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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】既設軌条の改修方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 37/00 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
E01B37/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020117913
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022015214
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 茂広
(72)【発明者】
【氏名】南出 賢司
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭50-118601(JP,U)
【文献】特開2011-052458(JP,A)
【文献】特開2012-082622(JP,A)
【文献】特開2020-007765(JP,A)
【文献】実開平03-089703(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道床コンクリートの上に走行層が形成された既設軌条の改修方法であって、
前記道床コンクリートの上部と前記走行層とを撤去する撤去工程と、
施工途中の前記道床コンクリートの上方に、既設の前記走行層の表面高さと同等の高さの表面部を有する仮覆工を設置する仮覆工設置工程と、
上部が撤去された前記道床コンクリートの上に、アンカー部材を介して走行板を固定する走行板設置工程とを備え、
前記撤去工程および前記仮覆工設置工程は、昼間の鉄道営業を挟んで複数回行われ、
前記撤去工程では、前記走行層および前記道床コンクリートの上端部を斫ることで撤去し、
2回目以降の前記仮覆工設置工程では、前記撤去工程で撤去された前記道床コンクリートと前記仮覆工の表面部の設置位置との間に砂を敷いた後に、前記仮覆工を被せる
ことを特徴とする既設軌条の改修方法。
【請求項2】
前記撤去工程では、前記道床コンクリートの上端部に所定ピッチでスリットを設けた後に、スリット間を斫ることで前記道床コンクリートの上端部を撤去する
ことを特徴とする請求項に記載の既設軌条の改修方法。
【請求項3】
上部が撤去された前記道床コンクリートの上端と前記走行板との間に間詰材を設置する間詰材設置工程をさらに備えた
ことを特徴とする請求項に記載の既設軌条の改修方法。
【請求項4】
走行板設置工程の前に、上部が撤去された前記道床コンクリートの上端面の高さ調整を行う高さ調整工程をさらに備えた
ことを特徴とする請求項に記載の既設軌条の改修方法。
【請求項5】
前記仮覆工設置工程では、断面門型の仮覆工を施工途中の前記道床コンクリートに被せる
ことを特徴とする請求項に記載の既設軌条の改修方法。
【請求項6】
前記仮覆工設置工程では、前記仮覆工の上部にアスファルトを敷設して走行面とする
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の既設軌条の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設軌条の改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
列車が走行する軌条を改修するに際しては、例えば特許文献1に示すような方法があった。かかる改修方法は、コンクリート基礎の上面を斫った後、型枠を設置し、型枠内にベースプレート、鉄筋及びアンカーを配設した状態で、当該型枠内であって軌条と既設のコンクリート基礎との間に、グラウトを打設するという工程を備えている。グラウトは、鉄筋及びアンカーが配設された状態で自己流動するフロー値を有し、且つコンクリートと同等以上の強度を有するものであり、ベースプレートとコンクリート基礎との間に充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-71892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の改修方法では、グラウトが硬化するまでに多くの時間を要する。通常、軌条の改修工事は、夜間の線閉時間(線路閉鎖時間)内に行われることが多いため、グラウトの硬化時間を確保しようとすると、一日に実施できる作業内容が限られてしまい、工事を効率的に行うのが困難であるという問題があった。
