(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】既設軌条の改修方法
(51)【国際特許分類】
E01B 37/00 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
E01B37/00 Z
(21)【出願番号】P 2020117914
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 茂広
(72)【発明者】
【氏名】南出 賢司
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭50-118601(JP,U)
【文献】特開平09-242024(JP,A)
【文献】特開2011-052458(JP,A)
【文献】特開2012-082622(JP,A)
【文献】特開2020-007765(JP,A)
【文献】特開2013-060710(JP,A)
【文献】実開平03-089703(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板上に敷設された道床コンクリートの上に走行層が形成された既設軌条の改修方法であって、
前記既設軌条の上部を撤去する撤去工程と、
桁体を設置する前の前記既設軌条の上部に、既設の前記走行層の表面高さと同等の高さの表面部を有する仮覆工を設置する仮覆工設置工程と、
上部が撤去された前記既設軌条の上に、既設軌条の延在方向に間隔をあけて複数の支承体を設置する支承体設置工程と、
複数の前記支承体に、上面が走行面となる桁体を架け渡す桁体設置工程とを備え、
前記撤去工程および前記仮覆工設置工程は、昼間の鉄道営業を挟んで複数回行われ、
前記撤去工程は、前記支承体が設置される部分の前記既設軌条を撤去して凹部を形成する第一撤去工程と、前記第一撤去工程で形成された前記凹部同士の間の前記既設軌条を撤去する第二撤去工程とを備え、前記第二撤去工程は、前記支承体設置工程の後、または前記支承体設置工程と並行して行われ、
前記撤去工程では、前記道床コンクリートを斫ることで前記既設軌条の上部を撤去し、
前記第一撤去工程
以降の前記仮覆工設置工程では、前記撤去工程で形成された前記凹部に設置された前記支承体と前記仮覆工の表面部の設置位置との間にブロック状の高さ調整材を設置した後に、前記仮覆工を被せる
ことを特徴とする既設軌条の改修方法。
【請求項2】
前記撤去工程では、前記道床コンクリートに所定ピッチでスリットを設けた後に、スリット間を斫ることで前記道床コンクリートを撤去する
ことを特徴とする請求項
1に記載の既設軌条の改修方法。
【請求項3】
前記仮覆工設置工程では、断面門型の仮覆工を施工途中の前記道床コンクリートに被せる
ことを特徴とする請求項
1に記載の既設軌条の改修方法。
【請求項4】
前記仮覆工設置工程では、前記仮覆工の上部にアスファルトを敷設して走行面とする
ことを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の既設軌条の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設軌条の改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
列車が走行する軌条を改修するに際しては、例えば特許文献1に示すような方法があった。かかる改修方法は、コンクリート基礎の上面を斫った後、型枠を設置し、型枠内にベースプレート、鉄筋及びアンカーを配設した状態で、当該型枠内であって軌条と既設のコンクリート基礎との間に、グラウトを打設するものである。グラウトは、鉄筋及びアンカーが配設された状態で自己流動するフロー値を有し、且つコンクリートと同等以上の強度を有するものであり、ベースプレートとコンクリート基礎との間に充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の改修方法では、グラウトが硬化するまでに多くの時間を要する。通常、軌条の改修工事は、夜間の線閉時間(線路閉鎖時間)内に行われることが多いため、グラウトの硬化時間を確保しようとすると、一日に実施できる作業内容が限られてしまい、工事を効率的に行うのが困難であるという問題があった。
【0005】
