(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】インプリント装置、インプリント方法、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240109BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2020072923
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 武彦
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-126723(JP,A)
【文献】特開2013-162045(JP,A)
【文献】特開2019-004055(JP,A)
【文献】特開2017-152650(JP,A)
【文献】特開2019-024089(JP,A)
【文献】特開2017-199730(JP,A)
【文献】特開2013-055327(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0165329(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン領域を有するモールドを用いて部材の対象領域上のインプリント材を成形するインプリント装置であって、
前記パターン領域および前記対象領域の少なくとも一方に圧力を加えることで、前記少なくとも一方を他方側に突出した凸形状に変形させる変形部と、
前記モールドと前記部材との相対傾きを調整する調整部と、
前記変形部により前記少なくとも一方を変形させた状態で前記パターン領域と前記インプリント材との接触を開始させ、その後、前記少なくとも一方の変形が徐々に解除されるように前記圧力を変化させながら前記パターン領域と前記インプリント材との接触面積を拡大させる接触処理を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、前記圧力の変化と前記少なくとも一方の傾きの変化との関係を示す情報に基づいて、前記接触処理中における前記圧力の変化による前記少なくとも一方の傾きの変化が低減されるように前記調整部を制御する、ことを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記少なくとも一方の傾きは、前記少なくとも一方の代表点における接平面の傾きを表す指標値である、ことを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記変形部により前記少なくとも一方に加えられる前記圧力が互いに異なる複数の状態の各々について前記少なくとも一方の前記傾き値を求めることにより、前記情報を生成する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数の状態の各々について、前記少なくとも一方における複数箇所でそれぞれ得られた高さデータに基づいて前記少なくとも一方の傾きを求める、ことを特徴とする請求項3に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記複数箇所でそれぞれ得られた前記高さデータに対して一次近似した結果に基づいて、前記少なくとも一方の傾きを求める、ことを特徴とする請求項4に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記少なくとも一方の高さを計測する計測部を更に含み、
前記制御部は、前記複数箇所でそれぞれ得られた前記計測部の計測値を前記高さデータとして用いる、ことを特徴とする請求項4又は5に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記少なくとも一方の高さを計測する計測部を更に含み、
前記制御部は、前記複数箇所の各々について、前記少なくとも一方に加えられる圧力を変化させたときの高さの変化に関する近似関数を求め、当該近似関数から算出される算出値を前記高さデータとして用いる、ことを特徴とする請求項4又は5に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記パターン領域と前記対象領域とを並進駆動する駆動部を更に含み、
前記制御部は、前記調整部による前記相対傾きの調整量に基づいて、前記相対傾きの調整で生じる前記パターン領域と前記対象領域との並進ずれを求め、当該並進ずれが補正されるように前記駆動部を制御する、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記変形部は、前記モールドに圧力を加えることにより前記パターン領域を前記部材側に突出した凸形状に変形させる第1変形部を含む、ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項10】
前記変形部は、前記部材に圧力を加えることにより前記対象領域を前記モールド側に突出した凸形状に変形させる第2変形部を含む、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて部材上にパターンを形成する形成工程と、
前記形成工程でパターンが形成された前記部材を加工する加工工程と、を含み、
前記加工工程で加工された前記部材から物品を製造することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項12】
パターン領域を有するモールドを用いて部材の対象領域上のインプリント材を成形するインプリント方法であって、
