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特許7414478溶着検出装置及びアーク溶接ロボットシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】溶着検出装置及びアーク溶接ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20240109BHJP
   B25J 13/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B23K9/12 303E
B23K9/12 331F
B25J13/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019204015
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021074755
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】松田 雄一
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-245638(JP,A)
【文献】特開昭63-093476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接ロボットに配置される溶接ワイヤとワークとの溶着の有無を検出する溶着検出装置であって、
前記溶接ワイヤ及び前記ワークに対して印加した電圧を検出した電圧値に基づいて、溶着の有無を検出する第1の溶着検出部と、
前記第1の溶着検出部の検出結果と前記電圧値とに基づいて、溶着の有無を決定する第2の溶着検出部と、を備え、
前記第2の溶着検出部は、
前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着有りである場合、溶着有りを決定し、
前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着無しであり、且つ、前記電圧値が閾値を下回ったことを検出した場合に、溶着有りを決定する、溶着検出装置。
【請求項2】
アーク溶接ロボットに配置される溶接ワイヤとワークとの溶着の有無を検出する溶着検出装置であって、
前記溶接ワイヤ及び前記ワークに対して印加した電圧を検出した電圧値に基づいて、溶着の有無を検出する第1の溶着検出部と、
前記第1の溶着検出部の検出結果と前記電圧値とに基づいて、溶着の有無を決定する第2の溶着検出部と、を備え、
前記第2の溶着検出部は、
前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着有りであり、且つ、前記電圧値が閾値を下回ったことを検出した場合に、溶着有りを決定し、
前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着有りであり、且つ、前記電圧値が閾値を下回ったことを検出しない場合、または、前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着無しであり、且つ、前記電圧値が閾値を下回ったことを検出した場合に、エラー発生を決定する、溶着検出装置。
【請求項3】
溶接ワイヤを有するアーク溶接ロボットと、
前記アーク溶接ロボットを制御するロボット制御装置と、
前記溶接ワイヤとワークとの間に電圧を印加する溶接電源装置と、
前記溶接ワイヤと前記ワークとの溶着の有無を検出する溶着検出装置と、
を備えるアーク溶接ロボットシステムであって、
前記溶着検出装置は、
前記溶接ワイヤ及び前記ワークに対して印加した電圧を検出した電圧値に基づいて、溶着の有無を検出する第1の溶着検出部と、
前記第1の溶着検出部の検出結果と前記電圧値とに基づいて、溶着の有無を決定する第2の溶着検出部と、を有し、
前記第2の溶着検出部は、
前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着有りである場合、溶着有りを決定し、
前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着無しであり、且つ、前記電圧値が閾値を下回ったことを検出した場合に、溶着有りを決定する、アーク溶接ロボットシステム。
【請求項4】
溶接ワイヤを有するアーク溶接ロボットと、
前記アーク溶接ロボットを制御するロボット制御装置と、
前記溶接ワイヤとワークとの間に電圧を印加する溶接電源装置と、
前記溶接ワイヤと前記ワークとの溶着の有無を検出する溶着検出装置と、
を備えるアーク溶接ロボットシステムであって、
前記溶着検出装置は、
前記溶接ワイヤ及び前記ワークに対して印加した電圧を検出した電圧値に基づいて、溶着の有無を検出する第1の溶着検出部と、
前記第1の溶着検出部の検出結果と前記電圧値とに基づいて、溶着の有無を決定する第2の溶着検出部と、を有し、
