IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジェンザイム・コーポレーションの特許一覧

特許7414750酸性スフィンゴミエリナーゼ障害のマーカーおよびその使用
<>
  • 特許-酸性スフィンゴミエリナーゼ障害のマーカーおよびその使用 図1
  • 特許-酸性スフィンゴミエリナーゼ障害のマーカーおよびその使用 図2
  • 特許-酸性スフィンゴミエリナーゼ障害のマーカーおよびその使用 図3
  • 特許-酸性スフィンゴミエリナーゼ障害のマーカーおよびその使用 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】酸性スフィンゴミエリナーゼ障害のマーカーおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/46 20060101AFI20240109BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240109BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240109BHJP
   G01N 33/92 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20240109BHJP
【FI】
A61K38/46
A61P43/00 111
A61P3/00
G01N33/92 Z
C12N15/55
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021015390
(22)【出願日】2021-02-03
(62)【分割の表示】P 2018236856の分割
【原出願日】2014-06-06
(65)【公開番号】P2021075544
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】61/832,302
(32)【優先日】2013-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ウエイ-リエン・チュワーン
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド・エフ・コックス
(72)【発明者】
【氏名】エックス・ケイト・ジャーン
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-525963(JP,A)
【文献】国際公開第2013/072060(WO,A1)
【文献】特表2013-502933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/58
G01N 33/00-33/48
C12N 9/00- 9/99
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象における酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)欠乏を処置する方法で使用するための酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)欠乏治療薬であって、前記方法が、
(a)第1の用量濃度で治療薬を対象に投与すること;および
(b)投与後、対象における末梢レベルのlyso-スフィンゴミエリン(lyso-SPM)を測定することによって、投与の有害な副作用をモニタリングすることを含み、ここで、参照レベルと比較したlyso-SPMの該レベルの増加は、処置による副作用を示し、そして、治療薬が、組換えヒト酸性スフィンゴミエリナーゼ(rhASM)あるいは修飾rhASMを含む、前記治療薬。
【請求項2】
末梢レベルのlyso-SPMは、対象からの血液サンプルで測定される、請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
血液サンプルが、全血、乾燥血液スポット、血漿、または血清である、請求項2に記載の治療薬。
【請求項4】
参照レベルが、治療薬で処置前の対象のベースラインlyso-SPMレベルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項5】
ASM欠乏が、ニーマン・ピック病A型、B型またはC型である、請求項1~4のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項6】
方法が、(c)対象における末梢レベルのlyso-SPMに増加が観察される場合に、治療薬の投与を中止することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項7】
方法が、(c)対象における末梢レベルのlyso-SPMに増加が観察される場合に、対象に治療薬を第2の用量濃度(ここで、第2の用量濃度は第1の用量濃度と同一である)で投与することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項8】
方法が、(c)対象における末梢レベルのlyso-SPMに増加が観察される場合に、対象に治療薬を第2の用量濃度(ここで、第2の用量濃度は第1の用量濃度より低い)で投与することをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項9】
増加が約1.1~10倍である、請求項6~8のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項10】
工程(c)が工程(a)の2またはそれ以上の週の後に行われる、請求項7~9のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項11】
第1の用量濃度が、0.03mg/kg~3mg/kgである、請求項1~10のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項12】
第1の用量濃度が、0.03、0.1、0.3、0.6、1、2、または3mg/kgである、請求項11に記載の治療薬。
【請求項13】
第2の用量濃度が、0.1、0.3、0.6、1、2、または3mg/kgである、請求項7~12のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項14】
治療薬が対象に静脈内に投与される、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用するための治療薬。
【請求項15】
対象が、健康な対照に比べて上昇した末梢レベルのlyso-SPMを有することが処置前に決定される、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用するための治療薬。
【請求項16】
対象が成人患者である、請求項1~15のいずれか1項に記載の治療薬。
【請求項17】
対象が小児患者である、請求項1~15のいずれか1項に記載の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、2013年6月7日に出願した米国仮出願第61/832,302号の米国特許法第119条に基づく優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、ニーマン・ピック病などの酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)障害をスクリーニング、診断、モニタリングおよび/または処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)は、脳、肝臓、肺、脾臓およびリンパ節にみられるリン脂質蓄積物質であるスフィンゴミエリン(SPM)をセラミドとホスホリルコリンに加水分解するリソソームのホスホジエステラーゼ酵素である。ASM活性の欠乏は、身体がSPMを分解することを不能にする可能性がある。ASM障害の患者では、SPMは、主にマクロファージに蓄積するが、肝細胞および他の細胞型にも蓄積し、著明な肝脾腫大、血小板減少、間質性肺疾患および冠動脈疾患をきたす。SPMは、血漿、全血または尿中において有意に上昇せず、非侵襲性バイオマーカーとしての使用は限られる。
【0004】
現在、ASM障害の診断は、疑わしい臨床症候の評価、肝臓もしくは肺生検、血液サンプル中のASM活性の試験(偽陰性および陽性の症例が報告された場合)、および/または遺伝子検査(例えば、SMPD1遺伝子変異分析)などの、侵襲的検査および/または時間を要する検診を必要とする。ASM障害の処置は、補充酵素の投与を含む場合がある。高用量での酵素補充療法は、有毒または有害な代謝物の産生をきたす可能性がある。したがって、ASM障害をスクリーニング、診断および/または処置の過程をモニタリングするための改善された方法を開発する必要性が存在する。本明細書で開示されるのは、ASM障害を非侵襲的にスクリーニング、診断、治療法をモニタリング、および/またはASM障害を処置するための治療薬の用量を調整する方法であって、方法は生体サンプル中のlyso-SPM(スフィンゴシルホスフォリルコリンもしくはlyso-スフィンゴミエリン)のレベルを測定することを含む。高レベルのlyso-SPMは、ASM障害をスクリーニングまたは診断するために使用することができる。高レベルのlyso-SPMは、過剰に高用量の酵素補充療法に関連する1つまたはそれ以上の有毒な代謝物の産生のシグナルまたは指標として使用することもでき、これにより、該治療法の有害な副作用を回避しながら、SPMの蓄積を減少させる酵素療法の検量が可能になる。高レベルのlyso-SPMは、ASM障害の処置の過程の長期有効性をモニタリングするのに使用することもできる(例えば、lyso-SPMのレベルが処置の過程を通じて低下しない場合、このことは、無効な処置を示す可能性がある)。
【0005】
ニーマン・ピック病(NPD)は、遺伝的常染色体劣性の脂質蓄積症で、マクロファージおよびニューロンなどの細胞のリソソームへのSPMの過剰蓄積を特徴とし、これは正常な細胞機能を損なう。ニーマン・ピック病A型(「NPD-A」)は、乳児の急速進行性神経変性疾患であり、典型的には2~3歳までに死に至る。ニーマン・ピック病B型(「NPD-B」)は、肝臓と脾臓の肥大、および呼吸困難をもたらし、一般的に成人期早期までに死亡する。ニーマン・ピック病の他のタイプ、例えばC型(「NPD-C」)も、SPMおよび/またはlyso-SPMの蓄積に関連している。これらは、本明細書ではASM障害(ASMD)とも呼ぶ。ニーマン・ピック病のこれらの各形態は、本明細書では総称してニーマン・ピック病(NPD)と呼ぶ。
【0006】
NPDは、一般集団よりもアシュケナージ系ユダヤ人を祖先とする個体で発生頻度が高
