(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20240109BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240109BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240109BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240109BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B29C45/16
B41J2/16 513
B41J2/14 603
B41J2/18
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2019219561
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】岩野 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕久雄
(72)【発明者】
【氏名】広沢 稔明
(72)【発明者】
【氏名】安間 弘雅
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-083349(JP,A)
【文献】特開2016-215561(JP,A)
【文献】特開2019-206123(JP,A)
【文献】特開昭57-203531(JP,A)
【文献】特開昭62-068716(JP,A)
【文献】特開2002-361681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
B29C 45/00 - 45/84
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型とからなる金型を用いて、液体を吐出する複数の吐出モジュールに液体を供給するための流路構成部材を製造する工程を含む、液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記流路構成部材を製造する工程が、
前記金型を型締めし、前記金型の内部に樹脂を射出することで、前記金型内の異なる位置に、前記流路構成部材を構成する第1、第2、および第3の部材を個別に成形する第1の工程と、
前記第1の工程の後、前記金型を型開きし、前記可動型に保持された前記第1の部材と前記固定型に保持された前記第2の部材が対向するまで前記可動型をスライドさせた後、前記金型を型締めして前記両部材を当接させ、該当接部に
前記固定型に設けられた第1のゲートから第1の封止樹脂を注入して前記両部材を接合する第2の工程と、
前記第2の工程の後、前記金型を型開きし、前記可動型に保持された前記第2の部材と前記固定型に保持された前記第3の部材が対向するまで前記可動型をスライドさせた後、前記金型を型締めして前記両部材を当接させ、該当接部に
前記固定型の前記第1のゲートとは異なる位置に設けられた第2のゲートから第2の封止樹脂を注入して前記両部材を接合する第3の工程と、を含
み、
前記第2のゲートは、前記第3の部材に対応する位置で前記固定型に設けられ、
前記第3の工程が、前記第2の部材と前記第3の部材を当接させた後、前記第3の部材を保持する前記固定型の駒部材の少なくとも一部をスライドさせて前記駒部材と前記第3の部材との間に前記第2のゲートに連通する空間を形成し、該形成した空間から前記第2の封止樹脂を注入することを含む、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記第1から第3の部材は、それぞれ長方形の板状に成形され
、
前記
第2のゲートは、前記第3の部材の短手方向の中央部に対向する位置で前記固定型に設けられている、請求項
1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記第1から第3の部材は、それぞれ長方形の板状に成形され
、
前記
第2のゲートは、前記第3の部材の短手方向の端部に対向する位置で前記固定型に設けられている、請求項
1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記第3の工程において、前記当接部に、前記空間に連通する通路が形成され、前記第2の部材と前記第3の部材は、前記通路に前記第2の封止樹脂が充填されることで接合される、請求項
2または3に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記空間は、前記第3の部材の短手方向に沿って形成され、前記通路は、前記第2および第3の部材の長手方向に沿って形成される、請求項
4に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記駒部材には、前記通路を外部に連通させるガスベントが形成されている、請求項
4または