前記パターン領域および前記対象領域の少なくとも一方に圧力を加えることで、前記少なくとも一方を他方側に突出した凸形状に変形させる変形工程と、
前記変形工程で前記少なくとも一方を変形させた状態で前記パターン領域と前記インプリント材との接触を開始させ、その後、前記少なくとも一方の変形が徐々に解除されるように前記圧力を変化させながら前記パターン領域と前記インプリント材との接触面積を拡大させる接触工程と、
を含み、
前記接触工程では、前記圧力の変化と前記少なくとも一方の傾きの変化との関係を示す情報に基づいて、前記接触工程中における前記圧力の変化による前記少なくとも一方の傾きの変化が低減されるように、前記モールドと前記部材との相対傾きを調整する、ことを特徴とするインプリント方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置、インプリント方法、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸パターンで構成されたパターン領域を有するモールドを用いて、部材(基板)上にインプリント材のパターンを転写するインプリント装置が、半導体デバイスなどの量産用リソグラフィ装置の1つとして注目されている。インプリント装置は、モールドと部材上のインプリント材とを接触させた状態で当該インプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材からモールドを剥離することにより、インプリント材で構成された凹凸パターンを部材上に形成することができる。
【0003】
インプリント装置では、モールドと部材上のインプリント材とを接触させたときにモールドのパターンに気泡が残存していると、部材上に形成されたインプリント材のパターンに欠損が生じうる。このような気泡の残存を低減するため、特許文献1には、パターン領域を凸形状に変形させた状態でモールドとインプリント材との接触を開始させ、パターン領域の変形量を徐々に小さくすることで接触面積を徐々に拡大させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モールドには、パターン領域を変形しやすくするため、パターン領域を有する面の反対側にキャビティ(凹部)が形成されうる。しかしながら、キャビティは、例えば製造誤差などにより、キャビティの重心がパターン領域の中心からずれて形成されることがある。この場合、モールドのパターン領域の変形量を徐々に小さくしながらパターン領域と基板上のインプリント材との接触面積を徐々に拡大させる過程において、パターン領域の変形量に応じてパターン領域の傾きが変化してしまう。その結果、当該過程においてモールドのパターン領域と基板との相対傾きが変化し、インプリント材のパターンにおける残膜厚の均一性が低下するなど、基板上のインプリント材にパターンを精度よく形成することが困難になりうる。また、モールド(パターン領域)とインプリント材とを接触する際に部材を凸形状に変形する場合においても同様の問題が生じうる。
【0006】
そこで、本発明は、部材上のインプリント材にパターンを精度よく形成するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント装置は、パターン領域を有するモールドを用いて部材の対象領域上のインプリント材を成形するインプリント装置であって、前記パターン領域および前記対象領域の少なくとも一方に圧力を加えることで、前記少なくとも一方を他方側に突出した凸形状に変形させる変形部と、前記モールドと前記部材との相対傾きを調整する調整部と、前記変形部により前記少なくとも一方を変形させた状態で前記パターン領域と前記インプリント材との接触を開始させ、その後、前記少なくとも一方の変形が徐々に解除されるように前記圧力を変化させながら前記パターン領域と前記インプリント材との接触面積を拡大させる接触処理を制御する制御部と、を含み、前記制御部は、前記圧力の変化と前記少なくとも一方の傾きの変化との関係を示す情報に基づいて、前記接触処理中における前記圧力の変化による前記少なくとも一方の傾きの変化が低減されるように前記調整部を制御する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、部材上のインプリント材にパターンを精度よく形成するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】パターン領域の変形量によるパターン領域の傾きの変化を説明するための概念図
【
図7】第2実施形態に係る高さデータの設定方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
本発明に係る第1実施形態について説明する。インプリント装置は、部材上に供給されたインプリント材と型とを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギを与えることにより、型の凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する装置である。例えば、インプリント装置は、部材上に液状のインプリント材を供給し、凹凸のパターンが形成されたモールド(型)を部材上のインプリント材に接触させた状態で当該インプリント材を硬化させる。そして、モールドと部材との間隔を広げて、硬化したインプリント材からモールドを剥離(離型)することで、部材上のインプリント材にモールドのパターンを転写することができる。このような一連の処理は「インプリント処理」と呼ばれ、部材における複数のショット領域の各々について行われる。