い。アシュケナージ系ユダヤ人におけるNPD-Aの発生は約1/40,000で、遺伝子頻度(q)は約1/200、およびヘテロ接合体キャリア頻度(2pq)は1/100である(非特許文献1)。アシュケナージ系ユダヤ人集団におけるNPD-Bのヘテロ接合体キャリアの発生は、より頻度が低い(同上)。NPD A型およびB型を合わせたヘテロ接合体キャリア頻度は、アシュケナージ系ユダヤ人系統の個体において約1/70と推定されている(同上)。様々な国で行なわれた疫学研究では、世界のいくつかの国を総合したNPD A型およびB型の発生は、新生児で1/167,000~1/250,000の間であると推定されている(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。ヘテロ接合体キャリアの割合は、個体で1/200~1/250の間であると考えられている。
【0007】
NPD-AまたはNPD-Bのいずれかの患者は、残留ASM活性(正常の約1~10%)を有するが、これは、リソソーム内のスフィンゴミエリンの過剰蓄積を防ぐには十分ではない。さらに、NPD-Bの臨床経過は非常に変わりやすく、現在、疾患の重症度と残留ASM活性の相関関係を明らかにすることは不可能である。NPD-AまたはNPD-Bのいずれかに罹患している患者の酵素的診断は、血液サンプルで行うことができるが、この診断は、肝臓または肺生検など侵襲的手技が先行する場合が多い。さらに、偏性ヘテロ接合体の酵素的検出は、特に末梢白血球を酵素源として使用することに問題があることが証明された。1つには、一部のソースでの中性スフィンゴミエリナーゼの発生および/または変異対立遺伝子から生じる残留ASM活性の存在が、どちらかの疾患サブタイプに対して確実にはキャリアを判別できないことに寄与していることが考えられる。中性スフィンゴミエリナーゼを発現しない培養皮膚線維芽細胞を使用しても、ヘテロ接合体の明確な結果は得られていない。したがって、NPDなどのASM障害を正確に検出、スクリーニング、診断および処置する代替的な方法が求められている。
【0008】
酵素補充療法(ERT)は、様々なリソソーム蓄積病を処置するために使用されている。なかでもテイ・サックス、ポンペおよびニーマン・ピック病のERTを検討している、その全体が本明細書に組み込まれている、特許文献1および特許文献2を参照。ERTは、欠乏および/または欠損酵素を外部から供給された酵素で補充しようとするものである。ニーマン・ピック病のERTの場合、罹患している個体がスフィンゴミエリンを処理できるようにし、そのリソソーム内への蓄積を防止することが目標である。効果を得るには、このような療法は、まず蓄積したスフィンゴミエリンを分解するために十分に多量の補充酵素に加えて、スフィンゴミエリンのさらなる蓄積を防止するための補充酵素の継続的投与が必要である。しかしながら、蓄積したスフィンゴミエリンの代謝は、有毒または有害な代謝物の産生をもたらす可能性がある。したがって、有害な副作用をもたらすおそれがある高レベルの代謝物を生じることなく、患者において蓄積したスフィンゴミエリンを効果的に減量するために、ERTの慎重な調整が必要である。
【0009】
前述のように、SPMは、血漿、全血または尿中において有意に上昇せず、ASM障害をスクリーニング、診断または処置をモニタリングするための非侵襲性バイオマーカーとしての使用は限られる。本明細書に開示されるように、SPMの脱アシル化形態である、lyso-SPM(スフィンゴシルホスフォリルコリンもしくはlyso-スフィンゴミエリン)は、ASM障害を有するおよび/またはASM障害の処置を受けている患者の末梢組織を含む組織中で有意に上昇し、ASM障害をスクリーニング、診断および/またはASM障害の処置をモニタリングするための有望なマーカーとなる。血漿中のアシル化および脱アシル化スフィンゴ糖脂質の両方のレベルの変化が検出可能であるという、この二分法は、多くの他のリソソーム蓄積障害とは対照的である。ASM障害を有するまたはASM障害の処置を受けている患者の血漿中においてSPMのレベルの変化が検出できないということをふまえて、lyso-SPMも同様に、スクリーニング、診断または処置のモニタリングには適していないことが想定されたかもしれなかった。しかしながら、本明
細書で開示されるように、lyso-SPMは、血漿などの末梢組織を含む様々な組織からの生体サンプルにおいて異なるレベルで検出されることが見出されている。
【0010】
lyso-SPMを含むlyso-スフィンゴ脂質(lyso-SL)は、スフィンゴ脂質の脱アシル化形態であり;数種類が、いくつかのリソソーム蓄積障害において上昇することが示されている。非特許文献5。lyso-SPMおよび他のlyso-SLが産生される機序は、十分に解明されていない。スフィンゴシンに同時的な上昇がみられないことは、対応するスフィンゴ脂質の脱アシル化が、可能性のある生成の経路であることを示唆する。しかしながら、現在までのところ確認されているスフィンゴミエリンデアシラーゼのみが、アトピー性皮膚炎対象の角質層に由来する。非特許文献6。このデアシラーゼの発現は、いくつかの生理学的条件下で選択された細胞型に限定されるように思われる。胎盤、脳および尿からの精製されたASMは、lyso-SPMを加水分解しないことが示されている。非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9。lyso-SPMの生合成経路に関する理解が進んでいないことは、推測的にASM障害を有する患者におけるlyso-SPMの発現レベルを予測することが困難であることをさらに強調する。
【0011】
lyso-SPMは、リゾホスホリパーゼD活性を有する細胞外酵素であるオートタキシンを介してスフィンゴシン-1-リン酸へ速やかに代謝されるために、in vitroにおける血中の半減期が短い。非特許文献10;非特許文献11。NPD-B患者の脾臓および肝臓、ならびに、ASM活性がわずかであるかまたは無く、重篤な神経障害性疾患を発現するNPD-A対象の脳を除き、他の臓器におけるlyso-SPMのレベルに関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第7,001,994号
【文献】米国特許出願第2011/0052559号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Goodman、1979年「Genetic Disorders Among The Jewish People」、John Hopkins Univ. Press、Baltimore、96~100頁
【文献】Miekleら、1999年 JAMA 281(3):249~254頁
【文献】Poorthuisら、1999年 Hum. Genet. 105:151~156頁
【文献】Pintoら、2004年 Euro. J. Hum. Gene. 12:87~92頁
【文献】Galbiatiら、「Combined hematopoietic and lentiviral gene-transfer therapies in newborn Twitcher mice reveal contemporaneous neurodegeneration and demyelination in Krabbe disease」、J.Neurosci.Res.87:1748~1759頁(2009)
【文献】Murataら、「Abnormal expression of sphingomyelin acylase in atopic dermatitis:an etiologic factor for ceramide deficiency?」、J.Invest.Dermatol.106:1242~1249頁(1996)
【文献】Pentchevら、「The isolation and characterization of sphingomyelinase from human placental tissue」、Biochim.Biophys.Acta.488:312~321頁(1977)
【文献】Yamanaka and Suzuki、「Acid sphingomyelinase of human brain:purification to homogeneity」、J.Neurochem.38:1753~1764頁(1982)
【文献】Quinternら、「Acid sphingomyelinase from human urine:purification and characterization」、Biochim.Biophys. Acta. 922:323~336頁(1987)
【文献】Tokumuraら、「Identification of human plasma lysophospholipase D, a lysophosphatidic acid-producing enzyme, as autotaxin, a multifunctional phosphodiesterase」、J. Biol. Chem. 277:39436~39442頁(2002)
【文献】Clairら、「Autotaxin hydrolyzes sphingosylphosphorylcholine to produce the regulator of migration, sphingosine-1-phosphate」、Cancer Res. 63:5446~5453頁(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本明細書で開示されるように、lyso-SPMは、ASM障害を有するおよび/または処置を受けている患者からの生体サンプル(例えば、末梢組織から採取されたサンプル)において濃度の変化で検出される。レベルの変化は、処置の一過性の効果を反映する可能性がある(例えば、lyso-SPMレベルは、ERTに反応した急性毒性代謝物の産生のマーカーとしての役割を果たす可能性がある)。レベルの変化は、診断的に使用することもできる(例えば、lyso-SPMレベルの変化は、ASM障害を患う症候性または発症前の対象を特定するための診断またはスクリーニングマーカーとしての役割を果たす可能性がある)。レベルの変化は、ASM障害の処置の過程の長期有効性をモニタリングするために使用することもできる(例えば、lyso-SPMのレベルが処置の過程を通じて低下しない場合、このことは、無効な処置を示す可能性がある)。したがって、本明細書で開示されるのは、lyso-SPM(スフィンゴシルホスフォリルコリンもしくはlyso-スフィンゴミエリン)を含む新規バイオマーカーを使用して、NPDなどのASM障害をスクリーニング、診断、処置の進行をモニタリングおよび/またはASM障害の処置の治療薬の用量を調整する新たな方法である。処置の過程をモニタリングすることは、処置の過程を通じて毒性に関する1つまたはそれ以上のマーカー(例えば、lyso-SPM)のレベルの減少を検出することを含み、これにより、有効な処置計画であることが示され、または、経時的にマーカーのレベルに変化がみられないことが検出され、これにより、レジメンが無効であることが示される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本明細書で開示される方法は、酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)障害を有するヒト対象を処置する方法も含む。いくつかの態様では、方法は、対象に、第1の濃度を有する、ASM障害を処置するための第1の用量の治療薬を投与すること;および対象が第1の用量の投与後、参照レベル以下のlyso-SPMのレベルを有することが決定された場合、対象に、第1の濃度以上の第2の濃度を有する第2の用量の治療薬を投与すること
