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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/15 20160101AFI20240109BHJP
【FI】
H02P6/15
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019207645
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021083196
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】水尾 佳弘
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-023703(JP,A)
【文献】特開2011-044006(JP,A)
【文献】特開2013-088647(JP,A)
【文献】特開2015-023700(JP,A)
【文献】特開2019-047722(JP,A)
【文献】特開2018-191461(JP,A)
【文献】特開2012-013778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより駆動される対象の現在位置を検出するための位置検出手段と、
前記現在位置と、前記モータにより駆動される対象の目標位置との偏差に基づき前記モータに対する出力制御量を演算するとともに、前記出力制御量に応じて、前記モータの回転位相の所定の進角範囲内においては、前記モータの回転位相の進角を変更し、前記所定の進角範囲外においては、前記進角を固定した状態で前記モータの駆動電圧を変更するモータ制御手段と、を有し、
前記モータ制御手段は、前記所定の進角範囲外において、前記モータの駆動電圧を変更する場合、前記モータにより駆動される対象の速度に応じて、固定する前記進角を設定することを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記モータ制御手段は、前記出力制御量に基づき、フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記モータ制御手段は、前記偏差が予め決められた所定値より小さくなったことを条件として、前記モータへの通電をオフすることを特徴とする、請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記モータ制御手段は、前記モータにより駆動される対象の速度が予め決められた所定値より小さくなった場合に、前記モータへの通電をオフすることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記所定の進角範囲は、-90度から+90度の範囲であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記モータ制御手段は、前記所定の進角範囲内においては、前記モータの駆動電圧を固定した状態で前記モータの回転位相の進角を変更することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記モータにより駆動される対象は、複数の磁極を有する回転磁石を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記位置検出手段は、前記回転磁石の回転位相を検出するための複数のホール素子を含むことを特徴とする、請求項7に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記モータにより駆動される対象の速度と固定する前記進角の関係を保持するメモリを有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項10】
モータにより駆動される対象の現在位置を検出するための位置検出手段と、
前記現在位置と、前記モータにより駆動される対象の目標位置との偏差に基づき前記モータに対する出力制御量を演算するとともに、前記出力制御量に応じて、前記モータの回転位相の所定の進角範囲内においては、前記モータの駆動電圧を固定した状態で前記モータの回転位相の進角を変更し、前記所定の進角範囲外においては、前記モータの駆動電圧を変更するモータ制御手段と、を有し、
前記モータ制御手段は、前記所定の進角範囲外において、前記モータの駆動電圧を変更する場合、前記モータにより駆動される対象の速度に応じて前記進角を設定することを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項11】
