(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】イオン生成装置
(51)【国際特許分類】
H01J 27/20 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
H01J27/20
(21)【出願番号】P 2020047762
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 勇二
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05861630(US,A)
【文献】特開2012-142248(JP,A)
【文献】特開平05-082257(JP,A)
【文献】米国特許第05015862(US,A)
【文献】特開昭56-024739(JP,A)
【文献】特開2003-272555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/00-27/26
H05H 1/00- 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバの内部に配置され、プラズマが生成されるプラズマ生成室を内部に有し、前記プラズマ生成室からイオンを引き出すためのスリットを有するアークチャンバと、
前記真空チャンバの外部に配置され、前記真空チャンバに設けられる真空窓を通じて前記アークチャンバの外面にレーザ光を照射して前記プラズマ生成室を加熱するように構成される
レーザ光源を含む加熱装置と、を備え
、
前記真空窓は、前記真空窓の周縁に設けられる冷却流路を流れる流体によって冷却されるように構成されることを特徴とするイオン生成装置。
【請求項2】
前記加熱装置は、走査されたレーザ光を
前記アークチャンバの外面に照射するための走査光学系を含むことを特徴とする請求項1に記載のイオン生成装置。
【請求項3】
前記加熱装置は、ビーム径が拡大または縮小されたレーザ光を
前記アークチャンバの外面に照射するための拡大縮小光学系を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のイオン生成装置。
【請求項4】
前記加熱装置は、トップハット型の面内強度分布を有するレーザ光を
前記アークチャンバの外面に照射するためのビーム整形光学系を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項5】
前記加熱装置は、複数のレーザ光源を含み、前記複数のレーザ光源から出力される複数のレーザ光は、
前記アークチャンバの外面の互いに異なる箇所に照射されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項6】
前記加熱装置は、複数のレーザ光源を含み、前記複数のレーザ光源から出力される複数のレーザ光は、
前記アークチャンバの外面の同一箇所に重畳して照射されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項7】
前記プラズマ生成室外に設けられ、前記アークチャンバの前記外面からの熱輻射を前記アークチャンバに向けて反射するよう構成されるリフレクタをさらに備えることを特徴する請求項1
から6のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項8】
前記レーザ光は、前記アークチャンバの外面のうち、前記プラズマ生成室を挟んで前記スリットとは反対側の箇所に照射されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項9】
前記アークチャンバは、前記プラズマ生成室内にソースガスを導入するためのガス導入口を有し、
前記プラズマ生成室内において前記ソースガスのプラズマが生成されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン生成装置およびイオン生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのために、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程で使用される装置は、一般にイオン注入装置と呼ばれる。イオン注入装置は、ソースガスをプラズマ化してイオンを生成するためのイオン生成装置を備える。
【0003】
イオン生成装置では、イオン種やイオンビーム電流といった注入条件を変更する目的で、イオン生成装置の運転条件を切り替えることがある。アーク放電を利用するイオン生成装置の場合、アーク放電によるプラズマの生成によりプラズマを取り囲むチャンバ(アークチャンバともいう)が加熱されて高温(例えば数百℃以上)となる。アーク電流などの運転条件が変更されるとプラズマの状態が変化し、その変化に応じてアークチャンバの温度も変化する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマを安定的に生成するためには、イオン生成装置の運転条件に応じてアークチャンバを適切な温度に維持することが好ましい。しかしながら、アークチャンバは比較的大きな熱容量を持つために温度応答性が劣っており、高温状態では熱輻射による熱逃げも大きいため、特に、運転条件の切替時にアークチャンバを適切な温度まで上昇させようとする場合に時間がかかる。また、アークチャンバを適切な温度に上昇させたとしても、プラズマの生成が安定化するまでにさらに待ち時間が発生することがある。そうすると、運転条件の切替に必要となる時間が長くなり、イオン注入工程の生産性が低下する。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、イオン注入工程の生産性を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様のイオン生成装置は、イオンを引き出すためのプラズマを生成するプラズマ生成室と、プラズマ生成室を区画する部材またはプラズマ生成室内に露出する部材にレーザ光を照射してプラズマ生成室を加熱するように構成される加熱装置と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、イオン生成方法である。この方法は、プラズマ生成室を区画する部材またはプラズマ生成室内に露出する部材にレーザ光を照射してプラズマ生成室を加熱することと、プラズマ生成室内で生成されるプラズマからイオンを引き出すことと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、イオン注入工程の生産性向上に寄与するイオン生成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
