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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】イオン注入装置およびモデル生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20240109BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01J37/317 C
H01L21/265 603Z
H01L21/265 T
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020036546
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021140912
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 和久
(72)【発明者】
【氏名】工藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山口 幹夫
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06797967(US,B1)
【文献】特開2014-049653(JP,A)
【文献】特開2016-039092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入レシピに基づいてイオンビームを生成するビーム生成装置と、
前記イオンビームのビーム電流を測定する複数の測定装置と、
前記複数の測定装置により測定された複数の測定値を含むデータセットを取得し、予め構築された前記複数の測定値と前記注入レシピに定められる少なくとも一つの注入パラメータとの相関関係を示すモデルを用いて、前記イオンビームのビーム電流の測定の妥当性を評価する制御装置と、を備え
前記少なくとも一つの注入パラメータは、イオン種、ビームエネルギー、ビーム電流、ビームサイズ、ウェハチルト角、ウェハツイスト角、および、平均ドーズ量の少なくとも一つを備えることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記データセットに含まれるパラメータとして、前記注入レシピに定められる少なくとも一つの注入パラメータを取得することを特徴とする請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記イオンビームのビーム電流の測定の妥当性の評価結果に基づいて、前記ビーム生成装置の動作パラメータを調整することを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記モデルを用いて、前記イオンビームのビーム電流の値を補正することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記複数の測定装置は、ウェハに前記イオンビームが入射する注入位置にて前記イオンビームのビーム電流を測定する第1測定装置と、前記注入位置とは異なる位置にて前記イオンビームのビーム電流を測定する第2測定装置とを含み、
前記制御装置は、前記モデルを用いて前記第1測定装置の測定値を補正することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記イオンビームのビーム電流の補正値に基づいて、前記イオンビームをウェハに照射する注入工程のドーズ量を制御することを特徴とする請求項またはに記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記制御装置は、異なる注入レシピに基づく複数の注入工程にて取得された複数のデータセットを蓄積し、蓄積された複数のデータセットを入力として前記モデルを構築することを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
前記制御装置は、所定条件を満たす注入レシピに基づく複数の注入工程にて取得された複数のデータセットを入力として前記モデルを構築することを特徴とする請求項に記載のイオン注入装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記イオンビームを照射する注入工程を用いて製造された半導体デバイスの評価結果に関する情報を取得し、前記評価結果が所定条件を満たす半導体デバイスの製造に用いた注入工程にて取得されたデータセットを入力として前記モデルを構築することを特徴とする請求項に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
注入レシピに基づいて生成されたイオンビームを測定する複数の測定装置から前記イオンビームのビーム電流を示す複数の測定値を含むデータセットを取得するステップと、
前記注入レシピに基づく複数の注入工程にて取得された複数のデータセットを入力として、前記複数の測定値と前記注入レシピに定められる少なくとも一つの注入パラメータとの相関関係を示すモデルを構築するステップと、を備え
前記少なくとも一つの注入パラメータは、イオン種、ビームエネルギー、ビーム電流、ビームサイズ、ウェハチルト角、ウェハツイスト角、および、平均ドーズ量の少なくとも一つを備えることを特徴とするモデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置およびモデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程に使用される装置は、イオン注入装置と呼ばれる。イオン注入装置は、ウェハに照射すべきイオンビームのビーム電流やビーム角度といった物理量を測定し、測定値に基づいてイオンビームを調整することで、所望の注入条件において要求されるイオン注入の精度を実現するよう構成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-82266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
注入精度を高めるためには高精度の測定装置を用いることが考えられる。しかしながら、測定自体に何らかの異常がある場合、高精度の測定装置を用いたとしても正しい測定ができない。この場合、正しくない測定値に基づいてビーム調整や注入処理がなされるため、要求される注入精度を実現できなくなるおそれがある。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、物理量の測定の妥当性を評価する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン注入装置は、注入レシピに基づいてイオンビームを生成するビーム生成装置と、イオンビームの少なくとも一つの物理量を測定する複数の測定装置と、複数の測定装置により測定された複数の測定値を含むデータセットを取得し、複数の測定値の相関関係を示すモデルを用いて、イオンビームの少なくとも一つの物理量の測定の妥当性を評価する制御装置と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、モデル生成方法である。この方法は、注入レシピに基づいて生成されたイオンビームを測定する複数の測定装置からイオンビームの少なくとも一つの物理量を示す複数の測定値を含むデータセットを取得するステップと、注入レシピに基づく複数の注入工程にて取得された複数のデータセットを入力として、複数の測定値の相関関係を示すモデルを構築するステップと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、イオンビームの物理量の測定の妥当性を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図2図1のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
