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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20240109BHJP
   B60N 2/75 20180101ALI20240109BHJP
   A47C 7/54 20060101ALI20240109BHJP
   B68G 7/05 20060101ALI20240109BHJP
   B60N 2/64 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B60N2/58
B60N2/75
A47C7/54 C
B68G7/05 Z
B60N2/64
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020070122
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021167118
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新道 隆
(72)【発明者】
【氏名】田口 雅之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝行
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215992(JP,A)
【文献】登録実用新案第3213018(JP,U)
【文献】特開2009-249422(JP,A)
【文献】特開2001-258678(JP,A)
【文献】特開平07-060930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
B60N 2/75
A47C 7/54
B68G 7/05
B60N 2/64
A47C 31/02
A47C 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートクッションの表面と前記シートバックの表面とは革製の表皮で覆われており、前記革製の表皮の表面の一部には、微小な凹部が多数形成されて前記革製の表皮の前記表面の一部以外の前記革製の表皮の表面と比較して摩擦係数が大きい領域が形成されており、
アームレストを更に備え、前記アームレストの表面の一部に前記微小な凹部が多数形成された領域が形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1記載の車両用シートであって、前記革製の表皮の前記表面の一部に多数形成された前記微小な凹部は、前記革製の表皮の前記表面にレーザを照射して形成された凹部であることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項1記載の車両用シートであって、前記革製の表皮の前記表面の一部の前記微小な凹部が多数形成された領域は、前記シートクッションの前方の部分の表皮、又は前記シートクッションの土手部の部分の表皮、又は前記シートバックの土手部の部分の表皮の何れかを含むことを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
請求項1記載の車両用シートであって、前記革製の表皮の前記表面の一部に多数形成された前記微小な凹部は、前記シートバックの肩部の表面又は前記シートクッションの前部の表面に形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
請求項記載の車両用シートであって、前記革製の表皮の前記表面の一部の前記微小な凹部が多数形成された領域は、前記シートクッションの側面で、前記シートクッションに設置されたスイッチを囲む領域に形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項6】
請求項1乃至の何れか1項記載の車両用シートであって、前記革製の表皮は人工皮革であることを特徴とする車両用シート。
【請求項7】
請求項2記載の車両用シートであって、前記レーザは、パルスレーザであることを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートにおいて、シートの表面を覆うトリムカバーを、人工皮革で形成したものがある。しかし、この人工皮革は、表面が滑りやすいという問題があり、この問題を解決するために、特許文献1においては、表皮材の一部に開口部を設け、表皮材に接着された滑り抑制部を露出させるような構成を採用している。
【0003】
また、特許文献2においては、シートバックの着座乗員の肋骨に対応する位置及びシートクッションの大腿骨中央部に対応する位置に、シートカバーに高分子材料を部分的に付着させて形成した、それ以外の部分より摩擦係数の高い難滑り部を設けることが記載されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、アームレスト本体をシートバックの座面部に設けた凹部から出し入れ可能に形成した埋め込み型アームレストにおいて、シートバックの座面部に設けた凹部から埋め込み型アームレストを引き出すためのストラップをアームレスト本体の上部に逢着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6456700号公報
【文献】特開2016-215992号公報