【0013】
インプリント装置が半導体デバイスやFPD(Flat Panel Display)等の製造に用いられる場合、半導体ウェハやガラスプレートなどの基板が部材として用いられうる。また、インプリント装置がレプリカモールドの作製に用いられる場合、石英等で構成されたブランクモールド(パターンが形成される前のモールド)が部材として用いられうる。本実施形態では、インプリント装置を用いてレプリカモールドを作製する例について説明する。この場合、モールドとしてマスタモールドが用いられ、部材としてブランクモールドが用いられる。
【0014】
インプリント材には、硬化用のエネルギが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギとしては、電磁波、熱等が用いられる。電磁波としては、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される、赤外線、可視光線、紫外線などの光である。
【0015】
硬化性組成物は、光の照射により、あるいは、加熱により硬化する組成物である。このうち、光により硬化する光硬化性組成物は、重合性化合物と光重合開始材とを少なくとも含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマ成分などの群から選択される少なくとも一種である。
【0016】
インプリント材は、スピンコータやスリットコータにより部材(基板)上に膜状に付与される。あるいは、液体噴射ヘッドにより、液滴状、あるいは複数の液滴が繋がってできた島状または膜状となって部材(基板)上に付与されてもよい。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0017】
[インプリント装置の構成]
図1は、本実施形態のインプリント装置1の構成を示す概略図である。本実施形態では、モールド3に照射される光の光軸に平行な方向をZ方向とし、当該Z方向に垂直な平面内で互いに直交する方向をX方向およびY方向とする。
【0018】
インプリント装置1は、例えば、照射部2と、インプリントヘッド4と、ステージ6と、供給部7と、第1計測部8と、第2計測部9と、検出部13と、制御部19とを含みうる。制御部19は、例えばCPUや記憶部(メモリ)などを有するコンピュータによって構成され、インプリント装置1の各部を制御する(インプリント処理を制御する)。ここで、インプリントヘッド4は、支柱等を介してベース定盤15により支持されたブリッジ定盤16により支持されており、ステージ6は、ベース定盤15上を移動可能に設けられている。また、インプリント装置1には、インプリント装置1が設置されている床からベース定盤15に伝わる振動を低減するための除振器17が設けられている。
【0019】
モールド3は、通常、石英ガラスなど紫外線を透過させることが可能な材料で作製され、部材側の面における一部の領域(パターン領域3a)には、部材上のインプリント材に転写されるべき凹凸パターンが形成されている。パターン領域3aは、例えば数十μm程度の段差で構成されたメサ形状を有している。本実施形態では、インプリント装置1を用いてレプリカモールドを作製するため、石英ガラスで構成されたマスタモールドがモールド3として用いられる。
【0020】
また、部材5としては、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂等が用いられ、必要に応じて、その表面に部材5とは別の材料からなる部材が形成されていてもよい。部材5としては、具体的に、シリコンウェハ、化合物半導体ウェハ、石英ガラスなどである。また、インプリント材の付与前に、必要に応じて、インプリント材と部材との密着性を向上させるために密着層を設けてもよい。本実施形態では、インプリント装置1を用いてレプリカモールドを作製するため、石英ガラスで構成されたブランクモールドが部材5として用いられる。部材5としてのブランクモールドでは、インプリント材の凹凸パターンが形成される対象領域5a(対象ショット領域)が、例えば数十μm程度の段差で構成されたメサ形状を有している。
【0021】
照射部2は、インプリント処理の際、モールド3と部材5上のインプリント材とが接触している状態で、部材5上のインプリント材にモールド3を介して光(例えば紫外線)を照射することにより当該インプリント材を硬化させる。照射部2は、例えば、光源と、光源から射出された光をインプリント処理に適切な光に調整するための光学素子とを含みうる。
図1に示すインプリント装置1では、照射部2から射出された光2aがミラー18で反射されて部材5上のインプリント材に照射されるように構成されている。
【0022】
インプリントヘッド4は、モールド搬送部10により搬送されたモールド3を保持するモールドチャックと、モールドチャックにより保持されたモールド3の位置および傾きを変更可能に構成されたモールド駆動部とを含みうる。モールド駆動部は、例えば、部材5上のインプリント材にモールド3を押し付けたり、硬化したインプリント材からモールド3を剥離したりするように、モールド3をZ方向に駆動してモールド3と部材5との間隔を変更するZ駆動機構を含みうる。また、モールド駆動部は、モールド3を傾けるチルト駆動機構などを含んでもよい。
【0023】
ステージ6は、部材5を保持してベース定盤15の上をXY方向に移動可能に構成される。ステージ6は、例えば、部材搬送部11により搬送された部材5を保持する部材チャックと、部材チャックにより保持された部材5の位置および傾きを変更可能に構成された部材駆動部とを含みうる。部材駆動部は、例えば、XY方向、Z方向およびθ方向(Z軸周りの回転方向)に部材5を駆動する駆動機構や、部材5を傾けるチルト駆動機構などにより構成されうる。