図3】注入処理室内の構成を概略的に示す上面図である。
図4】制御装置の機能構成を模式的に示すブロック図である。
図5】複数の測定値ベクトルの相関関係を示す関数を模式的に示す図である。
図6】モデルに対して設定される複数の閾値を模式的に示す図である。
図7】測定値ベクトルの補正方法を模式的に示すグラフである。
図8】実施の形態に係るイオン注入方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態に係るイオン注入装置は、所望の注入レシピに基づいてイオンビームを生成し、イオンビームの少なくとも一つの物理量を複数の測定装置で測定する。複数の測定装置は、イオン注入装置内の様々な箇所に配置され、物理量の一例としてビーム電流を測定するよう構成される。複数の測定装置は、同一のイオンビームを測定する。そのため、各測定装置の測定自体が正常であれば、複数の測定装置により測定される複数の測定値は、比例関係といったある一定の相関関係を有すると考えられる。仮に、いずれかの測定装置による測定に異常が発生した場合、複数の測定値の相関関係が崩れることが予想される。
【0013】
そこで、本実施の形態では、正常時における複数の測定値の相関関係を示すモデルをあらかじめ構築し、そのモデルを基準として任意の注入時における複数の測定値の相関関係を評価する。例えば、注入時における複数の測定値の相関関係が基準となるモデルからどの程度ずれているかを算出し、そのずれ量に基づいて測定の妥当性を評価する。これにより、測定自体が異常であることに起因する測定誤差の検知が可能となる。さらに、モデルに基づいて測定値を補正することで、補正されたより正確な測定値に基づいてビーム調整やドーズ制御などを実行できる。これにより、近年求められている非常に厳しい注入精度を実現することができ、イオン注入工程の信頼性を高めることができる。
【0014】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、図2は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理を施すよう構成される。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。説明の便宜のため、本明細書において被処理物WをウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図しない。
【0015】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの処理面全体にわたってイオンビームを照射するよう構成される。本書では説明の便宜上、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームを被処理物Wに対して走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。したがって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0016】
イオン注入装置10は、イオン生成装置12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18とを備える。イオン生成装置12は、イオンビームをビームライン装置14に与えるよう構成される。ビームライン装置14は、イオン生成装置12から注入処理室16へイオンビームを輸送するよう構成される。注入処理室16には、注入対象となるウェハWが収容され、ビームライン装置14から与えられるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる。ウェハ搬送装置18は、注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出するよう構成される。イオン注入装置10は、イオン生成装置12、ビームライン装置14、注入処理室16およびウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0017】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査部32、ビーム平行化部34および角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流とは、イオン生成装置12に近い側のことをいい、ビームラインAの下流とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側のことをいう。
【0018】
質量分析部20は、イオン生成装置12の下流に設けられ、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成される。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23とを有する。
【0019】
質量分析磁石21は、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームに磁場を印加し、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる経路でイオンビームを偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームにy方向(図1および図2では-y方向)の磁場を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁場強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23を通過するように調整される。
【0020】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流に設けられ、イオンビームに対する収束/発散力を調整するよう構成される。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)の収束位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は必須の構成ではなく、質量分析部20に質量分析レンズ22が設けられなくてもよい。
【0021】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22の下流に設けられ、質量分析レンズ22から離れた位置に設けられる。質量分析スリット23は、質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)がスリット幅となるように構成され、x方向が相対的に短く、y方向が相対的に長い形状の開口23aを有する。
【0022】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅が可変となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つに切り替えることによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0023】
ビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームを遮蔽するよう構成される。ビームパーク装置24は、ビームラインAの途中の任意の位置に配置することができるが、例えば、質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置できる。質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで、他の位置に配置する場合よりもビームラインAの長さを短くすることができ、イオン注入装置10の全体を小型化できる。
