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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】インクカセットおよびプリンタ
(51)【国際特許分類】
   B41J 35/28 20060101AFI20240109BHJP
   B41J 2/325 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B41J35/28
B41J2/325 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020015531
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021122957
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昌也
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-051515(JP,A)
【文献】特開2010-253846(JP,A)
【文献】特開2007-229937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 31/00 - 35/38
B41J 2/315 - 2/345
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが塗布された長尺のインクシートが巻き回された供給軸と、前記供給軸から引き出されたインクシートを巻き取る巻取軸とを収納し、前記供給軸から引き出されたインクシートとプリントシートを重ね合わせてプリントヘッドに圧接した状態でインクをプリントシートに転写するプリンタに装着可能であるインクカセットであって、
前記プリンタは、前記プリントヘッドと、前記プリントヘッドの圧接力を受ける受け部材と、前記インクシートと前記プリントシートを介して前記プリントヘッドを前記受け部材に圧接または離間させる昇降機構と、前記受け部材および前記昇降機構を支持する支持部材と、を有し、
前記インクカセットは、前記支持部材に設けられた開口を介して前記プリンタに挿抜可能であり、前記インクカセットの装着方向の手前側の端部にはプレート部材が設けられ、
前記プレート部材には、前記インクカセットを前記プリンタに装着した状態で、前記プリンタの前記支持部材に設けられた被係合部と係合する係合部がつ以上設けられており、
前記プリンタの前記支持部材に設けられた前記被係合部は、前記開口を挟んで前記受け部材と対向する側の前記インクシートの搬送方向に沿った位置に設けられた第1の被係合部および第2の被係合部と、前記第2の被係合部と前記開口を挟んで対向する位置に設けられた第3の被係合部とを含み、
前記プレート部材に設けられた前記係合部は、前記インクカセットを前記プリンタに装着した状態で、前記プリンタの前記第1の被係合部、前記第2の被係合部、前記第3の被係合部とそれぞれ係合する、第1の係合部、第2の係合部、第3の係合部を含み、
前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部は、前記プリンタの装着方向と略直交方向への位置の変位を規制する位置決め機能を有し、
前記プリンタの前記第2の被係合部と前記インクカセットの前記第2の係合部は、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部に作用する力のモーメントを打ち消す規制部として機能し、
前記プリンタの前記第1の被係合部と前インクカセットの前記第1の係合部の係合、前記プリンタの前記第2の被係合部と前記インクカセットの前記第2の係合部の係合、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部の係合により、前記支持部材の変形を規制することを特徴とするインクカセット。
【請求項2】
前記インクカセットの前記第1の係合部と前記第2の係合部が係合する、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記第2の被係合部は、前記プリントヘッドを挟んで搬送方向の上流側と下流側の位置に配置されていることを特徴とする請求項に記載のインクカセット。
【請求項3】
前記インクカセットの前記第1の係合部と前記第2の係合部は、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記第2の被係合部である穴に嵌合する軸であり、
前記インクカセットの前記第3の係合部は、前記プリンタの前記第3の係合部である軸が嵌合する穴であることを特徴とする請求項またはに記載のインクカセット。
【請求項4】
前記インクカセットの前記の係合部の軸径は、前記プリンタの前記の被係合部の穴径よりも大きく、前記プリンタの前記第3の係合部の軸径は、前記インクカセットの前記第3の係合部の穴径よりも大きいことを特徴とする請求項に記載のインクカセット。
【請求項5】
前記プリンタの前記の被係合部の穴径は前記インクカセットの前記の係合部の軸径よりも大きく、前記圧接力による前記支持部材の変形を許容し、前記支持部材の変形に起因する前記圧接力の低下が所定の範囲に収まるような嵌め合いとされることを特徴とする請求項またはに記載のインクカセット。
【請求項6】
前記インクカセットは、前記供給軸を支持する供給側収納部と、前記巻取軸を支持する巻取側収納部と、を有し、
前記プレート部材は、前記供給側収納部と前記巻取側収納部における前記装着方向の手前側を連結する部材であり、
前記第1の係合部、前記第2の係合部、前記第3の係合部は、前記プレート部材の同一面に設けられていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のインクカセット。