【0024】
本実施形態のインプリント装置1では、インプリントヘッド4でモールド3をZ方向に駆動することで、モールド3と部材上のインプリント材とを接触させる接触処理、および、硬化したインプリント材からモールド3を剥離する離型処理が行われる。しかしながら、それに限られず、接触処理および離型処理は、例えば、ステージ6で部材5をZ方向に駆動することで行われてもよいし、インプリントヘッド4およびステージ6の双方でモールド3と部材5とを相対的にZ方向に駆動することで行われてもよい。
【0025】
供給部7は、部材5(対象領域5a)上にインプリント材R(例えば未硬化樹脂)を供給する。本実施形態では、紫外線の照射によって硬化する性質を有する紫外線硬化樹脂がインプリント材Rとして用いられる。また、検出部13は、例えば、モールド3に設けられたマークと部材5に設けられたマークとの相対位置ずれ(XY方向)を検出するTTM(Through The Mold)スコープを含む。これにより、制御部19は、検出部13(TTMスコープ)により検出されたモールド3のマークと部材5のマークとの相対位置ずれに基づいて、モールド3と部材5とのアライメント(位置合わせ)を行うことができる。
【0026】
第1計測部8は、モールド3の表面(部材5側の表面)の高さを計測する。例えば、第1計測部8は、モールド3の計測対象箇所に光(レーザ光)を照射して当該計測対象箇所までの距離を検出するレーザ干渉計を含み、レーザ干渉計で検出された距離に基づいて、当該計測対象箇所の高さ(Z方向の位置)を計測することができる。本実施形態の場合、第1計測部8は、ステージ6に設けられ、ステージ6とともに移動することで、モールド3(パターン領域3a)における複数箇所の各々の高さを計測することができる。これにより、制御部19は、モールド3(パターン領域3a)の複数箇所の各々で得られた第1計測部8の計測結果に基づいて、パターン領域3aの高さ分布および傾きを求めることができる。ここで、パターン領域3aの傾きは、パターン領域3aの代表点(例えば中心)における接平面の傾きを表す指標値として定義される。パターン領域3aの傾きとしては、例えば、パターン領域3aの高さ分布の近似関数(例えば二次関数)における一次項の係数から算出された値が適用されてもよいし、当該一次項の係数がそのまま適用されてもよい。
【0027】
第2計測部9は、部材5の表面(モールド3側の表面)の高さを計測する。例えば、第2計測部9は、部材5の計測対象箇所に光(レーザ光)を照射して、当該計測対象箇所までの距離を検出するレーザ干渉計を含み、レーザ干渉計で検出された距離に基づいて、当該計測対象箇所の高さ(Z方向の位置)を計測することができる。本実施形態の場合、第2計測部9は、ブリッジ定盤16に設けられ、ステージにより部材5を移動させることで、部材5(対象領域5a)における複数箇所の各々の高さを計測することができる。これにより、制御部19は、部材5(対象領域5a)の複数箇所の各々で得られた第2計測部9の計測結果に基づいて、対象領域5aの高さ分布および傾きを求めることができる。ここで、対象領域5aの傾きは、対象領域5aの代表点(例えば中心)における接平面の傾きを表す指標値として定義される。対象領域5aの傾きとしては、例えば、対象領域5aの高さ分布の近似関数(例えば2次関数)における一次項の係数から算出された値が適用されてもよいし、当該一次項の係数がそのまま適用されてもよい。
【0028】
インプリント装置1では、モールド3と部材5上のインプリント材との接触処理においてモールド3の凹凸パターンに気泡が残存していると、部材上に形成されたインプリント材のパターンに欠損が生じうる。そのため、本実施形態のインプリント装置1は、モールド3のパターン領域3aおよび部材5の対象領域5aの少なくとも一方に圧力を加えることにより、当該少なくとも一方を他方側に突出した凸形状に変形させる変形部を含む。そして、インプリント装置1は、変形部により当該少なくとも一方の変形を制御しながら接触処理を行う。具体的には、変形部により当該少なくとも一方を変形させた状態でモールド3(パターン領域3a)と部材上のインプリント材との接触を開始させる。その後、当該少なくとも一方の変形が徐々に解除されるように圧力を変化させながらパターン領域3aとインプリント材との接触面積を徐々に拡大させる。このように接触処理を制御することにより、モールド3の凹凸パターンに残存する気泡を低減し、部材上に形成されたインプリント材のパターンの欠損を低減することができる。
【0029】
例えば、本実施形態のインプリント装置1では、マスタモールドとしてのモールド3のパターン領域3aを変形する第1変形部20aと、ブランクモールドとしての部材5の対象領域5aを変形する第2変形部20bとが設けられうる。
【0030】
モールド3には、パターン領域3aを変形しやすくするため、パターン領域3aとその周辺の厚みが薄くなるように、パターン領域3aを有する面の反対側にキャビティ3b(凹部)が設けられる。このキャビティ3bは、インプリントヘッド4によって保持されることで略密閉された空間となるとともに、流路(配管)を介して第1変形部20aに接続されている。第1変形部20aは、インプリントヘッド4により保持されたモールド3のキャビティ3bの内部圧力を調整することで、モールド3のパターン領域3aの変形を制御することができる。一例として、第1変形部20aは、モールド3のキャビティ3bの内部圧力を増加させてモールド3のパターン領域3aに力を加えることで、当該パターン領域3aを、その中央部が部材5側に突出した凸形状に変形することができる。
