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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ゲル状組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/256 20160101AFI20240109BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20240109BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20240109BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20240109BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20240109BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20240109BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20240109BHJP
【FI】
A23L29/256
A23L29/238
A23L29/269
A23L33/115
A23L33/12
A23L33/175
A23L33/19
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019199814
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021069350
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】川井 工子
(72)【発明者】
【氏名】入佐 恵史
(72)【発明者】
【氏名】吉川 麻友
(72)【発明者】
【氏名】守田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和馬
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-061444(JP,A)
【文献】特表2018-530328(JP,A)
【文献】特開2014-212735(JP,A)
【文献】特開2013-031404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物を含み、たんぱく質性物質の含有量が10質量%以上である、ゲル状組成物であって、
前記ゲル状組成物は流動性がなく、硬さが1000N/m ~35000N/m であり、
前記ゲル状組成物は、寒天、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選択される1種又は2種以上のゲル化剤を含み、
前記乳たんぱく質が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち10質量%~80質量%を占め、
前記乳たんぱく質分解物が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち20質量%~90質量%を占める、
ゲル状組成物
【請求項2】
乳たんぱく質の含有量に対する乳たんぱく質分解物の含有量の質量比は、0.2~9である、請求項1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
前記乳たんぱく質がカゼイン及びホエイたんぱく質を含み、
前記カゼイン及び前記ホエイたんぱく質の含有質量比が99:1~60:40である、
請求項1又は2に記載のゲル状組成物。
【請求項4】
前記乳たんぱく質分解物の分解率は40%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項5】
前記乳たんぱく質分解物がカゼイン分解物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項6】
前記乳たんぱく質が、乳たんぱく質濃縮物又はミセル性カゼイン濃縮物に由来するものである、請求項1~のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項7】
アミノ酸をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項8】
100gあたりの熱量が105kcal~300kcalである、請求項1~のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項9】
EPAを、ゲル状組成物の質量に対して2.0質量%以下の含有割合で含む、請求項1~のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項10】
DHAを、ゲル状組成物の質量に対して3.3質量%以下の含有割合で含む、請求項1~のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項11】
中鎖脂肪酸トリグリセリドを、ゲル状組成物の質量に対して25質量%以下の含有割合で含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項12】
前記ゲル状組成物が食品組成物である、請求項1~11のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項13】
乳たんぱく質、乳たんぱく質分解物、及びゲル化剤を含み、且つ、たんぱく質性物質の含有量が10質量%以上である水溶液を調製する水溶液調製工程、及び、
前記水溶液を加熱、冷却してゲル状組成物を得るゲル化工程
を含み、
前記ゲル状組成物は流動性がなく、硬さが1000N/m ~35000N/m であり、
前記ゲル状組成物は、寒天、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選択される1種又は2種以上のゲル化剤を含み、
前記乳たんぱく質が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち10質量%~80質量%を占め、
前記乳たんぱく質分解物が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち20質量%~90質量%を占める
ゲル状組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、ゲル状組成物及びその製造方法に関し、特にはたんぱく質性物質の含有量が高いゲル状組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療業界及び介護業界において、患者や高齢者の栄養状態を改善するために、筋肉の構成成分であるたんぱく質を効率的に補給することが求められることがある。特には食欲がない患者や高齢者に関して、より少ない摂取量でたんぱく質をより多く摂取できることが求められている。また、咀嚼や嚥下の能力が低下している患者や高齢者にとって、食品の形態がゲル状であれば、より摂取しやすい。
【0003】
これまでに、たんぱく質含有量の高いゲル状組成物について種々の提案がされている。例えば、下記特許文献1には、「タンパク質含量が6質量%以上であり、寒天及び発酵セルロースを含有し、更にカラギナン及び/又はジェランガムを含有することを特徴とする、レトルト殺菌処理された高タンパク質ゲル状食品。」(請求項1)が記載されている。また、下記特許文献2には、「ゲル化剤及び総合乳蛋白質を含むゲル状栄養組成物であって、アミノ酸スコアが80~100であり、該組成物中の蛋白質含量が6~20質量%であり、ゲルの破断強度が1800~10000N/m2であり、並びに該総合乳蛋白質中のカゼインとホエイ蛋白質の比率が83:17~100:0である、ことを特徴とするゲル状栄養組成物。」(請求項1)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-31404号公報
【文献】特開2014-212735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、たんぱく質含有量の高いゲル状組成物が求められている。そこで、本技術は、たんぱく質含有量の高いゲル状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、乳たんぱく質と乳たんぱく質分解物との組み合わせによって、たんぱく質含有量が高いゲル状組成物を得ることができることを見出した。