【請求項7】
インクが塗布されたインクシートが巻き回された供給軸と、前記供給軸から引き出されたインクシートを巻き取る巻取軸とを収納するインクカセットが装着可能であり、前記供給軸から引き出されたインクシートとプリントシートを重ね合わせて圧接した状態で搬送しながらプリントヘッドによりインクをプリントシートに転写するプリンタであって、
前記プリントヘッドと、前記プリントヘッドの圧接力を受ける受け部材と、前記インクシートと前記プリントシートを介して前記プリントヘッドを前記受け部材に圧接または離間させる昇降機構と、前記受け部材および前記昇降機構を支持する支持部材と、を有し、
前記支持部材には、前記インクカセットを挿抜可能な開口が設けられており、
前記支持部材における前記開口が設けられた側面には、前記インクカセットを装着した状態で、前記インクカセットに設けられた係合部と係合する3つ以上の被係合部が設けられており、
前記支持部材に設けられた前記被係合部は、前記開口を挟んで前記受け部材と対向する側の前記インクシートの搬送方向に沿った位置に設けられた第1の被係合部および第2の被係合部と、前記第2の被係合部と前記開口を挟んで対向する位置に設けられた第3の被係合部とを含み、
前記インクカセットに設けられた前記係合部は、前記インクカセットを前記プリンタに装着した状態で、前記プリンタの前記第1の被係合部、前記第2の被係合部、前記第3の被係合部とそれぞれ係合する、第1の係合部、第2の係合部、第3の係合部を含み、
前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部は、前記プリンタの装着方向と略直交方向への位置の変位を規制する位置決め機能を有し、
前記プリンタの前記第2の被係合部と前記インクカセットの前記第2の係合部は、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部に作用する力のモーメントを打ち消す規制部として機能し、
前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部の係合、前記プリンタの前記第2の被係合部と前記インクカセットの前記第2の係合部の係合、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部の係合により、前記支持部材の変形を規制することを特徴とするプリンタ。
【請求項8】
前記プリンタの前記第1の被係合部と前記第2の被係合部は、前記プリントヘッドを挟んで搬送方向の上流側と下流側の位置に配置されていることを特徴とする請求項に記載のプリンタ。
【請求項9】
前記プリンタの前記第1の被係合部および前記第2の被係合部は、前記インクカセットの前記第1の係合部および前記第2の係合部が嵌合する穴であり、
前記プリンタの前記第3の係合部は、前記インクカセットの前記第3の係合部である穴に嵌合する軸であることを特徴とする請求項またはに記載のプリンタ。
【請求項10】
前記インクカセットの前記の係合部の軸径は、前記プリンタの前記の被係合部の穴径よりも大きく、前記プリンタの前記第3の係合部の軸径は、前記インクカセットの前記第3の係合部の穴径よりも大きいことを特徴とする請求項に記載のプリンタ。
【請求項11】
前記プリンタの前記の被係合部の穴径は前記インクカセットの前記の係合部の軸径よりも大きく、前記圧接力による前記支持部材の変形を許容し、前記支持部材の変形に起因する前記圧接力の低下が所定の範囲に収まるような嵌め合いとされることを特徴とする請求項または10に記載のプリンタ。
【請求項12】
前記インクカセットは、前記供給軸を支持する供給側収納部と、前記巻取軸を支持する巻取側収納部と、前記インクカセットの装着方向の手前側の端部に設けられたプレート部材と、を有し、
前記プレート部材は、前記供給側収納部と前記巻取側収納部における前記インクカセットの装着方向の手前側を連結することを特徴とする請求項から11のいずれか1項に記載のプリンタ。
【請求項13】
前記プリンタは、昇華型のインクシートと、サーマルヘッドを備えるサーマルプリンタであることを特徴とする請求項から12のいずれか1項に記載のプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクカセットおよびプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラやスマートフォンなどの撮像装置により撮影した画像データを簡単に写真プリントできる印刷装置が普及している。これらの印刷装置の1つにサーマルヘッドを用いたサーマルプリンタがある。サーマルプリンタは、インクカセットがサーマルヘッドの長手方向に沿って装着されるため、シャシーの一側壁部に大きな開口が形成される。一方、シャシーの両側壁部にはサーマルヘッドを昇降可能に支持するヘッド軸支部が設けられている。サーマルヘッドは、シャシーに回転自在に支持されたプラテンと圧接し印画を行うため、ヘッド軸支部には大きな反力が加わる。そして、シャシーには大きな開口が設けられるため、著しい強度の低下が生じる。このため、印画時のサーマルヘッドの圧接の反力によりシャシーが変形し、所望の圧接力をサーマルヘッドに加えられず、印画品質の低下を招くおそれがある。
【0003】