このような観点から、本発明は、夜間の線閉時間内での工事を効率的に行うことができる既設軌条の改修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための本発明は、底板上に敷設された道床コンクリートの上に走行層が形成された既設軌条の改修方法である。かかる既設軌条の改修方法は、前記既設軌条の上部を撤去する撤去工程と、前記桁体を設置する前の前記既設軌条の上部に、既設の前記走行層の表面高さと同等の高さの表面部を有する仮覆工を設置する仮覆工設置工程と、上部が撤去された前記既設軌条の上に、既設軌条の延在方向に間隔をあけて複数の支承体を設置する支承体設置工程と、複数の前記支承体に、上面が走行面となる桁体を架け渡す桁体設置工程とを備え、前記撤去工程および前記仮覆工設置工程は、昼間の鉄道営業を挟んで複数回行われ、前記撤去工程は、前記支承体が設置される部分の前記既設軌条を撤去して凹部を形成する第一撤去工程と、前記第一撤去工程で形成された前記凹部同士の間の前記既設軌条を撤去する第二撤去工程とを備え、前記第二撤去工程は、前記支承体設置工程の後、または前記支承体設置工程と並行して行われ、前記撤去工程では、前記道床コンクリートを斫ることで前記既設軌条の上部を撤去し、前記第一撤去工程以降の前記仮覆工設置工程では、前記撤去工程で形成された前記凹部に設置された前記支承体と前記仮覆工の表面部の設置位置との間にブロック状の高さ調整材を設置した後に、前記仮覆工を被せることを特徴とする。
【0012】
本発明の既設軌条の改修方法によれば、支承体設置工程で設置された支承体に、桁体設置工程で桁体を架け渡すことで走行面を形成できるので、施工スピードを速くすることができ、夜間の線閉時間内での工事を効率的に行うことができる。また、施工途中の支承体を覆うように仮覆工を設ければ、桁体の設置前であっても工事を一旦中断できるので、列車の運行に支障を来すことなく改修工事を進めることができる。さらに、仮覆工を設けることで、昼間の営業時間内は列車を走行させることができる。したがって、数日に渡る夜間の線閉時間内で工事を順次進めていくことができる。
【0015】
さらに、前記仮覆工設置工程では、断面門型の仮覆工を施工途中の前記道床コンクリートに被せることが好ましい。このような方法によれば、既設軌条と同じ高さの仮覆工を容易に設置することができる。
【0016】
また、本発明の既設軌条の改修方法においては、前記仮覆工設置工程では、前記仮覆工の上部にアスファルトを敷設して走行面とすることが好ましい。このような方法によれば、軌道の連続性を確保できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、夜間の線閉時間内での工事を効率的に行うことができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造を示した断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造を示した要部拡大断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造を走行方向に沿って切断した断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造を示した要部拡大斜視図である。
【
図5】(a)は既設軌条を示した断面図、(b)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の撤去工程で排水溝の側壁の一部を撤去した状態を示した断面図である。
【
図6】(a)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の撤去工程で走行層を撤去した状態を示した断面図、(b)は仮覆工設置工程を示した断面図である。
【
図7】仮覆工を設置した状態を示した断面斜視図である。
【
図8】(a)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の第一撤去工程で道床コンクリートを部分的に撤去して凹部を形成した状態を示した断面図、(b)は
図8(a)を走行方向に沿って切断した断面図、(c)は支承体設置工程を示した断面図である。
【
図9】(a)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の仮覆工設置工程で道床コンクリートの上部に高さ調整材を敷設して仮覆工を設置した状態を示した断面図、(b)は
