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  • 特許-汚水処理システム、汚水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】汚水処理システム、汚水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/04 20230101AFI20240109BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240109BHJP
【FI】
C02F3/04
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019200429
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021074642
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 基治
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-080693(JP,A)
【文献】特開2007-237055(JP,A)
【文献】特開2006-334509(JP,A)
【文献】特開2005-093258(JP,A)
【文献】特開昭59-132999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00 - 3/34
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含まれる有機物を微生物により処理して排出する処理装置と、
前記処理装置が排出した処理水を前記処理装置に循環する循環装置と、
前記被処理水の、懸濁物質、濁度、酸化還元電位の少なくとも何れか1の値を計測する計測器と、
前記計測器が計測した値に基づき、前記被処理水の有機物濃度を推定し、推定した有機物濃度に基づき、前記処理装置から前記循環装置に循環する処理水の循環率を決定する制御装置とを備え
前記制御装置は、懸濁物質、濁度、酸化還元電位の何れか1の複数の値の各々に対応する有機物濃度を示す第1データを格納するメモリを備え、
前記メモリは、複数の循環率の各々に対応する有機物濃度を示す第2データと、目標有機物濃度を示す第3データを格納し、
前記制御装置は、推定した前記有機物濃度と、前記第1データと、前記第2データと、前記第3データとに基づき、前記循環率を決定する、汚水処理システム。
【請求項2】
前記制御装置は、推定した前記有機物濃度と前記目標有機物濃度との差を算出し、前記第2データを参照し前記差に対応する循環率を決定する、請求項1に記載の汚水処理システム。
【請求項3】
被処理水に含まれる有機物を微生物により処理して排出する処理装置と、
前記処理装置が排出した処理水を前記処理装置に循環する循環装置と、
前記被処理水の、懸濁物質、濁度、酸化還元電位の少なくとも何れか1の値を計測する計測器と、
前記計測器が計測した値に基づき、前記被処理水のBODを推定し、推定したBODに基づき、前記処理装置から前記循環装置に循環する処理水の循環率を決定する制御装置とを備える、汚水処理システム。
【請求項4】
被処理水に含まれる有機物を微生物により処理して排出する処理装置と、
前記処理装置が排出した処理水を前記処理装置に循環する循環装置と、
前記被処理水の、酸化還元電位を計測する計測器と、
前記計測器が計測した酸化還元電位に基づき、前記被処理水の有機物濃度を推定し、推定した有機物濃度に基づき、前記処理装置から前記循環装置に循環する処理水の循環率を決定する制御装置とを備える、汚水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水処理システム、汚水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚水処理装置において、1回の除去処理では汚水の有機物濃度を目標有機物濃度まで低下できない場合、汚水処理装置から排出される汚水を汚水処理装置に返送して、再度、汚水処理を行い、有機物濃度をさらに低下させる処理(いわゆる循環処理)が行われている。この循環処理については、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
