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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】画像観察装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20240109BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
H04N5/64 511A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020015849
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021124539
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】東原 正和
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮史
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/178817(WO,A2)
【文献】特表2018-503851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0018255(US,A1)
【文献】特開2015-075713(JP,A)
【文献】特開2016-180938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01 - 27/02
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示する表示素子と、
前記表示素子からの光を射出瞳に導く接眼光学系とを有し、
前記接眼光学系は、前記表示素子から前記射出瞳に向かって順に配置された、
第1のλ/4板と、
半透過反射面と、
レンズと、
第2のλ/4板と、
第1の直線偏光を反射し、該第1の直線偏光の偏光方向に直交する偏光方向の第2の直線偏光を透過する偏光分離素子とを含み、
前記半透過反射面において、透過率が反射率より小さく、
前記半透過反射面への光の入射角が大きくなるにつれて、前記半透過反射面の透過率が大きくなることを特徴とする画像観察装置。
【請求項2】
前記半透過反射面の透過率Tが、
15%≦T≦45%
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の画像観察装置。
【請求項3】
前記レンズが樹脂レンズであることを特徴とする請求項1または2に記載の画像観察装置。
【請求項4】
前記半透過反射面が前記レンズに設けられており、
前記レンズのうち前記半透過反射面が設けられた面が、前記表示素子に向かって凸面であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項5】
前記半透過反射面が前記レンズに設けられており、
前記レンズのうち前記半透過反射面が設けられた面が、非球面であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項6】
前記半透過反射面が、銀の層を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の画像観察装置。
【請求項7】
前記半透過反射面の反射率が、該半透過反射面の中心部から周辺部にかけて大きくなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の画像観察装置。
【請求項8】
画像を表示する表示素子と、
前記表示素子からの光を射出瞳に導く接眼光学系とを有し、
前記接眼光学系は、前記表示素子から前記射出瞳に向かって順に配置された、
第1のλ/4板と、
半透過反射面と、
レンズと、
第2のλ/4板と、
第1の直線偏光を反射し、該第1の直線偏光の偏光方向に直交する偏光方向の第2の直線偏光を透過する偏光分離素子とを含み、
前記半透過反射面において、透過率が反射率より小さく、
前記半透過反射面の反射率が、該半透過反射面の中心部から周辺部にかけて大きくなることを特徴とする画像観察装置。
【請求項9】
前記接眼光学系に含まれる1または複数のレンズのうち最も射出瞳側のレンズが前記表示素子に向かって凸面を有する平凸レンズであることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項10】
前記半透過反射面が前記レンズに設けられており、
前記レンズの光学有効領域における偏肉比が、1.5以上、4.0以下であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項11】
前記接眼光学系のアイレリーフEは、
15mm≦E≦25mm
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項12】
前記接眼光学系における最も射出瞳側の面から前記表示素子までの光軸上距離Lと前記接眼光学系のアイレリーフEとが、
0.6≦L/E≦1.0
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から1のいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項13】
前記接眼光学系のアイレリーフEと前記接眼光学系の最大の対角半画角θとが、
8mm≦E×tanθ≦20mm
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から1のいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項14】