【0024】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a,25b)と、ビームダンプ26と、を備える。一対のパーク電極25a,25bは、ビームラインAを挟んで対向し、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する方向(y方向)に対向する。ビームダンプ26は、パーク電極25a,25bよりもビームラインAの下流側に設けられ、ビームラインAからパーク電極25a,25bの対向方向に離れて設けられる。
【0025】
第1パーク電極25aはビームラインAよりも重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bはビームラインAよりも重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、ビームラインAよりも重力方向下側に離れた位置に設けられ、質量分析スリット23の開口23aの重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない部分で構成される。ビームダンプ26は、質量分析スリット23とは別体として構成されてもよい。
【0026】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bの間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインAからイオンビームを退避させる。例えば、第1パーク電極25aの電位を基準として第2パーク電極25bに負電圧を印加することにより、イオンビームをビームラインAから重力方向下方に偏向させてビームダンプ26に入射させる。図2において、ビームダンプ26に向かうイオンビームの軌跡を破線で示している。また、ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bを同電位とすることにより、イオンビームをビームラインAに沿って下流側に通過させる。ビームパーク装置24は、イオンビームを下流側に通過させる第1モードと、イオンビームをビームダンプ26に入射させる第2モードとを切り替えて動作可能となるよう構成される。
【0027】
質量分析スリット23の下流にはインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によりビームラインAに出し入れ可能となるよう構成される。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。インジェクタファラデーカップ28は、図2の破線で示すようにビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームを遮断する。一方、図2の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームの遮断が解除される。
【0028】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20により質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測するよう構成される。インジェクタファラデーカップ28は、質量分析磁石21の磁場強度を変化させながらビーム電流を測定することにより、イオンビームの質量分析スペクトラムを計測できる。計測した質量分析スペクトラムを用いて、質量分析部20の質量分解能を算出することができる。
【0029】
ビーム整形部30は、収束/発散四重極レンズ(Qレンズ)などの収束/発散装置を備えており、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形部30は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズ30a,30b,30cを有する。ビーム整形部30は、三つのレンズ装置30a~30cを用いることにより、イオンビームの収束または発散をx方向およびy方向のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形部30は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0030】
ビーム走査部32は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査部32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体にわたって走査される。図1において、矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を一点鎖線で示している。
【0031】
ビーム平行化部34は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化部34は、y方向の中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0032】
ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0033】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ36は、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。図2において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0034】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。本実施の形態において、イオン生成装置12およびビームライン装置14をビーム生成装置ともいう。ビーム生成装置は、ビーム生成装置を構成する各種機器の動作パラメータを調整することで、所望の注入条件を実現するためのイオンビームを生成するよう構成される。
【0035】
注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42(42L,42R)、プロファイラカップ44およびビームストッパ46を備える。注入処理室16は、図2に示されるように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0036】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36とともにウェハWに入射するイオンビームのエネルギー分析をする。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0037】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に位置する。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハWの表面(ウェハ処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面における正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0038】
サイドカップ42(42R,42L)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定するよう構成される。図2に示されるように、サイドカップ42R,42Lは、ビームラインA上に配置されるウェハWに対して左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42R、42Lに入射する。これにより、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42R、42Lにより計測される。