【
図2】
図1のイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
【
図3】実施の形態に係るイオン生成装置の構成を概略的に示す図である。
【
図4】
図4(a)-(c)は、照射光学系の構成例を概略的に示す図である。
【
図5】
図5(a)-(c)は、レーザ光源の構成例を概略的に示す図である。
【
図6】実施の形態に係る制御装置の機能構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、イオン生成装置を備えるイオン注入装置である。イオン生成装置は、イオンを引き出すためのプラズマを生成するプラズマ生成室を備える。プラズマを安定的に生成するためには、プラズマ生成室を適切な温度(例えば1000℃以上)に上昇させる必要がある。本実施の形態では、プラズマ生成室を区画する部材またはプラズマ生成室内に露出する部材にレーザ光を照射することでプラズマ生成室を加熱し、プラズマ生成室の温度上昇を促進させる。これにより、プラズマが安定的に生成されるまでに必要となる待ち時間を短縮する。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0014】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す上面図であり、
図2は、イオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。イオン注入装置10は、被処理物Wの表面にイオン注入処理を施すよう構成される。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウェハである。説明の便宜のため、本明細書において被処理物WをウェハWと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図しない。
【0015】
イオン注入装置10は、ビームを一方向に往復走査させ、ウェハWを走査方向と直交する方向に往復運動させることによりウェハWの処理面全体にわたってイオンビームを照射するよう構成される。本書では説明の便宜上、設計上のビームラインAに沿って進むイオンビームの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。イオンビームを被処理物Wに対し走査する場合において、ビームの走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。したがって、ビームの往復走査はx方向に行われ、ウェハWの往復運動はy方向に行われる。
【0016】
イオン注入装置10は、イオン生成装置12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、ウェハ搬送装置18とを備える。イオン生成装置12は、イオンビームをビームライン装置14に与えるよう構成される。ビームライン装置14は、イオン生成装置12から注入処理室16へイオンビームを輸送するよう構成される。注入処理室16には、注入対象となるウェハWが収容され、ビームライン装置14から与えられるイオンビームをウェハWに照射する注入処理がなされる。ウェハ搬送装置18は、注入処理前の未処理ウェハを注入処理室16に搬入し、注入処理後の処理済ウェハを注入処理室16から搬出するよう構成される。イオン注入装置10は、イオン生成装置12、ビームライン装置14、注入処理室16およびウェハ搬送装置18に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0017】
ビームライン装置14は、ビームラインAの上流側から順に、質量分析部20、ビームパーク装置24、ビーム整形部30、ビーム走査部32、ビーム平行化部34および角度エネルギーフィルタ(AEF;Angular Energy Filter)36を備える。なお、ビームラインAの上流とは、イオン生成装置12に近い側のことをいい、ビームラインAの下流とは注入処理室16(またはビームストッパ46)に近い側のことをいう。
【0018】
質量分析部20は、イオン生成装置12の下流に設けられ、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成される。質量分析部20は、質量分析磁石21と、質量分析レンズ22と、質量分析スリット23とを有する。
【0019】
質量分析磁石21は、イオン生成装置12から引き出されたイオンビームに磁場を印加し、イオンの質量電荷比M=m/q(mは質量、qは電荷)の値に応じて異なる経路でイオンビームを偏向させる。質量分析磁石21は、例えばイオンビームにy方向(
図1および
図2では-y方向)の磁場を印加してイオンビームをx方向に偏向させる。質量分析磁石21の磁場強度は、所望の質量電荷比Mを有するイオン種が質量分析スリット23を通過するように調整される。
【0020】
質量分析レンズ22は、質量分析磁石21の下流に設けられ、イオンビームに対する収束/発散力を調整するよう構成される。質量分析レンズ22は、質量分析スリット23を通過するイオンビームのビーム進行方向(z方向)の収束位置を調整し、質量分析部20の質量分解能M/dMを調整する。なお、質量分析レンズ22は必須の構成ではなく、質量分析部20に質量分析レンズ22が設けられなくてもよい。
【0021】
質量分析スリット23は、質量分析レンズ22の下流に設けられ、質量分析レンズ22から離れた位置に設けられる。質量分析スリット23は、質量分析磁石21によるビーム偏向方向(x方向)がスリット幅方向と一致するように構成され、x方向が相対的に短く、y方向が相対的に長い形状の開口23aを有する。
【0022】
質量分析スリット23は、質量分解能の調整のためにスリット幅が可変となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。質量分析スリット23は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つに切り替えることによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0023】
ビームパーク装置24は、ビームラインAからイオンビームを一時的に退避し、下流の注入処理室16(またはウェハW)に向かうイオンビームを遮蔽するよう構成される。ビームパーク装置24は、ビームラインAの途中の任意の位置に配置することができるが、例えば、質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間に配置できる。質量分析レンズ22と質量分析スリット23の間には一定の距離が必要であるため、その間にビームパーク装置24を配置することで、他の位置に配置する場合よりもビームラインAの長さを短くすることができ、イオン注入装置10の全体を小型化できる。