【文献】特開2005-119432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人工皮革は表面が滑りやすいという問題を解決するために特許文献1に記載されたような構成を採用すると、表皮材に滑り抑制部を接着させる工程及び表皮材の一部を滑り抑制部からはがして表皮材の一部に開口部を設ける工程が必要になり、工程数が増えると共に、滑り抑制部材が必要になり、材料費が増えてしまう。
【0007】
また、特許文献2に記載された構成においては、シートカバーに部分的に付着させる高分子材料を、版を用いて高分子材料を複数の工程を経てハニカム構造状に成型して形成するので、工程数が増えてシートの原価を高くしてしまう。
【0008】
さらに、特許文献3に記載された構成では、埋め込み型アームレストを引き出すためのストラップを作成し、このストラップをアームレスト本体の上部に逢着する工程が必要になり、材料費がかさみ、更に逢着のための工程数が増えてしまう。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、人工皮革を含む革製の表皮の一部や埋め込み型アームレストを引き出すための部分に、滑りにくくした部分を特にそのための部材を用いることなく、従来技術と比べて比較的簡単な工程で形成することを可能にする車両用シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートクッションの表面とシートバックの表面とは革製の表皮で覆われており、革製の表皮の表面の一部には、微小な凹部が多数形成されて革製の表皮の表面の一部以外の革製の表皮の表面と比較して摩擦係数が大きい領域を形成した。
【0011】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートクッションとシートバックとの表面は革製の表皮で覆われており、革製の表皮の表面の一部には、革製の表皮の表面にレーザを離散的に照射して形成した微小な凹部が多数形成された領域を形成した。
【0012】
更に、上記した課題を解決するために、本発明では、表面が革製の表皮で覆われて回動可能なアームレストとこの回動可能なアームレストを収納するアームレスト収納部と、このアームレスト収納部の左右にシートクッションとシートバックと一対ずつ備えた車両用シートにおいて、回動可能なアームレストをアームレスト収納部に収納した状態で回動可能なアームレストの表面を覆う革製の表皮のうち回動可能なアームレストの上端面を覆う革製の表皮の表面に、微小な凹部が多数形成されて上端面以外の部分を覆う革製の表皮と比較して摩擦係数が大きい領域を形成した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両用シートにおいて、革製の表皮の一部に滑りにくくした部分を形成することや、埋め込み型アームレストを引き出すための部分に滑りにくくした部分を形成することを、特にそのための部材を用いることなく、比較的簡単な工程で形成することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
図2図1におけるシートクッションのA-A断面図である。
図3】実施例1における着座部の表面にレーザを離散的に面状に照射する状態を示す着座部の斜視図である。
図4】実施例1におけるレーザ照射して表皮の表面に微小な凹部を形成している状態におけるレーザ光源を含む表皮の断面の拡大図である。
図5図4において丸で囲んだB部を更に拡大して示した表皮の断面の拡大図である。
図6】実施例1の変形例1に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
図7】実施例1の変形例2に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
図8】実施例1の変形例3に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
図9】本発明の実施例2に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
図10】本発明の実施例3に係る車両用シートの外観を示す斜視図である。
図11図10における車両用シートのB-B断面図である。
図12】本発明の実施例4に係る車両用シートのセカンドシートバックの外観を示す斜視図である。
図13】本発明の実施例4に係る車両用シートにおいて、セカンドシートバックの中央部にアームレストを装着した状態におけるアームレストの上部の断面図である。
図14】本発明の実施例5に係る車両用シートのセカンドシートバックの外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、車両用シートの表面を覆う革製の表皮の表面の一部の領域に、人工皮革の表面が溶融しない程度の条件に設定したレーザを照射して革製の表皮の表面に微小な凹部を多数形成し、レーザが照射されていない部分と比べて摩擦抵抗が大きくなるようにしたものである。
【0016】
これにより、本発明によれば、搭乗者の衣服が部分的に滑りにくくし、搭乗者が安定して着座した状態を保つことができるようにしたり、シートクッションやシートバック、アームレストなどを確実に把持して操作することができるようにした。
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0018】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0019】
