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特許7414758二次電池用電極およびそれを備える二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】二次電池用電極およびそれを備える二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240109BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/02 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021040442
(22)【出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2022139877
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 遥
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】北吉 雅則
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-053204(JP,A)
【文献】特開2002-015764(JP,A)
【文献】特開2017-016793(JP,A)
【文献】特開2006-286614(JP,A)
【文献】特開2006-107853(JP,A)
【文献】特開2012-190625(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084346(WO,A1)
【文献】特開2013-069428(JP,A)
【文献】特開2013-187468(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の正負極いずれかの電極であって、
電極集電体と、該電極集電体上に形成された、電極活物質としての活物質粒子を含んだ電極活物質層と、を備え、
前記電極活物質層の表面には、凹部が形成されており、
前記凹部は、アスペクト比が0.05以上3以下である、前記電極活物質層の表面の一端から他端に向かって連続的に形成された溝であり、
前記電極活物質層は、前記凹部の表面から前記電極集電体に至る厚み方向を上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、該上層、該中間層、該下層の電極密度(g/cm)を、それぞれ、d、d、dとしたときに、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備し、
前記電極活物質層の空隙率は、33%以上45%以下であり、
前記凹部の面積率は、2%以上40%以下であり、
前記凹部の体積率は、5%以上14%以下であり、
前記電極活物質層の空隙率は、
前記凹部の体積を含めた前記電極活物質層の体積に対する、
前記凹部の体積と、前記電極活物質層の内部に含まれる空隙量との和
から算出される、
二次電池用電極。
【請求項2】
前記活物質粒子は、中空活物質粒子を含む、請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
前記溝は、前記電極活物質層の表面と平行な底を有する、請求項1または2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
正負極を備える二次電池であって、
前記正負極のうちの少なくとも一方の電極として、請求項1~のいずれか一項に記載の電極が備えられている、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極およびそれを備えた二次電池に関する。詳しくは、電極活物質層の表面に凹部を備える二次電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、好ましく用いられている。
【0003】
この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。かかる電極活物質層は、電極活物質、結着材(バインダ)、導電材等の固形分を所定の溶媒中に分散して調製したスラリー(ペースト)状の電極合材(以下、「合材スラリー」という。)を集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後、プレス圧をかけて所定の密度、厚さとすることにより形成される。
【0004】
特許文献1には、カソード懸濁液とアノード懸濁液を準備し、それらを1層ずつ沈積させることによって、電極の表面に突起や凹み等の構造を付与する技術が開示されている。電極がこのような表面形状を有することによって、電荷移動反応が起こる面積が増大し、電池の出力密度およびエネルギー密度を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-253820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の駆動用高出力電源として用いられる二次電池は、さらなる高性能化が望まれている。例えば、電極活物質層表面のイオンの拡散抵抗を減少させることができれば、耐久性や入出力特性等の電池特性を向上させうる。
電極活物質層の表面積を増大させることによってイオンの拡散抵抗を減少させることが試みられているが、これには種々の困難を伴う。本発明者の知見によると、例えば、塗膜の乾燥後にレーザによって電極活物質層表面に凹凸を付与しようとすると、レーザを照射した部分の表面のイオン拡散抵抗の増加、電極活物質層を除去することによる容量欠損、除去した電極活物質層の残留等が生じるおそれがある。また、電極材料を少しずつ沈積させて凹凸構造を付与する方法は、工程が煩雑であるため、コストの増加や電極サイズの制限につながる。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、イオン拡散抵抗の低く抑えられた電極活物質層を有する二次電池用電極を提供することを目的とする。併せて、かかる電極を用いた二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、二次電池用電極が提供される。ここに開示される二次電池用電極は、二次電池の正負極いずれかの電極であって、電極集電体と、電極集電体上に形成された、電極活物質としての活物質粒子を含んだ電極活物質層と、を備えている。電極活物質層の表面には、凹部が形成されている。電極活物質層は、凹部の表面から電極集電体に至る厚み方向を上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、上層、中間層、下層の電極密度(g/cm)を、それぞれ、d、d、dとしたときに、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備する。電極活物質層の空隙率は、10%以上50%以下である。凹部の面積率は、2%以上40%以下である。凹部の体積率は、5%以上14%以下である。
かかる二次電池用電極は、電極活物質層の表面に上記のような凹部が形成されており、かつ、上層と下層とで電極活物質層の電極密度に大きな差がない。これによって、電極活物質層のイオン拡散抵抗が低く抑えられている。
【0009】
活物質粒子は中空部を備えた中空活物質粒子を含んでいてもよい。活物質粒子が中空部を備えていることによって、電極活物質層中の空隙を好適に維持することができる。それによって、電極活物質層のイオン拡散抵抗を好適に抑えることができる。
【0010】
好適な一態様では、電極活物質層の空隙率は、33%以上45%以下である。
好適な一態様では、凹部は、電極活物質層の表面の一端から他端に向かって連続的に形成された溝である。かかる構成によって、電極活物質層のイオン拡散抵抗をより好適に抑えることができる。
【0011】
本教示によって、正負極を備える二次電池であって、正負極のうちの少なくとも一方の電極として、ここで開示されるいずれかの態様の電極が備えられている二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る電極製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
図2】湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
図3】ここで開示される湿潤粉体を製造するのに用いられる撹拌造粒機の一例を模式的に示す説明図である。
図4】一実施形態に係るロール成膜装置の構成を模式的に示す説明図である。
