(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】防音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240109BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G10K11/16 130
G10K11/162
(21)【出願番号】P 2019225799
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】南 健太
(72)【発明者】
【氏名】堀部 哲史
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022245(WO,A1)
【文献】特開平01-008371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面を有する基板と、
弾性を有するシートと、前記シートを複数の区画部に区画する複数の中空セルから構成されて前記シートを支持する支持部とを備え、前記区画部における前記シートの面剛性(k)および前記シートの面密度(m)が下記数式1の関係を満足し、前記基板上に配置された防音材と、
を有し、
前記複数の中空セルの少なくとも一部は、延在方向に垂直な断面形状が同一である前記中空セルが規則的に配列されてなる格子状構造体を構成し、
前記格子状構造体が、前記基板とは反対側の開口断面に、前記中空セルの延在方向に沿った切り欠き部を有するか、あるいは、前記支持部が、複数の前記格子状構造体を有し、前記複数の格子状構造体は互いに独立して存在するように前記シート上に配置され、
前記シートが前記支持部に対して基板側に配置されるように、かつ、前記中空セルのそれぞれによって区画される前記区画部の法線が前記基板に対して略垂直となるように、前記防音材が前記基板上に配置されている、防音構造体:
【数1】
【請求項2】
前記支持部を構成する前記中空セルの少なくとも一部は、他の中空セルから独立して存在するように前記シート上に配置されている、請求項1に記載の防音構造体。
【請求項3】
前記数式1における(1/2π)・(k/m)
1/2
の値が2935Hz以上である、請求項1または2に記載の防音構造体。
【請求項4】
前記格子状構造体が、前記基板とは反対側の開口断面に、前記中空セルの延在方向に沿った切り欠き部を有し、かつ、
前記切り欠き部は、矩形状の格子状構造体の対角線に沿って十字に設けられるか、または矩形状の格子状構造体の向かい合う辺の中点同士を結んだ線に沿って十字に設けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の防音構造体。
【請求項5】
前記支持部が、複数の前記格子状構造体を有し、前記複数の格子状構造体は互いに独立して存在するように前記シート上に配置され、かつ、
矩形状の前記支持部の向かい合う辺の中点同士を結んだ線に沿って十字に分割されるように前記複数の格子状構造体が配置される、請求項1~3のいずれか1項に記載の防音構造体。
【請求項6】
前記支持部が、複数の前記格子状構造体を有し、前記複数の格子状構造体は互いに独立して存在するように前記シート上に配置され、かつ、
前記複数の格子状構造体の前記基板とは反対側の開口断面に前記複数の格子状構造体を互いに連結するための連結部が設けられている、請求項
1~3のいずれか1項に記載の防音構造体。
【請求項7】
前記基板は開口部を有し、
前記シートは、前記防音材が前記開口部を覆うように、前記開口部の周縁に沿って前記基板に固定されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の防音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内には多くの音源がある。車内および車外における騒音からの静粛性が要求されることから、自動車には様々な防音対策が施されている。特に、エンジンやトランスミッション、駆動系のような大きな音を発生する部分(固有音源)については、発生源に近い位置で防音対策が必要である。このため、これらの音源に対しては吸遮音性能に優れる専用の防音カバーが使用されている。ここで、相次ぐ法改正による車外騒音レベル規制の強化や、車内騒音の静粛化が車の価値(高級感)に直結する点も相俟って、自動車における低騒音化部品の要求は非常に高い。特に、2013年度に欧州連合(EU)において導入された車外騒音規制は、最終的に従来規制値に対して-3dB(音圧エネルギーとして1/2に低減が必要)と厳しいものとなっている。これにはエンジンルーム内の主騒音発生源としてのエンジン本体およびトランスミッション等固有音源への騒音低減対策が不可欠である。これまでも、エンジン上面側のエンジントップカバー等の様々な防音部品が使用されているが、さらなる性能の向上が求められている。また、低燃費化の観点から、防音対策は軽量化の要請にも応えられるものであることが好ましい。
【0003】
防音を狙った防音構造体の構成は種々知られているが、なかでも「音響メタマテリアル」と称される材料がある。「音響メタマテリアル」とは、自然界に存在する物質が通常示さないような音響的性質を示すように設計された人工媒質である。従来、所望の防音効果を示す音響メタマテリアルの開発が鋭意行われており、各種の提案がなされている。
【0004】
ここで、均質な材料からなる一重壁にある周波数の音波が垂直に入射したときの当該一重壁による透過損失(TL;Transmission Loss)の値は、上記周波数(f)および上記一重壁の面密度(m)を用いて、TL≒20log10(m・f)-43[dB]と算出されることが知られている(質量則)。すなわち一般に、防音材料が軽量であるほど、また、音波の周波数が小さいほど、透過損失(TL)は小さくなり、防音性能が低下することとなる。例えば500Hzの音波の場合、20dBのSTLを達成するには、コンクリート壁では12cm、ウレタンフォーム遮音材では35cm超ものサイズが必要となる。
【0005】
このような状況に鑑み、例えば非特許文献1では、連続的に形成された複数の筒状セルを有するアラミド繊維シート製ハニカムによってラテックスゴム製の膜が気密に支持されてなる格子状構造体からなる音響メタマテリアルが提案されている。ここで、非特許文献1に開示されている格子状構造体においては、ラテックスゴム製の膜が複数の筒状セルによって正六角形(一辺の長さが3.65mm)の形状を有する区画部に区画されている。
【0006】
非特許文献1によれば、このような音響メタマテリアルを用いることで、軽量でも特に低周波数の音波に対する防音性能に優れた材料を提供できるとされており、実験によって500Hz未満の周波数の音波については25dBを超えるSTLを達成可能であることも開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Ni Sui et al., Applied Physics Letters 106, 171905 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載されているような上記音響メタマテリアルを防音材として用いた場合には、2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって十分な防音性能を発揮することができない場合があることが本発明者らの検討により判明した。