図9(a)を走行方向に沿って切断した断面図である。
【
図10】(a)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の第二撤去工程で道床コンクリートの凹部間を撤去する状態を示した断面図、(b)は
図10(a)を走行方向に沿って切断した断面図、(c)は道床コンクリートの凹部間をさらに撤去した状態を示した断面図である。
【
図11】(a)は本発明の実施形態に係る既設軌条の改修方法の桁体設置工程で支承体に桁体を掛け渡し桁体に仮設の走行路を形成した状態を示した断面図、(b)は
図11(a)を走行方向に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る既設軌条の改修構造および改修方法について、添付した図面を参照しながら説明する。まず、既設軌条の構成を説明する。
図5の(a)は、既設軌条を示した断面図である。
図5の(a)に示すように、本実施形態の既設軌条1は、ゴムタイヤ走行輪を備えた列車(電動車両)が走行するものであって、底版コンクリート(底板)2と、底版コンクリート2上に敷設された道床コンクリート3と、道床コンクリート3上に敷設された走行層4とを備えている。底版コンクリート2は、既設軌条1を支持する基礎部分であって、列車よりも広い幅に形成されている。
【0020】
道床コンクリート3は、断面矩形を呈しており、ゴムタイヤ走行輪が走行する位置に設けられている。道床コンクリート3は、車幅方向に間隔をあけて一対設けられており、左右一対の道床コンクリート3,3は走行方向に沿って延在している。走行層4は、ゴムタイヤが接触する面であり、道床コンクリート3の上面を保護する。走行層4は、例えばエポキシ舗装にて構成されている。道床コンクリート3,3の間で車幅方向の中間部には、案内軌条5が設けられている。案内軌条5は、車両に設けられた一対の案内輪(図示せず)に両側から挟まれ、車両を所定の方向に安全かつ円滑に誘導する。案内軌条5は、電気の負極としての役目も果たす。道床コンクリート3の左右両側には、排水溝6a,6bが形成されている。排水溝6a,6bは、底版コンクリート2の表面に形成された溝状の凹部である。一対の道床コンクリート3の内側に設けられた排水溝6aの溝幅は、外側に設けられた排水溝6bの溝幅よりも小さくなっている。なお、底版コンクリート2上に道床コンクリート3を敷設することは一例であって、道床コンクリート3に代えて、鋼板を敷設する場合もある。
【0021】
次に、既設軌条1の改修構造を説明する。
図1は、本実施形態に係る既設軌条の改修構造を示した断面図、
図2は同じく要部拡大断面図、
図3は走行方向に沿って切断した断面図、
図4は要部拡大斜視図である。なお、
図3は
図4のA-A線で切断した断面図である。本実施形態の既設軌条1の改修構造7は、経年劣化した既設軌条1の改修により形成されるものであり、既設軌条1よりも高い耐久性を有している。改修構造7は、
図1乃至
図4に示すように、支承体10と桁体20とを備えている。
【0022】
支承体10は、桁体20を支持する部材であって、既設軌条1の延在方向(列車の走行方向)に沿って間隔をあけて複数設けられている。支承体10は、H型鋼にて構成されており、ウエブ11の上下でフランジ12,12がそれぞれ水平になり、且つウエブ11が車幅方向に延在するように配置されている。支承体10は、道床コンクリート3の幅寸法と同等の長さを有し、道床コンクリート3が存在していた空間に配置されている。具体的には、道床コンクリート3を撤去することで露出した底版コンクリート2の表面に、下側のフランジ12が載置されている。支承体10は、下側のフランジ12に挿通されたアンカー部材13により、底版コンクリート2に固定されている。なお、支承体10はH型鋼に限定されるものではなく、例えば、角型鋼やプレキャストコンクリート等の他の部材で構成してもよい。
【0023】
桁体20は、列車の走行方向に沿って延在しており、複数の支承体10,10・・に架け渡されている。桁体20は、桁材21と走行板22とを備えて構成されている。
【0024】
桁材21は、支承体10,10・・上に架け渡される部材であって、鋼製の長尺材にて構成され、断面H形状を呈している。桁材21は、横板23と側壁板24と補強板25とを備えて構成されており、いわゆるワッフル構造となっている。横板23は、列車の走行方向に沿って延在している。横板23の幅寸法は、道床コンクリート3の幅寸法と同等である。横板23には、後記する座ぐり31(
