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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】走行支援方法及び走行支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/045 20120101AFI20240109BHJP
   B60W 40/072 20120101ALI20240109BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20240109BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240109BHJP
【FI】
B60W30/045
B60W40/072
B60W40/114
B60W60/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020097076
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021187398
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄哉
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-052834(JP,A)
【文献】特開2009-229412(JP,A)
【文献】特開2008-285066(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0237001(US,A1)
【文献】特開2014-069766(JP,A)
【文献】特開2021-075119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の運転者の操作入力と前記自車両の自動運転制御からの指示入力との少なくとも一方に基づいた前記自車両の車両運動となるように旋回制御を実行するコントローラの走行制御方法において、前記コントローラは、
前記自車両の車両運動モデルに基づいて前記旋回制御の前記自車両に発生させる目標ヨーレイトに対して前記自車両に実際に発生する実ヨーレイトの位相遅れを抑制する第1ヨー慣性モーメントを算出し、
前記自車両が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得し、
前記道路形状が、曲率が変化する過渡形状であるか否かを判定し、
前記道路形状が過渡形状である場合に、前記旋回制御の目標ヨー角加速度と前記第1ヨー慣性モーメントとに応じて前記自車両に発生させる目標ヨーモーメントを算出し、
前記自車両を前記目標ヨーモーメントに基づいて旋回制御する、
ことを特徴とする走行支援方法。
【請求項2】
前記自車両の車速と、前記自車両の車輪のコーナリングスティフネスと、に応じて前記第1ヨー慣性モーメントを算出することを特徴とする請求項1に記載の走行支援方法。
【請求項3】
前記自車両の後輪操舵の有無に応じて前記第1ヨー慣性モーメントを算出することを特徴とする請求項2に記載の走行支援方法。
【請求項4】
前記道路形状の曲率分布の歪度に応じて、前記道路形状が前記過渡形状であるか否かを判定する、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の走行支援方法。
【請求項5】
前記道路形状が前記過渡形状である度合いを表す過渡形状係数を算出し、
前記過渡形状係数により重み付けされた前記第1ヨー慣性モーメントに応じて、前記目標ヨーモーメントを算出する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の走行支援方法。
【請求項6】
前記道路形状の曲率分布の歪度に応じて、前記過渡形状係数を算出する、ことを特徴とする請求項5に記載の走行支援方法。
【請求項7】
前記目標ヨーレイトに対する前記実ヨーレイトの周波数応答のピークゲインを抑制する第2ヨー慣性モーメントを算出し、
前記道路形状が、曲率が変化しない定常形状であるか否かを判定し、
前記道路形状が定常形状である場合に、前記旋回制御の目標ヨー角加速度と前記第2ヨー慣性モーメントとに応じて前記目標ヨーモーメントを算出する、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の走行支援方法。
【請求項8】
前記道路形状が前記定常形状である度合いを表す定常形状係数を算出し、
前記定常形状係数により重み付けされた前記第2ヨー慣性モーメントに応じて、前記目標ヨーモーメントを算出する、
ことを特徴とする請求項7に記載の走行支援方法。
【請求項9】
自車両の操向輪を操舵する操舵装置と、
前記自車両の車輪に駆動力を付与する駆動装置と、
前記車輪に制動力を付与する制動装置と、