【0005】
また、これまでの改修方法では、部分的な補修を容易にできないケースが多く、一たび改修作業を行うとなった場合には比較的広範囲、大規模となる場合が多かった。そのため、改修作業を効率的、経済的に行うのが困難であるという問題があった。
【0006】
さらに、地下鉄路線内には専用の資材搬入口が設置されている場所が少ないため、資材搬入には駅出入口の階段やエレベーターを使用する事となる。エレベーターは大きさ、重量に制限がある事、階段は人力による運搬となる事から、資材の大きさや重量が制限されるため、効率よく資材を搬入する事が困難であるという問題があった。また、ホームから路線への資材荷下ろし・荷上げについても人力で行う事が多く、効率的に作業を行うのが困難であるという問題があった。
【0007】
このような観点から、本発明は、夜間の線閉時間内での工事を効率的に行うことができる既設軌条の改修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するための本発明は、道床コンクリートの上に走行層が形成された既設軌条の改修方法である。かかる既設軌条の改修方法は、前記道床コンクリートの上部と前記走行層とを撤去する撤去工程と、施工途中の前記道床コンクリートの上方に、既設の前記走行層の表面高さと同等の高さの表面部を有する仮覆工を設置する仮覆工設置工程と、上部が撤去された前記道床コンクリートの上に、アンカー部材を介して走行板を固定する走行板設置工程とを備え、前記撤去工程および前記仮覆工設置工程は、昼間の鉄道営業を挟んで複数回行われ、前記撤去工程では、前記走行層および前記道床コンクリートの上端部を斫ることで撤去し、2回目以降の前記仮覆工設置工程では、前記撤去工程で撤去された前記道床コンクリートと前記仮覆工の表面部の設置位置との間に砂を敷いた後に、前記仮覆工を被せることを特徴とする。
【0015】
本発明の既設軌条の改修方法によれば、走行板設置工程において走行板をアンカー部材で固定するだけで、表面が平滑な軌条を所定高さに設置することができるので施工スピードが速くなる。また、上部が撤去された施工途中の道床コンクリートを覆うように仮覆工を設ければ、施工途中であっても工事を中断して昼間に列車を走行させることができる。したがって、夜間の線閉時間内での工事を効率的に行うことができる。さらに、仮覆工を設けることで、昼間の営業時間内は列車を走行させることができる。したがって、数日に渡る夜間の線閉時間内で工事を順次進めていくことができる。
【0016】
本発明の既設軌条の改修方法においては、前記撤去工程では、前記道床コンクリートの上端部に所定ピッチでスリットを設けた後に、スリット間を斫ることで前記道床コンクリートの上端部を撤去することが好ましい。
本発明の既設軌条の改修方法においては、上部が撤去された前記道床コンクリートの上端と前記走行板との間に間詰材を設置する間詰材設置工程をさらに備えたことが好ましい。このような方法によれば、列車が走行する走行板を間詰材で支持することができる。
【0017】
また、本発明の既設軌条の改修方法においては、走行板設置工程の前に、上部が撤去された前記道床コンクリートの上端面の高さ調整を行う高さ調整工程をさらに備えたことが好ましい。このような方法によれば、走行板を道床コンクリートの上に直接設置できるので、間詰材を設ける必要がない。
【0019】
また、前記仮覆工設置工程では、断面門型の仮覆工を施工途中の前記道床コンクリートに被せることが好ましい。このような方法によれば、既設軌条と同じ高さの仮覆工を容易に設置することができる。
【0020】
また、本発明の既設軌条の改修方法においては、前記仮覆工設置工程では、前記仮覆工の上部にアスファルトを敷設して走行面とすることが好ましい。このような方法によれば、軌道の連続性を確保できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、夜間の線閉時間内での工事を効率的に行うことができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造を示した断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造を示した要部拡大断面図である。
図3】(a)は既設軌条を示した断面図、(b)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の撤去工程で排水溝の側壁の一部を撤去した状態を示した断面図である。
図4】(a)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の撤去工程で走行層を撤去した状態を示した断面図、(b)は仮覆工設置工程を示した断面図である。