5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記ガスベントは、前記第3の部材の長手方向の端部および中央部の少なくとも一方に対向する位置で前記駒部材に形成されている、請求項
6に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記通路の少なくとも前記空間に隣接する部分は、前記駒部材に面している、請求項
4から
7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記駒部材には、前記第3の部材に向けて突出して前記通路と平行に延びる凸部が形成されている、請求項
4から
8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記第1の工程において、前記第3の部材は、前記
第2のゲートに隣接する部分が他の部分よりも厚くなるように成形される、請求項
2から
9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記
第1のゲートは、前記第2の部材に対向する位置で前記固定型に設けられ
ている、請求項
1から1
0のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記第1の工程において、前記第1から第3の部材は、それぞれ長方形の板状に成形され
、
前記
第1のゲートは、前記第2の部材の短手方向の端部に対向する位置で前記固定型に設けられている、請求項1
1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第2の工程において、前記当接部に、前記
第1のゲートに連通する通路が形成され、前記第1の部材と前記第2の部材は、前記通路に前記第1の封止樹脂が充填されることで接合される、請求項1
2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記通路は、前記第1および第2の部材の短手方向に沿って形成される、請求項1
3に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記流路構成部材を製造する工程の後、前記流路構成部材の前記第1の部材に前記吐出モジュールを接合する工程をさらに含み、
前記第1の部材は、前記流路構成部材を製造する工程の間、前記可動型に当接した状態で該可動型の駒部材に保持されている、請求項
1から1
4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記流路構成部材を製造する工程の後で前記吐出モジュールを接合する工程の前、前記駒部材は、前記第1の部材を保持する位置から該保持を解除する位置にスライドされる、請求項1
5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吐出口からインクなどの液体を吐出して記録媒体に画像を記録する液体吐出ヘッドには、記録媒体の幅に対応した長さを有し、搬送される記録媒体に対して装置本体に固定された状態で記録動作を行うページワイド型のものがある。ページワイド型の液体吐出ヘッドは、記録媒体の幅方向に移動しながら記録動作を行うシリアル型のものに比べて、同時に多くの画像を記録することができるため、高速記録が求められる液体吐出装置に採用されることが多い。
特許文献1には、ページワイド型の液体吐出ヘッドを構成する部材のうち、複数の吐出モジュールに液体を供給するための流路構成部材を製造する方法が記載されている。この方法では、まず、樹脂の射出成形により、流路構成部材を構成する3つの部材を金型内の異なる位置で個別に成形する(一次成形)。そして、型開き後、金型をスライドさせて3つの部材の位置合わせを行い、再び型締めしてこれらを当接させ、この当接部に溶融樹脂を注入することで3つの部材を接合する(二次成形)。このような方法を用いることで、内部に液体流路などの複雑な中空構造を有する流路構成部材を高精度に製造することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した製造方法では、流路構成部材が記録媒体の幅に対応した長尺の部材であるため、二次成形時の接合部の数が必然的に増えてしまう。これに対応するためには、金型に設置されるゲートの数を増やす必要があるが、このことは、金型の大型化につながり、ひいては成形品の大型化につながる。一方で、このような大型化を回避するためには、ゲートから射出された樹脂を接合部まで導くための導入路(ランナー)を金型内に形成することが考えられる。しかしながら、ランナーの設置により、金型が複雑になるだけでなく、特に長尺の流路構成部材の場合、接合部への樹脂の充填性が悪化し、充填不良(ショート)が生じるおそれがある。
