(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】空気二次電池用の空気極及び空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240109BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240109BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M4/90 X
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2020031915
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 実紀
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-179592(JP,A)
【文献】特開2018-055811(JP,A)
【文献】特開2009-080937(JP,A)
【文献】特開2012-243657(JP,A)
【文献】特開2016-152068(JP,A)
【文献】特開2019-195775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ電解液とともに空気二次電池内に収容される空気二次電池用の空気極において、
前記空気極は、内部に細孔が分布している空気極合剤層を備えており、
前記空気極合剤層は、パイロクロア型ビスマスルテニウム複合酸化物、ニッケル粒子、及びフッ素樹脂を含んでおり、
前記細孔の全体の容積を細孔容積とし、
前記空気極を前記アルカリ電解液に浸漬して真空脱泡を行った際に、前記アルカリ電解液の前記細孔への浸透度合いが平衡に達した状態で求めた前記細孔の中に浸透する前記アルカリ電解液の容積を含液容積とし、前記細孔容積に対する前記含液容積の比率を含液率とした場合に、前記含液率は、36%以上56%以下である、空気二次電池用の空気極。
【請求項2】
セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、
前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、
前記空気極は、請求項
1に記載の空気二次電池用の空気極である、空気二次電池。
【請求項3】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる、請求項
2に記載の空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気二次電池用の空気極及びこの空気極を備えた空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える可能性がある新しい二次電池として期待されている。
【0004】
このような空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ性水溶液(以下、アルカリ電解液とも表記する)を用い、負極活物質に水素を用いる空気水素二次電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に代表されるような空気水素二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いているが、空気水素二次電池における負極活物質は、上記した水素吸蔵合金に吸蔵放出される水素であるので、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応とも表記する)にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、空気水素二次電池は、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長による内部短絡の発生やシェイプチェンジによる電池容量の低下といった問題が起こらないメリットを有している。
【0005】
上記の空気水素二次電池のようにアルカリ電解液を用いる空気二次電池では、正極(以下、空気極とも表記する)において以下に示すような充放電反応が起こる。
【0006】
充電(酸素発生反応):4OH-→O2+2H2O+4e-・・・(I)
放電(酸素還元反応):O2+2H2O+4e-→4OH-・・・(II)
【0007】
反応式(I)で示すように、空気二次電池は、充電時に空気極で酸素が発生する。この酸素は、空気極内部の空隙を通って、空気極における大気に開放されている部分から大気中に放出される。一方、放電時は、大気中から取り込まれた酸素が反応式(II)で表されるように還元されて水酸化物イオンが生成される。
【0008】
ところで、上記した空気二次電池においては、エネルギー効率は未だ十分な値とはなっておらず、また、高出力化も未だ十分には図られていない。このため、空気二次電池の実用化を図るためには、更なるエネルギー効率の向上や高出力化が求められている。
【0009】
上記したようなエネルギー効率の向上や高出力化を妨げている主な要因は、空気極の充放電反応における過電圧が大きいことである。
【0010】
このような空気極の充放電反応における過電圧を低減させる対策として、水素吸蔵合金を含む負極、放電用の空気極、及び充電用の補助極を備えた空気二次電池が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に示されるような空気二次電池は、電極を放電用と充電用とに分けることにより、放電反応に適した電極材料及び構造、充電反応に適した電極材料及び構造をそれぞれ選択することにより充放電の過電圧をそれぞれ低減できるメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6444205号公報
【文献】特許第2655810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2の空気二次電池の場合、充電用の補助極が存在することにより、空気二次電池の最大の特長であるエネルギー密度が高いというメリットが阻害されてしまう。
【0013】