前記第1の直線偏光の偏光方向に対して、前記第1のλ/4板の遅相軸と前記第2のλ/4板の遅相軸とが互いに反対側に傾いていることを特徴とする請求項1から1のいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項15】
前記接眼光学系は、前記偏光分離素子と前記射出瞳との間に、前記第2の直線偏光を透過する偏光板を含むことを特徴とする請求項1から1のいずれか一項に記載の画像観察装置。
【請求項16】
前記表示素子から無偏光光が出射し、
前記接眼光学系は、前記表示素子と前記第1のλ/4板との間に、前記第1の直線偏光を透過する偏光板を有することを特徴とする請求項1から1のいずれか一項に記載の画像観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子に表示された画像を接眼光学系を介して観察可能な画像観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような画像観察装置としては、観察者の頭部に装着されるヘッドマウントディスプレイ(HMD)がある。このようなHMDにおいて広画角での画像提示を実現するために、偏光を利用して光路を折り畳む接眼光学系が用いられることがある。ただし、このような接眼光学系の軽量化のためにプラスチックレンズが使用されると、プラスチックレンズ内の複屈折によって光の偏光状態が乱れ、この結果、ゴーストが発生する。
【0003】
特許文献1および特許文献2には、偏光を利用して広画角化された接眼光学系を有するHMDが開示されている。特許文献1のHMDでは、接眼光学系内の半透過型偏光板の透過軸の方向を観察者の両眼が並ぶ方向に一致させて輝度むらを低減している。また特許文献2のHMDでは、曲面形状の偏光素子を利用して広画角を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-053152号公報
【文献】特表2018-508800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、接眼光学系のプラスチックレンズ内の複屈折によるゴーストの低減に関して、複屈折が小さいプラスチック材料を用いるとの記載しかない。また特許文献2には、接眼光学系のビネッティングにより周辺光量が低下することについては記載があるが、レンズの複屈折により発生するゴーストの低減に関する記載はない。
【0006】
本発明は、偏光を利用した接眼光学系におけるゴーストを低減することができるようにした画像観察装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての画像観察装置は、画像を表示する表示素子と、表示素子からの光を射出瞳に導く接眼光学系とを有する。接眼光学系は、表示素子から射出瞳に向かって順に配置された、第1のλ/4板と、半透過反射面と、レンズと、第2のλ/4板と、第1の直線偏光を反射し、該第1の直線偏光の偏光方向に直交する偏光方向の第2の直線偏光を透過する偏光分離素子とを含む。半透過反射面において、透過率が反射率より小さく、半透過反射面への光の入射角が大きくなるにつれて、半透過反射面の透過率が大きくなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、偏光を利用した接眼光学系におけるゴーストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1であるHMDの構成を示す図。
図2】実施例2における接眼光学系の構成を示す図。
図3】実施例1のHMDの外観図。
図4】実施例1における接眼光学系の光路を示す図。
図5】実施例1における接眼光学系のゴースト光を説明する図。
図6】実施例1における接眼光学系の接眼光学系のハーフミラーの反射率と明るさと関係を示す図。
図7】本発明の実施例2であるHMDの構成を示す図。
図8】実施例2における接眼光学系の構成を示す図。
図9】実施例2における接眼光学系のゴースト光を説明する図。
図10】本発明の実施例3であるHMDの構成を示す図。
図11】実施例2における接眼光学系の構成を示す図。
図12】実施例2における接眼光学系のゴースト光を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1である画像観察装置としてのHMD101の構成を示している。HMD101は、観察者の頭部に装着される。102は観察者の右眼、103は観察者の左眼である。表示レンズ104,105は右眼用接眼光学系OR1を構成し、表示レンズ106,107は左眼用接眼光学系OL1を構成する。各接眼光学系は、複数(2つ)の表示レンズにより構成された共軸の光学系である。右眼用接眼光学系OR1の射出瞳ER1には観察者の右眼102が配置され、左眼用接眼光学系OL1の射出瞳EL1には観察者の左眼103が配置される。
【0012】
108は右眼用表示素子、109は左眼用表示素子である。各表示素子は、平板型の表示素子であり、本実施例では有機ELディスプレイパネルを用いている。図3は、HMD101とこれに接続されたパーソナルコンピュータ150の外観を示している。各表示素子は、パーソナルコンピュータ150から出力された画像信号に対応する表示画像(原画像)を表示する。
【0013】
接眼光学系OR1,OL1はそれぞれ、表示素子108,109からの光を射出瞳ER1,EL1に導くことで、表示画像の拡大虚像を観察者の右眼102と左眼103に投影する。これにより、観察者は、表示素子108,109上の表示画像(の虚像)を接眼光学系OR1,OL1を通して観察することができる。
【0014】