前記第2の溶着検出部は、
前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着有りであり、且つ、前記電圧値が閾値を下回ったことを検出した場合に、溶着有りを決定し、
前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着有りであり、且つ、前記電圧値が閾値を下回ったことを検出しない場合、または、前記第1の溶着検出部の検出結果が溶着無しであり、且つ、前記電圧値が閾値を下回ったことを検出した場合に、エラー発生を決定する、アーク溶接ロボットシステム。
【請求項5】
前記第1の溶着検出部は、前記溶接電源装置に設けられ、
前記第2の溶着検出部は、前記ロボット制御装置に設けられる、請求項又はに記載のアーク溶接ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶着検出装置及びアーク溶接ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接は、溶接トーチによって支持される溶接ワイヤと溶接母材であるワークとの間に溶接電源装置から溶接用電圧を印加してアークを発生させ、溶接ワイヤを溶かして溶接を行う。アーク溶接がロボット動作によって行われる場合、ワークの1つの溶接個所に対する溶接が終了した後、溶接ワイヤは、アーク溶接ロボットの動作によってワークから離隔し、ワークの次の溶接個所に向けて移動する。
【0003】
溶接終了後、アーク溶接ロボットによって溶接ワイヤが移動する際、溶接によってワークに融着した溶融金属(溶接ビード)と溶接ワイヤの先端とが連結されたままとなる「溶着」という現象が発生する場合がある。溶接ワイヤとワークとが溶着した状態のままアーク溶接ロボットが移動すると、溶接トーチと溶接ワイヤとが干渉することによって、溶接トーチが損傷するおそれがある。そのため、従来では、溶接終了後に溶接ワイヤとワークとに一定の電圧を印加し、溶着検出回路によって、その電圧値から溶接ワイヤとワークとの溶着の有無を判断するようにしている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-245638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、溶接電源装置は、溶接ワイヤをプラス(+)電極に接続し、ワークをマイナス(-)電極に接続している。溶着検出回路によって溶着の有無を判断する場合、溶接ワイヤとワークとに印加された溶着検出用電圧(例えば20V)の電圧値を監視する。溶接ワイヤとワークとが溶着している場合は、溶接ワイヤがワークを介して接地されるため、電圧値は0V近くまで低下する。溶着検出回路は、電圧値が0V近くまで低下したことを検知すると、溶着検出信号をロボット制御装置に送信する。一方、溶接ワイヤとワークとが溶着していない場合は、溶接ワイヤとワークとは離隔しているため、電圧値は変化しない。したがって、溶着検出回路は溶着検出信号をロボット制御装置に送信しない。ロボット制御装置は、溶着検出回路からの溶着検出信号を受信した場合、「溶着有り」と判断してロボット動作を停止させ、所定の溶着検出時間内に溶着検出信号を受信しなかった場合、「溶着無し」と判断してアーク溶接ロボットを次の溶接動作に移行させる。
【0006】
しかしながら、ロボット制御装置は、溶着検出回路からの溶着検出信号の有無によって溶着の有無を判断しているだけであるため、溶着検出の確実性に課題を有している。すなわち、例えば溶着検出回路の不具合によって溶着検出信号が正常に送信されない場合、実際には溶着が発生していても、ロボット制御装置は「溶着無し」と判断し、溶接ワイヤとワークとが溶着した状態のままアーク溶接ロボットを次の溶接動作に移行させてしまうおそれがある。したがって、溶接ワイヤとワークとの溶着の有無をより確実に判断できるようにすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、アーク溶接ロボットに配置される溶接ワイヤとワークとの溶着の有無を検出する溶着検出装置であって、前記溶接ワイヤ及び前記ワークに対して印加した電圧を検出した電圧値に基づいて、溶着の有無を検出する第1の溶着検出部と、前記第1の溶着検出部の検出結果と前記電圧値とに基づいて、溶着の有無を決定する第2の溶着検出部と、を備える。
【0008】
本開示の他の一態様は、溶接ワイヤを有するアーク溶接ロボットと、前記アーク溶接ロボットを制御するロボット制御装置と、前記溶接ワイヤとワークとの間に電圧を印加する溶接電源装置と、前記溶接ワイヤと前記ワークとの溶着の有無を検出する溶着検出装置と、を備えるアーク溶接ロボットシステムであって、前記溶着検出装置は、前記溶接ワイヤ及び前記ワークに対して印加した電圧を検出した電圧値に基づいて、溶着の有無を検出する第1の溶着検出部と、前記第1の溶着検出部の検出結果と前記電圧値とに基づいて、溶着の有無を決定する第2の溶着検出部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、アーク溶接における溶接ワイヤとワークとの溶着の有無をより確実に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アーク溶接ロボットシステムの一実施形態を示す概略図である。