【0009】
また、上述したような防音材(音響メタマテリアル)を車両等に適用する際には、当該防音材を配置するための基板と積層することが一般的である。しかしながら、本発明者らの検討によれば、防音材が適用される基板が曲面を有するものである場合には、上記音響メタマテリアルを防音材として用いてそのまま基板の曲面に適用しても当該曲面に防音材が追従することができず、十分な防音性能が得られないことも判明した。この場合、防音材を無理やり湾曲させて基板の曲面に追従させようとすると、防音材の内部において応力が発生し、ひいては防音材の構成部材に変形が生じる。その結果、やはり当初の設計どおりの防音性能を得ることはできず、さらには防音材の外力に対する強度も低下するという問題がある。
【0010】
そこで本発明は、2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能を発揮しうるとともに、曲面を有する基板に適用された場合であっても十分な防音性能を発現でき、しかも外力に対する強度の低下を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能を発揮することを可能とする手段を提供することを目的として検討を行った。その結果、非特許文献1に開示されているような、弾性を有するシートと、当該シートを複数の区画部に区画する複数の中空セルから構成されて当該シートを支持する支持部とを有する防音材(音響メタマテリアル)において、当該区画部を構成するシートの面剛性および面密度が所定の関係を満足するように制御することによって2000Hz以下(特に400~1000Hz)の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能が発揮されうることを見出した。
【0012】
また、防音材を基板上に配置する際には、上記シートが当該支持部に対して基板側に配置されるように、かつ、上記中空セルのそれぞれによって区画される上記区画部の法線が当該基板に対して略垂直となるように配置することで、曲面を有する基板に防音材を適用した場合に生じる上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の一形態によれば、曲面を有する基板と、当該基板上に配置された防音材とを有する防音構造体が提供される。ここで、前記防音材は、弾性を有するシートと、前記シートを複数の区画部に区画する複数の中空セルから構成されて前記シートを支持する支持部とを備える。そして、当該防音材は、上記区画部におけるシートの面剛性(k)および面密度(m)が下記数式1の関係を満足する点に特徴を有している。
【0014】
【0015】
また、当該防音構造体においては、上記シートが上記支持部に対して基板側に配置されるように、かつ、上記中空セルのそれぞれによって区画される上記区画部の法線が上記基板に対して略垂直となるように、上記防音材が上記基板上に配置されている点にも特徴がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る防音構造体によれば、2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能を発揮しうるとともに、曲面を有する基板に適用された場合であっても十分な防音性能を発現でき、しかも外力に対する強度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る防音構造体の外観を示す側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る防音構造体を構成する防音材の外観を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る防音構造体を構成する防音材の上面図である。
【
図4】本発明に係る防音材の防音性能(透過損失@500Hz)を、従来公知の防音材における性能トレンドと対比して説明するためのグラフである。
【
図5】防音材の面密度を大きくした場合における質量則に従った防音性能(透過損失)の変化を説明するためのグラフである。
【
図6】本発明に係る防音材の防音性能(透過損失)を、ハニカム構造を有する格子状構造体(支持部)のみからなる防音材、一重壁のみからなる防音材、および鉄板からなる防音材と対比して説明するためのグラフである。
【
図7】剛性則に従う防音性能について説明するための図である。
【
図8】本発明に係る防音材の防音性能に質量則(
図5)および剛性則(
図7)の双方が関与していると仮定した場合のモデル式を、透過損失の実測値と対比して示すグラフである。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る防音構造体を構成する防音材の外観を示す斜視図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係る防音構造体の外観を示す側面図である。
【
図11A】本発明に係る防音構造体を構成する防音材の変形例を示す上面図である。
【
図11B】本発明に係る防音構造体を構成する防音材の他の変形例を示す上面図である。
【
図12A】本発明に係る防音構造体を構成する防音材のさらに他の変形例を示す上面図である。
【
図12B】本発明に係る防音構造体を構成する防音材のさらに他の変形例を示す上面図である。
【
図13A】本発明のさらに他の実施形態に係る防音構造体を構成する防音材の外観を示す斜視図である。
【
図13B】本発明に係る防音構造体を構成する防音材のさらに他の変形例を示す上面図である。
【
図13C】本発明に係る防音構造体を構成する防音材のさらに他の変形例を示す上面図である。
【
図14】後述する実施例の欄において防音性能を評価するのに用いた測定系(遮音ボックス)の様子を説明するための写真である。
【
図15A】後述する比較例において作製した防音材について防音性能の評価を行った様子を撮影した写真である。
【
図15B】後述する比較例において作製した防音材について挿入損失を測定した結果を示すグラフである。
【
図16A】後述する実施例1において作製した防音材について防音性能の評価を行った様子を撮影した写真である。
【
図16B】後述する実施例1において作製した防音材について挿入損失を測定した結果を示すグラフである。
【
図17】後述する実施例2において作製した防音材について挿入損失を測定した結果を示すグラフである。
【
図18】後述する実施例3において作製した防音材について挿入損失を測定した結果を示すグラフである。
【
図19】後述する実施例4において作製した防音材について挿入損失を測定した結果を示すグラフである。
【
図20】後述する実施例5において作製した防音材について挿入損失を測定した結果を示すグラフである。
【