図5】仮覆工を設置した状態を示した断面斜視図である。
図6】(a)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の撤去工程で道床コンクリートの上部を撤去した状態を示した断面図、(b)は仮覆工設置工程で道床コンクリートの上部に敷砂を敷いて仮覆工を設置した状態を示した断面図である。
図7】(a)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の走行板設置工程を示した断面斜視図、(b)は間詰材設置工程を示した断面斜視図である。
図8】本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造の第一の変形例を示した断面図である。
図9】本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造の第二の変形例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造および改修方法について、添付した図面を参照しながら説明する。まず、既設軌条の構成を説明する。図3の(a)は、既設軌条を示した断面図である。図3の(a)に示すように、本実施形態の既設軌条1は、ゴムタイヤ走行輪を備えた列車(電動車両)が走行するものであって、底版コンクリート2上に敷設された道床コンクリート3と、道床コンクリート3上に敷設された走行層4とを備えている。底版コンクリート2は、既設軌条1を支持する基礎部分であって、車両より広い幅となっている。
【0024】
道床コンクリート3は、断面矩形を呈しており、ゴムタイヤ走行輪が走行する位置に設けられている。道床コンクリート3は、車幅方向に間隔をあけて一対設けられており、左右一対の道床コンクリート3,3は走行方向に沿って延在している。走行層4は、ゴムタイヤが接触する面であり、道床コンクリート3の上面を保護する。走行層4は、例えばエポキシ舗装にて構成されている。道床コンクリート3,3の間で車幅方向の中間部には、案内軌条5が設けられている。案内軌条5は、車両に設けられた一対の案内輪(図示せず)に両側から挟まれ、車両を所定の方向に安全かつ円滑に誘導する。案内軌条5は、電気の負極としての役目も果たす。道床コンクリート3の左右両側には、排水溝6a,6bが形成されている。排水溝6a,6bは、底版コンクリート2の表面に形成された溝状の凹部である。一対の道床コンクリート3の内側に設けられた排水溝6aの溝幅は、外側に設けられた排水溝6bの溝幅よりも小さくなっている。なお、底版コンクリート2上に道床コンクリート3を敷設することは一例であって、道床コンクリート3に代えて、鋼板を敷設する場合もある。
【0025】
次に、既設軌条1の改修構造を説明する。図1は、本実施形態に係る既設軌条の改修構造を示した断面図、図2は同じく要部拡大断面図である。本実施形態の既設軌条1の改修構造7は、経年劣化した既設軌条1の改修により形成されるものであり、既設軌条1よりも高い耐久性を有している。改修構造7は、図1および図2に示すように、走行板10とアンカー部材20と間詰材30とを備えている。
【0026】
走行板10は、列車のゴムタイヤ走行輪が走行する部分である。走行板10は、既設軌条1の道床コンクリート3の上部と走行層4を改修工事において撤去した後に設置される板状部材であり、道床コンクリート3の上部および走行層4が存在していた空間に設けられている。走行板10は、プレキャストのコンクリート板にて構成されている。走行板10は、ゴムタイヤの幅寸法より大きい幅寸法を備えており、走行方向に所定長さで延在している。走行板10の上側表面には、座ぐり11が形成されている。座ぐり11は、アンカー部材20が設置される位置に形成されており、アンカー部材20の端部(上端部)と固定ナット22が収容される空間となる。座ぐり11は、走行板10の幅方向両端縁部に、走行方向に所定間隔をあけて形成されており、座ぐり11上を走行輪が走行しないようになっている。なお、座ぐり11の位置は、走行輪が走行する位置にあってもよい。座ぐり11の底部には、走行板の下面に至る貫通孔12が形成されている。貫通孔12には、アンカー部材20が挿通される。
【0027】
