(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】保持装置、およびリソグラフィ装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240109BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01L21/68 P
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2020023663
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新美 哲平
(72)【発明者】
【氏名】石井 智裕
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/194255(WO,A1)
【文献】特開平8-66887(JP,A)
【文献】特開2003-145377(JP,A)
【文献】特開平4-359539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空吸引によって物体を保持する保持装置であって、
前記物体が載置される保持面の上に形成された第1吸引部および第2吸引部を有する保持部と、
前記第1吸引部と真空源とを接続し気体が流通する第1流路と、
前記第2吸引部と前記真空源とを接続し気体が流通する第2流路と、
前記第1流路から分岐して気体が流通する第3流路と、
前記第2流路から分岐して気体が流通する第4流路と、
第5流路と、
前記真空源と接続して気体が流通する第6流路と、
前記第5流路に配置され、前記第5流路内の圧力または気体流量を計測する計測部と、
前記第3流路と前記第5流路とを接続し、前記第3流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを制限する第1制限部と、
前記第4流路と前記第5流路とを接続し、前記第4流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを制限する第2制限部と、
前記第5流路と前記第6流路とを接続し、前記第5流路から前記第6流路へ向かう気体の流れを制限する第3制限部と、
を有することを特徴とする保持装置。
【請求項2】
前記第1流路内に圧力損失を与える第1圧力損失発生部と、
前記第2流路内に圧力損失を与える第2圧力損失発生部と、
を更に有することを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項3】
前記第1圧力損失発生部による圧力損失量および前記第2圧力損失発生部による圧力損失量は、前記真空源によって前記第1流路および前記第2流路内の気体吸引が行われている間に前記第6流路から前記第5流路へ流入する気体の量が前記計測部の公差範囲内に相当する量になるように設定されている、ことを特徴とする請求項2に記載の保持装置。
【請求項4】
前記第1圧力損失発生部は、前記第1流路における前記第1吸引部から前記真空源に向かう気体の流れに対して圧力損失を増加させるように配置された絞り弁であり、
前記第2圧力損失発生部は、前記第2流路における前記第2吸引部から前記真空源に向かう気体の流れに対して圧力損失を増加させるように配置された絞り弁である、
ことを特徴とする請求項2または3に記載の保持装置。
【請求項5】
前記第1圧力損失発生部は、前記第1流路における前記第1吸引部から前記真空源に向かう気体の流れに対して圧力損失を増加させるように配置された落下防止弁であり、
前記第2圧力損失発生部は、前記第2流路における前記第2吸引部から前記真空源に向かう気体の流れに対して圧力損失を増加させるように配置された落下防止弁である、
ことを特徴とする請求項2または3に記載の保持装置。
【請求項6】
前記第1圧力損失発生部および前記第2圧力損失発生部は、前記真空源によって前記第1流路および前記第2流路内の気体吸引が行われている間に前記第6流路から前記第5流路へ流入する気体の量が前記計測部の公差範囲内に相当する量になるような、径および長さを持つ流路を含む、ことを特徴とする請求項3に記載の保持装置。
【請求項7】
前記第1圧力損失発生部によって前記第1流路内に与えられる圧力損失の量と、前記第2圧力損失発生部によって前記第2流路内に与えられる圧力損失の量が異なる、ことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項8】
前記計測部が配置されている前記第5流路の真空状態を解除する真空開放機構を更に有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項9】