図4参照)に対応する位置にボルト孔(図示せず)が形成されている。ボルト孔には、走行板22を桁材21に固定するためのボルト32(
図4参照)の軸部が挿通される。ボルト32の軸部は、ボルト孔を挿通して横板23の下方に向かって延出する。側壁板24は、横板23の幅方向両端部にそれぞれ設けられている。側壁板24は、横板23に直交しており、横板23の端部において上下に延出している、つまり、桁材21は、上方に向かって開口する溝部26aと、下方に向かって開口する溝部26bとを備えている。
【0025】
補強板25は、横板23の下側において横板23に直交する板材であって、車幅方向に沿って広がっている。すなわち、補強板25は、下側の溝部26bを走行方向に分割するように配置されている。補強板25は、上縁部が横板23と接続され、左右両端縁部が左右の側壁板24とそれぞれ接続されている。補強板25の下端は、側壁板24の下端と同じ高さである。補強板25は、支承体10に対応する位置に配置されており、支承体10の上部に設置される。支承体10の上部に設置された補強板25は、L字アングル27を介して支承体10の上側のフランジ12に固定されている。支承体10に接続される補強板25,25の間にも、他の補強板25が等間隔ピッチで平行に配置されている(
図3参照)。なお、桁材21は、ワッフル構造に限定されるものではなく、例えば、複数のH桁を幅員方向に並べて配置することで構成してもよい。
【0026】
走行板22は、列車のゴムタイヤ走行輪が走行する板状部材である。走行板の上面は、既設軌条1の走行面(走行層4の上面)と同じ高さになり、走行板22の上面が列車の走行面となる。走行板22は、桁材21の上側の溝部26a内に設置されている。走行板22は、桁材21の上側の溝部26aに嵌り、拘束されている。走行板22は、プレキャストのコンクリート板にて構成されている。なお、走行板22は、コンクリート板に限定されるものではなく、鋼板等の他のもので構成されていてもよい。走行板22は、ゴムタイヤの幅寸法より大きい幅寸法を備えており、走行方向に所定長さで延在している。走行板22の上側表面には、座ぐり31が形成されている。座ぐり31は、ボルト32の頭部が収容される空間となる。座ぐり31は、走行板22の幅方向両端縁部に、走行方向に所定間隔をあけて形成されており、座ぐり31上を走行輪が走行しないようになっている。なお、座ぐり31の位置は、走行輪が走行する位置にあってもよい。座ぐり31の底部には、走行板の下面に至る貫通孔(図示せず)が形成されている。貫通孔には、ボルト32の軸部が挿通される。
【0027】
次に、
図5の(a)に示す既設軌条1を改修する方法(改修構造7の構築方法)を説明する。本実施形態の既設軌条1の改修方法は、例えば、列車が走行し営業している路線において、夜間の線閉時間内に行われる工事に適用される。かかる既設軌条1の改修方法は、準備工程、撤去工程、仮覆工設置工程、支承体設置工程、桁体設置工程、仮設走行面形成工程などを備えている。
【0028】
準備工程は、仮覆工50を設置するための準備を行う工程である。既設軌条1では、
図5の(a)に示すように、道床コンクリート3の左右両側に、排水溝6a,6bが形成されている。道床コンクリート3,3の内側に設けられた排水溝6aは溝幅が小さく、このままの状態では後記する仮覆工50を設置することができない。そこで、準備工程では、
図5の(b)に示すように、内側の排水溝6aの側壁を、既設軌条1の中心側に向かって切削して溝幅を広げる作業を行う。排水溝6aの溝幅は、仮覆工50の鍔部52(
図6の(b)参照)を設置可能な幅とする。なお、外側の排水溝6bの溝幅が仮覆工50の鍔部52の幅よりも小さい場合には、排水溝6bについても溝幅を広げる作業を行う。なお、仮覆工50の形状を排水溝6bの溝幅に合わせた場合や、排水溝6b以外の場所に仮覆工50を設置する場合等、仮覆工50の構造によっては排水溝6の拡幅が不要の場合もあり得る。
【0029】
撤去工程は、既設軌条1の上部を撤去する工程である。撤去工程は、走行層撤去工程と第一撤去工程と第二撤去工程とを備えている。走行層撤去工程は、走行層4(