【0007】
すなわち、本技術は以下を提供する。
[1]乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物を含み、たんぱく質性物質の含有量が10質量%以上である、ゲル状組成物。
[2]前記ゲル状組成物の硬さが1000~35000N/mである、[1]に記載のゲル状組成物。
[3]前記乳たんぱく質がカゼイン及びホエイたんぱく質を含み、
前記カゼイン及び前記ホエイたんぱく質の含有質量比が、99:1~60:40である、
[1]又は[2]に記載のゲル状組成物。
[4]前記乳たんぱく質が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち10質量%~80質量%を占める、[1]~[3]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[5]前記乳たんぱく質分解物がカゼイン分解物である、[1]~[4]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[6]前記乳たんぱく質分解物が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち20質量%~90質量%を占める、[1]~[5]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[7]前記乳たんぱく質が、乳たんぱく質濃縮物又はミセル性カゼイン濃縮物に由来するものである、[1]~[6]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[8]ゲル化剤を含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[9]前記ゲル化剤が、寒天、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選択される1種又は2種以上を含む、請求項8に記載のゲル状組成物。
[10]アミノ酸をさらに含む、[1]~[9]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。[11]100gあたりの熱量が105kcal~300kcalである、[1]~[10]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[12]EPAを、ゲル状組成物の質量に対して2.0質量%以下の含有割合で含む、[1]~[11]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[13]DHAを、ゲル状組成物の質量に対して3.3質量%以下の含有割合で含む、[1]~[12]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[14]中鎖脂肪酸トリグリセリドを、ゲル状組成物の質量に対して25質量%以下の含有割合で含む、[1]~[13]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[15]前記ゲル状組成物が食品組成物である、[1]~[14]のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
[16]乳たんぱく質、乳たんぱく質分解物、及びゲル化剤を含み、且つ、たんぱく質性物質の含有量が10質量%以上である水溶液を調製する水溶液調製工程、及び、
前記水溶液を加熱、冷却してゲル状組成物を得るゲル化工程
を含む、ゲル状組成物の製造方法。
また、本技術は以下も提供する。
<1>乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物を含み、たんぱく質性物質の含有量が10質量%以上である、ゲル状組成物であって、
前記ゲル状組成物は流動性がなく、硬さが1000N/m ~35000N/m であり、
前記ゲル状組成物は、寒天、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選択される1種又は2種以上のゲル化剤を含み、
前記乳たんぱく質が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち10質量%~80質量%を占め、
前記乳たんぱく質分解物が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち20質量%~90質量%を占める、
ゲル状組成物。
<2>乳たんぱく質の含有量に対する乳たんぱく質分解物の含有量の質量比は、0.2~9である、<1>に記載のゲル状組成物。
<3>前記乳たんぱく質がカゼイン及びホエイたんぱく質を含み、
前記カゼイン及び前記ホエイたんぱく質の含有質量比が99:1~60:40である、
<1>又は<2>に記載のゲル状組成物。
<4>前記乳たんぱく質分解物の分解率は40%以下である、<1>~<3>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<5>前記乳たんぱく質分解物がカゼイン分解物である、<1>~<4>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<6>前記乳たんぱく質が、乳たんぱく質濃縮物又はミセル性カゼイン濃縮物に由来するものである、<1>~<5>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<7>アミノ酸をさらに含む、<1>~<6>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<8>100gあたりの熱量が105kcal~300kcalである、<1>~<7>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<9>EPAを、ゲル状組成物の質量に対して2.0質量%以下の含有割合で含む、<1>~<8>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<10>DHAを、ゲル状組成物の質量に対して3.3質量%以下の含有割合で含む、<1>~<9>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<11>中鎖脂肪酸トリグリセリドを、ゲル状組成物の質量に対して25質量%以下の含有割合で含む、<1>~<10>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<12>前記ゲル状組成物が食品組成物である、<1>~<11>のいずれか一つに記載のゲル状組成物。
<13>乳たんぱく質、乳たんぱく質分解物、及びゲル化剤を含み、且つ、たんぱく質性物質の含有量が10質量%以上である水溶液を調製する水溶液調製工程、及び、
前記水溶液を加熱、冷却してゲル状組成物を得るゲル化工程
を含み、
前記ゲル状組成物は流動性がなく、硬さが1000N/m ~35000N/m であり、
前記ゲル状組成物は、寒天、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選択される1種又は2種以上のゲル化剤を含み、
前記乳たんぱく質が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち10質量%~80質量%を占め、
前記乳たんぱく質分解物が、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち20質量%~90質量%を占める、
ゲル状組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本技術により、たんぱく質含有量が高いゲル状組成物が提供される。当該ゲル状組成物によって、効率的に且つ簡便にたんぱく質を摂取することが可能となる。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本技術の好ましい実施形態について説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態のみに限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができる。
【0010】