図1に、本実施例に係る車両用シート100の外観を斜視図で示す。本実施例に係る車両用シート100は、搭乗者が着座するシートクッション110、シートクッション110に着座した搭乗者が背中をもたれかけるシートバック120、シートクッション110に着座した搭乗者の頭部を保護するヘッドレスト130を備えている。
【0020】
シートクッション110は、着座部111と、着座部111の両側に形成されたシートクッション側土手部112を備えている。一方、シートバック120は、シートクッション110に着座した搭乗者が背中をもたれかける背もたれ部121と、背もたれ部121の両側に形成されたシートバック側土手部122を備えている。
【0021】
本実施例に係る車両用シート100においては、シートクッション110の着座部111と、シートクッション側土手部112とにおいて、それぞれ表面を覆う表皮材に摩擦抵抗が異なる領域を形成している。
【0022】
すなわち、着座部111においては、シートクッション110に着座した搭乗者の太腿の裏側が当たるシートクッション110の前方部の表皮1112の方が、着座した搭乗者の臀部が載る後方部の表皮1111と比べて表皮材の摩擦抵抗が大きくなるように表面を加工した。
【0023】
このようにシートクッション110の前方部の表皮1112の摩擦抵抗が後方部の表皮1111と比べて大きくなるように加工したことにより、シートクッション110に着座した搭乗者の太腿部を覆う衣服がシートクッション110に対して滑りにくくなり、シートクッション110に着座した搭乗者の下肢の安定感を増すことができる。一方、後方部の表皮1111はシートクッション110の前方部の表皮(以下、前方部の表皮とも記す)1112ほどに摩擦抵抗が大きくないので、シートクッション110に着座した搭乗者が、シートクッション110上で比較的動き易い状態を維持することができる。
【0024】
また、シートクッション側土手部112においても、表皮材の表面を加工して、シートクッション110に着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121の摩擦抵抗が、それ以外の部分の表皮1122の摩擦抵抗よりも大きくなるようにした。このように、シートクッション110に着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121の摩擦抵抗をそれ以外の部分の表皮1122の摩擦抵抗よりも大きくなるように加工することにより、シートクッション110に着座した搭乗者の下肢の安定感を増すことができる。
【0025】
更に、着座した搭乗者の臀部が載る後方部の表皮1111の摩擦抵抗は太腿の裏側が当たる前方部の表皮1112と比べて摩擦抵抗が少ないので、搭乗者が臀部の向きを変えて車両用シート100に乗り降りするときに、臀部が表皮1111に対して滑りやすく、乗り降りを比較的容易に行うことができる。
【0026】
更に、シートバック120の背もたれ部121の両側に形成されたシートバック側土手部122においても、着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221の摩擦抵抗が、シートバック側土手部122のそれ以外の部分の表皮1222の摩擦抵抗よりも大きくなるように表皮材の表面を加工した。シートバック側土手部122において、着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221の摩擦抵抗がそれ以外の部分の表皮1222の摩擦抵抗よりも大きくなるように表皮材の表面を加工したことにより、シートクッション110に着座した搭乗者がシートバック120にもたれかかったときに、搭乗者の背中の両側の部分が滑りにくくなり、着座時の安定感を増すことができる。
【0027】
一方、シートバック120の背もたれ部121については、シートクッション110に着座した搭乗者の動きやすさを阻害しないように、表皮材の表面について、摩擦抵抗を増すような加工を施さない。
【0028】
図1のシートクッション110の着座部111におけるA-A断面を、図2に示す。着座部111は、ウレタンパッド140の表面を、前方部の表皮1112と後方部の表皮1111とで覆って形成されている。このような着座部111において、前方部の表皮1112の表面には、微小な凹部151が形成されている。一方、後方部の表皮1111には、微小な凹部151が形成されておらず、平坦な表面になっている。これにより、前方部の表皮1112の表面は、後方部の表皮1111の表面よりも摩擦抵抗が大きくなる、そのぶん、前方部の表皮1112の表面は後方部の表皮1111の表面よりも滑りにくくなっている。
【0029】
この前方部の表皮1112の表面に微小な凹部151を形成する方法について、図3を用いて説明する。図3は、レーザ光源510から発射したレーザ511を、前方部の表皮1112の表面に照射している状態を示している。本実施例では、レーザ光源510として、パルス発振のレーザを発射する光源を用いた場合について説明するが、連続発振のレーザを発射する光源を用いてもよい。
【0030】
このようなレーザ光源510から発射されたレーザ(パルスレーザ)511を、前方部の表皮1112の表面の同じ領域に所定のパルス数照射することにより、表面に微小な凹部151を形成する。これを、レーザ511で前方部の表皮1112の表面を2次元的に離散的に走査することにより、微小な凹部151を面状に形成することができる。
【0031】
このような微小な凹部151を面状に形成することにより、図1で説明したシートクッション110の前方部の表皮1112や、シートクッション側土手部112、シートバック側土手部122の表面に摩擦係数の大きい領域を形成することができる。