を含む。方法は、末梢組織からの生体サンプルにおいてlyso-SPMを測定すること、およびlyso-SPMレベルの変化を検出することにより、ASM障害を有する患者を特定することを含む。方法は、治療薬、例えば、患者の組織におけるSPMレベルを減少させる薬剤を用いて、患者を処置する結果として変化するlyso-SPMを含む1つまたはそれ以上の毒性マーカーのレベルを検出することによって、ASM障害の患者の処置をモニタリングまたは調整することも含む。方法によって、このような患者の非侵襲的評価が可能になる。
【0016】
本明細書で開示される方法は、一部の実施形態では、NPDなどのASM障害をスクリーニング、診断、処置の進行をモニタリング、および/または処置を調整するために使用することもできる。例えば、方法は、処置に起因する有毒な代謝物のレベルを管理するために、毒性マーカー(例えば、lyso-SPM)を測定することによって、ASM障害を処置するために患者に与えられる治療薬の用量を調整することを含む。本明細書で開示される方法は、一部の実施形態では、ASM障害の処置の過程の長期有効性をモニタリングするために使用することもできる(例えば、lyso-SPMのレベルが処置の過程を通じて低下しない場合、このことは、無効な処置を示す可能性がある)。本明細書で開示される方法は、一部の実施形態では、ASM障害の初期の徴候としてlyso-SPMの上昇について対象(例えば、発症前の患者)をスクリーニングするために使用することもできる。スクリーニングにおいてlyso-SPMの上昇がみられるとして特定された対象は、その後、ASM障害を診断/診断を確定するために、追加的な評価(例えば、ASM血液検査、遺伝子検査など)にかけられ、一方、lyso-SPMの上昇がみられなかった対象については、追加的な評価にかけられない。このようなスクリーニングは、潜在的に検査費用を軽減する可能性がある。
【0017】
本明細書で開示される方法は、ヒト対象からの生体サンプル中のlyso-SPMの測定、およびlyso-SPMの測定レベルに基づいて至適化された濃度でASM障害を処置するための治療薬の投与(例えば、ERT、シャペロン療法、および/または基質減少療法)を含むことができる。様々な実施形態では、生体サンプルは、末梢サンプルである。いくつかの実施形態では、生体サンプルは、血漿、全血(例えば、乾燥血液スポット)、血清および/または尿のサンプルとすることができる。末梢サンプルを使用してlyso-SPMレベルを測定することは、肝生検などの侵襲的手技の必要性を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1Aは、NPD-AおよびNPD-B患者からの乾燥血液スポット(DBS)中のSPM濃度と、正常な対照サンプルからのDBS中の平均濃度値の比を示すプロットである。図1Bは、NPD-AおよびNPD-B患者からのDBS中のlyso-SPM濃度と、正常な対照サンプルからのDBS中の平均濃度値の比を示すプロットである。
図2】0、3または20mg/kgのrhASMの単回投与から5分後の濃度と比較した、指定の時点(投与から1、2、4、6、24、48および72時間後)でのASMノックアウトマウスからのDBS中のlyso-SPM濃度(縦軸)の上昇倍数を示すヒストグラムである。
図3】rhASMの単回用量(10mg/kg)または減量投与レジメン(3mg/kg)に続いて20mg/kgの用量のrhASMの投与後の野生型(C57BL/6)またはASMノックアウト(ASMKO)マウスから採取したDBS中のlyso-SPMの濃度(ng/ml)を示す。血液サンプルを、以下の時点:投与から5分後、4時間後、6時間後、24時間後および72時間後で採取した。10mg/kg投与群の動物は、24時間経過後に安楽死させた。
図4】26週間にわたって、rhASMの投与前、rhASMの投与から24、48および72時間後に採取されたヒトニーマン・ピック患者からのDBS中のlyso-SPMの濃度(ng/ml)を示すヒストグラムである。用量(0.1、0.3、0.6、1、2または3mg/kg)および投与日(初日、第2、4、6、8、10、12、14および26週)を横軸に示す。第26週では、投与前、および投与から24および48時間後にのみサンプルを採取した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここで、本開示に係るいくつかの例示的な実施形態に対して参照が詳細になされ、これらの実施形態のいくつかの例が、添付の図面において説明される。可能な場合、同じ参照番号が、図面全体を通して、同じまたは類似の部分を指すために使用される。
【0020】
本出願では、単数形の使用は、具体的に別段の記載がないかぎり、複数形を含む。本出願では、「または」の使用は、別段の記載がないかぎり、「および/または」を意味する。さらに、「含む(including)」という用語、ならびに「含む(includes)」および「含む(included)」などの他の形態の使用は、限定するものではない。本明細書に記載の任意の範囲は、端点と端点の間のすべての値を含むことが理解されるであろう。
【0021】
本明細書において使用されるセクションの見出しは、単に構成上の目的にすぎず、説明される主題を限定するものとして解されるべきではない。本出願において引用される、特許、特許出願、記事、書籍および学術論文を含むが、それだけには限定されないすべての文献、または文献の一部は、任意の目的のために、参照によりその内容全体が明示的に本明細書に組み込まれている。
【0022】
本明細書で開示されるのは、NPDなどのASM障害をスクリーニング、診断、処置の進行をモニタリング、および/または処置するための治療薬の用量を調整する方法である。「ASM障害」は、酸スフィンゴミエリナーゼの発現減少または機能障害に関連する任意の障害を包含し得る。ASM障害は、組織中のスフィンゴミエリンの蓄積に関連する任意の他の障害も包含し得る。
【0023】
一部の実施形態では、方法は、対象に、第1の濃度を有する、ASM障害を処置するための第1の用量の治療薬を投与すること;および対象が第1の用量の投与後、参照(例えば、ASM障害を有していない対照対象からのサンプル中のレベル、または処置前の患者において測定されたベースラインレベル)レベル以下のlyso-SPMのレベルを有することが決定された場合、対象に、第1の濃度以上の第2の濃度を有する第2の用量の治療薬を投与することを含む。
【0024】
いくつかの態様では、方法は、ヒト対象からの生体サンプル中のlyso-スフィンゴミエリン(lyso-SPM)を採取し、測定することを含む。測定されたlyso-SPMのレベルは、ASM障害をスクリーニング、診断、処置の進行のモニタリング、および/または処置するための治療薬の用量を調整するために使用することもできる。方法は、NPDなどのASM障害の患者の末梢組織からの生体サンプルにおいてlyso-SPMが有意に上昇するという発見に基づいており、ASM障害をスクリーニングおよび診断すること、ならびにASM障害のための治療法をモニタリング/検量/管理することを含めて、このような患者の非侵襲的評価を可能にする。方法は、蓄積ASMが処置中に分解されることで、有毒または有害な代謝物の産生を知らせるマーカー(例えば、lyso-SPM)のレベルが上昇する可能性があること、および、これらの代謝物の有害なレベルが、過剰な代謝物産生を防止する用量でSPMのレベルを抑制するようにデザインされた治療薬を投与する方法(例えば、ERT、シャペロン療法および/または基質減少療法)によって回避できるという発見にも基づく。lyso-SPMの濃度上昇の測定は、その
ような代謝物の産生を検出するために使用することができ、過度に高レベル(例えば、毒性レベル)の代謝物の産生を回避するように治療法を検量するために使用することができる。いくつかの実施形態では、ASM障害の処置を受けている患者におけるlyso-SPMのレベルは、用量を増量、減量、反復、遅延または中止するかどうかを決定する。
【0025】
ASM障害を有する対象(例えば、NPD患者)における高lyso-SPMレベルの検出は、処置の間の有害な副作用をモニタリングする方法の一部として使用することができる。例えば、方法は、対象から生体サンプルを採取すること、サンプル中のlyso-スフィンゴミエリン(lyso-SPM)のレベルを測定すること、サンプル中の測定したlyso-SPMのレベルを参照レベルと比較すること、およびサンプル中のlyso-SPMのレベルが上昇する場合、有害な副作用を検出することを含むことができる。一部の実施形態では、参照サンプル(例えば、ASM障害を有していない対照対象からのサンプル中の参照レベル)と比べてlyso-SPMのレベルが所定の量だけ上昇する場合、または、処置の過程を通じて経時的に対象においてlyso-SPMのレベルが所定の量だけ上昇する場合(すなわち、本明細書では参照レベルとも呼ぶ処置前の患者において測定されたベースラインレベルを上回る上昇)、測定したlyso-SPMのレベルを、処置による有害な副作用の指標として使用することができる。一部の実施形態では、処置は、酵素補充療法(ERT)であり、ERTの投与量は、患者から1つまたはそれ以上の生体サンプルを採取すること、lyso-SPMの上昇について各サンプルを検査すること、および所定の閾値を超える高lyso-SPMレベルをもたらさないレベルへERTの用量を設定することによって管理される。治療薬の用量を管理することは、治療薬の濃度を増加、減少もしくは維持する、および/または処置を中止することを含むことができる。いくつかの実施形態では、ある用量の治療薬を投与した後、および/または、治療薬の後続の用量の投与直前に、1つまたはそれ以上の生体サンプルを採取する。一部の実施形態では、生体サンプル(例えば、血漿、血清または乾燥血液スポットなどの血液サンプル)中のlyso-SPMのレベルが、約100~700ng/mlの参照レベルよりも高い(例えば、約100、200、250、300、400、500、600もしくは700ng/mlまたは中間の任意の濃度よりも高い)場合、または生体サンプル中のlyso-SPMのレベルが、参照レベルよりも少なくとも約1.1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5もしくは10倍以上(または中間の任意の値)上昇する場合、有害な副作用が検出される可能性がある。例えば、該上昇は、少なくとも約3倍である。参照レベルは、例えば、ASM障害を有していない対照対象からのサンプル中のレベル、または治療薬のある用量を用いた処置の前の患者において測定されたベースラインレベルとすることができる。