前記自車両の運転者の操作入力と前記自車両の自動運転制御からの指示入力との少なくとも一方に基づいた 前記自車両の車両運動となるように旋回制御を実行するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記自車両の車両運動モデルに基づいて前記旋回制御の前記自車両に発生させる目標ヨーレイトに対して前記自車両に実際に発生する実ヨーレイトの位相遅れを抑制する第1ヨー慣性モーメントを算出し、前記自車両が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得し、前記道路形状が、曲率が変化する過渡形状であるか否かを判定し、前記道路形状が過渡形状である場合に、前記旋回制御の目標ヨー角加速度と前記第1ヨー慣性モーメントとに応じて前記自車両に発生させる目標ヨーモーメントを算出し、前記自車両を前記目標ヨーモーメントに基づいて、前記操舵装置による前記操向輪の操舵、前記駆動装置により前記車輪に付与する駆動力、又は前記制動装置により前記車輪に付与する制動力を制御して旋回制御することを特徴とする走行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行支援方法及び走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、スタビリティファクター等の状態量によって可変化された目標ヨーレイトを演算し、目標ヨーレイトと実ヨーレイトとの偏差が大きい場合に、車両を安定化させるヨーモーメント量を算出して、各輪のブレーキを作動させる車両運動制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/136189号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、車両挙動が不安定になった場合にヨーレイトを補正できる。しかしながら、不安定な車両挙動の誘発を抑制するように車両を旋回させることはできない。
本発明は、車両の旋回時における不安定な車両挙動の誘発を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、自車両の運転者の操作入力と自車両の自動運転制御からの指示入力との少なくとも一方に基づいた自車両の車両運動となるように旋回制御を実行するコントローラの走行制御方法が与えられる。コントローラは、自車両の車両運動モデルに基づいて旋回制御の自車両に発生させる目標ヨーレイトに対して自車両に実際に発生する実ヨーレイトの位相遅れを抑制する第1ヨー慣性モーメントを算出し、自車両が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得し、道路形状が、曲率が変化する過渡形状であるか否かを判定し、道路形状が過渡形状である場合に、旋回制御の目標ヨー角加速度と第1ヨー慣性モーメントとに応じて自車両に発生させる目標ヨーモーメントを算出し、自車両を目標ヨーモーメントに基づいて旋回制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両の旋回時における不安定な車両挙動の誘発を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の走行支援装置の概略構成図である。
図2】実施形態の走行支援装置による自動運転制御のアーキテクチャの一例の説明図である。
図3】実施形態の走行支援装置の自動運転制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4】ヨーレイトの周波数応答のボード線図の一例の説明図である。
図5】実施形態の走行支援装置の車両制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図6図5に示す車両制御部の道路形状判定部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図7】実施形態の走行支援方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(構成)
図1を参照する。自車両1は、自車両1の走行支援を行う走行支援装置10を備える。走行支援装置10による走行支援には、自車両1の周辺の走行環境に基づいて、運転者が関与せずに自車両1を自動で運転する自動運転制御や、運転者による自車両1の運転を支援する運転支援制御を含んでよい。
運転支援制御には、自動操舵、自動ブレーキ、定速走行制御、車線維持制御、合流支援制御など、自車両1の操舵装置、駆動装置、制動装置の少なくとも一つを制御する走行制御を含んでよい。
【0010】
走行支援装置10は、物体センサ11と、車両センサ12と、測位装置13と、地図データベース14と、ナビゲーション装置15と、通信装置16と、コントローラ17と、アクチュエータ18とを備える。図面において地図データベースを「地図DB」と表記する。
物体センサ11は、自車両の周囲の物体を検出する。物体センサ11は、自車両1に搭載されたレーザレーダやミリ波レーダ、カメラ、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)など、自車両1の周辺の物体を検出する複数の異なる種類の物体検出センサを備える。
【0011】
車両センサ12は、自車両1に搭載され、自車両1から得られる様々な情報(車両信号)を検出する。車両センサ12には、例えば、自車両1の走行速度(車速)を検出する車速センサ、自車両1が備える各タイヤの回転速度や回転量を検出する車輪センサ、自車両1の3軸方向の加速度(減速度を含む)を検出する3軸加速度センサ(Gセンサ)、操舵角(転舵角を含む)を検出する操舵角センサ、自車両1に生じる角速度を検出するジャイロセンサ、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ、自車両1のアクセル開度を検出するアクセルセンサと、運転者によるブレーキ操作量を検出するブレーキセンサが含まれる。