図21】後述する実施例6において作製した防音材について挿入損失を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一形態は、曲面を有する基板と;弾性を有するシートと、前記シートを複数の区画部に区画する複数の中空セルから構成されて前記シートを支持する支持部とを備え、前記区画部における前記シートの面剛性(k)および前記シートの面密度(m)が下記数式1の関係を満足し、前記基板上に配置された防音材と;を有し、前記シートが前記支持部に対して基板側に配置されるように、かつ、前記中空セルのそれぞれによって区画される前記区画部の法線が前記基板に対して略垂直となるように、前記防音材が前記基板上に配置されている、防音構造体である。
【0019】
【0020】
数式1における面剛性(k)および面密度(m)の算出方法については、後述する。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%の条件で行う。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る防音構造体の外観を示す側面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る防音構造体を構成する防音材の外観を示す斜視図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る防音構造体を構成する防音材の上面図である。
【0023】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る防音構造体1は、区画部におけるシートの面剛性(k)およびシートの面密度(m)が上述した数式1の関係を満足する防音材10と、基板20とを有する。
図1~
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る防音材10は、連続的(規則的)に配列された複数の中空セル100aから構成される複数の格子状構造体100(支持部)と、弾性を有するラテックスゴムから構成されるラテックスゴムシート110とを備えている。ここで、複数の格子状構造体100は、互いに独立して存在するように(すなわち、他の格子状構造体とは別体として構成された状態で)ラテックスゴムシート110上に配置されている。ラテックスゴムシート110は、格子状構造体100の両側の開口部のうち一方の側を塞ぐように当該格子状構造体100に気密に接合されており、シート状基材として機能する。なお、本実施形態におけるラテックスゴムシート110の厚さは0.25mm(250μm)である。一方、本実施形態において、格子状構造体100は、ポリプロピレン(PP)樹脂から構成されている。
【0024】
また、
図1に示すように、本実施形態に係る防音構造体1において、基板20は曲面を有している。そして、防音材10を構成するラテックスゴムシート110が格子状構造体100に対して基板20側に配置されるように、当該防音材10は基板20上に配置されている。この際、ラテックスゴムシート110は柔軟であることから、基板20の有する曲面に追従するように変形している。その結果、
図1に示すように、それぞれの格子状構造体100は、自身が接合されているラテックスゴムシート110の変形に対応するようにその相対的な配置を決定することになる。すなわち、格子状構造体100の有する中空セル100aのそれぞれによって区画される区画部の法線(例えば、
図1に示す仮想線h)が基板20に対して垂直となるように、防音材10は基板20上に配置されている。言い換えれば、格子状構造体100の有する中空セル100aのそれぞれによって区画される区画部に対応するラテックスゴムシート110が基板20と平行になるように、防音材10は基板20上に配置されている。ここで、本明細書において、「防音材が基板上に配置される」とは、防音材が基板の鉛直上方に配置されることのみを意味するわけではない。防音材を構成するシートが支持部に対して基板側に配置されるように防音材と基板とが配置されている限り、防音材は基板に対して任意の方向に配置されうる。例えば、防音材10が基板20の鉛直下方に配置されてもよい。
【0025】
このように格子状構造体100の有する中空セル100aのそれぞれによって区画される区画部の法線が基板20に対して垂直となるように防音材10は基板20上に配置されることで、2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能を発揮しうるとともに、曲面を有する基板に適用された場合であっても十分な防音性能を発現でき、しかも外力に対する強度の低下を抑制することが可能となる。さらに、曲面を有する基板に対して防音材が追従できない場合には当該基板の上部の空間にデッドスペースが発生することとなる。これに対し、本形態に係る防音構造体によれば、基板が有する曲面に対して防音材が追従できる結果、このようなデッドスペースの発生を防止することができ、スペース効率の向上にも寄与することができる。
【0026】
なお、上述したように、
図1に示す形態の防音構造体においては、格子状構造体の有する中空セルのそれぞれによって区画される区画部の法線が基板に対して垂直となるように、防音材が基板上に配置されている。ただし、本発明において、上記法線と基板との角度は垂直(90°)のみに限定されず、「略垂直」であればよい。「略垂直」とは、法線の垂直からのずれが15°以内であることを意味し、好ましくは12°以内であり、より好ましくは10°以内であり、さらに好ましくは7°以内であり、さらにより好ましくは5°以内であり、いっそう好ましくは2°以内であり、特に好ましくは1°以内であり、最も好ましくは0°(垂直)である。
【0027】
また、
図2および
図3に示すように、本実施形態に係る防音材10において、格子状構造体100を構成する中空セル100aの延在方向に垂直な断面(
図3の紙面)における中空セル100aの断面形状は長方形である。これにより、本実施形態に係る格子状構造体100は、シート状基材としてのラテックスゴムシート110を支持するとともに、ラテックスゴムシート110を複数の(
図2および
図3では多数の)区画部に区画している。そして、当該複数の区画部は、同一の外郭形状を有する当該複数の区画部が規則的に配列されてなる規則配列構造を構成している。
【0028】
上述したように、
図2および
図3に示すような構成を有する防音材は、非常に簡単な構成で優れた防音性能を実現することができる。特に、軽量かつ簡便な構成であるにもかかわらず2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能を発揮することができるという従来の技術では達成し得なかった特性を発現することができる。
【0029】
本発明者らは、上述した実施形態のような防音材がこのように優れた防音性能を示すメカニズムについて精力的に検討を進めた。その結果、車両等に従来適用されていた防音材とは異なるメカニズムが関与していることを突き止め、本発明を完成させるに至った。そして、最終的に見出されたメカニズムは、車両等に適用される防音材に関する従来の常識を覆すものであった。以下、本実施形態に係る防音材が優れた防音性能を発揮するメカニズムと、本発明者らによって解明された当該メカニズムに基づき完成された本願発明の構成について、順を追って説明する。
【0030】
まず、本発明に係る防音材の防音性能(@500Hz)を、従来公知の防音材における性能トレンドと対比する形で
図4に示す。