【0026】
さらに本明細書で開示されるのは、ASM障害(例えば、NPD)を有する対象を処置する方法である。様々な実施形態では、方法は、濃度を増加させて連続用量でASM障害を処置するための治療薬を投与すること(例えば、ERT、シャペロン療法、および/または基質減少療法)ならびに各投与後(例えば、投与から1分、5分、10分、30分もしくは45分後、または1、2、3、4、5、10、12、15もしくは20時間後、または1日、2日、5日、1週間、2週間、3週間もしくは4週間後、または中間の任意の時点で)または次回用量の直前の生体サンプル中の高lyso-SPMレベルについて対象をモニタリングすることを含む。対象のモニタリングは、対象から生体サンプルを採取すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを測定すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを参照レベル(例えば、ASM障害を有していないドナーからのサンプル中のレベル、または処置前のASM患者におけるレベル)と比較すること、および参照レベルと比べた場合のサンプル中の高lyso-SPMレベルを検出することを含むことができる。一部の実施形態では、参照レベルは、ASM障害を有していない対照対象からの生体サンプルにおいて測定されたlyso-SPMのレベルである。一部の実施形態では、参照レベルは、初回低用量のERTの投与後、または任意のERTの投与前に、対
象から採取された生体サンプルにおいて測定されたlyso-SPMのレベルである。一部の実施形態では、生体サンプル(例えば、血清サンプル、血漿サンプルまたは乾燥血液スポットなどの血液サンプル)中のlyso-SPMのレベル上昇は、例えば、約100~700ng/mlの参照レベルを超えるレベルである。一部の実施形態では、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中のlyso-SPMのレベル上昇は、参照レベルよりも少なくとも約1.1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5もしくは10倍以上(または中間の任意の値)である。例えば、該レベルは、少なくとも約3倍高い。一部の実施形態では、前回の用量の投与後にlyso-SPMのレベル上昇が検出される場合、高濃度の用量のERTは投与されない。
【0027】
治療法および治療方法のモニタリングに加えて、本明細書で開示されるのは、対象におけるASM障害(例えば、NPD)をスクリーニングおよび/または診断する方法である。様々な実施形態では、方法は、対象から生体サンプルを採取すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを測定すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを参照レベルと比較すること、およびサンプル中のlyso-SPMのレベルが参照サンプルに比べて上昇する場合、ASM障害を検出/診断することを含む。一部の実施形態では、参照サンプルは、ASM障害を有していない対照対象からのサンプルである。一部の実施形態では、生体サンプル(例えば、血漿サンプル、血清サンプルまたは乾燥血液スポットなどの血液サンプル)中のlyso-SPMのレベルが、参照レベルよりも少なくとも約1.1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5もしくは10倍以上(または中間の任意の値)高い場合、または少なくとも約200ng/ml、少なくとも約250ng/ml、少なくとも約300ng/ml、少なくとも約400ng/ml、少なくとも約500ng/ml、少なくとも約525ng/ml、少なくとも約575ng/ml、少なくとも約700ng/ml、および/もしくは少なくとも約900ng/mlなど、少なくとも約200~2000ng/mlの参照レベルよりも高い(例えば、約200、250、300、350、400、450、500、525、550、575、600、625、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900もしくは2000ng/ml、または中間の任意の濃度を超える)場合、ASM障害をスクリーニングおよび/または診断することができる。一部の実施形態では、正常な対象からの生体サンプルは、約25~200ng/mlの範囲(例えば、約25、50、75、100、125、150、175または200ng/ml、または中間の任意の濃度)でlyso-SPMレベルを含む可能性がある。
【0028】
lyso-SPMの測定
lyso-SPMの化学構造の検討については、Itoら、J. Biol. Chem. 270:24370-4(1995)を参照;Caymen Chemical Co.のカタログ:https://www.caymanchem.com/app/template/Product.vm/catalog/10007947に提示されている、Caymen Chemical Co. Item Number 10007947も参照。
【0029】
本明細書で開示される方法は、末梢組織からのサンプルを含む、様々な生体サンプルからのlyso-SPMの測定に関わる。生体サンプルを採取、調製、および生体サンプルからのlyso-SPMのレベルを定量化するための任意の方法を使用することができる。生体サンプル中のlyso-SPMのレベルは、LC/MS/MSなどの質量分析装置、またはUV-VIS、IRもしくはNMRなどの電磁波周波数分析装置のような分光計を使用して定量化することができる。一部の実施形態では、lyso-SPMのレベルを
定量化する方法は、生体サンプルを採取すること(例えば、動脈または静脈穿刺、組織生検、頬側口腔検体拭き取り、尿サンプルなどによる)、サンプル中の他の成分からlyso-SPMを検出および/または分離すること(例えば、抗体、指標化学物質、LC/MS/MSなどの質量分析装置、またはUV-VIS、IRもしくはNMRなどの電磁波周波数分析装置を使用)、ならびにlyso-SPMのレベルを参照サンプル中のレベルと比較することを含むことができる。
【0030】
lyso-SPMレベルは、本明細書に記載の方法を用いて、様々な組織からの生体サンプルにおいて測定することができる。例えば、血漿、全血(例えば、乾燥血液スポット)、血清、皮膚および/または尿などの末梢組織からの生体サンプルを、高lyso-SPMレベルを検出する際の使用のために、採取することができる。他の組織、例えば、脾臓、肺、心臓、肝臓、腎臓および/または脳組織からの生体サンプルも使用することができる。2つまたはそれ以上の組織(例えば、2、3、4、5つまたはそれ以上の組織)の組合せからのサンプルを使用することができる。一部の実施形態では、末梢組織からの生体サンプルの使用は、肝生検などの侵襲的手技の必要性を回避することができる。
【0031】
一部の実施形態では、生体サンプルは、サンプル中のlyso-SPMの検出および/または測定の前に、1つまたはそれ以上の前処理工程にかけられる。一部の実施形態では、サンプルは、遠心分離、ろ過、沈殿、透析、もしくはクロマトグラフィー、またはそのような前処理工程の組合せにより前処理される。他の実施形態では、サンプルは、凍結、化学的固定、パラフィン包埋、脱水、透過処理および/または均質化に続き、遠心分離、ろ過、沈殿、透析および/またはクロマトグラフィーにより前処理される。いくつかの実施形態では、サンプルは、lyso-SPMの評価の前に、サンプルからある一定の型の細胞を除去すること、またはサンプルから壊死組織片を除去することにより、前処理される。
【0032】
様々な実施形態では、生体サンプルは、サンプル中の1つまたはそれ以上のマーカーのレベルを定量化または半定量化するためのデバイスを使用して評価する。例えば、サンプル中のlyso-SPMおよび/または他のマーカーのレベルは、定量的または半定量的に評価することができる。一部の実施形態では、タンデム液体クロマトグラフィー-質量分析(例えば、LC/MS/MS)などの生体サンプル中のlyso-SPMおよび/または他のマーカーのレベルを定量化するためのデバイスを使用することができる。一部の実施形態では、生体サンプル中のlyso-SPMおよび/または他のマーカーに結合する1つまたはそれ以上の抗体もしくは他の検出剤を使用することができる。検出剤と反応して、その強度、輝度、色などを、サンプル中のlyso-SPMおよび/または他のマーカーのレベルを定量的または半定量的に決定するために使用することができる検出可能なシグナルを発する1つまたはそれ以上の薬剤(例えば、比色分析剤)を適用することができる(例えば、1つまたはそれ以上の参照サンプルからのシグナルと比較することによる)。例えば、ELISA、免疫沈降およびウエスタンブロットなどの免疫測定法、ならびに蛍光標識細胞分取(FACS)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、RT-PCRおよび/またはノーザンブロット法などの、生体サンプル中のlyso-SPMおよび/または他のマーカーを定量化するためのさらなる方法も使用することができる。
【0033】
ASM障害の処置の管理
様々な実施形態では、ASM障害の治療法の一部としてlyso-SPMレベルを測定することができる。例えば、ASM障害は、ニーマン・ピック病(NPD)、例えば、NPD-A、NPD-BまたはNPD-Cである。ASM障害の治療法は、患者の組織中のSPMのレベルを減少させる1つまたはそれ以上の治療薬の投与(例えば、ERT、シャペロン療法、および/または基質減少療法)を含むことができる。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許第2011/0052559号に開示され
ているASM用量漸増法(例えば、用量漸増プロトコールを記載する段落[0063]~[0075]を参照)などの、患者内用量漸増酵素補充療法(ERT)を使用することもできる。
【0034】
