(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】光学系、及びそれを用いた撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20240109BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B13/18
(21)【出願番号】P 2020027795
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】市村 純也
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03486810(US,A)
【文献】特開平07-253538(JP,A)
【文献】特開平09-033800(JP,A)
【文献】特開平03-156413(JP,A)
【文献】特開昭63-155015(JP,A)
【文献】実公昭47-005404(JP,Y1)
【文献】中国実用新案第209433112(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に配置された、正屈折力の前群と絞りと正屈折力の後群とからなる光学系であって、
前記前群は、物体側から像側へ順に配置された、正レンズL11と正レンズL12と負レンズL13と
からなり、
前記後群は、物体側から像側へ順に配置された、負レンズL21と正レンズL22と正レンズL23と
からなり、
前記正レンズL12と前記負レンズL13とは、接合されており、
前記負レンズL21と前記正レンズL22とは、空気間隔を介して配置されており、
前記前群の焦点距離をfF、前記後群の焦点距離をfR、前記正レンズL22の焦点距離をf22、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
1.00<fF/fR<2.00
f22/f>1.
50
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記負レンズL21の像側の面の曲率半径
の絶対値は、物体側の面の曲率半径
の絶対値よりも大きく、
前記負レンズL21の焦点距離をf21とするとき、
-2.00<f21/f<-0.50
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記正レンズL23は、物体側
の曲率の絶対値よりも像側の面の曲率
の絶対値が大きく、
前記正レンズL23の焦点距離をf23とするとき、
0.30<f23/f<1.10
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光学系。
【請求項4】
像側に凹面を向けたレンズの面の曲率半径の符号を正、像側に凸面を向けたレンズの面の曲率半径の符号を負とし、
前記前群の最も像側のレンズの面の曲率半径をR1a、前記後群の最も物体側のレンズの面の曲率半径をR2aとするとき、
|R1a
|<
|R2a
|
0.08<(R2a+R1a)/(R2a-R1a)<0.80
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項5】
像側に凹面を向けたレンズの面の曲率半径の符号を正、像側に凸面を向けたレンズの面の曲率半径の符号を負とし、前記負レンズL21の像側の面の曲率半径をR1b、前記正レンズL22の物体側の面の曲率半径をR2bとするとき、前記負レンズL21と前記正レンズL22との間に像側に凸面を向けた空気レンズが形成され、
(R2b+R1b)/(R2b-R1b)<-0.10
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項6】
前記正レンズL22は、像側に凸面を向けたメニスカスレンズであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項7】
前記正レンズL22は、非球面を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項8】
前記光学系の最も像側のレンズの面から像面までの距離をBFとするとき、
0.30<BF/f<0.70
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項9】
前記絞りから像面までの距離をLstとするとき、
0.60<Lst/f<1.00