図5】一実施形態に係るロール成膜ユニットを備える電極製造装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図6】一実施形態に係る二次電池用電極を模式的に示す側面図である。
図7】一実施形態に係る二次電池用電極を模式的に示す平面図である。
図8】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。
【0013】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここで開示される二次電池用電極およびその製造方法の一例について詳細に説明する。
本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書において数値範囲をA~B(ここでA,Bは任意の数値)と記載している場合は、一般的な解釈と同様であり、A以上B以下(Aを上回るがBを下回る範囲を含む)を意味するものである。
【0014】
本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電解質中のリチウムイオンが電荷の移動を担う二次電池をいう。また、「電極体」とは、正極および負極で構成される電池の主体を成す構造体をいう。本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。電極活物質(即ち正極活物質または負極活物質)は、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出可能な化合物をいう。
【0015】
図1に、本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法の各工程を示す。本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法は、少なくとも複数の活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程(湿潤粉体用意工程)S101、ここで、当該湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の当該凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している;当該湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、当該気相を残しつつ成膜する工程(成膜工程)S102;当該成膜された塗膜の表面部に、所定の高さの凸部を有する型を用いて凹凸転写し、凹凸が転写された塗膜を乾燥させ、乾燥させた塗膜をプレスすることによって、凹部が形成された電極活物質層を形成する工程(電極活物質層形成工程)S103を包含する。
【0016】
上記工程S101および工程S102の内容が示すように、本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法においては、湿潤粉体(Moisture Powder)を用いて成膜する湿潤粉体成膜(Moisture Powder Sheeting:MPS)が採用されている。
【0017】
<湿潤粉体用意工程>
湿潤粉体用意工程S101では、少なくとも複数の活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含む凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する。この湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の当該凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している。
【0018】
まず、湿潤粉体を形成する凝集粒子の各成分について説明する。当該凝集粒子に含まれる、活物質粒子およびバインダ樹脂は、固形分である。
使用される粒子状の電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回析・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。凝集粒子に含まれる活物質粒子の数は、複数である。
なお、活物質粒子としては、複数の1次粒子が凝集した2次粒子が用いられていてもよい。活物質粒子は、中空活物質粒子を含んでいてもよい。中空活物質粒子とは、複数の1次粒子からなる殻部と、当該殻部の内側の中空部とを含んだ活物質粒子のことをいう。中空活物質粒子の中空部の体積は特に限定されないが、例えば、中空活物質粒子の体積に対して0.1以上、好ましくは0.2以上であるとよい。活物質粒子として中空活物質粒子が含まれていることによって、電極活物質層の内部に含まれる空隙を好適に維持することができる。
【0019】
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。使用する溶媒に応じて適切なバインダ樹脂が採用される。
【0020】
湿潤粉体を形成する凝集粒子は、固形分として電極活物質およびバインダ樹脂以外の物質を含有していてもよい。その例としては、導電材や増粘剤等が挙げられる。
導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやカーボンナノチューブのような炭素材料が好適例として挙げられる。
また、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。
【0021】
このほか、電極が全固体電池の電極である場合は、固体電解質が固形分として用いられる。固体電解質としては、特に限定されるものではないが、LiS、P、LiI、LiCl、LiBr、LiO、SiS、B、Z(ここでmおよびnは正の数であり、ZはGe、ZnまたはGa)、Li10GeP12等を構成要素とする硫化物固体電解質が好適例として挙げられる。
なお、本明細書において、「固形分」とは、上述した各材料のうち溶媒を除く材料(固形材料)のことをいい、「固形分率」とは、各材料すべてを混合した電極材料のうち、固形分が占める割合のことをいう。
【0022】
溶媒は、湿潤粉体を形成する凝集粒子において液相を構成する成分である。溶媒としては、バインダ樹脂を好適に分散または溶解し得るものであれば、特に制限なく使用することができる。具体的には、溶媒として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等を好ましく用いることができる。
【0023】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、湿潤粉体を形成する凝集粒子は、上記以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
【0024】
次に、湿潤粉体の状態について説明する。当該湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の当該凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成している。
【0025】
ここで、湿潤粉体を構成する凝集粒子における固形分(固相)、溶媒(液相)および空隙(気相)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
この分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている。この4つの分類を、本明細書においても採用しており、よって、ここで開示される湿潤粉体は、当業者にとって、明瞭に規定されている。以下、この4つの分類について具体的に説明する。
【0026】
「ペンジュラー状態」は、図2の(A)に示すように、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2間を架橋するように溶媒(液相)3が不連続に存在する状態であり、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように溶媒3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。そしてペンジュラー状態では、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないことが特徴として挙げられる。
【0027】
