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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタシステム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 451
B41J2/01 207
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021035305
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135477
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青野 正裕
(72)【発明者】
【氏名】大川 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】ヴティア ヴォン
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-198360(JP,A)
【文献】特開2016-185688(JP,A)
【文献】特開2020-26057(JP,A)
【文献】特開2021-5266(JP,A)
【文献】特開2021-24153(JP,A)
【文献】特開2020-189425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0190194(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字対象物に印字を行うインクジェットプリンタと、前記インクジェットプリンタによって印字された印字文字を撮像し、撮像された印字画像の検査を行う印字検査装置とを備えたインクジェットプリンタシステムであって、
前記印字検査装置は、ニューラルネットワークによる機械学習機能部を備えており、前記機械学習機能部は、
前記印字対象物の印字領域に印字される種々の文字に基づいた無作為の複数のドットからなるドット配列パターンを印字する機能を有するランダムテスト印字機能部と、
印字された前記ドット配列パターンを撮像した印字画像を基に、この印字画像を検査するための前記ニューラルネットワークの評価関数を最適化する機能を有する評価関数訓練機能部を備える
ことを特徴とするインクジェットプリンタシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットプリンタシステムであって、
前記ニューラルネットワークは、畳み込みニューラルネットワークである
ことを特徴とするインクジェットプリンタシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェットプリンタシステムであって、
前記ランダムテスト印字機能部は、前記ドット配列パターンを前記インクジェットプリンタに送信し、
前記インクジェットプリンタは、前記ドット配列パターンに基づいてテスト印字を実行する
ことを特徴とするインクジェットプリンタシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェットプリンタシステムであって、
無作為の前記ドット配列パターンは、ドットが正規の位置に存在する正規ドット配列パターンと、前記ドットが正規の位置に存在しない誤りドット配列パターンである
ことを特徴とするインクジェットプリンタシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェットプリンタシステムであって、
前記誤りドット配列パターンは、
(1)無作為に1つの前記ドットが選択され、無作為に与えられた距離、角度だけ前記正規ドット配列パターンからずれた、ドットずれ誤りドット配列パターン、
(2)無作為に1つの行が選択され、無作為に与えられた距離、上下にだけ前記正規ドット配列パターンからずれた、行ずれ誤りドット配列パターン、
(3)無作為に1つの前記ドットが選択され、選択された前記ドットを前記正規ドット配列パターンから削除された、ドット抜け誤りドット配列パターン
の1つ以上からなっている
ことを特徴とするインクジェットプリンタシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のインクジェットプリンタシステムであって、
前記ランダムテスト印字機能部は、前記ドット配列パターンを動的に生成することを特徴とするインクジェットプリンタシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のインクジェットプリンタシステムであって、
前記ドット配列パターンを動的に生成するために、疑似乱数を用いて前記ドット配列パターンを生成する
を特徴とするインクジェットプリンタシステム。
【請求項8】
請求項5に記載のインクジェットプリンタシステムであって、
前記ランダムテスト印字機能部は、前記正規ドット配列パターンと前記ドット抜け誤りドット配列パターンを重ね合わせた複合ドット配列パターンを生成する