また、空気二次電池の空気極と同じような構造のガス拡散電極を用いる固体高分子型燃料電池(以下、PEFCとも表記する)において、一つのセルで発電と水電解とを切り替えて使うことが検討されている。すなわち、第3極を使用しない態様として、PEFCを二次電池化する研究開発もなされている。
【0014】
しかしながら、PEFCにおいて、水電解と燃料電池モードとを切り替えるには、プロトン交換膜(以下、PEMとも表記する)から水を抜く必要がある。水を抜く作業には10~30分かかり非常に手間がかかる。ここで、PEMから水を抜く必要があるのは、水電解では電極は水没した状態が好ましく、発電では電極の反応点へ酸素ガスが供給される状況が好ましいためである。このように、空気極を用いる電池においては、一つの電極で充放電の両方の特性のバランスをとり、充放電反応における過電圧を低減することは難しい。
【0015】
このため、一つの電極で充電及び放電の両方の特性のバランスをとり、充放電反応における過電圧の低減を図ることができる空気二次電池用の空気極の開発が望まれている。
【0016】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極及びこの空気極を備えた空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明によれば、アルカリ電解液とともに空気二次電池内に収容される空気二次電池用の空気極において、前記空気極は、内部に細孔が分布している空気極合剤層を備えており、前記細孔の全体の容積を細孔容積とし、前記細孔の中に浸透する前記アルカリ電解液の容積を含液容積とし、前記細孔容積に対する前記含液容積の比率を含液率とした場合に、前記含液率は、36%以上56%以下である、空気二次電池用の空気極が提供される。
【0018】
前記触媒層は、パイロクロア型ビスマスルテニウム複合酸化物、ニッケル粒子、及びフッ素樹脂を含んでいる構成とすることが好ましい。
【0019】
また、本発明によれば、セパレータを介して重ね合わされた空気極及び負極を含む電極群と、前記電極群をアルカリ電解液とともに収容している容器と、を備え、前記空気極は、上記した何れかの空気二次電池用の空気極である、空気二次電池が提供される。
【0020】
前記負極は、水素吸蔵合金を含んでいる構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る空気二次電池用の空気極は、アルカリ電解液とともに空気二次電池内に収容される空気二次電池用の空気極において、前記空気極は、内部に細孔が分布している空気極合剤層を備えており、前記細孔の全体の容積を細孔容積とし、前記細孔の中に浸透する前記アルカリ電解液の容積を含液容積とし、前記細孔容積に対する前記含液容積の比率を含液率とした場合に、前記含液率は、36%以上56%以下である。含液率が36%以上56%以下の範囲にあると、充放電反応における酸素の授受がスムーズに行われるので、本発明に係る空気二次電池用の空気極は、充放電反応における過電圧を低減することに貢献する。よって、斯かる空気極を含んでいる空気二次電池は、従来の空気二次電池よりもエネルギー効率が向上し、出力も高くなる。このため、本発明によれば、従来よりも充放電反応における過電圧を低減することができる空気二次電池用の空気極及びこの空気極を備えた空気二次電池であって、エネルギー効率の向上と高出力化が図られた空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る空気水素二次電池を概略的に示した断面図である。
【
図2】空気極の中間製品を概略的に示した斜視図である。
【
図3】空気極合剤層の内部の細孔の状態を概略的に示した断面図である。
【
図4】充電末期電圧と含液率との関係を示したグラフである。
【
図5】放電中間電圧と含液率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る空気二次電池用の空気極触媒を含む空気水素二次電池2(以下、電池2とも表記する)について図面を参照して説明する。
【0024】
図1に示すように、電池2は、容器4と、この容器4の中にアルカリ電解液82とともに入れられた電極群10とを備えている。
【0025】
電極群10は、負極12と、空気極(正極)16とがセパレータ14を介して重ね合わされて形成されている。
【0026】
負極12は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極基材と、前記した空孔内及び負極基材の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極基材としては、例えば発泡ニッケルを用いることができる。
【0027】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電材と、結着剤とを含む。ここで、導電材としては、黒鉛、カーボンブラック等の粒子の集合体である粉末を用いることができる。
【0028】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金を用いることが好ましい。この希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金の組成は自由に選択できるが、例えば、
一般式:Ln1-aMgaNib-c-dAlcMd・・・(III)
で表されるものを用いることが好ましい。
【0029】
ただし、一般式(III)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sc、Y、Zr及びTiよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、P及びBよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を表し、添字a、b、c、dは、それぞれ、0.01≦a≦0.30、2.8≦b≦3.9、0.05≦c≦0.30、0≦d≦0.50の関係を満たす数を表す。
【0030】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解した後、冷却してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0031】