従来の汚水処理装置は、最大有機物濃度の被処理水であっても、この被処理水から目標有機物濃度まで有機物濃度を低下できる循環率にて循環処理を行っていた。なお、この最大有機物濃度は、既に取得したデータに基づき仮定した濃度である。そのため、従来では、循環率が必要以上に大きい場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-118894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
循環率が必要以上に大きい場合、循環用の動力が無駄になる。また、循環制御に関する機器のコストを削減する必要がある。すなわち、低コストの機器を利用して、汚水の有機物濃度を目標有機物濃度まで低下させる最適な循環率を決定して動力の省エネ化を実現することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた請求項1に記載の汚水処理システムは、被処理水に含まれる有機物を微生物により処理して排出する処理装置と、前記処理装置が排出した処理水を前記処理装置に循環する循環装置と、前記被処理水の、懸濁物質、濁度、酸化還元電位の少なくとも何れか1の値を計測する計測器と、前記計測器が計測した値に基づき、前記被処理水の有機物濃度を推定し、推定した有機物濃度に基づき、前記処理装置から前記循環装置に循環する処理水の循環率を決定する制御装置とを備え、前記制御装置は、懸濁物質、濁度、酸化還元電位の何れか1の複数の値の各々に対応する有機物濃度を示す第1データを格納するメモリを備え、前記メモリは、複数の循環率の各々に対応する有機物濃度を示す第2データと、目標有機物濃度を示す第3データを格納し、前記制御装置は、推定した前記有機物濃度と、前記第1データと、前記第2データと、前記第3データとに基づき、前記循環率を決定する、汚水処理システムである。
また請求項3に記載の汚水処理システムは、被処理水に含まれる有機物を微生物により処理して排出する処理装置と、前記処理装置が排出した処理水を前記処理装置に循環する循環装置と、前記被処理水の、懸濁物質、濁度、酸化還元電位の少なくとも何れか1の値を計測する計測器と、前記計測器が計測した値に基づき、前記被処理水のBODを推定し、推定したBODに基づき、前記処理装置から前記循環装置に循環する処理水の循環率を決定する制御装置とを備える、汚水処理システムである。さらに請求項4に記載の汚水処理システムは、被処理水に含まれる有機物を微生物により処理して排出する処理装置と、前記処理装置が排出した処理水を前記処理装置に循環する循環装置と、前記被処理水の、酸化還元電位を計測する計測器と、前記計測器が計測した酸化還元電位に基づき、前記被処理水の有機物濃度を推定し、推定した有機物濃度に基づき、前記処理装置から前記循環装置に循環する処理水の循環率を決定する制御装置とを備える、汚水処理システムである。
【発明の効果】
【0007】
本実施の形態における汚水処理システムによれば、低コストで循環用の動力の省エネ化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施の形態における汚水処理システムの概略を説明する図である。
図2A】被処理水の、ORPと有機物濃度との関係を示すグラフ図である。
図2B】被処理水の、ORPと有機物濃度との関係を示すグラフ図である。
図3】汚水処理装置における有機物除去量と循環率との関係を示すグラフ図である。
図4】制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図5】制御装置のプログラムの処理の流れを説明するフロー図である。
図6】循環率の決定処理を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、第1の実施の形態における汚水処理システムの概略を説明する図である。汚水処理システム1は、汚水処理装置10と、循環装置20と、計測器30とを備える。汚水処理装置10は、被処理水FL1に含まれる有機物を微生物により処理して排出する。汚水処理装置10は、例えば散水ろ床法を利用した水処理装置である。また、汚水処理装置10は、例えば、脱窒槽と、脱窒槽の後段に好気層とを備え、窒素を含有する被処理水FL1を生物処理して窒素成分を除去する水処理装置である。
【0010】
循環装置20は、汚水処理装置10が排出した処理水FL2を汚水処理装置10に循環する装置である。循環装置20は、循環水FL3用の配管20aとポンプ20bとを含む。なお、汚水処理装置10が、散水ろ床法を利用した水処理装置の場合には、循環装置20は、処理水を再び散水するために返送する装置である。また、汚水処理装置10が、脱窒槽と好気層とを備えた水処理装置の場合、循環装置20は、好気層内の硝化液を前段の脱窒槽に返送する装置である。
【0011】