また、「ファニキュラー状態」は、図2の(B)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2の周囲に溶媒(液相)3が連続して存在する状態となっている。但し、溶媒量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。一方、凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
【0028】
ファニキュラー状態は、ペンジュラー状態とキャピラリー状態との間の状態であり、ペンジュラー状態寄りのファニキュラーI状態(即ち、比較的溶媒量が少ない状態のもの)とキャピラリー状態寄りのファニキュラーII状態(即ち、比較的溶媒量が多い状態のもの)とに区分したときのファニキュラーI状態では、依然、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面に溶媒の層が認められない状態を包含する。
【0029】
「キャピラリー状態」は、図2の(C)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率が増大し、凝集粒子1中の溶媒量は飽和状態に近くなり、活物質粒子2の周囲において十分量の溶媒3が連続して存在する結果、活物質粒子2は不連続な状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙(気相)も、溶媒量の増大により、ほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%)が孤立空隙として存在し、凝集粒子に占める空隙の存在割合も小さくなる。
【0030】
「スラリー状態」は、図2の(D)に示すように、もはや活物質粒子2は、溶媒3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相はほぼ存在しない。
【0031】
従来より、湿潤粉体を用いて成膜する湿潤粉体成膜は知られていたが、従来の湿潤粉体成膜において、湿潤粉体は、粉体の全体にわたって液相が連続的に形成された、いわば図2の(C)に示す「キャピラリー状態」にあった。
【0032】
これに対し、本実施形態において用意される湿潤粉体は、気相を制御することによって、従来の湿潤粉体とは異なる状態としたものであり、上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)が形成されている湿潤粉体である。この2つの状態においては、活物質粒子(固相)2が溶媒(液相)3によって液架橋されており、かつ空隙(気相)4の少なくとも一部が、外部に通じる連通孔を形成しているという共通点を有する。本実施形態において用意される湿潤粉体を、便宜上「気相制御湿潤粉体」とも称する。
【0033】
上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態にある凝集粒子を電子顕微鏡像観察(例、走査型電子顕微鏡(SEM)観察)した際には、凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められないが、このとき、少なくとも50個数%以上の凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められないことが好ましい。
【0034】
気相制御湿潤粉体は、従来のキャピラリー状態の湿潤粉体を製造するプロセスを応用して製造することができる。即ち、従来よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態またはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される、電極材料(電極合材)としての湿潤粉体を作製することができる。
また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
湿潤粉体用意工程で用意される好適な気相制御湿潤粉体としては、湿潤粉体を所定の容積の容器に力を加えずにすり切りに入れて計測した実測の嵩比重である、緩め嵩比重X(g/mL)と、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重である、原料ベースの真比重Y(g/mL)とから算出される「緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/X」が、1.2以上、好ましくは1.4以上(さらには1.6以上)であって、好ましくは2以下であるような湿潤粉体が挙げられる。
【0035】
気相制御湿潤粉体は、公知の撹拌造粒機(プラネタリーミキサー等のミキサー)を用いて各成分を混合することによって、作製することができる。
具体的には例えば、先ず、溶媒を除く材料(固形成分)を予め混合して溶媒レスの乾式分散処理を行う。これにより、各固形成分が高度に分散した状態を形成する。その後、当該分散状態の混合物に、溶媒その他の液状成分(例えば液状のバインダ)を添加してさらに混合する。これによって、各固形成分が好適に混合された湿潤粉体を作製することができる。
【0036】
より具体的には、図3に示すような撹拌造粒機10を用意する。撹拌造粒機10は、典型的には円筒形である混合容器12と、当該混合容器12の内部に収容された回転羽根14と、回転軸16を介して回転羽根(ブレードともいう)14に接続されたモータ18とを備える。
撹拌造粒機10の混合容器12内に固形分である電極活物質と、バインダ樹脂と、種々の添加物(例、増粘材、導電材等)を投入し、モータ18を駆動させて回転羽根14を、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度、回転させることによって各固形分の混合体を製造する。そして、固形分が70%以上、より好ましくは80%以上(例えば85~98%)になるように計量された適量の溶媒を混合容器12内に添加し、撹拌造粒処理を行う。特に限定するものではないが、回転羽根14を例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度さらに回転させる。これによって、混合容器12内の各材料と溶媒が混合されて湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)を製造することができる。なお、さらに1000rpm~3000rpm程度の回転速度で1~5秒間程度の短い撹拌を断続的に行うことで、湿潤粉体の凝集を防止することができる。
【0037】
得られる造粒体の粒径は、後述するロール成膜装置の一対のロール間ギャップの幅よりも大きな粒径をとり得る。ギャップの幅が10μm~100μm程度(例えば20μm~50μm)の場合、造粒体の粒径は50μm以上(例えば100μm~300μm)であり得る。
【0038】
ここで、用意すべき気相制御湿潤粉体は、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)を形成している。そのため、電子顕微鏡観察において凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められない程度に溶媒含有率が低く(例えば溶媒分率が2~15質量%程度、または3~8質量%であり得る)、逆に気相部分は相対的に大きい。
このような固相と液相と気相との状態を得るため、上述の造粒体製造操作において、気相を増大させ得る種々の処理や操作を取り入れることができる。例えば、撹拌造粒中若しくは造粒後、乾燥した室温よりも10~50℃程度加温されたガス(空気または不活性ガス)雰囲気中に造粒体を晒すことにより余剰な溶媒を蒸発させてもよい。また、溶媒量が少ない状態でペンジュラー状態またはファニキュラーI状態である凝集粒子の形成を促すため、活物質粒子その他の固形成分同士を付着させるために圧縮作用が比較的強い圧縮造粒を採用してもよい。例えば、粉末原料を鉛直方向から一対のロール間に供給しつつロール間で圧縮力が加えられた状態で造粒する圧縮造粒機を採用してもよい。
【0039】
<成膜工程>
次に、成膜工程S102について説明する。成膜工程S102においては、上記で用意した湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、湿潤粉体が有する気相を残した状態で成膜する。
【0040】
図4は、本実施形態に係る二次電池用電極の製造に用いられるロール成膜装置を模式的に示した説明図である。
図5は、本実施形態に係る二次電池用電極の製造に用いられる電極製造装置の概略構成を構成的に示した説明図である。電極製造装置70は、大まかにいって、図示しない供給室から搬送されてきたシート状集電体31の表面上に湿潤粉体32を供給して塗膜33を形成する成膜ユニット40と、該塗膜33を厚さ方向にプレスし、該塗膜の表面凹凸形成処理を行う塗膜加工ユニット50と、表面凹凸形成処理後の塗膜33を適切に乾燥させて電極活物質層を形成する乾燥ユニット60を備える。