様々な実施形態では、ASM障害の用量漸増療法の間、lyso-SPMなどのマーカーをモニタリングすることにより、有害な副作用(例えば、有毒または有害なレベルの代謝物の産生)について対象をモニタリングする方法が開示される。方法は、対象から生体サンプルを採取すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを測定すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを参照レベルと比較すること、およびサンプル中のlyso-SPMのレベルが参照サンプルに比べて上昇している場合、有害な副作用を検出することを含むことができる。1つまたはそれ以上のサンプルは、治療薬のある用量の投与後、または次回用量の投与前に、採取および評価することができる。例えば、サンプルは、ある治療用量の投与から1分、5分、10分、30分もしくは45分後、または1、2、3、5、10、12、15もしくは20時間後、または1、2、3、4、5日後、または1、2、3もしくは4週間後、または中間の任意の時点で、または次回用量の投与前に、採取および評価することができる。一部の実施形態では、参照サンプルは、ASM障害を有していない対照対象からのサンプルである。一部の実施形態では、参照サンプルは、高濃度用量の治療薬の投与前(または任意の治療薬の投与前)の、対象からの初期の生体サンプルである。一部の実施形態では、lyso-SPMのレベルが、治療薬の初回用量の投与後、または治療薬の増加(すなわち高濃度)用量(例えば、高濃度のERT)の投与後、参照サンプル中のレベルに比べて、所定の量増加するまたは所定の閾値を超えて増加する場合、これは、処置による有害な副作用の表示として使用することができる。いくつかの実施形態では、lyso-SPMのレベルが増加しない、または閾値レベルを超えて増加しない場合、これは、有害な副作用が生じていないことの表示として使用することができる。
【0035】
様々な実施形態では、ASM障害の治療法が提供される。該治療法は、患者の組織中のSPMのレベルを減少させる1つまたはそれ以上の治療薬の投与を含むことができる(例えば、ERT、シャペロン療法、および/または基質減少療法)。いくつかの実施形態では、治療法は、ERT(例えば、ASM補充療法)を含むことができる。治療法は、治療法の間のlyso-SPMのレベル上昇について対象をモニタリングすること、および治療薬の濃度(例えば、ERTの用量の濃度)を調整してlyso-SPMレベルを所定の閾値レベル未満に減少させることを含むことができる。一部の実施形態では、モニタリングすることは、治療薬の各用量の投与後、または治療薬の各後続用量の投与前、lyso-SPMのレベル上昇についてサンプルを評価することを含む。いくつかの実施形態では、各用量後にモニタリングすることは任意であり、治療薬の一定回数の用量後、または治療薬の一定回数の後続用量前に、定期的に行われる。
【0036】
一部の実施形態では、治療法は、濃度を増加させて連続用量でERT(例えば、ASM補充療法)を投与すること、一定回数の用量後(例えば、各用量後または各後続用量の前)に患者から生体サンプルを採取すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを(例えば、LC/MS/MSを使用して)検出すること、および各用量後または次回用量の投与前に、高lyso-SPMレベルについて対象をモニタリングすることを含むことができる。例えば、生体サンプルは、ある用量のERTが投与されてから1分、5分、10分、30分もしくは45分後、もしくは1、2、3、5、10、12、15もしくは20時間後、もしくは1、2、3、4、5日後、もしくは1、2、3もしくは4週間後、もしくは中間の任意の時点で、または次回用量の投与前に、採取およびモニタリングすることができる。対象をモニタリングすることは、対象から生体サンプルを採取すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを測定すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを参照レベルと比較すること、およびサンプル中のlyso-SPMのレベルが参照
サンプルと比べて所定の量だけ上昇する場合、ERTの用量を調整することを含むことができる。一部の実施形態では、参照サンプルは、ASM障害を有していない対照対象からのサンプルである。一部の実施形態では、参照サンプルは、高濃度用量のERTの投与前(または任意のERTの投与前)の、対象からの初期の生体サンプルである。一部の実施形態では、lyso-SPMのレベルが対象サンプルにおいて所定の量だけ増加、および/または参照閾値よりも高い場合、これは、有毒または有害レベルの代謝物の産生を回避するために、ERT投与量を減量、遅延または終了することを要することの表示として使用することができる。一部の実施形態では、lyso-SPMのレベルが閾値以下である場合、等しいまたはより高い濃度の後続用量を投与することができる。
【0037】
様々な実施形態では、蓄積したSPMの急速な加水分解に起因する有毒または有害なレベルの代謝物を産生することなく、蓄積したSPMを減量させるために、経時的に用量を増加させながらERTを対象に投与することを含む、用量漸増療法が提供される。一部の実施形態では、高lyso-SPMが有毒または有害なレベルの代謝物の産生を示す可能性があることから、用量漸増療法の間、患者からの生体サンプルをlyso-SPMのレベル上昇についてモニタリングする。一部の実施形態では、閾値濃度を超えるlyso-SPMのレベルが検出される場合、または前回のサンプル中のレベルと比べてlyso-SPMレベルの大幅な増加が検出される場合、ERTの増量を遅延するかまたは投与しない。ERTは、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、肺内、局所的、鼻腔内、頭蓋内、または筋肉内を含む、治療効果を達成するのに適した任意の経路で投与することができる。
【0038】
一部の実施形態では、ERTは、組換えヒトASM(rhASM)などの酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の投与を含むことができ、または、ERTは、修飾ASM(例えば、修飾rhASM)の投与を含むことができる。修飾ASMは、リソソームスフィンゴミエリンをセラミドとホスホリルコリンに加水分解する酵素の能力を著しく改変しない、酵素に対する任意の修飾を含むことができる(例えば、修飾ASMは、未修飾ASMの酵素活性の少なくとも約20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、99.5もしくは99.9%、または中間の任意の百分率を示す)。修飾ASMの加水分解能力は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許第4,039,388号、第4,082,781号、第5,686,240号および第7,563,591号、ならびに国際出願番号WO2007/078806およびWO2006/058385に記載されているものなど、当業者に周知の技術により評価することができる。
【0039】
一部の実施形態では、ERTは、組換えヒトASM(rhASM)または修飾rhASMの投与を含むことができる。当技術分野において周知の様々なASMアイソフォームが存在し、これらのすべてを本明細書に開示される方法において使用することができる。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国出願第2011/0052559号を参照(例えば、段落[108]~[0117]および[0124]~[0127]の、ヒトASMアイソフォームおよびその酵素抱合体ならびにERTでのこれらの使用の検討を参照)。
【0040】
一部の実施形態では、酵素補充療法は、非毒性の初回低用量の後、後続の投与では漸増して対象に投与される。対象が有毒または有害なレベルの代謝物を産生することなく(例えば、lyso-SPMなどの毒性マーカーのレベルをモニタリングすることにより検出されるような)忍容できる酵素の最大用量を、その後、維持用量として使用することができる。代替として、最大忍容用量未満の治療効果のある用量を維持用量として使用することができる。治療効果のある用量は、1回またはそれ以上の回数の投与の後、ASM対象の蓄積スフィンゴミエリンの濃度を、少なくとも約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは99%(または中間の任意の百分率)減少させるのに十分な任意の用量を含むことが
できる。
【0041】
NPDなどのASM障害の処置は、病変臓器(例えば、脾臓、肺、肝臓、心臓、腎臓および脳)における治療薬の適正分布を達成するのに十分な高用量の治療薬(例えば、ERT、シャペロン療法、および/または基質減少療法)を必要とする。ASMノックアウトマウスに組換えヒトASMを静脈内投与した後、ASM活性のほとんどは肝臓に分布し、わずかなASM酵素活性が、脾臓、心臓、腎臓および肺などの他の臓器で検出されることが示されている。例えば、Heら、Biochimia et Biophsyica Acta 1432:251~264頁(1999)を参照。そのため、NPDなどのASM障害を有する対象の、例えば肺、肝臓、心臓および腎臓における適正な分布および送達を確実にするために、高濃度の治療薬(例えば、高濃度の補充酵素)の投与が必要となる。
【0042】
ASMノックアウトマウスでの研究によって、十分に高用量での酵素補充療法がスフィンゴミエリンの有毒または逆に有害な代謝物の産生をもたらす可能性があることも示された。例えば、C.Nickersonら、American Society of Human Genetics (2005);およびJ.Murrayら、Society of Toxicology (2006)を参照。理論に拘束されるものではないが、NPD対象への高用量のASMの投与は、大量の蓄積スフィンゴミエリンのセラミドおよびホスホリルコリンへの加水分解をもたらす可能性がある。セラミドは細胞死で役割を果たすことが知られており、プロアポトーシス剤である可能性があることが知られている。例えば、Smith and Schuchman、FASEB 22:3419-3431頁(2008)を参照。したがって、セラミドは、ASMノックアウトマウスおよびNPD対象において観察される有毒な副作用を引き起こす可能性がある。
【0043】
したがって、過剰な濃度の毒性代謝物の産生も回避しながら、病変臓器全体におけるリソソームスフィンゴミエリンの今後の蓄積を減量および防止するのに十分な濃度の治療薬を提供するために、治療法(例えば、ERT、シャペロン療法、および/または基質減少療法)の検量および調整が必要とされる。一部の実施形態では、この調整は、一定回数の用量後または毎用量後に患者サンプル中のlyso-SPMなどの毒性マーカーのレベルを評価することによって用量漸増プロトコールを管理すること、および必要に応じて本明細書に記載の投与レジメンを調整することを通じてなされる。治療薬の用量を管理することは、治療薬の濃度を増大、減少もしくは維持すること、および/または処置を中止することを含むことができる。
【0044】