結着剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等が用いられる。
【0032】
ここで、負極12は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、導電材、結着剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基材に充填され、その後、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極基材はロール圧延されて、単位体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極12が得られる。この負極12は、全体として板状をなしている。負極12に含まれる負極合剤層は、水素吸蔵合金の粒子、導電材の粒子等により形成されているので、多孔質構造をなしている。
【0033】
次に、空気極16は、網目構造を有する導電性の空気極基材と、前記した空気極基材に担持された空気極合剤(正極合剤)により形成された空気極合剤層(正極合剤層)とを備えている。上記したような空気極基材としては、例えば、ニッケルメッシュを用いることができる。
【0034】
空気極合剤は、酸化還元触媒、導電材、及び結着剤を含む。
酸化還元触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものであれば特に限定されない。このような二元機能を有する触媒は、充電過程の酸素発生、放電過程の酸素還元ともに触媒活性を有する。好ましい酸化還元触媒としては、例えば、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物が用いられる。このビスマスルテニウム複合酸化物は、酸素発生及び酸素還元の2元機能を有している。
【0035】
上記したようなパイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0036】
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを同じ濃度となるように蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製する。このとき蒸留水の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加える。この際の浴温度は60℃以上、90℃以下に保持し、酸素バブリングを行いながら撹拌する。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で1時間以上、5時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。そして、この乾燥物を、空気雰囲気下で500℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、2時間以下保持することにより焼成し、焼成物を得る。得られた焼成物を乳鉢に入れ、乳棒ですりつぶして粉砕し、焼成物の粉末を得る。得られた焼成物の粉末は、60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗された後乾燥処理が施される。これにより、パイロクロア型のビスマスルテニウム複合酸化物(Bi2Ru2O7)が得られる。
【0037】
次に、得られたビスマスルテニウム複合酸化物を硝酸水溶液に浸漬させ、酸処理を施すことが好ましい。具体的には、以下の通りである。
【0038】
まず、硝酸水溶液を準備する。ここで、硝酸水溶液の濃度は、5mol/L以下とすることが好ましい。硝酸水溶液の量は、ビスマスルテニウム複合酸化物1gに対して20mLの割合となる量を準備することが好ましい。硝酸水溶液の温度は、20℃以上、25℃以下に設定することが好ましい。
【0039】
そして、準備された硝酸水溶液の中に、ビスマスルテニウム複合酸化物を浸漬し、1時間以上、6時間以下撹拌する。所定時間経過後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物を吸引濾過する。濾別されたビスマスルテニウム複合酸化物は、60℃以上、80℃以下に設定された蒸留水に投入され洗浄される。
【0040】
洗浄されたビスマスルテニウム複合酸化物は、100℃以上、130℃以下の環境下で1時間以上、4時間以下保持され、乾燥処理が施される。
【0041】
以上のようにして、酸処理が施されたビスマスルテニウム複合酸化物を得る。このように酸処理を施すことにより、ビスマスルテニウム複合酸化物の製造過程で生じる副生成物を除去することができる。なお、酸処理に用いられる酸性水溶液は、硝酸水溶液に限定されるものではなく、硝酸水溶液の他に塩酸水溶液、硫酸水溶液を用いることができる。これら、塩酸水溶液及び硫酸水溶液においても、硝酸水溶液と同様に副生成物を除去できるという効果が得られる。
【0042】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム複合酸化物は所定の粒径に調整すべく、必要に応じ機械的に粉砕される。これにより、所定粒径の粒子の集合体であるビスマスルテニウム複合酸化物の粉末が得られる。
【0043】
次に、導電材について説明する。導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した酸化還元触媒の担体として用いられる。
【0044】
このような導電材としては、例えば、ニッケル粒子からなるニッケル粉末を用いることが好ましい。より好ましくは、フィラメント状のニッケル粒子からなるニッケル粉末が用いられる。ここで、フィラメント状とは、細かい糸状の構造を指す。一般的なニッケル粒子は、球形あるいはスパイク状の突起を有する球形(スパイク状球形)をなしているが、本発明で用いるフィラメント状のニッケル粒子は、これら球形のニッケル粒子よりも長く糸状に延びた形状をなしている。フィラメント状のニッケル粒子は、例えば、カーボニル法の製造条件を調整することにより、ニッケルカーボニルからフィラメント状のニッケル粒子を得ることができる。
【0045】
上記したニッケル粒子の平均粒径としては、特に限定されるものではなく、空気極に所望の導電性を付与できる大きさとすることが好ましい。