ことを特徴とするインクジェットプリンタシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットプリンタシステムに係り、特に機械学習機能を有する印字検査装置を組み合わせたインクジェットプリンタシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生産工場等で使用されている一般的な連続噴射式荷電制御型のインクジェットプリンタは、本体にインクを貯留するインク容器を設けており、そのインク容器のインクをインク供給ポンプによって印字ヘッドへ供給している。印字ヘッドに供給されたインクは、インクノズルから連続的に噴出され、インク液滴化される。
【0003】
インク液滴のうち、印字に使用するインク液滴には、帯電・偏向処理を行い所望の印字対象物の印字位置へ飛翔させ、印字に使用しないインク液滴には、帯電・偏向処理を行わず、ガターで捕集してインク回収ポンプによりインク容器へ戻す構成とされている。
【0004】
そして、食品を収納した包装容器、飲料を充填したペットボトル等の製品を製造する生産工場の製造ライン等にインクジェットプリンタが設置され、製品の表面に賞味期限、製造工場、製造番号等を印字している。
【0005】
また、生産工場の製造ラインにおいては、インクジェットプリンタによる印字が正しく実施されているか否かを検査する場合もあり、そのために、印字検査装置が組み合わされたインクジェットプリンタシステムが導入されている製造ラインがある。
【0006】
印字検査装置は、撮像装置により製品の印字領域を撮像し、その画像に対して印字の「良」、「不良」を判定する装置である。印字検査装置には予め正常な印字と異常な印字の画像が登録されており、その画像と撮像した画像を比較して「良」、「不良」の判定を行っている。
【0007】
そして、最近では印字文字の検査精度を更に向上させることが望まれている。この検査精度を向上させる方法として、機械学習を用いる方法が有効である。インクジェットプリンタの印字検査装置に機械学習を用いる方法としては、例えば特開2007-281723号公報(特許文献1)に記載されている方法が知られている。
【0008】
この特許文献1においては、複数のテストインク量セットに従ってカラーパッチの印刷を行い、同カラーパッチをスキャナにて画像入力し、テストインク量セットと画像データの解析により得られる粒状性指数を対応させたデータセットを教師信号として、機械学習を行う方法が記載されている。このように、印字検査装置に機械学習機能を備えることは一般的に良く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-281723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、機械学習を用いて検査精度を向上させることは有効な方法である。しかしながら、連続噴射式荷電制御型のインクジェットプリンタにおいては、印字対象物には日本語を始めとした多種の文字や記号(以下、代表して文字と表記する)が印字される。そのため全ての文字に対して個別に学習を行うのは難しい。また、賞味期限や製造番号のように印字対象物の1つ1つに異なる文字を印字する場合には、印字対象物毎に検査対象の文字が変化する。このため、定型文字を学習する手法も採用できない。したがって、検査精度を高めて効率的に検査作業を行うことができるインクジェットプリンタシステムが求められている。
【0011】
本発明の目的は、機械学習を前提に印字検査装置の検査精度を高めて効率的に検査作業を行うことができる新規なインクジェットプリンタシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本発明は、上述の課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、印字検査装置は、ニューラルネットワークによる機械学習機能部を備えており、機械学習機能部は、印字対象物の印字領域に印字される種々の文字に基づいた無作為の複数のドットからなるドット配列パターンを印字する機能を有するランダムテスト印字機能部と、印字されたドット配列パターンを撮像した印字画像を基に、この印字画像を検査するためのニューラルネットワークの評価関数を最適化する機能を有する評価関数訓練機能部を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、印字される種々の文字に基づいた無作為の複数のドットからなるドット配列パターン(ランダムなドット配列パターン)を印字対象物にテスト印字し、これに基づいてニューラルネットワークの評価関数を最適化するので、検査精度を高めて効率的な検査作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】インクジェット記録装置による印字方法を説明する概略図である。
図2】インクジェット記録装置の印字原理を説明する構成図である。
図3】インクジェットプリンタシステムの全体の構成の概略を示す概略構成図である。
図4】本発明の第1の実施形態になる機械学習の全体工程を示すフローチャートである。
図5図4に示すデータセット作成用テスト工程を示すフローチャートである。
図6図5に示すテスト印字工程を示すフローチャートである。