様々な実施形態では、処置の用量漸増法は、対象に蓄積したスフィンゴミエリンの量を減少させるために、1回またはそれ以上の回数の初回低用量の治療薬(例えば、補充酵素)を対象に投与することを含む。その後、対象が忍容性を示し、治療効果のある最高用量に達するまで、治療薬の用量を系統的により高い濃度で投与することができる。一部の実施形態では、治療薬は、補充酵素(例えば、rhASM)であり、1つまたはそれ以上の病変臓器(例えば、ASM障害を有する患者においてSPMのリソソームレベルの上昇を示す臓器)における酵素活性が、ASM障害を有していない対象(例えば、健常者)の対応する臓器における活性の活性レベルの少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、75%、80%、85%、90%、95%(または、中間の任意の百分率)となるように投与される。
【0045】
一部の実施形態では、ASM障害を処置する方法は、(a)(i)初回低用量のrhASMまたは修飾rhASMを対象に投与すること;および(ii)後続のより高い用量のrhASMまたは修飾rhASMを対象に投与すること(用量漸増)を含む、対象の蓄積
スフィンゴミエリン基質を減量するための酵素補充レジメンを投与すること;(b)工程(a)(i)および(a)(ii)での一定回数の用量後または各用量後、lyso-SPMレベルの上昇および/または有害な副作用に関する1つまたはそれ以上の追加のマーカーについて対象をモニタリングすること(例えば、lyso-SPM濃度を定量化するためにLC/MS/MSを使用);(c)lyso-SPMレベルの上昇が検出された後、および/または1つもしくはそれ以上の追加の有害な副作用が検出された後、用量漸増プロトコールを反復、減量および/または終了することを含むことができる。いくつかの実施形態では、対象が忍容性を示した最高用量以下の用量を維持用量として患者に投与すること、および、場合により、維持レジメンの投与の間、lyso-SPMレベルの上昇をモニタリングすることをさらに含む。いくつかの実施形態では、rhASMまたは修飾rhASMの初回用量の範囲は、約0.03mg/kg~約1.0mg/kg、または約0.1mg/kg~約0.5mg/kg(用量の濃度は、体重1kgに対する酵素mgとして測定される)とすることができる。一部の実施形態では、前回の用量から約1、2、3、4、5、6もしくは7日後、または1、2、3、4もしくは5週間後に、酵素濃度を増加させた各後続用量が投与される。一部の実施形態では、濃度を増加させた酵素の後続用量は、約0.1および5mg/kgの間(例えば、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5もしくは5mg/kg、または中間の任意の濃度)とすることができる。
【0046】
一部の実施形態では、次回のより高い濃度用量が投与される前に、所与の濃度の補充酵素の用量が、少なくとも2回(例えば、少なくとも2、3、4または5回)投与される。いくつかの実施形態では、後続のより高い用量は、前回の用量よりも約0.03mg/kg、0.05mg/kg、0.1mg/kg、0.2mg/kg、0.3mg/kg、0.4mg/kg、0.5mg/kg、0.6mg/kg、0.7mg/kg、0.8mg/kg、0.9mg/kg、1mg/kg、1.2mg/kg、1.5mg/kg、1.75mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kgまたは5mg/kg(または中間の任意の値)高い。一部の実施態様では、後続のより高い用量は、前回の用量よりも約0.03~約0.1mg/kg、約0.1mg/kg~約0.5mg/kg、約0.5mg/kg~約1mg/kg、約0.5mg/kg~約2mg/kg、約1mg/kg~2mg/kg、約2mg/kg~約4mg/kg、または約2mg/kg~5mg/kg(または中間の任意の値)高い。いくつかの実施形態では、有毒または有害な代謝物を産生することなく対象が忍容性を示す最高用量は、約1.0mg/kg~約3.0mg/kgである。一部の実施態様では、最高忍容用量は、その後ヒト対象に維持用量として投与される。一部の実施形態では、維持用量は約1~8週毎に(例えば、約1、2、3、4、5、6、7もしくは8週毎に、または中間の任意の期間毎に)投与される。
【0047】
最大忍容投与量(例えば、有毒または逆に有毒なレベルの代謝物を産生しない用量)が特定されると、該最大忍容投与量を前述の対象を処置するための維持用量として使用することができる。維持用量は、毎日、週1回、週2回、月1回、月2回または3カ月に1回(または中間の任意の間隔で)投与することができる。lyso-SPMレベルの上昇をモニタリングすることは、維持レジームの投与の間、例えば、維持用量の投与から1、2、3、5、10、12、15もしくは20時間後、もしくは1、2、3、4、5日後、もしくは1、2、3もしくは4週間後、または中間の任意の期間後に行うことができる。高lyso-SPMレベル(例えば、約100~700ng/mlの参照レベルを超えるレベル、または参照レベルよりも少なくとも約1.1~10倍高いレベル)が検出された場合、維持用量を減少させるかまたは中止することができる。
【0048】
治療法の間(例えばERTの間)、対象をモニタリングするために、および/または対象が忍容性を示す最大用量を決定するために治療法の一部として、いくつかの他のパラメータをlyso-SPMと組み合わせて測定することができる。例えば、対象を、SPM
レベル、血漿セラミドレベルおよび/またはビリルビン濃度を測定することによってさらにモニタリングすることができる。対象を、炎症反応の尺度である「急性期反応物」および炎症性メディエーターの生成、ならびに/または他の生化学マーカーについてモニタリングすることもできる。これらの他の生化学マーカーとしては、CRP/hs-CRP、サイトカイン(例えば、1L-8、II-6)、カルシトニンおよびフェリチンを含むが、これらには限定されない。一部の実施形態では、用量を高濃度に増加する前に、上に挙げたパラメータのうちの1つまたはそれ以上をモニタリングして、治療法に対する反応を確実に安定させることができる。一部の実施形態では、対象は、全身症状(例えば、発熱、悪心、嘔吐、疼痛、筋肉痛および黄疸)を含む1つ以上の関連有害事象に関してモニタリングされる場合がある。マーカーの組合せもモニタリングすることができる(例えば、ビリルビンおよび/またはセラミドレベルと組み合わせてlyso-SPMレベルをモニタリングすることができる)。lyso-SPMと組み合わせてモニタリングすることができる適切な閾値レベルは、例えば、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれている、米国出願第2011/0052559号に開示されている(例えば、段落[0067]~[0086]を参照)。
【0049】
一部の実施形態では、用量漸増プロトコール(例えば、ERT用量漸増プロトコール)を受けている対象を、各回の治療的投与後(例えば、投与から約1分、5分、10分、30分もしくは45分、もしくは1、2、3、4、5、6、8、10、12、18もしくは24時間、もしくは2、3、4、5、6もしくは7日、もしくは1、2、3もしくは4週間以上、もしくは中間の任意の期間後)または高濃度の治療薬の投与前に、有毒または有害な副作用についてモニタリングする(例えば、lyso-SPMなどの1つまたはそれ以上の毒性マーカーのレベルをモニタリングすることによる)。一部の実施形態では、維持用量の各投与後(投与から約1、2、3、4、5、6、8、10、12、18もしくは24時間後、もしくは2、3、4、5、6もしくは7日後、もしくは1、2、3もしくは4週間もしくはそれ以上後、または中間の任意の期間後)あるいは後続の治療薬の維持用量の投与前に対象をモニタリングする。一部の実施形態では、対象は、1、2、3年またはそれ以上にわたって維持用量を受け、有毒または有害な副作用について定期的にモニタリングされる。モニタリングすることは、上述の毒性マーカーをモニタリングすることに加えて、関連有害事象をモニタリングすることを含む場合がある。対象が有害事象を経験するか、またはモニタリングする対象のマーカーのうち1つまたはそれ以上が有害な副作用を示す場合(例えば、lyso-SPMのレベル上昇が検出される場合)、望ましくない副作用を減少または最小化するために、維持用量の投与を終了または調整することができる(例えば、低濃度のERTを投与することができる)。
【0050】
様々な実施形態では、ERTの用量の投与後(例えば、rhASMまたは修飾rhASMの投与後)に採取された生体サンプルからlyso-SPMレベルを測定することによって、ERTの有毒および/または逆に有害な用量について対象をモニタリングすることができる。一部の実施形態では、方法は、対象から生体サンプルを採取すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを測定すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを参照レベルと比較すること、およびサンプル中のlyso-SPMのレベルが参照サンプルと比べて上昇するかまたは参照サンプルと比べて特定の量だけ上昇する場合、有害な副作用を検出することを含むことができる。一部の実施形態では、生体サンプル中のlyso-SPMのレベルが、前回の用量の投与後、指定の閾値を上回らない場合に限り、より高濃度でのERTの次回用量が投与される。適切な閾値レベルの例は、本明細書に記載される。一部の実施形態では、lyso-SPMのレベルは、維持用量の投与の間にもモニタリングされる。一部の実施形態では、lyso-SPMのレベルが、維持用量の投与の間、所定の閾値を超える場合、維持投与は中止されるか、または、所定の閾値を上回るlyso-SPMのレベルをもたらさない低用量が投与される。
【0051】
一部の実施形態では、ERTの有害な副作用は、生体サンプル中のlyso-SPMのレベルが、所定の参照レベルよりも高い場合、検出することができる。一部の実施形態では、有害な副作用は、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中のlyso-SPMのレベルが、約100~700ng/mlの参照レベルよりも高い(例えば、約100、200、250、300、400、500、600もしくは700ng/mlまたは中間の任意の濃度よりも高い)場合、検出することができる。一部の実施形態では、有害な副作用は、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中のlyso-SPMのレベルが、参照レベルよりも少なくとも約1.1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5または10倍以上(または中間の任意の値)高い場合、検出することができる。例えば、上昇は、少なくとも約3倍である可能性がある。
【0052】