【0012】
測位装置13は、全地球型測位システム(GNSS)受信機を備え、複数の航法衛星から電波を受信して自車両1の現在位置を測定する。GNSS受信機は、例えば地球測位システム(GPS)受信機等であってよい。測位装置13は、例えば慣性航法装置であってもよい。
【0013】
地図データベース14は、自動運転用の地図として好適な高精度地図データ(以下、単に「高精度地図」という。)を記憶してよい。高精度地図は、ナビゲーション用の地図データ(以下、単に「ナビ地図」という。)よりも高精度の地図データであり、道路単位の情報よりも詳細な車線単位の情報を含む。
【0014】
例えば、高精度地図は車線単位の情報として、車線基準線(例えば車線内の中央の線)上の基準点を示す車線ノードの情報と、車線ノード間の車線の区間態様を示す車線リンクの情報を含む。
車線ノードの情報は、その車線ノードの識別番号、位置座標、接続される車線リンク数、接続される車線リンクの識別番号を含む。車線リンクの情報は、その車線リンクの識別番号、車線の幅員、車線境界線の種類、車線の形状、車線区分線の形状、車線基準線の形状を含む。
【0015】
高精度地図は、車線単位のノード及びリンク情報を含むため、走行ルートにおいて自車両1が走行する車線を特定可能である。高精度地図は、車線の延伸方向及び幅方向における位置を表現可能な座標を有する。高精度地図は、3次元空間における位置を表現可能な座標(例えば経度、緯度及び高度)を有し、車線や上記地物は3次元空間における形状として記述されてもよい。
【0016】
ナビゲーション装置15は、測位装置13等により自車両1の現在位置を認識する。ナビゲーション装置15は、認識した現在位置に基づいて、自車両1の周囲の道路情報や交通情報を取得し、コントローラ17に出力する。また、ナビゲーション装置15は、乗員に対して経路案内を行い、また道路情報、交通情報を提供する。
通信装置16は、自車両1の外部の通信装置との間で無線通信を行う。通信装置16による通信方式は、例えば公衆携帯電話網による無線通信や、車車間通信、路車間通信、又は衛星通信であってよい。
【0017】
コントローラ17は、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含み、自車両1の走行支援制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置や、磁気記憶装置、光学記憶装置等を備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
コントローラ17のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより、コントローラ17は、自動運転制御部20、入力仲裁部21及び車両制御部22として機能する。自動運転制御部20、入力仲裁部21及び車両制御部22の機能については後述する。
【0018】
なお、コントローラ17を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラは、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラはフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0019】
アクチュエータ18は、コントローラ17からの制御信号に応じて、自車両1の操舵装置と、駆動装置と制動装置を操作して、自車両1の車両挙動を発生させる。アクチュエータ18は、操舵アクチュエータと、アクセル開度アクチュエータと、ブレーキ制御アクチュエータを備える。
操舵アクチュエータは、自車両1の操向輪の操舵方向及び操舵量を制御する。
【0020】
操舵アクチュエータは、例えば、電動パワーステアリングシステムにおいて操舵補助力を付与する操舵補助モータであってもよく、ステアリングホイールと操向輪とが機械的に分離されたステアリングバイワイヤシステムにおいて操向輪を操舵する操舵モータであってもよい。
アクセル開度アクチュエータは、自車両1の駆動力を発生させる動力源である駆動装置(例えばエンジン、電動機)のアクセル開度を制御する。ブレーキ制御アクチュエータは、自車両1の制動装置の制動動作を制御する。
【0021】
次に、実施形態の走行支援装置10による走行支援制御の一例を説明する。図2は、走行支援装置による自動運転制御のアーキテクチャの一例を示す。自動運転制御は、自動運転レイヤ(AD Layer)30と、仲裁部(Arbitration)31と、規範モデル部(Reference Model)32と、車体挙動制御部(Body Motion Control)33と、車輪挙動制御部(Wheel Motion Control)34と、上述のアクチュエータ18によって実行される。
自動運転レイヤ30は、自車両1の目的地を設定し、自車両1の現在位置から目的地までの走行経路を設定する。
【0022】
自動運転レイヤ30は、走行経路を走行する自車両1の目標走行軌道と目標速度プロファイルとを、自動運転レイヤ30からの指示入力である自動運転入力(AD入力)として生成する。
仲裁部31は、運転者によるステアリングホイール、アクセル及びブレーキの操作入力である手動運転入力(MD入力)と、自動運転レイヤ30からの自動運転入力とを仲裁し、自車両1が行うべき車両運動を設定する。