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項10】
前記光学系の最も物体側のレンズの面から像面までの距離をTTLとするとき、
1.00<TTL/f<1.40
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項11】
前記正レンズL12の光軸上の厚さをd12、前記負レンズL13の光軸上の厚さをd13とするとき、
4.50<d12/d13<10.00
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項12】
前記正レンズL22の屈折率をN22、前記正レンズL23の屈折率をN23とするとき、
0.70<N22/N23<1.00
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項13】
前記前群を構成するレンズの平均屈折率をNdF、前記後群を構成するレンズの平均屈折率をNdRとするとき、
1.05<NdF/NdR<1.50
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項14】
請求項1乃至1
3のいずれか一項に記載の光学系と、該光学系からの光を受光する撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルカメラやビデオカメラなどの撮像装置に好適な光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、少ないレンズ枚数で諸収差を補正することができるダブルガウス型の光学系が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているようなダブルガウス型の光学系は、小型化に伴って対称性が崩れると、球面収差や像面湾曲などの諸収差を良好に補正することが難しくなる。特に光学系を大口径比とする場合、サジタルフレアや中間画角でのコマフレアを抑制することが難しくなる。
【0005】
そこで本発明は、小型かつ大口径比でありながら高い光学性能を有する光学系および撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての光学系は、物体側から像側へ順に配置された、正屈折力の前群と絞りと正屈折力の後群とからなる光学系であって、前記前群は、物体側から像側へ順に配置された、正レンズL11と正レンズL12と負レンズL13とからなり、前記後群は、物体側から像側へ順に配置された、負レンズL21と正レンズL22と正レンズL23とからなり、前記正レンズL12と前記負レンズL13とは、接合されており、前記負レンズL21と前記正レンズL22とは、空気間隔を介して配置されており、前記前群の焦点距離fF、前記後群の焦点距離fR、前記正レンズL22の焦点距離f22、前記光学系の焦点距離fは、所定の条件式を満足する。
【0007】
本発明の一側面としての撮像装置は、撮像素子と前記光学系とを有する。
【0008】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型かつ軽量で大口径の光学系および撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1、
図3、および、
図5はそれぞれ、実施例1~3の光学系(結像光学系)1a~1cの断面図であり、物体距離が無限である状態を示す。光学系1a~1cは、物体側から像側へ順に配置された、正屈折力の前群LFと、絞りSTOと、正屈折力の後群LRとからなる実質2群で構成されている。前群LFは、物体側から像側へ順に配置された、正レンズ(正屈折力のレンズ)L11と正レンズL12と負レンズ(負屈折力のレンズ)13の3枚のレンズから実質的に構成される。後群LRは、負レンズL21と正レンズL22と正レンズL23とから実質的に構成される。
【0013】
正レンズL11は、物体側に凸のメニスカスレンズであり、構成されるレンズの中で最も有効径が大きい。正レンズL12は、物体側に凸のメニスカスレンズであり、構成されるレンズの中で光軸上の厚さが最も厚い。負レンズL13は、物体側に凸のメニスカスレンズであり、絞りSTOに最も近いレンズである。正レンズL12と負レンズL13は、接着剤によって接合された接合レンズであり、組み合わせたときの屈折力は負である。負レンズL21は、物体側に凹のレンズであり、構成されるレンズの中で最も有効径が小さい。負レンズL21の像側の面の曲率半径は、物体側の面の曲率半径よりも大きい。正レンズL22は、像側に凸のメニスカス形状の非球面レンズであり、樹脂材料からなる。正レンズL23は、像側の面の曲率が強い両凸形状を有する。正レンズL23の物体側の面の曲率半径は、像側の面の曲率半径よりも大きい。