一部の実施形態では、本明細書に提供されているASM障害を処置する方法は、MRIなど、当技術分野で周知の技術で評価した脾臓体積を減少させる。いくつかの実施形態では、方法は、肝臓サンプルの生化学分析および/または組織形態計測的分析など、当技術分野で周知の技術で評価された肝臓スフィンゴミエリンレベルを減少させる。一部の実施形態では、方法は、百分率予測最大作業負荷(percent predicted maximum workload)、ピーク酸素消費量および/または二酸化炭素産生を含む、サイクル運動力測定(cycle ergometry)による最大作業負荷など、当技術分野で周知の技術で評価された、運動能力を増加させる。一部の実施形態では、方法は、例えば、DLco、FVC、FEV、および/またはTLCなど、当技術分野で周知の技術で評価された肺機能を向上および/または肺クリアランスを改善する。いくつかの実施形態では、方法は、気管支肺胞洗浄(BAL)スフィンゴミエリンを減少させる。いくつかの実施形態では、方法は、高解像度CTスキャンおよび/または胸部X線など、当技術分野で周知の技術で評価された肺の外観を改善する。
【0053】
様々な実施形態では、本明細書に提供されているASM障害を処置する方法は、肝臓、皮膚および/もしくは血漿中のスフィンゴミエリン濃度を減少させる、ならびに/または血漿キトトリオシダーゼ、CCL18レベル、lyso-SPM、セラミドおよび/もしくはビリルビンを減少させる。一部の実施形態では、方法は、患者の脂質プロファイルを改善する(例えば、コレステロールの低下)。一部の実施態様では、方法は、対象の1つまたはそれ以上の神経機能(例えば、精神運動機能、社会的反応性など)を改善する。一部の実施形態では、方法は、ASM障害および/またはその障害に関連する1つまたはそれ以上の症状の重症度および/または期間を減少または改善する。一部の実施形態では、方法は、ASM障害に関連する症状の再発を防止する。一部の実施形態では、方法は、処置後の対象の生存率を上昇させる。
【0054】
ASM障害のスクリーニングおよび/または診断
様々な実施形態では、本明細書で開示されるのは、ASM障害をスクリーニングおよび/または診断する方法である。一部の実施形態では、ASM障害は、ニーマン・ピック病(NPD)である。一部の実施形態では、ASM障害は、NPD A型、B型および/またはC型である。一部の実施形態では、ASM障害(例えば、NPD)は、対象から採取した生体サンプル中のlyso-SPMレベルを測定することによってスクリーニングおよび/または診断することができる。
【0055】
一部の実施形態では、対象におけるASM障害をスクリーニングおよび/または診断する方法は、対象から生体サンプルを採取すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを測定すること、サンプル中のlyso-SPMのレベルを参照レベルと比較すること、およびサンプル中のlyso-SPMのレベルが参照レベルに比べて上昇した場合、ASM障害を検出/診断することを含む。一部の実施形態では、参照レベルは、ASM障害
を有していない対照対象からのサンプル中で測定されたlyso-SPMのレベルである。一部の実施形態では、ASM障害は、対象からの生体サンプル中のlyso-SPMのレベルが所定の参照レベルよりも高い場合、検出/診断することができる。一部の実施形態では、ASM障害は、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中のlyso-SPMのレベルが、約200ng/mlよりも高い、約300ng/mlよりも高い、約400ng/mlよりも高い、約500ng/mlよりも高い、約525ng/mlよりも高い、約575ng/mlよりも高い、および/または約700ng/mlよりも高いなど、少なくとも約200~2000ng/ml(例えば、約200、250、300、350、400、450、500、525、550、575、600、625、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900もしくは2000ng/mlよりも高い、または中間の任意の濃度)の参照レベルよりも高い場合、検出および/または診断することができる。一部の実施形態では、ASM障害は、生体サンプル(例えば、血液サンプル)中のlyso-SPMのレベルが、参照レベルよりも約1~10倍高い場合、検出および/または診断することができる。
【0056】
様々な組織からの生体サンプルは、本明細書に記載のスクリーニングおよび診断方法を用いて使用することができる。例えば、血漿、全血(例えば、乾燥血液スポット)、血清、皮膚および/または尿などの末梢組織からの生体サンプルを、lyso-SPMレベルの上昇についてモニタリングするために使用することができる。例えば、脾臓、肺、肝臓、心臓、腎臓および/または脳組織など、他の組織からの生体サンプルも使用することができる。2つまたはそれ以上の組織(例えば、2、3、4、5またはそれ以上の組織)の組合せからのサンプルを使用することができる。一部の実施形態では、末梢組織から採取した生体サンプル中のlyso-SPMレベルを測定することによって、ASM障害(例えば、NPD)を検出/診断することができる。いくつかの実施形態では、末梢組織は、血漿、全血(例えば、乾燥血液スポット)、血清および/または尿とすることができる。末梢サンプルの使用は、肝生検などの侵襲的手技の必要性を回避することができる。
【0057】
様々な実施形態では、本明細書で開示されるスクリーニングおよび/または診断方法は、ASM障害が検出/診断された場合、対象に治療薬(例えば、酵素補充療法)を投与することをさらに含むことができる。一部の実施形態では、酵素補充療法は、対象にrhASMまたは修飾rhASMを投与することを含む。
【0058】
キット
様々な実施形態では、lyso-SPMおよび/またはASM障害の他のマーカーを含有する生体サンプルを採取するためのデバイスと、生体サンプル中のlyso-SPMのレベルおよび/または他のマーカーを測定するキットを使用するための指示書とを含むキットが本明細書で開示される。一部の実施形態では、生体サンプルを採取するためのデバイスは、試験管、シリンジおよび/もしくは液体サンプルを保管するための他の容器、ならびに/または試験片、尿試験紙などを含むことができる。当技術分野で周知の生体サンプルを採取するための任意の他のデバイスも使用することができる。一部の実施形態では、生体サンプルは、血漿、全血(例えば、乾燥血液スポット)、血清、皮膚および/または尿などの末梢組織からのサンプルである。例えば、脾臓、肺、心臓、肝臓、腎臓および/または脳組織など、他の組織からの生体サンプルも採取することが可能であり、キットは列挙した組織からサンプルを採取するためのデバイスを含む。2つ以上の組織の組合せからのサンプルを使用することができる。
【0059】
一部の実施形態では、キットは、lyso-SPMのレベルおよび/または生体サンプル中の他のマーカーを測定するためのデバイスをさらに含むことができる。例えば、キットは、lyso-SPMまたは生体サンプル中の他のマーカーを検出するために使用する
ことができる抗体および/または検出剤を含むことができる。一部の実施形態では、検出剤は、組織採取デバイス中に含まれるか、もしくはデバイス上に置かれており(例えば、試験片に含浸された抗体もしくは化学的指示薬)、一方、他の実施形態では、検出剤は、採取デバイスとは別個に提供される。
【0060】
一部の実施形態では、キットは、lyso-SPMのレベルおよび/またはサンプル中の他のマーカーを定量化する、または半定量化するためのデバイスさらに含むことができる。例えば、検出剤と反応して、その強度、輝度、色などを、lyso-SPMのレベルおよび/またはサンプル中の他のマーカーを定量的または半定量的に決定するために使用することができる検出可能なシグナルを発する薬剤(例えば、比色分析剤)を提供することができる(例えば、1つまたはそれ以上の参照サンプルからのシグナルと比較することによる)。一部の実施形態では、デバイスは、例えば、液体クロマトグラフィーおよび/または質量分析を使用して、サンプルの他の成分からlyso-SPMを分離するためのデバイスを含むことができる。一部の実施形態では、lyso-SPMのレベルおよび/またはサンプル中の他のマーカーを定量化するためのデバイスは、LC/MS/MSなどの質量分析装置、またはUV-VIS、IRもしくはNMRなどの電磁波周波数分析装置のような分光計である。
【0061】
一部の実施形態では、キットは、lyso-SPMのレベルおよび/またはサンプル中の他のマーカーを参照レベルと比較する、ならびに1つまたはそれ以上の参照レベルと比べてサンプル中のlyso-SPMのレベルおよび/または他の毒性マーカーが上昇した場合、ASM障害の処置の間、1つまたはそれ以上の代謝物の毒性レベルおよび/または有害な副作用の存在を検出するための指示書をさらに含むことができる。一部の実施形態では、キットは、サンプル中のlyso-SPMのレベルを参照サンプル中のレベルと比較する、ならびにサンプル中のlyso-SPMレベルが参照サンプル中のレベルと比べて上昇した場合、ASM障害についてスクリーニングおよび/または診断するための指示書をさらに含むことができる。
【0062】
一部の実施形態では、キットは、ASM障害の治療法の一部として、および/またはASM障害を診断するために使用することができる。一部の実施形態では、ASM障害は、NPD-A、NPD-BまたはNPD-Cである。
【0063】
対象集団
様々な実施形態では、本明細書で使用される対象は、ASM障害についてスクリーニングされているヒトである。様々な実施形態では、本明細書で使用される対象は、本明細書に提供されている方法に従ってASM障害について診断または処置を受ける対象であって、1つまたはそれ以上の病変臓器においてリソソームSPMの過剰蓄積をきたすASM障害を有するもしくは有すると診断されているヒトである。一部の実施形態では、対象は、酸性スフィンゴミエリナーゼをコードしている遺伝子に1つまたはそれ以上の変異、例えば、欠失、フレームシフト、ミスセンス変異および/またはナンセンス変異を有する。特定の実施形態では、対象はNPDを有している。一実施形態では、対象はNPD-A、NPD-BまたはNPD-Cを有している。
【0064】
一部の実施形態では、対象は、SMPD1遺伝子に1つまたはそれ以上の変異を有する。いくつかの実施形態では、変異は、ΔR608(アルギニン608の欠失)である。一部の実施形態では、変異はミスセンス変異である。いくつかの実施形態では、ミスセンス変異は、L302P、H421YまたはR496Lである。他の実施形態では、変異は、1つ、2つ、3つまたはそれ以上のアミノ酸残基の欠失をもたらす欠失である。具体的な実施形態では、本明細書に提供されている方法に従ってASM障害の処置を受ける対象は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国出願第2011/005255
9号の表1に示される変異のうちの1つまたはそれ以上を有する。酸性スフィンゴミエリナーゼ遺伝子(指定SMPD1)の変異については、Simonaroら、Am. J.