前記第1制限部は、前記第5流路から前記第3流路へ向かう気体の流れを許容し前記第3流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを制限する逆止弁であり、
前記第2制限部は、前記第5流路から前記第4流路へ向かう気体の流れを許容し前記第4流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを制限する逆止弁であり、
前記第3制限部は、前記第6流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを許容し前記第5流路から前記第6流路へ向かう気体の流れを制限する逆止弁である、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項10】
前記第1制限部は、前記第3流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを調整するスピードコントローラであり、
前記第2制限部は、前記第4流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを調整するスピードコントローラであり、
前記第3制限部は、前記第5流路から前記第6流路へ向かう気体の流れを調整するスピードコントローラである、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項11】
前記保持面に対して昇降する複数のリフトピンを有し、
前記複数のリフトピンのそれぞれは、前記物体を載置する載置面と、前記載置面に連通された吸引孔とを有し、
前記第1吸引部および前記第2吸引部はそれぞれ、前記複数のリフトピンのうちの1つ以上のリフトピンを含み、
前記第1吸引部における前記吸引孔が前記第1流路に連通され、前記第2吸引部における前記吸引孔が前記第2流路に連通される、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項12】
前記保持面は、前記物体を吸着するための複数の吸着溝を有し、前記複数の吸着溝のそれぞれは吸引孔に連通されており、
前記第1吸引部および前記第2吸引部はそれぞれ、前記複数の吸着溝のうちの1つ以上の吸着溝を含み、
前記第1吸引部における前記吸引孔が前記第1流路に連通され、前記第2吸引部における前記吸引孔が前記第2流路に連通される、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項13】
基板にパターンを形成するリソグラフィ装置であって、
前記基板を保持する、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の保持装置を有することを特徴とするリソグラフィ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持装置、およびリソグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板にパターンを形成するリソグラフィ装置は、原版または基板等の物体を保持するための保持装置を有する。保持装置において、原版または基板を保持する方式としては、真空吸引方式と静電吸着方式がある。
【0003】
リソグラフィ装置の安定した運用のためには、以下のようなことを確実に確認することが必要である。
(a)物体が正しく保持装置に設置されていること。
(b)装置がいったんシャットダウンされた後、再度立ち上げられた時に、物体が保持装置から取り除かれ、手作業等で物体が保持装置上に置かれる等されていないこと。
【0004】
本明細書において、保持装置上に物体が載置されていることを「在荷 (load presence)」という。従来、在荷の確認は、例えば、光電変換素子を用いたフォトスイッチや接触スイッチ等の検出スイッチを用いて行われる。しかし、設置スペースの制約から、そのような検出スイッチを配置できない場合がある。その場合、真空吸引方式の保持装置においては、吸引孔の圧力を検出して在荷を確認する方法がとられる。特許文献1は、複数の吸引孔のそれぞれに対して圧力センサを配置した構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保持装置は、一般に、搭載面に対して物体を載置または浮上させる際に出没する複数の支持ピンを備える。複数の支持ピンのそれぞれの物体との当接部(すなわちピンの先端部)に、吸引孔が設けられる。従来、支持ピンの本数は3本が標準的であったが、近年は物体の大型化が進んでおり、物体の撓みを防止するため、支持ピンの本数を4本以上とする構成が増えている。
【0007】