【0023】
規範モデル部32は、仲裁部31が設定した車両運動を自車両1が実現するための自車両1の車体挙動を計算するために用いる車両運動モデルのパラメータ(例えばヨー慣性モーメント、車輪のコーナリングスティフネス等)を設定する。
車体挙動制御部33は、規範モデル部32によって設定された車両運動モデルに基づいて、仲裁部31が設定した車両運動を実現するための車体挙動(例えば、車速、加減速、ヨーレイト、ヨー角加速度、ヨーモーメント等)を算出する。
【0024】
車輪挙動制御部34は、車体挙動制御部33が算出した車体挙動を自車両1に発生させるための車輪の制御量(操舵角、制動量、駆動量等)を算出し、アクチュエータ18により車輪挙動を制御する。
例えば、自動運転レイヤ30の機能は、図1に示す自動運転制御部20が担い、仲裁部31の機能は入力仲裁部21が担い、規範モデル部32、車体挙動制御部33及び車輪挙動制御部34の機能は、車両制御部22が担ってよい。
【0025】
次に、図3を参照して自動運転制御部20の機能構成の一例を説明する。自動運転制御部20は、定位部(Localization)40と、目的地設定部41(Destination Setting)と、経路計画部(Route Planning)42と、行動決定部(Decision Making)43と、運転ゾーン計画部(Drive Zone Planning)44と、軌道生成部(Trajectory)45を備える。
【0026】
定位部40は、物体センサ11の検出信号に基づいて自車両1の周囲環境を認識する。定位部40は、認識結果と地図データベース14の高精度地図との間のマップマッチングにより、高精度地図上の自車両1の現在位置を判断する。
また、周囲環境の認識結果に基づいて、自車両1の周囲環境のモデルであるローカルモデル(Local Model)47が生成される。さらに、ローカルモデル47と、高精度地図と、ナビゲーション装置15の道路情報や交通情報とを融合することによって、ワールドモデル(World Model)46が生成される。
【0027】
目的地設定部41は、ナビゲーション装置15を介した運転者の操作入力に基づいて自車両1の目的地を設定する。
経路計画部42は、ナビゲーション装置15の道路情報に基づいて、現在位置から目的地までの予定走行経路を演算する。
行動決定部43は、周囲環境の認識結果と、自車両1の現在位置と、ワールドモデル46と、予定走行経路とに基づいて、走行支援装置10により実行する自車両1の運転行動計画を決定する。
【0028】
運転行動には、例えば、自車両1の停止、一時停止、走行速度、減速、加速、進路変更、右折、左折、直進、合流区間や複数車線における車線変更、車線維持、追越、障害物への対応などの行動が含まれる。
行動決定部43は、自車両1の現在位置及び姿勢と、自車両1の周囲環境と、ワールドモデル46とに基づいて、自車両1の運転行動計画を生成する。
【0029】
運転ゾーン計画部44は、生成した運転行動計画と、自車両1の運動特性、ローカルモデル47に基づいて、自車両1を走行させることができる領域である運転ゾーンを算出する。
軌道生成部45は、運転ゾーン計画部44が算出した運転ゾーン内を自車両1が走行するように、自車両1の目標走行軌道と目標速度プロファイルを生成する。
【0030】
図1を参照する。入力仲裁部21は、自動運転制御部20が設定した目標走行軌道及び目標速度プロファイルの自動運転入力と運転者による手動運転入力とを仲裁して、自車両1が行うべき車両運動を設定する。
車両制御部22は、入力仲裁部21により設定された車両運動を実現するように自車両1の挙動を制御する。
【0031】
ここで、入力仲裁部21により設定された車両運動に旋回運動が含まれる場合には、自車両1の旋回運動特性が、安定した旋回運動に適した特性を有することが好ましい。
一般に、不安定になり易い制御対象の特徴として、以下の特徴(1)及び特徴(2)が挙げられる。
【0032】
(1)周波数応答における共振周波数帯のゲイン(すなわちピークゲイン)が過大である。
(2)遮断周波数が低すぎて、位相遅れが発生しやすい。
【0033】
自車両1の旋回運動の場合、安定性に影響を与えるのは、ヨーレイトの周波数応答(すなわち、目標ヨーレイトに対する実ヨーレイトの周波数応答)である。図4にヨーレイトの周波数応答のボード線図の一例を示す。
なお、目標ヨーレイトとは、特定の目標走行軌道に追従して走行するために自車両1に発生させるヨーレイトの目標値をいう。実ヨーレイトとは、目標ヨーレイトを実現する旋回制御を行った結果、実際に自車両1に発生するヨーレイトをいう。
【0034】
自車両1の旋回制御中に車両挙動が不安定になりやすいのは、例えば、自車両1の車速が高い場合や、スリップ角に対するコーナリングフォースの非線形性が増加した場合(すなわち摩擦限界に近付いた場合)である。後輪操舵が行われると、これらの場合において更に不安定になりやすい。
【0035】
そこで、実施形態の車両制御部22は、自車両1の車速、車輪のコーナリングスティフネス、後輪操舵の有無等に応じて、ヨーレイトの周波数応答の共振周波数ω付近の共振周波数帯におけるピークゲインGを抑制する。
具体的には、自車両1の目標ヨーモーメントの算出に使用される車両運動モデルのパラメータであるヨー慣性モーメントI の値を調整することによりピークゲインGを抑制する。