前記モータ制御手段は、前記モータの回転位相の所定の進角範囲内において、前記モータの回転位相の進角を変更する場合、逆正弦関数を用いて前記進角を設定することを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項12】
筐体のブレ量を検出するブレ量検出手段を更に有し、
前記モータ制御手段は、前記ブレ量に応じて前記目標位置を算出することを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項13】
前記モータにより駆動される対象は撮像素子または光学系を含むことを特徴とする請求項12に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータの駆動装置に関し、特にモータを効率的に駆動する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ部材に位置検出機構を設け、検出された現在位置を基にモータに対して効率的な駆動電圧信号を与える技術がある。
その中でもモータに取り付けられた部材を所望の位置に移動させることを目標にする位置制御する技術がある。
特許文献1においては、リニアモータと位置検出器とを用いて位置の詳細制御を実施する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-90467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1では、位置検出信号から駆動電圧信号を生成する過程が限定的で、検出位置信号と駆動用生成波形との位相差が操作できないことや、目標位置へ向かう過程の位置制御において電圧や位相差の制御操作の余地があること。またリニアモータであることから磁石部材が大型化し高コスト傾向になること、などの課題がある。
そこで本発明の目的は、低コストで効率的な位置制御が可能なモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るモータ駆動装置は、モータにより駆動される対象の現在位置を検出するための位置検出手段と、前記現在位置と、前記モータにより駆動される対象の目標位置との偏差に基づき前記モータに対する出力制御量を演算するとともに、前記出力制御量に応じて、前記モータの回転位相の所定の進角範囲内においては、前記モータの回転位相の進角を変更し、前記所定の進角範囲外においては、前記進角を固定した状態で前記モータの駆動電圧を変更するモータ制御手段と、を有し、前記モータ制御手段は、前記所定の進角範囲外において、前記モータの駆動電圧を変更する場合、前記モータにより駆動される対象の速度に応じて、固定する前記進角を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低コストで効率的な位置制御が可能なモータ駆動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施例1におけるモータ駆動装置のシステムブロック図である。
図2】実施例1における回転磁石とホール素子の配置例を示す図である。
図3】実施例1の位置ENC回路、駆動波形生成回路について説明するための図である。
図4】実施例1の位置検出センサ信号と検出位置カウントの関係を示す図である。
図5】実施例1の駆動波形とPWMとの関係を示す図である。
図6】実施例1の処理の流れを示すフローチャートである。
図7】進角、電圧、トルク等の関係を示す図である。
図8】実施例1における制御と、進角、電圧、トルクとの関係を示す図である。
図9】本発明の実施例2におけるシステム概要を示すブロック図である。
図10】実施例2におけるシステムの機構の概要を示す図である。
図11】実施例2の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について実施例を用いて説明する。なお、各図において、同一の部材ないし要素については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略ないし簡略化する。
【実施例1】
【0009】
以下に、本発明の実施例1のモータ駆動装置を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。図1は実施例1におけるモータ駆動装置のシステムブロック図である。
ステッピングモータ等のモータ101は、ロータ軸102に回転磁石としてのENC(エンコーダ)磁石103を備え、またリセット機構121を備えている。ENC磁石103は図2(B)に示すように、円周上に発生する磁場が回転位置に応じて正弦(サイン)波状の磁場を発生するように着磁されており、複数の磁極を有する。リセット機構121は、ロータ軸102の所定の1か所の回転位相において変化する信号を出力する構成となっており、モータの回転位置の絶対値の基準を与えるためのものである。