【0024】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25(25a,25b)と、ビームダンプ26と、を備える。一対のパーク電極25a,25bは、ビームラインAを挟んで対向し、質量分析磁石21のビーム偏向方向(x方向)と直交する方向(y方向)に対向する。ビームダンプ26は、パーク電極25a,25bよりもビームラインAの下流側に設けられ、ビームラインAからパーク電極25a,25bの対向方向に離れて設けられる。
【0025】
第1パーク電極25aはビームラインAよりも重力方向上側に配置され、第2パーク電極25bはビームラインAよりも重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、ビームラインAよりも重力方向下側に離れた位置に設けられ、質量分析スリット23の開口23aの重力方向下側に配置される。ビームダンプ26は、例えば、質量分析スリット23の開口23aが形成されていない部分で構成される。ビームダンプ26は、質量分析スリット23とは別体として構成されてもよい。
【0026】
ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bの間に印加される電場を利用してイオンビームを偏向させ、ビームラインAからイオンビームを退避させる。例えば、第1パーク電極25aの電位を基準として第2パーク電極25bに負電圧を印加することにより、イオンビームをビームラインAから重力方向下方に偏向させてビームダンプ26に入射させる。
図2において、ビームダンプ26に向かうイオンビームの軌跡を破線で示している。また、ビームパーク装置24は、一対のパーク電極25a,25bを同電位とすることにより、イオンビームをビームラインAに沿って下流側に通過させる。ビームパーク装置24は、イオンビームを下流側に通過させる第1モードと、イオンビームをビームダンプ26に入射させる第2モードとを切り替えて動作可能となるよう構成される。
【0027】
質量分析スリット23の下流にはインジェクタファラデーカップ28が設けられる。インジェクタファラデーカップ28は、インジェクタ駆動部29の動作によりビームラインAに出し入れ可能となるよう構成される。インジェクタ駆動部29は、インジェクタファラデーカップ28をビームラインAの延びる方向と直交する方向(例えばy方向)に移動させる。インジェクタファラデーカップ28は、
図2の破線で示すようにビームラインA上に配置された場合、下流側に向かうイオンビームを遮断する。一方、
図2の実線で示すように、インジェクタファラデーカップ28がビームラインA上から外された場合、下流側に向かうイオンビームの遮断が解除される。
【0028】
インジェクタファラデーカップ28は、質量分析部20により質量分析されたイオンビームのビーム電流を計測するよう構成される。インジェクタファラデーカップ28は、質量分析磁石21の磁場強度を変化させながらビーム電流を測定することにより、イオンビームの質量分析スペクトラムを計測できる。計測した質量分析スペクトラムを用いて、質量分析部20の質量分解能を算出することができる。
【0029】
ビーム整形部30は、収束/発散四重極レンズ(Qレンズ)などの収束/発散装置を備えており、質量分析部20を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形部30は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの四重極レンズ30a,30b,30cを有する。ビーム整形部30は、三つのレンズ装置30a~30cを用いることにより、イオンビームの収束または発散をx方向およびy方向のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形部30は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0030】
ビーム走査部32は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査部32は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(図示せず)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電界を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームがx方向の走査範囲全体にわたって走査される。
図1において、矢印Xによりビームの走査方向及び走査範囲を例示し、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を一点鎖線で示している。
【0031】
ビーム平行化部34は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインAの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化部34は、y方向の中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(図示せず)に接続されており、電圧印加により生じる電界をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化部34は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁界を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0032】
ビーム平行化部34の下流には、イオンビームを加速または減速させるためのAD(Accel/Decel)コラム(図示せず)が設けられてもよい。
【0033】
角度エネルギーフィルタ(AEF)36は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。角度エネルギーフィルタ36は、電界偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(図示せず)に接続される。