アンカー部材20は、走行板10を道床コンクリート3に固定する部材である。アンカー部材20は、上下方向に延在する長尺ボルトにて構成されている。アンカー部材20は、下部が道床コンクリート3内に没入され、上部が道床コンクリート3の上面から上方に突出している。アンカー部材20は、走行板10の座ぐり11に対応する位置に設けられており、道床コンクリート3の左右両縁部に、走行方向に所定間隔をあけて複数配置されている。アンカー部材20の上端部は、走行板10の上面よりも下側で、座ぐり11の内部に収容される高さに配置されている。アンカー部材20の上端部には、走行板10を固定する固定ナット22と、走行板10の設置高さを調整する高さ調整ナット21とが螺合される。高さ調整ナット21は、走行板10の下側に螺合され、走行板10を下側から支持する。高さ調整ナット21は、走行板10の設置前にアンカー部材20に螺合され、所望の高さに設置される。固定ナット22は、高さ調整ナット21よりも上方でアンカー部材20の上端部に螺合され、走行板10の座ぐり11の内部に配置される。固定ナット22は、座ぐり11の底面を下方に押圧するように締め付けられ、走行板10を固定する。
【0028】
間詰材30は、上部が撤去された道床コンクリート3の上端と走行板10との間に設置される部材である。間詰材30は、例えばグラウト材にて構成されている。グラウト材は、モルタル系材料または合成樹脂からなる。グラウト材は、走行板10に形成された注入孔(図示せず)から、道床コンクリート3と走行板10との隙間に充填される。
【0029】
次に、図3の(a)に示す既設軌条1を改修する方法(改修構造7の構築改修方法)を説明する。本実施形態の既設軌条1の改修方法は、例えば、昼間は列車が走行し営業している路線において、夜間の線閉時間内に行われる工事に適用される。かかる既設軌条1の改修方法は、準備工程と撤去工程と仮覆工設置工程と走行板設置工程と間詰材設置工程とを備えている。
【0030】
準備工程は、仮覆工50を設置するための準備を行う工程である。既設軌条1では、図3の(a)に示すように、道床コンクリート3の左右両側に、排水溝6a,6bが形成されている。道床コンクリート3,3の内側に設けられた排水溝6aは溝幅が小さく、このままの状態では後記する仮覆工50を設置することができない。そこで、準備工程では、図3の(b)に示すように、内側の排水溝6aの側壁を、既設軌条1の中心側に向かって切削して溝幅を広げる拡幅工事を行う。排水溝6aの溝幅は、仮覆工50の鍔部52(図4の(b)参照)を設置可能な幅とする。なお、外側の排水溝6bの溝幅が仮覆工50の鍔部52の幅よりも小さい場合には、排水溝6bについても拡幅工事を行う。なお、仮覆工50の形状を排水溝6bの溝幅に合わせた場合や、排水溝6b以外の場所に仮覆工50を設置する場合等、仮覆工50の構造によっては排水溝6の拡幅が不要の場合もあり得る。
【0031】
撤去工程は、道床コンクリート3の上部と走行層4とを撤去する工程である。撤去工程では、図4の(a)に示すように、まず、走行層4(図3参照)を撤去する。走行層4を撤去すると、道床コンクリート3の上端表面が露出する。本実施形態では、準備工程から撤去工程の走行層4の撤去までで一夜の線閉時間が終わるように工程が組まれている。したがって、走行層4の撤去が完了したところで、仮覆工設置工程が行われる。
【0032】
仮覆工設置工程は、夜間の線閉時間が過ぎた後に列車が走行できるように、仮覆工50を設置する工程である。仮覆工設置工程は、他の工程の進捗状況に応じて適宜行われる。仮覆工50は、図4の(b)および図5に示すように、断面門型の溝部51と、溝部51の下端部に形成された鍔部52とを備えている。溝部51は、断面門型で下向きに開口した溝形状を呈している。溝部51は、表面部53と側壁部54とを備えている。表面部53は、仮覆工50の上端表面を構成する部位であり、走行方向に沿って延在している。表面部53の厚さ寸法は、走行層4の厚さ寸法と同等である。仮覆工50を所定位置に設置した際に、表面部53の表面高さは、既設軌条1の走行層4の表面高さと同等になる。側壁部54は、左右一対に設けられており、表面部53の幅方向両端部からそれぞれ下方に向かって延出している。左右の側壁部54,54は、互いに平行である。なお、表面部53の厚さ寸法と、走行層4の厚さ寸法とは、必ずしも同等でなくてもよい。この場合、表面部53と走行層4との間に段差が発生するが、車両の走行に支障のない程度であれば問題はない。また、仮覆工50は、断面門型に限定されるものではない。さらに、仮覆工50は、道床に隣接する支障物の有無・配置により適宜、形状を最適化する。
【0033】
鍔部52は、左右一対に設けられており、側壁部54の下端からそれぞれ外側に向かって張り出している。鍔部52には、走行方向に沿って所定間隔をあけてボルト貫通孔55,55・・が形成されている。ボルト貫通孔55には、仮覆工50を底版コンクリート2に固定するためのボルト部材56が挿通される。
【0034】