本実施例において、各接眼光学系の焦点距離は12mm、水平表示画角は45°、垂直表示画角は34°、対角表示画角は54°である。各接眼光学系における最も射出瞳側の面(後述する偏光分離素子114の射出瞳側の面)と各接眼光学系の射出瞳との距離であるアイレリーフE1は、18mmである。
【0015】
本実施例における右眼用および左眼用接眼光学系ОR1,OL1は偏光を利用して光路を折り畳む光学系であり、その構成について右眼用接眼光学系ОR1を用いて説明する。図2に示すように、右眼用接眼光学系ОR1は、右眼用表示素子108から射出瞳ER1に向かって順に配置された偏光板110、第1のλ/4板111、表示レンズ105、表示レンズ104、第2のλ/4板113および偏光分離素子(以下、PBSという)114を有する。表示レンズ104における表示素子側の面には、半透過反射面としてのハーフミラー112が蒸着により形成されている。また第2のλ/4板113とPBS114は、表示レンズ104における射出瞳側の面上に積層されるように設けられている。
【0016】
偏光板110、第1のλ/4板111、第2のλ/4板113およびPBS114はいずれも平板状に形成されている。偏光板110を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第1のλ/4板111の遅相軸とは45°傾いており、偏光板110を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第2のλ/4板113の遅相軸とは-45°(すなわち第1の直線偏光の偏光方向に対して第1のλ/4板111の遅相軸とは反対側に同角度だけ)傾いている。また偏光板110を透過する第1の直線偏光の偏光方向とPBS114を透過する第2の直線偏光の偏光方向とは互いに直交している。
【0017】
右眼用表示素子108から出射した無偏光光は、偏光板110を透過して直線偏光となり、第1のλ/4板111を透過して円偏光となって表示レンズ105を透過する。さらに円偏光は、ハーフミラー112を透過した後、表示レンズ104を透過し、第2のλ/4板113を透過して第1の直線偏光になる。この第1の直線偏光は、PBS114を透過する偏光方向に対して直交する偏光方向を有するため、PBS114で反射して第2のλ/4板113を透過して円偏光となる。この円偏光は、表示レンズ104を透過した後、ハーフミラー112で反射し、再度、表示レンズ104を透過し、第2のλ/4板113を透過して第2の直線偏光になる。この第2の直線偏光は、PBS114を透過する偏光方向と一致する偏光方向を有するため、PBS114を透過して射出瞳ER1(右眼102)に導かれる。左眼用表示素子109から出射した光も、同様に左眼用接眼光学系OL1により射出瞳EL1(左眼103)に導かれる。
【0018】
このように各接眼光学系を偏光を利用して光路を折り畳むように構成することで、各接眼光学系を光軸方向において薄型化することができ、かつ各接眼光学系の焦点距離を短くして広画角な画像の観察を可能とする。
【0019】
HMDは、観察者が頭部に装着するために軽量であることが望ましい。このため、接眼光学系を構成する表示レンズや撮像光学系を構成する撮像レンズは硝子よりも比重が小さい樹脂により製作することが望ましい。このため、本実施例でも、表示レンズ104~107は樹脂レンズとしている。また最も射出瞳側の表示レンズ104,106を表示素子側に向かって凸面を有する平凸レンズとして、該凸面にハーフミラー112を設けることで、接眼光学系を薄型化しつつ広画角化を実現している。さらに表示レンズ104,106の凸面を非球面形状とすることで、収差補正効果を高めている。また、表示レンズ105,107を樹脂製の両面非球面レンズとして、収差補正効果を高めている。
【0020】
ただし、表示レンズ105,107は外径が小さく、重量への影響が小さいため、ガラスレンズとしてもよい。またHMD101の全体の重量が許容範囲であれば、表示レンズ104,106もガラスレンズとしてもよい。
【0021】
本実施例のHMD101では、眼鏡を掛けている観察者でも装着できるように、アイレリーフは15mm以上であることが望ましい。一方、アイレリーフが長すぎると、表示レンズの外形が大きくなりHMDも大型化するため、アイレリーフは25mm以下であることが望ましい。すなわち、アイレリーフE1は、
15mm≦E1≦25mm (1)
なる条件を満足するとよい。
【0022】
また本実施例のHMD101では、図4に示すように、右眼102の眼球(瞳)が右眼用表示素子108の表示面の左右の端部を向いている(見ている)状態での右眼用接眼光学系OR1の射出瞳ER1′の位置、すなわちアイレリーフE1′を、図1に示すように眼球が表示面の中心部を向いている状態でのアイレリーフE1=18mmに眼球の回転半径10mmを加えた28mmに設定し、射出瞳径を6mmに設定している。左眼用接眼光学系OL1の射出瞳についても同様である。このように設定することで、表示面の左右の端部(同様に上下の端部)を観察するために眼球が回転した場合でも、眼球が向いた方向からの光が眼球に入射させることができる。
【0023】
次に、本実施例の接眼光学系OR1,OL1における不要光としてのゴースト光の発生について、図5を用いて説明する。ここでも、右眼用接眼光学系OR1を用いて説明するが、左眼用接眼光学系OL1についても同様である。
【0024】