特許文献1には、プリンタの内部に発生する力によるインクカセットの変形を防止し、印画品質の低下を防ぐ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-229937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、プリンタ本体に設けられた開口による強度低下を補うことはできず、印画品質の低下を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、その目的は、プリンタ本体の強度低下を補い、印画品質の低下を低減するインクカセットおよびプリンタを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、インクが塗布された長尺のインクシートが巻き回された供給軸と、前記供給軸から引き出されたインクシートを巻き取る巻取軸とを収納し、前記供給軸から引き出されたインクシートとプリントシートを重ね合わせてプリントヘッドに圧接した状態でインクをプリントシートに転写するプリンタに装着可能であるインクカセットであって、前記プリンタは、前記プリントヘッドと、前記プリントヘッドの圧接力を受ける受け部材と、前記インクシートと前記プリントシートを介して前記プリントヘッドを前記受け部材に圧接または離間させる昇降機構と、前記受け部材および前記昇降機構を支持する支持部材と、を有し、前記インクカセットは、前記支持部材に設けられた開口を介して前記プリンタに挿抜可能であり、前記インクカセットの装着方向の手前側の端部にはプレート部材が設けられ、前記プレート部材には、前記インクカセットを前記プリンタに装着した状態で、前記プリンタの前記支持部材に設けられた被係合部と係合する係合部がつ以上設けられており、前記プリンタの前記支持部材に設けられた前記被係合部は、前記開口を挟んで前記受け部材と対向する側の前記インクシートの搬送方向に沿った位置に設けられた第1の被係合部および第2の被係合部と、前記第2の被係合部と前記開口を挟んで対向する位置に設けられた第3の被係合部とを含み、前記プレート部材に設けられた前記係合部は、前記インクカセットを前記プリンタに装着した状態で、前記プリンタの前記第1の被係合部、前記第2の被係合部、前記第3の被係合部とそれぞれ係合する、第1の係合部、第2の係合部、第3の係合部を含み、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部は、前記プリンタの装着方向と略直交方向への位置の変位を規制する位置決め機能を有し、前記プリンタの前記第2の被係合部と前記インクカセットの前記第2の係合部は、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部に作用する力のモーメントを打ち消す規制部として機能し、前記プリンタの前記第1の被係合部と前インクカセットの前記第1の係合部の係合、前記プリンタの前記第2の被係合部と前記インクカセットの前記第2の係合部の係合、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部の係合により、前記支持部材の変形を規制する
【0008】
また、本発明は、インクが塗布されたインクシートが巻き回された供給軸と、前記供給軸から引き出されたインクシートを巻き取る巻取軸とを収納するインクカセットが装着可能であり、前記供給軸から引き出されたインクシートとプリントシートを重ね合わせて圧接した状態で搬送しながらプリントヘッドによりインクをプリントシートに転写するプリンタであって、前記プリントヘッドと、前記プリントヘッドの圧接力を受ける受け部材と、前記インクシートと前記プリントシートを介して前記プリントヘッドを前記受け部材に圧接または離間させる昇降機構と、前記受け部材および前記昇降機構を支持する支持部材と、を有し、前記支持部材には、前記インクカセットを挿抜可能な開口が設けられており、前記支持部材における前記開口が設けられた側面には、前記インクカセットを装着した状態で、前記インクカセットに設けられた係合部と係合する3つ以上の被係合部が設けられており、前記支持部材に設けられた前記被係合部は、前記開口を挟んで前記受け部材と対向する側の前記インクシートの搬送方向に沿った位置に設けられた第1の被係合部および第2の被係合部と、前記第2の被係合部と前記開口を挟んで対向する位置に設けられた第3の被係合部とを含み、前記インクカセットに設けられた前記係合部は、前記インクカセットを前記プリンタに装着した状態で、前記プリンタの前記第1の被係合部、前記第2の被係合部、前記第3の被係合部とそれぞれ係合する、第1の係合部、第2の係合部、第3の係合部を含み、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部は、前記プリンタの装着方向と略直交方向への位置の変位を規制する位置決め機能を有し、前記プリンタの前記第2の被係合部と前記インクカセットの前記第2の係合部は、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部に作用する力のモーメントを打ち消す規制部として機能し、前記プリンタの前記第1の被係合部と前記インクカセットの前記第1の係合部の係合、前記プリンタの前記第2の被係合部と前記インクカセットの前記第2の係合部の係合、および、前記プリンタの前記第3の被係合部と前記インクカセットの前記第3の係合部の係合により、前記支持部材の変形を規制する
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プリンタ本体の強度低下を補い、印画品質の低下を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態のプリンタおよびインクカセットの外観構成を示す斜視図。
図2】本実施形態のインクリボンの展開図。
図3】本実施形態のプリンタの印刷時の動作を説明する側断面図。
図4】本実施形態のプリンタの印刷時の処理手順を示すフローチャート。
図5】本実施形態のインクカセットの斜視図。
図6】本実施形態のプリンタの要部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
以下では、本発明を、熱転写または昇華型のサーマルプリンタに適用した例を説明するが、本発明はサーマルプリンタやインクカセットに限らず、他の形式のプリンタやインクカセットにも適用可能である。
【0013】