そこで、本発明の目的は、金型の大型化や複雑化を招くことなく、樹脂成形品である流路構成部材を高い信頼性で製造することができる液体吐出ヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、固定型と可動型とからなる金型を用いて、液体を吐出する複数の吐出モジュールに液体を供給するための流路構成部材を製造する工程を含み、流路構成部材を製造する工程が、金型を型締めし、金型の内部に樹脂を射出することで、金型内の異なる位置に、流路構成部材を構成する第1、第2、および第3の部材を個別に成形する第1の工程と、第1の工程の後、金型を型開きし、可動型に保持された第1の部材と固定型に保持された第2の部材が対向するまで可動型をスライドさせた後、金型を型締めして両部材を当接させ、その当接部に固定型に設けられた第1のゲートから第1の封止樹脂を注入して両部材を接合する第2の工程と、第2の工程の後、金型を型開きし、可動型に保持された第2の部材と固定型に保持された第3の部材が対向するまで可動型をスライドさせた後、金型を型締めして両部材を当接させ、その当接部に固定型の第1のゲートとは異なる位置に設けられた第2のゲートから第2の封止樹脂を注入して両部材を接合する第3の工程と、を含み、第2のゲートは、第3の部材に対応する位置で固定型に設けられ、第3の工程が、第2の部材と第3の部材を当接させた後、第3の部材を保持する固定型の駒部材の少なくとも一部をスライドさせて駒部材と第3の部材との間に第2のゲートに連通する空間を形成し、その形成した空間から第2の封止樹脂を注入することを含んでいる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金型の大型化や複雑化を招くことなく、樹脂成形品である流路構成部材を高い信頼性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図である。
【
図2】一実施形態に係る各流路部材の表面と裏面を示す平面図である。
【
図3】一実施形態に係る流路構成部材の透視平面図および断面図である。
【
図4】一実施形態に係る流路構成部材の製造方法の各工程を示す斜視図である。
【
図5】一実施形態に係る流路構成部材の製造方法の各工程を示す断面図である。
【
図6】一実施形態に係る流路構成部材の製造方法の各工程を示す断面図である。
【
図7】一実施形態に係る製造方法を説明するための断面図である。
【
図8】一実施形態に係る二次形成工程を説明するための平面図である。
【
図9】一実施形態に係る二次形成工程を説明するための断面図である。
【
図10】一実施形態に係る三次形成工程を説明するための平面図である。
【
図11】一実施形態に係る三次形成工程を説明するための断面図である。
【
図12】一実施形態に係る三次形成工程の変形例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の範囲を限定するものではない。
【0009】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図である。
液体吐出ヘッド3は、記録媒体の幅に対応する長さを有するライン型(ページワイド型)の液体吐出ヘッドであり、その長手方向に直線状(インライン)に配列された15個の記録素子基板10を有している。各記録素子基板10は、フレキシブル配線基板40と共に吐出モジュール200を構成し、シアン(C)/マゼンタ(M)/イエロー(Y)/ブラック(K)の4色のインクを吐出可能である。液体吐出ヘッド3は、液体供給ユニット220の液体接続部111を介して、液体吐出装置(図示せず)の液体供給系に接続される。これにより、CMYKの4色のインクは、液体吐出装置の液体供給系から液体吐出ヘッド3に供給され、液体吐出ヘッド3内を通り、液体吐出装置の液体供給系に回収される。このように、各色のインクは、液体吐出装置と液体吐出ヘッド3との間で循環可能である。
【0010】
また、液体吐出ヘッド3は、複数の吐出モジュール200を支持する流路構成部材210を有している。流路構成部材210は、それぞれが細長い長方形の板状に形成された第1、第2、および第3の流路部材50,60,70から構成され、これらは互いに積層されて接合されている。複数の吐出モジュール200は、第1の流路部材50の接合面53(
図2参照)に接着剤によって接合されている。流路構成部材210は、液体を吐出する複数の吐出モジュール200に液体を供給するための部材である。すなわち、流路構成部材210は、液体供給ユニット220から供給されるインクを各吐出モジュール200に分配し、吐出モジュール200から還流するインクを液体供給ユニット220へと戻す流路を内部に備えている。流路構成部材210は、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めで固定されている。
第1、第2、および第3の流路部材50,60,70は、液体(インク)に対して十分な耐腐食性を有し、線膨張率の低い材料からなることが好ましい。そのような材料としては、樹脂材料を母材としてシリカ微粒子やファイバー等の無機フィラーを添加した複合材料を好適に用いることができる。母材として用いられる樹脂材料としては、例えば、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニルサルファイド)、PSF(ポリサルフォン)、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)などが挙げられる。また、第1、第2、および第3の流路部材50,60,70の寸法は、一例として、短手方向の長さが約30mmであり、長手方向の長さが、ページワイド型の液体吐出ヘッドの用紙幅に応じて、約260mm(A4幅)から約約350mm(A3幅)である。
