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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】固定陽極X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/08 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
H01J35/08 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020092307
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021190217
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇之
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-005337(JP,A)
【文献】特開2012-124098(JP,A)
【文献】特開2013-051153(JP,A)
【文献】実開昭48-072870(JP,U)
【文献】実開昭57-101470(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を真空に保持する外囲器と、前記外囲器内に設けて熱電子の衝突によりX線を発生させる陽極と、前記外囲器内に設けて前記陽極に向けて前記熱電子を放出する陰極とを備える固定陽極X線管であって、
前記陽極は、前記熱電子を受けるターゲットと、前記ターゲットと異なる熱膨張係数の材質でできており且つ前記ターゲットを天面に保持する陽極本体とを有し、
前記陽極本体には、前記天面にターゲットを保持する凹部が形成されており、前記ターゲットは、その底面と外周面とを対向する前記凹部の底面と側面とに鋳造により接合されており且つ前記ターゲットの表面と前記陽極本体の天面とは面一であり、
前記陽極本体には、前記ターゲットから離れた位置で前記陽極本体の熱膨張による応力を緩和する応力緩和部が設けてあり、
前記応力緩和部は、前記陽極本体の天面において、ターゲットの外周側で且つターゲットの厚み方向の深さを有する溝である固定陽極X線管。
【請求項2】
前記溝は、前記天面において、前記ターゲットを囲む全周に亘って形成されている請求項1に記載の固定陽極X線管。
【請求項3】
前記応力緩和部は、更に前記陽極本体の側面の全周に亘って形成されている溝を含む請求項2に記載の固定陽極X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固定陽極X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線管は、電子を真空空間中に放出する陰極と、陰極との電位差により電子を急速に引き付ける陽極と、電子が飛行する空間を真空に保つための外囲器と、を備えており、陽極には、電子を衝突させてX線を放射させるためのターゲットが設けられている。ターゲットは陽極本体に保持されている。
【0003】
係る固定陽極X線管では、ターゲットは電子の衝突エネルギーにより非常に強く加熱されるため、融点の高い材質のものが用いられており、陽極本体には熱を逃すために熱伝導率の高い材質のものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-008943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ターゲットと陽極本体では、材質の相違から熱膨張率も異なり、ターゲットと陽極本体との間で熱膨張率の相違に基づく応力を受けることにより、ターゲットの剥離や隙間の発生が生じ、固定陽極X線管としての寿命が短くなるという不都合があった。
【0006】
本実施形態は、寿命を長くできる固定陽極X線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態は、内部を真空に保持する外囲器と、前記外囲器内に設けて熱電子の衝突によりX線を発生させる陽極と、前記外囲器内に設けて前記陽極に向けて前記熱電子を放出する陰極とを備える固定陽極X線管であって、前記陽極は、前記熱電子を受けるターゲットと、前記ターゲットと異なる熱膨張係数の材質でできており且つ前記ターゲットを天面に保持する陽極本体とを有し、前記陽極本体には、前記ターゲットから離れた位置で熱膨張による応力を緩和する応力緩和部が設けてある固定陽極X線管である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る固定陽極X線管の概略的構成を示す縦断面図である。
図2図2は、図1に示す陽極を拡大して示す縦断面図である。
図3図3は、図2に示す陽極の平面図である。
図4図4は、第2実施形態に係る固定陽極X線管の陽極を拡大して示す縦断面図である。
図5図5は、第3実施形態に係る固定陽極X線管の陽極を拡大して示す縦断面図である。
図6図6は、比較例に係る固定陽極X線管であって、熱膨張したときの陽極を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照しながら、一実施形態に係る固定陽極X線管について詳細に説明する。なお、図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べて、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
図1に示すように、固定陽極X線管1は、内部を真空に保持する外囲器3と、外囲器3内に設けた陰極5と、陽極7とを備えており、陽極7には、ターゲット9及びターゲット9を保持する陽極本体11が設けられている。
係る固定陽極X線管1では、陰極5から放出させた熱電子2をターゲット9に衝突させてX線を発生させる。
【0011】
図2及び図3に示すように、ターゲット9は、所定の厚みMを有する円盤状であるが、
ターゲット9の形状は、円盤形状に限らず、平面視多角形等の他の形状であっても良い。
【0012】
このターゲット9には、その表面9aに陰極5(図1参照)から放出され且つ収束された熱電子が衝突する実焦点Fが形成されている。
ターゲット9は、陽極本体11の天面11aに保持されている。天面11aは、陰極5に対向する面である。ターゲット9の表面9aと、陽極本体11の天面11aとは面一にしてある。
【0013】
