作製した現像部材1を低温低湿(15℃/10%RH)環境下にて24時間以上放置し、十分にエージングを行った。
「DRA-2000L」内に、現像部材と同外径を有するステンレス鋼(SUS304)製のマスターを設置し、このマスターをアースに短絡した。次いで、マスター表面と表面電位計のプローブとの距離を0.76mmに調整し、表面電位計がゼロとなるよう校正した。
上記校正後、マスターを取り外し、測定する現像部材をDRA-2000L内に設置した。
測定条件としては、コロナ放電器のバイアス設定を8kV、スキャナの移動速度を400mm/sec、サンプリング間隔を0.5mm以下となるよう設定し、現像部材の長手方向の電位を測定した。データ収集を行う範囲は、現像部材のゴム部について両端27.5mmを除いた180mmとした。これを10°刻みで36回繰り返すことでコロナ放電による残留電荷起因の電位データを上記測定範囲にて得た。
得られる電位データは、縦方向に長手位置で得られた電位の値、横方向に10°刻みの各位相で得られた電位の値を要素とするm行36列の行列で表わされる。mの数値はサンプリング間隔に応じて決まるものである。
得られた行列における全ての要素、すなわちm×36個の要素の値を相加平均し、得られた値をその現像部材の平均電位とした。
【0091】
<評価5;低温低湿環境下における画像のガサツキの有無、およびガサツキの程度の評価
作製した現像部材1について以下の方法で画像のガサツキの評価を行った。
現像部材1を、上記カラーレーザープリンタ用のプロセスカートリッジに装着し、温度15℃、相対湿度10%の低温低湿環境下で、24時間静置した。その後、このプロセスカートリッジを、上記カラーレーザープリンタに装着し、印字率0.4%の低印字画像を、A4サイズの紙10万枚に連続して形成した。引き続いて、印字濃度25%のハーフトーン画像を1枚出力し、このハーフトーン画像を目視にて観察し、現像部材のチャージアップに起因する、ガサツキの有無、及びその程度を以下の基準により評価した。
ランクA:全くガサツキを感じなく、なめらかな画像である。
ランクB:ガサツキをあまり感じない。
ランクC:ややガサツキ感がある。
ランクD:ガサツキ感がある。
【0092】
(評価6;高温高湿環境下における初期カブリ評価)
カブリとは、本来、トナー像が形成されない白地部においてトナーがわずか現像される現象。カブリ量の評価は以下のように行った。
ベタ白の画像の形成プロセスの途中で、電子写真装置を停止した。すなわち、この画像を静電潜像を現像し、感光体上の現像されたトナー像の転写前に、電子写真装置を停止した。そして、感光体上のトナーを、透明な粘着テープの粘着面に転写し、当該粘着テープを紙に貼り付けた。また、トナーが付着していない粘着テープを紙に貼り付けた。各々の紙に貼り付けられた粘着テープの上(非粘着面側)から、光学反射率測定機(商品名TC-6DS;東京電色社製)を用いて光学反射率を測定した。そして、トナーが付着した粘着テープにおいて測定された光学反射率の値から、トナーが付着していない粘着テープにおける光学反射率の値を差し引いて、カブリ分の反射率量を求めた。この値を、カブリ量として、下記基準に従って評価した。なお、カブリ量は各粘着テープ上の3点を測定し、その平均値から求めた。
ランクA:カブリ量が1.0%未満である。
ランクB:カブリ量が1.0%以上、3.0%未満である。
ランクC:カブリ量が3.0%以上、5.0%未満である。
ランクD:カブリ量が5.0%以上である。
【0093】
カブリ評価は、温度30℃、相対湿度80%の高温高湿環境下にて、A4サイズの紙上に、画像比率5%の横線の画像を形成する操作を、100枚連続して行った後、24時間静置した電子写真装置を用いて行った。なお、画像比率5%の横線とは、具体的に、電子写真感光体の回転方向と垂直方向に延びる幅1ドットの横線が、当該回転方向に19ドットの間隔で描かれた画像である。また、当該横線の画像は、は、120mm/秒のプロセススピードで形成し、カブリ評価の際の紙搬送速度は、60mm/秒とした。
【0094】
<評価7 現像部材へのトナー電荷の漏洩の程度の評価>
トナー帯電量の測定は、帯電量・粒子径分布測定機(商品名E-SPARTアナライザー;ホソカワミクロン社製)を用いて測定し、平均のQ/d[nC/μm]にて算出した。Qはトナー粒子1個当たりの電荷量、dはトナー粒子の粒径である。
具体的には、上記評価6におけるカブリ評価と同様に、ベタ白の画像形成プロセス中に画像形成装置を停止し、現像ローラ上のトナーにおいて、ニップ部を通過前およびニップ部を通過後の平均トナー電荷量を、上記帯電量・粒子径分布測定機を用いて測定し、ニップ部を通過することによるトナーの電荷量分布の変化を測定した。
現像部材へのトナー電荷の漏洩の程度が大きいほど、トナー粒子の各々が有する電荷は不均一化しやすい。具体的には、現像部材への、トナーが有する負電荷の漏洩の程度が大きいほど、トナー粒子全体に対する正に帯電しているトナー粒子の割合が増加する。
よって、本評価においては、上記「E-SPARTアナライザー」によって測定されたトナー成分全体の個数に対する正帯電を示すトナー個数の割合(%)を算出することで、現像部材へのトナーの電荷の漏洩の程度の指標とした。