しかし、支持ピンの本数を4本以上とすると、いずれかの吸引孔で吸着不良が起こりやすく、従来の在荷確認手法では、複数の吸引孔に1つでも吸着不良があると、在荷なしと誤検知されてしまう。そこで、特許文献1のように、吸引孔ごとに圧力センサを設置することも考えられるが、コスト増大および設置スペース増大が問題となりうる。
【0008】
本発明は、物体が載置されていることの検知性能の点で有利な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、真空吸引によって物体を保持する保持装置であって、前記物体が載置される保持面の上に形成された第1吸引部および第2吸引部を有する保持部と、前記第1吸引部と真空源とを接続し気体が流通する第1流路と、前記第2吸引部と前記真空源とを接続し気体が流通する第2流路と、前記第1流路から分岐して気体が流通する第3流路と、前記第2流路から分岐して気体が流通する第4流路と、第5流路と、前記真空源と接続して気体が流通する第6流路と、前記第5流路に配置され、前記第5流路内の圧力または気体流量を計測する計測部と、前記第3流路と前記第5流路とを接続し、前記第3流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを制限する第1制限部と、前記第4流路と前記第5流路とを接続し、前記第4流路から前記第5流路へ向かう気体の流れを制限する第2制限部と、前記第5流路と前記第6流路とを接続し、前記第5流路から前記第6流路へ向かう気体の流れを制限する第3制限部と、を有することを特徴とする保持装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、物体が載置されていることの検知性能の点で有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】在荷確認時の保持装置における気体の流れを説明する図。
【
図5】在荷確認時の保持装置における気体の流れを説明する図。
【
図7】在荷確認時の保持装置における気体の流れを説明する図。
【
図8】在荷確認時の保持装置における気体の流れを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
<第1実施形態>
本発明に係る保持装置は、真空吸引によって物体を保持する装置であって、例えば、原版のパターンを基板に形成するリソグラフィ装置に適用されうるものである。以下では、保持装置がリソグラフィ装置の一例である露光装置に適用された例を説明する。ただし、リソグラフィ装置は露光装置に限らず、他のリソグラフィ装置であってもよい。例えば、リソグラフィ装置は、荷電粒子線で基板(の上の感光剤)に描画を行う描画装置であってもよい。あるいは、リソグラフィ装置は、基板上のインプリント材を型で成形して基板にパターンを形成するインプリント装置であってもよい。
【0014】
図3は、本発明の保持装置が適用される、リソグラフィ装置の一例である露光装置300の概略図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。一般には、基板Wはその表面が水平面(XY平面)と平行になるように基板ステージの上に置かれる。よって以下では、基板Wの表面に沿う平面内で互いに直交する方向をX軸およびY軸とし、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とする。また、以下では、XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向という。
【0015】
露光装置300は、半導体デバイスの回路パターンが形成された原版であるレチクル303を用いて、その回路パターン基板Wに転写する装置である。露光装置300は、例えば、投影光学系306と基板Wとの間に液体を介在させずに基板Wを露光する露光装置でありうる。あるいは、露光装置300は、投影光学系306と基板Wとの間に液体を介在させて基板Wを露光する液浸露光装置であってもよい。
【0016】
照明光学系302は、光源301からの光を調整してレチクル303を照明する。投影光学系306は、照明されたレチクル303に形成されているパターンの像を基板Wに投影する。レチクルステージ304は、レチクル303を保持してX軸方向に移動しうる。基板ステージ313は、物体である基板Wを保持する保持装置Hを支持し、リニアモータ等の駆動機構(不図示)によって、保持装置H(すなわち基板W)を移動させる。
【0017】