【0041】
成膜工程S102において用いられる電極集電体としては、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体が正極集電体である場合には、電極集電体は、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。正極集電体は、アルミニウム製であることが好ましく、特に好ましくはアルミニウム箔である。電極集電体が負極集電体である場合には、電極集電体は、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。負極集電体は、銅製であることが好ましく、特に好ましくは銅箔である。電極集電体の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0042】
湿潤粉体を用いた成膜について説明する。湿潤粉体を用いた成膜は、公知のロール成膜装置を用いて行うことができる。成膜装置の好適な例としては、図4に模式的に示すようなロール成膜装置20が挙げられる。かかるロール成膜装置20は、第1の回転ロール21(以下「供給ロール21」という。)と第2の回転ロール22(以下「転写ロール22」という。)とからなる一対の回転ロール21,22を備えている。供給ロール21の外周面と転写ロール22の外周面は互いに対向しており、これら一対の回転ロール21,22は、図4の矢印に示すように逆方向に回転することができる。
かかる供給ロール21と転写ロール22は、長尺なシート状の電極集電体31上に成膜する電極活物質層(塗膜)33の所望の厚さに応じた距離だけ離れている。すなわち、供給ロール21と転写ロール22の間には、所定の幅のギャップがあり、かかるギャップのサイズにより、転写ロール22の表面に付着させる湿潤粉体(電極合材)32から成る塗膜33の厚さを制御することができる。また、かかるギャップのサイズを調整することにより、供給ロール21と転写ロール22の間を通過する湿潤粉体32を圧縮する力を調整することもできる。このため、ギャップサイズを比較的大きくとることによって、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態に製造された湿潤粉体32(具体的には凝集粒子のそれぞれ)の気相を維持することができる。
【0043】
供給ロール21および転写ロール22の幅方向の両端部には、隔壁25が設けられている。隔壁25は、湿潤粉体32を供給ロール21および転写ロール22上に保持すると共に、2つの隔壁25の間の距離によって、電極集電体31上に成膜される塗膜(電極活物質層)33の幅を規定する役割を果たす。この2つの隔壁25の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料(湿潤粉体)32が供給される。
成膜装置20では、転写ロール22の隣に第3の回転ロールとしてバックアップロール23が配置されている。バックアップロール23は、電極集電体31を転写ロール22まで搬送する役割を果たす。転写ロール22とバックアップロール23は、図4の矢印に示すように、逆方向に回転する。
【0044】
供給ロール21、転写ロール22、バックアップロール23は、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続されており、供給ロール21、転写ロール22およびバックアップロール23の順にそれぞれの回転速度を徐々に高めることによって、湿潤粉体32を転写ロール22に沿って搬送し、転写ロール22の円周面からバックアップロール23により搬送されてきた電極集電体31の表面上に当該湿潤粉体を塗膜33として転写することができる。
なお、図4では、供給ロール21、転写ロール22、バックアップロール23は、それぞれの回転軸が水平に並ぶように配置されているが、これに限られず、例えば図5に示すような位置にバックアップロール(図5参照)が配置されてもよい。
【0045】
また、供給ロール21、転写ロール22およびバックアップロール23のサイズは特に制限はなく、従来のロール成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら3種の回転ロール21,22,23の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、塗膜を形成する幅についても従来のロール成膜装置と同様でよく、塗膜を形成する対象の電極集電体の幅によって適宜決定することができる。また、これら回転ロール21,22,23の円周面の材質は、従来公知のロール成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。
【0046】
成膜ユニット40は、上述したロール成膜装置(図4)と同様、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続された供給ロール41、転写ロール42,43,44およびバックアップロール45を供える。
本実施形態に係る成膜ユニットでは、図示されるように、転写ロールが連続的に複数備えられている。この例では、供給ロール41に対向する第1転写ロール42、該第1転写ロールに対向する第2転写ロール43、および、該第2転写ロールに対向し、且つ、バックアップロール45にも対向する第3転写ロール44を備えている。
このような構成とすることにより、各ロール間のギャップG1~G4のサイズを異ならせ、湿潤粉体の連通孔を維持しつつ好適な塗膜を形成することができる。以下、このことを詳述する。
図示するように、供給ロール41と第1転写ロール42との間を第1ギャップG1、第1転写ロール42と第2転写ロール43との間を第2ギャップG2、第2転写ロール43と第3転写ロール44との間を第3ギャップG3、そして第3転写ロール44とバックアップロール45との間を第4ギャップG4とすると、ギャップのサイズは、第1ギャップG1が相対的に最大であり、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4の順に少しずつ小さくなるように設定されている(G1>G2>G3>G4)。このように集電体31の搬送方向(進行方向)に沿ってギャップが徐々に小さくなる多段ロール成膜を行うことにより、湿潤粉体32を構成する凝集粒子の過剰な潰れが防止され、連通孔の維持と凝集粒子内に孤立空隙が生じるのを防止することができる。即ち、成膜ユニット40は以下のように作動させることができる。
【0047】
供給ロール41、第1転写ロール42、第2転写ロール43、第3転写ロール44およびバックアップロール45は、それぞれが独立した図示しない駆動装置(モータ)に接続されているため、それぞれ異なる回転速度で回転させることができる。具体的には、供給ロール41の回転速度よりも第1転写ロール42の回転速度が速く、第1転写ロール42の回転速度よりも第2転写ロール43の回転速度は速く、第2転写ロール43の回転速度よりも第3転写ロール44の回転速度は速く、第3転写ロール44の回転速度よりもバックアップロール45の回転速度は速い。
このように各回転ロール間で集電体搬送方向(進行方向)に沿って回転速度を少しずつ上げていくことによって、図4のロール成膜装置20とは異なる多段ロール成膜を行うことができる。このとき、上記のとおり、第1ギャップG1、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4をこの順に少しずつ小さくなるように設定することによって、本成膜ユニット40に供給された湿潤粉体32は、その気相状態を保持、すなわち孤立空隙が過剰に生じることなく連通孔の維持と凝集粒子内に孤立空隙が生じるのを防止することができる。特に限定するものではないが、各ギャップG1~G4のサイズ(幅)は、10μm~300μm以下(例えば、20μm以上150μm以下)となるようなギャップサイズに設定すればよい。
【0048】
このように、公知のロール成膜装置によって、装置の湿潤粉体32およびそれからなる塗膜を圧縮する力を調整しつつ、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を転写することによって、湿潤粉体の有する気相を残した状態で成膜することができる。
【0049】
<電極活物質層形成工程>
電極活物質層形成工程S103においては、成膜された塗膜の表面部に、所定の高さの凸部を有する型を用いて凹凸を転写する。さらに、凹凸が転写された塗膜を乾燥させ、必要に応じて乾燥させた塗膜をプレスする。それによって電極活物質層に予め定められた凸部が形成された電極活物質層を形成する。