【0095】
(実施例2~7、15~18)
実施例1と同様の方法により、表4に示す材料での樹脂層用塗料の調製、表5に示す材料での含浸処理液の調製、さらに表6に示す通りの組み合わせで現像部材の作製を行った。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0096】
(実施例8)
樹脂層用塗料の粗さ制御用微粒子を混合する前の固形分濃度を10質量%とすることで、樹脂層の膜厚を2.9μmに変更する以外は、実施例1と同様の方法により、現像部材を作製した。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0097】
(実施例9、10)
含浸処理液に浸漬する時間を表6に記載した時間に変更する以外は、実施例1と同様の方法により、現像部材を作製した。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0098】
(実施例11)
樹脂層用塗料の粗さ制御用微粒子を混合する前の固形分濃度を18質量%とすることで、樹脂層の膜厚を5.1μmに変更する以外は、実施例1と同様の方法により、現像部材を作製した。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0099】
(実施例12)
樹脂層用塗料の粗さ制御用微粒子を混合する前の固形分濃度を40質量%とすることで、樹脂層の膜厚を149.8μmに変更する以外は、実施例1と同様の方法により、現像部材を作製した。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0100】
(実施例13)
樹脂層用塗料の粗さ制御用微粒子を混合する前の固形分濃度を15質量%とすることで、樹脂層の膜厚を4.0μmに変更する以外は、実施例1と同様の方法により、現像部材を作製した。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0101】
(実施例14)
樹脂層用塗料の粗さ制御用微粒子を混合する前の固形分濃度を43質量%とすることで、樹脂層の膜厚を151.2μmに変更する以外は、実施例1と同様の方法により、現像部材を作製した。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0102】
(実施例19)
クロスヘッド押出機を用いてφ6mm円筒状の導電性基体と表6に示される未加硫ゴム組成物とを一体に押出してローラを成形した。押出機は、シリンダー径45mm、L/D=20の押出機を使用し、押出時の温度はヘッド90℃、シリンダー90℃、スクリュー90℃に調整した。ゴム材料のムーニー粘度(JIS K 6300-1:2013)は50であった。また、押出成形時のゴム圧力(押出機からクロスヘッドに入るゴム圧力)を20MPaに調整した。ゴム圧力は、押出機とクロスヘッドの間に金属メッシュ(メッシュ100番、線径100μm、(株)イゲタ金網製)を1枚設けた、押出成形時の金属メッシュ部(押出機側)の圧力である。
成形した未加硫ローラを160℃で1時間の加熱加硫を行い、加硫ローラを得た。更にプランジ方式の研磨機で回転砥石を用いた乾式研磨により、弾性層の厚みが2.98mmの形状の加硫ローラを得た。表5に示す材料での含浸処理液の調製、さらに表6に示す通りの組み合わせで現像部材の作製を行った。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0103】
(比較例1)
グリシジルエーテルモノマーの含浸と硬化処理を行わない以外は、実施例1と同様の方法により、表4に示す材料で、樹脂層用塗料を調製し、現像部材を作製した。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0104】
(比較例2~5)
実施例1と同様の方法により、表4に示す材料での樹脂層用塗料の調製、表5に示す材料での含浸処理液の調製、さらに表6に示す通りの組み合わせで現像部材の作製を行った。得られた現像部材については、実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0105】
【表4】
※表中の数字は各材料の配合量を質量部で表すものである。
※表中に記載される材料はそれぞれ以下のものである。
・PTGL1000:保土谷化学工業株式会社製 ポリオール
・MR-400:商品名 ミリオネートMR-400 東ソー株式会社製 イソシアネート化合物(ポリメリックMDI)
・SUNBLACK X15:商品名、旭カーボン製 カーボンブラック
・UCN-5150:商品名 ダイミックビーズUCN-5150 大日精化工業株式会社製 架橋ウレタン樹脂粒子
・AEROSIL50:商品名、日本アエロジル株式会社製
・Nipol DN401LL:商品名、日本ゼオン株式会社製 NBR
・エピクロマーCG102:商品名、大阪ソーダ社製 ヒドリンゴム
・エポゴーセーPT:商品名、四日市合成株式会社製
・ステアリン酸亜鉛:商品名、ステアリン酸亜鉛 日油株式会社製
・ステアリン酸:商品名、ステアリン酸つばき 日油株式会社製
【0106】