【0014】
図2、
図4、および、
図6はそれぞれ、光学系1a~1cの結像性能を示す収差図であり、物体距離が無限である状態を示す。左側からそれぞれ、球面収差、非点収差、歪曲収差、色収差を示している。球面収差において、実線はd線(587.56nm)、破線はf線(486.13nm)、一点鎖線はC線(656.27nm)、二点鎖線はg線(435.83nm)の収差を示している。横軸のスケールはデフォーカス量であり、-0.400~+0.400[mm]である。非点収差図において、実線はサジタル像面、点線はメリディオナル像面の像面湾曲を示している。横軸は、球面収差と同じである。歪曲収差においては、横軸のスケールが-5.000~+5.000[%]で示されている。色収差は、倍率色収差のd線からのずれを示しており、横軸のスケールは-0.050~+0.050[mm]である。
【0015】
光学系1a~1cは、従来の6枚構成のダブルガウス型レンズの後群接合を分離し、後群の各レンズの屈折力を弱めることで像面湾曲の発生を低減するとともに、正レンズL22に弱い屈折力の非球面を導入することで、中間画角のコマフレアの発生を抑制する。また光学系1a~1cは、絞りSTOを挟んで前群LFの屈折力を上げ、後群LRの屈折力を前群LFに対して相対的に下げる。これにより、絞りSTOを挟んでテレフォトの傾向を強め、光学系1a~1cのそれぞれにおいて最も物体側のレンズ面(レンズ第1面)から像面imgまでの長さを短くしている。
【0016】
ここで、前群LFの焦点距離をfF、後群LRの焦点距離をfRとするとき、以下の条件式(1)を満足する。
【0017】
1.00<fF/fR<2.00 …(1)
条件式(1)の上限を超えると、バックフォーカスが長くなりすぎ、光学系1a~1cの全長(レンズ全長)を短くすることが困難になるか、大口径化が困難になるため、好ましくない。一方、条件式(1)の下限を超えると、前群LFの負屈折力が不足して像面湾曲を抑制できないため、好ましくない。
【0018】
後群LRは、物体側に強い凹面を向けた弱い負レンズL21と、像側に強い凸面を向けた弱い正レンズL22と、正レンズL23とからなる。ここで、光学系1a~1c(全系)のそれぞれの焦点距離をf、正レンズL22の焦点距離をf22とするとき、以下の条件式(2)を満足する。
【0019】
f22/f>1.00 …(2)
負レンズL21の焦点距離をf21、正レンズL23の焦点距離をf23とするとき、以下の条件式(3)、(4)を満足することが好ましい。
【0020】
-2.00<f21/f<-0.50 …(3)
0.30<f23/f<1.10 …(4)
負レンズL21と正レンズL22の屈折力を弱くすることで像面湾曲の発生を抑え、
図2、
図4、および、
図6の収差図に示されるように、非点隔差を抑え、メリディオナル断面とサジタル断面の像面湾曲をそろえることができる。また、正レンズL23の屈折力をやや強めることで、後群LRの中で負、正のパワー配置とし、主点を物体側に移動することで、小型化と大口径化を容易にしている。また、負レンズL21および正レンズL22の屈折力を弱めることで、後群LRのレンズ径を小さく構成することができるため、光学系の小型化かつ軽量化を実現可能である。
【0021】
条件式(2)、(3)のそれぞれの上限を超えると、各レンズの屈折力が増加し、像面湾曲の発生が増えるとともに、偏心誤差による片ボケや偏心コマフレアの影響が大きくなるため、好ましくない。一方、条件式(3)の下限を超えると、屈折力が弱くなりすぎ、ペッツバール和の補正ができなくなるため、好ましくない。条件式(4)の上限または下限を超えると、光学系を大口径化しにくくなるか、像面湾曲が過剰に発生するため、好ましくない。
【0022】
また、正レンズL22を像側に凸のメニスカス形状の非球面レンズ(像側に凸面を向けたメニスカスレンズ)とすることが好ましい。これにより、光学系の小型化に伴って発生しうる中間画角のコマフレアを低減しつつ、像面湾曲と球面収差のバランスを取りやすくすることができる。絞りSTOよりも前側(物体側)には、強い屈折力を持つレンズを配置するため、製造上非球面化しにくい。一方、正レンズL22よりも像側に強い屈折力を持つレンズを配置すると、像面湾曲の補正効果は向上するが、レンズ径が大きくなり製造が難しくなる。また正レンズL22は、樹脂材料からなる非球面レンズであることが好ましい。正レンズL22は屈折力を抑えた構成を有するため、樹脂材料による熱的特性の変化に強く、また比重が軽いことから軽量化しやすいため、好ましい。