【0050】
電極活物質層形成工程S103では、まず、成膜された塗膜の表面に、公知方法に準拠して凹凸転写を行う。例えば、塗膜の表面に、所定のパターンが表面に形成された回転ロールを押し当てることによって凹凸を転写することができる。本実施形態では、凹凸転写は、図5に示すような電極製造装置70の塗膜加工ユニット50で行われる。塗膜加工ユニット50は、塗膜の密度や膜厚を調整するプレスロール52と、塗膜の表面に凹凸転写を行うための、第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56と、を備えている。
【0051】
凹凸転写を行うための塗膜の平均空隙率(気相率)は、少なくとも1%以上であることが好ましく、例えば1%以上55%以下、典型的には5%以上55%以下であってよい。気相を残した状態で凹凸を形成することにより、展延性が向上しているため、従来よりも小さい荷重で塗膜に対して所望する凹凸形状を付与することができる。また、凹凸を形成するために荷重がかけられたとしても、塗膜の表面部において局所的な密度の上昇(緻密化)することなく凹凸形状を形成することができる。
【0052】
なお、本明細書において、「塗膜の平均空隙率(気相率)」は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察により算出することができる。該断面画像をオープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、固相または液相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相または液相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S2/(S1+S2)×100」を算出することができる。これを、乾燥前の塗膜の空隙率とする。断面SEM像を複数取得し(例えば5枚以上)、かかる空隙率の平均値をここでの乾燥前の「塗膜の平均空隙率(気相率)」)とする。なお、「塗膜の平均空隙率(気相率)」には、凹凸形成の過程において形成された凹部(すなわちマクロな空隙)は、含まない。
【0053】
塗膜の表面に凹凸転写を行うための、第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56について説明する。
第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56はそれぞれ、塗膜が当てられる面(すなわち、ロールの外周面)に凸部を備えている。凸部の形状は特に限定されないが、例えば、凹凸加工ロールの外周面に一定の方向に伸長するような線状のものであってもよい。凸部は、凹凸加工ロールの回転軸に垂直に伸長するように設けられていてもよい。かかる形状の凸部を備える凹凸加工ロールを用いることによって、電極集電体の搬送方向に沿って延びる溝(いわゆる「縦溝」)を塗膜に形成することができる。凸部は、凹凸加工ロールの回転軸に平行に伸長するように設けられていてもよい。かかる形状の凸部を備える凹凸加工ロールを用いることによって、電極集電体の搬送方向に直交する方向に延びる溝(いわゆる「横溝」)を塗膜に形成することができる。このような凸部は、1つの凹凸加工ロールに対して、一定のピッチで複数設けられているとよい。
【0054】
例えば、第1凹凸加工ロール54が回転軸に垂直に伸長する凸部を複数有し、第2凹凸加工ロール56が回転軸に平行に伸長する凸部を複数有している場合には、塗膜には縦溝および横溝が付与される。つまり、塗膜には格子状の溝が付与される。凹凸加工ロールの線圧は、目的とする溝の寸法等により異なり得るため特に限定されないが、概ね15N/cm~75N/cm、例えば25N/cm~65N/cm程度に設定することができる。
【0055】
凸部は、上述したような凹凸加工ロールの回転軸に垂直または平行に伸長するものに限られない。凸部は、例えば、凹凸加工ロールの回転軸を中心軸としてらせん状に設けられていてもよい。かかる形状の凸部を備える凹凸加工ロールを用いることによって、電極集電体の搬送方向から傾斜した方向に延びる溝を塗膜に形成することができる。
また、第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56に備えられている凸部は、上述したような線状のものに限られない。凹凸加工ロールには、例えば、突起状の凸部が設けられていてもよい。突起状の凸部の頂部は平坦でもよく、屈曲していてもよく、先端が細くなるような形状であってもよい。このような突起状の凸部は、塗膜表面に一定のパターンの凹みが形成されるように、例えば、凹凸加工ロールの回転軸に垂直な方向および平行な方向にそれぞれ一定のピッチで設けられているとよい。突起状の凸部は、例えば、円形状のものでもよく、三角形や四角形などの多角形形状のものでもよい。
なお、第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56に備えられている凸部の高さ、幅、面積、ピッチ等は、目的とする塗膜の形状、寸法、密度等に応じて適宜設定される。また、本実施形態では、第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56によって凹凸転写を行っていたが、凹凸加工ロールの数は2つに限られない。例えば、1つの凹凸加工ロールによって凹凸転写を行ってもよい。
【0056】
例えば、凹凸加工ロールの凹部と凸部のピッチは、0.6mm以上5mm以下(例えば、1mm以上3mm以下)に設定することができる。プレス圧は、例えば、0.01MPa~100MPa、例えば0.1MPa~70MPa程度に設定することができる。
【0057】
なお、第1凹凸加工ロール54および第2凹凸加工ロール56によって塗膜に対して凹凸転写を実施する前に、プレスロール52によって塗膜の密度や膜厚等が調整されていてもよい。
プレスロール52は、搬送されてきた集電体31を支持しつつ進行方向に送り出すバックアップロール52Bと、バックアップロール52Bに対向する位置に配置され、塗膜33を膜厚方向に押圧して圧縮するためのワークロール52Aとを備えている。かかるプレスロール52は、搬送されてきた集電体31上に形成(成膜)されたペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)の湿潤粉体32からなる塗膜33を、孤立空隙を生じさせない程度にプレスして圧縮することができる。かかるプレスロール52による好適なプレス圧は、目的とする塗膜(電極活物質層)の膜厚や密度により異なり得るため特に限定されないが、概ね0.01MPa~100MPa、例えば0.1MPa~70MPa程度に設定することができる。
【0058】
電極活物質層形成工程S103では、次に、凹凸が転写された塗膜を乾燥させる。
図5に示すように、電極製造装置70の塗膜加工ユニット50よりも集電体搬送方向の下流側には、乾燥ユニット60として図示しない加熱器(ヒータ)を備えた乾燥室62が配置され、塗膜加工ユニット50から搬送されてきた集電体31の表面上の塗膜33を乾燥する。なお、かかる乾燥ユニット60は、従来のこの種の電極製造装置における乾燥ユニットと同様でよく、特に本発明を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0059】
電極活物質層形成工程S103では、必要に応じて、乾燥させた塗膜をプレスする。ここでは、凹凸転写でのプレス圧よりも高い圧力でプレスを行うとよい。例えば、ロール圧延機によるロールプレスでは、線圧1ton/cm~5ton/cm程度に設定されていることが好ましい。平板圧延機によるプレスの場合は、例えば、100~500MPa程度に設定されていることが好ましい。
【0060】
以上のようにして、凹部が形成された電極活物質層が形成される。凹部の寸法等は、例えば、電極活物質層形成工程S103の凹凸転写に使用する凹凸加工ロールの形状、各ロール間のギャップ幅やプレス圧等によって調整することができる。
なお、ここで使用されている気相制御湿潤粉体を用いて製造された塗膜では、中に外部に至る連通孔が形成されているため、孤立空隙を過剰に生じさせることなく圧縮することができる。また、展延性に優れる塗膜であるため、乾燥前の湿潤状態であるにもかかわらず、所望する凹凸パターンが形成され、維持される。
【0061】
本実施形態に係る二次電池用電極の製造方法では、気相制御湿潤粉体が用いられる。このような方法では、得られる電極は、次のような特徴を有し得る。
(1)電極活物質層におけるLcm×Bcm(L,Bは3以上の整数)で示される基準エリアにおける表面積を、相互に異なるn(nは5以上の整数)点で計測したときの平均表面積が、1.05×L×Bcm以上である。