図2】アーク溶接ロボットシステムにおける溶接電源装置の一実施形態を示す機能ブロック図である。
図3】アーク溶接ロボットシステムにおけるロボット制御装置の一実施形態を示す機能ブロック図である。
図4】溶着検出時のアーク溶接ロボットシステムにおける溶接電源装置の動作の一実施形態を示すフローチャートである。
図5】溶着検出時のアーク溶接ロボットシステムにおけるロボット制御装置の動作の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、アーク溶接ロボットシステムの一実施形態を示す概略図である。図2は、アーク溶接ロボットシステムの一実施形態における溶接電源装置の機能ブロック図である。図3は、アーク溶接ロボットシステムの一実施形態におけるロボット制御装置の機能ブロック図である。
【0012】
アーク溶接ロボットシステム1は、ワーク支持台101に支持される溶接母材であるワーク100に対するアーク溶接を行うために、溶接トーチ25を所定の溶接経路に沿って移動させる溶接動作を自動的に実行可能なシステムである。本実施形態に示すアーク溶接ロボットシステム1は、アーク溶接ロボット2と、後述する溶接ワイヤ26に対して電圧を印加する溶接電源装置3と、アーク溶接ロボット2を制御するロボット制御装置4と、を備える。溶接電源装置3とロボット制御装置4とは、信号線によって相互に信号の送受信が可能に電気的に接続されている。
【0013】
アーク溶接ロボット2は、サーボモータ等により構成される複数の関節部23によって回動可能に連結される複数のアーム部24を有する多関節ロボットであり、旋回部22を介してベース部21上に設けられる。溶接トーチ25は、アーム部24の先端に取り付けられている。アーク溶接ロボット2は、旋回部22及び各関節部23を回動させることによって、ワーク100に対する溶接トーチ25の位置及び姿勢を自在に変更することが可能である。
【0014】
溶接トーチ25は、アーク溶接ロボット2の外部から溶接トーチ25に送給される溶接ワイヤ26を、溶接トーチ25の先端から所定長さで突出させて支持している。溶接ワイヤ26は、導線3aを介して、溶接電源装置3のプラス(+)電極に電気的に接続される。ワーク100は、導線3bを介して、溶接電源装置3のマイナス(-)電極に電気的に接続される。
【0015】
溶接電源装置3は、導線3a,3bを介して、アーク溶接ロボット2の溶接ワイヤ26及びワーク100に対して溶接動作用電圧及び溶着検出用電圧の給電を行うとともに、溶着検出動作のうちの一部の動作を行う。図2に示すように、本実施形態に示す溶接電源装置3は、電圧出力部31と、第1の溶着検出部32と、を少なくとも有する。
【0016】
電圧出力部31は、ロボット制御装置4から受信した溶接動作指令信号に基づいて、溶接ワイヤ26及びワーク100に対して溶接用電圧を印加する機能と、ロボット制御装置4から受信した溶着検出動作指令信号に基づいて、溶接ワイヤ26及びワーク100に対して溶着検出用電圧を印加する機能と、溶接ワイヤ26及びワーク100に印加される溶着検出用電圧を検出し、その検出された電圧値を監視するとともに、その電圧値の情報を第1の溶着検出部32及びロボット制御装置4の第2の溶着検出部43にそれぞれ送信する機能と、を少なくとも有する。溶接用電圧は、溶接動作指令信号を受信している間だけ溶接ワイヤ26及びワーク100に対して印加される。溶着検出用電圧は、溶着検出動作指令信号を受信している間だけ溶接ワイヤ26及びワーク100に対して印加される。
【0017】
第1の溶着検出部32は、ロボット制御装置4から受信した溶着検出動作指令信号に基づいて、所定の溶着検出動作を実行し、溶着を検出した場合に、第2の溶着検出部43に溶着有りを示す溶着検出信号を送信する機能を少なくとも有する。第1の溶着検出部32による溶着検出動作は、従来の溶着検出回路と同様の動作である。すなわち、第1の溶着検出部32は、溶着検出用電圧の電圧値が低下して閾値を下回ったか否かを監視することによって、溶着の有無を検出する。
【0018】
ロボット制御装置4は、アーク溶接ロボット2の動作を統括的に制御する。図3に示すように、本実施形態に示すロボット制御装置4は、溶接指令部41と、動作指令部42と、第2の溶着検出部43と、表示部44と、を少なくとも有する。
【0019】
溶接指令部41は、溶接電源装置3に対して、アーク溶接のための溶接用電圧を溶接ワイヤ26及びワーク100に印加するように指示する溶接指令信号を送信する機能を少なくとも有する。溶接指令信号を受信した溶接電源装置3は、導線3a,3bを介して、溶接ワイヤ26及びワーク100に溶接用電圧を印加する。