本実施例のように偏光を利用した接眼光学系OR1では、表示レンズ104,105内での複屈折や偏光板110、λ/4板111,113およびPBS114の偏光特性により、表示素子108から出射した光が、図1図4に示す正規の光路を辿らず、図5に示すようにPBS114で反射することなくそのまま観察者の右眼102に導かれることがある。この光がゴースト光となる。このゴースト光は、第1のλ/4板111を透過した円偏光の光が表示レンズ105,104内の複屈折によって楕円偏光になり、第2のλ/4板113を透過した後の直線偏光の偏光方向が本来の方向に対して傾き、PBS114を透過して右眼102に導かれることで発生する。また、表示レンズ104,105内の複屈折がなくても、偏光板110、λ/4板111,113およびPBS114の偏光特性が良好でないとゴースト光が発生する。
【0025】
本実施例では、このようなゴースト光を低減するために、ハーフミラー112の透過率T1を反射率R1よりも低くしている。具体的には、反射率R1を70%とし、透過率T1を30%としている。図5から分かるように、ゴースト光はハーフミラー112を透過するだけで反射しない。このため、ハーフミラー112の透過率T1を反射率R1よりも低くすることで、ゴースト光の強度を下げることができる。
【0026】
図6は、ハーフミラー112の反射率と正規の光路を辿った光(正規光)およびゴースト光の明るさとの関係を示している。ハーフミラー112の反射率R1を上げると、正規光の明るさ(実線)とゴースト光の明るさ(破線)は共に減少するが、正規光の明るさに比べてゴースト光の明るさの低下が大きいため、ゴースト光と正規光の明るさの比率(一点鎖線)は減少する。反射率と透過率が共に50%の一般的なハーフミラーを用いる場合と比べると、本実施例では正規光に対するゴースト光の比率を約30%低減することができる。
【0027】
本実施例において、ハーフミラー112の透過率T1は、
15%≦T1≦45% (2)
なる条件を満足し、反射率R1は、
55%≦R1≦85% (3)
なる条件を満足することが望ましい。透過率T1が45%を超える(反射率R1が55%未満である)と、ゴースト光の強度を十分に下げることができない。一方、透過率T1が15%未満である(反射率R1が85%を超える)と、正規光の明るさが暗くなりすぎて、正規光による自然な画像の観察ができなくなる。
さらにハーフミラー112の透過率T1が、
15%≦T1≦35% (2a)
なる条件を満足し、反射率R1が、
65%≦R1≦85% (3a)
なる条件を満足することがより望ましい。
【0028】
本実施例にいうハーフミラー112の透過率T1と反射率R1は、可視光領域の波長に対する数値であり、波長ごとに透過率と反射率が異なる場合にはそれらの平均値としてもよいし、緑波長のような比視感度の高い代表的な波長に対する透過率と反射率としてもよい。またハーフミラー112への光の入射角によってハーフミラー112の透過率T1と反射率R1が異なる場合には、入射角が0度のときの透過率と反射率としてもよいし、ゴースト光の入射角に対する透過率と反射率としてもよい。
【0029】
本実施例において、ハーフミラー112は銀層を含んでいる。これにより、偏光状態による透過率や反射率の変動を小さくすることができる。本実施例の接眼光学系のように偏光を利用した光学系では、偏光状態によって透過率や反射率が変動すると、大きな光量損失が生じるおそれがある。このため、ハーフミラー112は、偏光状態による透過率や反射率の変動が小さい金属層、特に吸収による損失が小さい銀層を含むことが望ましい。
【0030】
さらに本実施例では、ハーフミラー112の透過率が反射率よりも低い特性を有するため、銀層の厚さ(膜厚)が通常よりも厚くなる。銀層は、その厚さが厚くなることで安定的に成膜することができ、耐久性も向上する。
【0031】
またハーフミラー112に、銀層と樹脂レンズとの密着性を高めるために銀層における表示レンズ104側に誘電体多層膜を設けてもよいし、銀層の耐久性を高めるために表示レンズ104とは反対側に誘電体多層膜を設けてもよい。
【0032】
レンズ内の複屈折は、一般に、該レンズの中心部から周辺部にかけて大きくなる。このため、表示レンズ104,105の複屈折によるゴースト光の強度も、中心部から周辺部にかけて大きくなる。このため、表示レンズ104,105を通過するゴースト光をより効果的に低減するために、ハーフミラー112における中心(光軸)付近の透過率よりも周辺側の透過率を下げるようにしてもよい。
【0033】
具体的には、図5に示したように表示素子108から出射したゴースト光は、ハーフミラー112の光学有効領域のうち中心から2.5割までの範囲内を透過する。このため、ハーフミラー112の中心付近の透過率を40%(反射率を60%)とし、それよりも周辺側であって光学有効領域の2.5割までの範囲の透過率を30%(反射率70%)としてもよい。このとき、中心付近から光学有効領域の2.5割の付近まで徐々に透過率が下がるようにしてもよい。また、光学有効領域の2.5割よりも外側の範囲はゴースト光が透過しないため、正規光の明るさを向上させるために、透過率を40%より上げてもよい。
【0034】
図1から分かるように、正規光がハーフミラー112を透過するのは光学有効領域の8割までの範囲であり、それよりも外側の範囲では正規光は反射するだけである。このため、観察される画像の周辺部の明るさを改善するために、ハーフミラー112における光学有効領域の8割より外側の範囲の反射率を、8割までの範囲の反射率より高くしてもよい。具体的には、ハーフミラー112における中心から光学有効領域の8割までの範囲の反射率を70%(透過率を30%)とし、8割より外側の範囲の反射率を85%(透過率15%)としてもよい。このとき、光学有効領域の8割より外側の範囲で急激に反射率が高くなると、反射率の差によって不自然な画像が観察されるため、8割より外側の範囲では徐々に反射率が高くなるようにすることが好ましい。
【0035】