A4の用紙幅に対応する
【0011】
図2(a)および
図2(b)は、第1の流路部材の表面と裏面を示す平面図であり、
図2(c)および
図2(d)は、第2の流路部材の表面と裏面を示す平面図であり、
図2(e)および
図2(f)は、第3の流路部材の表面と裏面を示す平面図である。
図2(a)には、第1の流路部材50の、吐出モジュール200が接合される接合面53が示されており、
図2(f)には、第3の流路部材70の、液体吐出ユニット支持部81が当接される面が示されている。
【0012】
第1の流路部材50と第2の流路部材60は、
図2(b)に示す面と
図2(c)に示す面が対向するように接合される。第1および第2の流路部材50,60が接合されると、第1の流路部材50に形成された個別流路溝52と第2の流路部材60により、複数の個別流路213,214(
図3参照)が形成される。第2の流路部材60と第3の流路部材70は、
図2(d)に示す面と
図2(e)に示す面が対向するように接合される。第2および第3の流路部材60,70が接合されると、第2の流路部材60に形成された共通流路溝62と第3の流路部材70に形成された共通流路溝71により、流路構成部材210の長手方向に延びる8本の共通流路211,212(
図3参照)が形成される。具体的には、インクの色ごとに1組の共通供給流路211と共通回収流路212が流路構成部材210内に形成される。
第3の流路部材70には、液体供給ユニット220と流体的に流通する連通口72が形成されている。第2の流路部材60の共通流路溝62の底面には複数の連通口61が形成され、各連通口61は第1の流路部材50の個別流路溝52の一端部と連通している。第1の流路部材50の個別流路溝52の他端部には連通口51が形成され、連通口51は吐出モジュール200と流体的に連通している。この個別流路溝52により、流路構成部材210の短手方向の中央部付近に流路を集約することが可能になる。
【0013】
図3(a)は、流路構成部材の一部を拡大して示す透視平面図であり、第1の流路部材の接合面の側から見た図である。
図3(b)は、
図3(a)のE-E線に沿った断面図である。
流路構成部材210には、上述したように、インクの色ごとに液体吐出ヘッド3の長手方向に延びる共通供給流路211(211a,211b,211c,211d)と共通回収流路212(212a,212b,212c,212d)が設けられている。各色の共通供給流路211は、連通口61を介して、共通供給流路211と交差する方向に延びる複数の個別供給流路213(213a,213b,213c,213d)に接続されている。また、各色の共通回収流路212は、連通口61を介して、共通回収流路212と交差する方向に延びる複数の個別回収流路214(214a,214b,214c,214d)に接続されている。さらに、個別供給流路213および個別回収流路214はそれぞれ、連通口51を介して吐出モジュール200と流体的に連通している。このような流路構成により、各共通供給流路211から個別供給流路213を介して、流路構成部材210の中央部付近に位置する記録素子基板10にインクを集約的に供給することができる。また、記録素子基板10から個別回収流路214を介して各共通回収流路212にインクを回収することができる。
また、吐出モジュール200に含まれる支持部材30および記録素子基板10には、第1の流路部材50から記録素子基板10に設けられた記録素子(図示せず)にインクを供給するための流路が形成されている。さらに、支持部材30および記録素子基板10には、記録素子に供給されたインクの一部または全部を第1の流路部材50に回収(環流)するための流路も形成されている。こうして、本実施形態の液体吐出ヘッド3内では、インクの色ごとに、共通供給流路211、個別供給流路213、記録素子基板10、個別回収流路214、共通回収流路212へと順に流れるインクの流れが発生する。
【0014】
次に、
図4から
図7を参照して、本実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法のうち、特に樹脂成形品である流路構成部材の製造方法について説明する。ここでは、まず、
図4を参照して、本実施形態の流路構成部材の製造方法の概略について説明する。
図4(a)から
図4(c)は、それぞれ本実施形態の流路構成部材の製造方法の各工程を示す斜視図である。
本実施形態の流路構成部材210は、概略すると、固定型282(
図5から
図7参照)と可動型283とからなる金型を用いて、3つの工程により製造される。一次成形工程(第1の工程)では、