仮覆工設置工程では、走行層4が撤去された施工途中の道床コンクリート3に仮覆工50を被せる。すると、仮覆工50の鍔部52が排水溝6a,6bにそれぞれ配置されるとともに、表面部53が道床コンクリート3の上端表面に載置される。そして、ボルト貫通孔55から排水溝6a,6bの底面に向けてボルト部材56を打ち込むことで、仮覆工50が設置される。表面部53の厚さ寸法は撤去された走行層4と同じ厚さなので、表面部53の表面高さは、既設軌条1の走行層4の表面高さと同等になる。
【0035】
昼間の鉄道営業が終了し、次の線閉時間が始まると、図6の(a)に示すように、仮覆工50を取り外して、撤去工程の続きを行う。ここでは、道床コンクリート3の上端部を撤去する。道床コンクリート3の上端部の撤去は、カッター等を用いて、所定ピッチでスリットを設けた後、スリット間を斫ることで行う。道床コンクリート3の撤去高さは、走行板10の厚さ寸法より大きく設定する。本実施形態では、道床コンクリート3の上端部の撤去作業が一夜の線閉時間内に終わるように工程が組まれている。撤去工程が完了したところで、2回目の仮覆工設置工程が行われる。
【0036】
2回目の仮覆工設置工程では、図6の(b)に示すように、道床コンクリート3の上端部が存在していた空間に砂を敷く。敷砂60は、上端部を撤去する前の道床コンクリート3の上端高さ、つまり、仮覆工50の表面部53の下面の高さまで敷く。その後、敷砂60が敷かれた施工途中の道床コンクリート3に仮覆工50を被せる。すると、仮覆工50の鍔部52が排水溝6a,6bにそれぞれ配置されるとともに、表面部53が敷砂60上に載置される。そして、ボルト貫通孔55から排水溝6a,6bの底面に向けてボルト部材56を打ち込むことで、仮覆工50が設置される。
【0037】
昼間の鉄道営業が終了し、次の線閉時間が始まると、図7の(a)に示すように、仮覆工50を取り外して、走行板設置工程を行う。走行板設置工程は、上部が撤去された道床コンクリート3の上に、アンカー部材20を介して走行板10を固定する工程である。走行板設置工程では、まず、アンカー部材20を道床コンクリート3の上端に植設する。アンカー部材20は、走行板10の座ぐり11に相当する位置に設置する。アンカー部材20は、上端が座ぐり11の内部に位置する高さになるように設置する。アンカー部材20には高さ調整ナット21を螺合しておく。高さ調整ナット21の高さ位置は、走行板10の上面が既設軌条1の走行面と同じ高さになるように調整する。その後、走行板10の貫通孔12にアンカー部材20を挿通させつつ、走行板10を高さ調整ナット21の上に載置し、走行板10を道床コンクリート3の上方に配置する。そして、固定ナット22をアンカー部材20の上端部に螺合し、高さ調整ナット21と固定ナット22との間に走行板10を固定する。
【0038】
次に、間詰材設置工程を行う。間詰材設置工程は、道床コンクリート3と走行板10との隙間に間詰材30を設置する工程である。本実施形態の間詰材設置工程では、間詰材30としてグラウト材を注入する。グラウト材の注入は、道床コンクリート3と走行板10の左右両側に型枠(図示せず)を設置し、走行板10に設けられた図示しない注入孔を介して行う。グラウト材が硬化すれば、既設軌条1の改修工事が完了する。なお、道床コンクリート3と走行板10との隙間が小さいので、グラウト材の硬化時間は短くて済む。
【0039】
なお、本実施形態に係る既設軌条1の改修方法においては、状況に応じ、各種資材の搬出入のための専用のウインチ・搬入走路(斜面・レール)のホーム端部の階段部への設置や、ホームから路線への資材荷下ろし・荷上げを目的とした専用の簡易クレーンのホームへの設置等を行う。同様に、路線内では、トロッコや台車を用いた資材の搬送等により、資材運搬の効率化を図る。
【0040】
本実施形態の既設軌条1の改修構造7では、走行板10がプレキャストのコンクリート板にて構成されているので、表面(走行面)が平滑になっている。また、高さ調整ナット21の螺合高さを調整することで、走行板10を所望の高さに容易に設置することができる。このように本実施形態の既設軌条1の改修構造7によれば、走行板10をアンカー部材20に固定するだけで、表面が平滑な軌条を所定高さに形成することができるとともに、施工スピードが速くなる。また、走行板10は、プレキャストであるので精度が高い。
【0041】
また、本実施形態では、上部が撤去された道床コンクリート3の上端と走行板10との間に間詰材30を充填しているので、走行板10の全体を支持することができる。よって、列車が走行する走行板10の荷重を分散して支持することができる。さらに、走行板10は、下方に空間がある状態で高さ調整を行うことができるので、高さ調整が容易になる。
【0042】