【0010】
本実施例のリセット機構121は具体的には以下のように構成されている。即ち、ロータ軸102にスクリューが取り付けられており、スクリューのネジ部に係合し、スクリューの回転に応じて並進移動する移動体を有する。その移動体にスリットが備えられ、そのスリットがリセット位置に配置されたフォトインタラプタ(PI)を通過することでPIの出力信号が変化する構成となっている。
ホール素子パッケージ104は、2つのホール素子であるホール素子105、ホール素子106を備える。ホール素子105、ホール素子106はそれぞれの配置された位置で、ENC磁石103の回転による磁場変化を検出し出力することができる。ホール素子105、106は回転磁石の回転位相を検出することによって、モータにより駆動される対象(回転磁石)の現在の回転位置を検出するための位置検出手段として機能している。
【0011】
図2は、実施例1における回転磁石とホール素子の配置例を示す図である。図2(A)はホール素子パッケージ104の構成の外観を示す図である。モータ101のロータ軸102に短い円筒状のENC磁石103が設置され、その磁場を検知できる位置にホール素子パッケージ104がメカ的に配置されている。モータ101からは配線201が外部に出されており、この配線201が後述のモータドライバ113に接続される。
【0012】
図2(B)はENC磁石103とホール素子105、106とのメカ的な配置例を示す図である。ENC磁石103は10極の磁石でN極、S極の領域がそれぞれ5極ずつ、それぞれ36度の角度領域に着磁されている。
ホール素子105、106はENC磁石103の中心位置から見て、中心位置から等距離に配置されていて、角度が2つの素子と中心位置の成す角度が物理的に18度となるように配置されている。ホール素子で検出される信号位相としては、90度の位相差となる。
【0013】
図1のアンプ107はホール素子からの微弱な信号を増幅し、後段のAD変換回路108へと信号を伝える。AD変換回路108では前段から入力された電圧信号を数値に変換し、結果をデジタル数値信号として位置ENC回路109へ送る。位置ENC回路109は前段から入力された2つのホール素子からの信号のオフセット、ゲインの調整を行う機構を備える。また、それら調整の後に2つの信号からTAN(タンジェント)値を生成した後で逆TAN(アークタンジェント)演算を行い、回転角度情報を生成する。この回転角度情報を積分することで回転位置情報を生成する。
【0014】
生成された回転位置情報は駆動波形生成回路110に送られる。駆動波形生成回路110はモータに対する駆動用波形を生成する機能を司る。駆動波形生成回路110は設定された周波数で駆動用の位相の異なる正弦波信号を出力するOPEN駆動と、位置ENC回路109と連動させた駆動波形を出力するCLOSE駆動とを切り替えられる。これらの切り替えはCPU111の指令により行われる。またCPU111はOPEN駆動時の出力正弦波信号の周波数、振幅ゲイン値を設定、位置ENC回路109の位置カウント値の初期化設定などを行うことができる。なお、コンピュータとしてのCPU111は、不図示のメモリに記憶されたコンピュータプログラムに基づき装置全体の各種動作を実行する制御手段として機能する。
【0015】
ここで位置ENC回路109、駆動波形生成回路110の処理を、図3図4を用いて詳細に説明する。図3は実施例1の位置ENC回路、駆動波形生成回路について説明するための図である。図4は実施例1の位置検出センサ信号と検出位置カウントの関係を示す図である。
また、図3(A)は位置ENC回路109、駆動波形生成回路110の処理を詳細に示したブロック図である。Apos(Aポジション)生成手段301、Bpos(Bポジション)生成手段302の部分が位置ENC回路109に相当し、駆動波形位相決定手段303~駆動用位相差変化時間設定手段307の部分が駆動波形生成回路110に相当する。
【0016】
2つのホール素子信号(ホール素子信号1、ホール素子信号2)がAD変換回路108へ入力され、Apos生成手段301にその結果が渡される。Apos生成手段301では、前処理として、入力された2つの信号のオフセット、ゲインの調整を行って2つの信号のオフセット、ゲインを同一にする。この調整はOPEN駆動でモータを回転させることによって2つの信号のピーク、ボトム値を検出し、その結果を参照して行う。
調整後、90度の位相差を持った2つの正弦波信号でTAN値を生成し、その値に逆TAN演算を行うと回転角度情報が生成されるのでこの値を積分した値を算出することで回転位置情報を生成することができる。