さらに入射角が大きくなるにつれてハーフミラー112の透過率を大きくしてもよい。図5から分かるように、表示素子108から出射したゴースト光のハーフミラー112への入射角は5度以下である。一方、図1図4から分かるように正規光のハーフミラー112への入射角は0~60度である。このため、本実施例では入射角0度でのハーフミラー112の透過率を30%とし、入射角60度での透過率を45%とすることで、ゴースト光を低減しつつ周辺部の正規光の明るさを向上させることができる。
【0036】
以上説明したように、本実施例によれば、偏光を利用した接眼光学系を用いたHMD101におけるゴーストを低減することができ、より自然な画像観察を行うことができる。
【0037】
レンズ内の複屈折は、該レンズを樹脂材料を用いて金型成形により製造した際に発生し易く、該レンズの偏肉比が大きいほど金型成形後の冷却時にレンズの薄い部分と厚い部分との冷え方の差が大きくなることで複屈折が大きくなる。
【0038】
本実施例のように広画角で薄型の接眼光学系OR1では、最も光学パワーが大きい反射面(ハーフミラー112)を有する表示レンズ104の偏肉比が大きくなる。表示レンズ104の光学有効領域における偏肉比は2.0である。偏肉比は、1.5以上、4.0以下であることが望ましい。偏肉比が1.5未満である場合には、表示レンズ104の光学パワーを小さくして該表示レンズ104の曲率半径が大きくなるか厚みが大きくなる。表示レンズ104の光学パワーを小さくすると広画角化を実現できなくなったり、光学パワーが大きいレンズを追加する必要が生じて接眼光学系OR1の薄型化が不可能となったりする。また表示レンズ104の厚みが大きくなると、接眼光学系OR1の薄型化を実現できない。一方、偏肉比が4.0より大きい場合には、表示レンズ104の複屈折が大きくなり過ぎて、ゴースト光の強度が増す。
【0039】
接眼光学系OR1の厚さL1を、PBS114における射出瞳側の面から表示素子108までの距離とすると、厚さL1は13mmであり、厚さL1とアイレリーフE1=18mmとの比L1/E1は0.72である。この値はアイレリーフの長さと接眼光学系の薄型化とを両立するために、
0.60≦L1/E1≦1.00 (4)
なる条件を満足することが望ましい。L1/E1が0.60より小さいと、アイレリーフが長くなりすぎて表示レンズの外径が大きくなり、HMD101も大型化するので、好ましくない。しかも、外径が大きいほど表示レンズ104の複屈折が大きくなるため、ゴースト光の強度が増す。一方、L1/E1が1.00より大きいと、接眼光学系が厚くなってHMD101が大型化するとともに、アイレリーフが短すぎて観察者に圧迫感を与えたり眼鏡を掛けている観察者が装着できなくなったりするため、好ましくない。
【0040】
また本実施例において、接眼光学系OR1の最大対角半画角θ1は27°である。このとき、E1×tanθ1=9.2mmである。この値はアイレリーフの長さと接眼光学系の広画角化を両立するために、
8mm≦E1×tanθ1≦20mm (5)
なる条件を満足することが望ましい。E1×tanθ1が8mmより小さいと、アイレリーフが短すぎて観察者に圧迫感を与えたり眼鏡を掛けている観察者が装着できなくなったりするため、好ましくない。また接眼光学系の表示画角が狭すぎて、臨場感のある自然な画像の観察ができない。一方、E1×tanθ1が20mmより大きいと、アイレリーフが長くなりすぎて表示レンズ104の外径が大きくなり、HMD101も大型化するので、好ましくない。しかも、外径が大きいほど表示レンズ104の複屈折が大きくなるため、ゴースト光の強度が増す。
【0041】
また、外光によるゴースト光を低減して観察する画像のコントラストを高めるために、PBS114と各接眼光学系の射出瞳との間に偏光板を配置してもよい。
【0042】
さらに本実施例では、図2に示すように、第2のλ/4板113とPBS114が積層されるように形成された表示レンズ104の射出瞳側の面を平面としている。これはアイレリーフを長くすることと、接眼光学系を薄型化することを両立するためである。この面が射出瞳に向かって凹形状を有すると、その周辺部でのアイレリーフを確保するために表示レンズ104が厚くなる。また、この面が射出瞳に向かって凸形状を有すると、表示レンズ104のレンズコバ部の厚さを確保するためにレンズが厚くなる。
【0043】
本実施例で説明した式(1)~(5)で示した条件については、後述する実施例2および実施例3において同様である。また、本実施例で説明した好ましいレンズの材料や形状、偏肉比等についても、実施例2および実施例3において同様である。なお、表示素子として、直線偏光を出射する液晶ディスプレイパネルを用いてもよい。この場合、偏光板110が不要となり、接眼光学系およびHNDのさらなる薄型化が可能となる。これについても、実施例2において同様である。
【実施例2】
【0044】
図7は、本発明の実施例2であるHMD201の構成を示している。202は観察者の右眼、203は観察者の左眼である。表示レンズ204,205は右眼用接眼光学系OR2を構成し、表示レンズ206,207は左眼用接眼光学系OL2を構成する。各接眼光学系は、2つの表示レンズにより構成された共軸の光学系である。右眼用接眼光学系OR2の射出瞳ER2には観察者の右眼202が配置され、左眼用接眼光学系OL2の射出瞳EL2には観察者の左眼203が配置される。
【0045】
208は右眼用表示素子、209は左眼用表示素子である。各表示素子は、平板型の表示素子であり、本実施例では有機ELディスプレイパネルを用いている。各表示素子は、不図示のパーソナルコンピュータから出力された画像信号に対応する表示画像(原画像)を表示する。
【0046】
接眼光学系OR2,OL2はそれぞれ、表示素子208,209からの光を射出瞳ER2,EL2に導くことで、表示素子208,209に表示された表示画像の拡大虚像を観察者の右眼202と左眼203に投影する。これにより、観察者は、表示素子208,209に表示された表示画像(の虚像)を接眼光学系OR2,OL2を通して観察することができる。