また、本発明はプリンタ単体に限らず、印刷機能を有する装置であれば、例えば複写機やファクシミリ、コンピュータシステム等に適用可能である。また、本発明の記録用紙は、紙の材質だけでなく、プラスチックフィルム等の他の材質からなるシート材をも含むものである。
【0014】
サーマルプリンタは、インクが塗布されたインクリボン(インクシート)と記録用紙をサーマルヘッド(プリントヘッド)およびプラテンローラ(受け部材)により圧接し、サーマルヘッドに接した状態でインクリボンおよび記録用紙(プリントシート)を搬送し印刷が行われる。サーマルヘッドには、ライン状に複数の発熱素子(抵抗素子)が配列され、これらの発熱素子に選択的に通電することにより、インクリボンに塗布されているインクを記録用紙に転写し、記録用紙に印画が行われる。特に、フルカラー印刷を行う場合は、インクリボンに順に塗布されたイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色インクを順に重ねてフルカラーの画像を形成し、画像上にオーバーコート(OP)を転写することも行われている。
【0015】
以下の説明において、「印刷」とは、ユーザからの印刷指示に基づいて印画を行い、印画された記録用紙を排出するまでの一連の全体動作を指すものとする。また、「印画」とは、印刷動作のうち、記録用紙に対してインクリボンに塗布されたインクを熱転写することにより画像を記録用紙に形成する動作を指すものとする。なお、モノクロ印刷の場合は、記録用紙はロール状であって、印画後に所定のサイズに切断されて排出されるものでもよい。
【0016】
<装置構成>図1を参照して、本実施形態のサーマルプリンタの概略構成について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態のプリンタ100およびインクカセット300の外観構成を示す斜視図であり、(a)は、上方から見た斜視図、図1(b)は、下方から見た斜視図である。
【0018】
プリンタ100は、プリンタ本体の上側および下側を覆う外装部材である本体ケース150を備える。本体ケース150の一側面には、カセットカバー110が開閉可能に設けられている。カセットカバー110は、シャシー120に設けられた開口であるカセット装着部130を開閉可能である。インクカセット300は、カセット装着部130を介してプリンタ100に対して挿抜可能である。インクカセット300は、カセットカバー110を開いた状態でシャシー120のカセット装着部130からプリンタ100の内部に矢印140の方向に装着可能であると共に、矢印140の方向とは反対方向にプリンタ100の外部に抜き出すことが可能である。インクカセット300には、長尺のインクリボンが収納されており、印画時に記録用紙320と共に搬送される。インクカセット300の詳細は後述する。
【0019】
本体ケース150の上面には、表示部160および操作部170を含むUI(User Interface)部180が設けられている。表示部160は、LEDなどの複数の発光素子を備え、プリンタ100の動作状態を発光色、点灯、点滅などで表示する。操作部170は、プリンタ100の電源のオン/オフなどの操作指示を受け付ける。電源オン状態で、ホスト機器から所望の画像が選択された印刷指示を受信すると、プリンタ100は印刷指示に従い印刷を開始する。
【0020】
また、本体ケース150の一側面には外部接続端子190が設けられ、USBケーブルなどによりACアダプタと接続して本体ケース150の内部に配置されたバッテリを充電したり、デジタルカメラやスマ-トフォンなどの外部機器と接続可能となっている。プリンタ100は、外部接続端子190により接続されたホスト機器から画像データを受信し、印刷を行うことが可能である。
【0021】
また、本体ケース150の底面には、トレイカバー200が開閉可能に設けられ、トレイカバー200を開いた状態にすることで、用紙収納部201に規定の枚数の記録用紙320が装填可能となっている。用紙収納部201には、規定のサイズの記録用紙320がユーザによりセットされ、印刷時には、プリンタ100の不図示の給紙機構により、用紙収納部201から1枚だけ引き出される。記録用紙320には、図2で後述するインクリボン310に塗布されたイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色インクおよびオーバーコート(OP)がサーマルヘッド330により転写され、フルカラーの印画が行われる。
【0022】
次に、図2を参照して、インクリボン310の構成について説明する。図2は、本実施形態のインクリボン310の展開図である。
【0023】
フルカラー印刷の場合、インクリボン310には、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色インクが配列される。そして、記録用紙320に各インク色を重ねて印画を行うことによりフルカラーの画像を形成し、さらに画像上にオーバーコート(OP)面が形成される。各色インクの間には各色インクの先頭位置を検出するための黒帯状のマーカー311が配置されており、イエロー(Y)面の先頭を示すマーカーは他の色と区別するためマーカーが2本配置されている。本実施形態のインクリボンは、厚さ2~10数ミクロン程度のポリエチレンテフタレートフィルム等耐熱性の高いフィルムを基材としている。イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色インクはフィルム上に染料とバインダー、可塑剤、粘結剤等を混合して作製された昇華性インクを0.2~5μm程度の厚さに塗布される。無色透明のオーバーコート面はスチロース誘導体、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、バインダー等を0.5~5μm程度の厚さに塗布して形成されている。また、インクが塗布された面の反対側の面には、サーマルヘッドとの摩擦抵抗を小さくしインクリボンの走行を安定化させるための潤滑材や、サーマルヘッド表面を研磨清掃するための研磨剤などが塗布されている。