計測器30は、懸濁物質、濁度、酸化還元電位の少なくとも何れか1の値を計測する計測器である。計測器30は、他にも被処理水FL1の温度、流量を計測する。計測器30は、計測結果を制御装置40からの要求に応答して計測器30に出力する。なお、計測器30は、定期的に計測結果を制御装置40に出力してもよい。
【0012】
制御装置40は、計測器30が計測した値に基づき、被処理水FL1の有機物濃度を推定し、推定した有機物濃度に基づき、汚水処理装置10から循環装置20に循環する処理水の循環率を決定する。そして、制御装置40は、決定した循環率で循環水FL3を汚水処理装置10に循環(返送)できるようにポンプ20bの動作を制御する。
【0013】
計測器30の計測対象は、例えば原水であり、他にも原水と循環水FL3とが混合した混合水であってもよい。処理水FL2は汚水処理装置10が処理して排出した水である。循環水FL3は、ポンプ20bが処理水FL2から循環用の配管20aに引き抜いた水であり汚水処理装置10に再度供給される。排出水FL4は、汚水処理システム1の系外に排出される水である。
【0014】
次に循環率について説明する。循環率は、循環水FL3の流量を原水FL1の流量で除算した値である。例えば、循環率が0.5の場合、原水FL1の流量の0.5倍(半分)の処理水FL2が、循環水FL3として汚水処理システム1に供給される。また、循環率が1.5の場合、原水FL1の流量の1.5倍の処理水FL2が、循環水FL3として汚水処理システム1に供給される。循環率が1以上の場合、処理水を一時的に溜めるバッファ槽を設けてもよい。制御装置40は、この循環率で処理水FL2を汚水処理装置10に循環するようにポンプ20bの動作を制御する。
【0015】
(循環率の最適化)
循環率を最適化するためには、(1)原水の有機物濃度と、(2)原水の有機物濃度を目標有機物濃度まで低下させるために必要十分な循環率と、を把握する。なお、目標有機物濃度とは、予め定められた濃度であり、汚水処理システム1は、この濃度まで汚水処理システム1の系外に排出する水の有機物濃度を低下させる。そして、循環率の最適化とは、少ない循環率で、汚水処理システム1の系外に排出する水の有機物濃度を目標有機物濃度まで低下させることを意味する。
【0016】
(被処理水の有機物濃度)
被処理水の有機物濃度は、例えば、被処理水のCOD(Chemical Oxygen Demand)を測定するCOD測定装置を利用して定期的に自動測定できる。しかし、COD自動計測装置は高価で、かつ、薬品の補充が必要で維持管理も煩雑である。従って、コスト面、維持管理の面で、COD自動計測装置を採用することは困難である。本発明者は、研究の結果、以下の3つの要素の少なくとも1つの要素と被処理水の有機物濃度との間に一定の相関関係があることを見出した。1つ目の要素は懸濁物質(SS,Suspended Solid)、2つ目の要素は酸化還元電位(ORP, Oxidation-reduction Potential)、3つ目の要素は、被処理水の濁度(Turbidity)である。
【0017】
図2Aは、被処理水の、SS濃度と有機物濃度(BOD濃度)との関係を示すグラフ図である。グラフ図の縦軸は、BOD濃度を示し、横軸はSS濃度を示す。図2Aに示すように、両者の関係は、1次式である(式1)で近似できる。
y=1.0528x+33.023…(式1)
なお、xはSS濃度、yは有機物濃度である。この関係は温度に依存する。
【0018】
図2Bは、被処理水の、ORPと有機物濃度との関係を示すグラフ図である。グラフ図の縦軸は、BOD濃度を示し、横軸はORPを示す。図2Bに示すように、両者の関係は、1次式である(式2)で近似できる。
y=-0.7437x+101.13…(式2)
なお、xはORP、yは有機物濃度である。この関係は温度に依存する。
【0019】
なお、被処理水の濁度と有機物濃度との関係も、図2A図2Bで示したように1次式で近似できる。なお、上記の近似式は一例であり、温度、被処理水の性質など各種条件の違いにより、1次式だけではなく各種近似式を利用できる。
【0020】
SS計、ORP計、濁度計は、COD自動計測装置に比べて、安価かつ維持管理も容易である。そして、上記した相関関係があるので、COD自動計測装置ではなく、SS計、ORP計、濁度計の少なくとも1つの計測器を利用して、有機物濃度を正確に推定することができる。
【0021】
(循環率)
図3は、汚水処理装置10における有機物除去量と循環率との関係を示すグラフ図である。グラフ図の縦軸は有機物除去量を示し、横軸は循環率を示す。図3のグラフは、循環率CRの場合に、汚水処理装置10が除去できる有機物濃度Dd(以下、除去有機物濃度と適宜記す)を示している。すなわち、汚水処理装置10において有機物濃度Ddを除去するためには、汚水処理装置10は循環率CRで処理水を循環させればよい。図3の例では、循環率と除去有機物濃度との関係は、1次式である(式3)で近似できる。