(2)電極活物質層における気体残留率((空気の体積/塗膜の体積)×100)が10vol%以下である。
(3)電極活物質層についての放射光X線ラミノグラフィー法による空隙観察に基づく空隙分布において、全空隙容積(100vol%)に対する2000μm以上の容積の空隙比率が30vol%以下である。
(4)電極活物質層を、当該電極活物質層の表面から電極集電体に至る厚み方向に上層および下層の2つの層に均等に区分し、該上層および下層のバインダ樹脂の濃度(mg/L)を、それぞれ、C1およびC2としたとき、0.8≦(C1/C2)≦1.2の関係を具備する。
【0062】
このようにして、リチウムイオン二次電池の構築に用いられるシート状の二次電池用電極を製造することができる。図6および図7に、かかる製造方法で製造された二次電池用電極を模式的に示す。図6は、ここで開示される二次電池用電極を模式的に示す側面図である。図7は、ここで開示される二次電池用電極を模式的に示す平面図である。
図6に示すように、二次電池用電極5は、電極集電体6と、電極集電体6上に形成された電極活物質層7と、を備えている。電極活物質層7は、電極活物質としての活物質粒子を含んでいる。電極活物質層7の表面には、凹部8が形成されている。なお、図7では、電極集電体の図示は省略されている。
【0063】
電極活物質層7の平均膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上250μm以下)であってよい。電池の高容量化の観点からは、従来よりも平均膜厚が厚いことが好ましく、例えば150μm以上300μm以下(例えば、200μm以上250μm以下)程度であってよい。ここでは、電極活物質層の平均膜厚とは、電極活物質層において、凹部が形成されていない部分の平均膜厚のことをいう。
【0064】
本実施形態では、凹部8は、図7(A)に示されているように、幅方向(X方向)の一方の端から他方の端に向かって連続的に形成された溝のような形状である。凹部8は、長さ方向に向かって一定のピッチで複数本形成されている。なお、本明細書において、「ピッチ」とは、凹部8が繰り返される最小単位のことをいう。凹部8のピッチは、特に限定されないが、0.6mm以上であってもよく、例えば、1mm以上であってもよい。また、凹部8のピッチは、5mm以下であってもよく、例えば、3mm以下であってもよい。
【0065】
ところで、電極活物質層に凹部を形成させることによって、電極活物質層の表面積を大きくすることができる。リチウムイオン二次電池は、充放電の際に電極活物質層の表面でリチウムイオンの挿入および脱離が起こる。そのため、電極活物質層の表面積を大きくすることで、リチウムイオンの拡散抵抗を低下させることができると考えられている。
しかしながら、本発明者の知見では、電極活物質層の表面形状のパターンによってイオン拡散抵抗の低下の度合いは変わりうる。例えば、凹部の深さが深くなると、上述したように電極活物質層の表面積が大きくなる。このことは、電極活物質層のイオン拡散抵抗の低下に寄与する。それと同時に、電極活物質がつぶれることによって電極活物質がより圧縮された状態となる。このことは、電極活物質層のイオン拡散抵抗の上昇に寄与する。
本発明者が鋭意検討を重ね、電極活物質層と、電極活物質層に形成された凹部が下記の特徴を有することによって、イオン拡散抵抗を好適に抑えることができることを見出した。
(1)電極活物質層の空隙率は、10%以上50%以下である。
(2)凹部の面積率は、2%以上40%以下である。
(3)凹部の体積率は、5%以上14%以下である。
【0066】
本明細書において、「凹部の面積率」とは、平面視における、電極活物質層の面積に対する凹部の開口面積の比のことをいう。凹部の面積率は、例えば、電極活物質層表面の一部を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表面観察し、単位面積における凹部の開口面積の比を算出することにより求めることができる。
本明細書において、「凹部の体積率」とは、電極活物質層の体積に対する凹部の体積のことをいう。ここで、電極活物質層の体積とは、凹部の体積も含めた電極活物質層の体積のことをいい、例えば、電極活物質層の平面視での面積と電極活物質層の凹部が形成されていない部分の厚さ(平均膜厚)との積で求められる。凹部の体積は、例えば、電極活物質層の断面における凹部の寸法と、凹部のピッチとから求めることができる。凹部の体積率は、例えば、電極活物質層の単位体積当たりの凹部の体積から算出される。
本明細書において、「電極活物質層の空隙率」とは、電極活物質層の体積に対する、電極活物質層中の空隙の比のことをいう。ここで、電極活物質層の体積とは、上述した凹部の体積も含めた電極活物質層の体積のことである。電極活物質層中の空隙とは、上述した凹部の体積と、電極活物質層の内部に含まれる空隙量との和である。電極活物質層の内部に含まれる空隙は、例えば、水銀ポロシメータを用いて測定することができる。
【0067】
一般的に、電極活物質層の空隙率が高い程、イオン拡散抵抗が低くなる。かかる観点から、電極活物質層の空隙率は、10%以上であるとよく、33%以上であることが好ましく、例えば、35%以上であってもよい。一方、電極活物質層の空隙率が高すぎると、エネルギー密度等の観点から好ましくない。電極活物質層の空隙率は、50%以下であるとよく、例えば、45%以下であってもよい。例えば、活物質粒子として中空活物質粒子を用いることによっても、電極活物質層の空隙率を上記の範囲に調節しうる。活物質粒子として中空活物質を用いた場合は、中空部を有しない活物質粒子(以下、中実活物質ともいう)を用いた場合と比較して、電極活物質層の空隙率が高くなる。空隙率は、活物質粒子に対する中空部の比率等によって異なるが、活物質粒子として中空活物質を用いた場合は、中実活物質を用いた場合と比較して10%~25%程度高くなる。中実活物質を用いた場合、空隙率は10%以上であることが好ましい。中実活物質を用いた場合の空隙率は、35%以下であってもよく、25%以下であってもよい。
【0068】
電極密度(g/cm)は、使用する電極材料等によって異なるため、一概に言えるものではないが、例えば、電極が正極である場合には、電極密度は1.0g/cm以上4.5g/cm以下であることが好ましく、2.0g/cm以上4.2g/cm以下であることがより好ましく、2.2g/cm以上3.8g/cm以下であることがさらに好ましい。電極が負極である場合には例えば、電極密度は0.8g/cm以上2.0g/cm以下であることが好ましく、0.9g/cm以上1.8g/cm以下であることがより好ましく、1.0g/cm以上1.6g/cm以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、「電極密度(g/cm)」とは、電極活物質層(すなわち、乾燥後の塗膜)において空隙(気相)を除いた固形分密度のことをいう。例えば、電極密度(g/cm)は、電極活物質層の質量を電極活物質層の見かけの体積で除することによって求めることができる。電極活物質層の見かけの体積は、電極活物質層の平面視での面積と、電極活物質層の凹部が形成されていない部分の厚さとの積から求めることができる。
【0069】
電極活物質層7は、気相制御湿潤粉体を用いて製造されていることにより、凹部8が形成されていながらも、厚み方向の電極密度の差が小さい。
つまり、電極活物質層7は、凹部8の表面から電極集電体6に至る厚み方向を上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、上層、中間層、下層の電極密度(g/cm)を、それぞれ、d、d、dとしたときに、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備している。電極密度は、0.9<(d/d)<1.05の関係を具備していることがより好ましい。
【0070】
通常、乾燥後の塗膜に対してプレス加工等によって凹凸転写を行う場合、塗膜の表面(特に、凹部の底の表面)が特異的に緻密化したり、また、凹凸面が形成電極活物質層の表面にクラックや部分的な脱落(剥離)が生じたりするおそれがある。気相制御湿潤粉体を用いて凹凸転写を行うことによって、電極活物質層の厚み方向における電極密度の差を上記のように小さくすることができる。
【0071】
なお、下層とは、電極活物質層7と電極集電体6との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層7の厚さの概ね33%内部の位置までをいう。中間層とは、電極活物質層7の厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層7の厚さの概ね33%~66%の位置をいう。上層とは、電極活物質層7の厚さの概ね66%~100%の位置をいう。
