(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】誘導装置
(51)【国際特許分類】
F42B 15/01 20060101AFI20240109BHJP
F41G 7/22 20060101ALI20240109BHJP
G01S 13/88 20060101ALI20240109BHJP
G01S 7/41 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
F42B15/01
F41G7/22
G01S13/88 210
G01S7/41
(21)【出願番号】P 2020018813
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】蜂須 裕之
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-049371(JP,A)
【文献】特開2018-004538(JP,A)
【文献】特開平02-279995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0286989(US,A1)
【文献】特開平03-001099(JP,A)
【文献】特開平09-043348(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108919284(CN,A)
【文献】特開昭62-080499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 15/01
F41G 7/22
G01S 13/88
G01S 7/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛しょう体に搭載され、前記飛しょう体を目標に向かって飛しょうさせる誘導装置において、
広帯域変調を施した送信波形の照射電波を生成する手段と、
前記目標近辺の上空から前記照射電波を照射し、その反射電波を受信する手段と、
前記受信した反射電波により、
前記広帯域変調により得られる分解能での前記目標の高度情報分布から目標の船体と上構とを幾何学的特徴に基づいて分離して算出する手段と、
を備える誘導装置。
【請求項2】
前記
照射電波を照射して反射電波を受信する手段は、アレイアンテナのメインビームを目標本体の
上方から見たときの長軸方向の範囲を含んで走査するデジタルビームフォーミングの形態を採る、請求項1記載の誘導装置。
【請求項3】
前記目標の船体と上構とを分離して算出する手段は、前記目標の船体の
上方から見たときの長手方向と直交する幅方向を、モノパルス測角を用いて観測により推定する、請求項1または2記載の誘導装置。
【請求項4】
前記目標の船体と上構とを分離して算出する手段は、前記
照射電波を照射して反射電波を受信する手段の受信角度と、前記目標の船体の
上方から見たときの長手方向の角度とに応じて、前記飛しょう体のロール角を制御する、請求項1または2記載の誘導装置。
【請求項5】
前記目標の船体と上構とを分離して算出する手段は、前記
照射電波を照射して反射電波を受信する手段の角度観測の方向を、
上方から見たときの前記目標の船体と合わせることで、前記目標の船体の
上方から見たときの長手方向の長さと中心軸位置とを推定する、請求項1乃至4いずれか記載の誘導装置。
【請求項6】
前記目標の船体と上構とを分離して算出する手段は、前記目標の船体の
上方から見たときの長手方向の中心軸位置と前記上構の長手方向の中心軸位置とのオフセット角から、前記目標の種類を判定する、請求項5記載の誘導装置。
【請求項7】
前記目標の船体の
上方から見たときの長手方向の長さと中心軸位置、前記上構の長手方向の中心軸位置、および前記目標の種類の判定結果に応じて、前記目標内の特定点を誘導対象に設定する手段をさらに備える、請求項6記載の誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飛しょう体に搭載され、電波を利用して海面上を移動する目標を検出し、その目標に向けて飛しょう体を誘導する誘導装置においては、飛しょう体が目標に向かってほぼ鉛直方向から下降し、目標に大きく接近するにつれて、誘導装置から見た目標の全体形状が急速に拡大し、検索を行なう走査範囲から外れるために、結果として目標中の特定部位、例えば上部構造物(以下「上構」と称する)へ安定して誘導することが従来は困難であった。
【0003】