【0046】
上記したニッケル粉末は、空気極合剤中において、60質量%以上含有させることが好ましい。このニッケル粉末の含有量の上限は、空気極合剤における他の構成材料との関係から80質量%以下とすることが好ましい。
【0047】
結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させるとともに空気極16に適切な撥水性を付与する働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも表記する)が用いられる。
【0048】
空気極16は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ビスマスルテニウム複合酸化物粒子の集合体である触媒粉末、導電材としてのNi粒子の集合体である導電材粉末、結着剤及び水を準備する。そして、これら触媒粉末、導電材粉末、結着剤及び水を混錬して空気極合剤ペーストを調製する。
【0049】
得られた空気極合剤ペーストは、例えば、ローラプレスを施すことによりシート状に成形され、それにより空気極合剤シート72を得る。その後、空気極合剤シート72は、ニッケルメッシュ(空気極基材)74にプレス圧着される。これにより、
図2に示すような空気極の中間製品70が得られる。
【0050】
次いで、得られた中間製品70は、焼成炉に投入され焼成処理が行われる。この焼成処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、200℃以上、400℃以下の温度に加熱し、この状態で、10分以上、40分以下の間保持する。その後、中間製品70を焼成炉内で自然冷却し、中間製品70の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、焼成処理が施された中間製品70が得られる。この焼成処理後の中間製品70を所定形状に裁断することにより、空気極16が得られる。この空気極16は、空気極合剤により形成された空気極合剤層を備えている。空気極合剤は、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子等を含んでいるので、斯かる空気極合剤で形成された空気極合剤層は、全体として多数の細孔を含む多孔質構造をなしており、ガス拡散性に優れている。
【0051】
本発明に係る空気極の空気極合剤層は、内部に細孔を有しており、この細孔は、2つの平均細孔サイズを有する二峰性細孔分布を呈している。詳しくは、第1の平均細孔サイズを有する第1の細孔と、第1の平均細孔サイズよりも小さい第2の平均細孔サイズを有する第2の細孔とが存在しており、これら第1の細孔と第2の細孔とが、互いに連通し、三次元的に分布している。
【0052】
このような細孔を有する空気極合剤層を含む空気極16が、アルカリ電解液82と接すると、空気極合剤層78の断面を示した
図3から明らかなように、細孔76の中にアルカリ電解液82が浸透してくる。空気二次電池における空気極の充放電反応は、空気極に含まれる空気極合剤層の触媒(固相)、アルカリ電解液(液相)及び酸素(気相)の全てが存在する三相界面で良好に進行する。つまり、空気極は、アルカリ電解液に完全に覆われて酸素との接触が断たれている状態や、アルカリ電解液と接していない乾燥状態では充放電反応が良好に進行しない。充放電反応における過電圧を低減するには、良好な充放電反応を進行させる必要がある。このため、充電反応においても放電反応においても過電圧を低減するには、空気極合剤層中の細孔に浸透するアルカリ電解液の量を制御することが重要となる。
【0053】
ここで、空気極合剤層78の内部に分布している細孔76の全体の容積を細孔容積とし、前記した細孔76の中に浸透するアルカリ電解液82の容積を含液容積とし、細孔容積に対する含液容積の比率を含液率とした場合に、本発明においては、当該含液率を、36%以上、56%以下の範囲とする。
【0054】
ここで、含液率が高くなるほど充電末期電圧は低くなる。これは、含液率が高くなる、つまり、アルカリ電解液の量が増えることにより、空気極合剤層中の触媒が濡れる。触媒表面が濡れている方が、充電反応である水電解が進行しやすいので、充電過電圧は低下する。しかしながら、含液率が高くなり過ぎると、空気極合剤層中の触媒表面がアルカリ電解液で覆われ、触媒と酸素との接触が阻害されるので、放電不能となり、空気二次電池用の空気極としては使用できなくなる。一方、放電時は、含液率が30%未満のように極めて低いと放電中間電圧が低く、放電過電圧は高い状態となるが、含液率が30~40%にかけて放電中間電圧が上昇していく。つまり、含液率が30~40%あたりから放電過電圧が低下していく。そこで、充電過電圧及び放電過電圧がともに低くなる最適な範囲について鋭意検討した結果、含有率は、36%以上、56%以下の範囲が最適であることを見出した。
【0055】
ここで、空気極合剤層中の細孔へのアルカリ電解液の浸透の度合いは、空気極合剤層の撥水性や細孔径に依存している。
【0056】
本発明に係る空気極は、上記したように酸化還元触媒の他に、例えば、導電材としてのNiや結着剤としてのPTFEが含まれている。金属はNiに限らず高い表面張力を有しているので、非常に濡れやすい材料である。一方、PTFEは、空気極作製時には界面活性剤により水に懸濁された状態であるが、焼成により撥水性が発揮されるようになり、水をはじくようになる。そこで、焼成の温度や時間を変えることで、撥水性を調整することができる。
【0057】
また、空気極の内部の細孔へのアルカリ電解液の浸透開始圧Pは、以下に示す式(IV)によって表される。
P=4γcosθ/d・・・(IV)
ここで、細孔については円筒管と仮定し、この円筒管の断面の直径をdとし、アルカリ電解液の表面張力をγとし、細孔にアルカリ電解液が浸透する瞬間における接触角をθとした。式(IV)から明らかなように、径が小さい細孔ほどアルカリ電解液が浸透しづらく、細孔の径によってもアルカリ電解液の含液率が変化する。そこで、含液率を調整するために、細孔の径を調整することも行われる。具体的には、空気極合剤ペーストを製造する際に、更にポリメタクリル酸の粒子の集合体であるポリメタクリル酸の粉末を添加すること、又は、水の代わりにエタノールを用いることが行われる。