図5参照)を撤去する工程である。第一撤去工程は、支承体10が設置される部分の既設軌条1を撤去して凹部15を形成する工程である。第二撤去工程は、第一撤去工程で形成された凹部15,15同士の間の既設軌条1を撤去する工程である。
【0030】
撤去工程では、
図6の(a)に示すように、まず、走行層4を撤去する(走行層撤去工程)。走行層4を撤去すると、道床コンクリート3の上端表面が露出する。本実施形態では、準備工程から撤去工程の走行層撤去工程までで一夜の線閉時間が終わるように工程が組まれて、走行層4の撤去が完了したところで、仮覆工設置工程が行われる。
【0031】
仮覆工設置工程は、夜間の線閉時間が過ぎた後に列車が走行できるように、仮覆工50を設置する工程である。仮覆工設置工程は、本実施形態で例示したタイミングだけでなく、他の工程の進捗状況に応じて適宜行われる。仮覆工50は、
図6の(b)および
図7に示すように、断面門型の溝部51と、溝部51の下端部に形成された鍔部52とを備えている。溝部51は、断面門型で下向きに開口した溝形状を呈している。溝部51は、表面部53と側壁部54とを備えている。表面部53は、仮覆工50の上端表面を構成する部位であり、走行方向に沿って延在している。表面部53の厚さ寸法は、走行層4の厚さ寸法と同等である。仮覆工50を所定位置に設置した際に、表面部53の表面高さは、既設軌条1の走行層4の表面高さと同等になる。側壁部54は、左右一対に設けられており、表面部53の幅方向両端部からそれぞれ下方に向かって延出している。左右の側壁部54,54は、互いに平行である。なお、表面部53の厚さ寸法と、走行層4の厚さ寸法とは、必ずしも同等でなくてもよい。この場合、表面部53と走行層4との間に段差が発生するが、車両の走行に支障のない程度であれば問題はない。また、仮覆工50は、断面門型に限定されるものではない。さらに、仮覆工50は、道床に隣接する支障物の有無・配置により適宜、形状を最適化する。
【0032】
鍔部52は、左右一対に設けられており、側壁部54の下端からそれぞれ外側に向かって張り出している。鍔部52には、走行方向に沿って所定間隔をあけてボルト貫通孔55,55・・が形成されている。ボルト貫通孔55には、仮覆工50を底版コンクリート2に固定するためのボルト部材56が挿通される。
【0033】
仮覆工設置工程では、走行層4が撤去された施工途中の道床コンクリート3に仮覆工50を被せる。すると、仮覆工50の鍔部52が排水溝6a,6bにそれぞれ配置されるとともに、表面部53が道床コンクリート3の上端表面に載置される。そして、ボルト貫通孔55から排水溝6a,6bの底面に向けてボルト部材56を螺入することで、仮覆工50が設置される。表面部53の厚さ寸法は撤去された走行層4と同じ厚さなので、表面部53の表面高さは、既設軌条1の走行層4の表面高さと同等になる。
【0034】
鉄道営業が終了し、次の線閉時間が始まると、
図8の(a)および(b)に示すように、仮覆工50を取り外して、撤去工程の続き(第一撤去工程)を行う。第一撤去工程では、既設軌条1を部分的に撤去して凹部15を形成する。凹部15は、道床コンクリート3の高さ全体を撤去して形成されている。つまり、凹部15の底面は、底版コンクリート2の表面にて構成されている。凹部15は、カッター等を用いて、凹部15の走行方法両端部の位置にスリットを設けた後、スリット間の道床コンクリート3を斫ることで形成する。凹部15を形成する際には、道床コンクリート3の左右両側の排水溝6a,6bの一部も道床コンクリート3の下端まで撤去される。凹部15を形成すると、支承体設置工程を行う。
【0035】
支承体設置工程は、凹部15の底面(上部が撤去された既設軌条1)に支承体10を設置する工程である。支承体10は、既設軌条1が存在していた空間(凹部15)に配置する。
図8の(c)に示すように、支承体設置工程では、各凹部15の底面にアンカー部材13を介して支承体10を固定する。つまり、支承体10は、既設軌条1の延在方向に間隔をあけて複数配置される。支承体設置工程が完了したところで、2回目の仮覆工設置工程が行われる。
【0036】
2回目の仮覆工設置工程では、