図4(a)に示すように、金型の内部にバルブゲート284a~284cから溶融樹脂を射出して、第1、第2、および第3の流路部材50,60,70を個別に成形する。二次成形工程(第2の工程)では、
図4(b)に示すように、第1の流路部材50と第2の流路部材60を当接させ、その当接部にバルブゲート285から二次成形用の封止樹脂(第1の封止樹脂)を注入して両部材50,60を接合する。三次成形工程(第3の工程)では、
図4(c)に示すように、第2の流路部材60と第3の流路部材70を当接させ、その当接部にバルブゲート286から三次成形用の封止樹脂(第2の封止樹脂)を注入して両部材60,70を接合する。
【0015】
次に、
図5から
図7を参照して、本実施形態の流路構成部材の製造方法の詳細について説明する。
図5(a)から
図7(b)は、本実施形態の流路構成部材の製造方法の各工程を示す断面図であり、それぞれ
図4のA方向からの見た図である。なお、
図5(a)は、
図4(a)に示す一次成形工程に対応し、
図6(a)は、
図4(b)に示す二次成形工程に対応し、
図7(a)は、
図4(c)に示す三次成形工程に対応する。
【0016】
まず、
図5(a)に示すように、固定型282と可動型283とからなる金型280が型締めされ、金型280の内部にバルブゲート284a~284cから溶融樹脂が射出される。これにより、金型280内の異なる位置に、第1、第2、および第3の流路部材50,60,70が個別に成形される。
こうして一次成形工程が完了すると、
図5(b)に示すように、可動型283が矢印K1の方向に移動し、金型280が型開きされる。このとき、第1の流路部材50は、可動型283に設けられたスライド駒287に保持され、第2および第3の流路部材60,70は、固定型282に設けられた駒288(
図9(b)参照)および駒289(
図11(c)参照)にそれぞれ保持される。そして、可動型283は、
図5(c)に示すように、第1の流路部材50を保持した状態で、第1の流路部材50が第2の流路部材60に対向する位置まで、矢印K2の方向にスライドする。
【0017】
次に、
図6(a)に示すように、可動型283が固定型282に向けて矢印K3の方向に移動し、金型280が型締めされる。このとき、第1の流路部材50と第2の流路部材60が当接し、この当接部に、個別流路213,214が形成されるとともに、その周囲に二次成形用の封止樹脂(二次成形樹脂)が充填される封止通路が形成される。そして、この封止通路にバルブゲート285から二次成形樹脂291が注入されることで、第1の流路部材50と第2の流路部材60が接合されて一体化される。
こうして二次成形工程が完了すると、
図6(b)に示すように、再び可動型283が矢印K1の方向に移動し、金型280が型開きされる。このとき、第2の流路部材60は、一体化された第1の流路部材50と共に可動型283に保持される。そして、可動型283は、
図6(c)に示すように、第1の流路部材50を介して第2の流路部材60を保持した状態で、第2の流路部材60が固定型282に保持された第3の流路部材70に対向する位置まで、矢印K2の方向にスライドする。
【0018】
次に、
図7(a)に示すように、可動型283が固定型282に向けて矢印K3の方向へ移動し、金型280が型締めされる。このとき、第2の流路部材60と第3の流路部材70が当接し、この当接部に、共通流路211,212が形成されるとともに、その周囲に三次成形用の封止樹脂(三次成形樹脂)を充填するための封止通路が形成される。そして、詳細は後述するが、固定型282に設けられたスライド駒289が矢印K4の方向にスライドし、三次成形樹脂を注入するための空間が形成される。この空間を通じてバルブゲート286から封止通路に三次成形樹脂292が注入されることで、第2の流路部材60と第3の流路部材70が接合され、一体化された流路構成部材210が製造される。
こうして三次成形工程が完了すると、
図7(b)に示すように、再び可動型283が矢印K1の方向に移動し、金型280が型開きされる。このとき、一体化された流路構成部材210は、可動型283に保持された状態で矢印K1の方向に移動する。その後、可動型283のスライド駒287が矢印K5の方向にスライドして第1の流路部材50の保持が解除され、流路構成部材210は、矢印K6の方向に引き出され可動型283から取り出される。
【0019】
このように、本実施形態の製造方法によれば、二次成形樹脂291と三次成形樹脂292は、それぞれ固定型282の異なる位置から注入される。具体的には、二次成形樹脂291は、第2の流路部材60に対向する位置で固定型282に設けられたバルブゲート285から注入され、三次成形樹脂292は、第3の流路部材70に対向する位置で固定型282に設けられたバルブゲート286から注入される。これにより、金型の固定型にゲートを密集して配置したりランナーを介して配置したりする必要がなくなる。その結果、金型の大型化や複雑化を回避することができ、特に三次成形樹脂の充填性を向上させることもできる。
【0020】