本技術のゲル状組成物は、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物を含む。乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物の組み合わせによって、たんぱく質性物質の含有割合が高い場合(例えばゲル状組成物の質量に対して10質量%以上)であってもゲル化できることが分かった。
【0011】
本技術のゲル状組成物は、たんぱく質性物質の含有割合が高く且つゲル状であり、すなわち少量の摂取でたんぱく質性物質を多く摂取することを可能とし且つ摂取しやすい形態にある。そのため、本技術のゲル状組成物は、効率的にたんぱく質性物質を摂取するために役立つ。
例えばガンなどの疾患を患う患者は、病状の進行に伴い、悪液質状態になることがある。悪液質状態は、しばしば食欲不振及び/又は体重減少を伴い、この状態にある患者は、たんぱく質性物質を望ましい量で摂取することが難しくなる。また、悪液質状態を有する患者は、全身性の炎症反応が生じており、筋たんぱくの異化が亢進している。そのためたんぱく質性物質をある程度の量で摂取しても、低栄養になりやすい。本技術のゲル状組成物は、上記のとおり、たんぱく質性物質を効率的に摂取するために役立つので、例えば悪液質状態にある患者によって摂取されてよく、当該患者へのたんぱく質性物質の供給のために用いられてよい。
また、本技術のゲル状組成物は、悪液質状態にある患者以外のヒトによって摂取されてもよく、例えば食欲不振を有するヒトなど、効率的なたんぱく質性物質の摂取が求められるヒトにより摂取されてよく、当該ヒトへのたんぱく質性物質の供給のために用いられてもよい。
以下で、当該ゲル状組成物の詳細を説明する。
【0012】
(1)乳たんぱく質
【0013】
本技術のゲル状組成物は、乳たんぱく質を含む。乳たんぱく質は、乳に含まれるたんぱく質である。乳たんぱく質が由来する乳は、哺乳類由来の乳であってよく、例えばウシ由来、ヤギ由来、ヒツジ由来、又はウマ由来であってよく、好ましくはウシ由来である。
【0014】
前記乳たんぱく質は、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち、好ましくは10質量%~80質量%を占め、より好ましくは15質量%~75質量%を占め、さらにより好ましくは20質量%~70質量%を占めてよい。前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質のうちの前記乳たんぱく質の構成割合が上記数値範囲内にあることが、良好なゲル形成に貢献する。
特に好ましい実施態様において、前記乳たんぱく質は、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち、特に好ましくは40質量%~80質量%を占め、より好ましくは45質量%~70質量%を占め、さらにより好ましくは50質量%~60質量%を占めてよい。これにより、良好なゲル形成に加え、風味及び食感の向上ももたらされうる。
【0015】
乳たんぱく質は、例えばカゼイン又はホエイたんぱく質(乳清たんぱく質)に分類される。カゼインは、例えば牛乳に酸を加えた場合に沈殿するたんぱく質であると知られている。ホエイたんぱく質は、当該沈殿の際に生じるホエイ中に存在するたんぱく質として知られている。
カゼインは、例えば牛乳中に存在するたんぱく質の約80質量%を占める。カゼインは、リン(特にはリン酸)を含むたんぱく質の一種である。カゼインのより具体的な例として、例えばα-カゼイン(αs1-カゼイン,αs2-カゼイン)、β-カゼイン、γ-カゼイン、及びκ-カゼインを挙げることができる。
ホエイたんぱく質は、例えば牛乳中に存在するたんぱく質の約20質量%を占める。ホエイ中に存在するたんぱく質がホエイたんぱく質と呼ばれている。ホエイたんぱく質のより具体的な例として、例えば血清アルブミン、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、免疫グロブリン、及びプロテオース・ペプトンを挙げることができる。
【0016】
本技術のゲル状組成物に含まれる乳たんぱく質は、カゼイン及びホエイたんぱく質の両方を含んでよく、又は、カゼイン又はホエイたんぱく質のいずれかを含んでもよい。好ましくは、本技術のゲル状組成物に含まれる乳たんぱく質は、カゼイン及びホエイたんぱく質の両方を含む。これら両方を含むことが、良好なゲルの形成及び/又は風味の向上に貢献すると考えられる。
【0017】
本技術のゲル状組成物に含まれるカゼインは、例えばα-カゼイン、β-カゼイン、γ-カゼイン、及びκ-カゼインから選ばれる1つ又は2つ以上を含んでよい。本技術のゲル状組成物に含まれるカゼインは、牛乳、脱脂乳、全粉乳、全脂粉乳、又は脱脂粉乳などから選ばれるカゼイン含有原料から、常法により精製して得られたカゼインであってよく、又は、市販入手可能なカゼインであってもよい。本技術のゲル状組成物に含まれるカゼインは、酸カゼイン及び/又はカゼイネートを含んでもよい。酸カゼインは、例えば乳酸カゼイン、硫酸カゼイン、又は塩酸カゼインであってよい。カゼイネート、例えばナトリウムカゼイネート、カリウムカゼイネート、カルシウムカゼイネート、又はマグネシウムカゼイネートであってよい。
【0018】
本技術のゲル状組成物に含まれるカゼインは、ミセル性カゼインを含んでよい。ミセル性カゼインは、複数のカゼインたんぱく質から形成されたミセルである。カゼインは、牛乳中ではミセルとして存在している。また、本技術のゲル状組成物に含まれるカゼインは、ミセルを形成していないカゼインを含んでもよい。
【0019】
本技術のゲル状組成物に含まれるホエイたんぱく質は、例えば牛乳、脱脂乳、全粉乳、全脂粉乳、脱脂粉乳などから選ばれるホエイタンパク質含有原料から、常法により精製して得られたホエイたんぱく質であってよい。
【0020】
ホエイたんぱく質の精製方法としては、例えば、牛乳又は脱脂粉乳に例えばレンネットなどの凝乳酵素を加えてカゼインと乳脂肪とを取り除く工程を含む方法、及び、前記工程の後にゲル濾過法、限外濾過法、又はイオン交換法などによる精製処理を行う処理工程をさらに含む方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。本技術において、ホエイたんぱく質の原料として、上記精製方法によって得られるWPC(ホエイたんぱく質濃縮物)又はWPI(ホエイたんぱく質分離物)を使用することができる。ホエイたんぱく質として、市販入手可能なホエイたんぱく質、特には市販入手可能なWPC又はWPIを使用することもできる。すなわち、本技術のゲル状組成物は、WPC及び/又はWPIを含んでよい。「WPC」は、ホエイたんぱく質含有割合が25質量%~80質量%であるホエイたんぱく質含有組成物をいい、「WPI」は、ホエイたんぱく質含有量が80%超であるホエイたんぱく質含有組成物をいう。
【0021】
本技術の好ましい実施態様において、乳たんぱく質は、カゼイン及びホエイたんぱく質を含む。好ましくは、カゼインの含有質量はホエイたんぱく質の含有質量以上である。より好ましくは、カゼイン及びホエイたんぱく質の含有量の質量比は、より好ましくは99:1~60:40であり、より好ましくは90:10~70:30であり、さらにより好ましくは85:15~75:25であってよい。上記質量比が、良好なゲル形成に貢献する。また、上記質量比は、ゲル状組成物の滑らかさの向上及び/又はゲル状組成物の風味の改善にも貢献する。
上記数値範囲内の質量比でカゼイン及びホエイたんぱく質を含む材料の例として、乳たんぱく質濃縮物(MPCともいう)及びミセル性カゼイン濃縮物(MCCともいう)を挙げることができる。本技術のゲル状組成物は、良好なゲル形成の観点から、好ましくは乳たんぱく質濃縮物又はミセル性カゼイン濃縮物を含む。すなわち、前記乳たんぱく質は、乳たんぱく質濃縮物又はミセル性カゼイン濃縮物に由来するものであってよい。
【0022】
前記乳たんぱく質濃縮物(MPC)に含まれるカゼイン:ホエイタンパク質の含有質量比は、例えば95:5~75:25であり、特には85:15~75:25であり、より具体的には80:20であってもよい。MPCは、例えば脱脂乳(特には除菌された脱脂乳)から、例えば透析ろ過膜及び/又は限外ろ過膜などの膜処理によって乳糖及び/又は塩類を除去することによって得られる。MPCの製造のために、当該膜処理後に、さらに加熱、濃縮、及び乾燥などの処理が行われてもよい。MPCの例として、例えばMPC480(フォンテラ社製、カゼイン:ホエイタンパク質=80:20、形態:乾燥粉末)を挙げることができるが、これに限定されない。
前記ミセル性カゼイン濃縮物(MCC)に含まれるカゼイン:ホエイタンパク質の含有質量比は、例えば95:5~85:15であり、より具体的には90:10であってもよい。MCCは、レンネット等の酵素処理を行わずに前記MPCのカゼイン比率をより高めることにより得られる乳濃縮物である。