【0023】
ここで、前群LFの最も像側のレンズ面の曲率半径をR1a、後群LRの最も物体側のレンズ面の曲率半径をR2aとする。このとき、曲率半径R1aのレンズ面と曲率半径R2aのレンズ面とで空気レンズが形成される。空気レンズの像側の面の曲率半径は、物体側の面の曲率半径よりも大きく(R1a<R2a)、以下の条件式(5)を満足することが好ましい。
【0024】
0.08<(R2a+R1a)/(R2a-R1a)<0.80 …(5)
従来のダブルガウス型の光学系では、絞りの像側の強い負の曲率で軸上光線を大きく跳ね上げて球面収差を補正するため、サジタルフレアの補正が難しく、大きな非点隔差が発生する。一方、各実施例の光学系は、条件式(5)を満足することで、サジタルフレアの発生を抑制することができる。また各実施例において、絞りSTOの物体側の最も近い面の曲率を大きくすることで、前群LFを正、負のパワー配置として大口径化の実現が容易になる。
【0025】
条件式(5)の上限を超えると、曲率半径R1aが小さくなりすぎ(曲率が大きくなりすぎ)、製造性が低下するため好ましくない。一方、条件式(5)の下限を超えると、従来のダブルガウス型の光学系と同様に、曲率半径R2aが小さくなり(曲率が大きくなり)、空気レンズの形状が対称に近くなり、小型化した上でサジタルフレアを補正することが難しくなるため好ましくない。
【0026】
負レンズL21の像側のレンズ面の曲率半径をR1b、正レンズL22の物体側のレンズ面の曲率半径をR2bとするとき、負レンズL21と正レンズL22との間に像側に凸面を向けた空気レンズが形成され、以下の条件式(6)を満足することが好ましい。
【0027】
(R2b+R1b)/(R2b-R1b)<-0.10 …(6)
負レンズL21の屈折力を弱めることで不足しがちな負屈折力を、条件式(6)を満足することで補てんすることができるため、ペッツバール和を許容の範囲に収めることが可能となる。条件式(6)の範囲を超えると、実質的に負レンズL21と正レンズL22の組み合わせで補正していたペッツバール和のバランスが崩れ、像面湾曲が発生するため好ましくない。
【0028】
光学系1a~1cの焦点距離をf、光学系1a~1cの最も像側のレンズ面(レンズ最終面)から像面imgまでの距離BFとするとき、以下の条件式(7)を満足することが好ましい。
【0029】
0.30<BF/f<0.70 …(7)
条件式(7)は、焦点距離に対するバックフォーカスのバランスを示しており、下限を超えるとバックフォーカスが短くなりすぎ、後群LRのレンズ径が大きくなりすぎるため好ましくない。上限を超えるとバックフォーカスが長すぎ、所望の小型化が達成できないか、レンズ第1面からレンズ最終面までの距離であるレンズ全長が極端に短くなるため好ましくない。
【0030】
光学系1a~1cの焦点距離をf、絞りSTOから像面imgまでの距離をLstとするとき、以下の条件式(8)を満足することが好ましい。
【0031】
0.60<Lst/f<1.00 …(8)
条件式(8)は、レンズ内の絞りの好ましい位置を表しており、上限を超えるとレンズの後側主点に対して絞り位置が像側に移動しすぎて所望の小型化が達成できない。また下限を超えると絞りの位置が物体側に移動しすぎて大口径化が難しくなるか、絞りを絞りこんだ際に周辺光量の改善が不十分となる。
【0032】
光学系1a~1cの焦点距離をf、光学系の最も物体側のレンズ面(レンズ第1面)から像面imgまでの距離をTTLとするとき、以下の条件式(9)を満足することが好ましい。
【0033】
1.00<TTL/f<1.40 …(9)
条件式(9)は、本構成による小型化の適切な範囲を表しており、上限を超えると所望の小型化が得られない。条件式(9)の下限を超えると大口径化が難しくなるか、十分な結像性能が得られない。
【0034】
従来のダブルガウス型では絞り前の第2レンズと第3レンズの間に空気レンズを構成して軸外のコマ収差の補正を行うことが行われていたが、レンズに不要光が入射した際にこの空気レンズに起因する全反射ゴーストが発生しやすい。
【0035】