露光装置300は、レチクルステージ304と基板ステージ313とによってレチクル303と基板Wを相対的に走査させながら、基板W上のレジストにパターンを形成する。干渉計314は、レチクルステージ304に配置されたミラー305にレーザ光を照射しその反射光を受光することにより、レチクル303の位置を検出する。干渉計311は、基板ステージ313に配置されたミラー312にレーザ光を照射しその反射光を受光することにより、基板Wの位置を検出する。検出系307は、基板Wに形成されているアライメントマーク(不図示)や基板ステージ313上に設けられた基準マーク(不図示)を検出する。
【0018】
制御部310は、レチクルステージ304、基板ステージ313、検出系307、干渉計304、干渉計311、および保持装置Hと接続されており、これらを統括的に制御する。例えば、露光処理時には、検出系307の検出結果に基づいてパターンの形成位置を決定し、干渉計314および干渉計311から得られる位置情報に基づいてレチクルステージ304、基板ステージ313を制御する。
【0019】
保持装置Hは、基板の保持部であるチャック308と、基板Wの搬入及び搬出時に基板Wを支持する複数のリフトピン30と、複数のリフトピン30を支持する支持部309とを有する。複数のリフトピン30は、チャック308の上面(基板の保持面)に対して昇降可能である。支持部309は、複数のリフトピン30を昇降させる昇降機構(不図示)を有する。基板搬送ハンドより基板Wが搬入される際、複数のリフトピン30はその上端がチャック308の上面よりも上になるように上昇移動し、基板搬送ハンドより基板Wを受け取る。制御部310は、基板搬送ハンドから複数のリフトピン30上へ基板Wが受け渡された際、基板が複数のリフトピン30上に正常に載置されたかを確認する在荷確認を行う。在荷確認により基板が正常に載置されたことが確認されると、複数のリフトピン30はその上端がチャック308の上面より下になるように下降移動し、これにより基板はチャック308の載置面に置かれる。なお、ここでは、複数のリフトピン30がチャック308の載置面に対して昇降する構成であるとしたが、複数のリフトピン30は固定でチャック308が昇降する構成としてもよい。
【0020】
図1は保持装置Hの具体的な構成例を示す図である。また、
図2はリフトピン30の構造を示す図であり、その上部には
図1におけるリフトピン30の拡大側面図が示され、下部にはリフトピン30の上端面を表す平面図が示されている。
【0021】
複数のリフトピン30は、チャック308の保持面308aの上で基板Wを真空吸引によって保持することができる。
図2に示すように、リフトピン30はその上端に、基板Wを載置する載置面31を有する。また、リフトピン30には載置面31に連通された中空部が形成されており、この中空部は基板Wを真空吸引するための吸引孔32として機能する。
【0022】
複数のリフトピン30は、複数のセクションに分割されうる。各セクションの吸引孔は1つの系統にまとめられて真空装置(真空源)と接続される。
図1の例では、複数のリフトピン30は、セクションA(第1吸引部)とセクションB(第2吸引部)に分割される。言い換えると、セクションAおよびセクションBはそれぞれ、複数のリフトピン30のうちの1つ以上のリフトピンを含む。なお、セクションに分割する理由は、多数のリフトピンの中から吸着異常を特定する工数を減らすためである。よって、本発明はセクションに分割することは必須ではない。セクションの分割をしない場合には、各リフトピン(各吸引孔)が各吸引部を構成する。
【0023】
セクションAにおける吸引孔32のそれぞれは、気体が流通する流路33Aと接続され、それぞれの流路33Aは第1流路1に合流され、第1流路1は接続ポートVaを介して真空装置Vと接続される。同様に、セクションBにおける吸引孔32のそれぞれは気体が流通する流路33Bと接続され、それぞれの流路33Bは第2流路2に合流され、第2流路2は接続ポートVaを介して真空装置Vと接続される。
【0024】
また、保持装置Hは、第1流路1から分岐して気体が流通する第3流路3と、第2流路2から分岐して気体が流通する第4流路4と、第3流路3と第4流路4とをつなぐ第5流路5とを有する。
【0025】
第3流路3の終端と第5流路5の一端とは、第1制限部11を介して接続される。第1制限部11は、第3流路3から第5流路5へ向かう気体の流れを制限する。第1制限部11としては、例えば、第5流路5から第3流路3へ向かう気体の流れを許容し第3流路3から第5流路5へ向かう気体の流れを阻止する逆止弁が使用されうる。
【0026】
第4流路4の終端と第5流路5の他端とは、第2制限部12を介して接続される。第2制限部12は、第4流路4から第5流路5へ向かう気体の流れを制限する。第2制限部12としては、例えば、第5流路5から第4流路4へ向かう気体の流れを許容し第4流路4から第5流路5へ向かう気体の流れを阻止する逆止弁が使用されうる。
【0027】