【0039】
プロファイラカップ44は、ウェハ処理面におけるビーム電流を測定するよう構成される。プロファイラカップ44は、プロファイラ駆動装置45の動作により可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から退避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。プロファイラカップ44は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定することができる。プロファイラカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んでアレイ状に形成されてもよい。
【0040】
サイドカップ42およびプロファイラカップ44の少なくとも一方は、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。サイドカップ42およびプロファイラカップ44の少なくとも一方は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0041】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。ウェハ保持装置52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置52を往復運動させることにより、ウェハ保持装置52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。図2において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0042】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52とともに往復運動される。
【0043】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の内壁の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0044】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射される注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。図2は、ウェハWが注入位置にある状態を示しており、プラテン駆動装置50は、ビームラインAとウェハWとが交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットにより搬送口48を通じてウェハWが搬入または搬出される際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0045】
ビームストッパ46は、ビームラインAの最下流に設けられ、例えば、注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWが存在しない場合、イオンビームはビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに位置しており、搬送口48よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0046】
ビームストッパ46には、複数のチューニングカップ47(47a,47b,47c,47d)が設けられている。複数のチューニングカップ47は、ビームストッパ46に入射するイオンビームのビーム電流を測定するよう構成されるファラデーカップである。複数のチューニングカップ47は、x方向に間隔をあけて配置されている。複数のチューニングカップ47は、例えば、注入位置におけるビーム電流をプロファイラカップ44を用いずに簡易的に測定するために用いられる。
【0047】
サイドカップ42(42L,42R)、プロファイラカップ44およびチューニングカップ47(47a~47d)は、イオンビームの物理量としてビーム電流を測定するための複数の測定装置である。サイドカップ42(42L,42R)、プロファイラカップ44およびチューニングカップ47(47a~47d)は、イオンビームの物理量としてビーム角度を測定するための複数の測定装置であってもよい。
【0048】
イオン注入装置10は、制御装置60をさらに備える。制御装置60は、イオン注入装置10の動作全般を制御する。制御装置60は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。制御装置60により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0049】
図3は、注入処理室16内の構成を概略的に示す上面図であり、注入処理室16に配置される複数の測定装置がスキャンビームSBを測定する様子を示している。イオンビームBは、矢印Xで示されるようにx方向に往復走査され、x方向に往復走査されたスキャンビームSBとしてウェハWに入射する。
【0050】
イオンビームBは、ウェハWが位置する注入範囲C1と、注入範囲C1よりも外側のモニタ範囲C2L,C2Rとを含む照射範囲C3にわたって往復スキャンされる。左右のモニタ範囲C2L,C2Rのそれぞれには、左右のサイドカップ42L,42Rが配置されている。左右のサイドカップ42L,42Rは、注入工程においてモニタ範囲C2L,C2RまでオーバースキャンされるイオンビームBを測定することができる。
【0051】
プロファイラカップ44は、注入工程において照射範囲C3よりも外側の非照射範囲C4Rに退避されている。図示する構成では、プロファイラ駆動装置45が右側に配置され、注入工程においてプロファイラカップ44が右側の非照射範囲C4Rに退避されている。なお、プロファイラ駆動装置45が左側に配置される構成では、注入工程において、プロファイラカップ44が左側の非照射範囲C4Lに退避されてもよい。
【0052】
プロファイラカップ44は、注入工程の事前に実行される準備工程において、注入範囲C1に配置され、注入範囲C1におけるイオンビームBのビーム電流を測定する。プロファイラカップ44は、注入範囲C1においてx方向に移動しながらビーム電流を測定し、スキャンビームSBのx方向のビーム電流密度分布を測定する。プロファイラカップ44は、注入工程におけるウェハ処理面に一致する平面(測定面MS)に沿ってx方向に移動することで、ウェハ処理面の位置でのビーム電流を測定する。
【0053】
複数のチューニングカップ47は、注入範囲C1に配置され、注入範囲C1におけるイオンビームBのビーム電流を測定する。複数のチューニングカップ47は、ウェハWよりも下流側に離れた位置に配置されている。チューニングカップ47は、プロファイラカップ44のように注入範囲C1と非照射範囲C4Rの間で移動させる必要がないため、プロファイラカップ44に比べて簡易的に注入範囲C1におけるビーム電流を測定することができる。
【0054】