【0024】
次に、図3および図4を参照して、本実施形態のプリンタ100の印刷時の動作手順について説明する。
【0025】
図3は、本実施形態のプリンタ100の印刷時の動作を説明する側断面図であり、(a)は待機状態、(b)は給紙状態、(c)は頭出し状態、(d)は印画中の状態、(e)は(d)の要部を示す断面をそれぞれ示している。図4は、本実施形態のプリンタ100の印刷時の動作手順を示すフローチャートである。
【0026】
ユーザによりインクカセット300がプリンタ100にセットされ、記録用紙320が用紙収納部201に収納され、操作部170により電源がオンされると、プリンタ100が待機状態となる。待機状態において、ホスト機器から画像データの受信を開始すると、表示部160のLEDが点滅し、データ読み込み状態を通知する。プリンタ100はサーマルヘッド330およびプラテンローラ340を有する。サーマルヘッド330はヘッドアーム331がヘッド支持軸332に回動可能に支持され、ヘッドアップばね333により図中時計回り方向に付勢される。サーマルヘッド330は、インクカセット300の装着時に干渉しないように、プラテンローラ340との距離が最大限広くなる位置に規制されている。
【0027】
次に、ホスト機器から画像データの受信が完了し、表示部160のLEDが点滅から点灯に変わると、プリンタ100は印刷動作を開始する(S101)。印刷動作を開始すると、プリンタ100は、サーマルヘッド330を不図示の駆動機構によりヘッドアップばね333の付勢力に抗してヘッド支持軸332を中心に図中反時計回りに回動させる。サーマルヘッド330は、図3(b)に示すように、図3(a)の待機位置とプラテンローラ340とニップする印刷位置との中間の位置へ移動する(S102)。サーマルヘッド330の移動が完了すると、プリンタ100は給紙動作を開始する(S103)。給紙動作を開始する際に、プリンタ100に備えられた加圧板370は、不図示の付勢手段により加圧板回動軸371を中心に図中時計回りに回動し、用紙収納部201に積載された記録用紙320を押し上げ給紙ローラ380へ押し付ける。給紙ローラ380は不図示の用紙搬送モータの駆動力により図中時計方向へ回転し、記録用紙320をサーマルヘッド330とプラテンローラ340を含む印画部に向けて搬送する。記録用紙320はプリンタ100の分離部381に当接し、最上部に積載された1枚の記録用紙320だけが搬送される。搬送された記録用紙320は不図示の用紙検出センサに検出され、給紙動作不良のないことが確認される。
【0028】
給紙動作不良のないことが確認されると、用紙収納部201の次の記録用紙320が誤って搬送されないように、加圧板370が不図示の付勢手段により図3(a)に示す待機状態の位置へ回動する。引き続き、給紙ローラ380により搬送された記録用紙320は、切替板回動軸383により回動可能に支持された切替板382を上方に押すことにより図中時計方向へ回動させ、搬送ローラ350と搬送従動ローラ360の間のニップ部へ突入する。搬送ローラ350には記録用紙320の裏面に突き当たる微小な突起が複数形成されており、記録用紙320に当接して正確に搬送することが可能となっている。搬送ローラ350は不図示のステッピングモータにより駆動され、正確な送り量の制御が可能となっている。記録用紙320は、搬送ローラ350および搬送従動ローラ360により搬送が継続され、記録用紙320の後端部が切替板382を通過した後、逆方向へ所定量戻すように搬送され、印画開始位置で停止する(S104)。給紙動作が完了し、記録用紙320が印画開始位置で停止すると、インクリボン310のイエロー(Y)の頭出し動作が行われる(S105)。以下、リボン頭出し動作を説明する。図3(c)に示す印画開始位置まで記録用紙320の搬送が完了すると、インクカセット300に収納されているインクリボン310が引き出される。即ち、インクカセット300の巻取軸301の端部がプリンタ100に備えられた係合部と係合し、不図示の駆動機構により図中反時計回りに回動され、供給軸302に巻き回されているインクリボン310が巻取軸301に巻き取られる。図2に示したように、インクリボン310の各色インクの先頭にはマーカーが設けられており、イエロー(Y)の先頭にはマーカーが2本設けられている。プリンタ100は、反射式光学センサであるリボン検出センサ334により、インクリボン310に設けられたマーカー311で反射光が遮られたことが検出されるとインクリボン310の巻き取り停止し、頭出しを行う。イエロー(Y)の頭出しは、二本のマーカーが検出されたか否かにより判断される(S106)。イエロー(Y)の頭出し時に1本または所定時間内にマーカーを検出できなかった場合はインクカセット300の異常としてエラーを表す状態を表示部160に表示する(S107)。その後、サーマルヘッド330を図3(a)に示す待機位置へ移動し、印刷動作を終了する(S129)。
【0029】
頭出し動作時には、印画に要する時間を短縮するため印画よりも早い速度でインクリボン310が搬送される。即ち、供給軸302が回転する速度が大きくなり慣性は大きくなる。前述したように、インクリボン310に設けられたマーカー311を検出するとインクリボン310の搬送は停止されるが、供給軸302は自重および巻き回されたインクリボン310の重量による慣性により回転を継続しようとする。供給軸302の回転が継続してしまうと、不要なインクリボン310が引き出されることになり、インクリボンのジャムなどの不具合の原因となってしまう。これを防止するため、供給軸302には微小な回転抵抗が発生するような摺動部が設けられている。
【0030】