図2において、上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、角度エネルギーフィルタ36は、磁界偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電界偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0034】
このようにして、ビームライン装置14は、ウェハWに照射されるべきイオンビームを注入処理室16に供給する。
【0035】
注入処理室16は、ビームラインAの上流側から順に、エネルギースリット38、プラズマシャワー装置40、サイドカップ42、センターカップ44およびビームストッパ46を備える。注入処理室16は、
図2に示されるように、1枚又は複数枚のウェハWを保持するプラテン駆動装置50を備える。
【0036】
エネルギースリット38は、角度エネルギーフィルタ36の下流側に設けられ、角度エネルギーフィルタ36とともにウェハWに入射するイオンビームのエネルギー分析をする。エネルギースリット38は、ビーム走査方向(x方向)に横長のスリットで構成されるエネルギー制限スリット(EDS;Energy Defining Slit)である。エネルギースリット38は、所望のエネルギー値またはエネルギー範囲のイオンビームをウェハWに向けて通過させ、それ以外のイオンビームを遮蔽する。
【0037】
プラズマシャワー装置40は、エネルギースリット38の下流側に位置する。プラズマシャワー装置40は、イオンビームのビーム電流量に応じてイオンビームおよびウェハWの表面(ウェハ処理面)に低エネルギー電子を供給し、イオン注入で生じるウェハ処理面の正電荷のチャージアップを抑制する。プラズマシャワー装置40は、例えば、イオンビームが通過するシャワーチューブと、シャワーチューブ内に電子を供給するプラズマ発生装置とを含む。
【0038】
サイドカップ42(42R,42L)は、ウェハWへのイオン注入処理中にイオンビームのビーム電流を測定するよう構成される。
図2に示されるように、サイドカップ42R,42Lは、ビームラインA上に配置されるウェハWに対して左右(x方向)にずれて配置されており、イオン注入時にウェハWに向かうイオンビームを遮らない位置に配置される。イオンビームは、ウェハWが位置する範囲を超えてx方向に走査されるため、イオン注入時においても走査されるビームの一部がサイドカップ42R、42Lに入射する。これにより、イオン注入処理中のビーム電流量がサイドカップ42R、42Lにより計測される。
【0039】
センターカップ44は、ウェハ処理面におけるビーム電流を測定するよう構成される。センターカップ44は、駆動部45の動作により可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。センターカップ44は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定することができる。センターカップ44は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、複数のファラデーカップがx方向に並んでアレイ状に形成されてもよい。
【0040】
サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。サイドカップ42およびセンターカップ44の少なくとも一方は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0041】
プラテン駆動装置50は、ウェハ保持装置52と、往復運動機構54と、ツイスト角調整機構56と、チルト角調整機構58とを含む。ウェハ保持装置52は、ウェハWを保持するための静電チャック等を含む。往復運動機構54は、ビーム走査方向(x方向)と直交する往復運動方向(y方向)にウェハ保持装置52を往復運動させることにより、ウェハ保持装置52に保持されるウェハをy方向に往復運動させる。
図2において、矢印YによりウェハWの往復運動を例示する。
【0042】
ツイスト角調整機構56は、ウェハWの回転角を調整する機構であり、ウェハ処理面の法線を軸としてウェハWを回転させることにより、ウェハの外周部に設けられるアライメントマークと基準位置との間のツイスト角を調整する。ここで、ウェハのアライメントマークとは、ウェハの外周部に設けられるノッチやオリフラのことをいい、ウェハの結晶軸方向やウェハの周方向の角度位置の基準となるマークをいう。ツイスト角調整機構56は、ウェハ保持装置52と往復運動機構54の間に設けられ、ウェハ保持装置52とともに往復運動される。
【0043】
チルト角調整機構58は、ウェハWの傾きを調整する機構であり、ウェハ処理面に向かうイオンビームの進行方向とウェハ処理面の法線との間のチルト角を調整する。本実施の形態では、ウェハWの傾斜角のうち、x方向の軸を回転の中心軸とする角度をチルト角として調整する。チルト角調整機構58は、往復運動機構54と注入処理室16の内壁の間に設けられており、往復運動機構54を含むプラテン駆動装置50全体をR方向に回転させることでウェハWのチルト角を調整するように構成される。
【0044】
プラテン駆動装置50は、イオンビームがウェハWに照射される注入位置と、ウェハ搬送装置18との間でウェハWが搬入または搬出される搬送位置との間でウェハWが移動可能となるようにウェハWを保持する。
図2は、ウェハWが注入位置にある状態を示しており、プラテン駆動装置50は、ビームラインAとウェハWとが交差するようにウェハWを保持する。ウェハWの搬送位置は、ウェハ搬送装置18に設けられる搬送機構または搬送ロボットにより搬送口48を通じてウェハWが搬入または搬出される際のウェハ保持装置52の位置に対応する。
【0045】
ビームストッパ46は、ビームラインAの最下流に設けられ、例えば、注入処理室16の内壁に取り付けられる。ビームラインA上にウェハWが存在しない場合、イオンビームはビームストッパ46に入射する。ビームストッパ46は、注入処理室16とウェハ搬送装置18の間を接続する搬送口48の近くに位置しており、搬送口48よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0046】
イオン注入装置10は、制御装置60をさらに備える。制御装置60は、イオン注入装置10の動作全般を制御する。制御装置60は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。制御装置60により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0047】
図3は、実施の形態に係るイオン生成装置12の構成を概略的に示す断面図である。イオン生成装置12は、プラズマ生成装置70と、加熱装置90とを備える。
【0048】