【0031】
また、部材5には、対象領域5aを変形しやすくするため、対象領域5aとその周辺の厚みが薄くなるように、対象領域5aを有する面の反対側にキャビティ5b(凹部)が設けられる。このキャビティ5bは、ステージ6によって保持されることで略密閉された空間となるとともに、流路(配管)を介して第2変形部20bに接続されている。第2変形部20bは、ステージ6により保持された部材5のキャビティ5bの内部圧力を調整することで、部材5の対象領域5aの変形を制御することができる。一例として、第2変形部20bは、部材5のキャビティ3bの内部圧力を増加させて部材5の対象領域5aに力を加えることで、当該対象領域5aを、その中央部がモールド3側に突出した凸形状に変形することができる。
【0032】
[相対傾きの制御について]
従来では、所定状態でモールド3のパターン領域3aと部材5の対象領域5aとが目標相対傾き(例えば平行)になるように、モールド3と部材上のインプリント材との接触開始前にパターン領域3aと対象領域5aとの相対傾きを制御しているだけであった。当該所定状態とは、例えば、モールド3のパターン領域3aの全体が部材5(対象領域5a)上のインプリント材に接触し、パターン領域3aおよび/または対象領域5aを平坦とした状態でありうる。つまり、従来では、パターン領域3aとインプリント材との接触面積を徐々に拡大させる過程(接触処理中、接触工程中)において、パターン領域3aと対象領域5aとの相対傾きの制御が行われていなかった。
【0033】
しかしながら、モールド3のキャビティ3bは、例えば製造誤差などにより、キャビティ3bの重心がパターン領域3aの中心からずれて形成されることがある。この場合、例えば
図2に示すように、モールド3自体の傾きを変化させていないにも関わらず、パターン領域3aの傾きが、第1変形部20aによるパターン領域3aの変形量に応じて変化してしまう。
図2は、パターン領域3aの変形量によるパターン領域3aの傾きの変化を説明するための概念図である。つまり、モールド3のパターン領域3aの変形量を徐々に小さくしながらパターン領域3aと部材上のインプリント材との接触面積を徐々に拡大させる接触処理中において、パターン領域3aの傾きがパターン領域3aの変形量に応じて変化してしまう。
【0034】
また、部材5のキャビティ5bについても同様であり、例えば製造誤差などにより、キャビティ5bの重心が対象領域5bの中心からずれで形成されることがある。この場合、部材5自体の傾きを変化させていないにも関わらず、対象領域5aの傾きが、第2変形部20bによる対象領域5aの変形量に応じて変化してしまう。つまり、部材5の対象領域5aの変形量を徐々に小さくしながらパターン領域3aと部材5(対象領域5a)上のインプリント材との接触面積を徐々に拡大させる接触処理中において、対象領域5aの傾きが対象領域5aの変形量に応じて変化してしまう。
【0035】
このようにモールド3のパターン領域3aおよび/または部材5の対象領域5aの傾きが変形量に応じて変化してしまうと、接触面積を徐々に拡大させる接触処理中においてパターン領域3aと対象領域5aとの相対傾きが変化してしまうこととなる。その結果、インプリント材の粘性に起因してパターン領域3aおよび/または対象領域5aにディストーションが生じたり、インプリント材のパターンにおける残膜厚の均一性が低下したりしうる。つまり、部材上のインプリント材にパターンを精度よく形成することが困難になりうる。なお、残膜厚(RLT;Residual Layer Thickness)とは、硬化したインプリント材で構成されるパターンの凹部の表面(底面)と、部材5の表面との間のインプリント材の厚さのことである。
【0036】
そこで、本実施形態のインプリント装置1は、接触処理中において、パターン領域3aおよび対象領域5aの少なくとも一方に加えられる圧力の変化による当該少なくとも一方の傾きの変化が低減されるように、モールド3と部材5との相対傾きを調整する。当該相対傾きの調整は、当該少なくとも一方に加えられる圧力の変化と当該少なくとも一方の傾きの変化との関係を示す情報に基づいて行われうる。当該相対傾きを調整する調整部としては、インプリントヘッド4および/またはステージ6が用いられ、パターン領域3aおよび対象領域5aの少なくとも一方を変形する変形部としては、第1変形部20aおよび/または第2変形部20bが用いられうる。
【0037】
[本実施形態のインプリント処理]
上述したインプリント装置1で行われる本実施形態のインプリント処理について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態のインプリント処理を示すフローチャートである。
図3に示すフローチャートの各工程は、制御部19によって制御されうる。なお、以下では、接触処理において、モールド3のパターン領域3aおよび部材5の対象領域5aの両方とも凸形状に変形させる例について説明するが、どちらか一方を凸形状に変形させるだけであってもよい。
【0038】
ステップS11では、制御部19は、第1変形部20aによりモールド3のパターン領域3aに加えられる圧力の変化とパターン領域3aの傾きの変化との関係を示す第1情報を取得する。また、制御部19は、第2変形部20bにより部材5の対象領域5aに加えられる圧力の変化と対象領域5aの傾きの変化との関係を示す第2情報を取得する。第1情報および第2情報は、事前に生成されて記憶部に記憶されており、制御部19は、第1情報および第2情報を記憶部から読み出すことにより取得しうる。第1情報はモールド3ごとに生成され、第2情報は部材5ごとに生成されるとよい。第1情報および第2情報の生成方法の詳細については後述する。