【0017】
この検出信号と、回転位置情報との関係を示す図が図4である。図4(A)、(B)がそれぞれ検出されたホール素子信号を調整した後の信号であり、横軸は回転量となっている。本実施例では、2つのホール素子信号が正弦波の1波長分を出力したときに1024カウント分の位置分解能で位置を検出できるものとする。Apos生成手段301からは図4(C)や図3(B)のような信号が出力される。
続くBpos生成手段302では、Apos生成手段301の出力であるApos(図3(B))に対して任意のオフセット値を持ったBpos(図3(C))を生成するとともに1回転ごとにBposをゼロにリセットする。
【0018】
BposはCPU111が任意のタイミングで任意値に書き換え可能であり、書き換えたタイミングで書き換え値とAposとの差分量をオフセット値として記録する。
続いて生成されたBposの情報が駆動波形位相決定手段303に引き渡される。駆動波形位相決定手段303は、最終的に図1のA相用コイル114、B相用コイル115に印可する駆動波形の位相カウント情報を決定し、PWM発生器112に位相カウントに相当するPWM値を送る。
【0019】
駆動波形位相決定手段303はOPEN駆動用カウント手段304の指令により、位相カウント情報を出力するOPEN駆動と、Bposの値を元に位相カウント情報を出力する位置連動駆動とを切り替えることができる。このOPEN駆動、位置連動駆動の切り替えは、CPU111が駆動波形位相決定手段に切り替えの設定を行うことで切り替えられる。
OPEN駆動を行う場合は、CPU111がOPEN駆動用カウント手段304に駆動波形の周波数を指令し、駆動波形位相決定手段303に駆動波形の振幅ゲインを設定する。それによって、駆動波形位相決定手段303が所望周波数、かつ所望振幅の駆動波形を出力する。
【0020】
位置連動駆動を行う場合は、Bposの下位10ビット値(図3(D))に対して、CPU111が定常位相差設定手段305を通じて設定したSTC_OFS値を算出する。また、駆動用位相差設定手段306を通じて設定したPHS_OFS値を算出する。そしてそれらによってオフセットをつけた値(図3(E))を算出する。算出された値(図3(E))が駆動波形位相のカウント値となり、このカウント値に相当する位相の出力値が駆動波形の出力値として選択される。
【0021】
結果的にBposに対してSTC_OFS、PHS_OFSの両方が加算されてオフセット値をつけている形になっているが、STC_OFS、PHS_OFSのどちらか1つのオフセットを付加するだけでも良い。
なおSTC_OFSは検出位置カウントと駆動波形カウントの安定位置を管理する役割、PHS_OFSはトルク発生のための位相差管理と別の役割が割り当てられている。
【0022】
また、駆動用位相差設定手段306への設定値を変化させた場合、設定前の位相差から設定後の位相差へと瞬時に切り替えるのでなく、一定時間かけて変化させる。そして、設定後の位相差をシステムに反映させる位相差漸増減変化機能が駆動波形生成回路には備わっている。この機能のOn/OffはCPU111から設定することができ、位相差漸増減変化機能における位相差の変化時間は、図3(A)の駆動用位相差変化時間設定手段307によって設定する。駆動用位相差変化時間設定手段307に対してCPUが設定する値をPS_TIMEとし、この値には変化時間をmsオーダーで設定できるものとする。
【0023】
以上で駆動波形生成回路110に相当する駆動波形位相決定手段303~駆動用位相差変化時間設定手段307の部分の説明を終え、図1の説明に戻る。
PWM発生器112は駆動波形生成回路110から出力されるPWM指令値に応じて、モータドライバ113に対して対応したPWM信号を出力する。図5は実施例1の駆動波形とPWMとの関係を示す図である。図5(A)、(B)ともに横軸はテーブル番号で、図3(E)で出力される値と同様の1024分解能であり、縦軸はPWM信号のDuty%値である。図5(A)は横軸が+カウントされてB相信号がA相信号に対して90度先行し、モータがCW(時計回り)方向に回転する場合を示している。
【0024】
図5(B)は横軸が-カウントされてA相信号がB相信号に対して90度先行し、モータがCCW(反時計回り)方向に回転する場合を示している。縦軸の%値は、CPU111からのGain(ゲイン)設定値に応じて増減するものとするが、本実施例ではモータの回転運動にとって適切な値が設定されているものとする。
モータドライバ113では、PWM発生器より出力される指令値を増幅してA相用コイル114、B相用コイル115にそれぞれA相信号に対応した電圧とB相信号に対応した電圧を印可する。
【0025】