因みに、移動していない目標に対しても高い精度を保って誘導できるような技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術は、ホバリングしているヘリコプタのように、地表から乖離した状態で移動していない目標に対して、目標と地表との距離を測定し、目標の検出高度範囲を制限して、地表で発生するクラッタの影響を排除するようにしたものである。
【0006】
そのため、例えば海面上を移動する船舶などを目標とし、その略鉛直上から下降して目標に接近するような場合には、目標が海面に近い高度で位置を移動していることから、目標の形状を認識することで困難であり、適用することができないものと考えられる。
【0007】
そこで、目的は、海面上の船舶などを目標とし、目標の船体と上部構造物(上構)を分離して認識した状態を維持して誘導することが可能な誘導装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の誘導装置は、目標に向かって飛しょうする飛しょう体に搭載された誘導装置において、電波を照射し、その反射電波を受信する手段と、前記受信した反射電波により、目標の高度情報分布から目標の船体と上構とを幾何学的特徴に基づいて分離して算出する手段と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る飛しょう体の目標となる船舶への会合状況を示す図。
【
図2】実施形態に係る飛しょう体の構成を示すブロック図。
【
図3】実施形態に係る誘導制御装置のアンテナ部の詳細な構成を示すブロック図。
【
図4】実施形態に係るアンテナ部のサブアレイモジュールの配列構成と観測軸の方向の定義とを示す図。
【
図6】実施形態に係る目標の観測波形を統合し、特定部位をホーミングする際の一連の処理内容を示すフローチャート。
【
図7】実施形態に係るデータ抽出処理の過程を説明する図。
【
図8】実施形態に係るデータ抽出処理の過程を説明する図。
【
図9】実施形態に係るN個のサブアレイモジュールでの受信和信号を観測順序で並べたK回分の抽出波形を示す図。
【
図10】実施形態に係るN個のサブアレイモジュールでの受信差信号を観測順序で並べたK回分の抽出波形を示す図。
【
図11】実施形態に係る観測相関行列を得たあとの目標観測処理を説明する図。
【
図12】実施形態に係る高度セルとして目標の船体付近を選択したときの電力特性と測角特性を示す図。
【
図13】実施形態に係る高度セルとして目標の上構付近を選択したときの電力特性と測角特性を示す図。
【
図14】実施形態に係る
図6の誘導指令処理のサブルーチンのフローチャートと船舶判定結果とを説明する図。
【
図15】実施形態に係る誘導指令角の算出を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を参照して、実施形態を説明する。本実施形態では、高高度で飛しょうする飛しょう体が、海面を移動する船舶を目標として、目標近辺の上空で略鉛直下方向に方向転換し、ほぼ垂直に降下するものとする。
【0011】
なお本実施形態では、目標とする船舶の形状に関して、船体と上構(上部構造物)とを分離して認識するものとする。上構は、船舶におけるブリッジ(船橋)、航空母艦におけるアイランド(艦橋、マスト、煙突等含む)等を総称するものとする。
【0012】
[目標艦船との会合状況]
図1は、飛しょう体の目標となる船舶への会合状況を示す。
図1に示すように、飛しょう体1は、高高度で略水平方向に飛しょうしたのち、海面SLを移動している、船舶である目標2のほぼ直上点に達した時点で方向転換し、誘導開始点SPからは垂直降下に近い形態で目標2に向かって飛しょうしつつ、目標検出と目標2へのホーミングを行う。この場合、飛しょう体1が観測する対象は、目標2を含む目標域周辺になる。
【0013】
[飛しょう体の構成]
図2は、飛しょう体1の構成を示すブロック図である。
図2に示すように飛しょう体1は、誘導制御装置3、推進装置5、および操舵装置6を搭載している。誘導制御装置3は、後述するように、目標2を検出して飛しょう体1を目標2に誘導する操舵信号を操舵装置6に出力する。推進装置5は、飛しょう体1を飛行させるための推進機構である。操舵装置6は、誘導制御装置3により算出される操舵信号に基づいて、目標2に誘導(ホーミング:homing)するために飛しょう体1の飛行を制御する。
【0014】
誘導制御装置3は、アンテナ部7、誘導処理部8、制御処理部9からなる。アンテナ部7は、目標2に対する照射電波10の照射方向の制御(送信ビームの走査)と電波の送信を実施する。また、目標2からの反射電波11を受信するための受信方向の制御(受信ビームの走査)と電波の受信を実施する。誘導処理部8は、送信する電波の波形生成や制御、また受信した電波の検出等の検出処理を実施し、目標2に向けてホーミングするための誘導信号を算出して制御処理部9へ出力する。制御処理部9は、誘導信号に基づいて飛しょう体1の機体を安定に飛しょうさせるための操舵信号を算出して操舵装置6へ出力する。