【0072】
上層、中間層および下層の電極密度は、例えば、電極の真密度に該当範囲(すなわち上層、中間層および下層のいずれか)の充填率を乗ずることによって求めることができる。電極の真密度は、例えば、構成成分の密度と含有割合に基づいて算出される値である。該当範囲の充填率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察において二値化処理を行うことによって算出することができる。具体的には、上述した「ImageJ」を用いて算出することができる。
【0073】
凹部8のパターンは、図7(A)に示されているような、幅方向(X方向)の一方の端から他方の端に向かって一方向に連続的に形成された溝に限られない。凹部8は、例えば、図7(B)に示されているような、幅方向(X方向)の一方の端から他方の端に向かって連続的に形成された溝と、長さ方向(Y方向)の一方の端から他端の端に向かって連続的に形成された溝とが交差するように、格子状に形成されていてもよい。また、凹部8は、例えば、図7(C)に示されているような、幅方向(X方向)および長さ方向(Y方向)に一定のピッチで形成される穴のような形状であってもよい。
また、凹部8の寸法は特に限定されない。これに限られないが、例えば、凹部の幅bに対する凹部の深さa(図6参照)から算出されるアスペクト比a/bは、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。また、アスペクト比a/bは、凹部の加工容易性の観点から、3以下であるとよく、例えば、1.5以下であってもよい。
【0074】
図6に示されている実施形態では、凹部8の側面は、電極活物質層7の表面と垂直である。また、凹部8の底は、電極活物質層7の表面と平行な平面である。しかしながら、凹部はかかる形態に限定されない。例えば、凹部は、開口から底に向かうに従って徐々に狭くなるような、側面が傾斜しているような形状であってもよい。凹部は、開口から底に向かうに従って徐々に広くなるように側面が傾斜し、開口よりも底が広くなっているような形状であってもよい。凹部の底は平面でなくてもよく、屈曲していてもよい。また、凹部は例えば、V字のような底を有しない形状であってもよい。
【0075】
図8は、ここで開示される二次電池用電極を用いて構築され得るリチウムイオン二次電池100の部分断面図である。
リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)100は、扁平形状の捲回電極体80と非水電解液(図示せず)とが電池ケース(即ち外装容器)70に収容された電池である。電池ケース70は、一端(電池の通常の使用状態における上端部に相当する。)に開口部を有する箱形(すなわち有底直方体状)のケース本体72と、該ケース本体72の開口部を封止する蓋体74とから構成される。ここで、捲回電極体80は、該捲回電極体の捲回軸が横倒しとなる姿勢(即ち、捲回電極体80の捲回軸方向と蓋体74の面方向とはほぼ平行である。)で、電池ケース70(ケース本体72)内に収容されている。電池ケース70の材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼といった軽量で熱伝導性の良い金属材料が好ましく用いられ得る。
また、蓋体74には外部接続用の正極端子81および負極端子86が設けられている。蓋体74には、電池ケース70の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された排気弁76と、非水電解液を電池ケース70内に注入するための注入口(図示せず)が設けられている。電池ケース70は、蓋体74を電池ケース本体72の開口部の周縁に溶接することによって、該電池ケース本体72と蓋体74との境界部を接合(密閉)することができる。
【0076】
捲回電極体80は、長尺なシート状の典型的にはアルミニウム製の正極集電体82の片面または両面に長手方向に沿って正極活物質層84が形成された正極シート83と、長尺なシート状の典型的には銅製の負極集電体87の片面または両面に長手方向に沿って負極活物質層89が形成された負極シート88とを、典型的には多孔性のポリオレフィン樹脂からなる2枚の長尺状のセパレータシート90を介して積層して(重ね合わせて)長手方向に捲回されている。この正極シート83および負極シート88の少なくとも一方(好ましくは両方)が、上述の製造方法によって製造されている。
扁平形状の捲回電極体80は、例えば、正負極シート83,88および長尺なシート状のセパレータ90を、断面が真円状の円筒形状になるように捲回した後で、該円筒型の捲回体を捲回軸に対して直交する一の方向に(典型的には側面方向から)押しつぶして(プレスして)拉げさせることによって、扁平形状に成形することができる。かかる扁平形状とすることで、箱形(有底直方体状)の電池ケース70内に好適に収容することができる。なお、上記捲回方法としては、例えば円筒形状の捲回軸の周囲に正負極およびセパレータを捲回する方法を好適に採用し得る。
【0077】
特に限定するものではないが、捲回電極体80としては、正極活物質層非形成部分82a(即ち、正極活物質層84が形成されずに正極集電体82が露出した部分)と負極活物質層非形成部分87a(即ち、負極活物質層89が形成されずに負極集電体87が露出した部分)とが捲回軸方向の両端から外方にはみ出すように重ねあわされて捲回されたものであり得る。その結果、捲回電極体80の捲回軸方向の中央部には、正極シート83と負極シート88とセパレータ90とが積層されて捲回された捲回コアが形成される。また、正極シート83と負極シート88とは、正極活物質非形成部分82aと正極端子81(例えばアルミニウム製)が正極集電板81aを介して電気的に接続され、また、負極活物質層非形成部分87aと負極端子86(例えば銅またはニッケル製)が負極集電板86aを介して電気的に接続され得る。なお、正負極集電板81a,86aと正負極活物質層非形成部分82a,87aとは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
なお、非水電解液としては、典型的には適当な非水系の溶媒(典型的には有機溶媒)中に支持塩を含有させたものを用いることができる。例えば、常温で液状の非水電解液を好ましく使用し得る。非水系の溶媒としては、一般的な非水電解液二次電池に用いられる各種の有機溶媒を特に制限なく使用し得る。例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を、特に限定なく用いることができる。支持塩としては、LiPF等のリチウム塩を好適に採用し得る。支持塩の濃度は特に制限されないが、例えば、0.1~2mol/Lであり得る。
上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0078】
なお、ここで開示される技術の実施にあたっては、電極体を図示するような捲回電極体80に限定する必要はない。例えば、複数の正極シートおよび負極シートをセパレータを介して積層して形成される積層タイプの電極体を備えるリチウムイオン二次電池であってもよい。また、本明細書に開示される技術情報から明らかなとおり、電池の形状についても上述した角型形状に限定されるものではない。また、上述した実施形態は、電解質が非水電解液である非水電解液リチウムイオン二次電池を例にして説明したが、これに限られず、例えば、電解液に代えて固体電解質を採用したいわゆる全固体電池に対しても、ここで開示された技術を適用することができる。その場合には、ペンジュラー状態またはファニキュラー状態の湿潤粉体は、固形分として活物質に加えて固体電解質を含むように構成される。
【0079】
非水電解液が供給され、電極体を内部に収容したケースが密閉された電池組立体に対して、通常、初期充電工程が行われる。従来のこの種のリチウムイオン二次電池と同様、電池組立体に対して外部接続用正極端子および負極端子との間に外部電源を接続し、常温(典型的には25℃程度)で正負極端子間の電圧が所定値となるまで初期充電する。例えば初期充電は、充電開始から端子間電圧が所定値(例えば4.3~4.8V)に到達するまで0.1C~10C程度の定電流で充電し、次いでSOC(State of Charge)が60%~100%程度となるまで定電圧で充電する定電流定電圧充電(CC-CV充電)により行うことができる。
【0080】