プラズマ生成装置70は、プラズマ生成室78を区画するアークチャンバ72を備え、プラズマ生成室78内においてイオンを含むプラズマPを生成する。プラズマ生成装置70にて生成されるイオンは、引出電極82によりイオンビームIBとして引き出される。加熱装置90は、アークチャンバ72の外面72aにレーザ光LBを照射してアークチャンバ72を加熱し、アークチャンバ72の温度を調整する。
【0049】
プラズマ生成装置70は、真空チャンバ100の内部102に配置されている。加熱装置90は、真空チャンバ100の外部104に配置されている。加熱装置90が生成するレーザ光LBは、真空チャンバ100に設けられる真空窓106を通じてアークチャンバ72に照射される。真空窓106には、真空窓106を冷却するための流体(冷却水など)が通過する冷却流路108が設けられる。
【0050】
プラズマ生成装置70は、アークチャンバ72と、カソード74と、リペラー76とを備える。アークチャンバ72は、略直方体の箱形状を有する。アークチャンバ72は、プラズマPが生成されるプラズマ生成室78を区画する。アークチャンバ72の前面にはイオンビームIBを引き出すためのスリット80が設けられる。スリット80は、カソード74からリペラー76に向かう方向に延びる細長い形状を有している。
【0051】
アークチャンバ72は、高融点材料で構成され、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金、グラファイト(C)等で構成されている。これにより、プラズマ生成室78内が高温(例えば700℃~2000℃)となる環境下において、アークチャンバ72の熱による損傷を抑制できる。
【0052】
アークチャンバ72の外側にはリフレクタ86が配置されている。リフレクタ86は、アークチャンバ72の外面72aと対向するように配置される。リフレクタ86は、アークチャンバ72と同様の高融点材料で構成されてもよいし、アークチャンバ72とは異なる材料で構成されてもよい。リフレクタ86の材料として、例えば、タングステン、モリブテン、グラファイト、ステンレス鋼またはセラミック材料を用いることができる。リフレクタ86は、アークチャンバ72の外面72aからの熱輻射をアークチャンバ72に向けて反射させ、熱輻射によるアークチャンバ72の温度低下を抑制するように機能する。リフレクタ86は、アークチャンバ72からの熱逃げを防ぐためのマッフルとして機能してもよい。リフレクタ86には、アークチャンバ72の外面72aに向けて照射されるレーザ光LBが通過する照射口86aが設けられている。なお、リフレクタ86が設けられなくてもよい。
【0053】
カソード74は、プラズマ生成室78に熱電子を放出する。カソード74は、いわゆる傍熱型カソード(IHC;Indirectly Heated Cathode)であり、フィラメント74aと、カソードヘッド74bとを有する。フィラメント74aは、フィラメント電源88aにより加熱されて1次熱電子を発生させる。フィラメント74aとカソードヘッド74bの間にはカソード電源88bが接続されており、フィラメント74aで発生した1次熱電子がカソード電圧により加速される。カソードヘッド74bは、フィラメント74aからの1次熱電子により加熱され、プラズマ生成室78に2次熱電子を供給する。アークチャンバ72とカソード74の間にはアーク電源88cが接続されており、カソードヘッド74bで発生した2次熱電子がアーク電圧によって加速される。
【0054】
リペラー76は、カソード74と対向する位置に設けられる。リペラー76は、プラズマ生成室78に供給される2次熱電子や、プラズマ生成室78内のソースガス分子の電離によって発生する電子を跳ね返し、プラズマ生成室78に電子を滞留させてプラズマ生成効率を高める。
【0055】
アークチャンバ72の側壁には、ガス導入口84が設けられる。ガス導入口84は、図示しないガスボンベ等からソースガスをプラズマ生成室78に供給する。ソースガスとして、希ガスや、水素(H2)、ホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)等の水素化物、三フッ化ホウ素(BF3)、四フッ化ゲルマニウム(GeF4)等のフッ化物が用いられる。また、ソースガスには、二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、酸素(O2)などの酸素原子(O)を含む物質も用いられる。
【0056】
プラズマ生成室78には、カソード74からリペラー76に向かう方向(または、その逆方向)に磁場Bが印加されている。磁場Bは、図示しない電磁石等により生成され、電磁石を流れるマグネット電流を調整することで、磁場Bの強度が調整される。プラズマ生成室78内で運動する熱電子は、プラズマ生成室78に印加される磁場Bに束縛され、磁場Bに沿って螺旋状に運動する。プラズマ生成室78において螺旋状に運動する電子は、プラズマ生成室78に導入されたソースガス分子と衝突し、ソースガス分子を電離させてイオンと新たな電子を発生させ、プラズマ生成室78にプラズマPを生成する。プラズマ生成室78において電子を螺旋状に運動させることにより、プラズマ生成効率を高めることができる。
【0057】
加熱装置90は、レーザ光源92と、照射光学系94とを備える。レーザ光源92は、プラズマ生成装置70を加熱するためのレーザ光LBを生成する。照射光学系94は、レーザ光源92が生成するレーザ光LBをプラズマ生成装置70に向けて伝播させる。
【0058】
レーザ光源92および照射光学系94は、真空チャンバ100の外部104に配置されている。なお、照射光学系94の少なくとも一部が真空チャンバ100の内部102に配置されてもよいし、照射光学系94の全体が真空チャンバ100の内部102に配置されてもよい。また、レーザ光源92および照射光学系94の双方が真空チャンバ100の内部102に配置されてもよい。この場合、真空チャンバ100に真空窓106が設けられなくてもよい。その他、真空窓106を設ける代わりに、真空チャンバ100の外部104から内部102に向けて延びる光ファイバを用いて、真空チャンバ100の内部102にレーザ光LBを伝播させてもよい。
【0059】
レーザ光源92は、例えば200nm~2000nmの波長域に含まれる紫外、可視または近赤外のレーザ光LBを生成するよう構成される。レーザ光源92の形式は問わないが、例えば、小型で取扱が容易な半導体レーザを用いることができる。レーザ光LBは、連続光であってもよいし、パルス光であってもよい。レーザ光源92の出力は、例えば0.1kW~10kW程度である。レーザ光源92の一例として、波長450nmで1kWの連続光を出力する半導体レーザを用いることができる。アークチャンバ72を構成する金属材料やグラファイトは、比較的短い波長の光の吸収率が高いため、紫外や可視(青色や緑色)のレーザ光LBを用いることで、アークチャンバ72を効率的に加熱できる。