イエロー(Y)の頭出しが完了すると、サーマルヘッド330を、ヘッド支持軸332を中心に更に図中反時計回りに回動し、インクリボン310と記録用紙320をプラテンローラ340との間に狭持する印画位置へ移動する(S108)。サーマルヘッド330が印画位置に移動すると、図3(d)に示すように記録用紙320とインクリボン310はサーマルヘッド330とプラテンローラ340に狭持されたまま、矢印Aの方向に向けて搬送されながら、サーマルヘッド330により加熱されインクリボン310に塗布されたインクが記録用紙320へ転写され、印画が行われる(S109)。印画中はインクリボン310と記録用紙320は同速度で搬送されるため、プリンタ100のインクリボン搬送機構には一定トルク以上の負荷が掛かるとスリップする不図示のトルクリミッタが組み込まれている。
【0031】
インクリボン310と記録用紙320はサーマルヘッド330による加熱で印画が行われると、一定の距離の間、密着状態を保持したまま搬送され、その後互いに離間する方向へ搬送される。即ち、記録用紙320は搬送ローラ350により矢印Aの方向へ搬送され、インクリボン310はサーマルヘッド330の剥離板335に摺動しながらインクカセット300の巻取軸301に向かって搬送される。インクリボン310はサーマルヘッド330よる印画時の加熱により記録用紙320に貼り付いているが、剥離板335の位置まで搬送されて記録用紙320から引き剥がされる。印画される画像が高階調画像である場合は、高濃度が要求される。このため、より多くのインクを記録用紙320に拡散移動させるため、より多くの熱量がインクリボン310に印加される。
【0032】
インクリボン310は熱量が加えられると、前述したようにポリエチレンテフタレートフィルムで構成されているため収縮が起きる。特に高諧調画像を印画する場合、多くの熱量がインクリボン310に加えられ大きく収縮する。すると、供給軸302に巻き回されているインクリボン310が収縮により引き出され、リボンの捩れや、弛み、シワなどの原因となる。捩れやシワが発生すると、色抜けなどが発生し印画品質の低下を招いてしまう。このような印画品質を低下させる事態を防止するためには、供給軸302が収縮などの比較的微小な力の作用で容易に引き出されないように、供給側軸に適切な回転抵抗を生じさせる構成が有効である。前述したように、供給側軸には微小な回転抵抗が生じる構成とされている。このような回転抵抗を生じさせる構成はインクリボン310の頭出し動作停止時の緩み防止のみならずシワ耐性を向上させる機能も担っている。
【0033】
剥離板335のサーマルヘッド330の発熱体との距離は、インクリボン310から記録用紙320に拡散移動したインクが充分冷却され定着するために必要な値へ適正化されている。記録用紙320に対してイエローの画像領域への印画が完了すると、プリンタ100の不図示の駆動機構がサーマルヘッド330を回動させ、図3(c)に示す位置に退避させる(S110)。その後、図3(c)に示す位置まで記録用紙320を印画動作とは逆方向に搬送させ、印画開始位置へ移動させる(S111)。以降、イエロー(Y)の印画動作と同様にインクリボン310を巻き取り搬送し、マーカー311を検出することにより印画開始位置まで搬送して停止しマゼンダ(M)の印画を行う(S112~S115)。同様にシアン(C)およびオーバーコート(OP)のマーカーを検出して頭出しを行い、シアン(C)およびオーバーコート(OP)の印画を行う(S116~S127)。オーバーコート(OP)の印画が終了すると、図3(d)の矢印Aの方向に向けて記録用紙320を更に搬送し、記録用紙320の後端部が搬送ローラ350を通過すると排紙が完了する(S128)。排紙が完了すると、サーマルヘッド330を不図示の駆動機構により図3(a)の待機位置まで回動し、印刷動作を終了する(S129)。
【0034】
図3(e)は、図3(d)の印画中における要部断面図である。上述したように印画状態では、サーマルヘッド330はインクリボン310と記録用紙320を挟持しながらプラテンローラ340に圧接されている。サーマルヘッド330は、昇降機構によりプラテンローラ340に圧接した位置と離間した位置に移動可能である。詳しくは、ヘッドアーム331に保持されたサーマルヘッド330は、ヘッド支持軸332を中心に図3(d)において反時計回りに回動している。これは不図示の駆動機構により圧接カム軸336が図中時計回りに回動し、圧接カム337がヘッドアーム331に一体的に設けられた圧接カムフォロア338を押下することにより、ヘッドアップばね333の付勢力に抗して回動させることにより実現される。サーマルヘッド330はヘッドアーム331に対し、圧接ばね339を介して取り付けられており、圧接カム337が所定量回動するとヘッドアーム331はヘッドアップばね333を所定量押し縮めることになる。このため、サーマルヘッド330は圧接ばね339の反力によりプラテンローラ340へ押し付けられることになる。このように、インクリボン310と記録用紙320は圧接ばね339の反力により密着されるが、インクをよりスムースに記録用紙320に転写するためには比較的大きな力で密着状態とする必要がある。本実施形態では、4インチの長さのサーマルヘッド330であり、3N以上の強い力で圧接されている。このように、印画中は大きな力で圧接が行われるが、その力はシャシー120に設けられた圧接カム軸336の軸受部とプラテンローラ340の軸受部で支持されることになる。
【0035】
以上により、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、オーバーコート(OP)の順にインクが重ねられて転写される印画動作が完了する。
【0036】
次に、図5を参照して、インクカセット300の詳細な構成について説明する。
【0037】
図5は本実施形態のインクカセット300の斜視図であり、(a)はインクカセット300を下方から見た斜視図であり、(b)は(a)の分解斜視図である。