印可される信号はPWM信号に応じた高周波のパルス状電圧信号となるが、コイルに発生する電流値信号はコイルのL成分によりLPFがかかったのと同様になる。従って、コイルには実効的に図5で示される正弦波(サイン)信号形状の電圧が印可されるものとして扱う。
ステータA+116、ステータA-117、はそれぞれA相用コイルの両端の発生する磁場を集中して放出する働きをする。ステータB+118、ステータB-119、はそれぞれB相用コイルの両端の発生する磁場を集中して放出する働きをする。
【0026】
ステータA+116、ステータA-117、ステータB+118、ステータB-119、ロータ磁石120の配置関係を、図2(C)を用いて説明する。ステータA+116、ステータA-117、ステータB+118、ステータB-119は物理角18度ずつずれた位置関係にあり、合計5組配置されている。ロータ磁石120はステータ群の中央に位置し、N極、S極、それぞれ5極、合計10極の磁極を持つ。駆動波形の正弦波が1波出力される毎に、ロータは物理角で72度分回転する。
【0027】
図6は本実施例における処理の流れを示すフローチャートである。以後はこの図6の処理の流れについて説明を行う。図6のフローはCPU111が不図示のメモリから読み出したコンピュータプログラムを実行することによって実現される。このときCPU111はモータ制御手段として機能することになる。
ステップS601では、現在位置を取得する。これは図1のブロック図の構成においては、ホール素子105、106からの信号を得て最終的に位置ENC回路109で位置信号にエンコードされた値をCPU111で取得することを意味する。続くステップS602においては目標位置と現在位置との差分である位置偏差を算出する。続くステップS603においては、位置偏差を入力信号値としたFB(フィードバック制御)処理の演算を行い出力として制御量を算出する。
【0028】
以上の処理について図7を用いて説明する。図7は進角、電圧、トルク等の関係を示す図である。図7(B)はモータ制御装置の全体的概念を示すブロック図である。位置センサ(位置検出手段)709の出力である現在位置と目標位置704との差分量である位置偏差が制御器705にフィードバックされて入力され、その中で制御量(出力制御量)が演算される。制御器705からはコイル706に対して進角と電圧の制御信号が送られる。その結果、コイル706に流れる電流が制御され、ローターマグネットである磁石707にそれに応じた電磁力が作用し、モータのロータ軸708の回転が制御される。なお、制御器の中身は一般的なPID(Proportional-Integral-Differential Controller)制御器でも良いし、位相進み・遅れ補償器、又はこれら以外の制御器でも良い。この制御量からモータに対して制御できるものとして電圧、進角の2つがある。制御量をこの2つにどのように割り振るかは図6のステップS605~S616の説明で行う。
【0029】
ステップS604では現在速度を算出する。これは検出している位置情報の微分演算で算出するが、必要に応じてフィルタ処理を施すなどを行っても良い。続くステップS605においては位置偏差と、予め決められた停止判定位置偏差とを比較し、位置偏差の方が小さい場合はステップS606に進み、位置偏差の方が大きい場合はステップS607に進む。ステップS606においては、更に現在速度と予め決められた停止判定速度とを比較し、現在速度の方が小さい場合はステップS608に進み、現在速度の方が大きい場合はステップS607に進む。ステップS608ではモータコイルへの通電をオフし、処理を終える。このように、前記偏差が予め決められた所定値より小さくなったことを条件として、前記モータへの通電をオフしている。
【0030】
ステップS607においては、現在速度が予め決められた閾値速度以上であるかどうかを判定する。現在速度の方が大きい場合はステップS609に進み、現在速度の方が小さい場合はステップS610に進む。ステップS609では、現在速度が閾値速度からどれだけ超過しているかの超過速度を基に、進角補正値αを決定する。即ち、速度に応じて前記所定の進角範囲を補正する補正手段を構成している。超過速度から進角補正値αをどう決定するかは、予め速度と進角補正値αの関係を示したテーブルデータ、もしくは関係式をメモリに記憶保持し、それに基づき決定する。
【0031】
ステップS610では速度の超過が無いものとして、進角補正値αに0を設定する。
続くステップS611においては、ステップS603において算出された制御量が進角操作量の範囲内(実施例では-90度~+90度の所定の進角範囲)に収まっているかどうかを判定する。操作量の範囲内に収まっている場合はステップS612へ進み、収まっていない場合はステップS613に進む。ここで進角、電圧の設定値と、発生するトルクとの関係を、図7を用いて説明する。