【0060】
図4(a)-(c)は、照射光学系94の構成例を概略的に示す図である。照射光学系94は、レーザ光LBの照射範囲、ビーム径および面内強度分布といったビーム特性を調整するための光学系94a,94b,94cを含む。
【0061】
図4(a)は、レーザ光LBを走査してアークチャンバ72の外面72aに照射するための走査光学系94aを示す。走査光学系94aは、レーザ光LBを走査するための第1ミラー96aおよび第2ミラー96bを有する。レーザ光源92からのレーザ光LBは、第1ミラー96aおよび第2ミラー96bにて反射され、アークチャンバ72の外面72aに入射する。第1ミラー96aを駆動して第1ミラー96aの反射角を変化させることで、矢印Sに示されるようにレーザ光LBを走査できる。これにより、レーザ光LBの照射範囲Cを広げることができ、アークチャンバ72の外面72aのより広い範囲を均一に加熱できる。なお、第1ミラー96aではなく、第2ミラー96bを駆動してレーザ光LBを走査するように構成してもよい。また、レーザ光LBは、1次元で走査されてもよいし、2次元で走査されてもよい。例えば、第1ミラー96aおよび第2ミラー96bを互いに直交する方向に駆動させることで、アークチャンバ72の外面72aを2次元で走査し、アークチャンバ72の外面72aのより広い範囲を均一に加熱できる。なお、ミラーなどの反射型光学素子を駆動する代わりに、プリズムなどの屈折型光学素子を駆動することで、レーザ光LBを走査してもよい。
【0062】
図4(b)は、レーザ光LBのビーム径を拡大してアークチャンバ72の外面72aに照射するための拡大光学系94bを示す。拡大光学系94bは、例えば、第1レンズ96cおよび第2レンズ96dを有する。拡大光学系94bを用いることで、レーザ光源92から出力される小さなビーム径D1を有するレーザ光LBを大きなビーム径D2を有するレーザ光LBに変換できる。これにより、アークチャンバ72の外面72aのより広い範囲にレーザ光LBを照射することができ、アークチャンバ72を均一に加熱できる。なお、レンズなどの屈折型光学素子の代わりに凸面鏡や凹面鏡といった反射型光学素子を用いてもよい。照射光学系94は、ビーム径を縮小するための縮小光学系を含んでもよい。照射光学系94は、ビーム径を拡大または縮小するための拡大縮小光学系を含んでもよい。
【0063】
図4(c)は、レーザ光LBの面内強度分布を調整するためのビーム整形光学系94cを示す。ビーム整形光学系94cは、レーザ光源92から出力されるガウシアン型の強度分布P1を有するレーザ光LBをトップハット型の強度分布P2を有するレーザ光LBに変換する。ビーム整形光学系94cは、例えば、ホモジナイザといわれる非球面レンズ96eを有する。なお、ビーム整形光学系94cは、任意の光学素子で構成することができ、複数のレンズやミラーなどの組み合わせにより構成されてもよい。トップハット型の強度分布P2を有するレーザ光LBをアークチャンバ72の外面72aに照射することで、局所加熱によるアークチャンバ72の損傷を防ぐことができる。
【0064】
照射光学系94は、走査光学系94a、拡大光学系94bおよびビーム整形光学系94cのうち二以上を備えてもよし、これら全てを備えてもよい。例えば、拡大光学系94bによりビーム径が拡大され、ビーム整形光学系94cにより面内強度分布が均一化されたレーザ光LBを走査光学系94aを用いて走査してもよい。三つの光学系94a~94cを組み合わせることで、アークチャンバ72の外面72aのより広い範囲に均一化された強度分布を有するレーザ光LBを照射できる。これにより、アークチャンバ72の外面72aをより均一に加熱できる。
【0065】
図5(a)-(c)は、レーザ光源92の構成例を概略的に示す図であり、加熱装置90が複数のレーザ光源92a,92bを備える場合を示す。図示される例では、複数のレーザ光源92a,92bは、いずれも真空チャンバの外部に配置されているが、複数のレーザ光源92a,92bの少なくとも一方が真空チャンバの内部に配置されてもよい。
【0066】
図5(a)は、第1レーザ光源92aから出力される第1レーザ光LB1と、第2レーザ光源92bから出力される第2レーザ光LB2とが互いに異なる照射範囲C1,C2に照射される場合を示す。したがって、複数のレーザ光源92a,92bから出力される複数のレーザ光LB1,LB2は、アークチャンバ72の外面72aの互いに異なる箇所に照射される。複数のレーザ光源92a,92bを用いて異なる照射範囲C1,C2にレーザ光LB1,LB2を照射することで、アークチャンバ72の外面72aのより広い範囲を加熱できる。
【0067】
図5(b)は、第1レーザ光源92aから出力される第1レーザ光LB1と、第2レーザ光源92bから出力される第2レーザ光LB2とが互いに重なる照射範囲C3,C4に照射される場合を示す。したがって、複数のレーザ光源92a,92bから出力される複数のレーザ光LB1,LB2の少なくとも一部は、アークチャンバ72の外面72aの同一箇所に重畳して照射される。複数のレーザ光源92a,92bを用いて重複する範囲にレーザ光LB1,LB2を照射することで、例えば、熱輻射によって温度が下がりやすい箇所を効率的に加熱できる。
【0068】
図5(c)は、第1レーザ光源92aから出力される第1レーザ光LB1が真空窓106を通じてアークチャンバ72の外面72aに照射され、第2レーザ光源92bから出力される第2レーザ光LB2が光ファイバ96fを通じてアークチャンバ72の外面72aに照射される場合を示す。この構成では、例えば、アークチャンバ72の外面72aの比較的広い範囲を加熱するために第1レーザ光LB1を使用し、アークチャンバ72の外面72aの比較的狭い範囲を加熱するために第2レーザ光LB2を使用できる。
【0069】
加熱装置90から出力されるレーザ光LBは、アークチャンバ72の外面72a以外に照射されてもよい。レーザ光LBは、プラズマ生成室78を区画する任意の部材に照射されてよいし、プラズマ生成室78内に露出する任意の部材に照射されてもよい。レーザ光LBは、プラズマ生成室78の内壁78aに照射されてもよい。レーザ光LBは、カソード74およびリペラー76の少なくとも一方に照射されてもよい。アークチャンバ72は、レーザ光LBをプラズマ生成室78の内部に照射するための照射口を有してもよい。アークチャンバ72の内部に光ファイバを導入し、光ファイバを通じてカソード74やリペラー76にレーザ光LBを照射してもよい。
【0070】