レンズ全長を小型化することで、レンズが全体的に像面(センサ面)に近づくため、不要光がレンズに入射した際に発生する面反射ゴーストがセンサ面に届きやすくなる。これを回避するため、正レンズL12と負レンズL13は接合レンズであることが好ましい。
【0036】
また、正レンズL12の光軸上の厚さをd12、負レンズL13の光軸上の厚さをd13とするとき、以下の条件式(10)を満足することが好ましい。
【0037】
4.50<d12/d13<10.00 …(10)
条件式(10)を満足することで、正レンズL12と負レンズL13を接合レンズ化した際に、接合面周辺部の接着剤だまりで拡散するゴースト光を低減することができる。条件式(10)の上限を超えると、正レンズL12の厚さが厚くなりすぎて全長の小型化の妨げになるとともに、絞りの位置が像側に移動しすぎるため好ましくない。一方、条件式(10)の下限を超えると、接着剤だまりのゴーストが発生しやすいため好ましくない。
【0038】
正レンズL22の屈折率をN22、正レンズL23の屈折率をN23とするとき、以下の条件式(11)を満足することが好ましい。
【0039】
0.70<N22/N23<1.00 …(11)
条件式(11)を満足することで、条件式(2)、(3)、(4)を満足することが容易になる。条件式(11)の上限を超えると、正レンズL23の必要な屈折力を得るためにレンズの曲率が不要に小さくなりすぎ、像面湾曲を十分に補正することができない。一方、条件式(11)の下限を超えると、既存のガラスでは正レンズL23のレンズ分散が大きくなりすぎ、倍率色収差を良好に補正することができない。
【0040】
前群LFを構成するレンズ(正レンズL11、L12、負レンズL13)の平均屈折率をNdF、後群LRを構成するレンズ(負レンズL21、正レンズL22、L23)の平均屈折率をNdRとするとき、以下の条件式(12)を満足することが好ましい。
【0041】
1.05<NdF/NdR<1.50 …(12)
条件式(12)を満足することで、条件式(1)を満足することが容易になる。条件式(12)の上限を超えると、後群LRの屈折力が下がりすぎて所望の大口径化が難しくなる。一方、条件式(12)の下限を超えると、前群LFの屈折力が下がりすぎ、小型化が難しくなる。
【0042】
条件式(1)~(12)の数値範囲は、以下の条件式(1a)~(12a)のように設定することが好ましい。
【0043】
1.20<fF/fR<1.90 …(1a)
f22/f>1.20 …(2a)
-1.60<f21/f<-0.60 …(3a)
0.40<f23/f<1.00 …(4a)
0.12<(R2a+R1a)/(R2a-R1a)<0.60 …(5a)
(R2b+R1b)/(R2b-R1b)<-0.50 …(6a)
0.35<BF/f<0.65 …(7a)
0.65<Lst/f<0.95 …(8a)
1.05<TTL/f<1.35 …(9a)
5.00<d12/d13<8.00 …(10a)
0.75<N22/N23<0.95 …(11a)
1.06<NdF/NdR<1.30 …(12a)
条件式(1)~(12)の数値範囲は、以下の条件式(1b)~(12b)のように設定することがより好ましい。
【0044】
1.50<fF/fR<1.80 …(1b)
f22/f>1.50 …(2b)
-1.30<f21/f<-0.70 …(3b)
0.50<f23/f<0.90 …(4b)
0.15<(R2a+R1a)/(R2a-R1a)<0.40 …(5b)
(R2b+R1b)/(R2b-R1b)<-1.00 …(6b)
0.45<BF/f<0.60 …(7b)
0.70<Lst/f<0.90 …(8b)
1.10<TTL/f<1.30 …(9b)
5.5<d12/d13<7.0 …(10b)
0.80<N22/N23<0.90 …(11b)
1.06<NdF/NdR<1.20 …(12b)
なお、光学系1a~1cのそれぞれにおいて、物体距離の変化に対するフォーカシングは、前群LF、絞りSTO、および後群LRを同時に繰り出すことで行うことができ、物体距離が無限から、結像倍率が0.2倍程度まで十分な光学性能を得ることができる。
【0045】
以下、実施例1~3にそれぞれ対応する数値実施例1~3について説明する。各数値実施例の面データにおいて、rは各光学面の曲率半径、d(mm)は第m面と第(m+1)面との間の軸上間隔(光軸上の距離)を表している。ただし、mは光入射側(物体側)から数えた面の番号である。また、ndは各光学部材のd線に対する屈折率、νdは光学部材のアッベ数を表している。なお、ある材料のアッベ数νdは、フラウンホーファ線のd線(587.6nm)、F線(486.1nm)、C線(656.3nm)における屈折率をNd、NF、NCとするとき、