【0015】
[アンテナ部の構成と動作]
図3は、誘導制御装置3のアンテナ部7の詳細な構成を示すブロック図である。
図4は、アンテナ部7の主としてN個のサブアレイモジュール12(1)~12(N)の配列構成と観測軸の方向の定義とを示す図である。以下、
図3および
図4を使用して、アンテナ部7での構成と動作を説明する。
【0016】
図4(A)に示すように、アンテナ部7は、一般にN個のサブアレイモジュール12(1)~12(N)を内蔵している。各サブアレイモジュール12(1)~12(N)は、飛しょう体1の先端部に一列に配置されている。なお、
図4(B)に示すように、角度観測の方向に関して、サブアレイモジュール12(1)~12(N)が配列されている方向(矩形のモジュール12(1)~12(N)の短辺方向)を横方向、同横方向および正面方向と直交する方向を縦方向と定義する。
【0017】
図3に示すように、代表として、サブアレイモジュール12(1)を用いてサブアレイモジュールの内部構成を説明する。
サブアレイモジュール12(1)は、一般にM個の送受信モジュール15(1)~15(M)を内蔵しており、それぞれの送受信モジュール15(1)~15(M)には、送信アンテナ13と受信アンテナ14とが1つずつ接続されている。したがって、各サブアレイモジュール12(1)~12(N)は、それぞれ、M個の送信アンテナ13(1,1)~13(1,M)(~(13(N,1)~(N,M)))とM個の受信アンテナ14(1,1)~14(1,M)(~(14(N,1)~(N,M)))とを有する。
【0018】
送受信モジュール15(1)~15(M)は、縦方向合成比較器20(1)と接続される。縦方向合成比較器20(1)には、方向性結合器18(1)を介して送信周波数変換器17(1)から高周波信号が与えられる。送信周波数変換器17(1)は、サブアレイモジュール12(1)外部の誘導処理部8から与えられる、照射電波10の波形の基になる送信信号16(1)を高周波の送信周波数信号に変換して方向性結合器18(1)へ出力する。方向性結合器18(1)はまた、受信周波数Σ変換器19(1)と接続される。受信周波数Σ変換器19(1)は、方向性結合器18(1)から与えられる受信信号の受信周波数を、後述するΣ変換により受信和信号25(1)として、サブアレイモジュール12(1)外部の誘導処理部8へ送出する。
【0019】
さらに、縦方向合成比較器20(1)は、受信周波数Δ変換器21(1)と接続される。受信周波数Δ変換器21(1)は、縦方向合成比較器20(1)から直接与えられる受信信号の受信周波数を後述するΔ変換により受信差信号26(1)として、サブアレイモジュール12(1)外部の誘導処理部8へ送出する。
【0020】
さらに、サブアレイモジュール12(1)への制御を行なうべく、誘導処理部8はさらに、送信制御器22、送受信切換器23、移相量設定器24と接続され、これらに対してそれぞれ制御信号を出力している。
【0021】
送信制御器22は、誘導処理部8からの制御信号により、送受信モジュール15(1,1)~15(1,M))の送信状態の入切を制御する。
【0022】
送受信切換器23は、誘導処理部8からの制御信号により、送受信モジュール15(1,1)~15(1,M)の送信状態と受信状態を切り換える。
【0023】
移相量設定器24は、誘導処理部8からの制御信号により、送受信モジュール15(1,1)~15(1,M)に対して送信/受信時の高周波信号の通過位相を制御するための移相量データを出力する。
【0024】
次に、
図3により飛しょう体1から目標2に向けて照射電波10を送出する際の誘導制御装置3での信号の流れを説明する。
誘導処理部8は、送信制御器22を介して、すべての送信モジュール15(1,1)~15(N,M)のうち、送信状態を許可したい送信モジュール15を選択指定するための「送信可」または「送信不可」の制御データを転送する。
【0025】
次に誘導処理部8は、送受信切換器23を介して、すべての送信モジュール15(1,1)~15(N,M)に「送信状態」を指示する。同時に誘導処理部8は、移相量設定器24を介して、すべての送信モジュール15(1,1)~15(N,M)に、特定の方向に送信アンテナパターンが形成されるように、それぞれに特定の「移相量データ」を設定する。
【0026】
次に誘導処理部8は、照射電波10の波形の基になる送信信号16(1)~16(N)を送信周波数変換器17(1)~17(N)に出力する。
【0027】