y=ax+b…(式3) (a,bは正の定数)
なお、xは循環率、yは除去有機物濃度である。この関係は、温度や流量により変化する。すなわち、温度や流量が変化すると、(式3)の"a","b"の値が異なる。図3の例では、温度TMP、流量FRの処理水を例示している。なお、有機物除去量と水温の関係は、アレニウスの式に従うので、アレニウスの式を使用してもよい。
【0022】
図4は、制御装置40のハードウェア構成を示すブロック図である。CPU401は、中央処理装置(Central Processing Unit)で、制御装置40の全体を制御する。揮発性メモリ402は、例えばRAM(Random Access Memory)であり、各種演算などに必要なデータを一時的に記憶する。図4では、揮発性メモリ402が、制御プログラムPGを展開(記憶)している状態を模式的に示している。CPU401は、制御装置40の起動時に、不揮発性メモリ403に格納されているプログラムPGを不揮発性メモリ403から読み出し、揮発性メモリ402に展開する。
【0023】
不揮発性メモリ403は、例えばROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリである。不揮発性メモリ403は、制御プログラムPG、第1データD1、第2データD2、第3データD3を格納する。第1データD1は、懸濁物質、濁度、酸化還元電位の何れか1の複数の値(以下、実測値と適宜記す)の各々に対応する有機物濃度を示すデータである。このデータは、例えば、(式1)に示したデータである。不揮発性メモリ403は、温度毎に、実測値と有機物濃度との対応関係を示す式を第1データD1として格納している。なお、温度毎ではなく温度範囲毎でもよい。
【0024】
第2データD2は、複数の循環率の各々に対応する有機物濃度を示すデータである。このデータは、例えば(式3)に示したデータである。不揮発性メモリ403は、温度及び流量毎に、循環率と有機物濃度との対応関係を示す式を第2データD2として記憶している。すなわち、第2データD2は、温度及び流量毎に、(式3)の"a","b"の値が異なる1次式の関数を含む。なお、温度毎ではなく温度範囲毎でもよいし、流量毎ではなく流量範囲毎でもよい。
【0025】
第3データD3は、目標有機物濃度を示すデータである。第1データD1~第3データD3は、予め不揮発性メモリ403に格納されているデータである。
【0026】
通信装置404は、計測器30が測定した測定値を示す信号を受信し、または、外部機器(例えばポンプ20b、測定器30)に制御信号を送信する。ポンプ20b等の外部機器は制御信号に応答して動作する。入出力装置405は、制御装置40にデータを入力する装置、および、制御装置40から外部にデータを出力する装置である。
【0027】
次に、図5図6を参照して、循環率の決定処理について具体的に説明する。
図5は、制御装置40のプログラムPGの処理の流れを説明するフロー図である。図6は、循環率の決定処理を模式的に説明する図である。なお、以下、説明を簡略化するため、被処理水の有機物濃度を測定するためにORPを利用するものとして説明するが、懸濁物質の値、濁度を利用してよい。
【0028】
最初に、プログラムPGは、第2データD2を不揮発性メモリ403から読み出し揮発性メモリ402に記憶する。プログラムPGは、計測器30から通信装置404を介して被処理水の温度、流量を取得する。例えば、プログラムPGは、温度としてTMP、流量としてFRを取得する。そして、プログラムPGは、取得した温度、流量に対応する、循環率と有機物濃度との対応関係を含む式(図3参照)を第2データD2の中から特定する。前記の例では、プログラムPGは、図3の(式3)を特定する。なお、有機物除去量と水温の関係は、アレニウスの式に従うので、アレニウスの式を使用してもよい。
【0029】
次に、プログラムPGは、図5のステップS1以下の処理を実行する。
ステップS1:プログラムPGは、計測器30から通信装置404を介して被処理水のORP、温度、流量を取得する。
なお、ステップS1において、プログラムPGは、前記した循環率と有機物濃度との対応関係を含む式(図3参照)の特定処理を実行してもよい。
【0030】
ステップS2:プログラムPGは、被処理水の有機物濃度を推定する(図2A図2B参照)。この推定処理を詳細に説明する。プログラムPGは、第1データD1を不揮発性メモリ403から読み出し揮発性メモリ402に記憶する。プログラムPGは、取得した温度に対応する、ORPと有機物濃度との関係を示す式(図2Bの(式2)参照)を第1データD1の中から特定する。