【0032】
ここで、前方部の表皮1112の表面の同じ領域に照射する所定のパルス数は、前方部の表皮1112の表面に繰り返して照射することにより前方部の表皮1112の表面を局所的に溶融させて、前方部の表皮1112の表面に、前方部の表皮1112を貫通しないような深さで微小な凹部151が形成されるようなパルス数に設定する。ただし、微小な凹部151は、前方部の表皮1112を貫通するように形成してもよい。
【0033】
このようにレーザ光源510からレーザ511を発射して前方部の表皮1112の表面に微小な凹部151を形成している状態におけるレーザ光源510を含む前方部の表皮1112の断面の拡大図を、図4に示す。
【0034】
図4に示した断面図おいて、前方部の表皮1112は合成皮革などで形成され、その裏側に、ワディング113が前方部の表皮1112に積層して形成されている。ワディング113は、前方部の表皮1112とウレタンパッド140との間の緩衝材の役割を果たす。
【0035】
このような構成において、レーザ光源510から発射されたレーザ(パルスレーザ)511を前方部の表皮1112の表面に所定のパルス数だけ照射して前方部の表皮1112の表面に微小な凹部151を形成すること所定のピッチ離して離散的に行う。
【0036】
図5には、図4において丸で囲んだB部を更に拡大した図を示す。前方部の表皮1112の表面の同一箇所に照射するレーザ511のパルス数を調整することにより、微小な凹部151の深さd、微小な凹部151の開口部の径wを所望の値に設定することができる。また、レーザ511を離散的に照射する間隔を調整することにより、隣接する微小な凹部151の間隔(ピッチ)pを設定することができる。
【0037】
これら微小な凹部151の深さd、微小な凹部151の開口部の径w、微小な凹部151の間隔(ピッチ)pを変えることにより、前方部の表皮1112の表面の摩擦係数を調整することができる。
【0038】
すなわち、微小な凹部151の深さdを大きくし、微小な凹部151の開口部の径wを小さくし、微小な凹部151の間隔(ピッチ)pを小さくして単位面積当たりの微小な凹部151の数を多くすることにより、微小な凹部151が密集して形成され、その部分の摩擦抵抗が大きくなる。
【0039】
これに対して、微小な凹部151の深さdを小さくし、微小な凹部151の開口部の径wを大きくし、微小な凹部151の間隔(ピッチ)pを大きくして単位面積当たりの凹部の数を少なくすることにより微小な凹部151が疎に形成され、その部分の摩擦抵抗はあまり大きくならない。
【0040】
このように、微小な凹部151の深さd、微小な凹部151の開口部の径w、微小な凹部151の間隔(ピッチ)pを調整することにより、図1で説明したシートクッション110の前方部の表皮1112や、シートクッション側土手部112、シートバック側土手部122の表面に、シートクッション110の前方部の表皮1112や、シートクッション110に着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121、シートバック側土手部122の着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221などの、摩擦係数の大きさが調整された領域を形成することができる。
【0041】
図1に示した車両用シート100においては、シートクッション110に着座した搭乗者の太腿の裏側が当たる前方部の表皮1112や、シートクッション側土手部112の着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121、着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221は、微小な凹部151を比較的密集して形成することにより、それらの部分の摩擦抵抗が比較的大きくなるように形成する。
【0042】
一方、シートクッション側土手部112の着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分以外の部分の表皮1122や、シートバック側土手部122の着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分以外の部分の表皮1222には、微小な凹部151を比較的疎に形成することにより、前方部の表皮1112や、搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121、及び着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221よりも摩擦抵抗が比較的低くなるようにした。
【0043】
ただし、本実施例はこれに限ることはなく、表皮1122や、表皮1222には微小な凹部151を形成しなくてもよい。
【0044】
また、形成する微小な凹部151の密度や深さdを調整して、シートクッション110に着座した搭乗者の太腿の裏側が当たる前方部の表皮1112の摩擦抵抗が、シートクッション側土手部112の着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121、及び着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221の摩擦抵抗よりも大きくなるように形成してもよい。
【0045】