準備工程では、注入処理室16内に設けられる各種ファラデーカップにてビーム電流測定値が測定される。具体的には、サイドカップ42L,42R、プロファイラカップ44および複数のチューニングカップ47を用いて複数のビーム電流測定値が測定される。制御装置60は、取得したビーム電流測定値間の比率を記憶し、注入工程においてサイドカップ42L,42Rにより測定されるビーム電流測定値からウェハ処理面におけるビーム電流値を算出できるようにする。通常、各種ファラデーカップで測定されるビーム電流測定値間の比率は、ビームライン装置14のビーム光学系の設定に依存し、イオン生成装置12から引き出されるイオンビームBのビーム電流が多少変動したとしても、ビーム電流測定値の比率はほぼ一定である。つまり、準備工程においてビーム光学系の設定が決まれば、その後の注入工程におけるビーム電流測定値間の比率も変わらない。したがって、準備工程においてビーム電流測定値間の比率を記憶しておけば、その比率と、サイドカップ42L,42Rにより測定されるビーム電流測定値とに基づいて、注入工程においてウェハWにイオンが注入される注入位置(つまり、ウェハ処理面)でのビーム電流値を算出できる。
【0055】
注入工程では、サイドカップ42L,42Rを用いてビーム電流を常時測定できる。注入工程では、プロファイラカップ44やチューニングカップ47を用いてビーム電流を常時測定することはできず、間欠的な測定しかできない。したがって、注入工程では、サイドカップ42L,42Rにより測定されるビーム電流測定値に基づいて、ウェハ処理面に注入されるイオンのドーズ量が制御される。注入工程の途中でサイドカップ42L,42Rにより測定されるビーム電流測定値が変化した場合、ウェハWのy方向の往復運動の速度を変化させることで、ウェハ処理面のドーズ量分布が調整される。例えば、ウェハ処理面の面内で均一なドーズ量分布を実現しようとする場合、サイドカップ42L,42Rによりモニタされるビーム電流値に比例する速度でウェハWを往復運動させる。具体的には、モニタするビーム電流測定値が増加する場合にはウェハWの往復運動を速くし、モニタするビーム電流値が低下する場合にはウェハWの往復運動を遅くする。これにより、スキャンビームSBのビーム電流の変動に起因するウェハ処理面内におけるドーズ量分布のばらつきを防ぐことができる。
【0056】
図4は、制御装置60の機能構成を模式的に示すブロック図である。制御装置60は、注入制御部61と、測定管理部65と、モデル構築部69と、記憶部70と、を備える。
【0057】
注入制御部61は、注入レシピに基づいてイオン注入装置10の動作を制御する。測定管理部65は、複数の測定装置にて測定される複数の測定値に基づいて、測定の妥当性を評価し、必要に応じて測定値を補正する。測定管理部65は、複数の測定値の相関関係を示すモデルを用いて、測定の妥当性の評価および測定値の補正をする。モデル構築部69は、測定管理部65にて用いるモデルを構築する。記憶部70は、注入レシピや注入レシピを実現するための動作パラメータ、複数の測定装置により測定される測定値、複数の測定値の相関関係を示すモデルなどを記憶する。
【0058】
注入制御部61は、注入レシピ取得部62と、ビーム調整部63と、ドーズ制御部64とを備える。
【0059】
注入レシピ取得部62は、イオン種、ビームエネルギー、ビーム電流、ビームサイズ、ウェハチルト角、ウェハツイスト角、平均ドーズ量といった注入パラメータが定められた注入レシピを取得する。注入レシピには、不均一注入を実施するための注入パラメータが定められてもよい。注入レシピには、不均一注入のための二次元ドーズ量分布が定められてもよいし、ビームスキャン速度やウェハ移動速度を可変制御するための補正ファイルが定められてもよい。
【0060】
ビーム調整部63は、取得した注入レシピに基づいてイオンビームを生成する。ビーム調整部63は、イオン注入装置10を構成する各種機器の動作パラメータを調整することで、所望の注入レシピに定められる注入パラメータが実現されるようにする。ビーム調整部63は、イオン生成装置12のガス種や引出電圧、質量分析部20の磁場強度などを調整することでイオンビームのイオン種を制御する。ビーム調整部63は、イオン生成装置12の引出電圧、ビーム平行化部34の印加電圧、ADコラムの印加電圧、角度エネルギーフィルタ36の印加電圧などを調整することでイオンビームのビームエネルギーを制御する。ビーム調整部63は、イオン生成装置12のガス量、アーク電流、アーク電圧、ソースマグネット電流といった各種パラメータや、質量分析スリット23の開口幅などを調整することでイオンビームのビーム電流を制御する。ビーム調整部63は、ビーム整形部30に含まれる収束/発散装置の動作パラメータなどを調整することにより、ウェハ処理面WSに入射するイオンビームのビームサイズを制御する。
【0061】
ビーム調整部63は、準備工程において取得されるイオンビームの物理量の測定値に基づいてビームを調整する。ビーム調整部63は、測定管理部65によって補正された測定値に基づいてビームを調整してもよい。
【0062】
ドーズ制御部64は、注入工程においてウェハWに注入されるドーズ量またはドーズ量分布を制御する。不均一注入を実施する場合、ドーズ制御部64は、取得した注入レシピに基づいて、ビームスキャン速度およびウェハ移動速度を可変制御する。ドーズ制御部64は、ビーム走査部32に指令する走査電圧パラメータを制御することでビームスキャン速度を可変制御し、往復運動機構54に指令する速度パラメータを制御することでウェハ移動速度を可変制御する。
【0063】
ドーズ制御部64は、相対的に高ドーズ量とする箇所においてビームスキャン速度が遅くなるように走査電圧の時間変化率dV/dtを小さくし、相対的に低ドーズ量とする箇所においてビームスキャン速度が速くなるように走査電圧の時間変化率dV/dtを大きくする。ドーズ制御部64は、相対的に高ドーズ量とする箇所についてはウェハ移動速度を遅くし、相対的に低ドーズ量とする箇所についてはウェハ移動速度を速くする。
【0064】
ドーズ制御部64は、準備工程において取得されるイオンビームの物理量の測定値に基づいてビームスキャン速度を調整する。ドーズ制御部64は、例えばプロファイラカップ44により測定されるx方向のビーム電流密度分布の測定値に基づいて、ビームスキャン速度を調整する。ドーズ制御部64は、注入工程において取得されるイオンビームの物理量の測定値に基づいてウェハ移動速度を調整する。ドーズ制御部64は、例えばサイドカップ42L,42Rにて測定されるビーム電流測定値に基づいて、注入工程におけるビーム電流の変動の影響を低減するようにウェハ移動速度を調整する。ドーズ制御部64は、測定管理部65によって補正された測定値に基づいてビームスキャン速度およびウェハ移動速度の少なくとも一方を調整してもよい。
【0065】
測定管理部65は、データセット取得部66と、測定評価部67と、測定補正部68とを含む。データセット取得部66は、測定の評価および補正に必要となる各種データが含まれるデータセットを取得する。データセットには、複数の測定装置により測定された複数の測定値が含まれる。データセットには、例えば、サイドカップ42L,42R、プロファイラカップ44およびチューニングカップ47により測定された複数のビーム電流測定値が含まれる。データセットには、測定対象となるビームに関連する様々なパラメータが含まれてもよい。データセットには、注入レシピに定められる注入パラメータの少なくとも一つが含まれてもよい。データセットには、少なくとも一つの注入パラメータを実現するための各種機器の動作パラメータの少なくとも一つが含まれてもよい。データセット取得部66は、複数の注入工程にて取得された複数のデータセットを記憶部70に蓄積してもよい。記憶部70に蓄積された複数のデータセットは、モデル構築の入力データとして用いることができる。
【0066】
測定評価部67は、取得したデータセットに基づいて、データセットに含まれる複数の測定値が妥当であるか評価する。測定評価部67は、正常な測定がなされたときの複数の測定値の相関関係を示すモデルを参照し、データセットに含まれる複数の測定値の相関関係がモデルと対応する場合、複数の測定値が妥当であると判定する。言いかえれば、複数の測定値に係る測定が正常であると判定する。一方、データセットに含まれる複数の測定値の相関関係がモデルと対応しない場合、複数の測定値が妥当ではないと判定する。言いかえれば、複数の測定値に係る測定に異常があると判定する。測定の妥当性を示す指標として、例えば、データセットに含まれる複数の測定値が基準となるモデルからどの程度ずれているかを示す値(例えば距離や偏差)を用いることができる。複数の測定値の相関関係を示すモデルの詳細は、別途後述する。