【0031】
さらに、プログラムPGは、取得した式を参照して、取得したORPに対応する有機物濃度を特定(算出) する。この特定した有機物濃度が推定された被処理水の有機物濃度である。例えば、プログラムPGが、ORPとして-50mvを取得した場合、図2の例では、有機物濃度として138.315(mg/L)を特定する。以下、特定した値をDoと記す。図6の例では、原水の有機物濃度Doである。
【0032】
ステップS3:プログラムPGは、ステップS2で推定した有機物濃度と目標有機物濃度の差を算出することで、被処理水から除去する有機物の濃度(除去有機物濃度)を算出する。この算出処理を詳細に説明する。プログラムPGは、目標有機物濃度を示す第3データD3を不揮発性メモリ403から読み出し揮発性メモリ402に記憶する。図6の例では、第3データD3は目標有機物濃度Dtである。プログラムPGは、ステップS2で推定した有機物濃度Doと目標有機物濃度Dtとの差(Do-Dt)を算出して、この差を除去有機物濃度Ddとする。
【0033】
ステップS4:プログラムPGは、循環率を決定する。プログラムPGは、決定した循環率になるようにポンプ20bを制御する。この決定処理を詳細に説明する。プログラムPGは、既に特定した、循環率と有機物濃度との対応関係を含む式(例えば図3の(式3))を参照し、ステップS3で特定した除去有機物濃度に対応する循環率を決定する。
【0034】
図3図6の例では、プログラムPGは、図3の(式3)を参照して、除去有機物濃度Ddに対応する循環率CR((Dd-b)/a)を決定する。プログラムPGは、決定した循環率CRで処理水FL2を汚水処理装置10に循環するようにポンプ20bの動作を制御する制御信号をポンプ20bに送信する。ポンプ20bは、この制御信号に基づき動作する。
【0035】
ステップS5:プログラムPGは、所定の時間(例えば、1時間)が経過するか判定する。プログラムは、所定の時間が経過するまで待機する(S6/NO)。プログラムは、所定の時間が経過したら(S6/YES)、ステップS1を実行する。
【0036】
以上は、汚水処理装置10にて、有機物処理を主に行う場合について説明した。次に循環式硝化脱窒法にて窒素処理を行う場合について説明する。窒素処理では、好気槽ではアンモニア態窒素の硝化を行う。脱窒槽では、原水中に含まれる有機物を利用して硝化槽にて硝化した循環水中の硝酸や亜硝酸を脱窒する。ここで、問題となるのは、原水中に脱窒に充分な有機物が含まれるか否かである。原水中に有機物が充分に含まない場合、硝化槽にて硝化した水を循環しても脱窒されることが無いため、循環動力が無駄となってしまう。そこで、動力を無駄にしないためには、原水の有機物濃度に応じて循環率を決めてやればよい。なお、通常脱窒に必要な有機物量(BOD)は、窒素の3倍である。(BOD/N≧3)また、より正確に制御したい場合は、原水中のアンモニア濃度を測定することにより硝化槽で硝化された硝酸態窒素濃度を推定することや、硝化槽の末端に硝酸計やNOx計を設置して硝酸態窒素濃度を把握する方法が考えられる。さらに、原水の有機物濃度と窒素濃度より、目標処理水の窒素濃度に見合う循環率に設定してもよい。
【0037】
以上説明した本実施の形態によれば、被処理水の有機物濃度の変動に応じて、最適な循環率を決定できる。その結果、処理水の水質を維持しつつ循環用の動力の省エネ化を実現できる。また、被処理水の有機物濃度を、安価でかつ維持管理も容易なSS計、ORP計、濁度計を使用しているので低コスト化を実現できる。
【0038】
また、本実施の形態によれば、被処理水の有機物濃度、水温などの水質に応じて最適な循環率を動的に変更できる。特に、被処理水の有機物濃度に応じて最適な循環率を決定しているので、通常とは異なる高濃度な有機物濃度を含む被処理水であっても処理水の有機物濃度を目標値に維持しつつ動力の省エネ化を実現できる。
【0039】
さらに、被処理水の有機物濃度に加えて被処理水の温度に応じても最適な循環率を決定しているので、降雪などにより突発的に被処理水の水温が低下しても処理水の水質を維持しつつ動力の省エネ化を実現できる。
【符号の説明】
【0040】
1…汚水処理システム、10…汚水処理装置、20…循環装置、30…計測器、40…制御装置、401…CPU、402…揮発性メモリ、403…不揮発性メモリ、404…通信装置、405…入出力装置。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6