さらに、形成する微小な凹部151の密度や深さdを調整して、シートクッション側土手部112の着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121の摩擦抵抗と、着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221の摩擦抵抗とを異なるように形成してもよい。
【0046】
上記に説明した実施例においては、シートクッション110に着座した搭乗者の太腿の裏側が当たる前方部の表皮1112と、シートクッション側土手部112の着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121と、着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221とに、微小な凹部151を形成した例を説明したが、本実施例はこれに限られるものではなく、前方部の表皮1112、搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121、着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221に微小な凹部151を前面に均一に成形するだけでなく、それぞれの領域に微小な凹部151で模様を形成してもよい。
【0047】
また、上記に説明した実施例においては、シートクッション110に着座した搭乗者の太腿の裏側が当たる前方部の表皮1112と、シートクッション側土手部112の着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121と、着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221とに、微小な凹部151を形成した例を説明したが、本実施例はこれに限られるものではなく、シートクッション110に着座した搭乗者の太腿の裏側が当たる前方部の表皮1112、シートクッション側土手部112の着座した搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮1121、又は着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮1221の少なくとも一つ、または何れか2つに微小な凹部151を形成した領域を作るようにしてもよい。
【0048】
本実施例によれば、シートクッション110やシートバック120の表面を場所によって摩擦抵抗を変えて形成することができるので、シートクッション110に着座した搭乗者がシートバック120に背中をもたれかけた状態において、搭乗者が着用している衣服がシートクッション110やシートバック120の表面に対して滑りにくくなり、安定して着座した状態を保てる構成を、安価に形成することができる。
【0049】
また、シートクッション110やシートバック120の表面に微小な凹部151で模様を形成することにより、デザイン性を向上させることができる。
[変形例1]
実施例1の第1の変形例として、図1で説明した車両用シート100の構成に加えて、図6に示すように、シートバック120の肩部にも微小な凹部151を加工して、摩擦係数が大きい領域1223を形成した例を示す。
【0050】
図6に示した肩部の摩擦係数が大きい領域1223は、実施例1において、図3乃至5を用いて説明したような方法で微小な凹部151を形成する。
【0051】
シートバック120の肩部に摩擦係数が大きい領域1223を形成したことにより、シートバック120を前方に倒すときに、この摩擦係数が大きい領域1223に手をかけて操作することにより、手を滑らせることなく確実にシートバック120の肩部を把持してシートバック120を前方に倒すことができる。
【0052】
なお、上記に説明した本変形例は、図1で説明した車両用シート100の構成に加えて、図6に示すようなシートバック120の肩部にも微小な凹部151を加工した例を説明したが、シートバック120の肩部だけに微小な凹部151を加工するようにしてもよい。
【0053】
本変形例によれば、シートバック120を前方に倒すときに、手を滑らせることなくシートバック120の肩部を確実に把持して操作することができ、操作性が向上する。
[変形例2]
実施例1の第2の変形例として、図1で説明した車両用シート100の構成に加えて、図7に示すように、シートクッション110の前部にも微小な凹部151を加工して、摩擦係数が大きい領域1123を形成した例を示す。
【0054】
図7に示したシートクッション110の前部の摩擦係数が大きい領域1123は、実施例1において、図3乃至5を用いて説明したような方法で微小な凹部151を形成する。
【0055】
シートクッション110の前部に摩擦係数が大きい領域1123を形成したことにより、シートクッション110をシートバック120の側に立ち上げるときに、この摩擦係数が大きい領域1123に手をかけて操作することにより、手を滑らせることなく確実のシートクッション110の前部を把持してシートクッション110を立ち上げることができる。
【0056】
なお、上記に説明した本変形例は、図1で説明した車両用シート100の構成に加えて、図7に示すようなシートクッション110の前部にも微小な凹部151を加工した例を説明したが、シートクッション110の前部だけに微小な凹部151を加工するようにしてもよい。
【0057】
本変形例によれば、シートクッション110をシートバック120の側に立ち上げるときに、手を滑らせることなくシートクッション110の前部を確実に把持して操作することができ、操作性が向上する。
[変形例3]