図7A】基準となる正規の無作為のドット配列パターンを示す説明図である。
図7B図7Aの正規の無作為のドット配列パターンに対して、意図的に第1の誤りを与えた無作為のドット配列パターンの第1の例を示す説明図である。
図7C図7Aの正規の無作為のドット配列パターンに対して、意図的に第2の誤りを与えた無作為のドット配列パターンの第2の例を示す説明図である。
図7D図7Aの正規の無作為のドット配列パターンに対して、意図的に第3の誤りを与えた無作為のドット配列パターンの第3の例を示す説明図である。
図8】本発明の実施形態になる機械学習で使用されるニューラルネットワークの構成を示す構成図である。
図9】本発明の第2の実施形態におけるテスト印字工程を示すフローチャートである。
図10】本発明の第3の実施形態におけるドット抜けを学習するため、ドット抜けパターンとドット抜けがないパターンを重ね合わせたドット配列パターンを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである
先ず、一般的な連続噴射式荷電制御型のインクジェットプリンタの構成と動作について簡単に説明する。尚、本発明の考え方は、以下に説明する連続噴射式荷電制御型のインクジェットプリンタだけではなく、必要に応じて一般的な事務機用プリンタにおいても適用できるものである。
【0016】
図1に、インクジェットプリンタの外観構成を示している。図1において、インクジェットプリンタの本体1には表示用のディスプレイ2が備えられている。印字ヘッド4にはケーブル3を介してインクが供給されており、また決定された印字内容は、ケーブル3を介して印字ヘッド4に送られ、これに基づいてインク液滴が連続的に噴出されることで、ベルトコンベア等の搬送ライン5で搬送される印字対象物6に印字される。
【0017】
図2には、インクジェットプリンタの構成を模式的に示している。図2において、インク容器7に貯留されているインク液8は、インク供給ポンプ9で加圧されてインクノズル10に供給される。インクノズル10に設置された圧電素子11に、周期的に電圧を加えることで、インクノズル10内のインクが励振される。励振されたインクは、インクノズル10よりインク柱12として噴出された後にインク液滴となる。
【0018】
印字に使用するインクに対しては、インクの液滴化と同時に、帯電電極13によってインク液滴への帯電が行われる。帯電されたインク液滴14は、偏向電極正極15、及び偏向電極負極16の間の偏向空間に生じる電場によって偏向された後に印字対象物6に着滴する。また、印字に使用しないインク液滴17は帯電されず、偏向が行われないためガター18にて回収される。
【0019】
尚、図1のインクジェットプリンタの本体1には、図2に示すインク容器7、及びインク供給ポンプ9等が格納されている。また、図1の印字ヘッド4には、図2に示すインクノズル10、帯電電極13、偏向電極正極15、偏向電極負極16、及びガター18等が格納されている。
【実施例1】
【0020】
次に、本発明の第1の実施形態について説明する。図3は、本実施形態を構成する機械学習機能を備えたインクジェットプリンタシステムの構成を示しており、印字検査装置19には、機械学習演算装置20が接続されている。ここで、印字検査装置19と機械学習演算装置20を合わせて、印字検査装置19と見做せるものである。この機械学習演算装置20の構成と動作は、以下の実施形態で詳細に説明する。尚、機械学習演算装置20は、破線で示すように、印字検査装置19と一体化することも可能である。
【0021】
以下に説明する本実施形態では、機械学習演算装置20と印字検査装置19とは一体化されている。そして、印字検査装置19とインクジェットプリンタ1とは双方向で制御情報を送信可能となっており、機械学習演算装置20から機械学習の訓練のための無作為の複数のドットからなるドット配列パターンが、インクジェットプリンタ1に送信される構成とされている。
【0022】
インジェットプリンタ1は、送られてきた無作為の複数のドットからなるドット配列パターンにしたがってテスト印字を行い、印字検査装置19に設けられた撮像装置によって、印字されたドット配列パターンを撮像し、その印字画像は機械学習に利用される。
【0023】
本発明の第1の実施形態では、印字対象物の印字領域に印字される種々の文字に基づいた無作為の複数のドットからなるドット配列パターンを印字する機能を有するランダムテスト印字機能部と、印字されたドット配列パターンを撮像した印字画像を基に、この印字画像を検査するためのニューラルネットワークの評価関数を最適化する機能を有する評価関数訓練機能部を備えたインクジェットプリンタシステムを特徴とするものである。特に本実施形態では、その機械学習において使用される無作為の複数のドットからなるドット配列パターンによるテスト画像に特徴を有するものである。
【0024】
図4には、印字検査装置の機械学習による検査作業の全体の処理工程のフローチャートを示している。機械学習自体は良く知られているが、本実施形態では畳み込みニューラルネットワーク(Convolution Neural Network:CNN)を利用して機械学習を行う構成である。
【0025】