【0047】
本実施例において、各接眼光学系の焦点距離は13mm、水平表示画角は60°、垂直表示画角は60°、対角表示画角は78°である。各接眼光学系における最も射出瞳側の面(後述する偏光分離素子214の射出瞳側の面)と各接眼光学系の射出瞳との距離であるアイレリーフE2は、20mmである。
【0048】
本実施例における右眼用および左眼用接眼光学系ОR2,OL2も、実施例1と同様に、偏光を利用して光路を折り畳む光学系であり、その構成について右眼用接眼光学系ОR2を用いて説明する。図8に示すように、右眼用接眼光学系ОR2は、右眼用表示素子208から射出瞳ER2に向かって順に配置された偏光板210、第1のλ/4板211、表示レンズ205、表示レンズ204、第2のλ/4板213およびPBS214を有する。表示レンズ204における表示素子側の凸面には、半透過反射面としてのハーフミラー212が蒸着により形成されている。また第2のλ/4板213とPBS214は、表示レンズ204における射出瞳側の面上に積層されるように設けられている。
【0049】
偏光板210、第1のλ/4板211、第2のλ/4板213およびPBS214はいずれも平板状に形成されている。偏光板210を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第1のλ/4板211の遅相軸とは45°傾いており、偏光板210を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第2のλ/4板213の遅相軸とは-45°傾いている。また偏光板210を透過する第1の直線偏光の偏光方向とPBS214を透過する第2の直線偏光の偏光方向とは互いに直交している。
【0050】
右眼用表示素子208から出射した無偏光光は、偏光板210を透過して直線偏光となり、第1のλ/4板211を透過して円偏光となって表示レンズ205を透過する。さらに円偏光は、ハーフミラー212を透過した後、表示レンズ204を透過し、第2のλ/4板213を透過して第1の直線偏光になる。この第1の直線偏光は、PBS214を透過する偏光方向に対して直交する偏光方向を有するため、PBS214で反射して第2のλ/4板213を透過して円偏光となる。この円偏光は、表示レンズ204を透過した後、ハーフミラー212で反射し、再度、表示レンズ204を透過し、第2のλ/4板213を透過して第2の直線偏光になる。この第2の直線偏光は、PBS214を透過する偏光方向と一致する偏光方向を有するため、PBS214を透過して射出瞳ER2(右眼202)に導かれる。左眼用表示素子209から出射した光も、同様に左眼用接眼光学系OL2により射出瞳EL2(左眼203)に導かれる。
【0051】
本実施例でも、実施例1と同様に、各接眼光学系を偏光を利用して光路を折り畳むように構成することで、各接眼光学系を薄型化することができ、かつ各接眼光学系の焦点距離を短くして広画角な画像の観察を可能とする。
【0052】
また本実施例でも、各接眼光学系において、2つの表示レンズを接合して、その光軸方向の厚さを13.5mmと薄型化している。また2つの表示レンズを接合レンズとすることで、HMD201の本体によって表示レンズを保持しやすくなる。
【0053】
さらに本実施例でも、表示レンズ204~207は樹脂レンズであり、かつ表示レンズ204~207を非球面レンズとして収差補正効果を高めている。
【0054】
また表示レンズ204,205を接合レンズとしているため、ハーフミラー212を表示レンズ205のうち射出瞳側の面に設けてもよい。この場合でも、ハーフミラー212が設けられた面は表示素子208に向かって凸面である。
【0055】
また本実施例のHMD201では、右眼202の眼球(瞳)が表示素子208の表示面の左右の端部を向いている(見ている)状態での右眼用接眼光学系OR2の射出瞳の位置、すなわちアイレリーフを、図7に示すように眼球が表示面の中心部を向いている状態でのアイレリーフE2=20mmに眼球の回転半径10mmを加えた30mmに設定し、射出瞳径を6mmに設定している。左眼用接眼光学系OL2の射出瞳についても同様である。このように設定することで、表示面の左右の端部(同様に上下の端部)を観察するために眼球が回転した場合でも、眼球が向いた方向からの光が眼球に入射させることができる。
【0056】
図9に示すように、本実施例の接眼光学系OR2,OL2においても、実施例1と同様の理由によってゴースト光が発生する。そして本実施例でも、ゴースト光を低減するために、ハーフミラー212の透過率T2を反射率R2よりも低くしている。具体的には、反射率R2を75%とし、透過率T2を25%としている。図9から分かるように、ゴースト光はハーフミラー212を透過するだけで反射しない。このため、ハーフミラー212の透過率T2を反射率R2より低くすることで、ゴースト光の強度を下げることができる。図6に示したように、反射率と透過率が共に50%の一般的なハーフミラーを用いる場合と比べると、本実施例では正規光に対するゴースト光の比率を約35%低減することができる。
【0057】
本実施例のハーフミラー212の透過率T2および反射率R2と波長や入射角との関係は、実施例1と同じある。また本実施例のハーフミラー212が銀層を含むことや誘電体多層膜を設けることが望ましいことも実施例1と同じである。
【0058】
また本実施例でも、実施例1同様に、表示レンズ204,205を通過するゴースト光をより効果的に低減するために、ハーフミラー212における中心(光軸)付近の透過率よりも周辺側の透過率を下げるようにしてもよい。
【0059】