【0038】
図5(a)に示すように、インクカセット300は巻取軸301を収納する巻取側収納部303Aと、供給軸302を収納する供給側収納部303Bを備え、巻取側収納部303Aと供給側収納部303Bは、プリンタ100の装着方向奥側の端部が開口し、インクカセット300がプリンタ100に装着された状態で、プリンタ100の駆動機構と巻取軸301および供給軸302が係合可能に構成されている。
【0039】
インクリボン310は、供給軸302に巻き回され、他端が巻取軸301に取り付けられた状態でカセットケース303に収納されている。カセットケース303は、後述するようにインクリボン310との摺動性能や搬送性能を確保するため、ABSやPCなどの高強度のエンジニアリングプラスチックを射出成形して作製される。
【0040】
カセットケース303は2つの半円筒体の両端部を連結し、2つの半円筒体の開放部分をそれぞれ巻取側カバー304と供給側カバー305とで覆い、2つの円筒体が平行に配置された構成を有する。巻取側カバー304と供給側カバー305は各々の両端部付近に設けられた4箇所の係合爪306をカセットケース303に設けられた係合穴に係合させ一体化される。また、巻取側カバー304と供給側カバー305はカセットケース303と同様の射出成型品である。
【0041】
巻取側カバー304と供給側カバー305は、プリンタ100への装着方向手前側の端部が、可能な限り広い面積を持つ略平面状の薄いプレート部材から構成されている連結部400により連結されている。連結部400には、プリンタ100への装着時にシャシー120と係合する係合部としての突起状の位置決めボス410および規制ボス420、被係合部としての位置決め穴430が設けられている。インクカセット300とプリンタ100およびシャシー120の位置関係については後述する。
【0042】
巻取軸301および供給軸302はカセットケース303の巻取側収納部303Aと供給側収納部303Bの内部に回転自在に支持される。巻取軸301と供給軸302は同じ形状を有し、ABSやPSなどの高強度の樹脂材料を用いた射出成型品である。
【0043】
インクリボン310は、カセットケース303に回転可能に支持されたガイド軸307において屈曲され、巻取側カバー304および供給側カバー305とカセットケース303の間に設けられた開口を通過するように配置されている。ガイド軸307は高強度の樹脂であるPBT-G30%の射出成型にて作製され、インクリボン310と接触する大径部と、大径部の両端部に設けられた小径部とを有する。
【0044】
次に、図6を参照して、インクカセット300とプリンタ100およびシャシー120の位置関係について説明する。
【0045】
図6は、本実施形態の印刷時のプリンタ100の要部を示す図であり、(a)はインクカセット300の装着方向奥側から見た断面図であり、(b)はインクカセット300装着方向手前側から見た斜視図である。図6(a)は、説明の容易化のため、シャシー120、インクカセット300、圧接カム337、プラテンローラ340、圧接カム軸336のみを示し、図3(d)と同様に印画中の状態を示している。圧接カム337は圧接カム軸336を中心に回動しサーマルヘッド330をプラテンローラ340へ押し付けている。シャシー120は、厚さが0.8mmの薄い亜鉛メッキ鋼板をコの字状に折り曲げ加工して製作された支持部材である。図6(b)に示すように、シャシー120のコの字状に折り曲げられた2つの側壁部120a、120bのうち、一方の側壁部120aにはインクカセット300を装着するための開口であるカセット装着部130が設けられ、両方の側壁部120a、120bには、圧接カム軸336およびプラテンローラ340の軸受部が設けられている。
【0046】
図3で説明したように、印画品質を安定的に向上させるため、サーマルヘッド330とプラテンローラ340は大きな力で圧接されているが、その圧接力はヘッド支持軸332およびプラテンローラ340の各軸受部によりシャシー120で受け止めている。印画時にはインクリボン310および記録用紙320をサーマルヘッド330とプラテンローラ340で挟持するため、図6(a)に示すようにインクリボン310とその搬送経路に沿うカセット装着部130を挟むようにサーマルヘッド330とプラテンローラ340が上下に配置される。即ち、印画時のサーマルヘッド330とプラテンローラ340の圧接力を受け止める圧接カム軸336とプラテンローラ340の各軸受部はシャシー120に設けられた大きな開口であるカセット装着部130を挟んで上下に対向配置される位置関係となる。このように印画時にシャシー120は大きな圧接力を受けるが、カセット装着部130が形成されている一方の側壁部120aは他方の側壁部120bよりも強度が低下してしまう。プリンタ100を可能な限り小型化するには、シャシー120を小型化する必要があり、カセット装着部130による強度低下の影響を受けやすくなってしまう。印刷時の圧接力によりシャシー120が変形してしまうと、所望の圧接力を保持できず印画濃度の低下やインクが記録用紙320へ転写されず、印画品質の低下を招いてしまう。特にカセット装着部130はシャシー120の一方の側壁部120aだけに設けられ、他方の側壁部120bにはカセット装着部130のような大きな開口は設けられない。そのため、サーマルヘッド330の発熱体の配列方向(画像の主走査方向)において、インクカセット300の装着方向奥側の圧接力よりも手前側の圧接力が低くなってしまう。このようにサーマルヘッド330の長手方向において圧接力に差異が生じてしまうと、印画された画像の主走査方向に濃度差が発生してしまい、印画品質の低下を招いてしまう。
【0047】