【0032】
図7(A)のグラフは横軸を進角(度)、縦軸にモータに発生する駆動力(トルク)をとった関係図である。トルク曲線701~703に示されるように、与える進角と発生する駆動力には正弦波形状の関係があり、+90度で正の駆動力が最大、-90度で負の駆動力が最大となる。進角の絶対値が90度を超えると、トルク曲線の破線で表される領域に突入しトルクが落ちていく。また-90度~+90度の進角範囲であっても、進角値と発生するトルクとが非線形な関係である。
【0033】
ここでコイルに通電する設定電圧について考えると、設定電圧に応じてトルクは基本的に比例で増減する。図7のトルク曲線701、702、703はそれぞれ設定電圧を1倍、2倍、3倍と変化させた場合のトルク曲線の変化を表している。図7(C)は、図7(A)のグラフと同様、横軸を進角(度)、縦軸にモータに発生する駆動力(トルク)をとった関係図である。ここで図7(C)のトルク曲線711、712、713は、図7(C)のトルク曲線701、702、703と同様の曲線である。そして、直線714、715はそれぞれ進角を+90度、-90度に固定した状態で電圧設定値を上げていった場合の駆動力(トルク)のイメージとなる。
【0034】
この2本の直線714、715を、横軸を電圧設定値に変えたグラフで表現したものが、図7(D)となる。図7(D)のグラフは横軸が電圧設定値、縦軸が駆動力(トルク)となっており、直線716が直線714に、直線717が直線715にそれぞれ対応する。このように発生させたい駆動方向に応じて、進角の絶対値は変えないが符号を反転させた設定として固定させた上で電圧を制御することで入力値と出力値が線形関係にすることができる。
以上を踏まえ、図6のフローチャートにおけるステップS612の処理の説明に戻ると、ステップS612においては逆Sin(アークサイン)関数による補正を踏まえて、制御量に応じた進角値を算出してその進角値をPHS_OFSに設定する。
【0035】
図8は実施例1における制御と、進角、電圧、トルクとの関係を示す図であり、この処理を、図8(A)を用いて説明する。ステップS612の処理においては、制御量として進角操作量の範囲内であるとされている。これは制御量から求められる発生トルクの量が図8(A)の-90度~+90度に対応するトルク量の範囲に入っていることを意味する。また、この実施例では基本的に制御量に対して進角を変更し、進角で変更が不能な領域の場合に電圧を変更している。そのため電圧ゲインは一旦固定値に設定する。本実施例では図7に示したトルク曲線702が発生する電圧ゲインを設定しているものとする。図8(A)において指定された制御量がトルク801を発生する量であるとする。
【0036】
この場合、一般に行われる制御処理として線形処理で設定進角値を決めようとすると、直線近似トルク802によってトルク801に対応した進角803を選択してしまう。実際のトルクはトルク曲線702によって決定されるので、進角803を設定すると意図したトルク801より大きなトルクが発生してしまう。そのためステップS612では、予め逆Sin(逆正弦)関数の演算を行い、図8(A)のトルク801とトルク曲線702との対応から進角804を選択する処理を行う。これらの処理を行うことで、制御量に対応して求められる発生トルク、その発生トルクに対応する進角設定値を適切に選択することができる。この進角値に対応する値をPHS_OFSに設定する。
【0037】
ステップS613においては、ステップS603において算出された制御量が0より大きいかどうかを判定する。大きい場合は正方向のトルクを与える場合なのでステップS614に進み、小さい場合は負方向のトルクを与える場合なのでステップS615に進む。ステップS614では正のトルクを発生する場合として、進角設定値を+側の設定値にする。具体的には256+α(αは進角補正値)の値をPHS_OFSに設定して検出位相位置と駆動波形位相との間に位相差を発生させる。ステップS615では負のトルクを発生する場合として、進角設定値を-側の設定値にする。
【0038】
具体的には-(256+α)の値(本実施例では+90度)をPHS_OFSに設定して検出位相位置と駆動波形位相との間に位相差を発生させる。
続くステップS616では、ステップS611で判定した進角制御の範囲から外れた制御量の絶対値を求め、その絶対値に応じた電圧指令値を設定する。以上のステップS613~S616で実施されている処理を、図8(B)を用いて説明する。簡便のため進角補正値αは0であるとして話を進める。
【0039】