図2に示すように、陽極本体11の天面11aには、ターゲット9を保持する凹部13が形成されている。ターゲット9は陽極本体11の凹部13に接合されている。ターゲット9の接合は、従来から知られている方法で接合されており、例えば、鋳造やロウ付け等により接合されている。
ターゲット9と陽極本体11との接合は、凹部13の底面13aと側面13bが接合面となって接合されている。
【0014】
陽極本体11には、ターゲット9から離れた位置に、応力緩和部15が設けられている。第1実施の形態では、応力緩和部15は、天面11aに形成された溝であり、溝はターゲット9の外周側で、ターゲット9の外周全体に亘って連続して形成されている。
応力緩和部15の深さHは、ターゲット9の厚みMよりも深くしてある。
応力緩和部15の溝は、陽極本体11の天面11aに治具で削り出して形成しても良いし、陽極本体11の鋳造時に型抜きにより形成しても良い。
【0015】
ここで、ターゲット9と陽極本体11の材質について説明する。
ターゲット9は、熱電子の衝突エネルギーにより、非常に強く加熱される。このときの熱負荷は、陽極負荷と呼ばれるが、この陽極負荷が加えられたときに実焦点F付近のターゲット材料が溶解しないよう、ターゲット9に適切な材料を選定するとともに、実焦点Fから陽極本体11を介して真空外気3の外部に向けて熱を素早く伝達して放熱し、実焦点Fの温度を低く保つ必要がある。
係る観点から、ターゲット9の材質は、融点の高いタングステンがよく用いられる。タングステンは熱伝導率が低いことから、陽極7をすべてタングステンとした場合は外囲器3の外部(管球外部)に熱を素早く伝達することができない。陽極7のうち実焦点Fからある程度離れた場所は比較的温度が高くならないことから、融点が低い代わりに熱伝導率の高い銅が陽極本体11に用いられることが好ましい。
【0016】
また、陽極本体11とターゲット9とは、ターゲット9のタングステンから陽極本体11の銅に熱を伝達することから、ターゲット9と陽極本体11との間は隙間なく接合されたうえで、その状態が維持される必要がある。
一方、熱膨張率は、タングステンよりも銅の方が大きい。
したがって、実施形態では、ターゲット9にはタングステンが用いられ、陽極本体11には、銅が用いられる。そして、ターゲット9と陽極本体11との熱膨張率の違いにより生じる応力は、応力緩和部15により、以下のように、緩和される。
【0017】
次に、応力緩和部15の作用効果について説明する。
図6に比較例を示すように、応力緩和部15が無い場合には、陽極本体11が熱膨張した場合には、熱膨張前の状態を二点鎖線で示す形状から、熱膨張後の状態を実線で示すように、ターゲット9及び陽極本体11が熱膨張するが、陽極本体11がターゲット9よりも大きく膨張し、膨張率の差から凹部13における底面(接合面)13a及び側面(接合面)13bには、応力が印加される。
特に、短時間で陽極負荷と冷却が繰り返しながら使用されると(熱サイクル)、陽極本体11とターゲット9の膨張による応力の印加と緩和が繰り返されることで、陽極本体11とターゲット9の接合面である底面13a及び側面13bが破壊され、ターゲット9から陽極本体11への熱伝達が不十分となり、固定陽極X線管1が使用不能になるおそれがある。
【0018】
これに対して、図2及び図3に示すように、本実施形態では、陽極本体11には、応力緩和部15が設けてあり、陽極本体11とターゲット9との熱膨張差により生じる応力は、応力緩和部15に逃がすことができるので、換言すれば、陽極本体11の変形を応力緩和部で吸収するので、陽極本体11に対するターゲット9の引き剥がされや隙間の発生を防止できる。これにより、固定陽極X線管1の寿命を長くすることができる。
【0019】
特に、熱膨張率の大きい陽極本体11に応力緩和部15を形成することで凹部13における、ターゲット9との接合面(底面及び側面)13a、13bに与える影響を小さくすることができる。
【0020】
応力緩和部15は、溝であるから、応力緩和部15の形成が容易にできる。
応力緩和部15は、ターゲット9の周囲に亘って形成しているから、ターゲットの周囲全体に亘って万遍なく応力を緩和することができる。
応力緩和部15の深さHは、ターゲット9の厚みMよりも深くしてあるから、ターゲット9の厚み方向全体に亘る応力の緩和も図ることができる。
【0021】
以下に、他の実施形態について説明するが、以下に説明する他の実施形態において、上述した第1実施形態と同一の作用効果を奏する部分には、同一の符号を付することにより、その部分の詳細な説明を省略し、以下の説明では、第1実施形態と主に異なる点について説明する。
図4に第2実施形態に係る陽極7を示す。この第2実施形態では、応力緩和部15は、陽極本体11の側面11bに形成したことが、第1実施形態と異なっている。
応力緩和部15は第1実施形態と同様に溝であり、陽極本体11の側面11bの周方向全体に亘って連続して形成されている。
また、応力緩和部15、ターゲット9の厚M方向において、ターゲット9を保持する凹部13の底面13aから離れた位置に形成されている。また、応力緩和部15の深さHは、側面13bから凹部13の側面13bまでの寸法よりも短い深さで形成されている。
この第2実施形態においても、陽極本体11とターゲット9との熱膨張差により陽極本体11に生じる応力は、陽極本体11に形成した応力緩和部15で緩和するので、上述した第1実施形態と同一の作用効果を奏することができる。
【0022】
図5に第3実施形態に係る陽極7を示す。この第3実施形態では、第1実施形態と同様に、陽極本体11の天面11aに応力緩和部15を形成すると共に、第2実施形態と同様に陽極本体11の側面11bに応力緩和部15を形成したものである。即ち、第3実施形態では、陽極本体11の天面11aにおいてターゲット9の外周に周方向に連続した応力緩和部15と、陽極本体11の側面で、ターゲット9の下方位置で陽極本体11の周方向に亘る応力緩和部15を形成している。
この第3実施の形態では、陽極本体11の天面11aと側面11bとに応力緩和部15を形成しているから、上述した第1及び第2実施形態よりも、陽極本体11に作用する応力を更に緩和することができる。
【0023】
上述した一実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、応力緩和部15は連続した溝に限らず、不連続な溝や、列状に形成した凹みや孔であっても良い。
【符号の説明】
【0024】
1…固定陽極X線管、3…外囲器、5…陰極、7…陽極、9…ターゲット、11…陽極本体、11a…天面、11b…側面、15…応力緩和部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6