【0058】
ポリメタクリル酸は、後段の焼成工程において揮発するので、所定粒径のポリメタクリル酸の粒子を用いることにより、ポリメタクリル酸の粒子が揮発した箇所に所定粒径の空孔が形成される。また、エタノールを加えることで、空気極合剤ペーストを混錬する際にPTFEの繊維化を促進することができる。このようなポリメタクリル酸やエタノールの機能を利用することにより、空気極合剤層中の細孔径や、細孔の比率を変化させることができる。
なお、ポリメタクリル酸は、以下、細孔調整剤ともいう。
【0059】
上記のようにして得られた空気極16及び負極12は、セパレータ14を介して積層され、これにより電極群10が形成される。このセパレータ14は、空気極16及び負極12の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ14に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0060】
形成された電極群10は、アルカリ電解液とともに容器4の中に入れられる。この容器4としては、電極群10とアルカリ電解液とを収容できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アクリル製の箱状の容器4が用いられる。この容器4は、例えば、
図1に示すように、容器本体6と、蓋8とを含んでいる。
【0061】
容器本体6は、底壁18と、底壁18の周縁部から上方に延びる側壁20とを有する箱形状をなしている。側壁20の上端縁21で囲まれた部分は、開口している。つまり、底壁18の反対側には、開口部22が設けられている。また、側壁20においては、右側壁20R及び左側壁20Lの所定位置に、それぞれ貫通孔が設けられており、これら貫通孔は、後述するリード線の引出口24、26となる。
【0062】
更に、容器本体6には、電解液貯蔵部80が取り付けられている。この電解液貯蔵部80は、アルカリ電解液82を収容する容器であり、例えば、底壁18に設けられた貫通孔19と連通する連結部84を介して取り付けられている。連結部84は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を連通するアルカリ電解液82の流路である。このように、容器4の内部と電解液貯蔵部80とは連通しているため、アルカリ電解液82は、容器4の内部と電解液貯蔵部80との間を移動することができる。
【0063】
蓋8は、容器本体6の平面視形状と同じ平面視形状をなしており、容器本体6の上部に被せられ、開口部22を塞ぐ。蓋8と、側壁20の上端縁21との間は液密に封止される。
【0064】
蓋8において、容器本体6の内側に臨む内面部28には、通気路30が設けられている。通気路30は、容器本体6の内側に面する部分が開放されており、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。更に、蓋8の所定位置には、厚さ方向に貫通する入側通気孔32及び出側通気孔34が設けられている。入側通気孔32は、通気路30の一方端と連通しており、出側通気孔34は、通気路30の他方端と連通している。つまり、通気路30は、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されている。なお、入側通気孔32には、図示しない圧送ポンプを取り付けることが好ましい。この圧送ポンプを駆動することにより入側通気孔32から通気路30に空気を送り込むことができる。
【0065】
容器本体6の底壁18の上には、必要に応じて、調整部材36を配置する。調整部材36は、容器4内において、電極群10の高さ方向の位置合わせに用いられる。調整部材36としては、例えば、発泡ニッケルのシートが用いられる。
【0066】
調整部材36の上には、電極群10が配設される。このとき、電極群10の負極12は、調整部材36と接するように配設される。
【0067】
一方、電極群10の空気極16側には、空気極16と接するように撥水通気部材40が配設される。この撥水通気部材40は、PTFE多孔膜42に不織布拡散紙44が組み合わされたものである。撥水通気部材40は、PTFEにより撥水効果を発揮するとともに、気体の通過を許容する。撥水通気部材40は、蓋8と空気極16との間に介在し、蓋8及び空気極16の両方に密着している。この撥水通気部材40は、蓋8の通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34の全体をカバーする大きさを有している。
【0068】
上記のような、電極群10、調整部材36及び撥水通気部材40を収容した容器本体6には、蓋8が被せられる。そして、
図1において概略的に描かれているように、容器4(容器本体6及び蓋8)の周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。その後、所定量のアルカリ電解液82が電解液貯蔵部80から注入され、容器4内にアルカリ電解液82が満たされる。このようにして、電池2が形成される。
【0069】
なお、上記したアルカリ電解液82としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。
【0070】
ここで、電池2においては、蓋8の通気路30は撥水通気部材40に相対している。撥水通気部材40は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極16は撥水通気部材40、通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極16は、撥水通気部材40を通じて大気と接することになる。
【0071】
また、この電池2においては、空気極(正極)16に空気極リード(正極リード)54が電気的に接続されており、負極12に負極リード56が電気的に接続されている。これら空気極リード54及び負極リード56は、
図1中においては概略的に描かれているが、気密性及び液密性を保持した状態で引出口24、26から容器4の外に引き出されている。そして、空気極リード54の先端には空気極端子(正極端子)58が設けられており、負極リード56の先端には負極端子60が設けられている。したがって、電池2においては、これら空気極端子58及び負極端子60を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