送信周波数変換器17(1)(~17(N))は、入力した高周波信号を、方向性結合器18(1)(~18(N))を介して縦方向合成比較器20(1)(~20(N))に出力する。さらに縦方向合成比較器20(1)(~20(N))は、各サブアレイモジュール12(1)(~12(N))内のそれぞれM個の送受信モジュール15(1,1)~15(1,M)(~((15(N,1)~15(N,M)))に高周波信号を分配する。
【0028】
M個の各送受信モジュール15(1,1)~15(1,M)(~(15(N,1)~15(N,M)))では、縦方向合成比較器20(1)(~20(N))から入力した高周波信号を、誘導処理部8から移相量設定器24を介して設定された移相量に基づいて通過位相を制御したのち、接続されている送信アンテナ13(1,1)(~13(N,M))へ出力する。
【0029】
こうして、すべての送信アンテナ13(1,1)~13(N,M))から高周波信号を空間に送出することで、照射電波10を目標2の方向に向けて放射する。
【0030】
次に、
図3を用いて、目標2からの反射電波11を誘導制御装置3で受信する際の信号の流れを説明する。
誘導処理部8は、一定期間に照射電波10を送出したのち、送受信切換器23への制御信号により、すべての送受信モジュール15(1,1)~15(N,M)に「受信状態」となるよう指示する。次に、すべての送受信モジュール15(1,1)~15(N,M)に特定の方向に受信アンテナパターンが形成されるように、移相量設定器24への制御信号により、それぞれ特定の移相量データを設定させる。
【0031】
この状態で、目標2から到来した反射電波11は、すべての受信アンテナ14(1,1)~14(N,M)で受信され、高周波信号として送受信モジュール15(1,1)~15(N,M)に出力される。
【0032】
すべての送受信モジュール15(1,1)~15(N,M)では、誘導処理部8から移相量設定器24を介して設定された移相量に基づいて通過位相を制御する。
【0033】
ここで、あらためてサブアレイモジュール12(1)~12(N)での動作を、サブアレイモジュール12(1)を代表として説明する。
サブアレイモジュール12(1)では、内部のM個の送受信モジュール15(1,1)~15(1,M)から出力された高周波信号が、縦方向合成比較器20(1)へ出力され、さらに縦方向合成比較器20(1)は、M個の送受信モジュール15(1,1)~15(1,M)からの高周波信号をすべて合成し、方向性結合器18(1)を介して、受信周波数Σ変換器19(1)へ出力する。
【0034】
受信周波数Σ変換器19(1)は、入力した高周波信号を周波数変換し、さらにデジタル信号化したのちに受信和信号25(1)として、誘導処理部8に伝送する。
【0035】
一方、縦方向合成比較器20(1)は、内部のM個の送受信モジュール15(1,1)~15(1,M)のうち、送受信モジュール15(1,1)~15(1,M/2)から出力された高周波信号の合成と、送受信モジュール15(1,1+M/2)~15(1,M)から出力された高周波信号の合成との差を算出し、受信周波数Δ変換器21(1)へ出力する。
【0036】
受信周波数Δ変換器21(1)は、縦方向合成比較器20(1)から入力した差となる高周波信号を周波数変換し、さらにデジタル信号化したのちに受信差信号26(1)として、誘導処理部8に伝送する。
【0037】
これらのサブアレイモジュール12(1)での処理は、サブアレイモジュール12(2)~12(N)でも並行して実施されることで、受信和信号25(1)~25(N)と受信差信号26(1)~26(N)が並行して誘導処理部8へ伝送される。
【0038】
[誘導処理部の動作]
以下、本実施形態の誘導制御装置3における動作の詳細を説明する。
まず誘導制御装置3の誘導処理部8は、アンテナ部7のサブアレイモジュール12(1)~12(N)に対して、送信状態と受信状態を指定する。まず、誘導処理部8は、アンテナ部7に対して送信状態を指定し、各サブアレイモジュール12(1)~12(N)に送信動作を実行させる。このときに誘導処理部8は、照射電波10の波形の基となるデータを生成する。
【0039】
飛しょう体1から目標2に向けて照射電波10を送出する際の信号の流れは前述した通りである。照射電波10は、目標2をほぼ直上の地点から、目標2の高度方向の範囲を高分解能で観測できるように広帯域変調を実施した送信波形として生成され、目標2とその周辺の海面とに照射される。
【0040】
なお、高周波信号の広帯域変調の方法については、例えば技術文献1(「High-Resolution Radar Second Edition, Donald R. Wehner, Artech House, Boston/London (March 1987)」Chapter 4:High-Range-Resolution Waveforms and Processing.)に示されているように、チャープ変調、位相変調等の一般的な方法によるものとする。