【0039】
ステップS12では、制御部19は、部材5の対象領域5aが供給部7の下方に配置されるようにステージ6を制御し、対象領域上にインプリント材を供給するように供給部7を制御する。次いで、ステップS13では、制御部19は、第1変形部20aによりモールド3のキャビティ3bの内部圧力を増加させることで、モールド3のパターン領域3aを、その中央部が部材側に突出した凸形状に変形させる。また、ステップS14では、制御部19は、第2変形部20bにより部材5のキャビティ5bの内部圧力を増加させることで、部材5の対象領域5aを、その中央部がモールド側に突出した凸形状に変形させる。ステップS15では、制御部19は、ステップS11で取得した第1情報および第2情報に基づいて、モールド3のパターン領域3aと部材5の対象領域5aとが目標相対傾き(例えば平行)になるように、モールド3と部材5との相対傾きを調整する。
【0040】
ステップS16では、制御部19は、モールド3と部材5との間隔が狭まるようにインプリントヘッド4を制御し、モールド3のパターン領域3aと部材5(対象領域5a)上のインプリント材とを接触させる(接触処理)。本実施形態の接触処理では、パターン領域3aと対象領域5aとの接触開始後、第1変形部20aおよび第2変形部20bによりパターン領域3aおよび対象領域5aにそれぞれ加えられる圧力を徐々に小さくすることで、それらの変形量を徐々に小さくする。これにより、パターン領域3aと対象領域5a上のインプリント材との接触面積を徐々に拡大させ、モールド3(パターン領域3a)の凹凸パターンに残存する気泡を低減することができる。
【0041】
また、制御部19は、ステップS16の接触処理中において、パターン領域3aと対象領域5aとの相対傾きが目標相対傾きを維持するように、第1情報および第2情報に基づいてモールド3と部材5との相対傾きを調整する。例えば、制御部19は、ステップS15で調整したモールド3(パターン領域3a)の傾きを基準とし、第1情報に基づいて、第1変形部20aによりパターン領域3aに加えられる圧力の変化に応じたパターン領域3aの傾きの変化を求める。そして、その傾きの変化が低減(補正)されるように、インプリントヘッド4によりモールド3(パターン領域3a)の傾きを制御する。同様に、制御部19は、ステップS15で調整した部材5(対象領域5a)の傾きを基準とし、第2情報に基づいて、第2変形部20bにより対象領域5aに加えられる圧力の変化に応じた対象領域5aの傾きの変化を求める。そして、その傾きの変化が低減(補正)されるように、ステージ6により部材5(対象領域5a)の傾きを制御する。制御部19は、上記のようなパターン領域3aおよび対象領域5aの傾き制御を接触処理中に逐次実行することにより、パターン領域3aと対象領域5aとを目標相対傾きで維持させることができる。
【0042】
ステップS17では、制御部19は、モールド3(パターン領域3a)と部材5(対象領域5a)との位置合わせを行う。例えば、制御部19は、モールド3のマークと部材5のマークとを検出部13に検出させることで、その検出結果に基づいて、パターン領域3aと対象領域5aとの位置合わせを行うことができる。ステップS17の位置合わせは、パターン領域3aの全体が部材上のインプリント材に接触した状態で行われてもよいが、パターン領域3aとインプリント材との接触面積を徐々に拡大している過程(即ち、ステップS16の接触処理中)に行われてもよい。
【0043】
ステップS18では、制御部19は、モールド3を介して部材上のインプリント材に光を照射するように照射部2を制御することにより、当該インプリント材を硬化させる。次いで、ステップS19では、制御部19は、モールド3と部材5との間隔が広がるようにインプリントヘッド4を制御し、硬化したインプリント材からモールド3を剥離させる(離型処理)。これにより、インプリント材で構成された凹凸パターンを部材5の対象領域5a上に形成することができる。
【0044】
[第1情報の生成方法]
次に、第1情報の生成方法について、
図4を参照しながら説明する。
図4は、第1情報の生成方法を示すフローチャートであり、
図3に示すフローチャートの実行前に行われうる。
図4に示すフローチャートの各工程は、制御部19によって制御されうる。なお、第1情報は、上述したように、第1変形部20aによりモールド3のパターン領域3aに加えられる圧力の変化とパターン領域3aの傾きの変化との関係を示す情報である。
【0045】
ステップS21では、制御部19は、モールド3のパターン領域3aに圧力を加えることで、パターン領域3aを凸形状に変形させる。本実施形態の場合、第1変形部20aによりモールド3のキャビティ3bの内部圧力を増加させることで、パターン領域3aに圧力を加え、パターン領域3aを凸形状に変形させることができる。
【0046】
ステップS22では、制御部19は、モールド3のパターン領域3aにおける複数箇所の各々の高さを第1計測部8に計測させる。本実施形態の場合、第1計測部8はステージ6に設けられている。そのため、制御部19は、ステージ6によりモールド3(パターン領域3a)と第1計測部8とを相対的に移動させることで、複数個所の各々の高さを第1計測部8に計測させることができる。
【0047】