【0072】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
(1)空気極触媒の合成
1)第1ステップ
0.037molのBi(NO3)3・5H2O及び0.037molのRuCl3・3H2Oを準備し、これらBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを75℃の蒸留水中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製した。なお、蒸留水は2L準備した。そして、得られた混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を徐々に加えて沈殿物を形成させた。この際の浴温度は75℃とした。沈殿物が形成された後は、混合水溶液のpHを11に維持したまま酸素バブリングを24時間行いながら撹拌した。その後、混合水溶液の撹拌を止めて24時間静置した。この操作によって生じた沈殿物を吸引ろ過することにより回収した。この沈殿物は、Bi及びRuの水酸化物あるいは酸化物を含む前駆体である。次に、当該前駆体を85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペースト状とした。得られたペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で3時間保持して乾燥処理を施し、前駆体の乾燥物を得た。
【0073】
2)第2ステップ
得られた前駆体の乾燥物を乳鉢及び乳棒を用いて粉砕して粉末状とした後、得られた粉末に1mol/LのNaOH水溶液を200mL加えた。その後、当該前駆体の粉末に、100℃以上、130℃以下で2~5時間保持する乾燥処理を施し、引き続き、空気雰囲気下で500℃に加熱し3時間保持する熱処理を施した。当該熱処理が終了した後の前駆体を、75℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で3時間乾燥処理を施した。これにより、およそ12gのビスマスルテニウム複合酸化物(空気極触媒)を得た。
【0074】
得られたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、ビスマスルテニウム複合酸化物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0075】
3)第3ステップ
ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末1gを20mLの硝酸水溶液とともにスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃に保持したまま1時間撹拌して酸処理を施した。ここで、硝酸水溶液の濃度は5mol/Lとした。
【0076】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中からビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末は、75℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末を、120℃の雰囲気下で3時間保持することにより乾燥させた。
【0077】
以上のようにして、酸処理されたビスマスルテニウム複合酸化物の粉末、すなわち、空気二次電池用の空気極触媒(Bi2Ru2O7触媒)を得た。
【0078】
(2)空気極の製造
Ni粒子の集合体であるNi粉末を準備した。このNi粒子は、カーボニル法により製造したフィラメント状のNi粒子であり、平均粒径が10~20μmであった。
【0079】
更に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を準備した。
【0080】
上記のようにして得られたビスマスルテニウム酸化物の粉末(空気極触媒)に、ニッケル粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を加えて混合した。このとき、ビスマスルテニウム酸化物の粉末は20重量部、ニッケル粉末は70重量部、PTFEのディスパージョンは10重量部、イオン交換水は10重量部の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを製造した。
【0081】
得られた空気極合剤のペーストをシート状に成形し、このシート状の空気極合剤のペーストをメッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。これにより、空気極16の中間製品70を得た。
【0082】
次に、中間製品70を焼成した。焼成条件は、中間製品70を窒素ガス雰囲気下で200℃の焼成温度に加熱し、この温度で13分間保持した。焼成された中間製品70は、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極16を得た。この空気極16の厚さは0.236mmであった。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.27gであった。
【0083】
(3)負極の製造
Nd、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気下にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0084】
ついで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間保持する熱処理を施した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0085】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Nd0.89Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。