また、保持装置Hは、接続ポートVaを介して真空装置Vと接続される第6流路6を有し、第5流路5と第6流路6とが、第3制限部13を介して接続される。第3制限部13は、第5流路5から第6流路6へ向かう気体の流れを制限する。第3制限部13としては、例えば、第6流路6から第5流路5へ向かう気体の流れを許容し第5流路5から第6流路6へ向かう気体の流れを阻止する逆止弁が使用されうる。
【0028】
なお、第1制限部11には、逆止弁のかわりに、第3流路3から第5流路5へ向かう気体の流れを調整するスピードコントローラが使用されてもよい。また、第2制限部12にも、第4流路4から第5流路5へ向かう気体の流れを調整するスピードコントローラが使用されてもよい。同様に、第3制限部13にも、第5流路5から第6流路6へ向かう気体の流れを調整するスピードコントローラが使用されてもよい。
【0029】
第5流路5には、第5流路内の圧力または気体流量を計測する計測部8が配置される。計測部8は、第5流路5内の圧力を計測する圧力計であってもよいし、第5流路5内の気体流量を計測する気体流量計であってもよい。計測部8での計測結果は、処理部9に伝送される。処理部9は、CPUおよびメモリを備えるコンピュータによって構成されうる。なお、処理部9は、露光装置300における制御部310(
図3)によって実現されてもよい。
【0030】
第1流路1、第2流路2、第6流路6はそれぞれ、接続ポートVaに接続される。
図1の例において、第1流路1と第2流路2と第6流路6とは合流されたのち、接続ポートVaに接続されている。この場合、第1流路1と第2流路2と第6流路6との合流は、例えば十字継手を用いて行われうる。
【0031】
接続ポートVaは、第1流路1、第2流路2、第6流路6を、真空装置Vに連通するか大気開放口Vbに連通するかを選択的に切り換え可能な真空開放機構としての切換弁7を含みうる。切換弁7は例えば電磁切換弁でありうるが、その他の切換機構が用いられてもよい。切換弁7の制御は処理部9によって行われうる。複数のリフトピン30上の基板Wの在荷確認を行う際、および、基板Wが複数のリフトピン30上に存在すると判定されている際に、切換弁7は真空装置V側に切り換えられる。これにより、基板Wが不図示の搬送ハンドにより搬出された後、複数のリフトピン30上に基板Wがないと判定されると、切換弁7は大気開放口Vb側に切り換えられ、第6流路6を介して、計測部8が配置されている第5流路5の真空状態が解除される。
【0032】
また、第1流路1には、第1流路内に圧力損失を与える第1圧力損失発生部21が配置される。同様に、第2流路2には、第2流路内に圧力損失を与える第2圧力損失発生部22が配置される。真空装置Vによって第1流路1内の気体吸引が行われている間、第1圧力損失発生部21で圧力損失が発生することにより、第1圧力損失発生部21と真空装置Vとの間の第1流路1内の圧力は外気圧に対して負圧となる。また、真空装置Vによって第2流路2内の気体吸引が行われている間、第2圧力損失発生部22で圧力損失が発生することにより、第2圧力損失発生部22と真空装置Vとの間の第2流路2内の圧力は外気圧に対して負圧となる。このため、真空装置Vによって第1流路1および第2流路2内の気体吸引が行われている間に第6流路6から第3制限部13を介して計測部8が配置されている第5流路5に気体が流入することを防止できる。もっとも、このときに第6流路6から第5流路5への気体の流入を完全に阻止する必要はなく、計測部8によって検知しえない量、すなわち計測部8の公差範囲(計測誤差範囲)内に相当する量での気体の流入は許容されうる。よって、第1圧力損失発生部21および第2圧力損失発生部22での圧力損失量は、真空装置Vによる第1流路1内および第2流路2内の気体吸引中に第6流路6から第5流路5へ流入する気体の量が計測部8の公差範囲内に相当する量になるように設定される。
【0033】
第1圧力損失発生部21は、第1流路1におけるリフトピン30側から真空装置V側に向かう気体の流れに対して圧力損失を増加させるように配置された絞り弁でありうる。また、第2圧力損失発生部22は、第2流路2におけるリフトピン30側から真空装置V側に向かう気体の流れに対して圧力損失を増加させるように配置された絞り弁でありうる。これらの絞り弁のかわりに、同様の機能を備える落下防止弁が使用されてもよい。
【0034】