【0023】
(2)乳たんぱく質分解物
【0024】
本技術のゲル状組成物は、乳たんぱく質分解物を含む。乳たんぱく質分解物は、乳たんぱく質の分解産物であり、例えば乳たんぱく質の酵素分解物、酸分解物、又はアルカリ分解物であってよい。また、乳たんぱく質分解物は、例えばカゼイン分解物又はホエイたんぱく質分解物であってよく、好ましくはカゼイン分解物である。好ましい実施態様において、前記乳たんぱく質分解物はカゼイン分解物であり、より好ましくはカゼインの加水分解物であり、さらにより好ましくはカゼインの酵素による加水分解の産物である。カゼイン分解物を用いることが、ゲル状組成物の良好なゲル形成及び/又は風味改善に貢献する。
【0025】
前記乳たんぱく質分解物は、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち、好ましくは20質量%~90質量%を占め、より好ましくは25質量%~85質量%を占め、さらにより好ましくは30質量%~80質量%を占めてよい。前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質のうちの前記乳たんぱく質分解物量の構成割合が上記数値範囲内にあることが、良好なゲル形成に貢献する。
特に好ましい実施態様において、前記乳たんぱく質分解物は、前記ゲル状組成物に含まれるたんぱく質性物質の合計質量のうち、特に好ましくは20質量%~60質量%を占め、より好ましくは30質量%~55質量%を占め、さらにより好ましくは35質量%~45質量%を占めてよい。これにより、良好なゲル形成に加え、風味及び食感の向上ももたらされうる。
【0026】
前記カゼイン分解物を製造するための源としてのカゼインは、例えば上記(1)において説明したとおりのものであってよい。
【0027】
本技術において用いられる前記カゼイン分解物の分子量分布は、10000ダルトン超の分子が、60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。下限は、0%以上であればよいが、好ましくは10%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは30%以上である。すなわち、前記カゼイン分解物の10000ダルトン超の分子は、0~60%、0~50%、0~40%、10~60%、10~50%、10~40%、20~60%、20~50%、20~40%、30~60%、30~50%、又は30~40%であってよい。
また、前記カゼイン分解物の分子量分布は、5000ダルトン超10000ダルトン以下の分子が、30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。下限は、0%以上であればよいが、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上である。すなわち、前記カゼイン分解物の5000ダルトン超10000ダルトン以下の分子は、0~30%、0~25%、0~20%、5~30%、5~25%、5~20%、10~30%、10~25%、又は10~20%であってよい。
また、前記カゼイン分解物の分子量分布は、1000ダルトン超5000ダルトン以下の分子が、40%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。下限は0%以上であればよいが、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上である。すなわち、前記カゼイン分解物の1000ダルトン超5000ダルトン以下の分子は、0~40%、0~35%、0~30%、10~40%、10~35%、10~30%、15~40%、15~35%、又は15~30%であってよい。
また、前記カゼイン分解物の分子量分布は、1000ダルトン以下の分子が、100%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましく、30%以下であることがよりさらに好ましい。下限は0%以上であればよいが、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上である。すなわち、前記カゼイン分解物の1000ダルトン以下の分子は、0~100%、0~90%、0~50%、0~30%、10~100%、10~90%、10~50%、10~30%、15~100%、15~90%、15~50%、又は15~30%であってよい。
【0028】
(分子量分布の測定方法)
前記カゼイン分解物の分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーにより以下の条件で測定することができる(宇井信生ら編、「タンパク質・ペプチドの高速液体クロマトグラフィー」、化学増刊第102号、第241頁、株式会社化学同人、1984年)。
ポリハイドロキシエチル・アスパルタミド・カラム[Poly Hydroxyethyl Aspartamide Column:ポリ・エル・シー(Poly LC)社製。直径4.6mmおよび長さ200mm]を用い、20mM塩化ナトリウム、50mMギ酸により溶出速度0.4mL/分で溶出する。検出は、UV検出器(島津製作所製)を用い、データ解析はGPC分析システム(島津製作所製)を使用することができる。
【0029】
前記カゼイン分解物の前記分子量分布において、分子量10000ダルトン超の画分の割合は、分子量分布曲線における全面積(分子量分布曲線とベースラインに囲まれた領域の合計面積)のうち、分子量が10000ダルトンを超える領域の面積の割合である。他の分子量画分の割合も同様である。
【0030】
また、前記カゼイン分解物は、分解率が、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることがよりさらに好ましく、3.5%以下であることが特に好ましい。下限としては、1%以上であることが好ましく、1.1%以上であることがより好ましい。すなわち、前記カゼイン分解物の分解率は、1~40%、1~30%、1~20%、1~10%、1~5%、1~3.5%、1.1~40%、1.1~30%、1.1~10%、1.1~5%、1.1~3.5%であってよい。
【0031】
(分解率の測定方法)
カゼイン分解物の分解率の測定は、TNBS法によって測定することができる。すなわち、未分解カゼインおよびカゼイン分解物それぞれの乾燥粉末を蒸留水に溶解させ、0.4mg/mLとなるように調整後、得られた溶解液10μL、0.1Mホウ酸緩衝液60μL、0.1%TNBS溶液20μL、0.03M亜硫酸ナトリウム溶液10μLを混合し、37℃で60分間放置した後、波長425nmでの吸光度を測定する。測定結果から下記式により分解率を算出する。
分解率(%)=(h-h)/(htot-h)×100
h:カゼイン分解物の溶解液の吸光度。
:未分解カゼインの溶解液の吸光度。
tot:カゼインの塩酸分解試料(6N塩酸、100℃、24時間)の吸光度。
【0032】
カゼイン分解物は、数平均分子量が200~2000ダルトンであることが好ましく、200~1500ダルトンであることが好ましく、300~2000ダルトンであることがさらに好ましく、500~1500ダルトンであることがよりさらに好ましく、700~1500ダルトンであることがよりさらに好ましい。
【0033】
カゼイン分解物の平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーにより測定される数平均分子量である。数平均分子量は、分子量分布から以下の概念により求める。分子量分布の測定方法は前記のとおりである。
数平均分子量(Number Average of Molecular Weight)は、例えば文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116~119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されているとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。すなわち、たんぱく質分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、たんぱく質分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要がある。数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数をNiとすると、次の数式(1)により定義される。