【0086】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2重量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04重量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0重量部、カーボンブラックの粉末0.5重量部、水22.4重量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0087】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が約250g/m2、厚みが約0.6mmの発泡ニッケルのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填された発泡ニッケルのシートを得た。得られたシートは圧延され、単位体積当たりの合金量を高められた後、縦40mm、横40mmに裁断された。このようにして負極12を得た。なお、負極12の厚さは、0.25mmであった。
【0088】
次に、得られた負極12に、活性化処理を施した。この活性化処理の手順を以下に示す。
まず、一般的な焼結式の水酸化ニッケル正極を準備した。なお、この水酸化ニッケル正極としては、その正極容量が負極12の負極容量よりも十分大きいものを準備した。そして、この水酸化ニッケル正極と、得られた負極12とを、これらの間にポリエチレンの不織布で形成されたセパレータを介在させた状態で重ね合わせて、活性化処理用電極群を形成した。この活性化処理用電極群を所定量のアルカリ電解液とともにアクリル樹脂製の容器に収容した。これにより、負極容量規制のニッケル水素二次電池の単極セルを形成した。
【0089】
この単極セルに対し、温度25℃の環境下にて、5時間静置後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、0.5Itで電池電圧が0.70Vになるまで放電させた。この充放電サイクルを5回行うことにより負極12の活性化処理を行った。また、各充放電サイクルにおいては単極セルの容量を求めた。そして、得られた容量の最大値を負極容量とした。なお、負極容量は640mAhであった。
【0090】
その後、0.5Itで2.8時間の充電を行った後、単極セルから負極12を取り外した。このようにして、活性化処理及び充電が済んだ負極12を得た。
【0091】
(4)空気水素二次電池の製造
得られた空気極16及び負極12を、これらの間にセパレータ14を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群10を製造した。この電極群10の製造に使用したセパレータ14はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0092】
次いで、容器本体6を準備し、この容器本体6内に上記した電極群10を収容した。このとき、容器本体6の底壁18の上に調整部材36としての発泡ニッケルのシートを配置し、この調整部材36の上に電極群10を載置した。ここで、発泡ニッケルのシートは、厚さが1mmであり、縦40mm、横40mmの正方形状をなしている。
【0093】
次いで、電極群10の上(空気極16の上)に撥水通気部材40を配設した。ここで、撥水通気部材40は、縦が45mm、横が45mm、厚さが0.1mmであるPTFE多孔膜42と、縦が40mm、横が40mm、厚さが0.2mmである不織布拡散紙44とが組み合わされて形成されている。
【0094】
次いで、容器本体6の開口部22を塞ぐように蓋8を被せた。このとき、蓋8の内面部28における通気路30、入側通気孔32及び出側通気孔34を含むエリアの全体が撥水通気部材40で覆われるように、当該エリアと撥水通気部材40とを密着させる。ここで、通気路30は、全体として1本のサーペンタイン形状をなしている。通気路30の横断面は、矩形状をなしており、当該矩形における縦寸法が1mm、横寸法が1mmである。この通気路30は、撥水通気部材40側が開放されている。
【0095】
容器本体6及び蓋8が組み合わされて形成された容器4については、その周端縁部46、48が連結具50、52により上下から挟みこまれる。なお、容器本体6と蓋8との接触部には、図示しない樹脂製のパッキンが配設されており、アルカリ電解液の漏れを防止する。
【0096】
次いで、電解液貯蔵部80にアルカリ電解液82として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は50mLであった。
以上のようにして、
図1に示すような電池2を製造した。
【0097】
なお、空気極16には空気極リード54が、負極12には負極リード56が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード54及び負極リード56は、容器4の気密性及び液密性を保持した状態でリード線の引出口24、26から容器4の外側へ適切に延びている。また、空気極リード54の先端には空気極端子58が取り付けられており、負極リード56の先端には負極端子60が取り付けられている。
【0098】
(実施例2)
焼成温度を340℃にしたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.27gであった。
【0099】
(実施例3)
中間製品70を窒素ガス雰囲気下で340℃に加熱し、この温度で30分間保持して焼成したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.28gであった。
【0100】
(実施例4)
平均粒径が5μmのポリメタクリル酸粒子の集合体であるポリメタクリル酸の粉末を空気極合剤層に対して3重量%添加したこと、及び焼成温度を340℃にしたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.28gであった。
【0101】
(実施例5)
平均粒径が1μmのポリメタクリル酸粒子の集合体であるポリメタクリル酸の粉末を空気極合剤層に対して3重量%添加したこと、及び中間製品70を窒素ガス雰囲気下で340℃に加熱し、この温度で30分間保持して焼成したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.33gであった。