【0020】
動作指令部42は、アーク溶接ロボット2に対して、アーク溶接のためのロボット動作を行わせるロボット動作指令信号を送信する機能と、溶接電源装置3に対して、溶着検出のための溶着検出動作指令信号を送信する機能と、を少なくとも有する。ロボット動作指令信号を受信したアーク溶接ロボット2は、溶接トーチ25を所定の溶接経路に沿って移動させる溶接動作等のロボット動作を行う。溶着検出動作指令信号を受信した溶接電源装置3は、導線3a,3bを介して、溶接ワイヤ26及びワーク100に溶着検出用電圧を印加する。
【0021】
第2の溶着検出部43は、第1の溶着検出部32の検出結果である溶着検出信号の受信の有無と、溶接電源装置3から受信した溶着検出用電圧の電圧値と、に基づいて、溶着の有無を決定する機能を有する。第2の溶着検出部43による溶着の有無の決定が、アーク溶接ロボットシステム1における溶着の有無の最終判断である。第2の溶着検出部43は、溶着の有無の最終判断を行った場合、溶接電源装置3に対して溶着検出動作終了を指示する信号を送信する。
【0022】
第2の溶着検出部43の決定結果が「溶着無し」である場合、第2の溶着検出部43は、動作指令部42に対して次の溶接動作への移行を指示する信号を送信する。これによって、動作指令部42は、アーク溶接ロボット2に対してロボット動作指令信号を送信し、次の溶接動作に移行するためのロボット動作を実行させる。一方、第2の溶着検出部43の決定結果が「溶着有り」である場合、第2の溶着検出部43は、動作指令部42に対してロボット動作の停止を指示する信号を送信する。これによって、動作指令部42は、アーク溶接ロボット2のロボット動作を停止させる。
【0023】
表示部44は、アーク溶接ロボット2のロボット動作に関する各種情報、溶着の有無の結果、システムエラー等の警告情報等を、作業者に対して視認可能に表示する。一般に、表示部44は、液晶ディスプレイ等の表示装置によって構成され、ロボット制御装置4の筐体表面に設けられる。表示部44は、スピーカによって音声表示を行う機能を更に有してもよい。
【0024】
本実施形態のアーク溶接ロボットシステム1において、溶接電源装置3に設けられる第1の溶着検出部32と、ロボット制御装置4に設けられる第2の溶着検出部43とによって、溶着検出装置5が構成される。すなわち、本実施形態の溶着検出装置5は、第1の溶着検出部32と第2の溶着検出部43とを、溶接電源装置3とロボット制御装置4とに分離して配置し、信号線を介して電気的に接続することによって構成されている。これによって、溶着検出処理が二重化され、第1の溶着検出部32もしくは第2の溶着検出部43のいずれかに問題が発生した場合においても、もう片方の溶着検出部によって溶着を検出することができる。
【0025】
次に、アーク溶接ロボットシステムにおける具体的な溶着検出動作について、図4及び図5を参照して説明する。図4は、溶着検出時のアーク溶接ロボットシステムにおける溶接電源装置の動作の一実施形態を示すフローチャートである。図5は、溶着検出時のアーク溶接ロボットシステムにおけるロボット制御装置の動作の一実施形態を示すフローチャートである。
【0026】
図4に示すように、溶着検出動作は、アーク溶接ロボット2によるワーク100の1つの溶接個所に対する溶接が終了した後、ロボット制御装置4の動作指令部42が、溶接電源装置3に対して溶着検出動作指令信号(溶着検出動作指令:ON)を送信することによって開始される。溶着検出動作指令信号を受信した溶接電源装置3は、電圧出力部31によって、溶接ワイヤ26及びワーク100に対して所定の溶着検出用電圧を印加する(溶着検出用電圧:ON)。溶着検出用電圧は、例えば20Vである。これと同時に、溶接電源装置3は、第1の溶着検出部32によって、所定の溶着検出時間を設定する図示しないタイマを起動させ(溶着検出時間:ON)、溶着検出時間のカウントを開始する(S101)。溶着検出時間は、例えば1secである。
【0027】
溶接ワイヤ26及びワーク100に溶着検出用電圧が印加されると、電圧出力部31は、溶接ワイヤ26及びワーク100に印加した溶着検出用電圧の電圧値を検出する。第1の溶着検出部32は、その電圧値を監視し、予め設定されている閾値と比較することによって、電圧値が閾値を下回ったか否かを判定する(S102)。閾値は、実際に溶着が発生している場合に検出される電圧値である0V近くの電圧値よりもやや大きい値に設定されている。
【0028】
溶着が発生している場合、溶接ワイヤ26はワーク100を介して接地されるため、電圧値は0V近くまで低下して閾値を下回る。第1の溶着検出部32は、溶着検出時間内に電圧値が閾値を下回ったことを検出した場合に、溶着有りを示す溶着検出信号をロボット制御装置4に送信する(S103)。
【0029】