【0041】
誘導処理部8から生成された送信波形を基に照射電波10が空間に照射されたのち、誘導処理部8は、各サブアレイモジュール12(1)~12(N)に対して受信状態を指定する。受信期間中は一定のタイミングでデータをサンプルし、サンプルしたデータの復調を実施して観測波形を得る。復調の方式に関しては、前記と同様に広帯域変調の方法に合わせた復調方法を採るものとし、技術文献1に示されるような、チャープ変調、位相変調等の一般的方法によるものとする。
【0042】
前記の照射電波10を送信したのちに、目標2を含む周辺の海面域からの反射電波11を受信する動作は、飛しょう体1を目標2に向けてホーミングさせるための誘導信号を更新する期間の中でK回繰り返して実施し、各サブアレイモジュール12(1)~12(N)が受信したK個の観測波形を統合する処理を実施することで目標2を検出する動作が実行される。
【0043】
図5は、目標2の方向の定義について説明する図である。
図5(A)は、目標2を側方から見た図であり、目標高度方向の定義と、側方から見たときの目標2の船体2bと上構2tを示している。
【0044】
さらに
図5(B)は目標2を上方から見た図であり、目標長方向と目標幅方向の定義と、上方から見たときの目標2の船体2bと上構2tを示している。
【0045】
以下、観測波形を統合する処理の動作を
図6乃至
図15を用いて説明する。
図6は、誘導処理部8において目標2の観測波形を統合し、特定部位に向けてホーミングする際に実行する、一連の処理内容を示すフローチャートである。
【0046】
誘導処理部8は、データ抽出処理S11、データ相関処理S12、目標観測処理S13、観測軸制御処理S14、目標軸ロール角判定S15、姿勢角指令処理S16(またはS特徴量抽出処理17および誘導指令処理S18を繰り返し実行する。
【0047】
データ抽出処理S11において誘導処理部8は、目標2の形状に応じた波形データを抽出する。
【0048】
図7(A)は、飛しょう体1が目標2のほぼ直上から垂直に降下しながら、目標2を観測している環境を示している。
図7(B)は、誘導指令信号を更新する周期内でK回観測を実施するうちの1回目に受信周波数Σ変換器19(1)~19(N)で得られる受信和信号25(1)~25(N)の代表例、
図7(C)は、同1回目に受信周波数Δ変換器21(1)~21(N)で得られる受信差信号26(1)~26(N)の代表例を示す。
【0049】
なお、この受信和信号(1)~25(N)と受信差信号26(1)~26(N)は、前述した技術文献1に示されるような広帯域の変調と復調が実施されて、目標2に対する高分解能での観測が実現されている波形である。
【0050】
受信和信号25(1)~25(N)のそれぞれにおいて、一般に使用されるように、雑音と信号を分離する検出閾値を設けて信号範囲を取り出す。さらに、別途、高度観測により得られた海面高度情報から観測波形における海面範囲の信号範囲を除去して、目標範囲のみを抽出する。こうして、1回目の観測波形におけるRA1からRB1の目標範囲のみのL個のデータを抽出して、抽出波形とする。
【0051】
ここで、RA1からRB1に至る間は、目標2を略直上方向から観測したときの距離で、目標2の高度方向の範囲に相当する。したがって、以下においては、L個の信号情報一つ一つを高度セルと定義する。
【0052】
受信差信号26(1)~26(N)については、受信和信号25で目標範囲とした範囲をそのまま取り出して抽出波形とする。
【0053】
続く
図8は、誘導指令信号を更新する周期内でK回観測を実施するうちの代表するk回目の観測を示す。2回目以降の抽出は、1回目の抽出範囲と合わせるため、飛しょう体1の降下時の移動速度V
Mと観測時間間隔T
Pを使用して、受信和信号25(1)~25(N)、受信差信号26(1)~26(N)ともに、次式で示すR
Ak~R
Bkの範囲を取り出して抽出波形とする。すなわち、
R
Ak=R
A1-V
M・T
P・(k-1) (k=2…K)
R
Bk=R
B1-V
M・T
P・(k-1) (k=2…K)
となる。
【0054】
次にデータ相関処理S12を
図9および
図10を用いて説明する。
【0055】
図9は、N個のサブアレイモジュール12(1)~12(N)での受信和信号25(1)~25(N)を、観測順序で並べたK回分の抽出波形を示す図である。
【0056】
図9において、サブアレイモジュール12(1)~12(N)での各抽出波形は、同じ高度セルで纏められて、次式の観測ベクトルを得る。すなわち、
X