【0067】
測定補正部68は、正常な測定がなされたときの複数の測定値の相関関係を示すモデルを用いて、データセットに含まれる複数の測定値の少なくとも一つを補正する。測定補正部68は、複数の測定値の相関関係がモデルからずれている場合、補正後の複数の測定値の相関関係がモデルに対応するように複数の測定値の少なくとも一つを補正する。測定補正部68は、例えば、複数の測定値に係る測定が異常であると判定される場合に、複数の測定値の少なくとも一つを補正することで、複数の測定値の少なくとも一つの異常値を正常値と推定される値に補正する。測定補正部68は、複数の測定値に係る測定が正常であると判定される場合であっても複数の測定値の少なくとも一つを補正してもよい。モデルに基づいて正常値を補正することで、測定誤差等に起因して測定値がモデルからずれている場合に正常な測定値をより正確な値に補正することができる。補正された測定値は、ビーム調整やドーズ制御に用いることができる。
【0068】
モデル構築部69は、測定評価部67や測定補正部68が用いるモデルを構築する。モデル構築部69は、正常な測定がなされたときの複数の測定値を含むデータセットを入力として、複数の測定値の相関関係を示すモデルを構築する。モデル構築部69は、正常な測定がなされたときの複数のデータセットを取得し、複数のデータセットのそれぞれに含まれる複数の測定値の相関関係を解析することでモデルを構築する。モデル構築に必要なデータセットの数は、特に限られないが、例えば50~200である。
【0069】
モデル構築に使用する複数のデータセットは、同一の注入レシピを実現するために異なるタイミングに生成されたイオンビームを測定した測定値を含んでもよいし、注入パラメータや動作パラメータの少なくとも一つが異なる注入レシピを実現するために生成されたイオンビームの測定値を含んでもよい。複数のデータセットのそれぞれは、注入パラメータや動作パラメータの少なくとも一つが特定の条件を満たすイオンビームの測定値のみを含んでもよい。モデル構築部69は、測定対象のイオンビームを照射したウェハの特性が所定条件を満たしたデータセットのみを用いてモデルを構築してもよい。例えば、イオン注入されたウェハ上に製造されたデバイスが正常に動作したときのデータセットのみを用いてモデルを構築してもよい。
【0070】
つづいて、本実施の形態に係るモデルの構築について詳述する。以下では、左右のサイドカップ42L,42R、プロファイラカップ44、および、4個のチューニングカップ47a~47dの計7個の測定装置にて測定される7つのビーム電流測定値の相関関係を示すモデルを例として説明する。なお、モデルの構築対象となる物理量は、ビーム電流測定値でなくてもよく、上記カップで測定されるビーム角度に関する測定値であってもよい。また、モデルを構築するために用いる測定装置の数は7個に限られず、6個未満であってもよいし、8個以上であってもよい。但し、測定装置の数は、3個以上または4個以上であることが好ましい。測定装置の数を増やすことで、測定の妥当性の評価精度や測定値の補正精度を高めることができる。
【0071】
モデル構築部69は、複数のカップで測定される複数のビーム電流測定値を含むデータセットを取得する。複数のビーム電流測定値は、複数のカップの個数n(例えば7個)の次元(例えば7次元)を有する配列データまたは測定値ベクトルx(x,x,…,x,…,x)として表すことができる。モデル構築部69は、複数の測定値ベクトルxを取得し、取得した複数の測定値ベクトルxの相関関係を示す関数f(x)を特定する。モデル構築部69は、例えば、主成分分析(Principal Component Analysis; PCA)により、複数の測定値ベクトルxの相関関係を示す直線を特定する。主成分分析により特定される直線は、複数の測定値ベクトルxをn次元(7次元)の空間上にプロットした場合に、主成分方向に延びる直線として表すことができる。なお、複数の測定値ベクトルxの相関関係を示す関数f(x)は、直線に限られず、任意の非線形関数であってもよい。
【0072】
図5は、複数の測定値ベクトルの相関関係を示す関数を模式的に示す図である。図5のグラフでは、説明の制約上、第1カップの測定値xと第2カップの測定値xの2次元のみを示しているが、実際にはn次元(例えば7次元)である。グラフ上のプロット72は、測定値ベクトルxが示す位置座標に配置されている。グラフ上の直線74は、複数のプロット72の近似直線であり、複数の測定値ベクトルxの相関関係を示す関数f(x)である。直線74は、複数のプロット72の分布の中心を通り、第1主成分方向に延びる直線として定義される。例えば、複数のプロット72の分布の中心座標をxとし、第1主成分方向の単位ベクトルをvとすると、媒介変数tを用いて、x+tvの式で直線74を表すことができる。
【0073】
モデル構築部69は、複数の測定値ベクトルxの分布に基づいて、測定の妥当性を評価するための閾値を決定する。測定の妥当性を評価するための閾値は、例えば、図5のグラフに示される基準領域76として定義される。評価対象となる測定値ベクトルxが基準領域76の内側にあれば、その測定値ベクトルxは正常であると判定される。一方、評価対象となる測定値ベクトルxが基準領域76の外側にあれば、その測定値ベクトルxは異常であると判定される。基準領域76は、直線74に沿った第1主成分方向の第1範囲76aと、直線74に直交する第2主成分方向の第2範囲76bとにより定義できる。第1範囲76aは、第1主成分方向の分布のばらつきを示すT統計量に基づいて定義できる。T統計量は、測定値ベクトルxの第1主成分方向の成分tと、分布の第1主成分方向の標準偏差σを用いて、T=Σ(t/σと表すことができる。第2範囲76bは、第1主成分方向に直交する方向の分布のばらつきを示すQ統計量を用いて定義できる。Q統計量は、第1主成分軸(例えば、直線74)から測定値ベクトルxまでの距離qを用いて、Q=Σqと表すことができる。距離qは、測定値ベクトルxを第1主成分軸上に射影したときの位置座標x=x+tvを用いて、q=x-xと表すことができる。閾値となる具体的な範囲は、T統計量またはQ統計量が所定値となる範囲として定義することができ、例えば、複数の測定値ベクトルxの分布の99.5%が基準領域76の内側に含まれるように閾値を定義できる。なお、基準領域76を定義するための閾値は、固定値でなくてもよく、必要とする注入精度に応じて可変値としてもよい。
【0074】
モデル構築部69は、一つのモデルに対して複数の閾値を決定してもよい。図6は、モデルに対して設定される複数の閾値を模式的に示す図である。図6では、一つのモデルに対する複数の閾値として、第1基準領域77および第2基準領域78が設定されている。第1基準領域77は、評価対象となる測定値ベクトルxが正常とされる範囲である。第1基準領域77に含まれる測定値ベクトルxは、補正されてもよいし、補正されなくてもよい。第2基準領域78は、評価対象となる測定値ベクトルxが異常とされる範囲であって、測定値ベクトルの補正が可能な範囲である。第1基準領域77および第2基準領域78のいずれにも該当しない範囲は、評価対象となる測定値ベクトルxが異常とされる範囲であって、測定値ベクトルの補正ができない範囲である。
【0075】