図4に示すように、従来公知の防音材では、構成材料の密度が大きくなるにつれて防音性能(透過損失)が向上するという性能トレンドが存在していた。このような従来公知の防音材における性能トレンドは「質量則」として知られているものである。この質量則に従う防音材における透過損失の理論値(TL)は、対象とする音波の周波数(f)および防音材の面密度(m;単位面積当たりの質量)を用いて、下記数式2に従って算出される。
【0031】
【0032】
このため、防音材の面密度を大きくすれば防音性能(透過損失(TL))を向上できるが、その一方で、防音性能を向上させるには防音材の面密度を大きくせざるを得ない、というのが質量則に基づく従来技術における常識であった(
図5)。言い換えれば、2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能を発揮する防音材を軽量の材料から構成することは不可能であると信じられていたのである。これに対し、本発明に係る防音材は、この性能トレンドから大きく外れるようにして優れた防音性能を示す(すなわち、低密度(軽量)でも相対的に高い防音性能を示す)ものである(
図6)。
【0033】
より詳細に説明すると、
図6に示すように、ハニカム構造を有する格子状構造体(支持部)のみでは防音性能はまったく発揮されない。また、一重壁からなる防音材の場合、弾性を有するシート(ゴム膜)のみでは質量則に従った防音性能(高周波数域では透過損失が増大するものの低周波数域では透過損失が低減する)が発揮されるに留まる。したがって、低周波数域(特に2000Hz以下の領域)での防音性能を発揮させるためには、例えば鉄板のように面密度が非常に大きい(つまり、重い)材料を用いる必要があった。これに対し、上述したような構成を有する本発明に係る防音材は、高周波数域においては質量則に沿った防音性能を発揮し、周波数の減少に伴って透過損失の値も減少する。一方、本発明に係る防音材は軽量であるにもかかわらず、ある周波数(共振周波数)を境に低周波数域(特に2000Hz以下の領域)側においても優れた防音性能を発揮することができる。
【0034】
このような低周波数域における防音性能の著しい向上は、質量則によっては説明することができない。そこで、本発明者らは、従来の技術からは説明のつかないこのような現象を説明するためのモデルとして、種々のパターンについて鋭意検討を行った。その過程で、本発明者らは、驚くべきことに、低周波数域における防音性能が、質量則とは異なる遮音原理である「剛性則」に従って発揮されていることを発見した。以下、この点について説明する。
【0035】
剛性則に従う防音材における透過損失の理論値(TL)は、対象とする音波の周波数(f)、防音材の面密度(m;単位面積当たりの質量)および防音材の面剛性(K)を用いて、下記数式3に従って算出される。なお、面剛性(K)は、支持部(格子状構造体)によって区画されたシートの区画部の1つを、質量mのマスを有し、音波の入射に対して振動するマスバネモデルに近似したときのバネ定数であり、Kが大きいほど入力に対する変形しにくさが大きいことに相当する。
【0036】
【0037】
そして、この式をTLが極小値をとる条件で周波数(f)について解くと、共振周波数(f
0)の値は、下記数式4のように表される(
図7)。
【0038】
【0039】
このことに基づき、本発明者らは、質量則(
図5)および剛性則(
図7)の双方が防音性能の発現に関与していると仮定した場合のモデル式の作成を試みた。そして、このモデル式が実際に測定された透過損失(TL)の結果と整合することを確認し、本形態に係る防音材による防音性能の発揮メカニズムには質量則および剛性則の双方が関与していることを検証するに至ったのである(
図8)。
【0040】
本形態に係る防音材による防音性能の発揮メカニズムにおいて、質量則のみならず剛性則も関与している理由については完全には明らかとはなっていないが、弾性を有するシートの区画部はそれぞれ、支持部(筒状セルを有する格子状構造体)によって区画されていることによりシートの剛性が向上している(すなわち、振動しにくくなっている)と考えられる。したがって、本発明者らは、上述したマスバネモデルによる近似によって、メカニズムがうまく説明されうるのではないかと推測している。
【0041】
以上のようなメカニズムを前提として、本発明者らは、防音材の防音特性の設計に必要な要素についてさらに検討を進めた。その過程で、本発明者らは、弾性を有するシートの区画部のそれぞれを面積が等しくなる半径aの円板で近似し、荷重pが入力されたときの当該区画部の面剛性(k;本明細書では、本近似に従う場合の面剛性の値を小文字のkで表すものとする)を、当該円板が周辺固定・等分布荷重モードで振動するときの平均たわみ(wave)を用いて下記数式5のように算出した。本明細書では、このkの値が数式1において用いられるのである。
【0042】
【0043】
なお、数式5において、νは区画部におけるシートのポアソン比であり、Eは区画部におけるシートのヤング率[Pa]であり、hは区画部におけるシートの膜厚[m]である。また、区画部を円板に近似した際の半径aは、区画部の面積等価円半径[m]である。一例として、区画部が1辺の長さがl(エル)の六角形である場合、当該区画部(六角形)の面積Shexは、下記数式6のように算出される。
【0044】
【0045】
そうすると、この区画部(六角形)の等価円半径aeq(区画部(六角形)の面積と等しい面積を有する円の半径)は、下記数式7のように算出される。
【0046】
【0047】
また、他の例として、区画部の形状が長方形であって当該長方形の辺の長さがpおよびqである場合、当該区画部(長方形)の面積Srecは、下記数式8のように算出される。
【0048】
【0049】
そうすると、この区画部(長方形)の等価塩半径aeq(区画部(長方形)の面積と等しい面積を有する円の半径)は、下記数式9のように算出される。
【0050】
【0051】
そして、このようにして算出された面剛性(k)の値を、上述した数式4における面剛性(K)の値として採用すると、共振周波数(f0)の値は、下記数式10のように表すことができる。
【0052】
【0053】
なお、区画部におけるシートの面密度(m)は、下記数式11のように表すことができる。
【0054】
【0055】
数式3において、ρは前記区画部におけるシートの密度[kg/m3]であり、hは前記区画部におけるシートの膜厚[m]である。
【0056】
このため、数式10と数式11とから、共振周波数(f0)の値は、区画部におけるシートの密度(ρ;単位体積当たりの質量;kg/m3)の値と、上述した区画部におけるシートの膜厚[m]の値を用いて、下記数式12のように表すことができる。このことは、区画部のサイズや形状、区画部におけるシートの材質および膜厚を種々変更することにより、防音材が示す共振周波数(f0)の値を制御可能であることを意味する。
【0057】
【0058】
上述したように、本発明が解決しようとする課題は、2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能を発揮しうる防音材を提供するというものである。そして、
図7および
図8に示すように、共振周波数(f
0)を境にして、周波数が小さくなるほど剛性則に従う防音性能(透過損失の値)は優れたものとなる。したがって、本発明者らは、共振周波数(f