【0036】
また、実施形態の車両制御部22は、自車両1の車速、車輪のコーナリングスティフネス、後輪操舵の有無等に応じて、自車両1の旋回制御が行われる周波数(すなわち旋回制御の制御周期の逆数)ωκ付近の周波数帯50における位相遅れを抑制する。
具体的には、ヨー慣性モーメントI の値を調整することにより周波数ωκ付近における位相遅れを抑制する。
【0037】
なお、自車両1がこれから走行する予定の道路の道路形状が、曲率が殆ど変化しない形状(以下「定常形状」と表記する)である場合には、ヨーレイトの周波数応答に位相遅れが発生しても自車両1の旋回運動に影響を与えにくい。むしろ、ピークゲインGが過大であると、実ヨーレイトが大きくなって挙動が変化してしまうことがある。
一方で、自車両1がこれから走行する予定の道路の道路形状が、曲率が変化する形状(以下「過渡形状」と表記する)である場合には、位相遅れがあると目標走行軌道への追従性能が低下する。
【0038】
そこで、車両制御部22は、自車両1がこれから走行する予定の道路の道路形状が定常形状であるか否かを判定し、道路形状が定常形状である場合には、ピークゲインGpを抑制するピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg を算出する。
また、車両制御部22は、自車両1がこれから走行する予定の道路の道路形状が過渡領域であるか否かを判定し、道路形状が過渡形状である場合には、位相遅れを抑制する位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp を算出する。
【0039】
このようにヨー慣性モーメントI の値を調整することにより、自車両1の旋回制御が不安定になりにくいように、自車両1の旋回運動の特性を予め最適化しておくことができる。
これにより、自車両1の旋回時における不安定な車両挙動の誘発を抑制することができる。
なお、ピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg 及び位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp は、それぞれ特許請求の範囲に記載の「第2ヨー慣性モーメント」及び「第1ヨー慣性モーメント」の一例である。
【0040】
次に、図5を参照して実施形態の車両制御部22の機能構成の一例を説明する。車両制御部22は、目標ヨー角加速度算出部50と、目標ヨーレイト算出部51と、ピークゲイン抑制ヨー慣性モーメント算出部52と、位相遅れ抑制ヨー慣性モーメント算出部53と、道路形状判定部54と、乗算器55、56及び58と、加算器57と、目標横力算出部59と、操舵角算出部60を備える。
【0041】
車両制御部22は、入力仲裁部21から要求された自車両1の車両運動に基づいて、自車両1を旋回させるための目標横力Fを設定する。
目標ヨー角加速度算出部50と、目標ヨーレイト算出部51は、目標横力Fに基づいて、自車両1に発生させるヨー角加速度の目標値である目標ヨー角加速度γ’と、ヨーレイトの目標値である目標ヨーレイトγとを算出する。
【0042】
ピークゲイン抑制ヨー慣性モーメント算出部52は、自車両1の車速Vと、前輪及び後輪のコーナリングスティフネスC 及びC と、自車両1の後輪操舵の有無等と、に応じて、ピークゲインGを抑制するためのピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg を算出する。
いま、四輪操舵が行われる場合(すなわち後輪操舵が行われる場合)の目標ヨーレイトγに対する実ヨーレイトγrの伝達関数は次式(1)により与えられる。
【0043】
【数1】
【0044】
なお、上付きのスター記号「*」が付された変数は、車両制御部22により設定可能なパラメータであることを示し、上付きのスター記号「*」が付されていない変数は物理的な状態量を示す。
記号lは自車両1のホイールベースであり、記号Aはスタビリティファクターであり、記号sはラプラス変数である。
記号Trはヨーレイトのリード時定数であり、次式(2)により与えられる。
【0045】
【数2】
【0046】
記号mは自車両1の質量であり、記号lは車両重心点と前輪車軸間の距離である。
また、式(1)の関数D(s)は次式(3)により与えられる。
【0047】
【数3】
【0048】
記号ω及び記号ζは、それぞれ共振周波数と減衰係数であり、それぞれ次式(4)及び(5)により与えられる。記号lは車両重心点と後輪車軸間の距離である。
【0049】
【数4】
【0050】
ここで、上式(1)中の成分
【0051】
【数5】
【0052】
を以下のようにfTRA とおいて「過渡特性」と呼ぶ。
【0053】
【数6】
【0054】
すると、ピークゲイン|G(jω)|は、過渡特性fTRA を用いて次式(7)により与えられる。次式(7)を過渡特性fTRA について解くと次式(8)が得られる。
【0055】
【数7】
【0056】
したがって、式(8)のピークゲイン|G(jω)|を十分小さな値に設定することにより、ピークゲイン|G(jω)|を抑制する過渡特性fTRA を設定できる。例えば、ピークゲイン|G(jω)|を1倍(すなわち0[dB])に抑制する過渡特性fTRA は、次式(9)により得られる。
【0057】
【数8】
【0058】