実施例1の第3の変形例として、アームレスト170を備えた車両用シート160において、アームレスト170に摩擦係数の大きい領域を形成した例について、図8を用いて説明する。
【0058】
図8に示した車両用シート160の構成において、シートクッション110とシートバック120の構成は、実施例1で説明したものと同じ構成を有している。
【0059】
本変形例においては、アームレスト170の上面171に実施例1で説明した微小な凹部151を形成し、上面171の摩擦抵抗がアームレスト170のそのほかの面(微小な凹部151が形成されていない面)の摩擦抵抗と比べて大きくなるようにした。
【0060】
アームレスト170の上面171に微小な凹部151を形成したことにより、搭乗者がアームレスト170の上面171に肘を載せた特に、微小な凹部151が形成されていない場合と比べて、搭乗者の衣服の肘を覆う袖部がアームレストの上面171に対して滑りにくくなる。
【0061】
なお、上記に説明した本変形例は、図1で説明した車両用シート100の構成に加えて、図8に示すようなアームレスト170の上面171にも微小な凹部151を加工した例を説明したが、アームレスト170の上面171だけに微小な凹部151を加工するようにしてもよい。
【0062】
これにより、搭乗者がアームレスト170の上面171に肘を載せたときの安定感が増し、搭乗者の快適性を増すことができる。
【0063】
なお、変形例1乃至3について個別に説明したが、これらを任意の2つまたは3つ全てを組み合わせて用いてもよい。
【実施例2】
【0064】
本発明の実施例2による車両用シートの構成について、図9を用いて説明する。図9に示した構成において、着座部211とシートクッション側土手部212とを有するシートクッション210と背もたれ部221とシートバック側土手部222を有するシートバック220を備えた構成については実施例1で説明した車両用シート100の構成と同じである。
【0065】
車両用シート200においては、シートクッション210の側面に、シートクッション210の高さを調整したり、シートバック220の傾きを調整するためのスイッチ250が備えられている場合がある。
【0066】
このスイッチは、シートクッション210の側面に設置されているために、搭乗者は、シートクッション210の側面に手を差し込んで、手探りでスイッチ250の位置を探さなければならなかった。
【0067】
これに対して、本実施例においては、スイッチ250を囲む周辺の領域(以下、単に領域と記す)260に,実施例1で説明した微小な凹部151を加工して、その周辺の領域と比べて摩擦抵抗が大きくなるようにして。
【0068】
領域260に形成する微小な凹部151は、その表面を手で触ったときに、微小な凹部151が形成されていない領域との違いを直ちに感じ取れる程度に、図5に示したような微小な凹部151の深さd、微小な凹部151の開口部の径w、微小な凹部151の間隔(ピッチ)pを調整して形成する。
【0069】
このように、領域260を加工したことにより、シートクッション210に着座した搭乗者が手探りでスイッチ250を探すときに、スイッチ250の周辺に摩擦抵抗が周囲よりも大きい領域260があるので、スイッチ250の位置を探しやすくなり、スイッチの操作性が向上するとともに、誤操作を防止できるようになった。
【実施例3】
【0070】
本発明の第3の実施例を、図10図11とを用いて説明する。図10に示した車両用シート270の構成において、着座部2711とシートクッション側土手部2712とを有するシートクッション271と、背もたれ部2721とシートバック側土手部2722を有するシートバック272を備えた構成については、実施例1で説明した車両用シート100の構成と同じである。
【0071】
本実施例では、シートクッション271とシートバック272とが接する箇所の近傍において、シートクッション271とシートバック272の双方に微小な凹部を形成した領域274と275を設けた。この領域274と275に形成した微小な凹部は、実施例1で図2乃至図5を用いて説明した微小な凹部151と同じ方法で形成する。
【0072】
図10におけるB-B断面矢視図を、図11に示す。シートクッション271に形成した微小な凹部を形成した領域274は、境界線2713と2714とで挟まれた領域に形成されている。また、シートバック272形成した微小な凹部を形成した領域275は、境界線2723と2724とで挟まれた領域に形成されている。
【0073】
図11に示されているように、シートクッション271に形成した微小な凹部を形成した領域274とシートバック272に形成した微小な凹部を形成した領域275は、重なり合っている部分を有している。
【0074】
ここで、シートクッション271に対してシートバック272を倒すとき、又は起こすときに、シートクッション271とシートバック272とが接触している部分が互いにこすれあうが、シートクッション271とシートバック272とにそれぞれ微小な凹部を形成した領域274と微小な凹部を形成した領域275とを形成していない場合には、シートクッション271とシートバック272との面同士が擦れあうことにより、不快な低級音が発生する場合がある。
【0075】
これに対して本実施例においては、微小な凹部を形成した領域274と微小な凹部を形成した領域275とが重なり合うように形成したことにより重なり合う部分が変形しやすくなり、シートクッション271に対してシートバック272を倒すとき、又は起こすときに、シートクッション271とシートバック272とが接触する箇所から発生する不快な低級音を低減することができる。
【実施例4】
【0076】