νd=(Nd-1)/(NF-NC)
で表される。
【0046】
なお、各数値実施例において、d、焦点距離(mm)、Fナンバー、半画角(°)は全て各実施例の光学系が無限遠物体に焦点を合わせた時の値である。バックフォーカス(BF)は、レンズ最終面(最も像側のレンズ面)から近軸像面までの光軸上の距離を空気換算長により表記したものである。レンズ全長は、光学系のレンズ第1面(最も物体側のレンズ面)からレンズ最終面までの光軸上の距離にバックフォーカスを加えた長さである。
【0047】
また、光学面が非球面の場合は、面番号の右側に、*の符号を付している。非球面形状は、xを光軸方向の面頂点からの変位量、hを光軸と垂直な方向の光軸からの高さ、Rを近軸曲率半径、kを円錐定数、A4、A6、A8、A10、A12を各次数の非球面係数とするとき、
x=(h2/R)/[1+{1-(1+k)(h/R)2}1/2+A4×h4+A6×h6+A8×h8+A10×h10+A12×h12
で表す。なお、各非球面係数における「e±XX」は「×10±XX」を意味している。
【0048】
表1は、各数値実施例における各条件式の数値を含む各種の値を示す。
【0049】
(数値実施例1)
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd 有効径
1 28.621 4.20 1.83481 42.7 29.99
2 68.136 0.18 28.48
3 17.772 6.70 1.79952 42.2 23.90
4 59.525 1.10 1.80518 25.4 20.78
5 11.427 5.27 16.78
6(絞り) ∞ 6.20 16.24
7 -16.726 0.90 1.67270 32.1 14.95
8 -29.829 0.83 15.46
9* -25.000 2.95 1.53110 55.9 15.52
10* -18.373 0.98 18.14
11 280.004 4.60 1.73400 51.5 24.43
12 -34.002 (可変) 25.71
像面 ∞
非球面データ
第9面
K = 0.00000e+000 A 4=-4.12032e-005 A 6=-2.90015e-007 A 8=-4.67119e-009 A10= 7.90646e-011 A12=-9.28470e-013
第10面
K = 0.00000e+000 A 4=-2.41619e-005 A 6=-3.29146e-007 A 8= 1.91098e-010 A10=-9.28593e-013 A12=-2.29193e-013
各種データ
焦点距離 49.57
Fナンバー 1.85
半画角 23.58
像高 21.64
レンズ全長 59.59
BF 25.67
入射瞳位置 22.51
射出瞳位置 -21.30
前側主点位置 19.77
後側主点位置-23.90
単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 56.39
2 3 29.58
3 4 -17.74
4 7 -58.21
5 9 113.04
6 11 41.57
(数値実施例2)
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd 有効径
1 26.907 4.70 1.90525 35.0 30.58
2 69.548 0.20 29.16
3 17.472 6.70 1.69680 55.5 24.30
4 76.318 1.00 1.80518 25.4 20.87
5 11.232 5.07 16.39
6(絞り) ∞ 6.83 15.85
7 -20.163 1.00 1.67270 32.1 14.50
8 -40.590 1.20 15.76
9* -25.730 3.00 1.53110 55.9 16.31
10* -23.300 0.50 19.68
11 657.387 5.80 1.77250 49.6 25.92
12 -27.082 (可変) 27.49
像面 ∞
非球面データ
第9面
K = 0.00000e+000 A 4=-4.67639e-005 A 6=-1.12292e-006 A 8= 2.49541e-008 A10=-3.78123e-010 A12= 2.13795e-012