ステップS612では進角制御によって図8(B)の805のようなsin(サイン)カーブに沿ったトルク制御をするが、ステップS614に進んだ場合、図8(B)においてトルク曲線805の右端、進角を+90度に設定する状態にする。そして、電圧設置を上げることで直線806のようにトルクを向上させる動きをする。図8(B)内にトルク曲線701~703を点線で記載しているが、前述したように電圧設定値を上下することでトルクは線形に上下する。なので進角設定で要求されたトルク設定ができない場合、電圧設定で要求トルクとなるように調整する。ステップS615に進む場合も同様で、図8(B)においてトルク曲線805の左端、進角を-90度に設定する状態にし、電圧設置を上げることで直線807のようにトルクを向上させる動きをする。
【0040】
ステップS611~S616に示す処理を概念的に示す図が図8(C)である。図8(C)の補足説明を行うと、横軸を進角、電圧に見立て、進角が±90度の範囲の場合には、モータ駆動電圧を固定しつつ逆Sin関数の補正を加えることで進角を変更し、入出力関係が線形になるように補正する。進角が-90度~+90度の範囲外の場合には、進角を固定し、電圧設定値を上げることで要求された制御量に対応したトルクを発生するよう対応する。
【0041】
即ち、モータにより駆動される対象の目標位置との偏差に基づき前記モータに対する出力制御量を演算している。またに、前記出力制御量に応じて、前記モータの回転位相の所定の進角範囲内においては、前記モータの回転位相の進角を変更し、前記所定の進角範囲外においては、前記進角を固定した状態で前記モータの駆動電圧を変更している。なお、-90度~+90度の範囲内の場合に、進角をメインで変更すればよく、その際に駆動電圧を完全に固定せずに若干変更しても良い。逆に-90度~+90度の範囲外の場合には電圧をメインで変更すればよく、進角を完全に固定せずに若干変更してもよい。
以上の処理を一定周期で繰り返すことにより、安価な部材構成で、モータによる高反応な、詳細な位置制御を可能にするモータ駆動装置を提供することができる。
【実施例2】
【0042】
実施例2では、実施例1で説明したモータ駆動装置を複数使用し、対象部材を2次元平面上で併進、回転動作させる場合の位置制御について説明する。
図9は実施例2におけるシステム概要を示すブロック図である。本実施例ではカメラ等の撮像装置を想定しており、図9では撮像装置の中でも本件の実施に関わりのある構成のみを記載している。CPU901は図1のブロック図のCPU111と同様のもので、不図示のメモリに記憶されたコンピュータプログラム等の各種データを取得してそのデータを基に演算処理を実施し、各所を制御する役割を担う。
【0043】
モータ制御ユニット902~904は3つとも同様の構成のもので、それぞれが図1のブロック図で示す構成から、CPU111のみが除かれた構成を持っているものとする。3軸加速度センサ905は撮像装置の3次元方向それぞれの加速度状態を検出できるセンサである。3軸ジャイロセンサ906は撮像装置の3軸方向のジャイロ(角速度)情報を取得できるセンサである。3軸加速度センサ905や3軸ジャイロセンサ906によって撮像装置の筐体のブレ量が検出され、これらによってブレ量検出手段が構成されている。画像センサユニット907は撮像装置内で光学信号を電気信号に変換する例えばCMOSイメージセンサ等の撮像素子を含む。本実施例では画像センサユニット907はモータ制御ユニット902~904の構成によって把持されており、モータ制御ユニット902~904の動きに応じて併進、回転動作が可能となっている。
【0044】
これらモータ制御ユニット902~画像センサユニット907は、CPU901との間で情報の取得や指示等の双方向通信ができるものとする。
図10は実施例2におけるシステムのメカ機構の概要を示す図であり、図10(A)は、図9で示した画像センサユニット907が具体的にどのようなメカ部材構成によって併進、回転が可能になっているかを示す図である。図10(A)において、画像センサユニット部材1001は画像センサユニット907を収納したフレーム等から成り、付勢点1023、1024において、それぞれ方向1015、1022の方向にバネで付勢されているものとする。
【0045】
また、画像センサユニット部材1001は作用点部材1005、1011、1018と接しており、この3点との接触とバネによる付勢力によって位置が決まるものである。モータ1002、ENC磁石1003は、図2のモータ101、ENC磁石103と同様のものである。配線やセンサなどの部材も実際には存在するが、図10でのメカ構成の説明には不要であるため割愛する。レバー部材1004には前出の作用点部材1005の他に支点部材1006、力点部材1007を備えている。
【0046】