k(i)=[x
1,x
2,…,x
N]
T (k=1…K)(i=1…L)
となる。
【0057】
この式は、k回目の観測における抽出波形のi番目のデータをベクトルとしたものである。次にこのベクトルと、ベクトル自身の共役転置ベクトルとの乗算によって以下の観測行列を算出する。すなわち、
Σ
kk(i)=X
k(i)・X
k(i)
H (k=1…K)(i=1…L)
図9では、前記行列をXIkとして示している。K回の観測が終了した段階で、全期間で得られた前記の観測行列を、行列の同じ要素同士(XI1~XIK)で平均することで、以下の観測相関行列を得る。
【0058】
【0059】
この観測相関行列の算出を、抽出範囲の各高度セルL個についてそれぞれ実施する。
【0060】
同様に、
図10は、N個のサブアレイモジュール12(1)~12(N)での受信差信号26(1)~26(N)を、観測順序で並べたK回分の抽出波形を示す図である。
【0061】
図10において、サブアレイモジュール12(1)~12(N)での各抽出波形は、同じ観測タイミングで纏められて、次式の観測ベクトルを得る。すなわち、
D
k(i)=[δ
1,δ
2,…,δ
N]
T (k=1…K)(i=1…L)
となる。
【0062】
この式は、k回目の観測における抽出波形のi番目のデータをベクトルとしたものである。次にこのベクトルと、受信和信号25(1)~25(N)のベクトルの共役転置ベクトルとの乗算によって、以下の観測行列を算出する。すなわち、
Δ
kk(i)=D
k(i)・X
k(i)
H (k=1…K)(i=1…L)
図10では、前記行列をΔIkとして示している。K回の観測が終了した段階で、全期間で得られた前記の観測行列を、行列の同じ要素同士(ΔI1~ΔIK)で平均することで、以下の観測相関行列を得る。
【0063】
【0064】
この観測相関行列の算出を、抽出範囲の各高度セルL個についてそれぞれ実施する。
【0065】
次に、
図11を用いて、観測相関行列を得たあとの目標観測処理S13について説明する。
図11(A)および
図11(B)に示すように、各高度セルL個について、受信和信号25(1)~25(N)の観測相関行列を使用し、角度θ
mを次式でθ
1~θ
Mまで順次変化させて、
図11(C)に示す角度変数θ
mに対する電力特性を算出する。以下は高度セルi番目の電力特性P
i(θ
m)を算出する式である。これは、技術文献2(「アクティブアンテナ技術(菊間信良 著、株式会社オーム社、平成15年10月10日第1版第1刷発行)、4.2項 高分解能到来方向推定 p.126-p.129。」)のビームフォーマ法の技術に相当する。
【0066】
【0067】
前記の処理により、
図4と
図11の横方向の角度観測でビーム走査を順次実施したときの、高度セルiでの電力特性が得られる。
【0068】
同様に、各高度セルについて、受信差信号26(1)~26(N)と受信和信号25(1)~25(N)の観測相関行列を使用して、角度θ
mを次式でθ
1~θ
Mまで順次変化させて、
図11(D)に示す角度変数θ
mに対する測角特性を算出する。以下は、高度セルi番目の測角特性ε
i(θ
m)を算出する式である。
【0069】
【0070】
前記の処理により、
図4と
図11の角度観測(縦方向)でモノパルス測角を順次実施したときの高度セルiでの測角特性が得られる。
【0071】
得た電力特性Pi(θm)を使用して、一定の検出閾値以上の電力値が得られている角度範囲を求め、その最小角度θS1iと最大角度θS2iを求める。
【0072】
さらに最小角度θS1iと最大角度θS2iの範囲に対応する測角特性を抽出する。この抽出した測角特性を直線近似し、そのときの傾きAiと切片Biから以下の測角特性の代表値を求める。
【0073】
【0074】
以上の角度情報を使用して次式で示される角度を算出する。この角度は、
図4と
図11に示すアンテナ部7における角度観測(横方向)と、
図5と
図11に示す目標2の目標長方向とが成す角度に近似的に一致する。これを次式で示す目標ロール角Φ
iとする。
【0075】
【0076】
次に、観測軸制御処理S14について説明する。観測軸制御処理S14においては、目標観測処理29で得られた各電力特性、測角特性のうち、電力特性の角度幅、すなわち、
ΔθSi=θS2i-θS1i (i=1…L)
が最大となる高度セル(i=LMAX)における目標ロール角Φi(i=LMAX)を使用して、アンテナの角度観測(横方向)と目標長方向とを整合させるための処理を実施する。
【0077】
具体的には、目標軸ロール角判定処理S15において、ゼロに近い規定値ΔΦと目標ロール角Φi(i=LMAX)の絶対値とを比較して、目標ロール角Φiが規定値ΔΦを超えているか否かを判定する。