本実施形態のインクカセット300は、図5に示したように、インクカセット300の装着方向手前側に設けられた連結部400に、位置決めボス410、規制ボス420および位置決め穴430が設けられている。シャシー120における位置決めボス410、規制ボス420および位置決め穴430に対応する部位には、位置決めボス410、規制ボス420、位置決め穴430に係合する穴やボスが設けられている。図6に示すように、印画時の圧接力の反力はシャシー120に対して図6(a)の矢印B、Cで示される方向に加わることとなる。矢印Bで示される力が加わると、矢印E、Fで示される方向へ位置決めボス410および規制ボス420が移動するようにシャシー120に力が加わる。同様に、矢印Cで示される力が加わると、シャシー120の変形により位置決め穴430が矢印Dで示される方向へ移動するように力が加わる。そして、シャシー120の一方の側壁部120aはカセット装着部130の影響で強度が低下しているため比較的容易に変形してしまう。
【0048】
ここで、位置決めボス410と位置決め穴430はカセット装着部130を挟むような位置関係であるため、インクカセット300の装着方向手前側に設けられた連結部400が矢印D、Eで示される力を受け止めるように作用する。詳しくは、位置決めボス410と位置決め穴430は、カセットケース303の連結部400の剛性により互いの距離が変化しないようにシャシー120の側壁部120aの変形を規制する。しかしながら、位置決めボス410および位置決め穴430は、圧接カム軸336とプラテンローラ340の各軸受部の中心を結ぶ直線上には配置されていないため、カセットケース303を図6(a)の時計回りに回動させるようなモーメントが発生してしまう。位置決めボス410および位置決め穴430はインクカセット300をプリンタ100に装着する際の位置決め部として機能するため、カセットケース303やシャシー120の製造時に発生する形状誤差の影響を受けないように可能な限り離間して配置する必要がある。プリンタ100は、巻取軸301と供給軸302の間にサーマルヘッド330およびプラテンローラ340を配置するため、図中左右方向に長くなりやすい。そして、位置決めボス410および位置決め穴430を可能な限り離間して配置するため、位置決めボス410と位置決め穴430はサーマルヘッド330を挟んで搬送方向の上流側と下流側の位置にそれぞれ配置する。また、プリンタ100のサイズ(厚さ)を可能な限り小さくするため、プラテンローラ340と圧接カム軸336の距離は可能な限り小さくして配置される。また、位置決めボス410と位置決め穴430の搬送方向における略中間には、規制ボス420が配置されている。規制ボス420は、位置決めボス410と同様にシャシー120のカセット装着部130の上側に配置されている。よって、カセットケース303を図6(a)の時計回りに回動させるようなモーメントは、規制ボス420に加わる矢印Fで示される力により打ち消される。即ち、位置決めボス410、位置決め穴430および規制ボス420の全てがカセットケース303の連結部400に設けられていることで、互いの位置関係が変化しないようにシャシー120の側壁部120aの変形が規制される。特に、規制ボス420と位置決め穴430は互いに離間するような力がモーメントとして加わるが、カセットケース303および連結部400は高強度の樹脂材料で形成されているため、位置決めボス410、位置決め穴430および規制ボス420の位置の変位を強固に規制することが可能である。また、位置決めボス410と規制ボス420は連結部400の連続する平面に形成されているので、更に強固に位置関係が保持される。即ち、カセットケース303の連結部400おける、穴などの強度低下要因のない同一面に複数の位置決め部または規制部を設けたことにより、より強固に位置の変位を規制することが可能となっている。なお、インクカセット300に設けられ係合部としての位置決めボス410および被係合部としての位置決め穴430、位置決めボス410が係合するプリンタ100に設けられた被係合部としての穴および位置決め穴430に係合するプリンタ100に設けられたボスは2つに限らず、2つ以上設けてもよい。また、インクカセット300に設けられた被係合部としての規制ボス420およびこれに係合するプリンタ100に設けられた被係合部としての穴も1つに限らず、1つ以上設けてもよい。
【0049】
また、カセットケース303の連結部400の位置決めボス410と位置決め穴430はプリンタ100にインクカセット300を装着する際の位置決め部として機能するので、ボスに嵌合する穴径はクリアランスを可能な限り小さく設定されている。具体的には、ボスの軸径が穴径よりも大きい嵌め合い(締りばめ)に設定される。一方、規制ボス420が嵌合する穴径は、ボスと穴が互いに干渉することがないように必要最小限の隙間を有している。必要最小限の隙間はシャシー120の変形を許容することになるが、それに起因する圧接力の低下による印画品質に影響のない範囲に収まっている。具体的には、規制ボス420の軸径をφ2.2±0.05、穴径をφ2.35±0.05に設定している。規制ボス420の最大の軸径φ2.15に対して、穴径φ2.40となり、0.125mmの移動(変形)を許容することになるが、それによる圧接力の低下は印画品質が確保可能な範囲内に抑えられる。
【0050】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神および範囲から離脱することなく、様々な変更および変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0051】
100…サーマルプリンタ、120…シャシー、130…カセット装着部、300…インクカセット、301…巻取軸、302…供給軸、320…記録用紙、330…サーマルヘッド、400…連結部、410…位置決めボス、420…規制ボス、430…位置決め穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6