第10面
K = 0.00000e+000 A 4=-2.36398e-005 A 6=-6.45466e-007 A 8= 9.49554e-009 A10=-9.59556e-011 A12= 3.62348e-013
各種データ
焦点距離 50.03
Fナンバー 1.85
半画角 23.38
像高 21.64
レンズ全長 60.52
BF 24.52
入射瞳位置 23.78
射出瞳位置 -26.38
前側主点位置 24.62
後側主点位置-25.51
単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 46.07
2 3 31.07
3 4 -16.47
4 7 -60.76
5 9 325.23
6 11 33.79
(数値実施例3)
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd 有効径
1 41.334 5.80 1.80610 40.9 38.42
2 185.916 0.20 37.16
3 22.947 9.00 1.69680 55.5 32.87
4 135.554 1.50 1.80000 29.8 29.52
5 15.457 6.70 23.12
6(絞り) ∞ 7.00 22.56
7 -34.225 1.50 1.67270 32.1 20.66
8 -500.000 2.75 20.84
9* -39.888 5.00 1.53110 55.9 20.93
10* -27.362 2.45 22.87
11 161.836 5.00 1.76385 48.5 28.98
12 -50.994 (可変) 31.25
像面 ∞
非球面データ
第9面
K = 0.00000e+000 A 4=-2.44755e-005 A 6=-1.15532e-007 A 8= 4.82289e-011 A10= 3.50956e-012 A12=-3.66450e-014
第10面
K = 0.00000e+000 A 4=-1.53594e-005 A 6=-6.43135e-008 A 8=-4.65667e-011 A10= 7.05869e-013 A12=-8.22743e-015
各種データ
ズーム比 1.00
焦点距離 70.00
Fナンバー 1.85
半画角 17.17
像高 21.64
レンズ全長 83.52
BF 36.62
d12 36.62
入射瞳位置 30.36
射出瞳位置 -34.15
前側主点位置 31.12
後側主点位置-33.38
単レンズデータ
レンズ 始面 焦点距離
1 1 64.78
2 3 38.38
3 4 -21.93
4 7 -54.69
5 9 144.10
6 11 51.29
【0050】
【0051】
(撮像装置)
次に、
図7を参照して、各実施例の光学系1a~1cを撮像光学系として用いたデジタルスチルカメラ(撮像装置)100について説明する。
図7において、101はカメラ本体、102は実施例1~3の光学系1a~1cのいずれかによって構成された撮像光学系(交換レンズ)である。103はカメラ本体101に内蔵され、撮像光学系102によって形成された光学像を受光して光電変換するCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(光電変換素子)である。カメラ本体101は、クイックターンミラーを有する所謂一眼レフカメラでも良いし、クイックターンミラーを有さない所謂ミラーレスカメラでも良い。また各実施例は、カメラ本体と撮像光学系とが一体的に構成された撮像装置にも適用可能である。
【0052】
各実施例によれば、小型かつ軽量で大口径の光学系および撮像装置を提供することができる。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0054】
各実施例において、例えば、本レンズの物体側または像側に弱い屈折力のレンズ群を配置する構成や、前群LFの前や後群LRの後に弱い屈折力のレンズを配置する構成を採用してもよい。また、各実施例の光学系において、更に他のレンズを有していても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1a、1b、1c 光学系
LF 前群
L11 正レンズ
L12 正レンズ
L13 負レンズ
LR 後群
L21 負レンズ
L22 正レンズ
L23 正レンズ
STO 絞り