あるいは、第1圧力損失発生部21および第2圧力損失発生部22は、圧力損失が増加するように、それぞれ第1流路1の径よりも小さい径の流路および第2流路2の径よりも小さい径の流路によって構成されてもよい。あるいは、第1圧力損失発生部21および第2圧力損失発生部22は、それぞれ、所定の圧力損失を発生させるだけの長さを持つ流路によって構成されてもよい。また、そのような流路は迷路状に複数箇所で折り曲げられたラビリンス構造を有するように形成されてもよい。このように、第1圧力損失発生部21は、真空装置Vによる第1流路1内の気体吸引中に第6流路6から第5流路5へ流入する気体の量が計測部8の公差範囲内に相当する量になるような、径および長さを持つ流路を有する構造としてもよい。同様に、第2圧力損失発生部22は、真空装置Vによる第2流路2内の気体吸引中に第6流路6から第5流路5へ流入する気体の量が計測部8の公差範囲内に相当する量になるような、径および長さを持つ流路を有する構造としてもよい。
【0035】
基板Wを複数のリフトピン30によって支持する際、基板Wの撓み等のために基板Wがいずれかのリフトピン30の載置面31と接触しない場合がありうる。その場合、基板Wと接触していないリフトピン30の載置面31に連通されている吸引孔32から外気が進入しうる。しかし、本実施形態の構成によれば、第1制限部11、第2制限部12、第3制限部13の働きにより、その外気は計測部8が配置されている第5流路5には流入しない。そのため、基板Wがいずれかの載置面31と接触せず、いずれかのリフトピン30が吸着不良となっても、計測部8は負圧を検知することができ、処理部9は、基板Wの在荷確認を正確に行うことができる。
【0036】
また、本実施形態の構成によれば、セクションごとに計測部を設ける必要はなく、1つの計測部で在荷確認を行うことができる。したがって、設置スペースおよびコストの点においても有利である。
【0037】
ここで、複数のリフトピン30の載置面31の全てが基板Wと接触し、全てのリフトピン30で正常に吸着ができた場合を想定する。この場合、セクションAに関しては、流路33Aには外気の進入はないため、流路33A内の気体は第1流路1を介して真空装置Vへ流れ、流路33A内の圧力は外気圧に対して負圧となる。第1制限部11は-X方向への流れは自由流となるよう構成されているため、第5流路5内の流体は、第1制限部11を通り、第1流路1へと流れうる。
【0038】
また、セクションBに関しては、流路33Bには外気の進入はないため、流路33B内の流体は第2流路2を介して真空装置Vへ流れ、流路33B内の圧力は外気圧に対して負圧となる。第2制限部12はX方向への流れは自由流となるよう構成されているため、第5流路5内の流体は、第2制限部12を通り、第2流路2へと流れうる。
【0039】
以上より、第5流路5内の圧力は負圧となり、計測部8は負圧を検知し、処理部9は在荷ありと判定することができる。
【0040】
次に、複数のリフトピン30の載置面
31のうちのいずれかが基板Wと接触せず、いずれかのリフトピン30で吸着不良が発生しその吸引孔32から外気が進入している状態に想定する。この状態を
図4に示す。
図4では、セクションAにおけるリフトピン30で吸着不良が発生している。この場合、当該リフトピンの吸着孔32と連通している流路33Aに外気が進入するため、第1流路1内の圧力は外気圧と同等の圧力となる。第1制限部11は、+X方向の気体の流れを制限するように構成されているため、進入した外気は第1制限部11を通って第5流路5へ流れ込むことはない。そのため、進入した外気は、第1圧力損失発生部21を通過し真空装置Vへと流れる。このとき、第1圧力損失発生部21は進入した外気に対して圧力損失を与えるため、第1圧力損失発生部21より下流の第1流路1内の圧力は外気圧に対して負圧となる。
【0041】
一方、流路33Bには、外気の進入はないため、流路33B中の気体は第2流路2を通って真空装置Vへと流れ、第2流路2内の圧力は外気圧に対して負圧となる。第2制限部12は、+X方向の気体の流れは自由流であるため、第5流路5内の気体は第2流路2へ流れ、第5流路5内の圧力は負圧となる。したがって、計測部8は負圧を検知し、処理部9は在荷ありと判定することができる。
【0042】
次に、複数のリフトピン30上に基板Wが存在しないとき、または、複数のリフトピン30の載置面
31の全てが基板Wと接触しなかった場合を想定する。この状態を
図5に示す。この場合、全てのセクションで吸引孔32が開放されるため、流路33A、第1流路1、流路33B、第2流路2内の圧力は外気圧と同等となる。そのため、第5流路5内の気体は第1流路1および第2流路2へは流れない。このとき、第1圧力損失発生部21が、進入した外気に対して圧力損失を与えるため、第1圧力損失発生部21より下流の第1流路1内の圧力は外気圧に対して負圧となる。同様に、第2圧力損失発生部22が、進入した外気に対して圧力損失を与えるため、第2圧力損失発生部22より下流の第2流路2内の圧力は外気圧に対して負圧となる。しかし、第3制限部13は-Z方向の気体の流れを制限するように構成されているため、第5流路5内の気体は第6流路6へは流れず、第5流路5内の圧力は外気圧に近い値となる。したがって、計測部8は外気圧に近い値を検知し、処理部9は在荷なしと判定することができる。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、基板がいずれかの吸引孔と接触せずその吸引孔で吸着不良が発生した場合でも、該吸引孔から進入した外気が計測部8へ流入することが防止される。そのため、計測部8はいずれかの吸引孔で吸着不良があっても負圧を検出することができるため、基板が載置されているにもかかわらず在荷なしと誤検知されることを防ぐことができる。