【0078】
目標ロール角Φiが規定値ΔΦを超えていると判定した場合、姿勢角指令処理S16に移行する。姿勢角指令処理S16においては、目標ロール角Φi(i=LMAX)をロール姿勢角を制御するための指令値として制御処理部9に出力し、制御処理部9がロール姿勢角を変更する操舵信号を操舵部6に出力する。
【0079】
誘導処理部8では、再び、データ抽出処理S11に戻り、あらたな目標ロール角Φi(i=LMAX)を算出しながら、目標ロール角Φi(i=LMAX)が規定値ΔΦ未満となるまで、姿勢角指令処理S16を継続して実行する。これにより、アンテナの角度観測(横方向)と目標長方向との整合を実現する。
【0080】
アンテナの角度観測(横方向)と目標長方向が整合した段階、すなわち、目標ロール角Φ
i(i=L
MAX)が規定値ΔΦ未満となったと目標軸ロール角判定処理S15で判定した時点で、特徴量抽出処理S17に移行する。
図12から
図14を使用して特徴量抽出処理S17を説明する。
【0081】
図12は、高度セルとして目標2の船体2b付近(高度セルi=b)を選択したときの、電力特性P
b(θ
m)(
図12(C))と測角特性ε
b(θ
m)(
図12(D))を示している。
【0082】
特徴量抽出処理S17に移行する段階においては、その前に必要に応じて繰り返し実行した姿勢角指令処理S16により、目標ロール角がほぼゼロに近くなっているため、
図4に示したアンテナの角度観測(横方向)は、
図5に示した目標2の目標長方向にほぼ一致していることになる。
【0083】
したがって、電力特性Pb(θm)で検出閾値以上の電力値が得られている角度範囲
(θb1~θb2)は、目標2の目標長に対応する。すなわち、目標2の船体付近の高度セルbでの推定目標長LRbを以下の式
LRb≒H(b)・tan(θb2-θb1) (θb2>θb1)
により算出する。式中、H(b)は高度セルi=bに対応する具体的な高度数値である。
【0084】
一方、測角特性ε
b(θ
m)の直線近似結果はほぼ傾きがゼロとなり、その平均値は、目標2の高度セルi=bでの目標幅の中心線、すなわち
図5に示す目標幅方向での目標軸のオフセット角に対応する。
【0085】
すなわち、目標2の船体付近の高度セルbで推定される目標軸の、飛しょう体1のアンテナから見たオフセット角Δψbを得る。
【0086】
同様に、
図13は、高度セルとして目標2の上構2t付近(i=t)を選択したときの、電力特性P
t(θ
m)(
図12(C))と測角特性ε
t(θ
m)(
図12(D))を示しており、それぞれの結果から、目標2の上構2t付近について推定される目標長LR
tと目標軸のオフセット角Δψ
tを以下の式
LR
t≒H(b)・tan(θ
t2-θ
t1) (θ
t2>θ
t1)
により算出する。
【0087】
特徴量抽出処理S17の後、誘導処理部8では誘導指令処理S18を実行する。
図14(A)は、誘導指令処理S18において、目標2の船体2b付近と上構2t付近とで推定した目標長と目標軸をそれぞれ使用して、目標特定点、すなわちホーミングにより誘導すべき目標2の特定部位の指定を行う処理のサブルーチンのフローチャートである。
【0088】
目標2の船体2b付近で推定される目標軸のオフセット角Δψ
bを算出し(S21)、上構2t付近で推定される目標軸のオフセット角Δψ
tを算出して(S22)、それらの軸間角度差を算出する(S23)。このとき、
図14(C)に示すように、通常船舶のようなほぼ左右が対称な形状の目標2においては、船体2bの推定目標軸と上構2tの推定目標軸とで軸間角度差に有意な差は生じない。一方、
図14(B)に示すように、航空母艦のような船舶では、上構2tの推定目標軸が船体2bの推定目標軸に対して非対称な位置に設置されており、軸間角度差に有意な差が生じる。
【0089】
前記の特徴を活用して、軸間角度差が予め設定した規定値以上であるか否かにより、軸間角度差に有意な差が生じる否かを判定する(S24)。
【0090】
軸間角度差が規定値以上であって、有意な差があると判定した場合には、観測対象としている目標2が航空母艦であるものとして、事前に得ている航空母艦の形状情報と観測から推定される目標長に基づいて飛行甲板上の重要位置等を特定点として指定する(S25)。
【0091】
また、前記の特徴を活用して、軸間角度差が規定値未満であり、有意な差がないと判定した場合には、観測対象としている目標2は通常の船舶であるものとして、一般に船橋等の重要部位が設置されている、前方から1/3程度の位置を特定点として指定する(S26)。
【0092】
最後に
図15により、目標2上に指定された特定点に対してホーミングするのに必要となる誘導指令角の算出について説明する。