ステップS23では、制御部19は、第1変形部20aによりモールド3のパターン領域3aに加えられる圧力が互いに異なる複数の状態の各々について、パターン領域3aにおける複数箇所の高さを第1計測部8により計測したか否かを判断する。当該複数の状態は、任意に設定可能であるが、例えば、(a)モールド3とインプリント材との接触開始前にパターン領域3aを目標形状に変形させた状態、および(b)パターン領域3aを平坦にした状態のうち少なくとも1つ(好ましくは両方)を含むとよい。パターン領域3aにおける複数箇所の高さを全ての状態で計測した場合にはステップS24に進む。一方、パターン領域3aにおける複数個所の高さを全ての状態で計測していない場合にはステップS21に戻り、第1変形部20aによりパターン領域3aに加えられる圧力(即ち、パターン領域3aの変形量)を変更してステップS21~S22を再び行う。
【0048】
ステップS24では、制御部19は、複数の状態の各々について、パターン領域3aにおける複数箇所の高さデータに基づいてパターン領域3aの傾きを算出(決定)する。本実施形態では、パターン領域3aにおける複数箇所の高さデータとして、ステップS22において第1計測部8で得られた高さの計測値が用いられうる。
【0049】
例えば、制御部19は、複数の状態のうちの第1状態について、パターン領域3aにおける複数箇所の高さデータに対し、最小二乗法などにより平面近似関数を求め、当該平面近似関数における一次項の係数からパターン領域3aの傾きを算出する。パターン領域3aの傾きは、X方向およびY方向の各々について算出するとよい。制御部19は、平面近似関数における一次項の係数をパターン領域3aの傾きとしてもよい。同様に、制御部19は、複数の状態のうちの第2状態について、パターン領域3aにおける複数の箇所の高さデータに対して平面近似関数を求め、当該平面近似関数における一次項の係数からパターン領域3aの傾き(X方向、Y方向)を算出する。このようにして、複数の状態の各々についてパターン領域3aの傾きを算出することができる。
【0050】
ステップS25では、制御部19は、ステップS24において複数の状態の各々で算出されたパターン領域3aの傾きに基づいて第1情報を生成する。例えば、制御部19は、
図5に示すように、複数の状態の各々について決定されたパターン領域3aの傾きtmに対して一次近似を行うことにより、その近似関数fm(一次関数)を第1情報として生成することができる。近似関数fmは、パターン領域3aにおけるX方向およびY方向の各々について求めておくとよい。
【0051】
[第2情報の生成方法]
次に、第2情報の生成方法について説明する。第2情報は、上述したように、第2変形部20bにより部材5の対象領域5aに加えられる圧力の変化と対象領域5aの傾きの変化との関係を示す情報である。第2情報は、第1情報と同様に
図4のフローチャートに従って生成されうる。但し、上述した
図4のフローチャートにおいて、モールド3のパターン領域3aは部材5の対象領域5aに、第1変形部20aは第2変形部20bに、第1計測部8は第2計測部9にそれぞれ置き換えられうる。例えば、制御部19は、
図6に示すように、複数の状態の各々について決定された対象領域5aの傾きtsに対して一次近似を行うことにより、その近似関数fs(一次関数)を第2情報として生成することができる。近似関数fsは、対象領域5aにおけるX方向およびY方向の各々について求めておくとよい。
【0052】
上述したように、本実施形態のインプリント装置1は、接触処理中におけるパターン領域3aおよび/または対象領域5aの傾きの変化が低減されるように、第1情報および/または第2情報に基づいてモールド3と部材5との相対傾きを調整する。これにより、インプリント材の粘性に起因して発生するパターン領域3aおよび/または対象領域5aのディストーションを低減することができ、また、インプリント材のパターンにおける残膜厚の均一性を向上させることができる。つまり、基板上のインプリント材にパターンを精度よく形成することができる。
【0053】
<第2実施形態>
本発明に係る第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態を基本的に引き継ぐものであり、特に言及がない限り、装置構成やインプリント処理のフロー等については第1実施形態と同様である。
【0054】
本実施形態は、第1実施形態に対し、第1情報および第2情報の生成方法が異なる。より具体的には、
図4に示すフローチャートのステップS24における高さデータの設定方法が異なる。第1実施形態では、パターン領域3aの傾きを算出するために用いられる複数箇所の高さデータとして、ステップS22において第1計測部8で得られた高さの計測値を用いた。一方、本実施形態では、ステップS22において第1計測部8で得られた高さの計測値に基づいて、パターン領域3aにおける複数個所の各々について、パターン領域3aに加えられる圧力を変化させたときの高さの変化に関する近似関数を求める。そして、当該近似関数から算出される高さの算出値を当該高さデータとして用いる。以下に、第1情報の生成方法における本実施形態のステップS24の処理について説明する。
【0055】
図7は、本実施形態に係るステップS24での高さデータの設定方法を説明するための図である。
図7(a)は、複数の状態におけるパターン領域3aを示している。
図7(a)では、第1変形部20aによりパターン領域3aに加えられる圧力が互いに異なる複数の状態として、第1状態F
1、第2状態F
2、第3状態F
3、・・・、第p状態F
pが例示されている。また、
図7(a)では、パターン領域3aにおける複数箇所(計測点)として、X方向にn箇所、Y方向にm箇所の計n×m箇所が例示されている。パターン領域3aにおける複数箇所の各々は、複数の状態の各々について第1計測部8により高さが計測される計測対象箇所である。