図9の(a)および(b)に示すように、支承体10の上に、高さ調整材16を設置する。高さ調整材16は、例えばコンクリート製のブロック状部材にて構成されている。高さ調整材16の厚さ寸法は、高さ調整材16を支承体10の上に設置した状態で、高さ調整材16の上面が道床コンクリート3の上端高さ、つまり仮覆工50の表面部53の下面の高さと同じになるように設定されている。高さ調整材16を設置した後、高さ調整材16と、凹部15,15間の道床コンクリート3とを覆うように仮覆工50を被せる。すると、仮覆工50の鍔部52が排水溝6a,6bにそれぞれ配置されるとともに、表面部53が高さ調整材16および道床コンクリート3の上に載置される。そして、ボルト貫通孔55から排水溝6a,6bの底面に向けてボルト部材56を螺入することで、仮覆工50が設置される。
【0037】
鉄道営業が終了し、次の線閉時間が始まると、
図10の(a)に示すように、仮覆工50を取り外して、第二撤去工程を行う。第二撤去工程は、隣り合う凹部15,15間の道床コンクリート3(既設軌条1の上部)を撤去する工程である。道床コンクリート3を撤去するに際しては、
図10の(b)に示すように、カッター等を用いて、所定ピッチでスリットを設けてスリット間にブロック3a,3a・・を形成する。その後、スリット間のブロック3aを順次斫る。道床コンクリート3の撤去高さは、道床コンクリート3の全体となっており、道床コンクリート3下の底版コンクリート2が露出する。なお、改修構造の施工規模によっては、走行層撤去工程、第一撤去工程、第二撤去工程とを分けずに同時に行う選択肢もあり得る。
【0038】
次に、桁体設置工程を行う。桁体設置工程は、複数の支承体10,10・・に桁体20を架け渡す工程である。本実施形態の桁材設置工程は、桁材設置工程と走行板設置工程とを備えている。桁材設置工程は、桁材21を支承体10,10上に掛け渡す工程である。走行板設置工程は、走行板22を桁材21上に設置する工程である。
【0039】
図11の(a)および(b)に示すように、まず、桁材設置工程を行う。桁材設置工程では、支承体10の上に桁材21を設置し、ウエブ11と桁材21の補強板25とが同一面上となるように桁材21の位置を調整する。その後、補強板25を挟むようにL字アングル27,27を配置する。そして、L字アングル27の縦板を補強板25にボルト止めするとともに、L字アングル27の横板を支承体10の上側のフランジ12にボルト止めする。これによって、桁材21が支承体10,10・・に固定される。桁材21の設置が完了した後に、仮設走行面形成工程を行う。
【0040】
仮設走行面形成工程は、桁材21上に仮設の走行面を形成する工程である。仮設走行面形成工程では、仮覆工を設置するのではなく、桁材21の上側の溝部26aにアスファルトを敷設してアスファルト舗装30を形成することで、走行路を形成する。アスファルト舗装30の上面が仮設の走行面となる。
【0041】
鉄道営業が終了し、次の線閉時間が始まると、アスファルト舗装30を撤去して、走行板設置工程を行う。走行板設置工程では、
図1乃至
図4に示すように、上側の溝部26aに走行板22を載置する。走行板22は、溝部26aに嵌り、拘束される。そして、
図3および
図4に示すように、座ぐり11からボルト32を挿入し、ボルト32の軸部を走行板22の貫通孔および桁材21のボルト孔に挿通する。そして、下方に延出したボルト32の軸部にナットを螺合させて締め付ける。これによって、走行板22が桁材21に固定される。走行板設置工程が完了すれば、既設軌条1の改修工事が完了し、走行板22の上面がゴムタイヤ走行輪の走行面となる。
【0042】
なお、本実施形態に係る既設軌条1の改修方法においては、状況に応じ、各種資材の搬出入のための専用のウインチ・搬入走路(斜面・レール)のホーム端部の階段部への設置や、ホームから路線への資材荷下ろし・荷上げを目的とした専用の簡易クレーンのホームへの設置等を行う。同様に、路線内では、トロッコや台車を用いた資材の搬送等により、資材運搬の効率化を図る。
【0043】
本実施形態の既設軌条1の改修構造7では、複数の支承体10,10・・に架け渡した桁体20が新たな軌条の走行面となるので、施工スピードが速くなる。さらに、支承体10,10の間は隙間とすることができるので、改修構造7の重量を低減することができる。
【0044】
本実施形態の桁体20は、桁材21と走行板22とを備えて構成されている。このようにすると、桁材21と走行板22とを別工程で設置できるので、部材の搬送や設置作業を容易に行うことができる。
【0045】
桁材21は、剛性の確保された鋼板にて構成され、断面H形状を呈するとともに複数の補強板25を備えているので、強度を大きくできるとともに、長期に渡って高い耐久性を確保できる。