ところで、熱可塑性樹脂の成形では、成形品を金型から取り出した際、その温度は周囲の環境温度よりも高く、その後で放置することで環境温度まで低下するが、このとき、成形品は金型に固定されておらず、残留応力が解放されながら冷却が進むことになる。そのため、成形品には反りやうねりなどの変形が発生しやすくなり、特に長尺の成形品で顕著に発生しやすくなる。例えば、流路構成部材に反りやうねりなどの変形が発生すると、高い接着信頼性を確保するためにその変形に沿って吐出モジュールを接着した場合、複数の吐出モジュールの相対位置精度が低下するおそれがあり、それにより、画質の低下が懸念される。一方で、複数の吐出モジュールの相対位置精度を確保するためには、流路構成部材の変形に応じて、吐出モジュールごとに接着剤の量を調整する必要があるが、それにより、高い接着信頼性を確保できなくなるおそれがあり、インク漏れが発生するおそれがある。
これに対し、本実施形態では、
図5(a)から
図7(a)に示すように、一次成形工程から三次成形工程までの間、第1の流路部材50は、吐出モジュール200が接合される接合面53が可動型283に当接した状態で保持される。これにより、金型280内での第1の流路部材50の冷却時間を長くすることができ、反りやうねりなどの変形を抑制して平坦な接合面53を得ることができる。また、第1の流路部材50がスライド駒287によって確実に保持されている点や、バルブゲートなどの熱源がないために可動型283の温度制御が容易な点も、成形工程中の接合面53の変形を抑制するためには有利である。こうして、本実施形態では、流路構成部材210と吐出モジュール200との高い接着信頼性と複数の吐出モジュール200の相対位置精度の確保を両立することができる。
【0021】
次に、
図8および
図9を参照して、本実施形態の流路構成部材の製造方法における二次成形工程の詳細について説明する。
図8(a)は、第2の流路部材の平面図であり、二次成形樹脂の流入経路を示す図であり、
図8(b)は、
図8(a)の破線で囲まれた領域の拡大図である。
図9(a)は、
図8(b)のF-F線に沿った断面図であり、
図9(b)は、
図8(b)のG-G線に沿った断面図である。なお、
図9には、第1の流路部材と第2の流路部材が示されているが、
図8では、簡単のために、第1の流路部材の図示を省略している。
二次成形樹脂を注入するためのバブルゲート285は、第2の流路部材60の長手方向に沿って5つ設けられており、第2の流路部材60には、各バルブゲート285から連通する封止溝63が形成されている。封止溝63は、第1の流路部材50と共に、二次成形樹脂が充填される封止通路を構成する。なお、本実施形態では、すべてのバルブゲート285は、第2の流路部材60の短手方向の一方の端部に設けられ、二次成形樹脂が封止通路から流出する最終充填部666は、第2の流路部材60の短手方向の他方の端部に設けられている。これにより、バルブゲート285から最終充填部66まで二次成形樹脂が一方通行で流れるため、二次成形樹脂内のガスを効果的に逃がすことができ、充填不良の発生を抑制することで高い接合信頼性を得ることができる。さらに、最終充填部66が他方の端部に集約的に設けられていることで、その端部を確認するだけで、二次成形樹脂の最終的な充填の有無を容易に検査することができる。また、二次成形樹脂が流れる方向(封止溝63が延びる方向)は、第2の流路部材60の短手方向に対して傾斜しているため、短手方向に平行な場合に比べて、接合部の投影面積が増えることで接合強度が向上し、より高い接合信頼性を得ることができる。これに対し、最終充填部66が延びる方向は、第2の流路部材60の短手方向にほぼ平行であるが、最終充填部66の付近は流路構成部材50,60の接合に無関係である。このため、二次成形樹脂は、個別流路213,214の周囲の封止を全て完了した後、最短距離で最終充填部66まで到達することになり、樹脂容量の削減や成形サイクルの短縮などの効果を得ることができる。
【0022】
また、第2の流路部材60の微細な共通流路溝62を構成する壁部は、薄肉であるため、二次成形樹脂291の熱と圧力によって変形して決壊し、二次成形樹脂291が共通流路溝62内に流れ込むおそれがある。しかしながら、第2の流路部材60は、二次成形工程時、
図9(b)に示すように、固定型282の駒288に保持された状態で第1の流路部材50に接合される。これにより、第2の流路部材60の薄肉の壁部を固定型282の駒288でしっかり押さえる(バックアップする)ことができ、二次成形樹脂291による熱と圧力が加わったとしても、樹脂の漏れ出しを抑制することができる。
なお、バルブゲート285の数や封止溝63の配置は、二次成形樹脂が流路部材50,60の当接部全体にわたって均等に流れる限り、図示した例に限定されず、個別流路213,214の形状や使用する成形機の性能などに応じて適宜設定可能である。
【0023】
次に、
図10から
図12を参照して、本実施形態の流路構成部材の製造方法における三次成形工程の詳細について説明する。
図10は、第3の流路部材の平面図であり、三次成形樹脂の流入経路を示す図である。
図11(a)および
図11(b)は、
図10のH-H線に沿った断面図であり、