さらに、本実施形態では、走行板10の表面に座ぐり11が形成されているので、走行板10の表面からアンカー部材20および固定ナット22が突出しない。したがって、列車の車輪が走行する位置でもアンカー部材20を設置でき、アンカー部材20の位置が制限されない。
【0043】
本実施形態の既設軌条1の改修方法によれば、道床コンクリート3の上端部だけを撤去しているので、道床コンクリート全体を撤去する場合に比べて、施工時間を短くすることができる。また、走行板設置工程では、走行板10をアンカー部材20で固定するだけで、表面が平滑な軌条を所定高さに設置することができるので施工スピードが速くなる。
【0044】
特に、本実施形態の既設軌条1の改修方法によれば、施工途中の道床コンクリート3に仮覆工50を設けているので、施工途中であっても工事を中断して昼間の営業時間内は列車を走行させることができる。したがって、数日に渡る夜間の線閉時間内で工事を順次進めていくことができるとともに、夜間の線閉時間内での工事を効率的に行うことができる。
【0045】
また、断面門型の仮覆工50を用いているので、施工途中の道床コンクリート3に仮覆工50を被せるだけで、仮設の軌条を容易に設置することができる。また、仮覆工50の表面部53は、既設軌条1と同じ高さであるので、工事前の既設軌条1と工事途中の仮覆工50と工事後の新たな軌条(走行板10)とが延長方向に混在する場合であっても、車両を円滑に走行させることができる。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。たとえば、前記実施形態では、間詰材30は、グラウト材にて構成しているが、これに限定されるものではない。図8に示すように、間詰材30は、ゴムパッド31等の他の材質にて構成してもよい。この場合、ゴムパッド31には、アンカー部材20を挿通させる貫通孔32を設けておく。
【0047】
ゴムパッド31の設置作業は、走行板設置工程でアンカー部材20を設置した後、走行板10の設置を行う前に行う。具体的には、間詰材設置工程においては、道床コンクリート3上の設置面にドライモルタル等を敷設し、斫り面の凹凸処理および設置面の大まかな高さ調整を実施した後、ゴムパッド31の貫通孔32にアンカー部材20を挿通させつつ、ゴムパッド31を設置する。その後、走行板10をゴムパッド31上に設置し、固定ナット22をアンカー部材20の上端部に螺合させて、走行板10を固定する。このとき、固定ナット22の締付け量を調整することで、走行板10がゴムパッド31を圧縮する量を調整し、走行板10の最終的な高さ調整を行う。このような構成によれば、型枠の設置や間詰材の硬化時間が不要となるので、前記実施形態よりも間詰材を設置する時間を短縮することができる。
【0048】
また、前記実施形態では、道床コンクリート3と走行板10との間に間詰材30を設けたが、これに限定されるものではない。図9に示すように、間詰材を設けず、走行板10を道床コンクリート3上の直接設置するようにしてもよい。この場合には、撤去工程の後に、道床コンクリート3の高さ調整工程を行う。高さ調整工程では、撤去工程で上部が撤去された道床コンクリート3の上端面の高さ調整を行う。この高さ調整は、道床コンクリート3上に設置される走行板10の上面の高さが、既設軌条1の走行面の高さと同等になるように行われる。また、道床コンクリート3の上面は平坦に形成される。そして、走行板設置工程では、走行板10を道床コンクリート3上に直接載置し、固定ナット22をアンカー部材20の上端部に螺合させて、走行板10を固定する。このような構成によれば、間詰材設置工程が省略されるので、工事全体で施工時間を短縮することができる。
【0049】
さらに、前記実施形態では、走行板10がプレキャストのコンクリート板にて構成されているがこれに限定されるものではない。走行板10は、鋼板や、複数の樹脂製のガラス長繊維強化プラスチック発泡体(FFU:Fiber reinforced Foamed Urethane)にて構成してもよい。FFUは、硬質ウレタン樹脂からなるプラスチック発泡体を無機繊維としてのガラス長繊維で補強して構成されており、例えばエスロンネオランバーFFU(積水化学工業株式会社製)を挙げることができる。鋼板やFFUによっても、強度と精度が高い走行板10を得られる。さらに、摩耗した走行板や劣化した桁材21および支承体10をそれぞれ独立して取り換えることが可能になるので、メンテナンスが容易になる。
【符号の説明】
【0050】
1 既設軌条
3 道床コンクリート
4 走行層
7 改修構造
10 走行板
11 座ぐり
20 アンカー部材
30 間詰材
31 ゴムパッド
50 仮覆工
51 溝部
52 鍔部
53 表面部
54 側壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9