【0034】
【数1】
【0035】
カゼイン分解物としては、市販品を用いてもよく、カゼイン原料を加水分解処理して調製したものを用いてもよい。
【0036】
加水分解処理としては、たんぱく質分解酵素による酵素分解処理が好ましい。
たんぱく質分解酵素としては、たんぱく質を加水分解可能なものであればよく、容易に市販品が入手可能な点から、動物由来プロテアーゼ、バシラス由来プロテアーゼ、アスペルギルス由来プロテアーゼ、植物由来プロテアーゼ及び乳酸菌由来プロテアーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
たんぱく質分解酵素は、食品衛生上無害な市販品であってよい。動物由来プロテアーゼとしては、PTN6.0S(ノボザイムズ社製)、パンクレアチン×4.0滅菌品(天野エンザイム社製)、ペプシン(天野エンザイム社製)等が例示される。バシラス由来プロテアーゼとしては、プロテアーゼNアマノ(天野エンザイム社製)、ニュートラーゼ(ノボザイムズ社製)、ビオプラーゼSP-20(ナガセケムテックス社製)等が例示される。アスペルギルス由来プロテアーゼとしては、プロテアーゼAアマノ(天野エンザイム社製)、プロテアックス(天野エンザイム社製)、フレーバーザイム(ノボザイムズ社製)、スミチームMP(新日本化学社製)等が例示される。植物由来プロテアーゼとしては、パパインW-40(天野エンザイム社製)等が例示される。乳酸菌由来プロテアーゼとしては、FC-H(森永乳業社製)等が例示される。
たんぱく質分解酵素は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
たんぱく質分解酵素として、固定化酵素を使用することもできる。
【0037】
カゼイン原料の酵素分解処理方法の一例として、カゼイン原料を用いてカゼイン溶液を調製し、前記カゼイン溶液にたんぱく質分解酵素を添加し、前記たんぱく質分解酵素の至適温度で保温する方法が挙げられる。この方法では、保温時にカゼインの加水分解が進行する。酵素の添加量および保温時間によって、分子量や分解率を調整できる。
【0038】
(3)ゲル化剤
【0039】
本発明のゲル状組成物は、ゲル化剤を含んでよい。当該ゲル化剤によって、本発明のゲル状組成物のゲル状形態が形成される。当該ゲル化剤は、例えば所望の物性又は当該ゲル状組成物中の成分に応じて、当技術分野において用いられるゲル化剤のうちから、当業者により適宜選択されてよい。
当該ゲル化剤は、例えばたんぱく質系ゲル化剤又は糖類系ゲル化剤であってよい。当該糖類系ゲル化剤として例えば、植物性多糖類、植物性樹液由来多糖類、海藻由来の多糖類、微生物由来多糖類、澱粉、合成ゲル化剤、及びその他のゲル化剤を挙げることができる。
より具体的には、当該ゲル化剤は以下から選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせであってよい:
-たんぱく質系ゲル化剤、例えばゼラチンなど;
-植物性多糖類、例えばサイリウムシードガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンド種子ガム、ペクチン、及びグルコマンナンなど;
-植物性樹液由来多糖類、例えばアラビアガム、トラガカントガム、及びカラヤガムなど;
-海藻由来の多糖類、例えばカラギナン、寒天、アルギン酸、及びアルギン酸ナトリウムなど;
-微生物由来多糖類、例えばスクシノグリカン、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、及びプルランなど;
-澱粉、例えばコーンスターチ、ばれいしょ澱粉、タピオカ澱粉、及びデキストリンなど
-合成ゲル化剤、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)及びカチオン化グアーガムなど;並びに
-その他のゲル化剤、例えばセルロース、コンニャクマンナン、及び大豆多糖類など。
【0040】
好ましくは、ゲル化剤は、寒天、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選択される1種又は2種以上を含む。これらゲル化剤が、乳たんぱく質と乳たんぱく質分解物とを高い含有割合で含む組成物をゲル化するために適している。
【0041】
本発明の一つの実施態様において、ゲル化剤は、寒天を含む。この実施態様において、ゲル化剤は、例えば、寒天のみから構成されてよく、又は、寒天と賦形剤(例えばデキストリンなど)から構成されてよい。寒天は、乳たんぱく質と乳たんぱく質分解物とを高い含有割合で含む組成物をゲル化するために特に適している。
【0042】
本発明の他の実施態様において、ゲル化剤は、ジェランガムを含む。この実施態様において、ゲル化剤は、例えばジェランガムのみから構成されてよく、又は、ジェランガムと賦形剤とから構成されてもよい。ジェランガムは、乳たんぱく質と乳たんぱく質分解物とを高い含有割合で含む組成物をゲル化するために特に適している。
【0043】
本発明のさらに他の実施態様において、ゲル化剤は、カラギナンを含む。この実施態様において、ゲル化剤は、例えばカラギナンのみから構成されてよく、又は、カラギナンと賦形剤とから構成されてもよい。カラギナンは、乳たんぱく質と乳たんぱく質分解物とを高い含有割合で含む組成物をゲル化するために特に適している。
【0044】
本発明のゲル状組成物中のゲル化剤の含有割合は、当該ゲル状組成物の質量に対して、例えば0.1質量%~1.5質量%、特には0.2質量%~1.0質量%である。なお、ゲル化剤の含有割合は、例えばゲル化剤の種類及び/又は所望のゲル強度などの要因に応じて当業者により適宜選択されてよい。
【0045】
(4)アミノ酸
【0046】
本技術のゲル状組成物は、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物に加えて、さらにアミノ酸を含んでもよい。前記アミノ酸は、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物とは別に、遊離アミノ酸として含まれるものである。すなわち、前記アミノ酸は、ゲル状組成物の製造において、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物とは別のものとして添加されるものであってよい。前記アミノ酸は、例えばバリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、プロリン、システイン、リジン、スレオニン、アスパラギン、フェニルアラニン、セリン、メチオニン、グリシン、チロシン、ヒスチジン、及びトリプトファンから選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせであってよい。好ましくは、筋肉合成の促進のために、前記アミノ酸は、バリン、ロイシン、及びイソロイシンから選ばれる1つ、2つ、又は3つを含んでよく、又は、バリン、ロイシン、及びイソロイシンから選ばれる1つ、2つ、又は3つのみから構成されてよい。本技術の好ましい実施態様において、前記アミノ酸は例えばロイシンを含み又はロイシンのみから構成されてよい。前記アミノ酸の含有割合は、本技術のゲル状組成物の質量に対して、例えば0.1質量%~2質量%、特には0.1質量%~1質量%である。例えば、前記アミノ酸がロイシンであり、当該ロイシンの含有割合が、本技術のゲル状組成物の質量に対して、例えば0.1質量%~2質量%、特には0.1質量%~1質量%であってよい。
【0047】
(5)その他の成分
【0048】
本技術のゲル状組成物は、乳たんぱく質、乳たんぱく質分解物、及びゲル化剤に加えて、例えば水、甘味料、果汁、野菜汁、香料、着色料、及び酸味料などの成分を含みうる。これらの成分の種類及び含有割合は、所望の味及び/又は外観に応じて当業者により適宜選択されてよい。
【0049】
本技術の好ましい実施態様において、本技術のゲル状組成物は、EPA及び/又はDHAをさらに含む。本技術のゲル状組成物中のEPAの含有割合は、本技術のゲル状組成物の質量に対して、例えば2.0質量%以下であってよく、好ましくは0.1~2.0質量%、より好ましくは0.27質量%~2.0質量%であり、さらにより好ましくは0.5質量%~1.5質量%である。本技術のゲル状組成物中のDHAの含有割合は、例えば3.3質量%以下であってよく、好ましくは0.1~3.3質量%、より好ましくは0.27質量%~2.0質量%であり、さらにより好ましくは0.3質量%~1.0質量%である。本技術のゲル状組成物がEPA及び/又はDHAを含むことによって、たんぱく質性物質の高い含有割合とEPA及び/又はDHAとの組合せによって、例えば悪液質などを有する患者に対して、炎症の抑制をもたらしうることで筋たんぱくの異化を抑制し、効率よくたんぱく質補給を行うことができる。