上式(6)をヨー慣性モーメントI について解いて次式(10)を得て、ピークゲイン|G(jω)|を抑制する過渡特性fTRA を代入すると、ピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg を算出できる。
【0059】
【数9】
【0060】
また、二輪操舵が行われる場合(すなわち後輪操舵が行われない場合)のピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg は、ピークゲイン|G(jω)|を抑制する過渡特性fTRA を次式(11)に代入することにより算出できる。
【0061】
【数10】
【0062】
次に、位相遅れ抑制ヨー慣性モーメント算出部53は、自車両1の車速Vと、前輪及び後輪のコーナリングスティフネスC 及びC と、自車両1の後輪操舵の有無等と、に応じて、自車両1の旋回制御が行われる周波数ωκ付近の位相遅れを抑制するための位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp を算出する。
周波数ωにおける位相遅れは、次式(12)について得られる。
【0063】
【数11】
【0064】
ここでは、自車両1の旋回制御が行われる周波数ωκにおける位相遅れθ(ωκ)を、次式(13)のように抑制することを考える。
θmin<θ(ωκ)<θmax …(13)
但し、θmax=+κ|θ(ω)|、θmin=-κ|θ(ω)|であり、θ(ω)は共振周波数での位相遅れであり、κは1未満の定数である。例えば、κが0.1である場合には、旋回制御が行われる周波数ωκにおける位相遅れθ(ωκ)を、共振周波数における位相遅れθ(ω)の10分の1程度に抑制する。
【0065】
上式(13)に上式(12)を代入して、過渡特性fTRA について解くと次式(14)が得られる。次式(14)は、自車両1の旋回制御が行われる周波数ωκにおける位相遅れθ(ωκ)を抑制する過渡特性fTRA の範囲を定める。
【0066】
【数12】
【0067】
位相遅れ抑制ヨー慣性モーメント算出部53は、上式(14)を満たす過渡特性fTRA を設定し、次式(15)に代入することにより、四輪操舵が行われる場合(すなわち後輪操舵が行われる場合)の位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp を算出する。
【0068】
【数13】
【0069】
また、位相遅れ抑制ヨー慣性モーメント算出部53は、上式(14)を満たす過渡特性fTRA を次式(16)に代入することにより、二輪操舵が行われる場合(すなわち後輪操舵が行われない場合)の位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp を算出する。
【0070】
【数14】
【0071】
道路形状判定部54は、自車両1がこれから走行する予定の道路の曲率の情報である道路曲率情報に基づいて、自車両1がこれから走行する予定の道路の道路形状が、曲率が変化しない定常形状であるか、曲率が変化する過渡形状であるかを判定する。
道路形状判定部54は、道路形状が定常形状である度合いを表す定常形状係数Kと道路形状が過渡形状である度合いを表す過渡形状係数Kとを算出する。定常形状係数K及び過渡形状係数Kは、0~1の範囲の値を有する正規化された係数であり、K=(1-K)の関係を有する。
【0072】
図6を参照する。道路形状判定部54は、道路曲率情報として、自車両1がこれから走行する予定の道路の曲率の標準偏差RhoStdと、左最大曲率RhoMaxと、右最大曲率RhoMinと、歪度SQNを入力する。
左最大曲率RhoMaxは、自車両1がこれから走行する予定の道路の左カーブの最大曲率である。右最大曲率RhoMinは、自車両1がこれから走行する予定の道路の右カーブの最大曲率である。
【0073】
標準偏差RhoStdは、自車両1がこれから走行する予定の道路上の各点における曲率を集めた集合の分布である曲率分布の標準偏差であり、歪度SQNは曲率分布の歪度である。
歪度は、曲率分布が正規分布からどれだけ逸脱しているかを表し、歪度が大きいほど道路形状が過渡形状に近くなり、歪度が小さいほど道路形状が定常形状に近くなる。
道路形状判定部54は、基準曲率算出部70と、有次元化71と、曲率成分変換部72と、係数演算部73を備える。
【0074】
基準曲率算出部70は、自車両1の走行シーンを判定する際に基準とする基準曲率RhoRefを次式(17)に基づき算出する。
RhoRef=KPTC・Gmax・g/V …(17)
記号KPTCは、ベースゲインであり、記号Gmaxは自動運転レイヤ30に設定された最大許容横加速度であり、記号gは重力加速度である。
【0075】
有次元化71は、無次元量である歪度SQNを、標準偏差RhoStdと、左最大曲率RhoMaxと、右最大曲率RhoMinとに基づいて、曲率と同じ単位を有する値RhoSQNに有次元化する。例えば、有次元化71は、次式(18)~(20)に基づき歪度SQNを有次元化してよい。
RhoSQN=3・RhoStd・|sign(RhoMax)|・max(SQN,0) …(18)
RhoSQN=3・RhoStd・|sign(RhoMin)|・min(SQN,0) …(19)
RhoSQN=RhoSQN+RhoSQN …(20)
【0076】
曲率成分変換部72は、有次元化された歪度RhoSQNと、標準偏差RhoStdとが0~1の範囲の値を有するように、基準曲率RhoRefを用いて正規化する(無次元化する)。