0)をある程度以上の値に設定することで、2000Hz以下の周波数域の音に対する防音性能を向上させることができるのではないかと考えた。そして、この考えのもと、上述した数式10に従い、弾性を有するシートと、前記シートを支持するとともに前記シートを区画部に区画する支持部とを備える防音材において、区画部のサイズや形状、区画部におけるシートの材質および膜厚を種々変更することにより、異なる共振周波数(f
0)を有する防音材を多数作製し、そのそれぞれについて(特に2000Hz以下の周波数域における)防音性能を評価した。その結果、上記区画部におけるシートの面剛性(k;上記数式5により算出される)およびシートの面密度(m;上記数式9により算出される)が下記数式1の関係を満足することで、特に2000Hz以下の周波数域においても優れた防音性能を発揮しうることを確認した。下記数式1は、上述した近似に基づき算出される共振周波数(f
0)が900[Hz]よりも大きいことを意味している。
【0059】
【0060】
ここで、数式1における左辺の値の形態は特に制限されず、防音材に対して防音性能を発揮させたい周波数領域に応じて適宜設定することができる。一般に、数式1における左辺の値を大きくするほど共振周波数は高周波数側にシフトすることから、このことを考慮して適宜設定すればよい。一例として、数式1における左辺の値は、好ましくは1400Hz以上であり、より好ましくは2000Hz以上であり、さらに好ましくは3000Hz以上であり、いっそう好ましくは4000Hz以上であり、特に好ましくは5000Hz以上である。数式1における左辺の値は、例えば10000Hz以上であり、例えば50000Hz以上であり、例えば100000Hz以上である。なお、本発明に係る技術的思想の範囲内で防音性能を発揮する防音材において、数式1における左辺の値の上限値としては、好ましくは1000000Hz以下であり、より好ましくは800000Hz以下であり、さらに好ましくは600000Hz以下である。
【0061】
ところで、非特許文献1に開示された技術においては、セルサイズが大きすぎる結果、弾性を有するシートの面剛性が小さくなり、(k/m)1/2/2πの値が十分に大きくはならないため、特に2000Hz以下の周波数域において優れた防音性能を発揮することができないと考えられる。
【0062】
また、従来、複数のセルが並設されてなるコア層と、当該コア層の両面に配置されたスキン層とからなる樹脂構造体が種々の用途で提案されており、当該樹脂構造体に吸音性や遮音性を持たせることも試みられている。しかしながら、このような樹脂構造体に吸音性や遮音性を持たせることを意図している従来の技術は、コア層を構成するセルの内外を連通させる連通孔をスキン層に設けることを前提としている。そして、このようにスキン層に連通孔が設けられている場合もまた、やはり弾性を有するシートの面剛性を十分に確保することができない。その結果、(k/m)1/2/2πの値が十分に大きくはならないため、特に2000Hz以下の周波数域において優れた防音性能を発揮することはできない。一方、上記と同様の構造を有する樹脂構造体において、上述したような連通孔をスキン層に設けることを前提としていない技術も従来提案されているが、これらの技術は吸音や遮音、防音などに関するものではない。これらの技術の中には、例えば、曲げ剛性や曲げ強度といった機械的強度を向上させることを目的として、容器、棚、パレット、パネル等の剛性が求められる用途への適用を意図したものがある。さらに、同様の樹脂構造体を用いる別の提案では、スキン層に当該スキン層の弾性率を低下させるための耐衝撃性改良材を必須に含有させることとされていることから、当該スキン層は本願発明における「弾性を有するシート」には該当しない可能性が高い。また、同様の樹脂構造体を用いるさらに別の提案では、厚みが0.05~数mm程度の金属部材をスキン層として配置することとしており、やはり剛性が高い材料がスキン層に用いられている。このため、スキン層に連通孔を設けない樹脂構造体に関する従来技術においては、本願発明における面剛性の値が大きくなりすぎる結果、(k/m)1/2/2πの値が測定できない程度に大きい(高周波数側の)値になるものと考えられる。
【0063】
以下、防音材10の構成要素について、より詳細に説明する。
【0064】
(弾性を有するシート)
弾性を有するシート(
図1および
図2に示すラテックスゴムシート200に相当)の構成材料について特に制限はなく、弾性を有する材料であれば種々の材料が用いられうる。本明細書において、シートが「弾性を有する」とは、ヤング率の値が0.001~70[GPa]の範囲内の値である材料から構成されていることを意味する。なお、ヤング率の値は、樹脂についてはJIS K7161-1(2014年)により測定されうる。また、金属のヤング率についてはJIS Z2241(2011年)により測定されうる。そして、ゴムのヤング率についてはJIS Z6251(2010年)により測定されうる。弾性を有するシートの構成材料としては、上述した実施形態において用いられているラテックスゴムのほか、クロロプレンゴム(CR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)などのゴム材料が同様に用いられうる。また、樹脂材料や金属材料、紙材料などが弾性を有するシートとして用いられてもよい。さらに、エアークッションなどの緩衝機能を有する材料もまた、用いられうる。これらの材料はいずれも、ゴム材料も含め、本形態に係る防音材の効果を発現できる程度に高い弾性を有するものである。樹脂材料としては、ポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂等が例示される。また、熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、レゾルシン樹脂、アルキルレゾルシン樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型ポリエステル等が用いられうる。なお、これらの樹脂を生成するウレタン樹脂プレポリマー、尿素樹脂プレポリマー(初期縮合体)、フェノール樹脂プレポリマー(初期縮合体)、ジアリルフタレートプレポリマー、アクリルオリゴマー、多価イソシアナート、メタクリルエステルモノマー、ジアリルフタレートモノマー等のプレポリマー、オリゴマー、モノマー等の樹脂前駆体が用いられてもよい。金属材料としては、銅、アルミニウムなどが挙げられる。弾性を有するシートの構成材料は上記のものに限定されず、その他の材料が用いられてももちろんよい。なお、弾性を有するシートの構成材料としてはゴム材料が好ましく、なかでもラテックスゴムまたはEPDMゴムがより好ましい。これらのゴム材料を弾性を有するシートの構成材料として用いることで、本発明に係る防音体による防音効果が好適に発現しうる。また、これらのゴム材料は軽量であるという点で、特に車両用途への適用を考慮すると、低燃費化への寄与も大きいため、特に好ましい材料であると言える。さらに、低コスト化の観点からは、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂もまた、弾性を有するシートの構成材料として好ましいものである。