印字検査装置の機械学習を用いた検査作業の全体の処理工程は、先ずデータセット作成用テスト工程301において、機械学習の教師用データセットを作成し、次に機械学習工程302において、データセット作成用テスト工程301で作成した教師用データセットを用いて、誤差逆伝搬法(バックプロパゲーション)による検査用のニューラルネットワークの学習を行い、その後に運用工程303において、機械学習工程302で作成した検査用のニューラルネットワークを用いて実際の印字の検査作業を行うものである。
【0026】
次に、本実施形態の特徴であるランダムテスト印字機能部と評価関数訓練機能部について説明する。ランダムテスト印字機能部はデータセット作成用テスト工程301での機能であり、評価関数訓練機能部は機械学習工程302での機能である。
【0027】
図5に、データセット作成用テスト工程301のフローチャートを示している。先ず、テスト印字工程401において、印字予定の印字対象物の印字領域に、インクジェットプリンタ1(図3参照)によりテスト印字を実行する。次にテスト印字撮像工程402において、印字検査装置19(図3参照)を用いて印字対象物に印字されたテスト印字を撮像する。次にデータセット作成工程403において、学習用の教師用データセットを作成する。
【0028】
図6に、テスト印字工程401のフローチャートを示している。先ず、無作為ドットパターン取得工程501で、予め定められた複数のドットからなるドット配列パターンを取得する。尚、ドット配列パターンについては後述する。
【0029】
ドット配列パターンは、1文字を形成するドットマトリックスで表される。例えば、5列7行のドットマトリックスでは、35個の桝のいずれかに一個のインク滴が印字されて、インク液滴の集合で要求される文字を形成する。当然、無作為に選ばれた桝にインク滴が印字されれば、無作為の複数のドットからなるドット配列パターンを形成できる。
【0030】
ここで、ドット配列パターンの種類により教師データの数は決定される。そのため、ドット配列パターンが多いほど後の機械学習の精度は向上するが、その分だけテスト工程に費やす時間も増大する。本実施形態では、100種類のドット配列パターンを用意して学習を実行している。取得するドット配列パターンは、無作為にドットの有無(ドットの配置位置)が決定された、複数のドットからなるドット配列パターンである。その例を図7A図7Dに示している。
【0031】
図7Aにあるように、正規の無作為のドット配列パターン(正規ドット配列パターン)701は、複数のドットが無作為に配置されている。ただ、図7Aに示す夫々のドットは正規の位置に存在している。また、正規ドット配列パターン701のドットの有無の割合(全体の総桝数に対するドットの割合)は自由に設定できるが、本実施形態では50%に設定されている。つまり総桝数の半分に、無作為に複数のドットが存在する。また、ドットの縦横(列と行)の数は印字する文字サイズによって決定され、本実施形態では、縦横共に11ドットである。
【0032】
更に、ドット配列パターンには、故意に誤りが付加されている、誤りドット配列パターンも存在する。これは検査工程における「不良」の判定のための教師データになる。一般的に、インクジェットプリンタにはいくつか特徴的な「誤り」があり、それを模擬した「誤り」を付加するのが効果的である。本実施例では3種類の誤りドット配列パターンを併用するようにしている。図7B図7Dに誤りドット配列パターンを例示している。
【0033】
図7Bは、ドットずれ誤りドット配列パターン702である。これは、破線の四角で囲む或る特定のドット702eのみ少しずれた位置に印字されてしまう誤りである。1ドットずれのサイズはドット間の距離の2分の1以下となる。1ドットずれを付加する際は、無作為に1つのドットを選択し、無作為に与えた距離、角度だけ正規ドット配列パターン701からずれを与える。
【0034】
図7Cは、行ずれ誤りドット配列パターン703である。これは、破線の四角で囲む或る特定の1行703eが上下にずれる誤りである。1行ずれを付加する際には、無作為に1つの行を選択し、無作為に与えた距離、上下に正規ドット配列パターン701からずれを与える。
【0035】
図7Dは、ドット抜け誤りドット配列パターン704である。これは、破線の四角で囲む或る特定の1つのドット704eが欠損する誤りである。ドットを欠損する際は、無作為に1つのドットを選択し、そのドットを正規ドット配列パターン701から削除する。
【0036】
このような3つの誤りドット配列パターンを予め無作為のドット配列パターンに付加しておく。つまり、正規のドット配列パターン、或いは1つの誤りドット配列パターンが1つのドット配列パターンに付与され、これが複数のドット配列パターンとして準備される。したがって、本実施形態では、100種類の異なったドット配列パターンが得られることになる。
【0037】
図6に戻って、無作為ドットパターン印字工程502では、このドット配列パターンを印字対象物に対してテスト印字する。この場合は、実際に印字する1文字に対して1つのドット配列パッターンを割り当てる。例えば実際に印字する文字が「ABC」であるとすれば、ここに3つのドット配列パターンを順番に印字する。
【0038】