レバー部材1004は、支点部材1006を中心に回転できるようになっており、力点部材1007が力を受けて動くと、その回転で作用点部材1005が画像センサユニット部材1001に力を加える構成になっている。加えてモータ1002が回転することによりモータの軸に備えられたスクリューに係合したスクリュー係合部材1008が移動し、力点部材1007に力を加える構成となっている。図10(A)の1009、1016はモータであり、1010~1014、1017~1021の構成は、それぞれ1004~1008の構成と同様であるため詳細説明は割愛する。
【0047】
図10(B)は、スクリュー係合部材1008、1014、1021それぞれが、図10(A)で示す基準位置から移動した場合の例を挙げている。スクリュー係合部材1008、1014、1021の位置に応じて画像センサユニット部材1001が撮像面内で併進あるいは回転していることがわかる。
図11は実施例2の処理の流れを示すフローチャートである。以後は図9図10で示した構成を前提に、この図11の処理の流れを追って説明を行う。
【0048】
ステップS1101においては、3軸加速度センサ905、3軸ジャイロセンサ906、の信号を取得する。続くステップS1102では、ステップS1101で得られた情報を基に、撮像装置全体の位置ブレ量、角度ブレ量を算出する。そして、そこからブレ量に応じて前記目標位置を算出するとともに、画像センサユニット部材1001がどれだけ移動すべきかの2次元的な移動量や移動方向を算出する。この算出時の具体的アルゴルについては公知技術で様々な方法が開示されているので詳細は割愛する。
【0049】
ステップS1103では、ステップS1102で算出した画像センサユニット部材1001の2次元の移動量や移動方向に応じて、スクリュー係合部材1008、1014、1021がどれだけ移動する必要があるのかを算出する。その算出量に応じて、モータ1002、1009、1016がどれだけ回転すべきかの回転位置指令値を算出する。
続くステップS1104、S1105、S1106ではそれぞれ、モータ1002、1009、1016に対する位置FB(フィードバック制御)処理を実施する。
【0050】
これらの処理は実施例1で示した処理と同様の処理であり、現在位置と目標位置との偏差から目標位置へ移動するための適切な進角、電圧の変更処理がなされるものとする。
以上の処理を一定周期で繰り返すことにより、撮像装置内の画像センサユニット部材に対して適切なブレ補正処理を実施することが可能なモータ駆動装置を提供することができる。なお、上記実施例では撮像素子を含む画像センサユニット部材1001をモータ駆動装置で駆動してブレ補正を行っているが、撮像素子へ光学を導くための光学系をモータ駆動装置で駆動してブレ補正を行っても良い。
【0051】
更には画像センサユニット部材1001と光学系の両方を駆動してブレ補正を行っても良い。
なお、本実施例の位置検出器ではホール素子と回転磁石を用いた構成を用いたが、回転位置の検出が十分に高精度に行える構成であれば他のセンサ機構を用いても実施可能である。
また、本実施例ではモータ101として例えば10極の一般的なクローポール型ステッピングモータを前提にしたが、必要な精度での制御が行える構成を備えているのであれば、別の構成の回転モータを用いても実施可能である。
【0052】
以上、本発明をその好適な実施例に基づいて詳述してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨に基づき種々の変形が可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
また、本実施例における制御の一部または全部を上述した実施例の機能を実現するコンピュータプログラムをネットワーク又は各種記憶媒体を介してモータ駆動装置に供給するようにしてもよい。そしてそのモータ駆動装置におけるコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。その場合、そのプログラム、及び該プログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することとなる。
【符号の説明】
【0053】
101 モータ
102 ロータ軸
103 ENC磁石
104 ホール素子パッケージ
105 ホール素子
106 ホール素子
107 アンプ
108 AD変換回路
109 位置ENC回路
110 駆動波形生成回路
111 CPU
112 PWM発生器
113 モータドライバ
114 A相用コイル
115 B相用コイル
116 ステータA+
117 ステータA-
118 ステータB+
119 ステータB-
120 ロータ磁石
121 リセット機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11