【0065】
弾性を有するシートの膜厚は、防音材の防音効果の観点から、好ましくは10~1000μmであり、より好ましくは100~500μmである。
【0066】
(支持部(格子状構造体))
支持部は、上述した弾性を有するシートを支持する機能を有する。この支持部は、上述した弾性を有するシートを(気密的に区画された)複数の区画部に区画する複数の中空セルから構成される。このような機能を発現可能な構成を有するものであれば、支持部の具体的な構成について特に制限はない。
【0067】
支持部の構成材料について特に制限はなく、上述した実施形態において用いられているポリプロピレン樹脂のほか、従来公知の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が用いられうる。また、金属材料やその他の材料が支持部の構成材料として用いられてもよい。これらの材料はいずれも、弾性を有するシートを保持してこれを区画部に区画するのに適した物性を有している。
【0068】
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン樹脂のほか、ポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなど)等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂等が例示される。また、熱硬化性樹脂としては、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、レゾルシン樹脂、アルキルレゾルシン樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型ポリエステル等が用いられうる。なお、これらの樹脂を生成するウレタン樹脂プレポリマー、尿素樹脂プレポリマー(初期縮合体)、フェノール樹脂プレポリマー(初期縮合体)、ジアリルフタレートプレポリマー、アクリルオリゴマー、多価イソシアナート、メタクリルエステルモノマー、ジアリルフタレートモノマー等のプレポリマー、オリゴマー、モノマー等の樹脂前駆体が用いられてもよい。なかでも、成形が容易であるという観点からは、熱可塑性樹脂が好ましく用いられ、特に塩化ビニル樹脂やポリオレフィン樹脂は軽量であって、かつ耐久性に優れ、安価であるという利点から、好ましい。
【0069】
上述したように、
図1~
図3に示す実施形態において、支持部は、連続的に(規則的に)配列された複数の中空セルを有する複数の格子状構造体から構成されている。そして、支持部を構成する当該複数の中空セルの少なくとも一部は、延在方向に垂直な断面形状が同一である当該中空セルが規則的に配列されてなる格子状構造体を構成していることが好ましい。このような構成とすることにより、製造が容易で、かつ同一形状の多数の区画部の存在によって所望の周波数域の音波に対する防音性能を特異的に発現させることができる。この際、防音性能をよりいっそう発揮させるという観点から、支持部の面積に占める上記格子状構造体の面積の割合は、好ましくは80~100%であり、より好ましくは90~100%であり、さらに好ましくは95~100%であり、いっそう好ましくは98~100%であり、特に好ましくは99~100%であり、最も好ましくは100%である。
【0070】
上述した格子状構造体における中空セルの断面形状(中空セルの延在方向に垂直な断面における中空セルの断面形状)は、
図2および
図3に示すような長方形に限定されず、その他の形状であってもよい。同一の断面形状を有する正多角形を連続的に形成することによって多数の筒状セルを配置するのであれば、断面形状としては長方形のほか、正四角形(正方形)、正三角形、正六角形が採用されうる。これらの形状を採用することで、製造が容易でかつ優れた強度を示す支持体が提供されうる。また、中空セルの断面形状は円形や楕円形であってもよい。なお、格子状構造体の断面を複数の正多角形が規則的に配置されたパターンとするのであれば、例えば、アルキメデスの平面充填法により、(正三角形4個,正六角形1個)、(正三角形3個,正四角形(正方形)2個)×2通り、(正三角形1個,正四角形(正方形)2個,正六角形1個)、(正三角形2個,正六角形2個)、(正三角形1個,正十二角形2個)、(正四角形(正方形)1個,正六角形1個,正十二角形1個)、(正四角形(正方形)1個,正八角形2個)のいずれかの組み合わせにより格子状構造体の断面が上記パターンを有するように構成することができる。
【0071】
格子状構造体を構成する中空セルのサイズについては、上述した数式1を満足するものであれば具体的な値について特に制限はない。また、中空セルの壁の厚さは、好ましくは10~150μmであり、より好ましくは30~100μmである。
【0072】
本形態においては、格子状構造体(支持部)の延在方向の高さが大きいほど、2000Hz以下の低周波数域の広い範囲にわたって特に優れた防音性能が発揮されうる傾向にある。このような観点から、格子状構造体(支持部)は高さが均一な構造体であることが好ましい。また、この場合において、格子状構造体の延在方向の高さは、好ましくは5mm以上であり、より好ましくは6mm以上であり、さらに好ましくは13mm以上であり、いっそう好ましくは19mm以上であり、特に好ましくは22mm以上であり、最も好ましくは25mm以上である。
【0073】
本形態に係る防音材は、上述したように、軽量であることが好ましい。この観点から、本形態に係る防音材の全体としての面密度は、好ましくは3.24kg/m2未満であり、より好ましくは2.0kg/m2以下であり、さらに好ましくは1.5kg/m2以下であり、特に好ましくは1.0kg/m2以下である。
【0074】
以上、
図1~
図3を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態に係る防音材の構成について説明したが、これらの実施形態のみには制限されず、適宜変更が加えられて実施されうる。例えば、
図9および
図10に示すように、複数の格子状構造体100の基板20とは反対側の開口断面(各図における上面)に前記複数の格子状構造体100を互いに連結するための連結部(ここでは伸縮性テープ30)が設けられてもよい。このような構成とすることで、防音材10を構成する複数の格子状構造体100が基板20とは反対側に向かうにつれて互いに離隔することによる防音材10の強度の低下を抑制することができる。
【0075】
また、
図1~
図3では、複数の中空セル100aが規則的に配列されて格子状構造体100を構成している場合を例に挙げて説明したが、複数の中空セル100aは必ずしも格子状構造体100を構成する必要はなく、他の中空セルから独立して存在するように弾性を有するシート上に配置されてもよい。このような形態としては、例えば、
図11Aに示すように、断面形状が円形である複数の中空セル100aがそれぞれ他の中空セル100aから独立存在するように配置される形態が挙げられる。
図11Bは、中空セル100aの断面形状を正方形とした例である。このような構成によっても、本形態に係る防音構造体の作用効果を同様に発現することができる。
【0076】