例えば、曲率成分変換部72は、次式(21)及び(22)に基づいて、歪度RhoSQNを正規化した正規化歪度NormRhoSQNと標準偏差RhoStdを正規化した正規化標準偏差NormRhoStdを算出する。
NormRhoSQN=RhoSQN/RhoRef …(21)
NormRhoStd=RhoStd/RhoRef …(22)
【0077】
係数演算部73は、正規化歪度NormRhoSQNと正規化標準偏差NormRhoStdに基づき、次式(23)及び(24)に従って定常形状係数K及び過渡形状係数Kを算出する。
=max(NormRhoSQN,NormRhoStd)…(23)
=1-K …(24)
【0078】
図5を参照する、乗算器55及び56と加算器57は、定常形状係数K及び過渡形状係数Kとで、ピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg と位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp とをそれぞれ重み付けした重み付け和を、ヨー慣性モーメントI として算出する。
=K×Izg +K×Izp
【0079】
乗算器58は、ヨー慣性モーメントI を目標ヨー角加速度γ’に乗算することにより目標ヨーモーメントMを算出する。
目標横力算出部59は、目標横力Fと目標ヨーモーメントMとを自車両1に付与するのに要する目標前輪横力Fyf及び目標後輪横力Fyrを算出する。例えば、自車両1の車両運動モデルに基づいて、目標前輪横力Fyf及び目標後輪横力Fyrを算出してよい。
【0080】
操舵角算出部60は、目標前輪横力Fyf及び目標後輪横力Fyrと、目標ヨーレイトγと、目標スリップ角θstに基づいて、前輪の目標操舵角θ及び後輪の目標操舵角θを算出する。アクチュエータ18に含まれる操舵アクチュエータは、自車両1の前輪及び後輪の操舵角がそれぞれ目標操舵角θ、θとなるように、前輪及び後輪を操舵する。
なお、前輪及び後輪を操舵するのに加えて又は変えて、目標前輪横力Fyf及び目標後輪横力Fyrをそれぞれ発生させる前輪及び後輪の制動力及び/駆動力を算出してもよい。アクチュエータ18に含まれるブレーキ制御アクチュエータ及び/又はアクセル開度アクチュエータは、目標前輪横力Fyf及び目標後輪横力Fyrをそれぞれ発生させるように制動装置及び駆動装置を制御してもよい。
【0081】
(動作)
次に、図7を参照して、実施形態の車両走行支援方法の一例を説明する。
ステップS1において目標ヨー角加速度算出部50は、自車両1に発生させる目標ヨー角加速度γ’を設定する。
ステップS2においてピークゲイン抑制ヨー慣性モーメント算出部52は、ピークゲインGを抑制するためのピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg を算出する。
【0082】
ステップS3において位相遅れ抑制ヨー慣性モーメント算出部53は、自車両1の旋回制御が行われる周波数ωκにおける位相遅れθ(ωκ)を抑制するための位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp を算出する。
ステップS4において道路形状判定部54は、自車両1が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得する。
【0083】
ステップS5において道路形状判定部54は、道路形状が定常形状である度合いを表す定常形状係数Kを算出する。
ステップS6において道路形状判定部54は、道路形状が過渡形状である度合いを表す過渡形状係数Kを算出する。
ステップS7において乗算器55及び56と加算器57は、定常形状係数K及び過渡形状係数Kとで、ピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg と位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp とをそれぞれ重み付けした重み付け和を、ヨー慣性モーメントI として算出する。
【0084】
ステップS8において乗算器58は、ヨー慣性モーメントI を目標ヨー角加速度γ’に乗算することにより目標ヨーモーメントMを算出する。
ステップS9において目標横力算出部59と操舵角算出部60とアクチュエータ18は、目標ヨーモーメントMに基づいて自車両1を旋回させる。
その後に処理は終了する。
【0085】
(実施形態の効果)
(1)目標ヨー角加速度算出部50は、自車両1に発生させる目標ヨー角加速度を設定する。位相遅れ抑制ヨー慣性モーメント算出部53は、自車両1の旋回制御の周波数ωκにおける、自車両1に発生させる目標ヨーレイトγに対して自車両1に実際に生じる実ヨーレイトγの位相遅れを抑制する位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp を算出する。道路形状判定部54は、自車両1が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得して、道路形状が、曲率が変化する過渡形状であるか否かを判定する。
【0086】
道路形状が過渡形状である場合に、乗算器55、56及び58と加算器57とは、目標ヨー角加速度γ’と位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp とに応じて自車両1に発生させる目標ヨーモーメントMを算出する。