具体的には、図9に示したように表示素子208から出射したゴースト光は、ハーフミラー212の光学有効領域のうち中心から4割までの範囲内を透過する。このため、ハーフミラー212の中心付近の透過率を40%(反射率を60%)とし、それよりも周辺側であって光学有効領域の4割までの範囲の透過率を25%(反射率75%)としてもよい。このとき、中心付近から光学有効領域の4割の付近まで徐々に透過率が下がるようにしてもよい。また、光学有効領域の4割よりも外側の範囲はゴースト光が透過しないため、正規光の明るさを向上させるために、透過率を40%より上げてもよい。
【0060】
図7から分かるように、正規光がハーフミラー212を透過するのは光学有効領域の8.5割までの範囲であり、それよりも外側の範囲では正規光は反射するだけである。このため、観察される画像の周辺部の明るさを改善するために、ハーフミラー212における光学有効領域の8.5割より外側の範囲の反射率を、8.5割までの範囲の反射率より高くしてもよい。具体的には、ハーフミラー212における中心から光学有効領域の8.5割までの範囲の反射率を75%(透過率を25%)とし、8.5割より外側の範囲の反射率を85%(透過率15%)としてもよい。このとき、実施例1と同じ理由から、8.5割より外側の範囲では徐々に反射率が高くなるようにすることが好ましい。
【0061】
以上説明した本実施例でも、偏光を利用した接眼光学系を用いたHMD201におけるゴーストを低減することができ、より自然な画像観察を行うことができる。
【0062】
また本実施例でも、右眼用接眼光学系OR2は広画角で薄型であるため、最も光学パワーが大きい反射面(ハーフミラー212)を有する表示レンズ204の偏肉比が大きくなる。表示レンズ204,205を接合しているため、表示レンズ205における表示レンズ204との接合面の曲率半径が短く、表示レンズ205の偏肉比も大きくなる。本実施例では、表示レンズ204の光学有効領域における偏肉比は3.6であり、表示レンズ205の光学有効領域における偏肉比は2.8である。
【0063】
また右眼用接眼光学系OR2の厚さL2をPBS214の射出瞳側の面から右眼用表示素子208までの距離とすると、厚さL2は13.5mmであり、厚さL2とアイレリーフE2の比、L2/E2は0.68である。
【0064】
本実施例において、右眼用接眼光学系OR2のアイレリーフE2は20mmであり、最大対角半画角θ2は39°である。このとき、E2×tanθ2=16.2mmであり、式(5)の条件を満足している。上記偏肉比、L2/E2およびE2×tanθ2については左眼用接眼光学系OL2についても同じである。
【0065】
また、本実施例でも、外光によるゴースト光を低減して観察する画像のコントラストを高めるために、PBS214と各接眼光学系の射出瞳との間に偏光板を配置してもよい。
【実施例3】
【0066】
図10は、本発明の実施例3であるHMD301の構成を示している。302は観察者の右眼、303は観察者の左眼である。表示レンズ304,305,306は右眼用接眼光学系OR3を構成し、表示レンズ307,308,309は左眼用接眼光学系OL3を構成する。各接眼光学系は、3つの表示レンズにより構成された共軸の光学系である。右眼用接眼光学系OR3の射出瞳ER3には観察者の右眼302が配置され、左眼用接眼光学系OL3の射出瞳EL3には観察者の左眼303が配置される。
【0067】
310は右眼用表示素子、311は左眼用表示素子である。各表示素子は、平板型の表示素子であり、本実施例では有機ELディスプレイパネルを用いている。各表示素子は、不図示のパーソナルコンピュータから出力された画像信号に対応する表示画像(原画像)を表示する。
【0068】
接眼光学系OR3,OL3はそれぞれ、表示素子310,311からの光を射出瞳ER3,EL3に導くことで、表示素子310,311に表示された表示画像の拡大虚像を観察者の右眼302と左眼303に投影する。これにより、観察者は、表示素子310,311に表示された表示画像(の虚像)を接眼光学系OR3,OL3を通して観察することができる。
【0069】
本実施例において、各接眼光学系の焦点距離F3は10.7mm、水平表示画角は50°、垂直表示画角は38°、対角表示画角は60°である。各接眼光学系における最も射出瞳側の面(後述するPBS315の射出瞳側の面)と各接眼光学系の射出瞳との距離であるアイレリーフE3は、15mmである。
【0070】
本実施例における右眼用および左眼用接眼光学系ОR3,OL3も、実施例1と同様に、偏光を利用して光路を折り畳む光学系であり、その構成について右眼用接眼光学系ОR3を用いて説明する。図11に示すように、右眼用接眼光学系ОR3は、右眼用表示素子310から射出瞳ER3に向かって順に配置された表示レンズ306、偏光板312、第1のλ/4板313、表示レンズ305、表示レンズ304、第2のλ/4板315およびPBS316を有する。偏光板312は、表示レンズ306における表示素子側の面に固定されている。表示レンズ305における射出瞳側の凹面(表示素子に向かって凸面)には、半透過反射面としてのハーフミラー314が蒸着により形成されている。また第2のλ/4板315とPBS316は、表示レンズ304における射出瞳側の面上に積層されるように設けられている。
【0071】
偏光板312、第1のλ/4板313、第2のλ/4板315およびPBS316はいずれも平板状に形成されている。偏光板312を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第1のλ/4板313の遅相軸とは45°傾いており、偏光板312を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第2のλ/4板315の遅相軸とは-45°傾いている。また偏光板312を透過する第1の直線偏光の偏光方向とPBS316を透過する第2の直線偏光の偏光方向とは互いに直交している。