次に、図5において、テスト印字撮像工程402では、図6の無作為ドットパターン印字工程502でテスト印字した、ドット配列パターンを印字検査装置19で撮像する。次に、撮像が完了するとデータセット作成工程403を実行する。
【0039】
データセット作成工程403では、撮像した画像を用いてデータセットを作成する。データセットとして使用するためには、各画像にラベル(正解情報)を付加する必要がある。本実施例で使用するものは2値のラベルである。これは印字されたドット配列パターンに対して「良」、或いは「不良」に対応するものである。
【0040】
このラベルの付加は、予め準備されている無作為のドット配列パターンによって行われる。これはインクジェットプリンタが、テスト印字を行う際に用いるものと同じものが予め共有されている。そのため、印字検査装置は撮像した画像と、元になった無作為のドット配列パターンを紐づけることが可能である。
【0041】
画像に対するラベルは、元になったドット配列パターンに「誤り」が付加されているか否かで決定される。「誤り」が付加されていなければ、画像には「良」のラベル(正解情報)を与え、「誤り」が付加されていれば、「不良」のラベル(正解情報)を与える。これによりデータセットの作成が可能である。
【0042】
次に、図4に戻って、機械学習工程302について詳しく説明する。ここでは、図図5のデータセット作成工程403で作成したデータセットを用いて印字検査用のニューラルネットワークを訓練する。本実施形態では、上述したようにニューラルネットとして、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を利用して機械学習を行う。図8に、畳み込みニューラルネットワークを示している。この畳み込みニューラルネットワークは良く知られた構成である。
【0043】
先ず、撮像された無作為のドット配列パターンである入力画像は、入力層801で「32x32」のドットの画像に圧縮される。1ドットあたり白黒2値のモノクロ画像である。
【0044】
続いてCNN層802を使用する。入力は「32x32x1」で、フィルターは「3x3x1」のサイズであり、3個のフィルターが用いられている。フィルターの重みは「1ong」のサイズであり、「Heの初期値」により初期化される。以降の層も同様である。また、ストライドサイズは「1」、パディングサイズは「1」であり、出力は「32x32x3」となる。ストライド、パディングは以降のCNN層でも同様である。活性化関数にはRelu関数を用いており、以降のCNN層も同様である。
【0045】
3つ目の層もCNN層803である。入力は「32x32x3」である。フィルターのサイズは「3x3x3」であり、3個のフィルターが用いられている。これらのフィルターの出力は「32x32x3」である。
【0046】
4つめの層はMax Pooling層804である。Poolingのサイズは「2x2」であり、出力は「16x16x3」である。Max Pooling層804の以降は、同様の層が設けられている。
【0047】
5つ目の層はCNN層805である。入力は「16x16x3」である。フィルターのサイズは「3x3x3」であり、出力は「16x16x3」である。同様に、6つ目の層CNN層806、7つ目の層CNN層807、8つ目の層CNN層808は、いずれもCNN層805と同様である。
【0048】
9つ目の層はMax Pooling層809であり、Poolingのサイズは「2x2」であり、出力は「8x8x3」である。最後の出力層810は全結合層となっており、出力は2値である。これが検査結果の「良」、或いは「不良」に対応する。
【0049】
そして出力層810の出力結果がラベル(正解情報)と異なると、出力結果がラベルと一致するように、誤差逆伝搬法(バックプロパゲーション)によって、ニューラルネットワークのフィルターの重み、及び/又はバイアスを調整して訓練を実行する。訓練には誤差逆伝搬法を用いており、データ数は「100」なので、バッチサイズは「1」、エポック数は「100」としている。訓練は、図3にあるように、データセットを外部の機械学習演算装置20で実行しても良いし、印字検査装置19やインクジェットプリンタ1の内部にある演算装置で実行しても良い。
【0050】
尚、この訓練は、損失関数(クロスエントロピー誤差、2乗和誤差など)を使って重み、及び/又はバイアスを更新していくものである。ここで、重み、及び/又はバイアスは、無作為のドット配列パターンの印字結果を撮像した印字画像を基に、実際に検査すべき印字画像を検査するための評価関数とされている。
【0051】
次に、図4に示す運用工程303では、訓練して作成したニューラルネットワークを用いて検査を実行する。この場合は、印字検査装置19で撮像された印字対象物に印字された印字文字の画像を入力すると、訓練されたニューラルネットワークによって印字文字の「良」、或いは「不良」の判定が出力される。
【0052】
このように本実施形態では、印字検査装置にニューラルネットワークによる機械学習機能部を備えており、機械学習機能部は、印字対象物の印字領域に印字される種々の文字に基づいた無作為の複数のドットからなるドット配列パターンを印字する機能を有するランダムテスト印字機能部と、印字されたドット配列パターンを撮像した印字画像を基に、この印字画像を検査するためのニューラルネットワークの評価関数を最適化する機能を有する評価関数訓練機能部を備える構成とした。