Hum. Genet. 71:1413~1419頁(2002)も参照。
【0065】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供されている方法に従ってASM障害のスクリーニングもしくは診断または処置を受ける対象は、正常(例えば未変異の)ヒトASM、例えばASM-1の活性の約2~5%、5~10%、5~15%、5~20%、5~30%、20~30%、または5~35%でASMを内因的に発現する。一部の実施形態では、対象は、正常ヒトASM、例えばASM-1の活性の35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%または1%未満でASMを内因的に発現する。ASMの活性を測定するために使用できる技術については、例えば、米国特許第4,039,388号、第4,082,781号、第5,686,240号、および第7,563,591号、ならびに国際公開番号WO2007/078806とWO2006/058385(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照;Heら、Analytical Biochemistry 314:116~120頁(2003)に記載されている蛍光ベースの高性能液体クロマトグラフィーアッセイも参照。
【0066】
様々な実施態様では、本明細書に提供されている方法に従ってASM障害のスクリーニングもしくは診断または処置を受ける対象は、NPDの1つまたはそれ以上の症状を示す場合がある。NPDの症状には、腹部膨張、肝腫大、脾腫、肝脾腫大、好中球減少、肺疾患、リンパ節症、組織化学的に特徴的なNPD泡沫細胞の存在、貧血(例えば、小球性貧血)、血小板減少症、反復性嘔吐、慢性便秘、成長障害、(例えば、線形成長および体重の減少)、思春期遅発症、反復性のあざ、反復性出血、アテローム性脂質プロファイル(高コレステロール、トリグリセリド、LDLおよび/または低HDL)、疼痛(頭痛、背中、四肢、腹部)、疲労、早期満腹感、低持久力、骨減少症、神経学的兆候、および呼吸困難(例えば、間質性肺疾患および/または息切れ)を含むがこれに限定されない。NPDの神経学的兆候には、サクランボ赤色斑点、低血圧、筋力低下、精神運動遅延、痙性、社会的不応症、易刺激性、および/または痙攣を含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供されている方法に従ってASM障害のスクリーニングもしくは診断または処置を受ける対象は、ヒト乳児である。別の実施形態では、対象はヒト小児である。いくつかの実施形態では、対象はヒト成人(18歳以上)である。いくつかの実施形態では、対象はヒト女性である。他の実施形態では、対象はヒト男性である。いくつかの実施形態では、対象は、妊娠していないまたは授乳中ではないヒト女性である。
【0068】
実施例
以下の実施例は、本開示を説明する役割を果たし、決して制限するものではない。
【実施例1】
【0069】
材料および方法
本研究で使用される全血を、書面によるインフォームドコンセント後、20例の以前にNPD-Bと診断された対象および20例の健常成人から入手した(ProMedDx,
LLC, Norton, MAから購入)。静脈血を、EDTA入りVacutainer(登録商標)採血管(Becton, Dickinson and Company, Franklin Lakes, NJ)で採血し、一晩冷凍パックで輸送し、4℃で保存した。採血後48時間以内に、複数回にわたり採血管を反転させて血液を混ぜ合わせ、スポット当たり75μlの血液をWhatman903(登録商標)検体採取紙上に置き、室温で少なくとも4時間乾燥させた。
【0070】
lyso-SPMを定量化するために、1-O-ヘキサデシル-(7,7,8,8-d4)-2-O-アセチル-sn-グリセリル-3-ホスホリルコリン(血小板活性化因子C16-d4;PAF C16-D4、Cayman Chemical Company,Ann Arbor,Michigan)を内部標準(intarnal standard)として使用した。3.2mmの穿孔器の乾燥血液スポット(DBS)を0.8ng内部標準含有のメタノール/アセトニトリル/水(80/15/5)200μL中に抽出し、30分間ボルテックスし、10分間超音波処理した。溶離液を5分間の遠心分離により16,200gで取り除き、その後、Agilent 1100高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)システム(Agilent, Palo Alto, CA)と連動したAPI Qtrap 4000 LC/MS/MS(AB Sciex,Toronto,Canada)システムの中に30μLを注入した。移動相としてメタノール/アセトニトリル/水の混合物を使用して均一濃度の方式で、順相シリカカラムを用いてHPLCを行った。以下の移行:m/z lyso-SPMについて465.4>184.1およびPAF C16-D4について528.5>184.1で、多重反応モニタリング(MRM)の方式で質量分析(MS)を行った。SPMを定量化するために、内部標準としてC12-SPM(Avanti Polar Lipids, Alabaster, Alabama)を使用した。抽出およびLC/MS/MS手順は、注入前に溶離液を320倍に希釈したことを除いて、lyso-SPMについて使用されたものと同様であり、SPMの12のアイソフォームをモニタリングし、要約した。
【実施例2】
【0071】
NPDの診断
SPMレベルは、NPD-B対象の肝臓および脾臓において10倍超上昇することが知られているが、NPD-B対象の血漿中のSPMレベルは、認識できるほどに上昇せず、正常な対照のSPMレベルと重複する。図1Aに示すように、NPD-AおよびNPD-B患者の乾燥血液スポット(DBS)中のSPM濃度と正常な対照サンプルのDBS中の平均濃度値の比によって示されるように、NPD-AおよびNPD-B患者のSPMのレベルは、有意に上昇しなかった。SPMは、細胞膜およびリポタンパク質の主要成分であり、NPD対象のDBS中のSPMのわずかな上昇は、循環におけるSPMのすでに高レベルおよび急速な代謝回転に関係している可能性がある。
【0072】
SPMとは異なり、lyso-SPMレベルは、NPD-AおよびNPD-B対象からのDBSにおいて明らかに上昇した。図1Bに示すように、NPD-AおよびNPD-B患者の乾燥血液スポット(DBS)におけるlyso-SPM濃度と正常な対照サンプルのDBS中の平均濃度値の比によって示されるように、NPD-AおよびNPD-B患者のlyso-SPMのレベルは上昇した。lyso-SPMレベルは、残留ASM活性の量または採取時の対象の年齢と相互に関係しなかった。つまり、lyso-SPMは、NPD対象の末梢組織(DBS)中で、正常な対照とは識別できるレベルで増加する。
【実施例3】
【0073】
マウスにおける用量漸増の効果
ASMノックアウトマウス(ニーマン・ピックモデルマウス)における以前の研究は、10mg/kg以上の単回用量が使用されるまで毒性の臨床症状が観察されなかったことを示した。Nickersonら、「Dose Responsive Toxicological Findings Following Intravenous Administration of Recombinant Human Acid Sphingomyelinase (rhASM) to Acid Sphingomyelinase Knock-out (ASMKO) Mice」、American Society of Human Genetics 2005;および、Murrayら、「Elevations of Pro-Inflammatory Cyt
okines and Decreases in Cardiovascular Hemodynamics Following Intravenous Administration of Recombinant Human Acid Sphingomyelinase (rhASM) to Acid Sphingomyelinase Knock-out (ASMKO) Mice」、Society of Toxicology 2006。
【0074】
本研究では、3つの異なる濃度:0mg/kg、3mg/kg(非毒性用量、臨床的に明白な副作用は観察されない)または20mg/kg(中毒量)のうちの1つでrhASMの単回静注投与量をASMノックアウトマウスに投与した。3例の雄マウスおよび3例の雌マウスを各投与群に割り当て(全18例の動物)、表1に示す各時点で血液サンプルを採取した。
【0075】
【表1】
【0076】
DBSサンプルのlyso-SPMレベルを定量化し、rhASM用量濃度を増加させるにつれてlyso-SPMレベルが上昇し、投与からおよそ6時間後に3mg/kgおよび20mg/kg処置群でピークになったことを示した。投与から5分後の濃度と比較した際の、サンプルとして抽出した投与からの各時点でのDBS中のlyso-SPM濃度の上昇倍数を示すヒストグラムである図2を参照。驚くべきことに、中毒量(20mg/kg)のrhASMに反応してのlyso-SPMの血漿中濃度の上昇倍数は、非中毒量(3mg/kg)のrhASMに反応してのlyso-SPMの血漿中濃度の上昇倍数よりも著明に高かった。この結果は、lyso-SPMが、ASM障害の患者において蓄積したSPMのレベルを減少させる治療薬の毒性効果を計測するためのマーカーとして有用であることを示唆する。
【実施例4】
【0077】
単回用量および減量レジメンの比較
rhASMの単回用量または減量投与レジメンの投与後の野生型(C57BL/6)またはASMノックアウト(ASMKO)マウスから乾燥血液スポットを採取した。5例のASMKOマウスに10mg/kgのrhASMの単回用量を投与した。5例のC57BL/6および5例のASMKOマウスを3mg/kgのrhASMの減量レジメンを使用して処置し、その後20mg/kgの用量を与えた。血液サンプルを、以下の時点:投与から5分、4時間、6時間、24時間および72時間後で採取した。10mg/kg投与群の動物は、24時間後に安楽死させた。
【0078】
全70個の血液スポットサンプルを、液体マルチプレックス抽出手順(lipid multiplex extraction procedure)を使用して調製し、LC/MS/MSにより分析した。簡潔には、各サンプルカードから単一のDBSスポットを穿孔し、個々のエッペンドルフ管内に置いた。次いで、各管に200マイクロリットルの80:15:5溶液(MeOH:ACN:HO)を加え、その後、30分間ボルテックスし、10分間超音波処理し、遠心分離にかけて任意の微粒子に遠心沈殿させた。lyso-SPM検量線(内部標準なし)を使用して各サンプル中のlyso-SPMの濃度を決定した。
【0079】
図3中のデータは、減量レジメンにかけられたASMKO群とは対照的に、10mg/kgの単回(高)用量のrhASMで処置されたASMKO群に限りlyso-SPMレベルが上昇したことを示す。このような高用量では、少なくとも50%のマウスが24時間から72時間の間に死亡し、一方、減量レジメンにおいてはすべてのマウスが生存することが予想される。これらの結果は、lyso-SPMが、高用量の治療薬の毒性効果を計測するためのマーカーとして有用となり得ることを示唆する。
【実施例5】
【0080】
ヒト試験
rhASMを用いて処置中のニーマン・ピック患者から血液サンプルを採取した。代表的な例を図4に示す。26週間にわたり(初日、第2、4、6、8、10、12、14および26週について)rhASMの投与前および指定用量(0.1、0.3、0.6、1、2もしくは3mg/kg)のrhASMの投与から24、48および72時間後にサンプルを採取した。第26週では、投与前、および投与から24および48時間後にのみサンプルを採取した。lyso-SPMのレベルは、ng/mlで測定した。データは、投与前と各各投与から72時間後の時点との間でlyso-SPMレベルに増減はあるものの、高濃度での反復投与後のlyso-SPMレベルの全般的な低下傾向を示す。早期の投与後のサンプルは、24時間後に採取し、その時点まで、投与後のlyso-SPM濃度の急上昇は観察されなかった可能性がある。投与された投与量もまた、投与後のlyso-SPMレベルの有意な急上昇が観察されるために必要とされる濃度未満であった可能性がある。
【0081】
前述の実施例は、本開示を説明するものであり、決して制限するものではない。開示されるデバイスおよび方法の他の実施形態は、本明細書で開示されるデバイスおよび方法の詳述および実施から当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4