溶着検出信号の送信後、溶接電源装置3は、ロボット制御装置4から溶着検出動作終了を指示する信号(溶着検出動作指令:OFF)を受信するまで動作を待機する(S104)。当該信号を受信した後、溶接電源装置3は、電圧出力部31による溶着検出用電圧の印加を停止させ(溶着検出用電圧:OFF)、溶着検出動作を終了する(S105)。
【0030】
ステップS102において、溶着検出時間がタイムアップしても閾値を下回ったことが検出されない場合、溶接電源装置3は、溶着検出信号を第1の溶着検出部32からロボット制御装置4に送信することなく、ステップS104の処理に移行する。
【0031】
一方、ロボット制御装置4では、図5に示すように、動作指令部42が、溶接電源装置3に対して溶着検出動作指令信号(溶着検出動作指令:ON)を送信すると同時に、第2の溶着検出部43が、第1の溶着検出部32と同様に溶着検出時間(例えば1sec)を設定する図示しないタイマを起動させ(溶着検出時間:ON)、溶着検出時間のカウントを開始する(S201)。
【0032】
この間、第2の溶着検出部43は、溶接電源装置3から送信される溶着検出用電圧の電圧値を監視し、予め設定される閾値と比較している。第2の溶着検出部43に設定される閾値は、第1の溶着検出部32に設定される閾値と同じであってよい。また、第2の溶着検出部43のタイマは、第1の溶着検出部32のタイマと同期している。溶着検出時間をカウントするタイマは、第1の溶着検出部32及び第2の溶着検出部43のいずれか一方の溶着検出部のみに設け、そのタイマを第1の溶着検出部32及び第2の溶着検出部43で共通にカウント可能に構成されてもよい。
【0033】
溶着検出動作の開始後、第2の溶着検出部43は、溶着検出時間内に第1の溶着検出部32から溶着検出信号を受信したか否かを判定する(S202)。溶着検出時間内に溶着検出信号を受信した場合、第2の溶着検出部43は、直ちに「溶着有り」を決定する。ロボット制御装置4は、第2の溶着検出部43において「溶着有り」が決定されると、動作指令部42によって、溶接電源装置3に対して溶着検出動作終了を指示する信号(溶着検出動作指令:OFF)を送信する(S203)。
【0034】
その後、ロボット制御装置4は、表示部44によって、溶着が発生したことを示す表示を行うとともに、動作指令部42によって、ロボット動作を停止させる(S204)。その後、第2の溶着検出部43による溶着検出動作は終了する。
【0035】
ステップS202において、溶着検出時間がタイムアップしても溶着検出信号が受信されない場合、第2の溶着検出部43は、溶着検出動作の開始時から監視している溶着検出用電圧の電圧値が、溶着検出時間内に閾値を下回ったか否かを判定する(S205)。電圧値が閾値を下回らなかった場合、第2の溶着検出部43は、「溶着無し」を決定する。ロボット制御装置4は、第2の溶着検出部43において「溶着無し」が決定されると、動作指令部42によって、溶接電源装置3に対して溶着検出動作終了を指示する信号(溶着検出動作指令:OFF)を送信する(S206)。
【0036】
その後、ロボット制御装置4は、動作指令部42によって、アーク溶接ロボット2に対して、次の溶接動作に移行するようにロボット動作指令信号を出力する(S207)。その後、第2の溶着検出部43による溶着検出動作は終了する。
【0037】
ステップS205において、溶着検出時間内に電圧値が閾値を下回った場合、すなわち、電圧値の変化が溶着の発生を示している場合、ステップS203の処理に移行する。すなわち、第2の溶着検出部43は、溶着検出時間内に第1の溶着検出部32から溶着検出信号を受信しなくても、ステップS202において溶着検出時間内に溶着検出信号を受信した場合と同様に、「溶着有り」を決定し、溶着検出動作を終了する。
【0038】
このように、第2の溶着検出部43は、第1の溶着検出部32とは独立して電圧値を監視するので、第1の溶着検出部32から溶着有りを示す溶着検出信号を受信しない場合、すなわち、第1の溶着検出部32の検出結果が溶着無しの場合であっても、第2の溶着検出部43によって「溶着有り」であることを検出することができる。したがって、この溶着検出装置5を備えるアーク溶接ロボットシステム1によれば、例えば、システム稼働中に、第1の溶着検出部32に溶着検出信号が正常に送信されないような不具合が発生した場合であっても、溶着の有無を判断できるため、アーク溶接における溶接ワイヤ26とワーク100との溶着の有無をより確実に判断することができる。
【0039】
また、第1の溶着検出部32から溶着有りを示す溶着検出信号を受信した場合は、第2の溶着検出部43は必ず「溶着有り」を決定するため、ロボット制御装置4は迅速にロボット動作を停止させることができる。したがって、溶接トーチ25の損傷のおそれは確実に回避される。
【符号の説明】
【0040】
1 アーク溶接ロボットシステム
2 アーク溶接ロボット
3 溶接電源装置
4 ロボット制御装置
5 溶着検出装置
26 溶接ワイヤ
32 第1の溶着検出部
43 第2の溶着検出部
100 ワーク
図1
図2
図3
図4
図5