その後、エージング処理を行うことにより、良好な性能を発揮し得るリチウムイオン二次電池100を提供することができる。エージング処理は、上記初期充電を施した電池100を、35℃以上の高温度域に6時間以上(好ましくは10時間以上、例えば20時間以上)保持する高温エージングにより行われる。これにより、初期充電の際に負極の表面に生じ得るSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜の安定性を高め、内部抵抗を低減することができる。また、高温保存に対するリチウムイオン二次電池の耐久性を高めることができる。エージング温度は、好ましくは35℃~85℃(より好ましくは40℃~80℃、更に好ましくは50℃~70℃)程度とする。このエージング温度が上記範囲より低すぎると、初期内部抵抗の低減効果が十分でないことがある。上記範囲より高すぎると、非水系溶媒やリチウム塩が分解するなどして電解液が劣化し、内部抵抗が増加することがある。エージング時間の上限は特にないが、50時間程度を超えると、初期内部抵抗の低下が著しく緩慢になり、該抵抗値がほとんど変化しなくなることがある。したがって、コスト低減の観点から、エージング時間は、6~50時間(より好ましくは10~40時間、例えば20~30時間)程度とすることが好ましい。
【0081】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0082】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0083】
<対称セルの作製>
<例1>
正極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(正極材料)を用いてアルミ箔上に正極活物質層を形成した。
正極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が20μmであるリチウム遷移金属酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)を用いた。リチウム遷移金属酸化物として、粒子の内側に中空部を備えた中空活物質粒子を用いた。また、導電材とてカーボンブラック、バインダ樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、添加剤としてリン酸三リチウム(LPO)、非水溶媒としてNMPを用いた。
【0084】
まず、91質量部の上記正極活物質、1.5質量部のPVDF、5質量部のカーボンブラックおよび2.5質量部のLPOからなる固形分を、図3に示すような混合羽根を有する撹拌造粒機(プラネタリミキサーまたはハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行った。
具体的には、混合羽根を有する撹拌造粒機内で混合羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90重量%となるように溶媒であるNMPを添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化を行い、次いで4500rpmの回転速度で2秒間撹拌し微細化を行った。これにより本実施例に係る湿潤粉体(正極材料)を作製した。
次いで、上記得られた気相制御湿潤粉体(正極材料)を、上記電極製造装置の成膜ユニットに供給し、別途用意したアルミ箔からなる正極集電体の表面に塗膜を転写した。
【0085】
得られた塗膜を、塗膜加工ユニットに搬送し、凹凸加工ロールで凹凸転写を行った。凹凸転写は、乾燥後の塗膜が表1に記載された面積率、体積率、形状となるような凸部が設けられた凹凸加工ロールを用いて行った。ここでは、回転軸に垂直に伸長する凸部を複数有する第1凹凸加工ロールと、回転軸に平行に伸長する凸部を複数有する第2凹凸加工ロールとを用いた。凹凸転写された塗膜を、塗膜乾燥ユニットで加熱乾燥させ、電極活物質層が形成された正極シートを得た。
【0086】
得られた正極シートについて、水銀ポロシメータを用いて電極活物質層の内部に含まれる空隙量を測定した。電極活物質層の空隙率は、凹部の体積と、水銀ポロシメータを用いて測定した空隙量から算出した。結果を表1に示す。
【0087】
正極シートから、φ11.28mmとφ15mmを切り出した。セパレータとして、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。切り出した正極シートを、セパレータを介して電極活物質層が対向するように重ね合わせた。重ね合わせた正極シートを、非水電解液とともに、電池ケースに収容し、対称セル例1を作製した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0088】
<例2~8>
乾燥後の塗膜が表1に記載された面積率、体積率、形状となるような凹凸加工ロールを用いて凹凸転写を行ったこと以外は、上記と同様にして対称セル例2~8を作製した。なお、凹部の形状が縦溝であるものについては、回転軸に垂直に伸長する凸部を複数有する第1凹凸加工ロールを用いて凹凸転写を行った。
【0089】
<イオン拡散抵抗の測定>
作製した対称セル例1~8を、25℃において、振幅10mV、測定周波数範囲を100kHz~0.1Hzとする条件で交流インピーダンス測定を行った。得られたCole-Coleプロット(ナイキスト・プロットともいう。)について、等価回路をフィッティングさせ、イオン拡散抵抗を求めた。結果を表1に示す。
【0090】
<イオン拡散抵抗の変化率の評価>
空隙率が対称セル例1~8と等しい比較用対称セルを用意し、比較用対称セルのイオン拡散抵抗との比較から、電極活物質層に凹部が形成された対称セル例1~8の抵抗の変化を評価した。結果を表1に示す。
なお、比較用対称セルは電極活物質層に凹部が形成されていない。また、空隙率以外の組成等は比較する対称セルと同様である。比較用対称セルの空隙率は、成膜時のロール間のギャップやプレス時の圧力によって調整した。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すように、対称セル例1~4,6,7は、空隙率が同等である比較用対称セルと比べてイオン拡散抵抗が低く抑えられていた。一方、対称セル例5,8は、比較用対称セルと比べてイオン拡散抵抗が高くなっていた。すなわち、凹部の面積率、体積率および空隙率を所定の範囲、すなわち、凹部の面積率を2%以上40%以下、凹部の体積率を5%以上14%以下に調整することによって、イオン拡散抵抗を抑えることができることがわかる。
【0093】
また、気相制御湿潤粉体を用いて作製された対称セルの電極活物質層は、凹部の表面から電極集電体に至る厚み方向を上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、上層、中間層、下層の電極密度(g/cm)を、それぞれ、d、d、dとしたときに、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備している。つまり、凹部の底の表面が局所的に緻密化されていない。そのため、電極活物質層の表面形状によるイオン拡散抵抗の低下の効果が好適に表れていると考えられる。
【0094】
ここでは、活物質粒子として中空活物質を含んだ正極活物質を用いて評価を行った。電極活物質層の空隙率は、33%以上50%以下であればイオン拡散抵抗を低下させることができると考えられる。活物質粒子は、かかる形態に限定されない。凹部の面積率および体積率が所定の範囲に調整され、かつ、電極活物質層表面の緻密化が起こっていない限り、イオン拡散抵抗を低下させる効果が発揮される。例えば、単に複数の1次粒子が凝集した2次粒子、いわゆる中実活物質粒子が用いられていても、面積率と体積率が上記範囲に調整された凹部を形成することによってイオン拡散抵抗を下げることができる。上述のように、中空活物質を用いた場合は、凹部の面積率および体積率が同程度であっても、空隙率が10%~25%程度高くなる。そのため、中実活物質を用いて電極活物質層を作成した場合、空隙率は、10%以上35%以下(例えば10%以上25%以下)のときにイオン拡散抵抗を低下させることができると考えられる。
また、負極の場合にも、上記の凹部を形成することによってイオン拡散抵抗を下げることができる。
【0095】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1 凝集粒子
2 活物質粒子(固相)
3 溶媒(液相)
4 空隙(気相)
5 電極
6 電極集電体
7 電極活物質層
8 凹部
10 撹拌造粒機
20 ロール成膜装置
31 電極集電体
32 湿潤粉体(電極合材)
33 塗膜
70 電極製造装置
40 成膜ユニット
50 塗膜加工ユニット
60 乾燥ユニット
80 捲回電極体
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8