【0046】
また、走行板22がプレキャストのコンクリート板にて構成されているので、表面(走行面)の平滑性が高い。そして、走行板22を桁材21に設置するだけで走行路を形成できるので、従来の方法とは異なり、グラウト材の硬化時間を必要としない。したがって、施工時間を大幅に低減できる。さらに、本実施形態では、走行板22の表面に座ぐり31が形成されているので、走行板22の表面からボルト32が突出しない。したがって、列車の車輪が走行する位置でもボルト32を設置でき、ボルト32の位置が制限されない。
【0047】
さらに、桁材21の溝部26a内に走行板22を敷設するので、走行板22の位置決めと設置を容易に行うことができる。また、走行板22は、桁材21の溝部26aに嵌合されて拘束されるので、より一層耐久性を高くできる。
【0048】
本実施形態の既設軌条1の改修方法によれば、複数の支承体10,10・・に桁体20を架け渡すことで改修構造7が形成される。したがって、従来のようにグラウト材を硬化させる場合と比較して、施工時間を短くすることができる。
【0049】
また、本実施形態では、施工途中においても、桁体20を設置する前の既設軌条1および支承体10,10・・の上部に仮覆工50を設けるができるので、列車の運行に支障を来さず改修工事を進めることができる。したがって、数日に渡る夜間の線閉時間内で工事を順次進めていくことができるとともに、夜間の線閉時間内での工事を効率的に行うことができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、桁体21を設置した後においても、桁材21の溝部26aにアスファルト舗装30を形成することで、仮設の走行路を形成することができる。したがって、夜間の線閉時間内での工事をより一層効率的に行うことができる。なお、アスファルトの敷設及び撤去は容易に行うことができるので、施工手間が大幅に増えることはない。
【0051】
また、撤去工程を、第一撤去工程と第二撤去工程とに分け、凹部15を形成した後に、支承体10を順次設置するので、既設軌条1の撤去完了を待つことなく、支承体10の設置を早期に行える。よって、全体の施工スピードが速くなる。
【0052】
仮覆工50とアスファルト舗装30は、既設の走行層4の表面高さと同等の高さの表面部を有するので、工事前の既設軌条1と、工事途中の仮覆工50またはアスファルト舗装30と、工事後の新たな軌条(走行板22)とが延長方向に混在する場合であっても、車両を円滑に走行させることができる。
【0053】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。たとえば、前記実施形態では、隣り合う支承体10,10の間の道床コンクリート3の全体を撤去しているが、これに限定されるものではない。支承体10,10・・に架け渡される桁体20に干渉しないように、道床コンクリート3の上部のみを撤去してもよい。このような構成にすれば、第二撤去工程の手間と時間を短縮でき、施工スピードがより一層早くなる。
【0054】
また、前記実施形態では、凹部15,15間の道床コンクリート3を撤去する第二撤去工程を、支承体設置工程の後に行っているが、支承体設置工程と並行して行ってもよい。このようにすれば、施工時間をより一層短縮することができる。
【0055】
さらに、前記実施形態では、走行板10がプレキャストのコンクリート板にて構成されているがこれに限定されるものではない。走行板10は、鋼板や、複数の樹脂製のガラス長繊維強化プラスチック発泡体(FFU:Fiber reinforced Foamed Urethane)にて構成してもよい。FFUは、硬質ウレタン樹脂からなるプラスチック発泡体を無機繊維としてのガラス長繊維で補強して構成されており、例えばエスロンネオランバーFFU(積水化学工業株式会社製)を挙げることができる。鋼板やFFUによっても、強度と精度が高い走行板10を得られる。さらに、摩耗した走行板や劣化した桁材21および支承体10をそれぞれ独立して取り換えることが可能になるので、メンテナンスが容易になる。
【符号の説明】
【0056】
1 既設軌条
2 底版コンクリート(底板)
3 道床コンクリート
4 走行層
7 改修構造
10 支承体
15 凹部
20 桁体
21 桁材
22 走行板
26a 溝部
50 仮覆工