【0093】
目標2の特定点に向けてホーミングするため、観測しているアンテナ座標での特定点方向を指定する。目標2の上に設定した特定点に対して、横方向観測軸との角度差を誘導横指令角とし、また、縦方向観測軸との角度差を誘導縦指令角とする。
【0094】
図4で説明した角度観測の縦横各方向と、
図5で説明した目標幅方向および目標長方向とがほぼ整合していることから、前記の誘導横指令角と誘導縦指令角を、そのまま特定点への誘導に使用できる。
【0095】
具体的には、目標2の特定点へのホーミングに向けて、この誘導横指令角と誘導縦指令角を制御処理部9へ出力する。制御処理部9においては、この角度を吸収する制御、すなわち一般の比例航法または経路角指令等により飛しょう体1を制御する操舵信号を生成し、操舵装置6へ出力することで、目標2の設定した特定点へのホーミングを実現する。
【0096】
図14の誘導指令処理S18のサブルーチンを一旦終了すると、
図6のメインルーチンルーチンにおいてもデータ抽出処理S11からの処理に戻り、以後同様の動作を繰り返し実行することにより、飛しょう体1が目標2の特定点に到達するまで、ホーミングを継続する。
【0097】
以上詳述した如く本実施形態によれば、海面上の船舶などを目標とし、目標の船体と上構を分離して認識した状態を維持して誘導することが可能となる。
【0098】
また、本実施形態では、アンテナ部7において、アレイアンテナのメインビームを目標本体の長軸方向の範囲を含んで走査するデジタルビームフォーミングの形態を採るモノとしたので、アダプティブアンテナとしての最適化アルゴリズムの適用が容易となり、誘導処理部8での演算処理をより高速化できる。
【0099】
さらに、本実施形態では、目標2の船体2bの形状の長手方向と直交する幅方向を、モノパルス測角を用いた観測により推定するようにしたので、飛しょう体1のアンテナ部7から見た目標2の進行方向の傾きを効率的に算出できる。
【0100】
加えて、本実施形態では、アンテナ部7の送受信角度と目標2の進行方向とに応じて飛しょう体1のロール角を制御するようにしたので、ロール角の制御後に目標2の船体2bと上構2tの形状や位置を認識する際の演算処理量を軽減できる。
【0101】
また、本実施形態では、アンテナ部7の定義上の横方向を目標2の船体2bの形状と合わせることで、船体2bの長手方向の長さと中心軸位置とを推定するものとして、形状の認識に要する演算処理量を軽減できる。
【0102】
さらに、本実施形態では、目標2の船体2bの推定中心軸と上構2tの推定中心軸とのオフセット角の大小により、目標2の種類を判定するようにしたため、特に上構2tが船体2bの推定中心軸から偏在している形状の船舶を簡易かつ確実に判定することができる。
【0103】
加えて、本実施形態では、特に上構2tが船体2bの推定中心軸から偏在している形状の船舶であるか否かの判定結果によって、飛しょう体1を誘導する目標2中の特定点を制御するようにしたので、誘導対象に合わせて、より効率的に飛しょう体1を運用できる。
【0104】
なお本実施形態では、海面上の船舶を目標2とした飛しょう体1が目標近辺の上空で垂直降下する際の、飛しょう体1に搭載された誘導制御装置3での動作について説明したが、本実施形態は、海面上の船舶を目標として限定するものではなく、例えば地表面上の車両等を目標とする場合にも適用可能である。
【0105】
また、飛しょう体1が略鉛直方向に沿って垂直降下する場合に限らず、目標2が移動する平面に対して、水平方向の飛しょうも含んで斜めに下降する場合の動作にも同様に適用可能であるものとする。
【0106】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0107】
1…飛しょう体、2…目標(船舶)、2b…船舶本体、2t…上構、
3…誘導制御装置、5…推進装置、6…操舵装置、7…アンテナ部、
8…誘導処理部、9…制御処理部、10…照射電波、11…反射電波、
12(1)~12(N)…サブアレイモジュール、
13(1,1)~13(N,M)…送信アンテナ、
14(1,1)~14(N,M)…受信アンテナ、
15(1,1)~15(N,M)…送受信モジュール、16(1)~16(N)…送信信号、
17(1)~17(N)…送信周波数変換器17、18(1)~18(N)…方向性結合器、
19(1)~19(N)…受信周波数Σ変換器、20(1)~20(N)…縦方向合成比較器、
21(1)~21(N)…受信周波数Δ変換器、22…送信制御器、23…送受信切換器、
24…移相量設定器、25(1)~25(N)…受信和信号、
26(1)~26(N)…受信差信号、FL…飛しょうライン、
SL…海面、SP…誘導開始点。