また、複数の中空セル100aが規則的に配列されて格子状構造体100を構成し、複数の格子状構造体100が互いに独立して存在するように弾性を有するシート上に配置される場合、互いに独立した複数の格子状構造体が配置されるパターンは
図2の形態のみに限られない。例えば、
図12Aに示すように矩形状の支持体の向かい合う辺の中点同士を結んだ線に沿って十字に分割されるように複数の格子状構造体をそれぞれ独立して配置する形態が例示される。また、
図12Aに示される互いに独立して存在するように配置された4つの格子状構造体を連結部(ここでは伸縮性テープ)を用いて連結した様子を
図12Bに示す。
【0077】
さらに、複数の中空セル100aが規則的に配列されて格子状構造体100を構成し、複数の格子状構造体100が互いに独立して存在するように弾性を有するシート上に配置される場合、当該格子状構造体100は、基板20とは反対側の開口断面に、中空セル100aの延在方向に沿った切り欠き部を有してもよい。例えば、
図13Aに示す防音材10は、
図2に示す防音材と同様の格子状構造体100を有するものであるが、当該格子状構造体100の基板20とは反対側の開口断面に、中空セル100aの延在方向に沿った切り欠き部100bが設けられている。このような切り欠き部30を設けることで、切り欠き部が開くように格子状構造体100が変形しやすくなる。その結果、切り欠き部が開くように格子状構造体100が変形するような曲面を有する基板20に防音材10が配置される場合によりいっそう追従しやすくなり、本発明の作用効果がより顕著に発現しうる。なお、切り欠き部を設けるパターンは
図13Aの形態のみに限られず、単一の格子状構造体からなる支持部に切り欠き部を設けることによって本発明に係る防音構造体の構成としてもよい。例えば、
図13Bに示すように矩形状の格子状構造体の対角線に沿って十字に切り欠き部を設けてもよいし、
図13Cに示すように矩形状の格子状構造体の向かい合う辺の中点同士を結んだ線に沿って十字に切り欠き部を設けてもよい。
【0078】
さらに、基板は開口部を有するものであってもよい。このような場合、防音材の基板への配置形態は特に制限されないが、防音材が基板の開口部を覆うように、当該開口部の周縁に沿うように弾性を有するシートを基板に固定することが好ましい。このような構成によれば、基板が開口部を有する場合であっても、開口部以外の部位に存在する曲面に対して防音材を確実に追従させることが可能となる。なお、この際には、固定手段としてゴムシート等の別の部材をシートと基板(開口部の周縁部)との間に配置してもよいが、開口部に対応する部位にはこのような別の部材は配置しないことが好ましい。また、基板が開口部を有さない場合であっても同様に、弾性を有するシートと基板との間にゴムシートなどの固定手段が配置されてももちろんよい。
【0079】
本形態に係る防音材は、基板上に配置されて防音構造体を構成することで、種々の音源由来の騒音を遮蔽する用途に好適に用いられうる。
【0080】
防音構造体を構成する基板としては、基本的に通気性のない金属板(鉄板、アルミニウム板など)や樹脂板などが用いられうる。基板の厚さは、金属板の場合には0.5~2.0mmの範囲が好ましく、樹脂板の場合には0.5~20mmの範囲が好ましい。
【0081】
本形態に係る防音構造体を構成する基板は、曲面を有するものである。この「曲面」とは、平坦面以外の任意の面形状を意味するが、好ましくは防音材が配置される側に対して突出している(凸である)曲面である。
【0082】
基板が有する曲面の曲率半径や曲げ深さの大きさについて特に制限はなく、防音材が適用される部位の形状に応じて任意の値が採用される。屈曲面を有する基板は、その曲面にひねり構造を有してもよい。ここでいう「ひねり」とは、曲面における曲率半径が一定でなかったり、開き角が一定でなかったりすることにより得られる形状を意味する。また、曲面を有する基板は曲面以外の部位に平坦面を有してもよい。
【0083】
本形態に係る防音材およびこれを用いた防音構造体は非常に軽量に構成することが可能である。本形態に係る防音材および防音構造体は、このように軽量化が可能であることから、車両に搭載されて用いられることが好ましい。特に、エンジンやトランスミッション、駆動系のような大きな音を発生する部分(固有音源)から発生する騒音に対する防音用途に適用されることが最も好ましい。適用部位の一例として、エンジンコンパートメントにおいては、エンジンヘッドカバー、エンジンボディカバー、フードインシュレーター、ダッシュ前インシュレーター、エアボックスの隔壁、エアインテークのエアクリーナー、ダストサイドダクト、アンダーカバーなどに適用可能である。また、キャビンにおいては、ダッシュインシュレーター、ダッシュパネル、フロアのカーペット、スペーサー、ドアのドアトリム、ドアトリム内の防音材、コンパートメント内の防音材、インストパネル、インストセンターボックス、インストアッパーボックス、エアコンの筐体、ルーフのトリム、ルーフトリム内の防音材、サンバイザー、後席向けエアコンダクト、電池搭載車両における電池冷却システムの冷却ダクト、冷却ファン、センターコンソールのトリム、コンソール内の防音材、パーセルトリム、パーセルパネル、シートのヘッドレスト、フロントシートのシートバック、リアシートのシートバックなどに適用可能である。さらに、トランクにおいては、トランクフロアのトリム、トランクボード、トランクサイドのトリム、トリム内の防音材、ドラフターカバーなどに適用可能である。また、車両の骨格内やパネル間にも適用することができ、例えば、ピラーのトリム、フェンダーに適用可能である。さらには、車外の各部材、例えば、フロア下のアンダーカバー、フェンダープロテクター、バックドア、ホイールカバー、サスペンションの空力カバーなどにも適用可能である。したがって、防音構造体を構成する基板としては、上述した各種の適用部位の構成材料としての金属板や樹脂板等をそのまま用いることができる。
【0084】
なお、本形態に係る防音構造体を音源に対して配置する際の配置形態について特に制限はない。本形態に係る防音構造体を音源に対して配置する際には、格子状構造体(支持部)を構成する中空セルの延在方向に音源が位置するように配置することが好ましい。また、このように配置する際には、防音材を構成する弾性を有するシートが音源側に位置するように配置してもよいし、防音材を構成する筒状セルの開口部が音源側に位置するように配置してもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0086】
《防音構造体の防音性能の評価》
後述する実施例および比較例で作製した防音構造体について、各周波数の音波に対する防音性能を測定した。具体的には、
図14に示すような、開口部の周囲に曲面状の囲いを有する鉄壺からなる遮音ボックスを用意し、この曲面を有する囲いを基板に見立てて、実施例および比較例の防音材の性能を評価した。具体的には、上記で用意した遮音ボックスの内部にスピーカー(音源)を配置し、遮音ボックスの開口部にサンプル(防音材)を配置した。また、遮音ボックスの開口部におけるサンプル(防音材)の周囲からの音漏れを防止するために、サンプル(防音材)の周囲にゴムシートを配置した。そして、遮音ボックスの内部に設置したスピーカー(音源)から音を発生させて、サンプル(防音材)を配置しない場合(コントロール)に対する挿入損失[単位:dB]を測定することにより、防音性能を評価した。ある周波数における挿入損失の値が大きいほど、当該周波数の音波に対する防音性能に優れることを意味する。なお、音源の発生条件は以下のとおりとした:
スペクトルレベル:ホワイトノイズ(100~8192Hz)
F
max:8192Hz
平均値:300回の加算平均(1回の測定において時間を少しずつずらしながら300回の測定を行い、その加算平均を測定値とした)
オーバーラップ:75%。
【0087】
《防音材の作製》
[比較例]
弾性を有するシート(ラテックスゴムからなるシート;膜厚0.25mm)と、ポリ塩化ビニル(PVC)からなる略正方形状のハニカム構造体(多数の正六角形断面を有するハニカム支持体)(支持体厚さ25mm)とを準備した。ここで、ハニカム構造体を構成する中空セルのサイズ(ハニカム構造体の断面形状の正六角形における対向する平行な辺の距離)を4mmとした。次いで、上記シートの一方の面に、上記ハニカム構造体の開口断面を気密的に接着して、平板状の構造を有する本比較例の防音材を作製した。
【0088】
このようにして得られた防音材について、全体の面密度は1.88kg/m
2、支持体の面密度は1.64kg/m
2、シートの面密度mは0.24kg/m
2、シートの面剛性kは82474N/mm、(k/m)
1/2/2πの値は2935Hzであった。この防音材の防音性能の評価を行った様子を撮影した写真を
図15Aに示す。
図15Aに示すように、本比較例の防音材を配置した場合には、基板に見立てた曲面を有する囲いと、中空セルによって区画される区画部の法線とが略垂直とはならない部位が発生した。
【0089】
ここで、本比較例について、防音性能を評価して得られた挿入損失の結果を
図15Bに示す。なお、
図15Bに示す結果において、直線のグラフは本比較例の防音材が質量則に従うと仮定した場合に想定される挿入損失のグラフを示す(以下同様)。
【0090】
[実施例1]
図2に示すような格子状構造体を押出成形を利用することにより作製した。より詳細には、略正方形状(サイズは約1cm角)の中空セルが40個配列した格子状構造体をポリプロピレンの押出成形により作製し、格子状構造体の高さに対応する長さにカットした。次いで、カットされた複数の格子状構造体を、中空セルが規則的に配列するように16個積層し、すべての積層面を接着剤を用いて接着することにより格子状構造体を作製した。同じ格子状構造体を2つ作製し、弾性を有するシート(ラテックスゴムからなるシート;膜厚0.25mm)の一方の面に並べて配置し、格子状構造体の開口断面を気密的に接着して、本実施例の防音材を作製した。このようにして得られた防音材について、全体の面密度は4.99kg/m
2、支持体の面密度は4.75kg/m
2、シートの面密度mは0.24kg/m
2、シートの面剛性kは42248N/mm、(k/m)
1/2/2πの値は2101Hzであった。この防音材の防音性能の評価を行った様子を撮影した写真を
図16Aに示す。
図16Aに示すように、本実施例の防音材を配置した場合には、基板に見立てた曲面を有する囲いと、中空セルによって区画される区画部の法線とが、すべての部位において略垂直となった。
【0091】
ここで、本実施例について、防音性能を評価して得られた挿入損失の結果を
図16Bに示す。
【0092】
[実施例2]
上述した比較例の防音材において、支持部に
図13Bに示すようなX字の切り欠き部を形成したこと以外は、上記比較例と同様の手法により、本実施例の防音材を作製した。なお、切り欠き部の深さは、支持体の厚みの80%とした。このようにして得られた防音材について、全体の面密度は1.88kg/m
2、支持体の面密度は1.64kg/m
2、シートの面密度mは0.24kg/m
2、シートの面剛性kは82474N/mm、(k/m)
1/2/2πの値は2935Hzであった。本実施例について、防音性能を評価して得られた挿入損失の結果を
図17に示す。
【0093】
[実施例3]
上述した比較例の防音材において、支持部に
図13Cに示すような十字の切り欠き部を形成したこと以外は、上記比較例と同様の手法により、本実施例の防音材を作製した。なお、切り欠き部の深さは、支持体の厚みの80%とした。このようにして得られた防音材について、全体の面密度は1.88kg/m
2、支持体の面密度は1.64kg/m
2、シートの面密度mは0.24kg/m
2、シートの面剛性kは82474N/mm、(k/m)
1/2/2πの値は2935Hzであった。本実施例について、防音性能を評価して得られた挿入損失の結果を
図18に示す。
【0094】
[実施例4]
上述した比較例の防音材において、支持部を
図12Aに示すような4つの格子状構造体に分割し、これらが互いに独立して存在するようにシート上に配置したこと以外は、上記比較例と同様の手法により、本実施例の防音材を作製した。このようにして得られた防音材について、全体の面密度は1.88kg/m
2、支持体の面密度は1.64kg/m
2、シートの面密度mは0.24kg/m
2、シートの面剛性kは82474N/mm、(k/m)
1/2/2πの値は2935Hzであった。本実施例について、防音性能を評価して得られた挿入損失の結果を
図19に示す。
【0095】
[実施例5]
上述した実施例4の防音材において、互いに独立して存在する格子状構造体の隣接部を連結部としての金属箔テープを用いて連結したこと以外は、上記実施例4と同様の手法により、本実施例の防音材を作製した。このようにして得られた防音材について、全体の面密度は1.88kg/m
2、支持体の面密度は1.64kg/m
2、シートの面密度mは0.24kg/m
2、シートの面剛性kは82474N/mm、(k/m)
1/2/2πの値は2935Hzであった。本実施例について、防音性能を評価して得られた挿入損失の結果を
図20に示す。
【0096】
[実施例6]
上述した実施例4の防音材において、互いに独立して存在する格子状構造体の隣接部を連結部としての伸縮性テープ(カプトンテープ)を用いて連結したこと以外は、上記実施例4と同様の手法により、本実施例の防音材を作製した。このようにして得られた防音材について、全体の面密度は1.88kg/m
2、支持体の面密度は1.64kg/m
2、シートの面密度mは0.24kg/m
2、シートの面剛性kは82474N/mm、(k/m)
1/2/2πの値は2935Hzであった。本実施例について、防音性能を評価して得られた挿入損失の結果を
図21に示す。
【0097】
上述した挿入損失のグラフの結果からわかるように、各実施例の防音材は比較例の防音材と比較して、2000Hz以下(特に、1000Hz以下)の周波数域の広い範囲にわたって高い挿入損失の値を示した。したがって、本発明の実施例に係る防音構造体によれば、曲面を有する基板に適用された場合であっても、2000Hz以下の周波数域の広い範囲にわたって高い防音性能を発現可能であることがわかる。また、外力に対する強度の低下を抑制することも期待できる。
【符号の説明】
【0098】
1 防音構造体、
10 防音材、
20 基板、
30 伸縮性テープ(連結部)
100 格子状構造体(支持部)、
100a 中空セル、
100b 切り欠き部、
110 ラテックスゴムシート(弾性を有するシート)、
h 中空セルによって区画される区画部の法線。