本発明の第4の実施例を、図12及び13を用いて説明する。図12は、本実施例に係る車両用シートを示す斜視図で、車両の後部座席(またはセカンドシート)300を示している。
【0077】
この後部座席300には、両側のシート310と320との間に、一端の側を中心にして回動可能なアームレスト340を備えたタイプがある。このアームレスト340は、不使用時にはアームレスト340を立てた状態で、アームレスト収納部330の内部に収納し、使用時には、アームレスト340を根元部分を回動中心にして図12に示すように前に倒して使用する。
【0078】
ここで、本実施例においては、アームレスト340をアームレスト収納部330の内部に収納した状態からアームレスト340の根元部分を回動中心にして前に倒すときに、アームレスト収納部330とアームレスト340との間に指先を挿入して指先をアームレスト340に引掛けて前方に回動させる構成とした。
【0079】
すなわち、本実施例においては、アームレスト340をアームレスト収納部330の内部に収納した状態において、アームレスト収納部330とアームレスト340の上側の面との間に指が挿入できるようにするために、図13に示すように、アームレスト収納部330がアームレスト340の上側の面と向き合う箇所に、切欠き部331が形成されている。
【0080】
そして、アームレスト340の側には、図13に示すようにアームレスト340をアームレスト収納部330の内部に収納した状態において、切欠き部331とアームレスト340との間に挿入した指が接触する部分を含む領域に、実施例1で説明した微小な凹部151を形成した領域(以下、単に領域と記す)341を設けた。
【0081】
ここで、領域341に形成する微小な凹部151の深さd、微小な凹部151の開口部の径w、微小な凹部151の間隔(ピッチ)pを調整することにより、領域341に押し当てた指先と領域341との間に十分な摩擦力を発生させることができる。
【0082】
これにより、アームレスト340をアームレスト収納部330の内部に収納した状態から、切欠き部331とアームレスト340との間に指先を挿入して領域341に押し当ててアームレスト340の上部を前方に引き出すことにより、アームレスト340をアームレスト収納部330から確実に前方に倒して使用可能な状態にすることができる。
【0083】
本実施例によれば、アームレスト340をアームレスト収納部330から前方に倒して使用可能な状態にするのに、従来技術で説明したような、アームレスト本体に逢着したストラップを必要とせず、アームレスト340の部品点数を削減し、且つ、縫製工程を減らすことが可能になった。
【実施例5】
【0084】
本発明の第5の実施例を、図14を用いて説明する。図14は、車両の後部座席(またはセカンドシート)350を示しており、実施例4で説明した図12に場合と同様に、両側のシート310と320との間に、回動可能なアームレスト360を備えたタイプを示している。
【0085】
このアームレスト360は、不使用時にはアームレスト360を立てた状態で、アームレスト収納部330の内部に収納し、使用時には、アームレスト360を根元部分を回動中心にして図14に示すように前に倒して使用する。
【0086】
アームレスト360を立てて、アームレスト収納部330の内部に収納した状態においては、アームレスト360とアームレスト収納部330の側壁面332との間に隙間が生じないように、アームレスト360はアームレスト収納部330の側壁面332に密着した状態で収納される。
【0087】
このように側壁面332に密着して収納された状態で、アームレスト360を根元部分を回動中心にして前に倒すときに、又は前に倒したアームレスト360を根元部分を回動中心にして起こしてアームレスト収納部330に収納するときに、アームレスト収納部330の側壁面332とアームレスト360とが擦れあうことにより、不快な低級音が発生する場合がある。
【0088】
これに対して本実施例では、アームレスト360の側面361に、微小な凹部を形成した。この側面361に形成した微小な凹部は、実施例1で図2乃至図5を用いて説明した微小な凹部151と同じ方法で形成する。
このようにアームレスト360の側面361に微小な凹部を形成したことにより、アームレスト収納部330の側壁面332とアームレスト360とが擦れあうときに、側面361に形成した微小な凹部が変形することにより、シートクッション271とシートバック272とが接触する箇所から発生する不快な低級音を低減することができる。
【0089】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0090】
100、150,160、200、270、300 車両用シート
110、210、271 シートクッション
111,211,2711 着座部
112,212,2712 シートクッション側土手部
120,220、272 シートバック
121,221,2721 背もたれ部
122,222,2722 シートバック側土手部
151 微小な凹部
170,340、360 アームレスト
171 アームレスト170の上面
260 スイッチ250を囲む周辺の領域
341 微小な凹部151を形成した領域
510 レーザ光源
1112 シートクッション110の前方部の表皮
1121 搭乗者の太ももの側部が当たる部分の表皮
1123 摩擦係数が大きい領域
1221 着座した搭乗者の背中が当たる部分の両側の部分の表皮
1223 摩擦係数が大きい領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14