【0056】
制御部19は、パターン領域3aの箇所ごとに、複数の状態(パターン領域3aに加えられる圧力)F
1~F
pとステップS22において第1計測部8で得られた高さの計測値hmとの対応関係を取得する。一例として、
図7(a)でハッチングされた所定箇所(Xn,Ym)における複数の状態F
1~F
pと高さの計測値hmとの対応関係を、
図7(b)に示している。制御部19は、
図7(b)に示すように、複数の状態F
1~F
pについての高さの計測値hmに対して近似関数fhを求める。そして、複数の状態F
1~F
pの各々について、当該近似関数fhから算出される算出値hcを、ステップS25でパターン領域3aの傾きを算出するために用いられる所定箇所(Xn,Ym)の高さデータとして設定する。このように近似関数から高さデータを設定することにより、例えば外乱振動などにより第1計測部8の計測結果に生じうる誤差の影響を低減し、より精度よく第1情報を取得することができる。ここで、第2情報についても、第1情報と同様に、上記の方法を用いて生成することができる。
【0057】
<第3実施形態>
本発明に係る第3実施形態について説明する。本実施形態は、特に言及がない限り第1実施形態および/または第2実施形態を基本的に引き継ぐものである。上記実施形態では、接触処理におけるモールド3と部材5との相対傾きの調整量に応じて、パターン領域3aと対象領域5aとに並進ずれ(XY方向の位置ずれ)が生じうる。したがって、本実施形態では、制御部19は、当該相対傾きの調整量に基づいて、当該相対傾きの調整で生じるパターン領域3aと対象領域5aとの並進ずれを求め、当該並進ずれが補正されるようにパターン領域3aと対象領域5aとを相対的に並進駆動する。パターン領域3aと対象領域5aとを相対的に並進駆動する駆動部としては、インプリントヘッド4および/またはステージ6が用いられうる。
【0058】
例えば、モールド3を傾ける際の回転中心とパターン領域3aとの距離を「Rm」とし、モールド3の傾きの調整量を「θm」とした場合、制御部19は、Rm×θmによりモールド3(パターン領域3a)の並進ずれ量を求めることができる。同様に、部材5を傾ける際の回転中心と対象領域5aとの距離を「Rs」とし、部材5の傾きの調整量を「θs」とした場合、制御部19は、Rs×θsにより部材5(対象領域5a)の並進ずれ量を求めることができる。これにより、制御部19は、モールド3の並進ずれ量と部材5の並進ずれ量とに基づいて、当該並進ずれが補正されるようにパターン領域3aと対象領域5aとを相対的に並進駆動することができる。このように、接触処理中において、パターン領域3aと対象領域5aとの相対傾きの調整によって生じる並進ずれ量を補正することにより、部材上のインプリント材にパターンを更に精度よく形成することができる。
【0059】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態にかかる物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品の製造方法は、部材(基板)上に供給(塗布)されたインプリント材に上記のインプリント装置(インプリント方法)を用いてパターンを形成する工程と、かかる工程でパターンが形成された部材(基板)を加工する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0060】
インプリント装置を用いて成形した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0061】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。部材(基板)の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0062】
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。
図8(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウェハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0063】
図8(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図8(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを通して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0064】
図8(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0065】
図8(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図8(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0066】
<その他の実施例>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0067】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0068】
1:インプリント装置、2:照射部、3:モールド、3a:パターン領域、4:インプリントヘッド、5:部材、5a:対象領域、8:第1計測部、9:第2計測部、19:制御部