モデル構築部69は、様々な注入レシピに適用可能な汎用モデルを構築してもよいし、特定の注入レシピにのみ適用可能な個別モデルを構築してもよい。個別モデルは、例えば、特定の条件を満たす測定値ベクトルxのみを入力として用いることで構築できる。例えば、特定の注入パラメータまたは特定の動作パラメータが所定条件を満たす状況下で測定された測定値ベクトルxのみをモデル構築の入力として用いることで、個別モデルを構築できる。モデル構築部69は、注入パラメータや動作パラメータの値をモデルに入力することで汎用モデルを構築してもよい。この場合、汎用モデルに組み込まれる注入パラメータや動作パラメータの値が所定条件を満たすように制約することで、個別モデルを構築することができる。ここで、特定の注入パラメータおよび動作パラメータは、測定値とは直接関連しないパラメータであってもよい。例えば、ビーム電流測定値のためのモデルの場合、イオン種、ビームエネルギーまたはビーム角度といったビーム電流とは異なる注入パラメータや、ビーム電流とは異なる注入パラメータを制御するための動作パラメータなどを対象としてもよい。このようなモデルは、複数の測定値と少なくとも一つの注入パラメータまたは動作パラメータとの相関関係を示すモデルということができる。
【0076】
モデル構築部69は、モデル構築の入力として用いる測定値ベクトルxに対して事前処理を施してもよい。例えば、特定の測定装置iが測定したビーム電流測定値xの分布の平均値μと標準偏差σを用いて、ビーム電流測定値xを標準化してもよい。標準化されたビーム電流測定値x’は、x’=(x-μ)/σと表すことができる。測定装置ごとにビーム電流測定値xを標準化することで、カップごとの測定のばらつき等を平準化することができ、モデルに対する各測定装置の寄与を均一化できる。
【0077】
モデル構築部69は、モデルに対する各測定装置の寄与を測定装置ごとに異ならせてもよい。例えば、各測定装置の寄与を示す調整係数αを測定装置ごとに設定し、ビーム電流測定値xに調整係数αを乗算した調整後のビーム電流測定値αを入力としてモデルを構築してもよい。調整係数αは、標準化されたビーム電流測定値x’に対して乗算してもよく、標準化され、かつ、調整後のビーム電流測定値α’を入力としてモデルを構築してもよい。調整係数αの値は、各測定装置における測定の信頼性に基づいて定められてもよい。例えば、測定誤差が生じにくく信頼性が高い測定装置の調整係数αを相対的に大きくする一方、測定誤差が生じやすく信頼性が低い測定装置の調整係数αを相対的に小さくしてもよい。
【0078】
モデル構築部69は、モデルごとに調整係数αの値を可変としてもよい。例えば、特定の注入レシピに適用する個別モデルについて、特定の測定装置の調整係数αを汎用モデルや他の個別モデルとは異なる値としてもよい。例えば、高ビーム電流が必要となる注入レシピでは、ビームラインAの下流側においてビームが拡がりやすくなり、ビームラインAの最下流に配置されるチューニングカップ47にビーム径の全体が入射しにくい状況となる。そうすると、理想的なビーム電流測定値に比べてチューニングカップ47の測定値が小さくなり、測定誤差が大きくなってしまう。そこで、ビームが拡がりやすい注入レシピに適用する個別モデルでは、チューニングカップ47に適用する調整係数αを小さな値とし、チューニングカップ47における測定誤差がモデルに反映されにくくなるようにしてもよい。また、サイドカップ42の測定値は、ビームのスキャン条件に応じて変化しうる。そこで、不均一注入用の注入レシピに適用する個別モデルでは、ビームスキャンの速度分布や走査範囲に応じて、サイドカップ42に適用する調整係数αを可変としてもよい。特定の測定装置の調整係数αは、注入レシピに定められる注入パラメータや注入レシピを実現するための動作パラメータに応じて、個別に設定されてもよい。
【0079】
つづいて、構築されたモデルを用いた測定値の評価および補正について詳述する。
【0080】
測定評価部67は、評価対象とする複数の測定値が含まれるデータセットを取得する。測定評価部67は、取得したデータセットに含まれる注入パラメータや動作パラメータに基づいて、評価に用いるモデルを選択する。測定評価部67は、取得したデータセットにおける注入パラメータや動作パラメータに対応する個別モデルが構築されていれば、取得したデータセットに対応する個別モデルを評価に用いる。測定評価部67は、取得したデータセットにおける注入パラメータや動作パラメータに対応する個別モデルが構築されていなければ、汎用モデルを評価に用いてもよい。
【0081】
測定評価部67は、選択したモデルを参照して、取得したデータセットに含まれる複数の測定値の妥当性を評価する。測定評価部67は、例えば、取得した複数の測定値に対応する測定値ベクトルを図5のグラフにプロットし、プロットした測定値ベクトルが基準領域76の範囲内に含まれるか否かを判定する。測定評価部67は、測定値ベクトルが基準領域76の範囲内に含まれる場合、取得したデータセットに係る測定が正常であると判定する。一方、測定値ベクトルが基準領域76の範囲外である場合、取得したデータセットに係る測定が異常であると判定する。測定評価部67は、選択したモデルにおいて測定値ベクトルの標準化や調整係数αによる重み付けがなされている場合、取得した複数の測定値に対して標準化や重み付け調整を適用してから測定の妥当性を評価する。
【0082】
測定評価部67は、選択したモデルを参照して、複数の測定値の妥当性を示す指標を算出してもよい。測定評価部67は、測定値の妥当性の指標として、複数の測定値に対応する測定値ベクトル82がモデルからどの程度ずれているかを示す値(ずれ量)を算出してもよい。例えば、モデルが示す直線74から測定値ベクトル82までの距離、つまり、第1主成分方向に直交する方向の距離を第1指標として算出してもよい。第1指標は、上述のQ統計量に基づいて算出されてもよい。また、モデルの中心座標xから測定値ベクトル82までの第1主成分方向に沿った方向の距離を第2指標として算出してもよい。第2指標は、上述のT統計量に基づいて算出されてもよい。第1指標および第2指標は、分布の標準偏差σなどに基づいて標準化または正規化された値であってもよい。測定評価部67は、算出した第1指標および第2指標の少なくとも一方に基づいて、複数の測定値の妥当性を評価してもよい。測定評価部67は、算出した指標と、上述の基準領域76,77,78に対応する閾値とを比較することで、測定が正常であるか異常であるか等の評価をしてもよい。
【0083】
測定補正部68は、測定評価部67により評価された複数の測定値をモデルに基づいて補正する。図7は、測定値ベクトルの補正方法を模式的に示すグラフである。測定補正部68は、例えば、取得した複数の測定値に対応する測定値ベクトル82を図7のグラフにプロットし、モデルが示す直線74の上で測定値ベクトル82に最も近いベクトルを補正後の測定値ベクトル84として算出する。矢印80で示される補正前の測定値ベクトル82から補正後の測定値ベクトル84への補正方向は、モデルが示す直線74に直交する方向である。
【0084】
測定補正部68は、測定評価部67が評価に用いたモデルを用いて複数の測定値を補正する。測定補正部68は、モデルにおいて測定値ベクトルの標準化や調整係数αによる重み付けがなされている場合、標準化および重み付け調整がなされた状態で測定値ベクトルを補正する。測定補正部68は、補正後の測定値ベクトル84に対して、標準化および重み付け調整を解除するための逆演算をすることで補正後の測定値を算出してもよい。具体的には、補正後の測定値ベクトル84をy(y,y,…,y,…,y)とすると、補正後のビーム電流測定値y’は、y’=(σ・y/α)+μと表すことができる。ここで、αは特定の測定装置iにおける調整係数であり、σは特定の測定装置iにおける標準偏差であり、μは特定の測定装置iにおける平均値である。
【0085】
ビーム調整部63は、測定評価部67により測定が異常であると判定された場合、アラートを出力してビーム調整を中止してもよい。ビーム調整部63は、測定評価部67により測定が異常であると判定された場合、ビーム生成装置の動作パラメータを調整して、測定が正常となるようにビームを再調整してもよい。ビーム調整部63は、ビームの再調整後においても測定評価部67によって測定が異常であると判定された場合、ビーム調整を中止してアラートを出力してもよい。
【0086】