【表5】
※表中の数字は各材料の配合量を質量部で表すものである。
※表中に記載される材料はそれぞれ以下のものである。
・エチレングリコールジグリシジルエーテル:商品名、東京化成工業株式会社製
・エポライト70P:商品名、共栄社化学株式会社製 プロピレングリコールジグリシジルエーテル
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル:商品名、東京化成工業株式会社製
・エポライト1600:商品名、共栄社化学株式会社製、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル
・ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル:商品名、東京化成工業株式会社製
・ポリエチレングリコールジメタクリレート:商品名、東京化成工業株式会社製
・ビスフェノールA ジグリシジルエーテル:商品名、東京化成工業株式会社製
・サンエイドSI-110L:光重合開始剤;PF6/芳香族スルホニウム塩、三新化学工業株式会社製
・IRGACURE184:光重合開始剤;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、BASF社製
【0107】
【0108】
実施例1~19及び比較例1~5の評価結果を、表7-1及び表7-2に示す。
【表7-1】
【表7-2】
【0109】
〔評価結果の考察〕
実施例1~19の現像部材は、いずれも、メインバインダー樹脂である第1の樹脂を含む弾性層を有しており、表面層の、基体と対向する側の表面を第1表面とし、第1表面とは反対側の表面を第2表面としたとき、弾性層は、第2表面から第1表面に向かって深さtμmの領域に、構造式(1)で示される構成単位を有する第2の樹脂をさらに含み、且つ、この領域において、エーテル結合(-C-O-C-)の濃度は、第2表面側が、第1表面側よりも高くなっていることにより低温低湿環境下におけるチャージアップと高温高湿環境下におけるトナーの電荷漏洩が抑えられている。
【0110】
実施例2、3の体積抵抗率がそれぞれ1.0×105Ω・cm、1.0×1012Ω・cmであるのに対し、実施例1は、1.0×108Ω・cmであるため、低温低湿環境下におけるチャージアップと高温高湿環境下によるトナーの電荷漏洩がより高いレベルで抑制されている。
実施例4~7と実施例1を比較すると、実施例1は実施例4~7と比較して表面のエーテル結合濃度が高いため、低温低湿環境下におけるチャージアップがより高いレベルで抑制できている。実施例8と実施例1を比較すると、実施例1は、表面層の膜厚が3.0μm以上であることにより、表面層におけるエーテル結合濃度の相対比が下がることにより高温高湿環境下におけるトナーの電荷漏洩が高いレベルで抑制されている。
実施例9、10と実施例1を比較すると、実施例1はtが1.0μm以上3.0μm未満の範囲にあることにより、低温低湿環境下におけるチャージアップと高温高湿環境下によるトナーの電荷漏洩がより高いレベルで抑制されている。
実施例13、14と実施例1~8、11、12を比較すると、実施例1~8、11、12は表面層の膜厚が5.0μm~150μmの範囲にあることにより、低温低湿環境下におけるチャージアップと高温高湿環境下によるトナーの電荷漏洩がより高いレベルで抑制されている。
実施例15、16と実施例17、18を比較する実施例15と実施例17は、MD-1硬度が小さいため、トナーの劣化が抑制されており、低温低湿環境下におけるチャージアップがより高いレベルで抑制されている。
実施例19と実施例1~18を比較すると、第1の樹脂がウレタンであることにより、トナーの劣化を抑制することにより、低温低湿環境下におけるチャージアップがより高いレベルで抑制されている。
【0111】
一方で、比較例1はエーテル結合濃度の関係が第1表面=第2表面となっているため、高温高湿環境下でのトナーの電荷漏洩が見られる。
比較例2では表面層の体積抵抗率が1.0×105Ω・cm~1.0×1012Ω・cmの範囲を下回っているため、高温高湿環境下でのトナーの電荷漏洩が見られる。
また、比較例3においては、表面層の体積抵抗率が1.0×105Ω・cm~1.0×1012Ω・cmの範囲を上回っているため、低温低湿環境下でのチャージアップが見られる。
比較例4においては、含浸剤がアクリルモノマーとなっているため、表面のエーテル結合の濃度は変わらず、低温低湿環境下におけるチャージアップが見られた。比較例5においては、ビスフェノールAグリシジルエーテルの大部分が樹脂層中に含浸せず、表面に露出しているため、第1の樹脂成分が確認できなかった。従って、エーテル結合濃度の関係が第1表面=第2表面となっていることにより、高温高湿環境下での電荷漏洩が見られた。
【符号の説明】
【0112】
1:表面層
2:軸芯体
3:中間層
21:像担持体
22:帯電部材
23:露光光
24:現像部材
25:トナー供給ローラ
26:現像ブレード
27:中間転写ベルト
28:1次転写部材
29:2次転写部材
30:クリーニング部材
31:定着装置
32:記録用紙の搬送ルート
41:コロナ放電器
42:プローブ
43:ヘッド
44:現像部材