図6は、実施の形態に係る制御装置60の機能構成を概略的に示す図である。制御装置60は、イオン生成装置12の動作を制御するためのイオン生成制御部61を備える。イオン生成制御部61は、電源制御部62と、電磁石制御部63と、ガス流量制御部64と、加熱制御部65と、条件記憶部66と、モニタ部67とを含む。
【0071】
電源制御部62は、プラズマ生成装置70に接続されるフィラメント電源88a、カソード電源88b、アーク電源88cなどの各種電源の電流値および電圧値を制御する。電磁石制御部63は、プラズマ生成室78に磁場Bを印加する電磁石に流れる電流値を調整して、磁場Bの強度を制御する。ガス流量制御部64は、ガス導入口84から供給するソースガスの流量を制御する。
【0072】
加熱制御部65は、加熱装置90の動作を制御する。加熱制御部65は、レーザ光源92のオンオフやレーザ光LBの出力を制御する。加熱制御部65は、例えば、プラズマ生成室78の温度を上昇させる必要がある場合にレーザ光源92をオンにし、プラズマ生成室78の温度を上昇させる必要がない場合にレーザ光源92をオフにする。加熱制御部65は、照射光学系94の動作を制御してもよい。
【0073】
条件記憶部66は、イオン生成装置12の運転条件を定める各種パラメータを記憶する。条件記憶部66は、イオン種、イオン価数およびイオン電流といった注入条件を実現するための動作パラメータを記憶する。条件記憶部66は、例えば、フィラメント電流、カソード電流、カソード電圧、アーク電流、アーク電圧、ガス流量、電磁石電流値などを動作パラメータとして記憶する。電源制御部62、電磁石制御部63およびガス流量制御部64は、条件記憶部66に記憶される動作パラメータにしたがって動作する。
【0074】
モニタ部67は、イオン生成装置12の運転状態の指標となる測定値を取得する。モニタ部67は、例えば、アークチャンバ72のアーク電流値、アークチャンバ72の温度、イオン生成装置12から引き出されるイオンのイオン電流値などを取得する。モニタ部67が取得する測定値は、例えば、加熱制御部65が加熱装置90の動作を制御するために用いられる。
【0075】
イオン生成制御部61は、注入条件に応じたイオン種、イオン価数およびイオン電流のイオンを生成するため、プラズマ生成室78にて生成されるプラズマPの密度(プラズマ密度ともいう)を制御する。例えば、プラズマ密度を上げることで生成されるイオンのイオン価数やイオン電流を大きくすることができ、プラズマ密度を下げることで生成されるイオンのイオン価数やイオン電流を小さくすることができる。また、ソースガスの種類や引き出すべきイオンの種類に応じて、所望のイオン価数およびイオン電流を実現するために最適なプラズマ密度も異なりうる。
【0076】
プラズマ生成室78内のプラズマ密度は、主にアーク電流、アーク電圧、ガス流量および磁場強度によって制御される。例えば、これらの数値を大きくすることでプラズマ密度を上げることができる。この中でも、プラズマ生成室78内でのアーク放電によって生じるアーク電流の大きさとプラズマ密度がほぼ対応するため、アーク電流を主に制御することによってプラズマ密度が制御される。アーク電流の大きさは、フィラメント電流、カソード電流、カソード電圧、アーク電圧、ガス流量、磁場強度などによって調整可能であるが、応答性の優れたカソード電圧によって制御されることが多い。なお、ガス流量を調整することでプラズマ密度を制御することもできるが、ガス流量を少なくしすぎたり、多くしすぎると、プラズマの生成が不安定となる。したがって、プラズマを安定的に生成するためには、ガス流量を所定の範囲内に収める必要があり、ガス流量を変化させることでプラズマ密度を調整することは比較的難しい。
【0077】
アークチャンバ72を用いてプラズマを生成する場合、比較的大きな電力を投入する必要があるため、アークチャンバ72は高温(例えば1000℃以上)となる。アークチャンバ72の温度は、主にフィラメント電源88a、カソード電源88bおよびアーク電源88cの投入電力の合計値によって決まる。したがって、プラズマ密度を制御するために運転条件を変更して各種電源の電流値や電圧値を変化させた場合、投入電力量の変化に応じてアークチャンバ72の温度も変化する。アークチャンバ72の熱容量は比較的大きいため、アークチャンバ72の温度応答性は低く、アークチャンバ72が熱平衡状態となるまでに時間がかかる。特に、高温状態では熱輻射による熱逃げが大きいため、アークチャンバ72の温度を上昇させる運転条件においてアークチャンバ72の温度が安定するまでに要する時間が長くなる。アークチャンバ72の温度が安定していない場合、プラズマ生成室78においてプラズマが安定的に生成されず、イオン生成装置12から引き出されるイオンの安定性も低下する。そこで、本実施の形態では、加熱装置90を用いてプラズマ生成室78の温度上昇を促進させることで、アークチャンバ72が熱平衡状態となるまでの時間を短縮する。
【0078】
加熱制御部65は、イオン生成装置12の運転条件を低アーク条件から高アーク条件に切り替える場合、レーザ光源92をオンにしてアークチャンバ72にレーザ光LBが照射されるようにする。ここで「低アーク条件」とは、プラズマ生成室78のプラズマ密度が相対的に低い密度となる運転条件のことをいい、投入電力量が相対的に低いために熱平衡状態のアークチャンバ72が相対的に低い温度となる条件をいう。逆に「高アーク条件」とは、プラズマ生成室78のプラズマ密度が相対的に高い密度となる運転条件のことをいい、投入電力量が相対的に高いために熱平衡状態のアークチャンバ72が相対的に高い温度となる条件をいう。
【0079】
特定の運転条件が低アーク条件または高アーク条件のいずれとなるかは、相対的に決定されるものであってもよい。例えば、プラズマ密度を第1密度とする第1運転条件と、プラズマ密度を第1密度より大きい第2密度とする第2運転条件と、プラズマ密度を第2密度よりも大きい第3密度とする第3運転条件とがある場合を考える。この場合、第1運転条件から第2運転条件に切り替える場合、第1運転条件が「低アーク条件」となり、第2運転条件は「高アーク条件」となる。一方、第2運転条件から第3運転条件に切り替える場合、第2運転条件が「低アーク条件」となり、第3運転条件が「高アーク条件」となる。なお、低アーク条件または高アーク条件のいずれとなるかは、投入電力量が所定の閾値以上となるか否かによって決定されてもよい。
【0080】
加熱制御部65は、低アーク条件から高アーク条件に切り替える場合、低アーク条件と高アーク条件の運転条件の差に応じて加熱装置90の動作を変化させてもよい。例えば、低アーク条件における投入電力量と高アーク条件における投入電力量の差に応じて、レーザ光源92の出力を調整してもよい。例えば、投入電力量の差が大きい場合にレーザ光LBの出力を大きくし、投入電力量の差が小さい場合にレーザ光LBの出力を小さくしてもよい。加熱制御部65は、投入電力量の差に応じて、レーザ光LBの照射時間を調整してもよい。加熱制御部65は、例えば、投入電力量の差が大きい場合にレーザ光LBの照射時間を長くし、投入電力量の差が小さい場合にレーザ光LBの照射時間を短くしてもよい。