【0050】
本技術の好ましい実施態様において、本技術のゲル状組成物は、中鎖脂肪酸トリグリセリドをさらに含む。本技術のゲル状組成物中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有割合は、本技術のゲル状組成物の質量に対して、好ましくは0.1質量%~25質量%、より好ましくは0.3質量%~11質量%であり、さらにより好ましくは0.5質量%~3質量%である。中鎖脂肪酸トリグリセリドは、長鎖脂肪酸トリグリセリドと比較して消化吸収が良く、エネルギー源になりやすい。そのため、本技術のゲル状組成物が中鎖脂肪酸トリグリセリドを含むことによって、中鎖脂肪酸トリグリセリドが、疾病によりグルコースを利用しにくい人又は食事摂取量が少ない人のエネルギー源となり、エネルギー効率を改善することができる。
【0051】
(6)たんぱく質性物質の含有量
【0052】
本技術のゲル状組成物のたんぱく質性物質の含有量は、当該ゲル状組成物の質量に対して10質量%以上であり、好ましくは12質量%以上であり、より好ましくは14質量%以上であり、さらにより好ましくは15質量%以上、16質量%以上、又は17質量%以上であってもよい。このようにたんぱく質性物質の含有割合が高いことで、効率的にたんぱく質性物質を摂取することができる。
本技術のゲル状組成物のたんぱく質性物質の含有量は、例えば30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらにより好ましくは22質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以下である。たんぱく質性物質の含有割合が高すぎる場合、ゲル状組成物を得ることが困難になることがある。
すなわち、本技術のゲル状組成物のたんぱく質性物質の含有量は、10~30質量%、10~25質量%、10~22質量%、10~20質量%、12~30質量%、12~25質量%、12~22質量%、12~20質量%、14~30質量%、14~25質量%、14~22質量%、14~20質量%、15~30質量%、15~25質量%、15~22質量%、15~20質量%、16~30質量%、16~25質量%、16~22質量%、16~20質量%、17~30質量%、17~25質量%、17~22質量%、又は17~20質量%であってよい。
【0053】
本明細書内において、たんぱく質性物質は、たんぱく質、ペプチド、及びアミノ酸を意味する。たんぱく質性物質には、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物が包含される。本明細書内において、たんぱく質性物質の含有量は、燃焼法により測定される含有量である。すなわち、たんぱく質性物質の含有量は、ゲル状組成物の質量に対する、たんぱく質、ペプチド、及びアミノ酸の合計質量の割合である。
【0054】
好ましくは、本技術のゲル状組成物には、前記乳たんぱく質が、たんぱく質性物質の合計質量に対して10質量%~80質量%の割合で含まれてよい。また、その残部が、前記乳たんぱく質分解物及び/又はアミノ酸から構成されてよい。これにより良好なゲル形成に貢献する。
また、本技術のゲル状組成物における乳たんぱく質の含有量に対する乳たんぱく質分解物の含有量の質量比(乳たんぱく質分解物の含有量(質量%)÷乳たんぱく質の含有量(質量%))は、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.4以上であることがさらにより好ましく、0.5、0.6以上、又は0.7以上であることがさらにより好ましい。また、上限値は、9以下であることが好ましく、8以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、6以下、5以下、4以下、又は3以下であることがさらにより好ましく、2.5以下であることがよりさらに好ましい。すなわち、本技術のゲル状組成物における乳たんぱく質の含有量に対する乳たんぱく質分解物の含有量の質量比は、0.2~9、0.3~8、0.4~7、0.5~6、0.5~5、0.5~4、0.5~3、0.5~2.5、0.6~5、0.6~4、0.6~3、0.6~2.5、0.7~5、0.7~4、0.7~3、又は0.7~2.5であってよい。
【0055】
前記ゲル状組成物のたんぱく質性物質含有量は、好ましくは前記ゲル状組成物100kcal当たり6g~15gであり、より好ましくは前記ゲル状組成物100kcal当たり7g~13gであり、さらにより好ましくは前記ゲル状組成物100kcal当たり8g~12gである。このような数値範囲内の含有割合でたんぱく質を含むことによって、効率的なたんぱく質摂取が可能となる。
【0056】
前記ゲル状組成物の脂質含有量は、好ましくは前記ゲル状組成物100kcal当たり1g~8gであり、より好ましくは前記ゲル状組成物100kcal当たり2g~6gであり、さらにより好ましくは前記ゲル状組成物100kcal当たり3g~5gである。脂質摂取量を低減するためには、このような数値範囲内の含有割合が望ましい。
【0057】
(7)ゲル状組成物の物性
【0058】
本技術のゲル状組成物の硬さは、好ましくは1000N/m~35000N/mであり、より好ましくは5000N/m~30000N/mであり、さらにより好ましくは10000N/m~25000N/mであってよい。本技術のゲル状組成物がこのような硬さを有することにより、良い食感が得られる。また、乳たんぱく質と乳たんぱく質分解物との組合せは、このような硬さのゲル状組成物を得るために適している。
【0059】
前記硬さは、特別用途食品のえん下困難者用食品の試験方法に準拠して測定される。より具体的には、当該硬さは、消食表第144号(令和元年7月1日)「特別用途食品の表示許可等について」の第22頁、別添1の別紙3 えん下困難者用食品(とろみ調整用食品を含む)の試験方法、(1) 硬さ、付着性及び凝集性の試験方法に準処する方法で測定して得られる値である。当該測定は、具体的には、レオメーターにより、直径20mm、高さ8mmの樹脂製のプランジャーを用いて、圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mmで圧縮測定を行い、一定速度で圧縮したときの抵抗の最大値を硬さの測定値(単位:N/m)とする。測定時の試料の温度は20℃とする。
【0060】
本技術のゲル状組成物の付着性は、100~4000J/mであってよい。
前記付着性も、前記特別用途食品のえん下困難者用食品の試験方法に準拠して測定される。
【0061】
本技術のゲル状組成物の凝集性は、0.2~0.8であってよい。
前記凝集性も、前記特別用途食品のえん下困難者用食品の試験方法に準拠して測定される。
【0062】
特に好ましい実施態様に従い、本技術のゲル状組成物は、100g当たりの熱量が、好ましくは100kcal~300kcalであり、より好ましくは105kcal~300kcalであり、さらにより好ましくは140kcal~300kcalである。このようなエネルギー量によって、例えばエネルギー補給を効率的に行うことができる。
【0063】
(8)本技術のゲル状組成物の製造方法
【0064】
本技術は、本技術のゲル状組成物の製造方法も提供する。当該製造方法は、乳たんぱく質、乳たんぱく質分解物、及びゲル化剤を含み、且つ、たんぱく質性物質の含有量が10質量%以上である水溶液を調製する水溶液調製工程、及び、前記水溶液を加熱、冷却してゲル状組成物を得るゲル化工程を含む。前記乳たんぱく質と前記乳たんぱく質分解物とを組合せて用いることによって、前記乳たんぱく質及び前記乳たんぱく質分解物の溶解性が向上し、これによりゲル状組成物を得るための水溶液の調製が容易になる。
【0065】
前記水溶液調製工程において調製される水溶液は、例えば乳たんぱく質、乳たんぱく質分解物、及びゲル化剤を水に溶解することによって調製される。例えば、乳たんぱく質、乳たんぱく質分解物、及びゲル化剤を水に分散させ、そして、これらの混合物を適宜加熱しながらさらに混合することによって、前記乳たんぱく質、前記乳たんぱく質分解物、及び前記ゲル化剤が水に溶解されてよい。当該乳たんぱく質、当該乳たんぱく質分解物、及び当該ゲル化剤は、本明細書内上記において説明したとおりであり、その説明が当該製造方法においても当てはまる。また、これらの水溶液中の配合割合も、本明細書内の上記において含有量に関して説明したとおりであり、その説明が当該製造方法においても当てはまる。また、前記水溶液には、本明細書内上記において説明した他の成分が含まれていてもよい。