【0072】
右眼用表示素子310から出射した無偏光光は、表示レンズ306を透過した後、偏光板312を透過して直線偏光となり、第1のλ/4板313を透過して円偏光となって表示レンズ305およびハーフミラー314を透過する。さらに円偏光は、表示レンズ304を透過し、第2のλ/4板315を透過して第1の直線偏光になる。この第1の直線偏光は、PBS316を透過する偏光方向に対して直交する偏光方向を有するため、PBS316で反射して第2のλ/4板315を透過して円偏光となる。この円偏光は、表示レンズ304,305を透過した後、ハーフミラー314で反射し、再度、表示レンズ305,304を透過し、第2のλ/4板315を透過して第2の直線偏光になる。この第2の直線偏光は、PBS316を透過する偏光方向と一致する偏光方向を有するため、PBS316を透過して射出瞳ER3(右眼302)に導かれる。左眼用表示素子311から出射した光も、同様に左眼用接眼光学系OL3により射出瞳EL3(左眼303)に導かれる。
【0073】
本実施例でも、実施例1と同様に、各接眼光学系を偏光を利用して光路を折り畳むように構成することで、各接眼光学系を薄型化することができ、かつ各接眼光学系の焦点距離を短くして広画角な画像の観察を可能とする。
【0074】
また本実施例では、各接眼光学系を3つの表示レンズにより構成して、その光軸方向の厚さを18mmと薄型化している。
【0075】
さらに本実施例でも、表示レンズ304~309は樹脂レンズであり、かつ表示レンズ304~309を非球面レンズとして収差補正効果を高めている。
【0076】
本実施例では、接眼光学系の射出瞳を、アイレリーフ15mmに眼球の回転半径10mmを加えた25mmの位置とし、射出瞳径は4mmとしている。これにより、表示面の左右の端部(同様に上下の端部)を観察するために眼球が回転した場合でも、眼球が向いた方向からの光が眼球に入射させることができる。
【0077】
図12に示すように、本実施例の接眼光学系OR3,OL3においても、実施例1と同様の理由によってゴースト光が発生する。そして本実施例でも、ゴースト光を低減するために、ハーフミラー314の透過率T3を反射率R3よりも低くしている。具体的には、反射率R3を65%とし、透過率T3を35%としている。図12から分かるように、ゴースト光はハーフミラー314を透過するだけで反射しない。このため、ハーフミラー314の透過率T3を反射率R3より低くすることで、ゴースト光の強度を下げることができる。図6に示したように、反射率と透過率が共に50%の一般的なハーフミラーを用いる場合と比べると、本実施例では正規光に対するゴースト光の比率を約20%低減することができる。
【0078】
本実施例のハーフミラー314の透過率T3および反射率R3と波長や入射角との関係は、実施例1と同じある。また本実施例のハーフミラー314が銀層を含むことや誘電体多層膜を設けることが望ましいことも実施例1と同じである。
【0079】
また本実施例でも、実施例1同様に、表示レンズ304~306を通過するゴースト光をより効果的に低減するために、ハーフミラー314における中心(光軸)付近の透過率よりも周辺側の透過率を下げるようにしてもよい。
【0080】
具体的には、図12に示したように表示素子310から出射したゴースト光は、ハーフミラー314の光学有効領域のうち中心から5割までの範囲内を透過する。このため、ハーフミラー314の中心付近の透過率を35%(反射率を65%)とし、それよりも周辺側であって光学有効領域の5割までの範囲の透過率を15%(反射率85%)としてもよい。このとき、中心付近から光学有効領域の5割の付近まで徐々に透過率が下がるようにしてもよい。また、光学有効領域の5割よりも外側の範囲はゴースト光が透過しないため、正規光の明るさを向上させるために、透過率を35%より上げてもよい。
【0081】
以上説明した本実施例でも、偏光を利用した接眼光学系を用いたHMD301におけるゴーストを低減することができ、より自然な画像観察を行うことができる。
【0082】
また本実施例でも、右眼用接眼光学系OR3は広画角で薄型であるため、最も光学パワーが大きい反射面(ハーフミラー314)を有する表示レンズ305の偏肉比が大きくなる。本実施例において表示レンズ305の光学有効領域における偏肉比は1.6である。
【0083】
右眼用接眼光学系OR3の厚さL3をPBS316の射出瞳側の面から右眼用画像表示素子310までの距離とすると、厚さL3は13.5mmであり、厚さL3とアイレリーフE3の比、L3/E3は0.9である。上記偏肉比、L3/E3およびE3×tanθ3については左眼用接眼光学系OL3についても同じである。
【0084】
本実施例において、接眼光学系のアイレリーフE3は15mmであり、最大対角半画角θ3は30°である。このとき、E3×tanθ3=8.7mmであり、式(5)の条件を満足している。
【0085】
また、本実施例でも、外光によるゴースト光を低減して観察する画像のコントラストを高めるために、PBS316と各接眼光学系の射出瞳との間に偏光板を配置してもよい。
【0086】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0087】
101,201,301 HMD
108,208,310 右眼用表示素子
109,209,311 左眼用表示素子
112,212,314 ハーフミラー
OR1,2,3 右眼用接眼光学系
OL1,2,3 左眼用接眼光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12