【0081】
加熱制御部65は、モニタ部67が取得する測定値に基づいて、レーザ光LBの照射条件を時間経過に対して可変にしてもよい。例えば、プラズマ生成室78のプラズマ密度の増加に応じて、または、プラズマ生成室78の温度の増加に応じて、レーザ光LBの出力を徐々に低下させてもよい。加熱制御部65は、アークチャンバ72が熱平衡状態に近づくにつれてレーザ光LBの出力を低下させていくことにより、アークチャンバ72が加熱されすぎないようにしてもよい。加熱制御部65は、イオン生成装置12から引き出されるイオンのイオン電流が安定化した場合、レーザ光源92をオフにしてもよい。
【0082】
イオン生成制御部61は、運転条件を切り替える場合、プラズマ生成室78の内壁78aに蓄積される物質を除去するためにクリーニング運転をさせてもよい。プラズマ生成室78の内壁78aには、イオン生成装置12の運転に伴って、プラズマ生成室78に供給されるソースガスの種類に応じた物質が堆積する。イオン種を切り替えるためにソースガスの種類を変更すると、切替前に内壁78aに蓄積していた物質が除去されるとともに、切替後のソースガスの種類に対応する物質が蓄積され、内壁78aの蓄積物質が入れ替わっていく。内壁78aに蓄積される物質が安定するまでは、プラズマ生成室78内のプラズマの状態が変化しうるため、イオンを安定して引き出すことができない。イオン生成装置12をクリーニング条件で運転させることにより、内壁78aに蓄積される物質の除去を促進し、内壁78aに蓄積される物質が安定するまでの時間を短縮できる。
【0083】
条件記憶部66は、運転条件の一つとして、クリーニング運転条件を記憶してもよい。クリーニング運転条件では、プラズマ生成室78の内壁78aの蓄積物質の除去を促進するため、高アーク条件となるように動作パラメータが定められる。クリーニング運転条件は、他の運転条件よりもプラズマ密度が高くなるように運転条件が定められてもよい。プラズマ生成室78にて高密度のプラズマを生成することで、内壁78aの蓄積物質にプラズマを作用させて蓄積物質の除去を促進できる。また、高アーク条件でクリーニングすることで、プラズマ生成室78の温度を上昇させ、内壁78aの蓄積物質の蒸発や分解による除去を促進できる。クリーニング運転条件では、ソースガスとして希ガス(例えばAr、Xe)や反応性の高いフッ化物(例えばBF3)を用いることが望ましい。希ガスを用いることで、内壁78aへの余計な物質の蓄積を防ぐことができる。また、反応性の高いフッ化物を用いることで、内壁78aの蓄積物質の除去を促進できる。
【0084】
加熱制御部65は、クリーニング運転をする場合、レーザ光源92をオンにしてアークチャンバ72にレーザ光LBが照射されるようにしてもよい。クリーニング運転時にアークチャンバ72をレーザ光LBを用いて加熱することで、プラズマ生成室78の温度上昇を促進させ、内壁78aの蓄積物質の除去をより促進させることができる。
【0085】
加熱制御部65は、プラズマ生成室78内でプラズマが生成されない状態において、レーザ光源92をオンにしてアークチャンバ72にレーザ光LBが照射されるようにしてもよい。例えば、プラズマの生成を停止した状態で内壁78aの蓄積物質を除去するクリーニング運転のために加熱装置90を用いてもよい。この場合、ソースガスの供給を停止することでプラズマの生成が停止されてもよいし、各種電源をオフにすることでプラズマの生成が停止されてもよい。
【0086】
加熱制御部65は、プラズマ生成室78内でプラズマが生成される状態において、レーザ光源92をオンにしてアークチャンバ72にレーザ光LBが照射されるようにしてもよい。例えば、低アーク条件から高アーク条件に切り替える場合に、高アーク条件のプラズマが生成される状態においてアークチャンバ72をレーザ光LBで加熱してもよい。その他、クリーニング運転条件のプラズマが生成される状態においてアークチャンバ72をレーザ光LBで加熱してもよい。
【0087】
加熱制御部65は、アーク条件の差異に起因するプラズマ生成室78の温度の変動が抑制されるように加熱装置90の動作を制御してもよい。例えば、低アーク条件でプラズマが生成される場合にレーザ光LBの出力を高くし、高アーク条件でプラズマが生成される場合にレーザ光LBの出力を低くしてもよい。これにより、低アーク条件におけるプラズマ生成室78の温度と高アーク条件におけるプラズマ生成室78の温度の差が小さくなるようにしてもよい。
【0088】
加熱制御部65は、イオン生成装置12を非運転状態から運転状態に立ち上げる場合に、室温程度の低温状態のアークチャンバ72にレーザ光LBを照射することで、アークチャンバ72を加熱してもよい。この場合、プラズマ生成室78にてプラズマが生成されない状態においてアークチャンバ72にレーザ光LBが照射されてもよい。レーザ光LBを照射してプラズマ生成室78を加熱することにより、プラズマ生成室78にてプラズマが生成されない状態からプラズマが生成される状態への切り替えを促進できる。
【0089】
本実施の形態によれば、プラズマ生成室78をレーザ光LBを用いて加熱することで、プラズマを生成するためのアーク条件によらずにプラズマ生成室78の温度上昇を促進できる。プラズマ生成室78の温度上昇を優先させるために意図的に投入電力量を高めることもできるが、投入電力量には上限があり、また、投入電力量をむやみに高めると、プラズマ生成装置70を構成する部品が劣化する等の悪影響が生じるおそれがある。本実施の形態では、プラズマ生成装置70に接続される各種電源88a~88cから独立した加熱装置90を設けることで、プラズマ生成室78の温度をより柔軟に制御できる。例えば、プラズマを安定的に生成する観点で最適化された投入電力量を維持する場合であっても、加熱装置90を用いてプラズマ生成室78の温度上昇を促進することができ、所望の運転状態が実現されるまでの待ち時間を短縮化できる。これにより、イオン注入装置10の非稼働時間を短縮することができ、イオン注入装置10の生産性を向上させることができる。
【0090】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0091】
10…イオン注入装置、12…イオン生成装置、70…プラズマ生成装置、72…アークチャンバ、74…カソード、76…リペラー、78…プラズマ生成室、86…リフレクタ、90…加熱装置、92…レーザ光源、100…真空チャンバ、106…真空窓、LB…レーザ光。