【0102】
(比較例1)
空気極合剤のペーストを製造する際にイオン交換水の代わりにエタノールを用いたこと、及び中間製品70を窒素ガス雰囲気下で340℃に加熱し、この温度で30分間保持して焼成したことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.21gであった。
【0103】
(比較例2)
焼成温度を150℃にしたことを除いて、実施例1と同様にして空気水素二次電池を製造した。なお、得られた空気極16において、ビスマスルテニウム複合酸化物の粉末(空気極触媒)の量は0.29gであった。
【0104】
2.空気水素二次電池の評価
【0105】
(1)電池特性評価
実施例1~5、及び比較例1~2の空気水素二次電池については、25℃の雰囲気下で、空気極端子58及び負極端子60を介して、0.5Itで1.2時間充電し、0.5Itで電池電圧が0.4Vになるまで放電することを1サイクルとする充放電を10サイクル繰り返した。このとき、充放電に関わらず、入側通気孔32から空気を入れ、出側通気孔34から空気を排出するようにして、通気路30には、53mL/分の割合で常に空気を供給し続けた。なお、負極容量(640mAh)を1Itとする。
【0106】
そして、各サイクルにおいて、放電容量及び電圧を測定した。
ここで、実施例1~5及び比較例1~2について、充電終止時の電圧を充電末期電圧として測定し、得られたデータを表1に示した。また、実施例1~5及び比較例1~2について、放電容量の値が全放電容量の半分の値になった時の電池電圧を中間電圧として測定し、得られたデータを表1に示した。
【0107】
(2)細孔容積に対する含液率
電池特性評価が終了した各実施例及び各比較例の空気水素二次電池を分解し、空気極を取り出した。取り出した空気極を5mol/LのKOH水溶液(アルカリ電解液)に浸漬し、真空脱泡を行い、KOH水溶液を空気極の細孔内に含侵させた。その後、KOH水溶液中から空気極を取り出し、表面に付着したKOH水溶液をふき取った後に空気極の重量(以下、空気極全体重量とも表記する)を測定した。そして、空気極全体重量から予め空気極の製造時に求めておいた空気極の乾燥重量の値を差し引きKOH水溶液の含液重量を求めた。ここで、真空脱泡を5分間行った場合、10分間行った場合、15分間行った場合でそれぞれ含液重量を測定した。この3回の測定で、重量変化は平均5.8%以下であったため、真空脱泡を行って5分でKOH水溶液の細孔への浸透度合いは平衡に達するものと考えられる。上記した含液重量の3回の測定結果の平均値をKOH水溶液の比重で除して含液容積Zを求めた。
【0108】
上記のようにして求めた含液容積Zを空気極合剤層の細孔容積で除することにより含液率Tを求めることができる。
【0109】
ここで、細孔容積は、水銀圧入法などの手法によって求めることができる。また、空気極の構成材料がわかっている場合には、計算によっても求めることができる。実施例1~5及び比較例1~2については、計算により空気極合剤層の細孔容積及び空孔率を求めた。
【0110】
具体的には、空気極の重量をW、空気極合剤層の重量をW1、空気極基材(ニッケルメッシュ)の重量をW2、空気極の体積をA、空気極合剤層の体積をA1、空気極基材の体積をA2、空気極合剤層の真比重をρ1、空気極基材の真比重をρ2とした場合、空気極合剤層の細孔容積X及び空気極合剤層の空孔率Yは、それぞれ、以下の式(V)、式(VI)で表される。
X=A1-W1/ρ1・・・(V)
Y=1-W1/A1/ρ1・・・(VI)
ここで、W1=W-W2、A1=A-A2=A-W2/ρ2である。
【0111】
ρ1は、真比重計で求めることもできるが、実施例1~5及び比較例1~2については、材料の配合比とそれぞれの材料の真比重から計算で求めた。
【0112】
含液率Tは、上記のようにして求めたKOH水溶液の含液容積Z、空気極合剤層の細孔容積Xから、以下の式(VII)より求めた。
T=(Z/X)×100・・・(VII)
実施例1~5及び比較例1~2の空気極合剤層の空孔率及び含液率を表1に示した。
【0113】
【0114】
また、充電末期電圧と含液率との関係を
図4に、放電中間電圧と含液率との関係を
図5にそれぞれ示した。
【0115】
(3)考察
図4より、充電末期電圧は含液率が高くなるほど低下していることがわかる。これは触媒層が濡れている方が、充電反応である水電解が進行しやすいためである。しかしながら、比較例2の含液率69.3%では、まったく放電できず、空気二次電池用の空気極としては使えなくなった。これは、アルカリ電解液が浸透した空孔が増え過ぎたことで、気相の連通孔が減り、放電に必要な酸素ガスの供給ができなくなったためである。よって、充電においては、含液率がなるべく高い方が良好な充電反応が得られ充電過電圧が低下するので、含液率は、放電不能になる手前でなるべく高い値とすることが望ましい。
【0116】
一方、
図5より、含液率が30%から40%にかけて、含液率の上昇とともに放電中間電圧が上昇していることがわかる。つまり、放電過電圧が低下している。放電反応は、触媒(固相)―アルカリ電解液(液相)―空気(気相)の三相界面で優位に起こるため、含液率が低すぎると、十分な量の三相界面が形成されないが、含液率が36%以上となってくると良好な放電反応が得られ、放電時の過電圧が低くなってくるものと考えられる。
図5を見ると、放電中間電圧は、含液率が40%程度でピークを迎え、その後、多少低下するが高い値を維持していることがわかる。
以上より、充電及び放電の両方でバランスよく良好な電池反応が得られる含液率の範囲は、36%以上56%以下であるといえる。
【0117】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではない。例えば、本発明は、空気水素二次電池に限定されるものではなく、負極に用いる金属として、Zn、Al、Mg、Liなどを用いた他の空気二次電池であっても構わない。これら他の空気二次電池における空気極での反応は、本発明の空気水素二次電池と同様であり、空気極における過電圧を低減する効果が同様に得られる。
【符号の説明】
【0118】
2 電池(空気水素二次電池)
4 容器
6 容器本体
8 蓋
10 電極群
12 負極
14 セパレータ
16 空気極(正極)
30 通気路
40 撥水通気部材