図11(c)は、
図10のJ-J線に沿った断面図である。
図12(a)および
図12(b)は、本実施形態の三次成形工程の変形例を示す断面図であり、それぞれ
図11(a)および
図11(b)に対応する図である。なお、
図10では、簡単のために、第2の流路部材の図示を省略している。
【0024】
三次成形樹脂を注入するためのバルブゲート286は、第3の流路部材70の長手方向に沿って4つ設けられており、各バブルゲート286の近傍には、上述したように、固定型282の駒部材の一部であるスライド駒289が設けられている。スライド駒289は、
図11(a)に示す閉位置と
図11(b)に示す開位置との間でスライド可能であり、三次成形工程時、スライド駒289が閉位置から開位置にスライドすることで、バブルゲート286に連通する空間が形成される。一方、第3の流路部材70には、こうして形成された空間に連通する封止溝73が形成され、封止溝73は、第2の流路部材60と共に、三次成形樹脂が充填される封止通路を構成する。このような構成により、バルブゲート286を第3の流路部材70の短手方向のほぼ中央部に配置することができ、三次成形樹脂をバランスよく充填することが可能になる。また、固定型282のスライド駒289により形成される空間は、第3の流路部材70の短手方向に延び、三次成形樹脂が充填される封止通路(封止溝73)は、その長手方向に延びている。したがって、バブルゲート286から射出された三次成形樹脂は、まず第3の流路部材70の短手方向に流れた後、長手方向に充填されることになり、その結果、長手方向に延びる複数の封止通路をほぼ同時にバランスよく充填することが可能になる。
三次成形樹脂が充填される封止通路は、例えば、第3の流路部材70の長手方向の端部および中央部では、ガス逃げ穴76として終端するが、第3の流路部材70を保持する固定型282の駒部材には、ガス逃げ穴76に連通するガスベントが形成されている。これにより、封止通路を外部に連通させることができ、三次成形樹脂内にガスを残留させることなく三次成形樹脂を封止通路に充填することが可能になる。
【0025】
なお、三次成形樹脂が充填される封止通路のうち、三次成形樹脂の圧力が高い箇所、具体的には、バルブゲート286の近傍、特にスライド駒289により形成される空間に隣接する箇所では、三次成形樹脂が封止通路から漏れ出すリスクが高い。このような箇所において、封止通路は、
図11(c)に示すように、第3の流路部材70を保持する固定型282の駒290に面している。加えて、固定型282の駒290のうち封止通路(封止溝73)の間の部分には、第3の流路部材70に向けて突出して封止通路と平行に延びる凸部293が形成されている。これにより、三次成形樹脂の圧力による第3の流路部材70の変形や、それによる三次成形樹脂の漏れ出しなどを抑制することができる。なお、駒290に凸部293が形成され、第3の流路部材70に凹部が形成される代わりに、その逆であってもよいが、第3の流路部材70の変形を抑制するという観点から、本実施形態のように、駒290に凸部293が形成されていることが好ましい。また、三次成形樹脂の圧力が高い箇所において第3の流路部材70の強度を向上させて変形を抑制するために、第3の流路部材70のうちバルブゲート286に隣接する部分が他の部分よりも厚くなるように成形されていてもよい。
【0026】
三次成形樹脂が注入される空間の形成方法は、上述した方法に限定されず、例えば、
図12に示すように、スライド駒289を金型280の開閉方向にスライドさせて空間を形成してもよい。なお、バルブゲート286の設置位置は、
図11(a)および
図11(b)に示す構成では、第3の流路部材70の短手方向の中央部であるのに対し、
図12に示す構成では、短手方向の端部である。そのため、三次成形樹脂の充填バランスを考慮すると、
図11(a)および
図11(b)に示す構成を採用することが好ましい。ただし、いずれの構成においても、三次成形樹脂は、固定型282のスライド駒289により形成された空間に流し込まれることになるが、このときの固定型282のスライド駒289は、ホットランナーの熱影響などにより比較的高温である。このため、バルブゲート286から射出された三次成形樹脂292は、急激に冷却されることなく充填され、封止通路全体に樹脂が行き渡りやすく、結果として樹脂の充填性は良好になる。
【0027】
なお、上述した実施形態では、流路構成部材が3つの部材(第1から第3の流路部材)から構成されている場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、流路構成部材が4つ以上の部材から構成されている場合にも適用可能である。また、本発明は、液体吐出ヘッドの流路構成部材のみ限定されず、インクジェット記録装置(液体吐出装置)に搭載される長尺部材に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
3 液体吐出ヘッド
50 第1の流路部材
60 第2の流路部材
70 第3の流路部材
210 流路構成部材
282,283 金型