目標横力算出部59と操舵角算出部60とアクチュエータ18は、目標ヨーモーメントMに基づいて自車両1を旋回させる。
【0087】
これにより、走行支援制御系の制御周期での位相遅れを抑制できるため、上流の走行支援系である自動運転レイヤ30が立案した計画、戦略(軌跡等)に対して、誤差や遅れを抑制した制御ができるようになる。この結果、ヨーレイトの周波数応答の位相遅れによって車両挙動が不安定になるのを抑制できる。
【0088】
(2)位相遅れ抑制ヨー慣性モーメント算出部53は、自車両1の車速と、自車両1の車輪のコーナリングスティフネスと、応じて位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp を算出してもよい。
車両挙動が不安定になりやすいのは自車両1の車速が上昇した場合や、スリップ角に対するコーナリングフォースの非線形性が増加した場合である。車速とコーナリングスティフネスとに応じて位相遅れを抑制することにより、車両挙動が不安定になるのを抑制できる。
【0089】
(3)位相遅れ抑制ヨー慣性モーメント算出部53は、自車両1の後輪操舵の有無に応じて位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp を算出してもよい。
後輪操舵を実行している場合には、車速の上昇やスリップ角に対するコーナリングフォースの非線形性によって更に車両挙動が不安定になりやすい。後輪操舵の有無に応じて位相遅れを抑制することにより、車両挙動が不安定になるのを抑制できる。
【0090】
(4)道路形状判定部54は、道路形状の曲率分布の歪度に応じて、道路形状が過渡形状であるか否かを判定してもよい。
これにより、地図データベース14の地図情報や、物体センサ11で得られた道路形状の曲率情報により、道路形状が過渡形状であるか否かを判定できる。
【0091】
(5)道路形状判定部54は、道路形状が過渡形状である度合いを表す過渡形状係数Kを算出してもよい。乗算器55、56及び58と加算器57とは、過渡形状係数Kにより重み付けされた位相遅れ抑制ヨー慣性モーメントIzp に応じて、目標ヨーモーメントMを算出してもよい。
これにより、道路形状が過渡形状である度合いに応じて位相遅れを抑制できる。
【0092】
(6)道路形状判定部54は、道路形状の曲率分布の歪度に応じて、過渡形状係数Kを算出してもよい。
これにより、地図データベース14の地図情報や、物体センサ11で得られた道路形状の曲率情報により、過渡形状係数Kを算出できる。
【0093】
(7)ピークゲイン抑制ヨー慣性モーメント算出部52は、目標ヨーレイトγに対する実ヨーレイトγの周波数応答のピークゲインを抑制するピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg を算出してよい。道路形状判定部54は、道路形状が、曲率が変化しない定常形状であるか否かを判定してよい。
道路形状が定常形状である場合に、目標横力算出部59と操舵角算出部60とアクチュエータ18は、目標ヨー角加速度γ’とピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg とに応じて目標ヨーモーメントMを算出してよい。
【0094】
自車両1が走行する予定の道路の道路形状が定常形状である場合、すなわち曲率が一定である場合には、制御遅れが許容できても、ゲイン特性の変動を抑制してどの周波数帯においても大きく挙動が変動しないようにすることが望ましい。
またピークゲインが大きいと入力に対する出力が大きくなり、曲率が一定で比較的安定して走行できる状況でも挙動が変化してしまうことがある。上記のように道路形状が定常形状である場合にピークゲインを抑制することにより、不安定な車両挙動の誘発を抑制することができる。
【0095】
(8)道路形状判定部54は、道路形状が定常形状である度合いを表す定常形状係数Kを算出してもよい。乗算器55、56及び58と加算器57とは、定常形状係数Kにより重み付けされたピークゲイン抑制ヨー慣性モーメントIzg に応じて、目標ヨーモーメントMを算出してもよい。
これにより、道路形状が定常形状である度合いに応じてピークゲインを抑制できる。
【符号の説明】
【0096】
1…自車両、10…走行支援装置、11…物体センサ、12…車両センサ、13…測位装置、14…地図データベース、15…ナビゲーション装置、16…通信装置、17…コントローラ、18…アクチュエータ、20…自動運転制御部、21…入力仲裁部、22…車両制御部、30…自動運転レイヤ、31…仲裁部、32…規範モデル部、33…車体挙動制御部、34…車輪挙動制御部、40…定位部、41…目的地設定部、42…経路計画部、43…行動決定部、44…運転ゾーン計画部、45…軌道生成部、46…ワールドモデル、47…ローカルモデル、50…目標ヨー角加速度算出部、51…目標ヨーレイト算出部、52…ピークゲイン抑制ヨー慣性モーメント算出部、53…抑制ヨー慣性モーメント算出部、54…道路形状判定部、55…乗算器、56…乗算器、57…加算器、58…乗算器、59…目標横力算出部、60…操舵角算出部、70…基準曲率算出部、71…有次元化、72…曲率成分変換部、73…係数演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7