【0066】
前記ゲル化工程において、前記水溶液が冷却されることによりゲル化される。ゲル化の手法は、ゲル化剤の種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。
【0067】
(9)本技術のゲル状組成物の使用方法
【0068】
本技術のゲル状組成物は食品組成物であってよく、例えばヒトによって喫食されてよい。本技術のゲル状組成物は、例えばたんぱく質性物質を効率的に摂取することが求められるヒトにより摂取されるために用いられてよい。当該ヒトは、例えば悪液質若しくは消耗性疾患などの疾患を有する患者であってよく、又は、例えば口腔機能が低下した高齢者若しくは食欲の無い高齢者などであってもよい。本技術のゲル状組成物によって、このような患者又は高齢者が効率的にたんぱく質を摂取することが可能となる。
【0069】
以下で実施例を参照して本技術をより詳しく説明するが、本技術はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0070】
[実験1]ゲル状組成物の製造
【0071】
(実施例1-1)
(1)カゼイン分解物の調製
市販の乳酸カゼイン(フォンテラ社製)1000gに65℃の温湯を9000g加えてカゼインを膨潤後、10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶解した。得られた溶液のpHを8.0に調整し、90℃で10分間加熱殺菌し、50℃に冷却した。このカゼイン溶液にプロテアックス(天野エンザイム社製)50mgを加え、50℃で5時間加水分解した後、90℃で5分間加熱して酵素を失活させてカゼイン分解物溶液を得た。カゼイン分解物溶液を濃縮後、噴霧乾燥し、カゼイン分解物の粉末約940gを得た。得られた粉末のたんぱく質含量は90.0質量%であった。
得られた粉末中のカゼイン分解物の分子量分布は、10000ダルトン超:35%、5000ダルトン超10000ダルトン以下:20%、1000ダルトン超5000ダルトン以下:26%、1000ダルトン以下:19%であり、分解率は3.5%であった。
【0072】
(2)ゲル状組成物の調製
ゲル化剤(寒天)を温水に分散した後、90℃以上まで加熱して寒天を溶解させた。寒天溶液に乳たんぱく質濃縮物(MPC480、フォンテラ社製、乳タンパク質含有割合77.2質量%、乳脂肪分1.2質量%、乳糖9.2質量%、灰分7.1質量%、及び水分5.3質量%)、乳たんぱく質分解物の粉末(前記(1)で調製したカゼイン分解物の粉末である)、グラニュー糖及び食用油を投入して撹拌溶解した後、この溶液を密封可能な容器に充填し、レトルト殺菌機にて溶液の中心部の温度を120℃で4分間以上加熱殺菌し、ゲル状組成物を得た。当該乳たんぱく質濃縮物は、カゼイン及びホエイたんぱく質を80:20の質量比で含む。
当該ゲル状組成物は、以下表1の実施例1-1に示される含有割合で乳たんぱく質濃縮物、乳たんぱく質分解物の粉末、及びゲル化剤を含んだ。また、同表に、当該乳たんぱく質濃縮物中の乳たんぱく質含有割合を考慮した乳たんぱく質量も示されている。実施例1-1のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の、当該ゲル状組成物の質量に対する含有割合は、13.0質量%であった。
なお、前記ゲル状組成物は、前記乳たんぱく質濃縮物、前記乳たんぱく質分解物の粉末、及び前記ゲル化剤に加えて、水を71.6質量%、グラニュー糖を1.8質量%及び食用油を11.0質量%含んだ。
【0073】
(比較例1-1)
前記乳たんぱく質分解物を含まないこと及び前記乳たんぱく質分解物の含有量に相当する量の乳たんぱく質を前記乳たんぱく質濃縮物によって補ったこと以外は、実施例1-1と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表1の比較例1-1に示される含有割合で乳たんぱく質濃縮物及びゲル化剤を含んだ。比較例1-1のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、13.0質量%であった。
【0074】
(比較例1-2)
前記乳たんぱく質濃縮物を含まないこと及び前記乳たんぱく質濃縮物中の乳たんぱく質量に相当する量の乳たんぱく質分解物を前記乳たんぱく質分解物の粉末によって補ったこと以外は、実施例1-1と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表1の比較例1-2に示される含有割合で乳たんぱく質分解物及びゲル化剤を含んだ。比較例1-2のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、13.0質量%であった。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1-1及び比較例1-1及び1-2のゲル状組成物を以下の評価基準に従い評価した。評価結果も上記表1に示されている。
<ゲルの評価基準>
A:流動性がなく、保形性(形を保った状態で容器から容易に取り出すことができる)および食感(滑らかである)が良好。
B:流動性がなく、保形性はあるが、食感が劣る。
C:流動性があり、保形性および食感が劣る。
【0077】
表1に示されるとおり、乳たんぱく質を含むが乳たんぱく質分解物を含まない比較例1-1のゲル状組成物は、評価結果がCであり、流動性があった。そのため、いわゆるゼリー状食品として利用できない。また、比較例1-1のゲル状組成物は、保形性及び食感のいずれも劣るものであった。
また、乳たんぱく質を含まないが乳たんぱく質分解物を含む比較例1-2のゲル状組成物も、評価結果がCであり、流動性があった。そのため、いわゆるゼリー状食品として利用できない。また、比較例1-2のゲル状組成物も、保形性及び食感のいずれも劣るものであった。
一方で、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物を含む実施例1-1のゲル状組成物は、評価結果がAであり、流動性がなかった。そのため、実施例1-1のゲル状組成物は、いわゆるゼリー状食品として利用できる。また、実施例1-1のゲル状組成物は、保形性及び食感のいずれも良好であった。
これらの結果より、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物のいずれかのみを含む場合は、流動性がないゲルが形成されないが、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物の両方を含むことによって流動性がないゲルが形成されることが分かる。さらに、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物の両方を含むゲル状組成物は、保形性及び食感のいずれもが良好であった。そのため、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物の組合せによって、流動性のないゲル状組成物を形成することができることが分かり、さらには、当該組合せによって、保形性及び食感に優れたゲル状組成物を形成することができることも分かる。
【0078】
上記実験1において示された乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物の組合せによる効果が他のゲル化剤を用いた場合においても奏されるかを以下の実験2により検証した。
【0079】
[実験2]ゲル状組成物の製造
【0080】
(実施例2-1)
乳たんぱく質濃縮物(MPC480、フォンテラ社製、乳タンパク質含有割合77.2質量%、乳脂肪分1.2質量%、乳糖9.2質量%、灰分7.1質量%、及び水分5.3質量%)、乳たんぱく質分解物の粉末(前記実施例1-1の(1)で調製したカゼイン分解物の粉末である)、L-ロイシン、及びゲル化剤(カラギナン)を含む水溶液を調製し、そして、当該水溶液をゲル化してゲル状組成物を得た。当該乳たんぱく質濃縮物は、カゼイン及びホエイたんぱく質を80:20の質量比で含む。
当該ゲル状組成物は、以下表2の実施例2-1に示される含有割合で乳たんぱく質濃縮物、乳たんぱく質分解物の粉末、L-ロイシン、及びゲル化剤を含んだ。また、同表に、当該乳たんぱく質濃縮物中の乳たんぱく質含有割合を考慮した乳たんぱく質量も示されている。実施例2-1のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.4質量%であった。