ビーム調整部63は、測定補正部68により算出された補正後のビーム電流測定値y’に基づいてビーム調整をしてもよい。ビーム調整部63は、補正後のビーム電流測定値y’が注入レシピにより指定されるビーム電流となるようにビーム調整をしてもよい。ビーム調整部63は、特定の測定装置iに対応する補正後のビーム電流測定値y’に基づいてビーム調整をしてもよく、例えばプロファイラカップ44における補正後のビーム電流測定値y’を基準としてビーム調整がなされてもよい。
【0087】
ドーズ制御部64は、測定補正部68により算出された補正後のビーム電流測定値y’に基づいてドーズ制御をしてもよい。ドーズ制御部64は、特定の測定装置iに対応する補正後のビーム電流測定値y’に基づいてドーズ制御をしてもよく、例えばプロファイラカップ44における補正後のビーム電流測定値y’を基準としてイオンビームのスキャン速度分布を調整してもよい。ドーズ制御部64は、サイドカップ42L,42Rとプロファイラカップ44における補正後のビーム電流測定値y’の比率を基準として、イオン注入中のビーム電流の変動の影響が低減されるようにウェハ移動速度を調整してもよい。
【0088】
図8は、実施の形態に係るイオン注入方法の流れを概略的に示すフローチャートである。制御装置60は、複数の測定値を含むデータセットを取得し(S10)、モデルを用いて複数の測定値の測定の妥当性を評価する(S12)。測定が正常であれば(S14のY)、取得した測定値に基づいてイオン注入処理を実行する(S16)。測定が異常であり(S14のN)、測定値の補正が可能であれば(S18のY)、モデルを用いて測定値を補正し(S20)、補正値に基づいてイオン注入処理を実行する(S22)。測定値の補正が不可であり(S18のN)、ビーム調整が不可であれば(S24のY)、注入処理を中止する(S26)。測定値の補正が不可であり(S18のN)、ビーム調整が可能であれば(S24のN)、ビームを再調整して(S28)、フローの最初に戻ってS10以降の処理を実行する。
【0089】
本実施の形態によれば、複数の測定値に係る測定の妥当性をモデルを用いて評価することで、測定の異常の有無をより高精度に検出できる。本実施の形態によれば、複数の測定値の正常時の相関関係を示すモデルを参照することで、複数の測定値の少なくとも一つが正常時から逸脱した測定をしていることを容易に特定できる。特に、モデルに適用する測定装置の数を増やすことで、いずれかの測定装置にわずかな測定誤差が生じている場合であっても、その測定誤差を高精度に検出できる。これにより、高精度で正常と評価された測定値に基づいてイオン注入処理を実行することができ、注入精度を高めることができる。
【0090】
本実施の形態によれば、複数の測定値の正常時の相関関係を示すモデルを用いて測定値を補正し、補正値に基づいてイオン注入工程を実行できる。これにより、わずかな測定誤差に起因して測定に異常が発生していると判定される場合に、イオン注入装置の停止を回避することができ、装置の停止による生産性の低下を防ぐことができる。また、測定誤差に起因すると考えられるモデルからのずれを補正することで、測定誤差に起因する測定値のずれを低減することができ、より正確な値の物理量に基づいてイオン注入処理を実行できる。これにより、測定値を補正しない場合に比べて、注入精度を高めることができる。
【0091】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【0092】
上述の実施の形態において、モデル構築部69は、構築したモデルを都度更新してもよい。例えば、イオン注入装置10を継続的に使用することで、多様な注入レシピに基づく多数の注入工程においてデータセットが取得されて記憶部70に蓄積される。モデル構築部69は、記憶部70に蓄積されていくデータセットに基づいて、モデルに反映する測定値ベクトルのプロット数を増やすことでモデルを更新できる。例えば、蓄積されるデータセットに基づいてモデルを構築することで、特定の注入レシピのみに適用可能な個別モデルの種類数を増やすことができる。イオン注入装置10の使用期間が短い場合は、限定された注入レシピに対応するデータセットしか蓄積されていないため、限定された注入レシピに対応する個別モデルしか構築できない。一方、イオン注入装置10の長期使用により多様な注入レシピに対応するデータセットが蓄積されれば、多様な注入レシピのそれぞれに対応する種々の個別モデルを構築できる。注入レシピごとに多様な個別モデルを構築することで、特定の注入レシピにおける測定の妥当性の評価精度および測定値の補正精度を高めることができる。
【0093】
測定評価部67は、モデル構築部69によって個別モデルが構築されていないタイミングでは汎用モデルを用いて測定を評価し、モデル構築部69によって個別モデルが構築されたタイミング以降では個別モデルを用いて測定を評価してもよい。つまり、モデル構築部69によるモデル構築の進捗度に応じて評価に用いるモデルを動的に切り替えてもよい。測定補正部68が補正に用いるモデルについても同様であってもよい。
【0094】
モデル構築部69は、補正後の測定値に基づいて実行されたイオン注入処理の結果に基づいてモデルを更新してもよい。モデル構築部69は、例えば、補正後の測定値に基づいてイオン注入されたウェハ上に製造されたデバイスの特性や歩留まりに関する情報を取得し、測定値の補正の影響を評価してもよい。モデル構築部69は、測定値の補正によるデバイスへの悪影響が低減されるようにモデルを更新または再構築してもよい。
【0095】
モデル構築部69が構築するモデルは、他のイオン注入装置で利用されてもよい。例えば、第1のイオン注入装置にて取得されたデータセットに基づいて構築された第1モデルを第2のイオン注入装置における測定の妥当性評価および測定値の補正に用いてもよい。この場合、第1モデルをそのまま第2のイオン注入装置で使用するのではなく、第1モデルに変換処理を施した第2モデルを第2のイオン注入装置で使用してもよい。第2モデルは、第1モデルに対して所定の変換係数βを適用したモデルであってもよい。変換係数βは、上述の調整係数αと同様、測定装置ごとに設定される係数であってもよく、例えば、複数のビーム電流測定値xのそれぞれに乗算される変換係数βとして設定されてもよい。変換係数βの具体値は、第2のイオン注入装置にて取得される複数の測定値に基づいて決定されてもよい。
【0096】
上述の変換係数βを用いて、第2のイオン注入装置にて用いる個別モデルを構築してもよい。例えば、第1のイオン注入装置において、汎用モデル(第1汎用モデルともいう)および個別モデル(第1個別モデルともいう)が構築されており、第2のイオン注入装置において汎用モデル(第2汎用モデルともいう)のみが構築されている場合を考える。第1汎用モデルと第2汎用モデルの間で変換係数βが求まっている場合、第1個別モデルに同じ変換係数βを適用することで、第2のイオン注入装置にて用いる個別モデル(第2個別モデル)が構築されてもよい。
【0097】
上述の実施の形態では、モデルを用いて複数の測定値の妥当性の評価および補正の双方を実施する場合について示した。別の実施の形態では、モデルを用いて複数の測定値の妥当性の評価のみが実行されてもよい。別の実施の形態では、測定の妥当性を評価せずに、モデルを用いて複数の測定値の補正のみが実行されてもよい。
【符号の説明】
【0098】
10…イオン注入装置、12…イオン生成装置、14…ビームライン装置、16…注入処理室、42…サイドカップ、44…プロファイラカップ、47…チューニングカップ、60…制御装置、61…注入制御部、62…注入レシピ取得部、63…ビーム調整部、64…ドーズ制御部、65…測定管理部、66…データセット取得部、67…測定評価部、68…測定補正部、69…モデル構築部、70…記憶部、B…イオンビーム、W…ウェハ。
図1
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図8