【0044】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態における保持装置Hの構成を示す図である。この構成は、第1実施形態に係る
図1と概ね同様の構成であるが、第2実施形態では、第1圧力損失発生部21と第2圧力損失発生部22とで、通過する気体に与える圧力損失が異なる点に特徴がある。
【0045】
例えば、
図7に示すように、セクションAにおけるリフトピン30で吸着不良が発生し、外気が進入した場合を想定する。この場合、外気圧をP
o、第1圧力損失発生部21での圧力損失をP
a-drop、第2圧力損失発生部22での圧力損失をP
b-dropとすると、検出される圧力P
Aは、次式により表される。
P
A=P
o-P
a-drop+P
b-drop+P
A-Loss
ただし、P
A-Lossは流路内での圧力損失を表している。
【0046】
次に、
図8に示すように、セクションBにおけるリフトピン30で吸着不良が発生し、外気が進入した場合を想定する。この場合、外気圧をP
o、第1圧力損失発生部21での圧力損失をP
a-drop、第2圧力損失発生部22での圧力損失をP
b-dropとすると、検出される圧力P
Bは、次式により表される。
P
B=P
o-P
b-drop+P
a-drop+P
B-Loss
ただし、P
B-Lossは流路内での圧力損失を表している。
【0047】
このように、
図6における第1圧力損失発生部21と第2圧力損失発生部22とで、通過する気体に与える圧力損失の量が異なるようにしたので、吸着不良が発生したセクションが異なれば検出される圧力値も異なる。そのため、事前に各セクションでの吸着不良時における圧力値を記録しておくことで、吸着不良が発生した際に、吸着不良が発生したセクションを特定することが可能となる。
【0048】
なお、本実施形態では、セクションの数を2とした場合について説明したが、セクションの数が増加しても、各セクションに接続される圧力損失発生部の圧力損失を異なるものにしておけば、吸着不良が発生したセクションを特定することが可能である。そのため、吸着不良が発生したセクションに応じて、リフトピン30が保持面308aへ基板Wを受け渡す際のリフトピン30の駆動加速度を変更することで、受け渡しの際に生じる基板Wの位置ずれを低減するといった対処をとることができる。
【0049】
<第3実施形態>
上述した第1および第2実施形態においては、複数のリフトピン30によって基板Wを支持する際の在荷確認を行う構成を示した。第3実施形態では、チャック308の保持面308a上の基板Wの在荷確認を行う構成を示す。
図9は、第3実施形態における、チャック308の保持面308aの構成例を示す平面図である。保持面308
aは、基板Wを吸着するための、区分けされた複数の吸着溝801を有し、複数の吸着溝801それぞれの内部には少なくとも1つの吸引孔32が連通している。よって本実施形態では、各吸着溝が各吸引部を構成する。
【0050】
図10は、第3実施形態における保持装置Hの構成例を示す図である。リフトピンではなく吸着溝801の吸引孔32が流路33Aまたは流路33Bと接続されること以外は、
図1と同じ構成である。
図10の例においては、セクションA(第1吸引部)およびセクションB(第2吸引部)はそれぞれ、複数の吸着溝801のうちの1つ以上の吸着溝を含む。セクションAにおける吸引孔32は流路33Aを介して第1流路1に連通され、セクションBにおける吸引孔32は流路33Bを介して第2流路2に連通される。
【0051】
よって、この構成によっても、第1実施形態と同様に、基板Wの在荷確認を正確に行うことができる。もちろん、第2実施形態と同様の構成を適用することも可能である。
【0052】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0053】
1:第1流路、2:第2流路、3:第3流路、4:第4流路、5:第5流路、6:第6流路、8:計測部、9:処理部、11:第1制限部、12:第2制限部、13:第3制限部、30:リフトピン、308:チャック(保持部)、308a:保持面、V:真空装置、W:基板