【0053】
これによれば、印字される種々の文字に基づいた無作為のドット配列パターンを印字対象物にテスト印字し、これに基づいてニューラルネットワークの評価関数を最適化するので、検査精度を高めて効率的な検査作業を行うことができる。
【実施例2】
【0054】
次に本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態に比べて、更に検査精度を高めるニューラルネットワークの訓練方法を提案するものである。
【0055】
第1の実施形態では、予め準備されたドット配列パターンを使用したが、これではドット配列パターンの数が有限で、また同様のドット配列パターンを毎回使用する必要がある。このため本実施形態では、更に精度の高い訓練が必要な場合は、無作為なドット配列パターンを生成しながらテスト印字する方法を提案するものである。
【0056】
図9には、図5に示すテスト印字工程401のフローチャートを示している。本実施形態では、無作為のドット配列パターンは動的に作成されることを特徴としている。
【0057】
まず、無作為ドットパターン作成工程901では、全ドットに対してドットの有無を無作為に選択する。ドットの有無の確率は自由に決定できるが、本実施例では第1の実施形態と同様に50%とされている。。無作為に選択する方法としては、疑似乱数を用いる。例えばメルセンヌツイスター法などで疑似乱数を作成する方法が知られている。
【0058】
次に、作成したドット配列パターンに対して、誤り付加工程902で誤りを付加する。誤りの付加確率は50%であり、誤りドット配列パターンの付加方法は、図7B図7Dにあるように第1の実施形態と同様である。ドット配列パターンが決まると、無作為ドットパターン印字工程903では、第1の実施形態と同様にドット配列パターンを印字する。
【0059】
次に、無作為ドットパターン共有工程904では、ドット配列パターンを印字検査装置19と共有する。これはデータセットを作成するために必要である。また、同時に誤り付加の有無も共有する。以後の工程は第1の実施形態と同様であるが、テストデータの数は自由に決定できる。例えば、テストデータが100個で訓練したネットワークの精度が不足している場合は、追加でテスト印字を行うことが可能である。
【0060】
このように本実施形態によれば、更に検査精度を高めることができるニューラルネットワークの訓練が可能となる。
【実施例3】
【0061】
次に本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態に比べて、更に検査精度を高めるニューラルネットワークの訓練方法を提案するものである。
【0062】
第1の実施形態においては、ドット欠損の誤りに対する学習の効率が充分でない場合がある。これはドットの欠損と無作為のドット有無との区別がつかないためである。
【0063】
そこで、図5のデータセット作成工程403で、ドット誤りを付加しない正規ドット配列パターン701とデータとドット抜け誤りドット配列パターン704を重ね合わせた複合ドット配列パターンデータ1001を作成する。
【0064】
図10に重ね合わせた複合ドット配列パターン1001の例を示してるが、重ね合わせることで、破線の四角で囲まれた欠損部分のドット1001eが強調され、より効率よくニューラルネットワークを訓練することが可能となる。
【0065】
このように本実施形態によれば、更に検査精度を高めることができるニューラルネットワークの訓練が可能となる。
【0066】
以上に説明した通り本発明は、印字検査装置にニューラルネットワークによる機械学習機能部を備えており、機械学習機能部は、印字対象物の印字領域に印字される種々の文字に基づいた無作為の複数のドットからなるドット配列パターンを印字する機能を有するランダムテスト印字機能部と、印字されたドット配列パターンを撮像した印字画像を基に、この印字画像を検査するためのニューラルネットワークの評価関数を最適化する機能を有する評価関数訓練機能部を備える、ことを特徴としている。
【0067】
これによれば、印字される種々の文字に基づいた無作為のドット配列パターン(ランダムなドット配列パターン)を印字対象物にテスト印字し、これに基づいてニューラルネットワークの評価関数を最適化するので、検査精度を高めて効率的な検査作業を行うことができる。
【0068】
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…インクジェットプリンタ、19…印字検査装置、20…機械学習演算装置、301…データセット作成用テスト工程、302…機械学習工程、303…運用工程、401…テスト印字工程、402…テスト印字撮像工程、403…データセット作成工程、501…無作為ドットパターン取得工程、502…無作為ドットパターン取得工程、801…入力層、802、803、805~808…CNN層、804、809…MaxPooling層、810…出力層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10