なお、前記ゲル状組成物は、前記乳たんぱく質濃縮物、前記乳たんぱく質分解物の粉末、及び前記ゲル化剤に加えて、水を60.0質量%、グラニュー糖を10.0質量%、及び食用油を7.0質量%含んだ。
【0081】
(実施例2-2)
ゲル化剤として、カラギナンの代わりにジェランガムと乳酸カルシウムの組合せを用いたこと以外は、実施例2-1と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表2の実施例2-2に示される含有割合で乳たんぱく質濃縮物及びゲル化剤を含んだ。実施例2-2のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.4質量%であった。
【0082】
(実施例2-3)
ゲル化剤として、カラギナンの代わりに、カラギナンとジェランガムと乳酸カルシウムとの組合せを用いたこと以外は、実施例2-1と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表2の実施例2-3に示される含有割合で乳たんぱく質濃縮物及びゲル化剤を含んだ。実施例2-3のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.4質量%であった。
【0083】
(比較例2-1)
前記乳たんぱく質分解物を含まないこと及び前記乳たんぱく質分解物の含有量に相当する量の乳たんぱく質を前記乳たんぱく質濃縮物によって補ったこと以外は、実施例2-1と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表2の比較例2-1に示される含有割合で乳たんぱく質濃縮物及びゲル化剤を含んだ。比較例2-1のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.4質量%であった。
【0084】
(比較例2-2)
前記乳たんぱく質濃縮物を含まないこと及び前記乳たんぱく質濃縮物中の乳たんぱく質量に相当する量の乳たんぱく質分解物を前記乳たんぱく質分解物の粉末によって補ったこと以外は、実施例2-1と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表2の比較例2-2に示される含有割合で乳たんぱく質分解物の粉末及びゲル化剤を含んだ。比較例2-2のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.3質量%であった。
【0085】
(比較例2-3)
前記乳たんぱく質分解物を含まないこと及び前記乳たんぱく質分解物の含有量に相当する量の乳たんぱく質を前記乳たんぱく質濃縮物によって補ったこと以外は、実施例2-2と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表2の比較例2-3に示される含有割合で乳たんぱく質濃縮物及びゲル化剤を含んだ。比較例2-3のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.4質量%であった。
【0086】
(比較例2-4)
前記乳たんぱく質濃縮物を含まないこと及び前記乳たんぱく質濃縮物中の乳たんぱく質量に相当する量の乳たんぱく質分解物を前記乳たんぱく質分解物の粉末によって補ったこと以外は、実施例2-2と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表2の比較例2-4に示される含有割合で乳たんぱく質分解物の粉末及びゲル化剤を含んだ。比較例2-4のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.3質量%であった。
【0087】
(比較例2-5)
前記乳たんぱく質分解物を含まないこと及び前記乳たんぱく質分解物の含有量に相当する量の乳たんぱく質を前記乳たんぱく質濃縮物によって補ったこと以外は、実施例2-3と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表2の比較例2-5に示される含有割合で乳たんぱく質濃縮物及びゲル化剤を含んだ。比較例2-5のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.4質量%であった。
【0088】
(比較例2-6)
前記乳たんぱく質濃縮物を含まないこと及び前記乳たんぱく質濃縮物中の乳たんぱく質量に相当する量の乳たんぱく質分解物を前記乳たんぱく質分解物の粉末によって補ったこと以外は、実施例2-3と同じようにしてゲル状組成物を得た。
当該ゲル状組成物は、以下表2の比較例2-6に示される含有割合で乳たんぱく質分解物の粉末及びゲル化剤を含んだ。比較例2-6のゲル状組成物中に含まれるたんぱく質性物質の含有割合は、18.3質量%であった。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例2-1~2-3及び比較例2-1~2-6のゲル状組成物を以下の評価基準に従い評価した。評価結果も上記表2に示されている。
<ゲルの評価基準>
A:流動性がなく、保形性(形を保った状態で容器から容易に取り出すことができる)および食感(滑らかである)が良好。
B:流動性がなく、保形性はあるが、食感が劣る。
C:流動性があり、保形性および食感が劣る。
【0091】
実施例2-1~2-3及び比較例2-1~2-6のゲル状組成物の風味及び組織についても、以下の評価基準に従い評価した。評価結果も上記表2に示されている。
<風味の評価基準>
A:苦みやえぐ味がなく、喫食可能。
C:苦みやえぐ味があり、喫食不可能。
<組織の評価基準>
A:食感がやわらかく、滑らかである。組織が均一。
C:食感が硬く、ボソボソしている。分離や凝集がみられ、組織が不均一。
【0092】
表2に示されるとおり、実施例2-1~2-3のゲル状組成物はいずれも、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物を両方含み、ゲルの評価結果がAであった。一方で、比較例2-1~2-6のゲル状組成物はいずれも、乳たんぱく質又は乳たんぱく質分解物のいずれかを含み、ゲルの評価結果がB又はCであった。これらの結果より、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物の組合せによって、流動性がなく且つ良好な保形性及び食感が得られることが分かる。
また、実験1及び実験2のゲルの評価結果から、ゲル化剤として寒天を用いた場合だけでなく、ゲル化剤としてジェランガム、カラギナン、又はジェランガムとカラギナンとの組合せを用いた場合においても、乳たんぱく質又は乳たんぱく質分解物の組合せによる上記効果が奏されることが分かる。これらの結果から、種々のゲル化剤を用いた場合において、乳たんぱく質又は乳たんぱく質分解物の組合せによる上記効果が奏されることも分かる。
【0093】
また、実施例2-1と比較例2-1及び2-2との比較から、乳たんぱく質又は乳たんぱく質分解物の組合せによって、風味及び組織の評価結果も良好になることが分かる。例えば、乳たんぱく質又は乳たんぱく質分解物の組合せによって、苦み及びえぐ味をなくすこと又は低減することができること、及び、ゲル状組成物の組織を均一にすることができることも分かる。
実施例2-2と比較例2-3及び2-4との比較から及び実施例2-3と比較例2-5及び2-6との比較からも、同様に、乳たんぱく質又は乳たんぱく質分解物の組合せによって、苦み及びえぐ味をなくすこと又は低減することができること、及び、ゲル状組成物の組織を均一にすることができることが分かる。
【0094】
[製造例1]
実施例2-1~2-3に係るゲル状組成物の製造に使用した原料に加えて、ビタミン、ミネラル、及びカルニチンといった栄養成分をさらに添加したこと以外は、実施例2-1~2-3と同様の製造方法でゲル状組成物を調製した。得られたゲル状組成物の組成は、以下の表3のとおりであった。なお、表3中のBCAA及びロイシンは、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物分解物を構成するアミノ酸と、乳たんぱく質及び乳たんぱく質分解物分解物とは別に添加されたアミノ酸との合計量である。
当該ゲル状組成物は、流動性がなく保形性が良好で、苦みやえぐ味がなく、喫食可能であり、かつ、食感が良好で組織が均一であった。この結果より、乳たんぱく質又は乳たんぱく質分解物の組合せによる効果は、種々の栄養成分を加えた場合においても奏されることが分かる。
【0095】
【表3】